ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 労働政策審議会(電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会)> 第4回労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会 議事録(2015年1月16日)




2015年1月16日 第4回労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会 議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成27年1月16日(金) 10:00~12:00


○場所

厚生労働省 専用第21会議室
(中央合同庁舎5号館17階)


○出席者

【公益代表委員】

勝部会長、河野委員、中窪委員

【労働者代表委員】

内田委員、新谷委員、蜷川委員

【使用者代表委員】

井上委員、川口委員、鈴木委員

○議事

○勝部会長 皆さん、おはようございます。ただいまより「第4回労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては大変御多忙の中をお集まりいただき、誠にありがとうございます。

 議事に入る前に、事務局から定足数等について報告いただきたいと思います。

○労政担当参事官室室長補佐 本日は仁田先生が御欠席ですが、出席委員は9名となっており、委員全体の3分の2以上の出席で定足数を満たしておりますことを御報告申し上げます。

○勝部会長 ありがとうございました。それでは、早速議事に入りたいと思います。机上の資料13につき、まとめて事務局から説明をお願いしたいと思います。

○労政担当参事官室室長補佐 資料の説明に入ります。資料1は、昨年2回実施した現地視察の概要報告です。第1回は平成261125日、東京電力株式会社中央給電指令所、同品川火力発電所の視察にまいりました。供給区域は関東16県、山梨県と静岡県の一部です。

 中央給電指令所の業務ですが、需要想定、発電計画、系統信頼度などを元に年間、月間、週間、翌日の運用計画を作成し、これをベースに時々刻々と変化する需要に応じて発電力を調整し、需要と供給のバランスを維持しています。作業員の業務についてですが、15人で構成され、5班体制で合計25人、全体を見る管理職を各1名配置、3交替制ということになっています。

 以下、主な意見交換の概要です。需給調整の指令について、自動調整に課題があるけれども、極力、自動調整を行い、課題の抽出と改善を図っている。また、新電力の指令について、新電力その他は供給パターンが決まっている契約のため、特に中央給電指令所から指令は出しておらず、新電力が契約どおりの供給ができない場合には、約束した供給量から大幅に外れた場合、インバランス料金を頂いている、などの質疑応答がありました。

 次に品川火力発電所ですが、発電所の概要としては、発電設備は機動性に優れているものが採用されており、発電効率は約55%と高効率、基本的には24時間運転ということです。中央操作室の業務ですが、主な業務は発電状況、燃料供給の状況、防災設備の状況、送電状況の監視とトラブル対応です。中央操作室の作業員の業務ですが、作業員は12回交替制で実施されているということです。

 以下、主な意見交換の概要です。中央操作室の通常運転での業務は主に監視ということですが、計器の点検等発電所の事情で出力調整をしなければならない場合もあり、運転状況が不安定になったとき、定期点検後の試運転時は手動での操作が必要になる。また、IT化による自動化について、平成15年には約150人だったけれども現在は100人になっているなどの質疑応答がありました。

 次に、第2回現地視察概要の報告です。第2回は1219日に実施しました。川崎天然ガス発電株式会社の川崎天然ガス発電所に行っております。

 発電所の概要ですが、運営は川崎天然ガス株式会社で、平成13年設立、JX日鉱日石エネルギー51%、東京ガス49%の共同出資です。平成20年から運転を開始しており、こちらも発電効率が57.6%と高くなっております。中央操作室の業務ですが、発電量は両親会社と協議の上、発電量を自動調整しているとのことです。運転員の業務ですが、運転員は42交替制で管理職はいないとのことです。

 以下、主な意見交換の概要です。電力は安ければよく売れるのかという点について、電力は市場価格より高ければ売れないため、安価な電力を供給するために、タービンの建屋がない構造とするなど、従来にない発想でコストダウンを進めて、少人数で効率的な経営に努めているところが大手電力会社とは異なる。また、労働者は全てJX又は東京ガスからの出向者であり、労働者は出向元の会社の労働組合に所属しており、川崎天然ガス発電株式会社独自の労働組合はないことなどについての質疑応答がありました。資料1の説明は以上です。

 続いて資料2の説明です。資料2はこれまでの議論を踏まえ、以下の論点で整理したものです。第1に労働基本権の保障とスト規制法、第2に電気の安定供給と特殊性、第3に電力システム改革の影響も想定した検討ということで、1.電気事業における労使関係、2.電気事業者間の競争環境、3.電気事業の業務、それから第4に今後の方向性、と論点に整理して分けております。

 次に、資料3は先ほどの論点に基づいて、これまでの部会における主な意見を整理したものです。まず労働基本権の保障とスト規制法です。

・憲法第28条では、労使間の対等な交渉を促進するため、労働者に団結権・団体交渉権・団体行動権を保障している

・憲法上の争議権は、全ての争議行為を保障する権利ではなく、主体・目的・態様等の観点から「正当なもの」と認められる場合にのみ、刑事・民事免責を享受する

・スト規制法は、国民の日常生活・国民経済に支障を生じないようにする観点から、電気事業の争議行為のうち「正当でないもの」を明確化し、禁止したもの

・労働関係調整法では、電気事業を含む公益事業に対し、争議行為予告義務や内閣総理大臣による緊急調整等の特別な規制が設けられている。諸外国には電気事業に限定して争議行為を規制する労使関係法制はない

・労調法の緊急調整は労働争議の早期解決が目的であるのに対し、スト規制法は正当でない争議行為の未然防止が目的である

ということをまず確認いたしました。

 これに対し、争議権の保障について公益委員からは、「電気の安定供給は重要だが、それが憲法や労働組合法で保障されている権利と調和の取れたものになっているのか議論すべき」、労側委員からは、「労働三権は、憲法第28条に定める生存権的基本権とも言えるものであり、電力労働者の労働基本権を回復するべき」「電気事業に限って、争議権が制約される理由が理解できない」などの意見がありました。

 労調法との関係についてですが、労側委員からは、「労調法によって特別な規制がかかっているにも関わらず、スト規制法によって、更に規制をかけて屋上屋を重ねているのではないか」、使側委員からは、「予告をするのだから影響はないかということだが、予告をされるだけで非常に大きな影響が出てくる」などの意見がありました。

 次に、正当でない争議行為の範囲についてですが、公益委員からは、「争議行為には、そもそも業務を停廃させ使用者に損害を与えることによって圧力をかける、言わば戦いのための武器という性質がある。業務を妨害することとは密接不可分の関係にある一方、憲法第28条の枠内で労働者の権利として定められているため、その限界をどこに置くかはなかなか難しい問題である。正当か否かは、最高裁に行かないと最終的な判断がなされず、かつ、実際にストライキをされることがないとすれば判断はなかなか出ないと思うが、普通のストライキをした結果として、電力の供給が阻害されてしまうことが常に「正当でない」かどうかは議論の余地があるような気がする」との意見がありました。労側委員からは、「スト規制法において、本来正当な争議行為まで正当でない争議行為とされているのではないか、疑問がある」また、「今の時代に合った法整備が必要」との御意見がありました。

 次に争議権の行使についてですが、公益委員からは、「権利を回復したら、権利は行使することができる」「国民感情としては、災害等による停電は受け入れざるを得ないが、労使の争議によって停電するのは受け入れ難い」との意見がありました。労側委員からは、「電力システム改革を実施して多様な事業者による競争環境を整備するというのであれば、労働者としても抑止力を強化して労使対等の立場に立つというのは、至極当然のこと。電産ストの例からも、組合員の理解の得られない争議行為は組織の崩壊を招く。経営者も争議行為が起こらないよう努力をするもの」との意見がありました。

 続きまして論点2、電気の安定供給と特殊性についてです。まず、

・現在の電力使用量はスト規制法制定時の20倍程度であること

・「電気は貯められない」ため、電気事業者は、需要(消費)に対して供給(発電)を瞬時瞬時に合わせている、もし需要が供給能力を超えてしまうと、電力ネットワーク全体が維持できなくなり、予測不能な大規模停電を招いてしまうこと

・これまで民間電力会社10社の垂直一貫体制による地域独占、電力システム改革後も、一般送配電事業は引き続き独占

ということを確認いたしました。

 これに対し、安定供給の重要性について、公益委員からは「昭和28年当時と比べても、今の電気の価値は、命に関わるくらいに高まっている」、労側委員からは、「これまでの電気事業では、かなりの設備投資を行うことで電気の安定供給に資している」「電力の安定供給は労使双方に共通した想いである」などの意見がありました。使側委員からは、「スト規制法の保護法益である『電気の正常な供給の確保』は、依然として重要である」「電力会社の使命は電気を安定的にお客様にお届けすること」「東日本大震災を契機とする電気の供給不安が未だ解消されていない」「電力の安定供給は事業の根幹に関わる、社会としても経済の根幹に関わる問題になるのではないか」などの意見がありました。

 次に電気の特殊性について、公益委員からは、「電気は代替手段があまりない」「電気が止まったときにどのような影響があるのか先行きの不透明感を感じる」「電気は貯められないし、常に需給バランスを調整して周波数が乱れないようにする必要がある」との意見がありました。労側委員からは、「電気事業だけではなく、ガスや情報通信も国民生活のインフラである」「代替手段があまりないという点は、電気以外の社会インフラでも同様」「スト規制法は、昭和27年に電産ストが起こり、当時の世論や国会の意思によって制定されたという経緯によるもの」という意見がありました。使側委員からは、「電気が他と異なるのは、電気は貯められないため、需給バランスを一定に保たなければ電気が止まってしまうというところ」「電気は他のエネルギーと比べて止まった時の影響が非常に大きい」との意見がありました。

 次に論点3.電力システム改革の影響も想定した検討です。(1)電気事業における労使関係についてですが、まず

・昭和52年のスト規制法調査会の提言により電気事業労使会議を開催していること

・震災前までは、毎年、春闘の時期に争議行為予告を行い、スト権の確立もしているが、近年、争議行為は行われていないこと

・電力労使の労働協約では、一般に争議行為の不参加者の職種・人員について事前に会社と協議するような保安協定があること

などを確認しております。

 これに対して公益委員からは、現状について「現在の電気事業の労使関係は安定している」「電気の安定供給は大切であり、労使の責任ある態度によって、それが維持されていることに敬意を表したい」との意見がありました。労側委員からは「民間労働者は、自由競争の下での健全な労使関係の中で、労使協議を通じてお互いの力で問題を解決していくことが基本」「昭和27年に電産ストが発生した当時の労働運動と今とは全く異なる」「争議行為を行うに当たっては、通常労使間で争議不参加協定を結ぶ。電気の供給を止めた場合の社会的な批判も労使で十分に考えるところであり、そこは成熟した労使関係の中で対処されるべき」との意見がありました。使側委員からは、「現在の労使関係は良好であり、今後どのような環境になっても、引き続き良好な労使関係を維持することが経営者の責任」との御意見がありました。

 更に電力システム改革後について、公益委員からは、「電力システム改革によって、発電部門に様々な事業者が参入することによって、労働環境が不安定になってくるのではないか」「現在のような安定的な労使関係が保てるかどうか、今後に向けて不安なところがある」「多数のプレイヤーが登場すると、一面では、労使紛争が発生しやすくなる条件にはなる」との意見がありました。労側委員からは、「電力システム改革があっても変わらない」「労使関係は継続的なものであり急に変わるということはない」「仮に発送電分離がなされると、労働組合も会社もn個となるが、さらに労働組合のない発電事業者が参入した場合にどうするかという課題が残っている」「送配電と広域機関との関係、管内の発電所がいくつになるのか、他社とアライアンスを組むのか等、将来的な状況は分からない」などの御意見がありました。使側委員からは、「将来については不明だが、現在、既に新電力の登録が増加しており、異業種からの新規参入によって競争が激化することは間違いない」との御意見がありました。

 続きまして、(2)電気事業者間の競争環境についてです。まず、

・第2弾電力システム改革によって発電・小売は全面自由化するが、送配電は引き続き地域独占、発電・小売の新規参入が期待されるが、すぐに電力会社間のシェアが変わることは想定されず、実態が変わるには非常に時間がかかる

ということを確認いたしました。

 これに対し公益委員からは、「発電事業が自由化されて様々な業者が参入すると、代替供給者が増えるので、一部の発電所でのストライキは致命的ではないといった状況の変化が起きる可能性があり、そういった点を検討することが必要」「電電公社民営化時の特例調停制度の過程が参考になる」「独占から自由競争となる過程で、どのような環境変化が起こるのか丁寧に見なければならない」という御意見がありました。労側委員からは、「電気事業法改正法案の附帯決議では、『自由な競争の促進を第一義とする電力システム改革の趣旨と整合性を図る観点から』スト規制法について検討することとされている。可能な限り規制を設けず、自由な競争を促進する観点でスト規制法を検討するべき」との意見がありました。使側委員からは、「電力システム改革による電気事業を取り巻く環境の変化は大きく、この先の経過をよく見たい、不安だということも非常によく分かる」との御意見がありました。

(3)電気事業の業務です。まず、

・電気事業の業務は、日常業務を中心に自動化が進み、省力化・効率化が図られている、他方、電気の安定供給のためには、今後とも社員(手動)による対応が必要、特に非日常業務については、事故時の初動対応や復旧の大幅な効率化は難しい状況

ということを確認いたしました。

 これに対して、公益委員からは非組合員の代替について、「誰がどのようなストライキをすると供給停止が起こるのか、必要な人員は少なくなってきているが、代替可能なのかという点を検討する必要がある」労側委員からは、「短い期間であれば、非組合員で十分に対応可能ではないか」、使側委員からは「非熟練労働者では容易には代替できないと思う」という御意見がございました。

 スト規制法の対象者についてですが、労側委員からは、「どこまでの人員がスト規制法の対象になるかの解釈が非常に難しく、保安協定における争議行為の不参加者も、職種や部門で割り切っているのが現状である、約11万人中約56万人、約4割~5割の労働者がスト規制法の対象となっているのではないか」、使側委員からは、「電力10社の平均で発電部門については、電力労働者全体の1割程度、送配電部門については3割程度の人数と考えられる」との御意見がありました。

 電力システム改革後についてですが、公益委員からは、「法的分離後に今のオペレーションがどのように変わるのか、電気の正常な供給が停止するような事態が起きやすくなるのか否かという点を検討する必要がある」使側委員からは、「電力システム改革によって法的分離が行われれば組織の「壁」ができるため、より複雑で高度化したオペレーションが要求され、現場労働者の知識・経験も一層求められるようになるのではないか」という御意見がありました。資料3については以上です。

 次に参考資料についてですが、前回、スト規制法制定時、スト規制法と労調法の緊急調整の関係について議論されたことはないかとの御質問がありましたので、国会会議録を検索しました。まず、スト規制法と緊急調整についてですが、昭和28623日の衆議院本会議において、「緊急調整制度は、争議行為の規模が拡大して、あるいは長期にわたる等のために、国民経済、国民生活に重大な危険を及ぼしました場合に、早急にこれが解決を図り、もって公共福祉を擁護しようとするもの」「スト規制法は、従来から社会通念上不当又は妥当ではないと認められているもの、また争議行為の範囲を明確にし、もって公共の福祉と争議権の調整を図ろうとするもの」と述べられております。

 昭和271217日のほうですが、「緊急調整の発動ということは全く最後的な手段」「今回の緊急調整発動に当たりましても、・・・極めて慎重にその態度を練りつつあった」という経緯が述べられております。

 昭和28629日の参議院本会議では、「ストライキの長期化は、国民経済、国民生活に重大なる障害を与えるに至りましたので、炭労争議につきましては緊急調整を発動し、中労委のあっせん努力と相まって解決を見た次第」「電産につきましても緊急調整発動の準備をいたしたのでありますが、解決の見通しの関係からこれを差控えておりましたところ、・・・事なし解決を見た次第」ということが述べられております。

 次のページは、スト規制法と労調法の緊急調整の関係ということで、以前、審議会でお付けしたものです。

 次のページでは、電気事業の特殊性についての答弁もありましたので、参考にお付けしております。昭和28627日の衆議院労働委員会では、電気事業の特殊性について5点述べられております。国民経済、国民生活に常時不可欠であるところのエネルギー源であるということ、電気事業というものは高度の独占性を持っており代替性がほとんどないという点、生産即消費であるという点、極めて少数の者の行為でもって、広い範囲の送電を停止、混乱せしめる点、それから争議行為としての電気の停廃というものは、労使当事者よりも第三者たる需要者にはるかに甚大な損害を与えるという点が述べられております。

 次に昭和28622日衆議院労働委員会ですが、電気事業について、「基礎産業中最も基幹的な重要産業である」「停電スト、電源スト等は、これに携わる人員は全電気産業労働者中、少数に過ぎず、他の大多数の労働者の争議行為は、何ら制約せられるものではない」「労働者の失う賃金及び使用者の被る損害は、これによって無辜の需要者が不可避的に被る物質的、精神的損失に比較すると、極めて僅かなものである」ということが述べられております。

 次のページは経済産業省様から説明がありました電気の特質についての資料で、以前に部会で付けているものです。資料についての説明は以上です。

○勝部会長 大変、ありがとうございました。ただいま資料1の現地視察、資料2のスト規制法に係る論点、資料3のこれまでの部会における主な意見、そして参考資料について御説明いただきました。御質問、御意見がございましたらお願いしたいと思いますが、特に今回は、これまでの皆様方の御意見を資料2にある論点ごとに資料3で整理していただいていますので、資料2の論点を踏まえて更なる御意見があれば特にお願いしたいと思います。どなたからでも結構ですが、御意見あるいは御質問等ございましたら、よろしくお願いいたします。

○川口委員 ありがとうございます。資料3でこれまでの部会における主な意見を適切に整理いただきまして誠にありがとうございます。こちらでの発言内容と若干被る面はございますが、本日、配られている資料2のスト規制法の在り方に係る論点で、2の電気の安定供給と特殊性、3並びに4の今後の方向性についての基本的な考えを申し上げたいと思っています。

 まず電気事業の特殊性につきましては、先ほど御紹介があった昭和28627日の衆議院労働委員会の会議録で、第一から第五まで示されているところですが、私どもとしては、この五点については現在においてもおおむね当てはまると考えています。とりわけ、その中で産業活動や国民生活においては、この第一点に書いている国民経済、国民生活に常時不可欠であるところのエネルギー源であるという点、第五点の電気の停廃は、私ども産業界も含めた消費者や需要者に甚大な損害を与える恐れがあることから、極めて重要な問題であると考えています。皆様御案内のとおり、2011年の東日本大震災の時に発生した長時間停電、その後の計画停電によって、事業者も国民も電気の重要性、必要性というのを改めて認識したと考えています。電気の安定供給がなければ私どもの事業活動は停滞し、その結果、国民生活に大きな影響を及ぼすものと考えています。

 一例を申し上げると、例えば国民の生活の足である鉄道事業について、JRは自主電源を持っていますが、それ以外は電力会社からの電力供給に依存していますので、電気が滞ると平常の運行は全く不可能になります。特に地下施設を保有するような事業者では、今、常時地下水を排出していて、機器若しくは駅、プラットホームを保全しているわけですが、電気が止まると地下水を排出する装置が停止しますので、地下駅の浸水など諸施設への大きな被害が発生する恐れがあります。また、コンビニやスーパー、百貨店等の物販業では、店内の照明や冷凍冷蔵設備、レジ、エスカレーター等が停止しますので、営業活動ができなくなるとともに、冷蔵冷凍食品は、当然のことながら品質確保のために冷蔵冷凍しているわけですので、そのためには停電のないエリアへ搬送することが必要になります。もしそれができないならば品質劣化によって大量の廃棄食品が発生することになります。

 さらに情報通信分野であれば、皆様お使いの携帯やスマホ等の移動体系では停電で基地局の機能が停止すれば通信障害が発生しますし、固定系では留守番電話やコードレスホン等の機能など、そういった付加的な機能を持っている電話機の場合、それらの機能は商用電源を使っていますので使用不能になります。インターネットについても家庭のモデムとか、若しくは事業所であればサーバーがダウンすれば使えなくなる状況にあります。

 もちろん、事業者の立場からしますと、お客様に御迷惑をおかけしないように非常用電源の設備など、できる限りの対策を講じるようにしたいと思っているところです。しかし、経済的な理由であるとか、あるいは建築基準法等各種の規制、これは東日本大震災のときに私どもの会員企業から要望があって、規制改革要望でも出したものですが、例えば既存の建物に非常用電源を新増設する場合、建築基準法で定めるところの建ぺい率とか容積率に規制があります。これに余裕がなく、目一杯使っている既存のマンションや事務所のような建物であれば非常に対応が困難になります。そういったさまざまな理由から自ずと限界があることも御理解いただきたいと思っています。

 その結果、今聞きますと民間の鉄道事業者であれば停電時に駅間で止まった車両を、最寄りの駅まで移動するための電源を確保しようとしていたり、物販施設であれば1時間程度の電力とか、百貨店等であれば、窓のないのが一般的なフロアですから真っ暗になりますので、お客様を誘導するための避難路の照明等々、そういった対応になっているという現状です。

 こうした電力の重要性、特殊性に加えて、先ほど御説明のあった電力システム改革による環境変化、同改革による労使関係への影響、これが不透明であるということなど様々な環境を踏まえますと、スト規制法の保護法益である電気の正常な供給の確保、そのために正当でない争議行為を明確にして、その未然防止を図るという規制法の目的並びに手法、いずれについても現在でも妥当であると考えていて、この法律自体、現時点で存続することが適当ではないかと考えています。

 ただし、これは一般的な話でもありますが、全ての規制や制度というのは、常に経済社会環境の変化の中で見直していくことも必要だと思っています。そういった観点から先ほど御説明のあった資料にもありましたが、当時の労働省から出ている禁止行為に関する解釈通達など、これは制定からかなり時間がたっていますので、若干、状況の変化等もあろうかと思いますし、本部会においてもそのような指摘もなされていますので、この部分については今日的な観点も踏まえて、修正が必要な部分もあるのではないかと思っているところです。以上です。

○勝部会長 大変ありがとうございます。今、おっしゃったことは、ここでかなりの委員の方も共有されていることではないかと思います。ほかに何か御意見、御質問等ございますか。

○新谷委員 これまで本部会で3回の論議を重ね、変電所や発電所、中央給電司令所の視察も行い、更にはエネ庁等の関係者のヒアリング等も行いました。その結果として、本日は資料3にあるように公労使の意見を取りまとめていただきました。充実した論議をしてきたことは、資料を拝見しても分かります。

 今、使用者側委員から、電気事業が重要なエネルギー源であるということ、更にはそうした特性を有する電気の供給がストップした際の国民生活への影響について非常に多くの例を挙げていただいて説明いただきました。しかし、本部会で論議すべきことは、スト規制法の在り方をどうするかということです。電気の供給がストップした際については、御説明いただくまでもなく国民生活に多大な影響があることは労働側としても十分承知しているところです。

資料32ページの公益委員の意見にあるように、そもそも争議行為は、労務不提供によって業務の停廃をもたらして損害を与えることによって使用者に圧力をかける、という闘争手段の1つであって、争議権は労働者の権利として憲法上定められています。また、スト規制法の解釈を争った裁判例もなく、最高裁の判断が示されたわけでもありません。どの範囲が正当な争議行為の範囲なのか司法判断がなされていないのです。

 そうした中、本部会で議論すべきは、現行の法体系の中において既に労調法の公益事業規制がある中で、なぜ電気事業と石炭鉱業にだけ屋上屋を重ねる形でのスト規制法が必要なのかということです。換言すれば、電気事業および石炭鉱業についてのみ、憲法上の生存権的基本権である争議権を特定の事業にだけ規制をかけて、憲法上の権利を制約することの妥当性、必要性を論議をすべきなのです。先ほど使用者側委員がおっしゃったような停電が起こった際の国民経済、国民生活への影響というのは、当然、諸外国でもありますが、この間も論議してまいりましたように、諸外国では、電気事業だけ特別な規制をかけている類例はないわけです。また、スト規制法以外の国内法でも、電気事業だけ特別の規制をかけている法律はないわけです。この背景には、先ほどの資料を付けていただいたように、昭和27年に起こった電産ストによって国民経済に多大な影響があり、世論の批判、社会からの批判が高まったことを受けて立法府が3年間の時限立法としてスト規制法を設け、後に恒久法とされたという経過がある。こうした特殊な背景の中で、今日までスト規制法が存置されてしまっているのです。

 先ほどの使用者側委員からの発言もそうでしたが、これまでの3回の論議の中で、なぜ労調法の公益事業規制では不十分で、屋上屋的なスト規制法を残さなければならないのかという点について、合理的な説明がなされていません。労働側としては、憲法上の権利を制約するスト規制法を残さないといけない理由が理解できない。確かに「電気が止まったら大変だ」という点は私も同じ国民生活を営む者として理解するところですが、本部会で論議すべきは、あくまでも憲法上の権利を制約するスト規制法をなぜ残すのかという点です。労調法上の公益事業規制がある中で、スト規制法を残す理由を論議の中心に据えるべきです。この点に対する答えが使用者側からは示されていないと率直に言わざるを得ません。

 労働側としては、スト規制法を存置させるべき合理的な理由が、立法過程をふまえてもないのではないか、と考えています。規制としては、労調法の公益事業規制で足りるのではないかということを重ねて申し上げておきたいと思います。

 その上で、先ほど、使用者側委員から、昭和28年と昭和52年に当時の労働省から発出された通達についての言及がありましたので、一言申し上げておきたいと思います。労働側としては、スト規制法はそもそも廃止をするべきであるという前提に立っています。この通達自体は前回の資料でも概略版が示されましたが、昭和28年の通達は、まさしくスト規制法が成立した直後に発出されたもので、昭和52年の通達は調査会の論議を経て発出されたものです。しかし、この2つの通達の記述は、曖昧といわざるを得ず、通達自体の整合をどう取るのかという問題は検討の余地があると思います。また、これまでのヒアリングや現場視察を通じて皆さんも御理解されたと思いますが、2つの通達発出当時と比べて今日の発電・送電の設備はかなりIT化が進んで現場の実態も当時とかなり異なっています。そうした中で、昭和28年と昭和52年の通達が今日まで残っている点については違和感を覚えるところであり、改めて中身の十分な精査が必要である。また、解釈通達を2本も残しておく意味もないと思います。労働側としてはスト規制法は廃止すべきという前提に立ちますが、仮にスト規制法を当面存置する場合であっても解釈通達は集約し、一本化して今日的な観点から見直す必要があることは、予備的に申し上げておきたいと思います。以上です。

○勝部会長 ありがとうございました。

○内田委員 先ほど、使用者側委員から停電リスクに関する指摘があり、また、厚労省からは参考資料として国会議事録(昭和27年、昭和28)をお示しいただきましたので、停電リスクという点について一言発言させていただきます。

 昭和27年と昭和28年の国会議事録を見ると、当時は電産ストがありましたから、電力労働者の争議行為が即電力の供給停止につながるのではないか、その上でどのような防止策を取るかといった議論になっている。また、川口委員が言われたように、スト規制法制定から60年が経過して電気の依存度も高まってきている中で、停電リスクへの不安も理解するところです。

しかし、スト規制法制定から60年以上が経過する中で、約40年前に調査会が開催され、調査会の中で我々の電力労働者の代表は、あくまでもスイッチ・オフという自らの争議行為による供給停止は起こさないということを明言していますし、リスクとして懸念される労務不提供による間接的な供給停止の不安についても、そういったことのないように自主規制も設けると発言しているわけです。本部会において、電力労働者のうち約半数程度がスト規制法の対象になっているのではないかという話をしましたが、繰り返しになりますが、労働組合としても、停電リスクについては意識を持ちながら、自主規制を設けると主張しているのです。昭和27年、28年の議論に戻ると、どうしても停電という話になりますが、労働組合としては、供給停止の防止策の案も提案させていただいていますので、御理解を賜りたいと思います。

 それから、スト規制法と労働組合法の関係、更には厚労省通達の話がありましたが、スト規制法と厚労省通達によって我々の争議行為が制限されているわけです。昭和28年の国会議事録にあるように、スト規制法は「社会通念上不当または妥当ならざるもの」を禁止しているわけで、この部分は労働組合法上の解釈で十分ではないかと考えます。今日に至っても、どうしてもスト規制法を残さなければいけないという明確な理由が存在するものではないことを、改めて主張させていただきたいと思います。以上です。

○勝部会長 ありがとうございます。ほかに。それでは鈴木委員、お願いいたします。

○鈴木委員 ただいまの論点で、1点目の労働基本権の保障とスト規制法、2点目の電気の安定供給と特殊性について補足的な意見があったかと思います。私のほうからは3点目の電力システム改革の影響も想定した検討について、何点か補足させていただきたいと思います。

 まず電気事業の労使関係についてです。電気事業の労使関係については、労使双方が長い年月をかけて努力を重ねた結果、今日において安定して成熟した労使関係が築かれていると認識していますし、この点については労使双方が共通の認識だと考えています。加えて今後の労使関係についてですが、電力システム改革あるいは競争市場の形成といったことから経営環境が大きく変化する中で、今後、不透明な部分があることは確かです。経営の立場としては、労使が密にコミュニケーションを重ねていくことが重要と考えていて、そういった不透明な部分はあるものの、引き続き良好な労使関係を維持していきたいと考えています。以上が電気事業における労使関係の補足です。

 次に、電気事業者間の競争環境について一言補足させていただきます。資料39ページに労側の意見として、電気事業法改正法案の附帯決議では、「自由な競争の促進を第一義とする電力システム改革の趣旨と整合性を図る観点から」スト規制法について検討することとされています。自由な競争を促進する観点でスト規制法を検討するべきという御意見がありました。もちろん、この附帯決議の中でそのように書かれていることは十分承知しています。ただ、第2回部会でエネ庁のほうから説明がありましたように、少なくとも送配電部門については引き続き地域独占が残るということで、ほかの事業者が代替できないことも考慮する必要があると考えています。

 最後になりますが、電気事業の業務についての補足です。こちらは、以前に非組合員で業務が代替可能かどうかという議論があったかと思います。そういった中で、第2回の部会で電事連の工務部のほうから話があったと思いますが、仮にストが行われた場合に、労側から部長や課長などの非組合員が業務遂行可能なのではないかといったことがありましたけれども、部長や課長が行っている業務は主に職場のマネジメントが中心であり、実際の機器の運転などは行っていないという状況です。仮にスト予告があったとしても十分な訓練を行わないまま機器を操作することになり、実際には非常に困難だということで、場合によっては、安定供給の維持が困難となる事態を招くことがあり得るということです。今、お話したことは、これから電力システム改革が行われた後についても、多分同様なことだと考えています。以上、簡単ですが、補足ということで述べさせていただきました。

○勝部会長 ありがとうございます。ただいま論点に基づきましていろいろな御意見が出ましたが、ほかに労使側から何か、井上委員、お願いいたします。

○井上委員 特殊性ということに関して、今日のオペレーションの現場は、かつてとかなり変わっているというお話が先ほどあったかと思いますが、それは全くもって私もそうだと思います。視察させていただいて一番驚いたことは、非常に少ない人数の方によってとても広い範囲の地域に電力を送っていることです。この点については影響が非常に大きいなと思いました。また、このような状況に至った背景を考えると、効率化や機械化が大変進んだ結果、人にしかできない作業だけが残ったということなのかなと感じました。ですから労働者に求められる熟練性は、それこそ以前に比べてより高く、増しているのではないかと思っています。よって、ストライキのときに管理職が代われるのではないかということについては、非常時も同様ですが、より難しい事態にいよいよなってきているのではないかと考えます。したがって、社会生活への影響という点については、より大きさが増していると思いました。

 それから、常時不可欠のエネルギー源ということについてですが、電力の使用量は本当に増えており、私たちもいろいろな所で電気のお世話になっているわけですが、電気が十分に使えることによって可能になったことはとても多いと思っています。顕著な例で考えると、救えなかった命が救えるようになったということも増えてきているのではないか、ということがあります。特に病院等々のような所を例に考えると、当たり前に使える電気だからこそ、我々の生活や命に対して与える影響がいよいよ増してきているのではないかと思っています。また、代替性という点についてですが、送配電のところは依然として独占だということを考えると、我々は選べないということであり、この点については、依然として従来と変わらないということを考慮すべきなのではないかと改めて思っています。

○新谷委員 先ほど鈴木委員から、資料3の労働側意見の内容についての言及がありましたので、労働側としても、資料3の使用者側意見について改めて見解を申し上げます。

先ほど井上委員からは、電気が止まったときの国民生活への影響の話がありました。具体的には、オペレーション等の違いによって労働者一人一人に求められる役割の大きさや熟練性が異なるため、ストが起こったときには管理職では代替が難しく影響が出る、という御発言があったわけですが、資料32ページの使用者側意見に「予告」との関係が出ています。これは東日本大震災における計画停電との関係で、停電予告があっても実際に事業者には大変な影響があった。また、電気の供給がストップしたときには命に関わるという懸念も示されたわけですが、再三申し上げているとおり、皆さんがおっしゃるような停電リスクの話は、労働側としても十分認識しているのです。電気の供給がストップした場合、国民生活に影響が出ることは自然であるものの、一方で、憲法で生存権的基本権として定められている労働基本権をなぜ制約するのかということの答えが、これまでの論議の中で使用者から一切示されていません。

 労働側としてはこの点を明らかにすべきだと考えているのです。電気事業には既に労調法の公益事業規制が課せられているのです。これは電気事業に限らず、情報通信や運輸、医療など、まさしく命にかかわる事業については、労調法の公益事業規制が課せられているのです。この公益事業規制では、争議行為の予告義務とともに、実際には中労委で判断いただくことになりますが、内閣総理大臣による緊急調整を行う仕組みもあります。具体的には、内閣総理大臣は緊急調整の決定の公表から50日間の争議行為の禁止を命じることが可能であり、争議予告をしても必要があれば争議行為を一定期間止めることもできるわけです。実際には、昭和27年の炭労ストにおいて実際に緊急調整が発動されて、ストライキが禁止された実績もあるわけです。

 こうした労調法の公益事業規制という仕組みが既にあるにもかかわらず、スト規制法によって、憲法28条に定める争議権を実質的に否認する仕組みが残っている。使用者側からも事務局からも、この点に対する答えを今まで一切聞いていないのです。「停電が起こったら大変だ」という話は何回も聞かせていただきましたし、それに対して労働側としても異論はないのですが、労働関係調整法における公益事業規制に服している中で、なぜ屋上屋を重ねるスト規制法が必要なのかということの答えをどういうふうに持ち合わせているのかを、改めて答弁いただきたいと思っています。

○勝部会長 これについては、法的観点から中窪先生いかがでしょうか。

○中窪委員 私も、そんなに明確な答えがあるわけではありませんが、前回までの意見をまとめました資料3のうち、最初の「労働基本権の保障」の次にある「労調法との関係」のところで、公益委員の部分が空欄になっているのが若干気になっております。前回、今のような労調法の規制があるから不要ではないか、それとの関係をどうするのだという御意見があったときに、私は少し言いたいと思ったのですが、時間の関係もありまして申し上げませんでした。それは、緊急調整とこのスト規制法はやはり趣旨が違うだろうということであります。今回の資料の衆議院本会議の大臣の答弁にありますように、緊急調整というのは、全く正当な争議行為であっても、国民生活への打撃の大きさに着目して、それを一定期間止めるということです。これに対してスト規制法というのは、正当でない争議行為について、これを明確化して禁止したということですから、そこはやはり違うのだろうというのが1つです。

 それから、その下の参議院での答弁にもありますが、やはり緊急調整は最後の手段ですから、軽々しく発動すべきものではないということもあります。当然皆さんそのように理解されていますし、現に、もう60年以上も前に一度発動されただけです。プロ野球のストライキのときにこれを適用できるかどうかという議論はありましたが、そうそう使えないし、使うべきではないというのが一般の理解だと思うのですね。そういうときに、これがあるから大丈夫だとはなかなか言いにくいところがあります。

もう1つ、スト規制法が、外国にもないのに、なぜ電力だけこういう形になっているのかという点は、疑問としては確かにおっしゃるとおりだと思います。ただ、どの国でもそれぞれの歴史や背景があって法律が作られるわけで、日本では、やはり電産で停電ストが行われ、それに対して非常に大きな懸念や批判が出たことから、この法律ができたのです。その当否についてはいろいろ御意見があると思うのですが、少なくともそれが正当でない争議行為を明確化して、配電を意図的に阻害するものはいけないということを明示する趣旨で作られ、かつ、それが労使にとっても社会にとっても、1つの行為規範として今まで存在してきたというのは、良い悪いはともかく、前提としてあるのだと思うのです。

ですからこれについて、もはや労使関係も成熟したので不要であろうという御意見は当然あり得ると思います。他方で、電気事業が改革によって今までとは違う外部のアクターが入ってきて、そこの労使関係がどうなるか分からないという不確定要素もあります。そういうところでこれをどうすればいいのかという議論だと思うのですね。少し曖昧になってしまうのですが、1つには今までの通達等を見直して、現状に即していないところがあれば、あるいは正当な争議行為についても不当に侵害しているところがもしあれば、それを見直すことは当然必要だと思います。他方で、このスト規制法そのものについては、もう少し時間を置いて、改革の状況が落ち着いたところで、もう一度検討するというような考え方もあるのではないかと私は思っております。

○内田委員 先ほど、スト規制法と労調法の公益事業規制における緊急調整との趣旨や目的の違いについて、中窪先生からご発言があり、事務局からも説明がありました。しかし、昭和28年の衆議院本会議の国会議事録には、「緊急調整制度は、争議行為の規模が拡大して、あるいは長期にわたる等のために、国民経済、国民生活に重大な危機を及ぼしました場合に、早急にこれが解決を図ることを目的とする」とあります。つまり、緊急調整の趣旨は、争議行為の早期解決を図ることにあるわけですが、そもそも争議行為は労使関係上の課題の解決が図れない場合に起こるわけで、労使関係上の課題の解決が図られれば争議は起こらないのです。ですから、たとえスト規制法と労調法の公益事業規制の趣旨は違ったとしても、労調法の緊急調整によって労使関係上の課題の早期解決が図られれば、そもそも争議行為は起こらないわけです。

こうした点を踏まえると、単に立法趣旨が異なるからスト規制法が存続すべきということではなく、たとえ趣旨が違っていたとしても、争議を早急に解決するという同等の効果がありますから、労働側としてはスト規制法は存置させる合理的な理由がないのではないかということを、主張させていただきたいと思います。

 それから、川口委員から、中央給電司令所を想定しての発言であると思うのですが、少人数で大規模な電力を送っている職場では、ストが起こった際に大きな影響があるのではないかという話がありました。しかし、電力の供給は、決して少人数で行っているわけではなく、電力労働者約11万人、電力関連産業の労働者を含めると約22万人、更にはメーカーの方も含めると数十万人という多くの労働者によって、電力供給は実現されているわけです。中央給電司令所は、電力需給の管理を行っているわけで、幾ら中央給電司令所に5人の労働者がいても、発電所や変電所の作業員がいなければ、電気は送れないわけです。中央給電司令所についてはバックアップ体制もとっていますし、中央給電司令所の5名の労働者だけを念頭に置いて電力の安定供給が損なわれる、5人だけで電力を供給しているというような誤解だけは持っていただきたくないと思います。

○新谷委員 スト規制法と労調法の関係について、先ほど中窪先生から御答弁いただきました。ありがとうございました。難しい内容ではありますが、憲法で定められる生存権的基本権としての争議権を、公共の福祉との関係でどう調整するか、この点が国会でも論議され、憲法上の権利を制限するぎりぎりの手段として労調法の緊急調整があるのです。それほど重い権利が、憲法28条の労働基本権なのです。ところが、スト規制法は、憲法上の権利を行使する入り口の部分を禁止しているのです。具体的には、電気の正常な供給を阻害する行為としての争議行為は一律に禁止をしており、実質的に憲法上の権利を制約しているものと理解しています。

 使用者側委員の発言は、「電気が止まったら大変だ」ということに終始しています。しかし、本当に国民生活に影響があるのであれば、労調法の緊急調整の発動にあたって公共の福祉も勘案して中央労働委員会が判断するという仕組みがあるわけです。使用者側がおっしゃるような「電気が止まったら大変だ」ということであれば、労調法の緊急調整の仕組みで足りるのではないかということを申し上げておきたいと思います。

○河野委員 今、様々な御議論があるところですが、私も国民の立場から、今回まとめていただきました論点のうち、電気の安定供給と特殊性について、現在思っていることをお伝えいたします。1つは、先ほどいろいろお話があり、電気は代替が利かない、これは重要だというのは、使用者側の皆さんも労働者側の皆さんも本当にこれは一致しておりますし、私たちも電気の有り難さというか、享受している身からしても、ここは非常に重要だと。なぜ電気に特別スト規制がかかっているのかということと、それはやはり切っても切れないのではないかと感じているところです。

 それで、この部分に私が1つお伝えしたいのは、やはり東日本大震災後、電力需給は非常に逼迫しており、やはり電力供給への不安がある。電力事業におけるスト権を取り払うことに対して国民の理解が得られないと、物事はうまくいかないと思うわけで、そのことの1つの大きな障害が電力供給への不安があるということです。原発再稼働の問題、化石燃料の問題。それから今、様々な制度見直しがかかっておりますが、FIT、再エネの系統接続の問題等が報道されますと、やはり電力供給、今後私たちは大丈夫なのかなと非常に単純なところで不安になります。実際のところ、経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に電力需給検証小委員会というのがあり、毎回毎回冬季と夏季の需要が変動する時期に、需給見通しというのを出しています。最近では、節電効果も上がっており、かなり予備電力は何とか確保できて、それほど危機的な状況ではありません。

 例えば、北海道電力の2014年度の冬季の電力需給見通しに書かれている文章なのですが、「北海道電力管内については、当然のことながら他電力からの電力融通に制限がある」と。ですから、「万一発電所1機トラブル停止」、これはトラブルの停止が起こった場合、「予備率に与える影響が非常に大きい」と。さらに、私が非常に気になっているのは、「厳寒であるため万一の電力需給の逼迫が国民の生命、安全を脅かす可能性があること」と。電力、電気事業というか、電気の供給のもつ特殊性を「国民の生命、安全を脅かす可能性」と書かれているところです。この辺りは、非常に重要な観点かと思っています。

 それから、先ほどから論点が違うとおっしゃっていて、なぜ電気事業だけにこれがあるのかとおっしゃっていました。私は、法律の解釈は分かりませんが、ものすごく簡単に私が感じたところを申し上げますと、昭和28年に電産ストが起こった。それに対して、類を見ないスト権規制という手段が課せられたこと。それから、何回か見直しの機会があっても、これが現在まで維持されているというそのことが、やはり電気事業が国民生活に与える甚大な影響を毎回毎回勘案したけれども、やはり電気事業において労使の問題でストが起きることに対して、法律的な権利の問題を遥かに上回る国民生活に対する責任といいましょうか、国民全体の理解が付いてきていないのではないかと感じています。これは、本当に私の率直な感想です。

 今回、事務局がまとめてくださった資料33ページ、争議権の行使の所に、これは恐らく私の発言だと思いますが、電力労働者の皆さんの安定供給への想いというのは、私は疑っていません。縷々、本当にしっかりとやっていくという話はされています。ただ、権利というのは回復したら行使することができるということです。最後に、現在、電力システム改革が2020年に向けて3段階において進められていくことになっております。はっきり申し上げて、独占がどれだけ崩れ、競争がどれだけ活発になるのか、この先行きというのは、私たち国民の目から見てもよく分かりません。どんな電力供給構造になるのか、私たちは本当に選べるようになるのか、それとも、ある意味資本の寡占が進んでもっと違う状況になってしまうのか、全くその見通しは不透明だと思っています。そのときの経営環境や労使関係がどうなっているのか、それに対する漠然とした不安がある以上、今ここでこのスト権が、スト規制法に対して何らかの結論が出ることに対しては、非常に不透明さがあるゆえに不安であると申し上げたいと思っています。

○内田委員 電力システム改革や労使関係、更には昭和28年当時の話など、様々な意見がありましたので、反論させていただきます。

まず、最後にご発言のあった、電力のシステム改革によって今後どうなるか分からず不安であるため、スト規制法は残すべきだという主張についてです。この点、労働側としては、今後どうなるかわからないからこそ、労使の対等な関係が必要であると思います。要するに、御指摘があったように、今までは地域独占の中で、規制の中で電気事業が営まれてきた。そういった中で、労働者の権利についても規制が課せられてきたわけですが、今後は、市場競争に委ねることを趣旨とする電力システム改革が行われようとしているわけです。電力労働者は民間労働者であり、公務員の方のような代償措置もないわけです。そうであるならば、不透明な状況になるからこそ、電力労働者にも民間労働者にふさわしい対等な労使関係が必要であるということを主張させていただいています。

 それから、権利は回復したら行使するものという話がありましたが、これもかねてから主張しているとおり、スト権はあくまでも抑止力の問題である。本日は昭和27年の電産ストの経緯や背景などは申し上げませんが、そもそも労使紛争が生じる原因は、労働者だけの問題ではありません。当然、使用者がどこまで真摯に労働組合と協議したかということがあって、お互いの納得感の中で物事が解決するわけです。労使紛争が起こるというのは、労働組合だけの問題ではないわけです。井上委員も経験があると思いますが、使用者の努力があって初めて解決されるわけですから、あたかもスト権が回復したら、労働組合が合法だといってむやみやたらにストライキを起こすような誤解をもたれることについては反論しておきたいと思います。

 なお、電力需給検証小委員会の話もありました。また、3ページの公益委員の意見の○の2つ目には、災害時や緊急時の停電は理解するけれどもストライキによる停電は理解できないとあります。この点、お聞きしたいのですが、電力システム改革によって諸外国のように供給信頼度が低下することは容認できるのでしょうか。電力システム改革によって供給信頼度が低下することは容認できるけれども、労働者が権利を行使することで停電することは容認できないと言い切れるのでしょうか。

○勝部会長 ほかに何かありますか。

○新谷委員 今、河野委員からスト規制法の立法過程や、電力システム改革についての言及がありましたので、労働側としての考え方を申し上げたいと思います。

本日の配布資料には、昭和28年当時に小坂国務大臣が行ったスト規制法案の提案趣旨説明があります。ここにあるとおり、スト規制法の立法事実としては、前年に起こった電産スト、炭労ストがあるわけです。正しく立法を行う、特に憲法上の権利に制約を加えるような重要な法律を策定するに際しては、立法事実が重要です。正しく、スト規制法を策定しなければいけない事実が、前年に起こった電産スト、炭労ストであったのです。電産ストでは、16次に及ぶストライキによって大規模停電が発生し、国民生活に多大な影響がありました。この背景には、当時の電産の組織や電気事業者との労使関係があり、結果として国民生活に多大な影響を及ぼすような事態に至ってしまったことが、スト規制法の立法事実であったのです。

 電産ストは国民からも非常に大きな批判を浴びて、こうした点が立法府を動かして、憲法上の権利に制約を加えるという重大な決断をして、政府がスト規制法案を提出して、国会で成立をしたということが背景にあるのです。スト規制法は、憲法で定める権利に大きな制約をかけることに鑑みて3年間の時限立法として成立したわけですが、3年後に恒久化されました。その後、昭和48年に調査会が発足し、調査会の結果を受けて昭和52年に、昭和28年の解釈通達を補強する形で通達が発出され、今日に至っています。

 今回、本部会においてなぜスト規制法のあり方を検討しているのかということを改めて考えるべきです。今後累次進められる電力システム改革の中で、戦後長らく続いてきた地域独占の供給体制が変容する、あるいは、発送電分離という大改革が行われようとしている中、改めてスト規制法の立法事実を見つめ直す必要があるのではないか。電力システム改革が行われようとしている現状に照らして、スト規制法の立法事実が今日的にみて適当であるのか。電力供給の体制が何ら変化なかったためスト規制法も見直してこなかったという点、更にはスト規制法を見直さなければいけないという大きなうねりもなかったことも事実です。これまで、電気事業の労働者の憲法上の権利が抑制されているスト規制法を廃止して労働基本権を回復させるべきという大きな国民世論が起こるまでには至らず、立法事実にならなかったことも確かに事実です。

しかし、労働側としては、スト規制法をこのまま存置しておいて良いとは考えていません。まさに電力システム改革が進められようとしている今、電気事業の労働者の憲法上の権利をどのように回復していくかということは重要なテーマであって、だからこそ、本部会で論議をしている、ということを重ねて申し上げておきたいと思います。

○川口委員 改めて電気事業の特殊性や重要性を、我々産業界の立場から申し上げます。先ほども申し上げましたとおり、全ての規制や制度は、経済社会環境の変化の中で常に見直していく必要はあると思っております。当然その際には、独り善がりの議論にならないために、他産業の規制内容や諸外国の状況を参考にすることは当然であり、非常に大事だと思っています。ただし、最終的に判断するのは我が国がおかれた環境の下で、先ほど河野委員からも御指摘がありましたが、国民の意識や感情も踏まえて総合的に判断すべきだと思っております。そういった点で、電力が電気通信や水道やガスなどの他の基盤インフラとどう違うかという点につきましては、例えば、先ほど申し上げましたとおり、電気通信、情報通信関係であれば、やはり電気がなければ通信障害が発生しますし、例えば、いろいろな我が国の産業界では水道も当然必要ですが、水道については給水装置や排水装置が動かなければ水道は使えませんし、厨房施設のあるような所では当然ガスは使っておりますが、換気設備が動かなければ、安全性の観点からも使えないという状況です。確かに各種事業活動を続ける上でのインフラは数多くありますが、その中で電気というのは基盤インフラ中の基盤だと考えており、そういう意味では安定供給は大事だと思っています。

 そういう意味で、全ての規制、制度を見直していく観点からすれば、先ほど申し上げた通知、通達の見直しに留まらず、電気事業の特殊性については、先ほどの五点等も含めて大きな環境変化があるのであれば、それは当然見直していくことであるとは思っています。少なくとも、私どもはその時期は今ではないと思っています。

○内田委員 川口委員に質問があります。お答えが難しければ結構ですが、先ほど、電気の必要性とスト規制法の必要性に関するお話がありました。では、労調法の公益事業規制に服しているような公益事業が電気事業以外にも存在する中、他の公益事業でストライキが起きて国民生活に影響があった際には、その産業についてもスト規制法が必要なのか。先ほどのご発言は、電力は特殊性があるからスト規制法が必要であるという趣旨でしたが、裏を返せば、他の公益事業は特殊性がないということなのでしょうか。また、特殊性はあるものの、電力ほど特殊性はないという解釈なのでしょうか。電気事業以外の他の公益事業においてストライキが起きても、スト規制法のような規制は必要ないと思われるかどうか、お答えがあればお伺いしたいと思います。

○川口委員 私どもが申し上げたかったのは、他の公益産業が重要ではないということではなく、電力が公益事業の中での基盤インフラ中の基盤だということです。

○勝部会長 ほかにありますか。私から1点だけ、資料の論点整理の10ページ、スト規制法の対象者ですが、これは何か事務局でどれぐらいになるかとか、見通しなどがあれば。微妙に労使でスト規制法の対象者の割合が少し違うように思われるので、どの程度がスト規制法の対象になるかが分かれば、次回でも結構ですが教えていただければと思います。

○労政担当参事官 これは、第2回目のヒアリングを受ける過程でそれぞれの見解を示されて、その後事務局でこれ以上の精査をするに至っていません。確認をしてみます。

○勝部会長 ほかにはよろしいでしょうか。本日、いろいろ御意見を頂き、様々な観点からの議論がされたと思います。今回は第4回目ということで、これまで同様、非常に充実した議論になったと思います。論点に沿って公労使から、全般にわたっていろいろな御意見を頂戴いたしました。本日頂いた御意見を基に、事務局で報告書()の準備をしていただくことにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。次回は、その報告書()を基にして更に議論を進めていければと考えております。次回の日程ですが、事務局から説明をお願いします。

○労政担当参事官室長補佐 次回の部会の日時、場所については、調整中ですので、追って御連絡いたします。

○勝部会長 それでは、本日の部会はこれで終了いたします。議事録の署名ですが、労働者側の内田委員、使用者側は井上委員にお願いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


(了)
<照会先>

政策統括官付労政担当参事官室
法規第1係 内線(7742)
代表: 03-5253-1111

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