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2010年6月22日 社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会第3回議事録

雇用均等・児童家庭局

○日時

平成22年6月22日(火) 17:00~19:00


○場所

経済産業省別館 第1014号会議室


○出席者

委員

才村委員長 磯谷委員 大村委員 長委員 佐藤委員
庄司委員 松風委員 豊岡委員 中島委員 松原委員
水野委員 吉田委員

オブザーバー

古谷参事官 (最高裁判所) 進藤局付 (最高裁判所)
飛澤参事官 (法務省) 羽柴局付 (法務省)

厚生労働省

伊岐雇用均等・児童家庭局長 香取大臣官房審議官 田河総務課長
藤原家庭福祉課長 杉上虐待防止対策室長 千正室長補佐

○議題

(1) 一時保護中の児童相談所長の権限と親権の関係について
(2) 一時保護の見直しについて
(3) 保護者指導に対する家庭裁判所の関与の在り方について
(4) 強制入所以外の場合に接近禁止命令を可能とする制度について
(5) その他

○配布資料

資料1  児童相談所が一時保護を実施してから児童福祉法28条1項事件を申し立てるまでに要した期間(最高裁家庭局提出資料)
資料2  児童相談所が一時保護を実施してから児童福祉法28条1項を申し立てるまでに長期間要した事案の特徴(最高裁家庭局提出資料)
資料3  児童虐待を主訴とする一時保護の状況
資料4  第3回児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会論点ペーパー
参考資料1  予防接種の実施に際しての保護者の同意について
参考資料2  児童虐待対応に伴う児童相談所への保護者のリアクション等に関する調査研究
参考資料3  一時保護又は施設入所等の措置に関する行政事件訴訟等について(豊岡委員提出資料)
参考資料4  豊岡委員提出意見
参考資料5  なぜわが国で里親制度が発展しないか(メモ)(庄司委員提出資料)

○議事

○才村委員長
 定刻になりましたので、ただ今から「第3回社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会」を開催いたします。委員の皆さま方におかれましては、お忙しいところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日は、松風委員から少し遅れて出席されるという連絡をいただいておりますが、12名すべての委員に御出席いただくことになっております。
 それでは、はじめに事務局から資料の確認をお願いしたいと思います。

○千正室長補佐
 資料の確認をさせていただきます。最初に議事次第、座席表がございます。それから、資料1は「児童相談所が一時保護を実施してから児童福祉法28条1項事件を申し立てるまでに要した期間」という最高裁判所提出資料です。資料2は「児童相談所が一時保護を実施してから児童福祉法28条1項を申し立てるまでに長期間要した事案の特徴」で、これも最高裁判所提出資料です。資料3は横置きの資料で「児童虐待を主訴とする一時保護の状況」、そして資料4として論点ペーパーがございます。参考資料1は「予防接種の実施に際しての保護者の同意について」、参考資料2として「児童虐待対応に伴う児童相談所への保護者のリアクション等に関する調査研究」、参考資料3は豊岡委員から提出いただいた「一時保護又は施設入所等の措置に関する行政事件訴訟等について」、参考資料4は豊岡委員から書面で追加の御意見をいただきましたので、配布させていただいております。参考資料5は「なぜわが国で里親制度が発展しないか」ということで、庄司委員から資料をいただいております。
 それから、1枚紙で次回の予定について机上に配布させていただいております。資料等は以上でございます。不足等がございましたら、お申し出ください。

○才村委員長
 ありがとうございました。本日の議事進行についてですが、前回に続きまして、議事次第の(1)~(4)のテーマについて、自由に御意見を頂戴したいと思います。
 その前に、事務局から参考資料の説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○千正室長補佐
 前回の委員会で御指摘のあった事項が何点かございました。その事項について、参考資料を配布させていただいております。まず、参考資料1でございます。前回、磯谷委員から御意見のあった「予防接種の実施に際しての保護者の同意について」、今回はまず、現状の取扱いがどのようになっているかを、予防接種の担当部署において整理してまとめたものでございます。若干、説明させていただきます。予防接種法において「保護者」の定義がございまして、「親権を行う者又は後見人」とされているところであります。保護者の同意の根拠につきましては、予防接種実施規則という厚生労働省令によって「保護者に対して予防接種の効果及び副反応について説明をした上で、保護者の文書による同意を得ることが必要である」と義務付けられているところであります。
 この保護者の同意ですけれども、具体的には三つ目の丸にありますように厚生労働省健康局長通知において「接種時の保護者同伴を求めた上で、予診の際に保護者に対して説明を行い、文書による同意を取得すること」を運用として示しているところであります。
 ただ、実際には施設入所中もそうですけれども、保護者が何らかの理由で同伴できない場合が実態としてあると思います。そういった場合の取扱いについて、健康局から事務連絡を発出しておりまして、その場合は被接種者つまり子どもの健康状態を普段より熟知しており、保護者の代わりを務められる者が同伴することで差し支えないと示しているところでございます。
 具体的には、その下の※印のところにありますように「?@事前に保護者に説明する等により、保護者の文書による同意を得ておくこと、?A当日予診票に追加の記載等が必要な場合は、保護者等の委任状等により、同伴者の同意が有効なものとみなせるようにしておくこと」を事務連絡では求めているところでございます。
 一番下の丸ですけれども、具体的に全国の施設等でどのような運用がなされているかということで、事務局の方で幾つかの都道府県に確認してみたところ、児童福祉施設等においては、保護者の包括的な同意文書を事前に取得しておくこと。それから、この予防接種法の予防接種というのは何歳で何を受けなさいということが法定されているわけですけれども、具体的に例えばはしか・BCGという個々の予防接種の際には施設で対応するという運用がなされているところです。
 1枚おめくりいただいて、これについて今回予防接種の担当部署において考え方を整理したものがここに書いてあることでございます。要点としましてはアンダーラインが引いてあるところです。接種時の同伴、予診票への記載、予防接種の効果及び副反応について説明を受けること、接種の文書による同意等が保護者としてしなければならないことですけれども、「児童福祉施設の長等は保護者の委任を受けているものと解することができる」と整理されたところでございます。現状の運用・取扱いについては、ここまでにおいて整理されております。
 最後のところは、今後どうしていくのか。今は少なくとも入所時には包括の保護者の同意があることを前提に、個々の接種のときには施設の判断ということになっていますが、そもそも保護者の同意でなくて施設でできるのかという論点もございますけれども、そこについては今後の議論を見極めた上で、予防接種法の体系の中でどのような判断をしていくかということになろうかと思います。予防接種については、以上でございます。
 参考資料2と3でございますけれども、前回に吉田委員から行政事件訴訟の実情を確認すべきではないかという御指摘があった関係で配布させていただいております。参考資料2は才村委員長の調査研究の中から、行政事件訴訟の関係部分を抜粋したものでございます。具体的には、下に研究報告のページが振ってありますけれども、257ページの4「行政事件訴訟の状況」で、二つの行政事件訴訟の事例について紹介されているところです。「事件A」は棄却、「事件B」はこのとき係属中であったということでございます。
 参考資料3は、同じ趣旨ですけれども前回、豊岡委員から発表していただいた全国児童相談所長会のアンケートの中で、行政事件訴訟がこれだけありましたという部分がありましたが、それについて、さらにその結果がどうであったかを確認していただいたものでございます。「棄却」「却下」「本人の取下げ」のいずれかが結果でございます。
 参考資料4は、豊岡委員からいただいた追加の御意見でございます。
 それから、参考資料5です。前回、水野委員から里親制度が普及しない要因について御質問があったところでございます。そのときに庄司委員にコメントをいただきましたが、さらに庄司委員からメモとしてお考えをまとめていただきましたので、配布させていただきました。
 参考資料の説明は以上でございます。

○才村委員長
 どうもありがとうございました。豊岡委員からも資料をお出しいただいていますが、今の参考資料の件に関しまして何かコメントがございましたら頂戴したいと思います。

○豊岡委員
 参考資料4に意見をまとめてありますので、お読みいただければと思います。前回、施設長等の権限と親権関係について、やはり親権制限は慎重であるべき、「一律」は少し乱暴ではないかという意見がございました。全くそのとおりだという気がしておりまして、親権制限は、あくまでも条件がある。あるいは限定的にやっていく必要があるのではないかという気がしています。
 ただ、今も事務局から説明がありましたように、例えば予防接種や精神科への入院、あるいはパスポートの取得等も含めて、施設入所だけに限らず、施設入所に同意はしていても、個々の場面で同意が得られない。あるいは「その部分は駄目です、反対です」ということで意見が食い違ってくるということがあって、施設の現場では苦労している。あるいは里親さんたちも苦労しているということがあると思いますので、そういうことをぜひ、この場で御検討いただければありがたいと思います。繰り返しになりますが、損害賠償への対応などは全国児童相談所長会の所長たちの意見でもございました。
 そして、一時保護に関してもということでしたので、本日の資料で関係する部分では3番に「一時保護の期間」の問題を書いておりますが、基本的に児童相談所長の優先については新たに盛り込んでいただきたいということで意見を提出させていただきました。本日の議論の中で、3番の期間等については多分出てくると思いますので、その場でまた述べさせていただければと思っております。以上です。

○才村委員長
 どうもありがとうございました。それでは、本日のテーマのうち、(1)と(2)が一時保護に関する部分ですので、一時保護の実情について資料1~3を最高裁判所家庭局と厚生労働省から説明いただきたいと思います。その上で、(1)~(4)のすべてのテーマを議論するための資料として、資料4を事務局から説明していただければと思います。

○杉上虐待防止対策室長
 それでは、少し順番が違って申し訳ありませんが資料3「児童虐待を主訴とする一時保護の状況」でございます。これにつきましては、研究会において一時保護の状況について調べてほしいという各委員からの御要望等がありまして、報告書の中にも参考資料として入れさせていただいているものでございます。
 1ページ目でございます。平成21年4月1日から7月末までの4か月間のすべてのケースについて全国児童相談所長会にも御協力いただきまして報告を依頼しました。回収率は92%です。本資料におきましては、パーセントと件数の両方が入っていますけれども、件数につきましては先ほど申した4か月を機械的に年間件数に換算しております。
 1枚おめくりいただきまして、2ページ目でございます。「虐待を主訴とする一時保護の期間別件数」ですが、虐待を主訴としても、必ずしも全部が施設入所につながるわけではありません。施設入所となっていない一時保護のケースも含まれた数字と御理解いただきたいと思います。下の方に期間別の数字があります。ポイントだけ申し上げますと、2か月未満のところの累計の比率が83.3%ということで、約8割が2か月の間に一時保護が終了しているということです。これは後ほど御議論いただきますけれども、一時保護の期間は2か月を超えてはならないという原則がありつつ、必要があると認めるときは引き続き一時保護することができるという規定になっているところであります。反対に、2か月以上の数字につきましては、17%程度という状況になっております。
 次のページは「一時保護に対する親権者の意向」について調べたものでございます。これは、あくまでもアンケート調査でございますので、確実に保護者の同意があったのか、なかったのかという形でとったものではありません。担当の児童福祉司たちの感覚で調べたものでございます。下の表の右側でございますけれども、一時保護開始時に「同意がある」が74.2%になっています。一時保護終了時につきましては93%と増えてきているということで、児童相談所職員の方々の説得と言ってよいのかどうかわかりませんけれども比率が高くなっているということでございます。もっとも、左側にありますように開始時は同意があったけれども、同意がなくなったという数字もゼロではないということでございます。
 続きまして、4ページ目は「親権者の意向が変化する時期」を調べたものでございます。同意が「ある→ない」「ない→ある」のいずれについても9割以上は2か月間ぐらいのところで生じているという数字になっているところであります。
 次の5ページは「一時保護開始後の各時点における一時保護件数と当該時点における親権者の同意の有無」を調べさせていただいたものでございます。上のグラフで黒くなっているところが「同意がない」で、開始時の25.8%が6か月時点では41.1%と比率が下がっていって、この時点になると「同意がない」ケースが相当数になっている。このように捉えているところであります。
 最後のページは「一時保護開始から28条申立までの期間」を調べさせていただいたものであります。最高裁判所提出資料にも入っていると思います。ポイントとなるところですが、2か月以内のところで22.0%となっておりまして、2か月以内で2割が28条申立をしたと見ていただければよいと思います。3か月、4か月ということで、実は6か月以上という数字もあるという現状になっているということでございます。
 続きまして、最高裁判所から資料1と2を説明いたします。

○古谷参事官
 それでは、最高裁判所から資料1と2について、簡単に説明いたします。まず、資料1と資料2は、研究会のときに説明いたしました「児童福祉法28条事件の動向と事件処理の実情」という調査をした際に、審判事件158件につきまして「児童相談所が一時保護を実施してから児童福祉法28条1項事件を申し立てるまでに要した期間」を調査したものでございます。先ほどの厚生労働省から出していただいた資料とは調査の時期等が異なりますので、件数等が若干食い違いますが、その点は御了承ください。
 まず、資料1は、一時保護を実施してから児童福祉法28条事件を申し立てるまでに要した期間を円グラフで描いております。この四角の囲みですが、2か月以内に26.6%、3か月以内に61.4%、4か月以内に73.4%の事案が申し立てられているというのが実情でございます。若干の数値のズレはございますが、先ほどの御説明と大体同じような数値になっております。
 次に、資料2を御覧ください。これは審判書から判明した限りで比較的期間がかかったケースにつきまして、その事件の特徴を件数が多いものから箇条書きに並べたものでございます。この特徴は、1件に複数の特徴があるというものもございますので、重なる場合もあるという前提でお聞きください。その特徴について若干の御説明を致します。まず、やはり親の同意のある・なしが非常に不安定であることが長期の期間を要したことに影響しているケースが多いということです。実際には、いろいろな努力をされて同意を得るようにされているところだと思いますけれども、どこかの段階で見通しを立てるような対応もあり得るのではないかと思われます。また、親に対する働きかけが功を奏さず、結局最後まで親の態度が改善されなかったということで期間がかかってしまったというケースもあるようです。
 次に、児童が一時保護委託されたケースがございます。一時保護委託されたからどうという関係には必ずしもないとも思われますが、児童に対して比較的安定的な環境が提供されるということとの関係があるのかもしれません。
 なお、やや特別な事情として、7番の事案ですけれども、これは親が一時保護に対して不服申立てをした。あるいは人身保護請求をしたという関係から、時間がかかった事案でございます。以上でございます。

○杉上虐待防止対策室長
 続きまして、資料4の論点ペーパーの説明をしたいと思います。まず6ページの2「一時保護の場合」でございます。前回、施設入所児の場合の親権者の親権と施設長の親権の関係をどうするかということで御議論いただきました。一時保護の場合も同様の問題があるということで、前回に説明済みの部分でございますので、7ページの(4)「一時保護の期間」のところから説明申し上げたいと思います。一時保護の場合について、どのように考えていくかということで、冒頭で現行の仕組みを書かせていただいております。親権の制限との関係で、現在の制度のままでよいのかどうかという議論がなされたということでございます。
 8ページでございますが「A案」では「現行の規律を維持する」という考え方が一つの意見として出されました。この案につきましては、一時保護に不服があったとしても、一時保護自体を対象とする行政事件訴訟を提起することもできることから、現行制度で十分ではないかという考え方でございます。ただし、これに対しての問題点が指摘されております。こういった形で制限することについては、正当化されないような事態を生じるおそれも出てくるのではないかということでございます。このような問題点に対応して修正案という形で、「A案修正案」の一時保護を2月を超えて継続することができる場合の要件を法律上明確にしてはどうかということでございます。
 それから「B案」につきましては、「28条審判の申立てまでの期間を制限する」という考え方も示されているところであります。これも「内容」の最後のところでございますけれども、一時保護は暫定的な処分であって、継続的に親子分離をする場合には施設入所等によるべきであるということを明確化しようという考え方に立った案となっているところであります。この案につきましても「問題点」のところに書いてありますとおり、かえって児童の保護を欠く結果とならないかという問題点も指摘されているところであります。
 9ページでございますが、今の修正案としまして「B案修正案」ですが、「B案」を基礎としつつ、例外的に28条審判を申し立てるまでの期間を延長する場合には、延長について裁判所の承認を要するものとするのが相当であるといった意見もありました。これについても、「もっとも」以下でございますが、新しい制度を設けることによって児童相談所における事務負担が大きくなって、かえって児童の保護を欠く結果とならないかといった問題点が指摘されたところであります。
 また、「C案」につきましては、一定の期間を超えて一時保護を継続する場合には一時保護について裁判所の承認を要するものとする考え方でございます。「内容及び根拠」の1段落目最後でございますけれども「司法審査の対象を、親権者から一時保護の継続について異議が述べられたものに限り」、これは先ほど意向調査をしたと申し上げましたが、まさしく一時保護に対して異議を唱えている親に限ってやってはどうかということで、その際の手続をできるだけ簡易なものにしてやってはどうかという意見でございます。次のページに、この意見についての問題点が指摘されております。いくらやっても児童相談所に相当の負担がかかるのではないかというのが一つ目のポツのところでございます。二つ目でございますけれども、結局そういうことをやったとしても短期間の継続しか正当化されないのではないかといった意見も出されております。また、適正手続や裁判を受ける権利の保障の観点から、憲法上の問題も生じるのではないかということでございます。
 このようなことで、一時保護の場合について、仮に施設長等と同様の仕組みを入れた場合、一時保護について今の制度のままでよいのかどうかということが御議論されたということでございます。これについては、引き続き当委員会でも積極的な御意見等をいただければと思っているところでございます。
 次に、二つ目の論点で「接近禁止命令の在り方」、11ページ以降でございます。アには平成19年改正の概要を書いているところでございます。イを御覧ください。平成19年改正、これは前回の虐待防止法の改正でございます。議員立法で成立したものでございますが、この際にも接近禁止命令に対する裁判所の関与の在り方について、引き続き検討を要するものとされたわけでございます。この際に、「接近禁止命令の対象を、強制入所等の場合に限らず、同意入所等及び一時保護の場合並びにそれら以外」この「それら以外」というのは在宅ケース等でございますけれども、その場合にまで拡大するのが相当であるとの意見もあったところでございまして、それらについて整理がなされているところでございます。
 12ページでございます。まず、現行の裁判所の関与のないことをどのように考えるかでございまして、「検討」のアですが類似の法として「ストーカー規制法」あるいは「配偶者暴力防止法」等がありますけれども、これらと照らし合わせても、命令の主体を裁判所とする必要性は必ずしも高くないと考えられるという整理が研究会ではなされたところでございます。
 ただ、仮に施設入所等の措置及び一時保護が行われていない子どもについて、これは真ん中から下の「他方」というところです。接近禁止命令の対象を拡大する場合には、必ずしも今の制度のままでは相当ではない場合もあると考えられるということでございます。そのような経緯等を踏まえて研究会でも御議論いただきまして、まず対象の拡大をどうするのかという話。それからもう1点は、命令の主体をどのようにするのかということで検討がなされたということでございます。12ページの最後にありますとおり、接近禁止命令については、親の権利等に対する強度の制限ということがいえるのではないか。そのため、慎重な検討が必要という中にあって、それぞれのケースについて検討がなされたということです。
 13ページでございますけれども、(イ)は「同意入所等及び一時保護の場合への対象の拡大」ということで、現行の仕組み、あるいはその実績について書かれているわけで、現状平成19年に接近禁止命令の制度が新設されたわけですが、その実績について、ここに書いてあるとおり、新たに設けられた接近禁止命令が発出された件数は0件にとどまっているということ。あるいは家庭裁判所における、これも1年間ですが、接近禁止命令の保全処分の新受件数も0件であったという現状であるということでございます。このような現状を踏まえた上で、なおその必要性について検討した方が良いのではないかとなっているところです。(ウ)は「施設入所等の措置及び一時保護が行われていない場合への対象の拡大」ということで書かれています。典型的な例として、これも1段落目にありますとおり、未成年の子どもが民間のシェルターに保護されている場合を想定して議論がなされたところです。
 14ページに飛んでいただきまして、「そこで」のところでございますが、現行制度においてとり得る手続の有用性等も踏まえて、なお検討する必要があるということでございますが、仮に家庭裁判所が接近禁止命令をそのような子どもについて設けることについては、幾つかの問題点が指摘されているところです。例えば一つ目のポツのところですが、先ほども申したとおり、かなり強度の親権の制限、親の権利の制限になるわけでございますので、接近禁止命令の制度よりも親権制限による対応の方がふさわしいのではないか。あるいは二つ目のポツですが、成人した子どもでも問題となる事例があり、その点も踏まえた方が良いのではないか。あるいは親子間の問題であるので、そのような接近禁止命令ということではなくて、自立へのサポートのことを考える方が重要ではないかということ。あるいは最後のポツですが、仮にこのような制度を設けた場合、児童虐待ではないような事案において制度が濫用される恐れもあるのではないかとなっているところです。
 次の論点は「保護者に対する指導の実効性を高めるための方策」ということでございます。15ページです。「問題の所在等」の1段落目ですが、児童虐待への対応において、親子の再統合を実現するなどの観点から、保護者に対して児童への改善等の指導を行うことが重要であるという共通認識の中で、現行制度のことについて書かれています。ただ、4段落目の「もっとも」のところですけれども、いろいろな制度の仕組みがあるわけですが、指導に応じない、養育態度を改善しようとする姿勢が見られないというものも少なくない。そのような観点から実効性を高めるための方策について検討をいただいたということでございます。
 16ページでございますけれども、保護者指導に対して第三者としての家庭裁判所の関与の在り方について論点が整理されているところです。まず、アの「家庭裁判所の関与の在り方に関する意見」のところです。現行制度において、家庭裁判所は施設入所等の措置についての承認をする場合に、保護者に対して指導措置をとるべき旨を都道府県に勧告することができるという仕組みが入っています。その限度で保護者に対する指導に関与していただいているところです。そのような中においても、もう少し保護者が指導を受け入れやすくする観点から、もっと積極的に関与することが必要ではないかという意見が出されたところです。この意見につきましては、ここの下に書いてありますとおり、問題点を指摘する意見、あるいは支持する意見、それぞれの意見で幾つか論点が整理されているところです。
 そのような中で、仮に進めるとしたら実際にどのようなやり方を想定することができるのか。そのような方向で検討されるのが有用であるということで、17ページ以下に具体的な方法を仮に設定した場合にどのような形となるかを想定し御議論いただいたわけです。具体的にはまず「A案」ですが、家庭裁判所が保護者に指導を受けるように命じることができるようにするという考え方でございます。意見につきましてもそこに書いてありますとおり、一つ目の意見は命令という形にしたとしても、直ちに実効性は期待できないのではないか。あるいは次のポツでございますが、かえって児童相談所と保護者との対立を激化させる恐れがあるのではないかということです。
 「B案」につきましては、家庭裁判所が施設入所等の措置を承認する際に、併せて保護者に対して指導措置をとることについても承認することができるようにするとの考え方でございます。これらにつきましても18ページにありますような問題点が指摘されたところであります。一つ目のポツでありますが、そもそも指導措置というものが家庭裁判所の承認を得て初めて行われるようにすべき性質なのかという御意見。あるいは家庭裁判所において本当に適切に判断することができるのかといったような意見でございます。
 「C案」につきましては、家庭裁判所が施設入所等の措置を承認する際に、併せて児童福祉司等による指導を受けるべき旨を保護者に勧告することができるようにするとの考え方です。都道府県知事に対する勧告を直接保護者に行うという考え方です。これについても下の方に問題を指摘する意見ということで、家庭裁判所の公平・中立の立場でチェックする機能からすると、保護者の側から見た裁判所の公平性・中立性を損なう恐れがあるのではないかということ。あるいは仮に今の仕組みで申し上げますと、保護者が手続上の当事者とはされていないわけでありまして、そもそもそのような制度を設けるのは困難ではないかという意見。あるいは、そのような仕組みを入れたとしても、実効性が高まるとはいえないのではないかという意見も出されたところですが、反対に支持する意見としても、必ずしも今申し上げたような意見に対して、そうではないのではないかという意見も出されたところです。
 (3)は「現行制度の下における実務上・運用上の工夫等」ということでございます。どのような制度を設けるとしても、冒頭で申し上げたとおり、虐待事案であっても親子の再統合というような実現をすることの観点から、最後の20ページになるわけですが、現在の実務の運用に改善する点についても併せて検討すべきではないかという御指摘をいただいているところです。特に「なお」書きのところでございますが、例えば保護者に対し、施設入所等の措置に対する承認審判の審判書とともに都道府県に対する勧告書が送付される場合もあるという運用を統一することも考えられるということで、現在の実務の運用の改善点についても考えつつ、保護者に対する指導の実効性を高めるための方策について検討することが期待されていると締めくくられているわけでございます。
 早足の説明で恐縮ですが、以上でございますので、よろしく御議論のほど、お願いしたいと思います。

○才村委員長
 どうもありがとうございました。後ほど、テーマ別にそれぞれ御意見を頂戴したいと思いますが、まずは今、御説明いただいた資料1~3について、御質問等がありましたらお受けしたいと思います。松原委員、お願いします。

○松原委員
 一時保護の実施状況について少し確認したいのですが、ケースはそんなに多くはないのかもしれませんが、親が積極的に一時保護をしてほしいという依頼のケースもあるかと思います。基本的には同意を得られるか得られないかはわからない中で一時保護をされると思いますが、そのときに例えば子どもが学校や保育園にいて、親が子どもと一緒にいない状態で一時保護をするケースと、家等に子どもが親と一緒にいるところに児童相談所が出かけて行って、親から引き離して一時保護をするケースとがあると思います。現場的には今日は児童相談所に対する調査にそれが含まれていなかったのですが、どれぐらいの割合で実施されているのかということが、もし感覚でもおわかりになれば教えていただきたいのですが。

○才村委員長
 では、豊岡委員。感覚的なものでも、ということですので。

○豊岡委員
 先ほど児童相談所の関係の方に聞いてみたのですが、本当にデータをとっているわけではありませんので、現場の実務の感覚です。7割が保護者がいない状況下での一時保護です。例えば学校や保育所等からの保護で、7:3かなと思います。子どもが学校で帰りたくないとか、何かあざがあったということであれば、そのようなところでまず身柄の安全を確保して、そして親御さんに児童相談所が説明して、親の了解を得るとか納得を得るような努力をしているというのが実情です。

○才村委員長
 松原委員の御質問の御趣旨は何でしょうか。

○松原委員
 要するに相当強い行政権限を発揮するので、実務的にいうとそれで一時保護をしますと、子どもの健康診断等をして一時保護をしますから、場合によると親が自分の子どもが一時保護されたことを知るのに、数時間どころではなくて5、6時間後になる。このことも後でトラブルになるケースが結構ありますし、逆に子どもを抱えて離さない親について、それを離して連れて行くことも7:3ですから3割あるという現状を確認した上で、その後の親権についてどのように考えるかという議論をした方が良いと思います。取っ掛かりのところでかなり大きな行政的な力が働いていることを我々は認識すべきだと思います。

○才村委員長
 どうもありがとうございます。他に、資料に関しましての御質問等がございますでしょうか。吉田委員、お願いします。

○吉田委員
 先ほどの厚生労働省の資料で同意の割合が出まして、この同意のある・なしだけで見ますと、相当同意が確保されているように見えますけれども、実際にはこの中には意に反して一時保護されて児童相談所と対立関係に入っていて、親の側が「もう勝手にしろ。あなたたちが勝手に連れて行ったのだから、私は知らない」というケースは、ここではどちらに入るのでしょうか。先ほどのお話にありましたように、現場の感覚ということで大変調査もやりにくかったと思います。実際に本当の意味での職権保護の件数を明らかにするのは、まず不可能ではないかと思いますが、ここにありますように同意の数がこれだけあるから、一時保護については相当ケースワークがうまくいっているのだという結論は、少し早いと思います。

○才村委員長
 今、吉田委員がおっしゃった事案は、この統計ではどちらに入るのでしょうか。調査をするときの定義があったと思いますが。

○杉上虐待防止対策室長
 お答えになるかどうかがわからないのですが、2ページの欄外の※印ですが、親権者の意向を確認できないケースは少なくとも集計対象から除いています。ただ、そこの判断ですが、冒頭で申し上げたとおり、あくまでも現場の担当の児童福祉司の考え方という形でしかとれなかったものですから、このケースはこちら、このケースはこちらという形で明確にお答えはできないというのが正直なところです。

○才村委員長
 ありがとうございます。水野委員、お願いします。

○水野委員
今の吉田委員の質問と恐らく反対側の質問になると思いますが、一時保護で同意が得られなかったために結局時間をかけて児童福祉法28条の申立てをしたという件数は出てくるわけですが、逆に、親が一時保護に同意せず子を引き渡さなかったり、いったん保護された子を強引に奪い返してしまったというケースは数字に表れてきません。才村委員長の参考資料2に表れているような、親から施設職員に加えられるものすごい暴力や、身の危険を感じるような圧力が現場にかかっていて、現場の人々はバーンアウトしておられるわけです。そのときに、先週の法制審議会でいただいた資料には、戦慄するような虐待親が強引に奪い返したケースが紹介されていました。これらについては、この数字に表れてこないわけです。この数字に表れないケース、つまり施設としてこれは引き離すことが必要な危険なケースであると判断していても、親の反対に抗して一時保護をする余力が施設にないようなケース、いったん保護して親の同意を得ようとひたすら説得していても親が強引に奪い返してしまったケースについて、何らかの資料が今あるようであれば、お教えいただきたいと思います。

○才村委員長
 事務局で何か情報としてお持ちでしょうか。

○千正室長補佐
 そこについて調査というかデータは今、持ち合わせておりませんが、基本的には一時保護は虐待だけではありませんが、例えば虐待の疑いがあって一時保護をして調査をして、その家庭に返して在宅で指導などをするのか。あるいは親子分離して施設入所等の措置をとる必要があるのかという判定を児童相談所の方で子どもの観点からしなければならないと理解していますので、仮に親の側の引取り要求が強いから返してしまったということは、基本的にはそのようなことがあってはいけないと思います。子どもの立場で、どちらが良いのかということを判断して家庭に返すのか、施設入所等、同意が取れないのであれば児童福祉法28条の申立をするのかということを判断していると思います。

○才村委員長
 よろしいでしょうか。

○水野委員
 具体的な事案を法制審議会に出て拝見したときに、これは親が引き取ってしまったという具体的な事案について、割合に淡々と御報告がありましたので、そのようなケースがかなりあるのではないかという心象を持ったのですが。もちろん親が要求するから施設が積極的に返すと言うことはないでしょうが、奪い返されることはあるのではないでしょうか。

○才村委員長
 そうですね。これは関係があるのかどうか、これは推測ですが、例えばこの資料で、私の方で調査をさせていただいた結果から見ても、年々保護者から児童相談所職員への加害・妨害事案というのは急増しているのです。一方で児童福祉法28条申立てや職権保護件数もどんどん増えているのです。ということは、確かに以前はかなり圧力に屈して返したということがあるのでしょうけれど、最近の傾向としてはそのようなことはなくなってきて、だからこそ熾烈な対立関係を招いているのではないか。そのようなことがあってはならないし、ということで児童相談所もかなり姿勢としては積極的になってきていることは間違いないだろうと推測しますが、よろしいでしょうか。
 他に、資料に関しまして御質問はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは今日はいろいろと盛りだくさんなのですが、資料4の論点です。資料4の中でまず(1)の「一時保護中の児童相談所長の権限と親権の関係」、さらには(2)の「一時保護の見直し」。この二つは相互に関連するテーマと考えられますので、併せて御意見を頂戴できればと思います。概ね18時15分くらいまでに(1)(2)は終わらせていただきたいと思います。御意見を頂戴したいと思います。

○豊岡委員
 参考資料にも書きましたけれども、「一時保護の期間について」でございます。「A案」「A修正案」「B案」「B修正案」「C案」ということで五つの選択肢が出て、前回の児童相談所長会の調査でも御報告させていただきましたけれども、「A案」は42.4%が良いだろうということです。「A修正案」が36.7%、「B案」関係にいきまして「B案」が全体の1.9%、「B修正案」が6.3%、「C案」が10.8%でした。従って「A案」「A修正案」の多さに鑑みますと、現場の中では現状の中で何か工夫ができないかということを望んでいると思っていますし、私の意見もそのように書かせていただきました。児童福祉法28条も2か月で切るというその辺の危うさも問題がないわけではないと思っていますので、人手の問題を含めて、児童相談所の機能強化あるいは事務量の増という課題をセットで対応しなければ「B案」あるいは「C案」についても難しい部分があると思っています。その点だけを意見として述べさせていただきます。以上です。

○才村委員長
 どうもありがとうございました。では松原委員、お願いします。

○松原委員
 先ほど質問で確認させていただいたように、かなり行政的な権限が一時保護については強いわけで、何らかの司法的なかかわりが私は必要だと思いますが、一方で児童相談所あるいは裁判所等の現状もよくわかっているつもりです。「A案」が現実的だろうという御意見もよくわかるのですが、このまま放っておくと一部の保護者しかこのようなことを利用できないと思うのです。きちんとこのような保護者が手続きが取れるようなシステム。それは法制度があるからではなくて、それを一方できちんとサポートできるようなシステムを社会的につくっておかないと、まずいのではないかと思います。そのようなシステムが動き始めていれば、そのシステムを実際に動かす組織は後ほど議論になるかと思いますが、さまざまな児童福祉法28条、あるいはその後の保護者指導ということについて、そこに頼っていくことができるような体制が考えられるだろう。もちろん先走りますが、措置をした児童相談所に不服がある親や家族に対して、また相談に行けという命令を出しても実効性がないだろうと思います。イギリスでいうと、ファミリー・ライツ・グループという当事者団体がありますが、当事者側に立つような組織が育成されてきて、そこが場合によっては司法的な対応についてもサポートをするという社会的なシステムをつくっていけば、私は場合によっては修正案でもいけるかと思います。それがなければこれだけ権限が強い中で、現行どおりというのはどうかなと思っています。

○才村委員長
 児童相談所の判断をサポートできるシステムが必要ではないかという御意見だと思いますが、具体的にイメージとしてお持ちであれば、おっしゃっていただけますか。

○松原委員
 そのイギリスのファミリー・ライツ・グループを出しました。これはいわゆるイギリスのイギリスでいう児童相談所がかかわった親について例えば裁判を起こす。あるいはヨーロッパのことですので、国籍にかかわって国際裁判所に訴えを起こすというときに、保護者側のサポートをする団体です。もちろん、その中にはかつて自分が社会的保護の対象となった親たちも含まれています。この団体は、公的な助成を受けて活動の展開をしていますので、いわゆる当事者グループと考えてよいと思います。日本にそのまま輸入できると思っていませんが、日本なりの文化や風土を踏まえた上で、工夫はできるのではないかと私自身は考えています。

○才村委員長
 当事者をサポートするかどうかは別にして、制度的にも行政事件訴訟や行政不服申立ての制度がありますから、現行制度の運用でその辺りを担保できるのかなという気がするのですが、いかがでしょうか。

○松原委員
 その辺は法の議論よりも、多分現実的な議論になるかと思います。あまり私だけが発言しても。

○才村委員長
 ありがとうございました。では松風委員、お願いします。

○松風委員
 今のお話の関連で、私どもの方で行政不服審査を担当していますが、年間に大体7、8件から10件あるのですが、いわゆる弁明書と反論書のやりとりをするわけですが、当事者の方々は非常にそこで消耗感を感じてしまっていて、この方々が一番受け止めてほしいのは、一時保護のときの非常に残念な気持ちを十分に聞いてほしいというニーズが非常に高いわけですけれども、現行の不服審査のやりとりの中ではそうではなくて、手続上瑕疵がなかったかとか、十分お互いにその内容について了解できるかどうかに論点がいきますので、当事者の方々のニーズと非常にずれてしまうのです。それで非常に不満足感を持ちながら諦めるといったことが不服審査の現状としてあります。それで諦められないものですから、何回も弁明書と反論書のやりとりが起こりますので、3か月や6か月かかってしまう。その間、一時保護が継続するといったことが結果的に起こっております。

○松原委員
 あともう一言だけ。おっしゃるとおりだと思います。先ほど御紹介した団体は基本的にはまず相談事業からやっていますので、そのような消耗感や空しさのところを対応することがグループの基本的な活動の中身になっております。

○才村委員長
 吉田委員、お願いいたします。

○吉田委員
 最初のところの一時保護中の児童相談所長の権限規定を設けるというところは、設けるべきではないかと思います。当然、一時保護中に子どもたちにかかわるいろいろな事柄が起きてくる。ところが、これが現行法上は明確でない。児童福祉施設長の権限を準用するということで今は行っているようですけれども、やはりこれは規定上明記するべきではないかと思います。
 それから一時保護の期間の問題ですけれども、私はどの案が良いということがまだはっきりとしていないのですけれども、実情から考えると、このようなことではないかと思います。先ほどお話がありましたように、親がいながら子どもを分離するという場合も、児童相談所の職員の方のストレスは相当あるだろう、これでよいのかということがあると思います。それから、学校の行き帰りに子どもを一時保護するという場合。例えば学校長が校内で保護するのはやめてほしいと、学校から出たところで保護してほしいというケースもあると聞いています。そうすると、本当に子どもが歩いているところを、表現は良くないかもしれませんけれども、ある種拉致するような形で子どもを連れて行くというと、やはり児童相談所の人がこのようなことを自分もやっていてよいのかという忸怩たる気持ちを持ちはしないだろうかというところで、まず保護のところで無理がありそうだということが一つです。
 それから、今度は保護した後の話ですけれども、私たちも実際に一時保護所の子どもたちから何人もヒアリングしましたけれども、特に中学生ぐらいになってくると学校に行けないということが大変大きなストレスになっています。御承知のように児童福祉法上では、一時保護所に関しては一時保護所にいる子どもの就学義務が免除されている。いわば子どもを学校に行かせなくてもよいということになっているわけです。そうすると、特に中学3年の2学期ぐらいになってきますと受験が控えている。自分の内申書はどうなるのだろう、中間試験もある。しかし、学校に行けない。一時保護所によっては学校との連携でその辺りを相当カバーしている所もあるようですけれども、これは自治体によって相当違う。これはやはり子ども自身の教育を受ける権利が現に制限されているわけです。
 それから、一時保護所の中での生活ですけれども、これも児童福祉法上、子どもの所持物が保管される。ですから、私物は許されないということになります。さらに行動制限も事実上かかってきます。例えば、性被害を受けた子どもは非常に丁寧に対応しなければならない。その分だけ他の子どもとの接触を制限したりということも出てきます。こうした事実上の子どもの制限が入所中はたらいている。
 今度は親にとっても一時保護中の子どもとはそう簡単には会えない。これは当たり前かもしれませんけれども、親の会う権利という観点からすればやはり制限されているというのが今の一時保護の実情です。先ほど松原委員が相当強い行政権限だとおっしゃいましたけれども、見方を変えると相当強く子どもや親の権利や行動が制限されているのが現状です。これにどのように対処したらよいかというときに、私は理想を言えば司法関与ですけれども、先ほど松風委員がおっしゃったようにやはり親の気持ち、子どもの気持ちなのです。これをうまく聞き取って、そしてそこでうまいアレンジが進んでいけば、この後の入所中の処遇にも良い影響を及ぼしていく。ただ、これはどこかで聞く場が必要だろうと思います。それをどのように設けるか。児童福祉法の場合には、子どもの保護、子どもの福祉というために、こうした強い行政権限が行使されているのですけれども、実際にはこうした権利制限があるとすれば、司法手続きによらない、そうした調整システムであったり、手続き補助のシステムであったり、例えば感染病予防法などの法律でも同様な問題が出てきます。これは本人と同時に社会を守るというので、少し保護目的が違うかもしれませんけれども、やはり保護目的による権利制限という場合の仕組みが他の法律で用意されていますので、それらを参考にしながら一時保護の場合の手続きや仕組みを考えてもよろしいのではないかと思っております。同様に警職法であったり、入管法というものがあります。それぞれ法目的は違いますけれども、やはり参考にしてもよろしいのではないかと思っているところです。以上です。

○才村委員長
 どうもありがとうございます。保護のための権利制限は少し他の分野を参考にしてはどうかということだったと思います。まだもう少し時間がありますが、いかがでしょうか。水野委員、お願いいたします。

○水野委員
 また、発言させていただいて申し訳ありません。今の御発言を伺っておりまして、本当に必要なことは子どもを救うことであり、親を救うことでもあるという趣旨があったかと思います。親を救出する形で対処しないとこの問題は解決しないと私も思っております。一時保護所の現在の実情が非常に劣悪なのは委員の先生方皆さま御存知なわけですが、そちらの方が非常に劣悪であるということ、そして同時に行政に親をサポートする余力がないということが、問題です。しかしそれがここで行政権が強すぎるという結論に直結するということが私には今一つよくわかりません。本当に必要なことは、まさにそのような行政的なサポートや援助を非常に手厚くしなければならないことでしょう。そのことによって解決されるべき問題と、それと親が自分の意思に反して親権を制限されることをどう設計するのかという問題とはごっちゃにしない方が良いと思います。そうでないと、そこで親の権利を守る、あるいは子どもの権利を守るためといって、結局は手を下さず、一番何の保護もない、どうしようもないところに落としてしまうことになりかねないことを私は危惧します。
 それから、今、吉田委員がおっしゃったように、他の領域で何か参考になることということで、これは本当に思い付きだけなのですが、精神障害者の強制入院のときに、この問題についてやはり司法的な関与を経ないで強制入院させるということが国際的に非難を浴びたことがありました。児童虐待の問題では一時保護所は質量ともに非常に劣悪なのですが、精神障害者の場合には精神病院を営利団体が大量に開設して患者を引き受けてしまうという問題が起きましたので、実際にも人権侵害がたくさん起こりました。しかしそこで欧米のように司法を関与させるということになりますと、日本の司法の現状からいって機能しないので、「精神保健指定医」「精神医療審査会」による事後審査という行政的な審査システムをそのときに設けました。児童虐待の場面でも、そのような行政的な審査システムを考えるという手はあるかと思います。しかしとにかく審査システムがしっかりとしていないので、現在の一時保護所の劣悪な状況や、あるいはストレスに弱い親の脆弱性という問題が起きているのではないということは、共通認識として持つ必要があるのではないかと思います。

○才村委員長
 ありがとうございます。佐藤委員、お願いいたします。

○佐藤委員
 とても素人的な意見で恐縮ですけれども、親の権利と子どもの権利ということについて、先ほどからの議論をずっとお伺いしていて、どうも腑に落ちないというか、多少違和感があるのですけれども、そもそも親権というのは子どもがいろいろな権利侵害を受けないために、子どもを守るために親に特別に与えられた権利であったり、義務であったりするだろうと。子どもを中心に考えればそのようなことだと思います。従って、児童虐待という状況を考えたときに、そこでは親の権利と子どもの権利は同じように扱うべき事柄なのかどうかということが、素人っぽくて申し訳ありませんけれども、そこが不思議な感じがしています。そもそも子どもの権利を守るために機能していないとしたら、それは親の権利というように、子どもの権利を守ると同様に親の権利を守るというような議論がどうも私にはわかりにくいという感じが先ほどからずっとしています。
 もう一つは、やはり基本的に児童虐待の問題は犯罪であると私はずっと考えていまして、そのさなかから子どもをいかに救い出すかということが、とりあえず当面の一番重要な課題だろうと思います。これは最初の会議のときに申し上げましたけれども、家族の再統合というキーワードがありますが、もちろん、いろいろなプロセスを経て、そのような形で問題が最終的に解決されるならば、それは非常に重要なことだと思いますけれども、その前提として子どもは明らかに犯罪の被害者だと私は思っていますし、それから親はやはり自分が加害者であるということを確認するところから始めなければならないのではないかと、これはまた大変素朴にそのように考えております。そのような視点の中から今議論になっていることを考えていく必要があるように思っています。
 そうだとしたら、どのような方向性が一番良いのかということがすぐには自分の意見としてはまとまってこないわけですけれども、あるいは他の皆さまと立っているところが違っているのか、同じなのかということも含めて少し自分の意見にあまり確信はないのですけれども、率直に言ってこの2点です。このような児童虐待という問題の中で、子どもの権利と親の権利を並列的に扱うことが妥当なのかどうかということと、それからやはりこれは現実にたくさんの子どもが殺されていたり、あるいはいろいろな意味でひどい目に遭っているわけですから、これは親子の中で起きているから児童虐待と言いますけれども、社会的に言えば通常これは犯罪に該当する行為ですから、その点について立ち位置をはっきりして議論しないと、どうも私にはわかりにくい。このようなことで申し訳ありませんが以上です。

○才村委員長
 ありがとうございます。今の佐藤委員から親の権利と子どもの権利の兼ね合いで。磯谷委員、お願いいたします。

○磯谷委員
 そもそも一時保護のときには、まだ本当のところ虐待があるかどうかよくわからないという前提で一時保護をしていますので、そういう意味では当初からこの親の犯罪だというような形で決め付けるわけには多分いかないのだろうとは思います。この「A案」から「C案」までありまして、率直に申し上げて、虐待問題にかかわっている弁護士の間でも異論のあるところではありますけれども、日本弁護士連合会としては、やはり司法審査を入れることが望ましいだろうと。この議論の出発点というのは、先ほどからお話が出ていますけれども、やはり一時保護は非常に強い権限だということと、そして今回一時保護をした場合に親権を制限するということになりますので、そうするとやはり本来はきちんと裁判所がかかわって権利の制限について正当性があるのかどうかということを判断していくことが望ましいだろうと思っているわけです。基本的にはその考え方自体には大きな異論はないのではないかと考えているわけです。
 ただ、現状では、やはり児童相談所あるいは裁判所もキャパシティといった問題もあり、水野委員からも再三御指摘の現状もありというところをどう見るかということだと思います。私どもの方も無理に現状を考えずに理屈で制度を入れるべきだと言っているつもりはなくて、やはりもし環境整備が必要であればそれをきちんとやった上で、理想を実現するべきだと思っているわけです。そういう意味で、この状況で仮に困難であれば、それをごり押しするということではないのですけれども、しかしそうは言っても、ではどのようになれば果たして司法審査を諸外国と同じような形で入れることができるのかという辺りの目途が全く見えないというところにもやはり非常に懸念を感じるところです。それをここで議論して何か決めるということではありませんけれども、やはり特に裁判所や行政にお願いしたいのは、ぜひ現状で負担が大きくなるということであれば、それに耐えられるだけのスタッフであったり、いわゆる足腰を鍛えるなりの準備をしていただきたいということが率直な意見です。以上です。

○才村委員長
 佐藤委員、お願いいたします。

○佐藤委員
 一つだけ教えてもらってよろしいでしょうか。一般論としてこれが虐待かどうかわからないというケースは確かにあると思いますが、私の知る限り、一時保護所は大変込み合っていますし、しかも私のゼミの卒業生なども、とにかく県庁に入ったら最初に配属される場所が児童相談所で、バーンアウトして県庁さえ辞めてしまった人が、過去まだ卒業生を送り出すようになってまだ7年しか経ちませんけれども2人もいますし、そのような状況の中でもなお一時保護をしたのですから、相当これははっきりしているのではないかと素人的に思いますけれども、これが本当にどうかわからないというような子どもを児童相談所に一時保護をするようなことはあるのでしょうか。

○豊岡委員
 磯谷委員が言われましたように、確かに虐待が明確で「あなたはこのような虐待をしました」ということではなくても、やはり子どもが「とにかく帰りたくない」と。その帰りたくない理由は多分いろいろとあると思います。そういうところから明確に「これが虐待です」ということがない段階でも児童相談所はやはり子どもの側に立って保護することは多々あります。やはり警察に告発すべきではないかというひどい事例も片やあって、それは両方だと思います。

○才村委員長
 実際にさまざまなケースがあって、必ずしも虐待イコール犯罪といえない部分もあると思います。ただ、これは国の通知でもやはり虐待かどうかというのは、当の子ども自身からの視点が大事です。ですから、その子ども自身がやはり精神的にとても傷付いている、理不尽さを感じている、もうやめてほしいと思っていたら、それはすべて虐待ということですよね。ですから、あくまで子どもの視点に立って対応していく必要があるのではないかと思います。
 まだまだ御意見を頂戴したいと思いますが、本日はいろいろなテーマが盛りだくさんですので、次のテーマに移らせていただきたいと思います。(3)の「保護者指導に対する家庭裁判所の関与の在り方について」の御意見を頂戴したいと思います。松原委員、お願いいたします。

○松原委員
 研究会にかかわっていらっしゃった方に質問ですが、裁判所が保護者に勧告なりを出すときの受け皿は児童相談所だという前提で議論がずっと構成されていたのですか。

○才村委員長
 大村委員、お願いできますか。

○大村委員
 現行法の延長線上で考えると、そうだろうということではないでしょうか。もちろん、そうではない選択肢もあり得るのではないかという御議論はありまして、その議論も。

○松原委員
 例えば現行法でいっても、一義的な相談は市町村がやることにはなってはいますよね。想定としては児童相談所として考えていらっしゃったという理解でよろしいですか。

○大村委員
 今のことの繰り返しになりますけれども、そういう議論とそれにこだわる必要はないのではないかという議論があったということです。

○松原委員
 ありがとうございます。私はこだわる必要はないのではないかという趣旨で先ほど発言させていただきました。

○才村委員長
 では、御意見を頂戴したいと思います。磯谷委員、お願いいたします。

○磯谷委員
 ここのところについては、今回、全国児童相談所長会からの希望が強かったところだと理解しております。既に研究会の方でもかなり議論しまして、慎重な御意見としては、やはり裁判所がかかわったからといって必ずしも効果があるかどうかなど、まさにここでいろいろと整理されているようなところはあるわけです。
 大きく二つありまして、研究会のときに議論したのは児童福祉法28条と離れた形で何か児童相談所の指導のようなものについて裁判所が絡むかという問題と、それから現行の児童福祉法28条6項を改正して、特に今は都道府県に対して、親にこのような指導をするということを勧告するという枠になっているわけですけれども、それをダイレクトに親に対して勧告するように組み替えてはどうかというところとありました。私自身の整理としてはそこの二つが非常に大きなポイントであったと思っているのです。
 特に後者の児童福祉法28条6項の改正をして、裁判所が直接親に対して、このような内容の勧告をするという形でやることについては、まず現状は裁判所の中でも児童相談所にという形でありながら、実際には保護者に向けたメッセージの発信をしているわけですから、それをそのまま保護者に対する直接の勧告という形でやっても、現状でやっていることとそれほど変わらないではないかということが一つあります。
 それから、制度的にも親が当事者でないという話もありましたけれども、親も十分にその裁判にかかわって裁判所にも意見を聞いてもらっている状況ですから、裁判所から一定の勧告があっても、それは制度上もそれほどおかしくはないということを申し上げて、私としてはこの児童福祉法28条6項を直接親に勧告する制度に変えていただくということを、ぜひお願いしたいと思っているところです。

○大村委員
 直前の磯谷委員の御発言と、松原委員の御発言について私の意見を申し上げます。松原委員がおっしゃるように従来の制度と全く関係ないところで新たな制度をつくるのは考えられるのだろうと思いますけれども、しかし、そのときになぜ裁判所なのかということについてはそれが成り立つ理屈が必要になるだろうと思います。これはなかなか難しいところがあるということで、磯谷委員がおっしゃるように、児童福祉法28条6項の中に何か盛り込めないかという話になるのだろうと。あるいは研究会ではそのような筋で議論したということだろうと思いますけれども、その際に従来、裁判所のやっていたことの延長線上で、どこまでのことができるかというので、運用を改善していくという余地は、私は現場のことはわかりませんけれども、考えられることはあるのではないかと思っております。ただ、児童福祉法28条のそもそもの構造が親の同意がないのに行われる処分について、その正当性を確保するために裁判所が関与するということなので、行政の行う処分の正当性について裁判所が関与するということなので、裁判所の関与の対象は行政になるということが多分筋なのだろうと思います。そこから実際上どこまでのことができるかということで、どこまでのものを取り込んでいくかということになるのではないかということが私の整理です。

○才村委員長
 松原委員、お願いいたします。

○松原委員
 私も現実的な対応が必要だと思います。あえて確認したいのは、全国児童相談所長会の御意向は指導の受け皿が児童相談所だということで、そのような御要望を出されたということが確認できれば、私もまた考えたいと思いますけれども。

○才村委員長
 豊岡委員の方でお答えいただけますか。

○豊岡委員
 全部の児童相談所でということではなく、指導を行うべき場所は私たちの固い頭では他にあるということを考えていませんでしたので、児童相談所が行う保護者指導というレベルで考えていただいた方が正確かと思います。おわかりいただけましたでしょうか。

○才村委員長
 松原委員、よろしいですか。

○松原委員
 全国児童相談所長会のお考えがわかったので結構です。

○才村委員長
 今、豊岡委員がおっしゃったのは、全国児童相談所長会としてはあくまで前提として児童相談所における保護者指導というところで議論されてきたということですよね。

○豊岡委員
 議論というか、調査の。

○才村委員長
 実態など。

○豊岡委員
 実態やそのようなことで、過去にも児童相談所は保護者指導等に関して裁判所の関与を要望してきた経過もありますし、例えば保護者指導を全く別の機関やが担うような制度が頭にあって自由な発想の下で聞いているわけではありませんので。あくまでも児童相談所がやっている今の保護者の指導プログラムの中で、「A案」「B案」「C案」で聞いてみたということです。従いまして、いろいろな発想があり、このような制度があればよい。このような組み立ての中で、このような方法も考えられるなど、そのような斬新なアイデアをお聞きしたわけではないということです。

○才村委員長
 松原委員の方で、例えば児童相談所全体ではなくて、こういうシステムが良いのではないかというものがあれば、お教えいただきたいと思いますが。

○松原委員
 限られたディスカッションの時間しかなくて、新たな制度づくりのところまで言及してよいのかどうか迷いながら今日は発言していたのですが、もし才村委員長に話すことをお許しいただけるのなら。
 例えば、具体的に名称を出してよいかどうかわからないのですが、幾つか虐待にかかわる民間のNPO団体が既にできていますよね。そういうところが既にあるものとしては一定の受け皿になる。ただし、これがある自治体というのは限られています。都市部だけですから。現行やっているから、すぐに全国的にあまねくできるとは考えておりませんので、相当そこは体制整備が必要になってくると思います。
 しかし、事実上そのような形で今、実際に活動されている団体も既にありますので、それほど非現実的なことではないと思います。

○才村委員長
 運用上の問題で、児童相談所と民間がどう連携を図っていくかということもあると思います。
 ただ、ここで議論することは、やはり児童相談所における保護者援助をいかに司法がバックアップできるのかというところではないでしょうか。そこに絞って議論していただければと思います。
 磯谷委員、お願いします。

○磯谷委員
 今、最後におっしゃっていただいたとおりだと思います。

○古谷参事官
 では裁判所の方から、意見を述べさせていただきます。この点については既に研究会で十分に検討されているようですので、特に新しいことを申し上げるわけではありません。運用上は保護者を意識した運用がされており、それなりの成果を上げているという御指摘がございます。実際の審判では、保護者を念頭に置きつつ、処遇勧告を児童相談所に対して行うという形で初期の目的を収めているということがあろうかと思いまして、この点はブラッシュアップしていく必要があるのではないかと考えております。
 では、それを制度化すべきかという話になりますと、やはり難しいところがございます。まず、裁判所の行政との関係での役割分担という観点ですが、基本的には行政が行うことに対して司法がチェックをかけるという仕組みになっており、行政事務を実際に裁判所がダイレクトにやるという制度設計というのは、適切ではないと思われます。
 次に、児童福祉法28条の手続の構造の問題があります。確かに児童福祉法28条審判では親から意見聴取をするようになっていますけれども、手続としては親は当事者にはなっておりません。そういった立場にある親に対して、「命令」というのは義務的なものなのか、あるいは「勧告」というのはどういう法的性質なのか、といった問題もあり、そのような形の制度にすることには問題が大きいと思われます。
 諸外国ではそのような運用がされているところもあるようですが、その辺りについては、基本的な制度の基盤の違いがどうしてもあるのではないかと思われます。

○才村委員長
 ありがとうございます。この議論は特に児童相談所の体制の問題がありますよね。さらには家族再統合も含めて保護者指導というのも実際は本腰を入れて取り組まれたのは最近で、まだ試行錯誤の段階で技術的な問題もありますよね。さらには立法マターの問題等もいろいろとあって、現実的に考えていかなければいけないと思いますが、この場ではむしろ立法的な問題を、現実的な実態を踏まえた上で、どういう制度であるべきかというところを議論していただきたいと思います。
 何か他に御意見はありませんでしょうか。磯谷委員、お願いします。

○磯谷委員
 先ほどおっしゃっていただいたところに対するコメントです。まず、行政との役割分担につきましては、他の分野ではともかく、この家事事件という分野では、やはり行政と裁判所の連携というものは他の分野と違って求められる部分だと思います。役割分担といっても当然節度は必要ですけれども、過度にそこを意識する必要はないのではないかというのが私の意見です。
 それから、児童福祉法28条の構造、当事者ではないという点につきましては先ほど出たとおり、そうはいっても実質的には当事者としてほぼ扱われているではないかという話になります。
 やはりこの児童福祉法28条6項を改正する大きな意味というのは、まさに児童福祉法28条という制度に乗っかっているわけで、裁判所が今回承認しますと、特に何かうまい具合に進まない限りは2年後にまた同じように裁判所に来ることになるわけで、親としてはそれは希望しないでしょうから、そこに向けての指針というものを示してくれるのが裁判所の勧告ということになるだろうと思います。
 ですから、私どもは決して義務だというような、何か「命令」ということで申し上げているのではないのです。むしろ裁判所からも一定の指針というものを親に与えてくれることによって一層、児童相談所とともに示されたところに向けて「これをやっていかなければ仕方がないんだ」と腹をくくってもらえるのではないかと思っているわけです。

○才村委員長
 長委員、お願いします。

○長委員
 御趣旨は、わかります。ただ、勧告の性質がどういうものであれ、裁判所が直接親に対して勧告をするということになった場合、名宛人になる人に対する、よくいわれる手続保障の問題も出てくる可能性があります。そのように考えていくと、裁判手続上の構造が重くなってくるのではないかと思います。そうなると、果たそうと思っているようなことが、うまく果たせるのかということが心配になります。
 従って、御趣旨を、重い手続にしないでどうすればうまく実現できるのかという辺りを考えるというのは、一つの方向としてはあり得るのではないかと思います。正面から取り上げると、例えば要件や効果、不服申立て、手続保障といったいろいろな問題が顕在化していって、かえって御趣旨に反してしまうのではないかという危惧があります。

○磯谷委員
 まず、手続保障ということについては、現実的に既に親の意見というのは十分聞いているわけです。私は少年事件にあまり実際に遭遇したことはないのですけれども、確か少年法では保護者に対して裁判所が一定のことをお話しされる場面があったと思います。申し訳ありませんが今は手元に条文がないものですから、正確なことは言えませんが。そういったところもありますので、それほど制度としておかしいことはない。
 それから、もちろん裁判所として必ず親に対して勧告をしなければいけないということではなくて、現実でも今、都道府県に勧告をしているのは確か10~20%ぐらいというような話であったと思います。やはり私どもが実際の裁判で見ていると、裁判所の方でこの親に対して言いたいというところが出てきていると思いますから、そういう場合に、今まではある意味で隔靴掻痒のような形ですけれども児童相談所に言っていたのを親に対して言えるようにする。それがふさわしくないケースの場合は当然それはやる必要はないし、また十分な手続保障がないと思えば、それもやる必要はない。そこは現場の裁判官の裁量で構わないのではないかと思います。

○才村委員長
 長委員、お願いします。

○長委員
 児童福祉法28条6項は都道府県に対する勧告です。その勧告をどう実務的にうまく運用するかということで出てきたのが先ほどから御指摘があるような中身になっていると思います。形の上ではあくまでも都道府県に対する勧告でありまして、直接親を対象とするということになると、従来ないものをそこにつくっていくことになります。正面から取り上げて親を名宛人にして勧告をしていくということになりますと、手続的には別なものを持ち込んでくることになると思います。ですから、そこはただ条文だけ変えれば足りるというものではないように考えるのですが。

○大村委員
 磯谷委員をはじめとして、この勧告を親に対してしてほしいという方々は、裁判所が親に言ってくれることが実質的な効果を持つのではないかという点に着目されているのだと思います。先ほど、2年後がどうなるかということもあって、今後の指針を裁判所が示してほしいということであったと思います。その指針自体は現行法の児童福祉法28条6項の下でも都道府県に対して示すことは可能なわけですよね。ですから、都道府県が裁判所からこのようにいわれている、このような方針でやれといわれているということを間接的に親に伝えるというのでは十分ではないということだとすると、事実の問題として裁判所が都道府県に向けて言っている内容を、より立ち入ったものにして、そして事実上それが親に直接伝わるような仕組みをつくることが現行の制度の中で可能な方策として、まずあるのではないか。それがどれぐらいできるのかということではないかと思います。
 それも駄目だということになったときには長委員がおっしゃったことであろうと思いますけれども、制度の仕組みを変えていかなければいけないということになる。それは松原委員がおっしゃったことで、あり得る考え方ですけれども、それはもはや児童福祉法28条6項の問題ではないのではないかと思います。

○磯谷委員
 制度論そのものについては、法律家のはしくれとしてもわからないことはないのですけれど。ただ、これが実際に国民からみて一体理解しやすい制度なのかというところもあると思います。実際には親が裁判所へ行って、最近は弁護士もついて結構いろいろと主張される、不服申立てもされる。そういう中で、多分当事者意識は非常にあるのではないかと思います。
 それともう一つは、やはり検証というのはなかなか困難だと思いますけれども、裁判所が都道府県に対して勧告をする。児童相談所がそれを見て「このような勧告が裁判所からありますよ」と言っても、「そんなの、あんたの問題でしょう」と思うのが恐らく普通の感覚ではないかと思います。そこを、あえてそれが結局親のメッセージだというのは、一般の人からするとかなり受け止めにくい、わかりにくいやり方になっているのではないかと思います。
 そういう意味でも、委員の先生方あるいは裁判所がおっしゃるように制度的に少し変わったことになるということはあるかもしれませんが、そこにそれほどこだわる必要があるのか。あるいは所詮勧告であるわけで、命令で何か罰則を設けよと言っているわけではないし、中身も基本的には今までやっていることです。そういうことを考えると、一歩踏み出すのにそれほど慎重になる必要があるのかというのは、率直に言って疑問に感じております。

○才村委員長
 他の委員の先生方は、今の件に関していかがでしょうか。

○吉田委員
 手続をどうつくるかという話は今のところ、こうすべきだというところはないのですけれども、今回の勧告がもし仮に親に対する直接の勧告ということになると、それに応じる・応じないということが次のステップにつながっていくのではないだろうか。現在の都道府県に対する勧告ですと、結果的にはそれに従わないという現象は出てきますけれども、裁判所が今議論されているような一部制限、一時制限をするときのかなり重要なファクターとして考えられるのではないか。つまり、裁判所自身の発した勧告に対して親がそれに従わないということであれば、その次の制限に進みやすくなってくるのではないかという効果は期待できるのではないかと思います。
 それから、もう一つは先ほど磯谷委員がおっしゃったことと共通ですけれども今、親は事実上の当事者の立場にあるのではないでしょうか。確かに手続的には甲類審判になっていますけれども、ヒアリングであったり書類の開示の問題であったり、運用としては当事者的な運用がなされていると聞いています。そうした面を考慮して直接の勧告というのは実態に即したということになりはしないかと思います。

○才村委員長
 ありがとうございました。次のテーマがありますので、(3)のテーマについては、とりあえず以上とさせていただきたいと思います。
 最後の(4)は強制入所以外の場合に接近禁止命令を可能とするかどうかということでございます。御意見を頂戴したいと思います。

○磯谷委員
 接近禁止命令につきましても、ぜひ拡大していただきたいと考えています。これも先日の児童相談所長会のアンケートでは範囲を拡大することについてのニーズはそれほどないような結果であったと思いますが、児童相談所からすると特に自立している子どもや親族のところへ身を寄せている子どもについては、なかなか登場してこないし、状況について親権のケースとして考えることは少ないと思いますので、児童相談所の御意見は一つの意見として伺っておくにとどめるべきではないかと思います。
 むしろ、前回の法制審議会で二葉学園の元先生から配布されました全国の児童養護施設で起こっていることを集めたものがありましたけれども、その中に自立した子どもにかなり親がつきまとったり、お金を無心したりというケースが報告されていたと思います。最近は弁護士も民間のシェルターの運営にかかわることも多くて、松原委員は確か横浜の方でかかわっておられたと思いますが、そういった民間シェルターに逃げてくる子どもについても、その親からの接近を止める必要性は非常にいわれているところでありますので、ぜひ、この接近禁止命令の範囲は拡大していただきたいと考えております。

○才村委員長
 他に、いかがでしょうか。
 ちなみに、この論点では親子分離に拡大した場合に、現行の都道府県知事の命令でよいのかどうかということも書かれていますけれども、その点に関してはいかがでしょうか。

○磯谷委員
 これについては、裁判所が関与して発令するものと行政が発令する現行のタイプがあることも議論されました。この点については、日本弁護士連合会としては、やはり裁判所の関与が望ましいという中での議論になっております。その真意としては、全体的にこの児童虐待の問題は裁判所に関与していただきたい。その一つとして、この接近禁止命令についても司法に関与していただきたい。そうすることによって、保護者に対して公正さを訴えることもできるであろうという配慮もありまして、私どもとしては裁判所の方が望ましいのではないかと思っております。

○才村委員長
 他に、この点に関して御意見を頂戴したいと思いますが。
 対象を親子分離以外の事案にも拡大すべきではないかということと、あとは「命令の主体」をどう考えればよいかということです。ぜひ、御意見を頂戴したいと思います。

○飛澤参事官
 接近禁止命令の対象の拡大についてですけれども、特に施設入所等の措置や一時保護が行われていない場合に対象を拡大するという場合においては、やはり親子の面接交渉をどう考えるかというところの整理をしなくてはいけないと考えております。
 一方の親が子どもにつきまとうというのは、こういった児童虐待の文脈とは離れたところでも起こり得るケースで、この資料の14ページに出ている横浜家庭裁判所の相模原支部の事案も、離婚した後に親権者は父親になったけれども、親権を持っていない母親が子どもにつきまとっていたケースですので、まさにそういった児童虐待以外のところでも問題になるケースです。ある意味、児童虐待の文脈で特に制限を設けるとなると、そうではないケースとどうやって切り分けるのかといったところが、なかなか難しいのではないかと思っております。
 そうしますと、やはりこの資料の14ページに出てくるとおり、こういった問題については面接交渉の手続の中で処理する。あるいは、もっとひどい場合には面談禁止の仮処分なども出ていますけれども、やはりそういった既存の制度で対処していかないと制度間の整合性がなくなってしまうのではないかという危惧感を少し持っております。

○才村委員長
 今の御意見に関しまして、吉田委員お願いします。

○吉田委員
 今の飛澤参事官の御質問ですけれども、施設入所措置がとられていない場合であっても、被虐待児であれば施設入所措置が解除された後も引き続き児童福祉指導を行うということが可能だと思います。ですから、そういった児童福祉指導がなされている児童に対する接近禁止というくくりであれば、これは児童福祉法の中でカバーできるのではないかと思います。
 この接近禁止の制度というのは被虐待児をどう守るのかというところからスタートしていますので、一般の家庭で虐待と無関係のところまで広げていくところまでは私も必要ではないと思いますけれども、やはり措置解除された後であっても性虐待ケースなどでいえばそうした子どもに対するつきまといは十分予想されます。だからといって、施設入所と解除を頻繁に繰り返すことができなければ、一応ここで接近禁止をかけておいて、そこで違反があった場合には次の手が打てるという仕組みにしておいてもよろしいのではないかと思います。ですから、児童福祉の仕組みの中での接近禁止という制度ではいかがかと思います。

○才村委員長
 いかがでしょうか。

○飛澤参事官
 その辺の切り分けがうまくできるのであればよいのですが、その辺の切り分けがどこまでできるのかというところに若干の危惧感があります。
 それから、面接交渉というのは、親権がなくてもできるという面がありますので、この制約については、ある程度慎重に検討する必要があるのではないかという印象を持っております。

○才村委員長
 磯谷委員、お願いします。

○磯谷委員
 かえって切り分けを難しくする発言になりますけれど。今、吉田委員から「児童福祉指導の枠の中で」という話もありましたが、もう一つは18歳・19歳の子どもに対するつきまといというのもあるわけです。ですから、同時に例えば子ども自身からの申立てといった道も設けておく必要があるのではないかと思います。先ほど飛澤参事官がおっしゃった「慎重に」というところもわかるのですけれども、中には本当にひどいケースがあるわけで、そういうひどいケースについて、先ほど御指摘のありました面接交渉に対する家事審判や面談禁止の仮処分などで果たして妥当なのかどうか。それで十分なのかというところをきちんと問う必要があると思います。
 もう一つは、この14ページに書かれている論点の幾つかは、まさにそのとおりだと思うところもあります。特に成人した後の問題もありまして、これも以前にお話ししたような気がしますけれど、性的な被害を受けている子どもで、知的に少し障害がありまして、成人した後も結局親が手元から離さないという事案があったときに、この介入をどうやってすればよいのか。別に親権は確かに問題はないわけですけれども、そのような悩ましいケースなどもありますので、成人した後も何とかつなげていくような制度も考えていく必要があると思います。それから、自立へのサポートは当然必要であると思いますし、場合によっては親権制限も必要だと思います。
 14ページにあることは、いずれも理由はあることだと思いますけれども、だからといって接近禁止命令が要らないということにはならないと思います。

○才村委員長
 時間が残り少なくなってきましたが、ぜひ御意見を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。
 松風委員、お願いします。

○松風委員
 接近禁止命令の実態が今まだないものですから、実感として捉えにくいのですけれども、今の御議論からしますと、都道府県知事が接近禁止命令を出すというところについては非常に手続き上の矛盾が生じるのではないかと思いながら聞いていました。
 要するに公正性の担保という形からすると、都道府県知事が一方的に出すといったようなことが適正なのかどうかという不安を感じているのですが、いかがでしょうか。

○才村委員長
 これは他法でありますよね。「ストーカー行為等の規制等に関する法律」でしょうか。これについては確か知事でしたか、あるのです。ところがDVの場合は退去命令というものも含めると、やはり司法を関与させるべきではないかと認識しているのですけれども、それでよろしいのでしょうか。

○松風委員
 先ほどの一時保護に関する行政権限があまりにも強いことに対する対応といったことと比較しますと、接近禁止命令というのは非常に強い命令だと認識しますので、行政の一方的な手続上の問題と考えてよいのかどうかというところで、私は非常に疑問を感じます。

○才村委員長
 この点に関して、千正室長補佐お願いします。

○千正室長補佐
 ストーカー規制法の命令の主体は公安委員会だと思いますけれど、今の「命令の主体」ですけれども、先ほど、措置解除されたケースの中でも児童福祉指導がかけられているケースなどは切り分けとなり得るのではないか、対象となりうるのではないかという話がありましたけれども、措置解除している状況というのは、そもそも親のところへ帰っているか、場合によっては親戚のところへ帰っていることもあるかもしれませんけれども、その状態で少なくとも親権が制限されていない状態において、むしろ面接交渉する権利も制限されていない状況だと思います。その段階で、いきなり親権の制限に相当するような、あるいは先ほど参事官が言われたように、それよりも強い制限を行政だけでできるのかというのは非常に疑問があるところです。
 現行についても、接近禁止命令の対象範囲が児童福祉法28条の措置の場合に限られているのは、おそらく居所指定権が家庭裁判所の審判によって明確に制限されているケースであることが、行政が命令をしているという根拠にあるのではないかという気がしますので、なかなか難しいのではないかと思います。

○才村委員長
 あと、お一人。今の御発言に対する意見も含めて、ぜひ御発言いただきたいと思います。よろしいですか。
 御意見がないようですので、この辺りで議事を終了させていただきたいと思います。次回の予定について、事務局から連絡をお願いいたします。

○杉上虐待防止対策室長
 机上配布させていただきましたとおり、次回は7月27日火曜日の17時から20時までということで、よろしくお願いいたします。場所は合同庁舎5号館、厚生労働省が入っている建物でございます。議題につきましては、「施設関係者・里親関係者からのヒアリング」、議題2としまして「親権者等がいない児童等の取扱いについて」御議論いただきたいと思っております。
 また、今回の御議論について追加の意見等がありましたら、事務局の方にメール等でお知らせいただけましたら、各委員に事前または次回に配布させていただきたいと思っております。
 ヒアリング事項につきましても、事務局で調整した上で、なるべく各委員にも事前にお渡しして追加の意見等を聞きたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。
 最後に、第4回は7月27日と申し上げました。それ以降の日程につきまして、実は各委員に日程調整のお願いをしておりますが、お返事のない委員が何人かおられます。ぜひ事務局の方へ、よろしくお願いいたします。以上です。

○才村委員長
 それでは、本日はこれで閉会させていただきます。どうもありがとうございました。


(了)

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