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2011年6月7日 第3回ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理指針に関する専門委員会  議事録

厚生労働省大臣官房厚生科学課

○日時

平成23年6月7日(火)
16:00~18:00


○場所

経済産業省 別館8階825号室


○出席者

(委員)

永井座長 福井座長代理
小幡委員 栗山委員 高芝委員 辰井委員 玉起委員
堤委員 徳永委員 藤原(靜)委員 藤原(康)委員 前田委員
増井委員 俣野委員 武藤委員 山縣委員 横野委員

(講演者)

井上氏

(事務局)

文部科学省: 渡辺安全対策官 岩田室長補佐
厚生労働省: 尾崎研究企画官 田中課長補佐
経済産業省: 市川審議官 荒木課長 竹廣課長補佐

○議題

(1)細胞・遺伝子バンクとゲノム指針の課題
(2)海外のヒトゲノム研究の規制:バンクとデータベースを中心に
(3)その他

○配布資料

資料1細胞・遺伝子バンクとゲノム指針の課題(理化学研究所筑波研究所長 小幡裕一)
資料2海外のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関するルール(東京大学医科学研究所准教授 武藤香織)(東京大学医科学研究所助教 井上悠輔)
参考資料1三省委員会委員名簿
参考資料2ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
参考資料3ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しにあたっての検討事項(案)

○議事

〇経済産業省(竹廣課長補佐)
 それでは、定刻になりましたので、ただいまから文部科学省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しに関する専門委員会」、厚生労働省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理指針に関する専門委員会」、経済産業省「個人遺伝情報保護小委員会」を合同で開催します。
委員の皆様には、お忙しい中、お集まりいただきまして、まことにありがとうございました。お礼を申し上げます。
本日は、鎌谷委員と知野委員がご欠席、栗山委員と藤原靜雄委員が遅れる旨のご連絡をいただいております。
まず、資料の確認をさせていただきます。1枚目の議事次第に配付資料が書いてございますので、それに従いまして確認させていただきます。議事次第、資料1、資料2、参考資料1、参考資料2及び参考資料3がございます。そのほか、毎回でございますが、委員資料1、委員資料2という形でファイルを2冊ご用意しております。以上でございますが、不備等ございましたら事務局までお知らせいただければと存じます。よろしいでしょうか。
○永井座長
 それでは議事に入ります。
本日は、前回の5月17日の会議に引き続き、現行のヒトゲノム指針が抱える課題等について、まず理化学研究所の小幡先生、それから東大医科学研究所の武藤先生及び井上先生の3人からご説明をいただいて、その上で意見交換を行いたいと思います。
では、まず「細胞・遺伝子バンクとゲノム指針の課題」につきまして、小幡委員よりご説明をよろしくお願いいたします。
〇小幡委員
 理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンターの小幡でございます。きょうは遺伝子細胞バンクの現状と課題について、現場をあずかる身として、簡単にご紹介させていただきたいと思います。座って発表させていただきます。
「バンク」という名前は、この指針の中でも「細胞・遺伝子・組織バンク」ということで「提供されたヒトの細胞、遺伝子、組織等について、研究用資源として品質管理を実施して、不特定多数の研究者に分譲する非営利的事業をいう。」と定義されていますが、現在、
 我が国においてもさまざまないわゆるバンクが存在しているのが現状でございます。
指針では枠で囲ったところを主に対象としていると思うのですけれども、例えば個別の研究者が収集したヒト由来の試料をバンクと称して、例えばがんの組織を集めたバンク等が存在しますし、大学病院等の個別の研究室もしくは部門が収集したヒト由来研究試料をバンクと称している場合もございます。これらはほとんどの場合が特定の試料、特定の利用者の場合が多く、共同研究の範疇に入る場合が多いのでございますが、必ずしもそうではなくて、他の研究者に提供する場合もあると考えております。
 また、大学、病院等の機関が収集したヒト由来研究試料のバンク、もしくは大学、独立行政法人、財団法人等が運営母体となり、主として他の機関が収集したヒト由来研究試料を集約して分譲するバンク等、いわゆるこの指針が対象としている「バンク」、また「バイオバンク」もこの範疇に入ると思います。
 加えて、営利を目的として民間企業がヒト由来研究試料を収集して分譲する場合も、いわゆるバンクと称して、自分で呼んでいる場合がございます。また、最近は大学等が機関内の研究室とか教室でやったものを「バンク」として企業化するケースも見られます。
 このようなものを含めて「バンク」と呼ばれているものですから、「バンク」の定義を明確にしておく必要があるのではないかと思っているわけです。当面は四角で囲ったところを対象としているということを共通認識として持っておく必要があると思います。ただ、この境目は極めてさまざまでありまして、グレーな部分もあるというのが現状だと思います。
 ここに「なぜバンクが必要か?」と書かせていただきました。私たちはバイオリソースと呼んでいますけれども、研究試料は、発見・発明・イノベーションの礎でありますし、知的基盤だと考えられます。また、研究試料は、研究開発への研究投資の成果物でありまして、知的資産でありますし、資源でもあると考えています。ですから、バンクとしては、No Resource No Researchと申し上げているのですけれども、逆も真なりでありまして、No Research No Resourceということは言うまでもないことだと思います。
 2点目に、実験結果は再現されない限り、それは「科学的事実」とはならない。結果を再現するためには、研究試料の共有が必要であります。追試をするための試料が必要です。論文を発表すると、そのリソースは、colleagueといいますか、研究コミュニティに配付しなさいというふうに義務づけられることがあります。研究者は自ら、もしくはバンクから提供することになっております。
 3点目に、同じ試料を再利用することによって、知識・成果の蓄積が初めて可能となるという点もあります。
 4点目として、個別の研究室・機関が保存・提供するよりは、バンクに集約した方がより効率的・効果的ですし、後ほど簡単に述べさせてもらいますが、集約管理により厳格な品質管理、標準化が可能になって、実験結果の再現性が確保されるということがあります。
 5点目は、ヒト試料の場合、例えばAという試料を患者もしくは提供者からバンクに提供することによって何度も試料を採取する必要がなくなるという倫理的なメリットも存在することを指摘させていただきたいと思います。
 6点目として、研究試料の有効利用期間は、試料を開発もしくは採集した研究者よりも長い、もしくは試料を保有する教室や研究室(機関)の寿命より長い場合がございます。そういう場合はバンクが対応することが必要ですし、その寿命の長い試料をどのように有効利用していくかということを考えるべきだと思います。
 最後に、今回の東日本大震災を受けて、やはり震災への対応として、研究試料は安全なところに保管する。我が国の資産として、また人類の共通資産として大事に保管することが必要だということで、貴重な研究試料の持続的利用を可能とするバンク——バンクも永遠に不滅とは限りませんけれども、一定の期間の存続が保証されたバンクへ試料を移管・保存・提供して利用することが必要だと考えているところであります。
 これから数枚は当センターが実施している事業をご紹介させていただきたいと思います。
 当センターには、ヒトを材料として、主にがん細胞株を中心とした800を超える細胞株がございます。
 それから、社会ニーズ、研究ニーズに応える細胞材料として、ゲノム医科学研究用の細胞材料と再生医療研究用細胞材料の大きく2種類がございます。ゲノム医科学用としては、EBウイルスでトランスフォームしたヒトのBリンパ球、それが健常日本人由来、モンゴロイド由来、そして疾患由来で早老症、乳癌由来のものも存在しております。再生医療としては、当センターはヒトES細胞の我が国唯一の公的な分配機関でありまして、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、それから増井先生と共同で行っていますヒト疾患由来のiPS細胞、それからヒト間葉系幹細胞、ヒト臍帯血由来の血液幹細胞も取り扱っております。下の2つはどちらかと言うと組織という観点が強いと思います。それ以外は細胞培養で試験管の中で増殖できるものですが、下の2つは組織という感じで、一たん提供したら、それは二度と……、つまり新しい試料が必要だというところであります。
 当センターには、現在、細胞株がヒトと動物を合わせて7000ほどありますが、そのうちの約7割がヒト由来であります。年間約4500件提供しますが、その6割がヒト由来試料であります。遺伝子はほとんどがクローンされた遺伝子ですので、ここでは割愛させていただきます。
 これは提供先機関、どんなところに配っているかという全体の絵ですけれども、細胞も遺伝子もほぼ同じでありまして、約6割が国内の大学研究機関、2割程度が国内の営利機関、それから2割が海外の研究機関に提供しております。
 先ほどバンクの役割として品質管理ということを申し上げました。増井先生もおっしゃいましたけれども、簡単に申し上げますと、バンクというのは、倫理、感染症、遺伝子組換え、動物福祉の問題をクリアした安心して使える再現性が保証された高品質のバイオリソースを提供することがミッションであります。
 国内状況ということで当センターに寄託されたものを調べますと、細胞では10%くらい取り間違えたものが寄託されますし、30%くらいはマイコプラズマ汚染のものがあります。これは細胞だけの問題ではなくて、動物も植物も遺伝子も誤同定というのはよくある話であります。一生懸命やればやるほどこういうことが起きるというのは前に増井先生がおっしゃったのでやめておきますが、すべてを排除してそういうものを提供することが、研究の質の向上と研究投資の効率化を生みますので、この点もバンクとしては一生懸命やっているところです。ちなみに、私たちのところはISOを取得して、標準化したマネジメントで事業を展開しているところです。
この問題は国際的な問題といいますか、アメリカやヨーロッパでも大変な問題となりまして、「nature」にも「Biologists Tackle cells identity crisis」とありますが、結局、細胞の誤認は、研究投資の無駄と言ったら言い過ぎですけれども、法律化のところに問題がありますので、論文を投稿するときは品質検証についての証明書なりをバンクからいただいて発行するということになりつつあります。そこで理研では、理研から提供したものは検証書を無償で発行していますし、再検査が必要な場合には実費にて実施しているところであります。
 当センターでの事業はどのようにやっているか、権利とか、そういうものを簡単にご紹介させていただきます。これはMaterial Transfer Agreement、生物遺伝資源もしくは研究材料の移転同意書ということにかかわりますので、簡単にご紹介させていただきたいと思います。
 基本的に大学等でリソースが開発されます。これは科研費等の国費で開発されます。それが寄託という形で寄託同意書を用いてバイオリソースセンターに寄託されます。そのとき、知財権は開発機関に残る。利用者は、また同じようにMTAという書類を使って、この場合は提供同意書ですが、それを用いて提供する。寄託者は条件を付加することができます。利益の共有なども書くことができます。利用者はこの条件を遵守するということで提供を受けることができる。
 ここには書いていないのですが、一点強調してお伝えしたいことは、リソースはすべて無償であるということです。無償でバイオリソースセンターに来て、無償で提供されます。当センターでは、提供以来発生する経費、梱包費とか在庫の補充費とか消耗品費等は利用者から実費として負担していただいていますけれども、基本的にリソースはすべて無償であります。
 受け入れの時の対応でございます。当センターでは、細胞にかかわらず、全ての受け入れ時期にMTAを締結しております。後ほど条項をお示ししたいと思います。ヒトの場合にまずやることは、その試料が採取された時期を確認させていただきます。指針の施行前か後か。指針施行前の場合、ほとんどの場合はヒトがん細胞株が多いのですけれども、それがちゃんと論文になっているかどうか。ほとんどの試料は論文で発表されているものです。また、匿名化されているかということを確認させていただきます。また、指針後の試料については、本指針に遵守しているかということを確認させていただきますし、匿名化、発表論文の有無を確認した上で当研究所の倫理委員会に諮問して、このリソースを受け取ってよろしいかということを諮ってから受け入れている状況です。
 さて、受け取って品質管理をして提供する場合ですけれども、この場合も全ての提供にMTAを締結しております。詳細は後ほどご紹介したいと思います。
 理化学研究所筑波研究所のバイオリソースセンターでは、利用者の倫理審査は行っておりません。二重審査をという点もありますし、やはり利用者の研究機関が一義的な責任を負うというところもあって、利用者の倫理審査は行っておりません。
 先ほど言いましたように提供件数は年間で約2700件あるわけですけれども、そのうちの約6~7割はヒト幹細胞株ですのでMTAを結んで提供することになるわけですけれども、その他の3割、ここにありますようなヒト臍帯血幹細胞、間葉系幹細胞、園田・田島コレクション、後藤コレクション、ヒト疾患由来iPS細胞などは、利用者の機関内倫理審査委員会の承認書の提出が必要であります。利用者がちゃんと倫理委員会を通っているということを確認した上で提供しています。また、同じリソースでも、目的によっては利用者の研究機関内倫理委員会の承認書の提出を求めることがあります。これは例えば日本人の不死細胞株でして、例えば提供者の出身地が欲しいなどというような場合は倫理委員会の承認書の提出を求めることとしています。上のほうは、試料の提供者がこういうことをしてほしいということで、寄託者の要望によって入れているものであります。
 また、ヒトES細胞は、利用者の機関内倫理審査委員会の承認書、それから「文部科学大臣の確認書の写し」となっていますが、「受理の写し」と直していただきたいのですけれども、その提出が必要となっております。ですから、がん細胞株を除いて、ほとんどは利用者の研究機関内の倫理審査委員会の承認書の提出が必要です。そういうことで、これを一般的に提供するかということの範疇をよく考えていく必要があるのではないかと思います。
 残りの時間で寄託の同意書と提供の同意書を簡単に説明させていただきたいと思います。お手元にあるので詳細は読んでいただきたいと思いますが、私たちがMTAと呼んでいますのは機関間の契約書の締結でありまして、機関長同士がきちんと理解してサインしているということがまず前提であります。
 寄託する人はそのリソースがどういう由来であるかということを書いていただきますし、どのような条件をつけるのか、また公表する場合の論文の名前、それから利用の範囲も寄託者は設定することができるようにしております。例えば、利用者が寄託者から事前に提供承諾書を取得するとか、非営利機関・営利機関の利用者限定の有無、商業利用の利用範囲の限定等々をここに書くことができます。
 また、当センターは、リソース検討委員会、倫理委員会等の意見を踏まえて、維持方針の変更などが必要な場合は、寄託者に連絡の上、本件リソースの維持・保存・提供の中止その他の処分をすることができるということにしております。
 そして11項として、「寄託者は、本件リソースの寄託にあたって、本指針等、必要に応じて、該当する日本の法令及びガイドラインによって認められる範囲内で取り扱わなければならない」ということで、約束していただきます。なお、公印を用いて寄託同意書を締結することにしています。
 次に提供同意書でございます。2つあって、営利目的で使うものと非営利目的で使うもので若干違いますけれども、今回は非営利だけをご説明させていただいて、参考資料として営利の場合を一番後ろにつけていますので、ご参照ください。それで、使う場合も、こ
のリソースはどういう目的で使うかということを書いていただきますし、利用者が本件リソースを最初の目的と大幅に異なる課題に利用するときは、事前に当センターに連絡する。また、利用者は本件リソースをヒトに直接使用してはならないということを約束していただきます。
 また、先ほど申し上げたような寄託者がつけた条件がありますけれども、利用者は、本件リソースの利用にあたってBRCカタログ及びホームページ等に掲載されている次の条件を遵守するということで、ここに書いていただきます。
 また、5項として大事な点は、BRCは、利用者の状況及び成果について利用者に報告を求めることができ、利用者は誠実に理研BRCの求めに対して回答するということにしています。
 7項は、共同研究者は利用することができますが、利用者は本件リソースを第三者へ転売又は譲渡し、あるいは上記以外の第三者に利用させることはできないということを約束していただくことにしています。
 そして11項で、先ほどと同じように、利用者はガイドラインに沿ってこのリソースを利用していただくということで同意書を2通用意して、やはり機関長同士での約束ということで公印を押して提供している、そういう状況であります。
 先ほど利用者の倫理委員会の承諾が必要だということを申し上げましたが、例えばこれはヒト臍帯血幹細胞の提供同意書でありまして、4と5とその他幾つかが特殊なものということでございます。臍帯血を利用する利用者は、「本件リソースの利用にあたってBRCカタログ及びホームページに掲載されている次の条件を遵守する」ということで、医学の発展を目指した研究に限定すること、また本件リソースは「ヒト由来試料」であるので、「ヒト由来試料」を用いる必然性がある研究に限定する。また、本件リソースを、サイトカイン等の物質を抽出するための直接の材料としてはならないということを認識、約束した上で提供する。
 また、5項にありますように、利用者は、予め、利用者機関内の倫理審査委員会、又は、文部科学省・再生医療の実現化プロジェクトの倫理委員会における承認を得た後に提供できるというふうに約束しているところです。
 また、このリソースを用いてips細胞を樹立した場合はバイオリソースセンターに寄託すること。
そして7項ですが、同じ同意書をもって、利用者がBRCより提供を受ける本件リソース、つまりヒト臍帯血は200件までとする。他のリソースでは50件の場合もありますけれども、そういう形で提供することにしております。
 最後の2枚のスライドで私がこの事業をやっていて問題であると思うところを書かせていただきました。
 まず、「試料等の保存及び廃棄の方法」ということで、(2)ヒト細胞・遺伝子・組織バンクへの提供ということですが、「研究責任者は、試料等をヒト細胞・遺伝子・組織バンクに提供する場合には、当該バンクが試料等を一般的な研究用試料等として分譲するに当たり」と。この「一般的」というのは何でしょうかということを皆さんと議論したいと思います。また、「連結不可能匿名化がなされることを確認するとともに、」の「連結不可能」というのがさまざまな問題を含んでいるということもご議論したいと思います。また、「バンクに提供することの同意を含む提供者又は代諾者等の同意事項を遵守しなければならない。」と書かれています。
 それで、「バンクの課題」として、再同意というのは非常に難しい場合が多い。特に、全ゲノム遺伝子の配列決定が容易な時代に入ってきて、既存の研究試料を用いてゲノム解析を行い、それらの試料をバンクに提供するケースがふえることが予想されます。この場合、どのようにして再同意を取得するのかということは検討することが必要だと思います。
 連結不可能匿名化の問題は、バンクが自らゲノムコホート研究等のために、例えばバイオバンクですが、試料提供者とコンタクトを必要とする場合、連結不可能だと難しいことになります。また、他の研究機関からバンクが収集した試料を、バンクの利用者が試料提供者とコンタクトをとる必要がある場合、これも大変難しい問題になりますので、この辺をご検討いただければと思います。
 さらに、論文発表に記載された研究試料をさらに連結不可能匿名化することに読めるような場合もありまして、そのようなときは情報の断絶を意味します。情報の断絶は追試を妨げて研究試料の利用価値を著しく損ねることになりますので、その辺も検討する必要があると思います。
 最後のスライドですけれども、「バンク」の定義については先ほども申しましたが、ただし書きで、「学術的な価値が定まり、研究実績として十分に認められ、研究用に広く一般的に利用され、かつ、一般に入手可能な組織、細胞、体液及び排泄物並びにこれらから抽出した人のDNA等は、含まれない」ということですが、この辺、解釈が非常に広いということがあると思います。かといって狭くすればいいのかというところもありますので、この辺はご議論いただければと思います。
 最後に「ヒト細胞・遺伝子・組織バンク」の定義ですけれども、「提供されたヒト細胞、遺伝子、組織等について、研究用資源として品質管理を実施して、不特定多数の研究者に分譲する非営利的事業をいう。」と書いてあるわけですけれども、情報のことは触れられておりません。情報なしのリソースというのは全く意味のない試料になりますので、ここに情報も含めたことをバンクとしては考えておく必要があるということであります。
 私のプレゼンは以上であります。ご清聴ありがとうございました。
○永井座長
 ありがとうございました。
 ただいまのご説明を受けまして質問あるいはご意見がおありの方、よろしくお願いいたします。
 最後の課題のところは文章がわかりにくいのですが、どういうふうに先生は理解されていらっしゃるのですか。アンダーラインの部分が、ぱっと読んで、よくわからないのです。
〇小幡委員
 永井先生がおっしゃっているのは、アンダーラインの「学術的な価値が定まり、」と。
○永井座長
 ええ。
〇小幡委員
 やはり論文として発表されているということが学術的な第一歩だと考えます。
 それから、「研究実績として十分認められ、」と。これは一報ではだめなのかという議論にもなると思います。しかし、一報を出すためには、レビューアーがいて、さまざまな検定が行われるわけですから、その辺は、論文が発表されていれば学術的な価値が定まり、実績として認められるのか。
 それから、「研究用に広く一般に利用され、」というのは、現実的にはどう解釈していいのか、なかなか難しいころであります。例えば、論文を発表すれば、どなたか研究コミュニティからその材料をくださいと言われます。そのときは提供しなければコミュニティから追放されますので、それを提供する。それを繰り返せば一般的に利用されることになるのか。その辺も考える必要があると思います。
 かつ、「一般的に入手可能な」ということですが、「一般的に入手可能」というのが一体あるのかないのか、非常に難しい。私たちがいつも困るところです。
○永井座長
 そういう人の、例えば患者さんのサンプル、DNAは、試料に含まれないという……。
〇小幡委員
 含まない。ですから、この人は指針対象外ということになりますね。
○永井座長
 指針の対象外だという理解ですか。
では、先に堤委員、どうぞ。
〇堤委員
 今の話に絡むのですけれども、最後のほうの「入手可能な」というのは、前のお話を思い出しますと、カタログに載っていて市販されているものという考え方ではなかったかなかと思います。
〇小幡委員
 だから、カタログに載るまでどうするか。
〇堤委員
 そうなのでございます。今の市販されているものだけでは片づかないところが問題かなと思ったのでございますが。
〇小幡委員
 そうすると、一たんカタログに載ったら何でもいいんですかという話にもなると思うのです。決してそういうall or nothingではなくて、倫理的に配慮すべきさまざまな段階の細胞とかDNAとか組織があるということは認識しておく必要があるのではないでしょうか。
〇堤委員
 一つ二つよろしいでしょうか。
研究用で提供した試料は、最後、どうされるのでしょうか。もう廃棄してくださいということになっているのかどうか。先生はそこのところを触れられていなかったように思ったのでございますが。
〇小幡委員
 学術用にそれをやると結構抵抗感が大きかったのが事実です。ただし、営利機関に渡すときは、第18項で「課題終了時もしくは本同意書の解除にあたって、速やかに本件リソースの使用を止め、理研BRCの指示に従って理研BRCへ返却もしくは廃棄する。」ということにしております。営利目的で利用するときは、このような縛りをかけているところです。
〇堤委員
 ありがとうございました。
○永井座長
 では、増井委員、どうぞ。
〇増井委員
 今の堤委員のお話の続きになるのですけれども、実際にはある部分がダブルスタンダードになっているという問題があると思うのです。海外から輸入されるものだと幹細胞から何から十数万円のお金で買えるという状態になっていて、それについては多くの機関で倫理審査はしていない。あるいは非常に注意深いところでも、輸入されたヒト材料、市販されているヒト材料を買っているという事実を登録させるとか、その程度のことしかしていないと思うのです。ですから、その点に関しては、国内で例えば病院と一緒に研究して入手する場合と随分スタンダードが違うと思うんです。
 ただ、それは実態として随分な量が動いている。実際にヒトの肝臓の培養細胞は随分輸入されていますし、我々の研究所でも薬の代謝の研究のために数千万円分も買う。そうすると、ヒト3人分ぐらいのバッチを全部買うようなことになったりもします。そういう問題もあって、市販されている、一般的に手に入るという項目に入っているので、それが許されていると考えて動いているのですけれども、それが実態として動かなくなったらどうするのだろうか。今そういうことで使っている人たちは、ヒト組織から何から随分ありますし、解剖用に手の一部とか頭とか、そういうものが輸入されているという話もありますので、そういうものについてどういうふうにするのかということは、培養細胞の問題だけではなくて随分大きな問題であると思います。
〇小幡委員
 私も同じような認識は持っています。国境を越えて我が国の倫理を押しつけることができないというのは明白であります。ただし、それをどこまで運用するか。それで、そのかわりに入らなくなってくる試料もたくさんあるわけです。そうすると、研究自身がとまってしまう。そうすると、どうしますかと。国内だけでも大変なのですから、国境を越えたら非常に大きな問題が存在するということは十分に認識しています。
○永井座長
 ほかにご意見はございませんか。
〇堤委員
 小幡先生にご紹介いただいた再同意といいますか、例えば研究者が試料提供者とコンタクトするという場合、よくこういう文脈で出てきて、連結可能匿名化であればこれができますよというふうな考え方になるのかとも思うのでございますけれども、試料提供者に行き着くまでにステップが幾つかあるのではないかと思うのです。例えば、試料提供機関とのコンタクトがあって、試料提供者の主治医の先生とのコンタクト等々があって、そういう順番を全部通っていった後で研究者が試料提供者にコンタクトする場合もある。だけど、最近の議論ですと、それがなぜそういうことが必要になるのかという議論なしに、いきなり研究者が試料提供者にコンタクトするというので、どうも話が中抜きになっているようだなと思っているんです。
〇小幡委員
 研究者がこの人とコンタクトという場合、まずバンクに行きます。バンクは連結可能になっていませんので、それは提供機関に聞く。提供機関に連結不可能だったら、それでコンタクトはできない。でも、持っていればという話になりますね。次々にさかのぼれるようにしておかないと、いろいろな不都合が起きるのではないでしょうか。
〇堤委員
 ですから、1回目と2回目の委員会でも申し上げているのですけれども、連結可能匿名化であるがゆえに再同意が可能になるということにもなる。ただし、再同意を求める要件をある程度はっきりさせておかないと、何でもかんでも再同意まで戻ればいいのかという話にもなりかねない。
 もう一つは、同意撤回のときにどこまで対応できるのかという問題と表裏一体といいますか両方一緒に動いてくる問題なので、同意撤回の対応要件といいますか、論点を相当整理した上で何らかの文書にするなりしておかないと非常に混乱するのではないかと思っているのでございますけれども、そのあたりはいかがでございましょうか。
〇小幡委員
 難しいところですね。
もう一つ申し上げておきたいのは、どこかで明確なガイドラインをつくっておかないと困るのは明白で、先ほど申し上げましたように試料を収集した機関よりも試料の寿命は長いわけですよ。そういうときに、バンクが完全に連結不可能だったら、それは全部利用不可能にしかならないので、その辺はスキームをちゃんとつくっておく必要があるのではないでしょうか。
〇藤原(康)委員
 素人なのでよくわからないところもあって、ターミノロジーでいつも混乱するのですけれども、ここにもバイオリソースとか、バイオスペシメンとか、そのバイオリソースの日本語訳で研究試料であったり生物遺伝資源であったり、そして後の武藤先生のハンドアウトでも海外の状況とかガイドラインをいろいろお示しになっていて、いろいろな言葉が出てくるのですけれども、それは各国で同じようなターミノロジーの解釈なんですか。要するに、ガイドラインを出したときに、日本で「バイオリソース」と言う場合はこの範囲だけれども、アメリカに行ったら全然違う範疇になるとか、ターミノロジーの統一化というのは何かされているのでしょうか。
〇小幡委員
 そうではないと思います。同義語で使われていると思っています。研究試料、研究材料、バイオリソース、生物遺伝資源は全部同義語だと考えています。ここではなるべく「研究試料」というふうに指針に基づいたターミノロジーを使わせていただいたつもりではおります。
○永井座長
 ほかにいかがでしょうか。
〇堤委員
 もう一点、たびたびで申しわけありません。この中では「同意書」という形で見本を見せていただいたのでございますけれども、MTAということであれば、同意書というよりは契約書ということかなと思いまして、あえて同意書とされているのか、そういうことの何か意味づけはあるのでしょうか。
〇小幡委員
 Agreementを訳せば同意書ですよ。契約書ではないですよ。
〇堤委員 そういう定義でということですか。
〇小幡委員
 はい。Material Transfer Agreement、研究材料移転同意書です。契約書とは呼んでいないです。
それから、研究所とは限りませんが、機関長がちゃんと認識して公印を押しているということも重要だと私は思っています。
〇堤委員
 ありがとうございました。
〇増井委員
 「同意書」という言い方も使いますけれども、「合意書」といいますか、どちらかがどちらに同意するのではなくて、相互が利害の対立の中で合意するというふうな感じで「合意書」と言うときもあります。「同意書」と言うとインフォームド・コンセントのときの話が出てくるので、それに対して少し区別するのも一つの方法かなというような、そんなことでのご質問だったと思うのですけれども、それだけのことです。
〇小幡委員
 ここにも「次の事項に同意する」となっていますね。「合意する」とは書いていなくて「同意する」となっていますので、「同意書」にしたんです。
○永井座長
 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、また後でいろいろご質問させていただくということで、次に「海外のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関するルール」について、最初に東京大学医科学研究所の井上先生にお話を伺いまして、その後さらに武藤香織委員に補足いただきまして、さらに時間があれば討論したいと思います。
〇武藤委員
 武藤でございます。事務局から海外のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する状況について説明するようにというご依頼をいただきました。非常に幅広くて壮大なテーマでありまして、どういったところに焦点を絞ってお話しするべきかということをご相談させていただいたのですけれども、今も小幡先生からお話がありましたように、きょうは、バンク、ヒト試料の取り扱いということに重点を置いてお話をさせていただきます。
なお、ゲノム研究者の中ではゲノム解析後のデータベースの共有・寄託のありかたが大きな課題になっており、こちらでも徳永委員が大変深くかかわっていらっしゃいますが、今日のお話ではそちらの部分は割愛させていただき、また機会がございましたら取り上げていただけたらと思っております。このテーマに関しては私どもの研究所の助教の井上と一緒に調査ないし内容の確認をしてまいりましたが、ヒト試料の取り扱いについては井上のほうが専門家ですので、井上から説明させていただきます。
〇井上先生
 東京大学の井上と申します。着席にて失礼させていただきます。
「海外のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関するルール」というテーマでの説明を仰せつかっております。先ほど小幡委員からバンク活動についてかなりご説明いただきましたが、「バンク」の定義につきましては国内外を問わずいろいろな考え方があるのですけれども、ヒトゲノム・遺伝子解析研究にかかわるということで、ここでは「多数のサンプル、医療情報、生活情報等を集積して、特定のグループや集団の体質と疾患歴、死因、医薬品副作用等との関係を検討する活動など」ということで、先ほどもご紹介がありましたように研究基盤としての性格が非常に強まっている一方での、研究倫理の観点からの海外の議論の動向などをお話ししたいと思います。
基本的には、「「試料等のバンク化」への各国・地域の基本的な対応・議論」をご紹介します。先ほど、研究者あるいは研究機関がなくなった後もサンプル自体は残り続けるというお話がありましたが、ここでは主に、このように極めて長期にわたる活動が想定される場合とか、最初の同意説明の段階において期間や用途を確定できない場合、また既存サンプルについて新たな用途が発生した場合などに関する論点について、ご紹介させていただきます。
 議論自体はかなり前からあるわけですけれども、国としてポリシーという観点で議論になり始めたのが1990年代後半、特にアイスランドの計画などが紹介されるようになってからのことであります。これは本来の計画では全国民的規模で事業サンプルやデータを大量に集めて研究活動を行うというものでして、同様の計画がアイスランド以外にもエストニアやイギリスなど他国でも提案されるようになってきて、サンプルや情報の集積をめぐる議論が各国でも政策の次元で議論されるようになりました。時期的にはちょうど日本の「ミレニアム指針」が議論されるか、議論される直前の状況でもありますので、ここでこれからご紹介する話は、このような「ミレニアム指針」あるいは最初にヒトゲノムの三省指針ができた時期以降の各国における、ここ10年ほどの動向についての話になるということをご了承いただきたいと思います。また、先ほどもありましたようにデータベースについては今回詳述することはできませんので、サンプル及びバンクについての話に特化したものになります。
国内外で医学研究の倫理規範としてよく知られている文書の一つに、世界医師会によるヘルシンキ宣言がございます。これは人間を対象とする医学研究における研究倫理に関する国際的な基準でありまして、数年ごとに改訂作業が加えられております。
 このヘルシンキ宣言に、専らサンプルデータを用いる研究についての活動が定義に加えられたのが2000年のエディンバラ改訂のときでございます。このときは特にサンプルやデータを用いる研究に特化したルールは設けられず、対象となる活動の定義にこれが加えられたのみで、従来の被験者保護のルールを準用するというものでございました。
 それが2008年のソウル改訂におきまして、専らサンプルやデータを用いる研究に特化した規定が新たに25項として加わり、ここでは「収集、分析、保存または再利用するにあたって同意を得ること」ということが書かれております。加えて、「同意を得ることが不可能であるか非現実的である場合、または研究の有効性に脅威を与える場合、研究倫理委員会の審議と承認を得た後にのみ行うことができる」ということも書かれております。
 このヘルシンキ宣言の文言は英語のshouldとmustとmayという言葉で、基準の重みづけがなされておりまして前半の同意については「must」が用いられておりますが、「同意を得ることが不可能である」などの後半の部分については「may」という言葉が使われていまして、このような状況もあり得るという意味で用いられているようです。もちろん具体的な内容や措置については各国で議論することになります。
 各国の状況についてざっと見てみたのですが、特に欧米諸国におけるこの時期の検討としては、最初に申し上げましたように特定の国家プロジェクトに関連した立法としてはアイスランドにおける1998年及び2000年の法律がありますし、同様に、エストニアでも遺伝子研究法が2000年に成立しております。
 また、「バイオバンク法」といってバンク活動に特化した個別法が制定されているところとして、スウェーデンやノルウェーのようなケースもあります。ただ、これらは、先ほども質疑応答の中でありましたけれども、バンク自体をどのように定義するのかということについては各国で分かれていまして、例えばノルウェーなどは診断とか治療に関するバンクについても含めていますけれども、スウェーデンはそこまでの広がりは持たないという違いもあります。
また、既存の研究倫理について特にサンプルやデータを用いたルールを設定していた国には、既存のこうしたルールを変更するなりして、先ほどの長期利用に関する活動に適用させようという動きがありました。アメリカでは連邦厚生省の連邦規則に関する解釈の変更ですが、2004年と2008年に変更がなされておりますし、フランスとイギリスでは2004年にそれぞれ大きな法改正がなされております。その他、主要先進国の中では、ドイツ連邦委員会が2010年、ここではまだ個別法などの法的対応には至っておりませんが、バンクに対応した立法を考えるようにという立法勧告を行っております。
 お手元の資料集の中にもあるかと思いますけれども、国際的ガイドラインとしては、少し時間を少しさかのぼりますが、「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」というものがございます。これにつきましては南北問題、途上国における搾取という問題が大きなキーワードになっておりました。また、研究におけるサンプルやデータの取り扱いにより特化した問題意識から、「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」が2003年に出ております。
 また、これもお手元の資料にあると思うのですが、2010年にはOECDの「ヒトのバイオバンクおよび遺伝学研究用データベースに関するガイドライン」も出ております。この2010年の指針についても長い議論の経過があります。議論を始めたのは「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」とほぼ同じ時期ではあるのですけれども、つい昨年まで議論が続いていたということになります。
 その他、アジアにおける動きとして、ここに代表的なものを3つほど挙げました。中華人民共和国では、1998年、遺伝試料資源の管理に関する行政令がございます。これは、とりわけ中国から外部に出ていくサンプルについて非常に規制を厳しくする、あるいは国内での遺伝のリソースについての取り扱いを非常に厳しくするというものでありました。
 韓国では生命倫理安全法が2004年に成立しておりまして、その中では「遺伝子バンク」の開設等々についての規定が設けられております。
 また、台湾では研究用試料についての一般的なガイドラインがかねてからあったのですが、2010年にバイオバンクの設置にかかわるバイオバンク法が成立しておりまして、ここではバンクの開設や産業利用の条件等々の規定が設けられているという状況であります。
次のスライドでは、「試料等」及び「バンク」の議論の射程について少しまとめてみました。ヘルシンキ宣言の話でもありましたように、従来、研究利用では患者や一般の健常者を対象とした研究活動においてどのような手順をとるのか、いわゆる被験者(研究参加者)保護の問題が中心にありました。その中では、インフォームド・コンセントを得ること、あるいは倫理審査において対象者へのリスク・ベネフィットを評価するということが中心的な話題としてあったわけです。
 ヒトゲノム・遺伝子解析については以下のような特徴があります。一つは、採取時に関するものですけれども、どのような同意を得るのかということであります。特にバンク活動については将来の用途や期間を限定することが非常に困難であるというオープンエンドの性格がございます。このような状況について研究参加時にどこまで説明ができるのかということがございます。加えて、一旦、サンプル自体を採取し終わった後に、新たな用途が発生したときにこれにどのように対応するのか、また将来の利用者を特定できない場合のオープンユーザーの問題についても考える必要がございます。加えて、バンクのマネジメントをする機関側の責任として、管理・アクセスヘどのように対応していくのか、バンク自体の信頼性をどのように確保していくのかという問題も指摘されております。これから申し上げる各国の動向は、これらの論点を中心に行っていきたいと思います。
 まず、試料の提供時の同意に関するものであります。
「研究参加時に同意を得ること」ということは、サンプルを取り扱う場合であるとないにかかわらず共通しているのですけれども、先ほどオープンエンドと申しましたように、将来の用途・期間を限定することは非常に難しいため、このように広い用途に対応した同意というものをどのように考えていくのかということについて、各国が試行錯誤している状況です。
 ここでは大きく3つの範疇に分けてご紹介いたしますが、1つ目が包括的同意と言われるものです。包括的同意といっても定義が実に様々に分かれているのですが、一般的には、最初に同意を得るときに非常に広い範囲について同意を得ると言われているものでございまして、例えばイギリスのバイオバンク、UKBBにおきましては「疾患・健康増進に向けた予防、診断、治療の改善のための研究」について同意を得るということが書かれております。これが包括的な同意でございます。続いて段階的同意と言われるものです。これは研究者側が用意するものですが、同意する内容に複数の書式を用意し、提供者候補がそれらを選択するものです。複数の段階・選択肢を提示して、これを選ぶというものであります。3つ目は、逆に提供者の側が期間や用途、手法を限定する。つまり、提供者の側が希望を言えるという状況でございます。
 これら1、2、3に分けておりますが、お互いが重なる場合も当然ございます。例えば、2の段階的同意で同意する内容に複数の選択肢がある中で、そのうちの一つが包括的な同意であるということもあり得るわけであります。これらについては、従来の同意のスキームを広げる話でありますので、課題も指摘されております。まず、十分な説明がなされていないということで、果たして研究倫理上の要件を満たしたと言えるのかどうか。また、実際に利用する側の人がこういった条件に従って活動しているかどうかということをどうやって担保していくのかという問題があります。また、このように広い同意の内容について認めた場合に、同意の撤回にどのように対応していくのかという論点も指摘されているところであります。
 続いてのスライド9枚目は、既存サンプルの利用に関する問題についてでして、これも先ほど出たように新たな用途へどのように対応していくのかということであります。これについては最初に非常に広い同意を得ることを普及しておけばそれで対応できるのではないかという指摘もありますけれども、そのような状況ではない場合についての話であります。
 この点につきましては、「オプト・アウト」(推定同意)という言われ方をするのですけれども、あくまで例外的な状況として、個人と再度の接触が困難な状況である場合、例えば下記のような条件が満たされたこと等が事前審査等で確認できた場合は同意要件を省略するというプロセスを認めてもよいのではないかという提案があります。
 例えば、ここで幾つか提案されているような条件の例を紹介しますと、その研究活動自体に科学的な活動としての重要な利益があるということが認められた場合、また該当する研究目的が他に既に同意が得られているサンプルデータを利用しても達成できない場合、つまり代替手段がない場合、そしてまた本人が対象となる研究活動への利用に反対していなかったこと、否定的な意思表示がないということがちゃんと確認し終わっている場合などについて一定の基準を満たした場合、推定同意というやり方を認めてもよいのではないかということが、欧州人類遺伝学会や欧州評議会から示されております。ただ、このような推定同意の問題については、当初どのような同意が得られているのかということを尊重することと、再同意がなかなか難しい状況にあるということが前提となっております。
このように同意のスキームを広げた後の活動について、本人の同意を補完し、またバンクが秩序ある形で展開していくために、バンク側にどのようなことが求められているのか、この部分の検討が近年注目されております。次の10枚目のスライドです。採取以降の諸活動の透明性をどのように確保していくのかということで、これは特に最初のほうのスライドにありました欧州において非常によく見られる活動であります。
 このようなことを考えますのも、最初の採取時に将来用途や期間を定義すること、限定することが困難であるというバンクの性質に根差したものでありまして、管理体制を整備することや撤回にどのように対応していくのかといったルールを策定することを通して、信頼性を確保して必要があるという問題意識があるためです。具体的な手段としては、2004年のイギリスの法改正に見られますように、モニタリングを制度化するというもので、定期的な監査とか登録・ライセンス制度を設ける場合があります。現在、イギリスでは、2009年度の報告ですが、約200機関が研究利用や研究保管についてのライセンス制度のもとにありまして、具体的に研究ライセンスを取得して活動しているということであります。 
 続いて2010年にドイツの国家倫理委員会で提示された原則でありますけれども、運営状況に関する情報公開をするべきであるということ、バンク活動についてはバンクが主体となって情報公開をする。そこには以下のような内容が含まれるべきであるということで、提供者の権利、バンクの責任者、連絡先や照会先、また内規として例えば収集や利用、移転に関してどのようなルールを設けているのか、このようなルールについても公開をしなさいということが言われております。また、こちらはモニタリングの制度化とも関係しますけれども、定期的に報告を出す。用途や移転の現状、あるいはバンクで展開されている活動とか質の管理について、どのような取り組みをしているのか、それらについて提供者を含む社会に向けて報告をすることが必要ではないかということであります。
 また、これはユネスコやOECDの文書にも書かれているのですが、試料の移管とか、それからバンク自体が閉鎖をしてもサンプル自体が残り続けるということも考えられますので、バンク閉鎖後のサンプルの取り扱い手順の整備についても、バンクの信頼性確保の中に含まれる要素でございます。
 とはいえ、これらは基本的に国のスタンスということで、あくまで政策の次元の話でありますので、個々の研究活動の具体的な運用の際にこれらの大原則の適用を加減する場合があります。11枚目のスライドですが、研究活動の性格に関連した例外規定を幾つかご紹介しますと、匿名化をどのように設定しているのか。また、研究活動の用途・計画についてはどのような限定が付されているのか。また、対象となるサンプルの種類によって、要件の緩和とか、これらの所定の基準が満たされている場合にルールの対象外となるということも考えられています。
 アメリカの厚生省の指針でありますけれども、従来、アメリカでは被験者保護のルールとして連邦規則でありまして、その被験者保護の定義に入るかどうかということがこのルールの適用の対象になるかどうかということの一つの基準であったわけですが、サンプルやデータについては連結不可能匿名化をするということでルールの対象から外れるというふうに解釈されていました。それが、2004年の指針の導入によって、「研究者が対応表を有さない形式での連結可能匿名化」、つまり連結可能匿名化であっても対応表を第三者に預けるという場合が例外規定の対象に新たに追加されています。
加えて、イギリスの2004年法では、試料の「利用」や「保管」は原則としてライセンス制度と同意要件の対象になるということは先ほど申し上げました。例えば後者については、サンプルが個人を特定できない状態にあること、倫理委員会の承認を得たということ、また用途自体が個別の研究活動に特化している場合については、同意要件を緩和するという例外規定が設けられております。ただ、これらについて逆の言い方をしますと、個人の特定可能性が維持される利用形態とか将来用途が限定されない保管形態などは基本的に大元のルールの対象になり続けるということで解釈されているところであります。
 続いてのスライドは「(4)その他の重要な論点」についてでございます。きょうの時間の範囲内で言えることには限りがあるのですが、まず1つ目は「匿名化」に関するものであります。2003年のユネスコの「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」では、サンプルの取り扱いは連結不可能匿名化をするようにということが言われておりましたけれども、その後、各国における議論の中で、「連結可能匿名化」のうち、先ほどアメリカの話にありましたように、対応表を第三者が管理する形式についても匿名化の重要な柱として認めていこうではないかという議論がございます。研究者が対応表を直接入手できないことで、取り扱い上は「連結不可能匿名化」と同等とみなすべきではないかということであります。
 もう一つが、前回のこの委員会でも議論になりましたが、個人に関する解析結果の開示でございます。ユネスコの2003年の宣言に示された原則では、「知らされるか否かを決定する権利」をあらかじめ説明するようにということが書かれておりました。ただ、その並びで「個人毎の結果が導かれない場合には適用しない」ということも書かれております。個人に関する解析結果の開示については、立法府での議論というよりは、個々の研究プロジェクトにおいてどのような方針を考えるかというスタンスの方が主流のようです。例えば2009年に、NIH・GENEVA声明——これはGene.Environment Association Studies Consortiumの略ですが、こういう声明が出ております。臨床上の意思決定は、国内の臨床検査基準を満たした環境で行うことが原則になっておりまして、このようなことがある限り、一般的に研究成果をもって直ちに本人に開示を行うことは原則として認められない。ただ、例外的状況もあり得るので、そのような状況に配慮することとして、このようなことが考えられる場合は、症状によっては倫理委員会と相談しなさいということが書かれております。
 一方、イギリスのUKバイオバンクの場合につきましては、目的や解釈、サポート等いろいろな問題があり得るので、原則非開示とするということが2007年のガイドラインの中で記されているわけであります。一部の委員からOECDガイドラインについてお話がありましたけれども、OECDガイドラインがどのような構成にしているのかということを、次のスライドで簡潔に紹介したいと思います。これは 経済協力開発機構と言う国際機関の文書として示されておりまして、基本的には考慮すべき事項のリストであるということで見ていただければと思います。
 全部で10の章からなっておりますけれども、2では「バンク・データベースの構築」、まさに立ち上げるころから始まっており、続いて3で「ガバナンス、管理及び監督」について書かれております。4は研究参加者候補を対象とした手順に関する参加の条件でありますし、5、6、7はバンクのマネジメントに関するものであります。8はバンク活動に従事する人員の資格、教育、訓練に関するものが書かれておりますし、10ではバンクやデータベースの中止、閉鎖をする場合やサンプルやデータの処分に関する規定が出ておりますので、ご参照ください。
 先ほどお示しした4つほどの論点についてですが、OECDガイドラインではこのような書かれ方がされています。まず、試料提供時の同意に関する話ですが、OECDのガイドラインでは、「広い用途への同意」、ブロードコンセントを容認しておりますけれども、一方で同意の撤回の方法、同意撤回への対応についての情報提供のあり方に関するルールもセットにして検討するように求めております。
 加えて、既存サンプルの利用についてですけれども、原則として再同意を得るということが書かれております。ただ、一方で、倫理審査委員会または関係当局による同意省略の認定があった場合については、その例外を認めるという書き方がなされております。また、最初にサンプルを得るときに再連絡を選ぶかどうか、その方針についても明確化するようにということが書かれております。
続いてバンクの信頼性の確保ですけれども、同意のスキームが広がる中で、バンク活動自体の信頼性が非常に重要になっておりまして、透明性や説明責任について明確化すること、またサンプルの管理体制を明確化するということが特にこの箇所に書かれております。
 匿名化につきましては、バンクから出るサンプルについて連結可能性の維持を広範に容認しております。
 また、個人に関する解析結果の開示については、これについて何らかの明確な方針を示しているというよりか、認めるかどうかに関して、解析結果の開示についての方針をまず決めなさいということで、その是非については各国での議論に委ねられている、投げている状況でありますが、そこで開示するとなったときにはきちんと妥当性を確認して、治療の手段や情報開示の仕方等について検討するべきであるということが書かれております。
 15枚目のスライドは日本の指針の特徴についてです。サンプルや情報の取り扱いルールはヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理指針にのみあるわけではありません。「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」は先行してできているわけですが、その後、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の範囲以外のところについて疫学の指針が2002年にできています。また、さらにゲノム・遺伝子解析及び疫学の指針以外の活動について臨床研究の倫理指針の適用が設定されているわけでして、このように別建ての文書の中でサンプルや情報の取り扱いのルールがそれぞれ個々に存在しているという状況が現在あります。
 その中でサンプルや情報の取り扱いの内容については、きょうのテーマでありますところのバンク、とりわけ長期にわたる多目的な活動について、これらのルールをどのように適用していくのかということが問題になっているわけです。
 ゲノム・遺伝子解析においては、バンク活動の一部について、いわゆる不特定多数の研究者に分譲する非営利事業については規定があるのですけれども、そのほかの長期にわたる多目的な活動についてどのように取り組んでいくのかということについては、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」をどのように読めばいいのかということが問題になるかと思います。
 続いて、サンプル同意を得るときに、幾つかブロードコンセントの例をご紹介しましたけれども、日本の研究倫理指針では基本的に個別の同意に力点を置いて指導がなされているようであります。例えば疫学指針とか臨床研究の倫理指針に関するQ&Aでは、「包括同意は基本的に認めず、個別の同意を得るように」ということが書かれております。ただ、一方で、2000年の「ヒトゲノム研究に関する基本原則」、この文章はヒトゲノム・遺伝子解析の前文でも引用されておりますが、ここでは包括的な同意を認めるという文言が書かれております。実際に、サンプルやデータの取り扱いにおける同意のスキームということについて、研究者の間でもこれらの解釈をめぐって混乱が見られているようであります。
 また、現在の研究倫理指針では、既存サンプルの利用については、基本的に再同意を得るということ、あるいは連結不可能匿名化にしてしまうということ、あるいは所定の基準として既に同意が得られている研究活動の「関連性」とか「公衆衛生の向上」等、基準としての適用や解釈が問題になっているところがございますので、こうした条件の妥当性についても論点になろうかと思われます。
 以上、お時間をいただきましたけれども、これで最後のスライドです。少しまとめたものですが、「バンク」というのは、試料等を収集し、研究基盤として管理する活動でありまして、その中で将来用途や利用期間を確定することが非常に難しい場合も出てくる。こういう問題にどのように対応していくのかということで、各国及び国際組織におけるコンセンサスとして示されているルールをご紹介させていただきました。国際的文書については、検討すべき論点のリストが示されているもの、そういう読み方をしてご参照いただければと思います。また、各国では政策と一方で研究活動のプラクティス自体を動かしていかなくてはいけないということで、原則と活動の性格にもとづいた例外が認められております。ただ、この例外も手放しに認められているわけではなくて、例外がどのように容認されるのか、その条件についても検討が必要になってくるわけであります。
 また、データやサンプルについては、先ほど出た疫学指針とか臨床研究指針との境界領域での研究活動、例えばゲノム疫学のような境界活動の研究活動がありますので、従来の規定で対応できるものとそうでないものはどのようにあるべきか、また他の研究倫理指針の規定との整合性や関係性も議論になろうかと思います。
お時間をいただきまして、ありがとうございます。
○永井座長
 どうもありがとうございました。
 それでは、武藤委員から追加、補足をお願いいたします。
〇武藤委員
 私から一つ補足といたしまして、先ほど藤原(康)委員からご質問のありました定義について触れておきたいと思います。お手元の委員資料2、OECDガイドラインの序文が1ページにございますので、こちらをご確認ください。
 序文の1段落目の4行目にこのガイドラインが対象とするものの定義が書かれております。「HBGRDは、遺伝学的研究の目的で利用できるように資源として構築されたものであり、(a)ヒト生物試料および/またはその解析から得られた情報、ならびに、(b)関連する広範な情報が含まれる。」とあります。ですから、このガイドラインが対象にしているものは遺伝学の研究に資することがメインの目的になっていること、また、ヒトのサンプルと解析から得られたデータ、それに付随する情報がすべて対象となっているということで、かなり対象を広くとられたガイドラインであることをご確認ください。
 このガイドラインは、2004年に東京で検討のためのワークショップが開かれております。当時は、「データベースのガイドライン」として起案されていましたが、途中から2008年頃には「バイオバンクのガイドライン」という名前になっていました。国際的にも定義の部分で少し混乱があったような状況で、議論の途中経過におきましては、「データベースとバイオバンクはほぼ同義だ」という趣旨の文書も出されておりますので、藤原委員の混乱されるところはもっともな点であると思います。
 もう一点、バンクと解析データ管理の不可分な関係について申し上げます。いわゆるヒト試料のバンクにはたくさんの情報が付随されており、情報が付加されることによって研究試料としての価値が高まります。
 ただ、バンクとは別のものとして、ヒトゲノム解析によって生成されるSNPのデータやリシークエンスデータをどんどんデータベース化していくという試みもあります。
 今回こちらについては議論が十分できませんでしたけれども、現在、解析後データの集約と共有、公開といった作業を、研究者の自助努力で運営している現状がございます。多くの場合、例えばリシークエンスのデータのように、個人の大量のゲノム情報を含むデータについては、利用を希望する研究者の申請を受けて、審査の結果、研究者を特定してデータを共有するという制限をつけています。他方で、個人識別可能性があまり高くないデータについては公開をする。つまり、コントロールアクセスとオープンアクセスという2つの方針でデータベースの運用がなされています。こうしたゲノム情報の取り扱いについては、バンクと重なる議論でもあるし、別の議論でもあるようなことで、ちょっと位置づけが難しい問題ですが、データベース運営の現状を認識していただき、検討すべきことが十分あるのではないかと思い、最後にコメントさせていただきました。
 以上でございます。ありがとうございました。
○永井座長
 ありがとうございます。
 それでは、ご質問、ご意見をお願いいたします。
〇前田委員
 2点について教えてください。一点目でございますが、各国における制度改革によって同意要件が緩和されているように見えますけれども、試料が扱いやすくなったという理解でよろしいでしょうか、このことについて教えてください。また、二点目でございますが、配付資料の7ページあたりでアジア諸国の動きをご紹介いただいていますけれども、これらを拝見いたしますと、動きが早いという感じを受けますが、その背景にはどのようなことがあるのか、教えてください。
○永井座長
 いかがでしょうか。
 では、井上先生からお願いします。
〇井上先生
 ご質問いただきまして、ありがとうございます。
 まず1点目は、同意要件のスキームが広がって緩和されたように見えるという話、サンプルが使いやすくなったのではないかという話がございました。こういう法律ができることについてはいろいろな背景があって、それは2つ目についてのお答えとも重なるのですけれども、これまでグレーであった領域でありますとか、先ほど例外規定の話がありましたけれども、このようなことが制度化されていない状況においてはサンプルを長期間使う活動の継続可能性について非常に問題があったわけであります。このようにルール化されることによってサンプルの使い勝手がよくなった側面は確かにあるのかもしれません。ただ一方で、このような同意のスキームを広げることが各機関におけるアドミニストレーションとか情報公開に関する業務、あるいは各倫理委員会の負担をふやしている可能性もございます。このようなことを考えますと、サンプルの取り扱いが楽になったかどうかということは、人や段階によって、あるいは各機関によって、ひょっとすると各研究活動領域によっても非常に変わってくるのではないかというふうに申し上げたいと思います。
 続いてアジアにおける話でございますが、中華人民共和国における1998年の行政令、特に海外に持ち出すことについて非常に厳しいルールが置かれているということを先ほど申し上げました。これは、ある特定の国の研究者が中国にやってきてサンプルを持ち出したということ、これを中国の政府として非常に問題に感じていた。これ自身を研究の大きなリソースと考えるならば、そのリソース自体が無秩序のまま海外に出ていくのは問題であるということで、特に試料を資源の問題として考えまして、国内における研究活動の管理を強める、あるいは海外持ち出しを規制するということが、98年の行政令の背景にありました。
 韓国の状況ですけれども、きょうは遺伝子解析研究についての話でありましたので、「遺伝子バンク」の部分を紹介させていただきました。もともと2004年法は胚とかクローンに関する規制であったわけですが、遺伝子検査については、研究目的とか医療目的とかにかかわらず、遺伝情報の取り扱いという観点から規定を設けているというのが背景のようであります。
 台湾については、これも同じように国内で少数民族を対象とした研究活動があって、そこで幾つか研究倫理のルールに反するようなことがあったためにこのようなルールができたわけですけれども、2010年のバイオバンク法は、政府として、一つ核となる特定のプロジェクトがありまして、このプロジェクトを後押しするような意味で立法が進められたと聞いております。
 以上です。
〇武藤委員
 一言補足させていただきますと、韓国と台湾で現在構築されているバンクは、台湾で言うと戸籍との連結、韓国で言うと医療保険の情報との連結が計画されておりまして、その分、法律なり行政令みたいなものをつくって対応しようという動きがありました。この点では、例えば医科研にありますバイオバンク・ジャパンのように、レセプトや行政情報と連結していないバンクとは性質が違うという背景がございます。
〇前田委員
 ありがとうございます。
○永井座長
 それでは、増井委員。
〇増井委員
 2つあります。一つは、ここで紹介されている幾つかのことに関して、実態と書かれていることには乖離がある。当たり前のことですけれども、そういう部分があるということです。例えばハンドアウトの13ページに出ているアメリカの厚生省指針の話ですけれども、昨年度、これを出したOHRPという機関に行って話を聞いたときには、こういうものを出して使いやすくしたつもりだけれども、実際には倫理委員会にかけているところが多いと。
 それから、先ほどの前田委員のご質問とも関係があるのですけれども、使いやすくなったのかといったときに、例えばイギリスの場合、実際には再同意をとらなくても使えるような形になっているものに対してリシークエンスが入ってきたり、フォローアップデータを加えたりするようなことがあるので、やはり再同意をとると。実際、昨年12月のInternational Cancer Genome Consortiumのときに、生き残る人の多いがん、例えば前立腺がんみたいなもののときにそういうことをやっていると。どれくらいの例数をとっているのですかと聞きますと、1カ月に4件ぐらいは再同意がとれるのだというような話でやっていたりして、ブロードにはなったけれども、同意はとらなければいけない、そういう方向に動いた部分もあるという話をされていました。ブロードコンセントをとるけれども、ブロードコンセントについての同意はきちっととるというような、そういう姿勢もとられる部分がある。だから、あるところを軽くすると、あるところがちょっと厳しくなっているような、そういう部分もあるということを言っていました。いずれにしても、海外の風潮も随分動いているのだなと。だから、書面だけで見ているほど実態がどうなのかというのが少し気になるところです。
 それから、バンクをやっている身として考えたときに、バンクの透明性とか信用性を高めるということですが、実際には社会に対してバンクの信用性を一番高めるのは利用者のモラルなんです。利用者のところに出すときには、物が手渡されてしまうので何が起こってもコントロールできないんです。どうやって使われたのか、どうなのか、そういうことも含めてやはり不安になる部分がございます。
 そういう意味で、今の発表の中では出てきませんでしたけれども、バンクの信頼性の確保という部分には、バンクから提供されるもの、分譲されるものを使って行われる研究が高い質であるということはもちろんですが、少なくとも機関のもとでの倫理委員会の、私は監視というのは嫌いですが、少なくとも枠を外れないようなことを考えて、それを一点書いておかないとまずいだろうなということを、今のお話を伺って考えました。
 以上です。
○永井座長
 どうぞ。
○高芝委員
 貴重な報告をありがとうございました。非常に印象的なところもありました。
 3点質問をさせていただければと思ったのは、今もありましたけれども、アメリカの厚生省指針のところが示唆に富むように感じたのですが、私の理解するところ、アメリカは個別分野方式をとっている国ですので、個人情報保護の面でも個別分野のところには立法手当てがしてあるけれども、一般的には民間の自主規制とか、そういうところに任せている国なわけです。藤原靜雄先生がいらっしゃるところで私がヨーロッパのことを言うのは恥ずかしいのですが、そこが、日本もそうですが、ヨーロッパなどの法律をつくっているのとはやり方がちょっと違うというふうに認識しています。そのところでもし分かればということで結構なんですが、アメリカも、この分野についての法律があった上でこの連邦規則があるのか。そうではなくて、個別分野の法律の手当てはないけれども、こういう規則で対応しているのかというところを教えていただければと思います。その趣旨は、基本的な法律があれば法律との整合性ということがどうしても前面に出てきますので、法律がどういう状況か、そういう前提がある場合とない場合で考え方を分けていくべきではないかという思いがあるので、そこを教えていただければということ。
それとの関連で、第三者が管理するという言葉が出てきていて非常に興味深かったのですけれども、これを具体的にバンクの関係に引き寄せて考えると、最初に提供する機関が対応表を自分の機関内で持っていた場合は、この指針上は個人情報として考えているように読めたのですけれども、第三者機関、中立的な機関に預ければ、それは対応表を有しないということでこの規則は読んでいるのか。同じことは逆にまた、バンクが研究者のほうに分譲するときに、大もとの提供者は第三者になるのか。そこら辺の細かいところまでは解説がないのかなという思いも一方にあるのですけれども、もし分かればということで教えていただければと思います。
 その関連で最後の点ですけれども、連結可能匿名化ですと、世の中に対応表はあるわけですね。研究者の手元にはないにしても。それが万々一にも漏えいした場合はやはり特定されるという問題が残るわけですので、そこに対してセキュリティその他、何らかの手当てを指針のほうが求めているかどうか。そこら辺でお分かりのことがあれば教えていただければと思います。よろしくお願いします。
○永井座長
 いかがでしょうか。
〇井上先生
 専門家の先生の前で恐縮ですけれども、アメリカの指針はあくまで連邦規則に関する解釈としての話でございます。したがいまして、具体的にはNIHあたりの連邦機関での研究活動とか、連邦助成を受けている研究機関に適用されるルールという限定がつくのですけれども、ただアメリカにおいて全国レベルで普遍化されるような、この類の文書がなかなかないので、アメリカの代表的な考え方の一つとして参照されていることの多い、そういう類の文書としてお読みいただければと思います。
 続いて、対応表の管理の話であります。こちらもアプローチについては非常に様々あるところでありますが、基本的理念として、研究者は容易にアクセスできないということが出発点としてあります。例えば、同じラボの中でも、サンプルを取り扱うときはふだんからコード化して扱っているけれども、対応表自体もその研究者の手元にあるという状況ではなくて、研究者の活動から、その対応表については研究者が容易にアクセスできないような状況下に管理をすることということが骨子としてあるようでございます。
〇武藤委員
 多分委員の方でお詳しい方がいらっしゃると思うので、ぜひご発言いただければと思います。
〇辰井委員
 あまり詳しくはないのですけれども、乏しい知識の範囲で申し上げますと、アメリカの場合、どこに書いてあったのか、よく覚えておりませんが、対応表を有さないということだけではなく、管理をしている人に、守秘義務といいますか、法的な義務があるということがたしか要件になっていたように思います。それは契約でも構わなくて、とにかく法的にそのようなものがあるということが要件になっていたような気がします。
 それから、先ほど増井先生からアメリカで緩めにつくったのに実際にはいろいろ審査が行われているという話がありましたが、アメリカの場合、連結不可能匿名化であるか、このような連結可能匿名化で個人が特定される試料でないということになると、ほかに何の規制もかからないということになってしまっていて、そのことに対してはヨーロッパからも批判がありますし、そこはだれもが不安に思ってしまう。だから、必要な審査を自分たちでやるという格好になっているのだろうと思います。
 ついでに一つ質問させていただいてよろしいでしょうか。OECDのガイドラインの読み方について一つお伺いしたかったのですが、個人に関する解析結果の開示について、特に開示しろとも開示するなとも言っていない。認めるかどうかに関して方針を明確化することが重要だという趣旨で書かれていたというのは、そうだったと思うのです。ただ、それを各国に投げているという言い方をされましたが、これは必ずしも各国に決めろという趣旨で書かれているのではないという理解でよろしいですか。私の理解としては、各バンクが自分のところで方針を決めることが重要だというふうにこのガイドラインは考えていて、その点について各国の政策立案者などもこれを参考にしてくださいという趣旨であって、その方針をどこかが決めてくださいという趣旨ではないと思っていたので、一応確認させてください。
〇武藤委員
 辰井委員がおっしゃるとおりで、このガイドラインはバンクの運営者もしくはバンクを構築することを検討している政策立案者や実務者に向けて書かれたガイドラインです。国家ではなくて、各バンクに向けて示されているということで、ご指摘どおりと思います。失礼しました。
○永井座長
 徳永委員、どうぞ。
〇徳永委員
 2つのご発表を聞いてとても参考になったのですけれども、その中でちょっと疑問に思ったのは、バンクを利用した研究者が得た成果は全く報告する義務がないということですか。その辺のところがあまり触れられていなかったように思うので、確認させてください。
〇小幡委員
 私から答えます。
 私の使ったパワーポイントの17ページ、第5項、「利用者は、本件リソースを利用した研究結果等を発表する際は、」という文章の次ですが、「また、利用者はその発表の情報を理研BRCへ送付する。」という約束をいただいております。ですから、バンクを利用した方は、論文発表や学会発表をする場合、もしくは企業ですと特許を取った場合は、必ずバンクに伝える。バンクは、その情報を新しい研究試料の付随情報として発表すれば、その試料の利用価値は向上し、また使う人がふえるという蓄積ができます。そういう意味で第5項にそのように書いていますし、またバンクは利用者にどのような状況ですかということを尋ねることができて、利用者はそれに対して誠実に答えるということがアンダーラインの部分で書かれておりまして、そのような約束をしていただいております。
〇徳永委員
 ゲノムの研究の指針では、年に1回の報告を義務づけています。これは研究機関の長が所属する研究者に対して報告を求めることになっていますが、そこまで細かい要請ではないのでしょうね。
〇小幡委員
 バンクの試料を使ってそこまで細かくやるか。これは大変な議論があるところだと思うのですけれども、バンクから提供して論文になるのにどのくらいかかるかというと、平均3年です。細胞で、早いほうで。ほかのリソースだと5年くらいかかって初めて論文が出る。そういう息の長い研究もありますので、そう拙速にはできない。特に学術研究の場合はそういう要素が多いので、そういう制限は設けておりません。
〇徳永委員
 もう少し具体的な話をさせていただきたいのですけれども、ある疾患患者さんの試料がバンク化されている場合、それを研究者が利用して例えば大規模なゲノム解析をしたようなときに、そこから得られたデータは、いろいろな研究者が共有する価値のあるデータになりますね。別のグループがまた同じ解析をすることは、むしろ研究費も労力も無駄遣いということになると思うのです。
 ですから、武藤委員がおっしゃったように、一般公開できる情報と、専門の研究者に一定の手続を経て初めて提供される詳細な情報、そのようにレベルを区別する必要があるとは思うのですけれども、バンクを利用して得られたゲノム解析データも何らかの形で研究者のコミュニティに提供できる仕組みがあるとよいと思うのです。
〇小幡委員
 徳永先生のおっしゃるとおりで、研究試料にした付随情報は、公表すれば、それは価値のあるところであります。疑いもなく、そうです。反対に、情報がなかったら、そのリソースは単なる細胞で、だれも利用しない。蓄積もない。だから、そういう積み上げは必要だと思います。
 ただ、どこまで……。先生がおっしゃったとおりで、ほかの人が利用するときに、例えば一定の地域から収集したということ、それが本当に必要なのかどうか。そういう細かい判断が必要な場合もあると思います。そういう意味で、私たちも日本人由来のEBウイルスでトランスフォームした細胞を持っているわけですけれども、出身地を聞かれたら、ちゃんと利用者の倫理委員会でオーソライズされて、それが意味のあることですということがわかった場合は情報として提供しますというふうに、そこは運用でやっている。
○永井座長
 山縣委員、どうぞ。
〇山縣委員
 非常にわかりやすいお話で、ありがとうございました。先ほどから出ている試料に関して、バイオリソースといわゆるデータというのは質の違うものとして考えないといけないだろう。つまり、連結可能が研究者にとって必要というのは、そのデータに新たな情報が追加されて、それをどんどん蓄積していくために連結可能性が必要なのであって、新たな情報を生み出す状況というのはバイオリソースに対してで、既にデータ化された、つまりテキスト化されたデータに関しては、加工はあるでしょうが、新たな情報が加わるということは、こういうゲノムというものを中心に考えたときにはどうなんだろうかということを考えました。例えば追加するとするならば、それは臨床情報が入ってきて、それがどうしても必要な場合にそれがあるのかなというふうに考えたのですが、いずれにしても、今あるバイオリソースのように新たな情報が加わっていく状況とテキスト化されたものは別個に考えていかないと、連結可能性の面、そしてこのデータを検証しなければいけないために連結可能な匿名化が必要なのだという議論に関しては、何か整理が難しいような気がしました。
 今度は質問で、先ほどの繰り返しになるかもしれないのですが、アメリカの厚生省指針がすごく気になって、「研究者が対応表を有しない形式での連結可能匿名化」というのが「「個人が特定される」に該当しない」のところに追加されたことに関してです。今の日本のゲノムの指針でも、個人情報管理者、つまり対応表を持っている人は少なくともこの研究をやる研究者とは別に置きなさいと書いてあるわけで、そうするとこれに入ってしまうのかなというふうに思ったりするんですが、それは解釈としては全くおかしな話なのかなというところについて教えていただければと思います。
○永井座長
 どなたか、わかりますか。
〇高芝委員
 これは私の理解ですけれども、現在の指針の3ページ、「保護すべき個人情報」の(2)の2行目に「研究を行う機関において、」云々とありまして、「対応表を保有していない場合は、個人情報に該当しない。」とありますね。これは「機関」と書いてあるので個人単位で見ていなくて組織単位で見ているということですね。組織に注目して、その機関において持っていなければ該当しないと言っている。ですから、同じ一つの組織の中で仮にファイヤーウォールがあっても、同じ組織が持っているときにはどうもストレートにはこれに当たりにくいというふうに私は読んでいます。
 それがその下の細則にあらわれていまして、「連結可能匿名化された情報を同一法人又は行政機関内の研究部門において取り扱う場合には、当該研究部門について、研究部門以外で匿名化が行われ、かつ、その匿名化情報の対応表が厳密に管理されていること」とありまして、このようなときには安全管理についてはそれを念頭に置いて決めていっていいですよということで、個人情報から外れるとは言っていない。安全管理のレベルが少し変わる。こういう整理をされているのではないかと思いました。
〇堤委員
 今の点に関してだけ申し上げると、個人情報保護法に関連して前回の見直しをしたときに、総務省に確認をしたところ、そういう見解だったと。高芝先生も藤原先生も委員で出ていらっしゃいましたが、そういう解釈だったと思います。
〇横野委員
 先ほど辰井委員からもお話がありましたけれども、アメリカの場合はこれによって連邦規則そのものが適用されるかどうかが分かれます。日本の場合、先ほどご指摘があった指針の3ページから4ページまでのところは個人情報に当たるかどうかという部分ですので、個人情報に当たらないということになれば個人情報にかかわる規定は適用されないということになりますけれども、アメリカの場合とは異なり、指針そのものが適用されないということにはならないという理解でいいのではないでしょうか。
〇堤委員
 続いて、よろしいでしょうか。ちょっとお聞きしたいことがあるのです。
 OECDのガイドラインで結果の開示についての解釈の話が出ましたけれども、例えば9ページの4.14にありますように、妥当性が確認されていない結果は参加者に報告されるべきでなく、このことは同意取得過程で参加者に説明されるべきであるということで、「基本的に原則は非開示」だというふうに私は読んでおります。
それから、27ページの46に井上さんからご紹介がありました「分子遺伝学的検査における質保証に関するOECD勧告」というのが書いてありますけれども、これは結局、医療に結びつけるときにはそのガイドラインにつないでいく仕組みができているということですので、「原則は非開示」で、現在のゲノム指針で「原則開示」と書いてあるところだけがひとり歩きをしているように見えますので、今後、その点については十分な検討が必要かと思います。私は、はっきり申し上げますと「原則非開示」にすべきであるというふうに考えております。
 それからもう一点、インフォームド・コンセントに関してですけれども、つい最近、非常に印象的なことをお聞きいたしました。今の研究は同意の上に成り立っているということは明らかである。明らかではあるのですが、「同意を研究者の免罪符にしていただきたくない」と、そういうことを試料を提供する立場の方からお聞きいたしました。非常に印象に残っております。
 それから、もう一点、この点もお聞きしておきたいのですけれども、連結可能匿名化でゲノムコホート等をやっておりますと、試料はあるし、データもある。そういう地域のゲノムコホートの場合、例えば犯罪者がいると想定されたときに、犯罪捜査のためにデータベース等にアクセスしたいというようなケースに対して各国ではどう対応しているのか。そもそもそういう記載があるのかどうか。3点目はそういうことについて教えていただきたいと思っております。いかがでしょうか。
〇井上先生
 3点ご指摘いただきました。最初の1点目、原則非開示かどうかということですが、これについては、スライド12枚目にお示ししたとおりです。
 次の同意の話ですけれども、先ほど増井委員からありましたように、ブロードコンセントを導入するということは、ブロードとはいえ同意の要件を固めていく作業である。試料の利用については、同意を得てこれから試料を得る場合のみならず、一方で既存サンプルについて同意がない場合にどのように対応していくのかという重要な問題があります。この相反する両方の状況がまさにサンプルをめぐる研究倫理の極めて特徴的な性格であると思われます。
 3点目の犯罪捜査目的でのアクセスということですけれども、確かにバイオバンクへのアクセス対応の文脈から、最近議論されることの多い点です。実際には、犯罪捜査当局が求める情報とバンク自体の持っている情報がなかなかマッチしないので、なかなか事例としてはなかったところですけれども、数年前にスウェーデンのほうでこういう研究目的のバンクに警察当局がアクセスを求めてきたということが現に報告されています。
 多くの場合、バンクのプロジェクトを立ち上げるときには、これは研究活動が第一目標のものであって、その他のアクセスについては排除すると。だからこそ広い意味での同意要件が認められるという方針をとってきてはおりますが、結局、実際に所定の手続を経て刑事当局がアクセスしてきたときに、これを一概に排除するというのはなかなか難しいのではないか、そういう議論もあります。
〇武藤委員
 最初のOECDのガイドラインの9ページの4.14の取り扱いですが、原則非開示であれば多分「原則」のところに非開示だという方針を書けたと思うのですが、「参加の条件」に関する原則のところにはそれを盛り込めなかったものと理解しております。なぜかと言うと、110本ほどパブリックコメントがあったときにやはりこの点については多様な意見があり、返すべき状況があり得るということもかんがみて、「ベストプラクティス」のほうだけに残っているんです。ですから、とにかく何らかの考慮をして、とるべき方針をそれぞれの状況にあわせて検討し、その方針については、参加するかどうかの意思決定の際には情報提供があるようにしなさいと。そのことが「原則」のように思えます。堤委員のお気持ちは大変よく理解しているつもりですが、その点を申し添えておきます。
○永井座長
 では、藤原委員。
〇藤原(靜)委員
 一つは今のOECDの読み方ですが、多分、今の補足のように読むのではないかと思っていましたので、そこはもう結構です。
2つ目は、さっきの刑事についてのご質問、捜査目的でということですけれども、恐らくそれは各国の法制で違うと思いますけれども、少なくともヨーロッパ型をとるとすると、何ら法律に根拠がなくて使えるかどうかという点、根拠があれば強制できますが、そこのところで既に疑問を呈される問題であろうと思いますので、なかなか難しい場合があると思います。
 それから、これは質問でもあり整理でもあるのですが、先ほどからアメリカの厚生省の指針のことが議論になっています。これは、アメリカの場合は州法がございますので、まず各州でどうなっているかということを調べてみないとわからないという留保が必要だということと、多分、州法ではほとんどないし、連邦法でないので、この規則が基準になっている。基準にはなっているけれども、その場合は、先ほどのご質問にもありましたように、恐らくこれは対応表を持っている形での匿名化で個人が識別されないということで、個人情報としての保護をしなくていいという方向にアメリカは持っていきますので、いわゆるコントロール・フリーになるのが怖いから自主規制のところが残っているという理解であったかと思います。それは先ほどのご指摘のとおりだと思います。
 それで最後は質問です。アメリカがあって、イギリスがあって、内容をご説明いただいたのですけれども、第1回目に委員のどなかたがなぜゲノム・遺伝子は特別なのだろうということを考えなければいけないとおっしゃったかと記憶しています。そのこととの関係で、ドイツでは立法指針、勧告にとどまっているのですけれども、この問題について10年の勧告がどう言っているか、項目だけでも今ご存じであれば、提供していただけると問題点がクリアになるかなという気がしているのです。
 事務局が資料の整理等をお考えになるときに、外国のものをどこまで参考にされるかということは別ですけれども、この分野では、一方の極がアメリカで、経験値に基づいて中庸なところをとるのがイギリスだとすれば、歴史的な経験もあり、かつゲノムとは何なの
かということを突き詰めているがゆえに実体法になかなか来ないのがドイツだと思いますので、そこのところをご紹介いただくと議論がクリアになるかなと思ったんです。今ご存じの限りで結構ですが。
〇井上先生
 お尋ねいただきまして、ありがとうございます。ドイツ連邦委員会による2010年の立法勧告は、実はもう少し経緯がございまして、たしか2004年だったと記憶しておりますが、遺伝子解析研究におけるバンクについて、過去にも同様の勧告を出しております。その中では遺伝情報の取り扱いが非常に重視されておりました。実際に、その後ドイツにおいては遺伝子診断法という法律が成立しておりますが、そこではまさに遺伝情報の取り扱いが規制の対象として非常に重視されているという状況があります。
 ただ、この法律の中では研究活動自体がこのスキームの中に入っておりませんでして、取り上げなかった遺伝学研究とバンクとの関係について改めて議論されたのがこの2010年の立法勧告になります。この立法勧告は、あくまで立法勧告であって、立法につながるかどうか、わからないということはもちろんあるのですけれども、遺伝情報を取り扱う、遺伝情報に特化した研究とバンクの運営を想定しているようでございます。その中では、基本的に同意については項目を広く認めるのですが、一方では、皆さんにお配りのスライド資料の10枚目、「(3)バンクの信頼性の確保」の真ん中あたりでドイツNERの2010年の勧告を引用しておりますけれども、バンクの信頼性の確保がこういったスキームを支えるのに非常に大事であるということが一つと、もう一つは、バンクを運営する人、加えてバンクに関するサンプルを利用するユーザーの方々に向けて、広くバンクに関する守秘義務をかけるということが提案されております。そういったところになります。
 あとは、提供者が条件をつけることができて、その条件については基本的にバンクのユーザーも従わなくてはいけないなど、幾つかの論点が提示されているものでございます。(3)の信頼性の確保が問題になったということを強調しておきたいと思います。
○永井座長
 では、前田委員、手短にお願いします。
〇前田委員
 今の最後のところで「モニタリングの制度化」と「定期的な監査」ということが示されておりますけれども、これらは具体的にはどのようなことを意味しているのか、教えていただけますでしょうか。
〇井上先生
 スライド10枚目で、イギリスの2004年の法改正後の状況をご紹介させていただきました。現在、人組織法のもとでは、各サンプルの利用機関、保管機関は、研究のライセンスを得る必要がございます。そのもとで定期的なインスペクションというものが定められておりまして、2009年の報告では十数件ほどがこの年度内にインスペクションの対象になっているということで実際に定期的な査察が実施されているほか、状況に応じて幾つかの機関を対象に臨時のモニタリングがなされたということも報告されております。その中では、個々のライセンスにサンプルの利用・保管についての条件が各バンクの特性にあわせて規定されているのですが、実際それが遵守されているかどうか、また適切な記録がとられているのかどうか、人員についてきちんとした教育が行われているかどうかということが毎回のモニタリングの検討対象になっているというふうに報告されております。
○永井座長
 もう一度、私のほうからアメリカの例外規定について聞きたいのですが、かなり細かい扱いについての個別の法律なりガイドラインが別個にあるのでしょうか。この辺がどう書かれているか、もう少しお話しいただけるとありがたいのですが。
〇井上先生
 こちらは厚生省の指針というふうに書かれておりますが、より詳細には厚生省の被験者保護局が出しているガイダンスに当たるもので、被験者保護局によるガイダンスは文字どおり被験者の保護に関する連邦規制についての一つの解釈を示すものとして位置づけられております。先ほど2009年のGENEVA声明をご紹介しましたけれども、各プロジェクトは、特に連邦の助成を受けている研究及び連邦の機関自体として研究を行う活動については、これらの解釈を参考にしてプロジェクトの方針を決めていく、また各プロジェクトごとのルールを考えていく必要があるということでございます。
〇辰井委員
 今のアメリカの指針の件ですが、私の記憶では、規則があって、それに対する行政当局者による説明文書的なものがあったと思います。ただ、それもそれほど詳しく書いてあるものではなかったと思います。
 それから、犯罪捜査に関してですが、UKバイオバンクがこの件についてコメントをしておりまして、UKバイオバンクは基本的に犯罪捜査には応じないという立場をとっています。ただ、これは日本も同じですが、犯罪捜査には相手方の同意を得て行う任意捜査と裁判所の令状をとって行う強制捜査がありまして、任意捜査のほうは断ることができますが、強制捜査のほうは、UKバイオバンクも、自分たちは闘うけれども、最後はどうしようもないということを言っています。それは日本の場合も同じで、各バンクが自分たちは犯罪捜査には応じないという方針を立てることはできますが、強制捜査を免れようと思うならば、それ用に別に法律をつくらないとそういうことはできないだろうと思います。
○永井座長
 ありがとうございました。
 では、最後に藤原委員、手短にお願いします。
〇藤原(康)委員
 将来的にでもいいのですけも、井上先生たちに教えてほしいんです。こういうサンプルを採取するのは、私は臨床試験ばかりやっているので臨床試験の中から出てきたサンプルを保存するのが将来的に解析として有用かなと。疫学研究とはまた別にやっているのですが。そうすると、EUだとEU Clinical Trial Directiveとか、アメリカだとコモンルールといいますか、CFR45の46でしたか、連邦規則によっていろいろな臨床試験はコントロールされていますね。そことこういうバイオバンクがらみのいろいろなレギュレーションはどういうふうに兼ね合わせているんですか。その点を将来教えていただければいいなと思ったんですが。
○永井座長
 どなたか、お答えできますか。
〇武藤委員
 済みません。逃げるようですが、それは今とても論点になっているところでして、今年の夏も秋もアメリカでいっぱいワークショップがあって、多分、これからすり合わせていくのではないかと思います。もちろん、ご指摘のとおりの課題だと認識しております。
○永井座長
 ありがとうございました。時間が来てしまいましたが、この問題は継続して議論したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、事務局から連絡事項をお願いいたします。
〇経済産業省(竹廣課長補佐)
 ご議論ありがとうございました。
 次回の日程につきましては、今月6月28日(火曜日)の15時半から18時、2時間半、開催していただく予定にしております。次回以降は、これまでのヒアリングの結果を踏まえまして論点を整理し、検討を深めていく予定にしております。委員の皆様には改めてご連絡を差し上げようと思います。
 それから、毎回でございますが、紙ファイルの資料は、そのまま机上に残して、お持ち帰りにならないようにお願いしたいと思います。
 以上でございます。
○永井座長
 本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。


(了)
<【問い合わせ先】>

 厚生労働省大臣官房厚生科学課
 担当:情報企画係(内線3808)
 電話:(代表)03-5253-1111
     (直通)03-3595-2171

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