ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 厚生科学審議会(科学技術部会遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会)> 第1回遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会議事録(2013年6月4日)
2013年6月4日 第1回遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会議事録
厚生労働省大臣官房厚生科学課
○日時
平成25年6月4日(火)10:00~11:50
○場所
三田共用会議所 大会議室C~E
○出席者
(委員)
伊藤委員 今村委員 梅澤委員 小野寺委員 |
辰井委員 谷委員 中畑委員 中村委員 |
那須委員 山口委員 |
(参考人)
島田教授 |
(事務局)
厚生労働省:三浦技術総括審議官 福島課長 尾崎研究企画官 許斐課長補佐 松倉専門官 |
文部科学省:伊藤安全対策官 |
○議題
1.遺伝子治療臨床研究に関する指針の現状について
2.指針の見直しに向けて(意見交換)
3.その他
○配布資料
資料1 | 遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 委員名簿 |
資料2 | 遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会の設置について |
資料3 | 遺伝子治療臨床研究に関する指針改正の経緯 |
資料4 | 遺伝子治療臨床研究に関する指針の概要および審査の流れ |
資料5 | 関連する指針との関係について |
資料6 | 日本の遺伝子治療の課題 |
資料7 | 今後の進め方について(案) |
(机上配布) | |
参考資料1 | 遺伝子治療臨床研究指針 新旧対照表(平成16年) |
参考資料2 | 我が国で実施されている遺伝子治療臨床研究の一覧 |
参考資料3 | 遺伝子治療臨床研究推進のための指針見直しに向けた調査研究報告書 |
参考資料4 | 遺伝子治療臨床研究に関する指針 |
参考資料5 | ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針 |
参考資料6 | 疫学研究に関する倫理指針 |
参考資料7 | 臨床研究に関する倫理指針 |
参考資料8 | ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針 |
参考資料9 | 再生医療等の安全性の確保等に関する法律案概要・要綱 |
参考資料10 | 薬事法等の一部を改正する法律案概要・要綱 |
参考資料11 | 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 |
○議事
○尾崎研究企画官
定刻になりましたので、遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会を始めさせていただきます。本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。議事に入ります前に、まず技術総括審議官より御挨拶をさせていただきます。
○三浦技術総括審議官(厚生労働省)
お忙しいところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。技術総括審議官でございます。
本日は、遺伝子治療臨床研究に関する指針を見直すということでして、第1回目の会合でございます。この指針そのものは平成6年に、当時の厚生省、また、文部省、それぞれ両省で作りましたが、その後、平成14年に両省共管というような形に姿を変えております。そういう意味では、医療を所管する厚生労働省、また、科学技術を所管する文部科学省、この両者が相まってこの指針を所管するというような姿になっているわけです。
経緯から申し上げますと、例えば、個人情報保護の制度の見直しなどもありまして、累次の改正を行っていますが、やはり私ども、特に最近の科学技術の進歩についても着目しつつ、また、患者さんあるいは被験者の方々の権利をどうやって守っていくか、これは取りも直さず、研究を円滑に進めるためにも重要な要素ではないかと考えておりまして、そういう意味で、ここに大きな改正の機会を得たと考えております。どうか皆様方には、様々なお立場から闊達な御議論をいただきまして、見直しをしていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げたいと思います。ありがとうございました。
○尾崎研究企画官
続きまして、本日御出席の、本委員会の委員の方々について御紹介申し上げます。お手元の資料1の委員名簿を御覧ください。
まず、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科特別客員教授の位田隆一委員です。位田隆一委員は本日御欠席の御連絡をいただいております。
続きまして、日本難病・疾病団体協議会代表の伊藤たてお委員です。
○伊藤委員
よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、公益社団法人日本医師会常任理事の今村定臣委員です。今村先生の方は、30分ほど遅れるという連絡が入っております。
続きまして、独立行政法人国立成育医療研究センター研究所副所長の梅澤明弘委員です。
○梅澤委員
梅澤です。よろしくお願い申し上げます。
○尾崎研究企画官
同じく、独立行政法人国立成育医療研究センター研究所成育遺伝研究部長の小野寺雅史委員です。
○小野寺委員
小野寺です。よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、立教大学大学院法務研究科教授の辰井聡子委員です。
○辰井委員
辰井と申します。よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、九州大学生体防御医学研究所・九州大学病院教授の谷憲三朗委員です。
○谷委員
谷です。よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、京都大学iPS細胞研究所副所長の中畑龍俊委員です。中畑先生は少し遅れているようです。
続きまして、自治医科大学公衆衛生学教室教授の中村好一委員です。
○中村委員
よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、岡山大学病院新医療研究開発センター教授の那須保友委員です。
○那須委員
那須です。よろしく。
○尾崎研究企画官
続きまして、読売新聞東京本社編集局社会保障部記者の本田麻由美委員です。本田先生は少し遅れているようです。
続きまして、国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部主任研究員の山口照英委員です。
○山口委員
よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
また、本日は参考人として、日本医科大学医学部教授の島田隆先生をお呼びしております。
○島田教授
よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、事務局側の紹介をさせていただきます。
まず、三浦技術総括審議官です。本指針の担当である、大臣官房厚生科学課課長の福島です。専門官の松倉です。課長補佐の許斐です。そして、私は尾崎です。
また、本指針を共同所管する文部科学省から、研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室の伊藤室長が出席しております。
○伊藤安全対策官(文部科学省)
よろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、配布資料を確認させていただきます。議事次第と書いてある、資料の【配布資料】の所を御覧ください。まず議事次第、続いて、座席表、資料1が「遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会委員名簿」、資料2が「遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会の設置について」、資料3「遺伝子治療臨床研究に関する指針改正の経緯」、資料4「遺伝子治療臨床研究に関する指針の概要及び審査の流れ」、資料5「関連する指針との関係について」、資料6は「日本の遺伝子治療の課題」、資料7が「今後の進め方について(案)」です。参考資料というのが書いてありますが、恐縮ながら、これについては傍聴の皆様には配布しておりません。委員の皆様におきましては、各指針等の綴りとして、ここに記載している、参考資料1~11の文書が入っているファイルを委員の机上に配布しております。この参考資料のファイルについては、毎回使用する資料ですので、会議終了後は机上に残したままで御退席していただくよう、よろしくお願いします。以上でございます。過不足等があれば事務局までお知らせください。よろしいですか。
続きまして、委員会の委員長の指名ですが、厚生科学審議会科学技術部会の部会長が指名することになっていますので、部会長の永井先生から山口委員にお願いすることとなっております。山口委員長より一言御挨拶をお願いします。
○山口委員長
国立医薬品食品衛生研究所の山口でございます。御指名ですので、委員長を務めさせていただきます。
私は、ICHという、医薬品の国際的な承認審査のハーモナイゼーションをする会議の中で、2000年から遺伝子治療の専門委員として参加しておりまして、この間ずっと、各国の遺伝子治療の規制当局、FDAとかEMEAと一緒に議論を続けてまいりました。その過程で、国内の各専門家の先生方の御協力を仰ぎながら、できる限り遺伝子治療がスムーズに進むようにという観点から、その国際会議の委員を務めてまいりました。
国内では割と、規制するというブレーキの役目を果たすという役割の方が大きいように受け取られがちですが、海外の遺伝子治療の方はむしろアクセルというふうな考え方で、先ほど審議官のお話にありましたように、指針のいいものが出来ればそれで遺伝子治療が進む、という形で進めていければ一番望ましいのではないかと考えます。今回の委員の中には患者団体の代表の方もおられます。海外のEMEAなどは、先端医療の審査をする中に患者団体の代表まで入っておられまして、そういう中で、実際にエンドユーザーの意見も吸い上げながら審議をされているわけで、そういう意味でも、そういう観点から指針が見直されることが望ましいと考えております。是非皆様の御協力をよろしくお願いします。
○尾崎研究企画官
続きまして、委員会の委員長代理を決めたいと思います。委員長代理については、厚生科学審議会科学技術部会運営細則第4条第4項に基づき、委員長から御指名いただくことになっておりますので、御指名いただきたいと思います。
○山口委員長
本指針の見直しに関する専門委員会の委員長代理については、九州大学の谷委員にお願いしたいと思いますが、よろしいですか。
(異議なし)
○谷委員
九州大学の谷と申します。このような貴重な機会を頂戴しましたことを感謝申し上げます。山口先生の御指導を仰ぎながら、皆様方とこの会を意義のあるものにしていきたいと思いますので、御指導御鞭撻の程、よろしくお願いいたします。
○尾崎研究企画官
以後の進行については山口委員長にお願いします。また、円滑な審議のため、報道関係者の方々におかれましては、撮影等はここまでとさせていただきます。
○山口委員長
では、早速議題に入りたいと思います。まず、議題1の「遺伝子治療臨床研究に関する指針の現状」について、事務局より説明をお願いします。
○許斐課長補佐(厚生労働省)
まず、資料2「遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会の設置について」を説明します。
まず、1.設置の趣旨です。本指針は平成16年に全部改正を行っておりますが、その後、大きな改正はされておりません。この間、科学の進歩、国内における新規申請件数の増加、他の臨床研究指針との整合性、諸外国の動向等の、近年の遺伝子治療臨床研究を巡る状況において変化が見られる中で、指針の見直しは喫緊の課題となっておりました。このため、厚生科学審議会科学技術部会に本委員会を設置し、指針の改正に関して必要な検討を行うこととなっております。
2.検討課題につきましては、遺伝子治療の定義及び適用範囲、多施設共同研究の取扱い、審査体制の見直しなどの論点について、遺伝子治療臨床研究を取り巻く状況等を踏まえ、検討を行うとされております。
3.委員の構成ですが、こちらに示したごとくとなっております。
4.その他では、本指針を共同所管する文部科学省と十分調整を行いつつ議論を進めていくものとされております。以上です。
続きまして、資料3「『遺伝子治療臨床研究に関する指針』改正の経緯」について説明します。
まず、丸1、丸2です。平成6年、当時の厚生省、文部省が別々に指針若しくはガイドラインを作成しております。次に、平成14年、これらの2つの指針が統合されることになります。それまでの指針では、過去の同様の手法による研究事例も全て厚生労働大臣に、大学等では文部科学大臣も併せて意見を求め、両大臣において関係審議会の審議を経ることが必要でした。更に、当該研究が薬事法上の治験に該当する場合には、これらの手続に加えて、治験依頼者である企業等が、薬事法の規定に基づく治験届を厚生労働大臣に提出する必要がありました。そこで、審査手続の簡素化及び迅速化を図り、適正な推進を図ることを目的として、両省が共管する1つの指針となっております。
この際に見直された内容は囲み枠の中に示したごとくです。主な変更点としましては、まず、対象疾患が致死性のみではなく、重篤な疾患を含めるようになったこと、品質、有効性・安全性確保のため、投与されるベクター等については、治験薬GMPの基準を満たした施設において製造されるものでなければならないことを明記したこと、遺伝子的改変を禁止すべき細胞の規定に受精卵及び胚を明示したこと、被験者に対する同意について、口頭のみを認めず、文書化するように規定したこと、厚生労働大臣の意見として、新規性のあるものとないもので場合分けをしたこと、治験を適応除外としたことなどが挙げられます。
次に、平成16年、丸4に相当しますが、前年の平成15年に成立した個人情報保護法を受けて、その取扱いや倫理面で必要な手続について、指針内で明らかにしました。具体的には囲み枠内に示したごとくで、個人情報の保護を図る責任者として、研究を行う機関の長の役割を規定したこと、個人情報の保護に関する措置として、カッコ内の内容を追加したことなどが挙げられます。
その後、丸5になりますが、平成20年には、公益法人の設立許可制度の改定にともない、指針内の文言の修正のみを行っております。以上がこれまでの経緯となります。
続きまして、資料4「遺伝子治療臨床研究に関する指針の概要及び審査の流れ」について説明します。現行の指針の方ですが、こちらは参考資料4にあります。まず、指針の概要についてです。全部で7つの章から構成されております。
1.総則では、目的、用語の定義、対象疾患等、有効性及び安全性、品質等の確認、生殖細胞等の遺伝子改変の禁止、適切な説明に基づく被験者の同意の確保、公衆衛生上の安全の確保について規定されています。
2.被験者の人権保護では、被験者の選定、同意、説明事項について規定されております。
裏面になりますが、3.研究及び審査の体制では、研究者、総括責任者、実施施設、実施施設の長、審査委員会について述べられています。
4.研究実施の手続では、研究開始・研究中・研究終了時の手続について規定されております。
5.厚生労働大臣の意見等では、実施施設長の求めに応じた、実施に関する意見、重大な事態に係る意見や必要に応じた調査について述べられております。
6.個人情報の保護に関する措置では、研究を行う機関の長の責務、利用目的の特定、利用目的による制限、利用目的の通知、安全管理措置、委託者等の監督、第三者提供の制限、個人情報の開示、利用停止などについて記載されております。
7.雑則では、記録の保存、秘密の保護、情報の公開、啓発普及、適応除外、細則、施行期日などが書かれております。以上が本指針の概要でございます。
続きまして、審査の流れですが、次のページを御覧ください。上方の囲みが研究実施施設、下方の長い囲みが厚生労働省となっております。施設内では、倫理委員会を通して、丸3了承に該当しますが、そうすると、丸4の実施計画書等が厚生労働大臣に提出されます。そうすると、まず新規性の判断が行われます。ここで、aからdのいずれかに該当した場合は新規性があると判断され、丸5の方に進みます。厚生科学審議会において、遺伝子治療臨床研究に関する審査委員会まで含めて審議され、この結果をもって、厚生労働大臣から実施施設の長に意見が回答されます。一方、新規性なしと判断された場合は、30日以内に意見を実施施設の長に回答することになっております。こちらは丸7の方になります。実際に、これまでに我が国で実施された、又は実施中、あるいは、審議中の遺伝子治療臨床研究につきましては、参考資料2を御参照ください。
続きまして、資料5を御覧ください。本指針と関連する指針との関係について説明します。まず、1.疫学研究に関する倫理指針、及び、臨床研究に関する倫理指針との関係ですが、遺伝子治療臨床研究は臨床研究の一部であり、このため、指針の内容として、疫学研究に関する倫理指針、及び、臨床研究に関する倫理指針と、個人情報の取扱いやインフォームドコンセント等を含む、被験者の人権保護等の項目において共有可能な部分があります。今回の指針の見直しの際にこれらの部分をどう扱っていくか。例えば、これらの指針で規定されたものを本指針においても適用するなど、検討の余地があると考えております。現在、この両指針は見直しの議論を行っていて、本年の夏頃には論点整理や方向性について取りまとめがされる予定となっております。
次に、2.ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針との関係について説明します。ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針はiPS細胞を対象としております。このため、iPS細胞を用いる臨床研究につきましては、iPS細胞の作製過程において、遺伝子導入を行うため、遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与するという点におきまして、その品質・安全性の面について、遺伝子治療の専門家による確認の必要性が言われております。そこで、昨年末の科学技術部会において、iPS細胞を用いる臨床研究への当面の対応としまして、必要十分かつ効率的な審議を行うため、ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会に、遺伝子導入に関する専門家を加えて審議を行うこととなっていて、現在この方法にて審査を行っております。また、遺伝子治療臨床研究に関する指針との関係につきましては、この臨床研究の審議の経験も踏まえて、今後予定している、今回の当該指針の見直しの際に整理することとなっております。指針の現状については以上です。
○山口委員長
ありがとうございました。ただいま、事務局の方から御説明いただいた内容につきまして、御質問あるいは御意見等がありましたら、お願いいたします。よろしいでしょうか。もし後の議論の中で、追加で質問等がありましたら、そのときにでもまた御質問に含めていただいても結構だと思いますので、次の議題に移ります。
先ほど、資料2~5を使って説明していただきましたが、こうした、今までの経緯と、本委員会の設置目的を踏まえて、これから検討を進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
今日は第1回目ですので、議題2として、指針の見直しについて全体的な意見交換を行い、個別の論点に関する詳細な議論は次回以降にしたいと思いますが、その前に、本日の会議で、まず日本医科大学の島田先生に、日本の遺伝子治療の課題や指針の見直しに向けた調査研究の結果について説明していただきたいと思います。島田先生はこれまで、先ほどの表にありました委員会の委員長を務めておられますので、この辺の状況について詳しいです。よろしくお願いします。
○島田教授
日本医大の島田です。今日は「日本の遺伝子治療の課題」ということで、遺伝子治療の現状、問題点を少し説明したいと思います。内容としては、遺伝子治療の歴史と現状です。日本が抱えているその問題点について、これは主に遺伝子治療に直接関係していない方を対象に話をいたします。
遺伝子治療を言葉で提示するというのはなかなか難しいのです。「疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」というのは、20年前に日本の遺伝子治療のガイドラインを最初に作ったときに我々が考えた定義ですけれども、これが今現在の日本の遺伝子治療の定義となっています。実際どういうことをやるかというと、一番最初に考えられていたのは、遺伝子の異常によって起こる遺伝病です。これの治療法として正常な遺伝子を導入して遺伝子異常を修復しようという、これがいわば本来のというか、狭義の遺伝子治療だったわけです。ただ、いろいろ技術的な進歩があって、何も遺伝病だけではなくて遺伝子を導入するという技術を使っていろいろな疾患の治療ができるだろうということで、現在では遺伝子を導入して行う治療、これを広い意味での遺伝子治療と言っています。
方法論としては2つありまして、1つは患者さんに直接遺伝子を投与して治療をするいわゆる体内での遺伝子治療「in
vivo遺伝子治療」と言いますけれども、こういう方法。あるいは、患者さんから組織、細胞を一旦外へ取り出してこれに遺伝子を入れて治してやってそれをまた戻すという、体外での遺伝子治療「ex
vivo遺伝子治療」と言います、こういう方法が今現在行われています。一番技術的に問題があるのはどうやって遺伝子を我々の身体の細胞に入れるかということで、この研究がずっと行われたわけですけれども、いろいろなことが試されました。物理的な方法、化学的な方法、針を刺すようなこともやりましたし、電気的なショックを与えて遺伝子を外から入れるということもありました。なかなかこれは実用化できなかったのですが、最終的には1980年代に開発された、ウイルスを使って遺伝子を入れる、ウイルスベクターという技術を使って治療をしようという、そういう技術が開発されたことで遺伝子治療が今のように進んできたわけです。
最初に実用化されたのはレトロウイルスベクターというものです。ウイルスは遺伝子とタンパク質でできているわけですけれども、遺伝子を治療用の遺伝子に取り換えた組換えウイルスを使うものが開発されたわけです。その後、更にいくつかの新しいウイルスベクターが開発されていますが、それぞれに長所、短所があるということです。これが遺伝子治療の歴史、概略ですけれども、1970年代に組換えDNA技術というのが開発されました。これは非常に画期的な技術だったわけですけれども、一方においてこれは非常に危険を伴う技術ではないかとも言われていまして、1975年にこの組換えDNA実験の規制会議、アシロマ会議というのが行われました。これは世界中の科学者が集まって、組換えDNAの技術をどうやって規制していくかを話し合ったわけです。評価としては、人間の設計図である遺伝子を操作するという技術が開発されてしまった、これはパンドラの箱を開けてしまったと言われていまして、これをパンドラの箱会議というようにも言われています。
こういった時代背景の中で1980年に、これはアメリカの研究者のマーティン・クラインが遺伝子治療を、アメリカではなくて、アメリカではなかなか許可が下りないだろうということでイスラエルまで行ってやったという事件があったのです。これは明るみに出るのですが、マスコミを含めて多くの批判を浴びて、これでクライン自身は失脚してしまうと、この治療自身もまだ非常に初歩の段階の遺伝子治療だったわけで、ほとんど効果自体も評価できないということだったわけです。これを契機にアメリカでは遺伝子治療に対する議論が大変盛んに行われるようになりました。
もう既に1982年に、大統領の諮問機関ですけれども、生命倫理委員会で遺伝子治療の倫理が話し合われまして、有名なSlicing
lifeというレポートが出るのですが、遺伝子治療、人間の遺伝子を操作するということで最初に皆が思ったのは、これはフランケンシュタインを作ってしまうのではないか、そういう危険性が言われたのです。ただこれは冷静に考えてみると、生殖細胞の遺伝子、生殖細胞とは精子とか卵子ですが、こういったものの遺伝子を操作するということであればそれは非常に危険な遺伝子改変ですけれども、そうではない、それ以外の体細胞と言うのですが、我々の持っている細胞は、精子、卵子以外は全て体細胞になるわけですけれども、そういうものを遺伝子を使って治療するというのは、特別な倫理的な難しい基準はないというような結論を出すのです。これは世界的に納得する議論でして、これ以降遺伝子治療は大変進んでくるわけです。
特に、最初はアメリカが中心になって進んでいまして、ガイドラインを作ったりして、実際には1982年にこれは予備実験になるのですが、がんの患者さんに対する遺伝子の導入が行われまして、1990年に世界最初の遺伝子治療、先天性の免疫不全症に対する遺伝子治療ということで、これがアメリカのNIHで行われました。その後、遺伝病だけではなくて、がんやエイズといったものの遺伝子治療もどんどん始まったのです。実際に日本では1995年、5年後ですけれども、たまたま偶然ですが同じ疾患の患者さんが日本にも発見されて、この遺伝子治療が行われています。世界中でいろいろな遺伝子治療がどんどん進められたのですが、実際にはなかなか治療効果が出なかったのです。当時はこの遺伝子治療は最初心配されていたようなそういう危険なものでもないけれども、大して有効性はないという評価がこの間あったのです。
ところが、1999年にいろいろなことが起こりました。最初に、遺伝子治療が原因で初めて患者さんが亡くなるという、ゲルシンガー事件というのがアメリカのペンシルバニアで起こりました。これは遺伝子治療にとっても非常に大きな事件だったのですが、実は遺伝子治療に限らず先端医療を進める上での方法論ということで、アメリカでは大変大きな事件として取り上げられたのです。この年は遺伝子治療にとっても大変つらい年になりました。
ところが、この年の終わりになってフランスから新しい報告がありまして、やはり先天性免疫不全症の1つですけれども、ちょっと違った病気ですが、フランスでこれの治療に成功したという報告がありました。それ以前にアメリカでやられた方法というのは実はまだ不完全な遺伝子治療だったのですが、1999年に行われたフランスの治療は完全に遺伝病を治療するということで、ついに人類は遺伝病を克服したというような評価を受けています。これで遺伝子治療もこれから進むぞというようなときに、3年後にここで治療を受けた患者さんが白血病を発症するということが起こったのです。これも大変ショックな事件だったのですがこれがあってその後、一時遺伝子治療が世界的に停滞するということがありました。
ところが最近になって大きく変わってきました。すなわち、遺伝子治療でこの間いろいろな基礎的な研究が行われていたわけですけれども、その成果として、様々な疾患での治療効果が出てきたのです。一番最初に注目されたのは2009年に発表された遺伝性の神経の病気ですけれども、これの治療に成功したということで、この間の遺伝子治療の停滞期を乗り越えて遺伝子治療カムバックと、こういう評価を得ています。
その後、これに限らずいくつかの病気に対する遺伝子治療の有効性が次々に報告されています。これは世界最初に1990年に行われたアメリカでの遺伝子治療、ADA欠損症という治療で、患者さんのリンパ球を採ってきてそれにウイルスベクターで遺伝子を入れて戻すということをやったわけですけれども、この治療の問題点は、リンパ球というのは寿命がありますし、長期の治療効果が期待できないということで、実際には最初の患者さんの経緯ですけれども、何回もやって10回近く遺伝子治療をしたということです。ただ、それなりの効果があったということで、この女の子はシャンティーという子ですけれども、彼女が世界最初の遺伝子治療を受けた女の子で、それなりの効果があったという評価になっています。
それは長期的な効果がなかったわけですけれども、これが1999年、実際に表に出てきたのは2000年ですが、X連鎖免疫不全症という、またもう1つ別の免疫不全症ですけれども、この治療では造血幹細胞、すなわち血液の一番大本になる骨髄にあるわけですが、そういう細胞に対する治療が初めて成功したのです。これによって遺伝病を人類が克服したということで、遺伝の病気ということからすれば全く普通の子どもに治療することができたということで大変大きな評価を得たわけです。1回の治療でこれは完全にこの病気を治したということです。ところがその3年後に起こったのが白血病の報告でした。最初、2002年に1人の子がどうも白血病になったかもしれないということがあったのですが、この時点ではまだ、子どもの白血病というのはそれほど珍しい病気ではないですし、特に免疫不全症の子は白血病になりやすいということも言われていたので、これはたまたま偶然だったかもしれないと言っていたのですが、その数か月後にこのときに治療を受けたもう1人の子が白血病になったと報告されて、これは遺伝子治療が原因で白血病になったのだということが認識されて、いろいろ検討もされたわけです。
ここで使ったウイルスベクターが実は染色体の中に入り込んで、たまたま近くにあったがん遺伝子を活性化することによってそのがんが起こってしまった、白血病が起こってしまったということです。これは遺伝子治療が始まる前からこういう可能性があるのではないかとずっと一部では心配されていたのですが、しかし、実際に遺伝子治療が始まってみると10年以上こういうことがなかったわけです。ところがここにきて初めてこういうことが起こってしまったというのはこの間の技術、遺伝子導入する技術そのものが進歩してやっとその治療効果も出てくるけれども、場合によってはこういう副作用も出てくることがここで分かったわけです。
その後ベクターの改良とか技術の改良があって低迷期を乗り越えて発表されたのが2009年の副腎白質ジストロフィーという病気ですが、神経の変性疾患でして、これは頭のMRIの写真ですけれども、どんどん進行していく病気です。これを遺伝子治療をすることで進行を止めることができたということで、大変大きな成果だと言われています。gene
therapyが新しいチャンスを得た、gene therapy
comebackということで、世界的に大変これは高い評価を得ました。
それからもう1つ大きく評価されているのが血友病の遺伝子治療というもので、血友病というのは遺伝病の中では比較的数も多い病気ですけれども、この患者さんにウイルスベクターを血管内に注射するというだけで大変治療効果があったと報告されました。血友病そのものは、血液の中の凝固因子というものが足りないために血が止まらない病気でして、この治療法としては、凝固因子を最初はほかの人から採ってくるということをしたわけですが、最近はこれを組換え技術で作ることもしているわけですけれども、こういうものを週に2回ずっと投与し続けることが今の標準的な治療になっているわけです。それに対して、たった1回のウイルスベクターの治療で血友病を治療することができるということで、これは大変大きな成果であると、実際に6人の患者さんが行われて4人の患者さんではもう既にこの凝固因子の投与は必要なくなりました。2人はまだ凝固因子の投与もするのですが回数が著明に減少したと言われています。医療費のことから考えても大きな進歩でして、まだ実際には遺伝子治療も高額な医療に、今現在はなるのですが、それでも今現在の凝固因子を投与する治療法に比べると年間の医療費は10分の1以下、今後遺伝子治療がもっと発達してくればこの医療費はもっと下げられるだろうと言われています。
そういうことでBaxterというのは製薬会社ですが、この大手の製薬会社がこれに注目してこの権利を取得したということも大きなニュースになっています。これは意味が2つありまして、1つはこういう大手の製薬会社が入ってきてくれたことで恐らくこの遺伝子治療はもっと先に進むし、実用化が早まるだろうという期待がある一方で、このBaxterという会社自身はこれまで凝固因子の販売でものすごい利益を得ていた会社なので、逆にこういった大手が権利を取得することで遺伝子治療の進歩が抑制されてしまうのではないかという、そういう見方もあるわけです。いずれにしてもこういった成果というのは欧米ではものすごく今大きく捉えられているのですが、日本はマスコミも含めてほとんどこういう成果を公表していないのです。ですから患者さんはこういうことをいろいろな情報で聞いて、我々のところにも何とか早くこういうことをしてほしいと、日本でも始めてほしいと言ってきているわけですけれども、実際にはまだこれがなかなか日本では進められない、欧米では国際的な治験で始めようということがもう既にスタートしているのです。
このほかにも有効性が報告されている遺伝子治療としては先ほど言ったような免疫不全症、これは第一選択として、もちろんドナーがいる場合の骨髄移植はありますけれども、そのほかの場合には遺伝子治療だということが言われています。それからこの神経疾患です。それから目の疾患、これも遺伝子治療では大きな成果が出ています。それからパーキンソン病、これも神経疾患ですけれども、こういった疾患では遺伝子治療は非常に有効であることが確立しています。
その中で、アメリカではもう遺伝子治療に対する見方が全く変わっていまして、例えばASGCTというアメリカの遺伝子治療学会になりますが、ここでは2012年にTarget10ということを国に対して、NIHに対して提案しています。ここに書いてあるのは10個の疾患、今言ったような疾患が含まれているわけですけれども、こういったものは数年以内に実用化されるので、とにかくこういった遺伝子治療研究に研究費をきちんと出してくれということを言っているわけです。更にアメリカの遺伝子治療学会は、そもそもここまで遺伝子治療が実用化されたのだから国の審査は必要ないということで、アメリカでも今現在はこのRACと呼ばれている国の審査機関での審査が行われているのですけれども、これは中止していいのではないかと、倫理的問題も含めて、もう既にそういう最初の遺伝子治療の評価の段階は過ぎたということを言っているわけです。ただ、アメリカもこれに対しては同意していなくて、国の審査は今現在行われています。
それから先ほども言いましたように、1つの大きな流れとして、大手の製薬会社がこの遺伝子治療に参入してきているというのがあります。先ほど言ったBaxterのほかにもGSKというヨーロッパの大きな製薬会社がありますけれども、これが中心になってこういった免疫不全症の遺伝子治療を経済的にバックアップするというようなことが行われているわけです。更に最近ですけれども、ウイルスベクターが欧米で最初に遺伝子治療薬として承認されたということがあります。遺伝子治療のベクターが薬として承認された例というのは中国ではあるのですが、欧米ではなかったのです。これが2年前にあったということで、欧米では国際共同治験が、今様々な治験が計画されていますけれども、これに日本が乗れるかというのが非常に大きな問題なのです。
これは最近の資料ですが、例えば対象疾患としてはがんが一番多いのですね。今日はちょっとがんの話はしませんけれども、患者はもちろん多いですし、がんの遺伝子治療は様々な方法で行われています。先ほど言いましたように、遺伝病は約10%ぐらいですけれども、今話したように、遺伝病での遺伝子治療で非常に大きな成果が出ているのです。
これが国別プロトコールで、もちろんアメリカが圧倒的に多いです。その次にイギリス、ドイツ、その他の国ですけれども、少なくともこのベスト10の中には日本は入っていないのです。日本はそういう意味では非常に遅れているというように言われています。この数の数え方はいろいろ問題があって、別の意味で日本は考えなければいけないというのは、これはヨーロッパでやっている解析ですけれども、日本は結局英語の発表がないので、カウントされないという問題も起こっているのです。実際にはもう少し多いですから、ベスト10には入るはずですが、それにしてもアメリカ、ヨーロッパに比べると少ないということはあります。
日本の遺伝子治療が遅れている理由として、我々が今考えているのは1つには公的な研究費が少ないということがあります。それと関連しているのですが、日本は研究者の数が少ないです。これに今現在はiPSをも含めて幹細胞研究にみんな流れていってしまうという問題もあります。
それからもう1つ、これも大変重要な問題ですけれども、治療をするときにウイルスベクターを使うわけですけれども、このウイルスベクターを人に投与できるような、ウイルスベクターを作れる組織というのが日本には本当に限られた、東大の医科研の一部と、企業でも本当に一部の企業が特定のものしかしてないということです。治療をしたいと思っても皆欧米に頼らざるを得ないという問題もあります。
こういう問題もあるのですが、これからこの委員会で問題になるのは多分この部分です。もう1つの問題として、日本はこの指針とか、審査体制が非常に時代遅れで遅れていまして、例えば、審査にものすごく時間が掛かります。欧米では長くても半年以内に審査が終わるようなシステムになっているのですが、日本はそういうシステムになっていなくて、1年以上掛かる、平均すると1年以上掛かっていますし、長いものだと3年も掛かって審査しているという、そういうことがあるのです。審査の段階としては学内と厚生労働省の審査が実際行われているわけですけれども、この辺の仕分けがうまくできていなくて同じような内容の議論を繰り返しているという問題もあります。それからもう1つ、PMDAという医薬品の審査をする機構ですけれども、それと臨床研究が全く連携していないのです。ですので日本では臨床研究はいくつかやっているのですが、これは臨床研究で終わっていて、全く医薬品としての開発に結びついていないという問題があります。
日本とアメリカとの違いをこれは比較しているのですが、今お話したように、日本では臨床研究という概念と、更にそういった医薬品として開発しようという治験と言いますが、これが全く別の体系で行われているのです。これは日本の独特のシステムです。ですので、臨床研究の場合にはプロトコールもベクターの安全性も厚生科学審議会で行われていますけれども、治験、薬として開発しようとするとこれはプロトコールもベクターの安全性もこのPMDAで審査されることになります。日本の場合にはカルタヘナ法、要するに生物の多様性を確保しようと、組換え小麦とか、組換え米に対して日本は大変センシティブに考えているのですが、そういったものに対するカルタヘナ法というのも日本では働いていますので、これに対する審査も必要だということが日本なのです。
ところが一方、アメリカは臨床研究も治験もベクターの安全性に関してはこのFDAが一括して審査をしています。それからプロトコールに関してはその国の審査、これはもう必要ないというようにアメリカでは一部で言われているのですが、こういうことをやっています。しかもアメリカはそもそもカルタヘナ法を批准していないので、こういう審査はないわけです。日本は臨床研究でやる場合には、こういう形で厚生科学審議会で審査をして大臣の意見を回答する、これをやっているのが今日からここで検討することになっている、遺伝子治療臨床研究に関する指針というものです。それからもう1つの流れがあるのが、これは薬として開発しようとする場合にはこれとは全く別に指針と薬事法に則って承認を受けなければいけない。アメリカの場合には臨床研究であれ治験であれ、ベクターの安全性はFDA、プロトコールの内容に関してはRACがやるという方法を取っているのです。
日本のガイドラインがどうなっているかというのは先ほど話があったのですが、最初に平成6年にこのガイドラインを作りました。このときは今の医学会の会長の高久先生が中心になって、私と今自治医大の小澤先生がそのガイドラインの本文を作ったのですが、その平成6年のガイドラインが今まで基本的には続いているというところが1つ問題なのです。間にもちろんいくつかの改定は行われていますけれども、基本的な考え方がもう既に20年になっているということがあります。そこで実は3年前に当時の厚生科学のスタッフと我々とで何とかこのガイドラインを見直そうということで、平成22年度の厚生科学の研究事業としてこういった調査研究を行いました。このメンバーにはここの委員会にも入っている先生もいます。こういった研究班で指針の見直しを3年前の時点で行ったわけです。現在の指針自身が非常に分かりにくい形になっているし、科学の研究の進歩に追いついていないというような問題もあります。それからもう1つ全く新しいこの幹細胞、特にiPSが日本で出てきて、これに対する対応は全く取れていなかったということもあります。そういったいくつかの問題があって、とにかくこれを今の研究レベルに対応できるようなものにしようということで、指針の見直しが行われました。
これがその当時で、もちろんほかの指針も参考にしましたし、それから欧米のこういった指針、それからICHの、これは世界的な日米欧の医薬品の委員会ですが、こういった所の意見を取り込んだものを作ったわけです。詳細は今日はお話しませんけれども、こういった現状の指針を更に見直したものというのを我々としては提案をここでしたわけです。
主な点は、とにかく今の科学技術のレベルに合わせることが1つ大きな流れでしたけれども、そのほかにも審査体制、こういったものをとにかく徹底的に見直して、できるものは簡略化して、できるだけ早く日本で遺伝子治療が進められるようにしようというのが主な改正点です。
例えば委員会も同じ議論をいろいろな委員会でただ繰り返すのではなくて、きちんと仕分けをしてやろうと。それから審査手続も今まで日数の制限がなかったので、先ほども言いましたように、長いものでは何年も掛かるというようなことが日本では行われたのですが、こういったものをある程度、日数制限をすることによって迅速な審査を可能にしようと。これがそのときの案ですけれども、それぞれのステップで30日以内ということにして、これは審査委員にとってはなかなか大変だと思うのですが、こういうことをすることによって、長くても半年以内には欧米並みに審査ができるようにしたいというように考えたのです。
今日お話したまとめですけれども、日本でも遺伝子治療が実際1995年以降行われています。日本のカウントでいうと34個のプロトコールが既に行われているということになっています。欧米ではここまでカウントしていないということはあります。日本では今のところ重篤な副作用は出ていません。ただ、日本ではなかなか欧米に比べて進まないというので、こういった理由があるだろうと。特にここでは審査方法、ガイドラインといったものを見直したいということです。ガイドラインは日本では臨床研究のガイドライン、ここでこれから審査するものと、遺伝子治療薬のガイドラインが一方に置いてあります。ちょうどこちらの方に関しても、今見直しがスタートしたところです。ですからこの臨床研究のここで審査するガイドラインと遺伝子治療薬のガイドラインを並行して改定を進めて、日本全体としての遺伝子治療の臨床研究及び治験が進めるようにしてほしいというのが希望です。
こういった臨床研究が進むことで今後、基礎研究の活性化と研究者の育成、そして公的研究費がもっと増額できる、だからまた更に遺伝子治療の研究が進むということにぜひ流れがいってほしいです。それから一方、遺伝子治療薬についても、こういうガイドラインを見直すことでより企業が参入しやすいような形にして、治験が日本でも進められるようにということが我々の希望です。
以上が話ですけれども、今日からここで指針の見直しが行われるということで、ぜひ進めていただきたいということと、今お話したように、実は2年前に我々の研究班で見直した案というのをここで提出しているのです。参考資料に付いていると思います。これは1つのたたき台として参考にしていただきたいのですが、これが2年間どうして進まなかったのかというのも実は大きな問題ではありますけれども、ここからスタートしたということで、ぜひお願いします。我々が作ったガイドライン案はあくまでも遺伝子治療の研究者が作った案ですから、そういう意味ではここで重要なことは、研究者以外の方、特に一般の方も含めてそういう意見が取り上げられていければよりいい形のガイドラインができるのではないかということで、ぜひ期待しています。よろしくお願いします。
○山口委員長
島田先生、ありがとうございました。今日、ここからはフリートーキングにしたいと思ってはいるのですが、最初のうち、島田先生はせっかく非常に分かりやすく御説明いただいたと思うので、島田先生の御発表に関連するところの質問等を頂ければありがたいと思いますが、いかがでしょうか。
○谷委員
分かりやすいお話をどうもありがとうございました。教えて頂きたいのですが、ADA欠損症に対する遺伝子治療臨床研究が始めて実施されてから20年になりますが、参加患者様の現在のご状態は如何でしょうか?
○小野寺委員
成育医療研究センターの小野寺です。最初の件ですよね。1990年にT
Cellを用いた遺伝子治療で2名の女の方が行われて、2人とも健在で、上の方は実は結婚されているし、1人の方はその後にもう1回Stem Cell Gene
Therapyをやったのですが、余りうまくいかなかったみたいですが、状態的には比較的悪くない。20年間たっても安全性においても特に問題ないし、一応、日常生活を送っているという話は聞いています。
○谷委員
PEG-ADAの投与はその後も再開されていないのでしょうか?
○小野寺委員
多分していません。(委員会後確認し、PEG-ADAは継続中)
○山口委員長
ほかに。もちろん、もし他のところの御質問あるいは御意見でも構いませんが、多分、島田先生の御発表の所をまず御質問していただく方が、共通の理解につながるのではないかと思っています。
○中畑委員
非常に分かりやすいお話をありがとうございました。日本では、臨床研究と治験と2つのトラックがあったわけですよね。臨床研究としては、今まで30何例が審査されて行われてきたと。治験というトラックも、もともと治験のやり方でPMDAを通して、そこに企業として、あるいは医師主導の形で治験を進めることはできたと思うのですが、日本では治験という形で遺伝子治療が行われた例はないわけでしょうか、あるのでしょうか。
○島田教授
資料の中にあると思いますが、3人分ぐらいはあるはずですかね。
○山口委員長
多分2例だったと思います。2プロトコール。承認されたものがもう1つあるのですが、実際には治験が行われなかったものもあるので。
○島田教授
ですから、非常に少ない。やりにくい状況であることは間違いないです。
○中畑委員
治験のトラックに乗っていく場合に、PMDAの審査の過程で数々の問題点があって、日本では進まなかったと。恐らくアメリカなどだと、臨床研究というよりも治験の色彩が強い形で、多く早い段階から企業が参加する形で進められていると思うのですが、日本でそういう形でなかなか進めなかったというのは、PMDAの審査には今までの遺伝子治療の指針での制限は余り関係ないわけですよね。そこでのどのような所が大きなネックになって日本で進まなかったのでしょうか。
○島田教授
これは遺伝子治療に限らないと思うのですが、製薬会社が入ってきて、PMDAで審査するのが、ドラッグ・ラグがものすごくあるという一般的な問題と、遺伝子治療に関してはPMDA側もそれほど経験がないですし、アメリカでのFDAを考えると、FDAはNIH、要するにRAC側と常に協力してやっていくという体制ができているのです。だから、そういう点で日本はPMDAと臨床研究が別個に行われてしまっていることが、いろいろな意味で弊害になっているのだと私は思っています。
○辰井委員
アメリカの規制の考え方について伺いたいのですが、ベクターについてはFDAでというのは、それは人体に投与するということで、被験者保護及び薬としての安全性という観点から、そこはFDAで見ると。
○島田教授
アメリカはそこははっきりしていて、研究だろうが治験だろうが、ヒトに投与するものはFDAが全部チェックするという考えなのです。日本は、それが歴史的にそうではなくなってしまっているのです。
○辰井委員
RACという所については、プロトコールの科学的な妥当性を見ると、そういう棲み分けになっているのですか。
○島田教授
そうです。
○今村委員
この会議の主たる方向というか、これは審査体制をもう少しどうにかしろということかと思って聞いていたのです。日本における研究の進展を妨げるファクターとして、1つは臨床研究のときには厚生科学審議会だと、治験のときにはPMDAだと。PMDAだと言っても、結局、これは厚労省と極めて近い関係にありますよね。これを話合いとか何とかで、それを一本化というか、審査体制は別個にしても、それをもっと有機的に結合しろとか、そういう考えで島田先生はおっしゃったのですか。
○島田教授
全くそうです。そのとおりなので、実際そういう流れが今できつつあって、アカデミックな部分とPMDAと一緒にこういった遺伝子治療とか、再生とかもそうですが、そういう研究を進めていくことが、やっと去年ぐらいから始まったのです。これは推進していかないと、欧米には全然太刀打ちできないと思います。
○伊藤委員
全く素人なので分からないかと思ったら、大変分かりやすいお話をいただきまして、ありがとうございました。幾つか質問したいと思います。私はヒト幹細胞の研究指針の見直しと、再生医療の安全性確保と推進の所でも参加したのですが、結局、再生医療はよく分からない新しいものかと思ったら、巷では、それを再生医療治療と称している医療機関なり何なりがたくさんあることが分かってきたのです。つい今朝ですが、ちょっとした週刊誌を見たら、遺伝子治療も標榜している所もいろいろあるようなのです。
そうすると、先生の現状では、きちんと正規のプロトコールで承認されたものが34で100人以上の患者というお話ですが、闇に隠れた部分はどこか把握する方法があるのか、それとも全く遺伝子治療についてはそういうことはあり得ないと思っていらっしゃるのか、お聞きしたかったのですが。
○島田教授
大変重要な問題なので、我々もそれは認識していて、恐らく一部では全く厚労省もつかんでいない形で、いわゆるベクターというものが外国から輸入されてしまって使われているものがあるのではないかを、危惧しているのです。
以前にもそれに近いことがあって、直接対応したこともあるのですが、実は全体像は必ずしもつかめていないのです。だから、その辺のところが、アメリカの場合だと、先ほど言っていましたが、ヒトに投与するものは絶対FDAがチェックするという原則があるのですが、日本は実は必ずしもそうではなくてもいいという緩いところもあるのです。だから、隙間でそういうことが行われているのではないかを心配しています。でも、それで今のところ大きな副作用というか事故にはなっていないのではないかとは思うのですが、もし本当にそれで事故が起こった場合、これは非常に大きな、先端医療そのものが日本ではできにくくなる、そういう影響があるのではないかというふうには心配しているのです。
○山口委員長
今の話ですが、FDAでも、確かにアメリカでも別にそういうことは全くないわけではなくて、非常に気にしている部分があって、FDAは基本的にはその審査を全部されます。ヒトに投与する場合は、細胞治療であっても遺伝子治療であっても。ただし、例えば中国から輸入して、それを使われるというケースもあるようですが、FDAはそういうことをできるだけ監視して、きちんとそういうことのないようにということをすごく気にしています。日本も多分、スタンスはそういうスタンスだとは思っています。事務局から、もし何かそれについて。
○尾崎研究企画官
今あるところとしては、研究として行う場合については、ここの研究指針に基づいてやってくださいということですので、研究に基づく場合は、実施施設の審査を経た後に厚生労働大臣の意見を聞くという流れになっています。研究であればこの指針に従っていただくことになります。いろいろな裁量の下で輸入してというところは、可能性としてはあるかもしれません。
○伊藤委員
なぜこういうことを言うかというと、いろいろな本とか情報は、今ものすごく、特にインターネットなどを通じて流れていて、治療の見込みのない疾患、急速に悪化していく疾患の患者はインターネットで同じ患者同士から様々な情報を得るのが非常に多いのです。そういう中で研究の安全性などは考えないと、とにかく自分はどっち道助からないのだから、少しでも可能性のある治療があったら、それに懸けるということで、随分お金も掛けてあっちこっちに、例えばアメリカでは非常に規制が強いけれども、そこの資本が規制の弱い国にクリニックをつくって宣伝をすると。そうすると、それに流れていくことがあることも幾つか本には書かれているのですが、そういう患者の心理みたいなものと、研究の安全性、スピード感がどこかでもっときちんと一致して、安全なものを早く提供できることは必要だと思います。
研究以外のことは関係ないとおっしゃらずに、そういうものもきちんと把握して、何が安全で、あるいは何が今求められているものかをもう少し見ていただければと思うので、あえて質問しました。
○辰井委員
初回なので少し大雑把なことを申しますが、法律的に言うと、薬事法という法律は基本的に被験者の保護は役割としていないので、薬を不特定多数に配ることに伴う薬の安全性みたいなものが主であり、被験者の保護は主目的ではありません。ですので、そういう臨床研究的なものを治験のルートできちんと見れないのは、すごく構造的な問題だと思っています。現在、指針で遺伝子治療臨床研究などに関して、あとヒト幹もそうですが、それに関しては指針でやっていますが、指針は法的な拘束力はないので、綱渡りですよね。もし何かあっても出ていけない状況であることは変わりがありません。
再生医療に関してだけ特出しで新しく法律が出来ようとしていますが、島田先生のお話を伺っていても、アメリカでも、それは先端医療全体の安全性、また、それを推進するという観点から、規制が考えられたと言われていて、それはそうあるべきだろうなと非常に思いました。ですので、恐らく、今、再生医療が特出しになっているのも過渡的な姿であって、少しそれほど遠くない将来に臨床研究と治験の関係を整理して、基本的には被験者保護という観点を基礎にした法律みたいなものをつくり、薬の点については、それのプラスアルファ的な規制をつくっていくことを考えないと、私のような者の目に見える周辺でもかなり具体的に問題が起きているという感じがします。
○山口委員長
多分、御意見の方にも大分入ってきたので、もちろん全般的な御意見でも結構ですので。
○小野寺委員
今の点は非常に重要な点だと思います。先ほど御説明があったのですが、遺伝子治療臨床研究において、主に薬と考えられるのはウイルスベクターですので、GMP準拠という形で遺伝子治療を行うとしたとき、ウイルスの製造に関してはこれはほとんど治験と同じことだと考えられるわけです。
問題は、遺伝子治療で使われているウイルスベクターが本当に全ての意味でGMPに準拠されて製造されているかの審査をどこでするのかとかは多分決まっていないと思います。先生がおっしゃられるように、ウイルスに関してはFDAで一括して見ているということであれば、特にウイルスを薬として考えるのであれば、臨床研究においても一括した患者の安全性のことを考えると、遺伝子治療であろうが治験であろうが、臨床データのマネジメント管理は別として、特にウイルスを使用することに関しては、何かそういう方策(ウイルスの安全性を確認する体制)をとらないと、今後は何か問題が起こったときに、現在ある指針では対応できなくなってしまうと危惧します。ただ、この部分に関しては反対意見も多いのですが。
○谷委員
小野寺先生の御意見には、全面的に賛成致します。ただ、問題は、今一般的に用いられているのは薬剤に対するGMP基準であり、例えば細胞療法とか、遺伝子導入ベクター製造に関するGMP基準はまだ正式なものがないのが現状で、我々も今、免疫細胞製造を行う上でGMP準拠でやってはいますが、実質的には多くの部分が自主基準で行っています。当然ながら、この分野でもGMP基準を作って行くべきですが、今後の重要な課題だと思います。
また、最初の段階として、タイトルを「遺伝子治療臨床研究」のままでいいのか、「遺伝子治療臨床試験」にするのか、についても議論しなくてはいけないと思います。遺伝子治療が他の方法(いわゆる再生医療等)と比較して研究的色彩が特に強いとは言えなくなってきた現状では、より質の高い臨床試験してうことを前提とした、ガイドライン作成を行って行く必要があるのではないかと個人的には考えています。
○伊藤委員
せっかく島田先生がいらっしゃるので、質問をもう1つしたいのですが、アメリカではFDAでこういう様々な規制をかなり厳密にしているというお話と、もう1つは、生物多様性というかカルタヘナ法は批准していなくてということでした。日本はベクターを輸入しにくいとか、いろいろなことをおっしゃっていましたが、そういう関係は何か、日本はこれからなのでしょうが、アメリカではそれがどういう基準で、どういう機序で研究がたくさん行われることになるのか、その2つの関係がよく見えなかったのですが、FDAのような非常に厳しい規制と、カルタヘナ法は批准していないということとの関係は、先生はどのようにお考えなのでしょうか。
○島田教授
1つは、FDAは、私は前にNIHというFDAと隣合わせの研究室にずっといて感じたのですが、逆に、FDAがベクターの安全性については審査をしてくれて、研究者は、とにかくFDAは通らなくては、INDとして申告しなくては駄目なのですが、それさえすれば、今度は逆に研究がやりやすいという面があると思うのです。
先ほども少し言ったけれども、日本みたいなGMP準拠といっても、どこまでやっていいか分からないみたいな方法でやると、かえって研究としては進まないのではないかと。きちんとどこかで基準を決めてくれて審査してくれた方が、逆に研究としては進みやすい面もあると思うのです。だから、単純に規制がないのがいいというわけではないのだろうという面はあると思います。カルタヘナ法については、どうしてアメリカが批准しないのか、私はよく理解できないのですが、どうでしょう。
○山口委員長
ヨーロッパもカルタヘナ法はもちろん批准しているのですが、遺伝子治療薬に掛けることはしていないのです。要するに、カルタヘナそのものは生物多様性ですので、そこの点は各国によって考えるスタンスが違うのだとは思っています。ただ、ヨーロッパは逆にカルタヘナ法でなくて、遺伝子治療は環境影響という形で捉えるので、その環境影響についての評価をしないといけないので、ある意味どこかの科学的視点は、遺伝子治療の安全性、環境への影響、ヒトからヒトへの影響とか、そういう点は見ていると考えていいのではないかと思います。
○尾崎研究企画官
少し補足したいと思います。遺伝子治療の臨床研究を行うためには、遺伝子治療の指針に基づく確認と、日本の法律のカルタヘナ法に基づくもの、すなわち、組換えられたウイルスがヒトに投与され、ヒトが外に出るものですから、そのウイルスが外に出たとした場合、従来から外にいる既存の生物の多様性に影響を及ぼすかどうかという点を確認すること、その2つの審査の結論が出てから研究が開始できるようにしているものです。
カルタヘナ法の審議については、以前は、指針の確認をする作業委員会とは別の作業委員会でやっていたのですが、この4月からは一つの委員会にしています。また、カルタヘナ法の確認自体は、現在までにある知見等を踏まえて審査していますので、我々の事務局としては、カルタヘナ法の確認自体で非常に手間取る話は余りないと考えています。
指針の確認については、遺伝子治療薬は体内に直接、注射等により注入するものなので、品質等が特に重要になります。どのレベル迄を求めるかは、、作業委員会の先生方の知見によっており、いろいろ検討をしていただいて審査をしているところです。
カルタヘナ法は日本の法律です。また、生物多様性条約があって、その後、その条約の絡みでカルタヘナ議定書があります。この2つについてアメリカは批准はしていないので、アメリカの国内法として何かがあるわけではありません。日本は条約、議定書ともに批准していて、議定書の内容に基づいてカルタヘナ法をつくっており、遺伝子治療もその対象になるということで、今、審査をしているという状況です。
カルタへナ法の対象として、一番イメージが湧くのは、新たな遺伝子組換え植物を作物として屋外で栽培しようとするときに、生物への環境影響がないかどうかを確認後に実際に行うことがあります。
○今村委員
アメリカとの対比の中で、規制の緩和についての御意見もありました。また、創薬への方向として、企業の参入ということもおっしゃいました。両方とも大切な視点かと思います。ただ、一方で企業の参入については、つい先般、高血圧薬の問題が私どもとしても非常にショックを受けたわけです。ああいうものは国民の安全というものに対して直接的に影響のあるところでもあるし、医の倫理というものについても非常に抵触するものがあるということで、利益相反とか何とかいうことの運用についても、よほどきちっとしなくては、それをかえって一生懸命進展の方にやろうと思っているのに、かえって国民の方から不信感を持たれて、こういう新しい治療法、先端的な治療法が日本の中で敬遠されることもあり得るかもしれないので、そこはきちっとやっていただきたいと思います。
○山口委員長
多分、今、今村委員がおっしゃったのは、先般、企業の方が高血圧の大規模な臨床研究の中に身分を隠したまま入ってしまって、その報告も書かれたという件があったと思います。この辺は非常に、もし、それについて追加で何か御意見、御質問があれば。その辺は当然きちんとやっていかないといけないところだとは思いますが。
○中畑委員
非常に大事な問題で、今まで日本ではいろいろな学会があって、そこでもある程度の規制をしようということで進んできて、御存じのようにそれぞれの学会の中に利益相反に関するいろいろな決まりをつくって、自主規制という形である程度今まで進んできている。ただ、学会の中でまだ半分ぐらいしかそういう利益相反の規則がつくられていないということです。私の関係している学会では、大体、利益相反の基準をつくって、一応それに全て抵触しないようにいろいろな臨床研究あるいは治験を進めていくことになっています。その点は非常に、特に国民の信頼を今回の場合は大きく損なってしまったということで、それは医学界そのものが反省してこれから進めていかなければいけないと思っています。
○島田教授
皆さん御存じかもしれませんが、実は利益相反は非常に重要な問題ですが、これが世の中で議論され出したのは、遺伝子治療が一番最初なのです。先ほど少し言いましたが、ゲルシンガー事件があって、あのときにあるペンシルベニアの研究家が自分で会社をつくって、それが利益に直結する遺伝子治療をやったときに、患者が亡くなったということで、あの事件をきっかけにして世界中で利益相反が議論されるようになったのです。ということもあって、基本的には遺伝子治療関係者は、利益相反に関してはかなりセンシティブになっているのですが、もちろん一般論としては大変重要な点ですし、注意しながらやらなくてはいけないことだと思います。
○谷委員
治験医療がアカデミアで今まで重要視されてこなかったという日本の医学・医療の歴史も重要な原因の1つであると思います。現在、御承知のように、文科省で「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」が、厚労省で「臨床研究中核病院」の各プログラムが稼働しはじめ、各拠点が指定され、これらを基盤としてアカデミアにおける医療従事者への早期治験教育、また、それらが円滑に実施されるためのシステム形成が今後実施されて行くものと期待されます。利益相反の問題点を含め、反省すべき点を明らかにし、日本の治験医療・医学の円滑なる発展に向けて、更なる本分野の活性化が必要であると考えています。
○小野寺委員
その点は研究を行う者として本当に非常に真摯に受け止めるべきだと思います。もう1点ですが、例えば企業の純粋な意味でのアカデミックな参画ということですが、特にヨーロッパとかアメリカでは、ガイドラインの策定とかかなり公的な所にも参画しています。先端医療に関しては企業の知識はかなり大きいということがあり、ヨーロッパでも一般的な企業も参画して、技術革新に関してかなり有意義なディスカッションがされています。ですから、大学関係者とか医師のみならず、アカデミックな形で企業の方にも技術革新に関して何らかのサジェスチョンを頂く機会は、私はあってもいいのではないかと思っています。
○尾崎研究企画官
補足ではありますが、企業にしても大学にしても、例えば遺伝子治療用の医薬品というか、そうしたベクターを開発した場合については、例えばPMDA(医薬品医療機器総合機構)では「薬事戦略相談」という、このようなものをどのように治験に結びつけて実用化していくかということに関しての相談の制度もつくっていると聞いていますので、その中でいろいろな品質の話の相談もできると思います。
また、今年から順次進めていく話ではありますが、大阪にある医薬基盤研究所においても、「創薬支援戦略室」を設置して、創薬に関するいろいろな相談に応じています。今、ご指摘されている事項のおおよそのことは、これらを通して、今後だんだん整理されていくものと考えています。
○伊藤委員
もう1点だけ島田先生にお伺いしたかったのです。先生も懸念しておられたことだと思うのですが、私は、製薬会社であろうと、研究施設であろうと、大学であろうと、行政であろうと、一緒になって研究を進めることは大いにやってほしいことです。そういう連携をよくすることが大事だと思うのですが、血友病Bの話のように、既にその治療について、あそこはそれが企業の利益の非常に大きい部分なのです。
それを持っていて、それを患者がたくさん使っているという企業が、もう一方の別な治療を開発していくと、どちらが良いか悪いかという前に、何かどちらをどう選ぶかは企業のコントロール下に置かれてしまう気もして、そういう場合と別な製薬企業が研究に参加するというのと、何か少し意味合いが違う気がして、多分、先生はそのことも懸念しておられたのだと思うのですが、正直な話、そこら辺りはどうしたらいいのでしょうか。
○島田教授
みんな世界中で、あの例だと、Baxterが今後どういう方針でいくのかは、戦々恐々というか見ているところなのです。ただ、Baxterではないですが、もう1つのGSKの方が、今こういう遺伝子治療に積極的に参入しているのですが、彼らの話を聞くと、遺伝子治療そのものは会社の利益にはそれほどならないのだけれども、その他の部分、医療全体のことを考えると、大企業としてはそういった医療にも貢献すべきだと、割とそういう真摯なことを言っている面もあるのです。だから、是非、大企業も、儲けるところはもちろん儲けなければ駄目でしょうが、こういった先端医療で、しかも血友病が微妙なのは、あれは患者が結構多いですから、それ以外の遺伝病みたいなのは、確かにそれを売って、企業として収益がものすごくあるということは、余り考えにくいのです。そういったオーファンなものに対しても、今、企業が入りつつあるのです。それは歓迎すべきことだと思うのです。
○中村委員
先ほど来お話に出ていた利益相反について、そういうことが医学研究者に求められるということは、逆に医学に関する研究が、自分の私利私欲とか、名誉欲とか、そういうことでやっているのではなくて、社会のため、患者のためにやっているから、そういうことが求められるのだろうと私自身は理解しています。そういう意味で、いろいろな臨床研究についても、そういう前提の下でも、例えば人間の尊厳、対象者の権利、安全、そういったことを保障するために指針はあるのだと思うのですが、これのために研究が縛られるというか、やりにくくなるのは問題だし、できるだけ研究自体はやりやすくした方がいいというのが私の立場です。
その中で島田先生にお尋ねしたいのは、先ほど臨床研究と治験が日本では二本立てになっていて大変やりにくい。そうすると、ここの委員会でこれを言うとそもそも論なので、ガタッと崩してしまうのかという懸念もあるのですが、どうも指針を見直すだけでは今の研究環境が改善しないのではないかという懸念があるのですが、その辺について先生はどのようにお考えですか。
○島田教授
全くそうでして、この指針だけでは駄目です。だから、片方でベクターや何かの安全性のガイドラインになっている遺伝子治療薬の方とのカップリングをしてやっていくと。プロトコールとか倫理性ということに関しては、こちらの指針が中心になるべきですが、ベクターの基準に関しては、これは治験だろうが臨床研究だろうが、あるレベルの保証をできるような、そういうガイドラインに全体としてしないと駄目だと思っています。
○中村委員
そういう意味でここは現在の遺伝子治療臨床研究に関する指針だけの見直しなので、もう少し大きなところで何とか。例えば指針をこういうふうに改訂しますというふうなことを議論した上で、少し話が具体的になりますが、附則みたいな形でこういうところも今後改善していかなければいけないみたいな意見表明もしなくてはいけないのかという感じもしておりますが、いかがですか。
○島田教授
そうなのです。では、どうすればいいかは、こちらが厚労省にも聞きたいぐらいなのだけれども、例えば我々が3年前にガイドラインの見直しを1回やったのですが、結局、それはこの間全然動かなかったのです。一方において、今、遺伝子治療薬の指針の改訂を、山口先生とか私も入って今やろうとしているのです。だから、是非、行政上のどこの縄張りかはあるのかもしれないのですが、内容的には少なくともオーバーラップした委員なりが入って、カップリングしたものとして使えるものにしないと、独立してしまって、これをこちら、あれをあちらと、ずっとこれからやっていっても、進まないと思うのです。その点で、アメリカの方がいいというか、例えばその辺がアメリカの場合ははっきりしているということです。
○那須委員
私自身、島田先生の下で指針の見直しをしまして、実際に現場で指針の下で患者の治療を行ってきたという立場ですが、3つのプロトコールを通して基本的なスタンスは、私は泌尿器科医でして、末期の前立腺がんの患者をたくさん治療していますが、いい治療を早く現場に適確なステップを踏んで持っていきたいという思いでずっとやってまいりました。
実際、この指針でやったときに、一度、1つのプロトコールを通すのに5年かかりました。そのときには、傍らで患者が、伊藤委員がおっしゃった市中のそういう治療に走って亡くなっていった患者をたくさん診ていますが、基本的な指針を見直したいというスタンスは、研究者として日々、患者のそばにいて、的確に、しかも被験者をきちんと保護していきたいというスタンスでこの見直しをやっています。そういう社会の目といったことも当然踏まえながら、この指針の見直しができたということで、決して研究だけではなくて、基本は中村委員がおっしゃったスタンスであることを、この見直しをやる最初に研究者の立場として一言言っておきたいと思います。
○山口委員長
多分、今、那須先生にまとめていただきましたように、遺伝子治療の指針の見直しは、遺伝子治療の開発を促進すると。しかも、それは先ほど中村先生がおっしゃったように、ただ単に研究ではなくて、患者のためとか、そういうことがまず目的であるのだろうと。ここでまとめる必要は全くないのですが、そういうところに関しては恐らく異論のないことかという気がします。
もう1つは、COIの関係をいろいろ議論していただいたのですが、もちろんその点は非常にきちんと担保していかないといけないのですが、こういう先端的な遺伝子治療は、先端的な医療技術の開発では、産業界も含めた連携はあるところ非常に必要なのだろうというところは、多分、御異論のないところかという気がしています。その他。
○小野寺委員
かなりまとまってきて、私が言うことでもないのかもしれませんが、今回、私も指針に参加させて頂いて、是非お願いしたいのが2つあります。1つは、今おっしゃられたように、日本では遺伝子治療が臨床研究と治験という形になっており、たとえば、一大学の人間が治験をいきなりやるのはかなり厳しい。ただ、そうかといって、臨床研究をやっても、それが治験に結びつかなければ、正直言うと、それで終わってしまう。ですから、1つのブリッジングとして、なるべく臨床研究から治験に持っていけるガイドラインを作りたいのが1つです。
もう1点が、先ほどから何度か出ていますが、今、本当にハーモナイゼーション、国際的なグローバルな治験、インターナショナルな治験が始まっています。となると、ヨーロッパ、アメリカが日本に入ってきたときに、それに常に対応できるような指針の見直しが必要になってくると思います。海外からどのようなガイドラインでやっているのかという話をよく私たちは聞かれるのですが、そのときにこういうガイドラインですということを示すことが重要と考えます。つまり、1つは臨床研究から治験と、海外からの国際共同治験に関する2つのブリッジングに役に立つ指針を是非今回作っていきたいとは、私は考えています。
○山口委員長
最後で申し訳ないのですが、島田先生の紹介していただいた中で遺伝子治療の審査体制ということで、先ほど上の方に臨床研究で、下の方に治験というプロトコールがあります。再生医療は、臨床研究から高度医療とか、そういうストラテジーに行くのもあるかと思うのです。多分、その辺について御意見、遺伝子治療は高度医療とか、そういうところに行くのは意外とその辺が難しいのかと。今、小野寺先生がおっしゃったように、治験の方にできるだけ行った方が、開発としてはいいのかという気はしているのですが、そちらでいく話というか。
○谷委員
出口戦略としては、治験と、先進医療Bだと思いますが、いずれにしても製剤化を目指した遺伝子治療の研究戦略が求められる時代になっていると思います。
○島田教授
そうですね。それはあり得ると思うのです。ただ、がんの治療のような場合は、確かに先進医療というルートは結構現実的だけれども、遺伝病の場合はどうですかね。対象によっても状況が違うかもしれないですね。
○那須委員
先ほどの治験と臨床研究のはざまは、今、私もずっと創薬を絡めて悩んでいますが、谷先生の言われた、昨年見直しされた先進医療のシステムの先進医療のBの中にはきちっと対象項目として遺伝子治療、更にda
Vinciといったロボット治療、ああいったものが対象としてきちっと医政局の所に出ているので、そういった現行の枠組みの中でより医薬品に近付けていくという方向はあると思っています。
○中畑委員
考えるところは、治験のトラックに乗っていく方が、これは指針で臨床研究という形であろうが、患者に対する医療を安全に、より健全な形で届けると、そこの目的自身は両方とも変わらないので、できるだけ両者の間の今までの溝と呼ばれるものがあったとすれば、それもできるだけ小さくなってくる努力はこれから必要だと思います。PMDA側では、先ほどの先生の御紹介のように、昨年、科学委員会ができて、再生医療についてはその1つの部会で、そこでも今まで幹細胞を用いた臨床研究で行われてきたこともいろいろ参考にしながら、今、これからの新しい方向を議論していると。
一方、今の再生医療の幹細胞を用いた臨床研究の指針でも、できるだけ細胞の安全性ということでは、きっちりした施設の中でそれを処理しなくてはいけないと、あるいはきちんと教育を受けた人が細胞を取り扱うとか、そういったところは共通なところなので、その辺はPMDAに課されている条件もできるだけその指針の中に盛り込んでいくと。今、その両方が非常に近い関係で努力をされているので、遺伝子治療についても同じ形で、この委員会としても、治験のトラックに乗っても、それに十分通用する形の指針を作っていくと。
また、PMDA側でも、この委員会の状況とか、それ以外のものも非常に参考にしながら、もし改善するところがあれば、今後改善すると、そういった努力をお互いにやっていくことが。ここでいきなり両方を一緒にしてしまうのは、すぐはなかなか無理だと思うので、そういった形の努力が必要ではないかと思います。
○山口委員長
多分、遺伝子治療薬の指針は、研究指針を引用している部分があるので、中畑先生が御説明されたように、そういう部分も、多分、全体としてはハーモナイズすべきところはハーモナイズした方がいいだろうとは、今、お聞かせいただいたとおりだと思います。
あと、他によろしいでしょうか。もし、なければ、今後の進め方ということで、事務局から資料7を使って御説明いただけますか。
○許斐課長補佐
資料7について説明します。1「基本的な考え方」です。本指針は、遺伝子治療という専門性の高い技術を用いた臨床研究を対象としているため、臨床研究に関する倫理指針とは別に取り扱われています。しかし、指針としては、先ほど資料5でお示ししたごとく、個人情報の保護や被験者の人権保護等の共通事項も有しています。
そこで、今回の見直しに当たり、これらの共通事項については、疫学及び臨床研究に関する倫理指針の見直し内容と齟齬のないよう、整合性に留意する必要があります。このため、本委員会については、以下のとおり検討を進めたいと考えています。
丸1まず、遺伝子治療臨床研究に特有の課題、定義、対象疾患、審査体制等から順次検討を開始し、先ほど出た共通事項については、疫学研究及び臨床研究に関する倫理指針の見直しの状況を踏まえて、後半で行うことを考えています。なお、これらの指針の見直しの状況については、本委員会にも適宜情報を提供しようと考えています。
2「具体的な会議スケジュール」です。本日の第1回目では、指針の現状を把握し、皆様より問題点などを含め御意見を頂きました。7月から年末にかけては、月1回程度の開催を予定しており、現状の課題・検討すべき事項の整理と方向性について、本指針特有のものから議論していただきたく存じます。来年1月から3月にかけては、残った課題などがありましたら、それらを議論して、新指針案をまとめていきたいと考えています。
○山口委員長
今、事務局から、今後の進め方について案を出していただきましたが、御意見等はありますか。御異議がないようでしたら、こういうスケジュール案、こういう方向性で進めたいと思います。もし、何か追加で、例えば御要望とか、そういうのはありますか。例えば、先ほど遺伝子治療薬の指針とのハーモナイゼーションということもありましたので、できればそのような遺伝子治療薬の進展について、参考人を呼ぶとか、そういうことも可能でしょうか。可能であれば、そういうところの専門の方に紹介をしていただくという取組もやれればと思っていますが、よろしいですか。
それでは、この案のとおり進めます。最後、事務局から、連絡事項等がありましたらお願いします。
○尾崎研究企画官
次回の日程ですが、7月にはまた会議を開催したいと考えており、今後、改めて日程については、先生方に御連絡しますので、よろしくお願いします。本日の議事録については、作成次第先生方に御確認をお願いし、その後公開しますので、併せてよろしくお願いします。参考資料は机上に残していただきますようにお願いします。
○山口委員長
今日は活発な議論をいただきまして、ありがとうございました。今後もこのような形で、是非いい指針案になるように改訂作業に取り組みたいと思いますので、御協力をよろしくお願いいたします。
<問い合わせ先>
厚生労働省大臣官房厚生科学課
担当:情報企画係(内線3808)
電話:(代表)03-5253-1111
(直通)03-3595-2171
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