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2011年6月3日 第6回今後のパートタイム労働対策に関する研究会 議事録

雇用均等・児童家庭局 短時間・在宅労働課

○日時

平成23年6月3日(金)13:00~15:00


○場所

厚生労働省専用第12会議室(12階)


○出席者

委員

浅倉委員、今野委員、黒澤委員、権丈委員、水町委員、山川委員

厚生労働省

小宮山副大臣、高井雇用均等・児童家庭局長、石井雇用均等・児童家庭局審議官、
田河総務課長、吉本雇用均等政策課長、塚崎職業家庭両立課長、吉永短時間・在宅労働課長
大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長、藤原短時間・在宅労働課長補佐、岡職業能力開発局総務課長補佐

○議題

(1)教育訓練
(2)通常の労働者との間の待遇3、納得性3
(3)その他

○議事

○今野座長 出席予定の山川委員はまだいらしておりませんが、定刻になりましたので、ただいまから第6回「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」を開催いたします。本日は佐藤委員が欠席です。本日も、小宮山副大臣にいらしていただいておりますので、どんどん発言していただければと思います。
 本日の議題は、(1)教育訓練の問題と、(2)通常の労働者との間の待遇・納得性の問題の2つについて議論していただきます。(2)については前回の続きになります。前回、議論する時間がなかったものですから、本日時間を用意させていただきました。最初に教育訓練の議題をやるのは、本日お話いただく黒澤委員が途中で退席されるので、順番を入れ換えさせていただきました。まず、教育訓練の問題について、黒澤委員からご報告いただきます。
○黒澤委員 本日はアジェンダを変えていただきまして、途中退席させていただくことになりました。大変申し訳ございません。どうぞよろしくお願いいたします。
 私が用意させていただきましたレジュメは資料3です。これらは、厚労省でしている全国的な民間企業での教育訓練の実態としては唯一である「能力開発基本調査」の結果と、それから本日はご欠席の佐藤先生がJILPTで座長を務められ、私も参加いたしました研究会で独自に2008年から2009年にかけて調査をした結果を用いて、実態と記述統計的な部分、それからもう少し踏み込んだ回帰分析という形で、いろいろな事業所の属性や従業員の属性などをコントロールした上で、正規と非正規でどのような違いがあるのかについて簡単にご説明させていただきます。その結果を踏まえて、政策的にどのように取り組んでいったらいいのかということについても若干の意見を申し上げさせていただきます。
 最初に1頁の1.です。図表1と図表2がありますが、図表1も図表2も能開調査からのものです。図表1は事業所の比率です。これはOff-JTと計画的OJTですが、この定義は脚注のほうにあります。それを1人にでも提供した事業所の比率のうち正社員に適用した事業所比率、非正社員に提供した事業所比率の推移が描かれています。
 注意しなくてはいけない点として、能開調査の対象というのは、あくまで常用の労働者ですので、非正社員とはいっても、常用の労働者ということがあります。もう少し短期的に働いている非正社員を含めると、非正社員の能力開発の実態はもっと低くなることを念頭に置きながらも、これを見ると大体半分ぐらいになっています。正社員を100とした場合のOff-JTを実施した事業所の比率は、2006年の58.5%からだんだん下がっていて、2009年には46.8%という状況です。計画的OJTについては、大体半分ぐらいで、そんなに下がっているようなことはないというところです。
 それに対して図表2は労働者の比率で、労働者票のほうからOff-JT、そしてこちらはOJTではなくて自己啓発ということで、自己啓発をこの1年間に行ったことがあるかという比率になっております。こちらのほうも、格差は大体半分以下という状況で、事業所よりも格差が激しいような状況になっています。これは、もうちょっと以前から整合的な指標が取れますので2004年からの指標になっていますが、景気の影響も受けて、レベル的にも景気の山のところで頂点に達して、それからは下がっていくような状態になっています。
 正社員と非正社員の格差で見ても、2006年、2007年ぐらいが非正社員が頑張って、正社員を100とした場合にOff-JTは53とか50ぐらいまでいったのですが、その後はどんどん格差が広がっているような状態になっています。企業が提供しているOff-JTだけではなくて、自己啓発をやっているのかというと、自己啓発のほうもかなりの格差があるという実態が見て取れます。
 とはいうものの、非正社員で括った場合、いわゆる若年層と主婦層パートといわれている人たち、それから定年後の嘱託を中心とした中高齢男性の中ではかなりその状況が違いますので、非正社員のグループを2頁では4つに分けています。年齢を35歳で区切って、性別で区切って、こういう4つのグループに分けた上で、Off-JT受講の有無を労働者から見た比率です。
 先ほどの労働者の比率より、これは2005年度の訓練について調査したもので若干高めになっています。先ほどの図表1とか図表2はウエイトバックしていますが、これはそのままサンプルの比率を取っているので若干数値が違っています。これで見ても、格差が半分ぐらいあるということ、特に格差が大きいのは若年男性だということがわかります。女性は、そもそも正社員でもOff-JTが低いということもあるのですが、ここには単に平均値が書いてあります。それぞれについて、いろいろな属性別にクロス表を取ってみますと、正社員では男女格差や学歴による違いがあるのですが、非正社員には見られないという特徴が記述統計上も見られました。
 特に若年の非正社員では、勤続に伴うOff-JT受講比率が低下する傾向にあり、それが3頁の図表5に掲載されています。女性の中高年非正社員については、勤続年数が6年よりも上回っても、それほどOff-JTの受講比率は低下していないのですが、女性・男性の若年は低下する傾向が強いです。勤続が6年より上のところの、男性の若年非正社員のところに数値が入っておりませんが、これは該当するサンプル数が20を下回ってしまうために入っていないのですが、それを計算すると8.3%と非常に低くなっています。企業による継続的な能力開発機会の確保ができていない状況がわかります。
 業種による違いもかなり顕著です。特に若年の男性というのは、サービスか小売・飲食かのどちらかに大部分が属していますが、サービスか小売・飲食で働いているかによって、訓練を受ける比率も45.5%対12.5%とかなりの差があって、業種によって違いがある状況が見て取れます。これらは記述統計で、クロス表でざっくり見たものなので、次に、もう少しきめ細かい属性や事業所、個人属性とか事業所属性をコントロールしてみてその上で差があるのかどうか。特に、同じ事業所に勤めていても差があるのか、そもそも正社員に対しても訓練をしないような企業に非正社員が多く勤めているのかというところの問題意識があり、いくつか分析をしたところから申し上げます。
 3頁の第2節のところで、訓練を規定する要因の違いから申し上げます。事業所属性、地域の雇用情勢、従業員属性として性別、職種、役職、学歴、年齢、勤続年数などをみな一定とした回帰分析の上でも、やはり正社員のOff-JTの受講確率は、非正社員に比べて9~14%ポイント高く、Off-JTを実施した場合の受講延べ時間は11~18時間長いという状況です。興味深いのは、先ほどのクロス集計でも見られたことが、回帰分析でも見られることです。正社員の場合は若年とか、勤続3年未満で統計的に有意に訓練を受ける確率が高く、ふんだんな訓練機会が提供されているのですが、非正社員にはそれが見られない。記述統計的に見ると若干の高まりは見られるのですが、こういう回帰分析でやると、統計的な有意性は見られない。
 男性、高学歴、専門技術職、役職というのは、正社員の場合はOff-JTの機会を増やし、これはみな人的資本論に整合的な結果なのですが、非正社員においてはそれが見られないような状況です。非正社員については、特に専修学校、短大卒とか、専門・技術、販売・サービス、および男性より女性でOff-JT比率が高いという結果が出ています。年齢に伴うOff-JT機会の減少というのも非正社員でより顕著にあります。これらは、職場で能力に応じた活用がされていない左証なのではないかとも思われます。
 しかしながら、長期雇用を前提としないのだから、これは企業の合理性の反映なのかもしれない。訓練をすればよいというわけではなく、無駄な訓練がされていないということで、非正社員に訓練がされていないのであれば、必ずしも政策的な関与の余地はないのです。しかしながら、非正社員の離職率が高い職場ほど、非正社員のOff-JTの実施率は高いという結果が、事業所票レベルの推計で出てきております。
 この結果からは、非正社員の入れ替わりが激しい職場ほど、業務に不慣れな非正社員が多くて、最小限の訓練が必要になっているという傾向があるのではないかと考えられます。もちろんOff-JTが有効でない可能性もありますが。
 いままで、量的に非正社員のほうが低いというのを見てきたのですが、どういう訓練をやっているのか、正社員と非正社員の訓練はどう違うのか。4頁の図表5は、能開調査から見た、正社員と非正社員がどういう種類の訓練をやっているのかを示したものです。階層別では非正社員で非常に低くて、どちらかというと職能別、課題別がなされています。
 これでもよくわかりにくいので、1頁戻ってヒアリング調査の結果ということで、脚注に落としていますが、社会人マナーとか、新入社員研修に近いもの、調理技術、加工技術、安全、品質、オペレーション、コンプライアンスといったもの、つまり必要最小限のような、しかも大変汎用的なものがなされている状況がヒアリング調査からわかっています。そのときの仕事だけではなくて、やがて担当するものに対する訓練という回答が、正社員では高いのだけれども、非正社員についてはそのときの仕事をするために最低限必要なものという回答割合が高いということも、ほかの研究から明らかになっております。
 そのように考えると、非正社員の訓練というのは汎用性が高いものがなされているのではないか。その中で能力情報が不完全な労働市場があると、こういう汎用性の高い訓練には大きな外部性が伴う。特に離職率が高いので外部性は大きくなります。ここでの外部性というのはどういう意味かというと、訓練を受けて生産性が高まるのだけれど、高まった生産性が、能力情報として、市場を介してほかの企業に伝わらないために、外部の企業はその生産性が向上した分まで賃金を払う必要がない。するとそういう訓練を受けた従業員を雇った企業は得をするわけで、その便益が外部性です。
 なぜ外部性が問題かというと、そのコストを負担したのは誰かというと、その訓練をした企業であったり、本人であったりして、転職先の企業ではないからです。訓練を行うほうからみるならば、自分が訓練の収益を完全に回収できないことになりますので、その分だけ訓練を控えることになってしまって、社会的に望ましいレベルに比べて、訓練の量が過小になりやすいという問題になる。
 非正社員では、訓練が、離職率の高い企業ほどなされているということは、非正社員への訓練というのは過小になりやすい傾向が、正社員以上に強いのではないかということです。これは、後のほうでも能力情報の不完全性というのは、非正社員のほうが正社員以上に大きいということを示す結果もありますので、そのことも踏まえて考えると、正社員への能力開発を行う企業への政策的支援を充実させる必要があるということがいえるのではないかと思います。
 とくに、非正社員から正社員への移行は同一職種間で起こりやすいとか、前の勤務先でOff-JTを受けると正社員に移行しやすいという研究結果もあります。これらを総合しますと、非正社員として受けている訓練には汎用的な要素が十分含まれているということではないか。転職というのが、非正社員の中でも、業界内にとどまる傾向が見い出せれば、例えば訓練を提供する人材や訓練のノウハウ、訓練基準等を業界単位で蓄積・流通させて、その訓練への支援・補助も業界単位で行うことも有効な手立てとなり得るのではないかということが、1つのインプリケーションとして出せるかと思います。
 (2)は、職場によって、非正社員に能力開発投資を行っている所があるのかというと、詳細な分析をしてみるとあるということです。職場によるOff-JT機会の非正社員の間での格差というのは、正社員の間での格差より大きいという実態があります。これはどういうことかというと、業種とか事業所規模とか、そのほかいわゆる人的管理のいろいろな方策がありますが、そういうあり方による違いというのは非正社員のほうが大きいということです。特に工夫されたヒューマン・リソース・マネジメント(HRM)、人的資源管理のやり方を持つ職場では、正社員だけではなく非正社員のOff-JT機会も大きいということがあります。それから、非正社員比率の高い職場も、非正社員のOff-JT確率が高いということがあり、非正社員の数量的活用の進展というのが、より積極的な非正社員の能力開発に結び付いているということも窺えます。
 JILPTのヒアリング調査からも、非正社員の働き方を維持しつつも、能力開発を進めながら幅広い仕事を行うキャリア形成を可能とする職場が現れているということです。そういう意味において、非正社員に対しても積極的能力開発をやっている、それも、仕事の幅を広げるというキャリア形成を通した訓練の提供がなされている職場もあるのですが、そのヒアリングから、そうした職場でも勤続が長くなると、訓練機会が減少するといいます。
 とはいえ、実態として正社員の能力開発に積極的な事業所、いわゆるHRMが革新的で豊富な所というのはまだまだ少ないわけです。それを考えると、そういう非正社員の能力開発にも積極的な事業所の事例を広く紹介すること。そして、そういう職場情報が求職者にも入手しやすい環境整備をすることが1つ政策提言として言えるのではないか。
 (3)は、(1)のところで見てきましたが、非正社員の能力開発は過小になる傾向が強い。それに積極的な事業所はまだまだ少ないのだということ。そういうことを鑑みると、同一企業内での正社員への転換、又は市場を介した転職による正社員化、あるいは非正社員間であっても、より能力開発に積極的な、自分に合ったキャリア形成が見込めるような就業機会に、市場を介して移っていくことを通して、全体的に能力開発機会を確保していくことも必要なのではないかということです。
 前述したJILPTの研究によると、そうした非正社員から正社員への移行の実現は20歳台に集中しているが、一度正社員になってもまた非正社員になるということが少なくなかったということなので、若年層へのキャリア相談とか、マッチング支援の強化はここでも重要なのではないか。
 同じJILPTの研究の中で、JILPTの原さんが書かれた論文では、訓練受講が生産性向上につながっているのだけれども、非正社員の場合は特に賃金上昇に結び付いていない度合が強くて、また地域の雇用情勢から受ける影響が強いことを指摘しています。特に生産性の低い労働者に最小限の訓練を行っているから、こういう結果が出ている可能性も否めないのですけれども、低い賃金を支払っていても、ほかの企業に引き抜かれないから、つまり汎用的な訓練を受けても、それによって身に付けた能力情報が、正社員以上に市場に伝達されにくい状況がここから窺われるのではないか。
 そこで導き出されるインプリケーションとしては、非正社員として培われた経験を評価しやすい仕組みを普及させることが重要なのではないか。それによって、自分によりマッチした、質の良い職場に転職しやすい社会にする。その場合の職業能力評価というのは、単なる履歴書を作るのではなくて、これは以前にも申し上げましたけれども、ジョブ・カード制度のように、職業訓練の受講を通して得られた能力情報に基づく仕組み、つまり何々ができるという客観的な評価を含んだ制度のほうが実効性が高いのではないか。こうした制度を整備すれば、転職コストが低減して、買手独占状況をもたらしている転職コストの軽減につながりますので、非正社員の賃金相場の向上にも役立つ。
 最後にこれは重要な点なのですが、こうした政策を進めれば進めるほど、技能の所有権は労働者側にシフトします。どういうことかというと、訓練を受ければ市場で評価されやすくなるということですから、企業側が汎用的な訓練を行う動機が減ってしまうことがありますので、能力開発というのは、ますます労働者自身が行わなければならなくなってしまいます。なのでこれらの政策と同時に、労働者個人への能力開発支援というものへの強化が両輪のように進められないといけないということです。以上です。
○今野座長 関連して事務局にも資料を用意していただきましたので、事務局から説明をしていただいてから議論したいと思います。
○藤原短時間・在宅労働課長補佐 資料4の説明をさせていただきます。資料4は、能力開発に係る論点と実態、そして既存施策について簡単にまとめたものです。1頁は議論のたたき台ということで、論点を3つ挙げております。1つ目は、パートタイム労働者に対する教育訓練の機会の拡充についてどのように考えるべきかということで、現状の確認と課題を挙げております。
 パートタイム労働者に対しては、職務に必要な導入訓練が企業内で一定程度行われており、離転職を繰り返す求職者に対しては、公共職業訓練によって一定程度訓練がなされている実態がある。パートタイム労働法の世界においては、第10条第1項で、職務の内容が正社員と同じパートタイム労働者に対しては、職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練であって正社員に実施するものについては、同じように実施することを定めております。それに加えて、正社員との均衡を考慮しつつ、パートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験等に応じて教育訓練を実施するように努めることを定め、企業の中で、中長期的な人材育成のシステムから外れがちなパートタイム労働者に対しても、一定程度使用者のほうで教育訓練を行うように、ということを定めております。
しかしながら、いま黒澤先生からもお話をいただきましたが、事業主によるパートタイム労働者に対する教育訓練は必ずしも十分に実施されている状況ではないということ、またパートタイム労働者のキャリア形成がそれに伴って十分ではないといった実態があると思います。
 パートタイム労働法が平成19年に改正されたときにも話題になりましたが、基幹的な役割を担うパートタイム労働者が増加しているということで、そういう人たちに必要な能力開発の機会を与えることが非常に重要になってきている。参考として、いま黒澤先生のご報告の中でもご説明がありましたJILPTの調査を参考資料1として付けております。本日は時間がないので内容は割愛させていただきますが、パートタイム労働者に対してOff-JTなどを実施することが正社員転換などでプラスに働くということが、こちらの調査からもわかります。
 そうした現状を踏まえて、何をしていくべきかということで最後の○のところです。これまでもご議論いただきましたとおり、教育訓練というのは、その訓練自体のためにあるのではなくて、将来どのように活用していくのかというターゲットがあって決まる戦略であることを踏まえると、パートタイム労働者の将来のキャリアというものの考え方、経済状況が悪化し企業の教育訓練投資が減っている状況にある中で、どのようにパートタイム労働者に対して教育訓練をしていくかということを、1つ目の論点として挙げさせていただきました。
 2頁ですが、論点2としては、どういうものをパートタイム労働者に対して実施する必要があるだろうか。ここでは、事業主の視点からということと、パートタイム労働者の視点からということでまとめております。事業主の視点としては、仕事をしていただくために最低限必要になる導入訓練は当然やっていただく必要があるだろう。それに加えて、労働者の意欲を高めて、生産性を向上させるためのもの。さらに、事業所の中で通常の労働者への転換を目的とした教育訓練も考えられるのではないか。
 他方、パートタイム労働者のほうですけれども、こちらも同様に能力が高まることによって職域が広がって、待遇の改善にもつながっていくと思われる。先ほどと同じように、事業所の中で正社員になる機会を得るために、そういうことを目的とした教育訓練も考えられるだろう。長期的なキャリアアップということも、労働者にとっては非常に重要で、現在の職務の遂行に必要な知識や技能以外のものについても習得することを目的とした教育訓練が考えられるのではないか、ということを挙げさせていただいております。
 論点3は、そういうパートタイム労働者に対する教育訓練をどのようにやっていくべきかについて書いております。1つ目は、パートタイム労働者に対して、事業主が教育訓練を実施することの意義、役割、責任をどのように考えたらいいかということ。次に、具体的にどのようにパートタイム労働者に対して教育訓練を実施していくべきかということで、後ほど詳しくご説明させていただきますが、ジョブ・カード、職業能力評価基準、キャリア段位制度というものの活用を挙げております。また、事業主に対して、パートタイム労働者を対象とする教育訓練を計画的に実施していくことを促していく方策というものも挙げております。
 3頁は、パートタイム労働者への教育訓練の実態です。この資料については、第1回研究会のときの資料にも入っているものです。上の平成18年の調査と、下の平成22年の調査について比較ができるようになっております。単純な比較はできませんけれども、平成22年の調査では、正社員に対して行われている教育訓練、パートタイム労働者に対する教育訓練、いちばん右のところが正社員と職務が同じパートタイム労働者に対する教育訓練ということで取っております。いずれも、平成18年よりは伸びている状況が見られますが、正社員との比較では、どれを取っても少ないということが見て取れます。
 4頁は、パートタイム労働法の施策の一環として支給している奨励金についてご説明いたします。均衡待遇・正社員化推進奨励金は、パートタイム労働者と有期契約労働者を対象にして、事業主が正社員との均衡の取れた待遇を確保するための取組を実施した場合に支給される奨励金となっております。教育訓練の関係では、3つ目の共通教育訓練制度があり、正社員とパートタイム労働者等に対して、共通のカリキュラムの教育訓練を6時間以上実施した場合、中小企業については10人、大企業については30人以上に対して教育訓練を実施した場合に、中小企業の場合には40万円、大企業の場合には30万円を支給する制度があります。この奨励金については本年度から新しくなったものですが、これまでは違う名前で同じ制度を引き続きやってきております。
 いままではパートタイム労働法関係のことをお話してきましたが、5頁で職業能力訓練一般についてのご説明をさせていただきます。「第9次職業能力開発基本計画の全体像」ということで1枚資料をお示ししております。職業能力訓練開発基本計画ですが、右の小さい四角に書いてありますように、職業能力開発基本法に基づく計画ということで、厚生労働大臣が示しているものです。第9次については、平成23年から平成27年の5カ年を対象とした計画です。
 いちばん左の四角の「現状認識」ですが、少子高齢化、産業構造が変化している中で就業者の数も減少している。その中で、労働力の需給の変化に留意し、職業能力開発のあり方を検討していくべきである。その中の項目として、パートタイム労働者を含む非正規労働者についての項目もいくつか挙げられております。
 課題として、非正規労働者に関して挙げられているものとして、現状認識の2つ目の○にありますが、先ほどご説明いただきましたように、職業能力形成機会に恵まれない非正規労働者の数が増えているということ。また、「今後の方向性」のところにありますが、能力本位の労働市場の形成に資するために、評価のシステムが必要であるということが挙げられております。
 1段下の、「今後の職業能力開発の基本的施策の展開」のところで、具体的にいくつかの施策が挙げられております。非正規労働者の関係では2や3が該当します。2のところで、非正規労働者等に対する雇用のセーフティネットとしての能力開発の強化ということで、パートタイム労働者について特に関係があると思われますのは(3)「ジョブ・カード」のところです。ジョブ・カードについては、計画的なキャリア形成に役立つもので普及促進を図っていく必要があるということで、目標として平成32年までにジョブ・カード取得者を300万人にすることが挙げられております。
 3のところでは、「教育訓練と連携した職業能力評価システムの整備」があります。こちらは、いま申し上げました職業能力開発と、それに結び付けた評価ということで、「実践キャリア・アップ戦略(キャリア段位制度)」の構築が挙げられております。2つ目のところですが、「職業能力評価基準」ということで後ほどご説明させていただきますが、客観的に評価できる仕組みを作っていく必要性とそれを普及させていくということが挙げられております。
 全体像にはほかにもたくさん施策が盛り込まれていますが、駆け足で恐縮ですが6頁の「ジョブ・カード制度の概要」のほうに移ります。ジョブ・カード制度ですが、広く求職者等を対象に、きめ細かなキャリア・コンサルティングや実践的な職業訓練、訓練修了後の職業能力評価を行い、安定的な雇用に結び付けていくことを目的としている制度、とあります。
 大まかな流れですが、資料のいちばん左の四角に、「ハローワーク等」とありますが、ハローワークやジョブ・カフェなどでキャリア・コンサルティングを受けながらジョブ・カードを作成する。その際に、訓練を要せずに就職できる方はそのまま下に行くわけですが、一定程度訓練が必要だという場合には、右の「職業能力形成プログラム」に移ります。こちらは、企業における実習、それから教育訓練機関における座学を組み合わせて、能力開発をしていくプログラムを受けていただいて、その後に企業による能力評価や、訓練機関による能力評価を経て、正社員への転換や新たに就職という流れになっております。
 具体的な訓練として、真ん中の四角のところですが、企業に在籍して行うものと、離職者等が公共職業訓練ということで受けるものがあります。
 7頁は、ジョブ・カードとは何なのかということですが、いろいろなシートが合わさったものです。いちばん右側にある「評価シート」というのが、訓練を受けた方に交付されるもので、これをもって自分の能力を証明していく仕組みになっております。目標値としては、先ほど申し上げたとおり、ジョブ・カードの取得者を2020年までに300万人にすること。あとは、プログラムを修了した方を2012年までに40万人にするという目標が掲げられております。
 8頁は、職業訓練の内容について具体的に書いてありますが、パートタイム労働者に関係するところだけ申し上げます。いちばん左の「雇用型訓練」というのは、雇用関係の下で、企業において実習を受けながらやっていくものです。有期実習型訓練とか、実践型人材養成システムのところが、パートタイム労働者の能力開発に関係するところになります。離職者を対象とした委託型訓練のところも、再就職といった形で活用できるかと思います。
 9頁はいまの進捗状況ということで、簡単に数をまとめております。ジョブ・カードが創設された平成20年4月からの累計値ですが、取得者数は45万2,000人です。職業能力形成プログラムを受講した方全体で12万9,000人です。就職率についても、雇用型訓練の場合は、3ヶ月後に90.8%が就職していて、委託型訓練では71.7%という実績が出ております。
 10頁、「職業能力評価基準」についてご説明いたします。職業能力評価基準は、従業員の雇用形態や就業の意識が多様化する中で、どういう人材が必要かを企業が明らかにするということと、従業員にとっても、どういう能力が自分にとって必要なのかという目標設定とかキャリアアップに資するということで、能力に基づく適正な評価の仕組みとして作られている制度です。
 具体的な内容を資料に書いておりますが、業種別に、必要とされる能力を細分化し、職務行動例に落とし込んで、それに対してどういうことが求められているかを具体的に整理して体系化したものです。
 言葉だけだとわかりにくいのですけれども、例えばスーパーマーケットのような業種の場合に、販売、加工、チェッカーの仕事にはそれぞれ何が必要かということを記します。そのような職務に関するものをレベル別に4段階に分け、例えば販売担当者にはどういうものが必要、売場全体について責任を持つ統括責任者にはどういうことが必要かということを、レベル別の4段階に分けて説明しているものです。
 現在の実績ですが、業種横断的な経理や人事についての職業能力評価基準のほか、業種別のものとして、資料に細かく挙げておりますけれども、46業種分の職業能力評価基準が作られています。これについては、例えばパートタイム労働者の職務能力評価に活用して、レベル4になった場合には正社員になれるといったキャリアパスを整備したり、具体的に必要とされる能力が示されますので、キャリアマップの作成などに活用することが考えられます。ジョブ・カードとの関係でも、モデル評価シートということで、積極的に活用されることになっております。
 11頁ですが、「キャリア段位」制度についてご説明いたします。いちばん上の四角のところに書いてありますが、昨年4月26日の雇用戦略対話の中で、鳩山前総理から、現在の非正規労働者に対する教育訓練の状況を踏まえ、教育機関も含め、社会全体で実践的な職業能力の育成や評価を行う体制の検討が指示され、検討が進められました。その後、新成長戦略の「21の国家戦略プロジェクト」の1つとして、下線を引いておりますけれども、ジョブ・カード制度などの既存のツールを活用した『キャリア段位』を導入・普及することが記されました。
 最近になりますが、その下の矢印のところで、「実戦キャリア・アップ戦略」が作られまして、キャリア段位を作っていく分野などが示されました。具体的には介護、省エネ・温室効果ガス削減等人材、第6次産業において具体的に作っていこうということになっております。こちらについても、ジョブ・カードとの連携や活用が重要とされております。12頁の資料は参考ということで割愛させていただきます。以上です。
○今野座長 それでは、ご自由に議論をお願いいたします。
○水町委員 黒澤さんのご報告は大変勉強になりました。素人の素朴な疑問として、非正社員の教育訓練の中で、内容としてOJTのほうがより有効なのか、Off-JTのほうがより有効なのか。時代の中で、だんだんOJTよりもOff-JTのほうが重要になってきているとか、そのどちらが有効かを判断するのは誰なのかということもあるかもしれませんが、そういう流れがあったら教えてくださいというのが1点目です。
 2点目は、職業訓練関係資料4の2頁以降で、パート法関係で職業訓練をどうするかというところについて、法改正や、いまの現行法との関係で考えられる点を少しお話しておきます。1つは第8条との関係でいまは差別的取扱いの禁止がなされていますが、これをどうやって変えていくか、変えていかないかという中で、職業訓練も多様な給付利益の中の1つです。第8条の規定の仕方によっては、いまでも全く同じであれば教育訓練もこの給付の中に入ってくると思いますけれども、改正の仕方によっては、教育訓練がまさに同じような状況にある場合には、合理的な理由がない限り、通常の労働者と同じ教育訓練をしなければならない。不利益を取り扱う教育訓練の中でも不利益に扱ってはならない、というのが射程に入ってくると思いますので、第8条で射程に入り得るものをどう考えるかというのが1つです。
 そうかといって、全く同じ前提状況で、不利益取扱いの禁止で、職業訓練が非正社員にもあるかというと、前提状況が違ったり、合理的理由がある場合には、第8条でないところでケアしなければいけなくなってきます。そこで、いまの第10条のようなものでいいのかどうかというときに、私自身は少しほかの政策の措置との関連も含め、広く推進していくことが大切なのではないかと思っています。
 例えば、賃金は賃金とか、教育訓練は教育訓練とか、教育訓練の中でもジョブ・カードはジョブ・カード、何とかは何とかというのではなくて、全部一体となった問題なので、どういうふうに政策的に進めていくかというのが重要な視点になってきて、その中で1つの視点として、国が規格を決めたりマニュアルを決めて、こういうのをやって要件を満たしていれば助成をしますというような形でやっていくのはやはり限界があるのではないかという気がいたします。
 非常に言葉は悪いのですが、4頁に40万円とか30万円というのがありましたが、このようにぶつ切りにしてちまちまとやっていてもあまり有効ではないので、もうちょっと大きなプランを立てたほうがいいのではないか。そのプランとしては2頁に戻って、いちばん下のポツに、「事業主に対し、パートタイム労働者を対象とする教育訓練を計画的に実施することを促進する方策」と書いてありますが、これがかなり重要だと思います。アクションプランみたいなものを事業主に作らせて、現場のニーズに合った形で、かつ現場でいろいろ考えて、努力したり工夫をすることで待遇を改善したり、能力を高めていこうという措置を、それぞれ事業主に作ってもらって実行していけば、それを大きく政策的にインセンティブを与えたり、ベネフィットを与えて促していく方法がいいと思います。
 その中には、前回出てきた職務評価システムとか、本日お話がある教育訓練システムというように、教育訓練のあり方についても、その中でジョブ・カードを使うとか、職業能力評価基準やキャリア段位制度を活用するというのも、職業訓練の中で使ったら、こういうメリットがありますという情報提供をしながら、企業の中で使えるかどうか判断しながらやってくださいというやり方でもいいと思います。
 その帰結として、正社員転換というのも、そういうのをやりながら正社員に転換できるように促していきますという制度を、企業の中で事業主に、労使で話し合いながら進めていってもらって、そういうものを組み合わせながら、全体としての広い意味での待遇改善とか、能力開発を進めていくようなプランを企業の中で作ってもらって、それで次世代法みたいなもののように行動計画を作ってもらって促していく。
 次世代法のあのベネフィットで足りているかどうかわかりませんが、そういう計画を事業主に作ってもらって、それで事業主ごとに前に進む努力をしてもらえれば、それを受けて政策的に、それにインセンティブを与えて進めていこうという体制。その中で、前回の待遇改善とか、処遇の問題、教育訓練の問題、正社員転換はこれから出てくるかもしれませんが、そういうのを一体として変えていく姿勢を、一方で法律の中に入れ込んでいくことが大切かと思います。
○今野座長 前者は質問ですので、お答えをお願いいたします。
○黒澤委員 明確なお答えにはならないかもしれないのですけれども、図表1を見ますと、最近になって景気が悪くなってきて、Off-JTの比率の、正社員と非正社員の格差は拡大しているのですが、OJTはそのままなのです。むしろ高まっているような状態なのです。正社員にとっては、Off-JTの重要性が高まっているというのはあるのだけれども、非正社員の中では必ずしもそういうことはない。
 しかしながら、OJTの中身を正社員と非正社員で見たときに、キャリアアップといいますか、仕事の幅の拡大に伴うOJTというのが正社員にはあるのに対して、非正社員のOJTというのは本当に最小限の部分であって、そういう意味においては、普通OJTというのは、Off-JTに比べて非常に企業特殊性が高いわけです。それが雇用保障ということに伴っていきます。非正社員の場合は、OJTであっても、それが必要最低限だという意味においては、非常に汎用性が高い。だからOff-JTとOJTのどっちが非正社員のほうで重要かというと両方なのだけれども、どちらにしても汎用的で必要最低限という部分については変わりはないような感じがいたします。
○今野座長 2点目は意見ですね。
○水町委員 意見です。
○今野座長 ほかの人が反応を示せば議論します。
○水町委員 特に答えは要りません、お任せします。
○浅倉委員 黒澤委員のご報告で2点質問させていただきます。2頁のOff-JT受講の有無で、非正社員の中の男性若年非正社員は著しく低いということですが、女性若年非正社員はいちばん高い数値になっています。このジェンダー格差は一体どこから来ているのかという分析がありましたら教えてください。
 2点目は、5頁の原さんの研究の紹介の部分において、訓練受講は生産性向上につながっているけれども、非正社員の場合はそれが賃金上昇に結び付いていない、となっています。非正社員の場合は、とりわけ日常生活を送るだけでも大変なのだから、訓練を受講するのは結構な負担だと思うのです。その負担があるにもかかわらず、賃上げに結び付いていないということは重要ではないでしょうか。もし、これが正社員としての職を獲得することに結び付いていないことになれば、どうしたらかなりの負担になる訓練受講をしてもらえるのか、そこがいちばんの政策的なポイントになるかと思うのです。
 結論としては、ジョブ・カードのシステムなのだということになっていくのでしょうか。ジョブ・カードを、定職に就くときの効果的なシステムにいかに仕上げていけるか、というところがポイントになるのかなという理解でいいでしょうか。それが2点目です。
○黒澤委員 最初の点なのですが、2頁の下の脚注に、サンプルの業種の構成について触れています。男性の場合は、先ほども申し上げましたようにサービスと小売・飲食という2つの業種がほとんどです。一方、女性の場合は、若年も中高年も事務と販売・サービスです。特に販売・サービスというのは、業種としてOff-JTを実施する比率の高い業種なのです。中高年の女性に比べても、若年の女性のほうが多いということは、業種の効果という気がいたします。回帰分析をかけてみますと、若い人のほうで高くなるということは出てこないので、そういう業種という属性による違いがあるのではないかと思います。
 2点目ですが、原さんの分析では、訓練をしてから1年も経っていない状況で見ているものですから、実は正社員で見ても、ここでの訓練というのはOff-JTなのですが、訓練の後の賃金の上昇には結び付いていないのです。統計的な有意性はみられないのです。ただ、非正社員のほうが、その有意性が低いし、効果が小さいというのと、それから地域の地場の賃金相場により大きな影響を受けるというのは、まさにモノソニスティックになっているということの左証であると受け取っているので、そういうところでもう少し外部にわかるような能力情報の整備をする必要があるのではないかということを申し上げたのです。
 しかしながら非正社員の場合、訓練を受けることによって、その企業での正社員化もそうですけれども、ほかの企業において正社員になる確率は高まっています。そういう意味においては便益があります。個人の就業意欲も高まっているということがあって、そこは重要な部分という気がしております。
 私が今回申し上げたことの続きで申し上げますと、能力開発待遇の非正社員の改善というものを、非正社員は放っておくと離職率が高いし、企業としてみたらあまり訓練投資はしたくないからといって、それを無理矢理やらせようとしても、結局そういう人は雇わないということになりかねないですし、雇用機会が縮小してしまうことになりかねないです。
 なぜ、そこで公的な介入をしなくてはいけないのか、その方策として何がベストなのかを考えたときに、外部性というものがいちばん大きい根拠としてあるのではないか。ただ、それをもたらしている能力情報の不完全性というものを緩和してしまうとなると、それこそ全部労働者のほうに負担が回ってくるわけです。そこが酷と言えば酷です。先ほど私が申し上げたインプリケーションというか、政策的な処方箋というのは、どちらかというと、非正社員の能力開発が少ない状況とか、待遇を改善させるものを、外部評価を用いて市場に近づかせることによって、両方を改善しようということですが、それをすると労働者自身が、自分の能力開発をしていかなければいけなくなる傾向が強まります。
 なので、もう1つの方策として、先ほど水町先生もおっしゃったような、企業の中で補助をしながら、汎用的な訓練をしてもらうという方向もあります。いずれにせよ支援をしていかなければいけないことは間違いないことですが、その辺りは包括的に1つのポリシーでは駄目で、うまくポリシーミックスを考えてやらなければいけないというところが難しいという気がいたします。
○権丈委員 いまのお話に関係するのですけれども、正社員、非正社員の訓練費用を労働者側と企業側がどのように負担しているかについて、最近の調査研究があれば教えてください。関連して、先ほど紹介された原さんの研究についてですが、これについては、企業側が費用を負担して訓練をすると、費用を回収しなければならないため、訓練直後には賃金上昇がみられないのではないかという議論も成り立つと思うのですが、いかがですか。
○黒澤委員 すみません、最後のほうがよくわかりませんでした。
○権丈委員 原さんの研究で、訓練受講が生産性向上につながっているけれども、非正社員の場合、これが賃金上昇に結びついていないという部分です。その理由として、企業が訓練のために投資をして費用をかけているから、その分を回収しなければいけない。だから、訓練後に労働者に支払う賃金は、生産性向上があっても上昇しないということもあるかと思いますが、いかがですか。そうだとすると、賃金上昇が見られなくても訓練を実施していること自体は評価できるということになりますし、訓練費用を助成することで軽減できれば、訓練の増加や賃金上昇へとつながるのではないかという議論です。
○黒澤委員 おっしゃるようなことは多々あると思います。ちょっと考えさせてください、もう少ししてからお答えいたします。
○山川委員 大変面白く伺っておりました。非正社員のキャリアアップという観点からすると、先ほどのお答えの中では、仕事の幅を広げるといった、OJTで、かつ企業特殊的な訓練が重要なことでもあるというようなお話であったと思いますが、今回の調査の中で、企業内キャリアアップ型OJTもその調査の対象になっていたかどうかという点と、それについてのジョブ・カードの役割というのがあり得るのかという点をお伺いしたいと思います。
 ここからは感想なのですが、そのような企業内での訓練についても、たぶんインセンティブはあまり働いていないので行われていないのではなかろうかと推測はするのですが、それは企業の制度的なところもたぶんあって、キャリアルートが整備されていないと、トレーニングしたところで配置のしようがないということもあるような気がしています。そうすると、私も先ほどの水町さんのご意見の行動計画と似たような意見で、企業の中で、キャリアルートの整備も含めて、あと、一体、そもそもキャリアアップのためのOJTとは何かということも、調査の結果があると非常に有益なのですが、それも企業の中でいろいろ話し合うとか、そういう仕組みとの組合せが必要なのかなという感じがあるのですが、まだ実態がよくわからないので、その辺も伺えればと思います。
○黒澤委員 今のお話のちょっと前に。よろしいですか、権丈先生。
○権丈委員 はい。
○黒澤委員 理論的には確かに労働者が訓練費用を負担するということが可能であれば、それが結局、事業主にその訓練費用が負担されなくても訓練は行われるわけなのですが、結局これは労働者にとっても企業にとっても同じで、訓練をしたあとにその訓練の収益を回収できるかと言うと、できない。企業にしてみたら訓練しても生産性に見合った賃金を払わなくてよいので回収できるかと思いきや、離職率が高いから回収できないし、労働者にしてみても、離職率が高いのだけれども転職したあとにそれが報われればよいわけですが、それが能力情報が不完全な市場のために報われない、自分の高まった生産性に応じた賃金というものがもらえないということで、やはりインセンティブが低下するという問題であると。もう1つは、これは諸外国でも言われていることなのですが、こういった非常に低賃金労働の方々の場合は最低賃金というものがネックになって、それ以下に賃金を下げられないという、その企業がですね、それによって労働者に訓練コストを負担させることができないということ。それから、もちろんそういう人であればあるほど資金制約というものが非常に大きくて、将来の人的資本を担保に訓練資金を調達するというのは不可能ですから、そういった資本市場の不完全性というものから、訓練コストの負担が難しくなっているというような状況はあると思います。いずれにせよ、コストを負担しても収益を回収できないと、それはやはり過小になってしまうわけで、その部分をどうやって担保するかということで、一方では資格ですとか能力評価の整備ということが、他方では企業内訓練の補助というのが出てくるのかなと。
 すみません、そんな感じで、いま山川先生のお話に移りますと、キャリアアップにつながるようなOJT訓練、それがジョブ・カードとどう関連するかというようなお話ですね。このJILPTの研究ではOJTを見て学んだとか、上司に教えてもらったとか、いくつかの角度から捉えています。実はこのOJTをいかにして調査票で把握するかというのは本当に、米国などではこの点だけでも膨大なリトリチャーがあるぐらいで、それだけ難しいということです。OJTを調査票で捉えるというのは本当に難しいのです。
 ただし、そういったいくつかの指標で捉えたものを合算した形でOJT指標にした場合に、その指標が高まるほどいわゆる正社員移行確率が高まるというようなことが示されていますので、そういう意味において、いわゆる資格制度というものにOJTを組み込ませていく余地は非常に大きいのではないかと。特に、イギリスのNVQがよく取り沙汰されるのですが、フランスでも資格制度と訓練が結びついてしているところもあります。英国でもそうですが、非正社員と正社員の境界線部分、つまり、どちらかと言うとスキルが低いレベルですよね、レベル1とか、その辺の資格というのはかなり有効に機能しているという、特にフランスでですが、そうした研究レポートがあります。キャリアラダーというのを下から上まで全部構築するというのではなくて、底辺のところだけでもよいから、キャリアラダーを明確にして、どういった訓練をするとキャリアアップにつながりやすいかというような研究を積み上げていって、キャリア段位、ジョブ・カードにくっつけていくということ、それが機能する余地というのは本当に大きいのではないかという気がしております。すみません、抽象的で。
○今野座長 黒澤さんの議論の1つのポイントは、企業内でOJTで得た能力というのはかなり汎用性が高いと。
○黒澤委員 非正社員。
○今野座長 非正社員ですね、もちろん。でも、ちょっと考えてみると、特にパートの人たちは労働市場が極めて小さいので本当に汎用的なのかと私は思ったのです。つまり、地域的に無限にどこでも選択できれば汎用的になり得ますが、自転車で10分の範囲内だと、ここで習ったことと同じ種類の業種の店はないというケースが実態としては非常にあるのです。ですから、汎用性は実はないのではないかと。
○黒澤委員 おっしゃるように、確かに地方はそういうことが起こりますよね。首都圏というか、大都市圏はそれほどないかもしれないけれども。
○今野座長 でも、大都市圏のパートの人たちは電車に乗っていきますか。
○黒澤委員 いや。それでもスーパーだったらスーパーというのは何軒もありますよね、大体、自転車の範囲内でとか。そういうものはあると思うのです。ただ、そこは本当に非正社員の中でも下の方についてでしょうね。賃金レベルでみても。そのもう少し高いところというのは、労働市場がもうちょっと拡大する。いま我々が目指しているのは非正社員と正社員のこの連続性ですから、そういう意味においては。
○今野座長 私がそれを言ったのは、黒澤さんが今度、もう1つの条件として非常に転職率が高いということを前提にしたので、そうすると、企業から考えると非常に転職率が高い人だから、パートの中でもランクが上がったこっちではなくて、こっちを想定したわけですね、いちばん下のところを。そうすると、余計そうではないかという気がするのです。こっちがもう少し上がっていくと違う世界が見えてくると思うのですが。それはいま山川さんの言ったことと同じなのです。ですから、そこが何か企業の実態の感覚からするとちょっと違和感があるのかなという。
 例えばもう1つ、OJTをたくさん受けた人が正社員になる採用確率が高いといったときに、そういう層を具体的にイメージしてみると、前の会社のキャリアラダーのなかでかなり上がっていった人であり、それで今度正社員でいくということは、いわゆる中途採用になります。そうすると、非常に転職率が高いといったときに我々がイメージしているパートとは違うパートの人たちなのです。いずれにしても、企業が教育投資をしようと思ったときには、正社員の場合にはお互いに将来のキャリア見通しについて合意しているわけですね。パートの場合は、企業と労働者は合意していないわけですよね。そうすると、企業としては非常に投資がしにくい層ですね。そうすると、何かそこはうまく合意ができるような仕掛けを、双方の合意ができる仕掛けを作る必要がある。もしかしたらキャリア相談でもいいのかもしれません。それともう1つは、山川さんが言われたキャリアラダーみたいなものが見えていればOJTが結果として増えてくるのではないかというほうが、企業の実態を考えると素直かなという感じがするのです。黒澤さんは専ら労働市場の話をされましたね。
○黒澤委員 先生が今おっしゃったことはまさにドイツなどでも問題になっています。いままで機能してきた訓練生制度が最近、市場が効率化してきたことによって、訓練生が訓練を受けようというインセンティブが非常に低くなってきて拒否するようになってきたという問題があります。そこで出てくるのが、やはり資格化ですね。キャリアラダーを明確にして、これを受けたらこういうふうになるよということを明確化することによって、訓練生が賃金が低くても、つまり訓練コストを自分が受け持ってでも訓練をしようというインセンティブが生まれるわけですよね。要はその部分をどれだけ市場に明らかにするのか、大企業であればその部分は中でもできると思います。たとえば労働者に対しては、この訓練をしたらあなたはこのくらいできるようになって、それで結局、このぐらい賃金が上がるよと、それによって将来はこういうプロスペクトがあるんだみたいなことを知らせる。そうすると、その労働者ももう少し安心して自分の企業内訓練を受けるということもできますし、将来の見通しを事前に知らせることによって訓練を受けるほうの離職確率も低下する、安心してですね。そうすると、企業のほうも訓練投資をしやすくなるといったことはあると思います。
○今野座長 企業の実態から考えると、いちばん重要な最初のポイントは、お互いに将来のキャリアを合意していないというのがいちばんのポイントです。例えば10年先まで合意していれば、企業は投資するのですね。だから、そこの上手な仕掛けがいちばん重要かなと直観的に思うのです。
○黒澤委員 あと、もう1つ。いわゆる離転職率が非正社員で非常に高いというのは若年、特に男性なのです。だからいわゆる主婦パートというのは、おっしゃるように、離職率はそんなに高くないです。だから、その辺りは、もう少し分けて詳しく分析する必要があると思っています。この能開調査にしても如何にせんですね、非正社員をそのようにグループ分けしてしまうとサンプルが小さくなってしまって。もう少しサンプルがないと、グループに分けて詳細分析をするのはなかなか難しいです。なのでおっしゃるように、若い人と主婦パートのように離転職率がそんなに高くない場合とでどう違うのかというようなところはもう少し突っ込んで分析する必要があるのかなと思います。
○今野座長 例えば大手スーパーで言うと、非常に転職率の高い就業調整をやっている人たちはキャリアが上がっていかないですよね。でも、大手スーパーはキャリアをずっと作っていっていますよね。そうすると、就業調整ではなくて、もう少し労働時間を長くして、ある人はその方向に、人数は別にして、上がっていくわけですよね。そうすると、上がるということは、上がるために教育をするということです。そうすると、教育と連動してくると思うのです。だから、教育をしたから上がるのではなくて、上げようと思って教育をする、それがやはり企業のビヘイビアだと思うのです。本人も、上がる気があるから教育を受けるということだと思うのです。
 それともう1つは、これはやはり経済学者と私みたいな経営との感覚の違いかなと思うのですが、訓練費用を労働者と会社がどう負担するかというお話です。私などの実感だと、まず賃金が地域相場で決まり、それに仕事を担当してもらうのに必要な最低限の訓練をするのでその訓練費が賃金に加わる。そうするとコストが出るので、それ以上の収益が出れば商売するし、収益がでなければ商売から撤退する。そういう感覚ですね。ちょっと余計なことを言いました。それではほかに何か。
○浅倉委員 もう1つ、いま事務局からご報告があった職業能力評価基準のほうですが、1つ教えていただきたいのは、職業能力評価のときに、自己評価もするのですが、上司の評価というのが入るわけですよね。つまり上司による評価の実施、それから上司によるコメントの記入、ということが入ってくるのですが、このように職業能力評価をしてもらいたいというときに、公正に評価してもらえることの担保は、どのようになっているのでしょうか、それを教えていただきたい。
 それから、前回やりました職務評価と今回の職業能力評価はどう違うのでしょうか。おそらく職務評価の場合には、個人の能力ではなくてその人がやっている職務を分析してその価値を比較するというのが、前回お聞きした職務評価だったと思うのですが、今回の職業能力評価の「能力」というのは、どうも同じポストに就いていても個人によってランク1とランク2が違うというようなものかと思います。あるいは、ランク1の職務ではあるけれどもその人はランク1には該当しないというような、そんな記述があったように思うのですが、両者の違いをどう考えたらいいのか。教えていただきたいと思います。
○今野座長 どなたに行きますか。
○浅倉委員 おわかりになる範囲で。
○岡職業能力開発局総務課長補佐 能力開発局の者です。上司の方が評価の記述を書いて、それの公平性と言いますか、どう担保するかということですが。この職業能力評価基準の制度は、業界全体で標準的な、いくつかの会社に何回か聴取りをして、大体共通してこういうことができるという、この業界で共通した、このランクではこういうものだということで作っています。それを基にこういった活用をしてくださいということをその業界を通じて周知してもらっているということです。直接お答えになっているかどうかわかりませんが、公平性を担保する直接的な仕組みというのはないのですが、ただ、こうやって使うといいですよといった具体例も示しながらその業界内で使っていただくということで、徐々にではあるのですが、その業界内のいろいろな企業で同じような評価がなされていくということで、公平性が保たれるようになる。こちらとしてはその活用例を紹介していくとか、あるいは、具体的にどうやっていくかというのはあるのですが、その業界内でそれぞれの使い方を紹介し合ったり、そういったことで公平性といったことが広まっていくのではないかということです。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 職業能力評価と職務評価の違いということですが、職務評価というのは一時点の職務の評価であり、前回禿先生のご説明で、山川先生から職務が変わったときに評価できるのかというご質問がありましたときに、禿先生からは、職務が変わるということは評価の対象にならないというお答えがあったかと思います。こちらの職業能力評価基準ですが、職務遂行能力を体系的に記述したものであり、レベル1から4まで、スタッフがシニアスタッフになり、スペシャリストからマネージャーになっていくという職務の異動、それぞれの職務ごとにどういう能力が必要かということを整理し、その職務が変わっていくためにはどういう能力が必要で、そのためにはどういう訓練が必要かというようなキャリアアップも前提になって作られていると思っております。ただ、職業能力評価基準も職務分析を詳細にして作っておりますし、一般的な賃金制度として、職務給、職能給、それぞれ職務等級とか職能等級というのを作りますが、かなり相対的な部分もありますので、この2つのことについて事務局としてももう少し勉強したいと考えております。
○浅倉委員 ありがとうございます。私もよく理解していないので。
○吉永短時間・在宅労働課長 上司による評価の客観性というところを若干補足させていただきます。もともと職業能力評価シートについて、企業それぞれでさまざまなやり方があると思いますが、基本的には、まず本人が自己評価を行う。これもなるべくシンプルに○、△、×ぐらいでやると。それを上司がまた○、△、×ぐらいの3段階で見ると。それぞれ、一人でできている、かつ、会社に教えることができるというのが大体○で、△は、ほぼ一人でできていて、一部、上司とかチーフの者の手助けが必要であると。×というのは、できていない、常に誰かにサポートしてもらわなければできないと。基本的にはそういう3つに分けるという形です。基本的には、まず本人が○、×、△を付けて、上司がまたそれを見ると。
 これ自体、評価のための評価ではなくて、もともと職業能力開発基準の考え方がどういうキャリアアップをしていくかという考え方なので、どういうキャリアを積むと×が△になり、△が○になるかという形ですので、△が直ちに成績につながるというわけでは必ずしもないですので、そういう観点から見ていくと。さらに、上司の評価と本人の評価を情報を共有化して話をするという中で、完全に主観性を排除するということはなかなか難しいわけですが、本人と上司がその話合いをする中で、その労働者に欠けている能力は何か、ステップアップするために必要な能力は何かという観点で明らかにしていって、次のレベル1からレベル2に上がる、レベル2からレベル3に上がるというような取組みを押し進めていくという考え方に立っております。そういう中で、上司と労働者との情報の共有の中で少なくとも最低限の客観性を確保していくというような考え方に立っているものです。
○今野座長 いちばん単純な例というのは、小池先生などがよく言うスキルマップがいちばん簡単な例です。労働者が何々をするというときの「を」は仕事ですよね。それに対して小池先生などが言うスキルマップは「を」ができるかどうかを問題にする。「できる」のほうを見るのか、何々「を」するほうを見るのか。「できる」のほうから見ると、仕事のA、B、Cできます。そうすると、A、B、Cできる能力です。「できる」だから。「を」を見ると、この人はAしかやっていない。でも、B、Cはできる。この状態のときにどっちをみて評価しますか。そういう話はいちばん単純な例ですね。そのとき、「を」で評価してもいいし、「できる」で評価してもいい。それはどっちがいいか悪いかはいろいろありますが、観点の違いとしてはそういうことだと思います。と私は思っているのですが。
○山川委員 資料4の6頁のジョブ・カード制度の概要で、先ほど黒澤先生からもご指摘のあったところですが、真ん中のキャリアアップ型のプログラムというところで、まさに「非正規労働者を正社員とするための訓練にも活用」とあります。まだ新しい制度なのですが、キャリアアップ型の非正規労働者を正社員とするための訓練というのは、どういうものが実施されているかなどを教えていただければと思います。
○岡職業能力開発局総務課長補佐 ジョブ・カードの具体的な使われ方ですが、実は、実践型の中でもいまご指摘のあった非正規から正社員に転換するというところは非常に少なくて、サンプルではあるのですが、全体の1%ぐらいしかないということです。実は、ほとんどが資料の上のほうにある、新卒を対象とした方を雇って、それできちんと戦力になるように訓練する、という方向で使われていますので、まだなかなかその実例の蓄積というのがないのです。今年の4月にジョブ・カードの全国指針も改正されまして、もちろん学生あるいは非正規の方の就職あるいは正社員化には役立てていくということなのですが、在職者の方にも使っていくようにということも盛り込まれましたので、この正社員転換の事例もこれからたくさん積んで、そういったものを分析していきたいとは考えております。
○山川委員 わかりました。
○今野座長 水町委員の先ほどの最後のご意見に関連して法律的な意見を聞きたいのです。先ほどからここで問題になっていますように、パートの人でもキャリアをちゃんと用意したほうがいいよねと、キャリアステージを作っておいて、会社とパートの人が相談して「私はキャリアを上げたいと思っている」と思えば、つまり、そこで労使で一種の合意が出てきて、上がるように教育しましょうと。そういうのはいいよなと、こういう話になったときに「我が社はそういう方針をとりたくない」というときはどうするのかを聞きたかったのです。先ほどは行動計画みたいなものを作ったらどうかというお話でしたよね。そういう行動計画をうちはやりたくないのですという場合はどのようになりますか。
○水町委員 行動計画は、社会的・政策的に望ましいというものを方向性を決めて、この方向に合うような企業は行動計画をその方向で作ってください、これは政策的な方向なので、それに沿えばベネフィットを与えますよと。もちろん、そういうのを作りたくないとか、うちはそういうふうにしないと言うのだったら、政策的な誘導と違う方向なのでベネフィットは得られませんよと。ただ、その1つとして次世代育成と同じぐらい非正社員に訓練をして待遇を改善して育てていくということは大切だという社会的・政策的なコンセンサスが得られれば、そういう行動計画を作って促していこうということも、法的に説得力があるのではないかと思います。
○今野座長 なるほど。そうすると、ソフトに誘導するということですね。
○水町委員 そうです、やり方はなるべく企業の工夫に任せるけれども、大きな政策的方向性、社会的方向性に乗っていないと誘導に乗ったベネフィットは得られませんよ、という意味合いでの枠はあります。
○今野座長 わかりました。その他何かあればお願いいたします。
○水町委員 いまのことに関連して1つ、先ほどから、投資したものを回収できる、そしてコストになるかどうかという話がありました。もちろん、投資して回収できて利益になることは非常に大切なことで、それが見えるように会社にとっても、労働者にとっても見やすいような仕組みを作ってあげることが1つ大切なことだと思います。同時に、会社や事業主にとって利益にはならないけれども、社会的に大切な訓練はやるように促していくことがもう1つ必要で、おそらく新成長戦略の中でも非正社員の訓練は大切だから、企業にとって直ちにメリットにならなくても促していこうという場合、どのようにして誘導するかと言うと、1つはレピュテーションです。きちんとやっているから市場で評価できるようにということで、次世代法ではくるみんというマークを与えています。
 ここでもそのような行動計画をきちんとやっていれば、みんなににこにこマークのようなものを政策として与えましょうと。ただ、にこにこマークだけだとインセンティブにならないので、コストがかかる分に見合うようなベネフィットを与えましょうというときに、どうするかがなかなか難しいところです。どこからお金を出して助成するかといったところは、必ずしも雇児局だけではアイディアが出てこないかもしれません。せっかく小宮山副大臣がいらっしゃっておりますから申し上げますが、税制上の措置や労働保険、社会保険を使った措置など諸外国にも例はありますので、局を越えてそうしたベネフィット、インセンティブを与えるような政策的な手法について、広く検討することが大切かなと思っております。
○黒澤委員 いまのに関連してですが、私も全く同感でして、資料4の最初にあるように、これまで、いわゆる正社員の企業内の訓練というのは、雇調金やキャリア育成助成金などいろいろ支援してきたわけです。また、失業者には公共職業訓練をしてきたわけです。しかしながら、今もそうですが、雇用政策はワーク・ファーストで、失業したら最低限の訓練をして、とにかくどこかに就業すればそれでいいと。ところが、日本も非正社員がこれだけ拡大してきたということは、不安的な職に就いても、そこで能力をアップしていく仕組みのあることが非常に重要になったということです。やはり、これは一般会計からやっていくしかなく、その1つの枠組みというのが訓練税制であり、フランスなどでは業界単位として行われています。業界単位で資格を作り、企業にもインセンティブを与える形で、企業にとっては得ではないけれども、外部性があるのだからやらなくてはいけないということでインセンティブを与える支援をする。できれば資格などにも結び付け、外部に伝わる部分については自分のメリットになるのだから労働者も負担するというような仕組みも取り入れながら、総じてキャリアアップを図るのが可能なシステムにすることが本当に大事だと思います。
○権丈委員 先ほど訓練投資に関わる費用回収の話をしましたが、費用の回収が難しいからやらなくてよいと考えていると思われると困りますので、少し補足させて下さい。非正規労働者の待遇改善にとって、訓練投資を増やして生産性を高めることはとても重要で、そのためには、企業と労働者の双方に訓練を行うインセンティブ・スキームを作ることが鍵になると考えております。すでにご指摘がありましたようなジョブ・カードの活用、また離転職が多く訓練投資が過小になるのであればある程度雇用の見通しがつくようにしていく方法を考えること、さらに助成を行うことなどが重要というのは、そのとおりだと思います。先ほど話しました訓練の評価については、生産性が上昇しているのであれば、仮に訓練直後に賃金上昇がみられなくてもあまり問題ではなく、いずれの訓練受講がメリットになる仕組みであることが重要だと思います。その際には、労働者の技能の向上を外から見える形にするというのにはまったく賛成ですので、その点を補足させていただきたいと思います。
 それから、全体に関わることなのですが、今回の資料4にも、「基幹的な役割を担うパートタイム労働者が増加するなど、日本経済を支える労働力としてのパートタイム労働者の重要性は高まり、その有する能力を有効に発揮できるようにすることが、社会全体として求められている」とあり、ここでもパートタイム労働者の待遇改善を議論してきたわけです。パートタイム労働者の待遇改善は、それだけ労働市場における多様な働き方の選択肢を広げることになります。これは現在のパートタイム労働者だけではなく、いまは正社員やフルタイム労働者として働いている人たちにとっても、そして、いまは働いていない非就業者にとっても重要であり、少子高齢化の中、長期的な労働力不足の状況下で、今後の日本経済にとって重要だと思いますので、この点も付け加えさせていただきます。
○小宮山副大臣 先ほど一般会計からもしっかりお金を出してということもありましたが、これについては財務省とのバトルの連続です。ただ、税制のほうでは、昨年の就労促進税制の中で、先ほどご紹介いただいた、くるみんマークをきちんと取っている企業の中で一定の成果を上げた所は、税制優遇するといったことを入れたりしていますが、残念ながら、その税制改正が国会をまだ通っていません。ただ、そうした税制と予算と両方を合わせて、おっしゃるように、これだけ非正規が多い中で、超少子高齢社会ということも合わせて、日本の労働者の資質を上げていくことは、先ごろの求職者支援制度によって、すぐ生活保護に落ちないということをやるのと同時に、企業にとっても、働く人にとってもインセンティブがあって、結果としてそれが社会の活力につながっていくようなことを、税制との合わせ技でやっていくということだと思っています。
 社会保障の改革の中にも、今回初めて就労ということを入れたのですが、それでも財源の取り合いというところにいくと、雇用のところはほとんど取れない状況にあるので、ここで検討していただいているような、具体的な、こうやるとこうなるといったことが出てくると、予算の上からも税制の上からもやりようがあるし、私もこの立場にいる限りは、そこはしっかりやりたいと思っていますので、是非よろしくお願いいたします。
○今野座長 まだご意見があると思いますが、先ほど言ったように、前回の残りの議論のための時間が、あと30分ぐらいしかありません。いつものとおりスケジュールが大変遅れておりますので、この辺で教育訓練については一度切らせていただき、前回の残りの議論に入りたいと思います。待遇と納得性の問題です。まず、事務局から説明していただき、議論に入りたいと思います。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 前回、職務評価について専門家の方からヒアリングを行いましたが、例えば職務評価の結果、事業所の賃金制度を変更する必要が生ずる場合があり、賃金制度を就業規則で定めている場合は、就業規則の変更が必要になる場合があります。就業規則を不利益に変更する場合には労働契約法に定められた一定のルールがありますので、これについて、参考までにご説明したいと思います。
 資料5として、「労働契約法のあらまし」というパンフレットを付けておりますので、15頁をご覧ください。15頁は労働契約法の第9条、第10条の関係です。労働契約法第9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と書いてあるとおり、労働条件の変更に当たっての合意原則を就業規則の変更による労働条件の変更の際にも当てはめております。ただ、第9条は「ただし、次条の場合は、この限りではない」としていて、第10条は「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」とあり、第9条において就業規則の変更による労働条件の不利益変更は基本的には合意原則であるが、就業規則を周知させ、かつ就業規則の変更がその内容、手続の面から合理的である場合は、就業規則を不利益に変更することもできると定めております。
 15頁の下には最高裁の判例が出ておりますが、この判例法理を明文化したものが第9条、10条ということです。実際の裁判例ですが、31頁の秋北バス事件の昭和43年の最高裁判決は、就業規則が合理的な労働条件を定めていれば、個々の労働者が同意しないことを理由としてその適用を拒否するものではない、就業規則による労働条件の不利益変更について、当該条項が合理的であれば、労働者を拘束するという判決です。35頁の大曲市農業協同組合事件昭和63年最高裁判決は、農協の合併に伴い、ある農協に勤めていた従業員が、退職金が切り下がると訴えたもので、秋北バス事件最高裁判決の内容に沿って、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関す不利益となる就業規則の変更については、高度の必要席に基づいた合理性を求め、本件については、合併に伴う給与調整等もあることから、就業規則の変更は合理的であったと判断されたものです。
 36頁の第四銀行事件平成9年最高裁判決は、定年を延長する代わりに給与を減額したという事例ですが、秋北バス事件、大曲市農協事件等の最高裁の考え方を踏襲し、37頁の上にあるように、就業規則の変更の合理性を判断する要素が細かく挙げられているのが特徴です。また、本件については定年を延長したことで賃金が減額されておりますが、定年延長の必要性、変更後の賃金水準、多数組合と労働協約を締結した上で行われたことなどの事情を勘案して、この就業規則の変更は合理的であるという判断がなされました。37頁のみちのく銀行事件平成12年最高裁判決は、賃金制度の改正により、年齢の高い管理職だった労働者が、管理職の肩書きを失って賃金を減額されたというものですが、一部の労働者の賃金の減額幅が非常に大きかったことを認定し、多数労働組合との同意もなされているものの、就業規則変更による賃金制度の改正は合理性がないと判断されました。以上、簡単ですが、参考までにご説明いたしました。
○今野座長 何でも結構ですので、ご意見をいただければと思います。水町委員、いかがでしょうか。
○水町委員 前回までに何を言ったか覚えていないのですが、たぶん、言いたいことは全部言わせていただいたのではないかと思います。
○今野座長 もう終わったというわけですね。その他何かあればお願いいたします。
○山川委員 ケースバイケースと言いますか、原則として同意がなければ許されない、しかし合理性があれば許されるというルールで、ケースによって違うので何とも言いようがないというところです。判例の中では、合理性の要素として、従業員の多数を組織する組合との合意を得ていることには、一応合理性を推測させる要素になることを挙げているものがありますし、もう1つはここにはないのですが、総額人件費は減らしておらず、配分の合理性を改めたに過ぎないことを1つの合理性のファクターにしている例もあります。それだけですべてが決まるわけではないですが、その2つが揃うと、合理性の要素が肯定されるファクターが少し増えるということはあると思います。しかし、多数組合が同意するというのは、非正社員の待遇を改善するという場合、多数組合が相当の覚悟を持ってやっていくことになるだろうと思います。逆に、そのような決意を示して同意したのであれば、それはそれなりに尊重されるということだと思います。
○浅倉委員 私も前回までの議論を忘れていて、なぜ、今の議論が問題になったかというのがちょっと思い出せないのです。しかし要するに、職務評価制度等を導入して、女性や非正規と正規との格差をなくそうという新しい賃金制度を導入した場合、正規を引き下げるということもあるのではないか、それをどうしようかという議論が積み残しだったということですね。
○今野座長 そうです。
○浅倉委員 つまり、非正規を引き上げることはいいだろうが、正規引き下げについて合理性があるかどうかという議論で、就業規則全体の改正をした場合はどのように評価すればいいかとの問題ですが、それはまさに、山川先生の説明に尽きると思います。他の国のことを言えば、以前私も報告したように、イギリスなどでは男女間の賃金格差をなくそうということで、新しい賃金制度を導入した経験があります。男性の賃金が高過ぎたので引き下げるということを労働協約で合意したわけですが、のちに男性の賃金引き下げに関しては、それがあまりにも激変にならないようにするために、緩和的に徐々に引き下げて同一にするという何年かのスケジュールを組むということをしたので、それが差別ではないかと、裁判の中で争われたケースがあります。
 その際、裁判所は激変の緩和のためであってもしばらく男女格差は続くので、男性の引き下げを緩和するのは違法ではないかという結論に至ってしまったのですが、その後イギリスは2010年法を改正し、そのような激変緩和という仕組みの中で残る格差は合理性がある、そのように立法的に解決したわけです。たぶん、どの国でもいろいろと頭の痛いところではあると思うのですが、結果としては法制度の中でうまく解決していっている問題だと思います。
○今野座長 これは「もし」の話ですが、仮にパートの人の賃金を上げて、正社員を下げる。それを同じような仕事をしているのに賃金差がおかしいからという論理で行った場合、正社員間でも同じ問題が起きているので、企業がそれを正社員についてもやったときには合理的だということに裁判上もなるわけですか。そこまで広がりますか。
○山川委員 正社員間の賃金配分の合理性ということでしょうか。
○今野座長 そうです。
○山川委員 むしろ、そのような事例のほうが裁判例としては出てきているのではないか。いわゆる能力主義、成果主義に賃金制度を変更する過程では、そのような事例が出てきております。まさに、そこで多数組合の同意や総人件費は変わらないなどといったことが考慮されます。ただ、先ほど言い忘れたのは、不利益が一部の人にあまりにも大きくなってしまうと別だということと、なかなか単純に言えないのは、結局、賃金の格付けは個別的な問題ですから、制度を変えること自体とは別に格付けが具体的に個人についてなされる段階でダブルチェックと言いますか、もう1回ある個人への格付けが妥当かどうかは、一応別に判断はされるということです。広がるというよりも、むしろそちらの事例のほうが存在するということかと思います。
○今野座長 これは先ほどの件で、もういいようです。
○小宮山副大臣 この間だいぶ熱い議論をしていただいたのですが、切れてしまうと、もう1回というのはなかなか難しいですね。
○今野座長 前回、少なくとも皆さん言いたいことは全部言っているという感じです。
○水町委員 少なくともこれは行政とか公的に下げていいです、下げては駄目ですという問題ではなくて、事案に応じてどれぐらい話し合いを尽くしていたか。それが裁判になったときに、裁判官が見て個別に合理的かどうかを判断するものですから、あまり軽々に、総額人件費が一定であれば下げていいとか、多数組合の合意があれば下げていいなどとは簡単には言えないので、山川先生が言われたように、そのようなのを踏まえながら事案に応じて、総合的に判断して。
○今野座長 それではこれは終わりということにします。もう1つ、その他としてパートタイム労働法の施行状況についての調査が出たので、その結果を報告していただいて、今日は終わりにしたいと思います。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 資料は参考2です。平成22年度のパートタイム労働法の施行状況についてとりまとめたものを5月末に公表しておりますので、それについてご報告いたします。2頁は、昨年度1年間の都道府県労働局雇用均等室への相談の状況です。上の箱にあるように、相談件数は全体で6,307件でした。内訳は表や図にしておりますが、パートタイム労働者からの相談が平成21年度より増えているのが特徴的です。パートタイム労働者に対しての相談会等を実施したこともあって、相談が増えたのではないかと考えております。
 相談内容ですが、表1にあるように、パートタイム労働者からは第6条「労働条件の文書交付等」、第13条「待遇に関する説明」、第12条「通常の労働者への転換」などが多くなっております。また、事業主からは第12条の「通常の労働者への転換」がいちばん多く、第6条「労働条件の文書交付等」が2番目に多くなっている状況です。この相談内容については、パート法施行後は平成20年度、21年度とも同じような内容で推移しております。
 4、5頁は都道府県労働局の雇用均等室において、パートタイム労働法に基づき、法違反があった場合の是正指導の件数です。表2、図3を合わせてご覧ください。図3にあるとおり、平成22年度は1万2,590事業所を訪問し、2万6,091件について是正指導を行いました。是正指導の内容は、表2にあるとおり、いちばん多かったのは第12条「通常の労働者への転換」で、次に第6条「労働条件の文書交付等」が多く、第9条の「賃金の均衡待遇」についても1,000件を超える指導をしております。他方、第8条の関係の是正指導件数は3件です。5頁のパートタイム労働法に基づく紛争解決援助は、都道府県労働局の局長から事業主に対して、紛争についての助言、指導なりをしてほしいとパートタイム労働者から申し出があった件数ですが、申立を受理した件数は6件、内容については表3にあるように、第6条「労働条件の文書交付等」、第12条「通常の労働者への転換」が1件ずつ、第8条「差別的取扱いの禁止」と第13条「待遇に関する説明」がそれぞれ2件で、昨年度1年間で6件でした。簡単ですが、施行状況については以上です。
○今野座長 何かご質問があればお願いいたします。
○水町委員 相談についても、是正指導についても、第12条の通常の労働者への転換がいちばん多いということですが、これは次回のテーマですね。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 そうです。
○水町委員 次回でいいのですが、3つの措置のどれか1つを取らなければいけないので、具体的にどのようになっているのか。正社員に転換することを義務づけるのではなくて、そのための試験制度や情報の周知ということですが、これがどのようになされているか、なされていないのかということと、それが本当に正社員転換につながっているかどうかということのデータなりがあれば、次回現行法を検証する際に非常に重要になると思うので、ちょっと調べていただいて教えていただければと思います。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 わかりました。次回ご用意いたします。
○今野座長 今日は少し早いのですが、いつも熱い議論をしていますので、今日はちょっとクーリングをしようかなと思います。この辺りで終了したいと思います。最後に、事務局から次回の日程についてお願いいたします。
○藤原短時間・在宅労働課長補佐 次回は2週間後の6月17日(金)の10~12時、場所は厚生労働省12階専用第14会議室となっております。よろしくお願いいたします。
○今野座長 以上で終了いたします。ありがとうございました。


(了)
<照会先>

雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課

電話: 03-5253-1111(内7875)

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