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2011年5月16日 第2回ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理指針に関する専門委員会  議事録

厚生労働省大臣官房厚生科学課

○日時

平成23年5月16日(月)
16:00~18:00


○場所

厚生労働省 省議室(中央合同庁舎第5号館 9階)


○出席者

(委員)

永井座長 福井座長代理
小幡委員 鎌谷委員 栗山委員 高芝委員 玉起委員
知野委員 堤委員 徳永委員 藤原(靜)委員 藤原(康)委員
前田委員 増井委員 俣野委員 武藤委員 山縣委員
横野委員

(事務局)

福嶋氏

(事務局)

文部科学省: 戸渡審議官 渡辺安全対策官 岩田室長補佐
厚生労働省: 矢島技術総括審議官 尾崎研究企画官 田中課長補佐
経済産業省: 船橋課長補佐

○議題

(1)ヒトゲノム・遺伝子解析研究の進展と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について
(2)遺伝カウンセリングと「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について
(3)その他

○配布資料

資料1ヒトゲノム・遺伝子解析研究の進展と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について(山梨大学大学院医学工学総合研究部 山縣然太朗教授)
資料2遺伝カウンセリングと「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について(信州大学医学部 福嶋義光教授)
参考資料1三省委員会委員名簿
参考資料2ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
参考資料3ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しにあたっての検討事項(案)

○議事

○尾崎研究企画官
 定刻になりましたので、ただいまから文部科学省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しに関する専門委員会」、厚生労働省「ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理指針に関する専門委員会」、経済産業省「個人遺伝情報保護小委員会」を合同で開催いたします。委員の皆さまには、お忙しい中お集まりいただき、お礼を申し上げます。まず、前回、第1回三省合同委員会にご欠席された委員をご紹介します。読売新聞東京本社編集局編集委員の知野恵子委員です。次に、少し遅れて国立感染症研究所エイズ研究センター長の俣野哲朗先生もいらっしゃる予定です。本日は、辰井委員がご欠席、藤原靜雄委員からは45分ほど遅れる旨の連絡をいただいております。また、永井座長は30分ほど遅れるとの連絡をいただいておりますので、その間の議事の進行は、座長代理の福井先生にお願いしたいと思います。
 俣野先生がお見えになりましたので、ご紹介いたします。国立感染症研究所エイズ研究センター長の俣野先生です。
また本日は、有識者の先生方からのヒアリングということで、遺伝医学がご専門の信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座の福嶋教授をお呼びしております。福嶋先生からは、議題2の遺伝カウンセリングとゲノム指針の課題について、ご講演いただく予定ですので、よろしくお願いいたします。
 まず、配付資料の確認です。1枚紙で議事次第と配付資料を記載したものがありますので、それに沿い確認していきます。資料1はヒトゲノム・遺伝子解析研究の進展と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について、資料2は遺伝カウンセリングと「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題について、参考資料1 三省委員会委員名簿、参考資料2 ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針、参考資料3 ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針の見直しにあたっての検討事項(案)です。
 そのほか委員の先生方の机上には、委員資料1及び委員資料2としてファイルを2冊用意しております。この中にはゲノム指針をはじめ、関係する既存の研究倫理指針などが綴じてあります。なお、前回の委員会における堤委員の意見を踏まえ、ここに「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」を追加しております。
 以上ですが、資料の不備等がございましたら事務局までお知らせください。特になければ、福井先生よろしくお願いいたします。
○福井副座長 それではよろしくお願いします。本日の議事にありますように、最初に前回の4月19日の会議に引き続き、現在のヒトゲノム指針が抱える課題等について、お二人の先生からご説明をいただきます。その後、意見交換をそれぞれについて行います。最初に、本委員会の委員である山縣先生からお手元の資料1にあるような題で、ゲノム研究のプロセスやコホート研究、多施設共同研究と幅広い内容について、お話いただければと思います。それでは、どうぞよろしくお願いします。
○山縣委員 
ご紹介いただきました山縣でございます。本日は大仰なタイトルですが、前回に続き、ゲノム研究の進展とゲノム指針の課題?として、私自身が実際に研究に関わっているもの、倫理審査委員会等で問題になっていることについて、その現場として、どのような状況なのかをお話いたします。
 まず、今日ここにあるように、人を対象としたゲノム研究がどういうプロセスで行われるのか。そのときに使われる手法であるコホート研究。多施設共同の研究。実際にインフォームド・コンセントはどのように行われているか。試料の収集がどのようなことなのか。登録、匿名化のしくみ、これもいろいろな方法があるのですが、私どもがやっている方法。それから解析、論文化はどのように行うのか。最後に、倫理審査委員会でいま問題になっているようなことを挙げたいと思います。
 人を対象としたゲノム研究のプロセスをここにざっと示しておきました。研究計画を策定をするわけですが、それを倫理審査にかけると同時に、研究費がないと出来ないので、その獲得をする。これらがいずれも通ったところで、多施設共同研究の場合には、そういった手続きに入っていき、それが完了したところで、実際の研究の実施になります。この最初の準備の段階に少し時間がかかってくるわけですが、研究が始まると対象者に対するインフォームド・コンセント。応じていただいた方に登録。そして登録した者の匿名化。それから試料等の収集、それを解析しということになります。こういった研究の場合に重要になってくるのが、対象者のリクルート率を上げるとか追跡率を上げるなど、そういった点で研究協力者、対象者の方とのコミュニケーション活動等を、実際に研究の中で行うことは、研究実施にあたっては非常に重要なことです。
 倫理指針の中にあるように、実施の状況を倫理委員会は把握しますので、施設長は把握するということです。こういった報告を出していく。そして最終的には公表。これは論文化だけではなくて、市民に対する研究成果の発表、アウトリーチ活動のようなものも、こういった研究の中に入ってくることになります。
 倫理審査委員会に関してですが、山梨大学ではガイドラインに基づいて9人(外部3名)で構成しており、この下に遺伝子解析研究に関する専門委員会として、このヒトゲノムの指針に基づく審査、それから臨床面での医療行為に関する専門委員会が設置されています。審査の対象は、医学部の教員が実施する国の指針の対象となる研究が主で、後者のところが医療行為になります。基本的に月に1回、同時に最近はCOI委員会があるので、利益相反の委員会も同時に実施しています。大体、4月5月は多いという波はありますが、年間120件ぐらいです。そしてゲノム関係はそれほど多くなく、年間数件になります。申請書及び研究計画書を事前に配付して、それを委員が読み、必要に応じて、研究代表者から直接説明を聞きます。大体1回の調査で、条件付きの承認が最近は多くなってきています。結果を教授会で報告、ホームページで公開して、施設長からその許可が出るという手順です。
 多施設共同研究は、いわゆる研究代表者の中央事務局が先ほどのプロセスを行っていくわけですが、ここで倫理委員会をしっかり通して、そして共同研究の機関が、ここの番号はゲノムの指針の番号に合わせてありますが、9(5)に「迅速審査」がありますが、基本的には施設審査という形で、それを行っていきます。研究代表の機関からは、例えば遺伝子解析を委託する。これも委託契約というものがありますが、そういう形で遺伝子解析を共同研究の機関以外の所に委託したり、バイオバンク、これも外にあるバイオバンクもありますし、研究そのものの中で、バイオバンクという形で通る場合もありますが、そういう所にデータを提供することが行われます。ここに書いてある匿名化にあたって、指針では要するに、こういう共同研究、委託先、バイオバンクへは連結可能匿名化の形で、情報が流通することは可能ですが、バイオバンクを一旦通すと、それは連結不可能の形でいきます。ですから、例えば共同研究施設であっても、これがバイオバンクを通して、試料が提供される場合には、連結不可能匿名化という形で、いまは指針上はなってしまうと理解をしています。そこが、今回どのように考えるかという点の1つのような気がします。コホート研究の「コホート」という言葉は、中世時代の騎馬隊の一群のことで、それをずっと追跡するという意味で、コホート研究が行われるわけです。喫煙している群と非喫煙の群を、例えば1万人ずつ10年間ずっと追いかけます。その間に、肺がんの罹患がそれぞれの群でどれだけあったか、主にこういう相対危険というものを出して、この場合なら、喫煙群が非喫煙に比べて5倍肺がんのリスクを高めるという結果が出てきたりします。あとはコホート研究の場合に重要なのは、この寄与危険というものが出てきて、いわゆる喫煙というものが肺がんに対してどのくらい寄与しているのか。例えば、この中で1万人のうち肺がんになった人が100人いたとしても、たばこでなった人は、このうちの80人であるという寄与危険の値が出るというのは、コホート研究で出てくるものです。
 こういう疫学研究の1つの形というのは、いわゆる因果関係、原因と結果の関係を明らかにするものであります。その因果関係を判断するまでの条件がいくつかあって、時間性、強固性、整合性、一致性、特異性の5つが非常にクラシカルなものですが、簡単に説明しますと、原因は結果の前にあるというのが時間性であり、関係の強さ、これは相対危険が高ければ高いほど強固な関係にあると言います。整合性は、いわゆるほかの生物学的、社会的に矛盾がないというようなこと。一致性というのは、こういった同様の研究、人を別の人で行ったり、それから時代を超えても一致しているものというのは、因果関係が強い。特異性というのは、結核の人はその結核菌に感染しているといったような関係のことを言います。こういう条件というのは必ずしも全部満たしているわけではなくて、ただ最低限満たしておきたいところが時間性で、いわゆる、原因は結果の前にあるということです。こういったようなことを確実に担保するのが、このコホート研究になります。
 そういった追跡を調査していくゲノム・コホート研究ですが、国内外で多くのことがされています。この辺のところは、ほかの専門書を参考にしていただきたいと思うのですが、日本のゲノム・コホート研究としては、(J-MICC)日本多目的共同コホート研究というのが、5万人を対象にしていくということで始まっております。それから平仮名のほうが正しいようですが、京都大学が行っている長浜研究が、当初からゲノム解析を前提にして始まった研究です。福岡県の久山町の研究は、脳卒中をはじめ生活習慣病に関して、地域の中での研究として世界的に有名なもので、半世紀にわたって行われているものです。そこでは途中からこういうゲノム解析をこの研究に加えて、そして遺伝子との関係を見ていき、非常に大きな成果を上げている研究です。
 世界のコホート研究例としては、2つしか挙げておりません。1つはオックスフォード大学のUK Biobank、50万人のゲノム・コホートで、ホームページが出ていますので、ご参考にしていただければと思います。昨年11月時点で、50万3,000人ぐらいの人が登録されて、実際に50万人を達成したという報告がなされております。それからKadoorie Biobank study、これは中国で行われている50万人のゲノム・コホートですが、実はこれもオックスフォード大学が基盤にあって、Kadoorieというのは香港の財団の名前が付いているもので、これは50万人として行われているものです。
 最後に少しご紹介するのが、子どもの健康と環境に関する全国調査で、これはゲノム・コホートとしての位置づけというよりも、将来的にゲノム解析も行っていくということで、インフォームド・コンセントを取りながら進めている調査で、昨年から始まりましたが、10万人の妊婦とその子ども及び父親、13歳になるまで追跡していくという一大国家プロジェクトになります。
 インフォームド・コンセントですが、これは倫理指針の(10(3)~(13))に、研究責任者の責務として記載されているものであります。履行補助者が認められており、当該研究機関の研究者以外の者が、それを行えるということが(10(7))にあり、例えばリサーチ・コーディネーター、メディカルリサーチ・コーディネーター、ゲノムのリサーチ・コーディネーターなどいろいろな名前が付いていますが、そういうリサーチ・コーディネーターという人を置いて、このインフォームド・コンセントの履行補助者にするということです。ただ説明するだけではなくて、同意までこのリサーチ・コーディネーターが受ける場合には、条件がこの(10(7))にあり、いわゆる医師、薬剤師等刑法第134条その他の法律で、業務上の守秘義務を伴う者でなければ、これができないということが、その制限としてあります。
 それから、こういったリサーチ・コーディネーターには、研修をしっかり行い、場所によっては、それに対して認定書を交付して、サーティフィケートしている所もあります。実際の説明ですが、パンフレット、研究計画書は非常に厚いものが多いですから、そのパンフレットとDVDなどの動画を用いて行う。その際に、必ずこういうことは聞きましたということをチェックリストを横に置き、確認しながら説明をしていくということが、多くの所で行われていると理解しています。それから同意書は3通、複写式で取って、本人、現場である医療機関、実施する研究機関が保管をしていくことにしております。時間はさまざまではありますが、非常に長くかかるわけですが、工夫により短縮をしながら、これは全部説明をきちんとしていくわけですけれども、対象者の方もいろいろ時間の問題もあります。例えば、妊婦さんを行うときには体調の問題もありますので、そういうことを考えながら、インフォームド・コンセントというのは、適宜、的確に行っていくことになっております。
 試料の収集は、研究用に採取するというのが基本です。採取して匿名化し、回収して保管。その保管のときにも、さらにその匿名化するという仕組みを設けている所が、大規模なプロジェクトの場合にはあると思います。それから残余の試料ですが、これは臨床の現場で、例えば赤血球・白血球の数を数えるという血算で取ったものは、大方が余りますので、それを遺伝子解析に用いるということで、インフォームド・コンセントを取って行っていくという研究もあります。調査票は面接法と自記式です。自記式の場合は、臨床の現場で記載したり、郵送法で行うということです。
 診療録は、多くの場合、医師、現場のスタッフが調査票に転記をしていくことになりますが、例えば、RCが病院との契約できちんとそれを転記し、確認してもらって、その情報を共有する形で現場に負担をかけないような調査の方法もされています。
 登録・匿名化のしくみは、研究参加者の登録・匿名化というのは、ほぼ同時に行われるわけです。試料収集機関で登録・匿名化する。それから中央事務局で登録・匿名化するという場合があります。実際に、非常に人数が少ない場合には手作業で行う。それからシステム化された登録、大規模、多施設共同研究の場合は、登録のシステムにかなりの費用をかけて運用しているということで、バイオバンクの関係者の方にまた伺うと思いますが、バイオやエコチルの調査などというのは、ここの所に非常に経費がかかることがあります。これは1回作っただけではなく、運用にも非常に経費がかかります。
 電算化された登録・匿名化の場合に、現場での試料収集時に、後でご説明しますが、バーコード等を用いて匿名化がされ、試料自体に個人情報は記載されずに、厳密な保護が可能になるということです。ここはいわゆる登録でIDを発行、エコチルの場合ですが、リクルートする方に対して、IDを発行して、実際にリクルートができたら、それを登録していくという形で、コード、IDを発行しております。
 いろいろなセキュリティの方法がありますが、基本的にとにかくアイソレートされたパソコンで、そして誰が入力したのかがわかるように、例えば静脈認承システムを使ったりいろいろなことをして、誰がこれにアクセスしたかがわかるようにするということは、多くの所で対応されているものです。例えば、バーコードの場合にリクルートする方に対して、こういうバーコードで、これがIDになりますが、こういったものを打ち出して、これは1枚ずつ剥がれていって、そこで試料に貼ったりなどしていくわけです。そういうものを、インフォームド・コンセントの紙や調査票、試料、そういったものに共通のものを貼ることによって突合できるようにしています。
 これは同意書ですが、同意書にもこういう形で同じ番号が貼られて、それでわかるようにする。これが3通作られます。これは同意撤回の請求書ですが、ガイドライン上では文書により、同意の撤回を行うということになっていますので、こういうものを使って同意の撤回を受け付けることになります。
 インフォームド・コンセントの流れですが、先ほどお話したとおりで、声掛けをして、要件の確認、つまり対象者はどういう方が対象者なのかを確認して説明をし、インフォームド・コンセントの受領を行い、受領後の処理として同意した場合には、妊婦に対する調査ですが、母親のIDを、任意に選択して、そのラベルに貼っていって登録をすると。同意しない場合にもIDは付けて、それは同意されなかったということで、保管しておくことになります。これは同意率をとっていく必要がありますので、不同意の方の人数をカウントするということで、これが入ってきます。
 解析、論文化はもう研究者間のオーサーシップに関する取り決めというのが行われていて、それで解析、論文化していきます。解析と一口で言いましても、いわゆる遺伝子の解析、ジェノタイプを同定する作業といろいろな情報を用いて、統計解析をすることに大別されています。私自身が90年代前半に行っていたものも、数も少ないですし、スニップを1個ずつ調べていく調査でしたので、両方を同じ研究室で行うことで、基本的にはずっとされてきましたが、いまはもうご存じのように、遺伝子解析も非常に大量な情報を見出していく解析方法ですので、工場という言い方はあまりよくはありませんが、そういう所でとにかく全タイピングがされ、それを臨床情報と言うと非常に多岐にわたるわけですが、しかもそれが経年的にあると、まさにスーパーコンピュータ等を使って解析をしていくといったようなことが行われます。
 この際に解析を複数の機関で行うときに、試料の提供、先ほどの委託や共同研究ですが、それから出てきた情報を共有したり、追加の情報を共有する、コホート研究ですと、後から患者さんのいろいろな予後の結果などが出てきますが、そういったようなものを追加していくにあたって、インフォームド・コンセントの範囲を超えるような情報の提供があるかないか、それから連結不可能匿名化のときには、そういった追加の情報ができませんので研究上、話もスムーズにいけない場合が実際にあります。
 最後に、倫理審査委員会で私どもがいくつか問題のある点を挙げております。最初が胎児・未成年の同意。基本的には(10(8)の細則2)で、代諾者の所に「父母」と記載されていますが、父母というのは父と母は別なのか、両親なのか、母親のみでいいのか、父親からも同意を得なければいけないのかは、実は必ずしも明確化されていなくて、子どもに対する侵襲を伴う研究の場合に、NIH等では侵襲に応じて、片方の親だけでいい、両方の親が必要だということは細かく決められているものもあります。
 同意の撤回は、かなり課題となってくるところで、データの削除をどこまでするのか。(10(10)の中で撤回があった場合には、原則として、当該提供者に係る試料等及び研究結果を匿名化して廃棄する)ということがありますが、例えば、10年の計画で10年目に同意の撤回が起きた場合に、いちばん最初のところまで遡って試料等を全部廃棄していくのか。その際に、例えば5年目で出したデータセットのようなものを、データセットというのは解析するためのデータですが、そういったようなものをどのように取り扱うかが問題になります。例えば、1つのその回避の方法としては、何年かおきにデータセットをフィックスしてしまう。固定化して、そして個人情報を外して、例えば同意の撤回が起きたときにも、それは撤回できないという形が1つ考えられます。それでそういうことでいいのか。ただ、それは論文に実際に出すわけですから、後から数が減って、もう一遍解析をしたときに、違うような結果が出ることのほうが問題だということで、そういうことが考えられます。
 今日は福嶋先生がここのお話ですが、遺伝カウンセリングの必要性、基本的には単一遺伝子疾患の場合にいろいろ書かれておりますが、その他の場合でも必要性の基準はどこにあるのかなど。遺伝カウンセリングは基本的にいつやるのか。私どもは教科書で学んだり、教えたりするのは、やはり遺伝子解析をする前から、こういうことは行うということになりますが、どうも遺伝情報の開示の際にというようなことが書かれていて、通常の遺伝カウンセリングの基本的な考え方と、ここはその反故があるのではないかということです。
 それから開示が、原則開示ということが(11)の所に入っておりますが、これに関しては前回のときにも私が発言いたしましたが、本当に原則開示でいいのか、それとも開示をどうしてもしなければいけないときに条件をつけるということで、そういう原則というものは除いたほうがいいのではないかと、私は個人的には思っております。と言うのは、やはり開示によるトラブルというのは、実際にあるわけですし、そういうことをどのように回避していくかは重要です。
 共同研究の場合に、一部の倫理委員会が承認しない場合に、どうやって研究の組織を考えていくのか。いろいろな理由があって、承認できないことがあるのでしょうが、そういうときに、中央事務局はどのようにそれを支援したりしていくのか。例えば、研修会による標準化の必要性はないのかということです。
 最後ですが、ここが実は新たな研究の中で困っているところで、将来の遺伝子解析を含む疫学研究や臨床研究の場合に、どの指針で審査をするのか。具体的に言うと、研究計画の中にどの遺伝子解析をするということは明示されていない。むしろいま出来ないけれども、長きにわたって必要に応じて遺伝子解析を行うということで、試料を収集をしている。ですからインフォームド・コンセントの中では、将来の遺伝子解析をするのだということで、インフォームド・コンセントをもらうというような研究の場合に、それはゲノムの指針なのかどうなのか。
 例えば、それは同様に下にあるように、B群試料の考え方の中に、遺伝子解析研究と明示していないけれども、連結不可能にしたらB群として扱う可能性があるということや、連結可能匿命化の場合には、それ相当のインフォームド・コンセントが得られている場合に、遺伝子解析ができるというようにB群が規定されているわけですが、その辺の考え方はいつも倫理委員会で話題になるものです。
 データのアーカイブ化は今後こういった巨大プロジェクトの場合に、それが追試できないのであるならば、研究の信頼性を担保するために、多くの研究者がそういうデータを扱うという意味で、こういうデータ・アーカイブ化は考えられなければいけないのですが、インフォームド・コンセントの関係で難しいということで、倫理委員会ではなかなか承認できない場合が多いということです。
 有害事象の報告は臨床研究にはあるのだけれども、ゲノム指針の場合には、この報告義務はないのかというようなこと。それから研究者の教育の機会の確保。これも今回の臨床研究の指針にはあるわけですが、ゲノムの指針ではどのように考えるのか。最後に、そういった健康被害や危険に対する補償に対して、どう考えていくのか。これも1つの研究に対して1つのガイドラインで審査をすることを前提に考えると、この辺りのことが倫理委員会の中で課題になるということです。基本的には以上でございます。どうもありがとうございました。
○福井副座長
 大変わかりやすいご説明をいただきました。それでは、委員の先生方からご質問なりご意見を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。
○堤委員
 非常にいろいろな問題があるなと改めて思いました。先生が最後のほうにおっしゃられましたが、どの指針に沿って審査するかということと、試料をバンキングするということに関しても、どの指針に沿ってバンキングするかということが問題になるのだと思うのですが、基本的にヒト由来試料をバンキングすることに関しての考え方が一本いるのではないかなと感じております。いちばん良い資料といいますか、ガイドラインになるのは、この卓上資料で配付していただいていますが、OECDのガイドラインがあります。これは試料の採集から、最終的にバンクをクロージングするときまでの一貫した一連の流れが入っております。開示に関する考え方は、ちゃんとしなさいよというような要点が全部書かれております。こういったOECDのガイドラインを参考にしていくべきではないかと感じております。これが1点です。
 もう1つ、コホート研究に関してですが、基本的にコホート研究ですと連結可能匿名化で研究がデザインされていると思います。開示云々とか、研究の技術の伸展によっていろいろなことがやれるようになって、あとでゲノム研究をするということもご紹介いただきましたが、そのときに、連結可能匿名化であるがゆえに、再同意をしなければいけないのではないかという論点も出てくると思うのです。ですから、再同意の範囲をどのぐらいまで想定しておくということを、もう少し明確にするという議論があれば、お教えいただきたいと思います。
○山縣委員
 堤委員のおっしゃるとおりで、前者に関しては本当にそうだろうなと思います。コホート研究の場合、途中で遺伝子解析を行う場合には、去年から倫理委員会で個別の同意を必要とするのか、それとも本人に通知なり公表をして、いわゆるオプトアウトというような形式で、それに対して拒否ができる機会を提供することによって、あえて個別の同意までは取らないでやるという方法があると思います。その場合には、いわゆるB群と言われているものがそれにあたるのだろうと思うのですが、将来こういったようなこと、その研究に使う可能性があるのだということが前もってインフォームド・コンセントが中で行われている。例えば現在の研究計画の中では計画されてはいないけれども、この試料を用いて将来遺伝子研究を行う可能性がある。ただし、その際には改めて倫理委員会にその研究をかけて、承認を得た上で行うというようなインフォームド・コンセントが取れている場合には、オプトアウト形式でいいのかもしれないと考えておりますし、それは倫理委員会の中で結論が出されることだと思います。
○堤委員
 ちょっと追加です。いま先生が整理をしていただいたとおりだと思うのですが、やはり、再同意が連発し過ぎますと大変なことになるというのが片方にあると思うのです。そういう意味で、ある程度の方向性も考えておいたほうがいいのではないか。同意撤回に関する対応のことも先生が触れましたが、どこまで対応できるかということをできる限り最初のインフォームド・コンセントのときに言わざるを得ないというか、はっきり申し上げまして、目に見える倫理というのは、試料提供者に対する情報提供の文書の中にすべてあるというぐらいの形で、インフォームド・コンセントの上に乗っかっている形ができておりますが、撤回についても何らかの方針が必要だとお考えなのでしょうか。
○山縣委員
 撤回についてもそうであります。お話したように、この中でありましたが、長い研究の場合、例えば10年間追跡して、10年間のデータセットがフィックスしてからそれを出すというよりも、やはり途中途中で成果を還元していくという意味で行っていくことになります。例えば最初の3年目で出た成果をデータセットを作って還元する。さらにそれを追跡していくときに、3年間のデータセットに入っている人が、例えば5年目で同意撤回をしたときに、3年目までのデータの中からそれを外すことになると、3年目までのデータで行った研究が問題になってくる。きちんとフィックスしていくというのは、疫学研究では当然のこととしてそれが行われている。その場合に、指針でそれが削除できるものは全部削除していくのだという基本的な考え方があれば、そういったものをアノニマスにして、連携不可能の匿名化にして、フィックスしておくことによって、そのデータセットは、ある意味研究の中で保護されるような形で、研究を行えますというようなことをインフォームド・コンセントでしておく必要があるかもしれないと思います。
○福井副座長
 ほかにいかがでしょうか。
○前田委員
 本日の配付資料の6頁です。インフォームド・コンセントの実際について、3つ目の四角のところで、履行補助者が、説明だけではなく「同意までを受ける場合は医師、薬剤師等刑法134条その他の法律で業務上の守秘義務を伴う者に限る」というご説明をいただきました。この点については、前回の委員会でも武藤委員のほうから、今後、このことが検討課題になるのではないかというようなご発言がなされたところですが、研究者の方々は、このように限定すべきだと考えられているのか、あるいは限定すべきではない、限定しないでほしいとお考えになられているのか、先生がご存じであれば教えていただけたらと思います。
 なぜこうしたご質問をさせていただくかにつきまして、私は法律分野で研究しておりますので、少し法的責任ということについて触れさせていただきます。守秘についての法的責任というのは、法律で明記されたもの以外にもあります。
つまり、法律で明記されているものとしては、1つは刑事法上の刑事責任、例えばここにご紹介いただいているような医師、薬剤師等の守秘義務です。もう1つは行政法上の責任、医療との文脈で申しますと、医療従事者の資格規定の中でその旨が示されているものです。これ以外にも守秘が明記されてはいませんが、民事法上の責任、つまり不法行為をした場合の損害賠償責任があります。この3つ目の法的責任というところまで考慮に入れますと、法律で守秘義務が明記されている者に限るというような現行の規定を維持する必要はないのかもしれないと考えておりますことから、研究者の方々のお考えをお教えいただけたらと思います。
○山縣委員
 ありがとうございます。結論から言いますと、きちんと訓練を受けて、こういうことができる人に対してはこういった資格がなくてもやっていただかないと、大規模な研究のときに、リサーチ・コーディネーターそのもののリクルートだとか、そういったようなことに関して非常に困っているということが実際ですので、そういう意味では、なるべく多くの方にこのような研究に参加をしてもらって、インフォームド・コンセントまできちんと取れるということができれば、研究としてはもう少しスムーズにいく可能性があると思っております。
○高芝委員
 1つ質問させてください。いまの先生のお話の最後のほうで、倫理審査委員会で問題となることの2分の1のほうで、開示の是非についてのところで、開示によるトラブルがある。原則開示で良いのかという問題提起をいただきました。私の基本的な発想としては、やはり情報主体の方の情報なので、その方の意向は尊重されていくべきものではないかなという基本的な発想があるのですが、ここでトラブルがあるとご指摘いただいたのですが、どのようなトラブルがあるのか例示をいただければありがたいなと思います。よろしくお願いします。
○山縣委員
 1つはまだ十分に臨床の現場で活用できるような情報でない場合に、それが臨床的にどういう意味を持つのかということを十分に説明できない。しかしながら研究対象者はそれについて説明を求めてくるときに、なかなかそれに対して明確な答えを出すことができないといったようなものがある。研究というのは、まさにそういうことだというように理解をしております。
 もう1つは、いわゆる血液検査の結果を返す場合があるのですが、こういったときにも実際にその患者さんが臨床の現場で測定したものと、研究のために測定したものとの間に結果に違いがある場合に、それを誰がどう説明するのか。多くの場合、例えば測定上の問題で異常値が出るような場合があるわけですが、そういうときには、ちゃんと臨床医がそこで1回フィルターをかけて、患者に返したり、もう一度再測定をお願いしたりするわけですが、大きなプロジェクトになってくると、かなりシステマティックにそれが本人に返されるということになってくると、そういうようなところがうまくできていない研究プロジェクトの場合には、そういった問題が起きてくるということが実際にあります。
○増井委員
 いまのご質問なのですが、私のほうで先回も申し上げましたが、研究の場のクオリティー・コントロールというのは、臨床の場合、例えば検査会社が行っているとか、医療の場で行われているダブル・アイデンティファイヤーを使ったものとか、随分異なります。先ほど話が出ましたように、連結不可能匿名化をした状態で使うということもあるわけですが、連結可能で使っていても、やはり間違いが起こる可能性が含まれている。細胞バンクの経験としては、8%ぐらいの細胞の取り違えが日本の国内の細胞の中であったりとか、あるいは15%ぐらいの細胞が随分汚い状態で研究に使われていたりとか、研究の場所のクオリティー・コントロールと、臨床の場所でのクオリティー・コントロールは異なるという問題もあると思います。先ほど山縣先生からお話があったいちばん最初の問題ですが、やはり研究なのでやってみなければわからないし、実際に1つの論文が出ても、それが正しいわけではなくて、それが検証されて前向きに証明をされていくということがないと、1つのはっきりした結論に達しないのだと思うのですが、いろいろな検査というのが、明確なように見えてしまうという問題。やはり研究というのをもう少し本質的に理解してもらうということも含めて、大事なことだと思います。
○鎌谷委員
 いまの増井先生の言われることに全く賛成です。法律家の方は、たぶんその人に帰属するものだと考えられるのだと思うのですが、研究段階というのは、やはりエラーを含んでいて、統計的に言えば5%ぐらい間違いを起こすのは許容されているわけです。ただ、そういうことが何回も起こって、論文がたくさん出て、教科書に載るぐらいになったら、はじめて臨床の検査として採用されるわけです。臨床検査に必要とされるクオリティーと研究に必要とされるクオリティーは全く違うもので、もし研究に臨床検査と同じだけのクオリティーを要求すると、おそらく何十倍も何百倍もお金がかかるのだと思うのです。そういうことを考えていただかないと、たぶんコホート研究で大規模な研究をする場合、それだけのクオリティーを要求することは絶対に無理だと思います。だから、研究段階でできたことが、それほど臨床で患者さんに有用であるとか、エラーを含まないだとか、あるいは、その方に有用であるという知識に関する妥当性が、極めてまだインマチュアな段階なのです。その辺を理解していただいて、研究の段階で出た結果を、しかもそれが膨大であればあるほど、それを患者さんに返すというのは、やはり問題が大きいと私は思います。
○福井副座長
 確かめるというのは変ですけれども、増井委員がおっしゃった細胞バンクでの細胞の取り違いというのは8%も起こっているのですか。
○増井委員
 ヒトの細胞だと、法医学で使うDNAプロファイリングという方法で、どの提供者の者であるかというのがわかるのです。その方法を使ってAという細胞、Bという細胞、Cという細胞と、比較をしていきます。そうするといちばん早く作られた細胞で、ヒーラー細胞という有名な細胞があるのですが、それが別の名前で登録をされていたり、あるいは同じ時期に培養されていた細胞と置き換わっていたりというのがあって、我々のところには新しく作られた細胞が寄託されてきて、それが資源化をされて細胞バンクから分譲されるのですが、そのときに8%ですから大体20分の1から25分の2ぐらいの間違えがあるというような形で、それは実質的に起こっていることなのです。
○福井副座長
 ほかにはいかがでしょうか。
○徳永委員
 インフォームド・コンセントについて、少し気にかかっていることがあります。よく検査では、WEB上でクリックする形で検査に合意して、そして採血ではなくて、唾液を送ったり、あるいは綿棒のようなもので頬粘膜を採って送るというような形のものが実際にありますね。いまや研究でもそういう形で、インターネット上でクリックして合意して、そしてサンプルを送って解析結果が送られてくるというのが、実際にアメリカの会社などはやっているわけです。ただ、この場合、参加されている方がお金を出していたりするわけですが、少なくとも指針で想定していた研究の仕方とはスタイルが随分変わるわけですが、やはり研究と言えば研究ということになります。そういった動きに対して、新たな見直しを考えておく必要はないのかどうかということが気になっております。
○福井副座長
 山縣先生、何かご意見ございますか。
○山縣委員
 そうですね。いまの指針上では、なかなかそれは難しい状況にあると思うのです。要するに、こういった研究というのが最終的には私たちはリサーチ・ガバナンスというような言葉を使って、こういうプロジェクトに対して、最終的に研究者と国民、対象者の信頼関係なり、つまりパブリック・トラストのようなものがきちんとできている。どのようにそれが構築されるかによって、いまのようなことも許されるような次元になってくる可能性もあるかもしれない。そういう意味では、こういう倫理指針に基づいて、きちんとこれまで研究をやってきたという実績が前提にある。もしくは、いまこういったようなものに罰則規定などはないわけですが、何かそういうようなことがあったときに、ただ研究費が取れないということだけではないような、そういうようなことがついてくるようなことがあれば、それなりに担保されて、もう少しスムーズに研究ができるような方法が出てくるのかなと、個人的には思います。
○福井副座長
 ほかにいかがでしょうか。何かご意見でも結構です。
○堤委員
 最初申し上げました点に戻るのですが、試料をバンキングするということに関しての考え方について、最初は指針できちんとバンクという言葉が定義されているのですが、ほかには書かれていない。先ほど申し上げましたように、OECDのガイドラインは非常に良くできている。これは生物化学産業課のほうでご支援いただいて、いまJBAのほうで公開して、訳はここに来られている横野委員が訳されたものなのですが、こういったもののバンキングについて、もしくはバンクの運営について参照するとか、1回全体を見渡していただくような機会を持っていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。指針を越えて試料を集めるということに関して、何らかの方向性を示すべきではないかとも考えられるのですが、いかがでしょうか。
○山縣委員
 大切だと思います。先ほどデータのアーカイブ化の話もしましたが、いわゆる公的な資金によって行われる研究が、ただ単に担当した研究者だけにとどまることなく、広くそういったものを活用できるとか、先ほどお話したように、プライプロジェクトの場合はそこでしか研究成果が出ないわけですが、第三者がきちんと検証をするような体制がないと、いろいろな研究上の問題が起きてくる可能性がある。そのようなことを考えていくと、こういった試料、得られた情報に関して、何らかの形で多くの方がそれを解析できるような、活用できるような方法は、いろいろな研究プロジェクトの評価委員会から必ず出てくる言葉で、これをここの研究班だけではなく、広く使わないと、公的な資金で行ったものに対して問題があるのではないかと言われます。ただ、それをやるためにどうすればいいか。その方法というのは、例えばバンキングに関してもなかなかうまく規定がないし、昔やった研究に対して、データ・アーカイブをしますよというようなことをインフォームド・コンセントを取っていないので、それをやることはならんというようなことが倫理委員会などで言われたりということで、課題があるというところです。
○福井副座長
 そのほかにいかがでしょうか。
○増井委員
 1つは7頁ですが、診療録情報の利用に対して転記のことだけを書いていらっしゃるのですが、電子カルテからの抽出というか、ある意味では自動的な抽出のようなことが重要になってきたと思うのですが、それについては、例えば先生が関わられている疫学研究の中では何かそういう事例というのはあるのですか。
○山縣委員
 実際に大きい病院では電子化しておりますので、そこに対するアクセス権をリサーチ・コーディネーターが得て、それでそのデータを抽出するというようなことをやっております。その際に、先ほどここでお話しましたように、病院と医療機関、研究機関との間で契約を結び、その実施に関しての細則を決めて行っています。
○福井副座長
 かなりの所は電子化されておりますので、実際的には山縣先生がおっしゃったようなことだと思います。いかがでしょうか。ほかには。
○前田委員
 インフォームド・コンセントの話が出ましたので、このことに関して1点だけ追加でご質問させていただきます。いわゆる包括同意についてです。包括同意については、条件的な包括同意というとよいのでしょうか、この研究には同意しないけれども、それ以外は包括同意するというような形態もあるのではないかと思いますが、仮にそうした議論が出てきた場合に、実務上、そのことへの対応は可能かどうか、特に大規模な研究を念頭に置いた場合、可能かどうかということを教えていただけたらと思います。
○山縣委員
 実際にインフォームド・コンセントは、項目に分けて同意、もしくは非同意というのを決めている研究が多いと思いますので、疫学研究に関しては同意だけれども、遺伝子解析は駄目だとか、カルテ、医療診療録に関してはいいけれども、新たな採血とかはいやだという形でやっているもののほうが多いというように理解しています。
○前田委員
 もう1点教えてください。包括同意について一般人がどのように考えているのか、諸外国ではいくつか、一般人の意識を調査する研究があるようですが。日本でもそのような研究がなされているのか、もしご存じであればお教えていただけませんでしょうか。
○山縣委員
 私自身はよく存じておりませんが、例えばインフォームド・コンセントについて、被験者がその後ちゃんと自分がそういうことをやったことを覚えているかといったようなことに関して少し論文があると思いますが、包括に関しての一般市民に対する調査というのは、私は存じておりません。
○福井副座長
 ほかにはございますか。
 ゲノム研究ではなくて一般臨床研究でもインフォームド・コンセントを出してくれたのだけれども、一旦帰ったらまた気が変わったとか、または家族からいろいろなことを言われて、やっぱりやめるとか、そういうケースがかなり、臨床研究をやっていると多いのですが、ゲノムでもやはりそうですか。
○山縣委員
 ゲノム研究でも、もちろんそれはあると思います。私どもは母子保健領域でやるわけですが、妊婦さんにその場で同意を得られたときに、必ず帰ってご主人にご相談くださいと。その場合、同意に関しては母親だけの同意でオーケーというようにしておりますが、父親が拒否する場合には、研究には参加できませんということをお話をしてチェックをするということにしております。そういうことを私たちはなるべく回避するために、例えば研究協力者に対してのアウトリーチ活動のようなことですが、やはり広報をしっかりして、こういう研究は非常に重要なのだということを認知していただいて、実際にインフォームド・コンセントをリクルートするときに、こういう研究です、ああ、どこかで聞いたことありますと言われる方は非常に同意をいただきますし、例えば、そういう研究がどのような研究か初めて聞いたというような人には、なかなか同意がいただけないということで、重要な研究に関しては、地域でやるときには地域で研究をやるのだということをしっかり広報するなり、認知をしてもらいながらやっていくというようなことで、そういうことにも研究費が経費として必要だろうと思っておりますし、実際にそれをかけております。
○福井副座長
 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。
○高芝委員
 8頁で匿名化のお話もいただいたのですが、今回の全体のテーマの中で、連結可能匿名化の方向のトレンドというのも少し示唆されているところがあるのですが、そうなりますと、対応表の管理、それに対する安全管理措置というのが、非常に大きなテーマになってくるのではないかと予感しているところがあるのですが、その関係で連結可能匿名化されている場合の対応表の管理などで何か配慮されている点、工夫されている点がありましたら、教えていただけたらと思います。
○山縣委員
 基本的に大きなプロジェクトの場合には電算化されていますので、パソコンに誰がアクセスできるのかということが明確にあり、誰がいつアクセスしたのかがわかるような形にすることによって、セキュリティの担保をしているという所が多いと思います。
○福井副座長
 ほかにはいかがでしょうか。
○増井委員
 もう1点だけ。おそらく今度の改定で問題にもなると思いますが、研究者の教育のことではないかと思うのですが、臨床研究については、ようやく2年ぐらい前、実際に各病院または施設で必ず研究しようと思うものは、それなりのレクチャーを受けないと駄目というようになったのですが、いまゲノム・遺伝子解析関係では、全く何もそういうのがなくて、例えば病院とか大学、個別または学会の対応に任されている状況でしょうか。
○山縣委員
 臨床研究の指針で教育、研修というものが出てきましたので、それに合わせて同時に分けずにやっている所が多いのではないかと思います。例えば山梨大学ではそういう形でやっております。
○福井副座長
 ほかにいかがでしょうか。それでは少し早いですが、次に移りたいと思います。山縣先生、どうもありがとうございました。
○永井座長
 それでは、議題2は私が座長を務めさせていただきます。信州大学医学部遺伝医学・予防医学講座教授の福嶋義光先生から、「遺伝カウンセリングと「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の課題」ということでお話をお伺いします。よろしくお願いいたします。
○福嶋先生
 信州大学の福嶋です。本日、こういう形で発表の場をお与えいただきましてありがとうございます。私は遺伝医学を専門としておりまして、日本人類遺伝学会、あるいは日本遺伝カウンセリング学会、日本遺伝子診療学会を中心に活動しております。また、「全国遺伝子医療部門連絡会議」というものを8年前に組織化しまして、その理事長も務めさせていただいております。
 先日、事務局へ打合せにお伺いした際に、本日のテーマは「遺伝カウンセリングとヒトゲノム指針の課題について」という題名で、検討のポイントとして「遺伝カウンセリングについては、主に単一遺伝子疾患を想定して規定されているが、ヒトゲノム・遺伝子解析研究の進展に対応して、遺伝カウンセリングの在り方について見直しを行う必要があるか」という議論に役立つようなお話をしてくださいということを申しつかりました。先ほど、山縣先生のお話の中にも「遺伝カウンセリング」という言葉が出てきたのですが、通常、遺伝カウンセリングというのは診療の1つなわけです。診療の1つということは、遺伝について悩む方が自主的に遺伝カウンセリングの場に来られるということで、スタートはあくまでも患者、あるいはクライエントなわけです。ところが、研究の参加と言う場合には、むしろ研究者がスタートということになりますので、純粋に研究の場面で必要となる遺伝カウンセリングが、診療の場で通常言われている遺伝カウンセリングとは全く同じではあり得ないことになります。
 診療の場で遺伝カウンセリングがどのように定義されているかというと、いろいろな定義がありますが、現在多く用いられているのが、2005年に米国の遺伝カウンセラー学会が出したもので、「遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響及び家族への影響を人々が理解し、適応していくことを助けるプロセスである」という記載になっております。どういうプロセスかというと、次のようなことですということで、いろいろな意味での解釈、疾患の発生及び再発の可能性を評価するための家族歴及び病歴の解釈、いろいろなことについての教育、遺伝現象、検査、マネージメント、予防、資源及び研究についての教育ということで、こういうことがこのプロセスのうちの1つです。また、インフォームド・チョイス、いろいろな選択肢の中から選んでいく、十分な情報を得た上での自律的な選択、あるいはリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング、双方向でのいろいろな情報交換が行われると。こういうプロセスを通じて、いろいろな影響について適応していくことを助けるものが遺伝カウンセリングだと言われております。したがって、遺伝カウンセリングは対面で行われて、クローズドのもので、情報提供と心理的な援助を同時に行っていくものです。
 なぜ、こういうことが必要になるかというと、遺伝情報、特に生殖細胞系列の遺伝情報は一生変わらないわけですし、どんどん研究が進んでいきますので、遺伝型に基づく将来予測、通常、臨床検査は現状の評価、現状の病気の進行具合やがん細胞があるかどうかという現状の評価ですが、遺伝子の持つ情報は将来予測を可能とします。ほぼ100%予測できるものもありますし、これからどんどん起きてくるだろうというのは確率情報ですが、そういう予測性がある。これは通常の臨床検査では、いままではなかったものです。それと患者(当事者)1人ではなくて、同じ家系(血縁者)で同じ情報を共有している可能性がある。人1人にとどまらない、家系内での広がりも想定しておかなければいけない。こういう特殊性があるので、遺伝カウンセリングの場を通じて適応していっていただこうというのが遺伝カウンセリングです。
 現在の三省指針の「遺伝カウンセリング」はどこに書かれているかというと、いろいろな場面に書かれております。1つは6-(35)で、「研究機関の長の責務。試料等の提供が行われる研究機関の長は、必要に応じ、適切な遺伝カウンセリング体制の整備又は遺伝カウンセリングについての説明及びその適切な施設の紹介等により、提供者及びその家族又は血縁者が遺伝カウンセリングを受けられるよう配慮しなければならない」。非常に漠然とした記載ですが、私は結構優れものではないかと思っておりまして、必要に応じ体制を整備するということです。すべての研究参加者、試料提供者に必要とは謳っていないわけです。それはいちばん最初に申し上げたとおり、診療の場で行われる遺伝カウンセリングは患者あるいはクライエント、遺伝の問題に不安を抱えた方がスタートなわけですが、研究の場で必要とされる遺伝カウンセリングは、何らかの形で試料提供者あるいは関係者が不安を抱えた場合に対応できる体制整備がここに書かれているわけで、書き方としてはこれが適切なのではないかと思っています。
 また、「研究責任者の責務」。研究責任者は、遺伝カウンセリングの考え方について、研究計画書に記載しなければならない。インフォームド・コンセントの中に、単一遺伝子疾患である場合には、遺伝カウンセリングの利用に関する情報を含めて説明を行うとともに、必要に応じて遺伝カウンセリングの機会を提供しなければならない。ここでも必要に応じてということになっていますので、適切な表現かなと思います。「遺伝情報の開示」においても、「必要に応じ、遺伝カウンセリングの機会を提供しなければならない」ということで、必要に応じて行うという記載が望ましいのではないかと思います。
 遺伝カウンセリングに特化した項目も記載されており、三省指針での「ヒトゲノム・遺伝子解析研究における遺伝カウンセリングは、対話を通じて、提供者及びその家族又は血縁者に正確な情報を提供し、疑問に適切に答え、その人たちの遺伝性疾患等に関する理解を深め、ヒトゲノム・遺伝子解析研究や遺伝性疾患等をめぐる不安又は悩みにこたえることによって、今後の生活に向けて自らの意思で選択し、行動できるように支援し、又は援助することを目的とする」、これが目的です。実施方法として、「遺伝カウンセリングは、遺伝医学に関する十分な知識を有し、遺伝カウンセリングに習熟した医師、医療従事者等が協力して実施しなければならない」ということで、これはそのまま、そのとおりかなと思います。
 その後、診療における遺伝カウンセリングについても大きな変化がありまして、今年の2月、日本医学会から「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」が出されました。これの背景としては、従来は10学会で遺伝学的検査に関するガイドラインが作られていたのですが、遺伝学的検査で、生殖細胞系列の遺伝子解析を行う場面はその10学会にとどまらず、いまはかなりの部分、すべてと言ってもいいと思いますが、いろいろな医療の領域に広がってきています。そういうことを背景に、日本医学会でこういうガイドラインが作られました。資料集のいちばん最後に加えていただいておりますが、このような形で公表しており、その中で遺伝カウンセリングがどう記載されているかというと、「遺伝学的検査・診断に際して、必要に応じて適切な時期に遺伝カウンセリングを実施する。遺伝カウンセリングは情報提供だけではなく、患者・被検者等の自律的選択が可能となるような心理的社会的支援が重要であることから、当該疾患の診療経験が豊富な医師と遺伝カウンセリングを習熟した者が協力し、チーム医療として実施することが望ましい」と記載されております。
 用語の定義の中で、この部分は米国の遺伝カウンセラー学会が公表しているものをほぼ引用している形になっており、「遺伝カウンセリングの担当者としては、臨床遺伝専門医制度と非医師である認定遺伝カウンセラー制度がある」ということで、具体的な専門家も紹介しています。また、「遺伝カウンセリングに関する基礎知識・技能については、すべての医師が習得しておくことが望ましい」。どういう場合に紹介するか、どういう場合は自分で対応するかといったことについても、遺伝カウンセリングについてはすべての医師が知っておくべきだということです。「遺伝学的検査・診断を担当する医師及び医療機関は、必要に応じて、専門家による遺伝カウンセリングを提供するか、又は紹介する体制を整えておく必要がある」という記載になっております。
 先ほど、結果の開示についてのディスカッションがありました。私自身も、情報には意味があるわけで、それを解釈する、理解、いまの福島原発の事故による放射線被ばくでも何ミリシーベルトというデータはありますが、それが自分にどのような影響があるのかという専門家による解釈がないと、混乱を招くわけです。それと同じようなことが、これからのゲノム研究でも起きてくるだろうと思いますので、原則開示というのは望ましいことではないのではないかと思います。前回の三省指針の作成委員会に私も加わっていて、原則開示については強い反対意見を述べたのですが、その当時は主に法律倫理の方々のご意見によって、知る権利はあるのだと、どういう情報であっても知りたいという人には知らせる義務があるのだという意見に押されて、原則開示ということになったという経過があります。しかし、本来であればいろいろな生データが出てきて、多くの場合は患者にご協力いただいて、インフォームド・コンセントを経て研究が行われ、ある一定の研究成果ができる。この病気にこの遺伝型が関係するのではないかという情報が得られて、次にこの情報が臨床的に意味があるかどうかという新たな研究が行われて、確かに意味があるという場合には、これは検査として行われるべきだということです。遺伝子診療は遺伝子情報を医療の場で活かす取組みであり、ここには当然遺伝カウンセリングというプロセスを経て行われるわけで、生殖細胞系列の遺伝子情報を明らかにする検査は、こういうスキームで行われるべきだろうと考えております。
 多因子疾患、多くの要因が関わるような疾患において1つの要素としての遺伝子の情報が得られるというような場合には、それが全体の医療としてどう役立つかということを明らかにするために、ここの研究が必要ということなのですが、単一遺伝子疾患の場合には遺伝子解析の結果が即診断がつくという、診療にも役立てられると考えられる場合があるので、そのような場合には、臨床応用の有用性についての研究を飛ばしても、有用だという分野もあります。
 これからが今日の話の本題になりますが、「研究の進展に伴い考慮すべき事項」です。従来、遺伝子解析研究は、単一遺伝子疾患を例にとると、単一遺伝子疾患の責任遺伝子を発見する、原因不明の病気で同じような症状の患者にご協力いただいて遺伝子を調べる。候補遺伝子を次々と調べていって、共通の変異があると、この遺伝子の変化ではこの病気が起きるのだということを明らかにするために、研究が進められてきました。その結果、現在では、単一遺伝子疾患については、かなりの部分、遺伝子が解明されてきています。
 次に行われるのは何かというと、主に単一遺伝子疾患を対象としていますが、「genotype-phenotype correlation」、すなわち、遺伝型-表現型関連研究が主体になるだろうと予想されます。(従来「遺伝子型」と読んでおりましたgenotypeの日本語訳は、一昨年、鎌谷先生のご提案により「遺伝型」と呼ぶことになりました。)これは、遺伝子の変異の種類によって同じ病気であっても予後が違うとか、進行具合が違うとか、症状の現れ方が違うということを明らかにするためのきめ細かい研究です。実際、現在も行われていますが、原因を探る研究だけではなくて、より臨床的な研究で、きめ細かい研究が広範に行われることが予想されます。研究成果が直接患者の医療の質の向上につながってくる。genotypeを明らかにすることによって、より適切な医療の提供、こういうものがこの時期には必要ではないかという情報が得られるようになってきます。すべての領域の疾患研究において、遺伝子の情報が加わってくる。非常に広範に行われることが予想されます。これが1点です。
 そうすると、どういうことが起きるかというと、診療と研究は分けられるのではないかと考えられる方もいらっしゃると思います。三省指針は研究の指針なのだから、研究の場面だけのルールを決めればいいのだ、診療と名がつくのであれば、日本医学会のガイドラインがあるのだから、日本医学会のガイドラインでやればいいのだ、とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、こういう領域の場合、診療=研究ですし、研究=診療になります。一体不可分の領域があるのだと。その上で三省指針ではどのようにこの領域を記載するか、そういうことが課題になるのではないかと思います。研究の指針と診療の指針と、両方守っていくことが基本になるのではないかと思います。
 第2点目ですが、「研究の進展に伴い考慮すべき事項」です。先ほど、山縣先生からコホート研究のご説明がありました。ゲノムコホート研究は、イギリスの50万人プロジェクト、バイオバンクなどが有名ですが、これは基本的に健常者が対象になります。病気の人とは限りません。また、長期間の研究が行われますので、研究成果は後付けでいろいろな情報が得られることになります。成果が得られるまでの期間が長い。そういう特徴があります。その場合に、結果の開示をいつどのように行うかが問題になってきます。この研究に参加する、特にゲノムコホート研究の場合には、研究参加の最初にサンプル収集が行われます。それでいろいろな遺伝子解析が行われて、最近ではパーソナルゲノムなど、スニップだけではなくて、ヒトゲノムの一次構造をすべて読み解くという研究もこれから行われてくると思われます。
 そうすると、これだけ長期間で、研究が進めば進むほど被検者の情報を読み解く力がどんどん増えてきて、被検者にとって意味がある情報が得られることも考えられるので、そうした場合の対応も考えておく必要があるのではないかと思います。非開示を原則として同意を得たのだから、どんなに有用な情報であっても、それは返さなくていいのだという考え方もあるかと思いますが、生命倫理の原則があるわけですので、言うまでもないことですが、自律尊重、無危害、仁恵(善行)、正義という最善のことを行うことを考えた場合、これは倫理指針ですので、有用な情報が得られた場合にどうするかということを、指針の中に組み入れておくべきかなと思います。やはり伝えるべきだとなった場合に、それは何を、どのように、いつ伝えるかということも、研究計画の最初に考えておかなければいけないのではないかと思います。ゲノムコホート研究がこれから大規模に行われるということが、エコチルではすでにスタートしておりますし、内閣府が計画しているライフイノベーションでも、ゲノムコホート研究が行われつつあると聞いております。
 もう1つ、考慮すべきだと私が考えているのは、パーソナルゲノム研究です。これは、次世代シークエンサーなどを用いて、網羅的に個人の全ゲノム配列の生データを調べようとするものです。一度でデータが集まると言うのは大げさかもしれませんが、サンプルがあれば生データが得られる。何を見るかが研究によって違ってきますが、データとしてはあるわけです。何を見るかという解釈は、後付けでなされる。そうなった場合、どういうことが想定されるかというと、当初の目的以外の予期せぬ情報が得られる可能性が出てくるということです。従来の遺伝子解析研究では、この病気が疑われるから、この候補遺伝子の配列を見ようということでねらいが定まっていたわけですが、網羅的なゲノム解析、研究手法が生まれてきたために、当初目的としない情報が得られる可能性が出てくる。そういうものを伝えなくていいのか。これは先ほどの生命倫理の原則から言って、有用なものについてはやはり伝えるべきだろうという考え方もでてきます。そういった場合にはこちらと同じ問題、伝えるとした場合、何をどのように伝えるかという課題が生じてきます。
 これには先行事例がありまして、それを1つご紹介します。私は骨髄移植推進財団の倫理関係の委員会にも携わっておりまして、こういう事例が生じました。骨髄移植は、当然ご存じと思いますが、白血病などの患者に、その患者の骨髄を叩いておいて、ドナーの方の骨髄を入れる治療です。骨髄移植を受けた患者は、通常それがちゃんと生着したかどうか、再発していないかどうかということで、骨髄検査を初めとしてさまざまな検査を行います。そのとき、偶然ドナー由来の移植された細胞の遺伝学的異常が判明することがあります。多くの場合は染色体の異常で、染色体転座保因者がいちばん多いのですが、転座があるという情報はドナーの遺伝学的な情報なわけです。転座保因者だということがわかると、女性の場合は流産を非常に起こしやすい、流産をきっかけに大出血を来すとか、生命にも危機が及ぶことにもなりかねない。そういう情報をドナーの方に伝えるべきかどうかということです。
 それによってこの委員会が立ち上がって、私も委員長として参加したのですが、対応方法としては、まずそれを伝えるべきかどうか、伝えてドナーの方に意味があるかどうかを検討しましょうということで、専門家により遺伝学的異常の評価を行う。それには遺伝学的な前提条件と、ドナーの方に利益があるという2つの条件を満たす場合に、開示を検討しましょうと。医学的前提条件としては、遺伝学的情報を持つ細胞が骨髄を提供したドナー由来であることが確実な場合、疾患・障害の重篤度及び不利益の程度が予測できる、治療法もしくは予防法の有無に関する情報が得られる。これは、ドナーに対してこういう利益が予測できるという医学的な条件と、骨髄提供者に発症前診断もしくは保因者診断ができる、積極的に早期発見や予防的措置・治療を行うことができる、家族や子孫の健康管理に役立つといったことを専門家によって評価を行って、両者の条件を満たす場合に、ドナーの方の情報開示に関する希望に従って開示する。したがって、インフォームド・コンセントの際に、すなわちドナー登録の際に情報開示に関する希望を聞いておくのがいちばん最初に行うべきことです。その上で、情報開示を希望するドナーには、骨髄移植推進財団から電話で連絡する。こういうことがありましたと説明するための面談の調整をする。面談では、判明した情報について医師が説明する。その上で、必要に応じて遺伝情報を伝えるわけですので、遺伝カウンセリングを受ける機会を提供するというルールを定めております。ですから、ゲノム指針の改定の際に、予期せぬ情報が得られた場合の対応も、これに準じた取組みが必要なのではないかと私自身は考えております。
 そろそろ時間なので、まとめに入ります。三省指針における遺伝カウンセリングの記載方法ですが、基本的には現在の指針における遺伝カウンセリングの在り方を変更させる必要はないと考えております。すべての場面で遺伝カウンセリングが必要というわけではなくて、ゲノム解析研究を行う場合には必要に応じて遺伝カウンセリングの体制が整えられている。それが、いまお話したように、単一遺伝子疾患のgenotype、phenotype、これはまさにいろいろな病気の範囲がどんどん広がってくる臨床研究になりますので、遺伝カウンセリングの体制が整えられている必要がありますし、ゲノムコホート研究、パーソナルゲノム研究といった研究の成果を開示する必要性に迫られる場面も想定されることから、必要に応じて遺伝カウンセリングが提供できる体制を整えておくことは、必須のことではないかと思います。また、予期せぬ情報が得られた場合の対応について検討しておく必要があると思います。先ほどの骨髄移植推進財団での取組みでご紹介しましたように、「研究計画の立案に際し、遺伝医学に関する十分な知識を有し、遺伝カウンセリングを習熟した者が関与することが望ましい」。研究計画の立案の際に、こういう方のご助力も必要なのではないか。この文面を是非加えていただければと思っております。
 2002年、この三省指針ができたときは、遺伝医療体制は非常に不備でした。しかし、三省指針ができて、その中に「必要に応じて遺伝カウンセリング体制を構築すること」という文言ができたおかげで、その後、遺伝子医療部門がほとんどの大学にできてきております。現在、全国遺伝子医療部門連絡会議には89の医療施設が加盟しており、そのうち75は大学病院です。医育機関で全国で80の医学部がありますが、加盟していないのは5つだけという状況で、こういう文言が三省指針の改定に加わると研究が進まないのではないかという意見を耳にすることがありますが、そういうことはないと思います。各大学の努力によって、遺伝子医療部門、遺伝カウンセリングに対応できる体制は整えられておりますので、是非ともそこが揺るがないように、これからも指針の上でしっかり記述していただきたいと思います。
 全国遺伝子医療部門連絡会議ではホームページを立ち上げており、年1回行っている連絡会議の詳しい資料がここに掲載されています。また、今年度始めたのは、遺伝医学系統講座のe-learningという所をクリックすると、登録は必要になりますが、どなたでも無料で受講できます。そこで遺伝医学のe-learningが18コマ、鎌谷先生が2カ所、徳永先生も私もお話していますが、それぞれ1回45分の授業がどなたでも受講できます。これは一般国民の方も、あるいはゲノム研究に関係する方も、是非ともご覧いただきたいと考えております。
 フランシス・S・コリンズさんが書かれた『遺伝子医療革命』、これはNHK出版で出されたもので、ここには非常に衝撃的な現実、アメリカではこういうことが行われているということが書かれておりまして、遺伝子抜きにこれからの医療はあり得ないということが書かれています。是非ともこういうことを見据えた上で、このヒトゲノム・遺伝子解析研究は進めていかなければいけませんし、情報はどんどん全世界から入ってくるわけです。日本人を対象とした研究は、日本人に医療を提供する場合には日本人のデータが必要になるわけです。しかし、研究が進めば進むほど、それを先取りというか、これを早くビジネスとして活かそうという、子どもの才能を遺伝子で予測するというものも実際出てきていて、これは研究の指針だからとか、これは診療だから、あるいは経済活動とは関係ないからということではなくて、研究成果がビジネスにも悪用と言うと変ですが、本来多くの国民のためにいろいろな研究成果を上げようというものが、不適切に扱われ得るという研究も行われていることも意識した上で、三省指針の改定に当たっていただきたいと考えております。
 臨床研究の場面では研究者の教育が重要ということが、先ほどのディスカッションの中にありました。それについて、e-learningは非常に有用だと思います。必要なことを文書で読んでいただいて、その後その内容についての質問を課する。その質問に答えることによって受講を証明するという方法が、非常に有用だと思っております。アメリカにおいては、CITYという団体がe-learning教育を行っており、それについては現在、全世界で100万人が利用しております。そういう状況で、倫理の標準化がなされています。我が国においても、東海大学を中心にCity Japanという団体が作られており、CITYの内容を翻訳し、それを日本のガイドラインにも適合するような形でe-learningを立ち上げております。e-learningをうまく利用することによって、倫理的な問題を日本全体で不適切な対応がないようにすることも可能になると思いますので、是非そういうこともご検討いただければと思います。だいぶ時間を超過してしまいましたが、以上です。
○永井座長
 どうもありがとうございました。それでは、ご質問、ご意見をお受けしたいと思います。いかがでしょうか。
○武藤委員
 ご講演ありがとうございました。遺伝子診療部門の重要性について広く日本に知らしめてくださったのは、先生のご貢献以外ないと思っておりますので、改めてお礼申し上げたいと思います。
 もう1つ、私が先生と結論部で一致しているのが、基本的に現在の指針における遺伝カウンセリングの在り方は大きく揺ぐことはないと思っておりますが、1点ご見解をお伺いしたいのは、予期せぬ情報が得られた場合の対応です。アメリカでいくつか先行研究がありまして、例えばご本人が望んでおられて、生殖の意思決定に資する内容であって、なおかつ何か予防なり治療といった対処方法がある場合には、当初ご説明していなかったような内容の結果が得られた場合でも、開示を検討すべきであるという先行研究があります。同様の議論は脳科学でもあると思いますが、お伺いしたいのは、どのような手続き、議論を経て、どういった情報を開示すべきだというか、ルールを作っていけばいいのかということについて、具体的に先生のお考えをお伺いしたいと思います。
○福嶋先生
 非常に難しい問題なのですが、研究者が返すべきだと思ったから返すというのではまずいと思うので、骨髄移植推進財団が行ったような、伝えるべきかそうではないかについてちゃんとディスカッションできるような、専門家によるディスカッションの場を設けることだと思うのです。どういうメンバーが議論に加わるかということは、社会が見ているわけですので、そういうメンバーで下された結論であれば、社会も納得という形で、一度議論の場を設けるということではないかと思います。
○増井委員
 いまの議論の続きなのですが、骨髄移植推進財団の仕事は、骨髄移植というのは医療で、いまの段階では研究ではないですね。ということは、医療の場面での検体コントロールの下での転座保因者の検出と考えていいのですか。それとも、番号だけしか付いていないようなものについて、何1,000検体と調べていった中で見つかってきたものをどう解すか、要するにクオリティー・コントロールがどのようにされているのかということだけなのですが。
○福嶋先生
 これはあくまでもレシピエントの医療を行うために必要で、生着したかどうかとか、再発がないかということで行われた骨髄検査で染色体は必ず調べますので、そこでドナー由来のものがわかるということで、あくまでも医療です。
○増井委員
 そうすると、あくまでもこれは医療の場で見つかったということで、先ほど議論になった研究の場でのコントロールとは少し違った様相を持っていると思います。それだけコメントしておきたいと思います。
○永井座長
 たまたま見つかったと言うのか、医療上の必要性があって調べたら見つかったと言うのか、どういうことでしょうか。
○福嶋先生
 白血病の治療ですので、再発がないか、必ず定期的に骨髄を調べます。そのとき染色体の検査もなされますので、レシピエントにとってみれば、通常の医療行為の中でドナー由来のものが見つかったということです。研究的な側面はありません。
○鎌谷委員
 福嶋先生は非常にまとめていただいてよかったと思うのですが、専門以外の方に是非知っておいていただきたいのは、いま問題になっているGenetic TestingやGenetics Medicine、Genetic Researchの「Genetic」や「Genetics」に当たる概念の日本語がないのです。遺伝医学の「遺伝」というのは「Heredity」ですから、ここで非常に大きな問題になっているGeneticやGeneticsの概念に当たる日本語は、日本の医学の中でも、社会にもまだないのです。そういう重大な問題についていま議論しているのだと思うのですが、教育を調べてみると、アメリカやヨーロッパの高校の生物学の教科書は、Geneticsを中心に統合的に教えているのです。ところが、日本の教科書はそういうことは全くなくて、遺伝(Heredity)が分離して教えられていると。だから、医師や一般の人が受け止める遺伝子研究や、そういう考え方がかなり狭いことが多くて、アメリカにおけるGenetic Testingなどの広がりをそのまま日本に持ってきていいかどうかを考えるときには、非常に大きな違いがあることを認識しておく必要があると思います。
 私は前々から福嶋先生や徳永先生と一緒に、是非、日本の生物学教育を根源的に見直していただきたいと言っているのですが、そういうことを言っても難しいので、そういう違いの現状を認めて、どのように対処していくかを考えることが非常に重要だと思います。時には「ゲノム」という言葉になったり「遺伝子」という言葉になったりするけれど、根源的にあるGeneticsという概念はまだ日本にはないと言っていいと思うのです。それが非常に大きな問題で、遺伝と言うとみんなHeredityを考えるから、すごく恐がったり、それを避けることが多いということもあるのだと思います。
○堤委員
 開示に絡むことで、先ほど山縣先生のご講演のときに私が申し上げたこととも関係するのですが、OECDの試料のバンク、データベースのバンキングについての中では、それを医療の場面で結果を開示するときに準拠するものとして、これもOECDで作成されていますが、2007年に公表されている「分子遺伝学的検査における質の保証に関するOECDガイドライン」が、研究で得られた情報をどう使うかというところで、補完する形で全体が連携をとれています。本当は日本でもそういうものが必要なのではないかということと、その根拠となるものとして非常に大きなのは、日本医学会のガイドラインであろうと。なおかつ、日本医学会に行く前の段階があるのであれば、第三者で有用性や妥当性について評価する、福嶋先生がおっしゃったような何らかのシステムを使って、研究で得られた情報を医療でどう活かしていくかという全体の流れについて、1回整理しておいたほうがいいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
○福嶋先生
 そのとおりだと思います。
○堤委員
 もう1点、遺伝カウンセリングについては、医療・介護関係事業者における個人情報保護のガイドラインの中で、お手元の資料の1番にも書かれておりますように、遺伝情報を診療に活用する場合の取扱いということで、4頁に書かれています。この中にも、遺伝カウンセリングについて書かれているのですが、こちらにも波及させたほうがいいと。もしくは、このままの文章で置いておいたほうがいいのかということも、ここで議論するときには念頭に置いたほうがよろしいかなと思うのですが、いかがでしょうか。
○福嶋先生 厚労省の個人情報に関連したガイドラインができるときには、遺伝医学関連10学会のガイドラインを引用していただいています。今回、10学会のガイドラインを進化させる形で日本医学会のガイドラインが作られていますので、引用については確かに入れていただいたほうがいいかなと思います。本文はこのままでもよいのではないかと、私自身は思っております。
○永井座長
 いろいろなことが見つかってきたときに、いかに単一遺伝子病と言っても、100%ということはあまりないわけです。これから見いだされる知見はほとんど確率的なものになってくるわけで、それをどう伝えるか、何パーセントならどうなのだという話になってくると思いますし、文献にこう書いてあったと言っても、日本人ではどうかわかりませんし、その辺りはどうやって伝え方の基準を作ったらいいのか、現場はかなり困るだろうと思いますが、いかがでしょうか。
○福嶋先生
 その辺りが遺伝カウンセリングの役割になると思います。有用性についても、第三者機関、専門機関で十分検討しておくということだと思います。よく「安全」と「安心」ということがペアで言われるのですが、「安全」というのは客観的な事実で数字で表せる。何ミリシーベルト、過去にこれだけの文献があるとかというのは安全の領域です。もちろんそこの検討は必要なのですが、「安心」の部分というのはかなり主観的なもので、ゼロでなければ心配だというのは、日ごろ生活していても放射線被ばくを浴びているわけですから、そういう安心の部分が、相互方向のコミュニケーションによって極力低減する形で、当事者(被験者)にとって意味のある情報を伝えていくのが、我々研究者、あるいは医療者の役割だろうと思うのです。
 ですから、遺伝カウンセリングは上で決めてこうやりなさいというものではなくて、遺伝カウンセリングを担当する方の力量にお任せして、安心の部分で貢献していただく。そこが、遺伝カウンセリング部門がこれだけ充実してきていて、標準化できない領域ではないかと思っております。
○永井座長
 日本全国として、ある程度いろいろなコミュニケーションの中で基準というか、地域によってカウンセリングの在り方が変わることはないようにされているわけですね。
○福嶋先生
 それは目標というものがあって、遺伝についての感じ方は地域差があると思います。非常に排他的な所とそうではない所、正しく情報を受け入れられやすい地域と、遺伝子と言ったらそれだけで耳を閉ざしてしまうような地域も実際あると思うので、指針には目標を定めて、総論ではこういうことを目標に遺伝カウンセリングをしましょうということでよろしいのではないかと思うのです。
 各論ではいろいろなやり方があると思いますので、それは遺伝カウンセリング担当者の力量を信じる、遺伝カウンセリングを担当する方の要件をきちんと定めておくということではないかと、私自身は思っております。
○山縣委員
 本当に遺伝カウンセリングの重要性がよくわかりました。1つ現状についてお伺いしたいのですが、この指針ができてから、先生のご存じの範囲でよろしいと思いますし、信州大学のことでもいいと思いますが、実際にこの研究の領域で遺伝カウンセリングを被験者が求められたり、それに対して対応されたりした例がどれぐらいあるのか、その辺りのことを教えていただければと思います。
○福嶋先生
 実際に研究の段階で遺伝カウンセリングが必要になる例は、単一遺伝性疾患の診断と直結する臨床的な研究を除けば、それほど多くはないと思います。結果が得られたので、遺伝診療部の医師と一緒に情報提供をしてくださいという依頼を受けることはありますが、実際のところニーズは多いものではないと思います。
 ただ、少ないからやらなくていいということではなくて、常にいつでも対応できる体制が必要だということで、ある意味、遺伝子解析研究を行っていく上でのセーフティネットの1つとして、どういう情報が得られても適切にそれを伝えることができる、そういう体制を整えておくことは、ヒトゲノム・遺伝子解析研究を進めていく上では必須のことではないかと私は思っております。
○山縣委員
 1点だけコメントですが、被験者の方が遺伝カウンセリングについてあまり認識がないために、そういうニーズがないのか、それとも実際にそれに対しては十分に、研究者との間できちんとコミュニケーションがとれているので必要がないのかという点について、先生の感想でいいのですが、お伺いできればと思います。
○福嶋先生
 それは施設間でかなりの差があるように思います。単一遺伝子疾患は私たちも研究しているわけで、そういう場合には研究的な解析であっても、当然、結果は遺伝カウンセリングで伝えるということは日常やっています。多因子の研究で遺伝カウンセリングが必要になることは、いまのところは少ないのではないかと思っております。研究の中身によっても違ってくると思います。
○福井副座長
 先生のリコメンドされている、「研究計画の立案に際し、遺伝医学に関する十分な知識を有し、遺伝カウンセリングに習熟した者が関与することが望ましい」とお書きになっていますが、大雑把な数で、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーは、いままで何人ぐらい養成されているのでしょうか。
○福嶋先生
 臨床遺伝専門医は現在625名、認定遺伝カウンセラーは104名です。臨床遺伝専門医は、日本医学会のガイドラインができたところから、いままでは遺伝診療部を中心に遺伝の専門家がトレーニングを受けて試験を受けていたのですが、これから遺伝子の遺伝学的検査は広範に広がるので、日本人類遺伝学会がこの制度を運営していますが、暫定制度を設けて、各領域の専門家であれば遺伝医療のトレーニングを軽減する形で、臨床遺伝専門医の最低限の知識と経験を持っている方を認定していこうということで、新しい制度を始めようとしていますので、これからどんどん増えていくと思っています。
○武藤委員
 日本人類遺伝学会では、ゲノムリサーチ・コーディネーターの養成もしています。また、先ほど山縣先生のお話にもありましたように、研究プロジェクトごとにリサーチ・コーディネーターの養成もしていますが、認定遺伝カウンセラーや遺伝医療の専門家である医師以外に、こういったコーディネーターに任せられる部分とか、今後リサーチ・コーディネーターに頑張ってもらいたいと先生が期待される点は、どういった点がありますか。
○福嶋先生
 リサーチ・コーディネーターの役割はインフォームド・コンセントの段階だと思いますので、これから予期せぬ情報が得られる、それをどこまで説明の中に加えるかということは問題があると思いますが、インフォームド・コンセントの担当者には研究計画全体を把握する力も要求されると思いますし、いまエコチル研究でもリクルート真っ最中で私たちも大変苦労していますが、コミュニケーション・スキルなど、最初のボタンの掛け違いが将来大きな問題に発展することがありますので、遺伝医学についての幅広い知識とコミュニケーション・スキルを高めていただく。それはすでにやられていることではあるのですが、再度そのようなことができればと思っております。
○武藤委員
 そうしますと、結果の説明や進捗状況の説明といった部分は、リサーチ・コーディネーターというよりは、遺伝カウンセラーや遺伝医学の専門家に委ねるという棲分けを想定していらっしゃいますか。
○福嶋先生
 研究成果の結果開示、集団としての全体の研究成果の説明は、ゲノムリサーチ・コーディネーターにお任せしていいと思いますが、個別の対応が必要になった場合には、これはかなり医療と密接な関連があって、医療として行うべき問題もあると思いますので、そういう場合には臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーにお任せすべきではないかと思っております。
○鎌谷委員
 それに関して、先ほど永井先生がおっしゃった確率という問題が、ものすごく日本の医師にも難しくて、今回、首相が87%の確率なので原発を止めるというのは画期的なことだと思いますが、確率という概念は、海外の教科書では高校生から徹底的に教育されているのです。
 生物学のGeneticsのところでいちばん出てくるのは確率なのです。確率を足すというのは何か、掛けるというのは何か、その意味は何かということを徹底的にやるのですが、日本ではそういうストカスティックというか、不確実なことをどう解釈するかということはものすごく教育が遅れているので、永井先生が言われた統計的な問題で何パーセントの確率だからどうだということを、サイエンティフィックに本当にいまの日本の医学会で考えられるかということも考えないといけないと思います。これからそういう教育をどんどん進めていく必要があるのではないかと思います。確率の意味というのは結構難しくて、どのレベルで定義するかによって予測の精度が全く違ってくるので、単に主観的な確率で言うのでは、それほど役に立たないと思います。
○永井座長
 あとは、掛ける重大さなのです。確率×重大さで期待値になるわけですから、そこの重大さをどう評価するかということも当然あるはずなのです。そこが日本ではしっかり教育されていないというのは、たぶん原発事故の背景にもあるのではないかと思うのです。
○鎌田委員
 それをインターベーションで変えることができるかということですね。確率そのものと重大さとインターベーションでそれを改善できるかどうか、その3つを考え出せばいいのですね。
○永井座長
 たぶん、いろいろな遺伝相談をするときに、自分たちのデータもいつも持っているという作業も求められるのではないかと思うのです。疫学を常に併走して走らせておくことが必要になってくるような気がします。
 時間になりましたが、よろしいでしょうか。これは非常に重い問題ですので、継続して議論したいと思います。以上、本日の予定した議題は終わりましたが、事務局から連絡事項をお願いします。
○尾崎研究企画官
 次回の三省合同委員会につきましては、6月7日(火)の4時から6時に開催する予定となっております。委員の皆様には改めてご連絡申し上げたいと思いますので、よろしくお願いいたします。また、机上配付しております委員資料1及び資料2につきましては、今後の会議で引き続き使用していく都合上、そのまま机上に残し、お持ち帰りにならないようにお願いします。以上です。
○永井座長
 それでは、本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。


(了)
<【問い合わせ先】>

 厚生労働省大臣官房厚生科学課
 担当:情報企画係(内線3808)
 電話:(代表)03-5253-1111
     (直通)03-3595-2171

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