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2011年7月14日 第2回非正規雇用のビジョンに関する懇談会議事録

職業安定局派遣・有期労働対策部企画課

○日時

平成23年7月14日(木)
16:30~18:30


○場所

厚生労働省省議室


○出席者

樋口座長 小杉委員 佐藤委員 柴田委員 宮本委員 横溝委員


○議題

(1) 「非正規雇用」を取り巻く現状と論点について
(2) その他

○議事

○樋口座長 定刻になりましたので、第2回非正規雇用のビジョンに関する懇談会を開催いたします。本日は、荒木委員、清家委員、諏訪委員が欠席です。マスコミ関係者の方の頭撮りはここまでとしていますが、いらっしゃらないので、いいだろうと思います。
 それでは議事に移ります。今回は前回に引き続き、「非正規雇用」を取り巻く現状と課題について議論したいと思います。まず、前回委員からいただきましたご意見を受けまして、事務局が取りまとめておりますので、それについて説明をお願いいたします。
○宮本企画官 事務局より、資料3、資料4、参考資料についてご説明申し上げます。
 前回の懇談会におきまして、非正規労働者に関するデータについて、それぞれの調査の、実際の調査の際の調査票には選択肢、例えば常雇や契約社員ですが、こういった選択肢の定義が必ずしも記載されていないためデータを見るときには注意が必要である、また、データを示す資料の注釈についても注意が必要であると、佐藤委員よりご指摘をいただきました。このため、事務局におきまして、各種調査について調査票上の選択肢とその定義を整理いたしました。
 資料3「各種調査における非正規労働者関係の定義について」をご覧ください。1頁です。一番左の欄が調査の名前。これは「労働力調査」です。次の欄が、調査における質問項目とその選択肢。その右側の欄が選択肢の定義について。調査票にどのように記載されているかを示しています。さらに右の欄につきましては、調査票以外に、調査に答える方に渡される、例えば記入要領のようなものにおきまして、追加的に記載があるものについて示しています。
 1頁の「労働力調査」についてご紹介しますと、まず、質問項目、従業上の地位ですが、これにつきましては選択肢として、「常雇」「臨時雇」「日雇」の3つがあります。このうち「臨時雇」については雇用契約期間が1か月以上1年以下の人、「日雇」については雇用契約期間が1か月未満の人という定義が調査票に記載してありますが、「常雇」については記載がありません。また、調査票以外での定義に係る記載もありませんということになります。また、下の欄になりますが、質問項目「勤め先での呼称」につきましては、選択肢としまして、「正規の職員・従業員」「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業所の派遣社員」「契約社員・嘱託」「その他」の6つの選択肢がありますけれども、調査票には定義については記載してありません。ただし、別冊の記入要領にそれぞれの選択肢についての説明が記載されているというようになっています。
 2頁目以降は、前回お示ししました資料5のデータに使用しました調査につきまして、同様に整理したものです。後ほどご覧いただければと思います。
 今回の整理を踏まえまして、前回の会議資料5「非正規労働者データ資料」につきまして、修正いたしまして再度提出しています。参考資料「非正規労働者データ資料(修正)」とあるものです。いまご説明申し上げました整理を踏まえまして、それぞれのデータの下に記載してあります注釈について修正しております。また、資料の36頁をご覧ください。こちらは、前回契約社員につきましての資料を提出していましたけれども、修正しております。前回は「就業構造基本統計調査」に基づき作成しましたが、この調査では、契約社員についての定義が調査票にも記入要領にも記載されていないということでしたので、契約社員の実態を正確に反映していない恐れがあると思いまして、今回、「就業形態の多様化に関する総合実態調査」に基づきまして作成しております。この調査におきましては、調査票に、「『契約社員』とは、特定職種に従事し、専門的能力の発揮を目的として雇用期間を定めて契約している者をいう」と記載しています。
 それから、47頁に1つ資料を追加しています。前回、非正規労働者の通勤手当につきましてご発言がありましたので、雇用形態ごとの通勤手当の支給割合についてまとめております。それぞれの数値は別の調査に基づくものですので、単純に比較できないことにご留意ください。それぞれのデータの出所は下に、資料出所として記載してあるとおりです。いま申し上げましたように、現状では、調査によりまして非正規労働者の定義が異なっていますけれども、樋口座長が委員長を務められておられます。統計委員会というところで各種統計における非正規労働者の取扱いについて検討がなされると聞いております。厚生労働省におきましても厚生労働省が所管する統計調査について非正規労働者に関する統計上の取扱いについて検討していますので、ご紹介させていただきます。
 続きまして、資料4「税・社会保障制度等について」ご説明いたします。これは前回、樋口座長から社会保険制度、有給休暇、残業手当などの取扱いについいて整理するようにご指示がありましたので事務局で整理したものです。まず1頁です。これは、雇用政策研究会報告書の資料の抜粋です。被扶養者の収入等と課税、社会保険の適用についてまとめたものです。左側の表は被扶養者の収入額と課税の有無についてまとめたものです。所得税につきましては、年収103万円を区切りとして対象となるとともに配偶者控除の対象外となるということです。右側は被扶養者の厚生年金、健康保険の適用の有無についてまとめたものです。厚生年金、健康保険につきましては、所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3、それから年収130万円を区切りとして適用の有無が決まっています。
 2頁は、短時間労働者への厚生年金・国民年金への適用についての詳細な資料です。いま申し上げました適用関係について詳しく記載しておりまして、1日又は1週間の所定労働時間、1か月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所において同種の業種に従事する通常の就労者の概ね4分の3以上であるかどうか、それから、年収130万円以上かどうかによりまして、厚生年金の適用関係が決まっているという図です。
 3頁が「短時間労働者への健康保険の適用について」です。こちらは厚生年金と全く同じような関係でありまして、労働時間・所定労働日数が4分の3以上かどうか、年収130万円以上かどうかによりまして適用関係が決まってくるというものです。
 4頁です。雇用保険の適用についての資料です。週所定労働時間が20時間以上の者で31日以上の雇用見込みがある者については雇用保険の一般被保険者となります。20時間以上の者で31日以上の雇用見込みがない方につきましては日雇労働被保険者となります。なお、この雇用見込みにつきましては、従来は6か月以上とされていましたが、平成22年4月より31日以上の雇用見込みに緩和されております。
 5頁をご覧ください。こちらは労働基準法に基づく年次有給休暇についてまとめた資料です。使用者は、労働基準法に基づき、雇入れの日から起算して6か月以上継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に有給休暇を与えなければならないとされています。ただし、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、1週間の所定労働日数が4日以下等の場合は、与えなければならない日数が少なくなります。具体的な有給休暇の付与日数は下にある表のとおりです。なお、日雇や短期契約労働者であって契約を更新している者につきましては実態より見て引き続き使用されていると認められる場合には継続して勤務しているとされています。
 6頁です。労働基準法に基づく割増賃金です。使用者は、法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて時間外労働をさせた場合、労働基準法に基づき、その労働に対して通常の労働時間の賃金の2割5分以上の割増賃金が必要です。このため、短時間労働者であって、例えば1日6時間の勤務である労働者が、さらに2時間の労働を行った場合にはその労働時間分について、原則として通常の労働時間の賃金を払う必要はありますが、法定労働時間である8時間を超えていないため、労働基準法に基づく割増賃金を支払う必要はないことになります。資料についての説明は以上でございます。
○樋口座長 ありがとうございました。前回、皆さんから出されました質問を事務局で整理し、詳細にまとめて調査してもらったものが、ただいまのご説明でしたが、何かこれについてご質問、ご意見ございましたら、お願いいたします。
○佐藤委員 調査の定義を詳しく調べていただきましてどうもありがとうございます。やはり、大事なのは調査票にどう書かれているかということと、もちろん解説パンフレットを渡したとき、それにどう書いてあるかというのがすごく大事で、報告書の解説というのは、それ以上のこと、それとまた別に解説が書かれていたりするので、そういう意味では、今日整理していただいてどうもありがとうございました。その上で、樋口座長が統計委員会でこの辺の調査の仕方を議論されているということなので、私の個人的な意見ということで申し上げます。雇用形態の名称に関する調査は、できればやめたほうがいいのではないかと思っています。確かに、今日お配りしていただいた定義の中で、例えば、労働力調査の特定調査票では、契約社員などは定義が書かれているのですよね。ただ、1つは、何度もお話するように、企業の中で使われている呼称は非常に多様性があって、例えば、契約社員も実は2種類あって、契約社員と言われている企業でこれにあてはまるもの、例えば自動車メーカーでデザイナーなどを社員よりも高い給与を払うために雇っているのも契約社員と言っているのもあります。これに当たります。ただ、他方で、新卒の大卒を1年契約のフルタイムで雇うようなものを契約社員と言っている百貨店などもあります。ですから、実態はかなり多様なのです。もちろん、こういう定義を言って書いてもらうというのもいいと思うのですけれど、その場合もやはり実態がこの定義にある程度揃っているという前提があると思うのです。世の中で使われている言葉と統計法上の定義がある程度は、多少ズレがあってもいいですよ、そのズレを修正して間違えないようにというのであればいいと思うのですけれども、ちょっとその距離があり過ぎるのかなと。例えばこれで言うと、実際会社では嘱託と言われていて、自分は専門職種だったらどうするのだろうと思ったりする。例えば、技術関係で特許管理か何かを定年後に嘱託でやっている。まず専門契約社員にあてはまると思うのですけれど、でもうちの会社は嘱託だなと、こういうのはたくさんあるのですよね。なので、できればこれはやめてしまうのが一番いいのではないか。その上でどうするかなのですけれども、資料1にあるように、大事なのは、この前、荒木委員が言われていたように、雇用期間に定めがあるかないかですよね。いまの常雇は定めがないというのを聞いているわけじゃない。常雇で聞くのではなくて、やはり、雇用契約が無期か有期か、できれば契約更新があるかどうかが大事だと思うのですけれども。あとは、労働時間の長さですよね。あとは、間接雇用の調整。この3つを調査票上で聞けばいいので、それを組み合わせて事後的に、例えば、フルタイムで無期契約を「社員」というとかですね。有期契約で短時間を「パート」というとか、事後的に分類するのは1つのやり方かなと個人的には思っています。ですから、呼称をやめることと、やはり、必要な就業形態を把握するために必要な情報を是非聞くことをご検討いただければというお願いです。
○樋口座長 これは、ここの議題ではないと思いますが、重要な意見だと思います。ただ、中での議論では、そういった期間の定めのあるなし、あるいは労働時間の長さ、さらには直接・間接という、それだけで問題を炙り出すことができるのだろうか。特に、呼称によって「パートさん」と呼ばれている、しかしいまの3つの要件については一般労働者と差がない、しかしそこに処遇上の差などの問題が発生していること自体が、実は重要な問題であって、それを統計として調べていくことが重要ではないかという意見もありますので、形式的にそのように3つの基準で分けて問題が解決できるのであればそれでいいと思いますが、そうではない問題が、この非正規労働者問題には含まれているところがあってですね、まさにパート法のときに議論されている短時間労働者の問題、それと、「パートさん」の問題、偽装パートの問題があるので、それを調べていくのも統計調査の1つの目的ではないかという意見がかなり強いもので、参考にさせていただきたいと思います。
○佐藤委員 1つだけ。そういう意味でも、呼称は大事なのです。であれば、呼称は自分に書かせたほうがいいと思います。何と呼ばれているかという。つまり、こういうふうに無理やり分けているのです、存在しないものに。それはやめて。つまり、日本でどういう呼称なりが使われているかの調査がない上で作っちゃったのです。そういう意味では、一度、1万人ぐらい、どういう呼称で呼ばれているのか調査をしてカテゴリーを作る作業をやられて呼称を聞くのがいいかなと思っています。
○樋口座長 それも参考に。よろしいですか。いろいろ調べていただいて、1つ、ここで議論するべき問題かなと思っていますのは、先ほど修正と言ったものの参考資料46頁の4-8で、非正規労働者に適用される制度の比率です。これは実際に調査でやったもので、先ほど説明がありました。これが的確に適用されているかどうかは必ずしも分かりませんが、例えば雇用保険について、正社員について99.2%がこれに加入していますと。それに対して、正社員以外の労働者は60%しか入っていません。あるいは、厚生年金は正社員以外では46.6%しか入っていません。この最初の3つの項目は、これは国の制度である社会保険制度であるわけでして、そこにおいては、もうこういったことが起こっている実態。さらに、4つ目以降は、各企業の厚生あるいは福利厚生で適用しているものですが、ここにおいては、例えば、企業年金は5.3%とか、また、賞与は正社員以外は34%、さらには退職金は10.6%しか払いませんと、こういう実態があるわけです。この実態をどう考えていくのかも、ここのテーマの1つかなと思うのです。例えば厚生年金については、これはまだ2007年の段階ですから適用拡大がある程度は進んでいたのかもしれませんが、この後またさらに要件が緩められていくことで、これはもしかしたら拡大しているかもしれません。しかし、この時点に限定していますが、正社員の中でもかなりまだバラつきがあるなと思います。それぞれ、これは呼称なのだろうと思いますが、呼称間で違いがあることについては、この前どなたが言ったか忘れましたが、国が非正規といったものを作り出しているのではないかという表現があったかと思いますが、その問題も含めて検討していく必要がある。全社会保障制度一体改革でこれは議論がだいぶ進んできていると承知していますが、この問題はやはり重要な、ここでのテーマでもあるのかなと思いました。参考までに言っておきます。
 ほかに、よろしいでしょうか。よろしいようでしたら、次のテーマに移りたいと思います。これは昨年9月から議論が行われていると承知していますが、雇用形態による均等処遇についての研究会の報告が取りまとまったということでありまして、この研究会の内容が我々の議論とかなり深く関係していることから、この報告書の概要について説明をお願いいたします。
○酒光労働政策担当参事官 労働政策担当参事官の酒光です。よろしくお願いいたします。資料でいいますと資料5です。ご覧ください。
 まず、背景です。「まえがき」があります。これをご覧いただきながらお聞きください。ここでもまさにご議論いただいていますように、非正規労働者が増加する中で、雇用が不安定だったり処遇が低いだったりということで、二極化が社会問題化しているということで、まず、雇用形態による均等待遇の法制面での研究をしてみようということで、この法制が先行していますEU及びその加盟国の関連する法制や運用実態について整理をしたものであります。それを通じまして、日本における雇用形態における均等処遇を考える上でどのような示唆があるかを合わせて整理をしたものであります。研究会ですけれども、表紙にも書いてありますように、日本労働研究・研修機構(JILPT)と厚労省、私ども事務局で共働して勉強させていただいたものです。研究会の委員は、?頁に名簿があります。この懇談会の荒木委員に座長をお願いしておりまして、そのほかここにいらっしゃる各国法制の専門家やあるいは労働者経済、人事労務管理のご専門の方に参加をしていただき、それぞれの委員からご報告をいただく中で勉強してきたものであります。次の頁に開催経過がありますが、9月から始めて10回に亘って研究しています。この委員以外では、第5回に東大の水町先生からも法制の実態なり運用状況についてのご報告をいただきました。
 報告全体について、その次に目次があります。全体として2部構成になっておりまして、第1部が非正規労働者の現状及びEU諸国の均等待遇法制、あるいはそこから得られた知見と日本への示唆としてまとめてあります。それから、第2部が、EU諸国におけるまさに均等待遇法制、雇用形態に係る不利益取扱いの禁止法制の現状です。第2部でやりました、各国の法制の現状、これは法制がどうなっているか、あるいは運用状況がどうなっているかなどについて研究した上で、それを整理したものを第1部の形でまとめているものです。1部の特に2章です。「EU諸国における正規・非正規労働者間の不合理な処遇格差を禁止する法制等の概要及び運用の実態から得られた知見及び日本への示唆」という形でまとめました。
 それでは、概要について簡単にご説明します。?頁以降から「報告書の概要」が始まっております。
 まず、第1章です。こちらは議論の背景を整理したものです。こちらは、前回あるいは今回もちょっと補足的なご議論がありましたが、そこと重なるところで説明は省略いたしますけれども、非正規労働者の常用雇用・基幹化が進んでいく中で待遇に差があるのではないかということから、いろいろと議論がされているということであります。
 この研究会では、第2章がある意味、肝なのですが、法制が先行しているEUの実態を調べました。この問題を議論する上で、同一価値労働同一賃金ですとか均等待遇など、いろいろな議論がされています。
 次頁です。また、雇用形態に係る均等待遇について議論する場合に、もともとこういった不利益に取扱ってはいけない、あるいは差別してはいけないというものは、男女など、人権に関わる部分からの議論がまずは先行していましたので、そういったことも含めて幅広く検討していくことで理解が深まるのではないかということであります。
 この研究会では、いわゆる不合理な処遇格差を禁止する法制を4つの類型でまず整理しました。それがこの(1)から(4)までになります。目次だけまずご覧いただきますと、(1)は、人権保障に係る「均等待遇原則」。(2)が、雇用形態に係る「均等待遇原則」。(3)が、同一(価値)労働同一賃金原則。(4)が、雇用形態の違いを理由とする不合理な賃金格差を禁止する法原則。この4つに整理をしました。それぞれについて簡単にご報告したいと思います。
 まず、(1)人権保障に係る「均等待遇原則」であります。これは最初の○に書いてありますが、性別や人種、こうしたものは人によって、個人の意志や努力で変えることはできないものですし、あるいは宗教や信条という基本的な人権として自由が保障されているものがありますけれども、そういったものを理由として賃金あるいはその他の労働条件について差別的な取扱いをしてはいけないということであります。ここにも書いてありますけれども、「差別的取扱いの禁止原則」という言い方にしています。一番大きな特徴は、両面的規制であることで、両面的の意味は、一方が他方より不利だからこういう原則を作るわけですけれども、では不利なほうを優遇していいかというと、それは基本的にはいけない。いわゆる、逆差別もやってはいけないということです。ですから、同じものは同じく扱いなさいというのが、この「差別的取扱いの禁止原則」の基本的な考え方であります。なお、3番目の○ですが、異別取扱い、異なる取扱いを全くしてはいけないかということですが、基本的には、してはいけない。真に職務上の必要性がある場合、あるいはごく例外としてポジティブ・アクションとしてやる場合、その場合にのみ例外的に許容されるということで、かなり厳しい考え方になっています。
 こういったものは、もともと男女から発生していますけれども、実は、人権保障に係る均等待遇原則とは異なるものとして、「雇用形態に係る均等待遇原則」というものがあるだろうとして掲げています。言葉の上では、EUなどでもそれぞれ、均等待遇と言ったり、差別的取扱いの禁止と言ったり、いろいろな言い方をするようですけれども、その法的な性格は、たぶん異なるであろうということです。この雇用形態に係る「均等待遇原則」の特徴ですが、2番目の○に書いてあるとおり、非正規労働者の処遇の改善の観点から行うものでありまして、雇用形態、具体的にはパート、有期、派遣になりますが、それらを理由として賃金を含む労働条件について不利益な取扱いをしてはいけないというものです。ですから、ここでは「不利益取扱いの禁止原則」という形にしています。この特徴は、1つは片面的な規制であることです。非正規のほうが一般的に処遇が悪いので、それを改善する目的なので優遇するのは構わないということであります。もう1つの特徴は、雇用形態を理由とする異別取扱い、異なる取扱いをすることについては、客観的(合理的)な理由があれば許容されるということです。例えば、(1)のように男女の場合は、男だから、女だからで差を付けることは基本的にはいけないのですけれども、雇用形態の場合は、何か理由が説明できればいいことになります。こういった均等待遇原則については大きな2つの考え方があり、2つは区別できるだろうということです。
 (3)「同一(価値)労働同一賃金原則」であります。これはEUの、今回研究した国におきましては、人権保障の観点に係る均等待遇原則、(1)の均等待遇原則の賃金面における1原則であると整理ができます。典型的には性別、男女間で同一価値労働同一賃金だという原則ですけれども、基本的には人権保障に係る均等待遇原則の範疇であります。そういうことなので、(1)の考え方どおり、両面的規制であって逆差別もしてはいけないことになります。
 ?頁の上から2つ目の○にありますように、「同一(価値)労働同一賃金原則」というのは、もともとは男女の同一労働同一賃金原則、同じ仕事をしていれば同じ賃金を払いなさいという原則から出ているわけですけれども、その中で、男性と女性では職務に違いがある、職務分離が起こっているということで、なかなか同一労働同一賃金原則だけでは十分に男女間の差別の是正ができないので、同一(価値)労働に比較対象の範囲を広げた。要するに、異なる職種間でも比較できるようにしたものだと考えています。3番目の○に書いてありますように、雇用形態の違いを理由とする賃金格差については、同一(価値)労働同一賃金原則は直接的には適応されていないということであります。
 その次の次の○です。この、同一価値労働同一賃金原則については間接差別も認められます。例えば、勤続年が違う、男性の場合は勤続年数が長くて女性の場合は勤続年数が短かい人が多いときに、勤続年数が長い人により多い賃金を払うとした場合に、間接差別である可能性が出てくるということです。具体的に議論になったものとしては、勤続年数とか学歴とか資格とか何とか、いろいろと書いてありますが、そういったものがいろいろと議論されて、それにつきまして客観的(合理的)な理由があるかどうかで判断されることになります。このうち特に、いま申し上げた勤続年数につきましては、勤続年数が長い人に高い賃金を払うのは、これは差別ではない。通常、使用者がそれが必要だということまで言わなくても当然であるので認められる。そのほか、例えば、勤務時間や、あるいは転勤ができるとか残業ができるとか、そういったことについては使用者が立証できれば合理的な理由になるということです。ですので、間接差別については、いろいろな類型が考えられるのですけれども、使用者が、それは別に例えば男女による差別ではなくて理由があるものなのだということが説明できればいいことになります。以上が、同一(価値)労働同一賃金原則です。
 そうしますと、特に今回議論になりますような、正規・非正規の雇用形態の場合はどう考えたらいいかです。?頁の下にありますように、雇用形態の違いを理由とする賃金に関して均等待遇原則の中で対処されています。
 ?頁です。具体的にはどうかということです。雇用形態の差によって賃金に実際に差が生じているというときに、誰と比較するかとか、どういう場合が合理的かということがあるわけです。まず、職務関連給付。基本給のようなものです。基本給や職務給、こういったものにつきましては、同じ仕事をしている人が対象である。つまり、仮にパートとフルタイマーを採った場合に、フルタイマーとパートタイマーで同じ仕事をしている人同士を比較することになります。その上で、勤続年数とか学歴とか資格とかが違うから賃金に差を付けているのであれば、それが合理的であることが証明できれば、それは合理的な理由になるということです。それから、もう1つ、給付の関係で、やや広い意味で言いますと、職務関連以外の給付があります。ヨーロッパで実際ある例としては、食事手当、昼食代みたいなものを手当として払っているようですけれども、そういったものについては、そもそもあまりこれ自体は仕事とは関係ないでしょうという話がありますので、比較対象者として同じ職務である、同一労働であることまでは求められていない。こういったものについては客観的な理由がなければ比例配分しなさいという形になっています。比例配分できない、例えば昼食代は、昼は6時間働いている人、8時間働いている人でご飯を食べる量が違うとも言えないでしょうから、そういう場合は全部認めなさいというような傾向にあります。
 以上が基本的な考え方でありまして、(5)まとめのところに雑駁に書いてありますが、同一価値労働同一賃金原則というのがいろいろな場面で使われておりまして、雇用形態についても、正規・非正規の間でも同一価値労働同一賃金原則がよく使われるわけです。これは少なくともEUの文脈では人権に関わる部分で使われている言葉であり原則であるということが基本的なものであります。まとめは、説明したことがずっと重なっておりますけれども、?頁の最後のほうの○ですが、雇用形態による、例えば日本の場合、人材活用の仕組みがかなり違うことが、賃金やいろいろな処遇の差に繋がっていることがよく指摘されています。これがヨーロッパではどうかということですが、EUでは必ずしもこういったことについての明示的な判例はないのですが、男女の文脈における同一価値労働同一賃金原則の場面でも、必要性が立証できれば、先ほど言いましたように、残業できるとか、転勤ができるとか、そういったことなども客観的な事由として認められるとされていますし、キャリアコースの違いが認められるとされた例もあります。こういったことから、なかなか、EUと日本とでは正規・非正規の働き方の差がだいぶ違うのですけれども、日本のような、人材活用の仕組みが違えば差を付けていいかについては、客観的・合理的な理由として認められる可能性もあるのではないかと考えられるとしております。以上がEUの法制及び運用実態を調べて整理したものであります。
 最後に、日本にどのような示唆があるかを簡単にまとめたものをご説明いたします。?頁以降、大きく2つに分けております。
 1つは、個別企業における労使の取組を通じて処遇の改善や納得性の向上を高める必要があるのではないかということであります。実は、これは委員の皆さんはよくご承知かと思いますが、EUでは、例えばパートや契約社員の方なども、協約賃金が適用される場合が多くて、そういう場合、もともと基本給などであまり差がないのではないかと言われています。ですから、基本給の争いというのはあまり実は多くなくて、それ以外の諸手当や雇い止めなど、そういったものの争いが結構多いということです。それに比べますと日本の場合は、正規と非正規でかなり人材活用の仕組みも違っておりますし、職務も違う。そもそも賃金制度も、先ほどもちょっとお話がありましたが、人材活用の仕組みを前提とした職能給が、正社員にはなっていますが、非正規の方は職務給だとか、いろいろな違いが大きいということでありまして、例えばこういう不利益取扱いの原則などの法制を仮に作ったとしても、それだけですぐに是正ができるかどうかという問題があろうかと考えられます。
 ?頁の下から2番目の○ですが、実は、ヨーロッパにおきましてもいろいろと職務なりが複雑化したり不確実性が高まっている中で、法律で直接、こうしてはいけない、駄目だと決める、いわゆる実態規制だけではなかなか効果が上がらない面があるということで、格差を是正するためにこういう取組をしようという手続規制、こういったものが重視される傾向があります。ですので、日本におきましても、個別の企業におきまして労使で処遇の差の実態を把握して、是正に向けた取組を行って処遇の改善をしたり納得性を高めていくことが有効ではないかというようなことが、?頁の一番下の○に書かれています。
 ?頁の最初の○です。そういった労使での取組を進めていく上で、職務分析なり職務評価というものも有効ではないか。特に職務を把握する上で役に立つのではないかということが書かれています。日本の場合特に、企業によってかなりバラつきがありまして、大企業などでは、役割などに基づきまして分析をしている例もかなりあるかと思います。そういった企業の実態を踏まえながら、企業の実情に応じて職務分析や職務評価を行うことはあり得るのではないかと書いております。
 (2)ですが、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、雇用形態に係る不利益取扱いの禁止原則で、特に職務関連の給付につきましては、同じ仕事をやっている人が比較の対象になるので、日本の場合、かなり職務分離が起こっていることになりますと、なかなかそれだけで処遇の改善は限界が生じる可能性があるということで、ここでもいろいろとご議論がされることになるかと思いますが、正社員化の支援ですとか、あるいは多様な正社員の環境整備、こういったものについても検討を進める必要があるのではないか。あるいは、先ほど樋口座長からもお話がありましたけれども、税・社会保障制度が中立的になっていないことも影響している可能性がありますので、雇用形態に中立的な税・社会保障制度にしていく検討も必要ではないかということを指摘しております。
 「おわりに」は、大体いま申し上げたことですので再度の説明は省略させていただきます。拙い説明で申し訳なかったですけれども、以上です。
○樋口座長 ありがとうございました。ただいまの説明につきましてご質問、ご意見ございましたら、お願いいたします。この研究会はもう既に終了してという、これは最終報告と。
○酒光労働政策担当参事官 そうですね。研究会自体は「第10回、6月20日」と書いてありますが、そこで終了しました。ただ、その後も、報告書にして各委員の先生にチェックをしていただいております。今回、研究会の報告としては今日ここに報告するのと同時に発表したいと考えています。
○樋口座長 何かございますでしょうか。よろしいですか。
○宮本委員 このレポートは大変勉強になりまして。なるほど、このように定義されているのだなということがよく理解できたわけでございます。同時にこれは、私も比較整理という勉強をしておりまして、ヨーロッパの概念が日本に入ってくると、全く違った意味合いで使われるという現象によく直面するわけでございます。日本は日本で独自の意味合いを持って流布、流通するようになってくると、それは独自の価値を帯びるようになってくるということでございまして。均等待遇原則あるいは同一価値労働同一賃金、これが日本の実態を考えると、問題の解決にそのまま適用できるものではないということはよくわかったのですが、そのことを強調することが逆にこの2つの日本で流通している価値や原則からの後退と受けとれるのも、あまり得策でないように思いまして。一方で、日本でこの2つの概念がどういうふうな意味合いで、若干曖昧で、かつ意味が拡散しているのかもしれませんけれども、使われているのかということを確認して、その距離を認識して整理するといったようなアプローチも必要ではないかと思いました。
○酒光労働政策担当参事官 私の説明があれだったかもしれませんけれども、おっしゃるとおりでございます。それだけではなかなか処遇改善では十分ではないというのはちょっと申し上げたのですが、逆に言いますと、この考え方というのはかなり日本に取り入れる余地もあるという前提に立っております。雇用形態にかかる均等待遇原則の考え方というのは、いまもまさにパートですか、有期法制の中でも検討されておりますが、参考になり得るものであります。それと併せて、正社員化の促進ですとか、あるいは手続的規制を導入するとか、そういったことについて併せてやることも考えられるのではないかと考えております。
○樋口座長 これは佐藤さんが先ほど提起した、その雇用形態の多様化といいますか、その3つの尺度で、例えば有期であるか、期間の定めのないかとか、あるいは労働時間の長さとか、あるいは直接間接という3つの基準で、分けた場合と、それと、ここでヨーロッパにおいて正規・非正規という言葉が登場しているわけですが、日本語の時点での正規・非正規というものと、このヨーロッパにおける正規・非正規、たぶん英語に直すとこういう言い方してないと思うのですね。正規・非正規ではなくて、テンポラリーワーカー・パーマネントワーカーか、あるいはパートタイムワーカー・フルタイムワーカーとか、レギュラーワーカー・ノンレギュラーワーカーというような言葉と、どちらかというとそちらのニュアンスというのは佐藤さんが言ったような3つの基準でと。ところが、正規・非正規と訳したとたんに何となく違うディメンションまで持ち込まれている。ある意味では、会社におけるその地位といいますかを、この呼称の中に織り込んでいるようなもの、そこまで含んでいることになるので、若干違ってくるかなと。まさに宮本先生がおっしゃったようなヨーロッパにおけるテンポラリー・パーマネントと、日本における正規・非正規というものに距離が少しあるなと。これをどう解決するのかが、ここのビジョン研のテーマになってくるのかなと思いますね。まさに、そういうご指摘だったと思います。
 もし、よろしければ、ほかにないようでしたら、次のテーマに移りたいと思います。前回の懇談会で、委員の皆様からいろいろご意見をいただきました。今回は、前回いただきましたご意見も参考にしながら議論を深めたいと思っておりますので、資料1の論点メモの各項目別に議論を進めていきたいと考えております。
 そこで、まず「論点メモ」の1の所に、「そもそも『非正規雇用とは何か』という概念整理に関しまして、前回出たご意見について、事務局でまとめていただきましたので、それについて説明をお願いします。
○宮本企画官 資料2に基づきまして、ご説明申し上げます。1.そもそも「正規雇用」とは何かについてです。(1)「正規雇用」と「非正規雇用」を分けるものは何か。また、「典型的な正規労働者像」と「今後の政策論として念頭におく正規労働者像」とで違いがあるかの部分につきましては、資料2の右側に各委員からのご意見をまとめてございます。まず法的な視点からは考慮要素の?無期か有期か、?フルタイムかパートタイムか、?直接雇用か間接雇用かが、正規雇用と非正規雇用を分けるものである。?の長期雇用慣行云々については、長期雇用慣行とは何かを決める必要があり、?の勤務地や業務内容の限定の有無、限定有りの労働者は?から?で正規雇用に分類されるものにもどんどんできているというご意見がございました。
 ??は、いわゆる典型雇用の類型化の話である。いわゆる正社員が多様化しており、ワーク・ライフ・バランスや正規・非正規間の移動の円滑化という議論が出てきたものであるというご意見もございました。
 次に、正規の概念が整理し切れない可能性が高く、結局はそれぞれの施策、法制度ごとに定義を部分的にしていかざるを得ないのではないかというご意見がございました。さらに、一方で全体の方向ははっきりさせたほうが良く、人事管理的に言えば?が重要である。長期雇用指向で雇っているのか、短期雇用型で雇っているのかがいろんなものに大きく影響をしてくるというご意見がございました。
 次に、(2)ワーク・ライフ・バランスやディーセント・ワークの観点から「典型的な正規労働者」と「非正規労働者」との中間に位置するような雇用形態をどのように位置づけるべきかという論点に関しましては、多様な働き方をもっと守りながら育てていくという観点で、プラスの価値観を育てていくのがいいのではないかというご意見がございました。
 最後に(3)「正規労働者」などの呼称が適当かという論点に関しましては、呼称については有期か無期か、有期なら更新があるか否か、短時間かフルタイムかなど、労働市場において労働条件がわかるように整理していくことが大事というご意見、それからマイナスのラベリングがされない呼称とすべきというご意見、非正規だと、あたかも違法な働き方をしてもよいかのようなイメージも出てくるというご意見、それから非正規という名称は正しく処遇されていないということが根底にあって使われているのではないかというご意見、最後に、仮に明るい名前をつけても実態が伴わなければ、結局マイナスイメージを伴ってしまうというご意見がございました。説明は以上でございます。
○樋口座長 いま事務局のほうに前回の議論を整理していただきましたが、これも参考にしながら、再びこの点について整理していきたいと思います。ご意見ございましたら、お願いいたします。
 もし、よろしければ厚生労働省で佐藤先生が議長、委員長でしょうか、座長を務めていらっしゃる、「『多様な形態による正社員』に関する研究会」というのが開催されているということで、先生のほうから研究会での議論に関係したご意見をいただけないかと思いますが、いかがでしょうか。
○佐藤委員 事前にわかっていれば、資料を用意しておいてとお願いしたのですけれども、多様な形態での正社員でしたか、正確な名称は。
○宮本企画官 「多様な形態による正社員」です。
○佐藤委員 多様な形態による正社員の研究会というのがありまして、元々設置の背景には、1つは例えば樋口座長とか宮本先生、小杉先生なんかも入られている雇用政策研究会の中で、正社員の多様な形態というのを検討する必要があるのかという議論があって、そういうものを踏まえた上で研究会が設置されたと伺っています。雇用政策研究会のときも問題意識もなのですが、何で多様な形態の正社員かということですが、それにはたぶん正社員をどう理解するかということにもよると思うのです。ここの研究会でも、いわゆる正社員という言葉はあまり使われてないようですけれども、企業が社員とか職員、あるいは働く人が自分は社員だと思ったときに、想定している働き方というのは、単に雇用期間に定めがないという無期の雇用というだけではなくて、やはり働き方について、あるいは会社とその社員との関係について一定のイメージがあるのかなというのが想定されています。企業からすると、単に雇用期間の定めがないというだけではなくて、そこでの人材活用からすれば、企業としても長期の雇用関係を前提し、企業は人的資源投資し、定年まで活躍してもらうという想定で雇っているわけであります。社員もまあ。そうしたときに、長期の雇用機会を保障するということですから、企業からすれば、どういうふうに雇用せざるを得ないかで言えば、ある面ではその働き方については、かなり会社が強い人事権を持つ。どういう点でかというと、例えば採用するときに職種は限定しないで雇用する。つまり仕事がなくなっても雇用は保障しますというわけでありますから、職種は限定せず、いろんな仕事を経験させながら事業分野から仕事が変わっても雇用できるように、そういう意味で、仕事を限定しない。一般的に、ですね。もちろん結果として、ある領域になることがあると思います。初めから、あなたはこの仕事ですと限定して、雇用しないことも多くあったりするわけです。あるいは勤務先も、例えば複数の事業所を展開している場合は、結果としていくつかの事業所しか移動しない人が出てきても、初めからあなたはこの事業所ですというふうに言われるのではなくて、例えば工場閉鎖があれば転勤し、新しい事業所で活躍してもらう、それで雇用期間は長くという。そういう意味で職種を限定せず、あるいは勤務先を限定せず、あるいは労働時間についても所定労働時間はあるけれども、業務量が多くて悪いが残業してください。そういう意味で、仕事も配属先も時間についてもある程度柔軟に働いてもらう。そういう意味では、会社が強いのです。
 他方、その代わり企業は仕事がなくなっても事業所がなくなっても、長期の雇用期間はできるだけ考えます。つまり、そういう働き方で社員と考えている場合、そういう意味では雇用期間に定めがないというだけで、無限定雇用といいますか、無限定的に労働サービスを供給するというような働き方が、1つのイメージとしてあります。それを前提として、社員も企業に強いコミットを持つというようなことです。
 社会学者は、例えばロナルド・ドーア先生なんかはメンバーシップ、濱口先生もメンバー1人なのですが。ドーア先生などは、企業のメンバーだと、メンバーに入るか入らないかという違いもそこにあるんだということを言われるわけです。そういう社員を想定したときに、そういう働き方は、他方では、働く社員の側からすれば、皆さんご存じのように、男女役割分業を前提として、男性は仕事だけやる、いつでも転勤できる、いつでも残業できる、異動もというような、あるいは仕事も、仕事よりも雇用保障が大事だというような社員がいて初めて成り立つわけであります。やはり家族のあり方も変わり、共働きが増え、そういう意味ではすべて会社にコミットし、会社の要求に応えて働ける社員が減ってきているということがあります。そういう社員の働き方も、1つはワーク・ライフ・バランスの観点からそういう働き方を受け入れる社員も減ってきていることをも含めて、まずはワーク・ライフ・バランス、つまり社員の中にもそういう働き方を多元化しないと、社員も意欲的に働いてくれない。それが1つのメッセージとしてですね。
 もう1つは、いわゆる非正規の人たちの雇用の安定ということ、よく正社員転換と言われるわけでありますが、なかなかこれは進まないわけです。進まないのはなぜかというと、1つは働いている人、そのパートタイマー等で働いている人からすると、パートタイマー等の有期契約の人は一般的に勤務先の事業所が限定され、かつ、普通は例えば職種を限定して雇用をされてるわけですね。場合によっては時間も、例えば6時間勤務とか、あるいは8時間でも残業なしとか。そういう意味では、社員と相当、単に有期ということだけではなくて、事業所や仕事や時間が限定されて、それも会社の都合だけの場合もありますが、本人もそういう働き方を希望してという人もいるわけです。ですから、確かに本人も雇用の安定を求めているわけですが、正社員になりませんかと言ったときに、これは単に有期の契約が無期に変わるだけではなくて、先ほどの現状の、いわゆる正社員という働き方を想定する。相当働き方を変えるということなのです。仕事を変わってもいいですか、勤務先変わっても、残業もできますかという。そうすると、やはりなかなか本人も、雇用の安定は確保したいが、しかし、いまの正社員の働き方をやれるかと言えば、なかなか距離が大きい。そういう意味で、正社員転換あるいは有期の方のいわゆる非正規の人の雇用の安定というのを、単にいまの正社員を前提にしておくと、なかなかハードルが高いなと。そういう意味では、いまの社員の方のワーク・ライフ・バランス、もう少し限定型の社員です。どういうことかと言うと、例えば雇用は無期なのだけれども、業務の範囲が限定されているとか、勤務先の、配属先の職場を限定するとか。労働時間については育児介護休業補償上、子育て期間とか短時間勤務と入ってきたわけでありますけれども、そういうふうに限定型の、いわゆる無期の雇用の正社員というのを少し作らないか。それができることによって、1つ正社員のほうのワーク・ライフ・バランスということと、もう1つはそういう限定型の、職種なり事業所なり限定型の、いわゆる正社員ができれば、いまの限定型の有期契約の人ですね。限定型の有期契約の人も転換しやすくにもなるわけです。
 ただし、そのためにはそういう限定型の正社員、業務限定なり事業所限定というのを入れたときに、全体の人員制度とどういうふうに設計できるかどうか。既存のさまざまなワークルールとの整合性がどうなるかも含めて考えていかなくてはいけないなということを、研究会で議論しようと。そのときに、ワークルール、既存のいろいろなルールとの調整もありますが、基本的には企業として限定型の制度を導入するときに、どういうような処遇なり、あるいは従来型の限定型の線との処遇のバランスとか、そういうものについてどういうようなことをすれば、割合導入しやすいか。あるいは就業規則も、どのような規定をすればいいかとか、そういう少し事例を集めて、そういうことに取り組みたいなという企業に情報提供しようということが、研究会出口としては、もう少しそういう限定型の、職務限定なり勤務地限定などの、いわゆる正社員という仕組みを導入しようという企業なり、組合、労使がいるとすれば、それぞれ参考となるような情報提供をしようというのが、研究会の目的であります。以上です。ちょっと長くなりました。
○樋口座長 ありがとうございます。ここの懇談会との関連で言うと、正規・非正規というダイコトマスといいますか、01のその離散型の分類、そういった二分法に基づくものよりも、むしろ連続変数といいますか、正規の中でもいろんな連続的にあり、また非正規の中にも連続的にあると。そういったものに置き換えるというような、そういう選択肢を増やしていくという考え方だという。
○佐藤委員 実態として正社員のほうも、先ほど私、典型的な、いわゆる無限定雇用の性質、実は、これ実態としては減ってきているのですね。企業も、なかなかそういう、従来のような、いつでも転勤できればどんな仕事でもいいですとか、今そんな社員減ってきていますから、実態としてはかなり変えてきているわけです。ですので、実態として変わってきているものをきちっと就業規則等に規定ならどうするかということと、もう1つは、今度いわゆる有期の人もかなり初めは業務の限定と言いながら、少しこのぐらいまでやっていいとか。異動も、居住変更は無理だけど、事業所は変わっていいとか。そういうので出てきた。そういう意味で、両方変わってきた。うまくつなげられるような、そういう意味では樋口座長が言われるように、連続的な。それをある程度制度的にやれるような、実態としてはそういう方向へ動きつつあるので、企業がある面では。ですから、そこを動きつがある所を制度的にきちっとやれるような整理をしたいなと。そういう意味で、連続的にしたいということ、ご使摘のとおりです。
○樋口座長 趣旨はよくわかりました。何といいますか、二分法のときに、例えば均等の問題、先ほど出てきたようなこととかということを考えると、念頭に置かれるのは、どちらかというと非正規の雇用条件の改善という問題が出てきて、正規については取りあえずは手をつけないというか、いろんなことがありますでしょうと。
 今回、むしろ佐藤さんの委員会のほうでは、正規のところについて、これについてもいろいろあるからというところで、そこについては、例えば地域限定であれば、その事業所が廃止されるというようなときには、雇用保障を、ある意味では企業に対して軽減するというようなところも入ってくる。
○佐藤委員 議論としてはあり得ると思うのですね。ですから、例えば経営上の都合による事業所閉鎖と言ったときに、いわゆる整理解雇の4要件のときに、経営上の必要性があるかどうかとか。あとは解雇の回避努力義務、ですね。あとは労使の十分な話合いとか、対象者の合理的な選定というようなことがあるわけです。たぶん従来であれば、廃止で、向こうの事業所に移せないかという議論が出てくると思うのです。そのときに、従来はそういうことを、例えば裁判になったときに、裁判所に求めたというのは、元々事業所を限定して、雇用しているわけじゃないではないかと。会社の都合で転勤させてたでしょうと。そういうときに経営側の都合で閉鎖するのに、やめさせる、おかしい。こういう議論になったと思うのですね。
 つまり元々配置の会社が人事権を自由に持ってたので、だから偶然そこにいたわけだから、極端に会社の都合で。ですから、そこを閉鎖するときは当然、他に移せるかどうか努力しなさいということです。
 ただ、それと違った活用が出てきたときにどうするかというのは、たぶん議論として出てくると思います。つまり、例えば採用時点からそこの勤務でと限定されて無期限の場合に、そこを閉鎖するときにどうするか。そこに、いわゆる従来型の勤務地限定されてない社員と、そこを限定して雇用された社員といたときにどうするかという議論は、やはり経営側としてはすごく関心あるだろうと思う。
 ただ、そのときにもちろん当然経営の必要性が合理的であるかどうかとか、労使の話合い、これも必要だと思います。選定基準も合理性がなきゃいけないと思います。つまり回避努力義務と言ったときに、そういう人についてまで法律上の必要条件として配置転換までしろというようなことが入るのかどうかというところは、たぶん議論の余地があるだろうということです。でも結構、判例で言えば、そういうのは認められているような議論もありますが。そこだけはどうするかという議論は出てくるだろう。
○樋口座長 そうですか。何か、どうぞ宮本委員。
○宮本委員 いまのことでなくとも、前回欠席をいたしまして、先ほど申し上げたように、私は専門がやや遠くて、ここではむしろ勉強さしていただくことのほうが多いのかもしれませんけれども、そこを逆手に取って、少しカメラを引いたところから何か話させていただくことを期待されていると強引に解釈しまして、お話をしたいと思います。
 前回の議事録も拝見をいたしまして、それもまた勉強になったわけですけれども、この懇談会でビジョンを作っていくというときに、論点の4に、施策の方向性という項目がございまして。要するに、その公正な待遇を実現していく施策、その範囲をどれくらい広く取っていくのかということについてどう考えればいいのかという問題提起ですけれども、先ほど座長もおっしゃいましたように、非正規を定義する際のさまざまな変数として社会保険、社会保障制度というのが重視されているのは了解したのですが。その問題を打開していくための施策の体系として、問題をどこまで広げるべきなのかということをどう考えればいいのかということでございます。
 個人的には、少し広げて考えないと、どうも打開の目途がつかないのではないかと思いまして。要するに、狭い雇用の現場の処遇という形で、いま個々的に、皆が納得する公正感のある方法というのはなかなか難しいというのが、率直なところではないかと思うわけでございます。
 これは委員の皆さんがご存じのとおり、一方に、先ほど佐藤先生はメンバーシップとおっしゃいましたが、メンバーシップを確保して、職務遂行能力を発達させていくことが構造的に保障された人たちがいて。他方では、そうした条件がないままに、その職務の遂行ということだけで評価される人がいる。ここに、強引に1つのフレームを当てはめて、その処遇の現場で双方が納得するフレームを作れと言うのは、かなり厳しい。そうなると、いま個々的な解決だけではなくて、空間的時間的に解決の枠を広げていくということが求められるのではないかと思うわけでございます。
 空間的にと言うのは、制度空間という意味でございまして、これは構造的にメンバーシップを欠いていて、であるが故に能力を育んでいくことが難しい条件にある人々に対して、それが保障された人々から一定の税の負担をお願いしても、長期的に見て、その能力を育成していくことができる。あるいは、生活を現在の処遇をドラスティックに改善できない状態のもとでも、例えば給付付き税額控除だとか、さまざまな社会手当だとかいうことを加えることで、何とかその生活が維持できるような、そういう条件。加えて、かつ、その能力を育んでいくための公的職業訓練等、ここまで広げて考えていかないと、少し難しくはないだろうかということです。
 現状は、そうした社会保障の制度そのものが問題を再生産しているというか、矛盾を広げている面があるわけなのですが、そこを大きく変えていくと。そのことによって、低技能であり、またそれ故の低賃金というそういう雇用のあり様から脱却したいという意志がある限りは、その道が確保されるという、そうした時間軸での見通しを確保していく。つまり、制度空間の上で問題を広げることで、時間軸での構成と希望というのをきちっと見通していくことができるような、そういう施策の体系なのかなと思うわけであります。そうすると、雇用の懇談会ということで、やや逸脱するところもございますが、それをどれくらいの按配で考えればいいのかということをちょっと教えていただきたいと思うのが、1つでございます。
 もう1つは、ビジョンの視点といいますか。1つは公正という言葉がございました。これはもちろん一番大切な視点だと思います。他方において、やはり問題の解決が効率といいますか、経済の強さにも結びついていくというその視点、効率的な視点、経済的な視点。これはおそらく非正規問題の打開が、先ほどの言い方で言うならば、多くの人々がより多様な形で能力を発展できる、そういう条件を作っていくということによって日本経済の強さにもつながっていくという視点。この2番目の効率経済的な視点というのは大事だろうと思います。
 最後に、例えばということでご意見を伺いたい面があるのですけれども、そのつながりという視点、あるいは結びつきという視点です。これはほかならぬ佐藤先生が最近、「結婚の壁」という大変貴重な研究をまとめられまして、この雇用の問題と結婚あるいは社会的な結びつき、つながりとの連関を非常に見事にお示しになっているわけですけれども。これまでの非正規問題というのは、これまでのパート・アルバイトというのはその雇用の外で、例えば家族、地域のつながりを大切にするが故にその非正規という選択をしていた。ところが、いま大きく場面が転換してしまいまして、非正規であるが故に結婚ができないで、つながりもできないという事態が広がっているように思うわけです。したがいまして、その公正、経済、効率ということに加えて、その家族でも地域での何らかのアクティビティでも構いませんけれども、この非正規を取り巻く現実がつながり、結びつきを制約しているという、そういう問題をどこかに入れ込んでいかないと、特に、多くの若者が直面しているリアルな非正規論と結びつかないのかもしれない。2030年には東京の男性世帯、60歳以上の男性世帯の3件に1件は、要するに単独世帯になっていくわけですね。それはおそらく非正規であるが故に結婚できないが故に単独世帯になっていくという状況がある。そして男性の単独世帯というのは1週間ほとんど誰とも口をきかないというようなデータもございます。そういうことを考えていくと、その辺りを少し入れ込んでおくということが求められているのかなと思いました。
○小杉委員 私も今日発言しようと思っていたのは、いま宮本先生が3番目に言われたことに非常に近いことです。
 いま若い人の働き方の調査をずっとやってきていますけれども、やはり孤立化というのがかなり非正規ということとも絡んで起こっているのですね。まず、その知識にアクセスできないという状況がある。これは高校生のアルバイトの状態を高校の先生がいろいろ調べた結果から出てきたことなのですが、最賃割れの所で当然のように働いていたり、あるいは例えば、レジが合わないと、本人の給料から引かれることが当然に行われていたり。そういう状況が、それは高校生だけではなくて、そこで働いている非正規みんなにおこっているのですね。高校の場合には、たまたまその高校の先生がそういう情報を集めて、それで高校生に労働法教育をしようということで、それを議論して、彼等に知識を与えていくということをしているのですが。学校を離れて、非正規の労働に入っている人たちにはなかなか組織的な支援がとどかず、学校のような所にも行っていないので情報がなくて、それにどうアクセスしたらいいのか、どうしたらいいのかがわからない。労働組合というものがやはり非正規に対しては現実にはほとんど十分関与しているとは言えないような状態の中で、彼等が孤立化しているためにそれを何とかすることもできない状態というのがある。
 ほかの調査でも相談相手の数を取っているのですが、それが雇用形態によって全然違うのです。そういう孤立化状態というのも、それもやはり非正規の問題の1つとして考えなきゃいけないことではないかと思っております。たぶん組合とかで、組織化という話もあるし、あるいは学校時代の教育とかいう話もありますが、それを超えて何らかの形で、いまのつながりという話につながっていきますが、孤立化させない、短い時間とか有期雇用とか、そういう雇用の中でも、そのつながりを守っていくことが大事なポイントかなと思いました。
○樋口座長 経済学の中で保障賃金仮説という考え方があって。ある者が、例えば拘束が強いから、その分我慢して働くのだから賃金が高いのは当然、あるいは保障があるのは当然というようなトレードオフの関係ですね。拘束といったものと賃金の高さとか、保障といった間で、どちらを取るんですかという。個人は選択できるわけだから、その拘束が強いほうを選ぶ人もいる、あるいは拘束がないほう、自由なほうを選ぶ人もいる。ただし、賃金は低いよというような。そこでは選択というのは自由にできるということが前提になっているわけですね。
 多くの、例えば従来のパート問題、主婦パートの問題等々で議論されてきたのは、正社員になると拘束が強いから、だから賃金は安くても、あるいはは企業の中でつながりが、メンバーシップではなくても、そういった形態があるんだと。ある意味では、それがジャスティファイされてきたところがあるのかな。
 いまご提義について議論された問題というのは、むしろトレードオフではなくて、賃金も低いし、拘束もないというような状況で、ある意味では選択ができない。その結果として、余儀なく非正規雇用に就いているというような状況というものが最近目につくのではないかという問題の提起だろうと思います。
 そうすると、先ほどの連続的と言った中においても、地域限定ということで、これはあまりどこにでも転勤するということを好まないという人たちについては、多少賃金が低くてもしょうがないですねというような、保障賃金仮説みたいなものが成り立つ世界なわけです。
 ここで、今日非正規雇用といった問題の途端に、雇用形態の多様化と言うと、何となくみんな選択ができると。どれを選択するのかという話であったのに対して、非正規問題、非正規雇用問題と言った途端に、どちらかと言うと選択の幅がもう限定されてしまっている。正社員にはなりたくともなれないとか、つながりを持ちたくとも持てないという人たちが発生する中において、この問題をどう考えるかというような問題の提起がなされてきたのかなと思います。
 これはまさに経済の状況と関連するところで、労働需給の状況というところで、選択肢が限定されているという問題と関連するわけで。何となく賃金についても、賃金差と言わないで、賃金格差と言うのですね。格差というのは、岩波の辞典を調べると、格付けの差であるという、ウエジデファレンシャルではなくて、ウエジデファレンシャルだったら賃金差、そこに差がありますねと。これは良いかどうかは別として、格差と言った途端に、そこに何か価値観がもう入っている言葉で、その前提はまさに選択ができない。その結果、納得が得られない、公正ではないというような差が発生しているのではないかという問題提起かなと思いながら、聞きました。
○佐藤委員 非正規雇用ビジョンというような議論する、先ほど非正規の人たちの格差の問題で、雇用の安定をどうするかということなのですが、そのときにたぶん、いわゆる正社員のほうが、今度どうなっていくかというのを考えなきゃいけないなと思ってて。いわゆる正社員は企業の責任で教育訓練もし、事業分野が変わっても定年までできるだけ雇用機会と、それを企業として責任持ってやりますよということですが。たぶんこれは減っていくだろうと思うのですね。つまり、企業が働いている人たちの能力開発をし、雇用機会も責任を持つという、もしこれゼロになってしまったら、企業の競争力がなくなると思って、ゼロにはならない。だからやはりこれ減っていく。これ増やすというのはなかなか難しいかなと。
 そうしたときに、この非正規の人の雇用の安定と考えて、確かに企業に、いまの有期で繰返す、無期で雇用してというような雇用の安定を考えなきゃいけないにしても、ただ、そのときに業務限定であったり、事業所限定ということからすると、特に職種限定などで言うと、それで無期になった場合、例えば能力開発について言えば、その職種に必要な限りの能力開発はしますけれども、企業は次のステップってやらないですね。つまり、職種を限定せず、長期にキャリアを作っていこうという社員とは違いますから、そうするとやはりその人たちの能力開発を考えると、これ改善するなら誰にお願いするかなのですが、企業にどんどん自分で能力開発、こうやって増やせって、なかなか難しいかなと思ってて。
 そうすると、例えば職種限定で無期で雇う。これはある程度ルールを変えればできると思うのですが。そのときは、でも能力開発1つ取っても、たぶんその仕事に必要な限りは企業は当然やると思います。ただし、5年後必要なのをやるかというと、そういう次のジョブラダーを作れるかどうかに依存して、そこまでは期待できないなと。それだけではなく、無期の契約してても、仕事がなくなれば、やはりその雇用機会がなくなる可能性がある。そういう意味では、やはり大事なのは、やはりその労働市場なりを通じた能力開発なり、キャリアの継続というのはすごく大事になってくるのだろうなと思うのですね。
 ですけれど、このいまの有期の人たちの処遇の改善なり、能力開発の機会提供としたら、どういう仕組みを考えるかというときに、僕はやはり正社員のほうがどうなっていくかということを念頭に置きながら、連続性を確保しながら、かつ、いまの有期の人たちのキャリアラダーを作るというのは、企業にというよりかは、企業はある程度移りながら、そういう意味では労働市場を通じてキャリア形成できるとか、能力開発できるというほうに、これは言われてきたわけで、相当シフトしないと難しいのかなと思っている。そういう意味ではつながりも、また企業にと戻せるかどうかというと、そういう人をそんなに増やせないだろうと思ってて。そういう意味では、職種であれば、ある面では、これは職種にもよると思いますが、同じ仕事の仲間とか、あるいは地域のというようなつながりを考えるとか、ある意味では専門職みたいな、そういう高度なあれであればですね。企業というか、仕事のとか、あるいは地域のというような、リカネントというから、学校のというような。ですから別の従来のような雇用の安定の維持の仕方、能力開発、つながりの作り方というのは、やはり全体で減っていくのかなと。
 そうすると、別の仕組みをどう広げていくのかなというのをやはり考えないと難しいかなと思います。
 ですから、非正規雇用ビジョンと言って、これは正規雇用ビジョンみたいな感じでね。ではなくて、そうすると何かみんな正社員にするみたいな編集になっちゃうのだけど、もうちょっと新しい雇用ビジョン、新しい。ですからこの正規雇用とか非正規使わないで、ディーセントワークと言うかどうか別ですが、安定雇用ビジョンみたいな、何か新しい安定雇用なり、つながりが持てるような、能力あるような雇用のあり方をどう考えるかというものを打ち出せるといいかなとは思っています。
○樋口座長 ありがとうございます。既に、このメモで言うと、4の施策の方向性のところまでご議論いただいているのですが、ちょっと戻しまして、いま1が終わったと考え、また随時触れてくださってよろしいかと思うのですが、2の非正規雇用をめぐる問題点や課題、もう既に相当程度議論は触れられていると思います。ちょっと事務局からもう一度この点説明いただきます。
○宮本企画官 それでは、論点2「非正規雇用をめぐる問題点や課題」について、前回、出されたご意見をご紹介します。資料2の3頁からになります、社会としては人的資源を最大限活用することが、個人としては自分なりに納得できる生き方ができるかどうかが重要であるが、非正規になるとそれが非常に制約されることが問題、というご意見がありました。
 自分に都合がよいから非正規を選択した人が相対的に減少し、選択肢が狭まり、結果として非正規を選択せざるを得なかった状況がある。一方で雇用機会がないよりあった方がいいという現状もあり、このバランスをどう考えていくか、というご意見がありました。
 非正規雇用が固定的であり、非正規雇用から正規雇用につなげていくにはどうするかが課題。同時に、無業・失業の方をどうやって雇用につなげるのかも重要であり、非正規雇用を活用するという視点も必要ではないか、というご意見がありました。
 雇用保険や社会保険など、非正規労働者であれば雇用主負担を免れることができる制度になっており、国が雇い主に対して非正規雇用を奨励してきた面があるが、これについてはどう考えるか。
 これまでの制度、慣行で守られてきた人とそうでない人というところがあり、そうでない人に対する対応が十分なのかを考えることが大事なのではないか。
 正規と非正規の処遇差については、会社に対するロイヤリティの違い、生涯貢献するか、否かの違いがあるため当然というものが根本にあると思われるが、これをどう見るか、というご意見がありました。
 4頁で、男女差別については、「同一(価値)労働、同一賃金」という議論はあるが、雇用形態差別については「同一(価値)労働同一賃金」ではなく「不利益取扱いの禁止」の枠組で議論されているのではないか、というご意見がありました。
 「ボランティア」や「個人請負」といった今までとは違った就業形態についても考える必要があるか、というご意見がありました。以上です。
○樋口座長 いまの説明の枠を超えても、もちろん結構ですが、できれば後でまとめる上で事務局もまとめやすいのではないかと思いますので、まず、いまの指摘された点について何かございますか。
 いま、まとめていただきました中で、できればご議論いただきたいと思っているのが、雇用の安定性あるいはセーフティネットの問題といった点が、どうも前回、十分に議論されなかったようで、宮本委員は前回お休みでしたから、もちろん、いま出てきた問題以外でも結構ですが、ご意見をいただけたらと思います。
○宮本委員 非正規問題で1つ大きい論点というのが、基本的に選択された非正規なのか余儀なくされた非正規なのか、座長もおっしゃったとおり、これはなかなか調査でも難しい項目だと理解しています。我々の選択というのは。フラットな選択肢オーダーへの空間の中での自由選択ではなく、ある種、戦略的な選択であるわけです。そこはいろいろなライフチャンスと、自分に与えられた様々な条件等を鑑みた上で、ある意味で余儀なくされつつ選択したという形もあろうかと思うわけです。仄聞するところでは、これからヒアリング等もしていくと伺っていますけれども、このあたりをどういうふうに明らかにしていくのか。何か見通しと言いますか、既存のデータの解釈だけだと、なかなか難しいところがある。これは座長が、いまおっしゃった1つのポイントです。
○樋口座長 たぶん一時点の調査だけでは、おっしゃっているように何とも言えないところがあって、ある人は余儀なく非正規を選び、正規があれば転換したいという人もいるわけです。個々人について、そういったものを見てもなかなか結論は出てこないので、むしろ、これまでどういうふうにその人たちの比率が変化してきているのかは、1つのポイントかと思います。ですから個人について見るというよりも、例えば10年間ぐらいの変化を見たときに、かつては自分でそういう働き方を選択したと言っていた比率が、かなり高かった。ところが、今は余儀なくこれを選択したという比率が上がっている。そのトレンドを見て、その問題をどう解決するのかという話かなと思ったのです。最近、何人かの若い人たちで、この選択問題は統計学的にどうかと研究している人たちも増えてきているので、そういうテクニカルな点も含めて検討する必要があるかもしれません。
○佐藤委員 雇用の安定性をどう考えるかということで、これは非正規だけの話でなく、いわゆる雇用の期間の定めなしの人も含めて、これからの雇用のあり方がどうなるか、私は併せて考えたほうがいいと思っています。たぶん個人からすれば、ますます働く必要がある期間、つまり就業期間は延びていかざるを得ない。ですから大学を22歳で出て、いまの60歳までが今度は65歳、67歳となる。それは健康寿命も延びますし、年金等々のことで働きたいし働く必要がある。そういう意味で22から67というと45年ですか、働く必要がある期間はどんどん延びていくと思います。
 他方、企業の側からすれば、新卒で雇った人を45年も正社員として雇っても、その人の能力を活かせるような雇用機会を提供できるかというと、ますます難しくなるのが実態かと思います。そういう意味で先ほどの長期雇用関係を結ぶ人が減るだけでなく、物理的結果として、いくら会社が用意した仕事でも、自分が就きたい仕事ではないから転職しようという必要性は高まってくると思います。いわゆる有期の人だけでなく正規の人も含めて、たぶん過去よりも今後のほうが転職せざるを得ない。あるいは転職しないと自分が希望する仕事に就けない人が増えていくと思います。その意味で、先ほどお話したような労働市場を通じたキャリア形成支援というのは、有期の人を無期に転換したとしても、業務限定型ですからその確率が高いし、業務限定型でない人も増えていくと思わなければいけないと私は思っています。
 最近、定年延長の議論とか継続雇用の議論がありますけれども、企業は雇っていて定年さえ延ばせばずっといられるという時代ではないので、労働市場を通じたキャリアの継続みたいなこととか、特定の企業の雇用保障も、もちろん企業はサボったらいけないと思いますが、企業がいくら努力しても結果的に難しい時代がやってくると思います。先ほどの自分が不本意な就業でなく、キャリア形成が、希望する就業が社会的に実現できるようなことを保障することを前面に出す。そういう意味で正規と非正規の両方を考えてビジョンが作れるといいというのは、そういうことなのです。両方にとっての課題を解決できるような方向性を打ち出せると非正規問題も解決するし、正規の人がいま直面している課題や、今後直面する課題を出せるといいと思っています。
○小杉委員 キャリアの保障という考え方は大変賛成なのですが、そうしたときに、どこを厚く考えなければいけないかというと、移動をしやすくするところが大きなポイントで、また移動にすぐに直面する有期とか派遣など、そういう移動を前提とした働き方に対してどう厚くするか。次のキャリアにつながるようにするかが重要だと思います。例えば雇用保険の対象をどう限定するか、移動する人に対して雇用保険で生活保障するのをどれだけ認めるか。あるいは能力開発することが移動する人には最も必要なわけで、この人たちにどれだけ能力開発機会を提供できるかというときに、今までの考え方で、短い人は短い人だけの雇用保険に入ったり、長い人はそれだけで別にするとか、そういう考え方でいいのかなと思います。社会全体でキャリアを保障するために、つまり長期に1つの会社にいる人が長期型のキャリアを形成できるのは、一方に、変化の大きい社会の中でどんどん移動してくれる人がいるからで、そう考えると長期の人がたくさん払った雇用保険が、短期の人たちにたくさん使われるというのも、社会全体としてはプラスなのではないか。そういうセーフティネットを広げて、移動のプレッシャーが強い人に対して保障を強めていくというのが、考え方ではないかなと思います。
○樋口座長 従来からセーフティネットというか、雇用保険の役割として誰を雇用保険に加入させるべきかという議論のときに、従来は生活というか世帯という概念があって、そこの世帯主が職を失うことが世帯にとって大きなダメージである。したがって、その人たちに雇用保険に入ってもらって失業手当を厚く出すと。準メンバーであるパートの人が職を失っても、世帯としてのダメージは小さいでしょうということで、あえてこの雇用保険の要件から除外してきたところがあったわけです。
 ただ、別の視点から見ると、正社員はある意味で雇用が保障されているわけだから、セーフティネットを必要としない人に加入させてきた。むしろパートや非正規の人たちで雇用保障の薄い人たちに対して、雇い止めをされやすい人たちこそセーフティネットが必要なのだと。しかし、かつてはそこを入れてこなかった。今はだいぶ転換してきたわけですが、そういうようなところがあって、本来、そういう人たちに対しても会社が保障してくれないから、あるいは会社が能力開発してくれないから、社会として、そういった人たちに対する能力開発支援とか、あるいはセーフティネットの役割、所得保障の役割を担っていくべきだと、だいぶ考え方が変わってきたのではないか。あるいは昔からそうかもしれないですが、私の受止め方はそんな印象があって、それが社会の役割、あるいは外部労働市場の役割みたいなところになってきている感じがします。
○柴田委員 ちょっとずれてしまうかもしれませんが、ずっとお聞きしていて、これまでの非正規の話からどうしても抜けられない。非正規雇用とは何かという概念整理から始めて、最後に施策の方向性というとまとまりがつかないのではないかと思います。
前回もディーセント・ワークビジョンにしたらどうですかという話を申し上げたのですが、佐藤委員がおっしゃるように、名称は実体を表わしていない。正社員のほうも多様化している。職種採用もあるし、労働時間だって裁量労働もある。一般職と総合職があるし、一方で専門職もあるという形でどんどん動いていく中で、先ほどおっしゃったような正規社員と非正規社員の連続という話がある。非正規と正規を整理することは、すごく難しくなってくる。
 とはいっても、実際に問題は起こっていてる。この懇談のアプローチの方法として、ここの概念設計からはじめるのか逆に救済すべき問題が起こっている人から逆に検討していくのか。
つまり課題のある、働き方をしている人の抱えている関連が強いことについて、有機か、無機か、契約か、短時間労働かなどを法的に整理し、全体像を俯瞰する。これができるかどうか先ほどからものすごく悩んでいたのですが、非連続の状況を労働条件と課題の両面から全体像として、俯瞰できたらいいと思います。
 佐藤委員がおっしゃるように名称が前提にあると、どうしてもそこに引っ掛られすぎてしまうので、実体から作っていって、後から名称をつけていく形にしていったほうがよいのではと思います。このやり方が果たしてうまくいくかどうかわからないですが、逆の発想をやっていかないと、ひょっとしたら今までと同じ議論で終わってしまうのかなと思いました。
○樋口座長 貴重な意見ですので、もう一度事務局と相談しながら、この後、やっていきたいと思います。実体という話ですと、私どもは調査で転職コストというのを測って、前の企業を辞めてから次の仕事に再就職するまでに、1つはどれぐらいの期間がかかっているのか。もう1つは、どれだけ賃金が上がったり下がったりしたか。下がるというのでコストと言っているわけですが、前職に比べて再就職のときの雇用条件がどう変わるか。転職コストに相当大きな開きがある。見ると、非正規の転職コストというのは、転職期間は短いですし、賃金は割と市場賃金になっているので、賃金が下がるということは少ないのです。
 ただ、では正社員は大きいかというと、正社員の中もかなり分かれてきて、前の企業で評価されている人というのは、すぐ再就職できるのです。賃金の下がり方も小さいということがあって、正社員の中で、あまり前の企業で評価されていなかった人の再就職は難しい。特に縁故関係で知合いを通じて再就職するというのが、実はすごく転職コストを下げる。逆にオフィシャルな所を通じて転職する人は割と時間がかかっている。そういうことがあって、正社員だから非正社員だからということでは、なかなか転職コストというのは一概に言えない。ただ、能力開発が重要だと、特に前職に就いているときの自己啓発、能力開発が有効に効いているというのは出てきているのです。外部労働市場という話のときには、そこまで含めた処遇というか、差の問題というのを考えないといけない。時間の関係で、それでは3つ目のテーマで、事務局からお願いします。
○宮本企画官 それでは、論点3「非正規雇用をめぐる問題への基本姿勢」について、前回の委員の皆様方のご意見をご紹介します。資料2の4頁です。非正規を横断的に見るのは大事な視点であるが、非正規には多様性があり、抱えている問題が違うことを踏まえるべき。非正規全体をいわば望ましくない雇用として全体に網を掛けるというのは、かえって必要な対策が取られないことになりかねない。
 「同一価値労働同一賃金」は、労働者は取り替えがきくということであり、ディーセント・ワークというかけがえのない労働者という考え方とは本来相容れないはずであり、両者をどうバランスさせるか、というご意見がありました。
 初期キャリア、中期キャリアの非正規の問題と定年後の非正規の問題を分けて考えていくことが大事、というご意見がありました。
 非正規雇用が固定的であり、非正規雇用から正規雇用につなげていくにはどうするかが課題。同時に、無業・失業の方をどうやって雇用につなげるかも重要であり、非正規雇用を活用するという視点も必要ではないか。これは再掲のご意見です。以上です。
○樋口座長 結局、この3番目の視点というのは4番目の施策、もう既に議論されているところとも関連してきますので、4番目のテーマも併せて説明していただけますか。
○宮本企画官 続きまして、論点4「非正規雇用に関する施策の方向性」について、ご紹介します。パートや有期といった定義を一旦崩して、労働基準法で一括して網をかけて、その上で適用除外で例外を設けるというような整理も考えてはどうか、というご意見がありました。
 「非正規」とはなにかをはっきりさせてしまうと、それが固定化されてしまうかもしれない。労働基準法等の適用もあり、パート法や派遣法もある中で、最終的に非正規法のような法をつくる必要があるのかどうかは、そもそも論としてあるのではないか、というご意見がありました。
 卒業時期が、非正規雇用の確率を高めるという日本の特徴を踏まえ、最初の雇用の機会を得る公正さや、学校教育も含めた能力開発の機会の公正さを担保する社会的な仕組みについても考えるべき、というご意見がありました。
 能力開発が重要であり、狭い意味の教育訓練をすればいいわけではなく、仕事に就いて少し背伸びをしていく中で力をつけていくという、中長期的なキャリア展開に向けての機会均等が必要である、というご意見がございました。
○樋口座長 それでは3番目、4番目を併せて、ご自由にご議論いただければと思います。
○横溝委員 どんどん雇用社会になっていくわけですね。ということは、働く場で自分の居場所があって、ほどほどの充足感があって働いてという、そういうシステムをどういうふうに作っていくか。国や社会の政策としてどういうふうに作っていくか。いま、非正規が問題になっているのは、いわゆる非正規と言われている方々が居る場所として充足感がない。自分がきちんと処遇されていないという不満というか格差感がある。それをどうやって居場所があり、充足感を持って働けるようにするか。それがないとどんどん活力と調和が失われていく社会になってしまう。そういう危機感があるから、いま非正規と言われる人たちに対し、国や社会としてどういう対策が可能かということだと思います。
 逆説みたいになってしまいますが、いま、どうしても働く場で手当をしなければならない施策は何か。各論的にまず出してみて、それをまとめる形でというのも、ひとつの政策を作っていくには必要なのかなという気がします。こっちからでなく下から、いま、どうしても手当しなければならない働く場の欠けている条件を、どうやって政策として満たしていくか。それをまず下から考えて、それをまた帰納的にというのも、ひとつの考えをまとめる手法としてはいいかなという気も、いま、皆さんのお話を聞いていて思いました。
○小杉委員 この3と4に関連してということで、3番の最後に書かれている「非正規雇用を活用するという視点」は大変に大事だと私も思います。ステップボードとしてという話ですね。実際にいくつかの調査の中で、1つは就業機会が得られない能力が限定的な人にとって、この非正規というような働き場がなければ、まず取っ掛りがつかめない事実がある。いわゆるニート対策などを見ていると、まずここでどうやって有期限の短い期間の働き方から働き始めるか。あるいは、もうちょっと広げてボランティアの話も出ていましたけれども、有償ボランティア的な一般労働市場とは違うところで働き始める。こういうきっかけとしての参加の場みたいな意味も必要なので、有期限の短時間の雇用がいけない雇用では全然なくて、これはこれで非常に必要な雇用だと思います。
 もう1つ、いま若い人のヒアリングをしているのですが、非常に有能な方で非正規の機会をうまく使ってキャリアを伸ばているタイプの人もいるのです。例えば有期限の雇用でNGOで働いて、海外に出て行って海外のNGOにという感じで広げていったり、あるいは専門職型の派遣で、そのほうが自分にとってキャリアを広げられ、いろんなことができるというので、そちらのほうを選んでいくとか、これまでの1つの所に長期にいる働き方でない働き方を選ぶことで、キャリアを伸ばしている若い人も実際にいて、この辺、そういう意味ではプラスの面も十分評価しなければいけないだろうと思います。
 その上で、有期限の雇用等から長期雇用、安定雇用に入る移動のところが、たぶん大きなポイントだろうと思います。NGOなどで働いた方は、そのままそっちの世界で伸びていけばいいのですが、そうでないときに今度は一般企業になかなか入れない。海外青年協力隊で行っても、戻って来るとなかなか機会がないという話になってきて、それをどうつなぐかというところで、非正規の有期限短時間雇用の良いところを活かしながら、この課題をなくしていくために移動の可能性をどう高めるか。そういう意味では最初に佐藤委員がおっしゃったような多段階の連続的なという方向は、その1つの大きな方向だと思います。
○樋口座長 ほかに、どうでしょう。
○宮本委員 先ほど慌てて4の話ばかりをして、ようやく4に辿り着いたということで申し訳ありません。先ほど時間的、空間的に少し射程を広げてという議論をして、キャリア形成を通してその機会が均等にというイメージを申し上げたわけですが、実はこの種のソリューションというのは、かなり定番的に語られているところもあります。そういう意味ではフレキシキュリティとか、最近、北欧では、フレキシキュリティというのは狭義の訓練だけでは対応できないため、エデュケーションの要素が強くなければいけないとして、モビリティとエデュケーションをくっつけたモビケーションという形で、いま、個々的な解決ができなくても、長期的に機会を均等に広げていって能力形成を社会全体で支えるビジョンそのものは、かなりシェアされつつあるのではいなかと思います。
 逆に言うならば、なぜそのビジョンが前に進まないのかを考えていくことも必要なのかなと思っています。おそらくこのビジョンをどこかでまとめる必要があると思いますが、先ほどもお話があったとおり、また最終的に同じようなビジョンが繰り返されることになっても、あまり生産的でないと思います。もしそうしたある種、欧州の経験にインスパイアされたビジョンというのが、何か構造的に日本の現状と相容れないところが出てきているならば、それはどうなのかということもありますし、場合によっては、もうちょっと労働市場の各パートナーが、きちっと課題を受け止めれば前に進む問題なのかもしれない。まだきちっと受け止めきれてないのかもしれないことも含めて、進まない理由みたいなものをきちっと掘り下げることも必要なのかなと思っています。例えば外部労働市場とか、ひとつのツールとして、座長がずいぶんご苦労されてジョブ・カードみたいなものを提起されていますが、うかうかしていると事業仕分けされてしまう現実があるわけです。だから、そのあたりから考えていくことも必要かなと思います。
○樋口座長 処遇の違いというか差というのを、どう評価するかというのはなかなか一概に言えなくて、絶対的な差というのをどう評価するかは難しいのです。往々にして過去とどう違ってきたか、ほかの国とどう違うかといった比較を通じて、日本の特徴とか、いま日本の抱えている問題を評価できるのかなと。そうしたときに、テンポラリーワーカーとパーマネントワーカーの間の賃金差というのが、1つは日本は大きい。客観的にそういうことがある。もう1つ、最近、OECDと共同研究をやっていて出てきているのが、一度非正規というかテンポラリーワーカーになった人たちが、どの期間でパーマネントのほうにシフトしていくのか。ある意味で非正規の長期化というか固定化も、ヨーロッパよりは大きいらしいということが出てきて、それが問題かどうかはもうひとつ議論があると思いますが、ある意味では相対的貧困率が言う貧困の人たちからの脱却がすごく難しく、長期貧困といったものがある。しかもヨーロッパにおける長期貧困は、どちらかというと無業であるとか失業という問題なのですが、日本の場合には就業していながら非正規雇用という形で、そこにとどまっている人たちが多いことも出てきて、それをどう評価したらいいのか。逆を言えば、どうやって転換できる制度になっていくのか。そういう施策を考えていくことが1つあるのかなと思います。
 もう1つは、経済学で昔からの大議論である平等と効率というか、公平と効率というか、その間にトレードオフの関係があるのか、それとも両者はむしろ補完性があるのか。多くの場合は、あまりにも差が小さいと悪平等の結果として人々がやる気を失ってしまう。その結果、効率が低下すると受け止めている経済学者が新古典派に多いわけです。その一方で、生き甲斐といったものが公平性を担保できないと出てこない。要は納得性を確保できるような公正性が担保できないと、それが活力、インセンティブにつながっていかない。最近、インセンティブの議論の中で、そういう展開をするような議論があるのですが、横溝委員が先ほどおっしゃったのは、いま起こっている問題として差が付けられて、それがある意味で固定化し、その結果としてその人たちが生き甲斐とか、あるいはインセンティブを高められないことが、社会にとっても閉塞感を作り出してしまい、結局、社会の成長に対しても抑制力になってしまっている。そこのところを少し考えて、個々人にとってどうかという問題と同時に、社会全体にとってどうかを考えていく必要がある。そういう問題提起だと受け止めました。
○柴田委員 ちょっとずれてしまうかもしれませんが、非正規が貧困に陥ったときに、日本の場合には非正規労働者を支えてあげる組合などの組織みたいなものもない。いわゆる職種別組合みたいなものもないので、そもそも自分にどんな権利があるかも主張できない状態になっています。「職があるだけでありがたい」みたいな状態があると私は思っています。正社員でさえ労働法で保護されている自分の権利を、なかなか主張できない時代が長かった。ましてや非正規の人たちは権利を主張することなど考えていないように思います。非正規の人たちに、法的保護の手を差し伸べたり、支えたりしてあげる仕組みがないのかなと前から思っています。
 一方で、非正規の人はちょっと甘えすぎているという話もあって、要するにそういう人たちを雇ったときに、いわゆる社会人としてのマナーとか、きちんとしたビジネスのリテラシーを持っていないという話があったりするのです。
 こうなってくると、本来、ここで議論することではないのですが、学校教育も課題になります。。海外から来られた大学の先生がおっしゃっていたのは、日本は4年間、一流の大学でも勉強させない。他方、採用する企業の側は、その大学で学んだことよりも、大学に入ったという入社時点のポテンシャルで採用している。つまり大学4年間や、その後の大学院での学問は全く評価されていない。30年近く前に、いわゆる受験戦争の緩和を目指した当時の文部省は、学校の名前を見ないで採用することを企業に推奨していました。海外の場合には、卒業大学ごとに初任給が違うぐらいの話がある。日本では、4年間頑張ったという成果をちゃんと評価し就職に至るまで頑張って社会人となっていくシステムも、若干欠如しているのかなと思います。話が広がってしまって申し訳ないのですが、両方ありますよね。弱い人は弱いなりに支えてあげる。あるいは強い人をもっとちゃんと育ててあげる。そこの部分が欠如しているかなと思います。
○樋口座長 まさにインセンティブとつながって、頑張れば自分がいかに楽しく、ある意味で処遇がよくなるというところがなかなか見えてこない。そうすると学生も頑張りようがない。今日も学生に「どうやればいいんでしょうか」と言われてきました。
○宮本委員 いま柴田委員がおっしゃったことに関連して、よろしいですか。私も少し離れすぎるので触れなかったのですが、高校教育、大学教育との関係というのは、小杉委員が詳しい研究を示されているところですけれども、重要だと思っています。いま文科省で生涯教育についての審議会に参加しているのですが、文科省も教育の職業的意義のようなものについて少し意図的に政策を進めようとされている。その場合、ご存じのにように教育学界の中では、職業的意義というと教育の中立性という観点から批判が巻き起こるわけです。何かタブーに近いようなところがあって、早いうちに労働市場のロジックで囲い込んでしまうのかという話があるわけです。
 北欧の話になってしまいますが、スウェーデンなどでは70年代の初めに、総合制高校で一般教育と職業教育を融合していくのです。これは同時にリカレント教育を社会全体で確立して、大学も無償にすると同時に職業経験があると入りやすくしていく。その場合、高校教育の眼目は何だったのかというと、早いうちに職業で囲い込んでしまう、ある種大陸ヨーロッパ的、ドイツ的なアプローチではなく、一旦労働市場に出てみるひとつの橋を提供して、それをきっかけにいろいろな経験を労働市場で積み重ねてもらい、もちろん、その場合は決して処遇はよくないのですが、そこでの経験をベースに、もう1回勉強し直してもらう。大学は無償ですから放っておくと全部が大学に行ってしまい、予算もあっぷあっぷになってしまうので、本当に大学に行きたい人間を、ある種フィルターにかけていくプロセスも含めて、そういうシステムを作っていったところがあるのです。そういう意味では、先ほど言った制度的な広がりというのも、本当はそこまで考えていかないといけないと思います。
○樋口座長 まだ議論はいろいろあると思いますが、時間がきていますので、本日の議論をまとめて次回以降、それを参考に議論していただきたいと思います。本日の議事につきましては非公開に該当する特段の理由もありませんので、議事録を公開したいと考えていますが、よろしいですか。
                 (異議なし)
○樋口座長 ありがとうございます。それではそのようにさせていただきます。今後について事務局からお願いします。
○土屋派遣・有期労働対策部企画課長 ここまで2回ご議論いただき、各論点について一巡したご議論いただきまして誠にありがとうございました。今後ですが、今回、ご議論いただいている非正規雇用というテーマに関しては、関連する現場なども多数あるということがありますので、年末の取りまとめに向けて次回以降、この非正規雇用をめぐる現場、例えば職業訓練を実施している機関やハローワークも考えられるかと思います。そういった現場のご視察をいただいたり、現場における関係者からのヒアリングなどを行っていただいて、今後の議論をさらに深めていただければと思っていますが、いかがでしょうか。
○樋口座長 どうでしょう、よろしいですか。
                 (異議なし)
○樋口座長 ではそういう方向で進めさせていただきたいと思います。次回の具体的な日程について事務局からお願いします。
○宮本企画官 ただいまご決定いただいたとおり、次回は非正規雇用に関する現場の視察となりますので、場所及び日程につきましては事務局において調整をさせていただきます。お忙しいと思いますが、ご参加いただけますようお願いいたします。
○樋口座長 それでは、これをもちまして本日の懇談会は終了します。ありがとうございました。


(了)

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