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2012年10月29日 第2回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 議事録

職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課

○日時

平成24年10月29日(月)10:00~


○場所

職業安定局第1、第2会議室(12階)


○出席者

構成員

鎌田座長、阿部委員、奥田委員、小野委員、木村委員、竹内(奥野)委員、山川委員

事務局

宮川派遣・有期労働対策部長、富田需給調整事業課長、牧野派遣・請負労働企画官
佐藤需給調整事業課長補佐

○議事

○鎌田座長 定刻より1分ほど早いのですが、委員の皆様お集まりですので、これから、第2回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会を開催したいと思います。
 本日は、阿部委員、奥田委員に御出席いただいておりますので御紹介いたします。自己紹介でお願いします。
○阿部委員 阿部です。よろしくお願いします。
○奥田委員 近畿大学の奥田です。よろしくお願いいたします。
○鎌田座長 続きまして、事務局より資料の確認をお願いいたします。
○佐藤補佐 議事次第以外に、資料1として、事務局で作成いたしました前回の議事概要、資料2として、小野委員から御提出いただきましたプレゼンの資料、参考資料1として、これは前回付けている資料と同じですが、宿題としていただいております主な論点の案ということです。資料に不備等ございましたら、適宜、事務局までお申し付けください。
○鎌田座長 それでは、議事に入ります。前回の研究会では御出席いただいた委員の皆様から、労働者派遣制度が抱える現状と課題について、それぞれの立場から自由に御意見をいただきました。それが、いま御紹介いただいた議事概要という形で出ておりますが、本日は、前回は御欠席だった阿部委員と奥田委員にも御出席いただいておりますので、まずお二人から御意見をいただき、その後、前回と同じようにフリーディスカッションにしたいと思います。
 それでは、恐縮ですが、1人5分程度で結構ですので、阿部委員、奥田委員の順番で御意見をいただければと思います。
○阿部委員 前回の議事概要を見ますと、私が付け加えることはあまり多くはないのですが、何点かお話をさせていただきます。昨今、いろいろな派遣会社に話を聞くと、特に登録の場合は、登録者が減っていると同時に、ニーズも減ってきていると。特に地方部は壊滅的とまではいきませんが、かなりニーズがないという状況のようです。
 どういうことになっているかということを聞くと、実は、派遣の方が、いままで登録派遣だったのが、契約社員として直接雇用に変わっているというようなことです。企業のほうも、派遣のニーズが減ってきていて、むしろ契約社員にするという形が増えている。特に、ある地方ではそうだということを言っていました。これは、1つはやはり、3年や5年の壁を気にして、そこで面倒臭いことをやるのだったら、最初から直接契約社員でいこうということです。ただ、正社員にするわけではなくて契約社員だということだそうです。
 議事概要を見ますと、現行の派遣法が時代に即しないとおっしゃっている方がいらっしゃいますが、たぶん労働市場の中で、派遣という働き方が、本来の派遣という形ではなくて、何と言ったらいいのでしょうか、企業の中で比較的単純な仕事で、しかも、それを固定期化させたくないようなものを、それでも2、3年、あるいは5年、10年と仕事はあるにも拘わらず、それを派遣でやってきたところが、今回、この派遣法の改正ということで、それが難しくなってきたということで、今度は、新たに契約社員化していくと。しかも、固定期化させないように何とか工夫をしようという努力をされているような気がしています。そういう意味では、派遣とはそもそも何だったのかを考える必要があるのではないかと。派遣という働き方や、あるいは労働市場の特性などを考える必要があるのではないかと思います。
 いろいろ聞いている中で、ああ、なるほどなと思ったのは「専ら派遣」についてです。専ら派遣は、いま、専ら派遣会社同士で融通し合って何とかしのごうということをやっているらしくて、専ら派遣も、そもそも企業の中の人事労務管理制度がうまく整えば、直接雇用できたはずなのに、たぶん、それが面倒臭くて専ら派遣をしていた企業も多かったような感じがします。そういう意味では、専ら派遣そのものも、融通して体面を整えるようなことをやるわけですが、果たしてそれがいいのかどうかというのは考えておく必要がないかなと思います。
 それというのは、小野さんが本日お話しになるのかどうか知りませんが、やはり35歳の壁や40歳の壁というものがあって、いま現に、ある会社では、これは常用型の特定なのですが、40歳を越えた社員が、派遣先の企業の経営問題等々で、どうも戻されて来ていると。本当は、この人たちを次の職場へ派遣したいのだけれども、年齢の壁があってできないというふうになっていると。実は、派遣会社もそれで困ってきていて、年齢の問題、あるいは能力開発の問題、年齢とともに能力開発をどうしていくかなどで、非常に困っているということです。いままでは、年齢が比較的若かったので問題がなかったのですが、10年、20年経って、いい年齢になってきて、ちょっと困っているということもありますので、本日の小野さんのお話が非常に楽しみですが、そういう問題もあると聞いております。
 最後ですが、労働者派遣制度ということで、制度ということは、派遣会社、あるいは派遣社員、あるいは派遣先の問題もあるのですが、実は、監督する側の問題も若干あるのかなと聞いております。たぶん、いろいろ混乱があったのかと思うのですが、例えば、県をまたいでいる企業の場合、県によって、監督官の考えが違うようなことが、ややあるということで、そのさじ加減が随分違っているということを聞いています。これも、制度ということは制度でしょうから、少しこの辺りを混乱がないようにしていく必要があるのではないかと思います。以上です。
○鎌田座長 どうもありがとうございます。続いて、奥田委員からお願いいたします。
○奥田委員 私も、いま阿部委員がおっしゃったように、既にいただいている前回の議論を拝見しまして、多くのことが網羅されていると感じていますので、さらに、付け加えて申し上げたい点を主に3つと、プラス2つぐらいでお話しさせていただきたいと思います。
 まず1つは、前回の資料でも、派遣というものを1つの働き方と位置付けたうえで労働者の保護という観点との調整をどうつけていくかという意見が、いくつか出されています。私も、有期やパートなどの多様な働き方については、雇用政策の中できっちりとした位置付けをしていくことは必要だとは思っていますが、そういう意味で、いわゆる非正規と言われる形態に共通するような問題点をどれだけ抽出していくかということも重要だと思います。ただ、やはり有期やパートと労働者派遣の大きな違いは、3者間関係の間接雇用だという点だと思いますので、派遣が間接雇用であることによって生じる様々な問題点が常にあり得るということを基本的な視点として持っています。そういう意味で言えば、私は、間接雇用の中でも使用と雇用が分離されているという点で、基本的には例外的な働き方であって、更に拡大していくべき働き方ではないというふうに理解しています。その辺りは様々な御意見もあると思いますが、少くとも使用と雇用が分離している状態での働き方をどう理解して位置付けていくかという点は、常に派遣の問題を考えていくときの前提として重視する必要があるということを、まず第1点目として考えています。
 2つ目は、今回の研究会では、最初の趣旨のところでいただいたように、今回の法改正で積み残されたというか、法案から抜けていった論点を考えていくということが、主な役割として考えられている、主な検討課題とされています。もちろんその点も重要だと思うのですが、やはり労働者派遣法というのは、法の構造自体から見ても多くの検討すべき論点が残されていると思います。例えば、専門業務という形でいくつかの業務が括られて、それとの区別という形での制度の区分けがなされていたり、何が専門業務かということも含めて、法の構造自体に、いろいろな多くの検討すべき課題が残されているということで、既にそれらは前回も抽出されていますが、それらを含めて検討する必要があると思っています。
 専門業務の問題であったり、派遣可能期間の問題であったり、派遣先と派遣元の雇用責任の分担の問題であったり、法の構造に関わるところはいろいろ出てくるかと思いますが、さらに、最近の状況でいえば、集団法の位置付けも、この派遣法との関連でも合わせて考えていく必要があるだろうと思っています。それは、前回にも、派遣先の使用者性という問題で、団体交渉との関係で出てきていまして、これに関しては、もちろん基本的な問題としては集団法の領域の中で統一的に検討していくべき問題ではありますが派遣法は法律の中で派遣先と派遣元の責任分担も明確にしたり、指針によってきちんと明確な内容が示されたりもしていますので、そういう点から考えると、派遣法の制度の枠組みの中での集団法の位置付けを考えていく必要もあるのではないかと思います。
 前回、均等待遇等に関して、派遣先と派遣労働者のコミュニケーションという仕組みということも指摘されているようですが、そこが個別のコミュニケーションなのかどうかという点も含めて、集団法の観点を見ていくべきではないかと考えています。
 3点目としては、問題の把握の仕方ということです。今回もいろいろなアンケート調査等も行われて、そのアンケート調査の結果を見て具体的な事実関係を認識していくのは重要だと思うのですが、実際に裁判例であったり、個別紛争のあっせんであったりというところでは、派遣労働者を巡る具体的な問題がかなり現れていますので、私の先ほどの視点から言えば、たまたま当事者が派遣労働者なのかもしれませんが、やはり間接雇用に特有の個別紛争というものがあり得ると認識しています。そういう具体的に現れている問題から、今後のあり方を検討していくことも重要ではないかと見ています。
 それ以外に関しては、既にいくつか指摘がなされているので、繰り返して申し上げることはしないでおこうと思います。ただ、1つ付け加えますと実際の紛争等を見ていると、通常の正規労働者や有期雇用の労働者であれば、当然解雇規制や類似の規制が及ぶような問題が、間接雇用であることによって外れていくというふうな特色も多々見受けられます。その辺りの具体的な問題の現れ方との関係で、今後のあり方も検討していきたいと思っています。
 それが大きな3点で、あと2点簡単に申し上げますと、1つは、前回、派遣労働者のキャリアアップということが大きく1つの論点として出ていたようで、いろいろな意見を拝見したのですが、実のところ、私は派遣労働者のキャリアアップというイメージがあまり持てないでおります。本日お話をお聞きできるので、しっかり勉強させていただきたいと思います。
 もう1点は、これは労働者派遣法に限らずですが、特にこの前の改正法の内容等に関しても、非常に難しいというか、分かりにくい制度内容があります。裁判規範として解釈が多々あるというのはそれはそれで非常に重要なことなのですが、特に法律が守られていく、その行為規範としての内容として見た場合に、できるだけ当事者にとって分かりやすい制度内容を整理していくということも重要な方向性ではないかと考えています。以上です。
○鎌田座長 どうもありがとうございます。いまお二人から御意見をいただきまして、いくつか御指摘をいただきました。阿部先生からは、派遣社員から契約社員への転換が進んでいるのではないかということ。阿部先生は恐らく、改正労働者派遣法の影響というような趣旨でおっしゃったのでしょうか。
 奥田先生からは、非正規に共通する問題があるが、しかし派遣に関しては間接雇用という特有の問題があるので、そういったこともしっかりと考えていきたいという御指摘でした。あとは、前回との関連で、いくつか御指摘がありましたように、私は感じます。
 前回と続いてフリーディスカッションということで、さらに主な論点、あるいはそのほかの論点に関わることで、先生方、何か付け加えるようなことがあれば御意見をいただければと思います。
 皆様お考えの最中ですので、私が少し問題提起といいますか、私の問題意識も少し述べたいと思います。いま、お二人から意見を聞いて、なるほどなと思ったところがありました。1つは、これは奥田さんがおっしゃったのですが、非正規の共通の問題はあるけれども、間接雇用という特有の問題がありますというお話、その視点も大切だというお話がありました。そこでふと思ったのは、非正規ではないのですが、有期雇用に関しては、今度は労働契約法が改正になりまして、これはもちろん派遣労働者にも適用があるのです。そうすると、いくつか、どのように適用されるのかなということが、実際問題として出てきます。
 これは事務局にもお聞きしたいところなのですが、基準局のほうで、もちろん労働契約法の適用についてはいろいろな指導なり説明を行っていると思うのですが、こと派遣に関しては、一応こちらも派遣のところで議論になって、例えば派遣特有の問題とは何かというと、有期雇用を理由とする不利益取扱禁止、不合理な労働条件禁止というのがあります。そうした場合に、不利益・不合理というのは恐らく派遣先ではなくて、派遣会社の中での不利益・不合理という発想ですよね。そうすると、派遣会社の従業員との間の不利益取扱いの問題というのは、一体どういうふうに考えたらいいのだろうかと。これは通常の企業の中の問題と、かなり違ってくるのではなかろうかと思うのです。こういった問題というのは、いわゆる契約法の問題で、ここでは特に議論しなくてもいいのかもしれません。その辺のところはどうなのか。
 例えば無期転換の問題もありますが、無期転換も、例えば登録型の社員の無期転換というのを、通常の企業の契約社員の無期転換と同列に論じていいのかというか、もちろん法適用という意味では同じなのですが、固有の問題があるかもしれないと。そうすると、私がよく分からないのは、この辺りの仕切りをどういうふうに考えたらいいのか。議論するのは構わないということになるのか。何かありますか。
○富田課長 先ほど奥田委員から出ましたように、派遣労働者は、やはり間接雇用ということで、直接雇用の労働者と違うということがあろうかと思います。労働契約法の改正によって、もちろん、有期契約の派遣労働者にも適用されるのですが、それは、直接雇用の方とは当然違った切り口で出てくることもあろうかと思います。それは、この研究会でも議論の対象から外すことはしなくて構わないと思っております。
○鎌田座長 議論してもよろしいと。
○富田課長 はい、結構です。
○鎌田座長 そうしますと、一般論というよりは、この派遣にかかわる視点からこうした問題も議論することにしましょう。
 もう1つ、これは阿部さんから指摘を受けたのですが、いま主要な論点になっているのは、今度の法案の中で積み残しというか、更に検討すべきだという課題で議論を提起されていると思うのですが、改正労働者派遣法の実施・運用ということを考えた場合に、今後、例えば「みなし」の問題も出てくるということになると、阿部さんもおっしゃっていましたが、県によって運用が違うというご発言。これは何を言っているのか、、請負いとの区分なども含めておっしゃっていたのですか。
○阿部委員 たぶん、監査の際に、監督官によって考え方が違うということで、具体的にどうのこうのということは聞いていませんが、いろいろあったらしいです。
○鎌田座長 なるほど。それは、行政の取組みの仕方ということで、大きな枠の中で議論しなければいけないと思います。いずれにせよ、今度の「申込みみなし制度」というのは、違法な労働者派遣における申し込みみなし制度ということになります。派遣と出向、派遣と請負の大きな区分というものは、既に行政の中で一定の告示が出ておりますし、それに基づいてQ&Aも出ていますし、議論もされています。そういったことについて、これは一応、行政の立場で進めていることですが、その中の、大枠の中での議論をこの研究会の目的に必要な範囲で議論したいと思いま
○富田課長 もちろん結構でございます。
○鎌田座長 これは非常に大きな問題なので、この研究会の中でどれだけできるかというのは分かりません。もしかしたら、これも次の年になるかもしれません。いままでの部会、研究会においても、何度も何度も話題には上ってきたのですが、正直言って、どう手を付ければいいのか、どう考えればいいのかというのは、相当難問だと認識しております
 ほかにも、いくつかあると思うのですが、何かございますか。
○木村委員 阿部委員からお話もありましたけども、恐らく契約社員だろうということなのですが、直接雇用への転換が進んだということで、期間制限の影響があるのではないかということですが、数字でどれぐらいの規模なのかなということに興味があります。
 もう1つは、雇う側で、どのような会社がそういう契約への移行をしている特色があるのかということ等が気になるところです。もちろん、期間制限の影響はあると思うのですが、一時期、派遣がよく使われていたときは、契約社員だと採用は難しいが派遣なら人が集まる、やはり効率的だという話がよく聞かれていました。では、これを契約社員に切り変えましたと。働く側も、昔は派遣なら労働者は履歴書を1つ出せばいいし、転職するときも、そのまま派遣会社がやってくれるからと言っていましたが、そういう人たちが契約社員になっているということなのかなと思うのですが、これで、どこにどのような問題が起きるかということだと思うのです。契約社員に変わっていくとすると、もちろん派遣会社にとって経営上は厳しいと思うのですが、これがユーザーや雇用者にとって、どのような変化を起こすかということです。何か問題が起きるのか、それとも、これはこれでいいのかということで、これはしばらく時間が経ってみないと、いろいろな具体的な個別に何か問題が起きるということをウォッチしていかないと、現段階では何がどう起こるかというのは読めないのですが。そういった、ある程度の期間で変化を見ていくことによって、この労働者派遣というものは結局どのような機能を果たしていたのか、果たしているのかなどということを見られるのではないかと思います。
 間接雇用と直接雇用という話なので、間接雇用という仕組みが、需給調整の機能や、その他、前回研究会で出たような機能が出ているのですけれども、実際に直接雇用と比べてどうなのかということを、実態も含めてウォッチしていくことが必要ではないかと思います。
○鎌田座長 ほかの皆さんは何かありませんか。
○竹内(奥野)委員 いまの木村委員の御発言にも関連するかと思います。私も阿部委員の御発言をお伺いして、契約社員に切り替わっているという点を非常に興味深く聞かせていただきました。木村委員がどういう問題が生じるかという御指摘をされて、法律の観点から、まず思いついたのは、契約社員なので有期雇用だと推察をいたしますけれども、そうすると今般労働契約法の下だと、5年有期で雇い続けた場合には、今度は無期の申込みがなされうることになってしまって、そういう意味では似たような期間制限があるのですね。結局、契約社員になっても生じると。契約社員の形態を使い続けることについても恐らく会社側、ユーザー側から見れば何らかの歯止めと言いますか、躊躇するようなところが出てくるのではないかと思います。そうするとその人たちは一体どういう形態に行くのだろうかということが正に気になるところです。
 いわゆる非正規の話をする場合には、例えばパートタイムについて規制をしたら、結局、派遣の形態になったり、有期の形態になったりということがあります。あるいは更に、派遣の形態について規制をしたとなると、派遣ではなくて請負の形になって、雇用ですらなくなってしまうとかいうことになります。そのようにモグラたたきのような形の現象が生じるようなことも指摘されているところです。これは本研究会で取り扱えるかどうかは分かりませんけれども、派遣という非正規の働き方の1つという意味では、ほかの非正規の形態の働き方、ないしは雇用ですらない請負等の働き方についてもなるべく調和の取れた形での法規制が少なくともなされるべきで、そこはこの研究会で扱える範疇を超えるかもしれませんけれども、そういう視点は、本研究会での議論でも考え方としては必要ではないかと思います。
○小野委員 契約社員にすごく移行していっている話の点について、金融機関は2009年から2010年ぐらいの間に派遣から契約社員に変えているという事例を多く聞いております。ただ、契約社員と言っても従来からある契約社員の形ではなくて、新しい雇用形態を設けると。一気に直接雇用に乗り入れさせると膨大な労務管理が発生しますので、そこの部分は従来の派遣会社に労務管理を委託をする形を取っている銀行が非常に多いです。このときは登録型派遣が今後厳しくなってくるということから直雇に換えたわけですけれども、直雇になったら今度5年の有期法制が生まれてきて、それでは、今後どうするかをまた悩み始めているところであるようです。
 だからおっしゃるように、モグラたたきではないですが、そういうこともあるのかと非常に考えます。私も派遣労働に関して長く研究してまいりましたが、派遣労働は非正規の中の一形態にすぎないと強く思います。要はものすごく契約社員やパートをホッピングするのですね。派遣労働者は、ずうっと派遣で働いているわけではなくて、非正規雇用全体の中で流動する形態がみられるので、派遣だけ捉えていてはやはり見落とすものが多いと考える次第です。
○鎌田座長 先ほどの35歳、40歳の壁説ですか、それはあとの報告の中で、どういう状況になっているのかをもう少し触れられますか。
○小野委員 恐らく、ある雑誌が35歳定年説というのを10年ぐらい前に言ったことが発端で、派遣は35歳を過ぎると仕事がなくなるぞというようなことが言われたのだと思います。実際にそういう現象があったのだと思いますが、これはいろいろな調査を行って分析した結果ですけれども、今はそうともいえない、年齢的には伸びていると思います。その当時も今も派遣労働者の中心層が団塊ジュニアなのですね。丁度バブルが弾けて就職難になった時代と重なっていまして、たくさん派遣社員になっているというのがあります。人数的にも多いので年齢の引き上げを牽引している。この世代の人たち、要は女性ですが、これまでだと結婚して出産して辞める傾向もありましたけれども、なかなかそういうことも経済的状勢としても厳しいので、働き続けたいというニーズもある。企業としても正社員が減ってきている中で、戦力として働き続けてくれる派遣社員は非常に重要なので、35歳であったものが引き続き雇用されて今は40歳以上になっているという現象があります。
○鎌田座長 それは派遣としてですか。
○小野委員 派遣としてです。どこの派遣会社さんに聞いても、いまはもう35歳ではないですねって、40歳ぐらいにはきていると。団塊ジュニアの世代が引っ張って行ってるだろうなというのが実感として思うところです。ただ、それがどこでパートの労働市場と合体してそっちに吸収されていくのかはちょっと見えないところです。
○阿部委員 私の言い方がまずかったのでしょうが、最初の契約社員以下の話は、私は元々切り口に、登録型派遣は一体何だったのかを考えてみたいということです。つまり、登録派遣社員が契約化していくことを、派遣先の企業がそれでも大丈夫だと言っているということは、元々登録型派遣はどういう意味合いだったのかということだろうと思うのです。そのあと契約社員になってどうなるかはまだよく分かりませんけれども、モグラたたきの状態なのかもしれません。つまり派遣が難しくなるから契約で、今度は契約が難しくなるとまた違うことを考えることになるのかもしれませんが、それはまだいまのところは考え中らしいということです。
 35、40歳のところで私が言いたかったのは、実はそのケースは常用派遣なのですね。つまり、派遣元では常用になっている技術者の方たちですが、彼らはスキルを売っているわけですが、40歳以降になって、売るスキルがだんだん先細りしているという問題を徐々に抱えていると。これが正社員だと多分マネージメントに移るとか、いろいろなことがあっていくのでしょうけれど、派遣会社の社員で40歳過ぎて、いままでずっと派遣されていた事業所から、ちょっと経営が芳しくないので、これで契約は終わりといって、次の所を捜そうとすると、やはりなかなかない状況のようです。
 だから、いまからそれをどうやっていくかという問題があるので、それは能力開発の問題ですけれども、その能力開発も企業にとっては40歳で能力開発していくことが、先のことを考えると収益率が悪いということを言っていまして、その問題を解決しないと彼らはどうなってしまうのか、そういう恐れがあるということを言いたかったわけです。私のプレゼンが悪かったようで、誤解されて、あるいは混乱させたかもしれません。
 ちょっと話は違うのですが、いままで間接雇用とか、いろいろな問題があるのですが、そもそも派遣という働き方は何だったのかが見えてきたのではないかと。例えば派遣社員の年齢も上がってきたとか、あるいは制度が改正されてまた変えるということで、本来、何だったのかがいま、見えてきたような気がしています。例えば登録型派遣、一部はあってもいいけれども、実はいらなかったかもしれないというところまで、議論が及ぶ可能性はあるのではないかと思っています。
○鎌田座長 いまの「いらなかったかも」というのは、現象として登録型から契約社員に移ったと、そもそも登録型とは何だったのかという問題意識ですけれども、経済的に見て、登録型と自社雇用での契約社員は、私はよく分かりませんけれども、それなりの経済的な意味合いの違いはあるのですよね、そうでもないのですか。阿部先生の話だと、異動ということからそもそも何だったのかの問題意識でしょうけれども。つまり法律のほうで考えるとかなり違うのですよね。奥田さんが言ったように、法律的にはかなり難解な領域に入ってくるのですね。でも、経済的に何だったのかといったとき、いわゆる間接雇用というのが第三者に労働力を提供する、こういう形態というのは経済的に見るとどのようなメリットを企業経営的に考えるのか、あるいはマクロ的に出てくるのか。
○阿部委員 いや、それは木村さんのほうが詳しいと思いますけれど。私が知っている限りでは、派遣の経理上のどこに載せるか、人件費に載せるかそうではないのかは、もしかしたらあるかもしれません。あとは労務管理がないというのですが、だからこそ派遣の問題が出たわけですよね。つまり派遣元も派遣先も労務管理をしないという可能性があったということで問題になったわけですけれど、それを除くと指揮命令もできますし、そんなに経済的に違うというのは、いまの段階では思いませんけれど。
○鎌田座長 外国の議論で、日本とは違う話ですが、例えばよく言われるのは、正規雇用へのステップ論とありますよね、派遣というのは様々な業務、あるいは企業の中でキャリア、ノウハウとかスキルとか積んで、それが自分の中で花開いて正社員に転換するという、いわばステップ論とか、ステップアップというもの。実際にドイツの統計などを見ますと、政府報告の中でそのようなメリットはあるという言い方をしているのです。それは外国の話ですけれども、日本の場合は、ある種の派遣社員として働くことによって、個人の技術性というか、生産性は高まるという、ある種の教育訓練的な要素も含めて発想しているのかなと。ところが、いままでの議論だとむしろ日本では逆というか、あまりキャリアアップにプラスになっていないようなニュアンスがあると。その違いは何なのかと、ちょっと私は感じました。
○阿部委員 多分それは、いくつかの論文では派遣先である程度の勤続を積むと正社員に転換しているケースがあるということです。だから派遣先が固定されて、長くなることは、もしかしたら企業特殊性みたいなものがあって、スキルのですね。それが有効になれば正社員化すると。ところが、あっち行ったりこっち行ったりすると、それこそ派遣が考えているようなことをやると、どうもそうもいかないケースもあるようで。統計的に見ていると派遣先の勤続が3年とかそれぐらいを越えると正社員化する確率が飛躍的に高まるというのがあります。そういう意味ではヨーロッパのように、本当に正確なことは言えないですが、職種別の労働市場がある程度形作られているところと、職能でやっている日本型の労働市場の違いは大きいのではないかと思います。
 だから均等待遇なども、例えば何をもって均衡、均等待遇というのか、派遣の場合は非常に難しいと思います。それはA社で働いた場合とB社で働いた場合では、A社で均衡待遇といってもB社で必ずしもそうはならないケースもあるでしょうし、B社でやったらA社よりも賃金が下がるとか、あるいは福利厚生が下がることもあり得るわけで、そのような労働市場の違いがある程度はあるのではないかと思います。それは木村さんのほうが詳しいと思います。
○鎌田座長 補足していただくことがありますか。
○木村委員 いまお話になった、正社員化のステップの話でいくと、私はあまり外国のことは詳しくはありませんが、派遣から正社員というのがある程度続いているということですよね。もっと平たく言えば、途中から会社に入るという、要は新卒ではなくて中途で会社に入ることが柔軟に行われているのです。例えば、人が1人欲しくなったら、自分の知っている人から採ろうと、自分が信頼できる人から採るということで、極端に言えば、日本のようにまずは大卒ということに限られないことが影響していると思います。ですから、中途で採るのだったら知っている派遣から採ろうという流れがあるけれども、日本の場合は少し、派遣や新卒、中途採用が切れていて、正社員は新卒で採ろうという発想があります。もちろん中途は昔に比べたら柔軟に行われていると思いますが、やはり程度という点では少ないところがあるのかなと思います。
 派遣の会社にとっての機能と言いますか、メリットと言ったら2つありまして、1つが規模の利益、もしくは専門化の利益と言われるところです。もう1つが、組織対組織なので長期的な関係だということです。最初のほうでいきますと、規模の利益、専門化の利益については、人事管理業務、いわゆる雇用管理業務というのは集約しますよね。ですから採用もそうだし、労務管理の事務もそうですけれども、そういうものを集約することによって、1つはコストが低くなると。これは理論的な話であって、実態的にどうかは別にして。ですから人事情報でも求人情報でも、集約することによって、結局かかっているコストは派遣料金に上乗せされてはいるものの、規模の経済分それが下がるという理屈です。
 さらに、長期的な関係からいきますと、私個人が会社に入るということになりますと、非常にたくさんの選択肢があって、例えば1つの会社で低い評価を受けたところで、他の会社に行けばその会社は私のことを知らないわけです。ですから結構自由に動ける。つまり悪い情報が横に流れにくいわけです。ただ、会社と会社の関係になるともう少し長期になりまして、派遣会社と派遣先となりますと、お互いに顔がずっと見え続ける関係になります。ですから派遣会社は当然、後々のことを考えて悪い人をわざと送ることはしません。そうすると、直接雇用のときは募集時にどのようなレベルの人が来るか分からないのですが、派遣会社と派遣先との関係という場合は、先を見てお互い動きますので、派遣会社はある程度信用できる人を1回スクリーニングして送るわけですので、採用リスクを含めた採用コストという点でも下がると。そういうところが理論的にはあると思います。ただ、これが実際にできているかどうか、実際にコストが下げられているのかということは別です。
 要は、全体から見ると人事管理業務の効率化ですけれども、これが具体的にできているかどうかということですね。派遣会社の組織能力があまり高くなければ、これが円滑に行えないということです。そうだとすれば直接雇用と比べてもさほど効率の差はないだろうということです。
○鎌田座長 どうもありがとうございます。ほかにありますか。
○山川委員 今日のお2人、阿部先生と奥田先生のお話を聞いて、いろいろな論点が複雑に絡み合っているという感じがしました。間接雇用の問題は、派遣を一定程度であれ認める以上、最も根本的にあることですが、それに加えて、現行の制度である期間制限の問題と業務の区分の問題があります。期間制限については有期労働契約との関連性がやっぱりあると思うのですが、かなり規制の仕組みが違っていて、派遣の期間制限は一定の業務区分を前提にして、その場所に派遣労働者が存在してはならないという意味をもつルールですけれども。労働契約法の有期雇用規制の場合は無期転換の前提となる期間について個人レベルで考えますので、個人レベルで見るか職場レベルで見るかという仕組みが違うので、その両者を調整し、具体的にどのようになるのかを考えていく必要があるかと思います。
 しかし、もう1つの視点は、立法論で考えるか運用論で考えるかという点で、分かりにくいという御指摘があったので、運用をどうするかの話は、もし立法でその点を変えるとすれば、その運用論自体が前提を欠く状態になる可能性があるという感じがしますので、立法論と運用論でどのように議論を進めていくのかも重要になるかと思います。
 また期間制限については、いずれにしても労働契約法も今回の派遣法も無期化を推進する方向に政策としては動いていると思います。今回の派遣法では無期転換への努力義務のようなものが派遣元に課せられて、労働契約法では無期転換権が認められているということで、方向性としては有期契約の不安定性を弱める方向に両者とも動いていると思います。やり方は少し違うので、そこは先ほど言いましたように整理が必要かもしれません。そうなってくると、これまで特に専門業務の一定の分野を除いてはあまりなかったような、無期派遣社員が段々と増えてくる可能性がありますし、契約法の改正によっても、正社員とは必ずしも同じではないかもしれない、無期社員というのが出てくる。そういう方たちのキャリア形成がより深刻というか大きな問題になってくるような感じがします。
 あと1点、均衡に関しては確かに派遣法と労働契約法で仕組みが違うのですが、どちらも現在のところ、割とフレキシブルといいますか、労働契約法も不合理な処遇の禁止ということで、言ってみれば合理的な差異を許容するものですし、派遣法は更に派遣先の労働者との均衡も考慮しなければいけないということなので、あまり機械的に考えるような規制にはいまのところなってはいないので、何が考慮したことになるのか、何が不合理なのかという問題に現在では絞られるのかなという感じがします。
○鎌田座長 どうもありがとうございます。いま議論をいろいろ出していただきまして非常にありがたかったと思います。ただ、今日は小野委員に派遣社員のキャリア形成について御報告をいただく予定にもなっておりますので、そのあとまた質疑応答のところで御意見をいただければと思います。
 それでは、小野委員に御準備いただいた報告をお願いいたします。
○小野委員 お手元に配られている資料2が、私が作成した資料です。本日は、このような場で報告を許されることは非常にありがたいことで、できるだけ私がこれまでやった研究内容について分かりやすく御報告させていただきたいと思います。
 資料のいちばん最後の報告のところで、いくつか本報告に関わる執筆と示しております。これはごく一部です。労働政策研究・研修機構の中の研究で、これまで派遣労働に関する研究をずっと続けてきました。もともとは非常に非正規労働者が増えてきている中で、キャリアというものをどういうふうに構築していかなければいけないか。その中で派遣はどういう形になっているのかという視点を、私自身が考えたのではなく、その当時の厚生労働省の方々から、その部分をやってもらえないかと頼まれまして始めた次第です。
 奥田委員からも御指摘があったように、当初、研究を始めた際には、派遣労働でキャリアというのは相当難しい話だと感じて、前回、木村委員もおっしゃったように、かなり間接雇用という形態上、キャリアを積む、能力開発するというのは非常に難しいと感じた中でスタートした研究でした。
 実際問題、始めて1年ぐらい経ったところで出した報告書といいますか、ディスカッションペーパーの中の結論としては、ほとんど無理というのが私の結論でした。ただ、何か芽はないのかと。キャリアアップやキャリア形成は、今後の喫緊の課題になっていく中で、何らかの芽があるのであれば、それを見つけようという思いで研究を進めてきました。
 ですから、今回のキャリアというものは、皆さんのイメージの中でどういうものをイメージされているか分からないのですが、この会場にいらっしゃる方は非常に高いキャリアをお持ちの方が、傍聴席も含めて多いとは思います。キャリアは、入社して職業生活を初めてすぐの初期キャリアから退職するまでの長い間、非常に高度な専門的なキャリアまである中で、どこに焦点を当てるのかということで考えていただければと思います。ですから、自明ではございますが、派遣労働というものは、かなり初期のキャリアを培うフィールドであることを念頭に置いて聞いていただければと思います。
 今日の報告は、賃金の全体的な特徴を押さえて、キャリアパターンをいくつか提示しておりますので、そのパターンを見ます。そのあとに能力開発がどういうふうに捉えられているのかということと、正社員転換の現状についてお話をさせていただきます。
 なぜ派遣労働者のキャリア形成という視点を持つのかについては、これは当然のことながら、日本というものは人という資源にしかありませんので、そこに投資して回収していかなければならないという使命があると思います。しかし、昨今の状況を見ますと、労働力人口も減っており、若者において非正規労働の割合が高まっているということがあります。「就業構造基本調査」で見ますと、ここには書いておりませんが、2007年の調査で20~24歳の非正規雇用の人口が約200万人で、正社員は片や270万人ぐらいだったと思いますが、同じぐらいの比率になりつつあるのです。それを1997年の団塊ジュニアが20~24歳の頃の数値を見ますと、その頃、もう非正規雇用が非常に進んでいると言われた時代ではありましたが、正社員は500万人いるのです。そういうことを考えますと、いまの現状の若者の労働力人口を全て1997年は正社員で雇用していたことになりますので、その数値を見るだけでも、それだけ日本の企業は正社員の雇用を吸収する能力がなくなってしまったのかと思う数値です。
 ここに書いてあるように「ミクロの成功はマクロの大失敗」ということで、それぞれの企業は非常に経営努力をされて、利益を上げようと努力をしている中で、人件費を削ろうという業績管理をきちきちとやっていく中で、非正規労働者が増大していく構造になっております。ですから、企業の行動の集積の結果、マクロの非正規の労働者がものすごく増えるという状況があるのではないかと思っております。
 そういった中で、やはり派遣労働市場の特徴として、次のことが挙げられます。こういうことを考えれば、ここでキャリア形成をしなければならないという課題が浮き上がるのではないかと思います。派遣労働は若年層に非常に多い働き方であるということです。また、正社員とパートの間に位置する働き方ということで、これは働き方であったり、賃金、仕事の内容などを見ますと、正社員とパートの間にあるフルタイムの有期契約の形が中間である。ここを動かすことによって、正社員とパートへの波及効果もあるだろうと思っております。地域・職種・スキルごとの緩やかな賃金市場の存在ということで、外部労働市場が余り構築されていない日本ですが、この派遣労働市場に関してだけを見ますと、比較的緩やかな賃金の市場が存在しております。入職ハードルの低さというのは、いわゆる大企業であったとしても、派遣であれば入っていけるということがあります。そこで正社員転換制度などがあったら、そこから派遣労働をステップにして正社員になっていく可能性も否定はできません。話しましたが、正社員転換の存在があるということです。
 一方で、職域限定ということがありますので、職域拡大ができないところにおいては、かなりキャリアを阻害することもあります。そういうこともあって、非常に能力開発へ渇望している労働者が多いということもあります。最近、派遣業界自体が派遣労働者のキャリア形成、能力開発を自分たち自身で言い始めていることが非常に重要なことではないかと思います。
 賃金の特徴について少しお話をいたします。ここに出ているのは、派遣元調査で、それぞれの職種において賃金の幅を聞いたものです。今回のJILPTでやった調査は、26業務ではなく47職種という形で、それぞれの職種別の労働市場が、ある程度出来上がっているのではないかという仮説のもとで47職種に分けて取ったものです。その中で、サンプルの多いものについてスライドに載せています。
 この調査の中では、賃金を3つに分けて聞いております。「この職種における最高賃金はいくらですか」「最低賃金はいくらですか」「平均的な賃金はいくらですか」の3つを聞いて、それぞれの平均をこの線と点で表しております。ですから、この職種についてはこのぐらいの賃金幅があることが分かります。幅があるのは、真ん中の「情報処理システム開発」や「機械設計」という専門的な職種。大体これで1,500円ぐらいの幅があります。片や、事務は500円程度で、製造・軽作業になると200~300円ぐらいの差になってきます。やはり幅があることは、ジョブの難易度があります。難易度が形成されて、それに賃金のレンジがあるのであれば、必ず何らかの評価があるということになります。幅がある仕事については、恐らく何らかの評価を行っているだろうということが想像できますが、それ以外の幅がないところについては逆で、恐らく評価が存在しないだろうと。どういうふうに賃金を位置づけているか分かりませんが、恐らくフラットな賃金形態であるだろうと思います。
 ちなみに特定派遣についても別に取っておりますが、これもほぼ同じ形状です。若干、平均賃金が100円未満程度高いぐらいであまり変わりません。
 次は、いくつかのパターンを見ていきます。これはヒアリング調査で、88人程派遣労働者の方にお聞きしました。派遣労働者になってからの賃金パターンを描いたものです。上昇傾向にあるものと横ばいにあるものと上下動の激しいパターンの3つに分けて提示しております。前の2つは、「上昇傾向にある事例」です。「移動型」と書かれているものが、外部労働市場をホッピングしながら移動していく形の典型的パターンになります。職種変更パターンについては、職種を変更しながら賃金を上げていくという形態です。
 この方は、30歳未婚の高卒で、現在、経理職に就いている方です。もともと高卒でスーパーで正社員で働き始められるのですが、体調を崩して辞めることになります。こういうパターンの方は非常に多いです。正社員になって激務で体調を崩すとか、あるいは精神疾患、うつになって辞めて、派遣で入ってくる。そのあと、この方は軽作業の日雇派遣に就かれて、それは人間関係的に話すのが困難になることがあったので、リハビリ的に働き始められた。そのあと少し良くなってきたので、医療事務の資格を取って医療事務に就くのですが、それが「派遣先1」と書いてあるところですが、給料がものすごく安いのです。そういう事情と、医療事務も合わないということもあって、専門学校で簿記を取る。簿記を取ってもすぐには経理で働けないので、似たような伝票を仕分けするような作業のある営業事務で未経験で就かれると。このときに1,400円になり、600円ぐらい上がるのです。そのあとは実際に実務経験がついたということで、経理になって今に至るという、職種移動型で賃金を上げていくパターンです。
 次は「上昇傾向にある事例」で、典型的な「内部型」パターンで、派遣先を固定する。この方については派遣元も固定されています。いままで3つの派遣先で、現在のところでは13年間勤めておられる。新卒から派遣をされていて、基本的には一般事務、OA機器操作をやられております。現行の賃金は1,890円で、最初から比べると640円上がっていることになります。彼女の場合は、大体1年か2年に1回ぐらい賃金が上がるのですが、「どうして上がるのですか」と訊いたら、彼女は「私は3月になったら必ず1人春闘をしています」という話をされ、賃金交渉をしないと賃金が上がらないのだと言っておりました。
 88人に聞きますと、賃金交渉をしたタイミングで賃金が上がるケースが非常に多かった。それを踏まえて、アンケート調査のデータで「賃金交渉あり・なし」を賃金上昇の要因として分析しますと、賃金交渉をしている人の賃金が上がる可能性が高い傾向が見られました。ですから、自分で声を発する重要性はあると感じます。
 次は「横ばいの事例」です。これは経理で、1,600円でずっと推移するパターンです。この方も、もともと正社員だったのですが、メンタル面で体調を崩し離職して派遣に入ってきています。未経験から経理に就いて、経理の仕事をしながら専門学校に通って、資格を後追いで取る。そして現在の派遣先に行っている。基本的には横ばいのパターンが、派遣の中では多い。それは何かというと、先ほど見た賃金レンジの図にもあるように、頭打ちがきて、それ以上は上がらないで横にいってしまう。この方の場合は、正社員転換も以前打診されたのですが、正社員になったほうが給料が下がるという理由で断っております。ヒアリング調査した時には、あのとき正社員になっていたらよかったかもと後悔されているようでした。
 「上下に激しい事例」については、この方は、勤務地を神奈川や東京でうろうろされている。そして、職種もうろうろされている。派遣先が変わったときに、同時に派遣元も移動するパターンです。性向的には条件が良いところを見つけて、次々に転職していくタイプです。結局、自分探しを続けながら、38歳まできてしまって、仕事がうまく決まらなくなり、この先どうしようかと悩んでいる例です。
 次は、派遣先で能力開発をどういう方が実感できているのかということについては、アンケート調査からクロス集計で傾向をピックアップしたものです。年齢的には20歳代の若い方です。正社員経験がない方で、初職がパート・アルバイト、派遣で始めているような方です。仕事のレベルが定型的な仕事で、これまでの派遣先数は1~3社ということで、いわゆる職業経験値が相対的に低いと考えられる層において、派遣先での教育訓練効果を感じているということです。
 ここには書き落としておりますが、初職が事務職ではなく、現業の、工場であったり、サービス業でお店の販売の店員さんであったり、いわゆる事務でパソコンを打ったりという仕事でない方が、比較的派遣で事務職に就いたときに、キャリア形成ができていると感じられることがあるようです。ここで見ていただくと、やはり、派遣で培えるというのは、新卒で入社して2、3年目ぐらいのホワイトカラーの初期のキャリアであると思われます。
 次は派遣社員の能力開発が、派遣先の仕事の取組み意欲にどのぐらい影響があるのかということです。職場のいろいろな満足度があるのですが、その満足度が、何が仕事の取組み意欲に影響を及ぼすのかを分析したものです。ここでは満足度を賃金の満足度、労働時間の満足度、福利厚生の満足度、仕事内容の満足度、人間関係の満足度、能力開発の満足度の6つに分けて、満足、やや満足、やや不満、不満というスケールを使って、それが仕事の取組み意欲にどういう影響を与えるかというものを分析しました。
 10ページ、仕事の取組み意欲を上げることに関して言えば、いわゆる労働組合などが一般的に交渉課題としているような賃金、労働時間、福利厚生に関しての満足度は、派遣労働者に関しては、どうもつながっていない。関係性はないという結果になっています。
 では、何が仕事の取組み意欲を上げるのかといったら、やはり、職場の能力開発の満足度が効いてくる。次は、仕事の内容の満足度と職場の人間関係の満足度が仕事の取組み意欲が上がる要因となっている。中でも、能力開発の満足度の影響度が大きいことを考えると、派遣労働者が職場の能力開発を渇望しているのだと感じます。
 ヒアリング調査の中でも、暇な職場で働いている人、手待ち時間が長いという人は仕事が非常に苦痛だと言うのです。お金を支払っている派遣先企業からしてみれば、仕事が暇なのにお金を払っているのだからいいではないかと。ネットでもやっててもいいよと言っているのだし、自己啓発で資格の勉強をしていてもいいよと言っている。にもかかわらず、いや、そうではないのだと。やはり、派遣労働者には仕事を通じて能力を上げていきたいと思われる方が多く、一概に暇な仕事場というのはいいものではないのだと思わされることがありました。
 スライドの11、「正社員転換を打診される派遣労働者の仕事の変化」ということで、要は、どういう人が正社員転換を打診されるのだろうという視点から、ヒアリング調査から話を聞きましたら、やはり、仕事が大きく変化している人というのが、正社員転換を打診されているということがわかりました。特に、正社員と同じように働く方、同じようになっていく方というのは、当然正社員転換を打診されやすくなる。判断要素があるような仕事、高度化していくような仕事に就かれていく方というのも、要は正社員転換を打診されやすい傾向にあります。現行法上、契約以外の職域に仕事が広がっていくことになるので望ましいことではないのかもしれませんが、大体正社員転換を打診されている方というのは、何らかこういう変化が起こって、正社員転換を打診されていることがあるので、やはり、職域を広げなければ正社員にはなれないし、キャリアは向上しないことがわかります。
 スライドの12、正社員転換の形態というのは、大体3つぐらいに大きく分けられます。1つ目は、紹介予定派遣で2010年度は2万3,000人ぐらいいらっしゃる。2つ目は、通常派遣を経て転換する。いわゆる引抜きと言われるものです。実はこれは公式統計を厚労省で取っているものがないのです。なぜないかと言うと、通常派遣を経て転換というのは、派遣元に聞いても、あずかり知らない部分で転換されている場合もあるので正確な数が取れないのです。我々の調査では、分かっている範囲だけで結構ですので、通常派遣を経て、引き抜かれた数を教えてくださいと聞きました。ですから、恐らくこの数字は実際よりも低い数字で出てきている。それでも3.5倍ぐらい紹介予定派遣よりもあるので、非常に大きいポーションで引抜きは存在すると思います。調査したときは、金融での直接雇用に移行していく動きが非常に強かった時期ですので、その影響もあるかもしれませんが、恐らく紹介予定派遣よりも多いことは想像がつきます。
 3つ目は、自由化業務3年経過後の転換です。主に工場などの自由化業務が3年経過したあとに、直接雇用にしていくもので、製造ラインが中心になり、大体3倍ぐらいあることになります。これはそれぞれで直接雇用で正社員ではないので、どういう雇用形態に転換するのかというのが13のスライドです。
 紹介予定派遣の場合は、最初から正社員で採用するという条件を挙げておかないと、人が集まらないということもありますので、正社員が多いです。引抜きになってくると、正社員と契約社員が拮抗するような状態になる。自由化業務3年経過後の場合は、契約社員が多いので、恐らく期間社員というような製造業務の直接雇用になっていくことが分かります。
 次のページは、「正社員転換時の職種別に見た年齢と月収の傾向」です。これは受け入れた派遣先に、転換した時の年齢と、そのときの給料はどのぐらいでしたかという設問を立てて聞いております。職種別に見たところ、製造業務では、20代後半で20万円未満ぐらいで、若くて安い傾向です。営業・販売職の場合は、20代後半で25~30万円ぐらいです。IT・専門職は、20代後半で30万円ぐらいで比較的高い傾向です。医療福祉職に関しては、35歳以上で非常に年齢が高くなって、20万円未満で低い賃金です。金融・保険も同じように35歳以上で20万円未満と低い賃金です。前の3つは、どちらかというと男性中心の労働市場です。後ろの医療福祉職、金融・保険というのは、どちらかというと女性中心の職場で、出産・育児からのリカレントの仕事として、その層を取り込むということですので、パートの労働市場とかなりかぶっているところもあって、賃金が引っ張られて低くなっている傾向もあるという感じです。
 15ページ、「正社員転換にかかる課題」についてです。とは言うものの、非正社員の政策の中でも正社員化が非常に重要な政策として言われておりますが、やはり、多くが正社員になれない現実があると思います。パイは限られている中で、少数の上がれる層と多数の上がれない層が出てきますので、正社員になれない人たちのキャリアをどう扱っていくかという問題が重要であろうと思います。派遣業界ができることは「キャリアラダーの構築」と書いてありますが、これはあとでお話をいたします。いわゆる緩やかな職種別の労働市場ができているということもありますので、その中で何らか職務を向上して、賃金が上がりつつ、キャリアが積める仕組みが必要ではないかと思っております。
 2番目は、引抜きの功罪です。引き抜きというのは、非常に大きなポーションがあるということで、派遣先が派遣労働者との合意のもとに、雇い入れることができるし、労働者にとってここが広がることが、ひとつ大きな正社員の入口になることも分かるのですが、気を付けなければならないことは、紹介予定派遣に比べて雇入れまでのリミットがないので、期待を持たせてずるずるといってしまうことが結構あります。ずるずるいって、私は正社員になれるかもしれないと思って年をとってしまう。年をとるとともに外での転職活動が困難になってくるということがあるので、やはり、派遣先は採らないのだったら早めに手放してあげることも、1つのやさしさというか、そういうこともあるだろうと思います。
 派遣元にとっては、35歳までに乗入れできるようなマッチングを行うことが重要だとは思います。ただ、この間木村さんもおっしゃいましたが、派遣元が能力開発をしたりして、商品としてやっと外に出せるようになった人が引き抜かれる。いわゆる、投資した分が回収できない構造が発生するのは相当な痛手なので、そこの部分を回収できるような構造にしていくことは1つ重要なことかと思っております。やはり、マッチングした先で派遣先がどういう人を正社員にしているかとか、登用制度はあっても、運用として正社員にしていない会社もありますので、登用した実績について、派遣元が派遣労働者に情報を提供してあげることは重要なことになってくるだろうと思います。
 「派遣労働でキャリアを培えるのかということについて」は、先ほども申しましたが、事務系の話に限定しますと、キャリア形成の芽は見えると。初期キャリアに限定されますが、ある程度はあるのではないかと思います。これから先、これを中期キャリアまで上げるのかどうかというのは、やはり今後の法政策に委ねられている部分ではないかと思います。
 職業能力については、20代、新卒労働市場で不遇であったものが、派遣に入って職業能力がついていくことが見られます。非正規、非事務系職種からスタートした人は、職業能力がついたと感じている。資格取得、就業経験でステップアップするというのは、先ほどのキャリアのラインで見たように、こういうケースもあるということです。キャリアをつけようとする職業意識の強さは、当然ですが、派遣労働者自身がキャリアをアップしたいという思いがなければ、職業能力はつきませんので、その辺の啓蒙も重要かと思います。
 正社員になれるのはということで、引き抜きというものは量的規模は大きく、可能性が高いので重要ではあると思いますが、ずるずるいくことを防止しなければいけないとは思います。職務は広範化・高度化・習熟化しているケースにおいて、職域拡大が正社員になれる必須条件であるということです。30歳前後での乗入れが主流ということですので、これは賃金から考えても、その辺で引き抜かれている層が多いこともありますので、やはり、それよりも前のところでの教育訓練の徹底が必要になってくるであろうということです。
 賃金が上がるのは、職種別労働市場を渡り歩けるスキルがなければ、なかなか賃金がステップしながら上がっていくことは難しい。一方で、こういうスキルをつければ雇用安定にもつながっていくだろうと思います。職務の高度化・広範化・習熟化については、同一派遣先の定着、内部化することで、賃金が上がることが見られる事実があります。最後に賃金交渉が、1つの大きな賃金を上げるファクターであるという意識の拡大が必要であろうと思います。
ここでは書かれておりませんが、製造業務に関してはどうなのかということについては、私の個人的意見では、かなり企業特殊的なスキルを工場で使うので厳しいということがあります。A工場からB工場に移ったときに、そのスキルはリセットされてしまうし、賃金もリセットされてしまうのです。ですから、製造業務においてキャリアを積むことになった場合には、直接雇用で中に入っていくしかないのかなというところが、製造業務に関しての1つの意見です。
 最後に、「政策としての展開を考えると」ということについては、やはり、政策として展開を考えますと、派遣労働者のキャリアを培うのは、派遣業界に頑張ってもらうしかないということです。派遣業界の中でキャリアをどう使っていくかについては、いまの派遣会社もそうですが、大きなニーズがあるのです。派遣労働者に付加価値をあげて、より高くその人たちをマッチングさせていくことは重要なことではないかと思います。同時に、派遣先にも仕事を通じた人材育成を担ってもらわなければいけないということで、これは日本の国の人を育てるという意味の職場責任としてやってもらいたいと思います。派遣労働を初期キャリアを培うフィールドとして機能させることで、これまで新卒労働市場が一般的でしたが、1つのポート・オブ・エントリーという形で、ここをステップにして正社員に上がっていく1つの道が開発されることも重要ではないかと思います。
 そうは言っても、話題にも出ておりましたが、40歳までに何らかやっておかないとキャリアの展開というのはなかなか難しいということで、それまでに何か能力開発させることは必要であろうということです。繰返しになりますが、引き抜かれても回収できるような仕組みの構築です。下は「キャリアラダーを作る試み」ということで、次のページにキャリアラダーのイメージがあります。要は派遣元が派遣先と共同でキャリアを伸ばす仕組みを作る。あるいは派遣業界の中でアライアンスなどを組んで、キャリアを持ち運びできて、評価できるような仕組みを作る。そのツールとしてジョブカードで共有ツールを作ることが考えられるのではないか。全ての派遣労働者についてお金を投下、投資するのは難しいので、やはりセグメントを決めて、特定職種・特定層でのモデルを作成して、集中して投資していくことが必要になってくるのではないかと考えました。長くなりましたが以上です。
○鎌田座長 長年にわたる調査・研究の成果をコンパクトにまとめていただき、さらに、キャリア形成ということでいくつかの御提案もしていただき、私としては非常に参考になりました。これに関連して何か御質問があれば、あるいはそれに付随して御意見があれば、是非お願いしたいと思います。
○奥田委員 大変興味深いお話をいただいて、ありがとうございました。お聞きしたいことがいろいろとあるので、絞って何点かお聞きします。まず、8ページになると思うのですが、派遣先での能力開発を実感しているという部分で、ここで言う場合のキャリアアップは、イメージとしてはどういうものをキャリアアップとして派遣労働者自身が実感しているのかを、もう少し確認させていただきたいのです。
 例えば、派遣先で働いていて、まだほとんど職業に対するいろいろな経験が何もなくて、でも経験していく中で分かっていく。機械を使っていると機械が使えるようになる。そういうものがキャリアアップという感覚につながっているのか、あるいは、それ以外にOJTとか、もう少し具体的な教育訓練ということを通じてキャリアアップを感じているのか、そのあたりのキャリアアップ、初期の20代で正社員経験がなくて、2、3年ぐらいの方のキャリアアップの実感という中身がはっきり分からなかったので、そのあたりを1点お聞きしたいのです。
 もう1つは非常に単純なことですが、4ページのこの方は、余り派遣元を移動していらっしゃらないという分析とか、それは大変よく分かったのですが、何が上がっている要因になっているのかです。例えば、派遣先1と派遣先2で、受付事務という職種が変わったから上がったと考えられるのか、そうではないのか、あるいは派遣元が変わったから上がったのか、何かそのあたりの上がっている要因が、仮にそれが上がっているとすると、これが何かその人の積んできたキャリアに基づいてなのか、職種に基づいてなのか、派遣元によってなのか、そのあたりをもう少しお聞きしたかったのが2点目です。
 もう1つ、いちばん最後に、私は最初にまだよく分からない中でイメージとして申し上げて、派遣労働者のキャリア形成は難しい、イメージがなかなか湧かないと申し上げたのですが、例えば、15ページでまとめていただいているように、現実問題として正社員になかなかなれずに、派遣で継続的に働いている方がいらっしゃるのは事実なので、その中でどれだけキャリアを上げていくかという御指摘は非常に重要だと思いました。そうだとすると、初期のキャリアアップはある程度可能だとして、中期のキャリアに行けるかどうかというあたりの、政策におけるポイントというか、そういうものがおありでしたら、少し示唆していただきたいと思いました。その3点をお願いします。
○小野委員 スライド8の「派遣先での能力開発を実感しているのは?」ということで、これは非常に端的に、「現在の派遣先で働き始めてから職業能力が向上したと感じますか」という非常に主観的な質問で聞いております。それをいろいろな基礎クロスの集計の中で年齢、いま就いている仕事のレベル、これまでの派遣先数という形でクロスを取って、その中でどういった層の人が多いかを重点的に見ています。
 あとは、ヒアリングのときに、「派遣に入ってからキャリアは伸びたと思いますか」「能力は伸びたと思いますか」という問いかけに対して、「伸びた」とか、「うーん」と考える方とさまざまいらっしゃるのですが、そういった方たちがいったいどういう年齢層で、どういう職業経歴を歩んでいらっしゃったかというところから、こういう結論に導き出せるかと考えたところです。
 2番目ですが、4ページの上昇傾向にある事例ということで、移動型のものですが、これは端的に職種が変わったから上がっていっているのだと思います。派遣元1から派遣元2に変わるときに、派遣元1は医療系なのです。病院受付は医療事務なので、医療系の特化した専門の派遣会社が派遣業界の中にはあって、それと総合型と言われる事務派遣も全ていろいろなものを扱う大手の派遣会社がございますので、医療系から別の派遣会社に、職種を動いたことによって、ある意味動かざるを得なかったというか、そういう状況です。
 医療事務は医療・福祉・介護関連で、1,000~1,500円の間ですが、真ん中のポチが少し低めに出ている状況で、実は医療関係、あるいは事務関係の中でも時給が非常に低いのが特徴です。そこから一般事務や営業事務に上がると給料が上がるという現象が、まま見られるのです。
○奥田委員 3ページを見たときに幅がほとんど同じところにあるので、職種の変更はなぜそれに影響するのかが分からなかったのですが、平均のポチの若干の違いがそれに現れているということですか。
○小野委員 現れています。3ページの医療・福祉・介護関連職は、派遣元のヒアリングや派遣先のヒアリングをしたときの賃金レンジよりも、私が見たら実感的に若干高めかという感じなので、もう少し低いかという印象もあります。非常に専門的ないろいろな医療の法改正なども覚えなくてはいけないし、レセプトの受付などという非常に覚えなくてはいけないことも多いにもかかわらず、一般事務よりも賃金が低く抑えられてしまうという矛盾した市場ではございます。
 最後の初期キャリアは積めるのだけれども、中期キャリアに上げるときの考えはどういうのがありますかということで、私はこれはまさにキャリアラダーだと思っており、要は常用であったり、機械設計、情報システムはあれだけ賃金幅が広いのは、やはり評価があって、ある程度上っていけるものが中にあるのだろうと思っております。例えば経理で言いますと、最初は伝票の整理なのです。そこから月次に行って、アシスタントで月次を一緒に横に付きながら勉強し月次ができるようになって、最終的には年の予算を組むぐらいまでに発展していくのですが、そこにはステップがあるので、そのステップをうまく構築してあげられれば、ある程度賃金をステップしながら上に行けるものが構築できるのではないかと思っております。ですので、ある程度業界の中でステップを付けてあげる努力はしてあげなければいけないのではないかと思っております。
○山川委員 非常に興味深く、かつ、有益な話を伺ったと思います。特にキャリアラダーをつくる試みのところで、派遣元と先とで共同した取組みあるいは業界としての取組みをおっしゃられておりました。これは私も非常に共感を覚えたところです。いろいろキャリアラダーのほかにも、教育訓練への投資ということにも広げて考える可能性もある気もしますし、また、公的な支援もこの点では考えることができそうに思います。
 また、初期キャリアと専門的キャリアを分けられている御指摘も重要かと思いました。初期キャリアは、たぶん派遣先もニーズが大きいので、派遣元もそのための訓練はやらざるを得ない面があるという感じがします。恐らく問題になるのは、中間的な専門的キャリアで、その点で検討する必要があるとしたら、現行制度上の制約が、先ほども少しおっしゃられましたように、あるかどうか、あるいは、それがあったらどう改善すべきかという点です。例えば派遣先は指揮命令しか行わないのが建前ですが、それでよろしいかという点と、あと、26業務に関しては、専門業務のみ行う形で現在のところかなり厳しい縛りがあるのをどう考えるか。お話の点はこのあたりの検討課題につながってくると思います。
 それから2つ質問があるのですが、1つは、法の制約が取り除かれたとしても、キャリア形成へのインセンティブがあるかどうかで、派遣元のインセンティブもありますが、派遣先との関係で、中間キャリアや専門キャリアに対するニーズがどのぐらいあるかという点を、もし御存じでしたらお伺いしたいと思います。
 もう1つは、18ページのキャリアラダーのイメージのところで、これも先ほどのニーズとの関連で、応用・判断業務について、ニーズがたくさんあれば、あるいは開拓できれば非常に可能性が広がると思うのですが、その場合のキャリアラダーは、正社員といいますか、派遣先に直接雇用されて正社員になるというイメージと、いわばプロの派遣社員というイメージとがあります。そこでも無期化ということは問題になりますが、そのあたりを、どちらでのキャリアラダーをイメージされているのか、あるいは両方か、そのあたりを伺えればと思います。
○小野委員 私が非常に一生懸命考えねばならないと思っている点についての御指摘でしたので、まだ途上でもございますが、お話させていただきたいと思います。インセンティブの点ですが、現行法においては職域の制限がかなりかかっていることがございまして、ヒアリング調査を含めてもインセンティブがかなり阻害されているものは感じます。例えば、派遣先については、目ぼしいといいますか優秀な人に関しては、正社員・派遣社員、そういった雇用形態に分け隔てなく、仕事のできる人には仕事をしてもらいたいという思いが恐らくあると思います。それは生産性につながることもありますので、この子はできるなと思った子には、後輩の指導もさせたり、こちらの新しい仕事ももう少しさせたりということをやりたいと思うし、本人もやりたいと思っている。そこは相思相愛の部分があるのです。ただし、派遣法の元来の規定の中では、そういう職域拡大がなかなか難しいという現状があります。
 この間の適正化に関して言えば、かなり大手の派遣先企業にとっては、見直しをかけなければならなかったという事実もございます。調査に言っていろいろ聞きます。例えば、これまで大企業などで上の取締役の方や部長などでは、もう少し大らかな感じで正社員も派遣社員も同様に扱いながらやっていらっしゃる所もあったのですが、人事からそう扱ってもらっては困ると。まず社員証のストラップの色から分けろということから始まり、精神的、意識的に分けないと業務も分けられないと。だから、そういうところから10何年も働いて生きている派遣社員が、急にストラップから色を替えられ、パーテーションを立てられ、業務の制限をされということも起こり得ていると。職場の雰囲気さえも非常に悪くなっていることも、聞き及んでおります。だから、そういうのはかなり極端な例かもしれないですが、ある程度派遣先のインセンティブを阻害していることはあり得ると思います。
 2つ目の点ですが、キャリアラダーのイメージで、上のほうに行った人のニーズをどう開拓していくかですが、例えば、いま現在も経理で上のほうまでやられている方は実際にいらっしゃいます。実際にそういう方の話を聞きますと、非常に面白いのです。派遣でそのままがいいという方が、非常に多いのです。というのは、気に入った職場であれば自分の、手に職を生かしてずっと食っていけるだろうと、その自負というか自信もある。嫌だったら、派遣先から自分の、手に職を持って移動することができるので、派遣先を固定する、あるいは正社員になることよりも、いまの派遣社員のままで生きたいという方が意外に多かった、という事実に直面しております。ある意味そこの部分のニーズが開拓さえできれば、派遣先のままでもいいというところもあります。
 ただ、一方、派遣先においては、ここまでできるようになったら囲い込みたいというニーズも生まれますので、ここまで行ったら、どこかを正社員と非正社員の汽水域とする層が出てきて、そこは、あるいは管理の場合だったらリーダー層とか、経理の部分だったら月次の主体的なところができるようになった層のところで、正社員と非正社員が汽水で同様に働くというところが出てくると思います。でも、同様に働くという汽水層がない限り、入り込みができないので、そこの何か汽水域をつくらなくてはいけないと感じてはおります。
○木村委員 質問というか感想と意見ですが、若年層で派遣が増えたということで、不本意で派遣で働いているという人が増えてきています。言い方は悪いですが、それに伴って、派遣が自由な働き方とか、スキルを生かした働き方ではなくて、普通の若年労働者になってきたと。つまり、スキルがなくて、スキルを身につけないとまずいと思っている人たちになってきたと思います。普通のというのは、別に差別という意味ではなくて、正社員として働いていたような人が派遣になっているという意味です。
 そういった中で、キャリア形成といったときに着地点をどこに置くかというところがあって、中期キャリアがあったのですが、中期キャリアはどこかというところだと思うのです。どのぐらいのスキル、どのぐらいの立場の人を想定するのかと。その場合、現状を見ると、中期キャリアに着ける人は難しいと。当然、優秀な人がいて、派遣から管理職とか、経営者などに行く人もいると思います。ですが、そうした成功例は例外的な人であって、そうやってとても優秀な人と普通の派遣社員の人が当然出てくると思います。そのときに結果の平等まで保障するのは無理なので、機会の平等をいかに制度の中でつくっていくかという話になるのではないかと思いました。
 先ほどの普通の労働者というところへ行きますと、派遣社員への考え方が普通だというのもありますし、あと、能力開発のプロセスを考えると、正社員と同じだという感想を持ちました。何が同じかというと、先回の話でも出たのですが、固定化された仕事ではなくて、少し予定した業務と違うことをやってみるのですが、少し難しいことをやってみて、それによって能力が上がってくる。当たり前と言えば当たり前のことですが、そういったことが出てくる。
 その中で、先ほど賃金交渉という話があったのですが、私が昔、厚労省の委託調査でやったときでも、賃金交渉だと、仕事の交渉もあって、自分はこういう仕事をやりたいのだと言うと、向こうが考えてくれて与えられることもある。可能性としては仕事のレベルアップをする可能性が若干高まるということです。
 これも派遣社員に限ったことかというと、そういうことではなくて、特に傍聴席の皆さんもそうだと思うのですが、正社員で働いている方々も会社の中で何となくやってきていることだと思うのです。意識して自分はやっているとは思ってないのかもしれないのですが、何となく上に行きたいとか、いい仕事をしたいと思ったら、やっていることであると。あと、職務を多少、契約以外、予定以外のことでその仕事を振っていって成長するということ。これも正社員であれば普通に行っていることだと思います。ただ、それが派遣という仕組みの中で業務が制約されている。ですから、例えば26業務からそれ以外に変えられないとか、そういった業務制約が人材育成を阻害しているかもしれません。
 さらに、人材に関してだけではなくて、使う場所も実は限定されてくるのではないかと思います。何かというと、先ほどの形で、予定されていた業務をそのままずっとやらせるだけではなくて、臨機応変に業務を変えていくことができない労働者だとすると、臨機応変な職場には使えないわけです。ですから、例えばお客さんの状況やビジネスの状況によって、お互いが仕事を見直して流動的に動かなくてはいけない職場では、派遣社員を非常に使いづらくなる。そういった流動的な職場ほど人間は変化に対応して能力が付きやすいことを考えると、そういう職場から外されて、仕事の内容という意味ではずっと安定した職場に行く。
 その中でも専門性は徐々にやっていけば高まるのかもしれないのですが、ここで私が1つ重要だと思うのは、派遣の限界として挙げたいことだと思うのです。専門性が高まっていって、若干給料が上がっていくことがあると思うのですが、1つは絶対値はどうなるかということです。キャリア形成の満足度ということで、1つは心理的な満足度ということで上がっていく。
 先ほどの私が以前かかわった調査でも、確かに役割、仕事の交渉や賃金交渉で満足度は高まっているのですが、実際に仕事はどれぐらいレベルアップしたのかというと、能力の必要習得期間が半月伸びたぐらいのことでした。ですが、本人たちには満足であって、先ほどの話でいくと、初期キャリアでの成長が1つある。
 もう1つは、専門性が上がっていったというときに、その専門性がだんだん上がっていって賃金も上がっていくのですが、なぜそういった業務を派遣先が派遣で使っているかということです。これはもちろん全てのケースでそうだと言っているわけではないのですが、ある程度専門性があるのだけれども派遣にするということなので、流動的な労働力として使っている。つまり、仕事自体が流動的であると。
 ですから、専門性がある時期まで高くても、例えば極端な話、その仕事が2013年までは専門的な仕事だけれども、2014年以降はその仕事は要らないのだということがあります。そういう可能性があって、いま専門性が高くて上がってきているのだけれども、それは今後の専門性というのですか、今後の労働市場でのキャリアを保障するものではないということです。今後の労働市場でのキャリアを保障する仕事であれば、直接雇用で長期的に会社の中に入れていこうという動きが働いているはずなのですが、そうではない所に派遣として使われていると。その中で中に入ってくる人はほんの一部であって、多くの人は派遣ですからそういう意味で使われていると。そういった専門性の中で上がってきているのですが、それが派遣というもののキャリア形成上の限界だと思うのです。そういった人たちを派遣制度の中でどう保護できるかについて、考えないといけないかと思います。特に具体的にこうすべきという話はまだ思いつかないのですが、そういった問題はあるかと思いました。
○鎌田座長 感想とおっしゃったのですが、小野委員からご意見ありますか
○小野委員 リミットのあるプロジェクトみたいなものに派遣社員が使われるのは、特に派遣先の職場へヒアリングに行ったときによく聞きます。常用型の技術者の派遣は、結構そういう傾向があって、技術者で専門性が高いから、そこで正社員になるのかと思ったら、これが意外にないのです。ものすごく正社員と同じか、それ以上の量の技術系の派遣の方を使っていらっしゃる製造業の研究所があるのですが、彼らは新しい技術をどんどん開発して製品に取り入れていかなければいけないのだけれども、その製品のサイクルも速くなっているので、いつポシャるか分からない。その時にポシャったら、その分の研究開発の人をもっと違う言語であったりというので取り替えるとか、そういうことでうまく市場の商品ニーズに合わせた形で研究者も入れ替えたいというニーズもあるのです。
 派遣元としてはさまざまな、だけれどもこの人たちは解雇されても、次にまたこちらの研究所に行けるとか。だから、要は横のフィールドの外部労働市場がある程度確立されているので、そこで派遣元の研究者というか技術派遣の人たちは動いていくという傾向もあります。
 ですので、リミットあるプロジェクトの派遣先でのニーズがある。だけれどもリミットがあるというのは、木村委員がおっしゃっているのは非常にそのとおりだと思いますし、技術系の派遣に限って言えば、ある意味、技術的なそういう所のニーズを外部労働市場の中でうまくリンケージできているのかもしれないとは思ったりするのですが、どうですか。
○木村委員 補足と言っては失礼ですが、有期のということもあるのです。先ほど、登用のずるずるという話がありましたね。プロジェクトで派遣期間が限られていれば、まだ派遣労働者は、これは来年までなのだなとか分かると思うのですが、そうではなくて、会社は何となく3年後にはこの技術は駄目だと思っているけれども、派遣社員にはそこまで見えてない。一応契約は有期ですが、派遣自体は長期ですという前提で、だけれども、着実にその技術が陳腐化している。高度化しているのだけれども、市場の中では陳腐化していると、そういうのが常用型で出てきているかと。昔からある話かと思いますが。
○竹内(奥野)委員 時間がないところで恐縮ですが、2点質問させていただければと思います。非常に興味深くて、いろいろとこのようなことなのだということを非常に勉強させていただきました。勉強させていただいたとは申し上げたのですが、何かどうも理解できてないところがございまして、質問としてもうまく文章を申し上げることができるかどうか分からないのですが、1点目は、お話をお伺いしていると、正社員化に関しても、1つは職域等を広げていくことが重要ではないかという御指摘があったと思うのです。
 しかしながら、これは私がもしかしたら話をきちんと正解してない可能性もございますが、派遣としての働き方の中でキャリアをつくっていく中でも、高度化、広範化、習熟化は必要だという御指摘が、これは16ページにあると思うのです。
 そうすると、正社員化の場合であっても、派遣の中でキャリアを積む場合であっても、どちらも仕事を広域化する必要があるということになると思います。後者については、うがった見方かもしれませんが、先ほどのやり取りの中でも出てきましたが、非常に有能な人材だけれども、ずっと派遣でいて、あるとき業務区分適正化の関係で急にストップがかかるようになったという話がありました。そういう話を聞いたときには、その方たちは非常に広域な職務を担当してきているのだけれども、結局、ずっと派遣でいる状態があるという形でお伺いをしたと思っております。そうしますと、正社員になれるほうと派遣の中でステップを積むほうの2つを分けるものは、いったい何なのだと。そこが気になり、そういう意味では職域拡大が決定的な決め手なのか、それに何かもう少し必要なのか、そこについて1点お伺いさせていただければと思っています。
 もう1点は、キャリア形成とは全然関係ないかもしれませんが、5ページで賃金交渉をして上がったという話ですが、これは具体的に誰とどういう交渉をしていることなのでしょうか。賃金が払われているのは、もちろん派遣元から払われている。派遣元に交渉したのか。先ほどの感じだと、職場で話をして、結局払われている料金も上がってという感じにも聞こえまして、その点をお教えていただければと思います。
○小野委員 キャリアを上げていくことに関して言えば、片や正社員になって、片や派遣のままだけれども安定的にずっと派遣され続けるように雇用安定を考えると、先ほど申し上げた経理の方のようにある程度専門的な能力、高度化、広範化が必要になってくると思っております。
 その2つを分けるものは何だということですが、調査の中では「あなたは正社員になりたいですか」と聞いているのです。「非常になりたい」「ややなりたい」という段階で聞いています。私どもの調査がたまたまリーマンショックのあとの調査でしたので、何と8割が「正社員になりたい」「ややなりたい」と答えて、「全くなりたくない」という人は調査では余り出てこない0%だったのです。だから、それはすごい衝撃的な数字ではあったのですが、内容を分解してみますと、正社員になりたい理由が、雇用不安なのです。要は、正社員になって何かやりたい仕事があるとか、よりその仕事を高度化させたいからとか、そういう理由ではなくて、不安が裏返しになった「正社員になりたい」ということなのです。
 ですので、具体的に何か求職活動をやっていらっしゃいますかと聞いたときに、本当に面接をしたりとか、履歴書を送ったりという人は、1割にも満たなかったという事実がございます。ですので、みんな悶々と不安に思って正社員になりたいと思っているのだけれども、実際の行動を起こしていないという事実もございます。
 そういった中で、では、派遣は賃金が低い、低いとみんな言われていますが、どのぐらい欲しいですかと聞いたときに、みんな大体それほど、「もらえればもらうほど高いほうがいい」とはおっしゃらずに、「300万円ぐらい」とおっしゃるのです。ですので、分けるものが何かと言われたときには、供給側の考え方とした場合には、自身の生活状況とか、それで暮らしていけるかというものと、社会全体の不安感、切られるかもしれないという不安感が分けるところにあるだろうと。別に正社員でも派遣でも、このまま雇用し続けられる、安定的に行ける。だから、正社員は賃金が上がっていきますが、別に賃金が上がっていくことは望んでいない。フラットに300万円でずっと定年の年金のもらえるところまで行けるのだったら、別に派遣でもいいよという方は、数多くいらっしゃるのです。だから、その辺を見誤らないように政策も考えていかなくてはいけないというところです。
 2つ目は賃金交渉のことですが、これは多くの方は派遣元に交渉をされます。派遣先に交渉される方はいらっしゃるのですが、非常に長い方です。派遣先で自分の所属意識が派遣先にすごく強まっているときで、上司と飲みに行ったりとか、職場でのコミュニケーションが深まっている場合に、自分の賃金の話とか、あるいは上司から派遣料金に聞いたりする。派遣先に話をされる場合もありますが、基本的には派遣元に交渉する。
 派遣元は、派遣労働者の方もお客様なのです。なので、派遣労働者の満足が得られなかったら辞められてしまうので、労働者の方が仕事と賃金が見合っていないなどの不満を持っていると思ったら、事情を聞いて、派遣先に相談するという行動はとられます。でも、労働者自身が発信しない限り、満足している、不満とは思ってないと派遣会社は捉えますので、派遣元自らが賃金を上げにいくことはなかなかないと思います。
○鎌田座長 議論の尽きないところですが、定刻もやや過ぎたところですので、本日はこのあたりで議論を終了したいと思います。大変充実した議論で、是非、今後ともこの議論を生かしていきたいと思っております。次回は、海外の派遣制度について、有識者からの御報告をいただく予定と聞いております。事務局から何か連絡事項はございますか。
○佐藤補佐 次回の日程ですが、11月7日17時半からを予定しております。詳しい御案内については、また別途申し上げます。
○鎌田座長 本日は、これで終了します。どうもありがとうございました。


(了)

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