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2015年7月2日 第3回 医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループ議事録

○日時

平成27年7月2日13:00~15:00


○場所

経済産業省別館108号会議室
  東京都千代田区霞が関1-3-1


○議題

・到達目標とその評価の在り方に関する研究の報告について
・その他 等

○議事

第3回医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関する

                               ワーキンググループ

 

 

 

                                      日時 平成27年7月2日 ( )

                                            13:00~

                                      場所 経済産業省別館108号会議室


 

○森医師臨床研修専門官 定刻より少し早めになりますが、委員の先生方もおそろいですので、これから第 3 回医師臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループを開催いたします。本日、先生方においては御多忙のところ、御出席いただき、誠にありがとうございます。

 まず初めに、事務局に異動があり、本年 4 月に渡辺医事課長が着任いたしましたので、挨拶申し上げます。

○渡辺医事課長 平素より厚生労働行政の推進に御協力を賜り、誠にありがとうございます。本年 4 月に医事課に着任いたしました渡辺です。本ワーキンググループでは、昨年 8 月に設置されて以来、厚生労働科学研究とも連携しながら開催されてきたと聞いております。研究班の結果も踏まえつつ、ますます活発な御議論がされていきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

○森医師臨床研修専門官 ここで、もしカメラの方がいらっしゃいましたら、退室をお願いいたします。

 続きまして、本日の出席について連絡いたします。神野構成員より、所用により欠席との連絡を頂いております。また、前野構成員より、所用により若干遅れての御出席との連絡を頂いております。

 今回、参考人として東京医科歯科大学の奈良信雄先生、杏林大学の野村英樹先生に御参画をいただいております。また、文部科学省医学教育課より、平子企画官にお越しいただいております。以降の議事運営については、座長にお願いいたします。

○福井座長 それでは早速、議事に入ります。最初に、事務局より資料の確認をお願いいたします。

○森医師臨床研修専門官 資料として「議事次第」、資料 1 「厚生労働科学研究『医師臨床研修の到達目標とその在り方に関する研究の報告』について」、別添 1 「人口動態や疾病構造、医療提供体制の変化等を踏まえた到達目標の在り方に関する研究」、別添 2 「診療能力を踏まえた到達目標設定の在り方に関する研究」、「医師のプロフェッショナリズムを踏まえた到達目標の在り方に関する研究」、別添 3 「到達目標の評価手法の標準化に関する研究」。資料 2 「今後の進め方について」。

 参考資料 1 は、ワーキンググループの開催要項及び構成員名簿、参考資料 2 「臨床研修の到達目標」、参考資料 3 は、厚生労働科学研究の研究報告書、参考資料 4 「到達目標・評価の在り方にかかる論点について」、参考資料 5 「卒前教育・医師国家試験・臨床研修・専門医に関するスケジュール」。また、委員の先生においては机上にファイルを置いております。不足する資料や乱丁、落丁等がありましたら事務局にお申し付けください。

○福井座長 資料の確認はよろしいでしょうか。議事次第にありますように、本日の議題は 2 つです。 1 つ目は「到達目標とその評価の在り方に関する研究の報告について」、 2 つ目は「その他」となっております。最初に議題 1 に関して、事務局より説明をお願いいたします。

○森医師臨床研修専門官 資料 1 を御覧ください。平成 26 年度厚生労働科学研究「医師臨床研修の到達目標とその評価の在り方に関する研究」については、御承知のとおり、検討の基礎資料として関係データの収集や分析を行ってまいりました。事務局より、まず全体を簡単に御紹介いたします。

5 つの分担研究から構成されております。 1 つ目は、「診療能力を踏まえた到達目標設定の在り方に関する研究」です。前回 2 月のワーキングで報告した調査結果を踏まえ、 3 つ目にあるプロフェッショナリズムを踏まえた到達目標の在り方と連携し、診療能力を踏まえた到達目標に関して、具体的な在り方と適用の妥当性について検討いたしました。詳細は後ほど、分担研究者の大滝構成員、野村参考人より別添 2 で御説明いただきます。

2 つ目は、「人口動態や疾病構造、医療提供体制の変化等を踏まえた到達目標の在り方に関する研究」です。これは、疫学・保健統計などを用い、押さえるべき頻度の高い疾患などを検討するとともに、臨床研修修了者アンケート調査の結果を用いて、過去のデータと比較・分析をしながら研修医の基本的診療能力に与えた影響を調査いたしました。分担研究者として、聖ルカ・ライフサイエンス研究所の高橋理先生に担当いただいておりますが、本日、所用により御出席が難しかったため、後ほど事務局より別添 1 で説明いたします。

3 つ目は、「医師のプロフェッショナリズムを踏まえた到達目標の在り方に関する研究」です。「プロフェシェナリズム」をコンピテンシーの 1 つと捉え、 1 の診療能力を踏まえた研究と連携し、到達目標の在り方を検討いたしました。詳細は別添 2 で御説明いただきたいと思います。

4 つ目は、「医師養成全体の動向を踏まえた到達目標の在り方に関する研究」です。卒前教育における医学教育モデル・コア・カリキュラム、国家試験における出題基準、臨床研修の到達目標等を比較可能な表を作成し、前回御報告しております。こちらは報告書に掲載しておりますので、本日の説明は割愛いたします。

5 つ目は、「到達目標の評価手法の標準化に関する研究」です。これは前回 2 月のワーキングで御報告した調査結果を踏まえ、評価手法の標準化等について検討を行いました。詳細は後ほど、分担研究者の前野構成員より別添 3 で説明いただきます。資料 1 の説明は以上です。

○福井座長 ありがとうございます。この研究については、前回のワーキンググループにおいて中間報告を行いましたが、本日は各分担研究者からそれぞれの研究について、前回から議論の進んだ内容を中心に報告をお願いいたします。初めに、分担研究者の高橋先生の担当であった研究に関して、高橋先生は所用により出席できませんでしたので、代わって事務局より説明をお願いいたします。

○森医師臨床研修専門官 別添 1 の「人口動態や疾病構造、医療提供体制の変化等を踏まえた到達目標の在り方に関する研究」について、代理で御報告いたします。

 臨床研修の基本理念では、一般的な診療において頻繁にかかる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならないとされております。そのような観点から、人口動態における死因別の死亡数、患者調査における総患者数、健康日記調査における症状数について、平成 16 年に医師臨床研修制度が導入された時期から現在までの疾病構造の変化を比較・検討しております。

 健康日記調査とは、※で示したように日本統計研究所、日本能率協会総合研究所が有するアンケートモニターの方を対象に、年齢、性別、居住地別の構成比率が国勢調査に準拠するよう層別サンプリングを行って抽出し、症状や症状への対応を健康日記帳に記録いただき、回収したデータになります。

 調査結果の概要ですが、表 1 を御覧ください。こちらは死亡数を示しております。 10 年前と比べ、上位の死因の変化は大きくありませんが、増加率を見ると悪性腫瘍が 18.5 %、心疾患が 30.4 %、肺炎が 41.8 %と変化しておりました。

 次の表 2_1 では総患者数を示しております。上位には悪性腫瘍や生活習慣病、心疾患、脳血管障害が占めております。また精神疾患、気分障害やうつ病、神経性の疾患が上位 20 位内に上昇しており、特にうつ病は 10 年前に比べ、総患者数が約 60 %増加しておりました。

 次の表 2_2 では、特に増加率の高い疾病を示しております。こちらは患者数の数自体は少ないものの、アルツハイマー病では 311.2 %と増加率が高くなっております。

 続きまして表 3_1 を御覧ください。こちらは一番左に現行の到達目標における頻度の高い症状、その隣に該当する健康日記調査における症状、続けて 2003 年と 2013 年における順位、その中でクリニックを受診した方での順位、一番右はクリニックを含む医療機関を受診した方での順位を示しております。 2003 年から 2013 年の頻度の順位はほとんど変わらず、順位の高いものもありますが、例えばリンパ節腫脹や嚥下困難、血尿など順位の低いものも見られました。また到達目標にありませんが、 2013 年において順位が高かったものとして表 3_2 にありますように、くしゃみやかゆみなどが挙げられております。

 これらのデータは、臨床研修の基本理念における一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるというような内容からして、頻出する症状の鑑別診断や診断推論を学ぶ上で、 1 つの基礎資料になるかと考えております。

 参考資料として、現行の到達目標における「経験が求められる疾患・病態」について該当する患者調査のデータを整理したものを添付しております。疾患や病態によって 1 1 にならないものもあります。また該当するものがないものもあり、そちらは「-」で示しております。また、患者調査の傷病分類において、網掛けしたものがありますが、こちらは現行の到達目標に含まれませんが、比較的患者数が多いと思われるものを並べております。例えば (6) の呼吸器系疾患における慢性閉塞性肺疾患や、 (7) にある消化器系疾患における結腸の悪性新生物というものが挙げられます。こういったデータについては、今後具体的な検討を進めるに当たっての基礎資料の 1 つにしていただければと思います。

 そのほか、こちらの研究では研修医の臨床知識や技術・態度の習得状況について、毎年行っている研修修了者アンケート調査のデータを用いて、 98 項目の基礎的な臨床研修能力の習得度、 85 項目の症例経験数について評価を行っております。詳細なデータについては、報告書に掲載しておりますが、大学病院や一般病院別、また弾力プログラム、継続プログラム別の臨床研修制度の必修化前と、平成 26 年度までのデータについて推移を示しております。全体の傾向としては、確実にできる、大体できるといった回答した研修医の割合は、前年度と比べるとおおむね変わらず、全体としては必修化以降の期間を通して全体として上昇傾向が見られております。別添 1 の説明については以上です。

○福井座長 ただいまの御説明について、何か質問や御意見はありませんでしょうか。どういう臨床経験をしてほしいかということを考える上で、症状とか病名を微調整する必要があるかもしれないということで、このようなデータを出してもらっていますので、後に具体的に病名とか症状について考えるときが来たときに、またこれを参考にするということにさせていただきたいと思います。

○伴構成員 先ほど森先生から言われた健康日記と頻度の高い症状とのギャップがあるというのは、 1961 年に『 New England Journal of Medicine 』に出た調査で、健康状態の悪い人の 4 分の 1 ぐらいしか医療機関に受診しないというのがありますよね。それの具体的な内容を示しているのだと思います。

○福井座長 それとほとんど同じテーマについて 2003 年にやって、全く同じやり方で 2013 年に調査したものです。大病院、大学病院には本当に一握りの人しかかかっていないというもので、地域医療での患者さんの訴える症状とか病気についてのトレーニングが必要だということを示す目的で、アメリカでは随分使われてきたヘルス・ダイアリー・スタディの replication です。日本でもほとんど同じような傾向にあるということです。

○高橋構成員 アルツハイマー病が非常に増えていることに関して、現実的に増えているとは思うのですが、診断の基準によって頻度はかなり変わってくるのではないかと思うのですが、こちらの診断はどういったデータを基にされているのでしょうか。

○福井座長 調査対象者本人が思っていることに基づいておりますので、病名自体は非常に曖昧です。科学的な診断精度は低いと言ってよいと思います。

○高橋構成員 となりますと、正確な医学的な病名というよりは、世間若しくは医療の中で注目されている疾患と考えてよろしいですか。

○福井座長 そうですね。

○高橋構成員 ありがとうございます。

○森医師臨床研修専門官 補足ですが、こちらで示したアルツハイマーは、患者調査のデータになりますので、病院なり医師が病名を付けて報告したものになります。しかしながら、確かに先生がおっしゃられるように、平成 14 年当時と平成 23 年当時と、診断基準や医者の間での認知度、患者の間での認知度など、その辺りは大分変わってきているという背景はあるかと思います。

○中島構成員 死因別を出していただいたのは非常に重要なデータではあるのですが、人間というものは死ぬ前に苦しむわけですよね。いろいろなほかの疾患で苦しんだりしていることに対して、ちゃんとした手当てができるかどうかが非常に重要なので、この死因別というのは 1 つの参考資料ではないかと思います。以上です。

○古谷構成員 健康日記調査というのは、やはり歩いている人、動いている人が書いていくものだと思いますので、主に外来ベースの症状でいいと思うのですが、研修医が今、主に働いている場所が病院の中だとすると、病院の中で研修した上でも、そういった外来ベースで頻度の高いものについて注目して、今後、研修を組み立てていくことも視野に入れてということで考えられているということですか。

○福井座長 病院や診療所での患者さんの訴える症状の頻度とか、疾病の頻度なども出していく必要はあると思います。いろいろな研究者グループが小規模のデータを発表していますので、それらをまとめることができればいいですね。

 ほかにはいかがでしょうか。後でこのテーマについてディスカッションすることもできますので、とりあえず先に進みたいと思います。大滝先生と野村先生から御説明をお願いしたいと思います。最初に大滝先生からでよろしいですか。

○大滝構成員 最初に私から一通り説明して、その後、主に医師のプロフェッショナリズムを踏まえた到達目標の部分について、野村先生から追加していただければと考えております。

 別添 2 1 枚目ですが、これまでにインタビュー調査を行って、それについては前回、報告しました。その内容も踏まえて、到達目標に関する研究班でいろいろな資料を参考にしながら議論を進めた論点を整理したものが 1 枚目のスライド 1 です。順番に紹介していくと、 1 つ目は「アウトカム評価の重視」ということで、研修修了時に到達すべき能力 ( コンピテンシー ) という形で整理してみるのがよいのではないか。また、目標と評価方法の整合性が、今まで必ずしも整っていなかったということで、今後はそこを高めていくことが望ましいだろうということが議論されました。

 また、今回の検討の前の段階といいますか、前提条件になりますが、医道審議会の分科会報告書の方針を継承する必要があるということです。その内容とは、行動特性の一部に外来での診療能力も組み込んではどうか。従来の「経験目標」についての取扱いは、能力 ( コンピテンシー ) を担保する根拠として組み込めるのではないか。能力 ( コンピテンシー ) の大枠は卒前教育等との一貫性を保つことが望ましいのではないか、ということを議論してまいりました。

 到達目標として能力 ( コンピテンシー ) を構造化するに当たって、どのように構造化できるかということについての議論としては、一般的な医学教育におけるコンピテンシーが大体そのように記述されることが多いことが分かってまいりましたので、「上位目標」と仮に呼ぶと、一番上の目標を数項目ないし 10 数項目程度に整理して、更に各上位項目に数項目程度の仮の名前の「下位目標」を設定して、そこに「経験目標」を組み込んでいく。つまり、今までのように経験目標を独立して羅列し、それをしらみ潰しに経験させるという形ではなく、どのコンピテンシーを経験させるのに経験目標が役立つのかといった形で組み込めるのではないか。また、評価と関連しますが、項目ごとに達成度を判断する基準としての、「ルーブリック」と最近は呼ぶことが多いようですが、そういう段階別の達成度の基準を定めると効果的ではないか、といったことが議論されました。

 こういったことを踏まえて、特に今回インタビュー調査でも話題になりましたが、経験目標を今後どのように位置付けていくか、それをどういう構造にしていくかということについては、現行の経験目標の内容を、経験することを目標とするのではなくて、今述べたような目標を達成するための方法 ( 方略 ) として位置付けてはどうかということを議論してまいりました。その場合には、経験のレベルを、どういうレベルに達すれば経験したとみなしていいのか、具体的に設定することが求められるのではないか。これはインタビュー調査でも再三話題になっていたところです。そういった「経験した」とみなすのに、どういうレベル設定をするかについては、最低限必要なレベルと、できればここまで行ってほしいというより高いレベルの二段階程度にしてはどうか、ということも議論してまいりました。以上がこれまでの議論の論点の概略をまとめたものです。

 ここからは、能力 ( コンピテンシー ) を具体的にどのような形にまとめていけるだろうかということについて、仮の案を作ったものについて紹介してまいります。スライドの 2 、スライド 3 と今の別添 2 の資料の束の後ろに 1 枚付いている「 ( 別添 ) 新たな研修目標の上位項目の草案と他の教育目標との比較」という表を併せて御覧ください。スライド 2 にある 8 項目については、別添の表の向かって一番左、「草案」と書いてある縦の列に上位目標という形で並んでおります。その横に順番に「現行」、これは現在の研修目標、初期臨床研修の目標です。そのほか、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」「千葉大学医学部」と並んでいますが、こういったものがスライド 3 にある到達目標の新たな上位目標 ( ) を考えていく上で比較した他の教育目標です。

 まずこの、他の教育目標について簡単に紹介してまいりますので、別添の表を御覧ください。現行の初期研修医の目標については、改めて説明するまでもありませんが、ただ注意していただきたいのは、これは能力 ( コンピテンシー ) という枠組みで作られたものではなくて、一番下の備考の欄にありますが、この項目をどこから持ってきたかというと、「医療人として必要な基本姿勢・態度」という形で挙げられた項目を仮にここに入れたものです。そのほかには、御存じのように、上の「構造」という欄に書いてありますが、基本理念が提示されて、到達目標として「行動目標」という 1 群と「経験目標」という 1 群になっております。その中の行動目標がこういった形で表されております。ですから、今は経験目標はこれと直接リンクしない形で組み込まれていると御理解ください。

 その隣が「医学教育モデル・コア・カリキュラム」です。これは御存じのように卒前教育に限定したもので、最新のものが平成 22 年度の改訂版です。これもコンピテンシーとかアウトカムといった形で明確に書かれているというよりも、「構造」の欄にある「医師として求められる基本的な資質」として、独立したページに書かれている 8 項目を示したもので、コア・カリキュラムの中の各項目と直接リンクされているわけではないという点について御留意ください。

 その隣が「千葉大学医学部」の卒前教育のコンピテンシーです。これについては御存じの方も多いと思いますが、現在の日本の医学部・医科大学の中で、コンピテンシーを取り入れた教育目標、学習目標を作っている中で、先進的な所の 1 つがこの千葉大学医学部であるということから参考にしたものです。

 その隣、中ほどにある「日本医学教育学会」が、最近たたき台として同学会から公表された項目です。これについては、ここでは公開予定となっておりますが、確か 5 月だったと思いますが、既にホームページ上で議論のたたき台とするといった目的を添えた形で公開されたものです。医学生と初期研修医を通した目標で作ろうということを目指して、現在、検討しておられるものです。備考にもありますが、医学教育学会のものは確定前の内容ですので、その点を御留意ください。

 「カナダ」については、世界的にも有名なものです。カナダが全ての医師の能力について、こういった能力を身に付けることを目指す目標として CanMEDS という形で設定して公開し、それを基にいろいろな教育活動などを行っているものです。これは備考に書いてありますが、上位、中位、下位の三段階の構造になっております。その上位目標を示したものです。呼び方については、国によっていろいろ違いますので、「構造」の欄にその概略を示してあります。

 その隣の「英国」も、医学教育の統一的な方針を具体的に示すことで知られておりますが、ここでお示しするのは英国の初期臨床研修医、 Foundation year 2 年間になっていますが、 F1/F2 と書いてあるものがそれに相当します。そこで提示されているカリキュラムの一番上の 12 項目を示したものです。備考の「研究面についての言及が少ない」ということについては、たまたまそのことを指摘した論文がありましたので、備考に付けたものです。もともと初期臨床研修医を対象としたものですので、どの程度研究を入れるかについてはいろいろ議論のあるところだと思いますが、参考のために備考に入れております。

 右から 2 番目が米国の全国医科大学協会「 AAMC 」と書いてダブル AMC と読むそうですが、ここが医療専門職に共通する区分を示しているものです。これは年代や職種を限定するというよりも、教材やカリキュラムを分類する上での区分として示されており、論文で 2 年ほど前に公開されたものを例示しました。

 その隣が「 ACGME 」、米国の専門医の養成を運営している組織ですが、そこがいろいろな領域の専門医の共通部分についての目標として示している 6 項目を引用したものです。備考に書いてありますが、これも研究領域などについては Scholarly Activities ということで別立てとなっておりますし、各専門領域で、このほかにもそれぞれ追加ないし埋め込むという形になっているようです。こういったものと比較して、今回、草案として初期研修医を対象としたものを 8 項目にまとめてお示しするものです。

 この後はスライドに戻ってスライド 4 からになりますが、どういった形で今回この草案を作ったか、それからこの資料を御覧いただくかということについての手順と、御留意いただきたい点をまとめております。

 まず、「たたき台を作成した手順」です。先ほど紹介した日本医学教育学会から公表された暫定案の領域別の説明を、新たに設定した草案の上位目標の案の領域ごとに割り当てて、領域の内容との対応を検討しました。それから、新たな上位目標に現在の初期臨床研修医の到達目標で書き込まれている行動目標と経験目標を関連付けることによって、それぞれの領域ごとにどういった内容が含まれるのかを俯瞰できるような資料を作ってみたということです。ただ、先ほども申しましたように、経験目標の扱いについては、今後、位置付けも含めて見直していくことになると思いますが、ここでは内容を見渡していくという目的で埋め込んでみました。

 また、今後、更にこれをいろいろ見直したり作り込んでいただく必要があると思いますが、今回仮にいろいろ組み合わせて作っただけですので、留意していただく必要がある点をそこに挙げてあります。 1 つは、当然ですが、説明の内容の構造などをある程度、統一する必要があるでしょう。説明の構造については、「概念」「範囲」「重要性」「特記事項」などが要素として含まれるだろうと考えております。また、現在の研修目標を当てはめてみると、領域の説明に比べて目標の下位項目が少ない部分がありますので、そこについては今後いろいろ検討して、場合によっては追加していく必要もあると思います。

 今回の見直しに合わせて、説明の内容等を一部変更・追加する必要があるものが幾つかあります。後で出てきますが、医学知識と問題対応能力の所での「到達目標・経験目標」についての記述を変更する必要があると思われますし、これは後でも触れますが科学的研究、問題対応能力に関する記述を追加する必要があると思われます。また、科学的探究と生涯学習については、先ほどカナダの例なども話題にしましたが、そういった科学的探究に関する記述が今のところ余りありませんので、追加する必要があるかもしれないといったことをここで挙げてあります。

5 枚目のスライドは、医学教育学会から示された「『医学教育コンピテンス』暫定案」という名前の所に、現行の初期臨床研修から比較しながら、新たに作った草案のどの部分が対応するかを吹出しで付けたものです。医学教育学会の列と現在の草案の列を比較していただくと分かりやすいかと思いますが、時間の関係もありますので少し端折りますが、それぞれの医学教育学会の項目と今回の草案の項目が吹出しの形で対応しているということです。

6 枚目も同じつながりです。

7 枚目以降が、各上位項目について、先ほど御紹介した形で、医学教育学会での上位目標の説明を埋め込み、かつ現在の初期臨床研修の目標の中に含まれている行動目標ないし経験目標を埋め込んだものです。

8 枚目のスライドが「コミュニケーション」、 9 枚目のスライドが「チーム医療」です。チーム医療は「留意点」という所で書いてありますが、特にリーダーシップ関係の下位項目の記述が少ないことが分かります。

10 枚目が「医学知識と問題対応能力」。ここはボリュームが多いので、 2 枚のスライドになっております。先ほども申しましたが、到達目標の中にある経験目標的なところを、今回の見直しに合わせていろいろ検討していく必要があると思われます。また、基本的医学知識以外に、いわゆる問題対応能力的なものについては現行の目標では独立した項目になっていますが、何らかの形で明示する必要があると思います。基本的治療法や診療計画については、今回の区分ですと、患者へのケアと診療技術との間でどのように仕分けをするかを、今後検討する必要があると考えました。以上が3の「医学知識と問題対応能力」です。

12 枚目のスライドが「安全管理」です。安全管理については、アンダーラインを引いてある「制度・体制の実際と活用・施設での運用」が医学教育学会の案では入っていますが、その領域に関する項目が現行のものではやや少ないと考えました。

13 枚目のスライドから「患者へのケアと診療技術」が 3 枚続きます。ここも今申しましたような形で埋込みをしてありますが、留意点としては「医療面接」の項目のうち、「コミュニケーション」とまたがる部分があります。「基本的な身体診察法」の項目では、現行の目標では『記載できる』という記述がここだけ特別に記述されているので、この扱いをどうするのか、診療記録などとの関連も含めて整理していく必要があることが分かります。

14 枚目のスライドでは、「基本的手技」の中に「救急医療」と重なる部分がありますので、そこの仕分けを検討する必要があります。

15 枚目のスライドは、「患者へのケアと診療技術」の最後です。ここでは現行の特定の医療現場の目標になっている「周産・小児・成育医療」「精神保健・医療」「緩和ケア、終末期医療」について、どういった形で仕分けをするか、「医学知識と問題対応能力」の構造によっては、そちらに移す部分を考慮する必要がありそうです。

16 枚目のスライドは「医療の社会性」です。どの範囲までをここに含めるかについては、例えば地域医療とか地域保健もここに含めていますが、この範囲・内容はかなり広いものになると考えられます。

17 枚目のスライドは「プロフェッショナリズム」で、これについてはまた野村先生からも詳しく説明いただけると思います。

18 枚目のスライドが「科学的探究と生涯学習」です。これについても初期研修に限定した目標になっているためでしょうが、アンダーラインの部分、生涯学習的なことについての項目が少ないのではないか。今後は、科学的探究についても含めることを検討する必要があるのではないかと考えました。長くなりましたが、私からの説明は以上です。

○福井座長 続きまして、野村先生からプロフェッショナリズムの部分についてお願いします。

○野村参考人 杏林大学の野村でございます。前回のワーキンググループは都合がつきませんで、欠席させていただきまして大変失礼しました。そのこともありまして、若干、最初に遡って説明いたします。

 皆さんも御存じのように、現行の臨床研修の基本理念の中に「医師としての人格の涵養」という文言がありまして、しかしながらそれに対応する具体的な目標として、全くなかったわけではないと思うのですが、 1 つのまとまったものとしてはなかったと。いろいろな所にバラバラに含まれていたのだと思います。そこで、今回はプロフェッショナリズム、その言葉を使うかどうかはともかくとして、医師としての人格、あるいは医師の在り方をまとめた形として打ち出して教育していきたいということから、この検討を行っております。

 研究の方法としては、医学教育学会の内外に呼びかけて、プロフェッショナリズムの目標、能力 ( コンピテンシー ) に関するワークショップを開催して、そこで 7 つのグループにプロダクトを作成していただいて、そこで上がってきた項目全てを一旦ばらして、それを 8 つの領域に分けて、その 8 領域を文章として記載しました。実際には後々の検討で 7 領域に減っています。

 これを医学教育学会の倫理プロフェッショナリズム委員会の内部、あるいは 2 回、コンセンサス会議を開催して、それは委員会の外部の先生方にも御参加いただき、あるいは理事の先生方にも御参加いただき、そこで修正を重ねてきております。そのこともありまして、昨年度の報告書にも記載はされているのですが、その内容は大幅に修正されております。それが ( 参考 ) と書かれた資料、「医師の資質・能力としてのプロフェッショナリズム」というタイトルになっているものになります。

 当初、予定していなかったのですが、そこにはこのような前文を設けて、プロフェッショナリズムについて、ある程度説明を加えた上で 7 つの項目を挙げていると。裏側が 7 項目になりますが、そういう形になります。前文には、もともとプロフェッショナリズムという言葉が医師集団としてのプロフェッションの在り方という意味合いと、医師個人、プロフェッショナルの在り方という意味合いの 2 つが含まれているということを述べて、ただしこの資質・能力 7 項目については、医師個人の在り方に焦点を当てて記載していることを説明しております。

 続いて、プロフェッショナリズムの目標全体の中での位置付けについて述べて、ほかにもいろいろ医師が身に付けなければならない資質・能力があるわけですが、何をどうやって身に付けなければいけないかということを自覚する上での原動力になるのがプロフェッショナリズムだと述べています。

 そのことから、先ほど大滝先生から御説明がありました別添の表の中に、例えば 3 列目の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」はプロフェッショナリズムに相当することはないのですが、「医師としての職責」が恐らくそれに相当するだろうと思います。そのほか、千葉大学はその横に「倫理観とプロフェッショナリズム」とあります。医学教育学会は下のほうに「倫理とプロフェッショナリズム」、その横の CanMEDS は「 Professional 」と書いてあって、 Foundation Program は一番上に「 Professionalism 」があります。 AAMC ACGME は、 5 番目ぐらいに「 Professionalism 」と書いてある。トップに来たり 5 6 番目に来たり、どちらかになっているのです。

 今回の検討からはプロフェッショナリズムが根底にあって、そこからどういう資質・能力が求められているのかという構造を考えると、プロフェッショナリズムを最初に持ってきて、例えば最後が生涯学習ですね。その身に付けたものをいかに維持するか、あるいはいかに発展させるかという構造にしていったらいいのではないかと、今みんなで話し合っているところです。

 今の参考資料の一番下の「プロフェッショナリズム」と書かれている所が、プロフェッショナリズムの上位目標の大きな括りの部分です。「医師個人、あるいは、組織やチームの一員として、患者中心の医療の実践を初めとする社会的使命を果たすため、常に社会からの信頼に値する行動を取り、日々省察を重ねて、さらなる高みを目指す姿勢を示す」という表現になっています。

 裏に 7 項目あります。一つ一つ細かく説明すると時間がかかってしまいますので、項目だけを説明したいと思います。まず、「社会的使命に献身する意志」ということで、社会契約という概念が欧米ではよく用いられているのですが、日本ではなかなか社会契約という言葉自体が受け入れられにくいだろうということもありまして、「社会的使命」という表現をとっています。その中に、現行の目標の1 -(2)-3) 、「同僚及び後輩へ教育的配慮ができる」という項目がありますが、それがこの中にも含まれています。文章の最後に、「同僚や後進を支援する」というものが入っています。

2 番目の「患者中心の医療の実践」ですが、「患者」と表現されていますが、医療機関を受診した傷病者だけではなく、その傷病者を取り巻く人々や医療機関を自ら受診しない地域住民、更には意思表示・意思疎通ができない生命、胎児などまで含んで患者中心の医療ということをうたっております。その部分に、現行の目標の1 -(6)-3) 、「医の倫理、生命倫理について理解し、適切に行動できる」というものも含意されていると思っております。

3 番目の「誠実さと公正性の発揮」に守秘義務が含まれており、現行の目標の2 -(1)-3) 「守秘義務を果たし、プライバシーへの配慮ができる」といったものがここに含まれるかと思っています。

4 番目が「多様な価値観の理解と基本的価値観の共有」、 5 番目が「組織やチームのリーダー / メンバーとしての役割」、 6 番目が「卓越性の追求と生涯学習」、 7 番目が「自己管理とキャリア形成」。このキャリア形成の目標がプロフェッショナリズムの目標の中に含まれるというのは、これまで余りそういった発想がなかったものではないかと思うのですが、医学教育学会に「女性医師キャリア教育検討委員会」というアドホック委員会がありまして、そこで検討された結果をお伺いして、非常にプロフェッショナリズムと近い概念をそこで出しておられたということもあり、やはり一緒にその項目も含むべきではないかということで、ここに入れております。かなり議論はあったのですが、現段階では含めていこうという流れになっております。

 ということで、一つ一つは読み上げませんが、現在このような検討になっており、今後、医学教育学会の中で更に学会全体としてのコンセンサスを得る方向で、今後、検討を進めていきたいと考えております。以上です。

○福井座長 ただいま説明していただいた事柄について、御質問や御意見等ありませんでしょうか。ここでディスカッションに 20 分ぐらい時間を取りたいと思います。

○大滝構成員  1 つ補足をさせてください。今、野村先生が話題にされた順番ですが、別添の表の草案ではトップがコミュニケーション、そしてプロフェッショナリズムが 7 番目という形になっていますが、この順番の根拠についてです。これは優先順位という意味ではありません。表を見ていただくと分かりやすいと思いますが、現行の初期研修医の目標に近い項目をその横に並べたことにより、この順番になっています。現行の目標では項目として独立して明示されていないものが 7 番目のプロフェッショナリズム、 8 番目の科学的探究と生涯学習なので、下に付けた形でこの表の順番ができているのです。その程度の根拠です。

○清水構成員 御説明ありがとうございました。上位目標、これの内容とか項目とか数も、また今後の検討対象になると思うのですが、それの出典といいますか、拠って出てきた理由、この項目が列挙された理由を私は聞き漏らしたかもしれないのでお教えいただきたいです。それと関連して、先ほど野村先生が御説明されたプロフェッショナリズムの意味合いから申しますと、ほかの項目と同等に扱っていいのかどうかということが疑問に思うというか、不思議に思うところで、仮に同等に扱わないのだとしたら、これをどうすればいいのかというところがまた議論になるのだと思うのですが、その 2 点についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○福井座長 最初に出典について大滝先生、お願いします。

○大滝構成員 草案の 8 項目にまとめた手順といいますか、根拠ですが、私が、別添の表にあるいろいろな資料を見比べた上で、まず大きな混乱を招かないようにという理由で、現行の初期研修の目標の項目を参考にしました。そして日本の医学教育の実態と全体像を把握しつつ検討しておられるという理由で、日本医学教育学会の案を基本としました。更にそのほかの資料の項目も参考に作りました。一覧していただくと分かるように、例えばプロフェッショナリズムについて明示している目標もあれば、そうでないものもありますし、問題対応能力を分けて独立させているものとそうでないものもあります。科学的探究とか生涯学習についても同様に、どちらか一方しか書いていないものがあります。今回は私がこの案を作って、研究班で検討していただいて、今回資料としてお出ししたという手順です。以上です。

○福井座長 野村先生から、プロフェッショナリズムについてお願いします。

○野村参考人 全く御指摘のとおりだと思います。プロフェッショナリズムとほかの項目が並列という意味で、そのように捉えると意味がよく分からなくなってしまうと思うのですが、これらの項目がもっと立体的な構造を持っているというような議論になっていて、そのことからこれらをただ羅列するのではなくて、全体の構造がこういう意味合いがありますという文章を付けないと、これらの項目の一つ一つの意味がなかなか御理解いただけないのではないかと考えています。

 ですので、プロフェッショナリズムの中には前文として一応入れたのですが、プロフェッショナリズムの更に下位項目の中には、ここに挙がっている上位項目と重なって見えるような項目もたくさんあると思うのです。それは正にプロフェッショナリズムを原動力として、いろいろなことが必要になってくるという構造を表していると思いますので、そこをできるだけ理解しやすい形に全体を整理していく必要があると思っています。

○高橋構成員 実際に携わりました日本医学教育学会の案を作成するに当たって、順位には重み付けはありません。大滝先生がお話された今回の草案と同じように並べてはありますが、重み付けはしておりませんので、 1 番目が大事とかそういう意味ではありません。

 同じようなプロフェッショナリズムに関するディスカッションもあって、確かにプロフェッショナリズムは全てを包含する内容なので、並列にはできないのですが、全てを覆いながらプロフェッショナリズムの中でだけ扱われるものはやはり重要なので、載せましょうということで、できたように記憶しております。

○中島構成員 プロフェッショナリズムとかコンピテンシーとか言われると、非常に肩が凝ってきます。横文字がたくさん出てきすぎて…。コンピテンシーというのは、ちゃんと実地に応じて使える能力を含めての広い意味だから、わざわざコンピテンシーとか言っているわけですよね。だけど、日本語にはもともと能力という言葉にはそれを含めた意味があるのですよ。なぜ、わざわざ新しい横文字を出してくるのかが私には分からない。できるだけよく知った言葉で書いていただきたいというのが 1 つです。

 このプロフェッショナリズムというのは、木で言えば根っこですよ。上位概念と言っているのは幹です。そして、枝があり、葉っぱが茂るのではないですか。そのようにもっと日本的に分かりやすく、これを英語に換えればこうですよということがちゃんと対応できるように作っていただいたら、素晴らしいものになるのではないかと思います。以上です。

○福井座長 コンピテンシーの日本語訳は幾つかあって、能力と訳している本もあれば、もう 1 つ何かありましたね。行動特性でしたか。

○中島構成員 行動特性と付けたら余計分からなくなるでしょうね。 Personality disorder でいうことですからね。

○野村参考人 そのことについてなのですが、プロフェッショナリズムの議論の中でも、プロフェッショナリズムも英語なのですが、コンピテンシーという英語をここでわざわざ使うのが非常に分かりにくいということもあって、今、文部科学省の初等教育のほうでは「資質・能力」という言葉を使っていて、多分それがコンピテンシーにほぼ近い概念として使われていると思います。

 教員の能力の開発に関する部分では、「資質能力」という言葉を用いています。文部科学省の中でもセクションが違うので、ちょっと使い方が違うのだと思うのですが、教育に関することは初等教育から大学から生涯学習に至るまで、同じ言葉を用いていったほうが分かりやすいのではないかということで、今、「資質・能力」という言葉を提案しているところです。それはまだ完全に固まってはいません。

○古谷構成員 いろいろな海外のを調べられていて意外だったのは、上が下を教えるという教育能力ですよね。教育能力の開発についてのそういった目標設定はなかったのでしょうか。

○大滝構成員 一部にはその項目があります。英国では項目として独立していますし、埋め込まれているものもあったかと思います。英国の項目には Teaching and training というのがあります。細かく見ていけば、恐らくいろいろな所に入っていると思うのですが、日本の場合にも今後それをどうするかということですね。

○古谷構成員 今回もそういうのが、例えばこの中のどこかに入っているのかどうかというのはどうなのでしょうか。

○大滝構成員 現行ではそういったものは入っていないと思います。

○野村参考人 プロフェッショナリズムの最初の項目にちょっと入っています。

○伴構成員 今おっしゃったとおりで、カナダの 7 つのコンピテンシーの中に教育というものを別個に作るべきではないかと向こうの CanMEDS の人たちに聞いたら、それは Scholar に入っていると言うのです。ですから、 Scholar というと何となく研究という色彩が非常に強くなるので、それとは別ではないですかと言っても、彼らは頑固で入っているのだと言って譲らない。私も「教育能力」を一つの能力として分けて置ち付けるべきだと思います。

○金丸構成員 今まで出た御意見と重なる部分もあるのですが、案として優劣の順番付けはともかくとして、草案としてやっと整理されて、今議論もありましたプロフェッショナリズムという所が根っこだと、正に私もそうだろうと思っています。このプロフェッショナリズムが根っこでなければ、医師としての前提が成り立たないように思います。その上でコミュニケーションが良好に動くのだろうと思います。それ以下のチーム医療だって、あるいは問題対応能力だって、安全だって、患者ケアだって、ア以下は全部そこにつながっていくと思うので、やはりプロフェッショナリズムが根っこ中の根っこではないかと思います。

 千葉大学を見ると、正にその辺りが、順番としてコミュニケーションとその辺の記載が合っているのを眺めながら、そして御意見を聞きながら、その辺りを踏まえた形で草案が更に整理されていくと、先ほど中島先生がおっしゃったような形になり、もっと分かりやすくなり、そして、現場で大学の卒前教育に当たる教育の立場の先生方、さらには初期臨床研修に関わる先生方にとっても、より分かりやすくなると思います。卒前・卒後・生涯と一貫していけるのではないかと考えます。

 正に野村先生が記載されているここですね。参考資料の 4 行目、本文書は医師に期待される基本的価値観と行動特性を記述し、これらは資質・能力を身に付ける。これで動機と原動力、モチベーションが非常に高くなる。そこが縦糸でなければ、全てが動かない横糸の世界を持っているようなところがあるし、プロフェッショナリズムは正にそれを表している。実に的確に、そして核心的な部分であると、根っこを表現していただいているのかと思ったところです。以上です。

○福井座長 中島先生がおっしゃったような、木の根っこになるような部分を占めているというような書き方ができればいいですね。

○中島構成員 そうですね。

○福井座長 知恵を出して、これからその方向で考えていきたいと思います。

○田中構成員 「医療の社会性」ですが、これはこれから非常に重要になる分野で、保健医療制度の理解も大事ですし、特に予防医療はこれから力を入れていかなければいけない分野ですし、地域医療も地域保健も重要なのですが、 16 枚目のスライドに今後、下位のことを加えられていくのでしょうけれども、医療資源の有効活用という視点は、これから研修医のうちから学んでいかなければいけないことではないかと思うのです。医療資源が非常に限られたものなので、それを大切に大切に患者さんのために使っていくことは、これから特に強調されるので、そういう視点を是非入れていただきたい。

○清水構成員 それと関連するところなのですが、千葉大学は「倫理観とプロフェッショナリズム」、医学教育学会も「倫理とプロフェッショナリズム」というように、倫理という言葉が入っていたり、諸外国でも ethics という言葉が入っていたりしますが、倫理というのは必ずしもプロフェッショナリズムの中に包含されるか、どっちかがどっちかを包含するというものでもないような気がするので、先ほどの公正性、公正な配分ということも含めて、そういうことが研修のときの目標に入っているといいのかと思っておりました。

○福井座長 今の点について、何か御意見はありますでしょうか。

○小森構成員 先生方の今までの御意見に基本的に全て賛同ですが、御参考までに清水先生のお話で、今、日本医師会のほうで職業倫理指針の改訂をしております。これは先生のおっしゃるとおりだと思うのですが、そういうことがあって改訂するということがあるものですから、職業倫理指針の中にプロフェッショナリズムというのを入れた構造にしてあるということがあります。ただ、それは決して倫理の下にプロフェッショナリズムがあるという意味ではないので、いろいろな考え方はあるのだと思います。

 それから、田中先生がおっしゃられた社会性の部分で、私はここに保険制度を正しく理解するというところでは、臨床研修は実際に保険医として診療をなさいますので、療養担当規則というものが、保健診療をする上での保険者、国民との社会契約の証ですので、その言葉を少し入れられておくといいのかと。先生方も様々なお立場だと思いますが、私も様々な経験の中で審査・指導に当たった経験も長いです。保険制度を学ぶというより、療養担当規則を学んでいただきたいという部分が往々にしてありますので、そういう言葉が入っていてもいいのかという気がいたします。

○福井座長 私の意見ですが、もし中島先生がおっしゃったように、プロフェッショナリズムが根っこの部分だというイメージに委員の皆さん全員が賛同するとしますと、幹の部分と枝葉の部分とオーバーラップする内容が根っこの部分に記述されると、非常に分かりにくくなります。したがって、プロフェッショナリズムはもう 1 段根底にある価値観とか行動原理、動機とか原動力とか、そういう内容にしたほうが全体的には分かりやすくなるのではないかと思っています。そういうことも含めて、議論を続けていっていただければと思います。これは恐らくこのワーキンググループのコアの部分ですので、引き続きディスカッションしたいと思いますので、とりあえず次に進みたいと思います。

 前野先生から評価に関わること、標準化に関わることについての御説明をお願いします。

○前野構成員 別添 3 の資料を御覧ください。到達目標の評価手法の標準化ということで、今回この評価の中で、項目だけではなく、その目標の到達をどう評価するかということも大きなテーマになっております。全体の方向性としては、現在はその項目は決まっていますが、何を用いてどう評価し、どこまで達成すればそれをクリアしたとみなすのかという基準は全く示されていない状態になっています。

 また、現在は「行動目標」と「経験目標」に分かれていますが、経験目標に関しては、何をもって経験したとするのかということに関しても一切、明確な基準がないという現状です。昨年度の調査でも、その辺りはかなり研修医、指導医とも、その解釈にばらつきがあるということが分かりました。それを踏まえまして、これをどのような形で標準化するのかということになります。

 ただ、この評価方法は、今まで御議論いただきました到達目標のフレームができないと議論が始められない。いわゆる物差しにすぎないので、何を測るのかというのが決まらないと、それは秤がいいのか、定規がいいのかも分からないということになるわけなのです。取りあえず、今、御議論いただいた到達目標の枠組みが決まった時点でまた改めて本格的に詰めることにはなろうかと思いますが、 1 つのスケールの提案として、 ACGME などで行われているマイルストーンを生かした方法を参考として御紹介したいと思います。

 次のページに「マイルストーン評価の一例」があります。参考にしましたのは、いわゆる ACGME 、アメリカの研修プログラムの評価基準で、これについてはホームページから全部拾えるものなのですが、それも非常に膨大なものですので、内科のごく一部を別紙 2 としてお付けしてあります。見比べながら見ていただければと思います。

 別紙 1 に戻ります。最初に申し上げたように、今はまだ到達目標の枠組みが決まっておりませんので、現在の枠組みである行動目標、経験目標、そして、その経験目標の「特定の医療現場の経験」という枠組みで考えた場合に、どのようなものが考えられるのかという例示です。 Level0 は評価不能というか、いわゆる ACGME のマイルストーンでは、評価するに値しないみたいなひどい例が端に書いてあるのですが、実際、我々も EPOC を使っておりますが、それで見ると、「評価不能」という欄は絶対に必要で、例えば精神科を回っている間に小児領域の能力などについては、これは良い、悪いもなく、観察する機会がないという部分がありますので、やはりこういう欄は必要ではないかと思っております。

 一応、仮に Level1 4 まで並べてありますが、別にこれは 4 段階に特に根拠があるわけではありません。そして、これまでとの大きな違いは、文章でそれぞれの Level を記述していることです。 ACGME のマイルストーンに関する説明を見ますと、これは知識・技能・態度を全部包含したコンピテンシーと書かれてあります。ですので、これ 1 つでその 3 領域を含めた評価ができるという部分もあるかと思います。

 ただ、今の評価項目は何百個とあるわけです。それは 1 1 個全部違う文章だと、多分、読むほうが大変だろうと思うのです。ですから、ある程度同じカテゴリーのものは同じ文章で、この○○の部分だけが違うというような形を現時点では想定しております。それは、それがフィットするかどうか、その利便性と評価の妥当性の兼合いの中で今後決まっていくことになろうかと思います。

 そして、その下のチェックボックスなのですが、 ACGME のチェックボックスは、ここに示すように、 Level と中間という不思議な構造になっています。ただ、実際に私が指導医として付ける場合、この中間があると結構付けやすいというか、付けるときに真ん中辺りというのはいますので、こういうふうに細かいほうが、より細かくできるかもしれません。一応参考までに、一番下の「特定の医療現場の経験」は、それがない形で作ってみました。これは、特定の医療現場だから真ん中がないのではなくて、これは別にどこに付けてもよかったのですが、 1 つの例として見ていただければと思います。

 「行動目標」の Level1 は、基本的な知識を知っているか、知らないか。 Level2 は実際に認識しているか。 Level3 は、実践しているか。 Level4 は、より複雑な現場でそれをやっていたり、教育に当たっているというような、かなり発展的なものをイメージしています。

 「経験目標」に関しては、 Level1 は、手技について知っている。 Level2 は、限定された状況の中で一部できる。 Level3 は、限定された状況で全部できる。 Level4 は、ある程度応用が利くというような意図です。経験目標の 3 つ目は、同じチームだけの受け持ちではない、横目で見ていたという感じです。 Level2 は、受け持ちだけれども一部のみに関わった。 Level3 は、受け持ちとして全てのプロセスに関わった。 Level4 は、同じ症例を複数受け持ったという形で一応並べてみました。経験目標の一番下の「特定の医療現場の経験」に関しては、これはどういうふうにしようか少し迷ったのですが、 Level1 は受け持ちでない。 Level2 4 は受け持ちなのですが、症例数で分けてあります。

 私が用意した資料は以上なのですが、まだ枠組みが決まらないと具体的な議論はできないのですが、このような、 EPOC だと今の A B C 、それ以外の EPOC を使っていないところはスケールが特にフォーマットが決まっていないという現状から、このようなものを示すことによって、何が期待されているかということを、より明確なメッセージで示すことができるのではないか。また、それをある程度、今のコンピテンシー、資質・能力というものを意識した形で評価することで、良い形で臨床研修に働き掛けていくことができるのではないかと思っております。以上です。

○福井座長 ありがとうございます。ただいまの御説明について、御質問や御意見はありませんでしょうか。

○古谷構成員 すみません、退席をしなくてはいけないのですが、最後に質問というか。こういうふうに段階別に評価をするのは、段階を付けるという意味ではいいのですが、研修医へのメッセージとしては、例えば自分が何を改善すればいいのかとか、次にどういう行動を取ればいいのかというのが、多分、見えてきにくい評価方法だと思うのです。その点に関してはどう考えますか。

○前野構成員 これのほうが見えてきにくいというところが、ちょっとよく分からないのですが。

○古谷構成員 では具体的に何を行っていけばいいのかというのが、これのほうがという訳ではないのですが、こういう段階別評価ということは、自分がどの辺りにいるかは分かるのですが、自分が何が悪いのかというのが分かりにくいという欠点があると思うのですが。

○前野構成員 それは評価基準というか、つまり、その評価基準を使って、今度はいかに形成的にフィードバックしていくかというところに入っていく話なのではないかと思うのです。

○古谷構成員 そうですね。

○前野構成員 ここからは私の個人的な意見にすぎませんが、その部分を標準化することがなじむのかどうかというところは、ちょっと議論が必要かなと。ある程度比較したり、全国の位置を知ったり、あるいは全国の中でうちでどういう研修が行われているのかという意味ではスケールは大事だと思いますが、それを形成的にフィードバックして学びを促すというプロセスは、かなり個別性が高いので、それを全国レベルで出せたらもちろんそのほうがいいのですが、その辺りは議論が必要かなと思います。

○古谷構成員 というのも、病院によっていろいろな病院がありまして。例えばすごくフィードバックに力を入れている病院だと、こういうことをやっていくと、逆にタスクが多くなりすぎてしまってうまくいかなくなってしまう。逆に、今までは EPOC ぐらいで 3 段階ぐらいの評価でやっていた所は、ここに移行することによって、もしかすると得られるものがいっぱいあるかもしれないという。病院によって個性があったりするので、標準化ということが、例えばどれぐらい本当に標準化なのかというようなことが、やはり少し気になったもので。

○前野構成員 それは、今の EPOC もそうなのですが、別に、法令上あれを使うことを義務付けているわけではないわけです。それは、この評価基準というよりは、研修プログラム全体の、いわゆるサイトビジットや外部評価や、どう運用しているかという部分に依存するのではないかと思いますので、この評価基準というよりはプログラム運営の在り方ということで、そのプロセスをしっかりどう評価するかというところのほうが、質の担保につながるような気が個人的にはします。

○古谷構成員 ありがとうございます。

○田中構成員 現行の EPOC の評価よりは良いと思います。私は基本的にはこれに賛成なのですが、ただ、今の EPOC でも大変だという声を全国から寄せられている立場としては、恐らく対象を絞ったほうがいいのではないかと思います。こういうきちんとした評価をする経験目標を絞らないと、ちょっとこれを全部やれと言われても、ますます全国からいろいろな声が寄せられるような気がいたします。

 もう 1 つ、先ほどの前野先生の御説明で、 Level0 4 と分けたときに、下の評価欄にわざと対応しないように微妙に 7 段階ぐらいになっているのですが、これは、このほうがかえって付けやすいのだと先生がおっしゃったのですが、それは何かいろいろなエビデンスがあるのですか。

○前野構成員 いいえ、ないです。個人的な感触ですが、恐らく総括的評価は中間を作らないほうがいいだろうと思うのですが、形成的に用いる場合は、やはりきめ細かくスケールしたほうが言いやすいかなと思ったので。

○福井座長  ACGME のほうも、中間のものが全部入っていますね。

○前野構成員 ただこれは形成的評価に使う、 6 か月ごとに使うと書いてあります。ですので、修了評価はやはりこれはないほうがいいのだろうと思います。

○伊野構成員 今の田中先生の御質問と連動するのですが、アンケートでも経験目標が多すぎるということがあって、先生も絞ったほうがいいということで、行く行くは絞った上でこれを付けるというような形にしていこうというところでしょうか。

○前野構成員 それは枠組み全体の話になると思うのですが、先ほどコンピテンシーという話の中で、経験目標をどう扱うかという議論が必要なのではないかと思っておりますが、例えば簡略化するならば、経験とは例えばそれが 3 例以上の受け持ちであればよい、つまり 3 だろうが 30 だろうが「経験あり」とするならば、経験目標としてクリアする条件を示した上で、疾患別に並べてチェックを付けていればいいと思うのです。 3 だろうが 30 だろうが、その基準を超えたものにチェックしてくださいという形にすれば、このマイルストーンを使わなくて済むと思います。

 ですから、私は今回の見直しの中で、コンピテンシーと経験目標をどう位置付けるかの議論が重要だと思っています。能力をきちんと記述するなら、経験したというのは理想的には要らないのかもしれません。でも、実際には経験目標の要素は要ると思います。ですので、そこの整理をすれば、それは自動的にここに反映されるのではないかと思っています。

○伊野構成員 ありがとうございます。

○福井座長 経験目標は方略の 1 つとして扱えばいいので、コンピテンシーの中に全部入れ込むのは非現実的だと思います。したがって、評価項目は現在のものよりは随分少なくなるとは思います。ほかにはいかがでしょうか。

○伴構成員 前野先生に質問というよりはお願いですが、是非、イギリスの Foundation Programme と日本の臨床研修を比べるときに、「ニアリーイコールではないか」というディスカッションもあるし、それに反対する人は、「いやいや、評価の方法が全然違うのです」と言うのです。私もよくは知らないのですが、 Foundation Programme がどのような評価法を用しているのかも研究してもらえないでしょうか。

○前野構成員 分かりました。では宿題にさせていただきます。

○大滝構成員 以前の厚労科研で、田中先生にご紹介いただいて、実際に英国に留学された方にインタビューする機会をいただいた際に、「本当に経験目標はないのですか」と質問すると、「そのような項目をチェックしたことは一度もありません」と聞いて、私も大変衝激を受けました。また、その英国ではさらに評価方法の見直しが進んでいるようです。 e- ポートフォーリオのこともふくめて、是非、前野先生に情報を集めていただきたいです。

○田中構成員 最近英国から帰国し、京都大学で研修している人がいるので、その人がいいかもしれません。

○大滝構成員 イギリスで研修をした後で。

○田中構成員 はい。

○福井座長 いろいろ経験を積んだ上で、こういう能力を身に付けてほしいという、その能力のところを扱うわけですから、プロセスとしての経験は、あまり細かく書き出す必要はないのではないかとは思いますが。

○前野構成員 私はいつも、悪いプログラム責任者の話ばかりして申し訳ないのですが、いわゆるミニマムを狙ってくる人はいます。つまり日本全体の制度の底上げを図るという意味では、誰が見ても言い逃れできない基準というのがやはり必要で、コンピテンシーは非常に複合的なものなので、どうしても観念的な文章になってしまうと、逆に言えばどうにでも言えてしまう。そうすると、プログラム責任者がそういうことをしないようなサイトビジットなり何らかの縛りを付けておかないと、もちろん余りにもガチガチのものにしたら本質を損なうかもしれませんが、トータルとしてレベル低下につながってもいけないと思うのです。やはり、その辺りのバランスが必要なのではないかと思うのです。

 実際にプログラム責任者というプログラムを動かしている立場から言えば、やはり A 項目をクリアしているかどうかにかなり神経をとがらせて、それがある意味、緊張感を持ってプログラム運営につながっていることも事実なので、その辺りはやはりバランスなのかなと思います。

○田中構成員 経験も、例えば典型的な心筋梗塞やくも膜下出血は、やはり経験していないと、しているとでは全然違うと思うのです。やはりあれは経験していないと、ちょっと胸痛の鑑別診断と言ってもリアリティが全然ないし、見逃してもいけない病気なので、きちんと評価するためにも相当絞り込んだ疾患を経験する必要はあると思います。ただ、そういうことも考慮したほうがいいのではないか。

○大滝構成員 関連しての発言です。今の経験目標を今度の目標の構造にどのように埋め込んでいくかを検討する際に、いわゆる e- ポートフォーリオを検討する必要があります。今の EPOC は入力が大変だとされていますので、より効率的なシステムが望まれます。恐らく今後も、研修医がある症例を経験したらその報告を退院時サマリーなどにまとめることは必須でしょう。それらの報告の中から、自分の研修目標に関連した経験を記録として残していく作業が、目標の達成度を評価する上で大切になると考えています。その部分をなかば自動的に行えるようにするのです。コンピテンシーのこの項目はクリアした、この必須の症例は経験したという関連付けを行える、リレーショナルなデータベースとして退院時サマリーなどを利用するのです。研修医がサマリーやレポートを入力すると、それが目標と関連付けて分析され、その後 e- ポートフォリオを時々見ると、まだここの研修が足りないといったことが分かるようなシステムです。 EPOC を始めた頃と比較して技術的に可能なことがかなり広がっているので、是非これを機に見直しをしていただくと、皆が使いやすい、そして目標の達成状況と研修した内容を関連付けて把握しやすい、透明性のあるシステムになると思います。

○前野構成員 今回、評価基準だけで、今も課されているレポートに関してこれでは触れていないのですが、現時点ではレポートはフォーマットは何も決まっていないので、サマリーをそのまま出している所も、それがノーチェックで修了を出している所もあるというのが昨年の評価結果だったわけなのです。

e- ポートフォーリオというものも考えなければいけないと思います。ただ、例えば 3 年後ですか、実際に評価基準が新しくなったときに、全国の研修病院が全てそれを実施できる体制にあるかというと、やはり難しいものがあると思いますし、ポートフォーリオは、書くほうも評価するほうもトレーニングが必要です。その両方がやらないまま入れると、かえってよくないという部分もあります。また、この評価基準をいわゆるトップランナー方式でいくのか、それとも一番悪い所でもちゃんと付いていけるようにするのか、その辺りにもよるのですが、その辺りの現実性を考えながら、そのレポートと併せて見直していく必要があると思っています。

○福井座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。少し時間がありますので、もしよろしければ先ほどのコンピテンシーといいますか、大滝先生、野村先生が説明されたテーマも含めまして、全体的に何か御意見はありませんか。

○金丸構成員 先ほど福井先生からも少し整理していただいた幹との考え方にも、もし可能であればという 1 つの考え方なのですが。やはり 8 項目あって、幹の部分というか、根元の根っこの部分の整理は先ほど頂いたのですが、私はプロフェッショナリズムが根っこであり、コミュニケーションが一番の幹のように思うのです。そこからいろいろな枝葉で以下の項目が成り立っていく姿のようにも、実際に現場で研修医や医学生を見ても思うものですから、その辺りが可能なのか、あるいは妥当なのかということも議論していただけると有り難いなと思います。

○福井座長 コミュニケーションがベースにあって、いろいろなことが可能になるということですね。

○金丸構成員 そういう意味です。

○高橋構成員 先ほど中島先生がおっしゃられた用語の問題です。コンピテンス、コア・コンピテンス、コンピテンシーといった用語が非常に氾濫していて、それなりに必要性があって我々は使うことが多いのですが、実際の指導医レベルと話をするときに、これの解説をして行っていても、ワークショップなどをやっていてもなかなか通じないことがあります。その辺りの用語を統一しておかないと、共通認識がなかなか持ちにくいのではないかと思います。その点を皆さんで考えていく必要があるのではないかと思います。

○福井座長 例えば先ほどのプロフェッショナリズムで扱われた事柄は、日本語では「資質」という言葉にやや近くて、医学的な能力、医学知識と問題対応能力、患者へのケア、診療技術、安全管理というのは、「能力」という言葉に近いのかなと思いました。日本語と 1 1 の関係にないから難しいですね。伴先生、何か。

○伴構成員 その使い方の整理として、英語も混乱しているのです。今のところカナダや北米を中心にコンピテンスというのを一番大きな概念として、それに含まれていくものをコンピテンシーと整理しようという流れにはあるのです。ですから、それに捉われずに、中島先生が言われたように、中島先生にいろいろ提案していただいて、日本語で表して、例えば先ほど野村先生が言われたように、資質・能力ですか、それの上位、中位、下位などという言い方でもいいのではないかという感じがします。

○福井座長 もし可能であれば日本語で表す。

○中島構成員 そうですね。説明しやすいですからね。

○福井座長 白紙状態から考えていただければと思います。

○大滝構成員 例えば Rubric というのも、最近、教育関係者の間で、医学教育に限らず、はやっています。これは評価尺度に、段階毎のよりかみ砕いた説明を付けたものです。ですから、何か注釈を付ければ、「評価尺度」という日本語で表現して、その注釈の中に先生がおっしゃったように英語ではこう呼ばれていると。

○中島構成員 括弧の中に英語を入れるとか。

○大滝構成員 そういう形で当面やっていったほうが、より伝わりやすいし、広まりやすいと思います。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。今後ディスカッションが続けられますので、本日ある程度方向性が決まれば有り難いです。

○片岡構成員 私も先生方から御意見がいろいろ出ているとおり、プロフェッショナリズムを根っこというか、一番大切な基盤として非常に大切に扱うことは素晴しいことだと思います。野村先生が出してくださった前文も読んでいてすごく共感でき、臨床医や指導医の方、あるいは社会からも「ああ、そうだよな」と受け入れられる共通的な認識なのではないかと思います。「根っこ」をどういうふうに表現するのかは今後の課題として、根幹は何かを示すという点で大変良いと思います。

 ただ、日本語でプロフェッショナリズムを表す良い言葉があればより良いかとは思うのですが、それについては私もアイディアがございません。

○大滝構成員 今の片岡先生の意見で思い出したのですが、前回、御報告したインタビュー調査の中で私が一番印象に残っていることの 1 つですが、予想外に多かったコメントとして、「研修医も学生も目標のことをほとんど知らない。それで、締切りが来たらその時にみんなで見る。そのときになって、「ああ、こういうのがあるんだ」という、リマインダーとしての意味もあると、インタビューされた方が何人も、研修を修了したばかりの人も含めておっしゃいました。ですから、宣伝と言ったら変ですが、高邁な理論や分かりやすい言葉といった配慮をした上で、こうやって医師を育てようとしているのだということを広めることが重要でしょう。御存じの方はおられると思いますが、カナダの CanMEDS や、イギリスの Tomorrow's Doctor は、そういうキャンペーンも熱心に、特にプロフェッショナリズムに関することを中心にやっておられると理解しています。良いチャンスでもあると思いますので、今回、研修制度が新しくなりましたというときに、そういったことを積極的にアピールすることも大切であると、良い制度にしていく、特に患者さんに理解してもらうという意味で大事なのではないかと思います。

○伊野構成員 今の大滝先生のを受けて、やはりそれには卒前からきちんとこういったことをしっかりやっていくというところで、第 2 回目でもありましたように、卒前卒後はシームレスになっていくというところで、今おっしゃったようなことが啓発されていくのではないかと思います。

○福井座長 その点につきましては、奈良先生がお目付け役で…。

○奈良参考人 いやいや、お目付けというわけではないですが…。

○福井座長 医師の教育課程を全部を見わたした表も作っていただきました。

○奈良参考人 伊野先生がご指摘のとおりですが、卒前卒後、そして生涯まで、医師としてどうあるべきかということを見据えて教育しないといけないと思います。前野先生が提出された Level ですが、 Level0 は別としても、 Level1 というのは結構、卒前に入ってきてよいのもあると思います。本来は卒前教育で修得していなければならないことが、研修医でも Level1 にあるというのは困ります。卒前、卒後のそれぞれの時点で到達目標を明確にしてしっかりとシームレスに教育することが重要だと思います。そのためには、大滝先生がおっしゃったように、キャンペーンが必要だと思います。何かリーフレットみたいなもので良いのですが、それぞれの段階での到達目標をポケットに入れて置き、それを意識しながら教育を受けると良いと思います。日本の医学部でアウトカム・ベースド・エデュケーョンをやっているという所もありますが、学生や教員に聞いてみると必ずしも浸透していません。もっと到達目標を認識して、学生、教員、そして研修医、指導者がすべてシームレスな教育に参加してもらいたいと思います。

○小森構成員 皆さんと同じ認識です。半年前に福井先生がチーフタスクフォースを務められる指導医のためのワークショップのディレクターなのですが、ディレクターの御挨拶が終わった後は受講して勉強して、自分が変容するのをまざまざと感じて、それは福井先生のお力でもあるわけですが。そういう過程の中で様々な用語、最近の医学教育用語について、「ああ、こういうことか」ということを、頭ではなくて体で知ったという意味では勉強になりました。

 一方で、今、総合診療専門医のプログラム、カリキュラム等を前野先生も伴先生も様々な場面で御一緒いたしますが、そういうことをしていると、どうしても日本語にならないねというところがあるのです。ですから、そこは難しいとは思いますが、できるだけ日本語に落とし込もうという努力はする、という共通認識の中でやるということが大事なのだろうと思います。野村先生が御執筆なさったプロフェッショナリズムは、素晴しい日本語に置き換えられているなと感銘を受けました。

 医師の職業倫理指針を今、改訂作業を行っておりますが、そこでも議論していますのが、やはりプロフェッショナリズムなのです。そこはなかなか変えられないということと、それから、シームレスという意味ではないのですが、御承知のように専門医の在り方に関する検討会で様々なことで、別の目的もあってそれを多用したということがあるのですが、 professional autonomy という言葉を 5 回書いたということがあります。これでは余りあれだということで括弧して ( 専門職の自律 ) と。「自律」の「律」は「律する」なのですが、そういう言葉を括弧書きで入れたわけです。

 つまり、何かそういう言葉でないと、やはり全員が合意できなかったという。 1 つの旗を挙げるときに、どうしても日本語ではまずいということもあったりする場面がありますので、そういうことを体験しつつ、合意として皆さんが、可能な限り日本語に落とし込もうという共通認識を持って作業に当たるといいなということを、あえて繰り返しで、皆さんと御一緒だと思いますが、そういうことを感じていました。

○福井座長 ほかにはいかがでしょうか。プロフェッショナリズムについて専門家の先生方がおられますので御存じだと思いますが、行動原理、価値観まで落とし込むと、 4 つの行動原理・価値観になるということを提唱している研究者もおります。英語で申し訳ないのですが、 excellence humanism altruism accountability という 4 つが挙げられています。そうして、そこからいろいろなコンピテンシーが派生するという考え方もありますので、今後いろいろな案を出していただいて、このワーキングでディスカッションできればと思います。もしほかにないようでしたら、本日頂いた意見も参考にしながら、これからは少し会議の開催頻度が高くなるかも分かりませんが、ディスカッションを続けていきたいと思います。

 それでは、議題 2 「その他」に関して事務局より説明をお願いします。

○森医師臨床研修専門官 資料 2 です。「今後の進め方について」、説明いたします。昨年 8 月に本 WG を設置して以来、研究班と提携して開催してまいりましたが、これまでの研究成果や、このワーキングでの御議論を踏まえつつ、次回以降は、関係団体よりのヒアリングを中心に進めてまいりたいと思います。平成 27 年度中はヒアリング等により御意見を頂きまして、このようなことも踏まえて、到達目標及び評価の具体的な見直し案をワーキングにてまた改めて御議論いただき、平成 28 年度中に取りまとめ、臨床研修部会に御報告できればと考えております。

 なお、今年度も福井先生を主任研究者としまして、引き続き厚生労働科研究を実施することとなりましたので、並行して必要なデータ収集や到達目標・評価に関する検討も進めてまいりたいと思います。部会に御報告しましたら、到達目標・評価の在り方を含めて、そこでは制度全体の議論を行いますが、それを経まして平成 32 年度までの見直しの適用を行いたいと考えております。資料 2 の説明は以上です。

○福井座長 研究班の先生方には恐縮ですが、本日のディスカッションを踏まえて、案をリバイズしてこのワーキングに出すという作業を繰り返していただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 ただいまの説明について何か御質問、御意見はありますか。

○小森構成員 医師国家試験の改善検討部会での検討で、これは決定した事項ではもちろんありませんが、その後、出題基準の部会を経て医師分科会で決定するということですが、スケジュール感としては平成 30 年度の医師国家試験から大幅な見直しがある可能性がかなりあるという中で、文部科学省の平子企画官がお見えですが、モデル・コア・カリキュラムの見直しもまた同時並行でスタートすると伺っています。その整合性というか、そういうことも多少はやはり考える必要があるのだろうなと思っています。

 そこで平子企画官にお聞きしたいのは、モデル・コア・カリキュラムの改訂作業はどういうスケジュールになっているのですか。

○平子文部科学省医学教育課企画官 おっしゃるとおりで、それに連動して文部科学省のほうで、まず最初は恐らく委託という形で検討の場を設けていくことになると思いますが、それと併せて、その上位の検討会なりというのを今後、国家試験の見直しに合わせて我々としても検討を進めていくことになろうかと思います。

○小森構成員 ですので、ここの議論の上に臨床部会があるわけですが、ここの議論がやはりコア・カリキュラムの改訂の議論に連動してきますので、そういうことを意識しながら議論する必要があると思っています。

○福井座長 ありがとうございます。そのほか、事務局から何か御説明はありますか。次回の日程については。

○森医師臨床研修専門官 次回のワーキングの日程につきましては、また追って御連絡したいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

○福井座長 調整中ということで、よろしくお願いします。そのほかに何か御意見はありませんか。

 それでは、本日はこれで会議を終了とさせていただきます。ありがとうございました。


(了)

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