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2012年11月12日 第3回「非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会」議事録

○議事

○阿部座長 定刻になりましたので、第3回非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会を開催します。委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中をお集まりいただきまして、ありがとうございます。事務局から、資料の確認をお願いします。
○三上雇用支援企画官 資料ですが、資料1は、シックスセカンズジャパン株式会社代表取締役の田辺康広様の御説明資料です。資料2は、日本女子大学家政学部家政経済学科准教授の原ひろみ様の提出資料です。資料3は、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀様の御提出資料です。以上3点です。もし資料の過不足がありましたら、大変申し訳ございませんが事務局にお申しつけいただければと存じます。
○阿部座長 本日の議題に移ります。今回は有識者の先生からのヒアリングということで、シックスセカンズジャパン株式会社代表取締役の田辺康広様、日本女子大学家政学部家政経済学科准教授の原ひろみ様、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀様にお越しいただいています。お忙しい中、ありがとうございます。早速ですが、田辺さんにプレゼンテーションしていただきます。どうぞよろしくお願いします。
○田辺氏 お手元の資料が少し長いので、簡単にサクサクと進めます。「シックスセカンズとは」というところから始まっていますが、私どもの本部はアメリカのサンフランシスコにあるNPO団体で、「感情知能」と日本語で訳されますが、それを世界中に広めて、前向きな行動変容を促していこうという団体です。それの日本のオフィスを預かっているものです。
 EQの説明は簡単にすると、3ページにあるように、思考を上質のものにするために感情をどのように活用していくかという知能が我々にあるのを、今から約20年前にエール大学のピーター・サロベイ教授と、現在ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士が論文を発表したところから始まっています。感情を知的に活用する知能であるということです。これはいろいろとビジネスの世界で見ていくと、まさしく関係があるというところの研究をしたり啓蒙をしたりしているところです。
 皆さん4ページの資料を見ていただきますと、右下にサッカーの日本代表のキャプテンをやっている長谷部さんの『心を整える』という本がベストセラーになっていますが、まさしく心を整える能力が、スポーツ能力だけではなくて、社会に生きる力というものを健全なものにしてくれる、という資料が4ページにあります。
 これはアメリカのフットボールの選手のその後を追いかけた資料ですが、約30名のデータで、EQの高い人ほど実りの多い人生を進めているというデータを示したものです。逆にいうと、感情を知的に活用できないでいる選手は、やはり社会的にも余り活躍できない。日本でもスポーツ選手でオリンピック級で活躍されても、社会に出てから少し問題を起こす人たちは、この領域をもう少し鍛えることができるかなというのがあります。
 5ページを見ていただきますと、今度はCareer SuccessとIQ、左にある赤いほうが従来のIQという領域で、右手がEQという領域になります。下に面白いメッセージがあります。採用はIQでされるが昇進はEQでされるのが、アメリカの調査の一つの発見です。このような枠が出ているということです。
 あとは、2000年になりまして盛んに企業教育が行われてきて、6ページには、アメリカのフロリダのSheratonのケースですが、非常に業績の悪くなったシェラトンホテルを立て直したいということで、エグゼクティブから平社員までEQ教育をしたところ、注目していただきたいのはいちばん黄色いところですが、離職率が2割改善されたというデータが出ていたりするということです。
 このようないろいろなデータを基に、成果を上げたり、より豊かな人生を送るために、もう一つの知能を使うべきではないかということで、今、世界中に啓蒙をしているということです。世界で今12か所オフィスがあり、今後もどんどん増えていく予定でいます。特に東南アジアが注目して、カントリーオフィスが出来上がっている状況にあります。
 この間、国際会議の中でEQを日本的に紹介すると何かと思い、7ページにありますが、夏目漱石の『草枕』を例に出しておきました。これを英訳すると、次のページにある『The Three-Cornered World』というのがあるのだそうです。「兎角に人の世は住みにくい」とありますが、住みやすくするためには、情に流されない、智に働き過ぎないという一つのメッセージかと思います。そういうバランスを取ってくれる知能が、どうもEQという言葉で表されているかというのがあります。
 9ページから実例ですが、これは明治18年創立のかなり歴史のある九州の銀行です。地域に貢献できる、地域と信頼関係を作れる「自律型人材」をこれからも擁して、地域経済の活性化に参画したいという思いで、採用したり人材育成をしているというところです。しかし、もうひとつ覇気がなくなったので、キャリアデザイン研修をしてくれということで、最初はターゲットが7年目研修です。
 ここで紹介するのは7年目、ちょうど30歳になる前の行員を対象に、キャリアデザイン研修を今から4年前に企画して3年前からずっと実施してきています。ベースはEQをキャリア形成に役立たせていこうということで、職場で活き活きと働く人たちは、みんな「感情に配慮する力、感情に訴える力」を発揮して、対人関係を豊かにし、自分で自分の居場所づくりをしているということをテーマに展開していったということです。
 11ページに「アジェンダ」というのがありますが、これは見ていただくと分かると思いますが、この中で12ページを見ていただきますと、「キャリアマップ」ということで、研修の2日の最後に、これからの人生を描いてみようというトライアルをしてみたのです。キャリアマップの左上は初日にやっていくのですが、今までの自分は大いに振り返るのですが、これからの自分のイメージはどうもつかないということです。
 この研修を初年度にやったときの発見としては、13ページにありますが「定年までの自分を描けない」という状況を発見したのが一つあります。それと同時に、よくEfficacyという言葉で言いますが、自分への期待や有能観を余り育んでいないということで、やってみたい、トライしてみたい、チャレンジしてみたいという気持づくりが余り表に出てこないという発見をしました。実際に数値的に言いますと、この年は45名が7年目行員として研修を受けたのですが、定年までの自分を描けたのはたった1名です。ほとんどの人間は10年後の自分を描けないと言っていたのが現状です。つまり、キャリアライフの見方における「時間軸」は、正規雇用の皆さんでもかなりショートスパンになっているというのが、私の一つの体験です。もう一つあるのが「自分への見方」です。どうもアイデンティティを確立しきれていないのではないか、という感じがしています。
 この見通しがショートスパンになってきたというのは、私事ですが、アメリカの留学生に対して15年ぐらい前から、日本に帰ったときの就職対策ということで、キャリアデザインとかといういろいろな取組をしているのです。しかし2000年を越えた頃から、特にロングタームでの自分を語れなくなっている傾向は、薄々感じていたところなのですが、実際にこういう正規雇用の社員にもやってみますと、なかなかロングスパンで人生を見通せないという状況が表れてきているというのもあります。
 ここの銀行のみならず、これは東京都の下町ですが、老舗メーカーでも同じような20代後半の社員にキャリアデザイン研修をやると同じ傾向が出ます。定年までの自分を見通せない。極端なことを言うと、5年後の自分、もっと短い人では3年後の自分、1年後の自分が見えないというふうに、割と胸を張って言う形になっています。
 地方公務員が見えてきていると思いますが、これはある地方公務員の皆さんが、人事制度が変わったので、特に少数精鋭でいきたいのでキャリアの希望、どういうキャリア発達というかキャリアデベロップメントしたいかを聞き入れるので、40代の皆さんにどうぞ自分の絵柄を描いてくださいという絵柄を描く研修をしたのです。2年ごとに異動を繰り返すということで、40代の人間が定年までに職系6の中で2年ごとに職場を変えていくとすると、その組合せが膨大になるので「嫌だ」という答えが多くなり、「決めてほしい」ということが40代でも出てきている、ということを感じています。
 14ページを見ていただきますと、私どもは今度キャリアカウンセラーの皆さんとも少しお付合いを始めています。米国ではICF(Internationl Coach Federation)と組み、EQという教育は資格維持のための認可された継続学習対象になっていますが、日本ではキャリアコンサルティング、カウンセラーを育てるGCDFの認定講座として、いろいろお付合いをさせていただいています。
 この中で一つのケースです。キャリアカウンセラーのケースを見ていきたいと思います。これは、自分への期待が表せないという方向で用意してみたのです。15ページを見ていただきますと、22歳の若者ですが、通信制の高校を卒業できることになったので、正社員で働きたいと。スーパーでアルバイトをしていました。3年半していた。バイト先では、アルバイト部隊のリーダーまでやった。でも希望したいのは販売以外ですという相談が来ます。「えーっ、今まで営業的なことをいろいろやっていたのではないですか」「ええ、販売は好きなんですよ。性にも合っているんですよ」と言うのですが、「販売以外の仕事を見つけたい」と。「なぜですか」と聞いたら、「いや、実は嫌なお客さんが3人ほどいるんですよ。だから営業は選びたくない」ということになりました。
 16ページを見ていただきますと、カウンセラーといつも話しているのですが、ここを理詰めでいったところで、気持が前向きになるかというところがポイントになるのです。「そのスーパーのお店、どのぐらい住んでいる人はいるの」「2万人ぐらいいる。主婦3,500人いる」「OL、サラリーマン、5,000人ぐらいいるよね。そのうちたった3人で自分の人生決めていいの」と、理に走ったところで、やはり受けつけられないということなので、カウンセラーたちが今、一生懸命苦労しているのは、もっと気持のほうへ訴えようということで、「悔しくない。たった3人のために人生限られてしまっていいの」と。このようなアプローチを今盛んにしているところです。むしろこういうアプローチのほうが、若年層も納得感を持ってもう一回考えてみる、という一つのケースをお伝えしたいと思ってお話をしました。
 今カウンセラーが、私どもの認定を受けているのは、そういう私どものEQを測定する検査結果なども一緒にクライアントと見ながら、前向きな自分を作るにはどうするかという自分の素晴らしいところを見つける指導をしながら、キャリア形成の支援をしている現状です。
 19ページを見ていただきますと、もう一つなのですが、女性のケースです。21歳です。高校を卒業してスーパーに正社員で就職した。でも、相談に来ているのが、「私、何もないんです」と。「レジ担当をやってきたんですが、レジ担当って誰でもできる仕事で、自分ができることはないんです。私、高校で簿記の資格取ったんですが、本当は経理の事務をやりたいんですけど、なれるでしょうか」ということです。
 20ページを見ていただくと、カンセラーの第一の発想として「なれるでしょう、資格を持っているなら」と言ったり何とか言っていても、何となく。ここで大事なのは、自信ということになる。気持に訴えてキャリアビジョンを作っていかなくてはいけないだろうということで、「レジ業務というものにもっと胸を張れるんじゃないの」というところから掘り下げていくということです。
 21ページは肖像権が心配になるかもしれませんが、「笑ゥせぇるすまん」が出ています。「レジというのは、営業もやっているし、経理もやっているんじゃない。すごいよね、一人二役でしょう。そんな仕事やってきたんだよね」ということや、22ページの今度は逆に「営業としてもすごくない。それこそ自分より年下の人間から同世代、お母さん世代、シルバー人材、ちょっと変わったおじさんまで、いろんな人を相手にできる人なんじゃない、やってきたんじゃない」と。こういうもう少し自分の強みとかやってきたこと、アイデンティティを確立するための取組をしていると、この女性も決まってしまったのです。やはり自分に対する見方を少し変えていったところ、税理・会計系のシステム会社に就職できたということです。
 ここで少し御報告したいと思ったのは、キャリア形成を促していく上において、今、抱えている問題点としては、すごくショートスパンでものを見始めているのが現状としてあるかと。これをもう少しロングスパンです。この委員の皆さんも言われると、「桃栗三年柿八年」ではないですが、野菜と違って果物としてなっていくためには時間がかかる。多年草であることが大事だということで言うと、キャリアの見方をいろいろな形で支援していくことがとても大事になってくると思うのです。
 あとは、アイデンティティを確立していくという意味での支援者が、どうしてもまだ足りないのかということ。これは企業内においても同じです。相談する人がいなくなっているのが現状です。今は企業の中で私どもが研修するとき、キャリアデザイン研修を実は余り使わなくなり、若年層、20代には、キャリアビューというか、キャリアの景色をどう作っていくかというところから始める。その辺の取組から5年スパン、この5年で自分らしさをどう作っていくかというふうに少し変えながら、やはり企業の戦力となるようにしているのが実態です。
 ということで25ページ、差し出がましいようですが、私どもはEQを実践できる、私どものEQ実践モデルを普及しながら、就業者のみならず就業希望者、それから大事なのは支援者としてのキャリアコンサルタントやビジネスコーチ、それからコンサルタント。それから、御社もかかってくると思いますが、家庭でのEQ教育を考える時期が来ているかと思います。気持の作り方、自分への見方をという意味で「ペアレンティング」と書いておきましたが、家庭で育くむ、育成のあり方についてもいろいろ考えていく必要があるかと思います。いただいた時間を少し超えてしまったかと心配になっていますが、以上で報告を終わります。
○阿部座長 このあと質疑の時間があるのですが、残っていただけますか。
○田辺氏 はい、よろしくお願いします。
○阿部座長 では、後ほど質疑、意見交換をするとして、続いて日本女子大学の原さんから資料に沿って御説明いただきたいと思います。では、よろしくお願いします。
○原氏 今日は報告の機会を与えてくださって、どうもありがとうございます。事務局からこの検討会で何か報告してほしいと言われて、二つお題をいただいたかと思います。非正社員の企業内訓練についてが一つ、もう一つが、ジョブ・カード制度について何か話をしてくれと言われたのです。ジョブ・カード制度についての研究は、JILPのほうで継続してやっており、今の段階ではまだ途中段階で報告できることもないのですがと一応お伝えしたのですが、座長がどうしてもとおっしゃっているというお話でしたので、今日は中間報告という形で紹介したいと思います。
 最近書いた二つのものを紹介したいと思います。1ページに2枚のスライドがあるので、左端にある数字をもってページ番号としたいと思います。2ページの上側にあるものが非正社員の企業内訓練について書いたもので、この内容を紹介したいと思います。下半分がジョブ・カード制度についてになります。
 3枚目のスライドになります。繰り返しになりますが、1番目、大きな題の「非正社員の企業内訓練について」ですが、ここについては二つのことをお話したいと思います。一つは、非正社員の中で企業内訓練の機会に恵まれている人は誰なのかと。非正社員の企業内訓練を促進する要因の探索が、一つの目的になっています。もう一つが(2)ですが、そもそも非正社員の企業内訓練にはプラスの効果があるのか、これを正社員との比較を通じて検証するということです。何に対する効果を見るか。職業能力、生産性、賃金、正社員への転換、こういったことへの効果を検証することで、労働者にとっても企業にとっても訓練インセンティブがあるかを検証したい。こういう二つの目的で書いたペーパーを紹介したいと思います。
 恐らくこの検討会の趣旨とよく似ていると思うのですが、非正社員たち、企業内訓練の機会が乏しい人たちで、そういう人たちの割合が労働市場で増えている。マクロで見たときに、そういう労働者が増えることで、人的資本の蓄積の量が日本経済として少なくなってしまうという問題点が一つ。ミクロ的な問題としては、個人レベルです。能力開発の機会の恵まれている人と恵まれない人に分かれていって、恵まれている人は恐らく賃金が上がっていくだろうと、恵まれていない人はそのまま。個人レベルで賃金格差が広がっていくだろう。ミクロレベルではそうした問題がある。そうなので、マクロレベル、ミクロレベルでも恐らく大きな問題を抱えてきて、それを考える、解決策を考える糸口にしたいといって始めたものがこのペーパーです。
 もう一つは、ジョブ・カード制度の訓練は求職者の就職にプラスの影響を及ぼすのかを紹介したいと思います。雇用型訓練で前職非正規社員だった人も半分ぐらい分析対象に入っているので、そういう人たちへの再就職への効果を見る形の報告をしたいと思います。
 最初の題ですが、「非正社員の企業内訓練の受講規定要因とその効果」です。5枚目のスライドになります。分析の結果を紹介する前に「理論的整理」をしておきたいと思うのですが、企業はいろいろな非正社員がいる中で、中には訓練をする人がいるし訓練をしない人がいるのか、どうしてそういう差があるのかです。訓練は企業にとっては投資であるので、リターンが生じないでやるインセンティブはないわけです。企業は、訓練リターンが生じるだろうという非正社員には訓練をするし、この人に訓練をしてもリターンは出てこないだろうという非正社員には訓練をしない、ということが考えられるわけです。
 日本の非正社員に目を向けてみると、いろいろな人がいるわけです。いろいろな働き方の人たち、有期契約雇用の人、パートタイム、しかし実際には契約更改を繰り返していて実質無期になっていたり、フルタイムで働く。さまざまな人がいる中で、では企業は誰に対して訓練をしたいと思うか。仮説としては、恐らくフルタイム、労働時間を長く働いている人、期待勤続期間、恐らくこれからも長くこの企業にいてくれるだろう、そういう訓練からのリターンの回収が大きいと思われる非正社員に訓練をするインセンティブを持つだろう。これが一つ目の仮説です。
 6枚目、二つ目の仮説の確認ですが、どうして訓練の目的が正社員と非正社員で異なるのかです。恐らく、平均的な雇用契約期間の違いから説明できるのではないかということです。正社員は雇用契約期間が長い。企業との間にキャリア形成に関して暗黙の了解があると考えられます。企業側も正社員も訓練投資のコストを共同で負担して回収する、そういう共同投資に対するインセンティブを持つわけです。ですので、訓練は正社員に対する訓練が企業特殊的な性格を帯びやすいと考えられます。
 一方、非正社員はどうか。非正社員は雇用契約期間が短いです。そうすると、企業は、すぐ辞めてしまうから訓練リターンを回収する時間が十分に取れない。そうすると、訓練コストを負担するインセンティブを持たなくなって、なされる訓練は恐らく労働者がコストを負担する一般的訓練の性格を帯びやすい。それが経済的な理論仮説になります。
 7枚目のスライドになります。分析の詳細について紹介する時間はないので、結果だけ紹介したいと思います。(1)が1番目の目的に対応していて、(2)が2番目に対応しています。(1)ですが、フルタイムであったり期待就業期間の長い非正社員は、企業内でも訓練機会を与えられやすいという結果が得られています。
 効果ですが、正社員については、訓練を受講した人のほうが職業スキル、生産性は上昇する。OJTを多く受けた正社員は賃金もアップする。そういう結果が得られています。非正社員に関しては(2)-2ですが、正社員と同じく職業スキル、生産性は上昇する。しかし賃均アップにはつながっていないという結果が得られました。では、非正社員の人たちは企業内訓練を受けることのメリットは何もないのかというと、そうではないのです。(2)-3ですが、ただし、企業内訓練を受講した非正社員は、同一職種内での正社員転換確立は統計的に有意に高いことが示されています。恐らく、これが非正社員側からの訓練のメリットかということです。
 8枚目のスライドに行きまして、では、なぜ非正社員は訓練を受けても賃金が上がらないのか。いろいろな解釈が複数可能ですが、この検討会と関係がありそうな解釈を一つ紹介したいと思います。正社員と非正社員の間では、内部労働市場の整備の状況にかなり違いがあるのではないかということです。
 企業は労働者に期待を持つ。労働者も企業に期待を持つわけです。企業は労働者に訓練をして、訓練に一生懸命取り組んでもらって、スキルを身につけてもらって、高い生産性を発揮してもらおうという期待を持つ。労働者のほうも、一生懸命訓練を受けてスキルを高めたら、恐らく企業はそれに報いてくれるだろうと。間違えても途中で解雇したり、賃金を上げないなどということはないよねと、そういう期待がある。だけど、信頼がない。両方に、裏切られるかもという疑いがあるわけです。その裏切られるかもというときに、「そんなことありませんよ。両方を両立させますよ」と保証する、そういうverifyする制度として内部労働市場が、恐らく正社員には発達しているのではないか、発達してきていると考えられています。これは経済学の基本的な理論に則ったものです。
 一方、非正社員の人は、訓練をしてスキルが高まって生産性が高まった。だけど、賃金を上げようかどうしようかというときに、「ほかの企業もしていないし、いいよね」と、そういう考えが出てくるわけです。それは、内部労働市場の整備が進んでないことに起因すると思うのです。実際、統計を見てみたり、厚生労働省がやっているパートタイム労働者総合実態調査などを見ても、非正社員の人たちは、非正社員の賃金を決めたり昇給を決定する際には、正社員と比べて多くの事業所、倍から4倍ぐらいの事業所が、同じ地域であったり職種の賃金相場を重視して決めていて、そうした周りを見渡して決めている。つまり、非正社員の賃金は、職業スキルや生産性とは無関係に決まっているのではないか、ということが考えられるかと思います。
 9枚目のスライドに行きます。「?のまとめ」として、最初の問題意識です。非正社員への企業内訓練の実施を促進することはできるのか。恐らく今ある分析の結果からは、フルタイムであったり、就業継続期間が長いと期待される人、つまり正社員に近い働き方の非正社員が増えれば可能性はあるのかと個人的に考えています。
 (2)企業に非正社員への訓練インセンティブがあるのか。現状では、私のやっている分析は、必ずしも生産性の伸びと同じぐらい賃金を払っているのか、それよりも低いのかを示すものではないのですが、恐らく企業は非正社員の訓練からレントを得ているのではないかと思います。企業は非正社員の訓練からレントを獲得していて、やりたいところをやっているのかという印象を持っています。
 たぶん後2、3分時間があると思うので、「ジョブ・カード制度の訓練の効果」について紹介したいと思います。11枚目のスライドになります。ここでお話するのは、ジョブ・カード、職務経歴であったり履歴とかが書いてあるものではなくて、ジョブ・カードの交付を受けて受ける訓練についての効果の報告です。
 ジョブ・カード制度の下に行われる訓練にはいくつかあるのですが、そのうち「有期実習型訓練(基本型)」が今から説明するものです。ジョブ・カードの交付を受け、訓練生として企業に雇用され、3か月以上6か月以内の訓練を受ける。つまり雇用型の訓練の効果を見るということです。以下、「基本型訓練」と呼んでいきたいと思いますが、その他ジョブ・カード制度の下に行われる訓練は数多くあり、最近では求職者支援制度による職業訓練などもジョブ・カードの交付が伴っています。
 時間もないので最後に行きたいと思うのですが、スライドの17枚目、上半分にあるものです。「?のまとめ」です。いろいろ限定があって、訓練を修了してから短い期間しか経っていない人だけをプールして、そしてクロス表だけを分析していて、内生性等は全くコントロールしていない、かなりざっくりとしたカジュアルな分析の結果ですという但書きの下なのですが、恐らく基本型訓練の受講者は、ほかの公的な支援のある訓練よりも就職率は高いし、賃金の伸びも、前職と比べた賃金の伸びですが、どうも大きくなっていると。仕事に対する満足度の変化も非常にプラスのほうに大きく伸びていて、雇用型訓練は、前職が非正社員の給職者の人に対してもかなりプラスの効果があるのではないか、というのが今のところ得られている結果です。以上です。
○阿部座長 ありがとうございました。質疑応答がこのあとありますので、よろしくお願いします。続きまして、東京大学の本田さんからお願いしたいと思います。
○本田氏 東京大学の本田です。今日はお招きいただきましてありがとうございます。概括的な話でよいということを事務局から伺っておりましたので、今日は、この研究会の趣旨の非正規の能力開発と少し外れる点も含んでおりますが、私の目に見える範囲で、今、若者に主に焦点化したときに、どういう働き方でさまざまな課題があるのか。それに対してどう対処すべきかということを、かなり総論的に申し上げたいと思います。
お手元の資料は、前半10枚目までのスライドに話のあらすじがまとまっております。後半は、全部それに関連する参考資料になっておりますので、ごく一部だけ後半の参考資料を見ていきたいと思います。時間もありませんので、主に前半のスライドに沿ってお話したいと思います。
 まず、何が問題かということですが、大きくABCと三つに分けて、若い人に限らないのですが、日本の労働市場の問題点が書いてあります。A仕事に就くのが総じて難しい。B仕事に就いても働き方が厳しい。C仕事に就かないと極めて生活が厳しい。この三重苦のような状態が今あるのではないかと捉えております。まずAの、ディーセントな仕事に就くのが非常に難しくなっている背景として、a-1からa-4まで箇条書にしてあります。そういった4点の背景要因があるかと思います。
 a-1は、労働需要側の要因です。労働需要側の要因としては、経済成長の停滞、また産業構造の変化によってディーセントな雇用機会が総じて縮小している事態がある。この辺りは参考資料にも出しておりますが、経済成長率というのは90年代以降、非常に低くなっているわけです。そもそも経済が膨らまないような状況が続いている。それと同時に並行的に、第2次産業の就業者数が、比率もそうですが、今、じり貧に向かいつつあり、第3次産業の就業者数がグッと伸びている。参考資料にグラフを示してありますが、そういう変化があります。
 第3次産業、サービス業というのは、大半は対面的・対人的なサービス業、販売などによって成り立っているわけです。そういった業種はかかるコストの大半が人件費になる業種ですので、結果的に利益を上げようとすると、いかに人件費コストを圧縮するかが、多くの雇い手にとって課題になってくるわけです。そういうところで、かなり賃金が低い、また労働条件全体として悪い仕事というものが、大きく広がってきている事態があります。これがa-1で、労働需要側の変化です。
 a-2は、労働の供給と需要をつなぐ間のルートの話です。先にa-3とa-4も申し上げてしまいます。a-3は、労働の供給側の職業スキルの問題です。a-4は、それ以前の問題、職業に就くためのスキル形成以前に、さまざまなもつれあった困難の中に置かれている若者というのが非常に増えてきている事態のことを指しています。
 a-2は、日本においては仕事に就く仕組み、特に教育システムと仕事との間の接続が、世界的に見ても非常に特徴的であり、そういう硬直的な労働市場、特に若年労働市場が、初発のトランジションのところでつまづいた場合に、若者にとって非常に阻害的に働いていることを、私は以前から主張しております。
 仕事に就く仕組みを具体的に言いますと、「新規学卒一括採用」がまだ主流であるということがあるわけですが、より詳しく見ますと、新規学卒一括採用の背後で、そもそもその採用ルートに乗れない人が広がってきている上に、一旦そのルートに乗って就職できたように見えても、その後の離職率が実は大変高い。しかも、特に第3次産業のサービス業においては離職率が非常に高いとか、あるいは相対的に小規模な企業の場合には離職率が大変高いということもあるわけです。新規学卒一括採用というのは、表面的にはまだ続いているように見えて、それが実はかなり崩れかけていることは重要だと思います。このように崩れかけているのですが、新規学卒一括採用に変わるような仕事に就いていく仕組みが、徐々には整備されてきているとは思いますが、まだそれが踏みならされた道に全くなっていないことが非常に大きな問題だと考えております。
 a-3は、労働の供給側の、主に若年者が、仕事に就く以前に職業人としてのスキル形成がされているかというと、これも不十分な面があるわけです。これは従来の新規学卒一括採用に基づく、これまでのトランジションの仕組みの下においては、日本における高校や大学などの教育機関というのは、職業人にレリバントなスキル形成が強く求められてこなかったという事情によるものです。
 教育機関においてスキル形成をしなくても、新規学卒一括採用に乗って多くは正社員採用されていれば、あとは企業の中で人材育成してもらえるという棲み分け関係が、教育と仕事の間に成立していたがゆえに、これまで教育機関はスキル形成を行わなくても済んできたような面があったわけですが、今そういうシステムとシステムの噛み合わせが変容してきているにもかかわらず、教育機関側が十分に変わることができていない。
 また学校教育の外にあるような職業訓練も、先ほど原さんの御発表にあったように、ジョブ・カードといった新しい仕組みも導入されて、以前よりはじわっと拡充されている面はありますが、それでもまだまだ全然不十分な面があります。ですから教育機関でもスキルを身につけることはできない。また正社員に採用されない場合も、スキルを身につけるチャンスががくっと減るという状況の下に日本の若者は置かれている。
 a-4は、今、厚生労働省の生活支援戦略などでも急ピッチに制度の策定が進められておりますが、一つは幼少時の家庭の困窮という問題、もう一つは、身体面でさまざまな疾病や障害を抱えた人たちが非常に排除されがちであるということ、三つ目は、内面的・精神的な問題によって、特に人間関係からメンタルなダメージを受けてしまって、仕事に踏み出せないような若者が今増えてきてしまっていることの指摘です。
 次はBの、仕事に就けさえすればばよいのかというと、そんなことはなくて、仕事に就いても働き方が厳しい事情があります。日本の場合は、世界標準と比べても特徴的なのは、むしろ非正社員よりも正社員の働き方であるという指摘が、例えば、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員のご著書などによって指摘されています。つまり、メンバーシップ型雇用の性格が強く、ジョブすなわち担当する職務の輪郭が曖昧であるということを、日本の正社員は特徴としているわけです。それと全く対極的にメンバーシップは希薄であり、ジョブは比較的明瞭という性格を持っているのが非正社員であるというように、対照的な働き方の正社員と非正社員を組み合わせる形で労働市場が成り立っているわけです。
 そういう中で、過去においては非正社員の担い手というのは、例えば、主婦パートや学生アルバイトなど家計補助的に働く人がメインだったわけですが、今や非正社員の中にも、自立的に家計を営まなければならない人も増えてきています。一方で正社員のほうも、従来はメンバーシップは彼らにとって保護になるような働き方であったわけですが、今やメンバーシップがかえって辛い状況を生み出す事態が生じているという報告がたくさんあります。
 どういうことかと言いますと、スライドの4枚目ですが、Bのb-1、職務の内容や分量が不明瞭な正社員の雇用契約という日本的な特徴があるがゆえに、正社員になったとしても、柔軟で非常に積極的で真面目な人ほど、属人的に仕事の量がどんどん膨らんでいくことに対する歯止めがない状況にあります。それが長時間労働、過重労働を生み出し、延いては過労死、過労自殺、過労鬱などを簡単に生み出してしまう地盤になってしまっているということがあります。これに関しては、今、民間で「ブラック企業」という言葉が非常に多く語られるようになっております。労働基準行政が十分に役割を果たせていないことも民間で指摘がありますが、それを代替するような形で、ブラック企業と呼ばれるような人権も法律も全く踏みにじるような働かせ方をする企業で苦しんでいる人の相談を受け付けたり、告発したりするような運動が広がっている状況があります。このように正社員になったとしても厳しいわけで、マッチングやカウンセリングなどによって正社員に何とか入れておけば良いという雇用政策では、今どうにもならない状況があるわけです。他方のb-2の非正社員のほうも、メンバーシップがないことからくる、賃金も増えず、また教育訓練の機会も正社員に比べれば大きく劣る状況の中で、苦況の中にずっと置かれ続けていることがあるわけです。
 b-3は、今、正社員と非正社員はもともと対極的な働き方ではあるのですが、いずれに関しても大変厳しい労働条件の働き方が広がってきているということです。
 Cの「仕事に就かないと生活がきわめて苦しくなる」というのは、日本は失業率が他国に比べてそう高くはないことがずっと指摘されておりますが、それは失業していることもできないような、その程度の社会保障の状況しかないことがあるからだと言われています。雇用保険の期間や額も非常に見劣りがするものであったり、例えば生活保護に関して今も話題になっておりますが、その補足率も低いといったこともあり、仕事に就かない限り生きていけないような状況が、これまで福祉国家であったためしがないような日本社会の来歴の中で作り出されてしまっていることが、労働者が企業に対して賃金依存的にならざるを得なくなっている状況を生み出してしまっているということがあります。
 問題点をABCと大きく申し上げましたが、そのいずれに対しても放置しておくことはできない。対処が必要になっていくわけです。
 7枚目のシートのAのa-1、a-2、a-3、a-4に関する対処としては、そもそも労働需要側が今、非常に冷え込んでいることに関して、a-1とb-1・2を組み合わせて見ていただきたいのですが、a-1は、何とか仕事を無理矢理にでも作っていくような施策が必要であることを指しています。b-1・2は、仕事をシェアしていくという方向性です。雇用機会がそうそう膨らまないのであれば、何とか無理矢理にでも作り出していくことと、今ある仕事を分けていくことが、論理的に考えて必要になってくることを指摘しています。
 a-2はルートの問題です。新規学卒一括採用を前提とするのではなく、それ以外の、仕事に就いていくためのさまざまなルートをもっと可視的に整備し、仮に新規学卒一括採用を離れてもそれ以外のオルタナティブがあるという理解や認識や実感を、人々の間に作り出していく必要があることを指摘しています。
 a-3はスキル形成の問題です。スキル形成に関しては、やはり、学校教育在学中、特に高校や大学における職業スキル形成の機会の拡大がどうしても必要になってくると、私自身は考えております。この点に関しては、厚生労働省と文部科学省が別々の省になっており、なかなか対応が難しいということがあります。田中文科大臣の最近の行動によっても非常に注目されておりますが、大学が非常に水増しされている中で、本当にこれまでの大学教育が職業において、若者が力強く歩んでいくための力をつけているかということも、もっと根底的な捉え直しが必要だと思いますし、それは大学の前段階の高校の教育段階から始めてよいものだと考えております。
 そのような学校教育の従来どおりの機能を変革していくことも必要ですし、学校教育を出たあとの公的な職業スキル形成機会も、これまでよりはずっと拡充していく必要がある。単にスキルを形成しただけではなく、それを公的に可視的な形で証明・保証し、かつそれを就労機会、可能であれば収入の水準と結び付けていくことが日本では極めて希薄ですが、そういうことがない限り、いくらスキルをつけても就労機会はない、あるいは収入が低いといったことが、これまでも維持されていると考えられますので、そこにメスを入れる必要がある。
 a-4に関しては、北風型の、仕事に就かないと鞭を打って仕事に就かせるような政策ではなくて、太陽型の、よりそい型の支援によって、まず精神的なところから元気を出してもらって、徐々にステップアップして仕事につなげていくという丁寧な施策が必要とされていると思います。
 「Bに関して」は、正社員と非正社員が、片やメンバーシップなきジョブ、片やジョブなきメンバーシップという形で両極端になっていることが、日本における正社員と非正社員の双方の苦境を生み出しておりますので、正社員か非正社員かという二分法ではなく、その間にまたがるような程々のメンバーシップと、程々のジョブを兼ね備えた、例えば「ジョブ型正社員」であるとか、「短時間正社員」であるとか、「勤務地限定正社員」であるといった多様な正社員、あるいは雇用が安定した非正社員の働き方をもっと実質的に作り出していく必要がある。それによって、今、過重になっている正社員の働き方と薄く軽いものになっている非正社員の間で、ワークをシェアしていく方向での施策が、もっと力強く進められる必要があると以前から考えております。b-3については、違法労働に対する是正を進めていただきたいということです。
 「Cに関して」も、社会保障制度の財源が厳しくなっている中で、どのように財源を確保していくかということは非常に大きな問題ではあるのですが、社会をサスティナブルにするためには、やはり、そこをきちんとしていく必要がどうしてもあるということです。これについては、参考資料のいちばん最後に、モデル図を3枚続けて示してあります。「戦後日本型循環モデル」で成り立ってきたものが、今や破綻しているとすれば、仕事、教育、家族の循環構造の背後にセーフティネットとアクティベーションという2枚のお布団といいますか、それを敷いていくことによってしか、この日本社会を維持可能なものにはしていけないのではないかと考えております。非常にたくさんのことを、ものすごく早口で申し上げて申し訳なかったのですが、以上が考えていることです。
○阿部座長 ありがとうございました。お三人の先生方には、時間を守っていただいて、もっと言いたいことがあるとは思いますが、このあと質疑応答と意見交換をさせていただきますので、そこで適宜補っていただければと思います。
 これまで田辺さん、原さん、本田さんの御説明がありましたが、御質問、御意見等を含め、非正規雇用の能力開発の抜本強化のための対策について、御自由に御議論をいただければと思います。どなたでも結構ですので、御質問、あるいは御意見をいただければと思います。
○佐藤委員 お三人の方、今日はどうもありがとうございました。この研究会にとって非常に重要な内容を含む報告だったと思います。お三方について、それぞれ1問ずつ質問させていただきます。
 まず田辺さんにです。感情のいわゆるEQの重要性が報告されていたのですが、キャリアを形成していく上で、キャリアの変化や、そういうものに対応していくときには、キャリアチェンジがいろいろ発生するわけです。その間、2000年からロングタームからショートタームになってきている。そういう不確実性が高まっている中において、まさにキャリアチェンジをうまくやる、規定する要因は何なのかということへの関心は非常に高まっていると思うのです。
 そういう意味で、それは正規、非正規問わずあると思うのですが、EQの側面は、いわば感情的な面と御指摘されていたのですが、キャリアチェンジに関して、例えば、確かに受講効力感とか、内的な心理的な要因も非常に重要なものとしてあるわけです。他方で、知識や外的な人のネットワークというものの形成も、非常に重要な意味を持っているとされているわけです。
 そのように考えていったときに、IQとEQとの関係が、私はまだ一つ整理されていないのですが、望ましくはIQもあり、EQもあるというのがいいのかなと思うのです。その後のアメリカのスライドの5ページにあるような研究・知見などでは、採用のところではIQが重要であると。しかし、その後のプロモーションはどちらかというと、EQが効いているのではないかということです。素人的に見て、IQもあって採用されて、さらにEQもあるとプロモーションしていくということで、両方あることがいいというふうに何となく思うのです。そういう理解なのか、それとも採用後はIQではなくてEQなんだと。やはりEQ変数のほうが効くんだという理解でいいのかどうか、間違っているのかどうか。その辺りを教えていただきたいというのが、田辺さんに対する質問です。
 原さんに対する質問は、非常に計量分析によって間接検証されている報告で参考になりました。一つは、スライドの9枚目の「?のまとめ」の、非正規への訓練インセンティブは企業側にとってあるかどうかは、非常に重要な論点だと思います。ここのところで説明があったのですが、私はスライドの7の「分析結果」の(2)では、訓練をすれば職業スキルは上がり、生産性も上がっていく。しかし、賃金アップにはつながっていないということが得られています。こういうことから企業からしますと、訓練をしてスキルが上がる、生産性が上がるというのは非常にウェルカムな話であって、賃金アップがもしないのであれば、コストも抑えながら、スキルや生産性も上がるというふうにも考えられるわけです。そうなると、企業側から見て、そのインセンティブは非常にあるのではないかとも思うのですが、そこはそう単純であるかどうかは分かりませんが、追加的に教えていただきたいということです。
 17ページの基本型訓練、有期自主型の効果については、内生性コントロールされていないということではあれ、クロス表分析では基本型訓練の受講者はそういう効果が得られているということです。訓練の効果については、訓練自体の純効果と、そもそもそういう訓練に参加している人というのは、もともと内生性や主体性を強く持っていて、いわばトレーナビリティの高い人がそもそも訓練に参加している可能性があるということで、その効果はどうなのかというのは、よくインターンシップの効果でもなされているところです。そういうことからすると、現段階での分析は中間ということですが、もし何かお気付きの点があれば教えていただきたいということです。
 本田さんの報告については、非常に重要な問題について包括的な御指摘があったと思います。一つは、正社員はメンバーシップ型雇用で、非正社員はジョブ型雇用ということです。そういう中で、現状の働き方を見ますと、正社員のメンバーシップ型雇用の中でも、ジョブ型の要素を取り入れていく。ジョブ型の要素である非正規を、もう少しメンバーシップ型要素を強めていく中で、中間的な勤務地限定、あるいは短時間正社員のような雇用形態を開発していくことがいいというのは、私もそういう考えに賛同するわけです。現実問題として、企業は割と中間型がなかなか開発されていかないというか、そういう部分があるようにも思うのです。その辺の要因についてどのようにお考えかというのを、お気付きの点があれば教えていただきたいということです。
 もう一つは、報告では時間がなくて端折られたのかと思うのですが、いわゆる学校から企業への移行の中では、現行の新卒採用の就職活動での採用基準の曖昧さに起因する企業側、あるいは学生側のすれ違いというか、そういう不幸みたいなものがあると思うのです。その辺を少し改善するには、今、現行では学校教育である職業レリバンスの低さと、採用する側での職業レリバンスの低さ、そういう職業との関連性の薄い、弱い教育をやって、その若者が職業との関連性でまた弱いキャリア形成というか、いわばメンバーシップ型の裏表ですが、いろいろな異動と昇進を繰り返すようなジェネラリストタイプに少し問題があると理解されます。そのときの職業レリバンスを強めていくときに、学校と企業とそれぞれどういうような取組の方向性が現実的なものと考えられるのか、お考えがあれば教えていただきたい。以上、お願いします。
○阿部座長 それでは田辺さんからお願いします。
○田辺氏 御質問をいただきまして、ありがとうございます。まず一つ、どこですれ違ったかという、EQという概念は、どうも世界中でIQとの対立概念のように捉えられているのですが、もともとIQの仲間の一つとして位置づけられていると考えたほうがいいのです。1995年10月8日号の『タイム』が特集で、もはやIQの時代ではないと、EQこそ問われているものだという記事から、どうも対立概念に捉えられたという感じです。
 もともとの論文は、思考を上質にしていくためには、感情の領域をどういうふうにチェックしていくかということが第一で、例えば、イライラしているときの解釈と、ゆったりしたときの解釈というのは、やはり、解釈の質が変わってくる。そこを見張っている能力があるのではないかと捉えたほうがいいかなと。
 私たちはビジネスの世界で分かりやすく言うと、今のスポーツ選手は楽しんで試合をやります。あれはまさしく心のほうを整えるということで、本来持っている身体能力を発揮させるためには、最適な感情状態が大事ということで、「頑張ります」よりも「楽しみます」のほうが、自分の能力を発揮しやすいことを、EQという能力はそういうのを発見して、促していくと考えたほうがいいと思います。ですから、本来持っている従来のIQ領域を活かすために、足りないものは何かというと、この世界に辿り着いたのかと考えております。ですから、願わくば従来のIQの領域とEQが、両輪のように働いていくことはいちばん望ましい姿であると思います。そのように考えております。
○原氏 佐藤先生、ありがとうございます。的確にまとめていただいて、私も早口だったのですが、伝わっていたのだと思ってすごく安心しました。
 1番目の御質問は、先生にまとめていただいた以上のことは私自身もないのですが、個別の企業に下りれば、非正社員に訓練してスキルがアップして、生産性に見合って、それに見合った処遇をして賃金も上げていく企業はたくさんあると思います。ただ、平均で見ると、そういうことは起こってないらしいというのが、ここでの分析の結果ということです。
 いろいろな解釈は市場の不完全性に求めたりとか、配偶者控除の存在です。企業が「上げてあげようか」と言っても、「いいよ」と断わるのは非正社員側の問題ももしかしたらあるのかということは考えていますが、佐藤先生にまとめていただいた以上のことは私自身もないという感じです。
 2番目の御質問は、まさにそのとおりで、訓練を受ける人のほうがトレナビリティーが高いのではないか。これは内生性の問題です。公共訓練の場合は、もしかしたら訓練を受ける人のほうが能力が低いのではないか、という逆の関係もあると思うのですが、そういうコントロールを今回は全くしていないのですが、今年度の小杉さんの研究プロジェクトに私も入れていただいて、分析を進めているところです。一応、内生性をコントロールする手法としては、操作変数法という計量的な手法を用いて、何とかトライをしています。
 小杉さんの御了解を得てこなかったのですが、就職率と賃金の伸びについては、内生性をコントロールする。つまり、公的な支援のある訓練を受けている人は、恐らくちょっと能力的に低いのではないか。そういうところをコントロールすると、どうもプラスの方向が見えてくるような結果が得られております。同じく、仕事に対する満足度とか、その辺りは出てこない感じなので、ただ、実質面で見られてくれば、またそれなりのこういう施策を推し進めることに対しての参考資料として提出できるかと思っております。どうもありがとうございました。
○阿部座長 多分佐藤さんが質問した1番目の問いは、企業が非正社員に訓練しても、賃金が上がってないと。その部分は企業がレントとして取っているのではないかというのが、ここに書いてあることです。もしその企業がレントを取っているのであれば、なぜ企業はもっと訓練をしないのか、という意味で質問されたと思うのです。そうですよね。
○佐藤委員 そうです。
○阿部座長 ですから、その辺りはどうなのかということです。
○原氏 その答えは、まだよく見つかっていないということです。これも仮説ですが、非正規の人たちというのは、パートタイムで働くことが多いと。それと余り長い通勤時間をかけるのは非効率的だと。通勤時間を長くかけられないという意味で、非正規の市場が不完全だと。正社員の人たちは、通勤時間を何時間かけてもいいという意味では、完全な市場だろうという強い仮定を置けば、企業は彼らが転職しないことを前提として訓練ができるようになるのです。確かにレントを享受できるようになると思うのですが、そうではない企業が多いということは、そういう仮説が当てはまらないということですね。すみません、私も試行実験をしているところで答えが出てこない。いろいろ考えてはいますが。
○阿部座長 基本的には非正社員への訓練は少ないわけですから、それは原さんの論文にも多分書いてあったと思います。ですから、何でレントがあるにもかかわらず、訓練が少ないのかというのがパズルでしょうね。
○原氏 そうですね。
○阿部座長 分かりました。すみません。
○原氏 失礼しました。
○阿部座長 それでは本田さん、お願いします。
○本田氏 正社員と非正社員の中間的な形態の働き方に対して、企業はリラクタントということですが、今すでに、そういう中間形態が、例えば契約社員みたいな形で、むしろ非正規の中でパート・アルバイトよりは少し仕事の密度が高いような働き方として、ある程度実現されているのではないかと思います。それはやはり非正規の一環としてそうなっているのです。
 正社員、つまり雇用期限をつけないような働き方の場合は、やはり、解雇に関する日本の判例法理を含む法律が、解雇する前にさまざまな努力をすることを条件としている。そうなると、ジョブの限定性を言っていることができなくて、社内での他部署への配置転換も含めたことをやった上で解雇が許されるといった状況があるがゆえに、それが結構目の前に常に圧迫としてあると思います。その場合に、一応無期、無期と言っても条件付きの無期であり、その仕事がなくなった場合には、雇用契約も失われるといったような、最初から条件つき契約にしておくことは可能だと思いますが、そのようなジョブ型の無期雇用を導入するのではなく、やはり、従来どおりの正社員にはなかなか解雇しがたいというイメージと、特定の仕事が必要になったときだけ、本当に一時期だけいつでも変えられる形で活用する非正規という二分法的な発想が、いろいろな歴史の経緯も踏まえて染みついてしまっていて、もしかしたら、それを適宜組み合わせたほうが短期的には効率的なのかもしれないと思います。
 つまり、メンバーシップ型の正社員には無限定の貢献を求めることができ、ジョブ型の非正社員に対しては賃金を上げずに済んで、今、話題になったように、人件費を抑えることができるという点でメリットがあるわけです。結局、両方とも疲弊していっているわけですが、本当に短いタイムスパンで考えた場合には、企業にとって収益率がなかなか上げにくくなっている中で、それがある種の麻薬的な、そういう状況への依存状態が発生しているのかもしれない。これは全部推測ですが、そういうふうに思います。
 学校と企業との間にも、お互いに職業的なレリバンスが高まっていかない悪循環が発生していくのも非常に苦い状況で、何とかそれを少しずつでも世論レベルで変えていかなければならないと思って、いろいろな所でじたばたしてはいるのですが、なかなか世の中が動かないのです。一部には動きとして、例えば、富士通がホワイトカラーに関しても職種別採用を開始してくださっている。それによると、例えばサプライチェーンマネジメントという、これまではそういう職種を明示して採用しなかったような職種でも、明示して採用してみると、分かった上でちゃんと勉強して、サプライチェーンマネジメントという地味な仕事に積極的に応募してくれている人がいるということで、大変その採用はうまくいっているということです。そういう実例がいま出始めていますので、何とかそれが広がってくれないかと思っています。
 教育機関側もどう対応していいか分からない面もあったりとか、日本の教育機関というのは非常に鈍重な面がありますので、長年いる教員がそれにうまく対応できるかどうかというさまざまな問題も抱えているわけです。一つは、今、富士通の例を申しましたが、採用の際に、もう少し企業側が基準を明示してくれた場合には、やはりそれに対して対応しなければならないということへのインセンティブは大きく働くと思いますので、その辺りから何とかボタンを押していきたいと思っているということがあります。
 これはご参考までにですが、非常にシンプルなざっくりした分析で恐縮ですが、仕事に関する強みとして何を持っていますか、それをどこで身につけましたかということを、30代の働く人たちに聞いた結果のデータがあります。すると結構、スキルや資格を自分の強みとして自認されている人というのは、4割を超えて割と多いのです。それに対して、対人能力や行動様式というのは、やはり強みとして自認されにくい面があることが一つ確認されます。
 スキルや資格であれ、対人能力や行動様式であれ、いずれも「職場で身につけた」と答える人が多いのですが、スキルや資格のほうは、学校で身につけている率も2割に過ぎないのですが、対人能力や行動様式に比べると比較的高くなっていて、相対的にフォーマルな教育訓練の場でつけやすいし、当人にとっても自認されやすい。つまり、可視的になりやすいことがスキルや資格の強みの特徴だと思います。
 また、対人能力や行動様式のほうは、女性であれ男性であれ、これまでどのような過去の教育経験を持っているかということはほとんど関連がありません。それに対して、資格やスキルに関しては、これまで受けた教育経験が長いほど、学歴が高いほど強くなっています。特に女性の場合に、過去の最終学歴が高く、かつ非常に専門的な性格が強い教育機関を経験しているほど、資格やスキルが確実に身についている面があるわけです。
 更に、これまでのキャリア類型別に資格やスキル、あるいは対人能力や行動様式についての自認を見てみると、特に「資格・スキル保持」に関しては、男性よりも女性で、「正社員転職」であるとか、あるいは「他形態から正社員」というような、いわゆる外部労働市場を通じた、先ほどキャリアチェンジという言葉もありましたが、それを経験している人において資格やスキルは高くなっている。
 ただ、この辺りは前後関係も仕分けできないままの単なる関連性の分析ですので、粗いものではあるのですが、やはり資格やスキルというものは比較的教育機関で身につけやすい。それによって転職や非正社員から正社員への転換ということも、ある程度やりやすい。特に女性にとってそれが頼りになっていることがここで確認されますので、やはり、こういうジョブに関わる、しかも可視的な能力をどうつけるか、どう明示し、それがどう労働市場で有効に動いていくかというのは、ある程度既に動いている部分はあるわけですから、そこはもっと促進し、後押ししていくことの意義は十分にあるのではないかと考えています。
○阿部座長 ありがとうございました。今のに私から質問をさせていただきます。例えば、日本では職種別に採用されていないケースが多いわけですが、諸外国では一体どうなっているのか。それとともに学校教育との橋渡し的なところがどうなっているのか、というのがもしご存じであれば教えていただきたいのですが。
 あるコンファレンスでアメリカの先生に聞いたところ、それほどアメリカでも職種別採用があるわけではないし、大学で学んでいる学生たちがそれを意識して専門科目を選んでいるようでもないのではないか、ということを言われた方がいて。私はそれはそうなのかなという気はしたのですが、もし本田さんにそういう情報がいろいろあれば教えていただきたいのです。
○本田氏 これまでのさまざまな調査報告などから見ると、やはりジョブによる採用がベースだと私は認識しておりました。私自身がアメリカにおいて企業の採用やキャリアについてヒアリングした過去の経験で言いますと、これまでの学部で学んだ内容や、あるいはどういうインターンを経験しているかということが、かなり採用の際には意識されていることは、そのときには出てきました。
 ただ、あるジョブに採用されたということが固定的で、社内の内部労働市場でずっとそのジョブだけを続けるかというと、そうでもなくて、本人のイニシアティブで、例えば、これまで経理で来たけれども、キャリアをブラッシュアップしたいので、重役秘書のようなものが社内公募であったので、そこにあえて行ってみるといったような、社内での転換のオプションはありますし、実際にそれを使っている人というのはかなりいるという印象でした。つまり、職種別ということはそれほどリジットなものではないのですが、採用の際にはある程度かなりそれが守られているという理解で私はおりました。
○阿部座長 そういう職種別採用があると、多分学校教育でやったことと、職業がつながってくるということですよね。
○本田氏 特に、例えばファーストトラックと呼ばれるような、幹部候補のエリート的な新しく採用する人に関しては、あまりジョブをリジッドに問わないことも多いようですが、それ以外の多くの一般的な従業員に関しては、やはりジョブでもって契約を結ぶことが多いと思っています。
○阿部座長 ありがとうございました。それではほかの方どうぞ。
○西久保委員 御質問と感想をお話させていただきます。田辺様に御質問させていただきます。13ページのところで、「定年までの自分を描けない」「自分への期待が表せない」という傾向があるという話がありました。先ほど、2000年以降の国内企業の話ということで話があったと思うのですが、海外では、この辺りはどういう傾向になっているのでしょうか。
○田辺氏 データでの説明は難しくて、私の体験になります。私が海外に住んでいて思うのですが、キャリアとは何だということは、いわゆるジョブのヒストリーというか、自分のヒストリーみたいなものだということになると、私がお付合いしていた皆さんが最初に言うのは、「リタイアしたい」というのが最初に出てくる言葉です。できたら早いうちにリアイアしたい。これが私が知っている範囲のビジネスフレンドたちはそういう言い方をしています。では、リタイアの時期はいつなのだといったら、それなりにぶらぶらしても生活できるという、そういう考え方から自分のジョブを考えるというのが、日本とは違うかなという感じがします。
 では、その自分を作っていくためにはどうしたらいいかという組立て方ができているかということで、一つのところに何かを懸けるという人もいるのですが、私の周りには、どちらかというとリタイアを目指して、自分の人生をどう作っていくかという人物のほうが、海外で多かったかなと思います。
 ただ、もう一つあるのは、American Management Associationのワークショップに出たときに、古いのですがアンケートを取ってみました。「マネジメントというのは、外から採用するのか、内側から上がっていくのか」という質問でいうと、企業が大きいほど内側のような感じでした。データのどこを取ったらいいのか分からないのですが、そういう傾向にあるということは、一つの企業なり、ポジションで長く勤め上げるというか、一つのジョブ系で長く勤め上げるということでもあるのかなというと、少し対立している感じもするなと思いました。とにかく、人が宛がう人生ではないという意識でいうと、それは海外の特徴かなと思います。
○西久保委員 原様のペーパーの5ページで、理論的整理をしていただいています。これは、「企業は訓練リターンの生じる非正社員には訓練をするし、リターンの生じない非正社員には訓練しない」とあります。弊社ではわりあい訓練をしているほうだという自認はありますが、リターンのレベルというのは、恐らく企業単位によってかなり違うのではないかというのが感想です。当然ほかの会社ともいろいろお話をする中で、リターンが大してないから余りやらないという、リターンのレベルというのは、かなり前後差がありまして、リターンという認識がここでも十分にありますよねというのがもっと企業に根付けば、自動的に訓練がされるのかなとは思いました。
 本田様への感想も申し上げさせていただきます。4ページのb-1に、「職務(ジョブ)の内容や分量が不明瞭な正社員の雇用契約」というのがあります。これに対しての対応策として、9ページの「『ジョブ型正社員』『短時間正社員』の奨励を通じた実質的なワークシェアリング」とあります。
 私どもは、このジョブ型シェアリングというのに非常に賛成しております。いろいろな賃金の支払い方がありまして、年功型、職能型、職務型とありますが、私どもは職務型を重視していくべきだと考えています。旧来、日本では年功型から職能型にだんだん変わってきた時期がありますが、職能型ですと、企業内で運用していくと、結果的に能力が高まるということは、経験年数が長くなれば自動的に能力が高まるので、結果的に年功型になっていったという反省がありまして、そこから私どもの企業でも、かなり職務型に振ってきております。そうしますと、いわゆる非正規であろうが正規であろうが、余り切分けがなく、結果的に処遇しなければならないという形が出てきましたので、このジョブ型正社員というのは、私どもは非常に賛成したいなと思っております。
 社会保障の話がCにありまして、社会保障の未整備をもう少し整備しなければならないということで、実は企業サイドから見ますと、働いている者に対して処遇すべきだという思いが非常に強かったので、社会保障は場合によってはあろうがなかろうが、仕事をしているとか、社会貢献しているということに対しての何らかの対価として差し上げるべきなので、保障は余り要らないのではないかという認識が実はあったのですが、今日、資料を拝見させていただきまして、例えば子ども手当、住宅手当といった意味、いわゆる仕事をしている、していないにかかわらず、ある程度社会に対して最低限のインフラといいますか、そういうものを整備するという意味では、この社会保障という考え方もいいかなとは思いました。単純に、働いていないから何らかの保障をするという考え方で捉えると、少し違和感があったものですが、そこを拝見して理解をさせていただいたという次第です。
○阿部座長 原さん、本田さん、何かありますか。
○原氏 どうもありがとうございました。おっしゃるとおりかなと思います。個別の事例に応じたらそうなのだろうなと思います。
 私自身、研究成果のプレゼンの仕方を間違えたかなとも思ったのですが、その企業が労働者の生産性に等しいだけの賃金を支払っていないことで、一種搾取みたいなことが起こって、その部分で企業の訓練の実施が促進されるということは、私は決して望ましいとは思っていなくて。論文のメッセージとしては、非正社員もスキルがアップして生産性が上がったのであれば、それに見合うような形で処遇がされるような仕組みがないと駄目なのではないかと思っていますので、それは付け加えたいと思います。むしろ、そういう制度が非正規にはないから、こういうことが起こっているのではないかというのが、私のこの論文でのメッセージなのですが、パズルには答えておりません。
○阿部座長 本田さんからは特にありますか。
○本田氏 御支持いただいてとても嬉しく思います。非正規、正規という、身分といっていいような太い線を、どう細くし、間にまたがるような、例えば働いた時間に応じた形の社会保険の負担の仕方であるとか、そこをどうなだらかにしていくかということがすごく大きな課題だと思いますので、御意見を本当にありがたく伺いました。
○谷口委員 私もお三方に一つずつお伺いしたいと思います。お話いただいた順番にお伺いさせていただきます。
 まず田辺さんにお伺いします。13ページの「発見」のところで私もお伺いしたいところがあります。この発見の「定年までの自分を描けない」「自分への期待が表せない」ということで、やはりそうなのだよねと、私もこの点については同感です。そういう結果になるだろうと思います。ただ、これを問題と捉えるかどうかというのは、また別だと思うのです。それはなぜかというと、個人レベルでいえば、激しい経済社会の変化の中で、どうしてもこれは描きづらい今日だろうと思うのです。それが正直な感情というか、意識として、こういう結果になるのだろうと思うのです。むしろ描けないということのほうが普通であって、それを個人の側に「描けないのは問題だ」という設定というのは、私は酷ではないかという感想を持つのですが、その点はどうなのでしょうか。
○田辺氏 おっしゃるとおりで、ここにあえて「発見」と書いたのは、そういう意味なのです。問題ではないです。描けなくなっている、生涯を通してという感覚はないと、私は考えているというのが一つです。
 むしろ「期待が表せない」という発見のほうが、私は問題視としては考えているところがあります。例えば日本企業で管理職研修のときに、「あなたの管理能力は会社の平均以上か以下か」、こういう心理実験ですと、例えばあなたの運動能力はクラスの上か下かでいうと、大体自分の能力は少し水増しで出るのですが、マネジメント能力に対しての欧米の所見を見ると、大体○のほうが多いのですが、日本の企業においては×のほうが多です。そこについては、もしかすると文化差かもしれないです。自分を間引いて見るというのはあるかなとは思うのですが、自分のキャリアを形成していくときに大事なのは、自分の持ち味、取り柄みたいなものは、光の少ない道を歩くときの自分へのカンテラのようなものだとすると、それが持ち切れていないというほうが、問題点として挙げるとすると、解決すべき課題はそちらにあるかなと。
 それは本人が見つけなければいけないのか、他人の支援を得ながらするのかという、その辺が、労働力としての質を上げていく上でも、打っていかなければいけないところかなと思います。その中で大事なのは、他者支援というものを考えていかなければいけないと思っています。
○谷口委員 原さんにお伺いしたいのですが、スライドの9番です。基本的には非正規の教育訓練に対するインセンティブは、内部市場を前提としてこのようにおまとめになられたわけですが、一方、非正規の個人においては、非正規自身、外部市場においては教育訓練のインセンティブはどうなのかという調査、データはお持ちなのでしょうか。
○原氏 外部市場を、何を具体的にイメージされているのかがつかめなかったのですが。
○谷口委員 例えば非正規の方が自己啓発だとか、そういったことについてどれだけ熱心に取り組むかどうかというのは、先ほどの説明の中では、いわゆる教育訓練投資という考え方で、個人がインセンティブとして教育訓練の投資に対するリターンということで、一つインセンティブを説明されましたが、外部市場を前提にしたときに、個人の側で教育訓練投資に対するリターンという点で説明が付くのかどうか、あるいは意識としてどうなのかなということです。
○原氏 転職するということも含めた非正社員の訓練という意味であれば、それも含めてなのですが、スライドの7枚目の(2)-3に書いたのですが、企業内訓練を受講した非正社員の人たちは、同一職種内であれば正社員への転換、他企業への転職も含めて、ただ同一職種だという人も含めては、プラスの効果があるようだということは出ています。その辺については外部労働市場かなと思います。
 自己啓発もパズルなのですが、自己啓発というのも意外と効果が出てこないのです。いろいろやってみているのですが、何で自分がお金を払って時間をかけてやっているのに、全くそれが労働市場のパフォーマンスとして出てこないのか、私もどうしてなのかと思いながら考えているところなのです。自己啓発については、今はそのような感じです。外部労働市場については、この点についてだけは、今、御報告できるということです。
○谷口委員 若い人たちを中心に、資格に熱心な傾向もあるのではないかと私は認識しているのですが、その背景として、自分への教育投資に対するリターンが意識としては相当あるのかなという気がしたのです。それは特定の正社員ではなくて、特定の企業の中の話ではなくて、もちろん異動も前提のときに、当然ながら資格というのは彼らは大きく信じていると思うのですが、どうなのでしょうか。
○原氏 カジュアルな観察であれば、うちの学生もそれを強く信じて、一生懸命資格に走っておりますが、分析してというところは、すみませんが情報は持っていません。資格の分析は阿部先生が以前にされていましたよね。
○阿部座長 資格は効果はありません。前段で自己啓発の話が出ましたが、私は家計経済研究所が調査をしているパネル調査を使って、これは女性だけですが、自己啓発をやっている人はどういう人かを調べてみますと、圧倒的に正社員のほうが多いです。非正規社員の自己啓発というのはほとんどなくて、正社員の方はかなり自己啓発をやっています。ただ、原さんもおっしゃったように、自己啓発がリターンがあるかというと、実は余りなさそうだというのが、私が今やっている分析の中では、そういう形になっています。
○谷口委員 その若い人個人の中で意識として、そのことについての理解度がどれぐらいあるのか。
○阿部座長 期待はあるのでしょうね、期待はあるからやるのでしょうけれども。ヨーロッパの研究ですけれども、能力開発、教育訓練が効果があるかといったときに、先ほど佐藤さんと原さんの間でも議論がありましたが、教育訓練に効果があるのか、それとも教育訓練を受けるという個人に効果があるのかという議論がよくあるのです。どちらかというと個人の資質、受けるというところに効果があるのではないかというのが、結構多いです。そういう意味で、自己啓発がないというのは、やりたいという人はやっているけれども、それは別に効果がなくてもやりたいということなのではないかなと理解しています。
○谷口委員 本田さんにお聞きしたいのですが、7ページです。「仕事に就くのが難しい」というAに対する対処に関してのa-1、提案ということで、私は全く同感なのです。地味でもたしかなニーズのある仕事を興していく、あるいはそれに向けてもらうということです。
 実は私どもが、公共職業訓練の現場に日本版デュアルシステムについてのヒアリング調査をしたときの現場の感想というか、日本版デュアルが今一つ伸び悩んでいる部分は何だろうということで。これは単なるヒアリングですから統計的には何の意味もないのですが、一つの答えが、先ほどの関連ですが、若い人たちは資格に結び付く教育訓練には非常に熱心なのですが、溶接、機械加工、それに類するようなことというのは、資格として直接目に見えて市場で強くアピールできる部分が少ない、そういう受講者側の認識があるようでして、資格への過信が妨げているのではないかというのが、現場の声としてあるのです。
 地味でもたしかなニーズのある仕事にというのは、確かに同感ではあるのですが、一方で若い人たちに関しては、そこのところをどれだけ理解してもらえるか、魅力を感じてもらえるか、ここのところはどうでしょうか。
○本田氏 一括りには言えないのですが、今アクションリサーチのような形で、かなり困難度の高い若者に対する就労支援の現場に入って見ているのですが、若者の様子がみるみる変わっていくのです。どういうことをやっているかというと、ここに「コミュニティビジネス」と書いていますが、非常に高齢者が増えている地域において、例えば買物の支援、弁当の配食といったような、地域ニーズ、困っている人に対して応えるという使命を若者にまず説明し、こういう社会状況にあるから、この仕事はそんなに儲からないけれども絶対に必要だということの説明からしていくと、はっきり若者は変わっていきます。自分は必要とされている、やらなければならないということで、すごく積極的に動いてくれるようになるのです。ですから、そういう実感を若者は求めているのだと思うのです。
 それは、例えば溶接や製造であったとしても、どのような仕事であっても、その仕事の重要さ、使命というものを説いて聞かせて、分かってもらった上でということになれば、伝えることはできるとは思うのです。ただ、それだけの説明がなされているかというと、訓練を実際に提供している場で、とにかく覚えろとか、これだと仕事に就きやすいというような説明しか提示されなかったとすれば、今の若者にとって魅力を感じてもらいにくいものになっているのではないかと思います。
 私は工業高校の中にも入っていますが、工業高校の生徒は、教員、先輩の振るまいによって、必要なものがあれば、ばばっと自分たちで作ってしまえる文化、あるいはそういう行動様式というものに誇りをちゃんと持っているようです。ですから、中身というよりも、その伝え方なのだと思うのです。
○谷口委員 一旦入ってもらえれば、理解してもらえるところは大きくなるのですが、入口のところで、選択してもらえるというところが、相当難しいのではないかと思うのです。
○本田氏 俗っぽいようですが、イメージ戦略のようなものが大事かもしれないです。
○阿部座長 今のことで谷口委員に聞きたいのですが、先ほど田辺さんのプレゼンで、「理屈ではなくて感情で説く」という話があったと思いますが、入口の部分に関して、現場では具体的にはどうなっているのでしょうか。
○谷口委員 訓練を受けてもらえるかどうかというところの選択では、説明し尽くせないと言いますか。
○阿部座長 本田さんがおっしゃったイメージですが、田辺さんがおっしゃったように感情に訴えるというか、理屈ではなくて、やるやらないではなくて、そういうことをおっしゃったような気がするのですが。
○本田氏 私のEQというものについての理解が不十分なのかもしれませんが、余りそれを念頭に置いて言ったわけではないのです。むしろ、ある専門性、割と輪郭の明瞭なスキルや資格というものが、社会の中でどういう位置づけ、意義を持っているかについての知的な説明と理解ということを私自身は考えておりましたので、それを個人のEQに訴えるということを念頭に置いて言ったわけではありません。
○平田委員 お三方に一つずつお願いいたします。まず、田辺さんへなのですが、5ページに「採用はIQでされるが、昇進はEQでされる」とあります。これは先ほども御質問が出たので、もし更にあればということでなのですが、こういうものが導き出された背景の御説明いただければありがたいと思います。というのは、アメリカというのは職務ということで、それをIQと考えていいのか分からないのですが、そういったものが重視されるのかなと思っていたので、非常に意外でしたので、もう少し詳しく教えていただければと思います。
○田辺氏 もともとこういう研究が進んだきっかけというのは、EQという理論体系を世の中に広めたのがダニエル・ゴールマンというジャーナリストがいまして、邦訳だと『EQこころの知能指数』という本が講談社から1996年に出されたのです。その中の一括りに、将来の成功を予測するのにIQは20%、残りの80%はEQが予測するというステートメントが先に書かれてしまったのです。これはどういうことだということで、リサーチャーとかアカデミアの人たちが議論を進めているわけですが、本を書いたダニエル・ゴールマンは、「職務要件などを見ていくとIQ的なところのほうが少ないではないか」というようなところだけで、まずは書いていったのです。この数字は無謀であるというのが、言い出したエール大学のピーター・サロベイたちの見解だったのです。
 だけれどもビジネス界は面白いので、何がパフォーマンスに寄与しているか、説明率として何がいちばん高いのかということの研究に拍車を掛けていくわけです。その中で、例えば楽観的な思考というのはIQなのかEQなのかといわれると、なかなか難しいところがありますが、従来の数的な処理能力や言語的な能力ではないところが、そういうCarrier successを支えているのではないかということをいろいろな形で分析した一つの、これは石油会社のケースですが、そういうものが生まれてきたという。つまり、IQの限界説がポンと出たために、リサーチャーたちがそのあとを追いかけてきたという一つのデータということになります。説明になっているでしょうか。
○平田委員 原さんにお聞きします。スライドの11枚目のジョブ・カード制度のところです。有期実習型訓練について、今のところ有意に効果ありと出ているというお話だったかと思うのですが。
○原氏 有意かどうかは統計的な検証は全くしていなくて、単純に集計してみたら、どうもプラスの効果がありそうだという感じです。
○平田委員 ごめんなさい。では、効果がありそうだというところでなのですが、具体的には、3か月以上6か月以内の企業の中で訓練ということですが、どのような訓練がされていると理解すればいいのでしょうか、例えばというような感じで。
○原氏 職種によってもかなり違いますので、説明がしやすいところでは自動車の修理工場というものも。つい最近、松山にヒアリングに行ってきたのですが、自動車修理にかかわるスキルを同僚から学びながら、詳しいことは忘れてしまったのですが、何かの資格が必要で、今、持っている資格でもう少し上位の資格を取らせないと、将来的にキャリアがぶつかってしまうので取らせたいということも含めて、講習会であったか、予備校にも行かせたり、前職で教育をきちんと受けてこなかったので、ビジネスマナー研修みたいなものを、地元の中小で共同で開催しているようなものに行かせたり。そういうように、中途採用などをイメージするのではなくて、新卒採用の子たちに対する教育訓練をイメージしていただくと、理解しやすいかなというのが、有期実習型訓練だと私は理解しています。
○阿部座長 研修などに行かせる主体はどこになるのですか。
○原氏 企業です。
○阿部座長 訓練を受け入れている企業ですか。
○原氏 そうです。
○阿部座長 これもやったほうがいい、これもやったほうがいいということでですか。
○原氏 はい。企業が訓練プログラムを組んで、全て決めて、行かせるということです。
○平田委員 OJTは有益なのではないかと私も持論として持っているのですが、具体的にどのようなOJTであったらより効果的なのかなと思ったものですから、御質問させていただきました。ありがとうございます。
 本田先生にお聞きします。スライドの7ページ目の「Aに関して」のa-2の部分です。新卒一括採用以外のルートを作ったほうがということで。私は求人広告の会社におりまして、実際に新卒の媒体なども持っておりまして、新卒一括採用に加担している側なのですが、一方で、そこが生み出している歪みというものもあるのではないかと感じていますし、企業として正社員経験のない人を正社員で雇わないということを、すごく見聞きしているので、どうかなと思っています。
 それでなのですが、例えばこういう一括採用という硬直性から企業を離すためには、どのようなアプローチをしたらいいのかという、何かアドバイスや考えがあれば、そこも含めて私も日々の活動もしたいと思っているのですが、よろしくお願いいたします。
○本田氏 どういうやり方があり得るか。新卒一括採用以外のルートに関してはここで書いていますように、サポートステーションであるとか、いろいろなところで実施してくださっていますが、それでもなかなかうまくいかないというのは、例えば図でいうと17枚目のシートを見ていただきますと、新卒一括採用でない形で学校を離れたあと、正社員になればいいというわけではないのですが、正社員に入っていく道というのは、非常に閉ざされてしまうということは、ここからも見えてくるのです。
 努力しているのに、なかなか難しいということになると、そこで、例えば何とかジョブ型の働き方を企業の中から切り出していただいて、それに適した若者をそこに御紹介するというやり方があります。例えば豊中市は、非常に積極的な労働市場政策を独自に進めているようでして、中小企業診断士のような形で企業の中に入りながら、ここをこのようにするともう少し効率的になって、コストを余り増やさないで1人雇えるといったことの診断までされている場合があるのだそうです。そういうことは、どこの自治体、どこの地域でできるわけではないとは思うのですが、仕事を切り出しながら人をつなげていくということが、もしもっと広がっていけばいいことだなとは思います。
○田村委員 若者の教育の中で、スキル、テクニック、マニュアルを教えることは、非常に皆さんも飛び付いてきてやるのですが、我々も非常に苦労しているのは志を教えるということは非常に難しくて、それはスポ魂のような頑張れということを言っているわけではありませんが、どういう高い志を持ちながら続けられるのか。数十年前ならハングリー精神があったので、しがみ付いてもということがあったのかもしれませんが、教育の中で、そういう志を教えるということも視点として必要なのではないかという気がしますが、いかがでしょうか。これが一つです。
 原先生には、IT化が進んで、ルーチンワークが非常に増えてきて、いわゆる創造性のない監視作業のようなものが非常に増えてきたということもあるというのがベースなのですが、前回私もプレゼンさせていただいた中で、流通業に働くパートの人たちの中に2種類あります。一つは専業主婦の方で、子離れしたあとに職場に戻ってこられる方、そして配偶者がかなり高い収入を得られている人たちの主婦パートの方たちは、実はスキルも社会性もあるのだけれども、向上心がない。このままこの仕事で、この金額でずっといられたらいいという感じの人です。それと、一生懸命に働きながらという人が、同じような仕事を同じような賃金システムの中で働いている。ここに本当に見てあげなければいけない若者、正社員になれなかったけれどもそこに一時的に入っている人たち、その人たちのスキルアップがなかなかできていないという問題があると思うのですが、これが同じような人事制度なり、処遇制度の中で動いているということについて、非常に疑問を感じておりまして、何か御意見があったらお聞かせいただきたいと思います。
 本田さんのほうはおっしゃるとおりで、EQは大事だなと思いますが、ショートスパンとロングスパンでいきますと、昔は企業の寿命は30年と言われましたが、今は7年ともたなくなっているときに、企業の経営者がロングスパンでものを考えられない中で、働いている人がそれを見るというのは難しい。そうすると、ショートスパンなりミドルスパンのものが複数提供される世の中があってもいいのではないかという気がいたしますが、いかがでしょうか。
○阿部座長 本田さんからお願いできますか。
○本田氏 私は志とかハングリー精神というのは、今の若者の中にもちゃんとあると思っています。ただ、過去のものとは質が違っている可能性はあります。ですので、若者たちの志への希求に合致するような社会的な働く場やキャリアをどう差し出していけるかということが重要かなと思っています。
○原氏 田村さんのおっしゃるとおりだとしか御返事がないのですが、一緒くたに分析していいとは思わないような人たちが、今、一緒くたになって分析されて、結果が出ているという感じなのです。その辺をきちんと識別して、結果を出していく、分析をしていく必要性はあると思いますし、きちんと分けて議論していく必要は私もあると思っています。
○田辺氏 まず、本田先生への御質問の中に「志」とありまして、まさしく、私どもワールドワイドのEQ普及の活動の中に、EQから少し離れているのですが、ノーブルゴールを追及するかという項目をずっと測っているのです。まさしく志とか、大義ということです。
 日本は母集団がまだ少ないので調査しているのですが、ノーブルゴールを追及する意識が高いという意識でいうと、いろいろな民族の中で中国のマネジメントは高いのです。アメリカのマネジメントはマネージャーのクラスは低いのですが、エグゼクティブレベルになると、アメリカのエグゼクティブはものすごく高いところにあります。面白い結果があるのです。中国のエグゼクティブクラスになると、余りないと。何なのだろうという中で、日本の人たちのデータが集まってきますので、ノーブルゴールを追及する意識というのはどのぐらいあるのかなと。今、見ている範囲では、悲しいかな、志指標というのがあるのですが、それほど高くないというものです。
 その中で先ほどの質問ですが、就業、就社という意味では、ショートスパンでもいいと思うのですが、キャリアで考えたときに、少し長く見るという目は本当に必要ないのかということでしょうね。企業がショートスパンだから、企業の中でのキャリアライフがどうあるかというのは、環境に応じてあってもいいかなと思うのですが、例えば金融マンになった志は一体何なのか、行政官になったというのはどういうことなのかということも、ゆっくりと考えていくというのもある。職業論とか何とかよりも、観というのでしょうか、観るという世界の育みが足りないような気がしているので、そういうものをどのように働く人に植え付けていくか、まさしくデータでよく出る職業観のほうですが、その見方がこれから問われていくのかなと思っています。そのためにも、1人で見つけられない人は、社会的なアシストがあってもいいのかなといった意味で、いろいろまた点検したいと思います。
 それとEQ的に最後に言いたいのですが、キーワードの一つにフレンドシップということを是非提言したいと思うのです。友だちはこちらから作るものであって、向こうがなってくれるものではないという覚悟が、今の働き手にどのぐらいあるのかなというのは、何かというと、グローバルビジネスマンを作ってくれという要請が多い中で、必須は自らフレンドシップを発揮できることだといつも言っているのです。これは、それこそ従来のIQの領域では測れない能力かなと思っております。文化の違う人と折り合っていけるという意味です。これは非正規の方たちも、どうやってフレンドシップ能力を高めるかというのは、一つ考える領域でもあるかなと思っています。
○和泉委員 それぞれにお聞きしたいのですが、時間もありますので、二つだけお伺いします。
 本田先生の「よりそい型の包括支援」「居場所」・「中間的就労機会の拡充」のところが、すごく大切なのかなと思ったので、もう少し具体的に、例えばこういうことができるのではないかというイメージがあれば、教えていただけたらと思っています。
 もう一つは、大学とか、教育機関が変わっていかなければいけないのではないかということです。これはこの回とは違う委員会があるということなので、今日深く掘り下げなくてもいいのかもしれませんが、よく分からなかったのは、ジョブ型を目指していくというのは私も同感なのですが、企業のほうが、正社員に関してはメンバーシップ型がまだ強いとすると、当然そちらに働き掛けていって何かを変えていくということと両立してやっていくのでしょうが、この委員会が、仮にすごく急いで対策を上げるような効果を考えるということでいくと、そこを待ってもいられません。だとするとメンバーシップ型で、採用基準を持っている企業の方たちに雇われるにはどうしたらいいかということになるのですが、何となく行動様式、対人能力が開発されることが大切なのかなと思ったのですが、それはいかがなのでしょうか。
 これに合わせて、阿部座長にもお伺いしたいのは、もし資格に意味がないとすると、特にジョブ型を進めて、最終的に企業にも変わっていただいて、能力やスキルみたいなものをアピールして雇われるのに、就業したことのない若い人たちの能力やスキルを、代わりに何で測るのかというのが分かりません更に言うと、私自身も大人になってみて分かったのですが、学生のときや就職したての頃には自分ができると思っていたことが、プロから見るとどれほどのものでもないという水準であることは多々あることで、あとから開発されていくこともすごくあると思うのです。そうすると、特に若い人の能力開発といったときに何を能力として見ていくか、それが分からないと、学校でもどのように開発したらいいかとか、この委員会でどういう結論を出していくのかが分からないと思います。
 最後に感想です。本田先生がおっしゃっていたCの、社会保障のところであったのですが、今、入口の段階で非正規の方たちがすごく多い以上、これはここで言っても仕方がないのかもしれませんが、雇用保険だけで何とかするというのは限界があるのではないかと思い、雇用保険に加入している人だけを訓練していくという仕組自体から考えていかないと、難しいのではないかということを、発表を聞いていて、より一層強く思いました。教えていただけることがありましたら、教えてください。
○本田氏 よりそい型などは説明し始めると、かなり質的な、定性的なことですので、長くなってしまうのですが。
○和泉委員 何を読めば分かるかでもいいのですが。
○本田氏 例えば内閣府がモデル事業でやっていた、パーソナルサポートサービスについては報告書も出ていますし、よりそい型支援は、生活支援戦略であるとか、各地から報告はいろいろと出てきているのです。
 私が張り付いているところは、ワーカーズコープなのですが、ここは上から目線でなく、若者を対等な仲間とみなし、仲間だから絶対に一緒にやっていくというスタンスで、非常に長期的に付き合っていて、かつ仕事を若者たちに作ってもらう、自分たちで興してもらうというところが最終目標で、非常に面白いと思いながら見ています。でも、まだ点々という形でしか始まっていなくて、どのように線や面に広げていくかということが、すごく難しいことだと思っています。雇用保険だけでは何とかならないというのは、そのとおりだと思います。
○和泉委員 先ほど先生がおっしゃっていたのをお伺いしていても、能力、スキル、資格と言いながらも、一方で、つながることの大切さ、仲間を作っていく、そういうことも含めて、教育現場も変わっていかなければいけないということですよね。最近、ダブルスクールとか、大学が資格を取るような、職業訓練校的なメニューをすごく増やしていることはとても気になっています。本当に雇われる能力というのは、もっと深く思考する、探求する、長くものを続けるということも含めて能力だと思うのですが、先生がおっしゃっていた学校側のメニューも変えていかなければいけないというのは、そのように広い意味で捉えていいですか。
○本田氏 学校側のメニューというのは、例えばカリキュラム全体を通して何を学んだかという形でも証明できると思いますし、特に小つぶな資格で証明できるような、寸断されたタスクの力を言っているわけではないのです。特定の分野に関して、どれぐらいの深度、あるいはどれぐらい本人の発意も発揮し、かつ世の中に食い込んだかということを証明するのは、非常に難しいのですが、例えば卒業論文で何をやったかということを聞いていただくだけでも、推測はできると思うのです。そういうこともしていただけない場合が多いというのが、今の新卒一括採用なのです。
○和泉委員 それが先ほどお伺いしたことに少し関係するかもしれません。ありがとうございました。
○小野委員 興味深い御報告で、非常に勉強させていただきました。本田さんにちょっと深くお話を伺いたいのですが、Aに関しての4つというのは、非常にポイントを得ていらっしゃって、まさしくこういうことを考えていかなければいけないのだろうなということを思っております。特にa-1に関しては、読むと非常に曖昧な感じなのですが、具体的なお話が先ほどあったと思うのですが、例えば地域と絡めたときに、どういう施策が考えられるのかということと、非正規あるいは登録型派遣のような形で、半失業というような形になっている人たちを、どのようにこういうコミュニティビジネスというか、地域の雇用の中に入れ込んでいけるのかというのが、非常に悩ましい部分でもありまして、何か具体的なイメージや例などを御存じでしたら、教えていただければと思います。それは1から4に関しての全てに関してです。非常に難しい質問で恐縮なのですが、そういうところです。
 原さんに一つ質問なのですが、今後有期法制が変わって、5年経ったら無期化になるということがあると思うのです。無期化になった場合は、無期化になるような人は能力開発は重点的に行われるようになっていくのかということと、今後の問題として、能力開発をやっていかれたら、今は賃金は上がっていないけれども、賃金は上がる可能性が考えられるのかについて、お話を伺いたいと思います。
○本田氏 コミュニティビジネスに半就労的な人をどう入れていけるかということなのですが、私が今入っているということもあって、ワーカーズコープの例をすぐに思い出してしまうのですが、スライドの38にワーカーズコープのFEC自給圏というのがあって、Food Energy Careを統合的に地域に提供するために何ができるかという構想があります。まだ構想レベルであって、そんなに具体化しているわけではないのですが。
 今、私が見ている神奈川のワーカーズコープで、求職者支援制度の前の基金訓練のときに非常に面白い訓練をやっていて、このFECにかかわるようなケア、清掃、調理、いろいろな地域のニーズを満たすための訓練を統合的にやって、最後にそれをビジネスモデル化していくための、興すための訓練までやっていたのです。実際にそこから何人か育っているのです。訓練を受けていた人たちの中から数チームできて、例えば自分たちでデイケアの場を作ってみたり、あるいは米粉を使ったケーキとカフェを一体的に提供しようとしているような集団も育っているのです。
 ですから、この基金訓練に来ていた人というのは、かなり厳しい就労状態にあった人たちですから、おっしゃった半就労という人に該当するのですが、そういう人たちにこういう包括的な図柄と、個別のスキルをきちんと提供したときに動き始めていたりする場合もあるわけです。
 ただ、この基金訓練は求職者支援制度の枠組みからすると少しずれている、つまり柔軟すぎるのです。求職者支援制度になったときに、かなりもっと枠付けが強くなってしまって、基準を満たさなくなったので、もう廃止になってしまったというつらい経験もあるのです。訓練をただ緩くすると、いくらでも詐欺状態というのが罷り通ってしまうので難しいのですが、ちゃんとアウトプットは管理しながらも、内容に関しては柔軟性、自由度を高くした公的訓練をもっと充実させていけば、地域ニーズを担う人材というのは育てられるのではないかということを楽観的に考えているのですが。
○小野委員 その場合に、我々はどうしても雇用ということを考えてしまって、雇われるというほうを考えてしまうのですが、雇用ではなくて、地域にある意味で自営みたいな形で、自分で何か仕事をやっていくという能力を身につけさせるというほうが多いですか。
○本田氏 同じ訓練プログラムから雇用にいった人もいます。何人かは残って、コープという形で、雇われる関係ではなくて、全員が話し合って決めていくという形の事業を始めましたが、別にそれはそういうことだけに有効なわけではなくて、雇い雇われるという関係のほうが向いている方は、そちらにいっていただければいいことだと思うのです。ただ、ないところに仕事を捻り出していくようなことがこれからもっと必要になってくるとすれば、仕事を創っていくためのノウハウが訓練に埋め込まれていることは非常に貴重なことかなと思っています。
○原氏 非常に難しい質問だと思いましたし、私は占い師ではないので、ちょっとよく分からないというのが正直なところなのですが。今の分析結果が示しているところでは、企業が5年後に正社員として転換させるのであれば増えていくだろうし、雇い止める腹積もりで今いるならば、そういう人たちにはしていかないだろうなと思います。賃金についても、正社員に転換すれば、長い将来で見たときは上がっていく可能性はあるのかなと思います。
○阿部座長 時間を過ぎてしまいまして、大変申し訳ありませんでした。まだいろいろと言い尽くせないところもおありかと思いますが、本日はこの辺りで終了したいと思います。
 本日の議事につきましては、非公開に該当する特段の理由もありませんので、議事録は公開としたいと思いますが、いかがでしょうか。
(異議なし)
○阿部座長 そのように取り扱わせていただきます。次回の日程等について事務局からお願いいたします。
○三上雇用支援企画官 次回の検討会は今月の下旬を予定しています。また調整の上、改めて御連絡させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
○阿部座長 時間を超過して大変申し訳ございませんでした。これをもちまして本日の第3回非正規労働者の能力開発抜本強化に関する検討会は終了させていただきます。本日もお忙しい中ありがとうございました。また、今日お三方の先生には、お忙しい中おでましいただきまして、本当にありがとうございました。以上で終了させていただきます。


(了)

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