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2011年10月3日 第3回抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会 議事録

○日時

平成23年10月3日(月) 18:00~20:00



○場所

航空会館 7階 大ホール


○議事

○森嶌座長 局長もおいでになりましたし、委員の方も全部おそろいですから、まだ1分ぐらい時間がありますけれども、ただいまから「第3回抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」を開催させていただきます。
 皆様には、お忙しい中、御出席いただきましてありがとうございます。
 本日は、残念ながら御都合がつかずに中村委員が御欠席ということでございます。
 本日は、前回検討会で御了承いただいておりましたとおり、関係者からのヒアリングを行うことになっております。
 本日は、製薬企業のお立場から日本製薬団体連合会、患者・被害者のお立場から全国薬害被害者団体連絡協議会、医療関係者のお立場から日本癌治療学会にそれぞれお話を伺うことになっております。
 なお、ヒアリング対象者の御都合を考慮いたしまして、他の医療関係者及び患者団体からのヒアリングを、後日別途に行うことにしてございます。
 ヒアリングに当たりましては、資料2の「検討の論点(案)」に関する考え方を中心にお聞きすることを予定しております。この論点(案)は、前回の検討会で出された論点案から、検討会の議論を踏まえまして、委員の皆様の御了解をいただいて一部修正をしたものでございます。
 議事に入ります前に、資料の確認をお願いいたします。
 それでは、鳥井室長、お願いします。
○鳥井室長 事務局でございます。お手元に配付されております資料のうち、「表紙」と「名簿」、それから「座席表」を除きまして、順番に資料1として「本日のヒアリング参考人名簿」。
 資料2として「検討の論点(案)」
 資料3として「日本製薬団体連合会提出資料」。
 資料4として「全国薬害被害者団体連絡協議会提出資料」。
 資料5として「日本癌治療学会提出資料」となっております。
 不足等、おありになります方は事務局まで連絡をいただければと思います。よろしくお願いします。
○森嶌座長 よろしいでしょうか。
 それでは、最初に日本製薬団体連合会からお話を伺うことにいたします。
 本日は、会長の庄田隆様、理事の梅田一郎様、救済制度委員会委員長の中川仁敬様においでいただいております。
 最初に、資料について15分程度御説明いただきまして、その後委員の皆様から質疑を行うという形で進めていきたいと思いますが、全体として30分ないし40分程度の時間を最初のヒアリングで割きたいと思っております。
 それでは、資料の説明をよろしくお願いいたします。
○庄田参考人 座ったままで失礼いたします。日本製薬団体連合会会長の庄田でございます。本日は、抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会の場で、製薬企業の立場で意見を述べる機会をいただきました。誠にありがとうございます。
 日本製薬団体連合会、略して日薬連と言いますが、お手元に資料がございますでしょうか。日本において、医薬品を製造・販売する企業で構成する団体、これが業態別と地域別に分かれております。業態別に14団体、地域別に19団体、合計33団体の連合会でございます。左側の業態別団体の一番上にございますが、業態別団体の代表的なものとして、研究開発型の企業で構成する日本製薬工業協会、略して製薬協と言いますが、現在68社が加盟しております。
 また、本日は日薬連の理事であり、また米国研究製薬工業協会、PhRMAと言いますが、PhRMAの在日執行委員会の梅田委員長、並びに日薬連の救済制度委員会の中川委員長に同席してもらっていますが、PhRMAの加盟会社の多くは製薬協にも加盟しているということを御理解ください。
 また、日本において抗がん剤を扱っている企業というのは、約60社でございます。そのほとんどが製薬協並びに日本ジェネリック製薬協会の2団体に加盟しております。
 資料3の表紙をめくっていただきまして、本日お話をさせていただきたいポイントは、大きく2点でございます。まず最初に、がん治療と抗がん剤の特性について、海外の救済制度の状況も含めて御説明し、次に抗がん剤開発への影響の順で意見を述べさせていただきます。
 それでは、資料の3ページでございます。
 がんという疾病並びにがん治療につきましては、第2回の検討会で私、拝見いたしました資料1によって詳しく御説明があったと理解しております。
 また、この検討会には、御専門の委員の先生方が、私よりもよほど詳しくいらっしゃいますけれども、がんというのは、正常な細胞が何らかの要因で異常な細胞に変化し、無制限に増殖し、体内の別の箇所に転移するなど、がんという疾病自身が重篤な身体的な症状を引き起し、進行した場合には致死的な転帰に至るという、ほかの疾病にはない、異なる特性を持っていると言えると思います。
 また、大変残念なことではありますが、現在の抗がん剤には、相当程度の確率で、相当程度の重篤な副作用が発生するということが避けられないという限界もございます。勿論、製薬企業は日ごろより行政とも密接に連携して、副作用情報の早期把握、明確な注意喚起に努めて、可能な限り副作用被害の発生を防止するよう、医薬品の適正使用を推進しております。これは、がんについても、ほかの医薬品と何ら変わるものではございません。
 また、3番でございます。抗がん剤を使用されているがん患者さんの健康被害または死亡の原因としては、ここにありますとおり、原疾患及び合併症、手術、放射線療法等の他療法、抗がん剤等の使用による副作用などのさまざまな要因の関与が考えられます。実際の臨床の場では、これらの要因が複合的に関係しており、厳格にその原因をある特定の抗がん剤とすることは非常に困難があるということは、この検討会においても御議論があるものと思っております。
 4ページでございます。
 現行の救済制度上で、抗がん剤など、あらかじめ重篤な副作用が一定の割合で発生することが予測される薬剤であって、重篤な疾病等の治療のために、その使用が避けられないものは、救済の対象外となっております。抗がん剤治療では、がん及びがん治療の特性を踏まえて、抗がん剤使用のベネフィットとリスクを医師の方々から十分な御説明のもと、患者さんが病気の症状と避けられない重篤な副作用の可能性を認識された上で、患者さん自らの意思による抗がん剤の使用選択がなされることが大変重要でございます。
 また、最近では、分子標的薬など、作用機序の異なる新たな抗がん剤が開発されるようになってきております。しかしながら、これも残念ながら、ほかの医薬品と比べて重篤な副作用が相当程度の確率で発生するという状況に大きな変化はございません。抗がん剤治療において、医師と患者さんの共通理解のもとに、抗がん剤を使用するインフォームドコンセントの更なる徹底が最も重要であると、このように考えております。
 5ページでございます。
 海外における医薬品の副作用救済制度の状況につきましても、第2回のこの検討会で詳細に御議論されたと理解しております。その際の資料1-3にもあるとおり、医療先進国であるアメリカ、英国を初めとして、そもそも医薬品による健康被害の救済制度自体が存在しない国がほとんどでございます。
 一方で、医薬品による健康被害の救済制度が存在するドイツ、フランス、スウェーデンにおきましても、ドイツでは、ここにありますとおり、既知の副作用は救済の対象外。フランスでは、健康被害が、患者の当初の健康状態から見て、異常な結果でない健康被害は救済の対象外。スウェーデンでは、健康被害が、予想される治療効果と比して不均衡でなく、かつ、その種類や程度が予見し得る場合は、救済の対象外など、抗がん剤による健康被害は実質的に救済対象から除かれているという状況にございます。その理由としては、先ほど述べましたようながん治療と抗がん剤の特性にあると、このように考えております。
医薬品の治験から承認、安全対策に至るまで、すべての面で国際的な調和が求められており、抗がん剤による健康被害の救済についても、このような基本的な潮流の中でとらえられるべきものであると考えます。仮に抗がん剤による健康被害の救済が日本でなされる場合には、世界的に見て、日本が極めて特異な国となります。
 最後のページでございます。
 これまで、がん治療と抗がん剤の特性について、御説明してまいりました。仮に抗がん剤による健康被害救済が日本でなされる場合、製薬企業の視点から見ると幾つかの大きな懸念事項がございます。
 まず1つ目は、日本の現在の救済制度の目的が迅速な救済にあるということから、健康被害と抗がん剤使用の因果関係が、緩やかな基準により認定されることも予想されます。その場合、海外、特に米国でございますが、訴訟増加を誘引する大きな恐れがございます。現状、いわゆる訴訟社会と言われる米国におきましても、抗がん剤による健康被害に関する訴訟はほとんどございません。
 その主な理由の一つは、使用された抗がん剤と健康被害との間の因果関係の特定が極めて困難であるということによるものと考えております。日本で迅速な救済を目的に緩やかな基準で因果関係が認められるとしますと、その特定の抗がん剤の健康被害に関して、日本での認定結果が、米国における訴訟において原告側に有利な証拠資料の一つとして利用されることも想定されます。そもそも陪審員制、懲罰的賠償などの特徴のある米国での訴訟増加を誘引する大きな懸念があるということを申し上げたいわけでございます。
 一たん訴訟が起きた場合には、ディスカバリー制度など、企業の訴訟対応の負担も大変大きなものがございます。これが1点目の懸念事項でございます。
 2点目は、国際的な安全性評価への悪影響の懸念でございます。
 日本における副作用情報収集の仕組みにつきましては、第1回の検討会において、拝見しますと資料2-2で詳しく御説明があったと理解しております。医療現場で治療に当たられている医師の方が、医薬品の投与等に関連すると考えられる有害事象を選択して、それを副作用として製薬企業が情報を収集しております。国際的な規則に従って、必要に応じて企業は各国の規制当局に報告をしております。
 特に、グローバルに事業を展開する製薬企業では、世界各国から得られる副作用に関するあらゆる情報を医学的に評価し、当該医薬品の安全性を評価し、それを基に適正使用の対策を講じております。抗がん剤による治療、特に先端医療のもとでは、何をもって適正使用とするか等、ほかの医薬品に比べますと判断が大変難しく、製薬企業で集積・評価する副作用情報と、救済目的の副作用認定との間に乖離が生じる可能性が、ほかの医薬品より大きくなることも予想されます。その場合、国際的な安全性評価の混乱を招く恐れとなります。
 仮に抗がん剤による健康被害の救済が日本でなされる場合には、製薬企業の抗がん剤開発を躊躇させることにもつながります。特に、現在、日本市場にあります抗がん剤の約4分の3以上が、欧米製薬企業により創製されたものでございます。今後も日本の製薬企業が開発する抗がん剤に加えて、欧米製薬企業の開発する抗がん剤も、日本のがん治療の場において大きな役割を果たすことが期待されます。これは、国内外の製薬企業を問わず、抗がん剤開発へのいわゆるディスインセンティブとなってしまうことを大いに危惧するものでございます。
 また、未承認薬、適応外薬を含めて、いわゆるドラッグラグの解消に努めている製薬企業の行動を全く逆行させて、ひいては日本の患者さんの抗がん剤アクセスに多大な悪影響を及ぼすということを大いに懸念するものでございます。医療イノベーション推進、新成長戦略といった国の政策も踏まえて、特に抗がん剤の健康被害の救済につきましては、その影響を十分に踏まえた慎重な御検討等をお願いするものでございます。
 以上でございます。ありがとうございました。
○森嶌座長 ありがとうございました。
 それでは、御質問あるいは御意見等を賜りたいと思います。いかがでしょうか。
 どうぞ、中田委員。
○中田委員 中田と申します。私、企業年金関係の制度設計を専門にしている者なので、薬剤については素人ですので、素人の素朴な質問ということでお考えいただければいいと思いますが、将来の見通しについて2点、それに関連してもう1点ということで、3点ほど御質問させていただきたいと思います。
 まず、将来の見通しですが、これはまだ決まっておりませんけれども、仮に何らかの被害救済制度というものを想定するとした場合は、現状の把握は勿論重要なんですが、現状把握に加えまして、今後の見通しというものが非常に重要になってくるということで、2点ほど御質問したいんです。
 1つは、通常、薬の副作用というと、何万分の1とか何十万分の1というオーダーで議論されることが多いと思うんですけれども、抗がん剤の場合は、この検討会でお聞きしましたところ、死亡率だけでも1%とか2%ということで、ほかの薬に比べて非常に高いレベルになっているということがございます。
 それで、1点目の質問ですが、今後研究開発されて、10年あるいは数十年ということを考えた場合に、抗がん剤の副作用というのは、ほかの薬並みに抑えることが可能なのかどうか、その辺の将来の見通しについてお聞きしたいのが1点目でございます。
 2点目ですが、抗がん剤の使用量を見ますと、最近非常に急速な伸びを示している。10%とか20%とか。特に、これは輸入剤と言うんですか、輸入された薬剤が多いと思うんですが、非常に高い伸びを示しているということでございますけれども、この傾向は中長期的に、10年ぐらいのところで見たときには、やはり同じように続くものなのかどうか、それが第2点目です。
 それから、双方に関連してですが、3点目の御質問でございますけれども、抗がん剤服用による被害者というか、副作用被害者を見ますと、日本で現在、毎年1,000人単位ぐらいで恐らく出ているんだろうと思います。これは、この検討会でいろいろな資料をお示しいただいて、死亡者だけでも1,000人単位で出てきているということがございます。
 これは、世界で見れば、恐らく万人単位で出てきていると考えると思うんですが、これに対して、製薬企業あるいは製薬業界はどのように対処しておられるか、あるいは対処されようとしているか、この3点でございます。よろしくお願いいたします。
○森嶌座長 お答えになる前に、今の3点だけでお答えになるとあれですので、とりあえず御質問をお持ちの方は提起していただけないでしょうか。何かありますか。どうぞ。
○藤村委員 藤村と申します。先ほどの御質問の中の1点だけ、とりあえず。
 もし救済制度が導入されれば、因果関係の認定が必然的に緩やかにならざるを得ないだろうという見通しだろうと思うんですね。それは理解できます。その場合に、具体的な例を挙げて、こういう場合にこう緩やかになるということがもし参考としてあるならば、御指摘いただけませんでしょうか。そうすると、もっと具体的な理解ができようかと思います。
○森嶌座長 そのほか、今の時点でいかがでしょうか。どうぞ。
○壇委員 壇と言います。血液内科をやっておりますが、1つは、現行の救済制度に対する医薬品メーカーとしての評価はどういうことなのか、お聞きしたいのと、もしそれがあれば、その理由をお聞きしたいと思います。
 それから、ディスインセンティブとなるというお話でしたが、それをもうちょっと御説明いただければ。その理由がもうちょっとはっきりしません。
○庄田参考人 よろしいですか。御質問はここでちょっと。
○森嶌座長 それでは、40分まで、ずっとお答えにならないで、なるべく簡潔によろしくお願いいたします。どうぞ。
○庄田参考人 今、中田委員が御質問された内容、私、3つだったかと思います。
 1つ目は、抗がん剤は残念ながら重篤な副作用が現在避けられない、限界があるが、これが今後どうなるだろうという御質問かと思います。
 製薬企業は、当然ながら有効性が高くて、安全性の高い医薬品、これは抗がん剤についても日々努力しております。したがって、例えば、個別医療、個別治療ということで、患者さん個人個人の遺伝子のレベルまで入ったような医薬品が今後開発されることは、大いに期待されます。
 しかしながら、そういう抗がん剤が3年後ですか、5年後ですか、10年後ですかという御質問には、非常にお答えが難しいということで、企業としては安全性が高く、有効性の高い抗がん剤を開発する。これは最大限の努力を払っており、これが何十年後にどうなっていますかというのは、ちょっとお答えは難しい御質問であったと思います。
 2つ目は、抗がん剤の特に輸入が伸びていることが今後どうなるだろうかという御質問だったと思います。
 先ほどの意見陳述の中でも申し上げさせていただいたように、現在、日本で使用されている抗がん剤の約4分の3は、欧米企業が創製したものである。一方で、いろいろな疾病の中でも、がんという疾病に関しては、最もアンメット・メディカル・ニーズの高い領域であるということで、国内外の製薬企業ではいい抗がん剤を出そうと、皆、努力しております。
 日本でも高齢化が進展していく中で、がんという疾病は残念ながら現在でも日本人の方の、私の理解では約3分の1の方が罹患する。場合によっては、がんによって死亡される方の比率も非常に高い中で、抗がん剤というものを医療の場で貢献、使っていただくことは、これからも増えていくだろう。そのためにも、いい抗がん剤をつくるということが我々の使命であると思っております。
 3番目は、このような副作用、特に重篤な副作用に対して、日本を含めて、海外でも、どのように製薬企業が対処しているんだという御質問だったと思います。
 これは、私、この検討会の資料の中に医薬品安全対策の強化がございます。先ほどもお話したように、副作用情報を早期に把握して、明確な注意喚起。特に、添付文書に常に最新の状況を反映する。これは、行政の方と製薬企業が密接に連携して行っていることでございます。そういうことで、少しでも重篤な副作用が起きないような対応をしているというのがお答えでございます。
 次の御質問、ちょっと私、メモしていませんけれども。藤村委員の方から因果関係について、認定と副作用情報収集で差が出てくるのは、具体的にどんなことだろうという御質問であったかと思います。
 これは、場合によって、厚生労働省あるいはPMDAの方からお答えいただいた方がいいかと思いますが、現在の医薬品についても、迅速な救済、それから適正に使用されているという条件の中で認定がなされていると理解しております。そういう中で、科学的に本当に因果関係が否定できないかどうかという追求をどんどん行っていくことによって、迅速な救済ができない。迅速な救済ということを主眼とするときには、基準が緩やかになるのではないかと考えているわけでございます。
 具体的という御質問は難しいですけれども、逆に、現在の日本における医薬品の救済制度における認定と、PMDAで収集されている、企業からの、あるいは医療現場からの副作用情報の乖離について、行政の方から御説明いただけるとありがたいと思います。
 それから、3番目、壇委員の御質問ですけれども、この制度というのは、先ほどのある意味で過失というものによらない患者さんの重篤な副作用を迅速に救済するという制度では、抗がん剤以外の分野では十分に機能しているし、大変大事な制度であるという理解をしております。
 ディスインセンティブは、ちょっと。
○梅田参考人 ファイザーの梅田と申します。私はアメリカ企業に勤めておりますけれども、現地法人の責任者として、日本に医薬品をできるだけ速やかに導入し、患者さんのところへ提供させていただくことを仕事としております。特に、この抗がん剤の分野におきましては、外資系企業は、先ほども現在のところ4分の3ぐらいが海外からの製品ということでございましたけれども、各社とも大変力を入れておりますし、現在も多くの開発をさせていただいております。
 特に最近は、日本において、このような重篤な疾患に対する薬剤を世界同時開発、同時申請、同時承認、同時発売する、ということを理想として掲げて、速やかに患者様のところへお届けしたいと思っております。このために、開発環境や承認審査のスピード、あるいは保険償還、薬価制度など、いろいろな点で日本における制度が、他の諸外国に比べても一番に薬剤を提供できる状況となるべく、少しでも環境が改善される為に、いろいろと提案させていただいております。
 特に最近は、私ども現地法人の立場からしますと、これまで欧米諸国との差がドラッグラグという形で言われておりましたけれども、同じアジアの韓国や中国というアジアの国々においての開発は非常に進むような状況にもなっております。
 そして、市場的にはエマージングと言われる国々が非常に成長しておりまして、ややもすると日本を飛び越して、そういった国々に親会社の関心も行きかねない状況の中で、私どもは日本に親会社がもっと注力して、日本の環境はいいんだ、そこにしっかりと新しい製品を世界同時に出していこうという事の為に、親会社の注意を引き付けることを大変大事に考えております。
 今回、このような抗がん剤の被害者の方の救済のことが議論されておるのですが、私の場合、米国系製薬企業の日本人代表の会合を開催する機会がありますが、現地法人の責任者の皆は、親会社に海外にない、このような状況をどのように説明したらいいのかということ等、正直申し上げまして少し困惑している状況でございます。私どもとしては、何としても日本での抗がん剤開発が進むように、引き続き努力してまいりたいと思っているところでございますが、そういった意味合いのことも含めて、今回のような制度がもし検討されるとなりますと、ディスインセンティブということになるのかなと考えております。
○森嶌座長 ほかに御質問。どうぞ。
○長谷川委員 名古屋大学の長谷川と言います。
 1つは、現行制度における費用負担に対して、どのように評価されているのかということをお聞きしたいと思います。というのは、新しい制度をつくる場合に、財政的な背景も含めてどのような枠組みを作るかを考えなくてはいけないと思いますが、現行制度における負担の評価についてお聞きしたい。
 もう一点は、もし仮にこの制度ができて、費用負担が増加したときに、特に梅田様にお聞きしたいのですが、海外企業がいい薬剤や新薬を我が国に投入しないという行動に出ることを私は懸念しています。その点について、ディスインセンティブの視点でいかがでしょうか。
○庄田参考人 これも第1回の検討会の資料を拝見しました。現在の救済制度に関しては、全くの民事の責任と切り離して、製薬企業の社会的責任に基づく迅速な救済を目的に設計されたものだと理解しております。行政が準備された資料によりますと、決して損害賠償ではなく、生活保障と見舞い的な色彩をあわせもつ、独自の給付制度であると。これは、まさに日本独自の給付制度で、これについて、先ほども御質問がありましたが、ワークしているし、現在、いろいろ医薬品を販売している企業、一般用医薬品も含めて、大変多うございます。そういう意味で、全体でこの負担をしている状況でございます。
 一方で、そもそも抗がん剤の健康被害に対する救済というものについては、抗がん剤あるいはがんという疾病の特性から非常に難しいのではないか、懸念がありますということを申し上げているわけで、決して先に負担がどうだからということで検討されるよりは、本来、合理性が本当にあるのか。がんあるいは抗がん剤という特性を御審議いただきたいという思いでございます。
○梅田参考人 私ども米国系企業としましても、金額のことで、出来るとか出来ないということを議論したことはございません。また、良い薬であっても、負担が大きくなって導入しなくなるのではないかということも、良い薬とわかっているのに導入しないという決定も企業としては難しいわけですので、そのような制度にならないことを強く願っております。
 そもそも私どもは、現在の制度そのものが、抗がん剤であるとないとで、しっかりと線引きしたということよりも、もともとは非常に重篤な疾患に、残念ながら重篤な有害事象が多く出ることがあらかじめ想定されるような薬剤の場合には、患者様に十分な説明をした上で、その御納得の上で御使用いただくという制度であると理解しております。
 そして、それ以外のところについては、日本の場合には補償の考え方があるということで、これは抗がん剤でも有害事象が極めて少ない一部のものは対象になっていると聞いておりますし、抗がん剤以外であっても、今の薬剤では、その疾患に対して重篤な有害事象がかなり出るということは、残念ながら避けられない場合にはどうしますかという制度として、私どもは受けとめておりまして、金額の問題とは考えておりません。
○森嶌座長 どうぞ。
○遠藤委員 先ほど副作用情報などを集積して評価されているということだったんですが、現在、抗がん剤の副作用報告が来たときに、企業としては、それに対する評価は実際にはどのようにされているのか。報告された医師が因果関係があると言えば、そのままにしているのか、それとも因果関係があるとしても、企業としてはそうじゃないのかとか、どのように評価をしていて、またそれに係る時間はどの程度なのかを、わかる範囲で教えていただければと思います。
○庄田参考人 遠藤委員の御質問でございますが、これは抗がん剤に限らず、医薬品の有害事象に関しては、医療現場からの情報を基に、企業の中、それは各社、若干の違いはあると思いますが、医師の方を交えて、それぞれの有害事象が本当に因果関係が否定できないのかどうか。因果関係があるのは非常に少ない事例だと思います。
 因果関係が否定できないことについて、実際の医療現場からの情報を基に、企業内で、私どもの場合には1週間に一度は医師の方、何名かが入られて、それぞれの症例ごとに検討し、必要な場合には国際的な規則に従って、各国当局に対応している状況で、これは恐らく各社とも同じであろうと思います。
○遠藤委員 その場合は、今おっしゃいましたけれども、因果関係が否定できないというか、明確ではないけれども、もしかしたら関係があるということで、実際にこれは間違いなく因果関係があるという症例の方が逆に言えば少ないということなんですか。
○庄田参考人 これはPMDAあるいは厚生労働省の方が各社の情報を全部集められていますので、お答えいただくのに適切かと思います。
○森嶌座長 どうぞ。
○北澤委員 北澤と言います。
 今、ディスインセンティブというお話がありましたけれども、抗がん剤以外にも、例えば免疫抑制剤やリウマチの薬などでも、重い副作用がある薬というのは、ほかの種類でもあるかと思います。にもかかわらず、抗がん剤においてはディスインセンティブになるかもしれないと言われるのは、先ほど言われたようながんという病気の特性にあるとお考えでしょうか。
○庄田参考人 抗がん剤だけを申し上げているわけではありません。現行の制度の中で、厚生労働省の第1回の検討会の資料にありますように、その使用に当たり、相当の頻度で重い副作用の発生が予想されること、重篤な疾病等の治療のために、その使用が避けられず、かつ代替する治療法がないことなどの理由から、副作用被害の発生が予想され、それを受忍せざるを得ないと認められる医薬品ということで、抗がん剤に限ったお話ではございません。
○森嶌座長 どうぞ。
○本田委員 本田と申します。ちょっと細かい話で恐縮なんですけれども、私の理解のために教えてもらいたいんです。
 がんという病気の特性のためというお話が何度も出ましたけれども、がんというのは初期、見つかった当初と、再発、進行がんになってから、その後の転帰に関して大きな違いがあると思うんです。そういう意味では、この抗がん剤が副作用が起きたときに影響しているというのを判定する場合も、そのステージの違いで明確に見えやすいとか、見えにくいということはあるんでしょうか。
○庄田参考人 本田委員、御指摘のとおり、がんという疾病は、進行のステージによって、当然ながら疾病自身の重篤度が違ってくるであろうと思います。御専門の委員の先生方の方がよほど詳しいと思いますけれども。そういう意味では、進行のステージが進めば進むほど、資料で書かせていただきました、まさに原疾患及び合併症の部分が、ステージが進むに従って、より要因として絡んでくるという意味では、有害事象の因果関係が否定できない。その判定の上では、がんの進行の度合いによって判定は当然違ってくるだろうと思います。
○森嶌座長 どうぞ。
○山口委員 済みません、ちょっと話が戻るようなんですけれども、お聞きしたいのが現在の制度に対する評価という点なんですが、現在の副作用救済制度での副作用の因果関係の認定については、薬の開発という点での副作用情報の収集といった点には役に立っていないという理解でよろしいでしょうか。
 もう一つお聞きしたいのが、これがディスインセンティブになるというのが、どうしてもまだわからないんですね。理解できない部分があって。というのは、一方で副作用で救済対象になるというのは、どこも責任がない。適正な使用ですし、医薬品にも欠陥がないということを認めることでもあると思うんですね。逆に言うと、それは製薬企業にとってもよいことではないかという理解もできるんじゃないかと思うんですが。
 それがディスインセンティブになるというのはどういうことなのか。というのは、救済しているけれども、それは救済のためのものであって、適正で欠陥がないということの判断には現在でもなっていないんじゃないか。それで、今後できるとしたら、そういうことが判断できるものにはなり得ないんじゃないかという御判断なのか。そういった点などをちょっとお聞きしたいなと思います。
○庄田参考人 勿論、救済制度による認定の副作用情報も、もともと製薬企業が収集しています中に加えられていきますので、そういう意味では適正使用の情報としては大変意義あるものにはなるとは思います。ただ、救済の趣旨が迅速な救済であって、かつ民事的な、だれに過失があるということを問わないという制度の精神がございますので、先ほど申し上げたように、特に海外等への影響が1つ懸念されることを、ディスインセンティブという言い方で申し上げたわけでございます。
○山口委員 因果関係についてはわかるんですけれども、仮に副作用救済制度の中に入れた場合に、欠陥がないことについても認めることになるんだろうと思うんですね。その点について、それは逆にディスインセンティブにならないんじゃないかという気もするんですけれども、いかがでしょうか。
○庄田参考人 この救済制度に関しては、民事上の責任というのは、過失があるかないかということについては、また別に考えられるということで、救済制度の枠の外に現在の制度もあると理解しております。したがって、救済制度ができれば、企業にもしも民事的な責任がある場合に、それについて責任が全くないということに結び付くような制度ではないという理解でございます。
○森嶌座長 必ずしも今の議論はかみ合ったような感じはいたしませんでしたけれども、時間がありますので、また場合によっては、後ほど文字のやりとりをするということもあるかもしれません。特にこれは聞いておかなければというのがありましたら、では。
○壇委員 最近のイレッサ訴訟で、被害者団体からは、製薬会社も同時に被告にされて訴えられていますね。ああいう場合に、抗がん剤の救済制度がもしあったとして、現行の制度のように迅速な救済がなされた場合には、製薬メーカーの方が訴えられるという可能性が低くなるということは全く考えられないんでしょうか。
 その辺り、私も詳しくはわかりませんが、もしそういうことがあるとするならば、現行の制度の本来の目的は、患者さんに不幸にして出てきてしまった有害事象を迅速に救済して、少しでも不幸の程度を少なくする、それが目的でしょうけれども、副次的には、より大変な訴訟に持っていくような率が非常に減るということもあるんじゃないかと思うんですね。
 それは、多くはその場合には、メーカーが被告ではなくて、主治医側が被告になるのかもしれませんけれども、今回の事件のように、メーカーの方が訴えられるということの可能性が少なくなれば、ディスインセンティブではなくてインセンティブになるという可能性はないんでしょうか。その辺をお聞きしたい。
○中川参考人 訴訟関連の御質問でございますので、私からお答えしたいと思います。
 1つ目ですけれども、検討されている制度の中身は不明ですが、少なくとも現行制度は、救済給付がなされたからと言いましても、訴訟の提起を阻む内容にはなっておりません。そういう意味では、救済給付金で御満足されないケースは大いにあり得ると考えております。したがいまして、この制度によって救済がなされたから、それによって訴訟が大きく減るということはなかろうと考えております。
 もう一点は、今日御説明申し上げた中にも入っているんですけれども、国内で直接患者さんから訴えられる、訴えられないという話とは別に、日本での救済制度による因果関係の認定でもって、海外で何らかの影響が、訴訟関係で出てくることが懸念されますので、そういう意味でも訴訟が減るというのは、むしろ逆の認識を持っております。つまり、国内は余り減らないという認識ですし、むしろ海外で何らかの訴訟を誘発する可能性があると考えております。
○本田委員 先生、1つだけ。
○森嶌座長 はい。
○本田委員 済みません、お答えいただけるかどうかわからないですけれども、患者とか国民にとっては重要な問題で。
 先ほどお金の問題ではないとおっしゃいましたけれども、お金は大きな問題で、この制度ができた際に緩やかな基準で認めていくみたいなこと、もしも今のとおりになったら、そうならないことも当然あるでしょうけれども、そういう場合、その費用というのはかさみますね。そういう部分というのは、患者の薬剤費が高くなるということなんですか。
○庄田参考人 仮に救済がなされる場合に、負担はだれがすべきかという御議論だと思います。その際に、勿論製薬企業のみなのか、あるいはまさに社会全体で負担すべきなのか。その際に、薬価というものは公定されています。その中にそういうものを考慮されるのかどうか、これはまさにこの検討会で御議論いただくべきテーマの一つなのではないか。逆にお伺いしたいという気持ちでございます。
○森嶌座長 それでは、まだおありかと思いますけれども、次の参考人の方も控えておられますので、どうもありがとうございました。
(日本製薬団体連合会退席、全国薬害被害者団体連絡協議会着席)
○森嶌座長 それでは、全国薬害被害者団体連絡協議会からお話を伺いますが、本日は代表世話人の花井十伍様と世話人の近澤昭雄様にお越しいただいております。
 説明を15分程度していただきまして、その後、御質問、その他をいただきたいと思います。では、よろしくお願いいたします。
○近澤参考人 全国薬害被害者団体の近澤と申します。イレッサ薬害被害者の会の代表、そして薬害イレッサ訴訟の原告団団長として2004年から、訴訟の中でがん患者の命の重さを問う裁判を係争中でございます。本日は、抗がん剤の副作用被害救済制度の創設について、一般被害遺族として参考人にお招きいただき、ありがとうございます。
 抗がん剤イレッサの副作用である間質性肺炎による被害で31歳の娘を亡くした経緯を皆様に知っていただくことで、この制度の創設が必要な時期に来ているということを御理解いただき、多少でも皆様の検討の参考になりましたらという思いで参加させていただきました。
 資料といたしまして、意見書を用意いたしました。
 ほかに、昭和57年、厚生省薬務局より出されました「医薬品副作用救済制度の解説」の中から、今回、特に関連する部分のみ抜粋して添付いたしました。
 また、薬害イレッサ全面解決要求書は、訴訟の中で私たちが何を求めているのかを御理解いただければという思いで添付いたしました。
 では、早速でございますが、意見書を読ませていただきます。
 全国薬害被害者団体連絡協議会の近澤でございます。全国薬害被害者団体連絡協議会は、サリドマイド、スモン、薬害エイズ、薬害ヤコブ、薬害C型肝炎、薬害イレッサ事件など薬害事件の被害者の団体です。自分たちと同じような苦しみを味わう人が出てほしくないという思いで、助け合いながら薬害再発防止のための活動などに取り組んでおります。
 私は、この団体のメンバーとして、そして、肺がん用抗がん剤イレッサの副作用である間質性肺炎によって、かけがえのない次女を失った遺族として、これまで、抗がん剤の被害救済制度の創設を求めてまいりました。
 本日、このような機会を与えていただきましたことを誠にありがたく思っております。意見を述べさせていただきます。
 今からちょうど10年前の2001年9月、娘の三津子はがんと宣告されました。三津子は29歳で、それまでは病気とは全く無縁でございました。がんと知ったとき、三津子は、一たんは悲痛な声を上げたものの、「病気に負けたくない。きっとがんを退治してみせる」と力強く答えてくれました。長い抗がん剤治療にも弱音を吐かず、脱毛などの副作用にも気丈に明るく振る舞いながら、8か月間の抗がん剤治療を頑張り抜きました。
 2002年7月の半ば、がんの情報を集めているときに、インターネットでイレッサについて書かれたサイトを見つけました。「夢のような新薬」「副作用が少なく、自宅でも手軽に服用できる画期的な肺がん治療薬」などの文字が輝いて見えました。雑誌や新聞にもイレッサの記事や腫瘍専門医のコメントが数多く出ていました。どれもイレッサを推奨し、効果は大きく、副作用が少ない、すばらしい薬といったものばかりで、致死的な副作用である間質性肺炎に触れるものなど一つもありませんでした。
 こんなすばらしい薬なら、三津子に何としても早く飲ませてやりたいと思い、8月15日から1日1錠、通院でイレッサの服用を始めました。私も三津子も、この薬を信頼しておりました。
 しかし、49錠目の10月3日、主治医から肺に気になる影があると言われ、緊急入院となりました。先生にはいろいろと手を尽くしていただきましたが、容態は日ごとに悪化するばかりでした。酸素マスクの酸素量はいっぱいになっているのに、息ができない、苦しい、何とかしてと涙を流し、顔を引きつらせながら三津子は訴え続けました。横になると息苦しいため、体を横にすることもできず、上半身を起こしてベッドに座っていなければなりませんでした。
 呼吸苦がひどいときには、酸素量を100%に上げても苦しい様子で、もっと酸素を増やしてと懇願するような目で酸素量を調節するコックを見ていました。部屋には三津子のぜいぜいという息遣いと、があがあという酸素を送る音だけが響きわたりました。緊急入院してから15日間、三津子は頑張り抜きました。
 そして10月17日、三津子はベッドに座ったままで力尽き、息絶えました。ベッドに横になることもできず、座ったまま娘が息を引き取ることを見送らなければならないなどと、想像もしていませんでした。これがイレッサの副作用、間質性肺炎の苦しさだよと、身をもって私に伝えるかのように、地獄のような苦しみの中で三津子は亡くなっていったのです。
 最愛の娘を失った悲しみの中で、2004年から、私は同じような被害を受けた仲間とともに、企業と国を被告とする裁判を始めました。イレッサの承認前、企業や国には、国内外の多数の重篤な間質性肺炎の副作用報告が次々と集まり、その中には死亡例も多数含まれていました。そういうことはきちんと警告をして知らせてほしかった。がん患者にとって情報は命です。三津子の死をむだにしたくない。教訓を薬害防止やがん医療に生かしてほしいという切なる思いで裁判を続けております。
 どうせがんなんだから、抗がん剤を服用して死んでも仕方がないなどと言われることに対し、がん患者の命の重さを問いたいと裁判を続けております。その私たちの思いを具体化したものが、添付した薬害イレッサ問題の全面解決要求書です。ごらんのとおり、その要求の大きな柱の一つが、抗がん剤副作用被害救済制度の創設なのです。
 医薬品副作用被害救済制度は、薬害スモン訴訟の闘いを通して、1979年に創設されたものです。スモンの被害者は全国で2万人とも言われ、全国各地の30以上の裁判所で訴訟が行われました。原因はキノホルムでしたが、企業はウイルス説などを唱えて争い、差別が広がり、自殺する人も出ました。そのような中、被害者は被害に苦しみながら裁判を闘い抜きました。
 そして、和解成立後、もう二度とこのような被害が起きないようにと願って、薬事法の大改正を実現させ、また副作用被害救済制度を創設させたのです。苦しい裁判をしなくても、副作用被害者は迅速に救済されるようにという、スモンの被害者の方々の願いが結実してできたのが救済制度なのです。
 医薬品は、副作用によって被害を受ける人がある一方で、多くの人に利益をもたらします。それゆえに、社会的に受け入れられているのです。そうであれば、被害に遭われた方については、皆で補償しようというのが救済制度の精神です。
 当時の厚生労働省薬務局が編集した「医薬品副作用被害救済制度の解説」という本の抜粋を添付します。スモン、サリドマイドという2つの薬害事件の教訓を踏まえ、世界に類を見ない我が国固有の制度を創設するという意気込みで、制度創設に携わった方々の情熱と救済の必要性などが記されています。当時は、新制度を創設するというだけでも大変な事業であったことがわかります。その経緯の中で、生物由来製品による感染被害と抗がん剤の副作用被害は除外されたのでした。
 しかし、血液製剤による薬害エイズ、ヒト死体硬膜による薬害ヤコブと生物由来製品による感染被害が発生して訴訟となり、2004年に生物由来製品等感染被害救済制度が創設され、生物由来製品も救済の対象となりました。生物由来製品は、いわば臓器由来の製品ですから、危険を伴います。それでも、治療に必要な製品として認められている以上は、被害を受けた人の痛みは分かち合おうという救済制度の原点に立って新しい法律をつくったのです。
 こうした救済制度の精神に照らせば、今やがんの治療に欠かせないものとなっている抗がん剤を、救済の対象から除外したままでよいという理由はないはずです。
 抗がん剤については、重篤な副作用が多く、患者はそれを覚悟して使っているのではないかと言われることがあります。しかし、副作用救済制度の目的に照らすと、患者が重い副作用を覚悟していたのかどうか、重い副作用が多いかどうかは、救済すべきかどうかとは関係がないと思います。
 現在、救済制度の適用を受けているほかの医薬品の中にも、重い副作用を生じさせることがわかっているものもありますが、重い副作用だから救済しない、重い副作用について知らされていたから救済しないといった扱いにはなっていないのです。
 がんの種類や病状、被害の程度による救済の必要性の違いもないと思います。余命が限られたがん患者が、抗がん剤の副作用で死亡した場合に救済を受けることに疑問を示す人もありますが、患者は、たとえ余命が限られていても、少しでも長く生きたい、家族と過ごしたいと、抗がん剤を使うのです。三津子もイレッサに希望を託して使用していました。ですから、抗がん剤の副作用で被害に遭った以上は、やはり救済してほしいと思います。
 私たちが抗がん剤の副作用被害救済制度の創設を訴え始めたころ、これに耳を傾けてくれる人は多くありませんでした。そこで、せめて死亡したときくらい救済してほしいと訴えたこともあります。しかし、死亡に限定せず、抗がん剤によってがんの進行は抑えられたが、副作用で苦しむことになったという患者さんも救済されるようになれば、本当にありがたいと思います。
 抗がん剤の副作用被害の判定については、困難なケースがあるかもしれません。しかし、因果関係の判定が困難な場合があるというのは、他の医薬品でも同じではないかと思います。疑わしきは救済するという救済制度の基本理念に立った上で、時間をかけて検討を重ねれば結論を出せるものと思っております。
 救済制度の適用を受けるには、適正使用であることが必要ですが、抗がん剤治療では適応外使用が少なくないことをどう考えるかという指摘もあります。確かに適正使用かどうかは、添付文書を基準に判断されるのが基本のようですが、適応外使用=不適正使用ではなく、現在の救済制度のもとでも、適応外使用が救済される場合があると聞いております。
 また、がん患者は、適応外使用について、医学的な根拠や必要性などについて十分な説明を受け、インフォームドコンセントがあれば、副作用被害救済制度の適用を受けられない可能性があると聞かされたからといって、必要な治療を断念するようなことはないのではないかと思います。医師も患者も、万が一被害を受けたときに救済の対象となるかどうかより、治療の必要性を重視するはずです。
 薬害裁判を闘うことは、被害者にとって、時として人生をかけるようなことにもなります。私は、三津子の死をむだにしたくないという思いで裁判を続けていますが、訴訟は被害者にとって余りに重い負担です。かつてスモンの被害者が救済制度をつくろうとした気持ちが、私にはよくわかります。裁判を起こさずとも、迅速に救済され、そして教訓が生かされる世の中であってほしいと願います。
 製薬企業には、社会的使命、社会的責任として、抗がん剤の副作用被害救済制度を支えていただくことを望みます。また、この制度が副作用被害発生の抑制につながることも願っています。
 これまでの医薬品副作用被害救済制度の中に組み込む形がとれるのか、補償の内容等をこれまでとは別の形にした方がよいのではないかなどの課題については、お集まりの委員の先生方により整理検討していただければと思います。新しい制度を創設するということは決め、その上で、課題については制度設計を工夫することで、是非とも乗り越えていただきたいのです。
 そのために必要であるならば、本検討会の議論の時間も十分にとっていただきたいと思います。私たちは、早期の制度創設を求めてまいりましたが、急ぐ余りに時間切れで創設は無理という結論が出てしまうことは、本意ではございません。
 医薬品副作用被害救済制度は、日本が世界に誇るすばらしい制度です。薬害被害者の悲願として制度が創設されてから30年が経過した今、抗がん剤を救済の対象とすることは、必ずや将来のがん患者、被害者に恩恵を残す事業になると信じております。
 娘の墓前に報告してやれることを願っております。何とぞよろしくお願いいたします。ありがとうございます。
○森嶌座長 ありがとうございました。
 それでは、御質問あるいは御意見、どうぞ。
○山口委員 それでは1点お聞きしたいんですけれども、医薬品副作用被害救済制度は、日本が世界に誇るべきすばらしい制度ですとおっしゃっていることは、私も同感です。私が評価している点は、先ほどの議論もありましたけれども、確かにこれで救済されたからといって訴訟を起こすことはできる。
 けれども、この枠組みの中ではだれも責任がない。だから、皆、きちんとやっていたということが要件となって、救済されるというものだと思うんですね。ですから、医薬品の方にも欠陥がないし、お医者さんもきちんとやっていたということ、この枠組みの中ではそういうことになるかと思います。
 お聞きしたいのは、例えばイレッサについても救済の対象になるということは、今回の場合において、求めていることと反対のことになる可能性があるんじゃないかとちょっと思ったんですね。というのは、訴訟ではイレッサに欠陥があったということを社会に訴えたいという意図があったのではないか。きちんと警告されていれば有用性があるけれども、警告上の欠陥があったということを訴えたかったということだろうと思うんですけれども、これが救済の対象にしてくれということになると、逆の方に作用してしまうんじゃないかと思います。その辺をどうお考えでしょうか。
○近澤参考人 まず、私が本日参加させていただきましたのは、イレッサ訴訟の原告として参加させていただいたと思っていないんですね。イレッサによる副作用によって娘が死亡した。だから、あの被害は一体何だったのか。そして、あんなにたくさんの、わずか2年5か月の間に557人もの死亡被害を生んだイレッサの被害というものを、果たしてこのまま見過ごしていいのか。これは副作用被害の救済制度の形の中で、何らかの副作用の被害を救済する時期にもう来ているのではないかという思いから、私は参加させていただきました。
 ということは、訴訟と離れた考えの中で、私はこのイレッサの被害ということを基本に、抗がん剤の被害救済制度が開かれるということはあると思っております。ただ、その中では、訴訟と離れた考え方をするべきではないかなと、私は原告としては誠に悔しい思いではございますが、そのように考えているところでございます。
○花井参考人 イレッサ訴訟について、近澤さんの方から話があったんですが、私は薬害被害全体の代表の立場から、非常に難しい論点を出されていると思うんです。実は、薬害とは何かというところで、一般的な一番狭い意味では、国やら製薬企業に不法行為があって、それを国家賠償訴訟なりの裁判をやる形になっているんですが、実際には患者は自分たちの苦しみから救済されたいところから入っている。
 勿論、それが訴訟になると、それは弁護士という専門家が入って、そこで不法行為の認定にいろいろな戦略を立てていくわけですね。国もそうですけれども、裁判になった瞬間に両極端の極論を闘うことになるわけで、そこで薬害という問題として社会にあらわれてくるわけですが、必ずしも私たちはメーカーの不法行為を認めさせたいと最初から思うわけではない。
 被害者には訴訟というのはかなりハードルが高くて、エイズのときも裁判をやる人間の方が周りからやめてくれと言われる中で、だんだん話が立ち上がってくるわけです。近澤さんは一生人生をかけることになりかねないというか、薬害被害者の裁判は皆、人生をかけているものばかりで、かなり特殊です。
 だから、救済制度が立ち上がった時点でも、裁判の大変さというか、被害者が被害を抱えながらそれをやることのつらさから、こういうものが考えられたと思うし、メーカーからしても訴訟というのは大きなリスクなので、ある程度それは無過失、無欠陥のところで、救済ということを前提に調和していこうという制度設計だと思うんですね。
 だから、説明にならないかもしれませんが、例えばタミフルがあります。タミフルの例は、あれは薬害とマスコミ的には言っていたりしたんです。ところが、実際には彼らが言ったのは、副作用救済制度で認定してほしいという行政訴訟なんです。
 被害者の彼らからいうと広い意味で薬害であるとの主張もあったと思いますが、薬害被害者団体の理解は少し違っていて、訴訟を起こすということは、タミフルは薬害ではないですよ。つまり、欠陥性がないということを行政訴訟によって主張することになっていて、それはいわゆる不法行為を認める薬害とは違った話ですねという議論がありました。
 だから、救済というものに対して、まず患者は一義的に考えるという形から考えると、イレッサの場合は、結果的には確かに論理としては矛盾しているように思われるかもしれませんが、患者の主観的世界から言えば、裁判になったから、そういうロジックが強化されているとも、一方で言えるという面があることを御理解いただきたいと思います。
○森嶌座長 どうぞ。
○中田委員 中田と申します。私、主として企業年金などの制度設計を仕事にしている者ですが、そういう面から1つ御質問させいただきたいんです。
 通常、薬の副作用と言いますと、何万分の1とか何十万分の1ということで重篤な被害が出てくるのが普通だと思うんですが、抗がん剤の場合は、この検討会のお話によりますと、死亡者だけでも100人に1人とか2人という非常に高い率で出てくるということでございます。
 そうしますと、例えば現行の被害救済制度ですと、死亡の場合が700万円ぐらいで、年金の場合は月20数万円ということですが、そういったレベルの給付にしますと拠出が非常に莫大になる。現在ですと、製薬業界だけに拠出を求めているわけですけれども、製薬業界としては、趣旨、その他、ある程度理解したとしても、とても拠出として受け入れがたいということが出てこうようかと思います。
 そうした場合に、給付額を低くしたり、給付範囲を絞るということが必要になってくる場合も考えられるわけですが、そこは近澤さんの文章の5ページの7番目に少し書かれているんですが、何らかの形で救済することが必要だということが結論として出れば、中身については余り問われないと考えてもよろしいでしょうか。これは近澤さん個人の意見なのか、それとも団体としての全体の意見なのか、その辺お願いいたしたいと思います。
○近澤参考人 確かに抗がん剤を使用した場合は、必ず副作用というのは重篤か。重篤でない副作用というのもたくさんございます。白血球の減少から、吐き気、頭髪が抜け落ちるという問題はたくさんございます。しかし、抗がん剤治療を終わりまして3か月、半年以内では、ほとんど回復していると私は認識しております。
 その中で、なぜ副作用被害まで拡大した救済制度を求めたのかということになりますと、先ほどの意見書の中でも私たちが訴えておりましたが、当初は死亡被害については救済してほしいという考えを私は持っておりました。しかし、できることであればという枠を広げました一つの大きな理由としましては、SJS、スティーブンス・ジョンソン症候群みたいな被害についても救済はできないのかという問題が出てくる。
 では、それをどうするのか。これは委員の先生方に議論していただき、副作用被害という中で救済が図れることがあれば、私たちとしては本当にそれがありがたいことであるということで、副作用被害全般に考えて意見書の中で意見を述べさせていただいたということでございます。
○花井参考人 今の御意見ですが、団体として。11団体で、基本的に抗がん剤というよりも、除外医薬品があるということがずっと私たちの不満というか、残念な点だったので、除外医薬品をどうやってなくすかということをずっとやってまいりました。抗がん剤の場合も、試算してみると、同じように救済するとなるとかなり厳しいなというのは、私どもも了解していて。それがゆえに、さっき近澤さんが言ったように、せめて死亡例はという言い方で、11団体連名で、ずっと合意した紙として出しています。
 私たちは、死亡というのも「せめて」というので出しただけで、要は除外医薬品をなくしてほしいと。その内容については、経済的調和とか、いろいろな調和が必要なので、私どもは、これよりは上だということは言っておらず、むしろこの制度を成立させることが私たちの願いです。
 それによって、例えば急にメーカーのインセンティブが下がってドラッグラグが大きく広がるとか、もし問題があるなら、そんなことは願っていないわけですから、そういうことがないように調和させて、しかしながら除外医薬品をなくす方向でとりまとめをお願いしたいという趣旨ですので、これは被害者団体、少なくとも11団体に関しては一致した意見として申し上げられると思います。
○齊藤委員 一橋大学の齊藤です。近澤さんには娘さんを亡くされまして、お悼み申し上げます。
 先ほどの論点に関係することなんですけれども、過失責任を問うて製薬会社にいろいろな賠償を求める、家族のこうむった精神的負担も含めて経済的な損害賠償を求めるというのは、もし製薬会社に過失があれば、勿論そういうことをやるべきだと思いますし、それを明らかにするのが裁判の場だと思うんですけれども、この制度では、逆にお医者様も製薬会社も、基本的には最善の努力を尽くして過失がない状態で生じてしまったことに関して、その副作用について救済する制度だと思うんです。
 そのときに、そういう中にあって、がんという治療方法がさまざまにあって、かつ、先ほどの製薬会社の議論にもありましたけれども、どういうことをやっても非常に厳しい状況になることがわかっている中で、もし副作用が発生しました、制度で救済しますといったときに、その救済される対象というか、方法が、果たして経済的な救済なのかどうかというのがどうしてもぴんとこないんです。
 非常に複雑な状況の中で、失われる利益みたいなものが非常にあいまいにしか定義できないような状況で、過失が何もない状態で、何を患者や家族の方が経済的な救済の形で求められているのかというのが、どうしても理解できないんです。
○近澤参考人 私の場合で本当に恐縮なんですけれども、ごくごく個人的な私の考えとして述べさせていただきますと、まず訴訟を起こすというのは、先ほどの皆様のお話の中で、副作用被害の中で、皆に何らかの被害が起きた場合には、これは救済であろうと私は思っております。でも、裁判の中では、決して私たちは救済は求めていない。あくまでも補償であるという考え方を持っております。補償と救済というものは、私は根本的に違っていると。
 裁判というのは、医療過誤として訴える場合は、大体1年半から2年で裁判は結審を迎え、判決が得られる可能性が多いと思います。でも、私たちの場合、薬害裁判として、国と製薬企業なりを相手として闘う場合は、まかり間違えばという、言葉としては全くあれなんですけれども、10年かかる裁判になる可能性を含んでいる。その中で果たして補償を得てペイできるかというと、全くペイできない闘いになっております。
 なぜかというと、御存じのように、私たちの裁判の場合は、2つの地裁で、東京と大阪で争っております。その東京と大阪を行ったり来たり、年間に40回の裁判が開かれるということになると、費用的には自費で動かなければなりません。
 では、仕事はどうするのか。仕事をしながら裁判を続けることができるのかという、原告としてのさまざまな大きな問題をクリアーしながらやっていくことになると、私個人としましては、仕事をやめて無職となって6年になります。全く無収入の中で、果たして裁判をやってペイできるかどうかというのは、全く考えることはできない問題なんです。
 では、その中で裁判をやる理由は一体どこにあるのかというのは、私たちは補償を求めるのが大きな目的の一つではなく、分子標的薬では、イレッサとタルセバが主に今、使われておりますが、タルセバでは訴訟としてはまだ一件も起こされておりません。これはなぜかという問題をイレッサに当てはめて考えるべきではないかと思います。それがイレッサには欠けていた。その欠けていたことを、今後二度と繰り返してほしくない。
 だからこそ、インフォームドコンセントをしっかりとって、タルセバのような全例調査をし、そのような方法をとっていけば、訴訟というものは、そうそう繰り返されるものではないと私たちは考えております。
 以上でございます。
○森嶌座長 ほかに。どうぞ。
○本田委員 本田と言います。
 済みません、私も先ほどの委員とちょっと感じていることが同じなのかもしれないですが、後半の方のお話は本当に心情としてわかるんです。補償と救済は違うということをおっしゃっていましたけれども、副作用をこの制度の中で認めることの目的というのは、救済が目的だとおっしゃっていました。
 済みません、私の頭もクリアーじゃないんですけれども、救済とは何なのかというのが、何がしかのお金なのか。でも、先ほど花井参考人からは、額とかそういう話ではないんだと。社会として成り立つようなものでないといけないんだとおっしゃっていました。では、それが何なのかというのがあれば、教えてほしいなと思ったのと。
 あと、4ページ、5ページの辺りで私が疑問に思っているのは、制度をもし設計するという際に、初めはせめて死亡とおっしゃっていましたけれども、どの方も救済されるべきだと書いてあるようにも読めるんですけれども、一方で適正使用という部分で、適応外使用の場合についてはというくだりには、適切な十分な説明を受けていれば副作用被害救済制度の適用が受けられない可能性があるといっても、治療を断念することはないという感じのことを書いておられるので、ということは、こういう方々は対象じゃなくてもかまわないという理解でよろしいんでしょうか。
 ここがちょっとクリアーにならなかったんです。
○花井参考人 近澤さんの説明は、薬害の原告として、今、立ち上がっている心持ちであると思います。そのとおりだと思うんですが、私たち団体としましては、まず救済はお金じゃないかということだと思います。ましてや、死亡された遺族の方がお金をもらったから、それで納得するのかということは、確かに納得されない方もいるかもしれないし、それはよかったと思うかもしれないんですが。
 基本的に私たちが考えているのは、医薬品を使う上で、安心して使える環境の一端として、この制度があるという考えであって。その中で医薬品ごとに除外されるものがあることが、制度としては足りないという観点から、ずっと申し上げてまいりました。したがいまして、死亡に限るか限らないかというのは、死亡に限らないから、今と同じようにやると、これはとんでもない金額になってしまうし、大変な数になるなということで、運動的にはせめて死亡にはと主張してまいりました。
 10か月しか生きられないと言われて、12か月生き延びる効果を期待して、3か月で亡くなられると言うのは、確かに説明は受けたけれども、これは受忍しがたいというのは、社会的に見ても理解されるかなという観点から申させてもらいました。
 それから、適応外使用に関しましては、実はこの救済制度全体の問題としてもちょっと議論されていまして。つまり、適正に使用しなかった場合という項目が救済給付の対象とならない基準にあるんです。この扱いによって、逆に医師側としても書きにくくなる理由になっていて。今、オフラベルとかアウトオブラベルとか、いろいろ言い方があるようですが、適応外でも実際には救済されているという実態もあって、そこをクリティカルにどこまでやるかというのは、今、適応外使用の議論が添付文書の議論の中でもかなりぎりぎりやっていて、これは全体の問題として考えなければいけないと。抗がん剤特有の問題とは、基本は考えていません。
 ただ、抗がん剤救済制度を考えるときに、適応外、オフラベルを全部だめと言ってしまうと、これは通常の医療現場にあるがん治療の実態と相当乖離するんじゃないかということを考えて、抗がん剤に関して制度設計するのであれば、ある程度クライテリアを決めた適応外をつくる必要があるのかなと。これはこの中の議論なんですが、そういうことをうちでは議論して、そのようなちょっとわかりにくい書き方になっているわけです。
 だから、実態から言ってしまえば、抗がん剤治療は適応外使用は当たり前じゃないかと本音としては思っているわけです。現場は、患者にとっても、医師にとっても、当たり前の医療行為として行われているものなんだから、そこは容認されるべきじゃないかと考えているわけです。ただ、制度上は、これをいかにやるかということに関しては、いろいろな整理とか合理性とか整合性という問題があるので、そこは是非工夫していただきたいという趣旨です。
 だから、さっきの救済をお金で何を求めているのかという意味に関しては、個々の患者の主観世界の中ではいろいろあると思いますが、少なくとも医薬品を使って被害を受けた者たちの思いとして、医薬品を使うリスクはあるんだけれども、それを運の悪い人だけが運が悪いということじゃないようにしたいということですので、そういうふうに御理解いただけたらと思います。
○森嶌座長 大分時間が過ぎておりますので、できるだけ簡潔にお願いしたいと思います。
○壇委員 先ほどの日薬連の参考人の方々にお聞きしたのをお聞きだったかもしれませんが、あの方々の立場からすると、仮に抗がん剤の救済制度ができたとしても、訴訟の数自体は全然減らないんじゃないかというお考えでした。日薬連の方々とは、180度ぐらい立場が違う被害者団体側からして、もしもこういう制度ができた場合には、国とか製薬メーカーを相手取った訴訟の数というのは、全く現行と変わらないとお考えなのか、多少は違うとお考えなのか、ちょっとお聞きしたい。
○花井参考人 実際訴訟をやっている近澤さんが答えるのも厳しいものがあると思いますが、薬害被害者全体からすれば、私がいろいろな薬害を見た限り、これは明らかに訴訟は減ると思っています。どうしても見捨てられて、見捨てられて訴訟に踏み切っているわけで、生活もありますし、私もこれに関わった以降は、人生はないわけです。こればかりで、被害者は、サリドマイドもそうだし、スモンもそうだし、皆、そうなんです。そんなことを人生として選ぶ人はいなくて、ある程度そこで対応ができれば、わざわざ訴訟に行くことにはなかなかならないと。
 ただ、先ほどメーカーさんが言っていた、日本の救済制度をもって海外のどこかの国で、日本という国でこういう因果関係があるとなったじゃないかということを向こうの訴訟のネタにして、海外で訴訟が起こるんじゃないかという懸念については、これはあるのかもしれないし、ないのかもしれない。私どもからははっきりしたことは言えないですが、明らかに薬害訴訟化するリスクは減ると考えていますし、いわゆる幾つかの薬に関しては、この救済制度でバックアップすることによって、訴訟に至らなかった例もあると承知しています。
 特に、薬害と副作用というのを皆が必ずしもクリティカルに概念として理解しているわけじゃないし、一般には薬害だと主張されるということもあるので、通常、私どもから見ても、これは客観的に副作用被害だなという感じのものも薬害だから訴えるとおっしゃる方もいるんですが、いや、それは副作用なので、救済制度がございますよと御紹介して、そういう問題ではないんじゃないですかということも相談ではやっていますし。国内では、裁判はかなり減る方にきくんじゃないかと考えています。
○近澤参考人 私も、裁判としてはかなり減ってくるという考え方を持っております。その大きな理由として、この救済制度が創設されたことになりますと、個々について、その中で取り決められて、医師はそれを患者に伝え、そしてその方向に治療が進められると思います。イレッサのような自宅で服用させる。そして、全くの注意喚起もない状況の中での使用方法。たとえ抗がん剤であるということから考えても、あのような使用というのは二度と起きないだろうと私は考えております。
 ということからいきますと、このような被害救済制度の中で枠を決めていただけると、各臨床の先生たちはそれを患者に伝える。そして、患者はそれを納得して治療を受ける。これはお互いがいい状態の中で治療が行われ、そして最期は安楽に亡くなっていく状態が抗がん剤の治療で求められておりますので、訴訟としても、患者の立場からしても、かなり件数的には減っていくだろうと私は思っております。
○森嶌座長 3人続けて発言していただくことにしましょうか。どうぞ。
○藤村委員 1点だけ。
 救済が個人に対してなされなければならない理由ですね。制度として、例えばがん医療そのものに対して、そこで問題にされている製薬会社負担の金銭を充てるとか、そういう形で全体の中に救済の目を向けるという視点と、個人に対して救済することをどう区別されるのか。全体に対する救済ということでは、なぜいけないかというか、とても難しい問題ですから、そこの区別はどういうふうにお考えになっているのかをお聞かせください。
○森嶌座長 今お答えになりたいでしょうけれども、ちょっと覚えておいて、祖父江委員、どうぞ。
○祖父江委員 救済はお金の額ではないという趣旨の発言がありましたけれども、財源として一定の額というのがあると思うので、基準を緩くすれば、それぞれの人に行く額は減るだろうし、ある一定以上の額を確保しようと思えば、ある一定の基準が必要だと思うんですけれども、制度としてはどちらの方向性がいい制度だと思っておられますか。
○森嶌座長 質問を忘れてしまうことのないように、覚えておいてください。
 それでは、北澤委員、どうぞ。
○北澤委員 今の祖父江先生の質問と似ているんですけれども、5ページの7番に補償の内容等をこれまでとは別の形にした方がよいのかなどの課題は、委員が整理検討すると書かれています。だれに対して、どんな補償を、もうちょっと具体的に言うと、どのぐらいの額でというところで、制度設計と非常に関係があると思うんですね。個人的なお考えもあれば、お聞かせ願えれば非常に助かります。
 もう一つだけ。この制度は、現行上は救済された人が訴訟はしないことにするというのではなくて、救済されても訴訟することは可能なことになっているんですけれども、思考実験として、そういうことをやめてみる。救済したら、もう訴えないことにするという制度であればどうでしょうか。もし御意見があれば教えてください。
○森嶌座長 それは憲法違反ですから、だめですよ。
 どうぞ。
○花井参考人 まず、全体の救済と個人というのは、私は考えたことがなかったんです。例えばメーカーとして患者会活動に助成するということは、別途考えるということはあっていいし、更にがんの研究をしている研究費をそっちへもっと回すということも全体のことなんだけれども、そういうことで私どもは考えたことはなくて、医薬品の副作用を受けた個人が被害を受けたときに、それに対応するものとして、この制度を考えていて。
 全体でだめなのかということは、被害を受けた全体という趣旨なのか、もしくは患者さん全体という趣旨なのか、ちょっと。患者さん全体という趣旨ですか。
○藤村委員 ですから、がん全体の医療という形で還元していって、そしてその中でがんの個々の苦しみの救済に資してもらおうという観点です。ですから、お薬の被害ということについての個別的な救済という観点とは、ちょっと違ってくるんですよね。
○花井参考人 そういう枠組みはあっていいと思うんです。ただ、この制度をつくらないかわりに、そっちをつくるからねという話になるんであれば、そこでちょっと検討せざるを得ないと思いますが、今のところは考えたことがなかったので、今後考えてみます。
 それから、広く浅くかみたいな議論だったと思うんですけれども、これは全体で共有した意見というのは、今のところ死亡に限ったらどうかということでしかないので、個人的意見もちょっと入ってしまうかもしれませんが、抗がん剤治療にトライアルするということは、患者さんからすれば、それなりのリスクを考えている。多分こういう制度を議論していても、こんな議論をされたせいで薬が出なくなったらどうしようとおびえているぐらい、患者さんは追い詰められていると想像するんですね。
 だけれども、そう考えたときに、余り広く浅くというのは、その実態からしてもそぐわなくて、基本は確かにインフォームドコンセントを受けたけれども、さすがにここまでは考えていなかったなという方向で行くとすれば、死亡例か、がんは治ったけれども、重篤な後遺症で、がん以外の薬による後遺症だということがある程度わかった感じのイメージで。厳密にどういうふうに設計するかは、まだ言えないですけれども、重い方向で絞る方が、何となく私どもの主張と整合的な気がします。
 もう一つも同じような御質問だったですね。そういうふうに考えています。
 それから、思考実験として、これはもう訴訟しないようにしろ。恐らくそういう設計にしたところで、むしろ私どもの考え方からすれば、薬害というのは相当程度、不法行為というところにあるので、いわゆる産科医療の無過失補償制度が今いろいろ議論になっていますけれども、本当はこの基金で救済すべきじゃない、つまりむちゃくちゃ不法な行為が国やメーカーにあったとすれば、本来、制度運用者が求償すべき設計になっていればきれいじゃないかなと思っているんですね。
 ここを言うと、お医者さんの萎縮の話しが出るんですが、こんなむちゃくちゃな使い方をして、患者の個人的なオーバードーズでやっているのに、これは違うだろうというときは、1回救済されたにしても、本来そこは違う、あなたの責任でしょうと言って返してもらうか、言い方はちょっときついかもしれないけれども、医療過誤で病院に責任を問うべきじゃないのという制度にしてくれる方が、患者としてはいいし、制度としても整合的じゃないかと思います。
 だから、訴えない約束でというのは、制度設計としても苦しいんじゃないかと思います。重大な不法行為があって被害が広がってしまうと、この制度があっても絶対薬害訴訟になると思います。ただ、抗がん剤の場合はそこがかなりグレイになっていて、更に本来、薬害訴訟的にならない方がいい領域だし。
 私たちが必要とした、HIV治療薬でも、一番最初はほとんど無審査で持ってきてくれと主張しました。ドラッグラグのはしりみたいなもので。そのときにもかなり副作用がいろいろあったんですけれども、また薬害かとはだれも言わなかったです。副作用で亡くなった人もいますけれども、最初は抗HIV薬は除外医薬品でした。だけれども、それでまた薬害だと言った被害者はおらず、そこは患者からすると余り矛盾を感じていない世界ですが、制度となるとそれぞれの当事者間で矛盾が生じる。
 ということなので、繰り返しになりますけれども、基本的には本当に不法行為があれば、当然これは訴える権利があるのだから、もしそれで救済してしまえば求償するという制度設計が一番きれいだと考えています。
○森嶌座長 ここで座長が言うべきことじゃないのかもしれませんけれども、もともとこの制度というのは、医療とか医薬品の場合に因果関係あるいは過失等について、非常に素人である、あるいは患者の方からは立証しにくいということがあるわけですから、それについて、先ほどの話もありましたけれども、訴訟を起こすわけにはいかない、起こそうと思っても起こせない人たちに、それほど迅速じゃないかもしれませんけれども、救済を与える。
 それを医薬品の業界の社会的責任において救済することによって、結果的には訴訟を起こさないで済むようにしようというのが、もともとの制度の趣旨でありますから、我が国固有の制度というよりも、むしろもともと薬害訴訟に悩まされた業界の方で何とかしようではないかと。国も訴えられているわけですから、国も何とかしたいということでできているわけです。
 ですから、もともと不法行為が明らかなときに、その訴訟をやめさせようと思ってつくった制度ではなくて、ボーダーラインのときに、いわばアドミニストレーション、訴訟コストをかけて、被害者に対して負担をかけるということを、国民経済の面から言ってもまずいのではないかという趣旨です。世界に冠たるかどうか知りませんけれども、ともかく訴訟が減ったことはたしかですし。
 結局、今起きている薬害訴訟というのは、今の状況だと救われないから、皆さんもやむを得ず無理をして、先ほどの近澤さんではありませんけれども、職をなげうってでもやって。そこで先ほど言われたように、全く引き合わなくても、ともかく信念でやるほかない。これは、損害賠償というよりも、こうなったら皆のために、是非ともこれを明らかにしなければというので、初期の公害なんか皆そうだったんですね。引き合わないことをわかっていてやっている。そして、弁護士の方も手弁当でやる。我々学者もみんな手弁当でやったわけです。
 ですから、その意味では、こういう救済制度をつくっていると、訴訟との関係で引き合うのか引き合わないのかという質問自体が、どうもあれなので、訴訟は訴訟で存在していいし、救済制度はまた別の目的を持ってるし、また原因究明というのは別の形で存在すればいいですし、そういうものが一体となって社会的に医薬品の安全とか、あるいは被害者のそれこそ救済と言いましょうか、どう図っていくかというのは、それは国の政策あるいは被害者の立場に立って、どれだけのことができるかということだと私は思っているんです。
 花井さんは、その点ではいろいろなところで、今日は参考人ですけれども、今まで委員としてもいろいろな形で参加しておられるので、これが終わりかどうか知りませんけれども、ある段階で、また御意見を伺うことになると思いますので、またその際にはよろしく。花井さんの意見をそのまま聞くという保障はいたしませんけれども、制度設計する段階で御意見を伺うことになるかと思いますが、その際にまた是非御協力いただきたいと思います。
 今日は、お忙しいところありがとうございました。
(全国薬害被害者団体連絡協議会退席、日本癌治療学会着席)
○森嶌座長 それでは、大分お待たせをいたしましたけれども、次に参ります。
 それでは、日本癌治療学会からお話を伺うことにいたします。押せ押せでお待たせして申しわけございませんでした。
 本日は、理事の杉山徹様と、第49回学会集会会長の西山正彦様にお越しいただいております。
 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
○西山参考人 西山でございます。お手元の資料5を見ていただきながら御説明させていただきたいと思っております。時間が押しておりますので、早速中身に入らせていただきます。
 この問題はかなり深くて、すぐに結論が出るという問題ではないと、日本癌治療学会としては把握しております。一番最初のページ1でありますけれども、その中である程度のコンセンサスがとられた部分という形で、今回の最終資料をまとめさせていただきました。したがいまして、今日御説明しております私ではなく、理事長の名前となっております。
 2ページ目をごらんください。
 現在の日本癌治療学会の会員数と、その内訳であります。日本癌治療学会は、現在のところ、がんに関する治療で最も大きい学会であります。1万7,354名、その中で、外科が8,427名、内科が2,293名等となっておりまして、これは今、日本で実際にがん治療に当たっている4つの大きな治療に関わる医師の総数と、ほぼ等しいと考えております。
 外科治療、薬物療法、放射線療法、そうしたすべての治療方法に関して、緩和医療もそうですけれども、ほとんどの領域を網羅している横断的な学会であるということを、まず最初に申し上げます。
 それで、今までお話がございましたけれども、抗がん剤の問題を考える際に、基本的なスタンスを確認しておきたいと思います。今までの議論を聞かせていただきましたけれども、かなりあちこちに飛び火しているようで、少し整理したいと思っております。
 まず、医師は、がんだから、抗がん剤を使ったから副作用で死んでいいということを思う人種では一切ない。それから、がんというものは大変に難しい病気であるけれども、最善を尽くすことが私どもの使命であると考えているということを、最初の段階で申し上げたいと思っております。
 本日のディスカッションに関しましては、その下に書いてございますけれども、私は犯した罪は明快にして償うべきだと考えております。これは過失ということでありまして、事故あるいは被害というものは、この過失の中に入るだろうと考えております。
 私ども医師にとって、患者さんにとって、治療の利益を与えることが第一でありますけれども、その次にどうしても避けなければいけない治療不利益をいかに回避するか、回復するかということが2番目の大きなテーゼであります。その際に、もしその中でどこかに過ちがあれば、これは確実に責任・補償になっていくものだと自覚しております。
 ただし、一方で、本日議題になっております救済制度というのは、だれも悪くない、無過失である。要するに、民事に当たらない。けれども、患者さんが大変つらい思いをした。これをいかに救うべきか、その対象はどこまでかというお話だと思っております。この際に私どもが考えなければいけないのは、インフォームドコンセントの仕方がいい、悪いという問題ではなくて、こうした社会性の中で、だれの責任でもないものを、どう扱うかということに集中したいと思っております。
 その際に必要になる項目は、4ページ目になりますけれども、それが本当に必要な制度か、合理的・公平な制度か、実現性・実効性がある制度なのか、維持可能性がある制度なのかということについてのディスカッションで一番重要なことは、現在の実地基盤を知っていただくことだと考えております。
 次の5ページ目をごらんください。
 実は、がん治療というのは極めて特殊な制度であります。今までもいろいろなお話をされてきましたけれども、ほかの治療とは一線を画す治療であります。
もちろん、その中には、医療に共通する点もございます。
 1つは、いかなる治療であってもリスクを伴う。
 それから、治療応答には厳然とした個体差があるという点です。これは、すべての医療の原点であります。
したがいまして、治療を行う際には、患者さんに必ずそのことを説明して、その上で患者さんに選択していただくことが、医療の原則となります。
 がんにおいて非常にやっかいなのは、自分の体の中にできた非自己であるという点です。例えば胃の粘膜であるとすると、同じ胃の粘膜ができてくるのが正常です。ところが、その同じ胃の粘膜から、いろいろな遺伝子の変化があって、これ以外のものができてきて、それが不制御に動いてしまう。どういうことかというと、がん細胞にはもともとの正常細胞と同じ形質を持っている部分が多々あるということです。
 ですから、がんをやっつければ、当然のことながら正常細胞もダメージを受ける。このことは、現状において生物学的にやむを得ない状況であることをまず御理解いただければと思います。
 勿論、各学会ともに、あるいは学者も医者もすべてでありますけれども、がんに特徴的なものを見付けて、それだけを制御できれば、がんだけを葬り去れ、副作用は全くないということになる、こうした治療薬をつくろうとして懸命に努力しておりますけれども、そうした生物学的な難しいバックグラウンドがあるので、がんにおいて、今のところ副作用は不可避という状況であります。
 これから更にどんどん研究が進展することで、そのバックグラウンドがわかり新たな治療薬が出てくるかもしれませんけれども、少なくとも当座において、がんの生物学的な背景の特殊さが治療の特殊さを生んでいることを御理解いただければと思います。
 そうした状況なので、がんを確実に治癒に導く薬物療法は、いまだありません。がんは局所の病ではなくて、全身の病です。早期の場合には局所だけの切除で何とかなりますけれども、それ以上進んだ段階、すなわち薬物療法の対象になるのは全身に散らばった段階です。その中では、どういう段階のがんであっても、どういうがん種であっても、確実に治癒に導く方法は、まだほとんどありません。
 こうした段階では、ほかの治療法であったとしても、長い時間をかけてインフォームドコンセントをとる。インフォームドコンセントというのは、主語は患者さんです。患者さんが情報を受けて、自ら同意することであります。それを受けてやっているわけであります。がんの場合、さらに特殊なリスクを負っているがために、その治療に関してインフォームドコンセントをとらずに進むことは、現状の医学においてありません。
 ただ、そうした中であっても、医学の進歩はきわめて急速であります。既に私どもが常に維持しなければいけない医学の知識というのは、300万種を超えています。疾患の数は、合併症を考えますと3万を超えるという状況です。1人の医師がすべての段階のがんの患者さんを見切ることは、ほとんど不可能であります。こうした中で、がんの治療は、臨床研究の中で患者さんに確実に利益を与えるといったものを積み上げていって、それを公の第三者が確実にそれを判定していくというエビデンスに沿った治療方法、ガイドラインに沿っての治療を行う状況になってきています。
 なおかつ、1人で1人の患者さんを診ることは、ほとんどなくなってまいりました。1人の患者さんに対してベストの治療を提供するということから、複数の医師が、また専門性の違った医師が集まって、その患者さんの治療方針を一緒になって議論していくというチーム医療が今、急激にひろがっています。まだ、このエビデンス・ベースト・メディスンあるいはチーム医療というものが、100%とは決して申しませんが、この方向に向かって進んでいるということです。
 このがんの治療の特殊性ということを御理解いただければと思います。
 その中でも、がん薬物療法に関しましては、副作用をどうしても避けがたい状況だと判断されるために、非常に難しい適応の原則がございます。
 Performance status<2、かなり全身状態のいい方でないといけないということが決められておりますし、臓器機能がしっかりと保たれていること、何よりも、先ほどから繰り返しお伝えしていますように、適切なインフォームドコンセントに基づいて、患者さんから文書による同意が得られていることがない限りは、がんの薬物療法は選択されません。
 また、重篤な合併症を有しないことも原則になっております。
 しかしながら、これほど元気な患者さんというのは、ほとんどいらっしゃいません。私どもが治療を選択する場合、この適応に沿った形で、これは必ず効果をもたらす可能性が高いという標準的治療だけを選んでおりますと、患者さんは手術だけで、次の治療はないことになりますし、ほかに合併症を持っている方は治療を選択できない状況になります。その中で治療を選んでいくわけですので、こうした部分においては、患者さんの同意なしに前に進むことはできないわけであります。
 次のページ7をごらんください。
 がんの治療の場合の進め方であります。まず診断がつきますと、インフォームドコンセントをとって、標準的治療に最初の段階で入ります。この標準的治療というのは、先ほど来申し上げておりますように、確実に患者さんにとって現時点において利益をもたらすであろうと言われている治療方法であります。
 ところが、残念なことに、これが効かないことになりますと、その後にあるのは研究段階にある治療になります。適応外のものであるかもしれないし、新しい臨床研究として確実な形として患者さんに提供できるものかもしれません。全部これらを説明した上で患者さんに御選択いただくことになります。当然、最初の段階から患者さんが研究段階にある治療を選ばれる場合もございますし、その逆に、全く無治療を選ばれる患者さんもいらっしゃいます。いずれにせよ、他の治療の可能性と危険性をお話した上で治療を選んでいくという形で進んでいきます。
 副作用に関しまして、次の8ページをごらんください。
 先ほど来、副作用の頻度はどの程度かというお話でした。これは、塩酸イリノテカンという、もう既に広く使われている、世界的にも使われている標準薬なんですけれども、これだけございます。例えば骨髄機能抑制、汎血球減少(頻度不明)、白血球減少(73.4%)好中球減少(60.2%)等々。この中で重篤なものについては、既にかなりの症例で使われていても、敗血症(頻度不明)というように、すべてが明らかになっているわけではありません。一人ひとりの患者さんがすべて違った応答を示す。顔形が違うように、薬剤に対する反応は一人ひとり違います。
 こうした中で、これだけの頻度ですべてのものを予測し、患者さんに対して適切な治療を行うことについては、ある程度限界があるということを御理解ください。インフォームドコンセントの段階でも、患者さんにこれらのことをすべてお話するのに、実に大変な時間もかかりますし、何よりも患者さん自身がこれらを理解することは大変に難しい状況です。
 私どもは、基本、患者さんに治療不利益を与えてはなりませんので、いかにリスクを回避するかということで、次の9ページにございますように、こうしたわかりやすいもの、いろいろな患者さんに対してガイドするようなパンフレットを配りながら、一つひとつの標準的治療について説明していくということを行っております。
 片や、臨床研究では、もっと厳しい状態でインフォームドコンセントが行われます。当該臨床研究への参加は任意であることや、患者さんがこれをやめても不利益でないこと。そして、未知の副作用が出る可能性があること。要するに、危険性を御理解いただいた上で入っていただくということなどが厳密に決められております。
 したがって、11ページのように、がんに関する臨床治験、研究に関しては、保険が付きません。これはなぜかということになりますと、危険を受け入れた上で行われるものだから、です。そういうことが保険上、定められていて、この状況の中で補償を与えることはできないことになっております。
 次のページをごらんください。
 患者さんにとって一番重要なのは、実は副作用ではありません。効果であります。何としてでもがんをやっつけてやりたい。したがって、可能性のあるものにチャレンジしたいんだというところが、治療選択の第一歩であるように思います。この何としてでも治りたいというときに、私どもは懸命にご協力するわけですけれども、その治療には当然、今言ったようなリスクが伴います。しかも、私どもでも予測できない未知のものが多々あるという現実の中で、がん治療が行われているということになります。
 確実な治療を早く受けたい。よい医者、よい病院にかかりたい。すなわち、患者さんが求めていらっしゃるのは、生きるために、次の可能性の高いものにという強い御希望であります。これにこたえていかなければならないというのが現状であります。
 そうしたことを考えますときに、先ほどのお話もありましたけれども、情報が患者の命でございます。救済制度ということを考えますと、(いずれの場合においても副作用が不可避の状況:こうしたがんのバックグラウンドを考えると)、正直な話、今のままですぐに適応するのにはかなり無理があると考えます。むしろ、ここでやらなければいけないのは、がんとはこういうもので、がん治療とはこういうもので、そうした正確な情報を提供することが第一だと思います。
 がん医療環境の整備をしていかなければならない。それは、社会に認知を得ること。そして、がん医療レベルを向上させること、安全対策を強化させることだと考えております。
 次のページをごらんください。
 私どもは、学会として最先端の科学的な情報を冷静に患者さん方に伝えるということを心がけてまいりました。3年前から、開かれた学会という形にして、患者さんにお入りいただいて一緒に勉強していただく。2年目には、問題点をお互いに理解した上で、今年はその解決に向けて進もうということをしております。
 早くからがん治療に関する正確な情報を与えなければいけない。がんになる前からのがん教育が必要だろうということで、今年は児童生徒に対するがん教育というのを始めます。同時に、患者さんの教育プログラム。患者さんが何を知らなければいけないか、何を知りたいかといったことについての教育プログラムを、自分たちでお互いに一緒になって選んでいこうということもしております。
 また、インフォームドコンセントに関して、第三者の、医療側でも患者さん側でもない、その間の大きなギャップを埋める、例えば標準的治療について、よく説明していただけるような新しい職種、がん医療コーディネーターの養成にも乗り出します。
 更には、より新しい、安全な治療ということが患者さんの願いであることから、パンエイシアで、アジア全体で、そのためにはまずは大きな国からトライアルを行っていこうという、そのことに関して、中国のがん治療学会や韓国のがん治療学会とともに、フェデレーションをつくろうという動きもしております。
 すなわち、薬害あるいは不幸な転帰をお迎えになられた方々の御無念を晴らすためには、こうした形で新しいよりよい医療を提供していくことだと私どもは考えております。(補償のために)民事のものと、民事でないものとを振り分けるという議論も不可欠ですが、こうした形の、より求められるものに対して、しっかりとこたえていく。という姿勢が今、あるべき姿なのではないかと考えております。
 以上であります。
○森嶌座長 どうもありがとうございます。
 それでは、中田委員、どうぞ。
○中田委員 中田と申します。
 標準的治療というのは、全国で同じような方法で広く行われているものでしょうか。例えばA病院とB病院では、標準と言っても標準が違うということはないのかどうかというのが1点です。
 それから、現在の副作用被害の救済制度では、薬に付いている添付文書というのをベースにして副作用の判断がなされているということのようですが、標準治療というものをそのように位置付けることが可能なんでしょうか。
 この2点をお願いします。
○西山参考人 お答えしてよろしいですか。
○森嶌座長 はい。
○西山参考人 まず、標準的治療ということですけれども、ようやく日本全国に広がってまいりました。今、がん診療連携拠点病院のうち、最初に選択される治療の95%は標準的治療ということです。これは、患者さん方からの今までの強い訴えとして、A病院に行ったらAという治療が、B病院に行ったらBという治療あるからいいと。何の根拠があるのかということでしたので、こうした中でガイドラインを各学会単位でつくってまいりました。その中で標準的治療というものが浸透してまいりました。
○杉山参考人 杉山と言います。
 その標準的治療が全国の中でどのくらい広がっているかという御質問だったと思いますけれども、今、西山先生おっしゃったように、がん拠点病院等では95%、標準的治療がなされていると思うんですが、日本では抗がん剤処方が開業医もできるんです。どこでも出せる。だから、一般病院で標準的治療が必ずやられているかどうかの詳細な情報が私たちに上がってきません。その辺が1つ問題です。
○西山参考人 もう一点は。
○中田委員 その標準的治療が、今もおっしゃられた拠点病院では、少なくとも95%はされているというお話だったんですが、添付文書をベースにして、例えば保険の制度を組むようなことができるかどうか。
○西山参考人 基本的に標準的治療というのは、臨床研究の重ねの上に次から次へと出てまいります。標準的治療というものをエビデンスに沿って判定していく。それをガイドラインとして示すのは、学会単位です。お薬の認可ということは、学会単位ではありません。ただし、当然のことながら、抗がん剤が出てまいりますと、それに応じていろいろなエビデンスが出てまいります。それは、添付文書の中にも、こうした使い方でという形のものは当然示されております。
 ただ、それ以外にも、単剤としても安全で使えるという、私たちはトリートメントオプションと言いますけれども、そうした状況でも使えるような形にもなっております。ですから、必ずしもそれがニアリーイコールということではありません。
○森嶌座長 どうぞ。
○齊藤委員 貴重なお話、ありがとうございます。
 最後のレジュメの15と16のまとめのところなんですけれども、先ほど、このレジュメ自体が学会の前原理事長の名前で出したということで、学会の中でかなりコンセンサスを得た形で報告されているということだったんですけれども。この15と16は、そういう中であると、抗がん剤の救済に関しては、かなり慎重な態度を書かれているんですけれども、この辺のニュアンスを少しコメントいただけるとありがたい。
○西山参考人 今まで申しましたように、民事に当たらない、過失のないものについては、今のところこの救済制度というものを当てはめるのは難しい状況だと考えているというニュアンスだとおとりください。
 それは、もともとがん治療のベースが、るるお話してきましたような段階ですので、この段階で未知のものを予測することは難しいですし、今、ここでディスカッションになっている抗がん剤という領域が余りにも広過ぎる。この中で行っていくということは、現状のがん医療のレベルや、更に前に向けてのがん医療のレベルにとって、メリットは少ないだろうと考えているというニュアンスだとお考えください。ただ、まだ検討の余地は多くあるので、それらについてはもう少しちゃんとした形でディスカッションしていく。
○杉山参考人 学会でも議論はされたんですが、現時点でのがん医療の科学的水準からして、抗がん剤の副作用を効果と切り離して考えることは難しいんですね。抗がん剤というのは、もともとは何からつくられたかというと、毒ガスですね。毒ガスから発展して、いろいろな薬ができてきたわけで、先ほど西山先生が言われましたように、がん細胞というのは自分の細胞ですから、がん細胞ごと、自分の正常細胞もやられてしまうわけです。
 だから、効果の出る投与量と、ひどい毒性が出る投与量が非常に接近しているんです。それに、患者の状況、年齢等によっていろいろ使い方が異なってくるということになります。だから、起こった事象を一律に考えて救済するということが非常に困難になっているのではないかと考えております。
 それから、私、産婦人科医ですが、参加無過失補償があります。あれも考えてみますと、もし救済するのであれば、先ほどの話と逆で、少しハードルを下げた方がいい。本当に不幸な転帰は、企業が悪い、抗がん剤が悪いわけでは多分ないと。医師が悪いわけでもない。そういった無過失で起こった、本当に不幸な事象を補償するとなれば、低いハードルで、そのかわり産科補償でやっているように患者さんたちが負担しないといけない。
 産科でも、お産した人たちから一部お金をもらっています。開業医からのお金も入っている。それから、企業に求めるなら、企業は多分莫大な開発費をかけていますから、その上にまた補償のお金がかかってくるとなると、間違いなく薬剤費が上がることになりますから、どっちにしても患者さんの負担が増えることになるので、なるべく低いところで抑えた方が、公平、一律性ということをするのであれば、と思います。
○遠藤委員 明治薬科の遠藤です。
 薬学なので、お薬のことはいろいろわかりましたが、今回の先生の最後のまとめのところなんですが、この制度ができたときの医師に対しての影響というのが余りはっきり書かれていないんですが、先生の個人的な考えでも構いませんので、教えていただきたいのですが、救済制度をつくろうとしたときに、いわゆる進行がんとか再発のがんは非常に難しいんですが、例えば術後のアジュバントなどで抗がん剤を使う場合の被害を救済をするのはどうなのかというのと、
先生方がよくやられている臨床研究や治験の場合は補償もないですね。もし治験をやるのであれば、企業が保険に入ったりすることになると思うのですが、臨床研究だと先生方が独自にやられるので、そういうところへの影響について今後、もしこういう制度ができたとき、臨床研究への影響をどう考えられているのかお願いします。
○西山参考人 まず、この救済制度をつくった場合、この専門の委員会でもあちこち難しいように、訴訟の問題、すなわち民事の問題と、それから非過失の問題とが一緒になってくる可能性があるんです。今、医療現場は、がんの医療だけではなくて、かなり厳しい状況にある中で、必ずしも私、訴訟が減るとか、あるいはこうした救済制度によってシンプルな形になるとは思っておりません。
 むしろ、患者さんにとってみると、御無念な気持ちもありますし、そうしたものについての訴訟が多分増えるだろう。救済制度のことも出てくるだろう。こうしたことは、現場の医師にとっては、一生懸命やっている場合特に、そうした気持ちをかなり引き落とす要素にはなると思います。まして、新しいものに対して、臨床開発というところに対しては、危険を犯したくないという気持ちが働かないとは、私は言えません。そうしたこともあって、少なくともモチベーション的にも、実際の現場の混乱ということを考えますと、その可能性が否定できないと考えています。
 同時に、製薬企業の方々は営利企業でありますので、どんどんコストがかかっていくということから、国全体で新しい医療開発をしていくべきときに、(治験を)日本に持ってこなくなるという危機感を実は感じております。御存じのように、ただでさえ日本では開発コストがかかる。それから、時間がかかる。いかに質が高くてもという状態がある中で、患者さんにとって新しい医療を一刻も早くという要望にこたえるのに、そうした意味ではちょっと後ろ向きになる可能性があるという感覚は、個人的に持っております。
○杉山参考人 先生、今の追加でいいですか。我々はグループで、NPOでがん治療の臨床試験をグローバルで展開しているんですけれども、それには海外からの要望もあって、無過失的な、毒性で重篤なものになった場合は、補償できるような体制をとってほしいということもありまして、ある保険会社に頼んで重篤な副作用を補償できるような。これは、我々がそれぞれお金を出し合って、あるいはバックアップしている企業から少しお金をいただいたものを補償に回しているということがあります。
 それから、製薬企業も先ほど言われましたように、開発に莫大な費用がかかっているわけです。いろいろな抗がん剤が開発される段階で、3,000種類ぐらいの開発が始まったとしたら、そのうち製品は1つぐらいなんです。それだけ莫大なお金がかかっている。それから、海外から言われるのは、日本はクオリティーは高いけれども、コストが高くて遅い。
 ここにまたこういった状況が加わってくると、更にそのスピードは鈍りますね。医師も萎縮してくると思うんです。幾ら無過失救済だと言っても、日本では免責制度がないから、訴訟が少なくなる、多くなるという議論はあるかもしれませんけれども、多分訴訟は起こってきますから、医師は萎縮する。
 すると、最初は使っても、再発して、危なくなるから何回も抗がん剤を使わなくなりますね。再発で、1回の抗がん剤で済まない人は何種類も使っていって、患者さんのQOLを保ちながら長く生存してもらうという方法をやっていますので、そういう段階で、逆にあなたはもう治療がありませんという医師が出てくる危惧もある。そういうがん治療現場がかなり萎縮してくるという危惧を持っています。そういうことは、がん患者にとっては、すべてマイナスな方に作用するんじゃないか。
 それから、不幸な転帰の方々は本当にお気の毒と私は思いますけれども、救済するかの議論は、まだ時期が尚早ではないか。もう少し議論を積み重ねて、あるいは本当にどういった患者さんを救うべきというところに持っていかないといけないのではないか。
 と同時に、国はもっとほかの方法を考えていく。がん治療をどこの病院でもできるというのは、やはりおかしい。いろいろな学会も努力して専門医をつくっているんですが、国が一体化したがん治療専門医をつくるとか、あるいはがん拠点病院機能を高めて治療側のレベルも上げていく。
 それから、我々学会で今、取り組んでいるように、患者さんも教育して、患者さんもがん医療を知ってもらわないと、到底追い付いていけないですね。患者さんがお任せだったら、全く先に進まないということがある。お互いに勉強し合って高めていって、どこかの時点でこういった救済制度ができればと思います。
○遠藤委員 ありがとうございます。
○北澤委員 よろしいですか。
○森嶌座長 はい。
○北澤委員 北澤と言います。
 がん治療学会は、いろいろながんを専門とする先生が集まっておられると思います。その抗がん剤というのを一くくりにするのではなく、がんの種類とか、先ほど遠藤先生からもアジュバントのどきはどうなのかという御質問もあったんですけれども、抗がん剤を使うタイミングということによって細分化して、これはちょっと難しいけれども、ここからだったらできるんじゃないかという考えはないでしょうか。
○西山参考人 そうした考え方を詰めていく段階だと私たちは思っています。例えばアジュバントにした場合、当然のことながら、これは再発予防のために行うので、患者さんのがんは進んでいない場合があります。その中で、副作用で不幸にも亡くなられた。これは、だれがどうやって診るのか、患者さん(のお気持ち)をどこに持っていけるのかという問題が出てくると思います。
 ただし、このことについては、がん種、ステージ、標準的治療という形で細かく診ていかないといけないと思っています。むしろ、今の御質問は、私たちの方が提案したい内容で、今そうしたことを一つひとつ詰めていって、本当にしなければいけない部分を明らかにして、そこをターゲットにして話をしない限り、全部を一くくりの中で、民事も非過失も、過失もみんな一緒の状態の中で議論されてつくられる制度は、かなり危ないのではないかと思っております。
○倉田委員 今日はありがとうございました。
 私は、医療の受け手の立場で参加させていただいているのですが、先ほどの13ページのがん医療のレベルの向上ということと、それから7ページの標準的治療のところでも教えていただきましたが、全国のがん拠点病院での標準的治療は95%とおっしゃっていて、片や一般病院ではどうだかわからないというお話を伺いました。
 標準的治療でそれですと、その後の再発になったときの治療などは、もっとわからないということでしょうか。一般病院ではどういうふうになっているのか。
○西山参考人 これはがん種によっても違います。標準的治療がまだ手術だけのところもあります。抗がん剤治療として、術後の、例えばきれいに取り去った後に行うことで患者さんの生存予後が延びるものが標準治療になっている場合もありますし、あるいはかなり進んだ段階の患者さんの中で、何もしないより、確実にこの治療をした方がいいという段階の方もいらっしゃいます。
 ですから、標準治療と言っても、各ステージや、その内容がかなり複雑なんです。今、ざっくり話をしたのは、どの段階のどのがんであっても、最初に必ず少なくとも標準的治療のお話をする。患者さんがそれを選ばれるかどうかについては、100%ではありませんけれども、そういうお話です。
 恐らく、現状において、一般病院でのお話というのは、そうした初期治療だとか入院しなければいけないとか、外来で通院しなければいけないところに関しては、余り手を出していないと思います。徐々に分業というものがはっきりしてきたのと、エビデンス・ベースド・メディスンという考え方がかなり広がってきた。先ほどの専門医のお話もありますけれども、そうしたものについての教育機会もかなり増えて、いろいろな専門医制度が起きてきた。
 がん治療認定医というのはもう1万人を超えています。それらがすべて機能しているかどうかは別として、だんだんとそうした専門分業の概念が広がってきていることは事実です。ですから、10年、20年ほど前のがんの医療の現場とは、大きく違っているということだけは言えるのではないかと思っています。
 ただし、小さな診療所の先生方に、あなた方は標準的治療をしていますかというアンケートを行ったとしても、しているという返事しか来ないと思うし、実態をつかんでいくのには、もう少しちゃんとした科学的な根拠というか、そうした形のものが必要だろうと思います。
○杉山参考人 それも、例えば岩手と埼玉ではかなり違いがあります。埼玉は比較的そうなってきて、岩手は広い面積の中で一般病院がやっているわけですね。一般病院ががん治療も何もかもやっている。そういうのが現状で、津波があって、患者さんに沿岸地区の病院から盛岡に来て治療を受けなさいと言っても、お金がないとか時間がない。地元の病院で受ける。そこには専門医はいないわけです。
 そういった問題も起こってきているので、我々はなるべく人を出しながら努力はしているんですけれども、まだ追い付いていないところがある。だから、一律ではないですね。それから、再発がんになると、標準治療はほとんどのがんで、ない。
○森嶌座長 よろしいですか。ありそうな顔をしておられる。いいですか。
○本田委員 一言済みません、伺いたいことは大概皆さんが質問してくださったので、1つだけ確認というか。
 さっきおっしゃった、まずすべきことは、がんとはこういうもの、がん治療とはこういうものということを、患者、国民の皆さんが知るようにしていくことだというのは、私は本当に賛成なんですけれども、そういう観点から1つ、ささいなことなんですけれども、教えていただきたいんです。
 これまでの議論の中で、これは想定以上の副作用被害だというか、そういう場合は、仕組みがあっていいんじゃないかということを被害者団体の方がおっしゃっていて、それはなるほどとも思うんですけれども、では、これは想定以上の副作用被害というものは、どういうことがあるのか。具体的な話を聞きたいんです。例えば私がちょっと疑問に思ったのは、例えば余命が12か月だったものが3か月、4か月になる、それはひどいじゃないかとおっしゃったかと思ったんです。
 私のがんに対する理解では、そういう本当に厳しい状況になったら、その辺は読めないもではないのかと思って。逆に、補助、アジュバントのときとかに、それが亡くなってしまったというのは、かなり大きな問題なのかなとか。それはがん種によって違うのか、少しそういう具体的な視点を教えていただきたいんです。
○西山参考人 基本的に、例えば因果関係をたどるときに、これは祖父江先生の御専門ですけれども、あるお薬を使ってみて、その中で重篤なものが出てきたということから言えば、そのお薬自体に原因があるということがわかります。実は日本は世界に冠たる市販後調査のレベルなんですね。そうしたものを生かしていくことで知ることができる。
 2つ目は、先ほどの予後のお話なんですけれども、実は予後を適切に把握できる医者はいません。これは、この段階の患者さんが、この治療をすると、大体何%生きるという今までの経験の数値からの類推値です。ですから、ある人は同じ段階のがん種でも3か月間で亡くなられる場合もあるし、更に5年間以上生きられる方もいらっしゃいます。これは、あくまでも全体としての統計としての数値であって、めどなんです。ですから、予後が短くなった、短くならないというのは、その時点では判定ができません。
 ただし、明らかなのは、余り強調してはいけないんですけれども、がんが全く体になくて進展していない。だけれども、お薬を使って、それで何らかの形で亡くなられたという状況は、これはそれとは違うのではないかとは思います。ですから、先ほどアジュバントの話がありましたけれども、そうしたものについて、もう少し細かく見ていく必要があるのではないかとは思います。
 ただ、進行、かなりステージの高いもの、それから再発がんに関して、個人としての因果関係を突きとめること、それから医療上の不利益を予後から見ることについては、大変に難しい課題だと思います。そこの部分は、これから実際に十分な積み重ねと検討が必要だと私は思います。
 アジュバントに関しては、比較的早い段階から、そうしたものについて調べてみる価値はあるのかもしれません。個人的な意見です。
○森嶌座長 どうぞ。
○壇委員 先ほどからおっしゃっているがん医療をもっと進歩させるべきで、その努力が必要だと。当然過ぎるほど当然で、インフォームドコンセントをもっと広げるとか、がんの専門医のレベルとか治療チームのレベルを上げる。患者さんの方にもがん医療というものをもっとよく知ってもらう努力が必要である。それは当然過ぎるほど当然だと思います。
 ただ、そのことと、こういう救済制度をつくるかどうか、検討するかどうかというのは別問題であって、二者択一では全然ないと思うんですね。全体の論調を聞いていますと、現在の段階では救済制度を検討するのは時期尚早という御意見だろうと思うんですけれども、その根拠、何がどうなったら、この救済制度の検討に入ってもいいとお考えなのか、どこまで行ったら救済制度はもっと検討すべきと思われているのか、そこをお聞きしたい。
 がん医療全体の進歩の方に今は力を入れるべきであって、現在はまだ救済制度はたくさんの問題を抱えているのはわかっているんですが、当然なんですけれども、それでも検討すること自体が時期尚早とおっしゃるのであれば、何がどうなったら検討できるようになるということなんですか。
○西山参考人 これは大変難しい質問で、未知のものに対して、がんが進展していないのに亡くなった患者さんをどうするかというところの定義から始まって、そうした患者さんが実際に、昭和54年ですか、現時点の救済のところからいくと、そういう患者さんが対象になるわけですけれども、そういう患者さんが何名ぐらいいらっしゃって、どの領域の患者さんで、現状はどうかという調査から始めなければいけないと言っているのであって、私は検討をやめろと言っているのではなくて、検討は続行すべきではないか。
 ただし、そうしたときに定義と内容を明快にして、科学的なベースがあって初めての議論ではないかと言っているのであります。ただし、今すぐにやらなければいけないことは、御不幸な状況になられた患者さんを考えれば、すぐにでもできることからやっていきなさいと。ただ、今の時点で、どこまで行ったらできるのか。予後がわかるようになるのか、がんで亡くなったか、副作用で亡くなったかが客観的にわかるという状況は、私はなかなかつくれないと思います。
 ただし、言えることは、今の段階でそうした情報をしっかり集めていって、検討する余地、あるいはしなければいけない部分を明らかにしていく必要はあると思います。継続的な審議が必要だということ。ただ、現時点でこれが必要か、必要でないかということについて、断言してしまう段階ではないという主張であります。
○杉山参考人 追加、いいですか。抗がん剤の効果というのがよくわかっていない。作用機序がすべて、どこに効いて、どうして毒性が出るかというのがすべて解明できていない薬剤です。特に今、イレッサで話題になったように、分子標的治療薬というのは、コンピュータ上で創薬できますけれども、動物実験を経て臨床に使われるわけですけれども、最初の意図した作用と異なる作用が出てきたりするんですね。
 遺伝子のシグナルのがんに向かう増殖を抑える薬は出ても、遺伝子の流れは横の目も縦の目もたくさんあるので、どこでどう曲がって、どう行くかわからなくなることがあるんですね。そういった研究が今、進んでいます。バイオマーカーと言ったり、毒性をきちんとチェックできる研究。
 それから、先ほど西山先生が言われたイリノテカンなどは、DNAを障害する薬ですから、長谷川先生などがやられたように、遺伝子検査で毒性がある程度出る、出ないがわかるようになってきた。もう少し科学水準が上がってくれば、もっと違う議論が私はできるだろう。これは2~3年後か、3~4年後か、5年後かということは明確にお答えできませんけれども、我々は学会として決して救済制度を否定しているわけではない。
○森嶌座長 それでは、これで打ち切りというつもりではありませんけれども、今日のところはこれで、時間もございますので。どうもお忙しいところ、おいでいただきましてありがとうございました。御丁寧な説明、ありがとうございました。
 それでは、ヒアリングはこれで終了したいと思いますが、次回も今回に引き続きましてヒアリングを行うということでございますが、事務局の方から日程等について御説明をお願いいたします。
○鳥井室長 次回の予定は、10月21日金曜日の17時30分から行いたいと思います。場所がまだ決まっておりませんので、これは追って連絡したいと思います。
○森嶌座長 それでは、予定よりも大分遅くなりましたけれども、本日の検討会はこれで終了させていただきます。長時間にわたり、どうもありがとうございました。


(了)

<連絡先>
厚生労働省医薬食品局総務課
医薬品副作用被害対策室
TEL 03-5253-1111(内線2718)

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