ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 健康局が実施する検討会等> 原爆症認定制度の在り方に関する検討会> 第8回原爆症認定制度の在り方に関する検討会議事録




2012年1月24日 第8回原爆症認定制度の在り方に関する検討会議事録

健康局総務課

○日時

平成24年1月24日(火) 15:00~17:00


○場所

中央合同庁舎第5号館 厚生労働省 省議室(9階)


○議題

1.開会

2.議事

(1)行政認定と司法判断の乖離について
(2)その他

3.閉会

○議事

○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 開会に先立ちまして、傍聴者の方におかれましては、お手元にお配りしております「傍聴される皆様への留意事項」をお守りくださいますようお願いを申し上げます。
 初めに、冒頭ですが、事務局から御報告を申し上げます。
 このたび、検討会の座長を務めておられました森亘委員より、体調の都合があるので座長を辞任したいとの申出がありました。
 座長につきましては、厚生労働大臣の指名によることとされていますので、今回から大臣の指名によりまして、神野直彦委員に座長を、長瀧重信委員に座長代理をお願いすることとし、神野委員、長瀧委員には、その旨、御承知いただいたところでございます。
 なお、森亘委員には、引き続き検討会委員として御参加いただくこととなっておりますので、皆様、御承知いただきますよう、よろしくお願いいたします。
 それでは、これ以降の進行は神野座長にお願いいたします。
○神野座長 それでは、ただいまから、第8回になりますが、「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」を開催させていただきます。
 既に御紹介いただきましたように、座長を務めざるを得なくなりました。私、最初に申し上げましたように門外漢でございますけれども、森先生にずっとお世話になっておりました。財政学を学んできた者として、森先生のお助けに、少しでも役に立てばということで、座長代理を引き受けてまいりましたけれども、森座長のお体調がお悪くて、とてもお引き止めするような状況ではございません。これまでのこの委員会の継続性から考えて、座長を引き受けざるを得ないかなと思いまして、引き受けさせていただきました。森委員には引き続き御指導を仰げるということで、今回も電話ではございますが、一応、先生の御指示をお聞きしながら進めさせていただこうと思っております。
 また、長瀧委員を座長代理として、フォロー体制は万全であるからということでございますので、委員には御協力をちょうだいできればと思います。
 以上のような事情がございますので、委員の皆様方には、これまで以上の御指導と、また、事務局には、これまで以上の御協力をお願いする次第でございます。
 初めに、事務局から、委員の出席状況の報告と、資料の確認をお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします。
○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 本日の出席状況でございますが、佐々木委員、高橋進委員、森委員、山崎委員から欠席との御連絡をいただいております。
 次に、お手元の資料について、御確認をさせていただきたいと思います。
 議事次第、資料一覧に続きまして、資料1「第7回検討会における主な発言」
 資料2「行政認定と司法判断の乖離についての留意点(これまでの議論を基にした整理)」
 資料3「原爆症認定の考え方」
 資料4「原爆症認定申請に係る処分状況について(平成22年4月~23年3月審査分)」
 資料5「田中委員提出資料」でございます。
 資料に不足、落丁がございましたら、事務局までお願いいたします。
○神野座長 どうもありがとうございました。
 前回から、森先生のお言葉で、考える段階に移行して、この検討会は議論を進めることにしておりましたが、前回の検討会でも議論の焦点が行政認定と司法判断との乖離の問題に絞られて展開されましたので、本日の検討会は、引き続き行政認定と司法判断の乖離の問題を中心にしながら議論を深めたいと考えております。
 本日、これまでの議論を基にした資料と、第7回の検討会で宿題となっておりました資料について、事務局に準備をしていただいております。こうした資料につきまして、事務局から御説明いただければと思いますので、よろしくお願いします。
○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 それでは、説明をさせていただきます。まず、資料1をごらんください。前回、第7回の検討会における主な発言を事務局の責任でまとめたものでございます。
 1ページの上から紹介させていただきます。一番上は、つくるときの尺度、物差しということについて、例えば、科学的知見を最重要に置くのか、それとも司法判断で決まったものはもうそれでいいと考えるのか、そういうところを詰めていくべきという御発言。
 続きまして、科学的なというところは議論があるにしても、個別の事情を勘案して判断していくところについては、歩み寄りの余地があるのではないかという御発言。
 それから、司法判断に対して、行政として却下についての判断の根拠を提示することができるかという御発言。
 それから、広く救うという精神が最高裁でも出ているのだから、その方向へ話を持っていってもらいたいという御発言。
 その次は、原爆で何が起こったのかを科学という共通の言葉で世界に知らせることが大事である。そのことと被爆者の補償をどうするかということとは相容れない部分がある。科学で不確実なことを行政、司法、補償でどうするのかといった御発言。
 それから、行政判断と司法判断の乖離について、まず、乖離をどのように考えていくかをこの委員会の中で俎上に上げて議論していくことが大事という御発言。
 それから、司法判断と行政判断とで違いが出てきている1つのポイントは、科学的知見を司法がどういう厳密性において考えるかということにある。科学に限界があるにしろ、原爆症認定制度の中に科学的な知見を全く捨てていいかは大きな論点になる。司法判断にそのまま合わせるというのは、行政と司法との在り方として問題ではないかという御発言がございました。
 2ページでございます。上から、基本的には科学的な判断ということで整理していくべきだと思うが、明確な結論を出し得ない部分について、行政認定と司法判断に差が出ているということだろうと思う。行政認定と司法判断の差を埋める作業をしていかなければならないという御発言。
 その次は、最初で一番重要な物差しは科学的知見だと思う。科学的知見を捨ててしまうのは根本を見失うことになるという御発言。
 その次は、一人の患者さんが肺がんの患者さんだったとして、その方の原因については、その方を調べても、今の医学のレベルではわからない。今は、ある範囲の人たちは、被爆と関係のある病気にかかれば、起因性があるということで行政は認定しているという御発言。
 その次は、司法判断と行政判断とでは手法の違いがあって、多少そこで乖離が出てくるのはやむを得ない。ただ、司法判断で特定の傾向が出てくれば、取り入れざるを得ないだろうと思う。ある種の合理的な流れの中に入っている判決と、そこから外れている判決とを取捨選択して判断していくことが重要ではないか。その際、給付の在り方も同時に見直すのが妥当ではないかという御発言。
 司法判断の方が疾患を広く認定している。それを科学的に起因するという言葉をずっと使っていくのかどうか。科学的に不確実なところを埋めるのは、社会、経済、倫理、愛情ではないかという御発言。
 疫学的に明らかに被爆と関係があるという病気にかかっていて、しかも被爆したという履歴があれば被爆者として認定しようというのが今までの科学に基づいた認定の方法だったと思う。ただ、病気が疫学的に十分に認識されていないものが出てきたときに判断が迷う、動くということではないかという御発言。
 それから、国の財政出動を伴うことを考えたときに、客観性の担保が必要であるという御発言がございました。
 それから、3ページでございます。上からです。21年度、22年度の却下件数が高いことについて、これは御質問ということかと思いますが、御発言がございました。
 それから、特にがんでない疾患で非常に却下率が高い理由を示してほしいという御発言。
 それから、一般的な急性症状と放射線あるいは被爆距離との関係がどの程度説明できるのかという御発言。
 それから、行政認定において残留放射線は考慮されていないが、一定の配慮をしなければいけないし、可能な限り調べられることは調べることが大前提でなければいけないと思うという御発言。
 まずは科学的知見に基づいて少しでも歩み寄っていただければありがたい。60年前の事実の確認が困難な中、どんなふうに本当に困っている被爆者を救済できるかということを視野に入れて検討いただきたいという御発言がありました。
 こちらは事務局の責任でまとめたものですので、抜粋等、少しさせていただいております。
 続きまして、資料2をごらんいただきたいと思います。資料2は、行政認定と司法判断の乖離についての留意点につきまして、これまでの議論を基にした整理ペーパーでございます。大きく分けまして、1として「行政認定、司法判断と科学的研究との関係」、2といたしまして「これまでの議論を基にした整理(検討の視点)」という形でまとめております。2枚紙になりますけれども、本日の議論のポイントとなるペーパーですので、読ませていただきたいと思います。
「1.行政認定、司法判断と科学的研究との関係
 科学的な研究には、研究者個人の責任で研究をする段階、それを発表する段階、そして様々な検証を経て、最終的に科学者の合意が形成される段階がある。放射線の分野では、科学的に厳密な検証を行い、国際的な合意を確立するための枠組として、国連科学委員会(UNSCEAR)があり、そこでなされた合意を踏まえて、放射線防護基準の考え方を勧告する国際組織である国際放射線防護委員会(ICRP)がある。これらは、各国における放射線防護基準の基礎となっている。行政認定も司法判断も科学的な研究を参考にはしている。
 一方、司法は法的な判断をする場であり、科学的な真実を究明する場ではない。また、自然科学による知見だけがすべてを決する構造にはなっていない。科学的知見について両説ある場合には両説あるものとして訴訟手続上の前提とせざるを得ず、科学的知見によって結着がつけられない場合であっても、それをもって「因果関係なし」とすることはできない。
 行政認定はより科学的なベースでの判断であり、現在、科学者等による医療分科会において、「新しい審査の方針」に基づき、原爆症認定審査が行われている。「新しい審査の方針」は、原爆症認定集団訴訟における敗訴判決を経て、当時の与党PTの提言を基に、厳密な科学的知見にこだわらず、より幅広く被爆者救済の立場に建ったものとして、策定・改定されたものである。
2.これまでの議論を基にした整理(検討の視点)
(1)科学的知見に基づく判断について
 1科学的知見を基本に原爆症認定を行うこと自体は合理性があるのではないか。
 2科学的知見は日々発展するものであり、現在は国際的に合意された科学的知見ではないものが、将来、合意された知見になる可能性があることや、放射線によって生じうるとされるがん、白血病、白内障といった疾病は、加齢や生活習慣で誰もが罹患しうる疾病のため、放射線による影響とこうした影響を厳密に切り分けるのが非常に難しいことなどを考えると、厳密な科学的知見に基づく証明のみをもって放射線起因性を判断していくのでは十分とは言えないのではないか。
 3原爆の科学は科学として国際的に正しく発信されるべきであるから、日本固有の司法、行政の問題が科学に影響を与えないこと、科学に限界があることを前提とした行政認定の在り方を考えるべきではないか。
(2)司法判断について
 司法判断については、証拠を総合検討して個々の判断で救済しているものであり、個々の判断は個別事例として存在していること、また、司法判断は基本的には裁判官の自由心証主義によっており、判決相互間でも判断が分かれていることから、個別の司法判断を行政認定として一般化することはできないのではないか。
(3)議論すべき点
 科学的知見に基づく判断と司法判断との双方に限界があることを踏まえ、行政認定はどのような立場に立って行うべきか。」
 読み上げさせていただきましたが、こちらが本日の議論のポイントになるペーパーでございます。
 それから、ちょっと分厚い資料で恐縮ですが、続きまして、資料3「原爆症認定の考え方」という資料をごらんいただきたいと思います。こちらは、前回の検討会において、行政認定における放射線起因性の判断方法、あるいは医学的な判断についての基礎データであったり、一般的な急性症状と放射線との科学的な関係などについて御質問いただきましたので、これらについて、事務局で資料をとりまとめたものでございます。
 まず、おめくりいただいて、「1 放射線の健康影響に関する一般的な科学的知見について」をまとめたものでございます。
 2ページをおめくりいただきたいと思います。2ページは「原子爆弾により生ずる放射線の種類」でございます。原爆の放射線には、原爆の爆発の際に放出されます初期放射線と残留放射線がございます。残留放射線につきましては、誘導放射線、これは初期放射線の中性子が地面や建物に当たって、それらの物質を放射化したことによって生じるものと、もう一つは、放射性降下物として降ってきたものによる放射線とがございます。
 1枚おめくりいただいて、3ページです。3ページは、今、申し上げた中で、DS02という、これは広島、長崎の原爆被爆者の個人被曝線量を推定するためのシステムでして、放射線影響研究所が行う被爆者の研究の線量評価に用いられているものです。原爆の初期放射線による被曝線量を推定したものが下のグラフでございます。左のグラフと右のグラフで目盛りの取り方を変えておりますけれども、被曝線量につきましては、横軸が距離になっていますが、爆心地からの距離とともに急激に被曝線量が減衰していくとされております。右の方のグラフの囲みに書いていますが、爆心地から2.5キロメートルの地点での線量、広島で0.0126Gy、長崎で0.0228Gyとされております。
 4ページは「誘導放射線について」でございます。誘導放射線につきましては、時間とともに急速に減衰をいたしまして、爆心地からの距離とともに速やかに減少するとされております。
 例えば、爆心地に原爆投下直後から無限時間居続けたと仮定した場合の積算線量が広島で1.2Gy、長崎で0.57Gyとなっておりますが、爆心地に1日後に入って無限時間居続けたと仮定した場合については、広島で0.19Gy、長崎で0.055Gyまで減少するとされております。また、爆心地から1キロメートル離れた状態ですと、広島で0.0039Gy、長崎で0.0014Gyということで、それぞれ300分の1、400分の1になるとされております。
 5ページをお開きください。5ページは「放射性降下物による放射線量の検討」でございます。これは、これまでの研究の結果ということで、知見を挙げております。1つは、放射性降下物について、これは爆心地から約3,000mの距離で、広島では西方向、長崎では東方向に降下したということで、「黒い雨」が降ったということが報告をされています。
 長崎では西山地区、広島では己斐・高須地区に降下したことが知られております。
 次に、DS86と書いていますが、これは日米で開発した線量評価システムでございます。DS86では、放射性降下物による被曝線量の推定を行っていまして、その結果として、累積被曝線量ということで、西山地区で12~24ラド(約120~240mGy)、己斐・高須地区で0.6~2ラド(6~20mGy)とされています。
 また、西山地区の住民の方に、セシウム137からの内部被曝線量の測定をホールボディーカウンターを用いて行われております。その結果につきましては、1945年から1985年までの40年間の内部被曝線量が、男性で10mレム、女性で8mレム(およそ0.1mGy、0.08mGy)とされております。
 それから、6ページは「日常生活で受ける放射線」について示したものでございます。シーベルトであらわしていますが、原爆と比較する場合、シーベルトというのはGyにほぼ相当いたしますので、そのように読んでいただければと存じます。
 左の方に自然放射線とありますが、日常生活で人は放射線を受けておりますので、宇宙であるとか、あるいは大地から出ている自然放射線で、世界平均で年間2.4ミリシーベルトを被曝しています。
 また、右の方に人工放射線とありますが、健康診断、あるいは医療行為等で人工放射線を利用することとしております。胃のレントゲン写真、X線の写真を撮ると0.6ミリシーベルト。それから、胸部CTスキャン1回で6.9ミリシーベルトを被曝するということでございます。
 ちなみに、一般線量限度の目安ということで、年間1ミリシーベルトとされております。
 それから、7ページでございます。7ページは「放射線の健康影響に関する国際的な合意の仕組み」でございます。放射線の分野におきましては、国際的な合意、具体的には、ここにあります国連科学委員会の報告書であるとか、国際放射線防護委員会の報告を踏まえまして、国ごとに放射線防護基準が策定されているという流れになっております。
 それから、8ページ。これはまた別の話ですが、「確定的影響と確率的影響」についての資料です。放射線の人体への影響につきましては、大きく分けて確率的影響と確定的影響がございます。
 囲みのところに書いていますが、確率的影響は、放射線による影響の起こる確率が線量の関数となっているということで、すなわち被曝線量が増えると影響の起こる確率が線量的に増加していくということで、これはがんなどが挙げられます。
 また、確定的影響につきましては、しきい線量以下の被曝では症状や影響が検出されないが、しきい線量を超えて被曝すると、線量の増加とともに障害の発生率が増加する、症状の程度も重くなると考えられている影響です。主な影響としては、白内障、急性放射線症候群等が挙げられます。
 9ページからは「2.急性放射線症候群(急性症状)」についての資料でございます。
 10ページは、放射線の量と、健康障害が起きた場合の症状が書かれた資料になります。右の急性障害のところを見ていただきますと、下の方は日常的に医療等で使っている放射線でございます。実際に臨床症状が出てくる、リンパ球一時的減少と書いてあるところが0.5Gyとありますので、おおむね500ミリシーベルトというところになります。それ以上になると、更に非常に深刻な放射線障害の問題が出てくるとされております。
 11ページは「急性放射線症候群の時間的推移」を示したものでございます。放射線の障害につきましては、時間的な経緯をたどって生じるとされております。ここでは1Gyを超す急性被曝を全身に受けるということで、最初に前駆期という時期があって、吐き気、嘔吐、下痢といった症状が出てまいります。それがやがておさまり、何の症状もない潜伏期というところに入るわけですが、潜伏期を経て、急性期の症状が出てくるということでございます。急性期の症状として、血液・骨髄障害であるとか、皮膚障害、消化管障害等々が挙げられております。
 それから、12ページは「急性放射線症候群の前駆症状」をもう少し細かく見たものでございます。前駆期の症状のあらわれ方は線量に依存しておりまして、線量が高いと症状が早く、また重いという傾向になってまいります。ここで挙げております症状の中で、例えば、嘔吐を見ていただくと、1~2Gyで言うと、2時間以後に10~50%の頻度で出てくるとされております。一方で、その下の下痢に関しては、4Gy以上の被曝がないと発症しない。その場合も3~8時間の経過を経て発症するということでございます。
 それから、13ページは「急性放射線症候群の潜伏期、発症期」と書かれた資料になります。こちらは、線量区分ごとの血液の変化であるとか、あるいは臨床症状の変化が示されたものになります。こちらにつきましても、線量が高くなるにつれまして、具体的な臨床症状が強く出てくることがわかるかと思います。
 なお、少し説明を補足させていただきたいと思いますが、ここで幾つかの症状が出ていますが、例えば、下痢があったから、これだけの線量を受けたということではございません。例えば、生水を飲んだとか、衛生状態の悪い中で移動したという中で下痢をすることも考えられるわけです。ここに書いてあるのは、一定の被曝線量があれば、それによって急性症状が出てくると、そういうことをあらわした資料ということでございます。
 それから、14ページ以降は「3.長期的影響:疾病と放射線との関係について」という資料でございます。
 15ページ以降は「放射線によるがんの発生」リスクについて示しております。まず、15ページは、国連科学委員会2010年報告になりますが、放射線量が増えるとがん死のリスクが増加する。ただし、100~200mGy未満のリスクは統計学的に有意でないといった報告がされております。
 16ページは、それを臓器ごとに示したものです。臓器によって、放射線により誘導されるがんのリスクはかなり異なるとされております。資料の中で言うと、全固形がんの過剰相対リスクは0を超えておりまして、0.5の少し手前で線が引かれていると思います。これは、臓器ごとに科学的に見るとリスクが異なるという結果になっております。
 それから、17ページは「放射線によるがんの発生」を年齢で見たときのものでございます。被爆時年齢が高くなるほど、過剰相対リスクは小さくなるといった報告がなされております。
 それから、18ページは「放射線によるがん以外の疾患の発生」について示したものです。先ほど確定的影響について説明をいたしましたけれども、放射線被曝の量があるしきい値を超えると放射線障害が発生するというものとして、ここに挙げています白内障であるとか、あるいは不妊などの影響がこれに当たるとされております。
 ここまでが科学的な知見の話でして、19ページ以降が「4.原爆症認定審査における判断について(これまでの経緯と現状)」を示した資料になります。
 20ページは、平成13~20年まで、現在の新しい審査の方針が導入される前に用いられていた旧審査の方針による認定の仕組みを示したものです。旧審査の方針では、放射線起因性の判断につきまして、原因確率及びしきい値を目安として、疾病の放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断しておりました。
 原因確率というのは、疾病の発生が、原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率のことでして、がん、白血病などに適用しておりますが、原因確率が50%以上であれば一定の健康影響を推定し、10%未満であれば可能性が低いものと推定しておりました。また、申請者の既往歴、環境因子、生活歴等も総合的に勘案して個別に判断するとされておりました。
 また、一定の被曝線量以上の放射線を被曝しなければ疾病等が発生しない値ということで、確定的影響の疾患、例えば、放射線白内障につきましては、しきい値を目安として判断することとされておりました。
 また、原因確率、しきい値が設けられていない疾病につきましては、申請者の被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を勘案して個別に判断しているということでございます。
 今、申し上げた原因確率につきましては、21ページに参考ということで、1つの例として、白血病の原因確率の表をお示ししております。これは、縦軸に被曝時年齢、横軸に被曝線量ということで、それを組み合わせることによって被曝の発症に原爆の放射線が寄与した確率を幾らにするかということを示していると、こういったことで計算をされたということでございます。
 22ページは「原爆症認定制度に関する経緯」を示したものです。少し経緯を遡って申し上げますと、平成12年に松谷訴訟に対する最高裁判決が出たことを受けまして、平成13年に、今、申し上げた旧審査の方針による審査が開始されました。
 その後、集団訴訟が提起され、国が一部、または全部敗訴するという判決が出されたことを受けて、認定基準の見直しの議論が行われたというのが平成19年になります。これは2つございまして、1つは、左側に健康局長の下設置された「原爆症認定の在り方に関する検討会」による報告とりまとめがありました。もう一つは、右の方にありますけれども、当時の与党プロジェクトチーム、与党PTより、原爆症認定問題に関する提言がとりまとめられたというものでございます。
 結果といたしまして、平成20年に、与党PTの提言の内容を踏まえた形で「新しい審査の方針」による審査が開始されました。また、その後、平成20年5月30日、甲状腺機能低下症等の放射線起因性を認める、これは大阪高裁の判決になります。それから、与党PTからも、更に疾患を追加するという提言がなされたことがございまして、こうした与党PTの提言に基づきまして、肝機能障害、甲状腺機能低下症の追加の検討を開始し、平成21年に疾患を追加したということで、「新しい審査の方針」を改定したという経緯となっております。
 23ページは、今、申し上げました、平成19年に健康局長の下に設置されておりました検討会の報告について示したものでございます。一言で申し上げると、この検討会の報告では、原因確率を用いることを前提に、審査の弾力化であるとか、あるいは迅速化を図るというものを内容としております。
 一方で、24ページになりますが、これは同じ時期に、平成19年12月にとりまとめられた与党PTの提言について示したものです。こちらは、一言で申し上げると、一定の被爆状況、対象疾患を挙げた上で、放射線起因性が認められるものについては対象とすべきという内容でございます。
 先ほど申し上げましたとおり、与党PTからの提言を踏まえた形で、25ページになりますけれども、平成20年の3月に新しい審査の方針ということで策定をされたということでございます。この内容につきましては、何度か御説明いたしておりますが、積極的に認定する範囲ということで、1つは、被爆状況として、爆心地から3.5キロメートル以内とか、あるいは100時間以内に2キロメートル以内に入市したといった条件を満たすこと、もう一つは、ここに掲げた7つの疾病に罹患している場合に積極的に認定するとされております。
 また、右側に総合的に判断とありますけれども、積極的認定範囲に該当しないものについて、申請者の被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して判断していくということでございます。
 なお、ここで挙げた1~7の疾病のうち、6の放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症、7の放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変につきましては、平成21年の6月に新しい審査の方針が改定されまして、それによって追加されたという経緯がございます。
 26ページは、原爆症認定の考え方、特に積極的に認定する範囲について示したものでございます。ここでは、積極的に認定する範囲ということで、被爆状況の3つの条件のうち、いずれかに当てはまるという条件を満たした方について、疾病の判断をどのような考え方で行っているかということを図示しています。
 赤い点線と青い点線が引かれていると思いますが、赤い点線で囲んだ部分、がん、白血病、副甲状腺機能亢進症につきましては、他に原因があることが明らかなものを除き、疾病の状態にあることが確認されれば放射線起因性を認めるというのが基本的な考え方になっております。
 一方で、青い点線で囲んだ部分、放射線白内障、放射線起因性が認められる心筋梗塞、放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症、放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変につきましては、科学的知見や年齢、リスクファクター、その他放射線による障害に特徴的な所見などを総合的に判断いただいております。
 27ページからは、今、申し上げました青い点線で囲んだ疾病につきまして、国際的に認められた科学的知見ではどのようになっているのかを示したものでございます。まず、27ページは、白内障でございます。白内障につきましては、しきい線量ということで、0.5Gy、あるいは1.5Gyといった被曝で認められるようにされております。
 放射線白内障につきましては、下の方の囲みに混濁の部位を書いていますが、混濁につきましては、後嚢下、皮質に見られるとされておりまして、特に後嚢下に特徴的に見られるということでございます。また、放射線により核白内障が発症するとの確立した知見はないとされております。
 また、白内障につきましては、放射線のものか、あるいは他の原因によるものかというところがポイントになってまいりますが、下の方に書いておりますけれども、白内障につきましては、加齢に伴いまして高い確率で発生することが報告されているところでございます。
 それから、28ページは、心筋梗塞について示したものです。UNSCEAR2006年、国連科学委員会の報告では、1~2Gy以下での放射線と心血管系疾患の因果関係を証明するには十分な科学的データがないとされております。
 また、23年4月のICRP(国際放射線防護委員会)の声明では、不確実さは残るとしながらも、0.5Gyというしきい値という声明を出されております。
 また、心筋梗塞の疫学的な知見といたしましては、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙が粥状動脈硬化の4大危険因子とされております。そういう中で、他のリスクファクターも考慮した判断が必要となっているということでございます。
 それから、29ページは、甲状腺機能低下症と慢性肝炎についてお示ししたものでございます。
 甲状腺機能低下症につきましては、世界的に合意された知見としては、ここに書いてありますとおり、5Gyとか、あるいは45Gyという非常に高線量でなければ起こらないとされております。
 また、慢性肝炎につきましては、放射線により慢性肝炎または肝硬変が起こることは世界的には認められておりませんが、原爆被爆者における知見といたしまして、これは放射線影響研究所による調査になりますが、肝疾患の1Gyにおける相対リスクが1.15ということで、若干リスクが高まるとされております。
 なお、下に書いてありますが、我が国では、慢性肝炎、肝硬変につきましては、主にウイルスを原因とするものが大部分を占めているということでございます。先ほども申し上げましたけれども、この2つの疾病につきましては、現在、原爆症認定の対象となっております。これは、平成21年の6月に新しい審査の方針が改定をされまして対象になったというものでございます。先ほども申し上げましたとおり、当時の与党PTの提言を受けまして、裁判の結果も踏まえて、これらの疾病の追加が行われたものでございます。
 あと、資料4をごらんいただきたいと思います。こちらは「原爆症認定申請に係る処分状況について」お示ししたものでございます。
 まず、時系列で処分状況を挙げております。先ほど申し上げたとおり、平成20年の4月から新しい審査の方針の下で審査を行ってきました。ここに書いておりませんけれども、平成20年度に8,000件以上の新規の申請がございました。その後、認定できる方については、1人でも多く、1日でも早くという姿勢で取り組んでまいりました。結果として却下となっている案件につきましては、申請について、慎重な審査が必要であったとか、あるいは資料がなかなかそろわなかったとか、そういった事情があったということもございます。そういう中で、21年度、22年度と、時間の経過に伴いまして却下になる件数が増加したという状況でございます。
 また、疾病別の認定状況をその次に掲げておりますが、認定につきましては、がんが非常に多い。次いで白血病、放射線起因性が認められる心筋梗塞となっております。
 2ページをお開きいただくと、こちらは却下の状況がございます。却下につきましては、がんが一番多いのですが、白内障がそれとほぼ並んでおります。それから、その他の疾患の順になっております。
 それから、その下の※3に放射線起因性が認められないと判断された場合の例を挙げております。例示といたしまして幾つか挙げております。1として、原爆の放射線に起因する疾患を発症するほどの放射線被曝がなかったと判断された。2として、疾患と放射線との因果関係が証明されていないと判断された。3として、放射線起因性が指摘されている疾患に罹患しているが、申請者の年齢、生活習慣、持病、特徴的な所見等を考慮し、放射線起因性がないと判断された。4として、提出された資料からは疾患が存在するかどうか判断できないと判断されたというものがございます。
 それから、※4に要医療性が認められないと判断された例を挙げております。これにつきましては、1として、放射線起因性のある疾患に罹患しているのですが、治療が必要な段階ではないと判断された。2として、放射線起因性のある疾患に罹患していたが、手術等の治療の結果、該当疾患に対する積極的な医療が必要ではなくなったと判断されたというものがございます。
 少し長くなりましたが、事務局からの説明は以上でございます。
○神野座長 どうもありがとうございました。
 ただいま事務局から御説明をいただきましたが、行政認定のベースとして科学があり、もう一方で司法判断があるわけですけれども、そうしたことを念頭に置きながら、次のつくる段階での物差しをどう考えていくのかというのが大きなポイントの1つになるだろうと思っております。
 そこで、本日は、準備いただきました資料2、行政認定と司法判断の乖離についてに関わるペーパーを基にしながら御議論をしていただければと考えております。生産的に、もう少しこういう視点で考えるべきではないかというような御意見をちょうだいできればと思っております。
 資料3と4は、ただいま御説明がありましたように、現状の行政認定に関わる資料でございます。これにつきましても、もし御質問がございましたら、ちょうだいできればと考えております。
 特にどこからというわけではございませんので、御意見、御質問、ちょうだいできればと思います。いかがでございましょうか。どうぞ、潮谷委員。
○潮谷委員 ただいま詳細の説明ありがとうございました。この原爆症認定のことに関して、被爆者団体と総理との間で21年8月に、一審判決を尊重し、一審で勝訴した原告については控訴せず、当該判決を確認させるという確認書が交わされております。一般的には、そのようなことは司法の領域の中では考えられない。その次の段階、最高裁までというのが通常だと思うのです。けれども、この終結に当たって、基本方針として示された件について一審で勝訴した原告について控訴しない、一審で判決を確定させるという、これは、そのときに何か論議みたいなものがあったのでしょうか。どのような理由の中で一審だけで確定させるというような確認がなされたのか、その辺りのことがもしわかりますならば、お教えいただきたいと思います。
 以上です。
○神野座長 いいですか。
○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 事務局から御説明をさせていただきます。今、潮谷委員から御質問ありました件は、平成21年の8月に、当時の麻生総理と被団協の代表委員であります坪井さん、田中さんとの間で結ばれた確認書のことでございます。この中に、今、潮谷委員から御紹介ありました、一審判決を尊重し、一審で勝訴した原告については控訴せず、当該判決を確定させるとか、一審で勝訴した原告に係る控訴を取り下げるといった文言が入っております。
 これにつきましては、当時、集団訴訟が進んでまいりまして、国が一部、あるいは全部敗訴したという判決がかなり積み重なってきたという状況がございました。一方で、平成15年から集団訴訟が順次提訴されてきたわけですけれども、被爆者の方は皆さん御高齢の方ばかりですし、また、長年裁判をずっと争ってきたと、そういったこともございます。そういう御負担ということもございます。また、こうした裁判で争っていくことを通じまして、原爆症認定基準の見直しという動きにもつながってきたということがございます。被爆者の方の高齢化とか、裁判の長期化といった状況を踏まえる中で、これ以上訴訟を長引かせるべきではないと、そういうような判断がございました。そういう中で、政府部内でもそういう判断を、最終的には麻生総理まで署名ということでされまして、これは被団協の方とも、そういう見解というか、とにかく訴訟については早期に終結をさせることが必要であろうと、そういう中で、一審判決を尊重し、控訴しないというところで訴訟を終結させることになったというような経緯がございます。
○神野座長 御質問の趣旨は、今の答えでよろしいですか。
○潮谷委員 今、司法と行政の乖離ということを考えてまいりましたときに、行政判断も司法判断も、やはり根底には、被爆者の皆様たちに寄り添っていきたいという姿勢が見え隠れしているのではないか。ですから、私たちもこの中で審議をするときに、情緒的な審議をということを要望するわけではありませんけれども、しかし、高齢になっていらっしゃるということ、それから、もう一つは、やはり被爆をしたという訴えがあることを考えていったときに、被爆者の総数的なものをつかんでいくということを考えていったときに、これまでの歴史的な経過の中で乖離だけに目を当てていくと、それをどのように埋めていくのかということの困難性にぶつかるのです。やはり根底にあるものを大事に考えつつ、科学的に検証していくという方法はどういうものかという考え方が必要なのかなと思いまして、今の点を確認させていただきました。
 以上です。
○神野座長 どうもありがとうございました。
 あとはいかがでございますか。御質問、御意見。高橋委員。
○高橋滋委員 資料2について、今、いろいろと御説明を聞いていて気になったのは、先ほどの認定について、基本的に、昔の原因確率論で三十数%ということで、それについてもいろいろな総合的なことを決めながら決められていると、こういうふうな判断の仕方をされていたということなのですけれども、その場合、行政認定というのを、確率論的な、科学的な知見を用いてやっているわけですが、科学的な知見に基づいた形で行政認定に結びつけていくかというのは、ある種の価値判断があるわけで、そういう意味で、行政の価値判断と司法の価値判断がどう違うかという話であって、行政の価値判断が科学に基づくものであって、司法の価値判断は、要するに、科学的な知見も含めつつ、更に別のものをやっているのだと、こういう対立の図式だと、問題がずれてくるのかなと、そこをちょっと気にしているわけです。
 そういう意味で、行政の場合については、前から申し上げていますが、こういう行政の給付については、納税者との均衡であるとか、ある意味では申請者の間の平等であるとか、確率的に明示的なところでいかざるを得ないという点があって、その意味では、科学的な知見について、明示的に切れるところで切っていくと、こういうふうにならざるを得ないという価値判断の仕方をしている。
 それに対して司法の場合は、まさに個別的な事情の中で、科学も踏まえながら総合的に価値判断していく。そこにちょっと構造の違いがあるので、科学に基づく行政判断と司法はちょっとずれるというような整理だと、今後の整理がずれていく気がしないかなというのが、法律家として気になったところでありまして、その辺、書きぶりをもうちょっと、ほかにも法律の先生がいらっしゃいますから、御相談していきながら、ミスリードされないような形で文章を直していただければありがたいと思っています。
○神野座長 どうぞ。
○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 今、高橋委員おっしゃったように、資料2の1の最初の○の最後にも、行政認定も司法判断も科学的な研究を参考にはしているということが書いてあります。書きぶりとして若干不十分なところはあるかもしれませんけれども、先生おっしゃるように、行政認定と司法判断が二律背反するようなものでは恐らくないのだろうと思います。そこは、そういう関係をある程度整理しながらやっていくという先生の御意見は大変理解できるかと思います。
○神野座長 荒井先生。
○荒井委員 ここ数回、行政と司法の考え方の違いについての議論が進められてきているのですけれども、私、今日の御説明も聞きながら、もうそろそろこの議論はいいのではないか。確かに司法判断の結果、行政の判断について是正されたという歴史があるわけです。それがまた現在の原爆症認定制度の見直しのきっかけになったということは、これは紛れもないことだし、それから、司法判断の進展に伴って、行政認定の基準についても何度か見直しが行われた。そういう見直しの経過の中でも、司法判断の流れというのがある程度影響があったということは、これは否定できないことだろうと思います。そういう経過の中で、現実には8,000人を超える原爆症認定の結果が出てきた。そういう意味では、司法は個別判断だと言いながら、そこまでの原動力の1つになってきたというところは評価していいのではないかと思うのです。
 ただし、今日御説明いただいた中でも、前回以来、裁判の中で、ときどき、急性症状、あるいは黒い雨などを含めての要因を加味して、放射線起因性がないとは言えないという判断がまま見受けられる。そこで、科学的な側面から見て、一般的に言う、いわゆる急性症状が放射線起因性とどの程度の結びつきがあるのかということについて御説明をお願いして、今日、ある程度の御説明をいただきました。しかし、これは、かなりきつい線量を浴びたときにいろいろ出てくるということは言えるのですけれども、脱毛ですとか、嘔吐、下痢などが起こったからといって、放射線、強いものを浴びたかどうかということは、今日の御説明では必ずしも出てこないのです。司法が個別判断の中でそういう要因を加味して判断されたということは、それはそれで別に異論を挟むわけではないのですけれども、少なくともそういうことを行政判断の中に基準として持ち込むのは少し危ないのではないかということが1つございます。
 それから、放射線起因性について、まさにこれは裁判の場でも、あるいは行政認定の過程でも、いろいろと大きな議論を呼んできているのですが、今後の議論の中で、放射線起因性の判断について、科学的な知見から離れるのはやはりまずいのではないかという議論は、私もそう思いますし、これまでの何人かの委員の方々からも御指摘がある。問題は、放射線起因性というものを現在はストレートに援護法の認定の要件の第1に掲げられているのです。そういう意味で、科学的に100%説明はできない、司法だってなかなか難しい判断を迫られるという原因は何かというと、今の11条に、原子爆弾の障害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定を受けなければならないと、これがまさに難しさを呼び起こしているという言い方もできるのではないか。
 したがって、私が申し上げたいのは、科学的知見を尊重することと、それから、認定の要件としてストレートに起因性を持ち込むかどうかということは少し切り離して考える余地があるのではないか。これまでの科学的知見並びにそれを尊重しながら一生懸命取り組んできた厚生労働省、分科会の考え方は、尊重されてしかるべきではないか。先ほどの御説明で、国際的な知見から言うと、被爆者保護のためにというか、科学的知見を超えたところまで、実は認めてきているのです。
 先ほどの御説明をよく聞いていましたら、結局、現在の新しい審査の基準では、それを超えている。その超えた基準を持ちながら、なおかつ個別的なケースでは、司法がそれを超えたところまで認めるケースが出てくる。私は何度も繰り返すのですが、司法というのはそういう役割なのであって、どういう物差しをつくったとしても、そこで争いが起これば、また司法がそれを是正する余地は残ってくると思うのです。それはそれでなくするわけにはまいらない。逆に言うと、司法の基準をストレートにこちらの基準に持ち込むということは、これは役割が違うのではないか。
 ということで、司法と行政の乖離の問題をどう埋めていくかという見方、発想というのは、このぐらいにして、考える段階というお話が冒頭にございましたけれども、さて、今のままでいいとまでは私も言う自信がないので、これまでの経験の積み上げというものを十分尊重、忖度をしながら、何か新しい、いい枠組みのつくり方というものがあるかどうかの知恵の出し合いにぼつぼつ進んでいっていいのではないかというのが、意見を含めての感想でございます。
○神野座長 ありがとうございました。
 では、石委員、どうぞ。
○石委員 意見を申し上げる前に、単純な質問ですが、今日、資料2がベースになって、議論をこれからやっていこうという話ですが、いずれにいたしましても、この検討会は、最後に何かしらのペーパーを出して、まとめたという姿勢を示すとあります。そうすると、留意点でまとめたような資料2が根っこにあって、これをだんだん大きくしていくというような姿勢でやるのですか。つまり、質問は、この留意点という資料2のペーパーは、我々としてどう考えたらいいのですか。単なるメモ的で、このまま今日、はい、さよならになってしまうのか、それとも、これをもっと膨らましつつ、内容を深めて文章にしていこうということをやるベースなのですか。座長はどうお考えですか。
○神野座長 今、やっている議論以外にも、次の段階、その他含めて考えていかなければならないだろうと思っておりますが、当面、この問題について、これまでの議論を整理しながら、論点はこんなところにあるのではないかということで考えておりますので、これが即そのままペーパーに結びつけるということは特に考えていません。
○外山健康局長 健康局長ですけれども、私どもとしては、今、先生おっしゃった、そろそろ行政認定と司法判断の乖離の問題だけではなくて、次の段階に進んでいくというための足場というか、これだけでがっちりした足場かどうかわかりませんけれども、そういう足場づくりの論点だということでありまして、これを全部埋めると、新しい在り方ができるものではありませんけれども、次のステップに行く足場の認識をここでしてもらいたいという意味で出しております。
○石委員 わかりました。だから、そういう意味で非常に重要な、一種のファーステップを超えようとするときのペーパーだよね。
○神野座長 というか、つくる段階に行くためのものというふうに。
○石委員 つくる段階に行ったときの私の感じ、感想、意見とまでいかないのだけれども、今、荒井さんが最後に言われた新しいスキームを、これまでの議論も踏まえて、いろいろな情報を集めて、我々委員会として、何か新しく一歩踏み出そうということについて議論しろということをおっしゃいました。これについて、私は、この委員の方々で、無理でないかという話と、いや、やるべきではないかという話と、何か目当てはあるのかねと、いろいろ分かれると思います。これだけ立場の違う方、これだけ積み重ねがある事象について、新しく付加価値をつけるような意味での、ブレークスルー的な、すばらしいアイデアがあるとは私は思えない。
 結果的に、私が今、気になって質問したのは、これまでの議論を整理する過程の中で、どういう問題点が出て、今、デッドロックに乗り上げているか、あるいは、いろいろな立場の方から不平不満が出ているか、結局は審査の結果件数が必ずしも減らないとかいった辺りで事実的にエビデンスができているわけですね。それについて、これまで到達した点を精いっぱい整理するぐらいのところが関の山かなと思っているのです。一種の敗北主義かもしれない。行政当局は多分、それでは困るのでしょう。といって、Aというプラン、Bというプランがあって、これで択一的に何かしましょうというたぐいの性格ではないね、この性格は。私は何も積極的な、建設的な意見を言っているのではないのだよ。こういう問題が困りましたねということを言っているだけで、済みません。また更に何かつけ加えることを思っているのですけれども、それはまた後で発言します。
○神野座長 田中委員。
○田中委員 私は、先ほど荒井先生がおっしゃったように、この問題について余り長々と議論はしたくないのですけれども、今日の厚労省のお話を聞いていきますと、こういう詳しいのを説明してくれというのが私の要望ではなかったのです。司法があれだけ続けて、行政のやり方は間違っているよ、これはよくないよとおっしゃったことを行政はどう受け止めて、それをどういうふうにしないといけないかと今、考えているということを言っていただきたかったのです。おわかりですね。あれだけ司法から、今までの行政のやり方は間違っていると言われた。その言われた中身は何か、それを改めるにはどうしたらいいかということを行政はこういうふうに考えていると。改めるつもりは全くない、司法は司法で勝手だと今でも思っているというふうにはおっしゃらないと思うのですけれども、そういうふうに聞こえてしまうのです。そこのところが非常に大事ではないかと思っております。それがきちんと押さえられないと、次にどうしたらいいかという議論を私たちがするときに、私たちがいろいろ議論しても、厚労省は勝手に議論しなさいみたいになってしまうという心配があるのです。
 ですから、例えば、司法は総合的に判断しなさいと言っているわけです。総合的に判断したというふうに、先ほども御説明にあったのですけれども、どういうふうに総合的な判断をされたかというのは、1つか2つの事例でもよろしいのですけれども、ないですね。総合的に、これとこれと条件を入れましたという説明しかないということになっています。
 それから、何よりも司法は、残留放射線だとか、低線量だとかいうものをやはり考えないといけないのではないかということをかなり指摘されているわけです。それを考えるには、一人ひとりの事例を、被爆前から被爆後をずっと追跡していかないとわからないという問題があるので、それも丁寧にやらないといけないということを司法は言っているのです。これは行政は大変だと私は思います。裁判でずっとやったように、何日も時間をかけて1人を追いかけていくのは大変だと思うのです。大変だと思うのですけれども、司法はそれをやらなくてはいけないと言っているわけですから、行政はそれに代わる何かやり方があるかということを真剣に考えていただく、あるいは私たちに問うていただくということをやっていただきたいというのが、前回から私が質問したり、要望してきたりしたことなのです。ということをお願いしたいのです。
○神野座長 どうぞ。
○松岡総務課長 事務局から、これまでやってきたことについて、もう一回申し上げさせていただきますと、第6回、第7回の資料で、裁判所が判断した事例をたくさん挙げまして、それがどういう判決であったかということをかなり詳細に分析して出させていただいたと思います。その中で、一定程度、裁判所では、新しい審査の方針を意識しながら判断をされている。そこを超えるものについては、更に個別の状況をよく見ておられるといったところを出させていただきました。それは個別に事例の一覧表も出させていただき、それから、全体の分析したものもかなり詳細に出させていただいたつもりでございます。そういう意味で、今、田中委員からお話しいただいたようなことについては、我々としては答えさせていただいたと思います。
 ただ、その中で、前回の御議論として、特に疾病別で、どういう判断基準で審査が行われているのでしょうかといったことがございましたので、今回、がんであるとか、白内障とか、どういったことで判断をしているかといったところの詳細な資料ということで、ある意味で残されていたような部分について出させていただいた、そういうつもりでございます。
○神野座長 どうぞ。
○田中委員 もう少し申し上げたいのですけれども、科学的な知見について、いろいろ申しました。科学性というのは非常に大事だと私は思っているのですけれども、今まで厚労省が言ってこられた科学的知見の根拠になっているのは、放射線防護の考え方なのです。ICRPなどが出しているのは防護のための数値をいろいろ出してきているので、一人ひとりの原爆症の判断などに、それが科学的であるという言い方で、ただ機械的に、機械的ではないとおっしゃるかもしれないけれども、機械的に使われているのはおかしいのではないかと思うのです。
 その証拠に、今日出されたもので、今までは1ミリシーベルトとか言われていたのが、4月何日かのICRPの声明で変わっていますね。だから、そういうふうに変わるわけでしょう、防護の場合には。それが私たちの認定にとっての科学的な根拠になるということ、必ずしもそうではないのだと思うのです。そういう考え方があるということはいいのですけれども、そうではないということを厚労省は知っておられて言っているのではないかと思うのですけれども、それが残念なのです。やはり認定にもそういうふうな生かし方をしているのだというふうに言っていただきたいと思うのです。
 今、申し上げたのはわかりますよね。資料3の27ページの「白内障に関する放射線の影響」の下から2番目のところなのですけれども、平成23年4月21日にICRPが声明を出して、水晶体のしきい値線量を0.5Gyに引き下げると言ったと言うのです。去年ですね。これはもっと低くしたということなのですけれども、そういうふうに変わるものであるということを私どもは前から言っておりましたので、ちょうど事例がここに出されましたので、申し上げておきたいと思います。
○神野座長 事務局。
○高城原子爆弾被爆者援護対策室長補佐 事務局から補足させていただきます。27ページに書いてある白内障に関する放射線のいわゆる知見ということで、1つ、目安として、この線量という考え方があるというお話をさせていただきました。勿論、科学的知見は変動し得るのですけれども、そのことについても、分科会の先生方にご議論いただきながら、こういう知見が出ましたねということで、これだけではないのですけれども、当然、白内障に特徴的な所見があったり、あとは年齢で、高齢者には、80歳以上では、初期混濁も含めると100%に見られるということがあったりですとか、そういったことを総合的に判断させていただいているということでございまして、こういう新たな知見が出てくれば、認定の上で考慮すべきものなのかどうなのかということを含めて、きちっと認識をしていただいた上で総合判断をいただいていると、そういう現状にございます。
○神野座長 坪井委員、どうぞ。
○坪井委員 最初に確認書の問題が出ましたが、まず、控訴をしないということは、総理大臣が控訴をすることをやめるということは、ある程度司法の言うことがわかるから言っているのですよ。私の思いではね。あるいは厚生労働大臣がいろいろなことを言われても、いい話をしてくれるのですよ。ところが、役所の方へ戻ってくると、今までどおりか、そうでなしに、あるいは被爆者をどう考えて、こういうことが出てくるのかなと思うことも私はあるのです。被爆者の一人としてね。だから、新しい審査の方法も、私はまだ物足りないと思うのです。被爆者の命を助けてあげようという気持ちから出ているのではない。確かに科学的にもわからないところはたくさんあるわけです。何が起こるかわからない。だったら、今までのことで司法が言っているような、そういうことを相当飲み込んでもらわなければいけないと思うのです。私が言いたいのはそこです。総理大臣はわかっていた。次から次に、鳩山さんでも、皆そう言われるのです。ところが、役所の方へ行くと、ごちょごちょと、被爆者はどうしようかとかね。のような気がしまして、ちょっと言葉を入れました。
○神野座長 荒井委員。
○荒井委員 先ほど石委員から若干悲観的なお話があったのですけれども、私は、1つの新しい枠組みづくりということで、全員一致というふうに100%行くかどうかは別として、制度づくり、立法というのは妥協の産物だという言葉もあるわけで、我慢のできるところを見つけ出していくことは、可能性は十分あるのではないかと思っているのです。その作業の1つとして、今日、資料2でいただいた、これまでの議論を基にしての留意点というのがあるのですけれども、事務局にとりあえず準備していただけるかどうか、御検討願いたいとすれば、この留意点を意識しながら、もうちょっと具体的な論点整理ですね。
 例えば、科学性を尊重するということは、基本的には皆さんの同意はあるようですけれども、法律のトップに書いてある原爆の放射線の影響による疾病であるかどうかをストレートに大臣が認定するようなやり方でいいかどうか、あるいは逆に、原爆手帳を持っておれば、原爆との関係はある程度つながりがつくのだから、皆さん、それを対象にしていいのではないかと、そこまでは恐らくどなたもお考えにならないと思うのです。だから、科学性の担保というのをどの程度までお考えになるのかということが1つの問題点ではないか。
 あるいは、対象になる疾病というものを、まさにそこが起因性との関係で問題になるわけですけれども、現在、新しい審査の方針で対象にしている疾病以外にまだ広げるべきだということに議論がなるのかどうかです。例えば、裁判例で言えば、糖尿ですとか、関節炎的なものまで個別ケースで拾い上げたものもありますけれども、そこまで、原爆症認定対象の疾病として取り込むべきだということは、恐らく皆さん、お考えにならないのではないか。だから、そういう意味での論点をもうちょっと具体的にしていけないか。
 私は、もう一つつけ加えさせていただくと、ここでも何人かの委員の方々から、13万7,000円と3万幾らというもののギャップが大き過ぎる、そこは少しランクづけを考えたらいいのではないか、あるいは疾病のいわば重症度といいますか、あるいは回復見込みといいますか、そういうことに着目をしてのグレードづけというものもあっていいのではないかという御意見もお聞きしたような気がするのですが、そこら辺りの論点を少し整理して、議論の土台にしていただく段階ではなかろうか。この留意点というだけではちょっと抽象的過ぎて、やや議論がしにくいなという印象でございます。いかがでしょうか。
○神野座長 今、ランクづけの前におっしゃったようなこと、私にもわかるような、つまり、手続上といいましょうか、判断上の問題で、厚生労働大臣が認定するときの手続上の問題も少し考えた提案もあるのではないかというのは、何か具体的にありましたら。
○荒井委員 私の頭の中にあったのは、起因性というものを大臣の認定の要件にしているのですね。しかし、既にこれまでの分科会の歴史の中で、ここまでは間違いがないという科学的知見に基づいたもの、これは時間的要件とか、あるいは距離的要因、それから、疾病名についても、ある程度科学的知見の集約みたいものがあるわけで、それはとりもなおさず放射線の影響性のいわば凝縮されたものですね。だから、起因性そのものを要件にするのか、あるいはそれを象徴している客観的な物差し、私も素人で、なかなか難しいところはあるのですけれども、例えば、距離要件、時間の要件、あるいは疾病名、そこら辺りが科学的知見の集積の中での客観的な要件として認定の要件に取り込んでいけないかという、今、申し上げるのはその程度なわけです。
○神野座長 ありがとうございます。
 草間委員、どうぞ。
○草間委員 今の認定ですと、先生も言われたように、認定に当たっては、放射線起因性と要医療性があるかという2つの条件で認定するわけですけれども、いずれにしましても放射線起因性というと、科学的な判断であるべきだと思います。昨年の3月11日の福島の原子力発電所の事故に関連して、放射線起因性に関しては、必ずしも原爆だけの問題では終わらないと思います。例えば、今、原発の問題もありますけれども、既に職業病認定等も、放射線起因性があるかどうかという形で判断されているわけですので、放射線起因性という言葉を使うと、やはり科学的であってほしいと思います。
 私は、放射線起因性が科学的でなくなった1つの経緯は、今日も御説明いただきましたように、平成19年に、座長は金沢先生だったと思いますけれども、検討会が報告書を出しているわけです。これが出た2日後に与党PTの案で新しい認定基準が決まったわけですけれども、この時点で、いわゆる放射線起因性の科学性は崩れたのだろうと思います。この崩れた原因としては、先ほどからありますように、高齢化を迎えた被爆者の方たちをできるだけ早く補償してあげましょうという形でこういうことになったのだろうと思います。
 そういうことを考えると、放射線起因性という言葉にこだわらないで、1つの案として、先ほど荒井先生も言われたように、原爆健康手帳を持っている方たちは、国が一応、被爆者として認めたわけです。放射線起因性というと、私は放射線防護の科学者としての立場から、科学的であることをずっと求めたいと思いますので、放射線起因性ではなくて、原爆起因性などというのも1つのアイデアではないかと思います。そうすると、少し科学から外れるようなニュアンスがあってもいいのではないかと思いまして、そんな発言をさせていただきます。
○神野座長 ありがとうございました。
 どうぞ。
○三藤委員 ちょっと情緒的な発言になるかもしれませんけれども、私の最初の発言においても、高齢化する被爆者の早期救済ということで、時間を急いでほしいという御意見を申し上げております。それと同時に、司法の場で繰り返すことになる危険性は避けたい。科学的知見の範囲で、現状でとどまっておりますと、司法の場でまた争いを繰り返す。そうしますと、高齢化した被爆者の救済がまた遅れるという考え方を持っております。これだけは避けていただきたいという考え方を持っています。
 ただ、今、現状で、この留意点で挙げられているような形で、科学的知見を間に置いて押し問答していくということでは、多分、答えが出てこないのではないかと私も思います。そういう意味では、司法判断を基準に取り入れるということは、科学的知見が壁になって難しいということであれば、司法判断をどういう形で取り入れるかという部分を議論を始めていいのではないか。例えば、先ほどから意見が出ています新しい仕組みを組み合わせることによって、科学的知見と矛盾しないような状態で救済ができないか、余地があるのか、ないのか、そういうふうな議論を進めていただきたいということで意見を申し上げたいと思います。
○神野座長 ありがとうございました。
 長瀧委員。
○長瀧委員 科学的ということの意味、取り方なのですけれども、最近、福島も話題になってきましたので、私自身としては、科学というのは、洋の東西を問わず、だれでも認めることが科学である。ですから、ロシアであろうが、福島であろうが、東京であろうが、科学は一致している。ただ、考え方として、ポリシーとして、例えば、先ほど出ました放射線防護、放射線から防護するという場合には、科学的な事実に基づいて考え方をポリシーとしてまとめている。そのポリシーが法律になっていて、科学的な事実だけで法律ができているわけではないですね。そこは科学に基づいたポリシーがある。防護というポリシーであるということですから、その防護のポリシーと同じように、援護のポリシーがあり得るか。さっき草間先生がおっしゃいましたように、放射線に起因ではなく、原爆に起因だというのもポリシーの問題として十分考えられるので、科学を曲げないで援護をどう考えたらいいか。簡単に言いますと、そういうことで、科学者以外の専門の先生にお知恵をいただきたいというのが率直な気持ちなのです。
○神野座長 ありがとうございました。
 高橋先生、専門家。
○高橋滋委員 今、端的におっしゃっていただきましたけれども、私は、原因確率が三十数%だというのは科学だと思いますが、その三十数%をどういうふうに評価して救済の対象にするかというのは、ある意味では政策的な価値判断を含めた決定であると思っています。そのときに、科学的な証拠をどうやって踏まえて、それをルール化して、認定に結びつけていくのかというか、救済に結びつけていくのかというのが、ここで我々が司法の判断を横目で見ながら課された課題だと思っています。
 別の事例で言うと、例えば、公健法で、同じように正規の行政認定の対象になっている水俣病について、最高裁は、公健法上の認定の症状を持っていない方をメチル水銀中毒症といって、法行為上の対象にしたわけです。そういう意味では、ある種の科学的な証拠に基づいて、どういう人を救済するのかという、そこの判断基準を考えるのが、この場であろうと考えています。
 もう一点、別の論点ですが、実は、資料2に随分こだわっているのですけれども、司法判断といった場合も、先ほどちょっとおっしゃっていただいたのですが、最高裁判決が出ているのは1例しかなくて、あとは全部和解で下級審段階で終わっているわけです。確かに政治は、下級審判断の総体的な方向は正しいということで和解したわけですが、繰り返し申し上げておりますように、下級審判断は非常にばらつきがありますので、その中で合理的に救える、是認できる下級審判断と、これはちょっとおかしいのではないかという下級審判断も場合によってはあるわけです。
 そういう意味で、今、事務局から、ある意味では典型的な急性症状を今、御紹介いただきましたけれども、別の形で急性症状だといって救済している司法の例もあるわけです。そういうのは参考にならないわけで、そこのところの総合的な判断でどこまで救えるのかというのを今後考えていくのが我々の課題なのだろうと思っています。
 以上です。
○神野座長 潮谷委員、どうぞ。
○潮谷委員 今、高橋委員がお触れになりましたのですけれども、私が冒頭に質問させていただいたのは、実は、水俣病の場合は、最高裁判決まで争っていっているという状況があります。しかし、原爆に関しては、協定の中で、第1審のところでということ。だから、私の心の中であったのは、最高裁まで行ったときに、一体、この判決の結果というのは、どのような振れ方をしていく要素があったのだろうかなという疑問が個人としてあったということであります。
 それから、やはり公健法の中で救われる対象が非常に少ないと同じように、現行の原爆の認定方法の中で行きますと、本当に認定される方々が少ないと、そういうような状況もあります。そこに高齢者であるということ、それから、自分は被爆を受けたことによって、そこから生じている疾患ではないだろうかという気持ちがあるという現象、そういったことを考えていきましたときに、私たちは、一方では確かに放射線起因質の判断を科学的な知見のよりどころにしていっていますけれども、しかし、他方で、ただいま言いましたように、科学的な証明だけを求めていくと、非常にそこから外れていっている方々がいらっしゃるということも事実ですので、そこは歩み寄っていけないものかなということと、これまでの論議の中でありましたように、補償金、手当額に関わって、非常に二極化していると、こういうようなことも今後は是正すると言いましょうか、もう少し間を取っていくような形も、この会議の中で1つは提案していくべきではないかと思います。
 以上です。
○神野座長 荒井委員。
○荒井委員 言いたかったことを補足をさせていただきたいのですが、これから原爆症認定制度の見直しについて少し具体的な議論を進めていくに当たって、忘れるわけにはいかないと思いますのは、原爆被爆者の方々に対して、いろいろな制度、手当があるわけです。それをトータルとして見ていくべきではないか。つまり、健康手帳から始まって、もろもろの手当の天辺にあるのが原爆症の認定、それに伴っての特別手当の支給。それ以外に、何回か前に御説明をいただいていますけれども、いろいろな手当、給付を含めて、あるわけです。今、ここで問われているのは、とりあえずは入口のところは、原爆症認定制度が今のままの仕組みでいいのかということではあるのですけれども、そこを見直していくに当たっては、当然、ほかの被爆者の方に対する援護なり、給付の在り方と併せて見ていかなければならないのではないか。
 いろいろな方々からの、ランクづけをもう少しきめを細かくした方がいいのではないかという御意見は私も賛成なのですが、そのときに、原爆症認定対象者としてのグレードとして考えるのか、あるいはもうちょっと広げての被爆者の人たちに対しての給付の在り方を検討するのか。それは選択肢は後者の方がはるかに広いと思うのです。恐らく、今はその2通りのやり方しかないものですから、一にかかって原爆症認定ということが被爆者の方々にとっては死命を制するような重要さを持ってくる。しかし、そこにもう1ランクとか、もう2ランクあるとすれば、それはそれぞれの方々の状況に応じた対応ができるということで、原爆症認定そのものに対しての熾烈な争い方、行政にしろ、司法にしろ、そこは少し緩和されてくるということもあるのではないか。そういう意味で、全体の仕組みを眺めながらの検討ということ、言い換えると、原爆症認定以外の給付の在り方についても意見を述べていいのではないかという気がしております。
○神野座長 ありがとうございます。
 田中委員、どうぞ。
○田中委員 今、荒井委員からいい提案をいただいたのですが、何回目かに私は、考える段階からつくる段階に入りましたら、私どもにも考えがありますので、それを出させていただきますと申し上げました。もうつくる段階に入るということであれば、私どもの考え方を御提示したいと思うのです。荒井先生のように、ランクをある程度つけて、いろいろな疾病がそこに含まれるような格好のものに変えていきたいなと、正直、思っております。
○神野座長 私の意見としては、つくる段階を想定しながら、徐々に色づけしていただいて構いませんので、どこでどうというわけでは区切れませんから、早目に考える、それがまた1つの考える段階を深める要素にもなりますので、言っていただいた方がありがたいと思います。
○田中委員 前の長妻厚生労働大臣が、この問題は法律を変えないと解決できないのではないかということを表明されたのですね。私どもとの定期協議というのを、これは確認書でやろうということになっていたものですから、第1回の定期協議をやったときに、この問題は法律を変えていくしかないのではないかと思っていると厚労大臣はおっしゃったわけですから、厚労省はそういう方向で行くのかなと思っておりました。だけれども、そういう方向に、いろいろ検討されているようにも見えないし、菅総理のときに検討会を、有識者の意見を聞くということは、やはり変えるという方向に持っていかざるを得ないだろうというのが総理の考え方だったろうと思うのです。そうやって私どもができているのですから、石委員のように悲観的になられると困るので、全体の気持ちを集めて、新しい、いい制度に変えるということで、今後の議論を是非していただきたいと思うのです。
○神野座長 石委員、どうぞ。
○石委員 私はすべて投げ出そうとは思っていません。2点ほど申し上げたいのだけれども、今後の我々の課題というか、審議の方向ですけれども、まさに物差しと言うべきかな、判断基準の問題として、行政、司法の判断の食い違いについて、いろいろ議論しますが、これはまさに新しいスキームを求めて、荒井さんがさっきからおっしゃったような形で努力をすべきでしょうね。
 もう一つ、私は、政治判断というのが出てきたと思うのです。この政治判断は、総理大臣まで発言されていますから、大きな意味を持っていると思いつつも、政治家の判断というのは、ある種のポピュリズムが背後にありますから、これは本当にこの議論にとってプラスかどうかわからないですよ。一審でやめてしまって、最高裁はやめろという話が日本の司法制度自体について、冒涜にもなるだろうし、小泉さんも何かいろいろやった経緯もありますし、政治家というのは大体、こういうパフォーマンスを取りますからね。それに対して、ある意味のチェック機能がないと、今後、すべて政治判断になってしまえば困る。それに対して、恐らく行政サイドはかなりの抵抗を示しているのだろうと思います。政治の話も議論の中に入れて、すべての人が同じ意見だとは思わないけれども、それなりの注意事項を言うようなことも入れて、今後、乖離の問題、物差し、基準の問題を議論しなければいけない。そういう意味で、大いにやるべきだと思います。
 もう一点は、既に皆さんおっしゃっていますし、私もそう思っているのだけれども、今ある認定制度、補償制度、原爆に関して、さまざまあるわけです。お聞きしますと、これはパッチワークの積み重ねのようですね。過去の歴史を覆っていますから。したがって、どんどん積み重ねてきていますから、もう一回、今の時点で過去をすうっと眺めると、随分おかしな矛盾点もある。まさに今、3万円と13万円という議論をしますように、物差しの問題とは別に、現行の、特に補償制度をもう一回、すっきりしたような、ある意味でスクラップ・アンド・ビルドをしないといけないのだと思います。ビルドをする場合にはスクラップする部分がないと、屋上屋的にまたパッチワークになりますから、その辺を事務局に資料を出してもらって、そこの議論はかなりここでできるのではないかと思うのです。価値判断というのはより少なくなりますから。そういう意味で、今日、議論の主役ではないから言わなかったのですけれども、制度見直しについての我々のコントリビューション、貢献を目指すべきだと思います。それがうまくいくと、何かやったような、評価されるのではないかと思います。
○神野座長 草間委員、どうぞ。
○草間委員 先ほど荒井委員の言われたように、今、手当だけではなく、原爆手帳を持っておられる方たちにさまざまな現物給付という形で行われているので、そういったものも含めて、全部見直す必要があるのではないかと思います。そういう中で、健康管理手当が入った時点で、手当の意味合いなども変わってきているのだろうと思うのです。そういう意味では、現物給付がこれだけ行われている、その上になぜ手当が必要かという、手当の意味合いというのも、もう一度、この時点で考え直してみる必要があるのではないかと強く思うのです。
○神野座長 どうぞ。
○潮谷委員 今、草間委員が言われたのですけれども、筋論としてはよくわかるのです。しかし、その一方、現物給付を含めて、それがなされてきた背景が必ずあって出てきていると私は思うのです。ですから、なぜこの手当がこういうような形の中で生まれてきたかということも出していただかないと、この次の段階の中で見直しをしていくときに、では、既得権との関係はどのように考えていくのかという大きな問題が1つは出てくるのではないかと思うのです。ですから、見直しをする、その方向性のときに、やはり手当がどのようにして生まれてきたのか、現物給付がどのような背景の中で生まれてきたのか、そこを私たちが考察をしていくことによって、そこに是であるという根拠性がある場合には、その既得権を、見直しという形ではなくて、もう一回、この委員会で、あるいは、どこでも良いですが、きちっと検討していく。そういうことをやらないと、私は、とても難しい要素を、また別の意味ではらんでくるのではないかということを恐れます。
 以上です。
○神野座長 あとはいかがでしょうか。田中委員、どうぞ。
○田中委員 もう余り言わなくてもいいと思うのですけれども、放射線起因性がうんと議論されて、その科学性がうんと議論されてしまったのですけれども、もともと法律ができたときから、これは被爆者を救済しなくてはいけないという考えがあって、今でも法律の中では、たしか放射線起因性とは書いていないのです。当該の負傷または疾病が原子爆弾の障害作用に起因するかどうかという言い方をしているのです。それが途中で放射線という言葉に変わってしまって、放射線の起因性になってしまった。
 それから、最高裁が松谷さんの裁判のときに判決したのも、救済すべきであるという立場から、高度な蓋然性があればよろしいという表現をされたのです。ところが、高度な蓋然性というのは数字であらわせるようなものでなくてはいけないというふうに厚労省が取ってしまわれて、原因確率というものが出てきてしまったのです。だから、振り返って、原点に返れば、あの凄まじい被害を受けた原爆の被爆者たちがさまざまな病気を背負っていく、それを救済するという法律であるわけですから、厚労省はいかにして救済するかという立場から、一貫して考えを通していっていただきたいと思っておりますので、改めてまた申し上げました。
 以上です。
○神野座長 草間委員。
○草間委員 法律をしっかり正確に読んでいただいた方がいいと思いますけれども、多分、原子爆弾による放射線という言葉はきっちり入っていると思います。だから、医療分科会等でも放射線起因性を大変重視するわけでして、原爆の影響という形ではないと思います。原子爆弾に伴う放射線というように、放射線ときっちり入っていると思いますので、そこは事務局ではっきりさせていただきたいと思います。
○松岡総務課長 医療の給付を規定した法第10条で「原子爆弾の障害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。ただし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため、現に医療を要する状態にある場合に限る。」ということで、そういう意味で、放射能に起因するということが必要であると書いております。
○神野座長 あとはよろしいでしょうか。そろそろ準備させていただいた議題については御意見をちょうだいしたと考えさせていただいて、一区切りさせていただきますが、今日は本当に貴重な御意見ありがとうございました。それから、親和的な議論と言ったら変ですが、結局、自由に発言をしていただいて、かなり本音の議論がたくさん出てきたと思っております。
 一般論ですが、私、科学者の端くれとして、科学というのはいつも間違えます。私、応用物理学会という学会で「宗教と科学」というテーマで基調講演をさせられたことがあって、私もいい加減な人間なものですから、専門家でもないのにお話をさせていただいたことがあるのですけれども、科学というのは、つまり、真実というのは恐らく全体的なものなのにもかかわらず、いつも部分的なことをとらえて分析するわけです。そこで間違えるので、いつも、自分のやっていることと周り、何と言いましょうか、接点をいつも見ながら考えていくことが重要だと認識をいたしております。
 それで、今日やった行政認定と司法判断の乖離というのも、いずれもどうにか真理に基づいて考えようとした結果だろうと思いますし、潮谷委員がおっしゃっていただいたように、その底には、行政も、そして、司法はルールに基づいているから、ルールに基づいているかどうかという判断なのかもしれませんが、私の見方では、行政も、被爆者の人々の悲しみに寄り添おうと考えて行動を取っていらっしゃるのだと信じておりますので、認定と判断との乖離を埋める問題は、可能な限り、私、専門家ではありませんけれども、荒井委員が御指摘のように、どういう物差しをつくっても、その物差しに基づいて訴訟が起き、それに基づいて判断をするというのは司法の役割なので、どういうルールをつくっても、司法というか、裁判は起こるかもしれませんけれども、できるだけ悲しみを分かち合うという意味で、苦痛を少なくしていくという方向で、どうにか新しい物差し、それから、石先生からいろいろ御指摘いただいたように、総合的に、もう少し眺めておくべき状況もあるのではないかと考えておりますので、次の会議では、今日の議論を事務局に整理していただいて、つくる段階をにらんだ上で、行政の認定と司法の判断の乖離という問題だけではなく、総合的な見方をしていただいて、幅広く、先ほど石先生からお話があった制度全体の見直しを含めて、どんなことが考えられるかというような観点から資料をつくっていただきながら、検討会を運営させていただければと思っています。いつの段階からつくる段階ということよりも、つくる段階は最終的に行きますが、徐々に徐々に詰めていきたいと思っております。
○外山健康局長 そういうことでやりたいと思いますけれども、さっきの放射能の起因性、条文の説明をしましたけれども、追加いたしますと、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律のそもそもの立法の趣旨が前文に書いてありまして、この中でも、先ほどの10条以外も、「国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ」云々と書いてありまして、そういった意味で、立法の趣旨ということで、ここにも書いてあることを追加で説明したいと思います。
 それと、もう一つは、次回のことですけれども、厚労省の素案という形は当然まだ無理ですけれども、今、座長がおっしゃったような形の、認定上、あるいは給付上の論点といいますか、もうちょっと因数分解したような形を論点という形で、座長と相談して示したいと思います。
 更に、被爆者援護制度全体、根っこから見直せという御議論もあったわけでありますけれども、この検討会の初期のころ、全体のサービスについて御説明しましたけれども、全体を見直すことを前提にしてもらうと話が大変になってくるのですけれども、いずれ、おさらいする意味で、どういう歴史的背景があったかも含めまして、もう一回、今の争点といいますか、制度を議論する際と全く分かれている問題でもないことなので、そういう観点から資料をお出しして議論を深めていただきたいと思っております。
○神野座長 ということで、次回につきましては、今日の議論を踏まえさせていただいて、今、申しましたような形で運営させていただきたいと思っております。
○田中委員 先ほど申し上げました私どもの提案、提言という言葉を使いますけれども、今、最後の議論をしていますので、次回の検討会にはお出しできると思いますので、それも含めて議論していただければと思います。
○神野座長 それでは、ちょっと時間が余っておりますが、この辺で議論を終わりにしたいと思いますけれども、事務局から何か連絡事項、補足事項がございましたら、お願いいたします。
○和田原子爆弾被爆者援護対策室長 次回の日程につきましては、また調整の上、追って御連絡させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○神野座長 それでは、これで検討会を終了させていただきます。今日は大変な雪の積もっている中でございますけれども、おいでいただきましたことを感謝申し上げます。どうもありがとうございました。


(了)
<照会先>

健康局総務課原子爆弾被爆者援護対策室

代表: 03-5253-1111
内線: 2317・2963

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 健康局が実施する検討会等> 原爆症認定制度の在り方に関する検討会> 第8回原爆症認定制度の在り方に関する検討会議事録

ページの先頭へ戻る