ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 厚生科学審議会(感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会)> 第2回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会議事録
2010年10月18日 第2回 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 議事録
健康局結核感染症課
○議事
第2回 厚生科学審議会感染症分科会
予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 議事録
【日時】平成22年10月18日(月) 17:00~19:00
【場所】厚生労働省 省議室
【出席委員】(50音順)
池田委員、岩本委員、岡部委員長、倉田委員、廣田委員、宮崎委員
【参考人】
清水参考人、砂川参考人、多田参考人、谷口参考人、多屋参考人
【厚生労働省出席者】
(健康局)
外山局長、亀井結核感染症課長、鈴木がん対策推進室長
藤井予防接種制度改革推進室次長
(医薬食品局)
三宅血液対策課長、
○予防接種制度改革推進室次長 定刻になりましたので、ただいまより、第2回厚生科学審
議会感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会を開催します。事務局より、
本日の委員の出席状況ですが、岩本先生が遅れていらっしゃいますが、出席されるとのご連
絡を受けています。そのほかの先生方、6名の先生のうち5名はご出席いただいていますの
で、今回、会議が成立しますことをご報告申し上げます。
本日は、委員の先生方のほかに個別疾病・ワクチン作業チームの各作業チームからご報告
をお願いしています。ご説明いただく皆様方のご紹介をさせていただきます。感染症研究所
感染症情報センター室長谷口先生、同じく感染症情報センター室長多田先生、同じく感染症
情報センター室長多屋先生、国立感染症研究所ウイルス第二部室長清水先生、国立感染症研
究所感染症情報センター主任研究官の砂川先生です。そのほか、先生方の後ろに各チームの
先生方が座っておられます。ご紹介は省略させていただきます。
これからは、岡部委員長に議事の進行をよろしくお願いします。
○岡部委員長 どうも、お忙しい中お集まりいただいてありがとうございます。今日は、時
間が限られているので、できるだけ要領よくいきたいと思います。とはいえ、議論を不足し
たらよくないので、充実した議論をしていただきたいと思っています。事務局から配付資料
の確認をお願いします。
○予防接種制度改革推進室次長 簡潔にさせていただきます。配付資料は、座席表、議事次
第、配付資料一覧のほかに先生方の委員名簿です。資料1、資料2-1から資料2-2-1、2-2-2、
資料2-3、資料2-4、資料2-5、資料2-6、資料2-7、資料2-8、参考資料として2枚紙の参
考資料1、1枚紙の参考資料2を置かせていただいています。7月7日の部会で配付させて
いただいています各疾患ワクチンに関するファクトシートは机上のみに配付させていただ
いています。おわびなのですが、資料2-5ですが、事前に送らせていただいたものと変更に
なっています。具体的に申し上げますと、21頁の31行目から35行目までの3行について
変更になっています。それ以外は事前に送らせていただいた資料と同じです。過不足等あり
ましたらよろしくお願いします。
続きまして、利益相反について事務局からご報告申し上げます。審議参加に関するご報告
です。以前、委員の先生方には利益相反に関する申告書を提出いただいています。製造販売
企業からの寄附金等については、会場からご退席いただく委員はいません。申請資料の作成
に関与した委員としては、宮崎委員がB型肝炎、おたふくかぜ、ポリオに関係するワクチ
ン審査にかかる資料作成にかかわっておられますことをご報告申し上げます。
○岡部委員長 ありがとうございました。いまの利益相反についてですが、利益相反はきち
んとした申告をして、それに基づいて発言をするとか、議事にかかわる、かかわらないかと
いうことを決めるので、そのまま委員にいる、いないという問題と別だと思います。宮崎委
員の場合は、最初の開発、あるいは途中の治験の段階でおたふくかぜ、ポリオに関係してい
るということですが、部会の申し合わせでも、小委員会で発言が必要であれば、是非発言を
していただきたいとなっております。公平中立はもちろんですが、そういう意味では私はや
はり発言をしていただきたいと思います。ただし、小委員会のときに議決をするのはいまの
ところ原則としてはないようですが、利益相反にかかる場合には他の委員会でも議決にはか
かわらないことが時々ある。したがって、そういうようなときには議決にはかかわっていた
だかないことがあると思いますが、発言としては私はいままでどおり闊達な意見をいただき
たいと思うのですが、いかがでしょうか。特にご異議がなければ宮崎先生にも参加していた
だきたいと思いますので、よろしくお願いします。
( 異議なし )
議事に入る前に、前回の部会のときに加藤達夫先生が緊急提言をされていますが、それに
関して個別の話としては委員の先生方、あるいはワーキンググループの先生方に話しをいた
しました。小委員会として提言については、確認いただいていたわけですが、ワーキンググ
ループの先生方には、現在作業中なのにすべての結論が出たのかと厳しいご意見をいただき
ました。しかし、それは提言の下に書いてあると思うのですが、決してこの議論が候補が出
てきたことによって「中断する」とか、「頓挫する」ということではないので、むしろ小委
員会としてはいままで相当なエネルギーを要していますが、それについてきちんと議論をし
て部会に上げて、部会でもそれに基づいた提言をしていただくことがこの委員会の役割では
ないかと思います。いろいろなご苦労をされてワーキンググループの先生方が大変だったわ
けですが、それについて真摯に議論を続けていく必要があると思いますし、さらに内容も改
善していく必要があると思いますので、是非よろしくお願いします。
議事に入ります。今日は、小委員会としては2回目になりますが、今回は、初めに厚生労
働科学研究班による研究班「インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症
の分析疫学研究」廣田委員が代表研究者になっていますが、分担研究者である池田委員が担
当されている「インフルエンザHib型ワクチン等の医療経済性の評価についての研究」の
中で入ったワクチン接種の費用対効果推計法について総論的に医療経済的な面からお話を
伺いたいと思います。その後、個別疾患に入っていきますので、よろしくお願いします。池
田先生、時間が10分ぐらいでよろしくお願いします。
○池田委員 廣田先生の研究班の中で、医療経済評価を担当させていただいています。我々
の研究協力者が各作業チームの中に入りまして、作業チームの先生方にいろいろなデータの
ご提供をいただきながら費用対効果の推計を一通り行っています。限られた時間で行ってい
ますので、データの点で不十分なところや推計法についてご意見等いただきまして、より改
善していきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
資料1は、我々の研究班の中で一定のルールに従って統一的な視点で分析を行おうという
ことで定めました費用対効果の推計法です。実は、さまざまな条件や前提を変えますと、数
字がいろいろ変わってくるものですから、横断的な評価をするために一定のルールを仮に定
めました。
まず、分析の視点ですが、通常ワクチンの場合には、国が払う医療費の節減といった保健
医療費の支払い者の立場からの費用だけではなく、例えば子どもが病気になったときの家庭
内での家族の介護、看護の費用、あるいはワクチンを接種する場合の付添いの費用といった
さまざまなコストが発生したり、あるいは削減されたりすることがあります。そこで、我々
は誰がお金を支払うにしろ、発生することをすべてできるだけ把握しようということで、社
会の視点を原則としています。しかしながら、一部のワクチンに関しましては、なかなかそ
ういった視点での分析が難しいこともありますので、いわゆる保健医療費の支払い者の視点
の分析も併せて行っているものもあります。
費用項目ですが、保健医療にかかわる費用として、ワクチンの副反応が生じた場合に医療
費、診療費がかかってくることがあります。また、そのワクチンを打たなかった場合に、感
染症にかかる場合の治療費もあります。これらは、年度を変えますと、医療費の水準も変っ
てきますので、例えば先行研究の費用などを使う場合には、今年の医療費の水準に診療報酬
の改定率を用いて調整をすることを行って統一をしています。
また、HPVの場合には検診の費用も医療費の中に含めています。ただ、延命により生じ
る、例えば5年長生きすれば5年分のその方の別の疾患の医療費もかかるわけですが、これ
は入れたほうがいいという議論と入れないほうがいいという議論がありまして、今回は当該
疾病と無関係の長生きをしたことにより生じる医療費は含めていません。ワクチンの費用で
すが、ワクチン代のほかに接種の技術料に関する実態のデータが得られていませんので、先
行研究等を参考にして今回設定しています。これに関しては見直しの余地があると考えてい
ます。
また、疾病に罹患して障害を持ったような場合に、福祉施設の利用費用が発生します。こ
れも保健医療費に含めて今回計算しています。ワクチンを接種するために必要となる「交通
費」は、測定が困難ですので今回は含めていません。
次に、生産性損失ですが、患者本人が障害を持って、仕事ができない状態になっている場
合の患者本人の逸失所得、子どもが病気になった場合の看護、介護者の生産性損失を一定の
ルールで計算しています。過大評価を避けるために今回は、女性の月収を使って計算してい
ます。もちろん、女性のみが介護、看護すべきということではまったくありません。過大評
価を避けるために女性の月収を使いました。2頁目ですが、健康アウトカムの尺度ですが、
以前にご紹介をした健康統合指標である質調整生存年、quality-adjusted life yearという単
位を使っています。後ほど、用語解説で説明があります。疾患による障害の程度、いわゆる
生活の質、quality of lifeの重みをつけた生存年月ということでありまして、医療経済評価
では世界的にもっともよく使われている健康アウトカムになります。そして、そのウエイト
は効用値と呼ばれますけれども、日本ではなかなか測定されたデータがありませんので、海
外文献を含む先行研究を参考にして設定をしました。分析期間は、原則として疾患の影響を
捉えられるできるだけ長い期間ということで生涯としていますが、影響の少ない場合には、
より短期の分析期間を設定しているものもあります。
割引率ですが、非常にすぐに理解しにくい概念ですが、例えばいま100万円もらうのと1
年後に100万円もらうのでは、多くの人がいま100万円もらうほうが望ましい、嬉しいと
思うわけです。では、1年後に101万円だったらどうか、102万円だったらどうかというふ
うに調査をしていきますと、大体1年当たり3%ぐらいの割り増しになれば受け入れられる
という結果があります。そういった考え方から払うのだったらできるだけ先延ばしにしたい。
もらうのだったらできるだけ早くもらいたいという意味での時間先行と呼ばれる考え方を、
数字で表現したのが割引率です。通常、年率の3%で計算をするのが国際的にも一般的です。
今回も年率3%で計算していますが、予防的な介入は先にお金が生じて後に便益がくるので、
予防的な介入は割引率を変えると大きく時間がかかってきますので、今回0%と割引をしな
い計算と、5%という非常に大きい数字で割引をした場合とで、将来に発生する費用や将来
に得られる便益を現在価値に割り引いて計算する方法を使っています。基本は3%で計算し
ています。
ワクチンの種類によって分析手法をいくつか実施していますが、基本的には3つの方法の
いずれか、あるいは複数を実施しています。1つは、ワクチンを投与した群と投与しない群
でどちらがお金が安くなるかという費用を比較分析。ここで言っているお金には、実際に支
払う金銭だけではなく、社会の視点から家族が介護、看護する場合の生産性損失なども含ん
でいます。
2つ目の分析手法は、費用対効果分析でして、先ほどお話した健康アウトカム尺度である
質調整生存年をワクチン投与によってどのくらい増やせるのか。ただし、それにはどれだけ
のお金を用するのかということで、費用対効果を計算したものです。通常は、1質調整生存
年、つまり1年分の健康の命の価値を得るのに500万円程度の投資であれば、費用対効果
は良好だというふうに判断されることが国際的にはスタンダードになっていますし、日本で
もそうした調査結果がありますので、今回は質調整生存年、1QALY当たり500万円以下で
あれば費用対効果が良好だと判断しました。
3つ目の手法は、費用便益分析です。この費用便益分析では、費用にはワクチンを打たな
い場合に比べてワクチンを打ったときに、どれだけ追加の接種にかかる費用が生じるかとい
うのが費用です。一方、便益はワクチン接種によって本来発生していたはずの保健医療費が
どれだけ節約できるか。あるいは、保健医療費以外の費用もどれだけ節約できるか。あるい
は、患者本人、看護、介護者の生産性損失もどれだけ減らすことができるのか。これらを便
益と考えまして、費用と便益の関係を計算する。こういう3つの方法を行いました。いずれ
についても、標準的な手法を使って複数のワクチンについて横断的に評価ができるように推
計法を考えました。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。いまの池田委員のご説明に対して何か質問、コメ
ントがありましたらどうぞお願いします。
○谷口参考人 割引に関してですが、もちろん我々チームの中では医療経済の先生がお1
人で、それ以外の5名は医療経済については素人なわけで、かなり我々の担当の医療経済の
先生にはご迷惑をおかけしたと思っているのですが、割引ということで、例えば後遺症が残
る。それに対するいろいろな負担が発生します。これが、割引ということで、だんだん年を
追うごとに減っていくというお話があったのですが、議論の中で子どもの場合には、1歳で
後遺症が出る。大きくなればなるほどそういった負担が増えていく場合もあって、現実とし
て逆割引みたいな形が起こるのではないかという議論があったのですが、そういったことは
考慮されるのですか。
○池田委員 先生のご指摘の、年数が経つごとに費用がかさんでいく場合には、その費用そ
のものを測定し、推計してこの計算の中に入れていく。例えば、1年目は1万円で、2年目
で10万円になったり、3年目は100万円になるというふうに実際にそういう数値を入れる。
ただし、3年目の100万円は現在価値に割引いて考えるということで、2年分ですから約6%
の割引になる。つまり、実際に生じてくる費用を少なく見積もるのではなくて、実際に多く
の費用がかかってくるときは、プラスのまま算出し、現在価値に置き換えるときに割引をす
るということでありますので、障害がどんどん重くなったときにかかる費用をどんどん低く
見積もるという意味ではありません。
○宮崎委員 生産性損失のところですが、いまの日本の子どもたちが0歳で、ある病気にか
かって死亡した場合、生涯の生産性損失はいくらとして計算されているのですか。
○池田委員 今回の計算では、暫定的に20歳から65歳の間の平均的な所得を累計してい
ます。
○宮崎委員 いくらになるのでしょうか。
○池田委員 すみません。手元にないので、作業チームでいちばん活躍している五十嵐がい
るので計算してもらっていいですか。
○五十嵐参考人 先ほどの池田先生がおっしゃった割引率によってだいぶ結果が変わって
くるのですが、大まかに言うと3000万円から5000万円程度になります。やはり、長期の
分析ですと、かなり割引の有無で結果が変わってきますので、単純に年間賃金の45倍には
ならないで、少し低めの推計になっています。
○岡部委員長 ほかにご質問ありますか。
○宮崎委員 生涯賃金が、例えば3000万円から5000万円しかないという意味ですか。
○五十嵐参考人 年間で性別年齢別の平均賃金を入れているのですが、いま新生児で亡くな
った人が65歳になったときの賃金となりますと、65歳時の年間の賃金に先ほどの年率3%
の割引がかなりかかります。池田先生の資料の5頁をご覧いただきたいのですが、ここに割
引の表があります。現在価値に変換というところの49年後から50年後に0.23という数字
がありますが、いまから49年後から50年後の100万円をいまの価値に換算すると23万円
になるという意味でして、このように時間が経てば経つほど、その年に500万円の稼ぎが
あったとしても0.23倍で100万円にしか換算されないことになりますので、総和は決して
5000万円しかかからないわけではなくて、実際には数億円単位で入っているのですが、割
引を行いますと、総額は低くくなります。
○宮崎委員 そこは、実感と合わない。その人が亡くなって一生稼ぐ分の4分の1程度しか
3%割引では結局は加算されないことになります。
○五十嵐参考人 そうですね。言ってみれば本来はその数億円の損失が発生するのですが、
数億円分の損失を全部先取りする分、少し値引きされるというイメージでしょうか。
○宮崎委員 だから、今の換算ということにどういう意味があるのかが、いま1つ一般的な
感覚から捉え切れないのです。
○五十嵐参考人 いまから50年後に500万円もらえる。
○宮崎委員 それは、わかるのですが、生産性の損失といった場合は、実際働いてきて稼い
でいくわけだから、それが割引されるのがよくわからない。いま、その人がもらうわけでは
ないから。
○五十嵐参考人 いまもらうわけではないからこそ、もらう価値に換算するとどうしても割
引されてしまうということ。つまり、いま60歳の人が今年500万円稼ぐのと、いま0歳の
人が50年後に500万円稼ぐのは、いまの価値に直すと差があるということで先ほど池田先
生がおっしゃったように、時間先行の考え方になるのですが。
○宮崎委員 そうなるのですね。
○岡部委員長 ほかはよろしいですか。これは、いまの池田委員の考え方でそれぞれのワク
チンについて費用対効果分析をやっていくのに時間的なもので間に合う。あるいは、もう既
に作業が進んでいるから、ある程度進行していると考えてよろしいですか。
○池田委員 各作業チームの先生方にご協力をいただきまして、少なくとも数字は今回、載
せられたのでありますが、やはりワクチンの接種費用をどのように置くか、これは非常に全
員にかかってくる話なので、大変大きな不確定要素をもつところですが、あるいは将来削減
されるであろう費用に関してもさまざまなことが将来予測ですので、委員の先生方のご意見
も必ずしもまとまらないこともあるような、あるいは先行研究でもいろいろ宛てがばらつい
ていることもあって幅を持たせた推計になっているものもあります。今後、また時間をいた
だけるのであればさらに見直すようにしていきたいと考えます。
○岡部委員長 これは是非、研究として発展していただきたいところですが、いちばん最初
の委員会でもある程度共通の物差しがないとなかなか比較ができないだろうということで、
いくつか共通のものとして、この指針を踏まえてというようなことがありましたので、それ
はよろしくお願いします。いま、池田先生からも先行研究がいくつかあるというのがありま
すし、私の研究班でもデータを出しているので、値が違うだけでも値段が違ってくることが
ありますから、先行研究も是非引用していただいて費用対効果分析をまとめていただければ
と思います。ほかによろしいですか。
方針としては、そういうようなやり方でやっていただいて、限られた時間内のもので、も
し追加があとで出てくるものであれば何らかの形で補足であるとかデータを加えていって
いただければと思います。
いまは、総論的な部分ですが、今度は個別疾病についてそれぞれの作業チームで大変な努
力を重ねていただいたわけですが、基本的には前の部会で出していただいたファクトシート
が基準になっていますが、あまり大きい変化はなく、さらに補充するところの視点と結論に
近いような考察を書いていただくことが目的であったと思います。まず、主査の担当で、感
染研の話を聞く前に最初に作業チームに依頼した経緯の内容ということで事務局から再確
認をお願いします。
○予防接種制度改革推進室次長 簡単にご説明申し上げます。参考資料の1と2があります。
1の検討の内容等の2つ目の○の下に※がありまして、8つの疾病が書いてありますが、肺
炎球菌については小児と成人につきまして、今回とりまとめをしていただきますので、今回
9つの報告書案についてご説明をいただくことになっています。
3番のスケジュールですが、今日は10月18日で、10月中旬に作業チームでの検討状況
についてご報告を中間的にしていただくということで、今回出していただいているものにつ
いては作業中と書いてありますが、今後小委員会でのご議論等々を含めまして変更される可
能性があります。今後ですが、11月中を目標にこの報告書のとりまとめ、小委員会から部
会への報告のとりまとめの作業をしていただくことになっています。
参考資料の1の3頁目以降に名簿が付いています。本日それぞれのチームの先生方にご説
明をいただく予定になっています。参考資料の2については以前にいただいたものですが、
ちなみに先ほどファクトシートというふうにおっしゃっていただきましたが、いま机上にフ
ァクトシートを配付させていただいています。作業チームの先生方には基本的にはこのファ
クトシートについては、変更はしていただいておりません。例えば資料2-1の2頁に「ファ
クトシート追加編」がありまして、ファクトとして追加していただいた部分については、今
回配付させていただいている資料の前半部分に記載をしていただいています。
また、この資料の2-1でいきますと、7頁に「評価・分析編」と書いてありますが、それ
が参考資料の2について、小委員会でご了解いただきました評価・分析の視点に従いまして、
記載をしていただいている、という構造になっています。簡単ですが以上です。
○岡部委員長 どうもありがとうございました。いまご説明いただいたような内容でワーキ
ンググループ、あるいはそれぞれのところで検討をしていただいたということなので、方向
性について、いままでのところで何かご質問がありますか。
それでは個別の議論に入りたいと思いますが、いちばん最初はヘモフィルスインフルエン
ザ菌b型(Hib)ですので、これは谷口参考人からお願いいたします。時間は7分ぐらいで
す。
○谷口参考人 Hibワクチンチームですが、国立感染症研究所の加藤先生、日本小児科医会
ご推薦の深澤先生、国立三重病院の神谷先生、大阪市大の小林先生、北里大学の佐藤先生、
そして私で現在検討中です。
資料2-1を見ていただきますと、まずファクトシート追加編のところに医療経済効果の文
章が入っております。それ以外の追加ファクトに関しましては、時間の関係上ファクトとし
て入れることができませんでしたので、いちばん最後にその文献として入れています。その
追加のものは評価・分析編の中にも織り込んで、同時に評価ということにさせていただいて
います。
7頁「評価・分析編」を基にご説明を申し上げます。このメンバーの先生に何を申し上げ
てよいのやらという気もしますが、教えていただければと思います。まず対象疾病の影響で
すが、臨床的な影響については、そのインパクトに関しては申し上げるまでもありません。
特に28行目からあります菌血症の5歳未満では、かなりの患者にその菌血症が出るという
事実から、臨床的な負担が非常に大きいということを1つ挙げさせていただきます。
また、髄膜炎の罹患率はこれまでの先行研究では、5歳未満小児人口10万人当たり7~
13人となっていますが、これは世界中で指摘されていますように、過小評価の可能性もあ
りまして、別の報告ではその3倍近い報告もあります。これを見ますと海外の報告と同じぐ
らいになりますので、Hibにおける髄膜炎の頻度に関しては、この数字だけをもって少ない
と言うべきではないのではないかという議論が行われています。8頁27行目からですが、
それを診断をするためのこの臨床的な負担、努力、圧迫というのは非常に大きなものがあり
ます。こういった治療につきましても、耐性菌の問題もありまして困難な状況もあります。
こういった困難な疾患に対して、このワクチンの評価ですが、現在、利用可能なワクチンは
破傷風トキソイドの結合体ですが、その効果については国内のデータでは初回接種後の感染
防御レベルに関して非常に有効なデータ、抗体保有率が99%、長期感染防御レベルは92.4%、
追加接種後には100%であるという報告がございます。
また、実際のフィールドにおける報告においては、海外からの報告において、例えば米国
では5歳未満における侵襲性の感染症は99%減少、スウェーデンにおいても92%減少した
ことが報告されていまして、このワクチンの効果に関しては疑いのないレベルであろう。ま
た集団免疫効果として、Hibワクチンの定期接種化によりまして、保菌率が低下しています。
実際それ以外の侵襲性感染の軽減も期待できるのではないか。そして、もちろん医療体制へ
の効果、つまり現在のカシンテンされています医療体制の負担を軽減することも期待できる
ということを議論しています。つまり、この予防接種はこのワクチンを導入することによっ
て、患者あるいはこの後遺症、死亡者数を減少させることが大きな目的ですし、また、小児
救急医療の負担を減らすことにも非常に繋がるであろう。
安全性についても、これまで世界100カ国以上で導入されていますが、重篤な副反応は
認められず安全なワクチンであるというふうに評価をしています。医療経済学的な評価に関
しては、これまでの各国のデータにおきましては、非常に効果があるという報告と、そうで
もないという報告もあります。ただ、社会の視点で見たところでは、医療費削減に働くとい
うことの報告が多くあります。今回、研究班で行っていただきました国内の研究においては、
保健医療としては4頁の6行目以降です。保健医療費としてはコホート全体で削減となりま
すが、ワクチン接種費用が高額となりますので、費用対効果費は決して良くはありません。
また、死亡損失を考慮に入れて費用便益分析を行った結果、費用便益費は0.58とコストが
便益を上回る結果となりましたが、実はここで先ほどの割引率ということで、かなり議論が
行われまして、佐藤先生には膨大なご迷惑をおかけしたのですが、「ゼロとしろ」という議
論も行われました。もちろんこれは感度分析で0~5%でやっていただいたものですから、
0%として算出すると、これは便益がコストを上回るという結論をいただいています。
その実施につきまして、この予防接種の目的を果たすためにどの程度の接種率が必要かと
いうことに関しては、本疾患のR0、基本再生産率は論文によると3.3程度と推計されてい
ますが、これは他の百日咳、ジフテリアなどと比すれば低く、より低い接種率にてその目標
は達成できる可能性はあります。また、持続期間については自然ブースターの効果もありま
して、明確な数字がなかなか探しにくいのですが、少なくとも侵襲性感染に対して、高い感
染のある期間の間の効果があるということは証明されています。ただし集団免疫効果という
ことと、より速やかに疾病の減少効果を期待する場合には、このキャッチアップという接種
の必要性が、いずれでも議論がされています。
このワクチンの導入におきましては、現在国内で承認されているワクチンがございますし、
15頁20行目以降ですが、これまでの需要供給量を見直しました結果、これまでのところ定
期接種化がされても供給不足にはならないだろうというふうに評価をしています。
接種スケジュールとしては、これは通常の方法で行われますが、特に2か月齢以上、7か
月齢未満で接種を開始することが寛容であって、それに加えてキャッチアップを行うことが、
大きく議論されています。ただ、今後DTaPとの混合ワクチン化というのは、いろいろなワ
クチンがありますので、これを考えていくべきであろう。総合的な評価として、現在の疾病
の負担、そしてそのワクチンの効果を考えた場合には、これは導入すべきである。また、現
在の疾病は限りある小児救急医療体制と医療費を圧迫していることから、このように効果が
高くて安全であることが判明しているワクチンを導入することによって、遅いと言われれば
遅いのですが、いまこそ治療から予防への戦略転換を行うべきであるという結論をさせてい
ただいています。
ただ、課題につきましては、このキャッチアップ接種を考えていただくこと。そして、特
に12月か月までの乳児は、多くの感染症に対して脆弱であることから、多種類のワクチン
接種が求められますので、すべての対象児が接種機会を逃すことのないように同時接種を考
えていただくこと。そして、やはりサーベイランスをきちんと行うことによって、きちっと
評価をしていくべきであるし、先ほどの医療経済でも検討をされましたように、接種費用が
欧米に比して高額な値が設定されていますので、これらも今後検討をしていただくべきであ
ろうということです。以上です。
○岡部委員長 どうもありがとうございました。ただいまの報告についてご質問がありまし
たらお願いいたします。
○池田委員 若干の補足を1、2分でさせていただきます。今回の報告書の3頁に国内外で
行われた医療経済評価の文献のレビューの表、表1がございます。この研究のうちアメリカ、
韓国、スロベニアで行われた研究は、すべて割引率が3%ないし5%を採用しています。日
本の研究のみが割引率0%、割引なしで計算をしたものになります。結果が韓国のものはや
や悪い結果になっていますが、その他の国のものは費用対効果良好ということですが、日本
の状況と異なるのが髄膜炎の罹患率であるとか、あるいはワクチンの費用、そういったとこ
ろの違いがございまして、今回、日本における罹患率の数字並びにワクチンの費用を使うと
費用対効果の点では、ややその基準範囲にはないというような結果となりました。しかしな
がら、ワクチンの費用が仮に現状の2万8,000円ではなく2万円と置きますと、費用対効果
は良好になるという分析結果となっています。追加させていただきました。
○岡部委員長 ありがとうございました。
○宮崎委員 基本的なことですが、ワクチンの目的としてHibワクチンの場合は、疾患を
限りなくゼロに近付けていく。しかし、巷にある菌は必ずしもなくならないかもしれない、
こういうふうに理解してよろしいでしょうか。
○谷口参考人 はい、基本的には侵襲性感染症のEliminationというふうに考えています。
○宮崎委員 ワクチン供給に関しては現在1ワクチンだけですが、世界的には数種類ワクチ
ンがありますが、今後の見通し等々については議論があったのでしょうか。
○谷口参考人 残念ながら今後の見通しにつきましては、現在国際的に利用可能なワクチン
がこれだけあるという検討は行われましたが、今後日本でどうなるかという見通しについて
は、まだ議論が終わっていません。
○岡部委員長 ほかはよろしいでしょうか。
○廣田委員 膨大な資料をおまとめいただいてありがとうございました。これを読むときに
予防接種の効果がどうかというところが、まず免疫原性と、それからその接種によって発病
とか死亡とかのリスクがどれだけ下がるかということと、それから接種キャンペーンなどを
始めて、どのように疾病頻度が変わったとかいう、このエコロジカルデータ、生態学的なデ
ータというのは、解釈をするときにはやはり少し区別することが必要だろうと思います。
○岡部委員長 あとのワクチンにも関係すると思うのですが、これは供給はかなりできてい
るのですが、これ検定や何かについては、何か議論が出ていましたか。
○谷口参考人 実は検定のところまでは、まだ議論が進んでいません。
○岡部委員長 そういうことも考慮していかなくてはいけないだろうと思います。ほかはい
かがですか。
○岩本委員 ワクチンの値段の話があったと思うのですが、普通供給量が定期化されてもの
すごく増えるのであれば、ものの値段は下がるのは当然だと思うのですが、その辺はどうい
う議論に。
○谷口参考人 その辺はあくまで内部で、供給が増えて定期化されて、大量生産、大量にな
れば下がるのではないかというところまでしかしていません。
○宮崎委員 その議論の中で例えば血液対策課としては、ワクチンそのものの値段に関して
は、どのようにお考えでしょうか。諸外国に比べると、確かに日本はかなり高いのですよね。
この算定した表を見ても明らかに高額になっているのですが、ワクチンそのものの値段もた
ぶん高いのだろうと思います。今後も含めてワクチンの値段に対して、血液対策課としては
どういうふうにお考えですか。
○血液対策課長 血液対策課では薬価は決めていません。薬価を決めているのは保健局の医
療課になります。ただ、おそらくだとは思うのですが、この費用の中にはワクチンそのもの
の値段と接種の費用と両方を含んでいるのだろうと思います。1つの手立てとしては、例え
ば混合化が進めば、接種費用をトータルで見ると、幾分圧縮が可能になるのではないかとい
う気はしています。
○宮崎委員 ワクチンそのものの値段というのは、基本的にはメーカーが設定したそのもの
がそうなるのでしょうか。
○血液対策課長 先ほどのを訂正いたします。診療報酬の薬価としては、これは予防のもの
になりますので、薬価収載はされていないので、市場価格で設定されます。ですから、通常
の市場メカニズムが働けば、量が増えてくればコストは下がるということはあり得るのかも
しれません。ただ、それは公費でいくらと定めているものではないということです。
○岡部委員長 費用あるいは財形に関しても流動的なのだから、あまり先の見通しは立たな
いと思うのですが、あくまでも現在の時点でということではないかと思うのです。時々、議
論の中で私の意見を申し上げているのですが、対費用効果ばかりをあまりに重点にすると、
ディジーズ・バーズンをどうするというほうになってくるので、ポジティブには当然取るデ
ータですが、あまりネガティブには使えないのではないかなとも思っています。それは私の
意見なのです。ある程度時間が限られているので次のワクチンについてもまとめた結果を発
表していただきたいと思います。
次は肺炎のコンジュゲートワクチンですから、これは23価は入っていなくて、一応小児
用ワクチンという形でまとめられているのですね。
○谷口参考人 はい。
○岡部委員長 最初にコンジュゲートワクチン。
○谷口参考人 肺炎球菌コンジュゲートワクチン(小児用)の評価につきまして、感染研の
細菌第1部の和田先生、慶應義塾大学の岩田先生、大阪大学微生物学研究所の大石先生、大
阪市大の大藤先生、大東文化大学の杉森先生のチームでご検討をいただいています。
9頁の「評価・分析編」のところから、肺炎球菌による侵襲性感染の臨床的なインパクト
ですが、これは一般的に死亡率が2%、後遺症10%程度ということで、現在の医療におい
ても決して楽観すべき疾患ではない。また、保菌の割合もかなり多いということがデータ上
あります。我が国の疫学状況としては10頁の中程にありますが、5歳未満人口10万当たり、
髄膜炎で大体2から3の間、髄膜炎以外の侵襲性感染が20前後というデータが出ています。
ただ、これも血液培養を積極的に行っているところでは罹患率が高いというデータがありま
して、これも過小に評価されている可能性はあります。発熱で受診した乳幼児の0.2%に菌
血症が見られたとの報告もあります。
この疾患に対するワクチンのカバー率ですが、侵襲性感染由来の肺炎球菌の血清型のカバ
ー率はおおむね80%、実際髄膜炎由来においても70%程度のカバー率がありまして、フィ
ールドスタティにおけるワクチンの効果ですが、おおむね95%前後の効果が報告されてい
ます。また、この接種の拡大におきまして、13頁、直接接種した小児のみならず成人にお
いても、やはり侵襲性感染の減少が見られているというデータがありまして、集団免疫効果
が見られています。しかし、ワクチンに含まれない血清型による侵襲性感染罹患率は一方で
は上昇しているというデータもあります。
これに関する医療経済学的な評価ですが、いちばん最初のファクトシートの追加編、2頁
に海外における経済評価の文献レビューには、どちらかというと、あまり良好ではないとい
う報告が多いのですが、Hibと似たところがありまして、社会的な効果を考慮すると、やは
り医療経済的な効果は上がりますし、ワクチンの値段によってもこれは大きく変わってまい
ります。研究班における評価においては、QALYを獲得するための費用が4,600万円以上と
なりまして、ここもそれほどよくないという結果なのですが、ワクチン接種費を下げること
によってこれはかなり改善されますし、また、社会の視点で分析を行った場合には、予防接
種費用よりも、ワクチン投与によって削減できる費用が上回るために、費用削減がさらに効
果が期待できますし、集団免疫効果を考慮するとさらに大きな額となります。
また、このワクチンを定期接種化することによって、やはり侵襲性感染防止効果以外に肺
炎、中耳炎に対する効果もフィンランドなどから報告がされています。16頁にありますが、
これもHib感染症と同様ですが、臨床面における抗菌剤使用の削減あるいは耐性菌の減少、
あるいは救急に対する負担の低下が期待されるということです。このワクチンについての副
反応、局所反応が高率に見られますが、これまでのところ重篤な副反応は観察されておりま
せん。接種スケジュールについては、時間の関係上割愛をさせていただきます。
全体的な評価ですが、このインパクトに関しては、実際の数字が確定した例に限られてい
ますので、実数よりも過小評価されている可能性がありますし、また、実際この鑑別診断に
は多くの医療資源が投資されています。また、後遺症例に関しては、個人的な負担と医療の
みならず、いろいろな社会的な負担が生涯にわたって続きますので、その影響を考えれば大
きなインパクトになると考えます。
ワクチンに対する評価ですが、これは既にいろいろなところで証明されていまして、特に
議論の余地をもたないと考えます。諸外国の報告では、医療経済学的にも有効性をもって論
じられている報告も多くあるのですが、本邦においてはワクチン接種費のために、ワクチン
接種によって削減できる保健医療費を上回るというデータがあります。ただ、これはワクチ
ン代の設定によって結果が異なりますし、社会の視点で分析を行った場合には、費用削減が
期待できる。また、集団免疫効果を考慮するとさらに大きな額となります。集団免疫効果に
ついては米国などの報告から、接種した小児のみならず接種を行っていない成人の侵襲性感
染の減少が見られています。そういうことから、本ワクチンはこれまでのところ有効性・安
全性に優れていまして、その効果も接種者のみならず、社会全体にわたり、また効果的な医
療あるいは医療体制の維持にも有効に機能すると考えられます。
既に導入した国においては、侵襲性肺炎菌感染症は非常に減少していますので、我が国と
しては、速やかに定期接種を導入すべきであるという結論に達しております。導入に際して
の課題です。侵襲性肺炎菌感染症は24か月未満の小児において、そのリスクは最大となり
ますが、実際には5歳まであるいはそれ以上の年齢でも罹患は見られています。これまでの
ところ5歳までの小児にキャッチアップ接種を考慮することが国際的には言われています
が、米国では6歳児においてリスク因子を持つ人にもキャッチアップが勧告されています。
実はチームの中でも何歳までキャッチアップを行うべきかというのが議論になりましたが、
結論はいまのところ出ていませんが、導入に当たって何歳までキャッチアップを入れるべき
かということは、ご議論いただければと考えます。同じく他のワクチンとの同時接種あるい
はワクチンの効果を評価するためのサーベイランス、そしてより多くカバーできる13価の
コンジュゲートワクチンといったことを今後考慮すべきであろうということです。以上です。
○岡部委員長 どうもありがとうございました。若干13価にも触れていただきましたが、
ご意見ご質問がありましたらお願いします。ほかの報告書にも当てはまるのですが、ファク
トシートの追加編がこれに一緒に綴じられていて、これからいくと経済評価がものすごく分
量が多くて、あたかも経済評価に重きを置いて動き出すのかというような感じになりかねま
せん。最終的にはこのファクトシート追加編は、ファクトシートの中に盛り込んでファクト
シートの改訂版を出していく、そのように進んでいただけたらと思います。今回は時間的な
制約がありましたので。
○廣田委員 時間的なものもあるし、それからファクトシートを作ってきた経緯から、一応
それは事実として出たものに対して追補的にやるということですから、将来的には、もう少
し長い目で見れば、今度は見やすさを考えていかなくてはいけないとは思いますから、それ
は一考の価値はあると思います。
○宮崎委員 1つはワクチンの目的としてもう1回確認しますが、これも侵襲性のワクチン
対象株の侵襲性肺炎球菌を限りなくゼロに近づけるけれど、菌自体は排除はしない。疾患の
排除ということでよろしいのですか。
○谷口参考人 はい、そういうことです。
○宮崎委員 19頁に諸外国の費用対効果が出ていますが、資料にはワクチン代がきちんと
書いてあって、ここには書いてないのですが、これはチームというよりは国のほうがこうい
うデータは持っておられるのではないかと思いますので、このワクチンは日本でも高め設定
だと思うのですが、定期化に向けてワクチンの値段によって費用対効果は変わります。国が
データを出していただければと思います。また、このワクチンを高齢者にというところまで、
議論はいかなかったのですね。
○谷口参考人 そこまで議論は行っていません。
○宮崎委員 それから10価、13価結合型肺炎球菌ワクチンの今後の投入見通しというか、
日本での市場見通しというのはどうでしょうか。
○谷口参考人 たぶん、これは承認にもかかわってくるだろうと思いますが、そういったと
ころを今後フォローしていくべきというところまでしかできていません。
○岩本委員 先ほどのHibと肺炎球菌の重症疾患あるいは髄膜炎は、感染症報告の全数報
告の対象になっていますか。
○谷口参考人 なっていません。
○岩本委員 いまのままではわからない。どれだけいるか。
○宮崎委員 現在は研究班で、全国10カ所です。都道府県を決めて、そこでなるべく全数
を把握するという形で、これは神谷班で研究が行われていて、その数字がHibワクチンの
資料に書いてありました。やや少なめの県と高めの県がありまして、鹿児島県はわりと高め
で、全数が相当拾えているだろうという所です。細菌性髄膜炎全体では10万対13ぐらい
で、その中の6割ぐらいがHibで、2割5分が肺炎球菌というデータは出ています。この全
体の割合とか全体の頻度は、かつて行われた調査とそんなに大きくは変わらないかなと思い
ますので、全国集計にある程度使えるのではないかと思っています。
○岩本委員 県のどのぐらいをカバーしているのですか。
○宮崎委員 全県で。例えば鹿児島県内の小児科の髄膜炎として入院するようなところは全
部カバーして、全数を前方視的に拾う。調査の概要はこんなところです。
○岡部委員長 それは予防接種部会のときにも申し上げましたが、仮にこういうようなもの
が定期接種になっていった場合には、研究でやっている短期間のデータではなくて、長期的
なナショナルデータは必要だと思います。ですから、平行してサーベイランスということを
きちんとやっていかないと、例えばHibを導入したけれども、その後この病気はいったい
どうなっているのかということになりかねないので、これはきちんとした長期的なサーベイ
ランスも視点に入れて、やっていく必要があるだろうと思います。その辺も報告書としては
加えていただければと思います。
○宮崎委員 追加すれば、例えばHibと肺炎球菌でいけば、髄膜炎はHibの率が高いので
すが、菌血症になると圧倒的に肺炎球菌のほうが多くなるという結果が出ています。
○倉田委員 宮崎さん、菌のきちんとしたコウテイブリードは、その症例にはされているの
ですか。症状だけですか。
○宮崎委員 2つシステムがあるのだと思います。岡部班の中でやっておられることと、神
谷班もいまプロスペクティブで患者をつかまえたら、たぶん菌もなるべく採って同定してい
くという形になっているのだろうと思います。
○岡部委員長 私が代表をやっている研究班のほうは、研究分担者に検体を送り、できるだ
け検査をやるようにとしてやっています。あと、耐性菌の問題は何か議論されましたか。
○谷口参考人 言い残しましたが、耐性菌PRSPの増加を考えますと、予防にシフトをし
ないと臨床の負担がどんどん増えるし、治療困難例も増えることからも、このワクチンの導
入を指示するデータだと思います。
○岡部委員長 いまはそんなに表面に出なくても、やがて相当大きな問題になってくるだろ
うと思います。
ほかにありましょうけれども、時間もありますので一通りご説明を伺いたいので、もう1
つは23価のことがあるのでお願いします。
○谷口参考人 23価は、先ほどと同じチームで検討しました。基本的には、これは成人の
肺炎に対するワクチンですが、申し上げるまでもなく8頁にありますが、10万人当たりの
年齢層別の肺炎による死亡率は75歳からずっと増加していますし、日本人の死亡率の第4
位を占めています。特に男性の死亡率では、80~84歳が第3位、85~89歳までが第2位、
90歳以上は第1位を占めていますし、肺炎球菌による肺炎はこのうちの4分の1から3分
の1と考えられています。こういったものに関して、この23価ワクチンのカバー率ですが、
血液/髄液あるいは経気管支吸引液経由の由来株では大体76%、咽頭スワブで66%、耳漏で
は90%。2001年から2003年の全国調査では、市中肺炎患者由来の肺炎球菌のうち、82%
がこのワクチンによってカバーされています。
このワクチンの防止効果は10頁にありますが、すべての肺炎の減少率が44%、肺炎球菌
性肺炎に至っては63.8%がダブルブラインドスタディによって報告されていますし、10頁
の11行目以降のオープンラベルの無作為比較試験のデータによりますと、肺炎球菌ワクチ
ンによって75歳以上、歩行困難者のカテゴリーにおけるすべての肺炎による入院頻度の有
意な減少効果が示されています。ただ、65歳以上のカテゴリーでは有意差が認められてい
ませんでした。ゆえに、チームの中では何歳以上でやるべきかというのが若干議論になりま
したが、結論には達していません。
この効果に関して11頁の表3のように、75歳以上では有意な値を持って40%の減少、
歩行困難者ではさらに大きな減少が認められています。他の米国における報告においては、
肺炎による侵襲性感染を減少させる効果が見られましたが、肺炎による入院、外来で治療し
た肺炎に対する効果は見られなかったという報告もあります。ただ、肺炎の重症度を比較し
た研究としては、このワクチンによって重症度が低下するという報告があります。また、ス
ウェーデンのデータでは、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用接種分におい
て、肺炎による入院の減少が見られているという報告があります。これの医療経済学的な評
価に関しては、各国の文献レビューにおいては成人への肺炎球菌ワクチン接種では、費用対
効果に優れるという報告が多数を占めています。また、研究班による分析においても、65
歳コホートで4,253億円、75歳コホートで4,825億円、85歳コホートで1,160億円と大き
な削減効果が報告されていますし、ワクチン接種費よりもこの投与によって削減できる費用
が上回るという報告をいただいているために、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンによって費
用の削減内部に健康アウトカムの改善が得られるものと結論づけられるというご報告をい
ただいています。
ただ、このワクチンの効果に関して17頁以降の総合的な評価ですが、特に高齢者におけ
るインパクトは肺炎球菌の侵襲性感染症あるいは肺炎のインパクトが非常に大きいと考え
られますし、これが実際高齢者医療の現場や医療費に対しても影響していると考えられるだ
ろう。ただ、このワクチンに対する評価としては20年以上の歴史がありまして、諸外国か
らの報告ではこれが実際に導入されたあと、罹患率、死亡率が低下しているという報告があ
る一方、効果が見られないという報告もあります。これは、このスタディデザイン、いろい
ろなことに影響されるものだろうと思いますが、17頁の22行目以降で最近論文が上がった
ばかりですが、高齢者施設入所者を対象とした二重盲検試験では罹患率、死亡率が有意に低
下していますし、オープンラベル試験では65歳以上全体では有意な差は見られなかったも
のの、75歳以上ではすべての肺炎による入院に対する有意な減少効果を示しています。こ
ういったことと医療経済学的なこの効果を考えれば、我が国において本ワクチンを定期接種
に導入することは正当化されると考えられる結論に達しています。ただ、これまでの報告に
よりますと課題ですが、免疫が徐々に減衰していくことがわかっていますし、メモリは誘導
はされません。追加接種の必要性は議論されてきましたが、再接種によっての効果も今後検
討されるべきであろうということです。
また、先ほど宮崎先生からもお話がありましたが、小児において7価あるいは13価のコ
ンジュゲートワクチンが使用可能になっておりますし、これが定期接種化されたあと、その
ワクチンを打ったあとに23価ワクチンを使う、あるいは成人にも7価ワクチン、13価ワク
チンを打っていくかということは今後の検討が必要な面だと思いますが、これも他の疾病と
同様、継続的なサーベイランスが行われることによって、再評価が行われるべきでしょうと
いう結論になっています。以上です。
○岡部委員長 どうもありがとうございました。いまのはどちらかというと成人用としてあ
る23価ですが、ご意見がありましたらどうぞ。岩本先生。
○岩本委員 質問です。先ほどの小児用と成人用は、ともにポリサッカライドが抗原で、小
児用は蛋白がジフテリア毒素が付いていて、基本的には免疫減性が高いと考えられるという。
○谷口参考人 はい。それと、メモリが誘導されるということも違うと思います。
○岩本委員 これは、病気をどのぐらい抑えたかというのは難しいかもしれませんが、抗原
を1つキョウイツ抗原で取ると、抗体誘導性というのはかなり違うのですか。例えば6Bと
か、同じ抗原が入っているようですが。
○谷口参考人 おっしゃっているのは、コンジュゲートとポリサッカライドで同じ抗原とし
た場合に、誘導性がかなり違うかということですよね。明らかなデータを載せることはでき
ませんでしたが、そうなろうかという議論です。
○岩本委員 抗原あたりの値段は、いくらぐらい違うのですか。
○谷口参考人 それは存じ上げません。
○岡部委員長 宮崎先生。
○宮崎委員 3頁の65歳コホートで4,200億円、75歳コホートで4,800億円云々削減でき
るという計算は、4,200億円はどの期間に何が削減されると理解したらよろしいですか。年
間ということですか。それとも一生ということですか。
○五十嵐参考人 私自身、こういうことでやっていますが、今回の過程では海外のデータし
かありませんでしたので、とりあえずその接種後5年間ワクチンの効果が持続すると考えて
います。ですので、65歳であれば65歳から70歳までの間でこの金額、75歳であればそこ
から80歳になるまでという接種後5年間に関して。ただ、年齢によって多少効果が少し違
えてありますので、あるいは罹患率も変わってきますので、削減幅が少し変わるという推計
になっています。
○宮崎委員 単純に言えば、これを5で割れば年間の医療費の削減と考えていいのですか。
○五十嵐参考人 そうですね。この成人用肺炎球菌に関しては医療費のみの組込みで、その
削減医療費だけでもワクチンのコストを上回るということです。
○宮崎委員 そうするときちんとやれば、全部で3,000億円ぐらいが毎年健康保険組合は儲
かると理解してよろしいですか。
○五十嵐参考人 自己負担分とかはありますが、非常に大雑把に言いますとそういうことに
なります。
○岡部委員長 これを最後にしましょう。
○廣田委員 先ほどのこのワクチンの有効性ですが、大人でワクチンの有効性を調べると、
どうしても非接種者にも既に抗体を持っている人がいて、非接種でもかかりにくい。その結
果、差が出にくいというのがありますが、これについてはどんな感じですか。そういうこと
はあるのでしょうか。
○谷口参考人 あるのではないかなと思いますが、これらの2つのデータでは実際の抗体化
まで見ていませんので、そこはこの効果の結論には反映されていないと思います。
○廣田委員 ありがとうございます。
○岡部委員長 ありがとうございました。それでは、次のほうにいきたいと思います。ヒト
パピローマウイルスワクチンはかなり部会でも詳細な報告がありましたが、パピローマにつ
いては多田参考人から約7分でお願いします。
○多田参考人 作業チームのメンバーについては先ほどお話がありました。私たちはウイル
スの専門家が1名、産婦人科の先生が2名、小児科の先生が1名、社会疫学の特に性感染症
の教育についてやっていらっしゃる先生が1名、公衆衛生学の先生が1名、薬物の先生、池
田先生という9名でやらせていただいています。チームを代表して、ヒトパピローマウイル
ス(HPV)ワクチン作業チームの報告内容について説明します。
16頁からの「評価・分析編」の内容についてご説明します。まず最初に疾病について書
けていないのですが、ワクチンの対象病原体であるヒトパピローマウイルスHPVは、キト
ウと宿主面が付いている人のみに感染するウイルスで、人以外からの感染はないウイルスで
す。ウイルスは性行為を介して感染しまして、生殖器の粘膜細胞で潜伏持続感染を確立しま
す。HPVウイルスの遺伝子断片が感染した細胞の遺伝子に組み込まれることで、そこで高
い増殖能を持つ細胞から成る前癌病変を生じ、それが悪性形質を獲得すると子宮頸がんとな
ります。ほぼ100%の子宮頸がんの組織から、HPV遺伝子が検出されます。つまり、子宮
頸がんの原因がほぼ100%HPVウイルスの感染であるということが言えると思います。
14行目からになりますが、我が国の子宮頸がんの罹患及び死亡状況です。子宮頸がんの
罹患者数は、ファクト編の追加編の2頁にも書いてありますが、2004年で9,252人、死亡
者数は2008年に2,486人です。罹患及び死亡を全年齢の女性で見た場合には、他の部位の
がんと比較して相対順位は高くはありませんが、40歳未満の女性に限ってみますと罹患率
は乳房に次いで第2位、死亡率は乳房、胃がんに次いで第3位のがんとなります。また、5
歳刻みですが年齢群別で見ると、罹患率は25~39歳、死亡率は25~49歳にかけて上昇し
ます。さらに20年間でこの年齢群の推移を見ますと、罹患率、死亡率ともに改善すること
はなく、むしろ上昇が認められています。
HPVの潜伏・持続感染から子宮頸がんに至るまでの経過は長期にわたると考えられてい
ますが、進行度が「限局」という早期の状態で発見された場合の生存率は極めて良好です。
子宮頸がんの検診による早期発見、すなわち早く発見すれば非常にいいということで、子宮
がん検診が非常に有効ですが、現在日本においては検診の受診率が20%程度と低い状況に
あります。
次に、子宮頸がんの浸潤がんを対象としたHPV遺伝子型の分布についてです。HPVウ
イルスは100種類以上の遺伝子系に分類されます。約40種が粘膜病変から、約60種は皮
膚の病変から分類されます。約40種の粘膜、またHPVのうち、15種類が子宮頸がんから
そのDNA遺伝子が検出されます。すなわち、この15種類が子宮頸がんの元になるウイル
スということが言えると思います。この15種類のうち、海外の研究ではHPVの16と18
が約70%を占めています。ただ、日本人を対象とした場合には16と18を占める割合は研
究によってさまざまで、50~70%の幅があり、14件の研究のメタアナリシスでは59%とい
う値が得られています。すなわち、いずれにしても16、18のみに対するワクチンでは、100%
カバーすることができないことに注意しなければなりません。
丸3の子宮頸がんの妊娠・出産への影響についてです。先ほど40歳未満の女性のがんで
は、子宮頸がんの罹患率2位であることを述べましたが、特に35~44歳で高く、人口10
万体で前半の35~39歳では21.0%、40代前半では22.9%と推計されています。一方、出
産率を見ますと25~34歳の人口10万体がいちばんピークとなりまして、9,000人前後と
なります。30代後半では4,500人と減少します。このことから言えることは、いま20代、
30代の罹患の増加が認められていますが、今後もこの年代の罹患の増加が続けば、出生率
に対して何らかの影響を与える可能性もあるものと考えられます。
子宮頸がんの治療法は手術療法と放射線療法が主体で、これらに化学療法が組み合わせら
れる場合があります。治療法は進行度に応じて選択されますが、がんが子宮頸部に限局して
いる状態で発見された場合の5年生存率は70.3%です。?W期になって、がんが膀胱や直腸
に浸潤している場合には10%ぐらいと報告されています。
次にワクチンの効果、目的、安全性についてです。効果にはいろいろなカテゴリーがある
かと思いますが、まずHPVワクチンは不活化ワクチンです。いまワクチンは、16と18の
感染予防を主目的としているワクチンになっているので、まず大事なこととしては感染を予
防するワクチンであって、既に感染してしまっている場合には治療効果はありません。感染
する前に、接種をしなければいけないということになります。現在2種類のワクチンがあり
ますが、16と18を中心に2価のワクチンと、良性の尖圭コンジローマの原因となるHPV
に対しての2種類を加えた4価のワクチンがあり、いずれも100カ国以上で承認されてい
ます。22行目以下に挙げているのは効果の持続についてや、他の方への交差免疫が期待で
きるのではないかという見解も出ていますが、これらについてはワクチンは何分にもまだ使
用経験が浅いので、今後重要な課題と思われます。
20頁の目的です。これは、子宮頸がんによる死亡者及び重症者の発生自体を減らすこと
を上げています。集団免疫効果など、社会防衛に係る影響については、今後治験を重ねてか
ら判断する必要があると思います。ワクチンの安全性ですが、先ほど申しましたようにウイ
ルスの含まれていない不活化ワクチンで、これまでの使用経験からは副反応も主に局所反応
に限ったものです。定期接種を導入している海外においても、重篤な副反応は認められてい
ません。特に思春期、成人年齢層の接種を対象とした場合には、迷走神経反射などによる失
神の注意や妊娠の注意も必要かと思われます。
費用対効果ですが、簡単にまとめていいますと、国内外の多数の報告では13歳女子全体
の接種の費用対効果は概ね良好と報告されています。池田先生の分析によっても、いくつか
の項目にそれぞれ変動幅を持たせて解析していただきましたが、我が国の12~15歳女児へ
の接種の費用対効果は良好との結果が、ファクト追加編の10~13頁に報告されています。
予防接種の目的を果たすために求められる接種率については、100%と書かせていただいて
います。受給状況については、現在まだ厚労省とも検討中で、申し訳ありませんが今回間に
合わせることができていません。総合的な評価としては、定期接種化が妥当と判断していま
す。
最後に、我々の考えた実施要領案を23頁に示していますのでご覧ください。この案では、
対象者は中学1年生から高校1年生としました。さらに、接種を積極的に勧奨する標準接種
年齢は中学1年生と考えました。年齢単位で学年単位としたのは、麻しんが?V期、?W期で学
年としたときに、対象者がとても把握しやすかったとの意見があったことからです。また、
対象をこの世代にした根拠としては、中3の初交経験率が5%ということです。性感染症の
授業が中3で初めて行われることから、中3を標準に接種年齢にしたほうがいいのではない
かということも考えましたが、中3では既に5%の人が経験してしまうことから、中1に積
極的に勧奨するのが妥当ではないかと判断しました。ただし、まだ性感染症の授業も受けて
いませんので、これらの世代に説明する場合には、がん予防の観点を重視して説明していく
などということも重要なのではないかと相談をしました。
接種方式ですが、個別接種を原則としますが、対象者の層を考慮しますと適切な接種体制
が整えられるのであれば、集団の場における接種も考えられると思います。接種時の注意と
しては、先ほど申しました年齢層も考えた迷走神経反射や妊娠の有無の確認が必要となると
思います。HPVワクチンを接種した集団において、子宮頸がんが減少するという効果が期
待されるものの、実際に使用経験年数からも達成されているという十分な証拠はまだ得られ
ていないのが現状だと思いますが、今後罹患率、死亡率の減少に対する効果が既に確認され
ている細胞診による子宮頸がん検診の有用性と受診勧奨等の十分な情報提供も、併せて行っ
ていくことが必要と考えました。HPVワクチンについての報告は以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。これも大変膨大なデータをまとめていただいてい
ますが、ご質問、ご意見がありましたらお願いします。
○倉田委員 ワクチンがほかのものと比較したときに、シミュレーションで期待というだけ
であるワクチンはこれだけですね。いま多田さんが最後におっしゃったように、例えば10
万なり50万なりやった人が30年後に……それをきちんとフォローしない限り、細胞診と
疾患そのものが本当に期待できるものかどうかはわからないと思います。誰もそれをやって
いないわけです。こういうワクチンは非常に極めて稀で、ほかにはないわけで、これはきち
んとしないと本当にそうなのかと。前の部会に出たときに言いましたが、この2価だけでは
多田さんも言われたように、本当にカバーできるか。私はできないと思いますが、そのとき
出てきたものは何かということも含めてきちんとしたことをやらないと、こういうワクチン
が有効なものかどうかわからないわけですよね。期待値だけでスタートしているわけですか
ら、どこの国も結果は出ていないですから、そういう点ではそういうただし書を付ける必要
はあると思います。
○岡部委員長 ありがとうございます。宮崎先生。
○宮崎委員 今日のレポートでいくと、6、7頁にかけての海外データの有効性の記載がと
てもわかりにくくて、よく見てよく読めば何とかわかりますが、ほとんど一般の方にはわか
りづらい記載になっているので、もう少しわかりやすくしていただければというのが1つで
す。
それから、先ほどの倉田先生の話にも少しつながりますが、わが国においてワクチンによ
るカバー率がいまのところ60%前後ぐらいということで、これは現在あるいは今後もHPV
のタイピングについては、研究がオンゴーイングで行われているかどうかが1つと、今日は
がん対策推進室長が来られているようですので、子宮頸がん全体のコントロールの中で、理
論的に言えばこのワクチンを導入しても検診を緩めるわけにいかないことになると思いま
す。つまり、そこの費用対効果も含めてどういうふうに思っておられるかの両方をお聞かせ
いただけますか。1つは、ワクチンタイピングの。
○岡部委員長 多田先生から。
○多田参考人 次回まででよろしいですか。どんなところでどんな研究が行われているかが
いまはお答えできないので、もしかしたら厚生科学研究の関係で、がん対策室でわかるかも
しれません。
○宮崎委員 このファクトシートをお読みすると、少しいろいろな方法論があって、それで
少し混乱しているみたいなので、何かもう少しきちんとナショナルデータがとられていると
いいかなと思ったのです。
○多田参考人 感染研の柊元にも助言を得てお答えしたいと思います。
○岡部委員長 最初に、いまの答えをがん対策室のほうから。
○がん対策推進室長 がんの関係です。まずHPVの関係でDNA検査の研究とか、HPV関
連の研究については、いまはがん対策の中の研究費の中で、従前からHPVの関係について
は元感染研、いまは理科研の神田先生にお願いしまして、全国の分布調査や、そういったも
のも行っていただいています。
検診の関係については、確かに今回のサーバリクスについては全部をカバーするわけでは
ないので、検診については今後も継続しなければいけないということで、いま考えています。
ただし、一方でこの上の部会でもお話になりました神田先生のマルチのワクチンといったも
のができれば、もう少し検診のやり方についても考えなければいけないのではないかと思っ
ています。
○宮崎委員 ちなみに、検診率のとりあえずの目標は、どれぐらいなのでしょうか。
○がん対策推進室長 いま現在の検診率は、子宮頸がんについては全国民の50%を目安に
しています。検診の体制の推進ですが、平成21年から子宮頸がんの検診については、5歳
刻みで20歳から40歳までの節目年齢の方に対して、検診の無料券と検診手帳というのを
配って、検診の推進を行っています。そのほかにも一般の検診や社保の検診を行っていまし
て、そういったものも含めて国民全体として50%を目指しています。
○岡部委員長 岩本先生どうぞ。
○岩本委員 いまのお話に少し関係ありますが、先ほど交差免疫の話が少し出て、HPVは
バイオ系がないので、おそらく交差免疫のことはあまりよくわからないのではないかと思い
ます。ほかのウイルス疾患であれば、血清型のほうが遺伝子型よりも基本的にはワクチンと
して大事ではないかと思いますが、パピローマの場合はほとんどがジェノタイプばかりなの
で、これで本当に交差免疫の話がわからないと、どのぐらいのワクチンが必要なのかもわか
らない。その辺に関しては1行書いてあるだけですが、基本的には情報がまだ何もないとい
うことですか。
○岡部委員長 そういうふうに聞いています。WGの方々も周りから追加がございますか。
○廣田委員 先ほどはわかりにくいところを言われましたので、私はわかりやすいところを
言います。これはがんとの関連ですから、この報告書は罹患率や死亡率のところに、2004
年とか2008年とか、調査年がきちんと明記されています。通常の感染症の場合は、何年か
ら何年までという形で集計されるようなことがありますので、なかなかピチッとはいかない
ところがありますが、将来的にこの数値が独り歩きすることもありますので、何年から何年
の間でもいいですから、調査年を明記していただくようにお願いしたいと思います。これは、
非常にわかりやすいと思いました。
○岡部委員長 ありがとうございました。ほかにはありませんか。
少し駆け足になりますが、次のワクチンについての説明を伺いたいと思います。次は水痘
ワクチンです。多屋参考人、お願いします。
○多屋参考人 水痘ワクチンの作業チーム報告書のいちばん最後の17頁に、これを作成し
た担当者の名前を記載しています。ウイルス学ファクトシートの取りまとめをされた井上先
生、疫学の専門家の大西先生、医療経済学の須賀先生、臨床の専門として峯先生、吉川先生、
そして私というチームでこの資料を作成しました。
まず前半部分ですが、ファクトシートに追加する部分については、医療経済学的な効果の
部分について詳しく記載をしていただいています。今日は、「評価・分析編」のところをご
覧いただきながら、説明を進めていきたいと存じます。8頁は、対象疾病の影響です。水痘
は皆様ご存じのように、全身に水疱が出て、かさぶたになるまで人に移すという病気で、そ
の期間が約1週間から10日かかります。おおむね軽いという印象をお持ちだとは思います
が、妊婦が初期に感染しますと胎児に影響を及ぼす。その頻度は2%と言われていますが、
先天性水痘症候群を起こすことがあります。また、出産前後の妊婦が水痘を発症した場合、
その児は非常に重篤で、亡くなる率も高いことも言われています。また、今年の5月に行わ
れました世界保健総会でも、風疹をはじめとしたTORCH症候群の予防ということはもち
ろん有名ですが、そこに先天性水痘感染の現象も盛り込まれたことも新たな情報として加え
ています。そして、悪性腫瘍や免疫抑制状態にある患者などが発症した場合は、命にかかわ
る非常に重症の病気であるという認識が一般の国民には非常に薄いのではないかと感じて
います。
我が国の患者数は、小児科定点からの報告のみで毎年25万人と極めて多く、お手元にあ
るファクトシートの7頁の図2と図3に記載していますが、ワクチンが使えるようになった
以降も毎年25万人、ほとんど疫学に変わりなく接種率が低いために、水痘の流行をコント
ロールできていないという状況にありまして、おそらく毎年100万人以上の患者が発生し
ているだろうと推計されています。感染しますと、不顕性感染は極めて稀で、家族内の発症
ですと抗体がなく、ワクチン接種歴がなかった人は全員発症したといったような報告もあり
ます。致命率は、年間約100万人程度に対して、以前岡部班で調査をした全国調査により
ますと、回収率が40%程度で1,600人程度の入院患者がいらっしゃることから、最低でも
年間4,000人程度の入院と20人程度の死亡者が出ると推定しています。このときの調査で
は、1年間に7人の死亡で、うち健康な成人の方の死亡も報告されました。
次に重症化例ですが、死亡には至らなかったとしても、入院例としては小児では熱性痙攣
や肺炎、気管支炎、成人では肝機能異常、水疱の部分から細菌の二次感染が起こって、それ
が重症化し、中には下肢の切断に至った症例なども報告されているのが現状です。また、中
枢神経合併症としては急性小脳失調症や髄膜炎/脳炎、横断性脊髄炎などの合併症もあると
いうことも、あまり知られていないのではないかと考えています。
水痘の感染力は極めて高く、麻しん、結核とともに空気感染する三代感染症であり、同じ
部屋にいればすぐに移ってしまう感染症です。治療は、いまは良い抗ウイルス薬が開発され
ています。現在日本では、多くがこの抗ウイルス薬が使われていますが、一旦これに対する
耐性ウイルスが出現してしまいますと、非常に毒性の強い抗ウイルス薬しか残されていない
ことから、慎重にというか適切に使っていく必要があると思います。水痘ワクチンはご存じ
のとおり、日本の高橋先生が開発された世界で唯一ワクチン産生用として認められているワ
クチンであり、世界でも使われています。もともと白血病やネフローゼ症候群など、免疫機
能に異常がある子どもたちが水痘で亡くなっていくことを予防するために作られたワクチ
ンですので、健康な人に対して接種した場合の副反応はほとんどなく、極めて安全なワクチ
ンと考えられています。米国は、既に水痘ワクチンの2回接種を導入しており、それに伴っ
て劇症型のA群溶連菌感染症や水痘関連入院症例数、死亡率を減少させていることが、フ
ァクトシート13頁に示されている図4にあるように明らかになっています。
感染防止効果としては、水痘の発症を予防すると考えると80~85%、重症化を予防する
と考えると100%の効果があり、1回接種の場合、6~12%に軽く水痘を発症する場合があ
りますが、極めて症状は軽いと言われています。集団免疫効果は、特に1歳から4歳の水痘
の患児が、入院例も含めて著明に減少していることが明らかとなっていまして、米国の2000
年の調査で7割から85%程度の水痘患者の減少も報告されています。予防接種の持続期間
は、米国で既にワクチン接種後のbreakthrough Varicella、breakthrough水痘の症例の増
加が問題となって、2回接種が導入されていまして、患者数は激減しています。
水痘ワクチンの目的は、麻しんに比べると疾患重症度が低いという思いが国民の中にかな
りあるのではないかと思いますが、ワクチンを受けていなければほぼ全員がかかるというこ
と。それから一定期間、保護者は仕事を休まざるを得ないことから、あとで述べますが医療
経済的な効果も極めて高いワクチンとなっています。安全性については先ほど申し上げたと
おりで、まず健康な方に接種する場合、副反応はほとんどないと考えてよいと思います。費
用対効果は、1回1万円で2回接種したと想定した場合においても、社会の視点での分析で
罹患にかかる費用減少額は、予防接種にかかる費用増加額を上回ると推計されており、水痘
に対する施策として水痘ワクチンの定期接種化は、費用対効果に優れていると考えられてい
ます。感染力は先ほど申し上げたとおりで極めて高いもので、麻しんに次いで強いことが報
告されています。
感染拡大防止効果についても先ほど述べましたが、完全に発症しない条件だと6割から8
割、軽症までを含めると8割から8割5分、重症者まで含めると95~100%と高い予防効
果が報告されています。予防接種の効果の持続期間も、日米での10~20年間に及ぶ長期の
追跡結果から非常に高いものが報告されており、米国やドイツは既に2回接種を導入してい
ます。ワクチンの需給状況ですが、現在日本では水痘の単味のワクチンが使われており、海
外でも水痘の単味ワクチンに加えてMMRと混合したMMRVワクチンなども開発されてい
ます。もし日本で2回接種を定期接種化すると、250万ドーズ程度必要と想定されますが、
十分に供給可能であるという見込みです。
具体的な実施要領ですが、現在も1歳以上のお子さんには誰でも接種できることになって
いますが、白血病のお子さんや悪性腫瘍のお子さんに、免疫機能が一定以上ということが確
認されれば、接種をすることができる唯一の生ワクチンとなっています。接種スケジュール
は、米国では1回目を1歳から1歳3か月、2回目を4歳から6歳という数年あけたスケジ
ュールでの2回接種ですが、ドイツでは1回目を11か月から14か月、2回目を15か月か
ら23か月という、比較的連続した2回接種法を導入しています。2回接種をしていると、
罹患率が低いことも既に報告されています。
接種間隔については一般的なことを上に書いていますが、接種を受けやすい観点から考え
ますとMRワクチンとの同時接種などを導入しておくことで、高い接種率が得られるので
はないかと考えており、現在この同時接種についての臨床研究が進んでいます。
最後に、総合的な評価です。水痘は小児の軽い病気と考えられる傾向にありますが、我が
国では毎年100万人以上がかかり、そして重症化に伴って入院を要する患者が推計4,000
人程度、有効な抗ウイルス薬が開発されている現在においても、水痘による死亡者が20人
前後発生しているという現状を正しく理解して、全小児を対象にした予防接種で予防すべき
疾患であるということをまず認識する必要があると思います。
水痘ワクチンは水痘にかかることによって、命に影響が及ぼされる白血病や基礎疾患を持
つ子どもたちを水痘から守ることを目的に我が国で開発されたワクチンであり、海外では既
にこのワクチンを用いて定期接種化され、患者の数が減っている中、日本では既にもう20
年近く前から導入されていますが、残念なことに接種率が低く、国内の流行を押さえ込むこ
とができていません。副反応の発生率は極めて低く、水痘によって保護者が仕事を休む、看
護のために社会的損失を減少させるだけではなく、水痘ワクチンを定期接種化することによ
って、医療経済性にも優れているとの研究成果も報告されています。米国やドイツでは、定
期接種化によって水痘の減少並びに死亡者、重症者の減少に既に効果を発揮しており、水痘
にかかる子どもたちが少なくなることでワクチンを受けたくても受けることができない周
りの多くの人を守り、そして妊婦、次世代を水痘から守ることを国としても考えていくべき
ではないかと思います。
水痘に罹患すると、一生、その人の脊髄後根神経節にはウイルスが潜伏感染します。一旦
増えるウイルス量が多ければ、その帯状疱疹の発症頻度は高いと言われており、水痘ワクチ
ンにより体内で増えるウイルス量を減らすことができれば、帯状疱疹の発症率も少なくなる
のではないかということも期待しています。水痘並びに水痘ワクチンに関する数多くの研究
が出ていますが、水痘ワクチンの有効性と安全性を正しく国民が理解して、水痘は子どもの
軽い病気であるという認識を早く脱却し、水痘で重症者や死亡者が毎年発生しているという
国内の現状を一刻も早く解消すべく、水痘ワクチンの定期接種化を求めたいと思います。定
期接種化に関しては受けやすい環境づくりも重要ですが、他のワクチンとの接種スケジュー
ルを調整して2回接種を行うことで、より確実なものとすることが期待されます。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。これもこれまでに長く議論をされていても、なか
なか動かない部分があります。たかが水ぼうそうだろうという話がどうしてもまだ先行して
しまうという問題点がありますが、ご質問がありましたらどうぞお願いします。岩本先生ど
うぞ。
○岩本委員 高橋先生の開発された非常に長く使われて安全なワクチンであることをわか
った上で、しかも特に少し大きな子どもや大人がかかれば重症になりやすいことも含んだ上
で、けれどもワクチン岡株も基本的にはウイルス血症が起こって、脊髄の後根に潜伏感染す
るわけですね。
○多屋参考人 しますが、ワクチンによって起こるウイルス血症と自然感染によって起こる
ウイルス血症は、ウイルス量がかなり大きく異なっていますので、潜伏感染するウイルス量
にも違いがあるだろうということが推計されます。
○岩本委員 いままで、このワクチン株による帯状疱疹の報告は全くないですか。
○多屋参考人 日本では、まずありません。海外では、若干ワクチンの組成などが違ってい
ますので帯状疱疹の報告などがありますが、日本では極めて稀です。
○岡部委員長 宮崎先生どうぞ。
○宮崎委員 ワクチンの目的ですが、このワクチンはいままでのワクチンとは違って、定期
接種化して非常に接種率を上げれば、疾患の排除、ウイルスの排除が可能かと思いますが、
その辺はどうでしょうか。
○多屋参考人 先生のおっしゃるとおりで、麻しんや風しんとともに2回の接種率を高く保
てば、水痘という病気の排除にもつながると十分に期待しています。
○宮崎委員 それを狙うべきであるとお考えですか。
○多屋参考人 はい。多くの人々にとって軽いという認識ですが、それによって重症になる
人がいる。個人予防のワクチンもとても大切ですが、社会を守るというか、周りの多くの人
を守るという、人に移す病気であるということの観点から、社会にとってのワクチンという
意味でも重要ではないかなと考えています。
○宮崎委員 もう1つよろしいですか。いわゆるbreakthrough水痘(1回ワクチンを接種
してかかってしまう率)は、日本のワクチンの場合はどれぐらいとして想定しておけばよろ
しいですか。
○多屋参考人 現在の神谷先生らの報告によりますと、大体ここにも書いてありますが、1
割5分から2割程度のbreakthrough Varicellaがあると言われています。症状は非常に軽
いのですが、これを2回接種という形で導入すれば、それも極めて少なくなると推定されま
す。
○岡部委員長 倉田先生どうぞ。
○倉田委員 多屋さんに伺いたいのは、解剖という面から見ると、この水痘による感染症は
この40年間に数多く亡くなった例を見ていますが、調べた臓器すべてに入っているのが普
通です。先端医療はいろいろありますが、免疫状態が落ちた状態でやる場合に、これは避け
て通れない。多少効率が上がるからいいですが、それによる後始末というのは大変なことな
ので、このワクチンというのは、いまはいろいろケダディケーションの目標になって遂行さ
れているのがありますが、それと同等以上に個人個人の重症になることを防ぐという意味で
は、桁違いな重要性があると思っています。そういう意味では細かなことは結構ですが、是
非これは再優先で考えていかなければいけないワクチンだと思っています。
○岡部委員長 大変強いコメントをありがとうございます。我々のほうからすると、一般の
人はどうしてこの病気は水ぼうそうだからと放っておいてしまうのかなと思うぐらいで、十
分注意しなければいけない病気であるという認識がありますが、何遍予防接種部会、検討会
に議題として出ても、この次ねと言われているのがこのワクチンであるという現象も。
○倉田委員 国民の理解ではないです。国民はそんなに賢くもないし。先生方も現場の人と
か、ものすごい勢いで麻しんと同等にというような重要性の問題を言わない限りは、国民の
人が「水疱瘡は大変だよね」という話にはなかなかならないのではないかと思います。です
から、いちばん国民に接している医師会の先生方とか第一線の病院の先生方が、それを日頃
から主張して、もう少しキャンペーンというのが必要かもしれないです。
○多屋参考人 是非、水痘は子どもの軽い病気ではないということを国民の方に知っていた
だきたいと思っています。
○岡部委員長 ありがとうございます。次のワクチンに移りたいと思います。残り時間とし
ては少なくなってきています。次はB型肝炎ワクチンについて、多田参考人からお願いし
ます。
○多田参考人 それでは、B型肝炎ワクチンについてお話します。メンバーはウイルスの先
生、ワクチンの研究もしていただいている先生、小児科の須磨崎先生、感染症学、内科代表
の四柳先生、公衆衛生の先生、それと医療経済の先生の7名のメンバーです。
作成がうまくいっていませんで、特にファクト追加編がぐちゃぐちゃになっていますが、
申し訳ありません。6頁からの「評価・分析編」に従って説明します。対象疾病については、
臨床症状についてご説明しますので、7頁の図1をご覧ください。B型肝炎ウイルスの感染
によって急性感染に進むか、持続感染に進むかは年齢によって差があります。5歳以上では
HBVに感染ばく露した患者のうち、持続感染となることは1%未満です。ほとんどが急性
感染となり、20~30%が急性肝炎を発病し、残りの70~80%は不顕性感染です。感染経路
としては、主に感染者との性的接触が挙げられます。1~2%で劇症肝炎となることを除け
ば、多くの場合は予後は良好です。
急性肝炎から慢性肝炎への移行などの臨床経過は、ウイルスの遺伝子系によって差がある
ことがわかってきています。遺伝子系はAからHの8つに分類され、BとCが主体であっ
た我が国では従来慢性肝炎への移行は稀とされていました。しかし、現在は欧米やアフリカ
に多いとされてきた遷延化、慢性化しやすい遺伝子型Aが主因となってきており、慢性肝
炎の移行の報告の例が相次いでいます。また、これまで血清HBs抗原が消失した場合には
「臨床的治癒」と書いていますが、みなされていました。しかし、その状態でもウイルスが
微量に肝臓内に残ることがあって、免疫の障害される状況においてウイルスが再活性化して
増殖し、強い肝炎を引き起こす場合があることは最近わかってきました。最もこれの報告が
多く、重症になり得るのは、悪性リンパ腫の患者がリツキシマブという薬剤で治療された場
合ですが、再活性化はこの場合だけでなく、悪性腫瘍や慢性関節リウマチの治療時にも引き
起こされることがあり、これらのがん患者や慢性リウマチの患者の数を考えますと、再活性
化が今後頻繁に起こる可能性もあり、注意が必要と考えます。
一方、新生児、乳幼児の感染ばく露では、高率に持続感染、すなわちHBVのキャリアと
なります。1歳未満の感染の場合には90%、1歳から4歳の場合には25~50%がキャリア
となると考えられます。持続感染の感染経路は母親からの垂直感染であり、また同じ時期に
水平感染が起こっても感染します。持続感染の最も大きな問題は、慢性肝炎になった場合に
はその10~15%で肝硬変、肝がんへと進行していくことです。
次に7頁の疫学発生状況についてです。急性肝炎は1999年4月の感染症法施行以降、全
数届出疾患として診断した医師に届出義務が課されています。その報告数には減少傾向が見
られていて、2007年以降、年間200例を下回っています。しかし、国立病院急性肝炎共同
研究班の調査報告では、推定入院患者数は全国で年間5,000人程度と推定され、しかも減少
傾向も認められていません。このことから、感染症法上の届出では漏れの多いことが推察さ
れています。先ほど述べたように、遺伝子型Aのウイルスが主因となってきていることは、
性的接触によって海外から持ち込まれ拡大してきているものと考えられ、母子感染が制御さ
れている状況下においても急性肝炎の発生数が減っていないことを考え併せますと、母子感
染対策にとどまらない感染防止対策を取らない限り、急性肝炎の発生を抑えるのは難しいと
考えられます。慢性肝炎の発生状況の把握は、症状がないことから難しい状況です。
HBVに関連した死亡数をファクトシートの10頁に記載しています。人口動態統計によ
りますと、2006年から2008年にB型肝炎での死亡者が600例前後、肝硬変とされたもの
が9,000例前後、肝がんは3万3,000台と報告されています。また、調査により、慢性肝炎
患者においても急性肝炎同様に、遺伝子型Aによるものの割合の増加が報告されています。
(3)の治療について、急性肝炎は自然治癒傾向が多く、特別な治療法を要しない場合がほ
とんどです。慢性肝炎では肝硬変、肝がんに進行する可能性のある場合が治療の対象となり
ます。10頁に厚生労働科学研究班による治療ガイドラインを示しています。
13頁の2.予防接種の効果・目的・安全性等についてに移ります。効果ですが、ワクチン
製剤は遺伝子組換え技術を要した不活化のワクチンです。現在、日本では日本性と米国性の
2種類が販売されています。海外では、B型肝炎以外のワクチンと組み合わされた混合ワク
チンが認可されています。日本にはありません。接種方法ですが、通常の場合は3回接種が
行われます。ばく露後の予防については、人免疫グロブリン、抗HBs人免疫グロブリン製
剤とともに発病予防が行われます。接種効果については、接種後の抗体獲得率は年齢が若い
ほど良いとされており、40歳まででは95%です。
次に、接種体制を含めた効果について検討してみました。多くの国で、すべての小児を対
象とした接種、いわゆるユニバーサルワクチネーションが行われており、日本を含むいくつ
かの国ではHBVキャリアのお母さんから生まれた児を主な対象としたセレクティブワク
チネーションが行われています。ユニバーサルワクチネーションは、キャリア率の低下及び
急性肝炎の減少に大きな効果を上げていますが、セレクティブワクチネーションではキャリ
ア化率の低下のみにとどまっている状況が見られます。また、WHOでは5歳児のHBs抗
原陽性率が2%未満であることを、B型肝炎コントロール達成の指標値として世界各国に求
めています。日本では地域的な調査から2%未満であると判断されていますが、全国規模の
調査が行われていないため、認証には至っていません。丸4のワクチンウイルスと遺伝子系
の異なる場合の効果については不明です。しかし、従来世界的にも日本においても、この違
いが効果において問題視されたことはありません。
14頁(2)の実施する場合の予防接種の目的は、2つのポイントを目的と考えました。1つ
目は急性肝炎患者を減らすことです。この必要性の根拠としては、急性肝炎が長期入院を必
要となり得ること。時に劇症化して致死的となること。遺伝子型Aの割合の増加が認めら
れていることから、今後、日本の成人における急性肝炎から、慢性化の増加も懸念されるこ
と。性的接触を感染経路とした成人者の感染拡大も今後、あるのではないかと懸念されるこ
となどです。
2つ目に持続感染、キャリアを減らすことです。このことはキャリアの約10~15%が、
先ほどお話したように慢性肝炎・肝硬変・肝がんと進んでいくことが挙げられます。また周
囲への感染源対策としても重要な点と考えます。肝がんの死亡者数は決して少なくはなく、
がん予防ワクチンとしてのB型肝炎ワクチンの重要性に目を向ける必要があると考えます。
持続感染の多くは、5歳未満での感染によって起こることから、世界の80%以上の国で、
すべての小児を対象としたユニバーサルワクチネーションが導入されています。先進国でユ
ニバーサルワクチネーションが導入されていないのは、日本のほか、B型肝炎ウイルス感染
者の割合の低い英国、北欧3ヵ国、オランダのみですが、これらの国ではB型肝炎ウイル
スキャリアと同居する人や、ハイリスクの患者なども対象にされており、日本と比べて対象
者の幅が広くカバーされている状況です。
1985年6月に、日本では母子感染防止対策が始まっていますが、これは母子垂直感染防
止にとどまるものであって、水平感染に対する対策は個別事例ごとの任意接種等によって行
われている状況にあります。さらに先ほど述べた再活性化の問題、あるいは慢性B型肝炎
に対する抗ウイルス治療として行われている核酸アナログ製剤の投与は、生涯の服用が必要
です。そのための副作用も明らかでなく、さらには薬剤耐性ウイルスの出現も危惧されてい
ることも大きな問題と考えます。したがって、HBV感染そのものを減らすという視点から
ワクチン接種を検討することも、長い目で必要となってくると考えます。
(3)のワクチンの安全性ですが、長く世界中で使用されているワクチンですけれども、安
全性に関する問題が起こったことはなく、安全性に優れたワクチンと考えられます。医療経
済効果についてですが、ユニバーサルワクチネーションを行った場合の効果は大きいものと
予想される結果が得られています。現在の母子感染対策に限った実施と比較してみたところ
でも、B型肝炎ウイルスによる肝硬変及び肝がんの生涯リスクを8分の1程度に下げること
が見込まれました。
19頁の実施についてですが、先ほど挙げた目的を果たすための接種率については、先行
して行っている国々の成果から80~90%が望ましいと考えられました。ワクチンの導入は
可能か、需給についてですけれども、我々の考える接種対象者はこの後に述べますが、これ
らの対象者にワクチン接種をしようとすると、現状の供給量ではできません。しかしメーカ
ーからは、将来的には増産が可能であるとの回答が得られていますので、需要に応じた対応
をとっていくことは可能と考えました。
具体的にどの年齢層に行いたいか、2つのグループを考えていますが、アに書いたのは対
象者を乳幼児とした接種です。先ほどから申しているようにキャリア化の大部分が5歳未満
の乳幼児に起こることから、これらを防ぐために、定期接種化は基本的に乳幼児に行われる
べきと考えます。現在、HBs抗原陽性の母親から出生した児のみの垂直感染を、医療の範
疇で行っていますが、このようなセレクティブな形ではB型急性肝炎を減少できた国はな
いこと。日本では24年間、この対策を行ってきていますが、水平感染を防げていないとい
う報告もあること。B型急性肝炎の患者数も減少していないことなどの理由から、ユニバー
サルワクチネーションとして定期接種化する必要があると考えました。
この年齢層に定期接種化する場合には、出生時、1か月健診時、生後3~6か月時の3回
の接種が望ましいと考えています。現行、キャリア化予防で行われている対策では、生後2、
3、5か月時に接種する方法をとっていますけれども、これでは受診回数が多くなってしま
いますし、出生時、1か月、生後3~6か月の3回がいいのではないかと考えました。
次にウに書いた思春期年齢層への接種です。これは、先ほどアに書いたものが追い付いて
くるまでを中心とした対策になるかと思いますが、日本では成人のB型急性肝炎が減少し
ていません。それから遺伝子A型の急性B型肝炎が、STDとして急速に広がりつつあるこ
とが懸念されることも含めて、これを理由としたものです。具体的にこの年齢については、
先ほど説明したHPVワクチンと同様に考え、初交前の接種が望まれます。
またオとして追加で書いていますが、今回の定期接種化とは別の考えになるかもしれない
ですけれども、HBV感染者の同居者に対するワクチン接種についても、是非、検討課題と
する必要があると考えています。
総合的な評価ですが、作業グループとしてはHBVキャリア及び急性肝炎患者数を減らす
ことを目的に、現在、医療の範疇として実施されている母子感染防止対策の継続とともに、
定期接種化を進めるべきと判断しました。なお定期接種化の評価には正確な患者数の把握が
必須であり、報告の漏れの多いことが指摘されている感染症法上の急性B型肝炎患者届出
を徹底するように、医師への働きかけが必要です。また予防接種施策の効果を評価・改善す
るためには、導入前後の継続的な実態調査、急性及び慢性患者数とハイリスク群の把握、
HBs抗原陽性率調査なども必要と考えます。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。これでちょうど7時で、本来はここで終わるので
すけれども、進行が非常に悪く遅れて申し訳ありませんでした。もし7時になって電車、そ
の他でお帰りにならなければいけない先生方がいましたら、それはどうぞ、ご退席をお願い
します。順調にいってあと30分ぐらいかかります。ポリオと百日とムンプスが残っていま
すので、発表する先生も少し早目にやっていただければと思います。ご質問をどうぞ。
○岩本委員 質問というよりコメントですが、HBVは多田先生がご説明になったように、
ワクチンとしてはいろいろな意味でゴールドスタンダードなワクチンだし、ここに書いてあ
ることに私は全く反論はないのですが、1点だけ、私はハイリスクな免疫不全者を普段、診
療しています。HIV感染者というのはHBV感染のハイリスク群です。彼らにはほとんどこ
のワクチンは付きません。だから、このワクチンといえどもまだ完璧なワクチンではない点
があることを、コメントさせていただきたいと思います。膠原病の問題か何の問題かわかり
ません。
○岡部委員長 宮崎先生、どうぞ。
○宮崎委員 1つは、13頁のところで5歳未満の日本のキャリアレートがよくわからない
ということですが、基本的に、いま妊婦さんのキャリアレートが0.3%ぐらいで、95%は母
子感染予防が成功していますので、大体それでいけるのではないかと思います。掛け算する
と、0.3×0.05=5歳未満のキャリア率ぐらいになると思います。
それから、わからなかったのが、17頁のユニバーサルワクチネーションがセレクティブ
の肝硬変、肝がんリスクが1/8ないし1/9に下がるというのが、よくわからないのです。な
ぜそういう数字になるのか。
○多田参考人 これは表の生涯リスクのところですね。
○宮崎委員 17頁の表の下のところです。
○多田参考人 17頁に表があるかと思いますが、それのセレクティブからユニバーサルの
肝硬変の0.0048と0.0006。
○宮崎委員 ですが、セレクティブに、きちんとやっていれば垂直感染がほぼ途絶えるので、
肝硬変、肝がんも長い目で見れば激減していくはずですが、それが、ユニバーサルにした時
になぜ1/10にも減るのか。ここは理由がわからないです。これに対するお答えは今日でな
くてもよろしいので、そこがちょっと疑問であるということです。
○岡部委員長 宿題として。
○宮崎委員 そうですね。
○多田参考人 はい。
○宮崎委員それから、これは要は思想の問題だと思うのですが、セレクティブというのは基
本的には垂直感染を防いで、このウイルスを何十年かかって徐々に排除していく。もともと
そうなのです。水平感染を防ごうという考えはもともとセレクティブにはないわけで、だか
ら日本でも減らないのは当たり前なのです。今回、ユニバーサルにして、しかもそれを違う
年齢層に持ってきて初めて水平感染の予防になる。新生児でユニバーサルに持っていっても、
本当にそれが効いてくるのは20年後ぐらいになってくる。B型の場合は、そういういろい
ろな中で、どういう思想を新しく作っていくかということだろうと思います。諸外国で言え
ば、要するに発展途上国では妊婦検査もできないし、HBIGも使えないので新生児全部にワ
クチン接種をやる。しかもキャリアレートは高いですからね。先進国の場合は思春期以降の
急性B型肝炎が増加し、しかも防げないという、こういう2つの全然違う思想からユニバ
ーサルが出てきたのだろうと思いますので、そこを整理されるといいと思います。
もう1つ、これ、もともとは癌対策というか、これこそがまさに癌予防ワクチンの嚆矢だ
ったはずなのです。それで癌対策の立場からB型肝炎についてどう思われるか。よろしく
お願いします。HPVだけでないと思うのです。
○岡部委員長 鈴木室長、どうぞ。
○がん対策推進室長 いま、確かに癌でもあるのですが、もう1つ、わが国は肝炎というこ
とでもやっていますので。
○宮崎委員 それはそうなのです。慢性肝炎、肝硬変、肝がんというルートがあって、B型
肝炎のキャリアレートは、実は私たちの世代では2%を超えるぐらいあるわけです。ですか
らB型肝炎ウイルスをベースとした肝がんが、未だにかなりたくさん出ているということ
は、きちんと癌対策のところも知っておいていただきたいということです。
○がん対策推進室長 わかりました。
○岡部委員長 スタートは癌を防ぐワクチンと言って、このHBはスタートしていますから。
○宮崎委員 そうなのです。これこそが癌対策ワクチンの始まりだったということを忘れな
いでいただきたい。
○岡部委員長 良いコメントをありがとうございました。そこの部分も盛り込む必要がある
と思います。それと先進国型と途上国型とは考え方が違うといったこともあると思います。
ありがとうございました。少し先を急ぎたいと思います。次はおたふくのほうをお願いしま
す
○多屋参考人 それでは、おたふくかぜのほうの作業チームの報告書を説明させていただき
ます。担当は25頁にありますように臨床から庵原先生、疫学の専門家として大藤先生、フ
ァクトシートを取りまとめたウイルス学の専門家の加藤先生、医療経済学専門の須賀先生、
臨床の専門家として細矢先生、そして私というチームで、このファクトシートのワクチンの
考え方をまとめました。15頁までのところはファクトシートに追加される部分で、医療経
済学的効果の部分と、ファクトシートに書かれていなかった部分として、現在、使われてい
るワクチンの有効性、安全性についてのファクトを盛り込んでいます。
15頁から説明させていただきます。流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)も、先ほど紹介し
ました水痘と同じように、ワクチンを受けていなければ多くの子どもたちがかかる病気です
が、その合併症はたくさんのものがあります。無菌性髄膜炎は非常に有名ですが、比較的こ
れは予後が良好であるのに対し、ムンプス難聴やムンプス脳炎といった合併症は非常に重篤
なので、予後不良であるとされています。また思春期以降に罹患すると、精巣炎(睾丸炎)
が20-40%、卵巣炎も5%合併するとされ、ほかにも膵炎、関節炎、甲状腺炎、乳腺炎、糸
球体腎炎、心筋炎、心内膜線維弾性症、血小板減少症、小脳失調症、横断性脊髄炎など、多
数の合併症が認められているのもムンプス、おたふくかぜの現状であるということを、まず
認識する必要があると思います。
患者数は、ファクトシートの5頁の図2、図3に示していますように、1989年から4年
間導入されたMMRワクチンを使用していたときは、急峻なピークがなくなっていたのです
が、それが使われなくなってから、再び3~4年周期の流行のピークが認められるようにな
ってきています。
16頁で年間の患者数を推計すると、多い年で135万人前後、少ない年でも40万人前後
の患者が国内で発生していると推計されています。多くは4~5歳の患者で、3~6歳で全体
の6割を占め、ワクチンの接種率が低いために全く疫学は変わっていないというのが、ファ
クトシートの5頁の図3に示してあるとおりです。
では、おたふくかぜは子どもの軽い病気かというと、決してそうではありません。16頁
の重症化率のところに記載していますように、これも岡部班で先ほどの水痘と同時に調査し
たのですが、回収率4割の段階で1,624人の入院例、翌年も回収率37.3%の段階で2,069
人の入院例があって、おそらく全国で年間、5,000人程度の入院患者がいるだろうと推計さ
れています。死亡例は、この調査では報告されていないのですが、人口動態統計による死亡
者を見てみると、いちばん多い年で4人の死亡例、ゼロの年もありますが、1~2人の死亡
例が報告されているのも事実としてあります。
もう1つ、睾丸炎の合併は不妊症になる等で非常に有名ですが、睾丸炎を合併すると睾丸
萎縮を伴い、精子の数が減少するということは報告されており、むしろ不妊症の原因となる
のは稀とされています。無菌性髄膜炎の予後は一般に良好ですが、ムンプス難聴の予後は極
めて不良で聴力は元には戻りません。片則性の場合が多いですが、時に両側難聴となった場
合は、人工内耳埋込手術などが実際に行われているのが現状です。また妊娠中に罹患すると
25%が自然流産し、先天奇形は報告されていないものの、妊婦にとってかかりたくない病
気の1つです。
次に感染力ですが、R0、いわゆる基本再生産数という数字を見ると、報告によってかな
り数字にばらつきがあります。しかし、麻しんや水痘に比べると感染力は弱いとされていま
すが、スペインかぜと言われるインフルエンザで、R0が2~3と言われていたころに比べ
ると、その数倍の感染力です。かかってしまうと水痘やインフルエンザのような抗ウイルス
薬はなく、対症療法で凌ぐしかありません。
ワクチンについては2010年10月現在、星野株おたふくかぜワクチンと鳥居株おたふく
かぜワクチンの2つが、日本で使用することができます。また日本で国内使用された実績が
ある微研のUrabeAM9株おたふくかぜワクチン、化血研の宮原株おたふくかぜワクチンも
ありますが、これらは国内では現在、使用されていません。一方、化血研が輸入販売申請中
のJeryl-Lynn株のおたふくかぜワクチンを含むMMRワクチンは、臨床治験を終了して輸
入販売は申請されていますが、現在、承認には至っていません。
ワクチンの効果は極めて高く、中和抗体の陽転率は90~100%と非常に高いものがあり
ます。スイスでの流行時のワクチン1回接種後の有効率は、Urabe株で73~75%、
Jeryl-Lynn株で61~64%と、Urabe株のほうがその有効率は優れています。国内での有効
率を見ると、株を決めずに国内での有効率を見ると、75~90%の有効率があると報告され
ています。米国では2回接種してもかかってしまう例があるとされていますが、さらに追加
接種なども検討されていると思います。また1回接種を定期接種で導入している国では、お
たふくかぜの患者が88%減少して、2回接種を定期接種で導入している国では99%減少し
ています。ファクトシートの7頁に、おたふくかぜワクチンを定期接種として導入している
国を記載していますが、アフリカの国々とアジアの一部の国々を除いて、おたふくかぜワク
チンは定期のワクチンとして導入されており、その患者数を激減させています。
おたふくかぜワクチンの目的は、死亡を予防するというよりも、重篤な合併症を予防する
ワクチンであると考えられます。WHOは麻しんや先天性風疹症候群のコントロールできた
国においては、おたふくかぜをコントロールすることを勧めています。多くの先進国では
MMRワクチンの2回接種を行っているのが現状です。
次におたふくかぜの安全性ですが、ワクチンによってもウイルスの特性として神経親和性
が高いウイルスですので、ワクチンによる髄膜炎も確かにあります。一方、海外で使われて
いるJeryl-Lynn株は、その頻度が低いとされています。しかし、免疫原性については日本
で使われているワクチンのほうが、Jeryl-Lynn株よりも高いとされています。以前、MMR
ワクチンが使われた時期に、1,200人に1人の髄膜炎合併率とされていましたが、その後の
市販後調査の結果によると、推定1万人接種に1人程度と見積もられています。
20頁で、現在使われているワクチンに加えて、MMRの輸入についても検討されていま
すが、これについて無菌性髄膜炎の発生頻度は国内ワクチンに比べると低いのですが、米国
で行われた試験では、39.0℃以上の発熱が6%見られること。わが国において行われた国内
の治験では、39.0℃以上の発熱が23.8%認められるといったこともあり、それぞれのワク
チンの特性を考えた上での導入が必要かと考えます。
費用対効果は、水痘とともに予防接種費1回1万円で、2回接種した場合においても罹患
に係る費用減少株が、予防接種に係る費用増加株を上回ると推計され、定期接種化は、おた
ふくかぜに対する施策として、費用対効果に優れているという研究結果が出ています。
次に予防接種の実施ですが、感染力はインフルエンザよりは強く、麻しんよりは弱いとい
った飛沫感染するウイルス感染症です。ワクチン接種率が30~60%と中途半端な場合は部
分的に排除されるので、かかってしまう年齢が高年齢にシフトしますが、それを85~90%
にすると罹患危険率がゼロになり、ムンプスの流行が終息するとされています。集団免疫率
は75~96.8%とされ、定期接種化されるとherd immunityにより、おたふくかぜの流行も
阻止できると予測されています。
効果の持続については、全員が免疫を獲得するわけではないので、4年後に約4%、8年
後に約8%、患者が出ると推計されていますが、4年を過ぎるとそのワクチン接種後の抗体
価はプラトーに達するという報告もあります。少なくとも、おたふくかぜワクチンの1回接
種に加えて、もし2回接種を行うことにすれば、おたふくかぜの国内流行の連鎖を断ち切れ
ると予想されています。
需給状況は、現在、2社が製造し市販しています。それに加えて輸入販売を申請している
ものもあります。対象者については現在、生後12月~60月の間に接種することが望ましい
とされ、やはり水痘などと同じように麻しん、風疹、混合ワクチンなどと同時接種、あるい
は12歳に達する前に2回目のワクチンを接種するなどして、おたふくかぜの流行を抑制し
ておくことが合併症の予防、引いては次世代の予防につながると考えています。
最後に総合的な評価ですが、これも水痘と全く同じ観点で、子どもの軽い病気では決して
ないという認識を是非、国民全体で持つ必要があると思います。罹患後の難聴は片則性が多
いとはいえ、両側性の難聴も報告されており、不可逆性で、生涯その聴力は回復しません。
合併する脳炎や睾丸炎、膵炎は決して軽症な合併症とは言えず、死亡者は年間数名と少ない
ものの、重症化例や後遺症の頻度は決して許容できるものであるとは考えていません。おた
ふくかぜワクチンは、MMRワクチンが導入された時期に、国内のおたふくかぜの流行状況
を抑制できることも既に証明済みです。ワクチン接種後の副反応がゼロではないという問題
点はありますが、罹患後の合併症と副反応の状況を同時に評価し、両方の情報を提供した上
で、国内での定期接種化につなげていっていただきたいと考えています。
世界に目を向けると、既に118か国が定期接種を導入し、ほとんどの国で2回接種が行
われていることから、世界ではおたふくかぜの患者は激減しています。現在もなお流行を繰
り返しているのは、エジプト、リビア以外のアフリカ諸国と、日本を含む東アジア地域の一
部の国に限られているのが現状であることから、数年前、麻しん輸出国と海外から言われた
状況が、そのうち、おたふくかぜ輸出国あるいは水疱瘡輸出国と言われる国になってしまわ
ないためにも、国としておたふくかぜワクチン、そして水痘ワクチンの定期接種化を求めた
いと思います。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。これについても2、3、ご質問があれば、できる
だけ手短かにお願いします。
○岩本委員 昔、医学部生で、おたふくもmeaslesも何もやっていない学生がいたので、
一緒にMMRの治験に参加して、もちろん私も彼も何もなかったですが、その後、このおた
ふくかぜワクチンで無菌性髄膜炎がかなり社会的な問題になったので、確かに今のワクチン
は、髄膜炎の頻度がすごく低いことは19頁に記載されていますが、もう少しクリアに、そ
れを株の問題であったのかとか、いまの安全性はどういうふうに担保されるのか書いてあっ
たほうが、わかりやすいと思います。
○多屋参考人 ありがとうございます。ファクトシートのほうにはかなり詳細に、そのあた
りを記載しているのですが、このまとめのほうには一部を掲載しました。現在使われている
ワクチンに焦点を絞ってしまいましたので、このような記載になってしまっています。
○宮崎委員 このムンプスワクチンも水痘と同じように、エラディケーション(排除)目標
という理解でよろしいでしょうか。
○多屋参考人 おたふくかぜのワクチンは、ここにも書きましたように接種率が85~90%
になると、herd immunityにより流行は阻止されるとされていますので、おたふくかぜに
ついてもEliminationを目標として、定期接種化していく必要があるのではないかと考えて
います。
○宮崎委員 ワクチンを打っていて罹患してしまう、breakthroughムンプスはどれくらい
と踏んでおけばいいでしょうか。
○多屋参考人 ワクチンを接種していてもかかってしまう患者の数字については、いますぐ
にはあれですけれども、2回接種を行うことで、ほぼ罹患危険率をゼロにすることができる
という海外データも出ていますから、2回接種を導入することで、その辺の危惧も解消され
るのではないかと考えています。
○岡部委員長 2回接種を導入するのは必要なのですが、しかし、2回接種では防ぎきれな
くなってきているのがアメリカの状況だと思います。
○多屋参考人 アメリカで使われているワクチンと、国内のワクチンとでは株が違っていま
すので、その辺のところの効果については差があるというデータも出ていますから、そこは
使っているワクチンの種類によっても、考え方が変わってくるのではないかと考えています。
○岡部委員長 ほかになければ次に移りたいと思います。今までのワクチンは、ルーティン
のワクチンの中には入っていなかったわけですが、あとの百日咳とポリオの2つは、いずれ
も定期接種の対象にはなっていますけれども、接種法や接種のワクチンを変える必要がある
のではないかというところが論点だと思います。ポリオワクチンについて清水先生、お願い
します。
○清水参考人 いちばん最後の頁に、ポリオワクチンの作業チームのメンバーの先生方のお
名前を書いています。清水、中島先生、中野先生、田島先生、大西先生です。公衆衛生、疫
学、ウイルス学の専門家で議論をして、報告書をまとめています。
いま、岡部先生から少しお話があったところですが、ポリオワクチンについては現在、既
に定期接種として実施されています。これはOPVによる定期接種が実施されている予防接
種を、今後、不活化ポリオ含有ワクチンによる定期接種に置き換えること。それに関しての
必要性を確認するということ。それから今回の報告書の中では、新しい定期接種へのIPV
含有ワクチン導入にあたっての今後の問題点ということも含めて、少し議論して報告書にし
ています。
前半部のファクトシート追加編では、ほとんど前回お示ししたファクトシートの内容その
ままですが、それをサマライズする形でIPV導入の必要性について再度確認するという結
論になっています。こちらに関しては非常に簡単に内容を確認させていただきます。後半の
「評価・分析編」のほうでは、IPV導入の必要性を前提として、むしろ、いま申したように
IPV含有ワクチン導入に向けて、今後の問題点についての議論を整理させていただく形でま
とめています。なお、このポリオワクチンに関しては先行研究もあまりありませんし、IPV
含有ワクチンというのは、まだ導入されていませんし市場にも出ていません。値段も出てい
ないということもありますので、医療経済学的な解析あるいはワクチン導入の費用対効果に
ついての解析は、本作業グループでは行っていません。
まずファクトシート追加編のところで、繰り返しになりますけれども、ごく簡単に説明さ
せていただきます。対象疾患としてポリオは、日本では野生株によるポリオ症例は30年近
く発生していないということですが、現在、地域固有の野生株ポリオ伝播がまだ継続してい
ます。いわゆる野生株ポリオ常在国というのはWHOの指定では4ヶ国となっています。
ファクトシートのほうでは12頁に地図が載っていますが、この4ヶ国以外でまだかなり症
例が発生しているというのは、常在国から再輸入、再流行することによって、多くの国でま
だ野生株ポリオによるポリオ流行が発生しているということですので、野生株ポリオ流行の
リスクというのは、そういう意味ではまだなくなっていないということです。
日本では、60年代に野生株ポリオによるポリオ流行はほぼ終息して、1980年以降は国内
では野生株によるポリオ症例は報告されていません。ですから近年確認されている国内のポ
リオ患者は、二次感染症例も含めるということですけれども、すべて現行の経口生ポリオワ
クチン(OPV)の副反応による、いわゆるワクチン関連麻痺症例ということになります。
ファクトシート追加のところの3頁になりますが、予防接種の実施というところでまとめ
たのは、これはファクトシートのまとめのサマリーになりますが、病原性復帰変異株による
VAPPワクチン関連麻痺のリスクというのは、きわめて小さいと考えられますけれども、
OPV接種を継続している限りには一定の頻度でVAPP発症のリスクが存在します。ワクチ
ン接種の現場では被接種者の健康状態の把握など、細心の注意を払っていますが、それによ
ってVAPP発生を予防することは不可能で、実際のワクチン現場の実施接種者にとっては常
に重圧となっています。もちろん麻痺患者にとっては極めて深刻で、終生回復することのな
い身体的ハンディキャップを負わせることになります。そのため近年は、欧米各国を始め多
くの国々が、主にこのVAPPの問題を考慮してIPV含有ワクチンに移行していて、2008年
のまとまった報告では30ヶ国がIPV、10ヶ国程度がIPVとOPVの併用によるポリオ予防
接種を実施しています。これは現在、IPV導入国はもう少し増えていることが、これ以降の
調査でわかります。
次に4頁の「評価・分析編」です。対象疾患は、いま簡単に説明したとおりポリオという
ことですが、日本国内では30年近くにわたって野生株ポリオによるポリオ症例は発生して
いません。ただ、依然として野生株ポリオによるポリオ流行のリスクは、世界中どこの地域
でも存在していて、OPVを継続している所はVAPPのリスクがあるということです。
ワクチンの種類・特性ですが、現在、国内で開発中のIPV含有ワクチンに関しては臨床
開発中ということで、まだヒトに対する有効性と安全性についての評価はできないわけです
が、海外で実用化されているIPV含有ワクチンの場合には、3~4回の接種によって抗体誘
導による有効性を示して、接種部位における局所反応と比較的軽度な副反応は認められ、こ
れは他の不活化ワクチンと同様だと思いますが、重篤な副反応の発生頻度は低い。特にワク
チン関連麻痺は当然、不活化ワクチンは起こさないということです。
IPVを定期接種に導入する目的は、個人および集団に対する免疫を付与することにより、
国内のポリオフリーの状態を現状のように維持する。野生株による流行がない。あるいはワ
クチン由来株によるポリオ流行がない状態を維持しつつ、ワクチン関連麻痺を含めたワクチ
ン接種あるいは二次感染によるポリオ発症のリスクを、できる限りなくしていくことにある
ということです。ポリオフリーというのは、野生株の輸入あるいはワクチン由来ポリオによ
るポリオ流行発生のリスクを抑えたまま、VAPPのリスクも低下させることがIPV導入の目
的だと考えられます。
現在、開発中のIPV含有ワクチンの効果は、先ほど申し上げたとおりまだ臨床試験中の
ため、実際にどれだけの接種率があれば、現状のようにポリオフリーをわが国でも維持でき
るかを、データで示すのは難しいのですが、接種率の低い人口集団あるいは年齢群があると、
野生株による流行あるいはVDPPの伝播があるというのは、世界のほかの国々で示されて
いるところですので、十分な接種率を確保する必要はあります。またOPVの場合は、接触
者あるいはコミュニティに対する集団免疫の付与というのがあるのですが、IPVはそれが認
められませんので、少なくとも現状のOPVと同程度というか、OPVの場合は1回目が95%、
2回目でも90%以上の接種率は維持していると思いますので、それと同程度か、それ以上
に保つことが望ましいと考えられます。IPV含有ワクチンの短期的あるいは長期的効果に関
しては、流行予測調査等により評価を継続することが重要であろうということです。
IPVの接種スケジュールについては、どういうワクチンが、どういうタイミングで導入さ
れるかにもよりますが、導入時期にはかなり複雑化することが予想されます。IPV含有ワク
チンの接種スケジュールに関して大まかに分けると、IPV含有ワクチンだけによるポリオの
予防接種にするか、それともいくつかの国で実施されているように、IPV含有ワクチンの複
数回接種後にOPVを接種する、IPV-OPVを併用するという2つの選択肢が、大きく分ける
とあると思います。DPT-IPVのみの場合は、基本的に現行のDPVを置き換えることにより、
いまのDPTと同じような接種スケジュールになると考えられますが、IPV含有ワクチンプ
ラスOPVとなると、どういうタイミングになるか。最初に2回はIPV含有ワクチンを接種
することによって、OPVによるVAPPのリスクは、ほとんどゼロになるように低下させる
ことができるというのが、諸外国で報告されているところではあります。
いずれの接種スケジュールを採用する場合でも、DPT-IPV導入時期には接種対象者が現
行、DPTのみを接種している場合、あるいはDPT-IPV接種の場合、あるいは未接種である
場合等で、かなり接種スケジュールが異なる時期が出ることが想定されますので、接種スケ
ジュールが複雑化して接種率の低下する層ができないように、手当をする必要があるだろう
ということです。当然、IPV含有ワクチン導入前には、現行のDPTやOPVの接種控えも
懸念されることから、導入に際しては被接種者の不利益や現場の混乱の発生を防止し、接種
率の低下が起こらないよう十分配慮する必要があると考えられます。IPV-OPVの併用の場
合には、また少し違ったスケジュールになります。いずれにしても接種率低下をもたらさな
いように考慮しなければいけないということだと思います。
もう1つ、DPT-IPVが導入された場合でも、これは日本だけでなく諸外国でも言われて
いることですが、アウトブレイクレスポンスのために、OPVあるいはIPVを用意しておく
必要があるのかということ。もしアウトブレイクレスポンスのためにOPVあるいはIPVを
用意しておくという場合、特にIPVの場合には、DPT-IPVをアウトブレイクレスポンスに
使うのは不適当だという考えもありますので、単味IPVが必要なのかどうか。単味IPVが
必要である場合に、いまは単味IPVの開発は行われていないと考えられますので、外国産
ワクチンを使えるようにするのかどうかも含めて事前の検討が必要です。単味IPVという
のは、DPT-IPV導入時に接種が複雑化して、接種率が下がることをなるべく解消するため
にも、単味IPVが必要だという考え方もあるので、この辺は可能性も含めて今のうちから
整理する必要があると考えています。
VAPPの発生というのは、OPV使用を継続する以上は必ず残りますので、IPV導入がで
きるまではサーベイランスを徹底することで、発生状況の把握に努めるとともに、OPV接
種率のモニタリングをして、IPV導入時の接種率低下が起こらないようにモニタリングを継
続する必要があるということです。IPV導入後は、市販後調査等を通じて接種率、副反応発
生状況を注意深く監視することで、おそらくIPV導入後は重篤な副反応であるワクチン関
連麻痺は次第に減ってゼロになると思われますが、その辺をしっかり、有効性、安全性につ
いてモニタリングしておくことが必要です。
6頁ですが、いま日本で開発されている不活化ポリオ含有ワクチンの中では、Sabin株に
由来するIPVを使ったワクチンの開発もありますが、これは世界ポリオ根絶の状況にもよ
りますけれども、将来的にポリオウイルス全体のバイオセーフティ、バイオセキュリティー
のレベルが厳格化する可能性が考えられていますので、その辺は将来的に製造施設のバイオ
セキュリティーについて、留意する必要があると考えられます。
総合的な評価として、日本は定期予防接種の一類疾病としてOPVの接種率を高く維持す
ることで、現在、ポリオフリーを保っています。国内でポリオの脅威から守るためには、ポ
リオワクチンは今までも、これからも極めて重要で、今後も定期予防接種として高い接種率
を維持する必要があると思います。その一方、ワクチン関連麻痺のリスクを除去するため
IPVの導入は不可避であり、できるだけ速やかなIPV含有ワクチン導入が必須であると思
います。DPTとの混合ワクチンであるDPT-IPVの導入に際し、一時的な混乱による接種率
の低下が懸念されるので、十分な準備により接種率を高く保つ必要があります。近年、小児
期の予防接種の増加、たくさんのワクチンの導入による予防接種の増加に伴い、接種スケジ
ュールは過密かつ複雑化しています。外国では多くの混合ワクチンが導入され、予防接種ス
ケジュールの簡略化に寄与しています。日本においても被接種者の負担を軽減し、接種率を
向上させるために、積極的な混合ワクチンの導入ということで、これはDPT-IPVプラスア
ルファのワクチンも含めてですが、その導入は必然であろうということです。速やかな安全
性と有効性の評価により、そういった混合ワクチン導入を推進する体制を構築することが、
強く求められると考えています。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。IPVは実用化寸前と言っていいぐらいまで、きて
いるのではないかと思いますが、そうなると今度は、オペレーションをどうやるかを本当に
早く組んでいかないといけないと思います。スタートの間際になってまた接種の回数とか何
とか言うと大混乱になりますから、実施に当たり足りない分あるいは不足している課題をど
うするか、これは早急に取りかからないといけないと思います。もしご意見がありましたら、
岩本先生、どうぞ。
○岩本委員 未だにOPVだけやっているG7あるいはG20の国が、いくつあるのか。それ
から、いま岡部先生がおっしゃったことですけれども、厚生労働省がしっかりと、どういう
ふうに不活化ワクチンに切り換えていくのか、タイムスケジュールを早く出していただく必
要があると思います。
○岡部委員長 これは小委員会の1つの結論になってもいいと思うのですが、定期接種に入
れる入れないという議論とは別なので、いつIPVが使えるかは、ほぼ終わっている治験と
承認の問題になると思いますが、それに向けてのオペレーションは、できるだけ早くスター
トしていただきたいということを、この小委員会からの意見として出しておきたいと思いま
す。よろしいでしょうか。では百日せきワクチンについて、砂川さん、お願いします。
○砂川参考人 よろしくお願いします。百日せきワクチン作業チームは、病原体やワクチン
の専門家として蒲地先生、中山先生、臨床やワクチンの専門家として岡田先生、疫学の専門
家として原先生、医療経済の専門家として五十嵐先生、そして私が取りまとめ役として参加
させていただきました。今日は私以外に蒲地先生と五十嵐先生がお見えになっています。そ
れでは簡単にまとめさせていただきます。
ファクトシートのほうは医療経済のほうですので、そこの部分で触れさせていただくとし
て、5頁の「評価・分析編」のほうから進めたいと思います。百日咳の疫学状況のところか
らですが、わが国における百日咳の状況として、かつて百日咳は非常にまん延していた病気
として、10万例以上の患者が発生していましたが、ワクチンの導入とともにどんどん減っ
てきて、2006年の推計では1.0万人まで減りました。最近の特徴として2002年以降、小
児科定点の疾患であるにもかかわらず、成人の患者さんが増え、2007年以降は成人の患者
数の増加で全国罹患数2.4万人まできて、さらにまた増えつつある状況のようです。
ただ、そうは言いながらも、実際に百日咳で最も被害を被るのはワクチン未接種の乳幼児
であり、特に生後3か月未満の乳幼児については最も注意すべきグループになっています。
その一方で、最近増えてきている成人については非常に軽い状況が多く観察されていて、重
症化率は0.1%以下の状況になっています。
しかしながら、この百日咳のもともとの特徴として非常に感染力が強い。麻しん並に、い
わゆる基本再生産数に当たる数字として、16~21人という数字も出ている状況があったり、
家族の中でワクチンを接種していない児童がいる場合には9割方感染するとか、成人が感染
した場合においても、家族への二次感染率が12%という報告があったりという状況があり
ます。ただ、発症していても症状が軽いという成人の状況、成人の不顕性感染の割合につい
ては、まだわかっていない状況があります。また百日咳に感染した後であっても、生涯免疫
を誘導しないとか、現行のワクチンは12年ぐらいで免疫の持続が終わってしまう状況があ
り、最近増えてきている年長、成人の百日咳に対する対策が重要になってきている背景があ
ります。ということで、新たな感染源として非常に重要になってきたのが、青年・成人層の
百日咳患者であり、これが重症化しやすい乳幼児への感染源となることが非常に注目されて
いるわけです。
百日咳自体の治療法については、マクロライド系の抗菌薬を投与することで、治療や予防
に有効であることは従来どおり変わらないところですが、最近、外国やわが国においても見
られているように、キノロン系の抗菌薬などに感受性が低いという百日咳が分類されてきて
いるということで、耐性菌対策という点も考慮する必要があることになってきます。
今回の百日せきワクチンに期待される効果を考えてみると、ワクチンを接種した個人に対
する重症化防止と発症予防があるわけですが、先ほども申し上げたようにワクチンによる免
疫力は、12年ぐらいを目処として減少してくる状況がありますので、小学校高学年ぐらい
で免疫の効果が切れてくるのではないか。実際にその年代以降の百日咳の集団発生が非常に
増えてきている状況がありますから、この年代にワクチンの追加接種を行うことができた場
合に、直接的な効果として集団発生も減るでしょうし、間接的な効果としても青年層から、
特に重症化しやすい乳児への罹患を減らすことができることが、期待される効果になってく
ると思われます。今回、議論されている新しい百日せきワクチンについて、この目的となる
ところは、11~12歳以降の百日咳の罹患を減らすことであると同時に、間接的な効果とし
て生後3か月未満の乳児に対する感染予防として、集団効果が期待できることがひとつある
だろうと思われます。また先ほど述べましたように耐性菌対策があります。もう1つ研究的
な側面として成人への追加接種も、目的の中に入ってくると考えられるところです。
このワクチンの安全性について、もともとDTaPワクチンについては、非常に低いアナフ
ィラキシーや重篤な副反応の情報があったわけですが、11~12歳に対する臨床試験の結果
などを見ると、全身反応について接種量との相関は、DTaPを0.2mL、0.5mL接種しても
見られないということだったわけですが、局所反応においては0.5mL接種した場合におい
ては、DT0.1mLに対して1.6倍とやや高い傾向が見られたところです。
医療経済に関する評価としては、効果の判定が接種した本人に対する効果の判定と、間接
的な効果として乳幼児への集団免疫効果がアウトカムになり、複雑な面がありますが、外国
の情報を見ると、現状ではワクチンの投与は費用対効果に優れてると結論している研究が多
いようです。ただ、これを言うためには集団の免疫効果、罹患率の推定が非常に重要になっ
てきますが、わが国において百日咳は、まだ全数サーベイランスという状況ではありません
ので、これらの判定に限界があります。
3頁に戻りますが、わが国における研究を振り返って、例えばオーストラリアの罹患率を
例にとって検討してみると、わが国においては、この罹患率よりやや高いのではないかと考
えられますが、一般的な費用対効果の閾値などから考えてみると、わが国においても良好な
結果が得られるのではないか。そのような情報としてまとめられるようですが、このような
情報を規定するための基礎的なデータの整備が望まれます。
7頁ですが、予防接種の目的を果たすために、どの程度の接種率が必要かということで、
アメリカ、オーストラリア、カナダあたりの情報がいくつか入ってきています。アメリカで
は既にTdapと言われる思春期・成人用の三種混合ワクチンが開発され、欧米では利用され
てきているわけですが、68%の接種率を確保することで有効をコントロールできたという
情報や、百日咳が流行したときのTdap接種の有効率が65.6%、あるいは78%という情報
であったり、カナダでは14~16歳に、9割弱ぐらい接種した時点で百日咳の罹患率が減っ
たことに加え、導入以前の1歳未満の患者数の間接的な効果として、減少が認められたとい
う情報が出てきています。
そこで需給状況に関して、Tdapは外国のワクチンでありますが、わが国においては現行
のDTaPワクチンを減量して使うことが検討され、臨床研究は既に終了している状況で、そ
の有効性と安全性が確認されています。免疫原性についてはファクトシートに十分記載され、
抗体価0.2mLで上昇するということで、今回、この追加分には記載していませんが、十分
に認められています。また安全性については述べたとおりです。現行のDTワクチンをDTaP
に置き換えるということですので、国内メーカーにおける新たな開発に関する費用が、かな
り削減されるのではないかと考えられます。
勧奨される具体的な実施要領として、我々の中で議論したのは、現行のDT?U期をDTaP
?U期に置き換えるということで、11~12歳を標準的な年齢とし、0.2mLを接種することで
どうだろうと議論を進めています。接種は単回接種(ブースター接種を含めない)という議
論の段階です。
総合的な評価ですが、百日咳が述べてきましたように青年・成人層に認められているとい
うこと。この症状が非常に幅広いということがありますので、潜在的に更に多くの患者さん
がいるのではないか。外国などでは青年層へのTdapのワクチン接種が実施されていますが、
これらを含めると、わが国における百日咳のワクチン接種の回数は少ない現状がありますの
で、DTaPの減量接種などを用いて対策を立てていく必要があるだろうということです。具
体的な方法としては述べてきたとおりですが、DTaPワクチン0.2mLを?U期の定期接種、
11~12歳に接種していく方法です。これについては開発に関する初期投資の必要がないだ
ろうということ。そして重症化しやすいグループへの波及を防止するため、それからアウト
ブレイクレスポンスとして、この11~12歳ではない成人、両親、保健医療従事者等に対し
ても、研究的な側面から、この接種ができるような体制も整えていく必要があるのではない
かと話し合っています。
百日咳対策全般としては、百日咳の全数サーベイランス化が必要ではないか。その一方で、
現在の成人を中心とすると流行においては検査系が非常に難しい状況がありますので、臨床
家が利用可能な精度の高い診断系を構築していくことも必要ではないか、そのようなことも
話し合いました。以上です。
○岡部委員長 ありがとうございました。これも定期接種とは違って、接種方法、量等の工
夫による変化ですが、ご意見、ご質問がありましたら、宮崎先生、どうぞ。
○宮崎委員 法改正は必要がないわけで、いちばん軽く、変えようと思えば変えやすいとこ
ろかと思いますが、何をどこで、どうすれば、これをDTからDPT化するかについて、ど
なたか臨床研究とか。
○岡部委員長 これは事務局のほうで、どの法律をいじるか、どの通知を出すか、そういう
ことだろうと思います。
○宮崎委員 添付文書等の問題もあるのですけれども、DPTをDTのところで使うには、
いろいろ薬事のほうの事情もあるのでしょうか。
○予防接種制度改革推進室次長 おっしゃるとおりだと思います。要はそちらの0.2mL
等々の使い方の問題についての整理をさせていただくことが必要かと思っています。
○宮崎委員 それは放ったらかしでも、そちらでやっていただけるということですね。
○予防接種制度改革推進室次長 担当部局としての責任ある答弁ができませんので、関係部
局と相談させていただきます。
○健康局長 このための小委員会で意見を伺っているのですから。
○宮崎委員 研究班でデータを出して、つまりそれは研究班でやった報告なので国に上がっ
ていると思うのです。それを受けて、つまりDT0.2で、いけるのではないかというデータ
が出ている。それを国としてどう取り扱われるかというところは、まだ今、ちょっと見えに
くいところなので、そこさえ整理していけば、この問題は比較的早く進むのではないかと思
います。それは健康課だけでない、薬事の方向だろうと思います。
○健康局長 不勉強で申し訳ないのですけども、研究班でもあるのかもしれませんが、この
小委員会に報告書をまとめられているわけですから、小委員会でのご意見も部会に上げられ
て、部会でのご意見を国としては尊重するというステップを踏むのだろうと思います。
○宮崎委員 ありがとうございます。ということは、是非、その方向で上げていただきたい
と思います。
○岡部委員長 質問はまだまだあろうかと思いますが、総合討論は時間がなくなっているの
と、ここで1時間過ぎてしまいましたので座長としては大変申し訳ないと思います。この議
論を途中で切るにはちょっと忍びないぐらい、ワーキンググループの方々には本当にいろい
ろな作業をお願いして、この作業に集中していただいたということがあります。今日はこれ
しか時間がなかったので、大変申し訳ないのですが時間を延長するような形で、すべてにつ
いて説明を伺わせていただきました。今日、9項目ですから、例えばWHOの会議とかACIP
でこれらをやるとすると、まず3日間の会議です。ですからそのぐらい本当は議論のための
時間が要るのですが、時期としては長くやらなければいけないというのと、わが国の状況に
合わせてということが今回行われたことですけれども、結論としてはいずれも甲乙付けがた
い状況で、人々にとって必要なワクチンであると思います。ワーキンググループの方々には
大変申し訳ないですが、もう1回、フォーマットや何かを事務局のほうも提示すると思いま
すので、今日の議論や意見などを入れながら、最終報告書としていきたいと思います。その
辺の作業は事務局側と小委員会の委員長の私が相談して決めていきたいと思いますが、そこ
はご了承いただけますか。もちろん、ご相談することもでてくると思うので、それはメール
や何かで伺うことにしたいと思います。
ただ、冒頭にも申し上げたように、これはなかなか優先順位というもは付けがたくて、ど
れというのランクはないと思います。しかし、一時に全部実現するということになると、実
際上の問題のほかに現場の混乱とか、あるいは製品が間に合わないとか、感染症研究所では
検定ができないといった諸々の問題が出てきますので、そこは、ある程度順番というものを
考えざるをえないのではないかと思います。これは要望ですが、そうなった時にどういう順
番で、どういう話をしていくか連続性を持つことと、計画とどういう戦略を立てていくかが
非常に重要だと思います。これが従来の委員会等で欠落しているところで、1回議論をやる
とおしまいということになりますので、是非、そこの連続性を持って議論が出来るようにし
ていただきたいと思います。これに携わっている人たちは、少なくともそれに対して協力は
落しまないと思いますから、是非、よろしくお願いします。
一応、これをもって今日の小委員会は終了したいと思います。事務局から今後の計画等々、
お話がありましたらお願いします。
○予防接種制度改革推進室次長 先ほどご説明申し上げましたとおり、次回は11月中を予
定させていただきたいと思っています。その間、先ほど委員長からもお話がありましたよう
に、適宜、やり取り等をさせていただく可能性がありますので、よろしくお願いします。以
上です。
○岡部委員長 それでは終了します。どうも遅くまでありがとうございました。
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