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2013年3月7日 第8回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録

医政局総務課医療安全推進室

○日時

平成25年3月7日(木)


○場所

厚生労働省専用第15・16会議室


○出席者

会議メンバー(五十音順)

植木哲 (医療紛争研究会会長)
小野寺信一 (仙台弁護士会紛争解決支援センター代表)
北川和郎 (総合紛争解決センター代表)
児玉安司 (第二東京弁護士会代表)
小松満 (茨城県医療問題中立処理委員会代表)
小山信彌 (日本病院団体協議会代表)
佐々木孝子 (患者代表)
高杉敬久(日本医師会常任理事)
中村芳彦 (法政大学大学院法務研究科教授)
西内岳 (第一東京弁護士会代表)
橋場弘之 (札幌弁護士会紛争解決センター運営委員会委員長)
前田津紀夫 (全国有床診療所連絡協議会代表)
水田美由紀 (岡山弁護士会医療仲裁センター岡山代表)
宮脇正和 (医療過誤原告の会代表)
山田文 (京都大学大学院法学研究科教授)
山本和彦 (一橋大学大学院法学研究科教授)
渡部晃 (日本弁護士連合会代表)

参考人

葉梨之紀 (日本医師会常任理事)

厚生労働省

吉岡てつを (医政局総務課長)
宮本哲也 (医政局総務課医療安全推進室長)

○議題

(1)医療裁判外紛争解決(ADR)機関の取組等の紹介及び意見交換
(2)その他

○配布資料

資料1第7回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録
資料2「日医医賠責保険制度」(社団法人日本医師会提出資料)
資料3「諸外国の医療ADR」(山本構成員提出資料)

○議事

○医政局総務課医療安全推進室長 
 皆様おそろいでございますので、ただいまから第8回「医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議」を開催させていただきます。
 本日はお忙しい中、当会議に御出席いただきまして、大変ありがとうございます。
 なお、出欠でございますけれども、今田構成員、古賀構成員、鈴木構成員、田口構成員、増田構成員、和田構成員から御欠席との連絡をいただいております。
 また、本日、参考人といたしまして社団法人日本医師会の葉梨之紀常任理事にお越しいただいております。
 それでは、以降の進行につきまして、山本座長、よろしくお願いいたします。

○山本座長 
 皆様、こんにちは。本日はお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 議事に入ります前に、本日の資料について事務局より確認をお願いいたします。

○医政局総務課医療安全推進室長 
 お手元の配付資料について確認させていただきます。
 座席表及び議事次第。
 配付資料といたしまして、資料1「第7回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録」。
 資料2としまして、社団法人日本医師会提出資料「日医医賠責保険制度」。
 資料3としまして、山本座長より提出いただきました「諸外国の医療ADR」。
 以上でございます。不備がございましたら、私どもまでお申しつけください。
 また、資料1の前回の議事録につきましては、既に構成員の皆様に御確認いただきまして、厚生労働省のホームページに掲載させていただいております。

○山本座長 
 それでは、議事に入らせていただきます。
 本日は終わりの時間が15時30分ということになっていますけれども、できれば15時15分ぐらいに終えたいと考えておりますので、御協力のほどよろしくお願いいたします。
 前回の会議ですが、資料1の議事録にありますように、和田構成員から医療ADRの多元的な機能について、渡部構成員から弁護士会医療ADRの課題と展望について、西内構成員から東京三会医療ADRの体制と取り組み等について御紹介をいただきましたほか、厚生労働省から医療ADR機関に対するアンケート結果の発表があったところであります。
 本日は、引き続きまして大きくは2つです。
 まず、資料2に基づきまして、参考人としてお越しをいただいている社団法人日本医師会の葉梨常任理事にお話をいただき、質疑の時間を設けたいと思います。
 その後、私のほうから資料3に基づきまして諸外国の医療ADRについてのお話をさせていただき、また質疑の時間を設けたいと考えております。
 それでは、早速葉梨参考人から資料2「日医医賠責保険制度」について、お話をいただければと存じます。よろしくお願いいたします。

○葉梨参考人 
 こんにちは。日本医師会の常任理事の葉梨です。日本医師会の医賠責保険制度の統括を担当している理事でございます。
 本日は、このような席で日本医師会の医師賠償責任保険制度におけるADRに対する本会の考え方をお話しさせていただく機会をいただき、感謝いたします。
 その前に、既にいろいろな専門誌で解説されております日医の保険制度を簡単に御説明させていただきます。
 本制度は昭和48年に始まりまして、40年目を迎えております。日本医師会の全てのA会員が入会してから退会されるまで、免責100万円がありますが、1事故1億円の医師賠償責任保険の被保険者となります。
 余談ですが、なぜこの免責金額を設定してあるかということですが、当時の賠償金の相場が50万円前後で、100万円が時々出てくる時代でありました。そこで制度をつくる際に、当時の武見太郎会長が、責任あるときは速やかに賠償に応じる必要があり、当時では考えられない高額な賠償金額を設定し、また、事故を起こした会員が痛みを感じるためにも自己負担をすることが必要であるとして、日医保険には免責が設定されております。
 本題に戻ります。
 資料2に日医医賠責保険制度のフローチャートが書いてございます。ここは日本医師会と都道府県医師会との関係、被害者側と被保険者側、これは主に医師なわけですが、その関係が書いてありまして、日本医師会は保険会社と契約してございまして、保険会社が保険金の支払いまで行うような制度でございます。
 最終的な判断は賠償責任審査会が行いますが、常時行いますのは保険者の調査委員会でございまして、各学会の専門家が約30名ぐらい毎週1回集っております。ここには弁護士も常時3人、保険会社からの弁護士も参加しておりまして、毎週1回やりまして、さらに小委員会を毎週2回ずつやって審査を行っております。
 都道府県医師会から上がってくる案件について、事故の状況、被害者側の考え方、被保険者(医療機関)の考え方を判断しまして、調査委員会から賠償責任審査会のほうに上げまして、有責、無責、有責の場合にはどの程度の金額が妥当かというところまで、通常の判例を参考にしつつ、あるいは弁護士会の赤本、保険会社の基準をもとにしまして判断しております。
 そのときに各都道府県医師会から出されてくる内容に地元で行われているADRの判断で金額まで出してくる場合もありまして、それもそういうところで判断しております。
 こういうことで年間約300件ぐらいの調査を行いまして、保険金の支払いまでしているわけですが、多分、100万円を超える事故は300件ぐらいですが、それ以下の事故というのは、およそ3倍ぐらいが各都道府県医師会なり郡市医師会の段階で話し合いが行われて、処理されているというふうに推測しております。
 日本医師会のADRの対応方針でございますが、以前から医療ADRの場で解決することに反対しているようなことはございません。ただ、紛争の内容や性質に応じてADR、調停、訴訟、あるいは示談など役割分担がなされるべきものと考えております。
 特に医学的な問題が重要な争点となっていたり、請求金額が余りにも高額な事案は、訴訟などの場で議論されることが納得のいく解決につながるものと考えております。
 これまで千葉県のNPO法人医療紛争相談センターや各都府県のいわゆる弁護士会ADRでの紛争解決もふえております。ただ、ADRでの解決を進める場合は事前に照会をいただくようお願いしております。
 また、金額についても、ADRで出された金額をさらに日本医師会の調査委員会、審査会のほうで判断して、その結論をまた都道府県医師会を通じて知らせるようにしております。
 これまでADRでの解決をお断りした事案は1件程度です。この案件といいますのは、審査の結果、これは無責であるとはっきりしているだろうということでお断りした場合がございます。
 以上、御参考になりましたらと思いますが、御意見がありましたらお聞かせください。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明につきまして、御質問、御意見等を御自由に御発言いただければと思います。中村さん、どうぞ。

○中村構成員 
 3点ほど御質問させてください。
 このレジュメの最後の「ADRへの対応方針」の(2)のところに書いてあります「ADR、調停、訴訟、あるいは示談など役割分担がなされるべき」ということなのですが、訴訟との役割分担はわかりやすいのですが、調停とか示談のADRとの役割分担というのは具体的にどういうことを考えていらっしゃるのかというのをお聞かせいただければと思います。
 2点目は、その後の「請求金額が余りにも高額な事案は、訴訟などの場で議論されることが、納得のいく解決につながる」という御指摘があるのですが、これは法的にその責任があることは比較的明確な事案の場合でもこういうことになるのかどうなのか。金額ということだけ、つまり、法的責任が比較的はっきりしているものについてもこういうお考えなのかどうかということについて、念のため確認させていただければと思います。
 もう一点です。最後の「ADRでの解決をお断りした事案は、1件程度」というふうになっているのですが、そもそもどういう形で日医の賠責のほうにこういう案件が上がってきてその判断を求められるのか。逆に医療者のほうで、これは事前の段階で持っていくまでもなくグレーであるとか無責である、持っていっても難しいのではないかということで自制されるような案件はそもそも含まれていないのかどうなのか。その辺の振り分け基準みたいなものについて少し教えていただければと思います。
 以上でございます。

○葉梨参考人 
 訴訟は確かにわかりやすいのですが、調停とか示談に対しては、特別その現場に対して意見を差し挟むということはございません。
 調停、示談の中で出てきた結論に対して、また日医の調査委員会の判断を示すという形をとっております。
 高額な事案の場合ですが、我々がどう見てもこれは医療機関に責任が大きいという場合に、普通の積み上げた形での賠償額からして非常に高額な場合がございまして、そういうのに対して、普通の裁判などで出されるような結果はこういうところではないかということをもう一回審査委員会のほうから都道府県医師会のほうに提示する場合がございます。
 ADRでお断りした事案というのは、先ほど申し上げましたように、いろんな意味で責任がないのではないかということを判断した場合にお断りしておりますが、再度上がってくる場合もございます。
 以上でよろしいでしょうか。

○山本座長 
 よろしいですか。どうぞ。

○中村構成員 
 関連で1点だけ。高額の場合、裁判で認められそうもないみたいな話がちょっとあったのですが、そもそも日医の賠責の場合の賠償額の算定基準みたいなものについて、例えば交通事故などの場合だったら算定基準というのが結構はっきりあるわけですが、医療の場合はなかなかそこまではないと思うのですが、その辺の具体的な、これは高額過ぎるとか、このぐらいならばというような判断は個別ケースごとに先ほど御指摘された弁護士さんとかがかかわられて判断されているという理解でよろしいのでしょうか。

○葉梨参考人 
 そうです。委員となって参加している弁護士さんたちからもそういう金額についての判断は出されます。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 それでは、ほかにいかがでしょうか。宮脇委員、どうぞ。

○宮脇構成員 
 3点ほどお願いいたします。
 1点は、日医の医賠責の制度ですけれども、医師の場合は、日本医師会に加入されている先生方はこれに入るほかに、日医会員外の先生方は他の医賠責に入っていると聞くのですが、例えば医療事故があった場合に活用されるのは日医の保険制度のほかに、まだ別にもあるのだよということなのかという確認が1つ。
 2点目が、医療事故裁判の相手側病院がたびたび医療事故を繰り返していて、日医の医賠責にも入れないのだということにぶつかるケースがあるのです。その点では、1回、2回ぐらいの事故で入れないのか、それとも事故を繰り返す医療機関とか医師に対しての加入の基準等をどういうふうに持たれているのかということも公表できれば教えていただきたい。
 3点目です。医賠責が大事な役割を果たしていただいているというのはとても大きなことだと思います。一方、医療事故の動向がどういうふうになっているのかというのは非常に公益性を持っている情報だと思うのです。医療事故が多いのであれば、それなりに国に対していろんな対策を求めていく必要がありますし、それは医師会だけの問題ではなくて、国民全体でさまざまな対策が必要だと思うのです。そういう点で、現在、国としては医療事故全体の統計は公式にはとられていないのですが、日本医師会は全国組織としてかなり綿密に個々の医療事故事案について検討されて、正確な情報を持たれていると思うのですけれども、その点について、プライバシーを保護しながら、国の政策に、医療安全対策等に反映させる意味で何らかの形で公表するとか、そういう議論というのは医師会の中ではされていないのでしょうか。
 3点お願いいたします。

○葉梨参考人 
 医師会員でない場合には、これは医師会の賠償責任保険ですから適用されないわけです。これは医師会費の一部として設定されております。提示した保険制度に対して医師会員が自由に入ってよろしいよということでなくて、医師会員になった場合には自動的にこの制度の中に入るようになっております。ですから、会員以外が適用されることはありません。
 それ以外の保険というのは、例えば病院などの保険はまた別個につくられておりますし、そのほかにも各学会によって保険制度をつくっているわけで、例えば手術での問題、麻酔での問題があれば麻酔科学会とか、それぞれが独自に各個人の医者に対してやっております。ですから、そういうのが入っている場合には、医師会での賠償責任が上がってきたときに、結論が出ますと、金額が相手側も納得した金額になったという場合には、それを案分したりいたします。
 国民的な内容に対して、一番近い例としましては、お産のときの脳性麻痺にかかわる無過失賠償責任の制度がつくられました。このときも日本医師会は最初から参加しております。脳性麻痺の場合には、大体1件当たり1億から2億ぐらいの高額になりますので、これとは別に随意に加入する特定保険というのを設定しておりまして、それは2億まで払われるということで設定されております。
 無過失補償については、これによって先に被害者に対して3,000万まで払えるということが非常に助けになっていると考えております。
 あとは、もっと無過失補償を設けるべきではないかということでは議論もやっております。
 医療内容、繰り返し事故を起こすような例については、やはり問題になりまして、今、1つの方針としては、委員会をつくってやろうということになっておりますが、各都道府県の段階で関係した学会を含めて本人の指導に当たるということとか、県内の大学で研修を受けてもらうとか、そういうことが行われております。それは一定の制度としてないものですから、各県によってまちまちで、報告として上がってきて、僕らはキャッチしております。
 細かい医療事故の内容については、相当プライバシーの問題がありまして、そのまま出せるようなものではございません。
 よろしいでしょうか。

○山本座長 
 よろしいですか。

○宮脇構成員 
 公表のことですけれども、2番目の質問のところで、繰り返す医師について、被害者が裁判で勝訴した場合でも、実際に保険に入れていないということで支払われないケースもぽつぽつあるのです。そういう点で、被害者にとっては、せっかく裁判でここまで結論が出たのにそれから先の手がない。差し押さえ等もいろいろあるのですが、それもいろいろ対策をとられて差し押さえできないようにやられているケースもありまして、とても悲惨だなと思っています。将来的にそういう情報が一定程度公開できると、患者さんが受診する場合においても一つ参考になるかなという思いを持っているわけです。
 先ほどの統計の件ですけれども、もちろんプライバシーにつきましては十分配慮するという形で、例えば総額での支払いの動向であるとか、件数の動向であるとか、本来だったら徐々に減っていくというのが望ましいことだと思うのですが、上昇していく傾向があるのであれば、国を挙げての取り組み、受診する患者についても医療安全にもっと参加するようないろんな仕組みが当然考えられると思うのです。個々の病院でも今、努力をされてはいると思うのですけれども、そういう動向が政策づくりにおいても一つ大きな説得力を持った資料になるのではないかと思いまして、大きな意味での支払い件数や額の動向の公表等についてはなかなか難しいのかという質問なのです。

○葉梨参考人 
 支払い件数とか支払い額について、特別秘密の状態ではございません。
 支払い件数については、このところふえたり減ったりですが、大体一定しております。
 金額については、年間払われているのは約80億ぐらいでございます。

○宮脇構成員 
 ありがとうございました。

○山本座長 
 小松構成員、どうぞ。

○小松構成員 
 今の質問の中で、リピーターで繰り返すために保険に入れない人がいるのですか。

○葉梨参考人 
 それはありません。リピーターが問題になって、1人の医師が同じ手術を3回、4回失敗して、それこそ1人で何億も使うというような状態に対しては、どうしたらいいかということをその県の医師会と話し合いをしまして、本人に対してどういう指導をするか、そういうのを個別にやっております。

○宮脇構成員 
 わかりました。正確に理解しました。私たちは、事故を繰り返す医師は医師会の医賠責にも入れなくなるので賠償金を支払えないのだという説明を受けていたものですから。正確に理解できました。ありがとうございます。

○葉梨参考人 
 それはありません。御自分から医師会を退会された例がたまにございます。

○山本座長 
 それは保険料が変わるということもないのですね。

○葉梨参考人 
 保険料は、平成19年ぐらいまではむしろ支払いのほうが多い段階で、保険料アップが続いたのですが、それ以後は逆に1回保険料を下げるぐらいの状態になりました。

○山本座長 
 繰り返しミスをして保険を支払ってもらったようなお医者さんは、その分保険料が上がるとか、そういうことはないわけですね。

○葉梨参考人 
 それはありません。本人に注意してもらうためにそうしたいという考えはあるのです。だけども、これは医師会費の一部としてなっているものですから、その人だけ会費を上げるということはできませんので、事故の内容をよく調査して、本人に繰り返し起こさせないようにするにはどうしたらいいかという考え方で対処しております。

○山本座長 
 よくわかりました。
 ほかにいかがでしょうか。水田構成員、どうぞ。

○水田構成員 
 賠償責任審査会で判断が出るまでの期間というのは大体どのくらいなのでしょうか。かなり以前は、ここの決定が出るまで非常に時間がかかるというのが患者さん側から問題にされていたようです。例えば都道府県医師会から日本医師会に報告があって、そこから決定が出るまではおおむねどのくらいの期間というのを教えていただけますか。

○葉梨参考人 
 大体毎日のように全国から上がってきまして毎週処理していますので、二月から三月ぐらいの状態です。何か問題があって内容をもう一度問い返すことはございます。
 ちなみに申し上げますが、お産のほうの無過失賠償責任の審査の決定が出るまで1年間かかります。

○山本座長 
 ほかにいかがでしょうか。事務局、どうぞ。

○医政局総務課医療安全推進室長 
 補足させていただきますが、1年かかるという部分は原因分析の期間でありまして、支払いに関する期間は、正確な数字を今は持っておりませんが、迅速に支払うということで対応しております。

○葉梨参考人 
 失礼しました。そのとおりです。3,000万までの支払いは、やはり被害者救済という意味があるので、仮払いされておりまして、後で医賠責のほうに上がってきて、有責になって決まった場合には、そこから無過失補償の基金のほうへ返金しております。

○山本座長 
 わかりました。
 ほかにいかがでしょうか。小松構成員、どうぞ。

○小松構成員 
 今の話で、ADR機関から賠償額が決まったというわけでなく、大体このぐらいという意見がでて、その額を記載している事業についても判断すると言いましたね。
 茨城県ですけれども、私たちが中立委員会をやったときに一番問題になったのが、中立委員会で、その賠償額、申立人のほうで言ってきたりすることがありますね。そのことに対して、日医賠償責任保険には額を言わないでくれというふうに書いてあります。そうすると、保険金が支払われないことがある。そのことが一番問題になったのです。そうすると、今はそういうことはないのですね。

○葉梨参考人 
 ADRの場合に額を幾ら払いますよということを相手側に決定するということは、その場ではやらないでいただきたいということで、これはADRがあってもなくても、患者さん側からは通常3億、4億と高額な請求が来ます。現場で、うちは2億払いますからそれで納得してくださいとか、そういうことはしないでいただきたいという意味でございます。

○小松構成員 
 わかりました。これですごくやりやすくなると思います。

○山本座長 
 植木構成員、どうぞ。

○植木構成員 
 私は千葉でやっておりまして、都道府県を超えまして日本医師会のほうへお願いをした件がございます。その件については、もちろん随分慎重に審査をさせていただきまして、多分1,000万程度の金額を快く出していただいたものと思っております。
 そういうことがもしできれば裁判よりは非常に使い勝手がいいものであろうと思います。その中で金額についての争いは当然ございます。ただ、委員の中に法律家もおりますから、そういうめちゃくちゃなことは多分やらないと思います。いわゆる裁判基準にのっとって、通常の場合は赤本や青本の基準を参照しながらやっておりますから、それほどひどい和解額が出るというふうには思っておりませんので、できるだけ迅速にお認めいただければありがたいと思います。

○葉梨参考人 
 かなり柔軟にやっております。
 これは最初に金額を3,000万とか提示しましても、示談の段階で和解勧告が裁判所から5,000万で出たという場合に、こういう折衝をしているということで認めてもらいたいということが県医師会から出てまいります。それが妥当かどうかを審査しまして、妥当な場合にはそれをそのまま受けるような形でもう一回結論を出します。ただ、現場で話し合って8,000万出すように話がついたから出してくれというのをそのままは受けられないということなのです。こちらの調査委員会でもう一回それを見直しまして、相手側の言い分、裁判所で出した根拠、弁護士会で計算した根拠とか、保険会社の根拠、そういうのを比較しまして、もう一回委員会にかけます。

○山本座長 
 小野寺構成員、どうぞ。

○小野寺構成員 
 小野寺ですけれども、二、三点お尋ねします。
 1つは有責、無責の決定です。お医者さん側に弁護士さんがついている場合は、その弁護士さんのほうに通知が行って、その結果が患者側の弁護士のほうに伝えられる。しばらく待っていてくれということで待っていて、無責になったのでという話なのです。
 何で無責なのかという理由は、もちろん我々のほうには伝わってこないのですけれども、お医者さん側の弁護士さんにも結論しか伝わらないのか、それともお医者さん側の弁護士さんにはなぜ無責なのかという理由も伝わっているのか。
 それから、無責だという理由を患者側に伝えてもらうということはできないものかどうか。非常に見たい。中身いかんでは反論もしたいし、あるいは訴訟に持ち込むかどうかの有力な判断材料になるわけです。
 交通事故の自賠責などは、どういう判断過程でどういう結論になったかということを必ず書いて出してくれるわけですが、あんなふうに無責だという理由を患者側に開示するということはなかなか難しいのかどうか。そこをお尋ねしたい。
 もう一点は、無責だというふうに言うので、では、訴訟しましょうということで訴訟して、ところが、結果として和解に応ずるわけです。では、あれは本当は無責でなかったのではないかというふうにすら思うこともあるわけです。つまり、無責だと言ったものを訴訟の過程で変更するということがあり得るのかどうか。そこもちょっとお尋ねをしたい。つまり、後日変更することがあるのかどうか。
 もう一点あるのですが、先にそこだけお答えください。

○葉梨参考人 
 各大学とか基幹病院の部長とか、例えば糖尿病の専門家とか、心臓の専門家とか、外傷学の専門家とか、みんないるわけですが、この案件は麻酔の案件だから麻酔科の教授のほうへ出してやってもらう。そうしますと、そこで最近の考え方とか、以前はこれは認められたけれども今はこうだということで、文献が全部洗い出されまして、これは学問的には有責です、この人のとった医療内容というのは認められないだろう、あるいはこれは無責だということを判断いたします。それでも示談の場合には相手側が承知しないという場合があります。それはそれなりに、医療事故の内容ではなくて、相手の感情などに対するお見舞いのような形で金額を設定する場合があります。500万なら500万で相手側と話し合うべきだとか、そういうのを提示することで、日本医師会の賠償責任の担当者が直接患者さんとはやり合いません。

○小野寺構成員 
 私がお尋ねしたかったのは、無責の理由というものを患者側に知らせるということはなかなか難しいものなのかということです。

○葉梨参考人 
 それはたびたび各県医師会からも出てくるのですが、お知らせしてありません。といいますのは、これは情報の非対称性です。同じことに対して患者さんから別の鑑定人が出されて争っている場合などがありまして、そういうデータもこの調査委員会のときにみんな上げてもらっているわけです。最近の学問的なもの、鑑定人が非常にオーソドックスな者か、あるいは非常に特定の考え方で判断し、学会でもそうやって考えられている人だとか、そういう判断がございます。それをさらに混乱させるという意味では、中での討議内容を出すことはございません。

○小野寺構成員 
 詳しい中身はいいのですけれども、因果関係があるとは認められないとか、患者側が言っている過失については認められないとか、問題になっているポイントについて審査会がどういう判断を下して無責にしたのかというのは、その間、待ってくれということで待たされて、たった一言「無責でした。あしからず」と言われると、ほとんどこちらの言い分も伝わっていないはずなのに、何でこの段階で無責なのだ、どういう理由なのかというふうに聞きたくなってくるわけです。今の状態では無責の理由の開示というのはなかなか難しいということになるわけですか。

○葉梨参考人 
 これは事務局なり担当の弁護士さん、それぞれの県に顧問弁護士さんがいまして、そこから連絡があったりしてお話はしますが、文書で出すことはいたしません。

○小野寺構成員 
 では、もう一点だけです。患者側の弁護士としては証拠保全をして、そのお医者さんにこういう点に落ち度があったのではありませんかということで質問をするのですけれども、医師会のほうから、有責、無責の決定が出るまでは回答するなと言われているということもあるのです。
 しかし、患者側にしてみれば、それはあなたと医師会の問題であって、何であなたが回答しないのだ、そんなことは関係ないだろう、こういう反応を持つこともあるのですが、お医者さんが自分のやったことに対して説明義務を果たす、あるいは患者側からの質問に対して自分の判断で答えるということを拘束しているわけなのでしょうか。

○葉梨参考人 
 拘束はしておりません。ですから、現場の先生が最初から謝ってしまってお見舞金を払っているとかいうような場合もございます。あくまで日本医師会の場合は、ADRで話し合って3,000万なら3,000万と提示してしまうということはやめてくれということと、前もってこちらに相談してもらいたい。ADRでこう決まったからこのとおりやってくれというようなことはそのままには受けられないというスタンスです。

○小野寺構成員 
 ただ、無責なら無責の決定が出るまでしばらく時間がかかります。その間に現場の当事者であるお医者さんがあれこれあれこれ質問に対して回答してしまうということは、審査会の判断にとっては非常に有害というか、やってほしくないことではないのか。そういうことはないですか。

○葉梨参考人 
 そんなことはありません。ですから、無責で出したものが、その後の経過はこうだったと裁判所の弁論の双方の記録などが出て、やはりこれは有責ではないかというふうに判断が再度出てきたときに変わることもございます。

○小野寺構成員 
 無責の決定が出るまでの間に当のお医者さんが患者側の質問に自分の判断で回答する。その中には過失を認めたかのような文言もあるかもしれない。その回答に対して医師会のほうが、今、審査中だから余計なことをするな、しばらく待っておれといった指示を出すということはないということですか。

○葉梨参考人 
 それはありません。

○小野寺構成員 
 わかりました。

○山本座長 
 ほかにいかがでしょうか。児玉先生、どうぞ。

○児玉構成員 
 いろいろ御説明いただいて、本当にお疲れさまです。
 1点、私どもADRを運営する立場では、手続の席に着いていただけることをもって応諾と呼んでいて、応諾率というのが、例えば東京のADRですと7割5分から8割ぐらいの方が席に着いていただけておりますし、もちろん日本医師会の保険のカバーを受けておられる方も手続に参加をしていただいているのですが、前提として、どうも応諾という言葉を使うと、手続の席に着くだけではなくて、賠償金の支払いに応じたり、承諾したりするというふうに誤解があるのではないかということを懸念しています。
 実際にインターネット上、公表されております弁護士会ADRの解決事例でも、保険による賠償金の支払いを一切しない、ゼロでの和解、要するに、きちんとした情報提供と第三者が入った丁寧な説明で納得をしていただいて、今後一切請求をしないけれども、例えば医療の安全に意を用いて頑張っていきますというような和解を結んで、ゼロで終わる事例も紹介をされているので、できればゼロだから席に着かないというのではなく、席に着いてコミュニケーションをしていただく場として利用いただきたいというような思いを持っているのですが、この点について、ひょっとしたら誤解がありはしないかと思ってちょっと御意見をお聞きしたいというのが1点目です。いかがでしょうか。

○葉梨参考人 
 それまで医師会のほうで指示するということはないのです。ですから、あくまで現場の弁護士さん同士が話し合うこともありますし、これは僕自身も今まで3回ぐらい自分の顧問弁護士さんでやったりしましたけれども、そういうやりとりというのは非常にシビアですし、細かいところまで、それから患者さん個人の素人としての判断、感情が入りまして、いろいろ納得しないということがございます。ですから、無責というのは、あくまでこの件について医学的には責任なしとするというようなことは第一に判断しているところでございます。

○児玉構成員 
 医学的な判断としての無責を専門職能団体、学術団体として日本医師会が判断をしておられるのであって、手続での話し合いを指示される御趣旨ではないというふうに理解してよろしいでしょうか。

○葉梨参考人 
 はい。ですから、医学的な判断の中には、この手術方法の説明をちゃんとやったかとか、そういうことがみんな含まれます。患者さんが納得しているということがあるのか。カルテも全部出てきますから、カルテを見てもそういう検査の結果が出ていないとか、手術記録が出ていない、あるいは説明した記録も何にもないという場合には、それは患者さんに対する落ち度だろうということで、有責にしてしまっております。

○児玉構成員 
 ありがとうございました。
 あと一点だけです。基本的に日本医師会の賠償責任についての審査の仕組みは、100万円以上の部分について拘束力のある指示があって、100万以下の部分については、別途100万円以下の保険をキャリーする保険会社のほうとの調整ということになるのかどうかということ。例えば全くゼロで和解をしたり、あるいはそんな大きな金額ではないのですが、健康保険の自己負担分の徴収を医療機関側が放棄する。例えば大変不本意な形で亡くなられたような事案で、自己負担分の徴収だけを放棄して、あとは説明を聞いて、気持ちに触れるような言葉があったら和解するというような事例をADRでも何例か経験させていただいているのですが、その部分でADRを御活用いただく限りにおいては、学術的な有責、無責というような見解とは離れたところにあると思っていてよろしいのでしょうか。

○葉梨参考人 
 いえ。
 まず、保険の制度から申し上げますと、100万円までというのは、免責として自己負担しろということで最初設定されましたが、それでも各都道府県が独自に100万円の保険を契約してしまっております。だけど、医師会員がその都道府県の設定する保険に入る、入らないというのは任意になっておりまして、入っている場合は最初からそこの保険会社がタッチするということだろうと思います。
 あとの質問は何でしたか。

○児玉構成員 
 保険を使わない。例えば自己負担分を徴収しないということで、金銭関係でお金を払ったり、賠償責任を負うということを認めたり、一切保険を使ったりしないで、健康保険の自己負担分の徴収をしないということと、もう賠償請求もしないということで、双方が何の請求もしない。説明はこういうふうに納得して、今後一切紛争を残さず、円満解決するという事例があるということを申し上げて、それで結構です。そういう事例もあることをひょっとしたら御報告、御説明にお伺いしたほうがいいのかもしれない。

○葉梨参考人 
 それは承知しております。ただ、それは患者さんと担当した医師との人間関係の問題、地域の中の関係があるのだろうと思うのですが、これだけの事故で医療費だけ負担してもらえばいいよという話し合いで決着がついたという報告が上がってくることもございます。僕らもなぜこんなに安いのだとかいうわけにはいかないのです。その場の人間関係で決着がついているのだろうと考えております。

○山本座長 
 高杉先生、どうぞ。

○高杉構成員 
 ちょっと補足します。100万円以下の保険の場合、私は広島県なのですけれども、都道府県で払って、いわゆるお見舞金程度で済む場合はそちらでカバーしているということは、各県でまちまちですけれどもやっているところがかなりあります。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 ほかにはいかがでしょうか。渡部先生、どうぞ。

○渡部構成員 
 日弁連の渡部です。
 病院関係の案件であれば、損害保険会社の顧問の先生が、病院の代理人についていますので、普通の交通事故と同じように、ADRの調停人が和解案を出して、それを保険会社の審査に上げてもらうということでいいのだろうと思うのですが、医師会の場合は、各地の医師会があって、そこに登録されていて、日医の会員になっている(日医の保険に加入している)場合に、ADRの調停人として気をつけなければならないということは具体的にありますか。要するに、病院の代理人の場合は、損保から直接委任を受けて病院の代理人となっているのが通常でしょうが、保険給付の決定権限のある損保から委任を受けている弁護士の先生に対して、和解勧告する場合と比較して、日医の保険に加入しているお医者さんの場合の医療側の代理人の先生に、和解案を出すことについて調停人として気をつけるべきことに違いはありますでしょうか。

○葉梨参考人 
 ないだろうと思います。大学病院とか大きな病院は金額が非常に高い状態、難しい手術、重病とか重症の状態を扱いますから、日医に上がってくる1億までの金額というのはいわゆる中小病院とか診療所の段階なのですが、大学病院などは院内に副院長とか総婦長とか、または担当の事務職員とか、そういう人たちが担当しているADRを設けている、あるいは弁護士さんが入っているというようなこともございますが、僕らが考えているその辺の役割というのは、あくまで患者さんに対する説明とか納得ができるか。第三者が言い分を聞くのだというようなことと、客観的に主治医でない人が間に入ってそういう医療状況を説明させるとか、その辺が大事な役割だろうなと思っております。その辺については共通していると思います。

○渡部構成員 
 ありがとうございます。

○山本座長 
 それでは、おおむねよろしゅうございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 ありがとうございました。
 葉梨参考人におかれましては、大変お忙しいところを御出席、また丁寧に質疑応答にお答えをいただきまして、感謝を申し上げたいと思います。
 葉梨先生におかれましては、ここで御退席になられます。どうもありがとうございました。


○山本座長 
 それでは、続きまして本日の2つ目の議題でありますけれども、資料3の諸外国の医療ADRということについて、これは私のほうから御説明をさせていただきたいと思います。
 一応私の名義で出しているわけですが、私が自分で調べた部分というのは全くありません。非常に学者としてはこれでいいのかという感じはしますけれども、ほかに今日のネタもないので事務局のほうから何とかしろというふうに言われて作成した資料です。そういう趣旨で御了解いただきたいと思います。一応アメリカ、フランス、ドイツ、北欧というふうに並べておりますが、いずれもその下に参考文献というものがありまして、主として法律雑誌に実務家研究者の方々が現地の調査等を行われて報告をされているというものを私の視点から簡単にまとめたという資料になっております。
 その中で、フランスとかドイツのところの参考文献として、「最高裁判所裁判迅速化検証検討会海外調査報告(未公刊)」ということになっている部分がございまして、これについてちょっと一言だけ御説明しておきたいと思います。
 最高裁判所に置かれているこの検討会というもので、フランス、ドイツ等の医療ADRについての海外調査を行われておりまして、それがこの検討会の場で報告をされております。ただ、これは現段階ではまだ公刊がされておりません。本年の7月ごろに最高裁判所事務総局の名義で裁判の迅速化に関する報告書というものが公刊される予定でございまして、その中にこの海外調査の結果というような形で報告をされる予定であります。そういう意味では、本来7月に公刊されるよりもちょっと前倒しになってしまいますが、それも一応参照にさせていただいているという点だけ御報告をさせていただきます。
 そういうことですので、一応質疑応答の時間もあるのですが、私が質問に答えられる部分というものは余りないかもしれませんが、私のほうでまたさらに調べることが可能であれば調べてお答えするというようなお答えになるかもしれませんけれども、とりあえず御報告をさせていただきます。
 まず、アメリカでございますけれども、これは御承知のように1970年代に医療訴訟が急増して、医療過誤保険、医療賠償保険の危機ということがいわれたということです。
 どなたかが調べられた、2002年にフロリダのマイアミで、お医者さんの年間保険料が産婦人科だと2,200万円、外科だと1,900万円になったというようなことが報告されているようで、それは非常に保険自体が危機的状況になったということで、訴訟によらない紛争解決つまりADRに対するニーズが非常に高まったというような背景事情があるようであります。報告されているところによると、ほかにもあるのかもしれませんが、3つの種類のADRが報告されています。
 スクリーニング・パネルというのは、アメリカの場合は各州でいろいろな制度があるようでありますので、必ずしもどの程度普遍化できるかちょっとよくわからないのですけれども、裁判所が運営の主体になって医師及び弁護士で構成されるスクリーニング・パネルというものをつくって、そのスクリーニング・パネルが書面に基づいて判断を示すと。ただ、示された判断は拘束力はなくて、そこで示された判断に基づいて当事者間で相対交渉をするということを促す。そういう制度のようであります。これは、後でお話しするドイツとかあるいはフランスもそうかもしれませんが、あるいは北欧の制度に類似したもののように思われます。これについては、示された判断については信頼性は高いということであったようでありますが、手続が訴訟と同じような手続になって、御承知のようにアメリカの訴訟というのは非常に時間がかかりますので、それと同じような形で大幅に遅延するような状況になって、多くの州でこの制度は廃止されている。そういう意味では、アメリカでは成功しなかったという評価がされているということが書かれております。
 第2に、仲裁であります。
 これは日本の仲裁と基本的には同じで、両方の当事者がその仲裁手続によることを合意して、その仲裁の判断に両当事者は拘束されるという制度であります。そういう意味では、拘束されるという点でそのスクリーニング・パネルとは違うわけでありますけれども、有名なのは、カイザーという、これはカリフォルニア州の医療財団法人の名称のようでありますが、そこが行っている仲裁手続が有名のようであります。幾つかのところで紹介をされております。これは、カイザーというものの医療プランに加入する時点であらかじめ医療機関が仲裁の合意をしておくというものであります。基本的に仲裁自体は1名の仲裁人が行うということが主流のようで、その多くは元裁判官がその手続を行っているというようにいわれております。
 そこに2009年の統計がありますように、これはカリフォルニア州ということだと思いますけれども、事件数としては700件余りの事件数であって、和解率は47%というような成果が上がっているということで、大体1年程度の平均審議期間になっている。この評価はかなり高いようでありまして、仲裁人をやっている元裁判官にアンケートで、仲裁のほうがすぐれているか裁判のほうがすぐれているかという質問をしているようですが、40%の仲裁人は仲裁のほうがすぐれているという答えをして、また、50%の仲裁人は裁判と仲裁で同じ程度だという評価をしているようです。つまり9割の仲裁人は仲裁のほうが裁判と同程度かよりすぐれているという回答をしているということで、そういう経験豊富な仲裁人の解決というものに対しては、かなり評価は高いようであります。
 最後に調停でありますけれども、これは最近、医療分野でも活用の動きがあるというふうにいわれております。
 アメリカでは非常に有名なADR機関であるJAMSという機関があります。年間約6,000件の事件を取り扱っているADR機関ですが、その約10%は医療事件であるというふうにいわれているようであります。そのほかいろいろな各州でこの調停の取組みというのはかなり活発に行われているようでありますけれども、どうもこの調停について詳細に報告をしたものが私には見当たりませんでしたので、これ以上のmediationについての御説明は多分山田さんのほうが詳しいだろうと思いますので、質問があれば山田さんにお願いしたいと思います。
 医療機関自体において調停を行うということもかなり増加しておりまして、昔はアメリカでは事故が発生しても医療機関は絶対謝らないということだったようでありますけれども、最近では早期の謝罪を含めて直接患者との間のコミュニケーションをとるということが重要であるというような指摘がなされているようでありまして、医療機関内部における調停、話し合いというものも増加しているという指摘がなされているようであります。
 以上がアメリカです。
 それからフランスですけれども、フランスはこのADRの仕組みというものが制度化されておりまして、2002年に「無過失補償制度を取り入れた医療紛争の処理制度」というものの法律が成立しております。
 これは偶発的な医療リスクを救済する損失補償制度ということで、最低損害基準、これは24%を超える永続的な一部労働不能等というふうに定義されておりますけれども、最低の損害基準を超える損害については、医療機関の過失の有無にかかわらず全部補償をするという制度ができております。そういう意味では、日本の産科無過失補償制度に近いものが一般化されているというイメージかと思います。
 紛争処理機関は、そこに書きましたフランス語で「CRCI」というふうにいいますけれども、医療事故調停補償地域委員会というものに一元化されておりまして、これは行政委員会、行政上の委員会というふうにされております。元裁判官が委員長で、患者代表6人、病院医師代表6人、その他有識者あるいは保険会社、弁護士等が8人、全部で20人で構成されている委員会がこの紛争処理の実務に当たっております。
 手続は、そこに書きました補償申し立てに基づいて書類審査が行われ、その鑑定が実施されて、最終的には裁定(過失の有無、損害の程度)等についての裁定が行われると。ただ、この裁定というのは法的な意味での拘束力はないということで、当事者に不服があれば最終的には訴訟によるということになっています。ただ、無過失補償の仕組みですので、基本的にはその補償を行う国家機関である「ONIAM」というものがありますが、これがCRCIの裁定に基づいて補償を行うということになっております。過失等について争いがある場合には、最終的にはONIAMと保険会社の間で行われるということで、基本的には過失の有無にかかわらず患者のほうには賠償が行われるという仕組みになっているということであります。
 それから調停の制度もある。これは先ほどの最低補償基準というのを満たさないような場合に調停というのが行われることがあるようでありますが、これは実際には件数は少ないということであります。
 申し立ての件数はそこに掲げましたように、ここのところは年間4,000件程度の申し立て、フランス全国ですが増加傾向であるということであります。実際の裁定が行われた件数は1,300件ぐらいの件数で裁定が行われ、それに基づいて賠償がされているということで、審理期間は主に1年程度ということであります。
 評価としては、非常に大きな成功であるというふうにフランスでは考えられているようでありまして、保険会社からも信頼性がある。患者の利便も図られている。患者の側からは無料で利用できますので、そういう意味では利便性もあるということであります。実際に、医事関係訴訟はそこに書きましたように減少の傾向で、この制度ができて以来6年ぐらいで2割ぐらい医療事件の訴訟数は減少しているということのようであります。
 それからドイツですが、これは医師会の鑑定所というところが中心的なADR機関である。
 これは元裁判官あるいは弁護士と医師の2人で事件を担当するということが多いようでありまして、法律家と医師のコンビで紛争の解決に当たっているということであります。費用の負担は基本的には責任保険会社が拠出をしており、それで不足している部分は医師会が負担しているということのようであります。基本的には国とか州からの補助はない、自力で運営されているということであります。
 手続は、申し立てがあり、他方の当事者の同意に基づいて書面審理が行われる。その患者の診察等が行われ鑑定も実施されて、その鑑定結果に対しての当事者からの意見を踏まえて最終的な判定が行われるということであります。この判定というのも、フランスと同じように当事者を拘束するということはないということでありまして、この判定結果を受けて患者、医師、保険会社の3者間の話し合いが行われるということで、基本的にはこの鑑定者というのは損害額の算定とかあるいは当事者間の話し合いの仲介というようなことは行わないということのようであります。
 実際には、この判定によるとほとんど解決しているようでありまして、1998年の北ドイツの調査によれば、判定後に訴訟になった事件は全体の8.6%にとどまっているということで、また、その場合に判決で判定と異なる結果になった事件は1.2%ということになっているということで、そういう意味では99%はその判定どおりに解決がなされているということになるようであります。
 申立件数はそこにありますように、バイエルン州だけで年間1,000件ぐらいで、ドイツ全体では1万件余りということのようであります。
 一般にこのADRについても評価は高いようでありまして、当初は医師会が資金拠出等をしているためにその中立性についての批判があったようでありますが、現在はその信頼性は高いものになっているということのようであります。その理由としては、組織上、医師会からは独立性が認められているというようなこと、手続についての透明性が高い、患者側に対しても情報開示が徹底して行われ、その患者側の意見も手続に反映されているといったようなこと。それから鑑定の質が高いと。先ほどお話ししたように、訴訟になった場合でも99%その判定結果と同じような形で最終解決がなされるということで、鑑定の質というものは高い。それから、委員の構成の中立性。医師だけではなくて元裁判官あるいは弁護士等が関与している。医師によるかばい合いの意識というものがかつてはあったけれども、現在ではそういうことはなくなってきているというような指摘がなされているところであります。
 最後に北欧の医療ADRということでありますが、紹介されているものとしてはスウェーデン、フィンランド、ノルウェーというものがありました。
 スウェーデンとフィンランドというのは基本的には同様の制度であるようでありまして、患者保険制度、これは医療機関の加入が義務づけられている保険制度というものが存在して、その保険制度とセットになってこのADRが存在するということであります。この保険については年間1万件余りの請求があって、6,000件で補償がされているということであります。
 患者が保険会社の判断に不服がある場合には、保険協会内の苦情委員会に対する苦情申し立てが行われると。この苦情委員会というのは7名の委員から構成されていて、委員長は元裁判官で、3名は患者代表、1名は保険専門家、1名は医師、1名は健康保険に関する有識者の7名で構成されているということのようであります。保険会社の調査資料に基づいて委員会が審理を行って、週1回程度の審理を行うということのようでありますけれども、委員会は最終的に判断を下すわけですが、その判断は拘束力はないけれども基本的には保険会社はそれを尊重するということのようであります。
 この制度は、スウェーデンではよく機能しているというふうに評価されているようでありまして、この医療についての訴訟は年間10件程度ということで、ほとんどないということであります。しかも、訴訟になっても結果が苦情委員会の決定と異なるのは1~2件ということでありますので、やはり患者の請求の99%はこの手続の枠内で解決がなされているということのようであります。
 フィンランドも基本的には同じようなことでありますのでここでは省略をしまして、最後にノルウェーであります。
 スウェーデンとかフィンランドというのは非拘束的なというか、当事者を拘束しない決定がなされるわけですが、ノルウェーのほうは、これは判断をする機関は行政機関ということになっておりまして、基本的には訴訟を提起する前に必ずこのNPEというところに行って、その紛争解決を裁判外で図らなければならないという仕組みになっているようであります。補償金については保険ではなくて、国費によって行われるという仕組みになっているようであります。
 申立件数は、年間4,000件でありまして、その3分の1で患者の申し立てを認容するというような実績になっていると。不服申し立ては、患者障害補償委員会という保険省が所管している機関に対して行われるということであります。これは5名の委員で判断されるということで、議長は裁判官が担当して、2名は医師、1名は法律家、1名は患者側代表の5名の委員で判断がなされるということであります。この判断は、裁定的な判断、和解を行うわけではなくて、最終的な結論の判断がなされるということであります。この委員会の決定に対しては訴訟が可能だということになっております。患者障害補償委員会というところが判断するのは年間1,000件~1,400件のようでありますけれども、訴訟になるのは年間60件~100件程度ということで、やはり訴訟にまで至るケースは非常に少ないということのようであります。
 最後に若干の感想ということを書きましたが、各国の制度を通覧してみますと、1つは基本的には保険との関係で制度が組み立てられている。この制度を運営する費用も保険の側で負担しているということが多いようであります。ドイツの場合は医師会の負担というのもあるようでありますけれども、基本的には保険の中で賄われているということのようであります。
 ADRの方法としては、非拘束裁定型というふうに書きましたが、当事者を拘束しない一定の判断をその機関が下すというような仕組みになっているところが全体としては多いようであります。調停が行われているというところはあるようでありますが、アメリカや先ほど申し上げましたフランスも一部でその調停というものがあるということです。
 それから、アメリカの仲裁であるカイザーの手続でも、半分程度は和解で実際には終わっているということでありますので、表面的に見えるよりは調停の占めている割合というものは実際には高いのかもしれません。このあたりはちょっと実情はよくわからないわけですけれども、そういうことです。
 そのほかには、純粋の仲裁型であるアメリカのカイザーの制度や行政処分的に拘束的に裁定を行うノルウェーの制度などが存在をするということのようであります。
 ADR機関の構成につきましては、今まで御紹介しましたように、多くの場合には、医療側、医師と法律家、さらに患者側、患者の代表といったような構成になっていることが多いようであります。それから、どの国でも裁判官経験者、元裁判官というものがかなり活用されているという印象を受けました。
 それから、申し立てに対する有責率というのは、これはおもしろいと思ったのですけれども、大体どの国でもおおむね3割ぐらいになっているというような傾向で、これは偶然の一致というのにすぎないのかもしれませんけれども、報告によるとそのような形になっているということのようであります。
 ということで、以上が私からの御報告でありまして、基本的には詳細は私が挙げた参考文献をぜひお読みいただきたいということに尽きるわけですが、もし私がお答えできる範囲であればお答えをしたいと思いますので、一応質疑応答の時間をとりたいと思います。あるいは、私よりも詳しい方がここにおられるのではないかと思いますので、適宜私の得た情報に補充をしていただければと存じます。
 いかがでしょうか。
 どうぞ。山田構成員。

○山田構成員 
 これは文献に載っているかどうかわからないのですが、裁定的な結論を出しているところが多く、それは合理的だと思うのですが、他方で裁定を書こうと思うとその理由をどこまで書くのかによって専門家の利用を含めたコストだとか時間が随分変わってくるように思うのですが、その辺りで、どの程度書くのかというような何か情報をお持ちでしたら教えていただければと思います。

○山本座長 
 ちょっと私の記憶には、書かれていたのかもしれませんが、どの程度書いているのかということについては、正確な情報というか記憶はありません。
 ただ、どこの機関も時間という点からすれば、おおむね1年というのが大体どの国でもそれぐらいかかっているような感じでありますので、その時間の相当の部分はやはりその鑑定のところで時間がかかっているのではないかというふうに思いますので、それなりの時間をかけて鑑定をやっている。恐らくはそれなりの理由を書いているのだろうという気はしますけれども、そこはちょっと確信はありません。

○児玉構成員 
 コメントを1つと、それから自分でわからない点の質問が1つございます。
 1つは、ここで多岐にわたってADRの制度がたくさん御紹介いただいている中で、保険という言葉の中身が、多分3種類混在しているだろうと思っております。
 フランスは2つの保険が交錯しているので、1ページ目の下から5行目と4行目で過失が否定された場合のONIAMによる補償額の提示という、ここの補償額の原資は、私の記憶が間違いでなければ健康保険の原資から無過失補償を行うという仕組みだったように思います。
 その下の、過失が肯定された場合、保険会社に送付というときのこの保険は損害賠償責任保険、いわゆる賠責で、今日、葉梨先生が御説明いただいたような賠責からの支払いと思われます。
 次のページのスウェーデンの患者保険制度というのは、これは患者さん自身がお金を払って、もしも何かあったときに患者さんが補償を受けるということですので、賠償責任保険ではなくて傷害保険に分類される保険ではなかろうかと。要するに資金の拠出者が健康保険という公のもの、医療機関側の賠償責任保険の資金か、それとも患者さん側の傷害保険の資金かいうことで3種類に分かれていて、フランスの制度は健康保険が無過失補償で入り込んでいる点が大変ユニークで、スウェーデンの制度は傷害保険、いわば自己負担の保険で患者さん側が支えているという点がユニークで、そのような部分については、おおむねいろいろな損害保険の会社との調整を含みながらも基本的に賠償責任保険でカバーをしていくということなんだろうと思っています。
 ちなみに日本の賠償責任保険、医療についてどれぐらいの規模かというと、500億円ぐらいで全ての医師賠償責任保険をカバーしているので、健康保険の1,000分の1ぐらいのサイズで、賠償全部が日本の国内で医師賠償責任保険について回っているという奇跡の日本的均衡が実践されていて、そういうことも視野に入れてどういう原資、資金の負担で解決を図っていくかということは、もう少し踏み込んで考えてもいい政策的課題なのではないかと常々思っております。これが1点目です。
 2点目は、質問も含めてなのですが、裁判で医事紛争の解決は困難だということで裁判官の多くの方大変御苦労をされていて、早期の解決あるいはADRによる解決とかそういうことを裁判官の側からも御指摘されることが多く、また裁判で対応していくことについての苦痛を医療従事者の方からおっしゃられることも多く、そうだとすると、もっと積極的に例えば調停前置とか仲裁前置とか、要するに裁判より前に調停や仲裁の仕組みを制度として用意するということがもっと積極的に検討されてもいいのではないかということをかねがね思っているのですが、山本先生にこういうふうに一覧で見せていただくと、判断する主体が行政機関であるものと民間機関であるものと2つに分かれ、それから手続を裁判より前に前置するということについて法律の定めがあるものと合意によるもの、恐らくそういうふうに分かれるのではないか。
 フランスの仕組みは健康保険のファンドを導入しただけではなくて、この調停前置を法律で定め、かつ行政委員会が、行政でやるということが適切かどうかも教えていただきたいのですが、行政機関として仲裁ないし調停の仕組みを前置するということで大変大胆な制度のように思います。せめて、ここまで一生懸命、例えば日本医師会も取組みをやってきた、あるいは病院の中でいろいろな第三者的評価の取組みもたくさんやってきたのですが、調停前置的な、裁判より前に話し合う場をきちんと設けるという制度的な取組みになかなか手が届かないでいるのが隔靴掻痒で、それについて、例えば法律の定めが難しければ、患者さんとの間の調停前置の合意というようなことがちゃんとした第三者機関であれば、とりわけ非拘束的な内容であればあり得る選択なのではないか。医療界からは免責合意のお話ばかり、要するに合意書をとって免責をしてもらうというお話だけ出てきがちなのですが、こういう第三者機関だったら、裁判にいく前の調停の場に持っていってもいいということを医療機関と患者さんが合意をするという仕組みも論理的には十分あり得るのではないかと思うのですが、先生方の御意見を聞かせていただければと思います。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 第1点にいただいたコメントはまことにそのとおりで、私の資料の保険という言葉はかなりその混同があるという御指摘はそのとおりだと思います。ただ、スウェーデンは、私ちょっとよくわからないのですが、私が読んだ資料では患者保険制度という名前がついていますが、医療機関がそれに加入するのが義務づけられているという表現がございまして、おっしゃるような損害保険的なものなのかあるいは賠償保険的なものなのかということ、ちょっとはっきりしないところがございます。これは実際に文献にもう一度当たってチェックをしてみたいと思います。
 フランスについては全く御指摘のとおりかと思います。
 それから、第2点の調停前置は、ちょっと私なかなかお答えするのは難しいところではあるのですけれども、この仕組みの中では、明確に前置のシステムがとられているのはノルウェーの制度で、これは行政委員会なので、日本でいうと行政不服審査の前置に近いシステムになっているということです。
 当事者間の合意に基づいての前置というのは全く御指摘のとおりで、それは十分考えられるということだと思います。そのカイザーの仲裁システムのというのは、私の理解するところでは、患者側がこのカイザーの医療プランを利用するというときには一種の仲裁合意が当然もう結ばれることになってしまうというシステムであるというふうに理解をしておりまして、かつてはそれに対してかなり批判もあったようでありますけれども、カイザーの側でこの仲裁制度をできるだけ中立的なものにして公平性・透明性を確保するというような努力を行ってきた結果、最近ではその評価は高くなっていると。これは仲裁の合意なわけですが、調停の合意というのは、確かにおっしゃるようにより活用できる余地というのはあり得るのかなというふうに思います。もし、日本でもそういうことが可能であれば、もちろん、ADR機関の中立性・透明性というものは当然求められるということになるとは思いますけれども、それは十分活用の余地はあるのかなという印象は受けました。
 私からのお話は以上であります。ありがとうございます。

○宮脇構成員 
 よろしいでしょうか。

○山本座長 
 どうぞ。

○宮脇構成員 
 児玉先生の意見に追加という趣旨なのですけれども、日本と共通の制度基盤を持つ韓国で、去年の4月から医療紛争の仲裁調停院というのが国の機関として発足して、昨年10月に視察に行ってきました。やはり国の制度だけあって年間103億ウォン、日本円で大体7億か8億ぐらいの予算で170人ぐらいの職員が、鑑定・調査、それから調停までやっていくということです。期間が90日間で結論を出すというのが本当にできるのかと思っていたのですけれども、実際には始まって半年間の間にいろいろな相談が1万4,000件ぐらい寄せられていて、実際に検討の対象になるのは300件ぐらいということで、該当する300件のうち約40%は医療機関が調停を受けるということでした。そして調査し、実際に結論を出してやっていくということは、医事紛争を裁判の前に調停をしていくんだという明確な国の姿勢を感じたんですね。まだ今はソウルだけですけれども、全国的に各支部を広げていくということでした。日本と同じように皆保険制度のもとで調停を国として財政や体制もつけてやっていくということです。
 もっと驚いたのは、この制度についての説明書が韓国語だけでなく、日本語、英語、それからロシア語、中国語のパンフレットもそろっていて、私たちが見学に行った病院にも既にそれが用意されていまして、この制度を国としてしっかり活用していこうという姿勢が感じられました。そういう点では、日本の場合は各ADR機関が、民間のところで、経済的な面も含めて、体制の面でも大変な御苦労をされてやっているのですけれども、実際にお隣の国の状況をみまして、今後の動向を見る必要はあると思うのですけれども、やはり国家としてそういうことを明確に打ち出しながらやっていく必要性を感じました。
 それから、外国の方の申し出による紛争も2%ぐらい既に入っているというような話で、今後、日本でもそうなってくると思いますので、国としてそういう体制づくりがとても参考になる。韓国でそういうことが踏み出されたということについて、ぜひ、現地の方に1年経ったところで、日本に来ていただいて説明していただくなりしてはいかがでしょうか。私たちが国の政策というか制度として取り入れていく上で、とてもありがたいことを始めたなというふうに感じましたので、ちょっと参考までに。

○山本座長 
 貴重な情報をありがとうございました。
 ぜひ、宮脇構成員、もし可能であればこの場でも詳しく御報告等いただければ大変参考になるのではないかというふうに思います。
 ほかにいかがでしょうか。

○小野寺構成員 
 ちょっとよろしいですか。

○山本座長 
 どうぞ。

○小野寺構成員 
 ちょっと児玉先生に教えてもらいたいのですけれども、僕、ふだんからの思いつきのようなものなのですが、ADRとか調停を推進していくためにはどうしても保険との関係を整理しないとなかなか進まない。これ発想を逆転して、比較的大きな病院であれば資金を保留して、自分のところで何億かの資金を保留しておいて、自分のところの審査会がオーケーと言えば出すというふうにすれば、かなりADRとか調停に親しみやすいというかやりやすいと思うのですね。結構、損害賠償保険の保険料も高いといえば高いんですよね。資金を保留して、税務上の何か処置があれば自分の金を払うと。そうすれば、かなり微妙なケースについても大胆かつ早期に払って解決ができるし、自分の金を払うわけですから、払わないように努力するという動機づけにもつながるので、保険でなければだめなものなのか。保険にかわる何か拠出の源、資金の源というものを考えられないものかどうか。
 僕のよく知っているある病院の院長とそのことをよく話をして、そこの病院は医療事故が立て続けに続いたので、中に審査会をつくってそこで判断して、幸い損害保険会社がその審査会の判断に全て納得してくれて全部示談で解決したのでよかったのですが、その後、院長の感想が今のようなことだったんですね。何とかプールして、その中から自分たちの判断でできないものなのかと。やはり保険会社に一々伺いを立てなければいかんものかと。もし自分たちでできるのだったら、灰色のケースについても思い切った示談ができるのだけれどもと。こんなことを言っていたのを僕は聞いて、なるほどそういう方法もないこともないなというふうに思っているのですが、その点どうでしょうか。思いつきで申しわけないのですけれども、せっかくこういう話題が出たものですから。

○児玉構成員 
 少し時間がありそうなので。
 先生が思いつかれたことを40年ほど前にハーバード大学で思いついた人がおられまして、ハーバードはハーバード大学の関連病院の保険とそれから外部の医療機関の保険を完全に切断をいたしまして、自家保険という、要するにただのBS・PL上の数字として上げるだけではなくて、captive insurance company、要するに保険子会社をハーバードが設立するという仕組みをつくりました。先生が指摘されたとおり、ハーバードだけの保険会社をつくると思いのほか賠償が出たときのクラッシュが怖いというのと、思いのほかお金が余ったときの税金の負担が怖くて、最悪シナリオは税金をたくさん払った後で大事故が起こるとパンクする。そこで法制化を待つというようなことを考えないのがアメリカ人らしいところで、そうしたら再保険子会社、つまり保険子会社をつくった後で再保険の子会社をケイマン諸島につくればいいと。それでケイマンにお金を流しまして、そこにお金が貯留をしていて、そのケイマンからさらに再々保険をロンドンのロイズに出す。そういうスキームでハーバードは大変上手な運用をしているところです。
 日本でたしか当初の独法化のときに自家保険の仕組みがあったように思うのですけれども、到底、ハーバードが考えたような税務上の対策というようなことができる余地もあるはずがありませんで、なかなか厳しい状況があります。それからアメリカと比較してドクター1人当たりの賠償負担というものが数十分の1ぐらいしか日本はありませんので、保険のファンド自体がそんなに大きくなりようがなくて、今、申し上げたようなダイナミックな国際的なスキームを組み立てて自前でやるというのはちょっと金額的になかなか難しいだろう。こういう現象というのは、多分私が浅い知識で余り言うと専門家に怒られてしまいそうなのですが、日本の保険会社が欧米の保険会社に比べるとより相互性、要するに営利的な保険ではなくmutualといいますか、相互保険的な公益的な色合いの強い運用をしておられるので、必ずしも自家保険というふうに一足飛びにいかなくとも、保険会社の今、水面下になってしまっている仕組みがもう少し透明性のある形で表に出てくれば、それにきちんとした信頼が集まっていけば、医療従事者も納得がいき、患者さん側も納得がいき、そして第三者的に見ても健全な運営がされているような仕組みというのが、100点にはいかないけれどもある程度のところまで姿が見えてきているようなことを思っております。そんなところです。

○小野寺構成員 
 ありがとうございました。

○山本座長 
 ほかにいかがでしょうか。
 どうぞ、中村先生。

○中村構成員 
 ちょっと児玉先生に、先ほどの調停前置というお話の言葉が出たので、具体的にその中身としてどういうふうなことを考えてらっしゃるのかお聞かせいただければと思います。というのは、今日の山本先生の諸外国の例を見ると、どちらかというと非拘束型にせよ裁定型のものが比較的多くて、つまりそれはなぜかというと、多分訴訟による時間とか費用の削減ということで鑑定等を簡易にやって、そしてその結果を出していこうというような手続がどちらかというと中心的な位置を占めていたというように思うのです。調停前置といった場合、例えば弁護士会のADRというのはどちらかというとまさに調停的な手続で、その中で医療側の弁護士さんと患者さん側の弁護士さんが意見を言うとしても、もちろん鑑定ではないわけです。だから、どうしても話し合いが中心だということになっているのだと思うのですが。そういう意味で調停前置というと通常は話し合いを行うという場としての調停というイメージなのですが、そういうものとして前置とした場合に、実際上どの程度機能していくのか。そうではなくて、ある程度評価的なものを主とする、そのための仕組みをしっかりとある程度鑑定あるいはそれに近いものを組み込まないとうまくいかないのかどうなのか。その辺りを調停前置という言葉の中で、児玉先生がイメージしていらっしゃることをもうちょっとお聞かせいただければと思います。

○山本座長 
 可能な範囲でコメントを。

○児玉構成員 
 要らぬことを言うので、済みません、いろいろ話題を提供させていただいておりますが。
 そういうことを言い出した発想は2つあって、1つは、本当に細々ながらも国境越えの紛争に対応する事例を私自身幾つかありまして、そういうときには、例えば商事仲裁協会の東京での商事仲裁、Tokyo arbitrationとかHong Kong arbitrationとかLos Angeles arbitration、London arbitration、どこかで仲裁をやるということを契約上あらかじめ組み込んでいくことについては誰も疑いがなくなっていて、逆に商事仲裁協会、いろいろなarbitrationの組織そのものが信頼性を競うような、自分のところだと公平で迅速な解決ができると信頼性を競うような雰囲気さえありますので、こんなにみんな医療裁判が辛い辛いと言っているのであれば、信頼されるような組織をつくっていったほうがよいのではないか、国際的な商事紛争との比較で何とかならないか。そういう意味では調停前置という言葉は何か離婚の調停前置をイメージしてしまうので必ずしも的確ではないですが、非拘束型の仲裁と、それについての事前合意というようなことをやれている分野もたくさんあるので、しかもやることによってより信頼性の高い第三者機関をつくっていくインセンティブが取引機会の中に生まれてくる、そういうことを1つは想定して申し上げていました。
 それから2つ目は、今、いわゆる専門訴訟の場で付調停の手続は裁判所は随分活用されようとしているように見えるのだけれども、付調停は法律の縛りがあって、裁判所の中の調停委員の名簿や仕組みの中で付調停を運用するということが多いように思うのですが、今、例えば東京で裁判外の紛争解決手続で弁護士会も多くの先生がいろいろな形で関与されて、そういう柔軟かつ公正中立な仕組みを一生懸命つくっているんですが、これは裁判所の付調停手続の蚊帳の外になってしまっていることについて、せっかく裁判外紛争解決の手続に関する法律ができていて法的な裏づけもできているのであれば、付調停手続までできるのであれば、この場合また離婚訴訟のときの調停前置とはニュアンスが随分違うのですが、裁判手続中の証拠調べ手続に至る前の付調停をもっと活性化していくためには、裁判外紛争解決手続の、とりわけこういう専門的な賠償責任に関しての手続との連携というようなことも、法律的にはあながち無茶な話でも多分ないのではないか。
 とりわけ弁護士会の雰囲気そのものが、さまざまな専門分野や従前の裁判手続でさまざまな困難がある、解決に時間とコストがかかり、困難のある分野について、業界あるいはそれぞれの分野との連携によって迅速・中立・公正な解決を目指そうとする動きがあるのであれば、もう少し付調停というようなチャンネルを生かして、あるいは別のチャンネルを創設して紛争解決を活性化するということもあるのではないか、そんなようなイメージです。
 今、御質問にありました専門知識の導入ということについて、ぎりぎり95点99点取ろうとすると息苦しくて多分裁判手続と同じような重さが出てきてしまうけれども、ある程度当たらずとも遠からず、あるいは80点90点取れるぐらいの精度の専門知識の導入であれば、かなり近いところまでこれも来ているのではないか。そんな雑駁なことを思いまして、ほかにちょっと言葉がないので調停前置というような言葉を使わせていただいたところです。
 以上でございます。

○山本座長 
 どうぞ。高杉構成員。

○高杉構成員 
 山本先生の御報告は非常におもしろいのですけれども、今、例えば外国でも一緒だろうと思うのですけれども、医療の事故をチームでやられるところはなかなかこうは裁けない、この中でこれはチームを裁いているのかこっちを裁いているのかよく見えないのですけれども、あるいはその辺の考え方とかはどうなのでしょう。

○山本座長 
 そうですね。裁いているという言葉が合っているかどうかですけれども。

○高杉構成員 
 ADRの対象として。

○山本座長 
 対象としてですね。基本的には、今日のお話ししたADRというのは、いずれも損害賠償ないしお金のお話なので、結局はそのお金を支払う主体が当事者になっているということだと思うのですね。ですから、通常であれば、法人組織であれば法人である病院が主体になっているということで、実際に例えばその事故を起こしたその個人の医師の責任あるいはそれを含むチームかもしれませんが、それの責任というのは、基本的にはその外の問題であるということではないかというふうに思っておりますけれども。

○高杉構成員 
 だから、中身はわからないけれども、これはその事案に対するADRの結果ということですね。

○山本座長 
 そうですね。その裁定として、その因果関係があったかどうか、それから過失、フランスの場合には過失というのは必ずしもなくても賠償の対象になるわけですが、例えばドイツとかの制度においては医師側に過失があったかどうかということも判定して、有責か無責かという判断をしている。そういう意味では今日お話があった日本医師会の有責、無責の判断と同じような判断がそれぞれの機関で裁定されていると、そういうイメージではないかと思います。

○高杉構成員 
 ありがとうございました。

○山本座長 
 どうぞ。橋場構成員。

○橋場構成員 
 札幌の橋場でございます。
 札幌では、医療訴訟の鑑定人選任に関する協議を裁判所主催で大学付属病院長クラスの医師と行っています。医療の専門的知識をADRを導入する際に考えなければならないのは、鑑定実績が医師のキャリアとして評価されておらず、積極的に鑑定を担当するインセンティブを与える仕組みだと示唆されました。この問題はどこの組織での検討されるべきものかは私にはよくわからないのですが、やはりその鑑定をしたということが1つの実績になり業績として評価するシステムができれば、状況が少し変わってくると思います。。特にフランス等では、一定数の鑑定書作成を経験することが医者の業績として評価され、キャリア形成につながっているということも伺ったことがあります。このような面からもいろいろ改革すべき面はあるように感じております。
 以上です。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 ドイツでも私はそういうことを聞いたことがありますし、今日御紹介した最高裁判所の裁判の迅速化の検証の報告書、2年前に出した報告書の中では同じように、鑑定人になることを日本でもメリットとなるような仕組みというのを考えていくべきだと。これは医療界に対する、あるいは医師の学会になるのかもしれませんけれども、それに対する提言として行っておりますので、問題意識はまことにごもっともかと思います。
 それでは、最初にお話ししたような事情がございますので、私の報告の中身は児玉先生に随分かわりをしていただいてありがたかったのですが、この程度で終わらせていただきたいと思います。
 最後に、事務局のほうから何かございますでしょうか。

○医政局総務課医療安全推進室長 
 昨年、各ADRの機関の皆様に実績ですとか特徴などをお教えいただき大変ありがたかったところでございます。
 今年度もまもなく終了いたしますので、簡単に実績などをまたお尋ねするかと思いますので、その節は御協力をお願いしたいと思います。
 また、次回の日程につきましては、別途お伺いさせていただきまして、調整させていただきます。

○山本座長 
 ありがとうございました。
 それでは、また御協力のほう、どうかよろしくお願いいたします。
 本日はこれで閉会したいと思います。長時間にわたる御議論、どうもありがとうございました。



(了)
<照会先>

医政局総務課医療安全推進室

室  長 宮本哲也: 内線2570
室長補佐 川嵜: 内線4105

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