ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 雇用環境・均等局が実施する検討会等> 今後のパートタイム労働対策に関する研究会> 第4回今後のパートタイム労働対策に関する研究会議事録




2011年4月15日 第4回今後のパートタイム労働対策に関する研究会 議事録

雇用均等・児童家庭局 短時間・在宅労働課

○日時

平成23年4月15日(金) 13:00~15:00


○場所

厚生労働省 専用第12会議室(12階)


○出席者

委員

浅倉委員、今野委員、黒澤委員、権丈委員、佐藤委員、水町委員、山川委員

厚生労働省

小宮山副大臣、高井雇用均等・児童家庭局長、石井雇用均等・児童家庭局審議官、
田河総務課長、吉本雇用均等政策課長、塚崎職業家庭両立課長、吉永短時間・在宅労働課長、
大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長、藤原短時間・在宅労働課長補佐

○議題

(1) 通常の労働者との間の待遇1、納得性1
(2) その他

○議事

○今野座長 今日は第4回の「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」です。小宮山副大臣がご出席されますが、遅れていらっしゃいます。それでは早速議事に入りたいと思います。お手元の議事次第にありますように、今日は、通常の労働者との間の待遇1と納得性1に関して議論をしていただければと思います。事務局から説明をお願いします。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 事務局から資料を説明させていただきます。資料1は、「研究会で議論していただく論点(案)」ということで、前回までお出ししていた論点につきまして、これまでの研究会でのご意見、労使ヒアリングにおけるご意見を踏まえて、少し細かくいたしましたので、今回お出しいたしました。本日は、これに基づいて主にご議論をいただければと考えております。
 1「通常の労働者との間の待遇の異同」「職務の価値」ということで、従前お出ししていた論点です。(1)差別的取扱いの禁止という論点を挙げました。これは現行パートタイム労働法第8条の関係です。「現行制度への考え方」ということで、「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」を画する3要件。これは差別禁止の対象とするパートタイム労働者を画する3要件ということですが、業務の内容及び責任が同じ、人材活用の仕組みや運用等が同じ、無期契約。これにつきましては反復更新により、実質的に無期と同視できる契約も含むものです。この3要件についてどのように考えるべきかという論点が1つあるかと思います。
 特にこの3つの要件の中でも、正社員と同視し得る有期契約労働者に係る均等待遇(差別的取扱いの禁止)につきましては、有期労働契約研究会の報告書が、昨年の9月に出されておりますが、こういった研究会の報告書においてもご指摘があることを踏まえて、3要件のうちの特に「無期契約(実質無期も含む)」について、どのように考えるべきかという論点が1つあるかと思います。
 3つ目は、労使ヒアリングなどでも出たご意見です。パートタイム労働法によって、3要件を設定していると。その効果として、パートタイム労働者と正社員の間において、職務の過度の分離、セパレートが生じているということで、かえってパートタイム労働者の処遇改善の機会が失われているおそれがあるのではないかという指摘があったところですが、これについてどう考えるかということを3つ目の論点として挙げました。
 8条の関係で「諸外国の法制との比較」ということで、EU諸国等におきましては、第2回の研究会でご説明させていただきましたが、パートタイム労働者であることを理由として、合理的な理由がある場合でなければ、比較可能なフルタイム労働者と比べて不利益な取扱いをしてはならないといった規定が置かれているということです。こういう諸外国の法制について、我が国の雇用システムの特徴等に照らしてどのように考えるかという論点が、比較法の観点から1つあるかと思います。
 待遇の関係の(2)均衡待遇の確保ということで、現行のパートタイム労働法第9条の関係で論点をいくつか挙げております。まず、「現行制度への考え方」については、現行のパートタイム労働法第9条は、パートタイム労働者の働き方に応じて、均衡待遇の確保を、努力義務としているところです。この点について実効性確保の観点から、どのように考えるべきかという論点を挙げました。また、現行の第9条につきましては、職務関連賃金のみを対象としておりますので、この点についてどのように考えるべきかという論点を挙げております。
 均衡待遇の関係で2つ目として、これも労使ヒアリングなどで出てきたご意見です。パートタイム労働者の労働条件は、外部労働市場における需給関係、地域における賃金相場の影響を強く受ける。一方で、正社員の労働条件というのは、生涯賃金と貢献度におけるバランスに基づく、いわゆる内部労働市場において決定される。このような状況下での均衡待遇の在り方について、どのように考えるかという論点を1つ挙げました。
 「諸外国の法制との比較」ということで、EU諸国におきましては、先ほども申し上げましたように、パートタイム労働者については、合理的な理由がある場合でなければ、不利益な取扱いをしてはいけないという法制としております。逆に、「差別的取扱いをすることに合理的な理由があるパートタイム労働者」については、これは「オール・オア・ナッシング」、特段の措置は求められていないという委員からのご意見もありました。この点も含めまして、我が国の雇用システムの特徴に照らして、比較可能なフルタイム労働者との均衡待遇の確保について、どのように考えるべきかという論点を1つ挙げました。
 待遇の関係で3点目として、職務評価等を挙げております。現行制度への考え方として、パートタイム労働者と通常の労働者との間において、均等・均衡待遇をより一層確保するためには、「どの程度職務が異なる場合に、どの程度賃金水準を異ならせてよいか」というものを測る判断基準、いわゆるものさしと言われるようなものについてどのように考えるべきかという点を1つ挙げております。
 職務評価の関係で、「諸外国の法制との比較」ということで、これも、これまでの研究会におきまして、委員からご紹介をいただいた制度ですが、イギリスにおいては、平等人権委員会の定める行為準則におきまして、事業主に対して、職務評価によって、男女間の賃金格差の実態をまず明らかにすると。そして賃金格差が発見された場合には、賃金平等のための行動計画を策定する「平等賃金レビュー」というものがイギリスにはあります。また、カナダのオンタリオ州は、1987年のペイ・エクイティ法ということで、これも男女の賃金格差に関する法律ですが、一定の事業主に対して、性中立的な職務評価を義務付け、男性職と女性職についての職務評価制度の具体的な内容、必要な賃金調整の方法等を内容とする「ペイ・エクイティ計画」の策定を義務付けている。また、この制度においては、ガイドラインで職務評価を効率的に実施するために、労使委員会の設置を推奨している。こういったような制度を、これまでの研究会でもご紹介させていただいておりました。このような枠組みにつきまして、我が国の雇用システムの特徴等に照らして、どのように考えるべきかという論点を挙げました。
 比較法の観点でもう1つ挙げております。EU諸国等においては、労働者の間で職務の内容が異なっていても、職務の価値を何らかの基準で測定したときに、職務の価値が同一であれば同一賃金とする「同一価値労働同一賃金」という考え方があります。「同一価値労働同一賃金」の考え方というのは、先ほどイギリスやカナダの例を挙げましたが、社会的な構造として、男女間の就業分野が異なる状況が多い中で、「同一労働同一賃金」では是正することが難しい男女の賃金格差に対して、労働の価値をものさしとして対応するという考え方です。このような考え方をパートタイム労働者と通常の労働者との間の待遇の問題に適用することについて、どのように考えるべきかという論点を挙げております。
 大きな柱の2つ目は「待遇に関する納得性の向上」「労使の意見」ということで、これまでお出ししていた論点です。少し細かくしましたが、まず「現行制度への考え方」ということで、パートタイム労働法第13条におきましては、「パートタイム労働者から求め」があった場合に、事業主はその待遇を決定するに当たって、考慮した事項を説明しなければならないという義務があります。契約上の地位が弱いと考えられるパートタイム労働者の納得性を向上させる方策について、現行の制度も含めてどのように考えたらよいかという論点を挙げております。
 2つ目は、事業主、通常の労働者、パートタイム労働者、それぞれを代表する者を構成員として、パートタイム労働者の待遇等について調査審議する。事業主に対して、さらに意見を述べることを目的とする委員会を事業所ごとに設置するということについて、我が国の雇用システムの特徴等に照らし、どのように考えるべきかということを挙げております。
 納得性につきまして、比較法の観点でEU諸国、具体的にはイギリスですが、パートタイム労働者が不利益に取り扱われたと考える場合、事業主に対して、当該取扱いの理由について、書面による説明を求めることができるという法制があります。さらにイギリスでは、この文書が裁判においては証拠になるという法制になっております。このような法制について、我が国の雇用システムの特徴等に照らし、どのように考えるべきかと、比較法の観点からの論点を1つ挙げております。
 3つ目の柱の「教育訓練」については、第1回で実態調査の結果をご説明させていただきましたが、入職時のOFF-JTや、日常業務を通じたOJTといったものにつきましては、パートタイム労働者について実施されている部分はありますが、まだ半数程度ということもありますので、教育訓練の機会の拡充について、どのように考えるべきかという論点を1つ挙げております。
 さらに実態調査の結果、キャリアアップのための訓練となりますと、さらに実施の割合が低くなっておりますので、パートタイム労働者のキャリアアップを促進する方策について、どのように考えるべきかという論点を挙げております。
 柱の4つ目として、「通常の労働者への転換の推進」ということです。「現行制度への考え方」ですが、現行のパートタイム労働法第12条で、事業主に求めている転換推進措置というのは3つあります。1つ目、事業主が通常の労働者を募集する場合に、パートタイム労働者に周知する。2つ目、事業主が通常の労働者の配置を新たに行う場合に、事業所内のパートタイム労働者に対して、配置希望の申出の機会を与えると。3つ目、転換のための試験制度の創設。こういったもののいずれかを実施するようにと義務付けておりますが、転換の制度を実施している企業は現在まだ半数ということもありまして、そういった点も含めて、どのように現行制度について考えるべきかという論点を挙げております。
 2つ目の点は、現行のパートタイム労働法におきましては、通常の労働者への転換というものを求めておりますが、他方、柔軟な働き方のまま雇用を安定したいと望むパートタイム労働者も相当数いると考えられますので、この点に対応するため、「勤務地限定」や「職種限定」かつ無期労働契約への転換について、どのように考えるべきかという点を1つ挙げております。
 5つ目の柱の「パートタイム労働法の実効性の確保」については、2つの項目を挙げております。「現行制度への考え方」ということで、パートタイム労働法第16条は、厚生労働大臣は、パートタイム労働者の雇用管理の改善等を図るために必要があると認めるときには、事業主に対して報告の徴収をいたします。また、そこで法の違反があった場合には、助言、助言で是正されない場合には指導、指導で是正されない場合には勧告を行うことができると規定しております。この点につきまして、履行確保措置の在り方は現在のやり方で十分であるかどうか等も含めて、どのように考えるべきかという論点を挙げております。
 2つ目の論点の紛争解決援助制度については、都道府県労働局長が助言・指導・勧告を行う、均衡待遇調停会議が調停を行うという制度があるということで、第1回のときに施行状況を説明いたしましたが、利用状況について、非常に少なくなっているということもありますので、この点についてどのように考えるべきかという論点を挙げております。
 6つ目の柱の「その他」については、「パートタイム労働を多様な働き方の一類型として活用する方策」ということで、いくつか論点を挙げております。
 パートタイム労働法の第7条は、パートタイム労働者に係る事項について就業規則を作成・変更しようとするときには、パートタイム労働者の過半数を代表する者の意見を聞くことが努力義務とされておりますが、これでいいのかどうか、義務化が必要かどうかということも含めて、どのように考えるべきかという論点を1つ挙げております。
 2つ目は、諸外国には事業主がパートタイム労働者に対して、所定労働時間を超えて労働させることについて制限を課している法制があります。フランスや韓国では、所定外労働時間について一定の制限を課す、韓国では所定外労働をする場合には、パートタイム労働者の同意を必要とし、罰則もあります。こういった諸外国の法制について、我が国の雇用システムの特徴等に照らして、どのように考えるべきかという論点を挙げております。
 3つ目は、企業が一定の人件費の中で、仮にパートタイム労働者の待遇を向上させる場合には、通常の労働者の待遇にどのような影響を与えるのかという点について、どのように考えるべきかという論点を労使ヒアリングの意見等も含めて挙げております。
 5頁のいちばん上の「パートタイム労働法の影響について」は、3つが考えられるのではないかと。1つ目は、正社員とパートタイム労働者の職域が分離してしまう。これによって、かえって企業の人材力が落ちて、経営パフォーマンスが落ちるというシナリオが1つ考えられる。2つ目は、パートタイム労働者が公正な賃金を得て、モチベーションが上がって、人材活用力が上がり、経営パフォーマンスが上がる。こういうシナリオが考えられるのではないか。3つ目に考えられるシナリオとして、パートタイム労働者が公正な賃金を得るようになると総額人件費が増えて、経営力が落ちる。こういったいくつかのシナリオが考えられるところではありますが、どのように考えるべきかということも1つ挙げております。
 その他、これまでも「フルタイムの無期契約労働者の取扱い」について、ご意見をいただいていたところです。このフルタイム無期契約労働者については、パート法の対象にはなっておりません。先ほども少し申し上げましたが、現在、有期労働契約法制についての研究会の報告書も出されており、審議会で議論もされています。無期契約は有期法制の対象外になってくるかもしれないということから、パート法、有期労働契約法制のそれぞれの対象から外れるのではないかと考えられるフルタイム無期契約労働者の方々に対して、パートタイム労働者と同様のルールを及ぼすことについてどのように考えるべきかという論点を1つ挙げております。
 その他、「税制、社会保険制度等関連制度」については、これまでの研究会や労使ヒアリングで、パートタイム労働者の就業調整の問題が出ておりますが、税制や社会保険制度等の関連制度が、パートタイム労働者の待遇に影響を与えていることについて、どのように考えるべきかという論点を挙げております。本日は、以上の論点について主に議論をいただければと考えております。
 資料2として付けているものは、これまでの研究会における委員の先生方のご意見、また労使ヒアリングで出たご意見を論点ごとにまとめておりますので、議論の際にご参照いただければと考えております。
 資料3につきましては、諸外国の法制について、待遇関係のところを抜き出して付けております。また、資料3の3頁には、諸外国の合理的な理由についてのご説明を第2回の研究会で委員の先生方からいただいておりますので、そういうものも踏まえまして、一部加筆したものを添付しておりますので、資料3も本日の議論の中でご参照いただければと考えております。
 資料4につきましては、今日の議題である待遇等について、これもご参考になればということです。これまでの研究会でも広く関係判例を正規・非正規のみならず、男女についても広くというご意見もいただいております。9つの判例を付けておりますので、簡単にご説明いたします。
 資料4の1頁、「同一労働同一賃金関連」です。まず丸子警報器事件で、平成8年の地裁判決です。事案の概要としては、被告は製造業の会社ですが、女性の臨時社員の方たちは、有期契約を反復更新していて、勤務時間は正社員と同じであるが、15分間は残業扱いでした。女性の正社員と同様の仕事に従事していたにもかかわらず、不当な賃金差別を受けたとして損害賠償を求めたものです。
 判決の内容につきましては、同一労働同一賃金、同一(価値)労働同一賃金というのは、一般的な公序とまではいえないという一般論は言いながらも、その基礎にある均等待遇の理念というものは、賃金格差の違法性判断において、1つの重要な判断要素とされております。
 均等待遇違反ということであれば、公序良俗違反の可能性があるということで、この判決においては、臨時社員については外形面・内面ともに女性正社員と同一であったということで、本件については公序良俗違反と。一方で、使用者にも裁量が認められるということで、正社員の賃金の8割以下になるときには公序良俗違反として違法となる、という判決の内容になっております。
 2つ目の那覇市学校臨時調理員事件は、市の職員ということで、公務員の関係ですが、臨時の給食調理員の方が、正規の調理員の方と同一労働をしてきたが、不当な賃金差別を受けたという訴えです。判決の内容は、そもそも両者は採用方法も違うと。正規の調理員は、長年にわたって組織の中で就労することが予定され、組織を管理する地位に就く可能性もある等々の理由で、両者については全く同一価値であると評価するのは困難であるという判決の内容になっております。
 5頁目の日本郵便逓送事件は、民間会社で、郵便物の収集を行っている期間臨時社員と正社員について、臨時社員の方が正社員と同一労働をしているにもかかわらず、正社員と同一の賃金を支払われなかったという訴えを起こしております。判決の内容につきましては、5頁の真ん中の線を引いたところで、正規の社員については、長期雇用制度の下で年功型賃金体系がとられてきたと。そういう中で賃金が決定されていると。
 一方、期間雇用労働者の賃金というのは、その時々の労働市場の相場によって定まるということで、こういった賃金決定の違いというのは必ずしも不合理ではないと。契約自由の範疇であるということで、原告の主張は認められなかったという事件です。
 7頁の京都市女性協会事件は、第1回の研究会でもご説明しましたが、財団法人において、週35時間の短時間労働者として働いていた嘱託職員が、一般職員より賃金が低かったのは不当であると訴えた裁判です。これにつきましては、8頁、そもそも比較対照すべき一般職員が見あたらないと。その上にさらに年齢等の採用条件も一般職員とは違う。採用後も職務上の拘束性や負担というものが違うということで、嘱託職員と一般職員は同一又は同一価値であるとは認めることができないとされた判決です。
 9頁は、男女の賃金関係の裁判を、以下5つほど付けております。9頁の日ソ図書事件については、書籍の輸入販売会社に勤務していた女性の職員が、勤続年数・年齢・職務内容等が同等であった男性職員との間で、賃金格差が生じていたと。これが基準法4条に違反するとして損害賠償を求めた裁判です。入社当初については、業務の内容や経験、知識の違いがあったということで、男女の賃金格差は相応の理由があると。しかし、9頁の真ん中ぐらいですが、社内の事情の変化に応じて、男性社員と質及び量において同等の労働に従事するようになったにもかかわらず、初任給の格差が是正されず放置されたというのは、基準法4条違反であるとされた裁判です。
 11頁の京ガス事件につきましては、事務職に従事していた女性社員が、女性であることを理由に賃金差別を受けたとした事案です。判決の内容としては、事務職に就いていた原告と、「訴外P1」と書いてありますが、現場の監督をする監督職の男性、両者の職務について、11頁の上の(ア)知識・技能、(イ)責任、(ウ)精神的な負担と疲労度、こういったものを比較項目として検討したところ、両者の職務の価値に格別の差はないと認められたというものです。この結果、基準法4条違反といわれている判決です。ただし、12頁に「比較対象者」と書いてありますが、賃金決定の要素は、職務の価値以外に個人の能力、勤務成績等諸般の事情も大きく考慮されるものであるといったことも含め、訴外P1の給与総額の8割5分とされた事案です。
 13頁、内山工業事件については、もともとは男子賃金表、女子賃金表と、性別の賃金表があった被告会社です。これがある時点で、賃金表から「男・女」という言葉は使用しなくなったというものです。被告会社のほうは、男性・女性の賃金表を作っていたのは男女の職務が違うという主張をしておりましたが、判決は、必ずしもそういったことではなく、女性の職務は肉体的な力は必要としなくても高い集中力を必要とする高価値の労働であるということで、職務や職種によってではなく、男性か女性かによって適用される賃金表が異なっており合理的な賃金格差ではないということで基準法4条の違反であるとされた事案です。
 15頁、昭和シェル石油事件についても、女性従業員が女性であることを理由にランク付けであるとか職能資格等級について、差別的な取扱いを受けたと訴えた事件です。この判決につきましては、時期を3つほどに区切って、職務の内容等を判決の中では検討しております。昭和60年より前の昭和59年の時点までについては、女性の就いていた業務が定型的なものであったとか、一般的な男女の賃金の状況から、男女の賃金格差は不法行為に該当するとまでは認められないとされております。ただし、昭和60年に会社が合併しまして、新たな賃金制度ができたところですが、このときに従前のランクから職能資格等級の新たな制度に移行する際に、能力や勤務成績といった合理的な理由がなく、従前の差別的なものをそのまま引き継いだということで、昭和60年以降は、賃金の格差に合理性は認められないとされた事件です。
 17頁、兼松損害賠償等請求事件については、コース別人事管理がされていて、A体系は男性、B体系は女性ということで、賃金体系が別々になっていたと。これにつきましても、時期を区切って検討されておりまして、昭和59年までは、そういった異なる給与体系についても特に違法とまではいえないと。しかしながら、昭和60年以降については、女性についても、男性と同じような職務を行う女性が出てきている。職務が重なる場合もあったということで、従前のA体系・B体系を引き継いだ給与体系には合理性は認められないとされた判決です。
 資料5につきましては、補足的に提出している資料です。第1回の研究会におきまして、平成17年の賃金構造基本統計調査を特別集計した結果を出しておりましたが、今般、平成22年の賃金構造基本統計調査を用いて、一般男女の勤続年数別の賃金を特別集計したものが資料5です。次頁に、平成17年と平成22年の両方の比較ができるような形で付けておりますが、点線になっているのが平成17年の数字、実線で色を付けているのが、平成22年の数字です。やはり、パートタイム労働者のほうが、勤続年数が上がっても、まだカーブが寝たままであるという傾向には、特に変わりはないと思われます。
 一方で、特に女性のパート労働者については、各勤続年数のすべてについて1時間当たりの所定内給与額が少しずつ上がっていることが見て取れると思います。
 資料6はスケジュール、資料7は前回の議論の概要ですので割愛させていただきます。以上です。
○今野座長 ありがとうございました。それでは、今日は資料1の論点に基づいて議論をしようということですが、全部一遍にやると大変なので、大きな1の待遇の問題と、3頁目の大きな2の納得性の向上に焦点を当てて議論をしていきたいと思います。よろしくお願いします。
○佐藤委員 議論の整理になるかどうかわかりませんが、専門は人事管理なので。特に差別的な取扱い、これは処遇上の差別だと思います。これは昇進などいろいろあると思う。賃金も退職金や賞与などがあるのですが、ここでは基本給と考えたときに、処遇差のところで、いまは水準が問題になるわけです。実は水準の問題とその水準が決まる賃金制度の問題を一応分けて考える必要があると思う。どういうことかというと、例えば大学だと非常勤講師の人がいますが、あれは短時間です。週に例えば3コマを教えている。しかし、10年も働いている。我々みたいに専任の教員もいるわけです。だから、講義をやっている点では同じです。そうしたら、その議論をするときに、私たちの講義の時間数と非常勤の人の時間当たりを見たときの水準差の話と、もう1つは適用されている賃金制度が違うわけです。
 一般に非常勤の人は、1コマいくらです。よくわかりませんが、そういう給料です。我々は給与制度の等級で決まる。だから、これは一応分けて考えなければいけません。どういうことかというと、もう少しパートに引きつけると、同じ職場に同じ仕事をしている通常の労働者という社員の方がいて、それと同じことをしているパートの人がいたときに、まず時間当たり賃金で見たら差がある。こういう議論をしたときに、まず本来最初に議論すべきものは、普通は賃金制度が違うわけですよね。パートに適用されている賃金制度と社員に適用される賃金制度がある。まず、この賃金制度を異にする合理性があるかどうか。これが大事で、例えばパートタイマーだと、一般的に仕事で決まる部分が多くて、一部勤続の長いパートなどが出てきている所は、職能的な評価をして、職能等級がある所があります。しかし、全体的には職務等級型の賃金制度になっている。社員は管理職になれば、逆にまたポストで給料が決まったりしますが、多分パートと同じような仕事とすると、大体職能等級が多いわけです。ですから、仕事のウエイトが若いうちは少なくて、どういう能力があるかで決まっている。ですから、同じ仕事をしているのだけれども、適用されている賃金制度が違う。それぞれが適用されている賃金制度でその人の給与水準は決まっているわけです。ですから、まず議論すべきなのは現行のパート労働法でいうと、同じ仕事をしていて、賃金制度が違ったときに、異なる賃金制度にする合理性があるかどうか。これが1頁のところでいうと、人材活用上の仕組み。ですからパートは特定の業務で活用するので、職務給にする。しかし、社員は異動があるので、常にある一時点の職務で決める、職能給で決めるという、その人材活用の仕組みを反映した賃金制度。それが違うのは合理的だとなれば、これは分けていいですよというのは、つまり異なる賃金制度にしていいですよということ。働き方が同じであれば、同じ賃金制度にしろというのが最初に出てくるわけです。
 社員は職能給ですが、実際上はそんなに異動もないし、同じ仕事をやっているのではないかといえば、パートと同じではないか。つまり、人材活用が同じであれば、賃金制度を揃えなさいというのがパート労働法なのです。揃えろといったときに、パートに通常労働者を揃えてもいいし、パートを社員に揃えてもいいのですが、この場合、通常労働者もそんなに広い業務領域で活用しないとすれば、パートに揃えるのはどうか。
 ですから、まずは人材活用の仕組みが同じであれば、同じにしなさいと。そのあと、適用される賃金制度が同じでも、水準が違う可能性があるわけです。パートで職務給でも、能力が違えば、もしかすると社員が低くなるかもわからないのです。同じ賃金制度を適用して、次は水準、この差が出てくるのはどういう決定要素なのかで決まる。この流れの話と、現行のパート労働法。均等というのはどういうものかというと、同じ賃金水準にしろというのではなくて、同じ賃金制度を適用する人は、同じ賃金制度を適用するという話なのです。それで、同じ仕事に就いていたとしても、賃金決定の要素が合理的であって、もしかすると賃金水準が違う可能性があるということなのです。
 例えば、同じ仕事をしていても、能力を見る賃金制度で、それが合理的であれば、同じ仕事でも能力が違えば給与は違ってくる。ですから、同じ賃金制度を適用するとなっても、数字が違ってきてしまう。これはいまのパート労働法でいえば、別に不利益、差別ではない。それは社員も同じです。水町さんと私は同じ賃金制度を適用されているわけです。しかし、給与は違うんですよね。この話です。これが問題になるのは、両者に適用されている賃金決定要素の適用の仕方に何かいけない操作が入っているかどうかという話であって、決定する賃金水準が違うのは、普通はこれを差別とはいわないわけです。こういう話がパートの中でも出てくるというように、パートと社員についても基本的には同じになる。
 もう1つの流れは、異なる賃金制度を適用することが望ましくても、同じ仕事をしているのだから、水準について考慮しなさいというのが均衡のほうなのです。ですから、先ほどの例でいうと、大学の非常勤講師と私たちは確かに講義の側面だけ見ていると同じだけれども、やっている業務が違うので、賃金差は合意だけれども、1コマ当たりで見たら、こんなに差があるのはおかしいのではないかというのは、均衡のほうの話なのです。
 ですから、1つは異なる賃金制度にする合理性のところが何かという議論です。その合理性がなければ、現行法は同じ賃金制度にしなさいと。同じ賃金制度にしたときに、今度は同じ仕事なのだけれども、給与制度が適用されると賃金が違ってきてしまう。ここでもう1つどうするかという議論があって、同一価値労働同一賃金といったときに、この2つの意見をどう議論するのか。1つは異なる賃金制度にするというような議論をどう理解するのかということ。同じ賃金制度を適用しても、水準は違ってくるわけです。ここについても、同一価値労働同一賃金をどう議論するのかを少し分ける必要があるのが1つです。
 2番目はこれに続くのですけれども、今度は同じ賃金制度にしたときに、賃金制度というのは一人ひとりの給与水準の決め方の体系になっているわけです。同じ給与制度を適用されたときに、どういう水準になるかというのは、どういう要素で働きぶりを評価するかなのですけれども、そのときに普通はどういう仕事に就いているか、その人がどういう能力を持っているか、もう1つはどういう成果を出したかの大体この3つになります。属性で見るというのも無しにはできませんが、基本的にはこの3つの組み合わせなのです。
 この3つが一般的に決まるか。どういうことかというと、仕事で見るといっても、能力を見ないわけではなくて、ある仕事に従事しているというときに、その仕事はできなければ困るわけです。ですから、ミニマムで従事した仕事ができる、基本的にやれる能力がなければ駄目ですよね。問題は次の能力といったときに、同じ仕事をしていても、能力が違うとアウトプットが違うかどうかです。こういう場合、普通の企業は成果を出してもらおうと思うと、ミニマムの仕事ができるだけではなくて、能力のある人とない人で例えば顧客満足度が違うとか、アウトプットや質とか性質が違うとすれば、能力を評価するわけです。あるいは同じ能力があっても、今度はアウトプットの出方が違うと、あとは評価を見たりということで、この組み合わせというのが同一価値労働同一賃金を議論するときに、企業を超えて一律に決まるかどうかということで、一般的に人事管理の世界でいうと、社員にどういう働き方をしてほしいかで普通決まるわけです。
 例えば、社員に能力を高めてほしいと思えば、能力を高めたということを評価するわけです。あるいは、そんなことよりもアウトプットを出すことを評価すると、まずアウトプットを出すということを評価するわけです。また、仕事の性格にもよるわけですけれども、ミニマムの能力があれば、いくら能力が高くてもアウトプットが違わなければ、能力などは評価しないわけです。ミニマムの仕事ができればいいわけです。いくら勉強しても、アウトプットが違わなければ、能力などは評価しないわけです。つまり、賃金制度の設計の仕方なのですけれども、基本的には私は例えばパートなり、社員もそうですが、どういう働き方、職務行動を期待するかで普通、賃金決定要素が決まるわけです。
 ですから、もう1つは同じ賃金制度を適用したときに、もしかしたら同じ仕事をしていても、パートとフルで時間当たりの賃金水準が違うこともあるかもしれませんし、同じ場合もあります。しかし、これは賃金制度の作り方で決まってくるわけです。まずは、賃金制度を異にするかどうか。同じ制度を適用しても、制度の在り方によって、ある会社では時間当たりの賃金が同じになる場合もあるし、違ってしまう場合もあるのです。これをどう理解するのかを少し整理するのがいいかなと判例などを伺って思いました。ちょっと長くなりました。すみません。
○今野座長 ありがとうございました。
○水町委員 たくさんあるので、それぞれの項目ごとにもう全部言ってしまっていいですか。そんなに10分とかは話しませんので、簡単にポイントだけお話していきます。
 大きく4つに分けてお話したいと思います。1つが1頁(1)差別的取扱いの禁止についてです。現行法上3つの要件が設定されていて、実際上は2の要件がちょっとバーが高すぎるのではないか。3の要件については有期契約の取扱いとの関係でどうするかということが言われています。3番目の○にあるように、いずれにしてもこういう形式的な要件を残してしまうと、その要件、基準に基づいたセパレート、職務分離等が起こるので、1つ目の要件、職務の内容とか責任についても、これは基本給には当てはまり得るかもしれませんが、基本給以外の例えばメンバーシップに対して支払われている給付については、必ずしも職務の違いが理由になるわけではない。あまりこの3つの形式的な要件にこだわりすぎて規範を立てると、3番目の○にあるような問題が生じるので、もう少し一般的な、合理的な理由のない不利益取扱いを禁止するという法理がいいのではないか。
 2番目の○で「差別的取扱いの禁止」と書かれていますが、ヨーロッパでは差別的取扱いではなくて、不利益取扱いの禁止です。有期とかパートについて有利な取扱いをすることで合理的なこともあるのではないか。会社の都合で、都合のいい時間に来てもらっているとか、期間を短くすることによって終わったらやめですよということで、企業にとって利益になっていることもあります。逆に有期とかパートは比例賃金よりも高くなっていいのではないか。そういうのを法的に強要するのだったら、差別的取扱いの禁止ではなくて、不利益取扱いの禁止というのが国際的なスタンダードになっているので、現行法は差別的取扱いの禁止になっていますが、この機に少し議論をしたほうがいいかなと思います。
 ヨーロッパの法制については、あとでまた時間があればお話します。1つだけ申し上げたいのは、諸外国の法制との比較ですが、あまり違いを強調するよりかは、合理的な理由というものの判断の中で日本的な特徴も考慮に入れられるのではないか。前々回ご報告しましたが、ヨーロッパの中でも勤続の違いとか、将来への期待の違いという日本の雇用システムで問題になりそうな点は、すでにヨーロッパで客観的理由の中に考慮に入れて運用されていますので、ヨーロッパ的な規範を入れた場合に、合理的な理由の中身の判断で日本としても規範として定立できるものができるのではないかと思います。
 2つ目の大きな(2)の均衡待遇の確保ですが、これは2つの方向性があります。1つは合理的理由のない不利益取扱いというものの中に、バランスの違いも入れ込んで判断する。そういう意味で、合理的理由のない不利益取扱いというものの風呂敷を少し大きくして、柔軟に見て、そこに入れ込むという考え方と、もう1つは合理的理由のない不利益取扱いというのは狭い意味での均等、同じものは同じ、違うものは違うものだとすると、バランスというのはこれとは別に考慮するということになります。後者の選択肢は特に日本的な考え方で、バランスを取るというときにどういうような規範を設定するのかというのは日本的に考慮しなければいけない点ですが、いずれにしてもこれは量的な問題というか、相対的な問題です。何か形式的な基準を立てて、強力に法的に強制するということがそう簡単にはできない問題だというので、規範を定立する場合には、少し柔軟な対応が必要なのではないかと思います。
 (3)職務評価のところです。佐藤先生の話ともある程度相通ずるところがありますが、いずれにしても職務評価等処遇の違いを見るときに、形式的な一律のものさしというのはあり得ない。これまで日本でも重ね重ね議論をしてきましたし、ヨーロッパでも形式的なものさしはあり得ないということが、だんだんわかってきています。実態に応じた個別なアプローチが必要だと1つ言えるのではないか。その中で、同一価値労働同一賃金というものをどう考えるかといいますと、ここの中で諸外国の法制というので出てきていますが、やはり同一価値労働同一賃金を一律に強制するというよりも、企業の実態に合わせた形で制度を作って変えていってくれというので行動規範、アクションプランとして導入して、それを促していくのがヨーロッパやカナダで見られている1つの方向だと思います。そういう意味では日本でいうと、均等法のポジティブアクションのようなものの中で、行動計画を立てるということを事業主に促していき、その中で同一価値労働同一賃金に近いような方向性にいくように促していくことが妥当かどうかという点を議論することが大切です。そういう意味ではちょっとこのパート研の事務局の管轄と一緒なのかどうかわかりませんが、広い意味では均等法の中でポジティブアクションとしてこういう職務評価制度を入れた場合には、どういう制度があり得るのかを諸外国の制度や日本の裁判例等も見ながら、少し具体的なデザインを考えて、その下で議論をしたほうがちょっと有益、生産的な議論になるかなという気がします。
 納得性のところも1つだけ申し上げておきます。いまのパート法では、説明義務は個別の義務になっていましたが、パートとフル、正規と非正規の取扱いというのも集団的な取扱いです。経済学はよくわかりませんが、公共財的な性質を持つものが多いとすると、やはり個別に交渉するよりかは、集団で交渉するということが大切だと思います。個別も悪いというわけではないのですが、個別にやるのはやるとしても、集団的な労使交渉のツールを、コミュニケーションの基盤を法制度的に位置付けるのが1つ重要です。
 諸外国で書面による説明というのもあったほうがいいと思いますが、書面による説明だけで満足すると、何か定式で用意して、書面でマニュアルどおりに対応するという形式的な対応で終わる危険性があります。企業などの実態や状況に応じた柔軟なコミュニケーションが集団的にできるような基盤をパート法の中でも何か考えることができないかが重要な鍵になるかなと思います。ちょっと多くなりましたが、以上です。
○今野座長 質問させていただきます。いちばん最初に言われたことなのですが、パート法でいう3つの要件の中で、1つ目の要件については、主に基本給のみに対応するので、メンバーシップなどの問題については別だということをお話になって、ここをちゃんとすると3つ目の○の職務のセパレートが避けられるという趣旨のことをおっしゃられたのですが、その理屈がわからないので教えていただけますか。
○水町委員 企業の実態に合わない基準を、これを守りなさいとなったら、企業としては実態に合った行動をするので、ちょっと職務を分けて、職務が違うのですべての給付は平等にしなくてもいいですという対応になりやすい。だけれども、企業の実態に合った形でコミュニケーションして、合理的な理由があれば、異なる取扱いをしてもいいし、合理的な理由で説明できなければ、実態に応じた形でいろいろな給付・支給を考えなさいとすれば、企業の実態との齟齬もそんなに無理のない形で行われるはずなので、外から形式的な基準を押し付けられるよりは、セパレートという行動が生じにくいのではないかという説明です。
○佐藤委員 いまのことを言うと、職域分離をすると確かに、つまり仕事を分けることによって、先ほど言った賃金制度を異にする合理的理由というのはこの3つで判断するのだけれども、1つ目の要件だけが独り歩きしているのです。これはわかりやすいからなのです。する仕事を変えておけば、賃金制度を異にしてもいいのだというメッセージが伝わってしまうと、やはり企業としては分ける。そうすると能力開発の機会や、正社員への転換は非常に難しくなります。
 そうではなくて、2つ目の要件の、人材活用の仕組みが異なるということがきちんと整理できると、仕事は重なっていてもいいのです。先ほどの非常勤の大学の先生と私たちは違うのだということであれば、同じ仕事をやっていてもいいのです。そうすれば、非常勤で講師としてフルタイムのエントリーをすることができるのです。極端な言い方をすると、それは同じ仕事だからということになってしまうと。人材活用の仕組みがもう少しきれいに整理できると、企業としては職域分離しなくても、ある程度仕事は重なっているのだけれども、人材活用をする。その中で仕事のレベルを上げていくこともできて、転換もしやすいのです。現状でいうと、1つ目の要件がやや前面に出てしまっていて、一部にはきちんと分けるために仕事を分けるということが出ているのかなと。水町さんのを伺っていてそう思ったのです。
○今野座長 私が理解したので、それはわかったのだけれども、水町さんが言われたことでわからなかったのは、基本給については業務の内容や責任が対応するけれども、基本給はメンバーシップが対応しないみたいなことをおっしゃったのです。日本の基本給というのは、みんなメンバーシップが入っているのだけれどもと思って聞いていたからわからなかったのかな。
○水町委員 それは実態に応じた判断で、それぞれの企業と話し合う問題だと思います。
○浅倉委員 現状は、(1)の1つ目の要件に関していえば、この研究会の初回ですでにご報告があったように、3要件を満たすパートというのが0.1%しかいないというところから、議論がスタートしているのだと思います。なぜパート法について議論がなされているかというと、あまりにも小さな適用範囲でしかないものを、できる限り効果的にしようというところが議論の出発点だと思うのです。ここを広げていくということが、この法改正の目玉になるのではないかというのが1点です。
 現在、正社員とパートが職能給と職務給的に分かれているというのは、佐藤先生がおっしゃるとおりだと思います。2頁の最初の○にあるように、外部労働市場と内部労働市場がくっきり分かれて存在しているのが現状で、この外部と内部を分けているのが、人材活用の仕組みや運用なのではないかと思うのです。最初は外部にあったものを、内部労働市場に立つようになったときに統一するという考え方もあるのですが、それだと先ほどの0.1%というのはいつまで経っても変わらないと思うのです。業務の内容が区分けの根拠になっているというよりは、2つ目の要件があるために0.1%しか適用がないのではないかと、つまり、むしろそちらのほうが問題のように思います。
 職務の内容に関して、職務の過度のセパレートが生ずるというのは、おそらく立法上の規定の濫用や脱法的な意図が働いているのではないか、あるいは善意に解釈すれば、使用者としてはそこに引っかからないようになんとか工夫しようとしているのではないか。それらすべてが必ずしも脱法的とは言えないのですけれども、使用者にそういう意図がどんどん働いていくのは確かだと思うのです。しかしそれを恐れて、できる限り公正な基準を立てることを否定する方向性をめざすのは、ちょっとおかしいのではないか、本末転倒なのではないかと思います。どこに標準を合わせるかというと、職務の大まかな内容によって、格差が生じる、妥当性のある格差が生ずるというのはむしろあり得ることだと思います。そうではなく、最初から人材活用の仕組み・運用でもって一定の従業員を比較対象から排除するほうが、この法律の意味を狭めているのではないかと思っています。
○佐藤委員 私は、いまは人材活用についてはいいというのではなくて、大事なのは賃金制度を異にするということ、つまり1つの賃金制度しか駄目と考えるのか、企業が直接雇用している人の中で、賃金制度を異にする合理性というのは、これを否定するかどうかだと思うのです。社員を見ても、一般職と管理職で賃金の決め方が違うというのは賃金制度です。こう考えたときに、そういうものがパートと正社員でみんな同じでなければいけないのか。私は、異にする合理性があるのではないかと。そこをきちんと議論しないと、水準だけでの議論ではない、もし異にすることの合理性があるとすれば、賃金水準はその後の話なのです。そこの整理だけなのです。
 もう1つは、私も現状は狭いと思うのですけれども、ただ大事なのは、不利益扱いとか差別があることの判断基準が合理的であるかどうかだと思うのです。比率が0.1%ということに意味があるのではなくて、合理的であるかどうかだと思うのです。もし合理性があれば適用範囲は少ないほうでいいのです。本当はゼロがいちばんいいのです。そういう意味で、議論すべきは範囲ではなくて、差別か差別ではないかを判断するときにこのルールは合理性があるかどうか。私も広げなければいけないと思っているのですけれども、そのときに3割になったらこれは良いルールだという話ではないだろうと。差別されている人が3割いるというほうが正しいというのではなくて、差別か差別でないかを判断するルールに合理性があるかどうか、結果的にその範囲に入る人がどのぐらいかというふうにしないとちょっとおかしいのではないかということだけです。
○浅倉委員 それはわかるのですが、私は、職務の内容という方が比較的合理性があると考えているのです。人材活用の運用の仕組みというのはまだ現実のものではなく将来のものです。パート法の根拠になっている条文(8条)でも、「その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの」という言葉を使っています。あくまでも、実際に働く前に、両者が同じだと「見込まれている」かどうかによって区分けされているのですよね。これではそもそも、パートと正社員とは比較できないものとする構造になっているのではないか、その根拠を提供してしまっているのではないか。そこがちょっとおかしいのではないかという意見なのです。
○佐藤委員 先ほどの、大学の非常勤講師と我々が同じ仕事だと判断するかどうかだと思うのです。これでも賃金制度が違うのです。教師としては同じだけれども、賃金制度を異にする合理性があるかどうか。そういう議論が入る余地があるのかどうか、人事管理をやっていると気になるということなのです。
○今野座長 先ほどから出ている合理性という言葉なのですけれども、この合理性というのは、経営者にとっての合理性でしょう。
○佐藤委員 はい。
○今野座長 そういうことですよね。
○水町委員 経営者が合理性と判断したから、法的に判断されるべき規範としての合理性です。
○今野座長 法的に判断するときに、企業が企業目標を達成するために、合理的な行動であれば合理的なのですね。
○水町委員 合理的だと説明されることが多いだろうということです。
○今野座長 そうすると、A社員にはA型の人材活用、B社員にはB型の人材活用、C社員にはC型の人材活用という戦略自身が合理的かどうかです。先ほどから佐藤さんが言っているのは、これが合理的だと言っているのです。賃金制度などというのは、活用の後に出てくる問題ですから、そうすると賃金制度が変わったって合理的だろうと佐藤さんは言っているのです。そうすると、その入口の社員を正社員で採ったときに、区分けして活用方針を変えること自身が合理的でないとか、差別だと言ったら、これはすべてすっきりするのですが、そこが非常に大きな問題なのです。
 もう1つは佐藤さんが言うように、活用の方針が違いますというのはOKです。したがって、賃金の決め方が違うのもOKです。したがって、AグループとBグループは同じ仕事をしていても賃金が違うのはOKです。ここまではいいのですけれどもその後が問題なのです。どの程度だったらOKなのという質問が出てくるのです。
○水町委員 それは、ヨーロッパでは程度には介入しないのです。合理的な客観的理由ありとすれば。
○今野座長 でも、日本の場合には均衡という問題を扱ってしまうから。
○水町委員 日本では、その均衡をどう考慮するかが課題なのです。
○今野座長 私も解があるわけではないのだけれども、佐藤さんの意見は、そこにはいまのところ解がないのです。そこは非常に難しい問題なのですけれども、そういう問題が佐藤さんの理屈でずうっといっても、最後はそこが残るのかなということなのです。
○山川委員 私も解がないのですけれども、議論の整理みたいなことをすると、単純にスペクトラム的に考ると、いちばん厳しいのがたぶん現行法で、差別禁止につき3つの要件を課して、例外は条文上は認めていません。他方、いちばん包括的なのは、EU諸国のようなパートタイム労働者であることを理由とする一切の差別を禁止する法制です。
 その中でいろいろ差があり得るのですが、1つは第1回のときにも言いましたけれども、立証責任の違いに差が生じるといえます。例えば佐藤先生のご意見ですと、人材活用の仕組みが第1に来て労働者側が立証すべき要件となり、それ以外の仕事の内容が違うということは使用者側で立証すべきことになると思いますし、浅倉先生のご意見で言えばそれが逆になり、仕事の同一性が第1に来て、逆に人材活用の仕組みが違うことを使用者側で立証しなさいということになります。このような形で、立証責任を違いに入れると、そのスペクトラムの中でいろいろ選択肢が出てくる。
 もう1つは、パートタイム労働者であることを理由としての差別を禁止する場合は、実は単純なスペクトラムに入りきれない部分があって、「理由として」という要件が入っているということがちょっと違う気がします。どういう意味で違うかというと、1つは使い勝手のよさといいますか、先ほどのマニュアル的に使えるかどうかという点にも関わりますが、現行法のように「理由として」という要件がない場合、行政が行政指導等を行う場合には、比較的機械的にやれて、大量処理ができる。これに対して、この「理由として」という要件を課すのは、裁判で使うのに比較的親和的な方法で、ケースによっていろいろ違ってくる。その間の中間的な処理もあり得るかもしれないので、これはスペクトラムの上でスケールの上に並べても実は両立し得るものであるかもしれないという気もするのです。
 要は、裁判で使う場合と、行政で使う場合の違いのような視点も考える必要があるということです。これは一般的な話なのですが、裁判で使うことを意識していない立法がこれまでにたくさんあり、裁判で争われています。労働立法でもその辺りを考える必要があるという気がしています。
 もう1つ、もっと根本的な点なのですが、現在の法律は、同一であれば同一に取り扱えということで、同一性の要件を課しているわけです。他方、パートタイム労働者であることを理由とする差別的取扱いの禁止は、そういう要件を課すものではないのです。そこで、根源的なというか、規範的な根拠の問題として、なぜパートタイム労働者を理由とする差別を禁止するのか、広く言えば、雇用形態を理由とする差別を禁止するのはなぜかということが問題になります。この間のヒアリングでもありましたけれども、正社員間で同じ仕事をしている人どうしについても、抽象的な規範としては、およそ不合理な取扱いを雇用関係においてしてはならないという規範が考えられるのです。しかし、そこまで法律で求めるのはなかなか難しいと思います。
 そうすると、不合理な取扱いのうち、なぜ雇用形態を理由とするものを特に取り出して議論するのかという点を根本的に考える必要があって、必ずしもよくわからないのですけれども、1つは労働市場において一定の雇用形態の労働者は弱者だから政府の介入が図られる必要があるのか、あるいは何らかの意味で同一労働同一賃金的な発想が入っているのか。何かが同一だから、同一に取り扱わないといけないのか。これを経済学者の先生方はどう考えられるのか。つまり、およそ不合理な取扱いをしてはならないという規範自体を立法化できれば別なのですけれども、それはおそらく無理ですので、なぜ雇用形態を取り出し、法律が介入する正当性があるのか。そういう根本的な論点がスペクトラムのいちばん端にはあるのではないかという感じがします。
○水町委員 山川先生がおっしゃった点で2点あります。1点は、「パートタイム労働者であることを理由として、合理的理由がない限り」という2つになっていますが、実際にドイツの運用では、パートタイム労働であることを理由としてということは、判例上ほとんど問われなくなってきて、合理的理由がない限りというのがより大きな概念として、そこの中で全部規範的に判断しようということになってきています。
 2点目は、背景に、なぜアメリカではやっていないのにヨーロッパでは雇用形態を理由とする差別を禁止するかというのは、おそらく2つぐらいの側面がこれまでの議論からするとあります。1つは隠れた差別、昔は男女差別だったものが、雇用形態を理由として、それで隠れた差別が潜んでいるので、それを法的に是正していこうというので、一時、間接差別でやっていこうという話もありましたが、間接差別よりは、雇用形態を理由としてというふうにやってアプローチしていこうというのが1つです。
 それがヨーロッパ全体に広がって、ディレクティブで派遣まで含めて規制するようになったのは、やはり競争上弱者といいますか、雇用形態を理由とする人は個別に交渉力がないことが多くて、その中でコスト削減競争がどんどん進んでいくときに、コスト削減の対象になっているのが、非典型的な働き方の人なので、このまま放置して競争を激化していくと、どんどん買い叩かれてコスト削減競争が人を対象として行われていることに対する危惧として、雇用形態を理由とする差別をして底上げをして、むしろマイナスの競争よりも上を向いた、生産性を高める競争に行こうというための基盤として、ヨーロッパ全体で取り組んでいこうと。1国だけだと、よその国がそれをすり抜けたら意味がないので、ヨーロッパ市場全体としてそのようにしていこうというのが、ここ10年ぐらい高まっている議論かと思います。
○山川委員 理由としてという要件については、そのような運用はあり得るのですけれども、条文の構造上は要件ですし、あとは、逆に合理的な理由がある場合を除くというところにウエイトがかかってくれば、ある意味では立証責任が事実上あるいは制度上逆になっているといえますから、一応理由としてという要件自体は存在するけれども、実際上立証が容易になっているか、あるいは立証責任が逆になっているかという話かと思います。ただ、そうなるとスペクトラムの上での相対性は強まるかと思います。
○今野座長 経済学者がどう考えるかですね。
○黒澤委員 教育訓練のほうにも及んでしまうかもしれないのですけれども、いまの弱者という話に関連して考えると、1つは先ほどからパートの方々はあまりに狭い地域労働市場に非常に大きな影響を受けた形で賃金などが決められているという状況があります。それは、まさに買手独占的な状況に陥りやすいところがあると思います。そういう意味において介入が必要といえます。
 その介入の仕方にはいろいろありますが、考えられるのは、狭い地域市場だけで決められている相場観を、もうちょっと広い地域、あるいは業界なりのセクターで認められるようなものに変えていくというやり方です。
 その一助として考えられるのが、ジョブ・カードなりキャリア段位なりの資格制度のようなものです。特にパートと正社員の方々が重複している、いわゆる定型的な業務に関しては特に資格制度を充実させ、それを労働市場の中で行きわたらせることが、長期的には処遇の連続性をもたらし、新たな均衡を達成することにつながっていくのではないか。
 その資格制度の資格の在り方なのですけれども、単にキャリア・コンサルして、それで「はい」と資格にするのではなくて、そこにある程度の能力開発機会を伴った形で能力評価を行うようなシステム、つまりジョブ・カードのようなものがあると、いわゆる非正社員の方々の能力開発機会が、企業側の合理的な理由として少ないことは事実としてあるのですけれども、その部分を補う意味においても有効なのではないかと思いました。
○今野座長 いまの点で、パートがその地域で非常に狭い労働市場なので、買手独占になってしまっているというお話なのですけれども、こういうシナリオはないのでしょうか。パートの場合は、確かに狭い労働市場ですけれども、比較的定型的な業務が多いので、どこの会社に行っても使えるから、実は買手独占ではない、どこへでも移れる。したがって、買手独占で不当に低くなって問題だというシナリオは、実はパートの入口のところだけ考えるとあまり成立しないのではないかというシナリオはないのですか。
○黒澤委員 おそらくそれもあり得ると思うのですけれども、いわゆる主婦パートなどを考えると、その留保条件というものに非常に制約のある方が多いのも事実です。時間的制約で、たとえば今日は子どものお迎えがあるから2時までしか駄目だと。そういう方々は、通勤に長時間を費やすことはできないですし、これはアルバイトにも言えることなのですけれども、そういう制約の強い人にとっては転職しにくく、そういう意味で転職コストがある。
 でもおっしゃるように、定型的だからこそ、汎用的な技能だからこそ、そこに資格というものをくっ付けてあげれば、それが主婦パート以上に若年層のパートの人たちの労働市場での地位を高めることには非常に有効なのではないか。
○権丈委員 黒澤先生のお話と関連するのですが、パートの労働市場が地域独占かどうかということで言えば、やはり労働時間に制約がある人たちの職場は限られているとみることができます。短時間正社員はまだ少なく、良質の短時間雇用機会が整っていないという制約がある状況だと思います。
 また以前からある議論ですけれども、税・社会保険料支払いによる就業調整の問題も制約になっています。現行制度を前提にして、労使双方は最適な行動を選択しています。現行制度を前提とすれば、非課税限度内で働いている主婦にとっては、働き方を大幅に変えなければならないので、正社員になることをためらう人が多いわけです。しかし、税・社会保険料支払いによって作られた、断層や壁をなくすことで、働き方や労働時間を連続的に選択できるようになれば、より多くの人が働き、能力を活用できる社会になりやすくなるのではないかと思います。
 先ほど水町先生が指摘された、EUにおける非典型労働の保護の背景についての補足になりますが、EUでも、労働市場の柔軟性を高めることの必要性と、人口減少社会における労働供給の制約を緩和することが、パートタイム労働等の活用の背景にあります。特に、そうした働き方を整えて仕事と家庭を両立できる環境を整備しながら女性を有効に活用していくことは、少子化対策にもなるし、労働力の量と質を確保することにもなる。こうした政策的事情もまたEUにおける非典型労働保護の背景にあると考えられます。
 日本における女性労働力活用の現状をみると、日本では就学前児童のいる女性の就業率が、先進国の中でも非常に低くなっています。また、先進国では一般に高学歴の女性の就業率は高いのだけれども、日本では学歴間の格差が小さく、高学歴女性が十分に活用されていない特徴があります。その背景には、正社員の拘束性の高い働き方と、パートの低労働条件という働き方の二者択一の状況の中で、非就業を選択していることもあります。パート労働法の見直しでは、今後の労働力の活用といった点も、視野に入れていければと思います。
 最後に個別の論点に戻りますが、先ほどの「通常の労働者と同視すべきパート労働者」を画す3要件のことです。1つ目と2つ目の話は出てきているのですが、3つ目の無期契約については、有期労働契約との関わりもあるかと思うのですが、無期契約の要件を外すことについて先生方のお考えを教えていただければと思います。この要件を外したとしても、人材活用の仕組みがあれば、結局あまり変わらないのか、そうであるならば外してもよいのかという点はいかがでしょうか。
○佐藤委員 私は、これが現行のままでいいなどと言っているわけではないのです。私は企業の人事管理の観点からすると、3つ目の要件がなくても2つ目の要件で十分説明はつくだろうと思っています。ですから3つ目はなくても1つ目と2つ目、特に2つ目だけでやれるかと思っています。
 ついでに言わせていただくと、水準の話と賃金制度を異にするときにも、別にこのルールをそのまま適用しろというのではなくて、先ほど山川さんが言われたように、賃金制度を異にするときの説明責任は経営者側にあって、その理由はいろいろあると思うのです。人材活用の仕組みというか、期待という曖昧なのはよくないと思うのです。現行のほうがいいというわけではなくて、ただ賃金制度を異にするということは合理性がないということなのか、そうではなくてあるのではないかと思っています。ただ、それが確かに違うにしても、違う合理性がないようなのがあるのも事実だと思います。
 そういう意味では、ほかの職務関連賃金などについても、例えば忌引はパートにはないのですが、この辺の説明が付くかどうかということがすごく大事なのです。それも、ある面では賃金制度の違いなのです。これも、広い意味で賃金と考えると、報酬の配分の仕方が、社員の忌引は有給なので、広い意味での報酬になります。これは制度が違うのだけれども、そういうものを異にする合理性というのが、報酬すべてについて吟味することがすごく大事なのです。
 まずそれがあって、その後に異にしたときの水準の違いはまた別の議論になりますので、だから2つ議論しなければいけないと思っているのです。それを水準だけ議論していいのかどうかというところが、たぶん人事管理をやっている所の違いだと思うのです。
○今野座長 賃金制度について、もし複数の賃金制度が存在することを認めない、もう少し言うと、人材活用のタイプは唯一1タイプしか認めないという法律を作ったら、企業は賃金制度に合わせた人しか採らない。
○佐藤委員 それはそうです。
○今野座長 それ以外の人は全部アウトソースするか、別会社にするという選択をするのは明らかです。そうすると、1つの企業内で多様な人材がいるということが、やはり企業の競争力として基本的に必要なのだということだとすると、社内に複数の賃金制度があることは認めざるを得ないとは思います。現状を見ると、特に大企業の場合は、同一タイプの社員しかいないというのはあまり考えられないので、なかなか難しいと思います。
○水町委員 この3要件に関して佐藤先生がおっしゃっているように、それぞれの給付について個別に合理的な理由があるかどうかを丹念にチェックしましょうという規範にすることが大切なのです。いまのパート法で私が思う大きな問題点は、3つの要件をすべての企業に、かつすべての給付について求めているのです。この3つを満たさなければ、すべての企業、すべての給付についてこの条文はかかってこないという構造になっていて、法律ががんじがらめの要件を決めて、全部これに従いなさい、当てはまらなければOKですよとしているところに問題があるので、もうちょっと個別に見ましょうということです。それで1つ目の要件のようなものも、2つ目の要件のようなものも、3つ目の要件のようなものも場合によっては理由が付く違いであれば、それは正面から認めましょうと。ただし、その説明は企業のほうで説明責任はありますという法制にするというのが1つ重要なポイントです。
 それと3つ目の要件を外すかどうかですが、これも一律の基準として、要件として設定するというのはおそらく合わないので、パート法でも3つ目の要件は外すことが正しい方向だと思います。有期法も同じようにできたとすれば、有期契約労働者に対して、合理的な理由のない不利益取扱いを原則として禁止するというものになってくると思います。
 ただし、いずれにしても合理的な理由のない限りという留保の中で、どういう取扱いになるのかというと、例えば長期勤続によって発生する給付というのがあります。一般的に退職金というのは最初の3年ぐらいは出なくて、3年ぐらいしたら少しずつ出始めて、20年を超えたらグンッと上がります。この退職金制度自体は合理的だと考えようと。そうだとすれば、パートについても有期についても、ほかに理由がなければ3年経ったときに、その計算式に従って退職金を支払うようにしなさいと。
 パートとか有期ということ以外に何か理由があればちゃんと説明しなさいというものになって、有期契約で例えば1年契約で反復更新して、2回更新したら3年経って、3年、4年になった場合にはちゃんと退職金も3年以上については同じ制度を適用して、ほかに理由がない限り払いなさいという取扱いになるだけで、3つ目の要件は外しても、実態に合った対応が十分可能だと思います。
○浅倉委員 それは賛成です。たとえば通勤手当の問題などを考えるとはっきりするのではないでしょうか。通勤手当をパートに払わないというのは、どう考えてもおかしいです。週2回しか通ってこなければ、週2回分の通勤手当を払えというのは当然の考え方だと思うのです。どの労働条件も「一律に」というのが非常におかしいというのはおっしゃるとおりだと思います。
 先ほどの無期契約か有期契約かというのもおっしゃるとおりだと思っています。佐藤先生が出した例と対比して言えば、任期付きの教員もいます。ロースクールには、任期付きの実務科教員がたくさんいるので、そういう人の比較をと考えれば、無期か有期かはほとんど変わりがないのです。ただ、3年経って退職金がたぶん影響するという程度ではないかと思います。たしかに、非常勤の場合と任期付きの場合とが、処遇について異なる扱いになる可能性があるかもしれません。
 だけど、いまのパート法の構造からいうと、この条件に「当てはまらない」、「当てはまらない」、というふうに排除していくと、すべてが比較対象にならないということになってしまい、検討そのものを否定するような形になっているので、そこがおかしいのです。なんとか比較を行い、検討をして、格差があっても合理的な理由があるのかどうか、それらを一生懸命探していこうという仕組みにすべきではないかと思うのです。それから、先ほど佐藤先生がおっしゃった2つ目の均衡のほうなのですが、企業を超えて決まるわけではないとおっしゃったのですよね。
○佐藤委員 均衡というか、賃金制度の決定要素の決め方が企業ごとで違うだろうという話です。
○浅倉委員 そうですよね。それはおっしゃるとおりで、ほかの国でも、判決などで想定されているのは、企業の中の比較の問題なのです。何も企業横断的にしなければ比較はできないというわけではないと思います。企業ごとに合理性を追求していくことになります。もちろんヨーロッパでは、団体交渉は企業を超えていますけれども、判例などで問題になる場合は、企業ごとの賃金決定の中の話なので、そのような制度を日本に導入することについて、十分に可能性はあると思っています。
○今野座長 黒澤さんに質問したいのですが、正社員とパートで、賃金の均衡問題を考えたときに、先ほどの佐藤さんの言葉を使うと、違う賃金制度を適用していて、賃金水準を決めているわけです。そのときに、パートの場合は入口は市場賃金を使うということでいいのですよね。
○黒澤委員 はい。
○今野座長 そうすると、これが1つの出発点というかベースになっているわけです。このベースが、例えば黒澤さんが言ったように、買手独占になって、もともと合理的な賃金水準ではないという出発点に立つのと、もう1つは、まあまあちゃんと市場の競争で決まっているのだという出発点に立つのとでは、このいちばん最初の重要な出発点の評価が違うのです。
 パートと正社員の均衡の賃金の決め方は、もし私が企業の人事の担当者だったら、1つの考え方としては、パート法で均等のほうは決められてしまっている。厳しい均等でいいのですよ、同じような仕事をしていて、人材活用も一緒でという人は、正社員のこの人の賃金を決めます。あとは入口を決めるよね。あとは、ここで線を引けば賃金制度が出来上がるわけです。そうすると、この出発点が非常に重要なのです。どこの位置で考えるか、その辺はどうですか。これを不当とやられると大変だと思うのです。
○黒澤委員 実際に、いまパートの市場はモノプソニーになっていると思います。それに加えて、正社員の転職市場において、とくに中小企業や低学歴の方々においては、正社員として雇われたとしてもターンオーバーが激しい状況にあり、その方々が、能力情報がかなり流通した転職市場で、効率的に転職しているかというと、日本の場合はそうでないと思います。
 いま申し上げたような資格を導入するというのは、正社員の一部の離転職の高いグループの方々の能力情報を流通させて、より自分にマッチした転職ができるようにするという効果もあるし、パートタイムの方々の陥っている買手独占状況から逸脱させるという効果もある。もちろん制約のある方も多いですけれども、そうではない人たちもパートにはいらっしゃるわけですから、その辺りでの能力情報を流通させれば、そこでの相場はもうちょっとレベルアップしたものが出来上がっていくと思うのです。
 そうすれば、買手独占状況そのものを緩和すること、改善することもできるし、正社員とパートの方々の中でも、より正社員に近い働き方をしている人とか、正社員の中でもターンオーバーを頻繁に行っている方々の処遇も、これからもう少しアップさせることができる。それは、もしかしたら正社員全般の処遇が下がることにつながるかもしれない。しかし、その辺りでパートと正社員との連続性を担保できるような方向性には行くのではないかと思うのです。
○今野座長 いまの企業で正社員の場合は、非常に定型的な業務があって、単純に高度と言ったりして、この中間程度の仕事はみんなあるわけです。この中間程度の仕事では募集しないわけです。このいちばん低いところでしか募集しないわけです。だから、パートの人がいかに能力が、つまり中間に入れる能力があったとしても、買手のほうが要らないというか、ここで買いたいと言っているわけです。
 黒澤さんが言われていることは、もし企業側が真ん中のほうもパートに対してオファーが出せるような状況になってきて、そのための条件作りとしてジョブ・カードみたいなのがちゃんと出てくると、もう少し能力の高いパートの人たちが中間に入ってくるような形で、マクロとしては非常に人材の活用度が上がるからそっちがいいという話ですか。
○黒澤委員 行く行くはです。
○今野座長 そうすると、いちばん下は別に合理的ではないですか。
○黒澤委員 いまのところは買手独占が起こっているから、買い叩かれてはいるわけです。
○今野座長 それは能力の高い人がね。
○黒澤委員 高い人は。
○今野座長 高い人は低いところへ行っているからね。でも、別に高いのは要らない、別に叩いているわけではない。ここで買いたいのだから。
○黒澤委員 要らないとは言えないです。それは、オルタナティブがないから、だからしょうがないというふうに選択をしているわけです。先ほど権丈先生がおっしゃったように、今後の話を考えれば少子化なわけですから、企業はそうやっていちばん底辺から採って、それで自分たちで全部育て上げていくということを、自分たちが必要とするすべての人材に対してやり続けるというのは、これからは不可能だと思います。そういう意味においても、資格といった仕組みをより充実させていくことが、政策的には打ち出さなければいけないというか、すでに始まっているわけですが、ますますそれを促進させていくことは必要だと思います。
○佐藤委員 先ほど水町さんが言われたように、処遇については、例えば基本給とか賞与とか、ボーナスとか、それ以外の各種手当なども、パートとフルについて議論すると、一律の要件ではなくて、それぞれ異にする合理性はあるのかということをきちんと議論しておく。忌引についても、社員のほうは仕事にリンクしないわけで、役職員一律にあるわけです。こうすると、パートだけ外すという合理性はなかなかよく説明できないのです。そういう議論ができるようにしたほうがいいかと思っています。ただ通勤手当はなかなか難しくて、これがあるのは日本ぐらいなのです。
それでもう1つ合理性でいうと、たぶん企業が人事権を持ち、事業所間異動とか、住む所というのは会社の人事異動で決まってしまうわけです。そういうこともあって、通勤費というのは1つ合理性かなと思っているのです。ですから社員かパートではなくて、例えば店舗で異動がないといったら、社員もパートも通勤費はないと、来られる人からということはあり得るのではないですか。異動があれば、パートも社員も、例えば会社が店舗を動かすと勤務先が変わってしまう、通勤費は本人負担というのはおかしいではないかということはあると思うのです。そういう合理性の説明というのはすごく大事になるかと思っています。
○今野座長 水町さんと佐藤さんが言われたようにやると、裁判所が大変ではないですか。全部裁判所に持っていってしまうことにならないのですか。
○山川委員 もともと裁判所はそういうものが仕事だと思っていますので、あまり問題はないと思います。行政がそれをできるかという問題については、水町さんも言われていますけれども、やはりガイドラインなどについては必要になるかと思います。
○今野座長 企業だって、予測できないですから困りますよね。
○山川委員 もう1つは、企業内に集団的に適正な手続を経て評価したものにはそれなりの価値を与えることです。例えば、パート労働者については職務上必要なものを除き教育訓練について正社員との間にセグレゲーションというかセパレーションが見られるという問題なども、パートタイムのキャリアアップのためにOJTを計画的にやりますということをいろいろな意見を聞いて実現したのであれば、結果的に同一の労働を行っている状態になったとしても、合理的理由があるものとして認めることが考えられます。
 先ほどの3つの要件で立証責任の転換につき触れましたが、実は正社員との異同のほかにも差別禁止の例外が認められる余地はあるかもしれないので、それも立証責任の分担に組み込んだほうがある意味で柔軟で、企業の実情にも合うということはあり得るのではないかという感じがします。手続きに関する集団の扱い方はいろいろあって、説明義務の相手に従業員代表を加えるというような方法はありえます。ただ、法制度の仕組みとしてどうするかについては、1つは、助成金というようなインセンティブを与える方法があるほか、先ほど言った合理的な理由を認めやすくするような仕組みにするなどの方法もあり、集団的な関与を認める際の仕組み方はいろいろ選択肢があり得るかという感じがします。
 それによって企業ごとの違いについても、裁判所がいちいち判断しなくても済むような形、あるいは行政でもそれほど困らないような形にする。その辺りはまだ具体的には考えていないのですけれども、そういう対応はあり得るかという気がいたします。
○浅倉委員 いまの議論に関係すると思うのですけれども、均衡待遇のほうですが、私はこちらの第9条も非常に大事だと思っています。京都市女性協会事件の判決で、せっかく第9条があるのだけれども、それが機能しなかったのは、判決が言っているのですが、これは努力規定だからだということでした。結果として機能しなかったのは、たしかにそういうことではないかと思います。先ほどの行政がどう関与できるかということも重要ですが、裁判規範としてどう機能するか、その議論がまずは非常に重要なことなのだと思います。原則としてはパート法も、裁判規範としてきちんと機能するような仕組みにしておくべきです。
 いまの均等法もそうですが、差別禁止規定になっていて、その上で行政指導もできるという仕組みにしておけば、もっともっと機能するようになると思うのです。9条が努力義務規定になっていることがかなりネックになっています。たしかに行政指導も必要ですが、まずは禁止規定として均衡処遇を義務化して、その上で行政指導をしっかりやるような仕組みにできれば、もう少し第9条も機能するのではないかと思っています。もしこれを義務規定化しても、先ほど水町先生がおっしゃったことと矛盾しないのではないでしょうか。
○水町委員 例えば、7割とか8割とか数字を決めてしまうのは大きな問題なのですが、実態に応じてバランスを公正な形で取らなければならないという規定にして、あとは実態に応じた労使の話合いとか、それでも残ってしまった不公正さについては裁判所が事後的にチェックするということは十分にあり得ます。
 教育訓練の話は次回以降と思っていたのですが、本日の話の中で少し出たので、本日の話との関係で申し上げますと、先ほど山川先生からもお話がありましたように、労使の話合いとの関連付け方なのです。なるべく制度みたいな、集団的に話し合う基盤みたいなものを制度化するときに重要なのは、賃金の決め方とか水準を合わせることも重要ですが、それに教育訓練の在り方をこれからどう活用するかというのも重要な問題として結び付いているので、集団的コミュニケーションの中に、パート法に関する、非正規に関する行動計画みたいなものも入れ込んで、処遇の在り方と密接にかかわる教育訓練についても労使の実態、企業の実態とか、将来の経営計画みたいなものと合わせて促していく。
 黙っているとなかなかうまくいかないので、それについては法的に促すためのツールがあるというのは、助成金等を含めて考えなければいけないかと思います。ジョブ・カードのように外で移動を促すやり方と、企業の中で、内部労働市場の中である程度継続性がある人たちについては育てるというのを計画を立ててやらせるということも1つの重要なポイントかと思います。
○今野座長 その場合にこういうのは違反なのですか。すでに実態上は、パートの人だろうが現在の仕事をしてもらうには必要なスキルがあるわけだから、それはもう訓練しているわけです。そうすると、問題は将来に向かって訓練するかどうかです。私が社長だとして、私は別に将来は期待していない。だから、将来のキャリアは考える必要がないので訓練しませんと。つまり、訓練というのは、訓練自身がニーズではなくて、将来のターゲットがあって、つまり将来どのように活用しようかというターゲットがあって決まる戦略なので、だからこれ自身では決まらないのです。私がそういう行動をとったら、経営者は訴えられるから駄目ですか。
○水町委員 訴えられないです。行動計画を作っていないか、行動計画の中にそういうことをきちんと説明して書くかの問題です。
○今野座長 書き方の問題ですが、A社員群は将来の幹部候補生とか、現場監督者としては期待しない働き方であるとちゃんと書いておいて、それで訓練しないのならいいのですね。
○水町委員 言葉のことですけれども、期待しないと書くよりも、もっとまろやかなほうが。
○今野座長 活用しないというのはいいわけですね。
○水町委員 そういうのをきちんと説明できればいいわけです。ただし、逆に政策的な方向性として、黙っていれば市場の中で訓練されないような人たちについて、政策的に訓練を促しましょうという方向性があって、それについては公的なお金を一部使いましょうというのに合った事業計画、行動計画を立てた人については、公的な支援が得られますという制度設計をする。
○山川委員 それはあり得ると思います。そこは、先ほどの人材活用など、法律が介入する根拠があるかという問題の他に、何らかの法の介入の根拠はあるとしても、その手法として強制まではできないのではないかという問題もあります。あとは、関係者のニーズもあるので、対応はいろいろあるような気がするのです。全くいまの現状どおりでいいという方と、仕事は現状でいいけれども安定が欲しいという方も考えられます。これは有期契約の問題かもしれませんが。そのほかにキャリアアップが欲しいという方、現状でいいけれども、賃金の向上なり是正はしてもらいたい方とかいろいろなパターンがあるので、そのニーズをどのぐらい考慮するかということはあるかもしれません。それによって考えるべきことが違うかもしれないです。
○佐藤委員 能力開発は今野さんが言われたように、与える仕事についてはできなければ困るからやるわけです。問題は、次のキャリア段階を作って、そこを歩ませようと会社が考えて、そのほうが得だと思えるかどうか。そこは法律でやれるかどうかというのはなかなか難しいです。やはりキャリアラダーを作ったほうが、パートのモチベーションも高くなるとか、人を集めやすくなる。社員と分離するのではなくて、重ねたほうが転換しやすくなるとか、そういうメッセージを出すしかないのかと思います。
 教育訓練をしろと言ってもいまの仕事をやるわけです。キャリアラダーを作って、さらにそれが正社員への転換につながるような仕組みを作ったほうがプラスだというメッセージを出す、あるいはそれを評価するというような形でしかやり様はないかなと思うのです。
○黒澤委員 JILPTのやった研究会でも、実は非正社員と正社員で比べると、もちろん教育訓練の多寡は全然後者のほうが高いわけですが、企業によっては非正社員としての形態のままに活用する、活用を進めていく度合が進化している所もあって、そういう所は非正社員にもかなり教育訓練をします。
 ところがそうではなくて、早期で正社員に転換させて、その上で教育するという企業もある。すべてに共通なのは、必要最低限のところを入口でやるということはあるのですが、そうして平均的に見ると、その後のテニュアに伴って教育訓練が高まる正社員とは違って、勤続に伴う高まりが非常に少ない。
 ただ、そこで政策的に関与していくべきかということを考えるとき、まずは先ほど山川先生がおっしゃったように、やはり企業としては非正社員に訓練をする合理性はないという前提がある。しかしながら、資本市場の不完全性とか、資金がない、時間がないといった状況が支援をすべき根拠になる。そしてその支援方法の1つは、それを公的ないろいろな補助金や公共訓練ということでやる、ジョブ・カードでやる、つまり外部でやる。もう1つは、先ほど水町先生がおっしゃったように、企業内部での活用の向上を促進させるような手立てを何らかの仕組みとして導入するということもあるかと思います。
○今野座長 先ほど、水町さんと佐藤さんが言われた、個別の案件でいろいろ考えていけばいいと。これは、いっぱいシミュレーションしてみないと大変だね。こういうケースの場合はどうだろうかと。ガイドラインを作るにしても、どうやってやるのだろうと思いながらお聞きしていました。一般論としてはわかるのです。
○水町委員 例示という形で、フランスやドイツなどでも、日本と類似のようなケースで考慮されている事項とか、この給付についてはこれがポイントとなるような理由がある程度類型的にあるので、今度は類型なのだけれども、例示にすぎないということでガイドラインを示す準備をして、それである程度コンセンサスが得られればそれをガイドラインにする。ただし、それを形式的に用いて、また職務分離につながるといけないので、こういうのを基に、ちゃんと労使で実質的な議論を中身でやってください、それをやっていれば合理的理由ありと評価されることが多いですよ、という中身を少し考えたほうがいいかもしれないです。
○今野座長 どこかで、シミュレーションをやらなければいけないですね。
○浅倉委員 前回、水町さんの報告のいちばん最後のほうに2枚ぐらいありましたが、あれはかなり指針になるかと思わせるような基準をお示しになっておられました。
○水町委員 佐藤さんからお話があったイギリスの基準も、実はかなり類似しているので、その辺を総合しながらたたき台を作っていただければと思います。
○浅倉委員 たぶんヨーロッパでは共通していると思います。
○佐藤委員 現行の問題をきちんと法律に書いてしまうか、もう1つは水町さんが言われる不利益取扱い禁止みたいにしておいて、その不利益な差別的取扱いにならない合理的理由をある程度例示的に示す。いまのパート労働法の一部はそこに入るかもしれないです。ただ水町さんが言われたように、それをやってもいいというわけではなくて、これは個別に判断される可能性があります。
 ただ、何もないと、企業も人事管理も人事制度も作れないし、労使でも話合いが難しいと思うのです。原則を書くだけであれば、やはり何らかのガイドラインなり情報提供がないと、現行法からは距離が大きすぎるので、現場は混乱してしまうと思うのです。やはり情報提供はすごく大事になってくると思います。
○浅倉委員 合理的理由がある場合を除いて、パートであることを理由として差別をしてはいけないという条文を起こして、その合理的理由というのは次には何かというような、例示ではなくて概念規定を置いて、そして指針の中でその合理的理由を具体化するというのは妥当だと思うのです。そうすると、それを使ってさまざまな企業の中の交渉もできるし、制度改善もできていくかなという感じなのです。
○佐藤委員 ただそれが難しいのは、現行のやり方に比べて、行政指導がやりにくいことがあるのか、そこは難しいところです。いままでは、割合日本の行政というのは明確なルールがあって行政指導していたところがあります。
○水町委員 第8条、まして行政指導というのも、そんなにたくさん指導しているわけではないです。
○浅倉委員 第8条は、最初の入口で指導できなくなっているのではないですか。
○今野座長 それに関連していちばん難しそうだという問題は、先ほど佐藤さんからお話があったように、社員によって賃金制度を変えてもいいと。それは人材活用方針がこうだから、賃金制度は変わったっていいと。したがって、賃金の水準も変わってくる。そのときに、ある差が出たときに、それは大きすぎると訴えられたときにどうするのですか。
○水町委員 均衡のほうで、こういう規定の作りぶりにするかです。
○佐藤委員 私は、現行法でも、例えば同じ仕事という場合でも、正社員の中でも雇用区分を分けたときに、時間は全く同じでも均衡についてはなかなか水準は示せないのではないかという気がしています。だから手続のところがすごく大事で、つまり雇用区分が違って同じ仕事とかいったときに、あと1つは雇用区分の中の賃金格差なら同じ雇用区分が、一般職の管理職の賃金格差が2倍までしかいけないというのを決められるかというとそんなことはないわけです。
○今野座長 そっちは関係ないのですよね。先ほどの話では、理屈としてはパートは弱いのだから介入しようという話だから、正社員の中がどうだろうとそんなのは勝手だと。
○水町委員 長期勤続の職能給は一方であって、短期で、時間給で、短時間でやっている人たちで、ただ、いまの瞬間を見てみると同じ仕事をしている、責任もそんなに変わらないけれども、1つは職能給に乗っていて、1つは時間給で職務給的なので、100と50ぐらいの違いがあるときにどうするか。
○今野座長 先ほどの議論は、違ってもいいという話になったのですよね。
○水町委員 違ってもいい。
○今野座長 違ってもいいけれども、今度はそれで。
○水町委員 それが100と50か、100と20か、100と80かという話について、どう公正さを維持するようなバランスを条文の中に書き込むかというと、たぶん数字は書き込めない。
○今野座長 書き込まなくてもいいけれども、ガイドラインでどんなことを書きますか。
○浅倉委員 均衡について、第9条については現に行政指導しているわけです。ですから全くかけ離れているわけでもない。
○今野座長 でも、その種の行政指導はほとんどないと思います。
○浅倉委員 水準については、第9条第2項と第1項とがあります。
○大隈短時間・在宅労働課均衡待遇推進室長 第1回のときにもそういうご質問がありましたが、あくまで水準何割というのではなくて、賃金制度の決め方について、賃金を決定するときの要素を正社員と同じものとする制度の作り方、枠組みの指導を第9条のほうではしています。
○今野座長 どうなるかわかりませんけれどもすごくこだわったのは、入口で外部労働市場で決めている賃金が何らかの意味でベースになるので、それを是とするか非とするかで全然違うと思うのでこだわったのです。
○権丈委員 確認の質問なのですが、水町先生がおっしゃられた方法でいくと、第8条だけが影響を受けて、第9条は基本的にそのままという形ですか。
○今野座長 別に第9条自身をどうするかというのはあまり考えていないのですけれども。
○水町委員 第8条は大きな改正が望ましいとは思いますけれども、第9条についてはいまは努力義務規定で、そんなに強い効力を持つとは想定されていないところの語尾を少し改めて、裁判でも状況によっては使えるものにするというメッセージを送るかどうかです。
○今野座長 先ほどお二人が話していた個々の事情を勘案して、この事情だから、この賃金差は合理的だとか何とか言うときには、たぶん同じ問題を抱えると思います。
○水町委員 同じ問題だとして、合理的理由のない不利益取扱いという第8条に包含してしまうという考え方も1つあり得ると思うのです。
○今野座長 それはあると思います。
○水町委員 それを含めて労使で話し合ってくださいというものにするか。そうすると、いままで均等と言われていたものが非常にインフレ化というか、逆に中身は何でもいいのではないかという話になりかねないので、均等は均等でやって、バランスの問題は少し規範的なレベルを下げて、第9条の状況でちょっと弱いものというか、当然裁判所で違法と判断されるものかどうかは状況に応じてというニュアンスのものにするかです。
○今野座長 先ほど私が例示で言ったのは、現在のような厳密な均等みたいなのがあって、そうするとそこは賃金をフィックスできる。そうすると、あとは入口さえ決めて、それは是と言ってもらえれば、大体真ん中の賃金は決まるのかなと思ったのです。言っている意味をわかっていただけましたか。
○水町委員 わかりますけれども、入口の設定の仕方が公正かどうかというところが。
○今野座長 だから、そこは市場は神様だと思うかどうかです。
○水町委員 買手独占で、神様が存在しないという話もありましたから。
○佐藤委員 正社員のほうも、入口の初任給は一般的には労使で決まるわけです。その中の合い方は会社によって違うわけです。ですから、そこは最後を議論しないわけです。入口を前提として、中の決め方は賃金制度で決まるわけです。ある場合は労使の交渉で決まるわけだけれども、それと同じです。そういう意味では、入口のところの差についてはOKだと考えざるを得ないのかなと思うのです。企業にとってはです。
○今野座長 そうすると考えやすい。私が人事担当者だったら、制度を設計しやすいと思います。
○水町委員 それもガイドラインの中に例示していく。座長案ということで。
○今野座長 別にそうではないです。
○山川委員 入口のところの差が合理的であればというのは、先ほどの程度問題というか、水準の問題についてのみ関わるのか、それともすべての場合の差別禁止の合理性について問題になるのかという点ですが、今野先生のおっしゃるのは水準レベルの問題についてですね。
○今野座長 そうです。
○佐藤委員 社員で入ってきて売場主任をやる場合とパートで入って売場主任である場合は、入口で引っ張ってしまっているという話ですね。そこをどうするかという話です。それを前提にした均衡の格差は、賃金制度を異にするのはいいのだけれども、いまの50と100の差は入口でもかなり付いているのではないか。入口のを引っ張ってきて50の差があるのではないか、これをどうするのかです。
○今野座長 もう少し理屈っぽく言うと、賃金制度自身は、賃金水準を決めない。賃金制度というのは、社員の間の賃金の序列しか決めないので、その序列に対していくらの賃金水準を設定するかについてはいろいろな選択肢があるわけです。だから、職務給を取ろうが、賃金水準の順番を職務評価で決めるだけで、いちばん下の職務にいくらの賃金を設定するかなどというのは政策変数ですから、本当は多様な水準が対応するのです。そのときに入口の賃金は固定ですというか、市場で決まる水準でOKですとしてもらうと賃金全体がパッと決まるのですが。
○佐藤委員 ただ上の合い方は、賃金制度は外部均衡と内部均衡を考えるわけなので、1つは内部均衡といったときに、いままでは同じ雇用区分の中だけだった。そういう意味では普通なら納得性を考えると思うので、常に下に引っ張られているからいいというふうにはならないと思うのです。
○今野座長 現在のパート法みたいな、非常に狭くてもいいのですが、均等をはっきりしてもらうと上と下が決まるから、大体賃金制度が決まるというだけの話なのです。
○山川委員 裁判所では、例えば日ソ図書事件などは、原告の方は入社時は補助的・定型的業務に従事していたのですが、そのうち正社員と同じ仕事内容になった。その同じ位置付けになったというところをどう考えるかです。それがすべて想定される差別禁止の要件に該当するとしたら、個別的には是正せざるを得ないことも起こり得るのではないかという感じはするのです。
○今野座長 いまのパート法だと、この3要素で厳密に定義したときに均等となる水準は決まりますよね。均等の状況にあるパートは正社員の賃金水準にするということが決まりますよね、これは同じにしろということになっているわけだから、ここはフィックスされます。それで入口をフィックスすれば、あとは途中の賃金は、賃金制度をどう設計するかは自由ですけれども、もし職務ベースの賃金にするのだったら、職務に従って賃金を下げていけばいいだけです。そうすると、そこで傾斜を付けるわけです。職能給だったら、職能で順番をくっ付けるということになる。
○浅倉委員 その入口フィックスという意味がちょっとわからないのですけれども。
○今野座長 いやいや、市場で決まる。
○浅倉委員 市場でですか。
○佐藤委員 水準がね。だから、時間給いくらというのはマーケットで決まり、それをベースに。
○浅倉委員 そこはいじらないというのでしょうか。
○今野座長 いじらないというか。
○浅倉委員 相手によって異なる市場を設定するということでしょうか。
○今野座長 だから、そこはいいですかと先ほど黒澤さんにしつこく聞いたのは、そこが極めて非合理だという話になると、設計が非常にしにくい。
○佐藤委員 ただ、そこは企業にとっての場合と、政策的に最賃になるかどうかは、政策はそこを一気にいじっているわけです。それは別の議論があって、やはりそこが低すぎるのを上げるというのは政策的な議論をやる必要があっても、企業にとっては義務だと。
○今野座長 それは、最低賃金がありますからね。
○佐藤委員 最賃の中でどう動かすかというのはあります。
○今野座長 そろそろ時間なのですが、しばらくこういう自由な議論をずうっとさせていただいて、アイディアを蓄積していって、最後にどう落ち着けるかを考えたいと思いますので、次回以降も大いに勝手な意見を出していただきたいと思います。本日はこれで終わりますので、次回の日程について事務局からお願いいたします。
○藤原短時間・在宅労働課長補佐 次回は5月20日の午後1時から3時となっております。場所については現在調整しておりますので、決まりましたらご連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。
○今野座長 それでは、本日はこれで終わりにいたします。どうもありがとうございました。


(了)
<照会先>

雇用均等・児童家庭局 短時間・在宅労働課

電話: 03-5253-1111(内7875)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 雇用環境・均等局が実施する検討会等> 今後のパートタイム労働対策に関する研究会> 第4回今後のパートタイム労働対策に関する研究会議事録

ページの先頭へ戻る