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2015年2月10日 第5回 今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会

雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課

○日時

平成27年2月10日(火)15:00~17:00


○場所

厚生労働省 専用第23会議室(6階)


○出席者

委員

佐藤座長、池田委員、石山委員、神吉委員、武石委員、田代委員、中井委員、両角委員

厚生労働省

安藤局長、木下大臣官房審議官、蒔苗職業家庭両立課長、飯野職業家庭両立課育児・介護休業推進室長、中井職業家庭両立課長補佐、川島老健局振興課長補佐

○議題

1 有識者等からのヒアリング
(1) 諸外国における男性の育児休業取得について (甲南大学 中里英樹教授)
(2) 新しい介護実態に対応する仕事と介護の両立支援策の検討 
  ~「男性介護者」の視点から~  (立命館大学 津止正敏教授) 

2 平成25年度仕事と介護の両立支援事業 「介護離職を予防するための職場環境モデル」について

3 その他

○配布資料

資料1-1 国際比較から見る日本の育児休業制度の特徴と課題 --ノルウェー・スウェーデン・ドイツ・ポルトガル--(中里教授資料)
資料1-2  (表) 2014 年4 月段階での各国の出産・育児関連休業制度(中里教授資料)
資料1-3 (図) 2014 年4 月現在の各国の制度に基づいて以下の条件を満たす休業取得パターンをモデル化したもの (中里教授資料)
資料2 新しい介護実態に対応する仕事と介護の両立支援策の検討~「男性介護者」の視点から~ (津止教授資料)
資料3 仕事と介護の両立モデル(介護離職を予防するための職場環境モデル)(事務局資料)
参考資料1 前回委員からご質問のあった事項

○議事

○佐藤座長 ただいまから「第 5 回今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」を開催いたします。本日は、議事次第にありますように研究会メンバー外からお 2 人の有識者をお招きしてヒアリングすることを予定しております。まず、甲南大学の中里教授より「諸外国における男性の育児休業取得」についてお話いただき、続きまして立命館の津止教授から「男性の介議支援」についてお話いただく予定です。それぞれ御発表いただいた後、 10 分程度質疑応答の時間を設け、最後に再度、全体について御議論いただくという進め方です。

 もし議論の後、時間に余裕があれば、議題 2 の平成 25 年度仕事と介護の両立支援事業「介護離職を予防するための職場環境モデル」について御説明いただくことを予定しております。ただし、ヒアリングや質疑の時間が延びて、その時間が取れない場合は明後日の 12 日にも研究会を予定しておりますので、そのときに御説明していただきます。また、お手元にいつものようにこれまでの研究会の資料がファイルされておりますので適宜、御参照ください。

 議題 1 に入る前に前回の研究会で皆様からいろいろ御質問を頂いておりますので、その中で今日、御説明いただける部分について先に説明いただければと思います。よろしくお願いします。

○中井職業家庭両立課長補佐 まず、お手元に参考資料 1 ということで一番最後に付けている資料を御用意ください。前回、委員の方から御質問、御指摘があった事項について説明いたします。

1 枚目の「介護保険制度の仕組み」です。前回、介護保険の第 2 号被保険者、つまり 40 64 歳までの方のうち要介護認定を受けていらっしゃる人は、どれぐらいいるのかという御質問を佐藤座長からいただきました。これについて、一番下の箱を御覧ください。右側の第 2 号被保険者の数が 4,275 万人です。そのうち要介護認定又は要支援認定の数が、 15 万人となっております。割合は 0.4 %です。ちなみに左側の第 1 号被保険者の所で申しますと、被保険者数の 3,094 万人のうち要介護認定又は要支援認定を受けていらっしゃる方は、 546 万人で約 18 %です。

 次に、「介護休業給付金の支給の仕組み」です。介護休業給付は 1 日からでも支給されるのかというお尋ねが武石委員からありました。前回の研究会の中でも蒔苗課長から、 1 日から出るというお答えは既にしておりますが、それを含めまして、再度、介護休業給付金の支給の仕組みについて説明いたします。☆の 1 つ目です。こちらに「介護休業期問」となっておりますが、これは誤植です。介護休業給付金は介護休業期間を介護休業開始日から起算した 1 か月ごとの期間に区切り、それぞれの期間ごとに支給額を計算して、それらの合計額を一括して 1 回で支給することになっております。つまり 3 か月間介護休業すれば、 3 か月分をまとめて支給するという仕組みです。

 ☆の 3 つ目です。この際、 1 つの支給単位期間のうちに、就業していると認められる日が 10 日以下でなければ、その支給単位期間については支給対象とならないとなっております。そして、介護休業終了日の属する 1 か月未満の支給単位期間、つまり、例えば 2 か月と 15 日介護休業した場合の 15 日分については就業していると認められる日が 10 日以下であるとともに、全日休業している日が 1 日以上あることが必要です。この資料上にはありませんが、前回お答えしましたとおり支給単位期間が 1 日のみの場合、つまり休業を 1 日だけ取った場合についても介護休業給付が支給されます。

3 ページです。前回の御議論の中で池田委員から、介護休暇を取る場合には育児介護休業法の不利益取扱の禁止が適用されますが、年金はそうではないという御指摘がありました。年金に関しては育児介護休業法の不利益取扱の禁止は適用されません。一方で、労働基準法の付則の第 136 条におきまして、使用者は有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額、その他、不利益の取扱いをしないようにしなければならないという規定もあります。労働基準法上に不利益取扱の禁止の規定が置かれておりますので、ご紹介いたしました。事務局からは以上です。

○佐藤座長 事務局から、前回の委員の皆様からの御質問について資料で説明いただきました。更にもう少しこの辺を説明してほしい、分からないということがあれば伺いますが、いかがですか。参考資料 1 で、特定疾患については、 40 歳~ 64 歳も介護保険の認定を受けてサービスを受けられますが、この人たちは介護保険証がないので、石山委員、そのときに請求するのですか。

○石山委員 必要になったときに申請を。

○佐藤座長 必要になったときに手元に保険証がないから、申請して請求するということをやるのですね。多分、自分の手元にないので、病院等に言われて気付いて請求することになると思います。よろしいですか。

 それでは、こういうものも踏まえながら、これから議論していきたいと思います。本日の議題 1 で有識者の先生方からのヒアリングということで、まず、最初に中里教授にお願いしたいと思いますが、 30 分ぐらいプレゼンをお願いして議論をするということですので、その中でお願いできればと思います。

○甲南大学 中里教授 今、御紹介いただきました中里です。資料は 3 種類、文字が文章のような形で並んでいるレジュメのようなものと、表と図があります。少し複雑ですが、スライドでかい摘んで、その都度、話している所が分かるように提示したいと思いますので、適宜、字の細かい所などは資料を御参照いただければと思います。後から私のやっていることを説明してまいりますが、この数年間少しずつ地道にやってきた育児休業の制度をちまちまと調べるということが、この機会で少し社会につながることになると思います。こうした機会を与えていただいて、とてもうれしく思っております。

 私自身の研究分野は家族社会学です。特に子育て期の仕事と生活に関心を持っておりまして、ここ 10 年間ぐらい研究しております。男性の育児休業という新書が出たときには飛び付いた口です。日本のことに関心がありますが、比較の基準は持ちたいということで、オーストラリアで、向こうの仕事と生活に関する研究の在外研究という形で行ってまいりました。そこの写真は男性の育児サークルで、お父さんの育児サークルという土曜日の午前中にやっていたものに参加して、クリスマスに向けてカウントダウンでマーブルチョコを貼って、 1 日ずつチョコレートを食べていくというカレンダーを作るという遊びをしている図です。

 オーストラリアの研究もしておりますが、今日のテーマに関しましては、オーストラリアの場合は、国としての制度が比較的新しく導入されたものですから含んでおりません。今日は、その他の国です。なぜ、その他の国について私自身が考えてきているかといいますと、 3 年ぐらい前から育児休業の国際比較のネットワークに参加しております。その派生した形で父親の長期単独育児休業者で、妻が仕事に出ている状態で、 1 か月以上育児休業を取得している父親のインタビュー調査をしております。

 そういう関係で少し見づらいのですが、参加しているネットワークで、要するに Leave policy 、そのままで言うと休業の政策です。主に育児をめぐる休業の政策と研究のネットワークということです。詳しい説明は資料に付いております。そこで 30 数か国の研究者たちが毎年、その国の最新の制度をレポートとしてまとめて、かつ年に 1 回セミナーを開催して様々な比較をしたり、それぞれの課題について話し合ったりするというものに参加しています。その過程で生まれてきた発見を今日お話できればと思っております。

 まず、最初に日本の育児休業制度の改正で目指すべき直近の効果。目指すべきと書きましたが、既にこれまでに何度も育児休業、介護休業法が改正される中で明らかに意図してきただろうと思われることと重なるものですが、父親の育児休業取得率の上昇、あくまでも、これは指標ということで実際に参加する度合いを高めることだと思います。それと、出産・育児に伴う女性の離職の減少です。これは相互に関係して補い合うものだと思います。 2 つの別の現象を達成するという目標を考えたときに、ほかの国の制度がどのように参考になるか、日本の制度の課題がどのようなものなのかということを絞って考えていきたいと思っております。

 委員の方は御存じの方は多いと思いますが、日本の現行制度の特徴としましては、簡単にまとめますと、原則、 1 歳の誕生日前まで取得が可能。保育所に入所できないなど一定の条件に該当すれば 1 6 か月まで延長が可能である。育児休業給付については、父親の最初の 6 か月、母親の最初の 6 か月については休業前賃金の 67 %の給付が、 2014 4 月から雇用保険法の改正で導入されました。それ以降は、それまでどおりの 50 %という給付額になっております。

 直近では、 2010 年に改正法が施行されておりますが、そこでのポイントは、 1 点目として、配偶者が専業主婦、あるいは育児休業中などの場合に、対象除外することが協約等に基づいて使用者として可能でしたが、その除外を禁止しました。つまり、妻が専業主婦であろうと育児休業中であろうと、男性も育児休業を取れるという制度に変わりました。 2 点目として、両親ともが取得すると 1 2 か月まで延長が可能になる。これは、「パパ・ママ育休プラス」と呼ばれております。 3 点目は、少し目立ちにくいですが、配偶者の出産後 8 週間以内の産休中に当たるような期間に、父親が育児休業を取得した場合は、通常は 1 回分しか育児休業は取れないのですが、その期間とは別に、例えば母親が復職したときに、また父親が取るということが可能になったというのが、 2010 年の改正のポイントです。そして、 2014 年には雇用保険法が改正されまして、先ほど言いましたように、ずっと同じ割合ではなくて、最初の 6 か月だけは 67 %という比較的高率の給付金が受け取れるという制度の改正がありました。

 こういう日本の現状に対して、パパ・クオータというのは北欧の制度、特にノルウェー等の制度ですが、これは、しばしば引用や言及される制度になってきています。これは大分、長いこと言われておりますが、私自身いろいろな国や日本の制度について考えながら、その意義は日本にとってどのような意味があるのか、突き詰めると分からなくなってくるところがあります。つまり、パパ・クオータは、取得しなければいけないという義務ではないわけです。けれども父親に割り当てられていることが重要だと言うのです。先ほど見たように、日本には 2010 年からは母親の状況に関らず父親が 1 年取ろうと思えば取れるということで、ある意味、父親には 1 年分の育児休業が権利として与えられております。

 そこで、パパ・クオータといったときにどういう意味があるのかということですが、パパ・クオータは本質的には父親個人に付与されているところよりも、母親が取得できない期間があるというところに、実は重要なポイントがあるのではないかと、様々な議論を聞いている中で考えました。さらに、事態を複雑にしているのは、ドイツ、ポルトガル等、最近、父親の育児休業の取得率が伸びた国や、日本のパパ・ママ育休プラスのようにボーナス期間として追加、延長ができるという制度もあり、その違いは一体何なのかということも少し難しいところです。実は、できている制度そのものには大きな違いはなくて、制度の変化の方向や何を基本として考えるかということが相違であると理解すると分かりやすくなると思います。

 クオータというのは「割当て」なので、日本でもそうでしたが、もともと北欧の育児休業等は、子供が産まれたら、その子供に関して育児休業が与えられて、家族に対しては父親が取るか母親が取るか選ぶという制度でした。その中で、どちらでも選んでいいよと言うと全部母親が選んでしまうので、一定期間は父親が選ばなければいけないと。例えば家族には 1 年なら 1 年与えられるが、そのうちのこの部分は父親が取らないと短くなってしまいますよというのが、クオータの発想です。

 分割ボーナスは、もともとの期間がありまして、それに両親が取れば延ばしますよと、もともと日本のパパ・ママ育休プラスは(育児休業期間が) 1 年だったのが、お父さんが取れば 1 2 か月で 2 か月プラスされます。現象としては、 1 2 か月に対して 2 か月分が父親の割当てとしてあると理解することもできるので、中身としては大きくは違わないと考えられると思います。

 そこで、国際比較をする中で日本に対して何が参考になるかを見ていこうと思います。表が非常に細かくて、なるべく重要な情報を詰め込むという形になっております。こういう表はよく見ますが、一体どこを見ていいか分からないということが、しばしばありまして、私も全然頭に入らなかったので、今日の発表としては私自身が注目したいと思うところに焦点を絞ってます。この表自体も、実は少しほかの表と違う項目が並んでおりますので、そこを重点的に説明してまいりたいと思います。併せて、その中の今回の要点になるような部分を図にしましたので、そちらも参照いただければと思います。

 図の見方です。まず、一番なじみのある日本の現状の図を見ながら簡単に説明いたします。この図は、ほかで見る図とは違うところがありまして、ある仮定を置いて作っております。 1 点目は、家族にとって期間が最大化される。つまり、なるべく子供のそばにできるだけいられるという取り方をした場合、かつ多くの国で、選べるとなると母親が取ってしまうことが多いので、母親が最大になるという取り方をしたらどうなるかという前提に基づいて作った図です。日本の場合は、先ほど言いましたように育児休業が 2010 年からどちらも個人の権利として取れますので、母親の棒の所ですが、母親が 1 年丸々取ることができます。そこにパパ・ママ育休プラスが付きまして、父親がこういう取り方をすると、もっと短くてもいいのですが、 2 か月先まで取れるということで、家族としては 1 2 か月まで取れる。

 図の一番上の部分は、父親と母親で合計 1 2 か月までということで、 1 6 か月までの延長がないという前提で作ったのが、この図です。もう 1 点です。右端にある★ですが、これは保育の利用が保障される最低年齢ということを表しています。日本の場合は小学校が義務教育で、保育も実際としては用意する必要はありますが、必ずしも保障されていない。待機児童の問題があるように、保障されていませんので、欄外という形で書いております。実際のところは 1 歳を超えたところの 4 月で入れる可能性が高くなるという実態はあると思われます。

 続きまして、表の各行の説明です。これは非常に多いので重要な所以外は簡単にさらっと流していきます。 (1) (2) は母親にとっての休業ということで、「産前・産後休業」について説明したものです。 5 か国全てで、産後の一定期間は母親の義務としています。この期間は国によって少し違っております。 (3) です。「 Paternity Leave( 父親休業 ) または、それに類する出産前後の休業」です。ここはその後の育児休業と区別して書いているのは、母親の産後休業中に同時に取得できるという点で、これは日本に限らず他の国でもそうなっているという意味で区別しております。日本については、 Paternity Leave( 父親休業 ) は別個に用意されていないのですが、先ほど言いましたように 2 回に分割できて、この期間は別物として扱えるようになったので、ある意味では父親休業と見ることができないこともないと思います。多くの会社が配偶者出産休暇等を提供していますが、これについては法定ではないので、実態としては多くの企業はありますが参考までにということです。

 項目 (5) (11) は、表でいうと太枠で囲っています。この部分は余りほかで見ることはないと思うので、理解上なじみづらいと思いますので少し丁寧に説明してまいります。 (5) 「子供 1 人当たりに対して休業給付を受けられる最大期間」とあります。これは、先ほども少し説明しましたが、緑の部分で、 1 人の子供に対して家族としてどれだけ保障されているかという期間を示しています。クオータであれば、クオータで割り当てる前の家族全体の量になると思います。各国についての説明はまた後でしますので、取りあえず項目の意味だけを説明いたします。ここは給付を受けながら連続して、その子に対して最大限、家族で取得した場合の休業終了時の子供の年齢を表します。レジェメの 2 ページの (5) 4 行目の所に休業「就業時」と書いてしまったのですが「終了時」の間違いですので訂正をお願いいたします。この時点までで交替しながら取ったときに休業が終わりますので、子供の保育先を探さなければいけないというタイミングと理解していいと思います。

 今言った休業の期間です。表の見方として、例えばノルウェーのケースですと、 46 100 %又は 56 80 %と書いております。この意味は下の (6) 給付金と関係していまして、休業前賃金の 100 %をもらいたければ 46 週で終わらせるけれども、長く取りたければ 56 週を 80 %という率、これでもかなり高率ですが、そういう選択ができるということを意味しております。

(7) 「父親に割り当てられた休業給付期間」です。選択不要と書いたのは家族に対して与えられていて父親か母親かを選ばなければいけないという部分を除いて、個人としてどれだけ取れるかと考えたときに、日本で言うと、表の水色の父親の部分を足したものが、この期間ということになると思います。ですから、これで言えば、日本の場合、取りたければかなり長く取れるという程度になっています。

 続きまして、 (8) 「母親が休業給付を受けられる最大期間」です。この図自体は、母親が休業給付を最大で取れるようにという想定で作っています。この母親の赤い棒が、その期間です。日本の場合は、 1 歳までですが保育園に入れない場合に 1 6 か月まで取れるという特例があります。ノルウェーの場合は、色を変えているのですが、ピンクと黄色の選択部分を合わせて母親の所に付いている棒の長さ全てが母親が取ろうと思えば、この期間取れるということになります。お手元の資料に黄色というものはないのですが、直前の準備で変えたほうが分かりやすいと思いまして、選択部分は黄色く表示しております。ですので、父母が選択する期間について全部を母親が選択するとこれだけ取れるというのがこの期間に当たります。

(9) 「父親が給付を受けられる最大期間」です。これは少しややこしいのですが、母親が取らずに父親が選んだという場合に最大でどれだけ取れるのかです。丸で囲った部分を足す ( 父親の割当て + 選択分 ) と、父親の最大限に取れる期間が分かります。日本の場合は、選択部分が全部個人なので、 1 年分を丸々取れるということになります。

 そして、この (10) が非常に重要なところですが、「父親が育休の権利を放棄した場合に家族単位で失われてしまう育児休業の期間」です。パパ・クオータは、それに当たるわけですが、日本の場合は父親個人の権利なので父親が取らなければ失われますが、その期間に母親が取っていることが可能ですので、今の制度として失われるのは、パパ・ママ育休プラスの 2 か月分になります。この下の図の 1 6 か月まで延長すると実は母親が全部取れてしまうので、失われる期間がないということになります。ノルウェー等は、この白い部分の母親が途切れてしまう部分が緑と比べて短くなり、少ない部分が放棄される期間になると思います。これがクオータやボーナスの部分だと理解できると思います。

 もう 1 点、これも見落とされがちなのですが、 (11) 「保育が保障される最低年齢」が、家族に与えられている期間と比べてどういう位置にあるかということで、重要な指標として(図にも)★を付けております。ノルウェー、スウェーデン、ドイツの場合は、 1 歳で必ず入れる、少し待つ期間がありますが、用意する必要があるとなっておりますので、家族に与えられている期間の途中でこちらに移行できるということです。

 ポイントとは少しずれるのですが、 (12) (13) (14) は取得の柔軟性に関わることで、分割したり延期できたりパートタイムで働くということに関することについてまとめています。ここは飛ばします。父親の取得率について、各国で、かなりレベルの差があります。特に日本と今回取り上げた他の国との間に差がありますので重要です。 (18) については、産休と同じ時期に母親と同時に取れる「父親休暇の取得率」です。日本はこれを分けて指標を出していませんが、ほかの国では分けて見られることが多いです。 (19) は、いわゆる「父親の育休取得率」です。選択したりクオータになっている部分の取得率です。ただ、この指標が国によって非常に違いまして、ノルウェー、スウェーデンの場合は、 どれだけの割合の父親が 取ったかではなくて、どれだけの日数を取ったか、どれだけ母親と同じぐらいの日数を取っているのかということが平等性を図る仕様になっています。という指標を、少し変わった指標を用いまして、各国の特徴を見てまいります。

 まず、ノルウェーについては、パパ・クオータという言葉と結び付けられて語られることが多いのですが、最初は 1993 年に初めて、先駆けて導入されたということで、今では、水色の下のこの部分がパパ・クオータに相当しまして、ここで産休中に 2 週間の父親休業、そして、 12 週間の 3 か月ほどのパパ・クオータがあります。 100 %が給付されます。ここの部分は選択式で長く取れば 80 %、短ければ 100 %です。取得率に関して言いますと、パパ・クオータの部分のこちらは 89 %ですが、 3 か月取得している人が 21 %います。さらに 15 %は、この部分の、これを取った上で更に選択できる部分も取っているというような状況が最新のデータです。

 スウェーデンに関して言いますと、ここは有休の育児休業の日数が最大になっています。パパ・クオータは、ノルウェーより短くて 60 日です。ただし、選択部分も極力平等に取らせるような政策的な誘導がされている面が特徴かと思います。父親の割当期間も、先に、この時点で取らないと、この部分のお金のボーナスが得られないということで、できるだけ交替でやるとか、均等に取るようなインセンティブが作られていることが特徴です。

 ドイツも最近よく取り上げられますが、日本の制度と似ているように見えるということと、あとは急速に取得率が上昇したということで、 29.3 %の取得率になっています。ここは父親休業がないので、割当て部分のボーナス部分がこのように取得されています。 12 か月に 2 か月がプラスされます。給付は今の日本の 6 か月分と同じで、 67 %です。ただし、家族単位、個人の権利ではないので、この部分は同時には取れるのですが、期間としての 12 か月分をどちらかに割り振るということになるのは日本の制度と少し違うところです。それから半分の給付にして倍に延期することも可能というのが制度の特徴です。

 ポルトガルは、これはめったに出てこないものなのですが、非常に面白い制度だと思います。近年、女性の労働力率も非常に上がって 60 何%がフルタイムの共働き家庭となったという変化も大きいですし、父親の取得率も上がっているという国です。字が細かいのですが、まず、名前の呼び方が違います。元々はポルトガル語だと思うのですが、英語に直した場合にも違います。 1 つの特徴は、ポイントだけ言いますと、「義務」になっています。出産直後の 5 労働日と、更に 5 労働日に土日を入れた 2 週間分を父親が取らなければいけない。母親が産休を取らなければいけないのと同じように父親が取らなければいけません。さらに、妻の産休に当たる期間中 ( 子供が産まれて 1 か月の間 ) 10 日分を取得できるという休業部分と、順番は逆にしておりますが、その下にある a の初期育児休業は、その後の追加 (Additional) の育児休業と対比しています。この部分に関しては選択なのですが、一部は母親が義務として取って、その残りを選択します。ただ、その場合、父親が 1 か月以上 1 人で取ると 1 か月延びます。つまり、家族に与えられる休業期間が延びるという特徴があります。給付額は非常に高い 100 %又は長ければ 80 %で上限がないということで、非常に寛大と言えば寛大です。経済危機になってもここは変わらなかったと言われています。ただ、保育が必ず保障されている時期は 5 歳ですので、この期間はありますが、実際は 50 %近くの 3 歳未満の子供たちが保育園に行っているということで、利用率は高いということになっております。先ほど言いましたが、取得率の義務化部分は 68 %です。ただ、これはいろいろカウントされていない分子が過小になっているので、本当はもう少し多いということです。公務員等がここの数に入っていないということです。それから、初期育児休業、つまり選択する部分については、改革前は 0.6 %だったのですが、ボーナス制度が導入されて 23 %のお父さんが、夫婦で分割するようになったと言われております。

 各国について細かく見てきましたが、全体として最初に設定した目的の達成のために何が必要なのかということを改めて整理してまいります。 1 点目の目標として、出産・育児に伴う女性の離職を防ぐために、保育が保障されている時期と、育児休業で子供 1 人に対して与えられる期間にずれがないことか必要です。ノルウェー、スウェーデン、ドイツについては、 1 歳から必ず保育に入れて、それ以上の休業が家族に対して保障されているので、基本的には離職する必要はありません。戻ってからの働き方とも関係するとは思いますが、ないような仕組みになっています。

 それだけでいいかと言いますと、母親がずっと取得して、結局父親が参加しないということになりますので、父親を参加させるにはどうしたらいいかという点で言うと、先ほど言いましたが、ギャップです。家族に対して与えられる期間と、母親だけで取れる期間とのギャップがあるかどうかです。ここを埋めるために父親が取るというインセンティブを働かせる必要があるということで、日本以外の 4 国ともに、期間は 1 3 か月あります。日本の場合もパパ・ママ育休プラスという 2 か月のギャップがありますが、 2 番目の棒で見られるように、 1 6 か月まで母親が延長できますので、これは実際に取得しているのは 20 %ぐらいがこの期間に入るようですが、延長が可能なので、このギャップが実質上なくなっています。実は父親が取るインセンティブが少なくなっているという現実があると思います。

 ただ、 2014 年の雇用保険法改正で、給付金が最初は 6 か月だけ高いという制度になったので、対当に稼いでいるカップルについて言うと、ここで変わったほうが経済的には得だということになりますので、その点でインセンティブが折衷的に母の権利を奪わずに付加して合理的に投入されています。ただ、休もうと思えば休めますので、その点は変わっておりません。

 さらに高率の給付については、日本の場合はいろいろな控除があって 80 %に近づくとはいいますが、おそらく 100 %与えているほかの国とは少し差があると思います。あとは、出産直後の父親の育児休業をポルトガルのように義務化するというのは、最初の段階、日本のような状況の国では 1 つの方策なのではないかというところもあり、実際にやっている国があるということになります。

 その他、幾つか参考にできるポイントとして、スウェーデンのパートタイム等の柔軟な取得の仕方、それから、日本の場合は両親が同時に取得できますので、まずは休んでみるというところから始める必要があるというのが日本の状況では必要なことなのかもしれませんが、ほかの国とはかなり違っているということは理解しておく必要があると思います。以上、駆け足でたくさんのことを言ってしまいましたが、報告を終わります。

○佐藤座長 どうもありがとうございました。私は海外の育児休業等について十分よく分かってなくて、今日、非常に勉強にななりました。今の御報告について多分いろいろ御質問があるかと思いますので出していただければと思います。どなたかの質問に関連するのがあったら、併せてと言っていただければ、効率よくいくと思いますので、どなたからでも御質問をお願いします。

○中井委員 ドイツの男性の育児休業が近年の制度改定で育児休業の取得率が非常に伸びたというお話をいただきましたが、具体的にどの部分、分割ボーナスの部分が近年変わったから取得率が大幅に伸びたということでしょうか。

○中里教授 大きく変わったというか、ポルトガルのような義務があるわけでもないので、そこの部分が制度的には大きな変革と言われています。

○神吉委員 今日はどうもありがとうございました。幾つかお伺いしたいことがあるのですが、資料 1-2 の表を見ていくと、 (6) の部分ですが、日本以外のノルウェー、スウェーデン、ドイツ、ポルトカル、それぞれ育児休業の原則単位は家族ということでしたが、育児休業給付金については、これは個人の年収を基に、休んでいる人の 80 %、あるいは 77.6 %、そう理解して大丈夫ですか。

○中里教授 そうです。期間の合計の単位では家族であるのですが、その都度計算するのは個人の所得です。

○神吉委員 分かりました。日本の場合、父親の育児休業取得率が低いのは、やはり経済的な面が大きいのではないでしょうか。ほとんどの世帯では父親のほうが年収が高く、特に去年制度変更がなされるまでは 50 %だったわけで、そうなってしまうと、どうしても所得の低いほうが休むことになると思うのです。今回、 67 %になったので、ここの表に並んでいる国にすると、そこまで見劣りはしないのかと思うのですが、 100 %保障される国に比べると、所得が低いほうが休むのは、どう見ても経済的に合理的だと思うのです。期間の目一杯、できるだけ長く取れるほうを選ぼうというのは、私の実感としては余りなくて、なるべく金額的なロスが少ないほうを選ぼうというほうが大きいと思うのです。例えば、 100 %でない国では、それをどう乗り越えているのかを、もし御存じだったら教えていただけますか。

○中里教授  1 つは、他のいくつかの国の場合は 100 %の選択肢もある。(日本では、)企業ごとに出したり、労使の協約等で出すことはあるのですが、普通は、ないわけです。まず日本の場合は、先ほどおっしゃっていた男女の賃金格差が非常に大きいと思っています。まず前提として、ノルウェーとかスウェーデンの研究者と話していると、出産に伴って母親が仕事をやめるという発想はまずないと。認識の仕方が、少なくとも、昔からそうだったわけではないですが、今は認識として違うことが非常に大きいです。本で読むと、もちろん書いてあることですが、なぜ、そんな大学を出た人が出産で辞めるのだという疑問は、ノルウェーやスウェーデンだけではなくて、ベルギーの人もそうだという発想がありますので、そこで、職種が違うものを選ぶとか、辞める可能性を前提とするとか、あるいは少しセーブして働くことを前提に職業を選ぶという日本の現状と、そうではない国との違いはどこにあるのかなと思いますね。

○神吉委員 離職ではなくて、休業をするときに、どちらが休業するかという選択について、どちらも続けるという前提だとしても、所得格差があれば、低い方が休むという選択をしがちだと思うのですが、それは男女の所得格差がそれほどないからと言えるのか、それともノルウェーなども 100 %だから、そもそも関係がないのでしょうか。

○中里教授  1 つは、保障される度合が大きければ、交代したほうが、キャリアのギャップが少なくなって、同じようにキャリアを平等に考えたときには、それぞれの単位をなるべく開ける期間を短くしたほうが、キャリアの持続ということでは。

○神吉委員 キャリアを継続することが休業をなるべく短くするというか、平等に負担しようという選択につながるということですか。

○中里教授 極力です。ただ、それで母親に行ってしまうので。つまり、短くなれば、その分早く保育園に預け始めなければいけなくなります。

○神吉委員 そうですね。

○中里教授 そうなので、休業を長くしようということは、単に子供と一緒にいようというだけではなくて保育園に(支払うお金のことが影響しているとも考えられます)。ただ、保育園にお金が掛からなければ、経済的なインセンティブにはならなくて。

○神吉委員 そうですね、保育園に対する社会的な補助も関係してくる問題ですね。

○中里教授 そうです。だから、そこでというと、日本ほど、お金が負担になるからという発想にはならないだろうと思いますが。

○神吉委員 そうですね。それと関連して、 (11) をお伺いしたいのですが、「保育が保障される最低年齢」が、ドイツは 1 歳のようですが、これは日本でいうと義務教育みたいに 1 歳になれば必ずどこかに預け先があると理解してよろしいでしょうか。

○中里教授 全ての国について詳しく把握しているわけではないのですが、スウェーデン等で、読んでいる範囲では、必ずというか、自治体にとって何箇月の猶予はあるみたいですが、用意しなければいけないというのはあります。

○神吉委員 それはかなり大きいですね。

○中里教授 ノルウェーの場合、ただ、少し 9 1 日以降の場合に生まれると、秋からの入所が保障されないという状況もあって、少しどこかで確保しなければいけないという状況もあるのかもしれませんが、日本での場合の自治体の努力とは少しレベルの違う、義務教育に近いようなもの。

○神吉委員 なるほど。そうすると、日本の場合は、必ずどこかに居場所があるのは 6 歳になると思うのですが、それ以前は保障はないけれども保育園でカバーしていることです。実際は、日本の場合、保障される最低年齢が 6 歳だとしても、実は実際のところ、それ以前の保育園時代のほうが保育時間が長いので、その間は預けて働けるのだけれども、子供が小学校に上がった時点で、むしろ子供が預かりではないですが、教育を受けている時間が短くて、自分の親が関わらなくてはいけない時間が増えてしまうので、小 1 のときで離職をすることが実際にも多いのです。だから、保育の保障される最低年齢と同時に、時間ということも結構効いてくると思うのですが、 1 歳辺りで、ノルウエー、スウェーデン、ドイツは、かなり時間も長いのでしょうか。

○中里教授  8 時間ということが、どこの国か分かりませんので探す必要があるのですが、フルタイムの場合で 8 時間入れるという国は、どこかの国に書いてありました。

○佐藤座長 先ほどの母親が離職するという関係で、エウェーデンなどはそういうことはないと思うのです。それに関わってですが伺いたいのです。現状でいうと、母親のほうが正社員で働いていた人が、妊娠や出産で辞めるのが 55 %ぐらい。今は上がってきてですが、 45 %は継続するというのが大体最近よく引用されてるデータで、それまで半分以上辞めている。このときの男性に育児休業取得率ですが、日本の場合、妻が専業主婦になってしまうのがまだ相当多いのです。

 海外はどうかなのですが、妻が働いているという前提のときに育児休業取得率の話と、日本の状況で比較できるかどうかで、そういう意味で、日本での幾つかの調査ですが、妻が正社員で働いていて辞めずに働き続けている人の夫が育児休業をどのぐらい取っているかというと、日本でも海外としても 2 割なのです。ほかが 2 割というのは私はびっくりしたのだけれども、日本でも妻が正社員で辞めずに働き続けると、夫は 2 倍ぐらい取っている、これはサンプルデータですが。そうすると、日本の場合で低いのは、妻が辞めてしまっているのも大きくて、逆に言うと、海外でも、数が少なくても、妻が辞めてしまった場合、子育てに専念してしまった場合、男性が育児休業を取っているのかどうかみたいなデータがあるかどうかなのです。

○中里教授 そのデータは、すぐには浮かばないのですが。

○佐藤座長 離職してしまった場合ですね。

○中里教授 日本の場合は、フルタイムの場合、両方がフルタイムの場合には、 2 割が取るというお話なのですか。

○佐藤座長 妻が辞めずに働き続き続けていたときに、夫が 2 割ぐらい取っている。ただ、現状で言うと、正社員では、 55 %が辞めて離職してしまって専業主婦になってしまっている現状があるので。

○中里教授 そこを考えていたのですが、ノルウェー等の場合は、クオータ部分の 60 日を確実に取得したのが 2 割で、どこかの部分を取っているのが 9 割近くになっているのです。例えば日本の就業継続率を考えると、 80 %とは言わなくても、 50 %まで行くと、ターゲットにしている 10 %という数字には行くのではないかというのが考えたところなのですが。

○佐藤座長 これでいいです。つまり、ほかの国では多分、女性が働き続けるのでしょうが、辞めた場合も、男性が育児休業を取っているのかどうかなのです。

○中里教授 辞めた場合、取れない制度ですよね。ポルトガルについても確認したのですが、妻が働いていなければ取れないのです、この仕組みは。

○佐藤座長 夫のほうが取れない。

○中里教授 夫が取れないです。選択の部分です。選択というのは、父親休業ではない後半部分です。だから、それを確か働いているという前提の設定でと。そこが日本の場合は働いていなくても取れるようになった。

○佐藤座長 なっていますよね。

○中里教授 非常に寛大と言えば寛大です。ただ、前提が。

○佐藤座長 全然違うということですね。

○中里教授 違います。そちらに戻すのがいいのかどうかは、難しいです。そこで選択をしなければいけない。でも、選択をしたら母親になるから、父親に(割り当てる)という、何か非常に前提が違うので、比較がしづらいのですが。

○佐藤座長 分かりました。

○武石委員  2 つ質問ですが、スウェーデンは、確か 0 歳児保育はほとんどなくて、 0 歳児のときは親が休業を取っていて、 1 歳からの保育の保障だと思うのです。ノルウェーも同じ形でしょうか。そうすると、例えばノルウェーは 0 歳児保育がないと、 1 歳までは親が見なくてはいけないので、そうだったらノルウェー、スウェーデンは、この図でいくとやはり父親がどこかで取らないと、親がみる期間がなくなってしまうのだろうと。スウェーデン、ノルウェーの例はどうなのかということが 1 つです。

 最近、ドイツは男性の育児休業が増えているのですが、男性が取るのは、ここで言うと、父母選択部分を母親と分けて取るのか、分割、ボーナスのところで男性が取るのか、もし分かれば、その辺を教えていただきたいのですが。

○中里教授 保育に関しては、きちんとその部分( 0 歳児)に保育がどの程度提供されているのかは調べていません。くくられている利用率も 3 歳未満という形で、ひとまとめにされているので分からないのですが、可能性としては、制度の設計からすると、そこまでは家でみるという前提なのかと思います。これは推測なので、本当はちゃんと調べないといけませんが、北欧、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンは、かなり相互に制度を真似しつつ、部分を変えるという傾向にあって、共通部分は多いと思いました。

 ドイツに関しては、 29.3 %はどこかしら取っているということですので、基本的に最低限でもこの範囲に入るので、どれぐらい入っているかは確認できていません。

○佐藤座長 最後に時間を取りますが、あと、 1 人ぐらいは。

○池田委員 父親の育児休業を取るタイミングとして、妻の産後直後と妻の復職時期に相当する部分と 2 つのタイミングがあると思うのです。前者の場合、 Paternity Leave という言い方をする国もあると思います。。先ほどの佐藤先生の話とも関係するのですが、およそ今まで育児休業を取っているという場合は、後半部分で取っている話という理解でいいのですよね。後半というのは、青い帯にもありますが、出産直後の時期ではなくて、例えばドイツで言えば、妻が一定期間を取った後に夫が交代で取ると。そのタイミングで妻は復職すると、その前提だと理解するのですね。

○中里教授 そうです。ただ、ほかの国については、両方を分けています。表でいえば、 2 つの行に分けています。それぞれについては別途に計算しているという形になっています。

○池田委員 多分、妻が働いているかどうかにかかわらず男性が取ることで言うと、日本の場合でも出産直後の時期が多いのです。そこの部分は取るのが当たり前ですか。

○中里教授 それに近い、その数字で見ると、先ほどの表の (18) が産休と重なる部分で、同時に取得している所で、 (19) が交代で取得していると、イメージとしては思っていただければということです。(産休と重なる部分は)ノルウェーの場合は 89 %、スウェーデンは 75 %、ドイツはそういう分ける制度がないので。ポルトガルの場合は 68 %ですが、これは分子が出生に対してカウントされていない休業がありますが、制度が違う公務員と銀行員は含まれていないそうなので、義務化されていることなので、もう少し高いということのようです。ですので、日本は、今、そこも含めて 2 %になると思うのですが、調査の中で配偶者出産休暇がカウントされていないと思うので、それを足し合わせると、もしかすると、もっとずっと多い率になっている可能性はあるのですが、そこだけを目指すわけではないと思うので。

○池田委員 どちらを念頭に置くかが、今後の議論するときに整理が必要かと思います。

○佐藤座長 あとで日本の場合の給付金の初めの半年 67 %で、日本の場合は社会保険料免除があるので、多分 8 割ぐらいかな。それで、ほかの国がどうなっているか、この形成がよく分からないので、それはもし後で。日本の場合、社会保険料免除があるから、実質は大体 8 割ぐらいカバーされている。そうすると、もしかしたらほかの国と比べて余り変わらないのかもしれないです。どうもありがとうございました。

 続きまして、立命館大学の津止教授から御説明ください。よろしくお願いします。

○立命館大学 津止教授 立命館大学の津止です。今日の発表は、「新しい介護実態に対応する仕事と介護の両立支援策の検討」ということですが、お手元に私どもの資料を 4 種類ほど追加でお配りしております。 1 つは私が事務局長をやっている「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」のリーフレット、 2 つ目は「 5 周年の記念パンフレット」です。あとの 2 つは、京都府の「仕事」と「介護」の両立支援ガイドブックと、北九州市の男女共同参画センターが作った冊子「男の介護そしてケアメンになる」というパンフレットです。仕事と介護の分野で非常に大きなテーマとして浮上してきているということで、参考までに配布させていただきました。

 私の報告は「新しい介護実態に対応する仕事と介護の両立支援策の検討-「男性介護者」の視点から」というものです。パワーポイントを御覧いただきながら報告をしたいと思います。

 新しい介護実態の出現といったことが始まっていますが、仕事と介護の両立について、新しい介護実態が出現したという観点から見るとどのようなことが言えるのかを考えているわけです。 1 つは、新しい介護実態というのは戦後の家族政策、女性政策の到達点が背景にあって、更に 2000 年から始まった介護保険制度がそれを加速したと思っています。その中で従来の介護実態ではない新しい介護実態が生まれて、そこからこの社会の政策上の課題が随分クリアに出ていると思います。新しい介護実態の出現ということで、誰もが「介護する / される」という暮らし方から逃れられない、一般化するということで捉えています。 2 点目は、想定外の介護者がこれほど数多く登場してくる時代はなかったということです。 3 点目は、その想定外の介護者が介護に携わってくることによって多様化する介護形態、これまでのような在宅介護か施設介護かという二分法ではないような新しい介護形態も、次から次へと生まれているということです。 4 点目は、介護の問題は介護保険制度だけではなく、総合政策化せざるを得ないし、むしろそこに 1 歩も 2 歩も足を踏み入れているのではないかということです。そのようなことを、新しい介護実態の出現ということで考えてみたいと思います。

 誰もが「介護する / される」という暮らし方が一般化する。詳しくは御報告できませんが、要支援・要介護認定者数がほぼ 600 万人ですが、要支援・要介護認定を受けていなくても、要介護状態にある方々はもっと多いということからすると、 600 万人を超えるような多くの方が介護されながら生活をしているということです。つい最近発表されたように、認知症があと 10 年もすると 700 万人になって 65 歳以上の 5 人に 1 人となるということですが、 75 歳以上になるともっと増えてくると考えると、認知症を患いながら生活をする多くの高齢者が大量に私たちの生活の場面に出てくるということです。最近、平均寿命と健康寿命の階差の問題が随分議論になっていますが、男性は 9 年前後、女性は 12 3 年程度、健康ではない期間が存在するとすれば、これも介護をされて暮らす暮らし方を示す 1 つの典型だろうと思います。

 「日本ケアラー連盟」という市民団体が 2010 年に結成されて、同時に介護者の出現率を把握する調査を実施しました。家族の介護をして暮らす、あるいは看護して暮らす、障害のある家族と一緒に暮らす方々を「ケアラー」としたのですが、ケアラーの出現率を同年に全国 5 か所の地域で調査したところ、約 2 割の方がケアラーで、気遣いながら遠くの実家の両親のことをたまの日曜日に帰ってお世話するとか、仕送りを欠かさないということで生活している方が 8 %と、 3 割近くの方がケアラー若しくは気遣いケアラーだというデータです。「隠れ介護者 1,300 万人の激震」と日経ビジネスの報道もあります。主たる介護者だけではなく、介護に関わりながら仕事をしている 1,300 万人の方々、「エース社員が突然いなくなる」というサブタイトルも付いていましたが、こういったことを考えると、介護をして暮らす・介護されて暮らすという暮らし方は、ある意味、私たちの人生後半期の主流の暮らし方になっていくのではないかと感じます。

2 点目の新しい介護実態は、想定外の介護をする人と介護される人が生まれているということです。図表は、同居の主たる介護者の続柄別推移を見たもので、 1998 年以降はは国民生活基礎調査の世帯票の調査を抜き出したものですが、それ以前は全国社会福祉協議会の折々に触れて実施した介護調査です。同一の調査ではないので単純な比較はできないかもしれませんが、介護者の続柄の大きな変化を見るには有効だと思って使っております。 1968 年は、日本で初めての介護調査が行われた年です。それ以前の調査は、東京都や長野県の一部の自治体でやっているぐらいですが、 1968 年の調査を見ると、主たる介護者のほとんどが女性です。子供の配偶者か娘か妻です。今は誰もが介護者になってもおかしくないような密集状態を作り出していて、半世紀ほど前には半数を占めていた子供の配偶者、つまり嫁たちも、続柄別の類型では最も少ない 12.8 %にまで激減しています。こういう半世紀にわたる介護者の変遷が、私たちの介護実態を大きく変えてきたということです。これは介護実態に則した社会システム構築を必要としている背景として、きちんと押さえなければいけないのだろうと思っております。

 人数にすれば歴然です。 2013 年の国民生活基礎調査によると、同居で介護をしている方が 411 万人、同居プラス別居も合わせると 634 万人になります。これを見ると、介護者のトレンドは夫婦間の介護か実の子供たちが介護者になる、あるいは別居介護者も含めると、介護の事業者も主たる介護者になっているというデータで、非常に特徴的な今の介護実態を示している数字だろうと思います。

 このスライドは想定外の介護される人です。現行政策は在宅介護が主流になっていくということで政策を推進していますが、在宅介護というのは在宅にしっかりした介護者が存在することが暗黙の了解だと思うのです。日本医療福祉生協連合会が 2012 年に行った非常に大規模な調査ですが、医療福祉生協連合会に所属している 110 の医療生協が管理する介護支援事業のケアマネージャーたちの持っているデータを基にして作ったのです。それを見ると、介護サービスの利用者はおよそ 3 万人いて、その 3 万人のうち 26 %が独居老人の単独世帯なのです。これもびっくりするのですが、これは医療福祉生協のデータだけではなくて、国のデータとしても同じような、大体 4 分の1程度が単独世帯だというデータが出ているので、単独世帯の中でも認知症の自立度が 1 以上の方が 7 割近くを占めているというのを表しているのがスライド横の数字です。単独世帯で介護サービスを利用している方が全体の 4 分の 1 を占めて、なおかつその単独世帯の 7 割は認知症の症状が出ている人たちだということです。しかも、軽い人ばかりではなく、自立度がIII~ M の人もかなりの数を占めているということです。認知症でありながら、なおかつ 1 人で生活している方々がいるという実態への認識の深め方が必要かと思います。

 介護する人・介護される人、私たちの社会や制度が想定していない人たちが随分多くなったと同時に、介護形態でも我々の常識にはないものが登場してきているということですが、 1 つは老老介護が一般化したということです。介護する人もされる人も、ともに 65 歳以上が全体の半数を占めて、 75 歳以上は 4 分の 1 を占めている。この表 ( スライド ) は国民生活基礎調査の介護票調査から抜き出したものですが、これを見ると、介護する人も介護される人も半数が 65 歳以上で、 75 歳以上が 4 分の 1 を占めている。これは、表は作りませんでしたが、配偶者間同士でもっと加速するわけです。配偶者間で介護する人・介護される人を見ると、両方の数値を取り出すことができなかったのですが、配偶者間同士の介護では主たる介護者が 65 歳以上の人が 9 割を占めて、 75 歳以上の人が 60 %近くを占めている。老老介護が一般化するというのは、こういうデータを見ても明らかだと思います。介護される人が高齢者で、介護する人は若い世代だと思っていたら、とんでもない話だったというものの 1 つだと思います。

 もう 1 つの多様化する介護形態は、先ほどの認知症の単身世帯が 1 人でも安心して暮らしているほどの豊富で潤沢な介護支援があるのかと思ったら、そうでもなくて、実は 1 人で暮らしている認知症の方々には主たる介護者が別にいて、「通いながら介護」する娘や息子たちの存在を不可欠にしているというデータです。「通いながら介護」する娘や息子たちがかなりの比率を占めていて、だからこそ先ほどの 2013 年の国民生活基礎調査によると、別居介護になると娘と息子が比重を高めていくというデータになるわけです。「通いながら介護」する人、特に単独世帯の方々は、主たる介護者が不明、多分事業者が主たる介護者として支えている生活の仕方だと思いますが、そういうデータになっているわけです。 1 人で暮らす認知症者を通いながら介護する子供たちは、子供と言っても若くはないし、 50 代や 60 代が多くを占めることになるわけです。先ほどの老老介護や「通いながら介護」するということも、ここでも新しい介護実態の 1 つの仕様として見ていく必要があるかと思います。

 今日のテーマと関連しますが、多様化する介護形態の中で働きながら介護をする人 ( ワーキングケアラー ) は、就業構造基本調査では、全有業者の 4.5 %ですが、年齢構成では 50 代後半になると社員の 1 割を超える方々が実際に介護をしている人です。 50 代後半の社員の 10 人に 1 人が現役の介護者だという話です。しかも、このデータの国民就業構造基本調査には、全介護者の中で仕事をしている人はどういう人数かという逆の見方をしているデータもあったのですが、そのデータによると、 570 万人の人が全介護者で、そのうちの 291 万人が有業者の介護者だということです。介護者の半数以上は仕事をしているという実態なのです。私たちは、そんな人はいないわけではないけれども、例外的な扱いだと思っていました。職場の条件に恵まれているとか、家族資源に恵まれているとか、あるいは住んでいる地域の介護支援が豊富だとか、そういう条件がなければ介護と仕事の両立は困難だと思っていましたが、実は介護者の半数以上は仕事をしていたというデータがこの就業構造基本調査であって、私には大きな驚きでした。

 先ほどのスライドに「出所:平成 24 年の就業構造基本調査」とありましたが、これはミスプリで、医療福祉生協連合会の調査データです。認知症の人を介護している主たる介護者たちを続柄別に見たらどういう就業構造なのかを見たものですが、息子、娘、婿、嫁、孫、曾孫の半数以上は有業者だということです。先ほどの総務省の就業構造基本調査と付合するわけですが、子どもたちの半数以上は仕事を持っていて、夫婦間の介護であれば両方ともリタイアしているので就業率は高くないと思われますが、それでも夫の 14 %、妻の 16 %は仕事を持っているという実態です。働きながら介護するのが、介護者のトレンドでは当たり前になっていく時代の先駆けとしてのデータかと思います。

 そうすると、介護をするということは、介護保険制度が担う分野ですが、介護保険のメニューは、入浴・排泄・食事・移動、そしてリハビリです。これがあれば在宅の介護は安泰だと。このサービスの拡充ということで在宅介護を一般化して、介護支援を行ってきたのだけれど、実際には在宅介護が始まればそれだけでは済まなかったということでしょう。同時多発的に新しい介護問題が派生的に発生する。そうすると、新しい介護問題が登場することによって、新しい介護サービスニーズを生み出す動力になっていくのだろうと思います。あらゆる社会政策が介護にリンクせざるを得ないという意味で、個別の介護政策の複合型のニーズが生まれる根拠になっていくのだろうと思います。これは認知症の国家戦略のテーマとも大いに付合する内容だと思いますが、介護が始まれば同時多発的に、仕事の問題、家計の問題、家事あるいは社会的な孤立や事件も次から次へと生まれてくる。そういったことにどのような対応策を持っていくのかが、今の新しい介護実態を踏まえての課題の到達点ではなかろうかと思います。

 今日は、仕事と介護の両立はどうすれば可能になっていくのか、そのアイディアを是非出してほしいという御指示でしたので、どのようにしたらいいのかを少し考えてみたいと思います。これまでの新しい介護実態をまとめると、介護する人もされる人も、「介護者」と「要介護者」とひとくくりにできなくなっているという実態があります。いろいろな介護者もいれば、いろいろな介護される人もいるということを、どのように政策的な対象として捉えることができるかというのが課題かもしれません。また、介護の形態も在宅か施設かという二分法では捉えられない実態が非常に広がってきています。そのため、〈介護者×要介護者×介護形態〉で組み上がっていくような〈介護実態〉は極めて複雑になっているわけです。ですから、従来の個別の介護支援策の限界も、多くの人が指摘するように、私たちにも見えるようになってきたということです。このような複雑化する介護実態に対応する新しい支援策をどう考えていくのかということだろうと思いますが、私の報告は対応する新しい支援策の複雑化をどう縮減していくのかというツールで、「組み上がり」、「支援の組合せ」というキーワードを持って考えてみたいと思います。

 こんな枠組み ( スライド ) 1 つあるかと思いますが、例えば仕事と介護の両立支援は、介護環境を整備することと労働環境を整備することの 2 つの組合せがなければ始まっていかないと思うのです。しかし、労働環境と言っても非常に複雑で、労働者の身分・賃金・福利厚生もあれば、休業などの柔軟な働き方がなければ、家族のケアを引き受けることは非常に困難になってきます。だから、家族のケアを引き受けるにふさわしい柔軟な働き方の開発が当然必要になってきますし、企業風土・企業文化のテーマもあります。介護環境と言っても、フォーマルな資源もあればインフォーマルな資源もある、あるいは家族資源がなければどうしようもない実態もあって、その家族をどう支援していくのかという支援方策の検討も始まっていく。そう考えると、新しい介護実態の複雑性に対応する両立支援のための支援組合せ制度や、支援するケアマネージャーや人事担当者、及び働きながら介護している人がその力を付けていくための情報、トレーニングのようなものをどう作っていくのかということを併せ持って議論しなければ難しいのかなと思います。

 仕事と介護の両立支援の 1 つの例として、京都府の支援組合せの事例を御紹介したいと思います。「介護プラットフォーム」という事業を 2013 5 月から始めて、この参画メンバーとして行政では、京都府の男女共同参画監、高齢社会監、雇用対策監と、それに関連する各部課の幹部が参加しています。それ以外にも市町村の担当者、国の事業ですので、京都の労働局雇用均等室長も入り、労働者団体からは連合京都、経営者団体からは京都経営者協会、地域・福祉関係団体からは介護事業者、 NPO 等も入ってきます。学識経験者は京都府参与 ( 私のこと ) が参加するということで、府男女共同参画課が所管しながら雇用環境と介護環境を取りまとめて、仕事と介護の両立はかくあるべきではないかという意見書をまとめてスタートさせたのです。そこの 1 つの成果物が、今日お配りした「仕事と介護の両立支援ガイドブック」という冊子です。保険の担当課でも雇用の担当課でもない男女共同参画担当という行政セクションが作っているというのがミソだと思います。

 同じ介護プラットフォームでは「仕事と介護の両立に関する実態調査」が行われたり、仕事と介護の両立支援事業として今年度始まった事業ですが、幾つかの提案を出した中で 1 つだけ新規として立ち上がった事業もあります。先ほどの「支援の組合せ」ですが、人事・労務担当者に介護をサポートするような社会資源をしっかり伝え切る作業と、ケアマネージャーに両立支援のための労働環境、介護休業等の支援をしっかりトレーニングする仕組みを初めてやっているわけです。「企業応援チーム」というのですが、仕事と介護の両立を図るために京都府が社労士やキャリア・カウンセラー等々に委嘱しながら企業応援チームを作って、京都ワーク・ライフ・バランスセンターに設置して、企業の社員向けのサポートや企業向けのアドバイスを行う、あるいはケアマネージャーの免許更新研修のときに 1 枠取って仕事と介護の講座をする、あるいは介護する人へのアセスメントシートなどの提案をしてきました。これも男女共同参画課というセクションがやっていますので、こういった取組というものが、ある意味必要になってくる仕事と介護を巡る情勢です。どういう効果が出たのかは、まだ効果検証ができていないので、こんなことをやっている最中です、という御報告です。

 私がやっている「男性介護ネット」の経験からは、こんなことが大枠として言えるとおもいます。エビデンスがないので、私のこれまでの活動の経験や知見から申し上げるしかないのですが、これまでの介護のシステムとスタイル、無償で無制限で無限定の家族介護者を前提にする、いわゆる女性モデルの介護システムとスタイルをなぞっていくだけでは、今、私たちが抱えている課題は解決しないのではないかと思います。男たちに、女たちがやってきたことと同じような介護をやりましょうというのはどだい無理な設定です。そういうことではないのではないかということです。ただ、なぞるだけでは解決しないし、新しい、もう 1 つの介護のシステムとスタイルを作っていくことが求められているのだということです。介護サービスは両立に必ず影響するし、介護者のカミングアウト、私は介護者であるという発信も両立に影響する、あるいは啓発活動はいまだに課題で、私たちの調査でも、様々に聞くテーマでも、両立支援の事業を知られていないし、使い方がまだ十分開発できていない。そこで、両立支援の事例の発掘やモデル開発、調査・広報・イベント等のツールは、いまだに両立支援の重要な柱となっていくのではないかと思います。

 介護しながら働く人のための総合相談窓口の設置や、介護に適合的な仕事の斡旋や介護離職者への職業斡旋等も必要な両立支援です。これは京都府プラットホームでも提案して、「ケアラーズジョブカフェ」「マザーズジョブカフェ」になって旗を揚げようとしたのですが、なかなか合意が得られずに予算化事業化は実現しておりません。しかし、ここでこういう旗を揚げることによって事例が集積できる、新しい知見ができるという意味では、府県に 1 か所で、どんな意味があるのだという批判もありますが、きちんとやっていくことが必要なのかなと思って、で議論を続けている最中です。

 介護者のコミュニティは両立支援に随分と大きな効果があって、また介護者自身が頼りにしている専門職は圧倒的にケアマネージャーです。ケアマネージャーからのアプローチ、ケアマネージャーへのアプローチは、両立支援に大きく影響すると確信しています。ですから、京都府の事業も、ケアマネージャーたちに仕事と介護の両立はあなた方のテーマとしてもいいのではないかと訴える場面にしているわけですが、これがどういう効果を発揮するのかはこれからの検証の課題かと思っております。

 仕事と介護の両立支援には、以上の経験からして 2 つの条件があると思います。 1 つは、両立支援の対象となる労働者像をもっとクリアにしたほうがいいのではないかということですが、それは多分 40 50 台の企業の中核的な社員たちだと思います。 40 50 代の社員たちは、社会の支え手だとは思われてはいても、社会的なサポートを受ける立場だとは余り思われていないのでしょう。しかし、 40 50 代の働き盛り、基幹的な職員たち、社員たちにも、せめて育児期並みの支援制度が必要ではないか。先ほどの中里先生の御報告を聞いても、育児期にある多様な働き方支援、あるいは柔軟な働き方支援が、 40 50 代の脂ののり切った働き盛りの社員たちにはどのように具体化されるか。、それはいまだ十分合意もされていないし、当然ですが開発も普及もしていないと思うのです。

2 点目は、両立支援の対象とする介護者像の明示と、これも多様な介護サービスの開発と普及が必要だろうと思います。働く介護者は介護者全体の中で半数を超えたということで、そう考えると、働く介護者を特殊なニーズとしない介護サービスをする。介護サービスの前提は、働いている人はほとんど視野の外だと思うのです。育児の分野でも、保育がなければ、働き方の多様性だけでは対応できない。両立は不可能です。介護サービスも、働き方を支援するような介護サービスの普及は絶対に不可欠だと思いますが、そこについてもまだ、私たちは介護保険制度も含めて十分な知見を得ていないと思います。保育サービスのように子どもと養育者を複眼の視点を持って支援するような介護サービスはまだ実現していません。

 この 2 つを組み合わせていこうとすると、どのようなことになっていくのか。〈介護する人、介護される人、介護形態、介護環境、労働環境〉の組合せで、〈仕事と介護の両立実態>が生まれていくわけです。あるいは、両立支援の方向性が生まれていくわけですが、極めて複雑です。つまり、 100 人いれば 100 通り、 100 万人いれば 100 万通りの支援がなければいけないのです。しかし、当たり前ですが、制度というのは標準化です。その標準化された両立支援策を「カスタマイズ」する、第一線、現場の中でカスタマイズすることができるような支援策、あるいはすることができる能力を持った第一線の「人事・労務担当者」、「ケアマネージャー」、「自治体」の力量形成が必要ではないかと思うのです。標準化された支援策が豊富になっていき、更に標準化されたものを現場で加工されて組み合わせ、修正等をしながら、そういったものを作っていくことが可能な標準化の作業、それをしていくための第一線の「人事・労務担当者」、「ケアマネージャー」、「自治体」が必要になってくるのか、と思っております。

 そのように考えると、介護を排除してはじめて成り立つような暮らしや働き方は、家族の誰かが必ず介護を必要とする、少子・高齢社会や男女共同参画型社会では、そういう働き方古い時代遅れのものだろうと思います。そうではなくて、介護のある暮らしや働き方を社会の標準にする。そうした場合に、どういう制度設計が必要なのかということです。介護のある暮らしや働き方を社会の標準にするということは、 24 時間 365 日介護漬けになるようなものではないはずです。例えば、いつでもどこでも誰でも必要なときに利用できるような介護資源が用意されているというのが 1 つだと思います。もう 1 つは、豊富な介護資源を利用すればするほど後ろめたさや罪悪感をもたらすような劣悪なものであってはいけない。質の高い介護資源でなければいけない。 3 つ目はワーク・ライフ・バランス、介護ができるようなあるいは介護を inclusive したような働き方、家族のケアにアクセス可能な働き方暮らし方を用意することが 3 点目の課題だと思います。そういうものがあれば、介護のある暮らしや働き方を社会のスタンダードにして、そうではない働き方をオプションとして用意する。そこに 1 歩でも 2 歩でも近付くことができるような課題を私たちは抱えているのではないかと思っています。そのためにも、仕事と介護の両立を可能とするような、当面私たちが求めているような「支援の組合せ」策、幾つかの支援をその人にカスタマイズして利用することができるような取組み、介護と労働の環境という 2 つのテーマをどのような形で組み合わせていくことができるのか、どこで組み合わせるのか、誰が組み合わせるのかが、今、私たちの主要なテーマとして浮上してきているのだと思います。以上です。

 

○佐藤座長 ありがとうございました。介護の担い手が変わってきて、当然、ワーキングケア、これは多分、池田さんが次回報告すると思いますが、海外ではかなり一般化している。女性だけでなく男性も働いている。そういう中で、その人たちが働きながら親御さんの介護ができるような介護保険制度で、普通の働き方なりケアマネージメントというお話だったかと思います。ありがとうございました。まず最初に津止先生からの御報告についての御質問を主にして、その後は中里先生の御報告を含めて全体について御質問いただければと思います。

○田代委員 ただいまの支援の組合せという施策の御提言というのは、非常に共鳴するところでございます。ただ、理想的にはそうなのでしょうけれども、現実はまだまだ程遠いと思います。現状で、例えば企業としてまずそれに向けて取り組むべきこと、今できることは何なのだろうということ。それから、これはどの分野でもいいのですが、その実現に向けて今現在で一番ネックになっている部分を御紹介いただければと思います。

○佐藤座長 企業側でということですね。

○田代委員 はい。

○津止教授 全体をお答えする力量はないのですが、私の関わってきた経験でいくと、こういう形で京都府の企業応援チームなどが、社労士、キャリアカウンセラーを嘱託として用意し、企業に出張のアドバイスと言いますか、講座なども用意しているのですけれども、なかなか利用者がないというのです。いろいろ話を聞くと、うちにはそういう人はないとか、そういうのはすぐに対応できるのだと胸を張って言われる企業も多い。 1 つは可視化も課題です。今、どのようなことがあるのか、きちんと社員の実態調査をしていくというテーマは大きい。それをすれば目に見えてくると多くの方は言っていらっしゃいます。

 京都で随分名の通った企業の中でもそんな話がありました。制度は国の基準を遥かに上回るような制度を持っているのですが利用者がいない。利用者がいないということはニーズがないということではないと思うので、多分、社員の中でどのようなニーズがあるのか実態調査をやってみようかと、そういうところから始めている所が多いです。

 ある大手の所でも、課長以上の方々に対する講座研修をキャリア・カウンセラー、京都の企業応援チームから講師を招いたら、 40 代、 50 代の中高年の社員たちが「実は私もそうなんだ」という話で盛り上がったということも聞きました。隠れ介護 1,300 万人というのも、だてに 1,300 万人という数ではないなという気がしました。そういったことをオープンに議論できるような雰囲気づくりが、ひとつは大事なのかなと思います。

 私が感想で言うと「 SOS 」を発した人は両立支援の最も大きな王道のような気がしています。いろいろな方に助けてもらうし、いろいろな資源の紹介もあってサポートも受ける。だけど、そこに至る道筋がなかなか大変だという話になりました、企業の福利厚生の一環として、 40 代以降の節目のときには定期的な健康診断とともに老親や自分と配偶者の介護についてもちゃんとそういうことも話をしていくとか講座を受ける。そこは 1 つの定型的なツールとして用意することが大事なのかなと思います。

○佐藤座長 よろしいですか。京都の 16 ページのスライドのような企業への出張相談・研修で人事の方に言っても、うちにそんな人いませんよみたいなね。当然、潜在的にはあるわけですけれども企業が把握していない。まずそこが課題だということです。両角委員、どうぞ。

○両角委員 両角と申します。とても勉強になりました。ありがとうございました。少なくとも法律の育児介護休業法などの上では、まず最初に育児と仕事の両立ということがあって制度ができ、多少違いますけれども、それを大体なぞるような形で介護休業といった制度ができてきていると思います。両立可能な働き方ということを考える上で、育児と介護で共通する部分も多いと思いますが、本質的に違うところがありますでしょうか。違いに配慮すべきところがあれば教えていただきたいと思います。

○津止教授  1 つは期限が限定されないということです。いつまで続くか分からないし、いつ取ったらいいのかも分からない。そういう不安定さは常に抱えているということです。育児の分野は、シングルマザー、シングルファーザーの課題はあるけれども、夫婦でどうするかという議論です。介護は多分そうならない。配偶者の介護になっていくと夫婦でどうしようかという話でもない。あるいは高齢の両親の介護分野でも夫婦で相談しながらするけれども、主たる介護者は実の子供たちになっていく。そうしていくと介護の資源として家族資源が随分限定されてきて、小さな家族資源の中で誰が介護の役割を担うのか、選択的でなくなってきている。そこが男性たちが介護の現場に参入せざるを得ない大きな背景要因だと思います。男性たちが介護の現場に参入せざるを得ないけれども、参入していくための環境整備が整っていない。多分、雇用の分野でも、男たちのように働く女性たちをもって女性の活躍推進となるとは言えないのだと思いますが、女たちのように介護しようということをもって、これから新しい介護のあり方を考えていくことだってできないはずです。むしろそういったことを議論することによって、これまでの主たる介護者たちが担ってきた課題を違う形で解決していく。そこが実は道を開いていくテーマだと思うわけです。育児休業に接続される保育のように育児と共通する項目も多いけれども、実は独自、固有の分野というのはかなり重いテーマ ( 介護のある暮らし ) があって、しかし、その重いテーマというのは、そこを切り開くことが可能であれば、この社会が見たこともなかったような新しい地平が開ける。そういう気が私はしているわけです。

○佐藤座長 よろしいですか。子供は夫婦の子供だけれども、親はそれぞれの親ということが具体的な場面になると出てきてしまうというお話でした。ほかに御質問とか、中井委員、どうぞ。

○中井委員 ありがとうございました。 17 ページで男性介護ネットでの御経験から、介護感情を分かち合えるようなケア・コミュニティが、両立にも影響しているというコメントがございます。私どもの調査の中でも、介護をしている方は非常に精神的にしんどいとか辛い。分かち合える相手がなかなかいないという御意見を伺うことが多くあり、私もこういったコミュニティが大事だと思うのですが、先生から見られたときに、こういったコミュニティは企業の中にも持ったほうがいいのか。それとも、こういったものは企業の外の先生がやられているようなものを活用したほうがいいのか、先生はどちらのほうがいいとお考えでしょうか。御意見を伺えればと思います。

○津止教授 両方必要だと思います。身近な場でも必要だし、同僚の中でそういうモデルがあれば、なおよいという感じです。介護を担っている方々を中高年の社員たちを集めて議論させると出てくるのです。実は私もそうなんだ、実はこれをまっていたんだ、これが不安なんだ、近所の人がそうなんだ、職場の同僚・友人がそうなんだということで、介護談議に花が咲くという状況が珍しい風景でなくなったと思います。介護をしている男性たちは随分手強い介護者だとケアマネジャーたちは言いますね。介護の現場の専門職たちが手強い介護者だと思っているのは、スキルもあるし情報収集力もあるし能力も高いから手強い。自分なりの介護意識もしっかり持っている。言うことを聞いてくれないので指導しにくい、アプローチしにくいという困難事例の担い手のターゲットとして、男性の介護者は語られる場合が多いのですが、彼らが同じ介護をしている人の話なら素直に受け入れているという側面も多いのです。

 それを、私はどんなふうな議論の仕方をしているのかと思って見たら、援助職、専門職の多くは一般論の話を始めるのです。私が聞きたいのはそういうことではないのだ、私の母親が認知症になったけれども、その母親は認知症の初期診断をしっかりすれば、後の介護の方法も随分楽なんだという話を聞いているので、母親の認知の症状について病院の先生のしっかりとした診断を受けたいのに行こうとしない、どうしたらいいんでしょうかという話のときに一般論を言われても、とんでもない話ですね。その人の御家族の関係とか、これまでの関係、その人の症状など、いろいろ聞きながら回答を出していくのでしょうが、介護者同士の中では、私の場合はこうでしたという話が多いのです。自分の経験を語ることができる。ある人の経験が即座に私の役に立つことはないかもしれないけれども、そういうやり方をやっている人もいるんだなということで、絶対化から解放されると言うのです。絶対ということではなく相対化されるということ。自分を相対化することによって随分気持ちが楽になるという話がありました。そういった場面が同じ介護を抱えている当事者同士であれば、私の場合はこうだったという議論が始まっていくことによって、そこから新しい知見が生まれ出ていく可能性がある。そこを地域でも職場でも、その他のいろいろな所でも作り上げていくことが、多分、私たちが持っていないような新しい介護の知見というか、そこに辿り着いていく王道ではないかと思っています。

○神吉委員 私も先ほどの両角先生と同じ問題意識を持っていて、法律のパッケージとしては高齢者介護であっても育児であっても、ほとんど同じものを用意していると思います。ただ、育児と高齢者介護だとニーズが違うだろうと。それで今、同じようなパッケージになっているものが、うまく対応できていないのではないかという問題意識だったのですが、今日の資料の 18 ページの (1) で、介護をしている方が、せめて育児期並みの支援制度をと言われましたけれども、この内容が分からなかったので、具体的にどの制度が育児期に足りてないとお考えなのか、具体的なところを教えていただけますか。

○津止教授 例えば介護休業制度と育児休業制度の比較でも、介護休業制度としては、国の最低基準と 1 部上場の大手の体力のある会社とは随分違うかもしれませんが、 93 日と、育児休業は 1 歳になるまで、保育法等を担保すれば 1 歳半まで、休業手当のほうも半年間は 3 分の 2 、それ以降は 5 割、介護のほうは 4 割の介護休業手当で、しかも 3 か月分だと。企業の中でも、支援が随分豊富で企業内保育を設置する所も少なくないですが、企業内デイサービスというのは聞いたことがないので、多分、そういう働き方の支援も違うし、保育サービスと介護サービスの違いもある。

 保育がなければ両立は不可能ですが、保育のほうでやっている観点でいくと、介護の中の介護サービスの利用などはデイサービスを利用しようとすると利用のあり方や利用のメニューみたいなものは、介護されている人の要介護度によって上限やメニューが決まってくるわけです。例えば、要介護 1 であれば週 1 回程度のデイサービス、残りの週 4 日はどうしますか、それは家庭の中で考えてくださいという話で、一緒に暮らしている家族のことを勘案するようなシステムになっていない。本人支援のテーマでのサービスになると、働き方、つまり介護者を支援するということと介護される本人を支援するということを一体的に考えていくことが出来るような制度の枠組みとシステムが大きなテーマかなと思っています。

 介護の分野でいくと、一緒に暮らしている家族のことを勘案するような仕組みになっていないことが、介護保険制度が始まって 15 年たったからこそ分かったことだろうと思います。昔、私たちもそうだったかもしれませんが、介護されている人の支援を強化して十分に行き渡ると、介護している人の負担はなくなると思っていたのですが、実際には介護されている人の支援と介護している人をサポートする仕組みは、関連はするけれども別枠だということが、よりクリアになってきたということだと思います。

○神吉委員 ありがとうございます。とすると、福祉の部分はちょっと置いておき、今回、育介法で見ていくと、育介法が規定している育児休業の日数といったものは量的に足りないという御意見と承ってよろしいですか。

○津止教授 量的に拡大して、さあ、どうなんだろうかと思うのですが、せめて育児期並みの期間があれば用意ができるし準備ができる。その間に介護の見通しにも持っていけるだろうと思うのですが、連続休暇だけでなく短時間勤務制度などもいろいろあって、あるいは月のうちに 3 分の 1 程度休むことができて、例えば月火水木金の中の月木金だけはデイサービスセンターの利用があるけれども、火水については休暇を取るとか、そういう複雑な組合せみたいなものを、介護サービスの現状や自分たちの介護方針の決定と併せて、少し組み合わせることができればかなり大きな前進はあるのかなと思います。

○石山委員 御発表、ありがとうございました。介護者が頼りにしている専門職は圧倒的にケアマネということで、みずほ総研さんだったと思いますが、主な介護者の相談相手というところで 1 位は家族だったのですが、 2 位がケアマネジャーになっていました。その中で家族機能が徐々に変化し、家族の構成員の数も少なくなっていることを考えると、ケアマネジャーの存在は大変大きくなっていると感じています。ただ、その中で考えるのが、ケアマネジャーが果たす機能は介護にまつわる家族も含めた分析をすることと、その分析結果に基づいて家族の相談・援助も行っていくこと。併せて具体的な解決策としてのサービスを結び付けていくことになります。ですからケアマネジャーだけが何かをできるわけではなく、時間的、物理的な提供として実際のサービスが提供されなければ、家族の負担は軽減されないことになります。

 総合的な形で考えなければならないという、津止先生のお言葉から考えていくと、私も賛成なのです。ここは育介法の研究ではあるのですが、家族の負担感、仕事の継続性を高めるという観点では、今、地域包括ケアシステムも押し進めていきましょうということになり、在宅重視となっていますが、一方で在宅で全ての介護を専門職に渡せるだけの単位数がない。ただ、これを渡すことは財源的にも難しいというふうには理解しています。ですから、家族が存在することをもって、例えば家族同居の生活援助は算定できにくいというような状況を改善していかなければ、家族が存在することと家族としての機能を果たせることは別ですので、そういった分析の仕方を変えていかなければ、こういった在宅生活が難しくなると思いますので、両輪で考えていく必要があると思っています。

1 点、質問させていただきたいと思います。ケアマネジャーを頼りにしてくださっているということで、実際に先生が御覧になった所で京都府等でも結構ですが、ケアマネジャーと就労されている御家族の面接は、どのような形態でなさっているものが多いのか。もしお分かりになりましたら教えていただきたいと思います。

○津止教授 ちょうど私が持っている資料で、ケアマネジャーたちへの更新研修の際に講師が用意した資料の中に、家族のことも見てみましょうということの項目があって、家族の健康状態、家族の就労状況、家族資源の同居している、別居している、サポートしている方々の状況、家族のニーズがどこにあって、家族の収入状況等々、これを全部見渡してみましょうということをお話すると、みんなそうだと思うのですが、なかなかそこに行き着く支援の社会資源がない。その社会資源の開発みたいなものがどうしても必要ではないかとおっしゃる方が多いと思います。

 具体的な話を紹介すると、その人の置かれている立場で、ケアマネジャーとしては随分できる条件が限られてきたけれども、いろいろな所と繋いでいくようなシステムがあれば安心するという話です。仕事と介護の両立支援でいろいろな所と繋いでいくためのシステムの 1 つとして、「ケアラーズジョブカフェ」みたいなものがあればいいのではないかと、私たちの結論はそこに至ったのです。そこの持ち出す先がないというのが多くのケアマネジャーたちの意見でした。話は聞くけれども、そのことを解決するための方策が少ないから、寄り添いながら話を聞いて励ましていく。そこが今の到達段階ですという話でした。

 先ほど、家族の次にケアマネジャーを頼りにしているという話でしたが、私たちの調査では家族よりも圧倒的にケアマネでした。家族の支援は小さいので介護の相談相手としてしっかり対応しうるかと言えば、難しいのかなと思います。ケアマネという大きな存在があって、そこに家族支援あるいは介護者支援というテーマを、ケアマネの中に作っていくことにするのか、ケアマネとは別枠で作っていくことにするのかは、大きな政策判断かもしれませんけれども、誰かがその相談に乗って方向をきちんとサポートしていくような課題を、私たちは背負っているのではないかと思います。

○佐藤座長 時間も過ぎてきましたので、中里先生への御質問、あるいはお 2 人に質問があれば伺います。池田委員、どうぞ。

○池田委員 津止先生に追加の質問です。先ほどの両角先生と神吉先生の御指摘に関連して。端的に言って、仕事と介護の両立で何が一番きついのか、日々の活動の中で強く実感していることをお聞きしたいと思います。先ほどの「育児で立てたフレームを介護に応用していく」ということは、端的に言えば仕事時間と生活時間の時間的な噛み合せがうまくいっていないことが、クリティカルに両立を困難にする面があります。先ほど中里先生から御指摘のあった育休期間と保育の開始時間であったり、日々の労働時間と保育所の開設時間ですね。その噛み合わせが上手くいくように、育休期間や短時間勤務などいろいろな制度がデザインされてきた。そういう施策の経緯があると思います。

 そうすると、仕事と介護の両立支援も同じ発想でやっていけば問題が解決すると考えていいのか、何か発想を変えないといけない課題があるのかどうかが、つまり、育児と介護を同じ発想の延長線上で考えていいかどうかの一番基本線になる問題だと思います。その観点から両方大事だという面はあると思いますが、津止先生が普段感じておられることを、是非、この機会に伺っておきたいと思います。

○津止教授 多くの人の言っている中身を聞くと、仕事か介護か二者択一を迫られるというのがあって、二者択一を迫られて仕事を選択したとしても、介護の引受け先が難しい。介護を選択したとしても、それに伴う収入の問題とか社会的な孤立の問題、相談先の問題など、そこのリスクが付きまとう。いずれを選択したとしても納得できるようなことではないというのが、多くの人が言っている話だったのです。仕事か介護か二者択一を迫られるけれども、どちらを選択してもリスクが付きまとうという、そこの十分な精査みたいなものが必要なのかなと思っているわけです。

  介護休業制度で 1 年間取った方がいて、これは JR 東海の方でしたが、その 1 年間の中で次の見通しができなくて、結果的に離職せざるを得なかったということです。だから介護休業制度の連続休暇みたいなものを 1 年とか 2 年を長期化したとしても、その次の見通しみたいなものに繋げる作業がないと意味がないことになります。育児休業と保育を連結させる仕組みのように、介護の分野でも、短時間勤務制度を含めて介護休業と介護サービスを連結させていくようなものが、どうしても必要だと思います。私の言葉で言えば、支援の組合せみたいな発想で作業していくところをどこに求めるのか。私などは第一線のところが一番いいのではないかと思ったのですが、どこに求めているのか。そのためのシステムをどう作っていくのかというところの課題なのかなと思います。

○佐藤座長 いいですか。ほかには、どうぞ。

○神吉委員 お話を伺って、どちらも柔軟なニーズに対応できるような制度が必要なのかなと思ったところですが、そう思ってみると日本の場合、要介護状態ごとに 93 1 回であるとか、育児であれば基本的に 1 歳までとか、そういった長期で 1 回というものを想定しているのが使いづらいのかなという気がいたします。

 中里先生の資料 1-2 の表でちょっと気になったのが、 (12) の所得時期の延期可能と、 (14) の期間も分割できるというのが、日本以外の国では主流というか、ここに挙げられている国では原則なのかなと思って、それが非常に興味深かったのです。日本の場合、取得時期の延期は不可ですし、期間の分割も産後休業中は分割可とありますけれども、これはかなり例外的な話です。延長部分も再度取得と言っても、これもかなり例外的で、基本的に分割はあまり考えていないと思います。でも、そうでない外国がかなり多いなというのが印象的でした。こういった外国の研究者の方とお話をされているときに、どうして日本はこんなに固定的なのかといった問題意識を感じたことはありますか。

○中里教授 表面だけ見ると、 60 何パーセントの給付を 6 か月も受けられるというのは generous 、寛大だなというふうにパッと見えてしまうのですが、実は前提として、最近の変化は専業主婦の家庭が割合として多いために、専業主婦でも父親が取れることを可能にするような方法で考えられてきたのですが、先ほどの佐藤先生のお話で、就業継続していて 2 割ぐらい旦那が取得ということですけれども、それがなぜ 2 割なのか。就業継続の人がだいぶ増えてきていますけれども、育児休業の男性の取得率はあのレベルなので、なぜそうなのかというところに、そろそろウエイトを移してもいいのかなと感じるところです。実は日本で専業主婦が多いと言っていたけれども、かなり女性が育休を取得して続ける割合が増えてきていますし、逆に言うと、その前提でお母さんにとっては非常に長い給付付きの休業が可能で、これもほかの国にはないぐらい寛大です。柔軟ではないけれども量としては非常に多いです。それが逆に、父親が取らなくても済んでしまう環境を作っている面もあるのですが、だからといって、今ある権利を奪えるかというのはなかなか難しい。北欧の議論は、全体としてあるものをどれだけ選択の分を残すか。それとも割り当ててしまうか。家族の自由に任せればいいではないかという保守派と、つまり全部母親が選んでもいい、もっと長く母親が選んでいいというのと、父親に取らせなければいけないと言って父親の分を固定してしまうという、ある意味自由を奪ってしまうほうが、どちらかというと社会民主主義的なほうの制度になって、ちょっと前提を少しずつ変えていく必要があるかなと思います。

○神吉委員 母親が長期取得できるというのは、父親が取らなくていいという方向に向きますし、母親が復職するのを難しくするバリアにも多分なっていると思うので、それを分割取得で短期でニーズに合わせて取っていき、しかも取得時期を延期するというのも 1 つの選択かなと思います。

○中里教授 スウェーデンは 1 日単位とか、何分の 1 日単位です。

○神吉委員 それは何回も分割することができるのですか。

○中里教授 そうです。何回も。

○神吉委員 その分割の限度は。

○中里教授 固まりとしては 1 年に 3 回までと書いてあります。ただ、日単位で選んでいけたりする。だから週とか月という提示の仕方をしないで、何日という提示の仕方をスウェーデンがするのは、そういう前提があるからです。

○神吉委員 育児中は有休が増えるようなイメージですかね、日本の感覚で言うと。

○中里教授 そういうことになりますかね、期間がその分延びて。

○神吉委員 それは興味深かったです。ありがとうございます。

○津止教授 今のお話にちょっと感じることがあったのですが、介護はルーティン化できるところと、緊急時対応みたいなのがあるのです。症状が不安定になって要介護が上がってくる。認知症の場合だったら徘徊が始まったとか、そういう緊急時対応への対応の仕方と、ルーティン化で平穏な介護生活のときの支援の仕方が随分変わると思います。緊急時があり得るということを前提とした制度設計を考えると、長期の何か月というところもあり得るけれども、その中でどのように資源を重点的に投入していくのか。そういったことがあってもいいのかなと思います。さっきの分割という方法も取れるかもしれませんし、連続休暇がそうかもしれませんし、短時間勤務制度があるかもしれない。そういったことを自由に組み合わせながら対応できるようなもの、そういう能力を開発していくのと、そこをサポートするようなシステムを作っていくところがあれば、随分変わった環境になるのかなと思います。

○佐藤座長 大体、よろしいですか。

○両角委員 中里先生のお話で、池田委員が先ほど言われたことですけれども、男性の育児休業と言うときに産後に父親休業みたいな形で取る話と、もっと中長期的に取って働き方を調整するという話と、 2 つあるような気がして、どちらもという選択もあると思うし、どちらに重点があるのかという話もあって、これらが北欧やポルトガルで別々の制度とされているのが、それなりに意味があると思いました。

○佐藤座長 何かあれば。

○中里教授 私自身は、そこを分けて考える必要があると思って、それで表も分けているのです。当面はポルトガルのように、妻と一緒でもいいけれども、父親が子育てのハードさというのを、まずは最初に、 3 日とかでなく 2 週間なりで経験する。まずハードルの低いところで両方が一緒に経験した上で、あとでもう少し緩やかな形でクオータのようなもの、パパ・ママ育休プラスをもう少し実質的に使えるようなものをする必要がある。育児休業を取った男性に聞くと、半分の人たちは妻が仕事に戻らなければいけないという場面に遭遇したときに、どういう選択肢があるんだとなる。保育園には 1 歳になるまで入れないようだというので、そのときに初めて制度を詳しく見て、(父親の育児休業が)ありそうだということは知っていたけれども詳しく厚生労働省のホームページを見て、会社のイントラネットを見て調べて、理論武装した上で上司に説明に行くというのがあるのですが、父親にとって必要に迫られない状態が主流になってしまっている。母親にとってはたくさん必要があるのですけれども。

○佐藤座長 まだまだ議論したいと思いますが、今日、伺っていて中里先生のお話ですと、私はそうかなと思ったのは、スウェーデン、ドイツなどは男性の育休取得率は 2 割台です。日本も先ほど私が言ったように、妻が働き続けていると男性は 2 割取っているぐらいだとすると、日本で男性の育休取得率を上げていくには、女性が働き続けることを強力に進めないとなかなか実は難しいのかもしれない。もしかすると、そっちが王道なのかもしれない。だから日本の実情は、女性の現状で言うと、かなり妊娠・出産で辞めているという、ここをどうするかが実は大きいのかもしれない。海外でも 2 割台だとすると。

 あと津止先生のお話を伺うと、この研究会では企業に雇われて働いている人が介護を両立できるように企業もそういう人を支援するということですが、子育てと違って、実は 65 歳で辞めた後も、社員の側からすると介護の課題はずっとあるわけです。 65 歳までは、もちろん企業からいろいろな情報を受けたりとかあるわけですが、 65 歳を過ぎたらバタッと相談先もなくなる。これをどうするか軟着陸ですね。津止先生のお話から本当は考えなければいけないのかなと思いました。ただ、企業からするとなかなか難しいです。つまり企業をリタイアした後も介護は続く人が実は多いわけです。 65 歳まではいろいろ企業にも相談したりアドバイスをもらえたのが、辞めてしまうと企業としてはいいわけで、ここをどうするか。企業は一生懸命やればやるほど、 65 歳で辞めたときの落差が大きいので、これは少し先の話ですけれども、結構課題として出てくるかなと思いました。お 2 人には、お忙しいところお出でいただいて、ありがとうございました。非常に勉強になりました。そういうことで時間も過ぎてしまいましたので、もう 1 つの議題、厚労省が進めている職場環境モデルについては、明後日、御説明させていただく形で進めさせていただければと思います。明後日は御報告と個別の論点の議論もしたいと思います。そういう形で進めさせていただきたいと思います。次回の日程について御説明いただければと思います。

○中井職業家庭両立課長補佐 本日は誠にありがとうございました。次回の日程は、 2 12 ( ) 、明後日の午前 10 時から 12 時になっております。明後日です。日程が詰まっていて申し訳ありません。場所につきましては厚生労働省 19 階共用第 8 会議室ですので、よろしくお願いいたします。

○佐藤座長 また、すぐお会いすることになります。よろしくお願いします。ありがとうございました。


(了)
<<照会先>>

雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課
電話 03-5253-1111(内7864)

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