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2015年4月21日 厚生科学審議会疾病対策部会 第38回難病対策委員会 議事録

健康局疾病対策課

○日時

平成27年4月21日(火)16:00~18:00


○場所

労働委員会会館 講堂(7階)


○議事

○前田疾病対策課長補佐 定刻となりましたので、ただいまから厚生科学審議会疾病対策部会第38回難病対策委員会を開会します。委員の皆様にはお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。前回の難病対策委員会以降、委員の変更がありましたので御紹介します。宮城島委員に代わりまして、静岡県の鶴田憲一理事が委員に就任されています。また、委員会に際して事務局の職員に異動がありましたので、御紹介します。41日付けで健康局疾病対策課課長補佐に着任しました日野です。本日の委員の出欠状況ですが、金澤委員長、小幡委員、小池委員、本田麻由美委員から欠席の御連絡を頂いています。また、少し席が空いていますが、遅れて来られるものだと思いますので、お集まり次第という形にさせていただきたいと思います。

 以上でカメラの撮影はここまでとさせていただきます。傍聴される皆様におかれましては、傍聴時の注意事項の遵守をよろしくお願いします。なお、金澤委員長からは御欠席されるため、厚生科学審議会疾病対策部会運営細則第4条第4項に基づき、委員長の職務を行う者として、あらかじめ福永副委員長を御指名いただいています。このため、以降の議事進行については福永副委員長にお願いします。

○福永副委員長 では、始めます。まず資料の確認をお願いします。

○前田疾病対策課長補佐 事務局です。資料の確認をさせていただきます。議事次第をめくっていただきまして、委員会の名簿です。引き続いて参考人の名簿で、本日御意見を頂く5名の先生方のお名前を記載しています。座席表がありまして、そちらから資料となります。資料1-1、横紙で「基本方針の検討について」というものです。資料1-2、カラー刷りですが、「希少疾病用医薬品・希少疾病用医薬機器・希少疾病用再生医療機器等製品の開発をお考えの企業の皆様へ」という形で、基盤研から頂いている資料です。資料2ですが、中島健二参考人の資料です。資料3として、小崎健次郎参考人の資料です。資料4で中島孝参考人の資料、資料5として稲垣参考人の資料、資料6で末松参考人の資料、いずれも横紙です。不足等がありましたら、事務局までお申し付けください。

 なお、事務局から本日の御議論に関係する現状の施策についての資料を、資料1-1、資料1-2として配布させていただいています。こちらの資料については意見交換の際に、現状の施策に議論が及ぶような場合に、必要に応じて御説明させていただければと思っています。

○福永副委員長 どうもありがとうございました。それでは、さっそく議事に入りたいと思います。本日の最初の議題は、「基本方針の検討について」です。本日は難病対策に関わる施策のうち、難病に関する調査及び研究、難病の患者に対する医療のための医薬品及び医療機器に関する研究開発の推進について御議論いただくこととしており、これらに関連する参考人の方々からヒアリングを予定しています。順次発表していただき、最後に質疑応答、意見交換をさせていただくという形で、進めさせていただきたいと思っています。参考人の方々には発表時間について、お115分程度を目安にお願いしたいと思います。本日は5人の先生方からお話を伺うため、参考人の先生方には誠に申し訳ありませんが、時間厳守でお願いしたいと思います。時間が参りましたら、事務局からお声を掛けさせていただくことになっているので、よろしくお願いします。

 それでは、最初に鳥取大学脳神経内科教授、中島健二様からお話をお伺いしたいと思います。先生、よろしくお願いします。

○中島()参考人 鳥取大学脳神経内科の中島です。政策研究について話をするようにという御指示を頂きましたので、神経変性班、神経変性疾患領域における基盤的調査研究班を担当させていただいている関係から、話をさせていただきます。よろしくお願いします。

 神経変性班は比較的古い歴史がありまして、昭和48年からずっと続いています。最初の頃の報告書を見ますと、疫学調査、病因・病態、治療開発の研究が主体で、それからだんだんと診断基準、重症度分類、マニュアルの作成等々も含めて研究されるようになり、最近では、皆さんのほうがよく御存じのように、政策研究と実用化研究に分かれました。政策研究は実態把握、疫学調査、診断基準、重症度分類、診療ガイドラインの作成・改訂、その学会承認等を行っています。神経変性班では現在の対象が15疾患ありますが、それ以外にもこれまでの変遷の中で、ペルオキシソーム病、あるいはライソゾーム病、線条体黒質変性症等の疾患も含めて、診断基準、重症度分類等を作成してきた経緯もあります。

 現在の神経変性班は、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病等々の、スライドに示すような15疾患を対象にしているところです。日本神経学会等の関連学会と連携しまして、これらの疾患の診療ガイドラインが作られてきているところですが、筋萎縮性側索硬化症については2013年に作られています。また、パーキンソン病については2011年に発行されており、現在改訂中です。進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病、前頭側頭葉変性症等につきましては、2010年に発行しました認知症疾患治療ガイドラインに含めて作成し、現在改訂作業中です。このように、ガイドライン、診療マニュアル、患者・御家族の皆様を対象とした療養の手引等を作成してきています。そういう形で作成してきているところで、現在この研究班におきましては、この四角で示しましたパーキンソン病関連疾患、舞踏運動関連疾患、あるいは今回追加したFTLDCMT、ジストニア、紀伊ALS/PDCなどの疾患についてもガイドラインを作るように検討が進められ、作成作業中です。

 診療ガイドラインの作成には、作成委員会を作りまして、その委員のCOIマネージメントをしまして、クリニカルクエスチョンを作って、キーワードに沿って文献検索をします。それらの文献のエビデンスレベル判定をして推奨度を決定し、推奨文・解説文を作成します。作成したガイドライン(案)についてパブリックコメントを求めて修正し、発行します。その発行後も、問合せに対応したり、ガイドラインの周知・普及などを図ったり、あるいは次の改訂への準備をしていかなければいけません。こういった継続的なことをしなければいけないところから言えば、関連学会と十分な連携が必要ということも指摘されているところだろうと思います。

 複数の学会や団体が診療ガイドラインを作ることもありますが、同種の疾患についての複数のガイドライン作成は、基本的には避けるべきで、調整、協議をしながらやっていく必要があると考えるところです。そういう複数の関連学会が連携しながら作成していくことが重要で、ガイドラインを作る際には、改めて各疾患の診断基準や重症度分類なども検討し、文献のエビデンスレベル等を参考に再度検討し直すこともされてきていると思います。こういった形で診療ガイドラインを作成し、同時に診断基準、重症度分類なども再検討しながら進めているところです。

 難病研究において、政策研究と実用化研究が分かれてきています。政策研究では疫学調査、自然歴調査、あるいは診断基準、重症度分類、ガイドラインの作成等々が役務としてあるわけですが、多領域の連携というのが非常に重要であると思われます。基礎と臨床が連携し、政策研究班と実用化研究班とが連携していかなければならず、こういう連携体制をどう担保していくか、どのように維持していくかということも、現在におけるこの研究体制の課題の1つではないかと考えているところです。

 神経変性疾患は比較的高齢で発症する疾患です。これには加齢ということが関与してきているわけですし、そういう中で発症してこられて、受診をされ、診断をされて、治療をします。治療を行いますが、どうしても進行というものが避けられないところがあり、更なる治療法の開発が重要となります。その中で診断基準の検討、重症度、診療ガイドラインの作成、疫学調査等を政策研究班が行い、実用化研究班は病態の解明、治療法等を担当していただくわけですが、その過程においていろいろ両研究班が連携しながら研究を進める必要がありますし、両研究班の研究には必ずしも明確な線が引きにくいところもあろうかと思います。診断のための検査法の臨床応用についての議論であるとか、あるいは生体試料収集、自然歴の解明等々についても、多領域の研究者が連携しながら進めなければならず、なかなか線引きが難しい研究領域もあるのではないかと考えるところです。

 どのように疫学研究などを進めていくかということを考えてみますと、どうしても全国多施設共同研究で進めなければいけません。難病は、患者数の問題から考えても、治療開発研究も全国の専門の施設が多施設で共同研究をしなければいけません。ただ昨今、我々の地域でもそうですが、診療に追われて臨床医がなかなか研究に取り組みにくいところもあります。臨床医が研究しやすい体制の構築ということも考えていただきたいと思います。また、何らかのインセンティブ、あるいは、医師の「臨床研究をしなければいけない」という意識改革、そういう研究に参加する医師に対しての所属施設の中でのある程度の評価が得られるようにするといったことも望まれるところだろうと思います。

 自然歴等の研究において、コホート集団を作っていかなければいけません。臨床情報や試料収集をするとともに、治験に向けての対応なども考えていかなければいけないところだろうと思います。治験に対応するような疾患集団というものも含んでコホート集団を形成しておき、ある治験が計画されたときには、重症度なども参考にしながら比較的速やかに参加希望者が参加して治験が開始できるような、そういう体制も必要だろうと考えられます。そのためにも全国均一化された医療というものが必要です。診断基準、対象基準、評価法などを統一した治験を実施するということから考えても、共通の診断基準、重症度分類、あるいはガイドラインの普及等による全国の医療の均てん化が望まれるところだろうと考えます。こういう疫学研究、あるいはコホート研究におきましては、軽症者や診断確定前の症例も含めた登録方法の問題、あるいは参加率やフォロー率の問題、評価法の問題などもあるかと思います。

 そういった研究の例という観点から、我々が取り組んでいます進行性核上性麻痺の研究について若干述べてみたいと思います。1964年にこの疾患は報告され、1996年に国際的な診断基準が示されて、2003年に本邦では特定疾患に指定されていますが、その後臨床亜型が存在するという新たな疾患概念が報告されてきました。本来報告されたRichardson症候群という典型例のみならず、幾つかの臨床亜型が知られてきています。そうなると、初期の臨床診断が非常に困難になってくることにもなり、ある程度進行した典型例では診断が確立しているけれども、初期例では診断が難しいといった問題もでてきています。そういう共通した病理診断でありながら異なる臨床像を示すということから申し上げますと、病理診断の重要性が示されているとも考えられます。

 我々はそういう疾患についてもガイドラインを作ったりしているところですが、疾患概念が変化しますと、改めて疫学調査をしなければいけない、診断基準なども見直さなければいけないし、それに伴ってガイドラインも変えていかなければいけないということになります。我々の地域では進行性核上性麻痺の有病率調査もやっていますが、特定疾患に指定される前には10万人当たり6人弱であったものが、特定疾患指定後には18人になり、有病率の増加が認められています。これは先ほどの疾患概念が拡大したということもありますし、人口が高齢化してこの疾患の患者数が増えたということもあります。また、特定疾患の指定によって受診が促進され、診断させていただく方が増えたということも考えられるかと思います。

 臨床症状の多様性ということから言えば、診断バイオマーカーを開発していかなければいけないということになり、臨床情報の収集、生体試料の収集ということから、JALPAC研究を立ち上げました。現在の参加施設は34施設で、全国共同研究として現在の神経変性班で立ち上げて、整備してきたところです。こういう試料収集が他の疾患や領域でもされていますので、できるだけ統一化したプロトコールも必要であろうと考えているところです。また、先ほど申し上げたように、御協力が得られれば、病理診断による診断も望まれるところだと、研究的には言えるかと思います。

JALPAC研究は、初期例や診断未確定例も含めて、画像情報、臨床情報、生体試料等を収集し、専門医が評価した臨床情報とともに試料を収集し、自然歴を検討すると共にバイオマーカーの開発につなげようという研究です。こういった研究にはできるだけ研究に参加する臨床医のモチベーションをアップさせるように、所属の臨床施設の方に研究の遂行についても評価して頂き、臨床医の研究に対するモチベーションをアップさせるような対応も必要だろうと思いますし、忙しい診療の合間にできるだけ手間をかけずに実施できるような流れにしておくことも大事だろうと思います。また、移送については請け負ってくれる業者との速やかな契約等もできるような体制ということも望まれると思います。政策研究班で活動してきた研究を、バイオマーカーの開発等に結びつけていこうということで、今年度から実用化研究にも移す予定で、進行性核上性麻痺についてはこのような形で、政策研究から実用化研究へと連携しながら進めているところです。

 まとめです。難病医療の均てん化について、診断基準、重症度分類、ガイドラインの作成・普及を行っていかなければいけません。疾患概念も変化していくということから言えば、それに対応してガイドラインなども改訂していかなければいけませんし、診断基準も改訂していかなければいけません。そういった新しい診断基準、重症度分類、ガイドラインを普及・周知していかなければいけません。さらに、長期かつ継続的な研究体制や多施設共同研究体制の構築もどう進めていくべきかということも、全体として考えていただきたいということも要望したいところです。特に、臨床医がなかなか研究に取り組みにくいという状況もあるところから、そういう臨床医の協力が得られるようなサポート体制も望まれます。参加する臨床医の負担を軽減する観点からも、いくつか走っている生体試料収集研究についても、できるだけ共通したプロトコールで行って、現場の混乱を避けるようにしていく必要があるとも思います。また、基礎研究やシーズ開発から治療薬開発、コホート研究、ガイドラインや診断基準、重症度分類の作成まで、一緒に議論できることが望まれるということから言えば、多領域の広範囲な研究者が一堂に集まっていろいろ情報交換できるように、連携した体制を望みたいと思います。また、病理診断を含めて、研究への理解というものを、臨床医の理解を深めるような活動を考えていかなければいけないと思いますし、一般の方へも、こういう我々の政策研究班を含めた研究活動の成果の周知を図って理解を深めながら研究活動を進めていく必要があるだろうと考えるところです。以上です。

○福永副委員長 どうもありがとうございました。次に慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター教授、小崎健次郎様からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

○小崎参考人 慶應大学臨床遺伝学センターの小崎と申します。本日はこのような貴重な発表の場を与えていただきまして、誠にありがとうございます。私は慶應大学で希少疾患、特に遺伝性の疾患について、研究、診療、教育を担当しています。今日は先天異常症候群分野の難病研究について、お話をさせていただきたいと思います。

 現在、国際基準に依拠した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的研究班というものを担当させていただいています。この奇形という用語については、先天異常という言葉への読み替えが望ましいだろうということを、昨年の日本医学会の用語委員会でも御指導いただいているので、本日は以下、先天異常症候群という名前で呼ばせていただきます。

 先天異常症候群は身体の各部の先天異常、症状の組み合わせにより臨床診断されます。現在までに数百の症候群が臨床診断として確立していますが、今に至りまして、多くは遺伝性疾患であることが分かっています。各症候群に特有な、重要な合併症というものが知られていまして、確定診断を付けることによって、これらの合併症を早期に検出し、早期に対策、治療を軽減できることが知られています。

 難病の4要件を満たす疾患群ですが、現在、遺伝子診断が可能になった疾患であっても、症状に至るメカニズムは依然不明で、実用化研究が待たれているところです。国際疾病分類による先天異常症候群の位置付けについて考えてみたいと思いますが、スライドに示すように全部で22の大分類のうちの17番目が、「先天奇形、変形及び染色体異常」とされており、その中に「多系統に及ぶその他の明示された先天奇形症候群」という項目があります。多系統に及ぶ疾患であるために、従来の臓器別の難病の研究班体制では対応が困難だった部分がありました。各疾患の発症頻度が低いこと、それに比して疾患数が非常に多いということで、特定の先天異常症候群のみを専門とする医師というのは基本的にはおりませんので、先天異常症候群全般を診療するような医師が全国に散在しているという現状があります。これを逆に取りますと、このような先生方のネットワークをうまく利用しますと、先天異常症候群に含まれる多くの疾患群を、政策研究として実施することができるという利点があるかと思います。

 平成21年に個別の研究症例班が公募されたときに、ここに示すような症候群について、主に遺伝子解析を行っていた施設あるいは医師が代表となって、個別の症例研究班が設立されました。その際に遺伝診療を専門とする診療科を有するような専門医療施設、これは大都市部の図に示すような施設が中心となりましたが、これらがほぼ全ての研究班に対して、患者数の実数の把握、症状の把握について、非常に大きな役割を果たしたということがありました。これに加えてナショナルセンターや基盤研の先生方の御支援も頂いた次第です。

 平成24年度に個別の疾患ではなくて、もう少し疾患群に対して組織的な検討を行うようにという公募が行われ、これが領域別の基盤研究分野として公募がされたわけですが、15領域の1領域として、先天異常症候群領域を取り上げていただくことができました。そのようなことがありまして、先ほどお話をした10施設のほか、現在では21の先生方、施設がネットワークを作って、政策研究を進めています。この中で特に感覚器や歯科の専門の先生にも参画をいただいています。そして、主治医を介する患者レジストリーなどが形成され、実用化研究、橋渡し研究の役割も果たすようになっています。平成26年末までに37疾患について診断基準を作成し、4疾患が昨年末に指定難病になり、17疾患について第2次実施分の指定難病として候補に挙がっているところです。

 初めに全国調査を行いまして、そのときに疾患によっては患者家族会の御協力や、あるいは患者さん御自身による主治医登録などの仕組みを使って、多くの患者さんをコホートとして、研究対象とさせていただきました。その際に遺伝子診断を実施しまして、遺伝子変異が実際にある患者さんが持つ症状を詳細に分析するということをしました。スライドに示しますように、遺伝子変異がある患者さんで高頻度に認められ、他の先天異常症候群では一般に頻度が低い、つまり特異度が高い徴候を診断基準に包含するように心掛けました。

 一方で変異陽性、遺伝子変異があるので、その症候群と診断されるべき患者さんが除外されないように、診断基準を修正することも行ってまいりました。このサイクルを何度か回し、ネットワークの中の先生方の御意見を反映させることで、感度及び特異度が高い診断基準が出来るように、研究活動を続けてまいりました。特に遺伝子診断の重要性を鑑みて、次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子解析、複数の先天異常症候群を検出できるようなシステムの開発と運用を併用しました。

 これらの37疾患について診断基準を作ったのみならず、年齢別の診療の手引を作成し、検査の実施や他科への紹介のタイミングについて、必ずしも先天異常症候群を専門としない医師に対して、周知・配布する努力を続けています。これらの活動については、日本小児科学会、日本小児遺伝学会、日本先天異常学会と連携させていただきました。

 この年齢別の診療の手引ですが、ルビンシュタイン・テイビ症候群というヒストンアセチルトランスフェラーゼの欠損症の病気がありますが、この症候群の例を図に示しましたが、臓器別のチェックポイントに加えて、年齢別のチェックポイントを、表に明らかに明示するようなことをしています。これらについて、現在21種類の病気について公開していますが、中には図に示しますように、患者会のホームページで活用いただいている事例もあります。あるいは患者会への参加を通じて、そのときのアンケートから得られた成果からも、研究が進んだ事例があります。先ほど申し上げたルビンシュタイン・テイビ症候群については、成人の自然歴というものが明確になっていませんでしたが、成人期に達した後、精神・神経症状が悪化する患者さんがいらっしゃることが分かっています。この疾患については、その後国内外の研究によって、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬であるバルブロ酸が有効ではないかということで、動物モデルを使った研究や、臨床研究の準備が進められているところです。これらの疾患を研究するときに、個別の先天異常症候群の症状について、なるべく標準化した、あるいは国際化への対応を心掛けることが重要ではないかと考えています。国際基準に基づく形態異常の記載の方法や用語というものが発表されていまして、この640個に渡る用語について、先天異常症候群研究ネットワークのメンバーによって日本語に全訳をいたし、学会のホームページから公開しています。以後の研究の標準化のために、非常に有用であったと考えています。

 また、時期を前後して、この症状について、先天異常、形態異常の用語ばかりでなく、臨床症状についても網羅的、階層化的な記述をするOntologyと呼ばれる手法が、国外で幅広く使用されるようになってまいりましたので、平成26年では我々の研究班でも使用を開始しています。難病研究一般に関わる政策研究に有用な手法だと思いますので、本日紹介させていただきました。

 そして、国際化という点では、アメリカ、ヨーロッパの団体との連携を強化しています。ヨーロッパでは難病の研究支援団体としてオーファンネットというものが有名ですが、この設立者のAyme博士という方が、もともと先天異常症候群の研究者でおられまして、昨年の日本小児遺伝学会の大会には御参画いただき、この網羅的な記載の方法や、国際連携の在り方について、会員への周知を図っていただきました。

 また、今日申し上げた症候群については、やはり民族差というものがありまして、これらの遺伝性疾患の症状の多様性に関する国際研究がNIHで始まっていまして、今年の小児遺伝学会では、図に示しましたMuenke博士が来日され、学会において協同研究の進め方について、意見交換あるいは講演をいただくことになっています。

 政策研究の在り方について、少し意見を述べさせていただきましたが、当然これは実用化研究につなぐべきものでして、遺伝子変異陽性の患者さん由来の細胞株、あるいはそちらから作った疾患特異的なiPS細胞が、創薬研究、特に既承認薬のスクリーニングなどに有効であろうということで、一部の疾患についてこのような試みが、基礎研究の先生方と連携して始まっています。

 先天異常症候群は、一般にはなかなか治りにくい、治療の方法が難しいものではないかと考えられていますが、先ほどお示ししたルビンシュタイン・テイビ症候群がヒストン修飾の異常症であるように、エピジェネティックな異常症というものが多く含まれています。根治は難しいかもしれませんが、修飾が可能な疾患群として注目されています。また、TGFβのシグナル伝達異常症や、RAS/MAPKシグナル伝達異常症などがありまして、薬理学的な介入の可能性が示唆されている領域です。

 今後ですが、まだたくさんあります先天異常症候群の診断基準を、申し上げましたネットワークを使って作成してまいりたいと思いますし、先ほどの中島先生のお話もありましたが、既存の診断基準の修正も必要となっていくと思いますし、当然、診療ガイドラインの充実も必要です。特に頻度が低いが重篤度が高い合併症に対して、どのように予防的な対応を行うかということについて、標準化を進めていく必要があると考えています。そして、恐らくまだ患者数が少ない、あるいは原因が知られていない疾患に対して、どのように対応していくかということも重要な課題であると考えています。

 以上、難病研究のキーワードを先天異常症候群の経験から並べさせていただきますが、学会と連携した臨床医・基礎研究者のネットワーク、情報共有の促進、そのための症状の記載の方法の標準化・国際化、非専門家との情報共有。それから、やはり大事なことは、先ほど客観的なバイオマーカーというお話が中島先生からありましたが、遺伝性疾患の場合には遺伝子診断が重要であると考えられます。そして最後になりますが、当然最も重要なことは基礎研究者との連携の促進でして、特に患者さん由来の貴重な検体について、どのように基礎と臨床の先生方が情報も含めて共有するかということは、今後の非常に重要な課題であると考えています。御清聴ありがとうございました。

○福永副委員長 次に、独立行政法人国立病院機構新潟病院副院長の中島孝先生からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

○中島()参考人 私は、国立病院機構新潟病院の副院長の中島孝と申します。私は、この3年間の難治性疾患の実用化研究事業の研究代表者であり、本年度から始まるAMEDの研究費の研究開発代表者ですので、今日はこの研究の必要性と進捗結果について、参考人として説明いたします。

 まず、このHybrid Assistive Linb、すなわちHALは、筑波大学の山海嘉之教授がサイバニクス技術により操着者の行おうとしている運動意図に必要なモータートルクを使って筋をアシストし、随意運動を増強する装着型ロボットとして発明したものです。これは、国の特許になっております。実験室レベルで作った装置を患者に使えないことから、彼はサイバーダインという会社を作って、ISO規格の下で製造したわけです。この装置は、このビデオのように身体機能を増強するように見られますが、本来この装置は患者のために作られているわけで、私たちはそれを臨床効果、効能、臨床的性能をいかに治験で検証するかを最初に検討していったわけです。

 その前に、私たちが研究していく中において、日本の1972年から始まった難病に対する施策はとてもすばらしいものでした。ただ、新しい医療機器、医薬品の開発としては、十分できなかったと思われます。その中で、希少性疾病用医薬品や医療機器の指定制度や医師主導治験の制度ができてきました。今回私たちは、難治性疾患実用化研究事業のサポートを受けて、薬事戦略相談というきっかけを1つ入り口として進めていくことができたわけです。このような方法によって、恐らく難病における新規薬剤や医療機器の開発研究は、今後すばらしく進むだろうと、AMEDの発足なども含めて今後期待できると思っております。

 振り返りますと、山海先生がHALの研究を始めたのは1991年です。装置として、ISOなどにのっとって作らないといけないということで、会社を作ったのは2004年です。2003年に医師主導治験が可能になったわけですが、私と山海先生が一緒に研究をして、難病に特化した研究をすることによってブレークスルーを行おうということで一緒に研究し始めたのが、2005年です。ですから、実はもう10年もかかっております。2011年から加速して、海外との交流や国内での治験を開始することができました。

 この治験においては、巨大な組織が必要です。コアチームだけでなく、許認可の部門との折衝もありますが、治験実施施設の運用、それから各種いろいろな分野で科学的な内容を高めていったり、患者や患者の支援団体と十分なコミュニケーションを取っていくためには、足りないところは、臨床研究開発支援会社と契約して、業務を行っていくということで、大きなプロジェクトにする必要があったわけです。こういうプロジェクトは、非常に費用のかかるものですが、米国においても日本の希少性疾病医薬品や医療機器の指定制度と同じオーファンドラッグ法が1983年からあります。

 もう1つ、日本では医師主導治験制度がありますが、アメリカでは古くからNIH主導治験、NIH-led clinical trialということで、企業ではなく、国が治験を推進する、国民にとって、人間にとって必要な臨床研究は国が主導するということで、患者に薬や機器が提供できるような治験を国が主導しているわけです。

 米国は、医学、生命科学、科学技術における国際的な競争力維持のために、これをもちろん使っております。振り返ってみると、このNIHが主導する治験は、ここに順位が書いてありますが、ブルーの所がNIH主導治験ですが、企業主導治験よりも件数、額において恐らく上回っているのではないかと思っております。

 日本における治験制度は、実はこのハーモナイゼーション、ICHという日米、EUの規制調和国際会議の中で決まってきているものを日本語に翻訳した省令。また、ISOという国際的な基準で決まってきているものを日本語に翻訳した省令により、医薬品や医療機器のGCPが定められています。このGCPというのは、この治験のやり方を規定した省令のことをいいますが、それが決まっているわけです。

 もう1つ、先ほど申し上げた医師主導治験は、企業主導治験ではどうしてもやはり株主やプロフィットを基準にしてアウトカムを考えてきますが、真に患者が望むアウトカムを考えるための医師主導治験はできるだろうということで、重要なわけです。もう1つは、希少性疾病の分野では、普通ならとても資金の回収ができないということで、指定制度によって企業は優遇されているわけです。今年から、重要な倫理指針、それから10年ぐらい前からこのようなICMJEのリコメンデーションもとても治験には重要なものとして入っています。GCPに基づく臨床試験をしますと、最高レベルの科学的エビデンスが得られるということで、標準的使用法、適応疾患、適応症、確率論的臨床結果、起こりうる副作用など、新たな医薬品・医療機器の承認審査に向けたデータとなるわけです。科学性と倫理性が担保されるということです。この際には、非常に複雑で細かく、また法的にも十分なこのような文章が必要です。これは、単なる法律文章ではなくて、科学的に十分吟味された文章であるわけです。そのために、この治験コーディネーター、臨床試験コーディネーターの支援が多数いります。

 それから、データマネジメントは、分離して行う必要がありますし、医学統計学アドバイザーの存在もそうです。その上で、十分モニタリングをしないといけませんし、モニタリング会社のモニターを指名しなければいけませんし、場合によっては独立データモニタリング委員会を開催しなければいけません。もう1つは、監査をする人を指名していくことです。それから、当局の監査として、GCP適合性調査に対応しなければいけません。そうしますと、このようにGCPに基づく臨床試験というのは、当該臨床研究者以外の四重のチェックが入っておりますから、最高レベルのエビデンスになります。

 本題に戻りますと、私たちはサイバニクスという技術で、随意運動の障害を治療しようとしています。随意運動の障害というと、あらゆるもの、具体的には脳血管障害、頭部外傷、腫瘍、脊髄損傷、脳性麻痺、加齢に伴うものが入ってきます。もちろんそれも重要ですが、私たちはまず希少性難治性疾患に焦点を合わせて、機器を開発することで、他の加齢に伴うものや脳血管障害に伴うものも解決できると考えました。

 スライドでは、先天性ミオパチーを入れております。事前資料では先天性ミオパチーは落ちていましたので、ここで追加いたします。このような緑のものを最初に治験の対象といたしました。まず、医学界においては、病気の根治療法の開発・研究に集中されており、今まで随意運動の治療法の研究開発は十分になされてはいませんでした。これはニューロリハビリテーションという分野です。アメリカなどの国では、ニューロリハビリテーションの研究には、すごくエネルギーとお金をかけております。私たちは、今回歩行障害に対する治療方法を開発する必要性にフォーカスしました。随意運動障害の改善・治療法として、古くからある方法は、現代の脳神経学のエビデンスに基づいていない方法なのですが、実際には今のリハビリ室で行われ、それをリハビリと称しているわけです。私たちは、現代の脳神経科学に基づく方法として、サイバニクスを使うということにしたのです。サイバニクスによって1960年代に確立した運動プログラム理論をもう一度見直して、神経・筋系において脳・脊髄・運動神経・筋の再プログラミングを可能とする仮設、IBFinteractive BioFeedbackを提唱し、それを証明するということで治験を行っているわけです。

 このビデオは、サイバニクスの基本的な原理をしめしていますが、この電線で、今ロボットスーツHALを動かしていますよね。この人の運動意図で動いていることが分かります。これは、運動現象が伴っております。次は、全く運動していなくても運動意図で動かすことができる。これが、Cybernic Voluntary Control(サイバニック随意制御)です。これを使い、さらにCybernic Impedance Control(サイバニックインピーダンス制御)を使っていくと、患者はロボットスーツHALを装着していても、慣性モーメントや質量中心がずれませんから、固有感覚を維持したまま運動できます。そうすると、運動主体感が生まれます。それと、今のCybanic Voluntary Control(サイバニック随意制御)を使うことにより、随意的に体を動かすことをアシストすることができます。ですから、運動現象の前から体を動かすことができるということになります。

 もう1つは、正確な運動現象を起こすCybanic Autonomous Control(サイバニック自律制御)がHibrid Controlとして入っておりますので、複数の脳領域の活性化が起きる随意運動意図が起きたときにもそれを正しい運動現象として運動を行うことができる。それを機械ですから、何百回も何千回も繰り返し行うことができるわけです。すなわち、interactive Bio-Feedbackによって、脳・脊髄・運動神経・筋の再プログラミングが可能になるという仮設を提唱しているわけです。

HALを、まず神経筋難病患者に装着するとなると、また1つブレークスルーが必要でした。皮膚の表面からMotor unit potential(運動単位電位)を取るためには、通常のこういう環境中の電磁波の中で微少でまばらなものを取るためのブレークスルーが必要でした。もう1つは、神経筋難病の患者の脆弱な身体の骨格筋の状態に装着しなければいけませんから、それでとても十分な対策が必要でした。そのようにして開発されたものは、ドイツの脊髄損傷に対して労災保険が適用になり、HAL-ML05としてドイツで医療機器として認可され、労災保険適用となっております。

 このように、筋肉がしっかりとした患者から、全くこのように筋肉が萎縮している患者まで使えるというものが、今回のロボットスーツHALのブレークスルーになっております。それを使った、主に脊随意運動ニューロンに下位の病変に対する治験ということで、ここに書きました病気。これらは、すべて、現在における難病の疾患になってくると思いますが、それに対して2群で30例、9施設の治験実施施設で治験を行いました。本治験では、緩徐進行性の対象者がHAL-HN01は短期的、間欠的に治療的装着することにより歩行改善効果を証明し、有効性と安全性を評価することが目標でした。治験ですから、徐々に患者の具合が悪くなっているところを少しでも悪化スピードを遅くするということを、治験の短いタイムウィンドで行います。そうすると、少し改善効果を検出していくことになります。

 主要評価項目は、2分間歩行テストで、HALをもちろん脱いだあとで、患者の歩行がどれぐらい改善しているかを、こういう2分間歩行テストのサーキットでの歩行距離(m)で評価します。副次評価項目、安全性評価項目を評価していきます。このNCY-3001試験は無事に終了いたしました。2月下旬に、私が署名を治験総括報告書に対して行いました。私は、科学的に成功したと考えております。

 今、厚生労働大臣にサイバーダインを介して、製造販売承認申請がこの治験総括報告書を付けて行われており、PMDAで審査しております。同時に、治験結果は論文にて今公表準備中です。製造販売承認申請を行っておりますので、治験の結論は明らかで、結論は希少性神経筋難病疾患における歩行不安定症の患者が短期間間欠的にHAL-HN01を装着して歩行訓練を行うことで、歩行機能の改善が得られること及び、HAL-HN01は高い安全性を備えていることが確認され、これに基づき、325日に薬事申請を行ったわけです。

 次に、同時にHAMという病気の治験を開始しました。HAMすなわちHTLV-1関連脊髄症は、ATLの分布に一致して、全世界で分布していますが、これは大航海時代にこのような分布が広まったわけではなく、縄文時代に広まったと考えられております。炎症による脊髄の疾患ですが、抗ウイルス薬、炎症を停止する薬だけでなく、歩行不能になっていくわけで、歩行の治療研究が必要なわけです。このとき、最初のHAM患者さんにHAL福祉用を着けていただきました。これは、着けているときのビデオです。前後を評価しますと、これになります。これは、NHKワールドニュース映像ですが、転倒しやすいので、ホイストを使っているだけです。ロボットスーツHAL5回程度歩行訓練をしたところ、歩行が非常に改善したというチャンピオンデータです。こういったものを数例組み合わせて、症例数を設計して、NCY-2001試験ということで、HAMなど痙性対麻痺症における歩行改善効果に対する治験を行っております。

 神経難病の全体に対する治験の開発ストラテジーは、徐々に悪化する病態に対して、治療薬で少しでも進行を遅らせよう。HALによって少しでも改善させよう、進行を遅らせよう、この二つをcombinedし複合療法として、その効果をまたさらに高めようということを考えています。この薬剤として、治療薬、抗体医薬、核酸医薬、幹細胞、iPSなどを考えております。

 あらゆる疾患において対応することが可能と思っておりますが、治験を順次行う準備をしております。神経筋難病における歩行プログラムは、今まで、平行棒内の歩行練習、歩行器には歩行練習ということで、とても危険な状態でやっておりましたが。いままではアウトカムがはっきりしないということでした。一方、ロボットスーツHALを使い、このようなトレッドミルで行うことにより、神経難病であってもよい歩行治療プログラムが可能だと考えております。

 次に、ロボットスーツHALの可能性として準備しているものは、パーキンソン病において、このようにヤールの重症度分類5度でほとんど歩けなくなった患者がホイストを使うことによって歩行が少し安定しますが、ロボットスーツHALを使って歩行、リハビリテーション、治療を試みますと、このように非常に早い歩行を行うことができます。これは、まだ治験に持っていく準備研究のものです。このように姿勢も起き、歩行が早くなります。

 私たちは、小児に対しても付随研究として準備研究を行っております。歩行を獲得できない病気に対して、小児期にロボットスーツHAL小児用をアセント(賛意)に基づいていろいろな工夫をしながら装着してもらうと。それにより、これは準備研究の1つですが、小児用を着けることによって歩行が十分獲得ができなかったお子様の歩行が獲得できるのではないかという臨床研究を準備しております。

 このような研究は国際的にも非常に注目されており、NIHや英国のコモンウェルスなどでも一緒にできないかと考えております。これの写真はドイツです。

 まとめですが、日本の難病対策の施策に基づいて、希少難病に対する世界的な新規治療の開発研究成功の実績を恐らく示したと思います。医師主導治験制度及び希少性疾病用医療機器指定制度の下で、薬事戦略相談事業と難治性疾患実用化研究事業の存在が、今回極めて有用だったと思います。治験をするためには、実はCRCをとても養成する必要があります。そういったことが重要であり、それから実は治験ができる臨床研究者というのは非常に少ないので、その能力を高めていくための研究だけではなく、教育制度。治験調整医師をどうやって育成していくかという問題も重要です。

 今回、このHAL-HN01は、あらゆる随意運動機能回復治療に使えると考えているのですが、今後エビデンスを固めていくということで、難病領域における全ての歩行不安定者に対する主流の治療法になると今後考えております。

 今回は、NCY-3001試験は神経筋難病対象ということで、製造販売承認申請までいきました。現在、HAMなど痙性対麻痺症をやっております。将来、このHAMなど痙性対麻痺症は、抗CCR4抗体とHALとの複合療法も期待できると考えております。それから、国際共同治験やNIH主導治験についての準備として、国際交流も始めております。希少難病は、世界の人に共通の課題であり、その解決で他の医学領域も同時に進歩します。普遍的に、人と人は国境を超え、疾患を超え助け合えるという構造を作れます。国家としてもそういう関係を作れますし、もちろん経済活動も伴いますので、この領域はどんどん推進すべきだと考えております。以上です。

○福永副委員長 次に、日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長の稲垣治様からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

○稲垣参考人 製薬協医薬品評価委員会の稲垣です。本日は、このような企業側の考え方あるいは状況について説明する機会を頂戴し、ありがとうございます。

 企業側として、この難治性疾患治療薬に関しては、産官学の連携が非常に重要だと考えており、そのような考えについて御紹介させていただきたいと思います。最初に、私の所属しております日本製薬工業協会(製薬協)についてです。製薬協は、研究開発指向型の製薬企業72社の集まっている業界団体です。研究開発型の企業ですので、医薬品を創製することが我々の使命だと考えている企業の集まりです。しかしながら、先ほど中島先生の話のように、難病あるいは希少疾病治療薬だと、企業がなかなか手を出しづらい、開発に難色を示すというようなお話等もありました。若干、その辺りについて御紹介させていただきます。

 難病とは、厚生労働省の定義によればこのような4つの条件があります。その一方で、医薬品開発を検討する際の条件としては、まず有効性が期待できる被験薬、いわゆるシーズがあることが研究開発スタートの条件ですが、それとともに、単なる化合物を医薬品として認可していただくためには、臨床試験を行い、その有効性、安全性をデータとして提出し、薬事承認をいただくというプロセスが必要になります。この場合、臨床試験を実施する上では、治験の対象となる患者の診断基準があって、どのような患者を対象にして試験をすればよいか明確であること。そして、どのような指標を測定し効果を確認すればよいか、その考え方が明確であることが必要になります。

 先ほどの難病の定義に戻りますと、まず難病は発症の機構が明確ではないというところで、開発候補品の創製が難しい。あるいは、多くの場合、適切な動物モデルがないために、臨床に入る前にその有効性を確認する手段が難しい。そして、治療法が確立していないということは、逆に多くの場合治療効果を評価する指標、何をもって効いたと考えればよいか、どれぐらいの効果が出れば十分な治療効果とみなせるかが分からない。あるいは、施設間で評価方法がばらばらだったりすると、多くの施設で一緒になって治験をやることが難しい場合もあります。そして、希少な疾病ですと、症例が集まらず試験の実施が困難だったり、試験が長期化する懸念があります。更には、長期の進行性疾患ですと、病気の進行あるいは治療効果の発現が緩徐で、治療効果の確認、つまり対照群との差を出そうとすると、非常に長い時間がかかるかもしれません。このような場合、薬として承認をいただけるかどうかという成功確率がなかなかはっきり見極められず、この見通しの低さが、企業側にとってはこの種の領域で、薬の開発に踏み切ることをためらわせる原因の1つになっております。

 このように、医薬品開発の成功確率あるいは開発可否の見極めが明確になることが非常に重要だと思っております。その点からは疾病治療薬開発に関する不明点を減らすべく、疾病の科学的な洞察を深めていただくことが重要と、企業としては考えているところです。

 では、どのようにすればよいのかというところですが、先ほどの産官学の連携に加えて、患者との連携、患者さんの御協力を頂き、病気について研究を深め病気をよく知るということになるかと思います。ただその場合、企業は直接患者に接することはできません。そのため、まずアカデミアあるいは医療機関でデータを集めていただき、そして産学連携あるいはオープンイノベーション等の枠組みで、企業の中でシーズを作る、あるいはアカデミアで作ったシーズを企業でも評価する。更には、患者に治験に参加していただき、そしてその製販後の試験等で実際多くの症例でどのような効果があるかを確認する。このようなプロセスで、一体となって進めていくことが必要であると考えております。

 続いて産官学連携でどのような点を明らかにしていただくのが良いかという話になりますが、最近よく出てくる言葉で、Precision Medicineという言葉があります。精密医療というような言い方で訳されているようなのですが、私なりに勝手に表現しますと、これは「適切な患者」に「適切な医薬品」を「適切な時期、適切な期間」、「適切な量」を投与するためのデータがきちんと得られているということかと思っております。その意味で、適切な患者を選定するためには、疾患の解明、そしてどういう人が治療の対象となる患者かを明確にしていただけることは、重要なスタート点だと思っております。即ち、診断法が確立し、そしてそれが標準化され、どこの施設においても同じ病気の方が同じ病名で患者として診断していただけることです。そして適切な医薬品選択、これは企業努力も関わるところですが、適切な医薬品を選ぶためには、コンパニオン診断薬等も開発する必要があり、単純に治療薬のみを開発するだけではなく、その診断法も確立し薬を選ぶための診断薬も必要に応じて作り上だす努力が必要かと思います。

 そして、ここはアカデミアに強くお願いしたいところなのですが、薬を投与する時期あるいは投与期間を考える上では、先ほど鳥取の中島先生のところで、確か疾患の自然歴が重要であるというお話があったかと思うのですが、疾患の自然歴の明確化は正に我々企業としても強く希望しております。疾患の発症及び進行がどのようになっているか、これがはっきりしませんと、実は臨床試験を計画することができません。どれぐらいの期間、薬を投与すればいいか分からないとなると試験計画がイメージできず、試験計画が立案できないとなれば当該医薬品の開発に手を出せないという話にもなるわけです。それとともに、病状はどれぐらいの期間をかけてどのように進行していくか?との情報も必要です。例えば、進行抑制薬の場合は、症状改善は期待できないので、投与前から比べれば薬の効果があっても病状は進行するのですが、どの程度の進行であれば薬が効いていると見ることができるのか、少数例試している段階で手応えを感じられるためには、ナチュラルヒストリーに関するデータが重要であります。そして、適切な量を投与することに関しては、効果不十分な患者さんには増量したり、試験薬が全く効かない人には投薬を早く中止しなければいけないというような点で、薬効を評価するバイオマーカー等も必要になるかと思います。更に、長期予後との相関性のあるバイオマーカー、つまり、このまま投薬を続けていいのか判断するためのマーカーもあるとありがたいです。

 この産官学の連携、特にアカデミアの先生方と企業との連携が重要になります。そこでは、互いの強みをいかした連携が望ましいと考えております。強みといいますと、アカデミアの場合はやはり患者と直接接することができる、ヒト指向のアプローチが強みだと思います。製薬企業は、それに対しては医薬品あるいは化合物、モノとなります。この点は、例えばドラッグリポジショニングを例に考えますと、これは実際の難病治療薬開発で考えた場合、足の早い研究の一つかなと思いますが、アカデミアあるいは医療機関などですと、患者の組織を活用して研究できることが強みだろうと思っております。片や企業側は、豊富な化合物群、そして化合物に関するデータを持っております。これらをうまく組み合わせることによって、いい形の産学連携ができることを期待します。

 例えば先ほどの話の中で疾患発症に至るプロセスがよく分からないという話も確かあったかと思うのですが、細胞変性で細胞毒性が発現するプロセスは、きっかけとなる生理活性物質は違っても、最終的な毒性発現段階では結構似たようなメカニズムが働いている場合もあるのではないかと思っております。その意味では、ほかの領域で細胞毒性軽減で効いている薬が、別の病気でも同じように効く可能性は十分あるわけで、そのような薬剤のスクリーニングには標的となる疾病に即したスクリーニング法を作ることが重要となり、こういったところでも患者さんの組織と化合物群を組み合わせた連携が必要になるのかなと考えております。

 一応難病治療薬における産官学の役割ということで、私が勝手に考えておりますのは、まず患者とアカデミアで疾病への科学的洞察を深めるための研究が重要であり、産業側の役割としては、治療薬の実用化促進です。無論、産業側も疾病の科学的な洞察を深めるための研究に参画すべきところではありますが、患者の情報という非常に機微な部分に接することもあり、一義的にはアカデミアあるいは医療機関の先生方からの情報を頂く形が望ましいのではないかと思っております。

 そして、官としては、アカデミアの疾病の洞察を深める研究に対して継続的に助成をしていただけると有り難いと思っています。そういう意味では、本日末松先生がいらしておりますが、日本医療研究開発機構がどのような活動をしていただけるのかは、非常に期待しているところです。それとともに、可能性のあるシーズの承認を得る「実用化の促進」の部分では、治験を進めデータを出すところでの、疾病の実情に応じた規制の柔軟な運用をしていただけると助かります。そして、その柔軟な運用の考え方を、当局が早い段階でアナウンスしてくださることにより、企業としては難病治療薬の開発に足を踏み出しやすくなります。そのような支援も、官による産業側への支援の形としてありなのかなと思っております。

官による対アカデミアへの支援では、企業としての期待は繰り返しになりますがやはり疾病の情報を深めることです。その点では、患者のレジストリーを構築していただいて、疾病関連因子などを研究すること。そして、薬剤のプロットタイプを探索、設計し、できれば早い段階でPOC試験をやって、本当に効くかというような情報等も取っていただけると有り難いかなと思っております。それに対して、研究費という形で支援したり、あるいはデータセンター等の試験を実施するための環境整備も官による支援として非常に重要なものかと思っております。

 産業側の役割としては、難病の治療薬に関する研究活動は企業の中で行います。特に、モノの面での製剤の企画化やモノの合成などは、企業の強みとなっております。また併せて、製造販売後の調査等も我々の担当です。ただ、これを実際に開発に踏み出すためには、承認条件等について柔軟に運用していただくこと。そして、それを明確にしていただくこと。もう1つは、患者数によってはというところもありますが、製造販売後の調査に関する負荷の軽減も考慮いただけると有り難いのと思っております。

 最近医薬品の審査機関短縮のためのいろいろな制度が入ってきております。難病あるいは希少疾病の領域ですと、昔から「オーファン制度」がありますが、それとともにこの4月に試行的実施に関する通知が出ました先駆け審査指定制度に対しても、業界として非常に期待しているところです。この内容は、世界に先駆けて革新的な医薬品、医療機器、再生医療機器等を日本で早期に実用化するためのもので、指定制度の内容として、優先相談や事前評価の充実等で、審査期間を通常12か月を6か月という半分の期間で審査してくれるように努力するというようなことです。

 オーファン制度の場合ですと申し込む際の条件として、開発の可能性がありますが、あれは企業側からみると、結構難しい条件になっています。すなわち、本当に開発できると判断するには、臨床データが揃っていないと開発できるとは言い切れません。では、会社の方で臨床試験を進めてデータが揃ってからオーファン申請を出し、そのあとで当局と相談してその後の開発や審査の期間をどれだけ短縮できるか、その点は微妙です。それに対して先駆け審査指定制度ですと、患者数の制限もないので、革新的な医療品であれば早い段階から申し込んで、審査に通って当局に相談に乗っていただくことにより、開発にかかる不確実性を下げ、また審査期間を短縮することができるのではないかと期待しているところです。

 最後にまとめですが、官による支援では、やはり先ほどのナチュラルヒストリーのデータが欲しいというところで、多くの患者の症状をデータベース化していただけると有り難いです。今後、難病の患者登録が始まるときに、例えばできることならば、主要評価項目等についても、もしそのようなデータが取れるようになりますと、そのようなデータを参照させていただけると、我々としては開発計画を立案するときに非常に有用なデータとなります。また、疾患の領域等により、対照群の設定が難しいような医薬品の開発の場合、ナチュラルヒストリーを対象として試験の有効性を確認するという形で、開発期間を短縮することも可能かと思っております。このような形で、難病の治療薬開発で使えるデータが揃っていただけると有り難いかなと思います。

 そして、企業側としては、承認取得の負担についても配慮していただけると有り難いのかなと思います。通常、この種の領域の場合、前例調査が課せられるものなのですが、それはやりますが、ずっと続くときついので、それらについても御配慮いただけると有り難いです。もう1つは、特にウルトラオーファンの治療薬ですと、患者が非常に少ないにもかかわらず、新たに出てくる患者のために会社として薬を用意するのですが、患者が発生しなかった場合、それはそのまま廃棄というような形になります。弊社の場合はアステラスなのですが、最近は患者数1という薬の申請を行い、そのための薬を持っているのですが、新たに出なかった場合はそれをそのまま廃棄になるという形が本当にいいのかなというところも考えていくところではあります。業界側の意見について紹介する機会を頂戴し、ありがとうございました。

○福永副委員長 最後の参考人になりますが、国立研究開発法人日本医療開発医療研究開発機構理事長末松誠様からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

○末松参考人 本日は、難病対策委員会の皆様から機会を頂きまして、ありがとうございました。時間も押しているようですので、早速始めます。

 私どもの41日から始まりました新独法は、全ての私どもが管理させていただくプロジェクトで、LIFE3つの意味を具現化する研究を応援しようということで、これを共通テーマとして掲げております。LIFE3つの意味というのは、生命と生活と人生です。この目的の下に、医療研究開発の速度を最大化しようというのが、私どもの目的です。

 次に示しますのは、組織体制です。これは、健康医療戦略室のホームページ等で公開資料になっておりますので、詳細は省きます。これを見ますと、ちょうど組織の真ん中にあります戦略推進部に、国の大きなプロジェクト9つのうちの6つが入っております。それに加え、新しい研究フィールドを作っていく部門があり、トータル7つの課が戦略推進部にあります。戦略推進部の7つの課を縦糸組織と我々は考えており、その下の産学連携部以下を横糸組織と呼んでおります。

 戦略推進部の下には、いろいろな課があります。詳細は省きますが、私どもはAMEDの初年度の大目標として、この難病研究課とその他の横糸組織との連携を最も重視していきたいと考えております。ここにはいろいろな理由がありますが、これはもう先生方には釈迦に説法ですが、先ほども出てまいりましたような医療機器の開発で、既に症状が出てしまっている方をどうやってリハビリテーションしていくかという医療機器の問題は、産学連携部が扱っております。それから、希少難病の場合と後ほどお話しますUndiagnosed Diseases ProgramUDP)ですが、国際事業部はいわゆる国際交流、国際連携を活性化するという目的だけではなく、希少疾患に対して国際連携、情報共有を行うことが非常に重要であることは、論を待ちません。ここのネットワークをしっかりと作ることにより、日本の中で苦しんでおられる希少難病の方々が御自分たちと同じ患者さんが日本以外の所に、どこにいて、どういう治療を受けている、あるいはマネジメントをされているかといったことの情報共有を手助けしたいというのが、国際事業部の目標です。

 また、バイオバンクの膨大なデータを研究開発にいかしていく。あるいは、臨床研究としてのしっかりとしたレギュラトリーサイエンスのルールを守った難病研究を推進する。そして、創薬支援戦略部ですが、ここは今、オーファンドラッグの開発が非常に注目を浴びております。トータル横糸の部が5つありますが、難病研究課が今マネジメントしている課題は、ほぼ全ての横糸の部と連携が求められていくところです。

 今日御紹介するのは、NIHDr.William Gahl、あるいはDr.Manfred Boehmといった方々が、2008年からUndiagnosed Diseases Programということで、病気なのだけれども、どういう病気なのか、どの病院に行ってもよく分からないという未診断の患者さんに対してどういうプログラムを動かして、どういう成果が出てきたかを簡単にお話をいたします。

 これらの結果は、昨年12月の末にランセットあるいはネイチャーに既に報告されているものです。慶応大学のスタッフが直接伺って得た内容も、少し加えさせていただきます。NIHがプロジェクトをスタートしてから問合せのあった患者さんが、トータルで1万数千人おられました。これは、2008年からの累計です。これらの方々をしっかりとお一人お一人の診断をしていったところ、既存の病気のカテゴリーの亜型であったケースが相当数ありました。しかしながら、どの病気にも当たらない患者さんを絞り込んでいき、トータルで1,200名ほどの患者さんに対して、エクソーム解析を行っております。

最初に報告で出てきたことですが、これで見つかってきたUndiagnosed patient40%が小児、60%が大人の方であったことは、非常に注目すべきことだと思います。特定の医療機関に集中しない研究体制、それから国際連携による情報共有が非常に重要です。それから、国全体をカバーして、一般の臨床の先生方、かかりつけ医の先生方と緊密な連携をしていくことが、恐らく日本でこのようなプログラムを動かすときに、極めて重要であろうと考えます。

 また、さらに重要なことは、診断が非常に付きにくい方のエクソーム解析ですが、言うまでもなく、お子さんの場合には御両親のゲノム解析との比較が極めて重要です。こういった御家族の同意を頂くためには、やはりかかりつけ医、あるいは医師会の皆さんの協力が絶対に必要であると思います。

 こういったプログラムの中で、ケースレポートではありますが、顕著な成果を示す報告が上がってきております。もちろん、多くのものは診断が付いたけれども治療法がまだないケースがドミナントですが、その中にはここに示したように、例えば13か月のお子さんで、phenotype、出てくる症状は、クローン病という病気とほぼ同じ、全腸炎、大腸皮膚瘻といった症状、これを、エクソーム解析を行って調べていったところ、このXIAPという遺伝子に変異がありました。これは、造血幹細胞の分化、機能の維持に非常に重要な役割を果たす遺伝子だそうです。この方の場合には、造血幹細胞移植という現行の医療で対応できる方法で、移植後の42日で経口摂取が可能になり、全腸炎が完治しています。

 これは2例目ですが、いわゆるアミトロ、筋萎縮性側索硬化症という有名な病気がありますが、これが小児に出たケースです。これは精査の結果、リボフラビン、つまりビタミンB2受容体の遺伝子変異であったということです。この110か月の男の子は、いわゆるALSと同じですので、歩行が不能になり、呼吸不全、人工呼吸器の装着、それから嚥下もできないということで大変な状態だったのですが、経口のリボフラビン大量投与を行っただけで、10日間で抜管が可能になったり、あるいは4週間後に経口摂取が可能になり、体幹を支えられた歩行が可能になるというような、通常の医療の介入により顕著な効果が出てきたケースもあることが非常に重要なことだと思います。

 このNIHGahl博士のUDPの成功へのポイントを、最後にまとめます。このプログラムは、いわゆる研究のヒトゲノムのシークエンシングプロジェクトではないというポイントです。2つ目に、全てが表されていると思うのですが、Not sequencers but real physiciansと書いてあります。つまり、優秀な臨床医の、しかも違ったフィールドの先生方が協力してチームで対応する。そういう人たちが、Phenotyping is everythingと書いてありますが、時系列で患者の症状の出方をしっかりと診ていく。そこから、総合的に診断をしていくことが非常に重要です。

 現在、今年からNIHのプログラムのいわゆるイントラミューラルバジェットの中で、かなりのフラクションがこのUDPプログラムに投下されると聞いております。その理由は、エクソーム解析だけではなく、metabolomicsglycomicsといった生体システムの中の末梢に当たる部分の情報を集めて、これをエクソームのデータと比較することにより、一発で診断が付くケースもこれから期待ができるだろうと考えています。日本の強みをいかしたプロジェクトの運営として、やはり研究を研究で終わらせない、事業化を見据えて、equal opportunityの医療として少しでも患者さんに還元のできる研究プログラムにしていく必要があるだろうと考えています。

 最後に、このプログラムがもしできるということになれば、かかりつけ医あるいは開業医の先生方の協力が絶対必要不可欠であるということで、私のお話を結ばせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

○福永副委員長 それでは、事務局から資料が提出されていますが、何かありますか。

○前田疾病対策課長補佐 事務局です。本日、事務局から御用意しましたのは、資料1-1と資料1-2です。簡単に資料の御紹介をいたします。資料1-1の「基本方針の検討の進め方」の(4)難病に関する調査・研究に関する事項、(5)の難病に係る医療のためのの医薬品及び医療機器に関する研究開発の推進に関する事項の部分について、御議論、御意見を賜りたいと考えています。それに付随する資料として2ページから、現在、疾病対策課でやっております研究事業について、まとめたものを用意しております。

6ページからは実際に医療機器、医薬品について、審査の過程で、どういった形でオーファンドラッグ等について支援を行っているかを御紹介しておりますので、その辺の議論で行政の支援ということで話題が及びましたら、こちらの資料を御参考にしていただければと思っております。

 資料1-2は、本日は国立研究開発法人医薬基盤健康栄養研究所の楠開発振興課長にお越しいただいておりまして、現在、希少性疾病等に関する医薬品等に関して、こちらで支援を行っているということで、実務的な支援の中身でしたら、こちらの資料を御参考にしていただければと思います。事務局からは以上です。

○福永副委員長 それでは、本日のヒアリングを踏まえて、基本方針の検討に関して、委員の先生方から御質問を含めて、御発言、御意見を賜りたいと思います。限られた時間ですので、5人の参考人の先生方で、どなたでも結構ですので、御質問とコメントをお願いします。

○伊藤委員 大変素晴らしいお話を伺わせていただきまして、本当にありがとうございました。患者の団体としても大変希望の持てるお話だったと思います。今後の難病対策を進める上で1点だけ質問したいと思います。

 中島健二先生のお話などには、軽症患者をどう登録するかというお話もありましたが、今の難病の制度ですと、医療費に軸が置かれていて、そこにあたった疾患については重症度基準を設けて、医療費の助成で軽症患者を外しているわけです。このように研究を進めるという段階になりましたら、重症度基準を設けて、軽症患者を外していくといった対応について、今後の研究についてはどうお考えなのか、一言ずつお伺いできればと思います。

○福永副委員長 中島委員からお願いします。

○中島()参考人 御指摘のように、軽症の方の登録は非常に大事で、特に治療を考えた場合、軽症の方からも取り組んでいかなければいけないというのは、御指摘のとおりだと思います。その反面、私の話の中でも申し上げましたが、軽症の場合には若干診断が難しくなる場合もあるかと思います。そういう意味で適切な診断ができるようなバイオマーカーの開発等も求められているところだろうと思います。軽症の方の登録の重要性と、軽症の場合には必ずしも診断が容易ではない場合がある点の両者を考えながら、検討を進めていく必要があると思っております。

○福永副委員長 ほかの参考人はいかがですか。よろしいですか。

○小崎参考人 中島健二先生と同感でして、軽症の患者の症状は非常に疾患の幅と申しますか、スペクトラムを決める上で重要なことだと思っています。一方で軽症であることが典型例から外れることとなる可能性もあり、診断が難しくなるだろうと考えております。

○中島()参考人 私は、難病領域は障害の重症度だけで対応できないことが、一番重要なポイントだと思います。ですから、重症だから対応するのではなくて、難病としての重要度があるから対応するのだと。そのときの1つの要素が、明らかに今話されていることであって、早期、発症前、例えば遺伝性難病の場合は、発症前から非常に重要な治療を開始して、発症しなくするとか、早期のうちから治療することが必要になると思います。ですから、そういうものを明確にしつつ、重症度だけではなく、そういうものに対しても十分治療していくことは、当然必要で、現実にライソゾーム病など重症度によらず、やっているとは思っていますが、ここについても十分な研究が今後必要かと思います。

○稲垣参考人 薬を作る上からの観点ということから一般論になりますが、軽症のデータというのは非常に重要で、特に薬でも進行抑制薬の場合は、できれば早い段階から投与したほうがいいという話になるわけです。その辺りは治療助成の問題と、治療開始時期の問題は別の話があるのかなとも思っています。

 ただ、先ほどから先生方のお話にもありますように、軽症の場合には診断のの難しさが結構大きな課題になります。難治性疾患の薬ですと、副作用のリスクがあるものも出てくるかとは思っており、発症早期で病気の症状がそれほど深刻でない段階で、医薬品を投与し治療を開始するのが適切な患者であるということをどのように確認するのか。そのための手法が必要になるのかと考えているところです。

○末松参考人 先ほどお話しましたUDPプログラムの例を見るまでもなく、phenotypeの綿密な解析が重要ですが、genotypeからも解析し、トンネルを両方から掘っていくことによって、軽症・早期のうちに非常に的確に診断することが可能な世の中になってきたということだけを指摘させていただきたいと思います。

○福永副委員長 伊藤委員、よろしいでしょうか。ほかにはいかがですか。

○葛原委員 今のことに関係して、私は提言のときから繰り返し申し上げているのですが、医療費の補助ということで言うと、ある程度の重症度からの登録となるのはやむを得ないと思います。

 しかし、研究とか早期治療ということから言うと、軽症例あるいは発症前からの登録が不可欠です。例えば遺伝性の難病ですと、発症前に診断がつくのもあるわけですから、それを今後どういうレジストリーを作っていくかというのは、今度は研究的な課題ということで大事だと思います。ですから、難病法案で障害が強い方に関する医療費の補助の点は解決していますが、今後の課題は診断基準、バイオマーカー、治療法からどう研究を進めるか、そのために必要な疾患登録制度をどう構築するか、だろうと思います。

 もう1つは、先ほど稲垣さんがナチュラルヒストリーのことを言われましたが、そのためには是非、今後の登録制度は匿名化してあっても連結可能で、縦断的に個人の病気の経過と転帰が分かるようなものにすることが必要です。現在の難病法案に従ったものでは、毎年、全体の患者数は分かっても、個人がどう変わって行くかは分からないし、登録されなくなった場合は、良くなったのか、亡くなったのか、それとも別の医療費をもらっているので外れてしまったのかは分からない制度になっています。できる限り今の制度の中でも連結可能な仕組みを組み入れていくことは必要なことではないかと思っています。以上です。

○福永副委員長 大澤委員、今のことに関してでしょうか。

○大澤委員 いいえ、違うことです。

○福永副委員長 そうしたら、ちょっと待ってください。事務局から軽症例に関しての今後の課題というか、どう考えているか、御意見があったらお願いします。

○前田疾病対策課長補佐 事務局です。もちろん基本方針を定める中で御意見を頂いていますし、来年に向けて、正にネットワーク、登録システムをどうやって作っていくかというところで重要な御指摘だと思いますので、最終的な取りまとめは夏ですが、それを待たず、こういう御意見も踏まえて、それが可能な限り実現できるシステムづくりを念頭に置いて進めていきたいと思っています。

○大澤委員 2つ質問があります。1つは、難病の研究に当たって、検体を一定の場所に保存して続けていくということがあるかと思いますが、実際に研究をしておられる方、担当者の退職や移転といった状況があったときに、それらの検体の保存体制をどう保証するのかということが、1つ大きな問題でないかということです。

 もう一点は薬のことです。実は私のフィールドでの経験では、小児の交互性片麻痺という非常に難治な、希な病気の患者に対して、適応外使用で使われ、医師も患者保護者も皆が効果を実感していたフルナリジンという薬があるのですが、それが保険のシステムの薬の見直しがあったときに、製薬企業が採算に合わないので、その薬をもう作らないということで、申請をしなかった。それによってその薬剤は日本からなくなり、患者は今、個人輸入をして使っている状況になっている薬剤があります。

 今回こういうシステムでいろいろな薬剤を探して開発をしていったときに、その薬剤が継続的に使える状況をどのように担保していくかというのが、1つ大きな問題ではないかと思いました。

○福永副委員長 今の委員の2点ですが、参考人から御意見はありますか。

○末松参考人 今の大澤委員の最初の御質問についてコメントさせていただきたいと思います。現在はまだ検討中ですが、国内でいわゆる基礎としてのゲノムの研究をやっている所がそのまま解析のインターフェースとして動くかどうかに関しては、幾つか課題があると思います。

 御存じのように、ISO基準やCLIA(Clinical Laboratory improvement Amendment)というのがありまして、要するにグローバルスタンダードで試料や情報がきちんと管理できる体制があること。その他、いろいろな条件があって、そういったものをしっかりと満たすような仕組みが基本的には産業界の力を借りることが極めて重要である。したがって、大学とか、国立の機関が、例えばそういう企業の力を頂いて、集約的な解析センターを構築するという考え方があります。

 イギリスの例を見ますと、1か所にゲノム解析センターを集めて、サンプルはそこで、この場合にはイルミナ社がサポートしているようですが、そういった形で集中管理は1か所でいいのか。日本の場合だと、地理的なことも含めいろいろなことを考えて数箇所に指定するのか。その辺はまだこれから検討を要しますが、集中管理を行って、臨床検査としての基準を満たすようなものを初めから求めていかないと、研究がいつまでたっても研究のまま空回りしていく可能性を私は危惧しています。

 そういった体制を大学と産業界が連携して作っていくことが急務ですし、イギリスの場合はそれを2006年からスタートさせて、ようやくこれが軌道に乗りつつあります。二次医療圏のハブの役割を果す病院で、サンプルを集めて、連結可能匿名化のプロセスを行って、匿名化された状態で、集中してセンターで解析をするという仕組みで、今イギリスは動いているという状況だそうです。是非、日本も立ち遅れないように、そういったゲノム医療の体制を作って、難病の方たちに少しでもR&Dの成果を出していくことが重要ではないかと考えています。

○福永副委員長 2点目の薬の継続的な使用は、稲垣参考人、いかがでしょうか。

○稲垣参考人 御指摘のような点は確かにあるということで、非常に申し訳なく思っております。実は希少疾患に対する治療薬開発について企業が手を出すときに、ためらう理由の1つは製販後の供給義務を持つということで、企業として将来的なリスクについて十分吟味せざるを得ないわけです。当然ながら採算性については、薬価価格でペイできるような形をお願いしたいのですが、それとともに本当に患者数が少ない疾患だけど必要な医薬品を、特定の企業だけがその供給の負担を負い続けるという形が本当にいいのかどうか。何らかの代わる仕組みはできないのかということも、できれば御検討をお願いしたいところではあります。

○福永副委員長 ほかにいかがですか。

○千葉委員 別のことです。申し訳ないのですが、早めに退席させていただきますので、意見を述べさせていただきます。資料1-12ページですが、今日は末松先生も来ておられますし、厚労省ということで、2つの大きな組織の方が一堂に会しておられますので、私の意見を述べさせていただきたいと思います。

 私は実は5年前まで10年以上にわたって、各難治性疾患の研究班を評価する班に属しておりまして、あとの5年間はその班長をずっと続けてきた経緯があります。そういう立場からも意見を述べさせていただきます。

 昔は御承知のように、2ページの左と右の緑と赤はみんな一緒に1つの班としてやっていた経緯があります。それがこういった流れになっていき、左のガイドライン等々の班と、右の実用化班に分かれるようになってきたというのは、目的意識が非常にはっきりしてきたということで、私はオーバーオールとしては、とてもいいと思います。昔は私たちも批評していたのですが、何のためにやっているのかといった意見が非常に多く聞かれました。

 流れとしては非常にいいと思います。懸念しますのは、先生方、皆さんおっしゃっておられますが、左と右といかにコミュニケーションを付けて、統合してやっていくのかというのは、こうなりますと、今後の非常に大きな課題だと思います。ですから、そこをAMEDと厚労省が言わずもがなで、皆さん言われていることだと思いますが、しっかりとコミュニケーションを付けてやっていただくというのは、極めて重要だろうということが1つです。

 それから、研究者の立場からすると、左と右とというところについて、例えばガイドラインとかは一方で非常に重要ですが、そればかりをやっていたのではインセンティブがないし、研究というのは機序を解明しようとか、そういう意欲と患者に対して、しっかりした診断基準を作っていきましょうという気持ちが、研究者にとっては一体化しているのです。それを分けることはできないわけで、そこを極端に行きますと、あなたはこちらだけやりなさい、あなたはこちらだけやりなさいということでは済まされないと思います。

 したがって、特に左のほうには、ある程度の自由度が必要です。ですから、こういった薬を開発しましょうというところに持っていくときには、メーカーもそうでしょうが、100ほどシーズがあって、1個取り上げていくという流れが重要で、そういう意味で右に持っていくためのシーズは、例えばどこでするかは問題ですが、左の緑の部分でも、そういう意味での研究、そういう自由度といったものは、ある程度持たせてあげるというか、持たせるべきだと考えます。

 その中で、例えば研究費の使用でも、私は実は左の班の1つの班長をしているのですが、こういうことには使ってはいけませんとか、そういうことをかなり強く言われるようになってきています。これは多少危惧があって、研究者に対する自由度をある程度持たせないと、左から右に持っていくというか、シーズの開発というところで非常に問題が起こると思いますので、そこについての配慮は是非お願いしたい。コミュニケーションをしっかり付けていただくことと、ある程度の自由度というか、そういったことを設けていただきたいというか、それを強くお願いしたいと思います。これはコメントと言いますか、お願いです。

○福永副委員長 そうしたら、参考人の方、今の千葉委員の御意見に対していかがですか。

○末松参考人 千葉委員から御指摘のあったところは、言うまでもなく、大変重要なところだと思っております。このポンチ絵の右と左、例えば難病の研究の左側、右側は文科省、厚労省みたいな形になっているわけですが、ほかにも再生医療のiPS創薬というプロジェクトが全く別の所にあって、それが難病のところでどう連携するかという問題は、先ほどのマトリックス構造の中の交差点でいろいろなコンフリクトが起きるのです。

AMEDの移行期は厚労省と文科省のそれぞれのものがモザイクで合体したプロジェクトになっています。それを交わらせるのが大変な理由はたくさんありますが、1つの理由は、予算の管理が今までは別々に区分けされていました。我々の研究費は補助金ですので、混合使用の問題が出てくるとか、いろいろな不自由があります。そういったところもこれから具体的なことをお話する機会が増えると思いますが、非常に柔軟な仕組みに最初の1年で大きく変えて、来年の契約更新の時期には、今までのような厚労省、文科省のそれぞれの役割分担がありますが、AMEDとして、このようにやっていきたいというものが両方の端境に入るような提案書に全て変えていきたいと私どもは考えております。

 そういったところで研究費の使い方だけではなく、今、先生から御指摘のあった研究者のマインドセットを大事にすることが基本的にはR&Dのファーストトラックにつながりますので、是非、肝に銘じてやっていきたいと考えています。よろしくお願いいたします。○山本委員 専門の先生方がいらっしゃいますし、先ほどからの議論で、これから我が国の各疾患のレジストリーが始まるわけです。その中で診断基準、重症度分類を作られる方々もここにいらっしゃるので、こういう状況の中でどのように我々が一番良い方向を模索するかを考えなければいけないと思います。

 先ほどの末松先生の非常に貴重な超希少難病については話は別としても、この難病の中には、数千から数万人の患者さんがいらっしゃるような疾患がかなりあるわけです。そういう意味での重要性もあるわけです。それと患者さんの医療支援が一緒に入ってしまっているので、それ自体は非常に重要ですが、診断基準、重症度分類と非常にリンクして、国際的なスタンダードではない方々のレジストリーになってしまう可能性が危惧されるわけです。それをなるべく我々も避けなければいけないと思いますが、そのときにどのような努力をこれからしていくべきで、どのようなチェックをしていくべきでというところについて、少し御意見を頂けたらと思います。

○福永副委員長 いかがですか。この問題は、この難病対策委員会でもずっと議論になっていたことですが、結局福祉的な部分と、医学的あるいは科学的な部分を重視するかということで議論がずっと続いていましたが、参考人の方から何か御意見がありましたら頂戴したいのですが。

○中島()参考人 政策研究班を担当しております立場で申し上げます。確かに今の御指適は非常に大事な点だと思っております。重症度あるいは進行度に用いる評価法について、国際評価法と現在の登録に使う重症度分類は若干違うところがあります。それは臨床調査個人票を書く医師と、研究を目的として臨床収集をしたり集めたい臨床情報を記載してほしい医師とに少し違うところがあって、登録における、あるいは臨床調査個人票を書く場合の簡便性と、研究に使う国際基準に合わせた重症度や進行度判定の複雑さ、煩雑さとの乖離がどうしてもあるということが、大きな問題点でもあろうかと思います。国際的な議論に用いたり、国際的な報告をするためには、やはり国際基準に準じなければいけないということがありますので、非常に大事な御指摘だろうと思います。

○福永副委員長 ほかにいかがですか。

○中島()参考人 難病研究は日本で始まったわけですが、ドメスティックなものではなくて、真に人類に対した科学研究、医学研究ということであれば、普遍的な科学ですから、まず難病の研究者は常にそう思って、全ての診断基準なり、普遍性を持ったものとして作る。難病対策は日本発ですが、それは日本が標準化をすることで、世界的なものになるわけですから、そうすべきだと思います。

 一番の軸は全部についてやるのは大変ですから、いいシーズが出た、いい治療薬が出た、いい治療機器が出来たときに、いい発見が出たわけです。それの領域を全部日本発のもので世界標準にしていくことを目指すという戦略をとる。そのためには常にインターナショナルにコミュニケーションが取れる研究者を育てなければいけないし、国際共同研究などのタイミングをもって予算も配置しなければいけないしということです。それで日本が標準化を取れる所を取っていく。日本の難病政策はドメスティックだったが、真にインターナショルにすればいいと私は常に言っています。

○福永副委員長 ほかにいかがですか。いつも葛原委員がこの件に関しては発言されていましたが、いかがですか。

○葛原委員 私は前から言っているように、福祉のことを考えたら診断基準は非常に甘くなる。これは現場ではやむを得ない面があります。ですが、先ほどおっしゃったようなサイエンティフィックなことを考えたら、疫学データとして全く通用しないデータを収集しているという矛盾が起こっているわけです。これを避けるためには、基本的には医療助成金を出すシステムと研究データを集めるシステムを分けることが必要です。特に千葉委員が言われたような、政策研究事業などでそういう研究課題をきちんと取り上げるということです。少し言い過ぎかもしれませんが、誰が見ても難病の診断書の中身は福祉面を重視して相当甘い評価になっているという点はあろうかと思います。これは実際の現場の人はみんな感じていると思います。ちゃんと国際基準に合うような形の登録を一緒にどう進めるかというのは、福祉から多少離れた医学的、科学的な見地からはそういう仕組みを作ることは、国際協力からも新薬開発のためにも是非とも大事なことだろうと思います。

○福永副委員長 今回の新しい難病法の下では是非それを改善していきたいという意図があったと思っています。

○伊藤委員 先生方の様々な御懸念は十分患者として分かりますが、ただ恣意的に似たような疾患あるいは全然違う疾患をその中に入れるという場合については、いろいろ問題ありかと思います。実際にクリアカットにこういう病気はこうなのだ、この診断が正しいのだということであれば、もう研究は要らなくなってくる可能性があるわけですから、そうではなくて、多少曖昧な部分があったり、似たような部分があれば、そこはどう違うのだという研究をするのが研究ではないかと患者は単純に思っているわけです。そういう点でも入口で栓をするのではなくて、その過程の中で、出口の所でどう分かれていくか、どのように分類されていくのか、判断されるのかということが、私は大事なのではないかと思います。

 先ほど質問したかったのはそうではなくて、例えば資料1-12ページなどで「情報提供連携」と書いてありますが、これは誰が、どこが橋渡しをするのか。それぞれの研究者あるいは研究班が自主的にやりなさいという話なのか、しっかりした仕組みを持った所が、この情報提供や連携の橋渡しをしていくということも考えておられるのかということを厚労省にお聞きしたかったのです。以上です。

○福永副委員長 どうでしょうか。

○前田疾病対策課長補佐 実情だけ簡単に御案内いたしますと、情報提供連携ということで言えば、それぞれ研究計画を作っていただくときに、そういう班がある場合には、連携して、特に患者の集積とか、患者の募集などでは、情報をやり取りしながらやっていきなさいという形にしております。計画書にそういう形で計画を書いてくださいとお願いしておりますので、それに伴って実務としても動いておられると考えています。

○葛原委員 中島参考人と稲垣参考人にお聞きします。難病に関しては、先ほど中島参考人がおっしゃったHALのような医療機器や新薬が、具体的に臨床治験という形でものになりそうで、PMDAなどで認められそうなものが幾つか出来上がりつつあります。これは非常にいいことだと思いますが、それが出来上がったあとに、例えばどこかが引き受けて製品としてずっときちんとした医薬品、医療機器として継続して出すためには引受企業が必要です。しかし、現実には会社が付いている所と、付いていない所があるわけです。

 もう1つは莫大な公費を投じたこういう研究で、首尾よく製品化できた場合に、そこから上がってくる利益などは今後どうするかという問題が出てくると思います。それに関してはどういうことが望ましい、こうあるべきだということがあれば、御意見を伺いたいのです。

○中島()参考人 まず治験自体は医師主導でできるのですが、実際の医薬品、医療機器が関係する部分は企業が必要なのです。つまり、大学の研究室で作った薬を投与したり大学で製造した機器を使うことはできない。企業が介在しない限りは無理なわけです。なぜなら、それは今の法律では、製造販売承認申請すなわち薬事申請は、治験責任医師、治験調整医師が治験をしたとしても、医師である私は薬事申請できないからです。それは、責任を持ってプロダクト・ライアビリティ(Product Liability:PL)製造物責任を取るためには、企業が必要だからで、それには工場がちゃんと認定されていなくてはいけないし、そういう所で製造されたものしか患者は救済されないし、製造物責任保険は下りないからです。ですから、明確にそういう構造を作っていく。だから、企業を支援しないと、決して人類にとって必要な薬や医療機器は出てこない。企業も人類のメンバーであることは間違いありません。それは社会学的にどのように企業と人間を捉えるかという価値観によっても多少変わると思いますが、難病をやるからには、企業は最初からプロフィットが少ない中で、責任を持ってするためには税制的な、又は優遇的なことで国は支援しなければいけません。将来、巨大なマーケットの可能性がある医薬品や医療機器が難病から入った場合は、コモンなマーケットに出た段階で切り換え、それでプロフィットを回収する。これだけ投資してきたのだからということで。一方で、難病指定の薬や機器であり続ける限りは継続的に使用する必要性がでますから、国は人類のために支援し続ける。その対象患者が非常に少ないポピュレーションであれば世界をマーケットにする。その企業が世界を相手にすれば、多分つり合う収支になるだろうと思います。ということを私は考えておりますが、精緻に制度化するにはいろいろな専門家が協力する必要があります。

○福永副委員長 稲垣参考人いかがですか。

○稲垣参考人 中島参考人がおっしゃったとおり、今の制度の中では、医薬品の申請は企業でなければ行えません。製造販売の責任を持つ者が申請を行うことになっています。そのために最後は企業が関わることが必要で、先生方が研究を進められたものを最終的にどこの企業が申請を引き受けるか。ここは過去にもいろいろなケースがあって、その都度、何かしら検討はされてきたことだろうとは思っております。

 ただ、昔はどちらかというと、いわゆるブロックバスター狙いの企業が多かったのに対して、現在はアンメット・メディカルニーズ狙いになっており、患者数の少ない疾患でも確実に製品になるものであれば、まずはそれを製品として出していこうという企業は増えていますので、昔よりは状況は変わってきたと認識しています。ただそうは言っても、やはり明らかに赤字になるものについては、我々としても株主に対する説明責任はありますので、そこについては何らかの支援が要るのかと思っております。

 もう1つは、中島参考人がおっしゃったように、アンメット・メディカルニーズの領域では製品をグローバルに海外まで展開してやっと投資を回収できる場合もあります。そういう疾患では先ほど話があった患者のレジストリーがグローバルにも同じようなものであって、国内で得られたデータが海外でも使えるような形で試験を実施することが重要となります。そのためには診断基準あるいは評価基準も統一されたものができていると、企業としても単純にこれがドメスティックな市場だけではなく、ほかの国へ展開してそれで採算にあうかどうか算盤をはじくことができますので、そのほうが企業としては受入れやすい形になるかと考えられます。そういう点からも、アカデミアの先生にとって目の前の患者は重要ですが、世界の患者を対象にした薬という観点で研究も進めていただけると有り難いのかなということで、そこは中島参考人と全く同じことですが、強く思うところです。

○福永副委員長 あと5分ほどなのですが、ほかに何か御意見はありますか。

○五十嵐委員 少し違った観点から研究を遂行する体制についてお願いというか、考えていただきたいと思います。我が国の大学の基礎講座あるいは研究所にはPhDの方はたくさん働いていると思います。しかしながら、大学に限って言いますと、大学の臨床医学講座の中にPhDの方のポジションはないのです。私がかねがね思っているのは、臨床をやっていく、患者を診ていくという点では医者はもちろん必要ですが、それをより広い生物学とか社会医学という観点から見たときに、例えばラボワークするPhDの方とか、臨床同系の専門家たちも、臨床医学の講座にポジションがもらえるような体制にしないと、特に内科系は割と企業が大学の臨床講座に派遣して、朝から一生懸命研究しています。その他の、特に小児系、今回は難病の中に希少疾患がたくさん入ってくるわけですが、そういう疾患を診ている講座は、ほとんど臨床に一生懸命です。

 先ほど中島参考人が、医者がなかなか研究のほうに関与できないという話もありましたが、体制としてそういうものがあれば、もっと難病研究は進むのではないかとかねがね考えております。これは簡単には行かないことですが、10年か20年後の将来にそうなるかどうか分かりませんが、1つの目標としてそういうこともちょっと考えていただきたいと思います。

○福永副委員長 正にそのとおりだと思います。

○末松参考人 今の御質問に対する完全な処方箋ではありませんが、全く御指摘のとおりだと私も理解しております。この問題は難病の研究者だけではなくて、例えば感染症や、いろいろなフィールドで大変問題になっています。多くの国立病院は通則法等で定員が非常に厳しく制限されています。それから、大学も人材育成のための資金確保が非常に厳しくなっています。

 そのような中で、先ほど葛原先生からも御指摘がありましたが、企業サイドの方もいらっしゃるので申し上げにくいのですが、もし大きな良い製品が出て、利益がしっかり出てきた場合に、健康医療戦略室のAMEDの中長期計画の中にも民間の資金を活用するということがきちんとうたわれていて、そういった民間の資金を今までのような、例えば奨学寄付といった形ではなく、我々のファンディングエージェンシーがそういうものを取りまとめて、公募等でリサーチレジテントを雇用して、その方々を派遣する、あるいは一部を基金化して大学でそれを使っていただくとか、そういう仕組みを作るべきだと考えております。

 国立感染研はポスドクが雇用できません。人材育成で非常に大きな問題があったのですが、そこにAMED41日からこういった悩みに答えるためにリサーチレジデントを雇用する仕組みを作らせていただきました。ここが一番厳しいところなのです。そういった所に人をAMEDの所属で派遣して、そこで修練を積んでいただくという仕組みが厚労省の御理解もあって、ちょうど始まったところです。こういった仕組みをこれからどんどん考えていきたいと思っておりますので、是非、よろしくお願いします。

○福永副委員長 ありがとうございました。ちょうど予定されていた時間ですので、一応これで終わりたいと思います。今日は基本方針の45の項目について、かなり深く意見が出されたと思っております。今後の予定については事務局から御説明をお願いします。

○前田疾病対策課長補佐 委員の皆様方、ありがとうございました。次回の難病対策委員会では、引き続き基本方針の検討について、御議論いただく予定ですが、御議論いただく分野、日程等については追って御連絡をさせていただきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。以上です。

○福永副委員長 今日は参考人の方々、ありがとうございました。これで本日の難病対策委員会を閉会としたいと思います。御出席の皆様どうもありがとうございました。


(了)

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