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2010年5月31日 社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会第2回議事録
雇用均等・児童家庭局
○日時
平成22年5月31日(月) 10:00~12:10
○場所
経済産業省別館 第1111号会議室(11階)
○出席者
委員
才村委員長 | 磯谷委員 | 長委員 | 佐藤委員 | 庄司委員 |
松風委員 | 豊岡委員 | 中島委員 | 松原委員 | 水野委員 |
吉田委員 | (欠席:大村委員) |
オブザーバー
古谷参事官 (最高裁判所) | 進藤局付 (最高裁判所) |
飛澤参事官 (法務省) | 羽柴局付 (法務省) |
厚生労働省
伊岐雇用均等・児童家庭局長 | 香取大臣官房審議官 | 田河総務課長 |
藤原家庭福祉課長 | 杉上虐待防止対策室長 | 千正室長補佐 |
○議題
(1) 施設入所等の措置がとられている場合に親権を部分的に制限する制度について(施設長等の権限と親権の関係)
(2) その他
○配布資料
社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会委員名簿 |
資料1 社会的養護の現状について |
資料2 「児童養護施設入所児童等調査結果(平成20年2月1日現在)」 |
資料3 施設入所等の措置がとられている場合に親権を部分的に制限する制度について(施設長等の権限と親権の関係) |
資料4 「親権制度に関するアンケート調査」結果報告(全国児童相談所長会) |
○議事
○才村委員長
定刻になりましたので、ただ今から「第2回社会保障審議会児童部会児童虐待防止のための親権の在り方に関する専門委員会」を開催させていただきます。委員の皆さま方には、大変お忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日は大村委員が所用のため欠席と伺っていますが、それ以外の11名の委員に御出席いただくことになっております。庄司委員が少し遅れておられますが、間もなくお見えになると思います。
初めに、事務局から資料の確認をお願いしたいと思います。
○杉上虐待防止対策室長
本日もよろしくお願いいたします。まず冒頭で、前回紹介できなかった事務局側の紹介をさせていただきたいと思います。
雇用均等・児童家庭局長の伊岐でございます。
○伊岐雇用均等・児童家庭局長
伊岐でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
○杉上虐待防止対策室長
雇用均等・児童家庭局総務課長の田河でございます。
○田河総務課長
田河でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○杉上虐待防止対策室長
それでは、資料の確認でございます。はじめに議事次第、座席表、それから委員名簿を付けさせていただいております。これにつきましては、豊岡委員の御所属が変わっておりますので修正しております。それから、資料1は「社会的養護の現状について」。資料2は「児童養護施設入所児童等調査結果」、これは平成20年2月1日現在のものでございます。それから資料3は「施設入所等の措置がとられている場合に親権を部分的に制限する制度について」でございます。資料4につきましては、全国児童相談所長会が行いました「親権制度に関するアンケート調査」の結果報告で豊岡委員から御提出いただいております。
資料は以上でございます。不足等がございましたら、お申し出ください。
○才村委員長
どうもありがとうございました。本日の議事進行についてですが、前回3月31日の第1回委員会におきまして、親権制度研究会の報告書の内容全般につきまして、フリートーキングということで自由に御意見を頂戴したところでございます。
本日の第2回から第4回までは、本専門委員会において中心に議論する児童福祉法、児童虐待防止法に関係する論点について、テーマを区切りながら、自由に御意見を頂戴したいと思います。
本日のテーマは、議事次第にもありますように「施設入所等の措置がとられている場合に親権を部分的に制限する制度について(施設長等の権限と親権の関係)」ですので、このテーマを議論するための資料につきまして、事務局から説明をいただきます。
それから、必ずしも今日のテーマには限らないのですが、全国児童相談所長会が全国の児童相談所に実務の現状や親権制度の見直しに関する意見について、アンケートを実施されておりますので、その結果につきまして豊岡委員から説明をいただき、その後に御議論いただければと思います。
それでは、資料に沿って事務局から説明をいただきたいと思います。
○杉上虐待防止対策室長
それでは私から、資料1と資料2について説明申し上げます。まず資料1でございますが、「社会的養護の現状について」ということで、前回の資料にも入れさせていただいたものでございます。社会的養護につきましては、まず家庭でお預かりする里親制度があるということ。施設としましては乳児院・児童養護施設等、ここに掲げているような施設がありまして、それぞれの定員や現員、職員数を入れております。前回も説明申し上げたとおり、ここで預かっている子どもの数を全部足しますと、大体4万人ということになっております。それに比して里親で委託を受けている児童数は、右上にありますけれども3,870人ということで、1割弱ということです。ここが諸外国と比べて低いのではないかという議論がございます。我々としましては家庭的な雰囲気ということを念頭に置いておりまして、里親制度自体も拡充を図っていきたい。それから、施設の入所につきましても、左下にありますとおり、小規模グループケアや地域小規模児童養護施設のそれぞれの個所数を記しておりますけれど、施設の中にあっても小さなユニットでのケア、あるいは施設の外に地域小規模児童養護施設というグループホーム的なケア、このようなものの拡充に努めているということでございます。
続きまして、資料2でございます。今回の議論に資するためということで、児童養護施設の入所児童等の状況について調べたものがあります。これは5年ごとに調査しているもので、これについて若干コメント申し上げたいと思っております。施設や里親の下で暮らすすべての子どもに対して、まず施設長等に入所の状況などを聞いたのが1点です。それから年長の児童については、将来の希望等について、直接子どもに聞いたものです。このような二段構成になっておりますが、すべて御説明する時間はございませんので、ポイントだけの説明になります。
9ページに施設委託時の家庭の状況ということで、ここに施設種別と主な発生理由等を比較した表がございます。「養護問題発生理由」の主なものということで、上の方に書いてありますとおり、里親委託の場合には「養育拒否」が16.0%、「父又は母の行方不明」が14.3%という数字になっています。また、養護施設の場合は「父又は母の虐待・酷使」が14.4%、「父又は母の放任・怠だ」が13.8%という数字です。小さい子どもが入る乳児院の場合は「父又は母の精神疾患等」が19.1%ということで、他の施設に比べて高くなっています。このような数字になっています。
また、情緒障害児短期治療施設の場合には「父又は母の虐待・酷使」が26.5%、「父又は母の放任・怠だ」が16.4%で、自立支援施設の場合については「父又は母の放任・怠だ」が22.3%、「父又は母の虐待・酷使」が17.0%と、それぞれの施設の特徴とも絡んでくる数値になっているのではないかと思っています。
続きまして、次の10ページでございますが、今申し上げました「虐待」という言葉は必ずしも虐待防止法の「虐待」とはイコールにならないでしょうし、発生理由も先ほどの説明は「主なもの」です。「虐待を受けた経験」ということでここに掲げているような数字になっております。里親の場合は31.5%、養護施設の場合は53.4%等でございます。
また、下の表は「委託時の保護者の状況」ということで、今回は施設長等と親の親権ということで御議論いただくわけでございますけれども、委託時の保護者の状況をとらえた表になっております。例えば、里親委託児でいうと「両親ともいない」割合が非常に高く21.3%、「両親とも不明」が6.7%という数字になっておりまして、施設入所児とはかなり違う数字になっております。この辺のところをどう考えるということはありますが、里親に預けるということが現場でどのように運用されているかということに微妙に絡むのではないかと思われます。
また、11ページの上の表は「両親又は一人親あり」の場合の内訳別ということで、例えば一つだけ見てみますと「実父母有」が里親委託では21.1%ですが、他の施設を見てみますと、特に乳児院の場合は半分(52.4%)が両親ともそろっているという数字になっています。
また、下の表は「両親ともいない・不明」の場合について内訳別に調べたものでございますが、ここでは必ずしも親権者が誰かというとらえ方はしておらず、入所時において両親に代わる保護者が誰であったかという聞き方になっておりますので、少し御注意願いたいと思います。それぞれの表にあるとおりの数字になっております。
どの施設あるいは里親においても「祖父母」が一番高い数値になっているということでございます。
また、次の12ページは「家族との交流」状況ということで、表14-1の「交流なし」が里親の場合は71.9%と非常に高くなっています。もっとも、「両親ともいない」数字が高いものですから高くなる部分はあるわけですけれども、相当高い数字になっているということでございます。
それから、13ページの「児童の今後の見通し」ということでございますが、施設に入所した子どもに対して願わくば「保護者のもとへ復帰」ということを念頭に置いて施設の方々に努力していただいているのですが、現状としては保護者のもとへ復帰できると考えている子どもは里親委託の場合は13.8%、養護施設の場合は35.4%という数字になっております。
もっといろいろ御説明申し上げたいところですが、時間の関係等もありますので、今回のテーマと関連しそうな部分を抜き出して説明申し上げました。
○千正室長補佐
続きまして、資料3について説明いたします。この資料3は本日御議論いただきます施設入所等の措置がとられている場合の施設長等の権限と親権の関係をどうしていくかといった論点につきまして、議論の素材として整理したものです。この資料の位置付けでございますけれども、この論点について「児童虐待防止のための親権制度研究会報告書」の記載を踏まえて報告書の内容を整理しております。それに加えまして、第1回専門委員会の議論も踏まえて研究会報告書の記載に事務局の方でさらに議論していただきたい内容を整理して加えたものでございます。
それでは、内容について説明させていただきます。1としまして「施設入所又は里親等委託の場合」でございます。まず(1)としまして現状でどのような問題が指摘されていて、こうした仕組みを検討する必要性があるのかということを整理しております。現行でございますけれども、児童福祉法第47条第2項におきまして「施設長等は監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる」という権限が法律上明記されているところです。しかしながら、この当該施設長等の措置と親権との関係が法律上必ずしも明確ではないために、親権者は依然として親権が制限されるという規定が明確にございませんので、親権者が異を唱えた場合に、必ずしも施設長が児童の福祉に必要な措置をとることができないという指摘がなされているところです。
事案としましては、前回の資料5、事案を整理した資料でございますけれども、この枠囲みの「事案B」のようなケースで問題となるということでございます。具体的に申しますと、親権者が異を唱えた場合に、その意向を無視することが事実上必ずしも容易でないということ。それから、児童の監護の中にも第三者との関係が問題になることがございます。例えば医療機関を受診したり手術を受けさせる場合に、第三者つまり医療機関から施設長等の同意では足りない、通常どおり普通の子どもと同じように親権者の意向の確認を求められるというような実態があるということが指摘されています。しかしながら、そのような場合に親権者が不当な主張をした場合、そうした理由で必要な措置をとらないことは児童のためにならないのではないかということであります。
そこで、このような施設入所中等の児童については、親権者は施設長等がその権限行使として行う措置に抵触する限度で親権を行うことができないなど、つまり親権者の親権に施設長等の監護、教育及び懲戒に関する措置は優先するということを明示する仕組みが考えられるのではないかということが研究会の議論の中で整理されたところでございます。
そして、1ページの最後の行でございますけれど、仮にこうした仕組みを設けるに当たって、一つ留意しなければならない点があるのではないかということも併せて研究会で整理されたところです。施設長等が実際の身上監護を行っているといっても、不当ではない親権者の意向への配慮、例えば先ほど施設にどのような子どもが入所しているかというデータ的な説明をしましたけれども、必ずしも虐待という理由で入っているわけではない子どももいることも踏まえまして「不当ではない親権者への配慮」、それから親権者の意に反しても施設長等による措置を優先させるかどうか、これは個々の措置についての判断をいかに適正に確保していくかという仕組みについても設計に当たって考慮する必要があるのではないかということでございます。この点についても、本日はいろいろな御意見をいただければと思います。
それから(2)の「制度の利点」ということで整理しておりますけれども、このような仕組みを設けると施設長等による措置が親権者に対して優先することが法律上明確になりますので、親権者が不当な主張をすることができなくなり、それがひいては安定的な児童の監護に資すると考えられます。また、問題点と裏腹ではございますけれども、第三者との関係でも施設長等が権限を持っているということが明確になりますので、第三者との関係でも児童の監護がスムーズにいくということでございます。
具体的な場面としましては、例えば親権者が医療行為に反対したとしても、施設長等はその治療が児童のためにぜひとも必要であるということであれば医療行為に同意することができ、自らの名義で病院等との間で契約をすれば、児童に医療行為を受けさせることができることとなると整理されたところであります。
それから、実態として問題になっている事例の一つが、携帯電話の契約でございます。
これについては、身上監護というよりも民法第5条に規定されております法律行為の同意という性質を持つものです。したがって、身上監護ということで施設長等を優先ということにはなりませんけれども、あまりにも不当な理由で親権者が契約の同意を拒むような場合には、一般の親権制限の枠組みを活用することによって、未成年後見人あるいは親権を行う者が同意するということも考えられるところであります。
また、予防接種の同意についてですけれども、これは予防接種法の規定がありまして「親権を行う者又は未成年後見人」の同意を必要としておりますので、こちらにつきましても身上監護ということで施設長等を優先することにはなりませんけれども、親権制限の枠組みを活用することによって、予防接種が可能となるということであります。
また、在学関係については、その法的な性質が必ずしも明らかでないことに加えまして、関係法律の規定も妥当しますので法的な整理がさらに必要ではございますけれども、実態としては例えば親から退学届が出された場合には、施設長等に学校から連絡がいきますので、少なくとも事実上は対応が容易になるのではないかということであります。
(3)は、そのような親権を制限する、施設長等が優先するという仕組みをどのように理論的に正当化することができるのかということです。一つは「親権は子の利益のために行われなければならない」ということでございますけれども、これが全うされていなかった場合、そのことに親権制限の根拠が認められると考えられます。また、必ずしも親権の適切な行使が全うされていなかったと認められない場合でも、同意入所等がされているときは、その子どもの身上監護の委託をしていると考えられますので、そこに正当化の根拠が認められると考えられる。そのように研究会では整理されているところであります。
続きまして、(4)が具体的に考えられる枠組みということで、報告書の内容に加えて今回、事務局の方で一つの議論のたたき台として、例えばこのような仕組みが考えられるのではないかということで三つの案を整理したものでございます。「A案」では、施設長等は、その判断で、常に親権者の意向にかかわらず「必要な措置」をとることができるということで、一律に施設長等の権限が常に優先するという枠組みについて提案として示しているものです。この仕組みのメリットとしましては、常に施設長等に権限があるということで、誰が権限を持つのかということが明確になり、第三者との関係も明確になるということでございます。したがいまして、児童の安定的な監護にも資するのではないかというところでございます。
一方、デメリットあるいは留意点としては、施設入所等の措置は保護者の同意や児童福祉法第28条による家庭裁判所の審判を経て、いずれかのルートで入所措置がとられているとはいえ、虐待以外の理由による施設入所のケースもある中で、常に施設長等の判断を優先するというのは、親権の制限という側面から見ると過度な制限になるのではないかということは留意する必要があるのではないかと思っています。
それから、施設長等に常に判断を委ねることになるのですけれども、そうした判断の負担を個々の施設長等に常に委ねてよいのか。そうした場合に、親と施設長等との対立が激しくなるのではないかということが考えられます。それから、判断の適正性の担保をどうしていくかという問題があると思います。
さらに、このような仕組みを設けることによって、個々の措置に自分の意向が反映されないのであれば、入所措置に同意しないという親御さんが増えるという懸念も考えられるところでありまして、児童相談所の現場において、非常にケースワークがしづらくなるおそれがあるのではないかという点が考えられます。
それから、入所中に親権者の意向の関与が薄くなる、施設長等の判断が常に優先するということは、家庭復帰したときに、それまでは施設長等が常に判断していたのが、急に親御さんの判断になるということで、家庭復帰が難しくなるおそれがあるのではないかという点が考えられます。
それから「B案」でございますが、これは「A案」を少し緩やかにしたようなものでございますけれども、施設長等が判断する枠組みではありますが、一律にではなくて親権者の意向に沿った場合には児童の福祉が図られないと考えられる場合に、親権者の意に反して「必要な措置」をとることができるという枠組みでございます。メリットとしましては、一律にではなく、本当に親権者の意向に沿った場合には子どもの福祉が図られないというところに限定することによって、親権者の意向に配慮しつつ、児童の福祉を図ることに資するということで少しバランスがとれるのではないかというところです。
デメリットといたしましては、個々の措置について、どういう場合に施設長等の権限が優先するのかということが第三者から見えにくいのではないか。それから、あとの二つはA案とも重なりますけれども、個別・具体的なケースにおいて、施設で必ずしも明確に線引きすることは難しいのではないかという点です。それから、三つ目は施設長等にそのような判断の負担や親との対立の激化、適正性の確保をどうしていくかという問題があるのではないかということです。
そして「C案」でございますけれども、これは今回お示ししている三つの案の中では一番慎重な枠組みでございます。施設長等は、親権者の意向が対立した場合には、都道府県児童福祉審議会の意見を聞いた上で「必要な措置」をとることができる枠組みでございます。
こうした慎重な手続を経ることによって、過度な親権制限となることを防ぐとともに、第三者の目が入りますので施設長等の判断の適正性の担保に資するのではないかということです。それから、施設入所中の児童の養育責任を有するのは都道府県等になりますけれども、現状でも例えば事故があったような場合には賠償責任は都道府県が負担することになりますけれども、そういった親権者との対立が生じ得る事態について、事前に都道府県あるいは都道府県児童福祉審議会の意見を聞くことは法的責任とも整合的と考えられるということです。
一方、デメリットでございますけれども、一定のケースについて施設長等の判断が優先するという枠組みですので、具体的にどのような場合に施設長等の判断が優先するのかが第三者から見えにくいということも考えられます。しかし、このケースについては優先するということを審議会の意見書や措置決定通知書あるいは、そもそも施設長等の権限を優先するという規定などを活用することによって、運用の工夫の余地はあるのではないかと思っています。それから、こういった慎重な手続を経ることによって、裏腹でございますけれども迅速な判断が困難になることが懸念されるというところでございます。
5ページの(5)は「その他の論点」ということで、これは研究会の報告書に加えまして、こういったことについても本専門委員会での御意見をいただければと思っているところであります。まず、こうした仕組みを設けるとして、その対象をどの範囲にするかということであります。例えば、児童福祉法第27条第1項第3号の措置、契約ではなく措置により児童が施設入所等の措置がとられている場合。もちろん、通所の場合を除くとするということが、一つの整理として考えられるのではないかということです。
二つ目ですが、親権者が施設長等による具体的な個々の措置について不服がある場合にどのように救済するのかという仕組みです。これは研究会報告書の議論ですけれども、個々の具体的な措置について争うことはせず、施設入所等の措置自体を対象として行政事件訴訟を提起することが、現状もそうですができるということで、そのような仕組みがあることから不服申立ての手続きに不備があるとはいえないと思われるがどうかということで整理されています。
三つ目ですが、こういった施設長等の措置が優先する仕組みを設けたとしても、特定の措置にとどまらず、親権者が執拗に不当な要求をしてくるようなケース。施設において対応が難しいケースにおいては親権制限の申立てを活用することによって、併せて児童の安定的な監護を図るという両方を活用することが考えられます。
6ページ以降でございますが、今まで説明いたしました内容は施設入所等の措置あるいは里親等に委託されている場合ですが、一時保護の場合にも期間がある程度長くなれば、同じように児童の養育について、親権者の不当な要求により必要な措置がとられないという現実があるのではないかということで、同じような仕組みを設けることについてどうかということで整理されたものです。これにつきましては、基本的に研究会の報告書の記述と同じものをここに載せさせていただいています。
一時保護中にこのような仕組みを設けることについて、少し御意見をいただきたいと思っておりますのは、施設入所等の措置と一時保護の法的な性質が若干違うのではないかと思っておりまして、施設入所等の措置は同意または家庭裁判所の審判により、一つの終局的な措置として行われるものです。一方の一時保護については、なるべく保護者の同意を取るようにはしているところでありますが、行政権限で職権で実施することが可能なものです。したがいまして、現行の一時保護の仕組みについては司法審査というものも特にありません。期間については原則2か月で必要に応じて延長することは可能となっています。こうした点において行政処分の性質に差があると考えられます。このような点についても、少し念頭に置きながら御議論いただければと思います。
なお、一時保護についての見直し、つまり司法審査を設ける。あるいは期間の設定の仕方をどのようにするかについては、次回のテーマとなっております。資料3の説明は以上でございます。
○才村委員長
ありがとうございました。ただ今の事務局に対する御質問は後ほどお伺いするとして、引き続き、豊岡委員から親権制度に関するアンケート調査の結果について、説明をいただきたいと思います。
○豊岡委員
それでは私から調査について御報告したいと思います。まず平成22年2月から4月中旬くらいを調査期間として実施していまして、回収できたのが158か所の児童相談所です。当時は201か所でしたので回収率が79%、約8割の回収ということです。調査が三つあり、調査?Tは現状を。調査?Uは親権喪失の状況、調査?Vで親権制度について聞いています。
まず調査?Tです。数字は後ほど御覧いただければと思いますが、7ページをお開きいただけますか。これが簡単に調査?Tの中身です。これは数字を簡単に見やすくしただけです。表1、表2ということで、施設措置中の児童の28条の状況等について聞いています。表2が里親です。結果についてはそうなのですが、表3を見ていただきますと、全体措置児童数3万2,365人で、当初から28条が0.89%、同意から28条に変わったものが0.03%、当初は28条であったものが同意に変わったものが0.52%、当初から同意であるものが98.56%ということです。申し訳ございませんが、左側に誤植があります。左側の下から2行目です。先ほどの調査の児童福祉施設の中で3万7,921人と書いてありますが、3万7,991人です。これは母子生活支援施設を除いた数字を足し上げた数字です。ここの数字が間違っていますので訂正をお願いしたいと思います。このような状況でしたという報告です。児童相談所の28条を申立てたケースということになりますと、表3の?@?A?Bを足し上げた数字ということですので446人・1.44%ということになります。
続きまして、措置中児童の親権喪失あるいは親権喪失以外で親権者がいない児童の数値を聞いています。施設と里親を合わせますと、それぞれ1,478人、237人ですので、1,715人、約5.3%に当たる方が親権喪失あるいは親権者がいないということになります。実際に個別の票で調査したのですが、回収できたのが半数以下の748件です。その中身は8ページを御覧いただきたいと思います。親権喪失した件数が13件ですので、この状況については表5になります。この表5につきましては、父母いずれか片方の親権喪失が4人、父母両方について親権喪失した方は9人という数字です。この中で見ていただきますと、児童相談所長が未成年後見人をしているものが、両方合わせて3ケースでした。他は中心が親族ということになります。親権者がいない児童735人の状況は表6のとおりですが、未成年後見人がいる児童は259人でした。いない子どもが476人ということです。未成年後見人の内訳をグラフで見てみますと、親族が最も多くて73%、次いで里親が4%、施設長が3%、児童相談所長が1%になります。施設長が未成年後見人になっている8ケースですけれども、施設長があえてならなくても親権を行うことができるわけですが、実際には遺産や財産管理等の必要性から、未成年後見人になっているケースがあると推測されますし、実際に私も1ケース、そのような経験があります。
続きまして、今度は親族の状況を見てみたのが右側になります。一番多いのが祖母、それから叔母・伯父・叔父・祖父・伯母の順番で続いているという状況です。8ページの右側のところで、こちらにも誤植があります。数字を確定した際に、文章の数字がそのままになっています。右側の丸の二つ目です。括弧書きの中ですが、不明を除くと「約82%」となっていますが「約80%」に訂正をお願いしたいと思います。申立者は親族が一番多くて66%、児童相談所長が10%、その他利害関係人が7%という状況です。未成年後見人で児童相談所長は先ほど申し上げました3ケースで大体1%ですが、申立人となると25ケース・約10%と割合が高くなっているということです。
調査?Uにつきましては、表に戻って後ほど御確認いただければと思いますが、平成20年度および平成21年度の児童相談所の現状を調査しています。2ページ、3ページになりますが、親権喪失宣告の請求は10件未満でした。医療ネグレクトが両年とも3件という状況です。それから未成年後見人の選任請求ですが、両年とも14件。未成年後見人が定まらず予定しないまま申し立てた件数は3件報告されています。行政不服審査請求では一時保護が一番多くてそれぞれ44件、50件となっています。施設入所の措置をめぐっては6件、12件と報告されています。行政事件訴訟を見ますと、施設入所をめぐるものが3件、11件という数字が報告されています。それほど件数は多くないといえるかと思います。
続きまして、親権制度に関する意見ということで調査しています。まずグラフ?V-1ですが、これは施設長・里親・都道府県からの委任について考え方を聞いています。施設長が親権に優先するという考え方については、「賛成」が67%と一番多くて、里親は「どちらともいえない」が42%と一番多くなっています。都道府県からの委任については、いったん児童相談所長等の権限にするという考え方もありますので、その辺を聞いてみましたところ、これは「反対」が55%と一番多くなっています。里親と施設長を同様に扱ってよいのかという懸念もありました。研究会の議論でも個人になるわけですので「里親さんで大丈夫か」という意見もあったかと思います。
続きましてグラフ?V-2です。児童の医療について聞いています。親権者の同意がなくてもできるようにすべきとするものが約半数の50%くらいです。児童福祉審議会等の意見を聞くことを前提とする考え方は、反対が賛成を上回っているということになります。裁判所の決定によることにしたらどうかについては、「賛成」が一番多く、次いで「どちらともいえない」、「反対」という順番になっています。意見の中では万一何かあった場合の損害賠償への安心できる体制づくりが必要という意見があります。
続きまして、10ページのグラフ?V-3です。一時保護中の取扱いについて聞いたものです。児童相談所長の権限を優先させるべきとしたものが約77%と多くありました。
次に、一時保護期間の制限や裁判所の承認行為について伺っています。研究会報告では五つの案が示されていましたので、その案について聞いています。「A案」あるいは「A修正案」が良いとする意見が一番多くありました。これは現状維持の意見が多いということですが、新たな制度ということで、あえて「A案」以外ということで条件を付けて聞いたものが次のグラフ?V-5です。「B修正案」が一番多く27%でした。「C案」は簡易手続きにせよ、同意がないケースの全件について事務手続きが生じるということでしょうか、約25%でした。「A案」を除いて聞いたのですが、それでも「どれも難しい」としたものが34%ほどになっているということです。
続きまして、次の11ページのグラフ?V-6です。里親委託中や一時保護中などで親権を行う者がいない子の監護について聞いています。児童相談所長が行うことに賛成しているのが約73%です。里親が行うことについて賛成している方が44%という数字でした。児童相談所長と里親の割合に差があるというのが最初(グラフ?V-1)に申し上げた意見と同様の内容が記載されていました。
次に、法人による未成年後見人について聞いています。これがグラフ?V-7です。約半数の50%が賛成で反対が11%。この意見の中では法人の適格性や第三者評価等のチェック機能の必要性の指摘がありました。
続いて、グラフ?V-8です。児童相談所長が機関として未成年後見人に選任できるようにすることについては「反対」が「賛成」を上回って一番多く39%ということでした。市(区)町村長が関与すべきではないかという意見や児童相談所長に権限が集中し過ぎるという意見もありました。また、児童相談所に係属歴がない児童へのかかわりに関しては、業務量の増加あるいは先ほど申し上げました損害賠償等の問題を想定して不安の声があったということです。
続きまして、12ページのグラフ?V-9を御覧ください。これは行政手続きによって児童相談所長が親権を行うことに関して聞いたものですが、「どちらともいえない」が一番多くなっていますが、「反対」の方が「賛成」を上回っています。
次のグラフ?V-10は接近禁止命令について聞いたものです。命令の主体について、「現行どおり」とする意見が一番多く57%でした。グラフ?V-11は接近禁止命令の対象拡大についてです。同意入所や一時保護中へも拡大することについて「賛成」が46%、「反対が42%。これは拮抗しています。また在宅の子どもに拡大することについては「賛成」が約46%、「反対」が約39%という数字でした。
続きまして、グラフ?V-12です。保護者指導への司法関与の在り方については、約87%が司法が直接保護者に対して行うべきではないかということでした。グラフ?V-13ですが、その具体的関与の方法については、「A案」の保護者に児童相談所の指導を受けるように命ずるということに関して55%、次いで「C案」の28条承認と保護者勧告を併せて行うというものが37%という数字でした。
最後になりますが、民法第822条の規定について意見を聞いたところ、削除した方が良い・どちらかといえば削除した方が良いとしたものが76%、「どちらともいえない」が12%、削除しない、どちらかといえば削除しなくてもよいを合わせると約10%という数字でした。
最後のページには児童相談所の子どもの親権制度の見直しについて、自由な意見を記載していただいています。児童相談所への権限の集中を懸念するものや、親責任の明確化を望むもの、あるいは法体系の連携を望むものという御意見が寄せられています。簡単ですが、調査の結果については以上です。
○才村委員長
どうもありがとうございました。ただ今、事務局と豊岡委員から御説明・御報告をいただきました。まず、御意見を頂戴する前に、御質問を頂戴したいと思います。前後が逆になるのですが、ただ今の豊岡委員からの児童相談所調査の結果について、御質問がありましたら頂戴したいと思います。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
特に御質問がないようですので、先ほどの事務局からの説明につきまして、御質問を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。佐藤委員、お願いします。
○佐藤委員
資料1に「社会的養護の現状について」ということで、幾つかの施設の現状が書かれているわけですが、児童福祉法上の障害児関連の施設について、近年特に知的障害の子どもの場合には、事実上社会的養護が必要な子どもにたまたま障害があった。あるいは障害があるためにさまざまな事情が発生して、結果として社会的養護がニーズとして顕在化してきた。それはどちらでも言い方があると思いますが、法に定めた障害児施設のいわゆる療育訓練、将来の自立というようなこととの文脈とは大分現状が違ってきていると思いますが、今回の議論の中でそこの扱いはどのように整理されるのかという質問です。
○杉上虐待防止対策室長
資料1については「主な」と御理解いただきたいと思います。佐藤委員が御指摘のとおり、障害児施設の中には、例えば虐待を受けたという主目的で入所している児童も含まれているとも聞いています。また、資料3の5ページの「その他の論点」で、施設との関連でどこまで対応するのかということで、これも後ほど御議論いただきたいのですが、この中で児童福祉法第27条第1項第3号に施設名が列挙されているわけで、私どもの考えとしては先ほど千正室長補佐から説明申し上げたとおり、障害児施設を省かずに、入所施設については同列で御検討いただけたらということで、提案させていただいているところです。
○才村委員長
当然、障害児施設も含まれるということですが、佐藤委員はよろしいでしょうか。
○佐藤委員
はい。
○才村委員長
他に、御質問はありませんでしょうか。松原委員、お願いします。
○松原委員
これは基本的な質問で、飛澤参事官に伺った方がよいのかもしれないのですが、今、法制審議会で議論している親権制限の課題があります。このような親子分離された子どもについて、施設長等に先に親権に対する優先性を認める議論を続けていくとなると、その他に一部制限や一時制限をするケース、親子分離をしていないケースというのは、例えば片方が虐待をしていて、まだ在宅で、離婚が成立していなくて、共同親権で片方の親権を制限したいということが想定されると思いますが、どのようなケースが親子分離以外のところで想定されるのか。もし、そうではないとすると、これだけ親権に対して施設長等の優先性を認める議論をしていくと、そもそも一部停止・一時停止は形骸化してしまうのではないかと思いますが、その辺はいかがでしょうか。
○飛澤参事官
多分に私見になるかもしれませんが、私の考えている範囲でお答えします。研究会でも若干問題になったところですが、一応民法で仕組むということですので、特に私人間を規律するもの、つまり施設に入っていない場合を規律することが主として念頭におかれていると考えています。ただ、研究会報告書にも書かれているとおり、施設に入っていれば常に親権制限、つまり民法上の親権制限の必要がないのかどうなのかですが、親御さんとの対立が深い事例、それから施設長では判断に迷ってしまうような事例については、なお司法の判断を通すという意味で親権制限の審判を受けるという道はあってもよいのではないかと考えております。
○松原委員
今度は事務局にお伺いします。そのような説明で納得できないこともないのですけれども、この議論をしていくときに、そういう親子分離をしているケースについての今の飛澤参事官の御説明のように、そういう場合もあり得るだろうという親権の一部停止・一時停止と、この施設長等の親権優先との関係を事務局はどうお考えですか。
○千正室長補佐
本日、論点としてお示している点でございますけれども、2点あると思います。一つは、児童福祉法第47条第2項の規定を足掛りにしておりますので、基本的には身上監護権についての整理をするという研究会の議論ではそういったものでございました。従いまして、財産管理権のところはこの仕組みではカバーしておりませんけれども、一時制限の方には財産管理権の制限も含まれるということでございます。その部分について一つはみ出しがあるといいますか、なおその必要性はあるのではないかということが一つです。
それから、もう一点でございますけれども、身上監護権の制限を施設入所中にどのような形で行うか。先ほど「A案」から「C案」ということで少しお示しさせていただきましたが、どの程度、施設長に完全に権限を委ねるのか、あるいは真に必要なときに限るのかということもあると思います。それとの兼ね合いで、身上監護権についても、やはり民法の親権制限の必要性はなおあるのではないかと思っております。
○才村委員長
今の件で、関連してお願いします。磯谷委員。
○磯谷委員
基本的に今、説明していただいたとおりだと思います。私も児童福祉法第47条第2項を今回もし改正したとしても、なお一時制限というのは非常に必要だと思っています。今、まさに千正室長補佐がおっしゃったように、財産管理権がすっぽりぬけ落ちているわけで、例えば、携帯電話のことにしても、あるいは自立していく子どもがアパートを借りたり、いろいろな契約をしていくときに、結局自立に対する準備段階のときにも、やはり一時制限をして財産管理権も止めておかないと解決できない問題があるということ。
もう一つは、児童福祉法第47条第2項を改正して親権者の親権よりも優先するという枠組みについては賛成ですが、やはり解決できない問題がかなり残るだろうと思っています。例えば、一つは予防接種の問題を取り上げていただいたと思いますが、これについては親権者または後見人の同意が必要であるということが、法律に書いてあるわけではなかったと思いますが、厚生労働省はそういうお立場でありますし、また医療保護入院に関しては、精神保健福祉法の中で保護者の同意が必要で保護者は親権者、後見人でもよいのですけれど、そのような規定があります。そうすると、例えば施設で子どもが精神的な問題を起こして何とか入院させたい、医療保護入院させたい、そのときに親権者は「そんなものに協力できるか」という話になってくると、結局これは児童福祉法第47条第2項では対応できないのではないか。そうすると、やはり一時制限などの制度が必要になってくるのではないかと思っています。そういうことで私は今回、児童福祉法第47条2項を強化したとしても、なお一時制限は非常に重要だと思っています。
○才村委員長
また、後ほど御議論いただきたいと思いますが、質問の方はいかがでしょうか。水野委員、お願いします。
○水野委員
具体的には、資料2の調査結果について、お伺いしたいのですが。里親に委託されている子どもの数は、御説明いただきましたように非常に少ないわけですが、子どもの福祉という観点から考えますと、家庭的な環境で両親に、養育が難しい両親の代わりに里親に愛着の経験をさせてあげることが一番子どものためには良いと思われます。どうしても現状の施設ですと人手の少ない劣悪な環境ですので、里親よりは劣る環境なのではないかと思いますのに、どうしてこのような状態になっているのかという理由をお伺いしたいと思います。そもそも里親になってくださる希望者が少ないということなのか、あるいは実親が施設であれば自分がいつでも取り戻せるだろうからということで里親に委託されることを嫌がるのでしょうか。そのあたりの事情を伺えればと思います。
さらに、里親の場合、できれば自分の子どもがほしい、将来は養子縁組を希望するというタイプの里親と、プロフェッショナルな養育の里親とに分かれると聞いております。本当はプロフェッショナルな養育の里親でしたら、諸外国の場合ですと、非常に手厚い援助とそれなりの収入があって、基本的にはボランティア精神がないとできない仕事ではありますけれども、そういう支援があるのでやっていけることになっているわけですが、日本ではその部分がとても不十分です。もしそういう支援がないために養育里親が少なく、将来的に養子を希望するような、子どもがほしいという里親が多いということですと、それを実親が嫌がる、とられてしまうからと嫌がることになるかと思います。里親の場合にどちらの里親の希望者が多いのでしょうか。質問は、この2点でございます。
それから、もう一点,お伺い致します。将来的には親元に返せるのが一番よいのですけれども、実際には預けきりといいますか、施設に預けきりにしておいて、里親に取られるのは嫌だけれども、自分の所に引き取るつもりもないという親が多くて、結局は自立するまでそのままという子どものパーセンテージが非常に高かったというご説明でした。これも諸外国ですと、一定の期間以上をネグレクトで預けきりで放っておくということになりますと、アメリカなどでは非常に厳しいですから、自動的に親権を剥奪してしまって養子縁組の対象児童にしてしまうということをやるわけですが、日本の場合にはそのようにはなっていません。このまま預けられているくらいであれば、私は実親の希望にかかわらず、少なくとも里親に預けてしまった方がよいだろうと思います。そのような実情、つまり親が里親を嫌がって施設に預けていて、それにもかかわらず、そのまま放っておかれている子どもたちの実態について、何か御存じでしたら説明いただければと思います。
○才村委員長
今、三つの御質問を頂戴したと思いますが、事務局でよろしいでしょうか。
○藤原家庭福祉課長
今、御指摘いただきました里親制度の普及の問題、また預ける側の問題は実は今、課題として取り組んでいるところでございます。ちょうど平成21年4月、1年ぐらい前になりますが昨年4月に児童福祉法の改正の施行、法律は一昨年の秋に国会で成立しましたが、昨年4月に児童福祉法の改正をさせていただきました。まさしく今御指摘がありました里親を考えるときに養子縁組と養育里親は預ける側にとってもそこがはっきりしていないと抵抗感があるのではないかという問題。また養育を専門にする里親については、やはりプロフェッショナルとしてきちんと公的な支援をしていかなければいけないのではないかという問題。この2点については取組み、改善いたしました。
具体的には、養育里親と養子縁組を前提とする里親については法律上の位置付けを分けまして、養育里親を明確にしたということ。それから、養育里親につきましては、手当を月額、それまでは1人目の子どもは3万4,000円という額でございましたが、昨年の4月から7万2,000円に引上げました。ただ、単に手当を上げるということだけではなくて、養育里親についてはきちんと研修を受けていただいた上で登録していただいております。里親そのものにつきましては、わが国の場合には施設入所と比べてまだ数が少ないです。実際、私どもよく使いますのが、養護施設の子どもと乳児院の子ども、それから里親に入っている子どもとを分母にいたしまして、里親に委託している子どもを分子とした割合、里親委託率という考え方を使っているのですが、こちらの方がまだ現状では1割ぐらいという状況でございます。ただ、これは先ほど里親のなり手という点で普及が足りないという御指摘もありましたが、里親の支援を自治体においてきちんと組織的に啓発も行い、研修も行い、レスパイトも行いという里親支援の仕組みもつくっていって、先般1月29日に閣議決定されました「子ども・子育てビジョン」におきましては、先ほど1割ぐらいの状況と申し上げたものを平成26年度には16%まで伸ばしていこうという目標を掲げて取組みをさせていただいているところでございます。
いろいろ制度が変わったところでございますので、養育里親と養子縁組里親との実際の状況などの統計数字につきましては、まだ、整えるのはこれからというところになりますが、現状は今そういう取組みをさせていただいているところでございます。
○才村委員長
どうもありがとうございました。水野委員、よろしいでしょうか。では豊岡委員、お願いします。
○豊岡委員
児童相談所におりましたときに、子どもの親の同意がもらえなくて、やはり児童養護施設を選択せざるを得ないケースも結構ございましたから、小さいうちに家庭的な雰囲気や愛着関係の問題もありますので、里親を選択したいと思ってもなかなか進まないということも一方にはあったような気がします。
○才村委員長
親からすると、関係性が里親の場合は施設に比べると濃密なので、里親にわが子を取られてしまうのではないかという不安があって、なかなか同意が得られにくいということだと思いますが、どうしてわが国の場合は里親委託、また里親の確保が低調なのか。特に里親会活動の最先端で取組んでおられる庄司委員、何かアドバイス等がございませんでしょうか。
○庄司委員
水野委員の御質問は広範囲に及びますので、必要なら次回までにメモを用意したいと思います。いろいろな理由があって、希望者が少ないということも大きいです。確か東京都などではこの数年間、里親あるいは養子縁組里親を希望する人は減ってきています。一昨年、「瞳」というNHKのドラマがあって、里親を問題にしていたので、かなり関心が高まるかと思ったのですが、それほどではなかったのです。里親希望が少ないということと、実親の反対、それから今は特に虐待ケースだと親自身がいろいろな問題を抱えていることがあって、里親に委託すると里親自身が直接被害を受けるということもあり得ますので、いろいろな要因が重なってなかなか進まないとことがあります。しかし、外国では里親中心にやっているので、何とかできないかと考えます。
○才村委員長
ありがとうございました。まだ質問はあろうかと思いますが、時間の関係で議論に入っていきたいと思います。一つは施設入所等の場合の親権制限、もう一つは一時保護における親権制限、大きくこの二つに分けられると思いますので、分けてそれぞれで議論していただきましょうか。
まず、「施設入所措置等がとられている場合の親権制限をどう考えるか」ということについて、御議論いただきたいと思います。松原委員、お願いします。
○松原委員
先ほど質問しました関係で、先に意見を言わせていただきます。説明あるいは磯谷委員から御意見をいただいた関係で、非常に困難な場合には司法の判断に委ねるみちが確保されていくことを前提に、施設長等が優先するということについては幾つかのポイントで慎重であるべきであろうと思っております。そのポイントの一つは、ソーシャルワーク的な観点から言いますと、親子分離をしたことイコール半永久的な措置ではありません。その後の家族再統合、これにはさまざまな形があると思います。一緒に暮らすことから定期的な交流あるいは手紙・メール等のやり取りまで、さまざまな形態があると思いますが、そういうものを確保していくことにとって、先ほどの事務局の説明でもデメリットがあるのではないかということでしたが、私もそのとおりだと思いますので、このことが1点です。
それから、もう1点は施設の種別等によって、あるいは里親は今の全国児童相談所長会のアンケートとは分けて考えるべきだという意見があって、乳児院もやはり家族再統合していく率は児童養護施設と比べて相当数違います。そういった中で、施設等の種別によってもかなり違ってくるのではないかということで、ここも慎重に議論する必要があると思います。
3点目ですが、例えば児童養護施設等をとっても、資料1を見てこれだけでいうと子ども2人につき職員が1人いるように見えるのですけれども、決してこのようなことはなく、乳児院を含めて施設の職員の数が足りない中で、現場では非常に苦労されていると思います。
そういった中で、施設長もそういったものについてカバーをします。私の知人の民間の児童養護施設長は職員と同じようにシフトで夜勤・泊まりの体制をとってやっております。それほど大変な仕事の中で、それに加わる負担の大きさということも、これも事務局からの説明にありましたけれども、負担を重ねていってよいのかということがありますし、もう一つは、児童福祉施設の最低基準等で職員の資格は定められているのですが「施設長資格」というのはどこにも書いてありません。自発的に民間の「施設士」という資格をお取りになる施設長もかなり多いと聞いておりますが、法的な制度の下の資格ではありません。誰でもなれてしまうというその施設長に親権についての優先性を認めて、「A案」「B案」「C案」のどれがよいかということを、今はまだ議論が全然進んでおりませんのでコメントしませんが、そういう意味で、分離した後の施設長等の親権の優先性については、きちんと慎重に議論をした方がよいという意見を持っております。以上です。
○吉田委員
ただ今の松原委員の御発言と同じですが、私も一律に施設長の権限を優先させるというのは、少し乱暴ではないかと思います。理由は今おっしゃったようなことです。
それに加えて、やはり親と施設、親と児童相談所との関係、要は親が施設の対応に不満がある場合と、資料3にもありましたけれども、そうした不満がない場合とがあります。それをすべて一括して「優先する」としてよいのかどうか。さらに言えば、家庭引取りの可能性がある場合とない場合、先ほどの資料にあったとおりです。そうした場合に、やはり監護重視の観点からすれば、どうやって子どもの将来を保障していくのか。そのために必要な法的枠組みをつくるのだとすれば、やはり引取りを視野に入れる場合とそうでない場合とで、その法的な枠組みが同じでよろしいのかどうか。もう少し、きめの細かさが必要ではないかということが一つです。
それから、これは研究会の報告書だったと思いますけれども、施設に入所中の親権は要は施設長が日常の監護を行うのに必要な範囲で親権に優先するという解釈を基にして出来上がっているようですけれど、ただ、この解釈は虐待防止法で施設に対する親からの不当な引取り要求や面会要求についての制限、確か2007年でしたか、これができる前の解釈論として、特に親からの引取りをどう防ぐかという、現場にとっては大変重要な問題があったときに一つの解釈論として出されてきた経緯があると思います。ただ、今の状況からしますと、そうした面会禁止の制限・接見禁止の制限というところまで法律ができていますから、そうした中でさらに今度は親権者の権限に施設長が優先するというのは、従来と少し議論の土俵が違ってきているのではないかということで、一律に優先にするという考え方の基本が成り立つのかどうかというところが疑問であります。
それから、「親権制限の正当化の根拠」というところが今日の資料3の3ページにあります。2行目で「親権は子の利益のために行わなければならないが、これが全うされていなかった場合には」と、あります。全うされないから制限してよいのだということですけれども、全うされていないかどうかを誰がどのように判断するのか。それこそ親の側からすれば、そこが一番問題なわけで。そうした一方的な判断で自分の権利制限がなされることに対して、これを公正に判断してほしいということに対する答えにはならないだろうと思っております。また、同意入所等がある場合には身上監護の委託があるということですけれども、これも解釈としては行政処分としての施設入所には同意するけれども、個々の医療行為等についての委託にまで自分は同意するものではないということも考えられるわけですから、これも同意があるからといって、すべて正当化されるということになるかどうかという疑問があります。
それから、(4)の「考えられる枠組み」で、「A案」「B案」「C案」と出ていますけれども、この考え方の他に司法判断というものを求める。つまり、このような親の要求があった場合、親が同意しない場合に、これは法制審議会で議論しております「部分制限」という方法もあるわけで、この「部分制限」を司法判断によって行うという選択肢はここの中では考えられないのかどうかということも疑問であります。
それから、5ページです。これは確認ですけれども、「その他の論点」の?@「対象」のところですが、児童福祉法第27条第1項第3号の監護措置がとられている場合ということですけれども、これは「通所の場合を除く」とありますが、児童福祉法第28条の承認がある場合もその承認に基づいて児童福祉法第27条第1項第3号の措置がとられているのだから、これを対象とするのか、それとも児童福祉法第28条による入所は除くのか、この説明をお願いしたいと思います。
それから、次の?A「親権者側の司法による救済の方法」で、行政事件訴訟という形で提起できるからよろしいだろうということですけれども、これも先ほどと同じように個々の具体的な措置について行政訴訟で争うことを想定されているようですけれども、入所それ自体に同意している場合も可能なのかどうかということです。この点に関しては、先ほどの全国児童相談所長会の資料で行政訴訟についての調査がありましたけれども、結果についてはどうなのかということをもう少し知りたいところです。一時保護、施設入所についての行政訴訟や不服審査申立てがありましたけれども、それは認められた例があるのかどうかということです。ということは、要は行政訴訟という方法が現実に機能してしているかどうかというところまで考えていかないと、このような制度があるからということが、答えにはなってこないのではないかということです。以上です。数多くなりまして、申し訳ありません。
○才村委員長
非常に幅広く貴重な御意見を頂戴いたしました。ただ今、松原委員・吉田委員から懸念等が出されたわけですが、その関連で、研究会の方で今の御発言に関連したやり取りがあったのかどうか。そこを少し教えていただければと思います。飛澤参事官、いかがでしょうか。関連する部分があれば、ということです。
○飛澤参事官
どの辺りに焦点を当てて話せばよいのでしょうかというところがあるのですが。まず、「正当化根拠」というお話が出ましたけれども、これについてお話しさせていただきますと、親権が子の利益のために行使されていないことを誰が判断するかという問いかけがあったのですが、これはそもそも論として同意があれば委託があったということですし、特に一時保護の場合で書かれているのですけれど、同意がなくても、なぜ一時保護ができるかというところは、理念としてやはり親権が子の利益のために行使されていないからであろうということで、それを誰が判断するのかというのは、また次の問題として整理していたように記憶しております。
○才村委員長
「正当化根拠」の方は、吉田委員いかがでしょうか。今、御説明いただきましたけれども。では磯谷委員、お願いします。
○磯谷委員
若干私の勘違いがあれば御勘弁いただきたいのですが、3ページの「正当化根拠」というのは基本的にこれは一時保護ではなくて児童福祉法第27条第1項第3号の措置を前提としたものと読めますが、子どもの利益のために親権が行われていなかったというのは、結局のところは児童福祉法第28条が想定できるだろうと。ですから、児童福祉法第28条ケースについてはそういった事情を裁判所も認定しているわけですから、これは親権が制限されてもやむを得ないだろうという判断だと思います。
一方で、「全うされていなかったとまでは認められない」というのは、おそらく児童福祉法第28条まではいかなかったということだとすると同意入所等となります。この「同意入所等」というのはやや不正確な言葉でありまして、児童福祉法第27条第4項で、「親権者・後見人の意に反しない場合には」という要件がありますので、その「反しなかった」という前提だと思います。ですから、必ずしも同意した、委託があったということにストレートになるわけではありませんけれども、現実的に親が引取りを求めれば、今の実務では子どもを返さなければいけない。児童福祉法第28条がない限りは返さなければいけないという力関係にある部分でありますので、それを考えると、それでもなお子どもを預けておくのであれば、それは一定の委託のような関係があったとしてもおかしくないのではないか。これは民間の子どもを預かっている所に預けるのではなく、国の制度に預けるという選択をしているわけですから、そこは一定程度、法律の範囲に入ってきても、やむを得ないのではないかという理解だと思います。
ただ、率直に申し上げて、私もこの二つ目は、私はこれを支持していますけれども、正直なところ少し批判されるところもあるのかもしれないと思っています。ですから、ここは単純に児童福祉法第47条第2項で、親権を施設長の方が優先するのだという枠組みに加えて、個々の問題について個々の親権者からのクレームについて、どのように対応するのかというところとセットにしなければいけないのだろうと。その点、今回の案の中で、具体的に問題で不服があった場合でも、施設入所自体について撤回すればよいという話では少し乱暴であって、ここはきめ細かくどのような制度を採るかというのは、まだこれから先の議論かもしれませんけれども、行政内部でやるのか、あるいは裁判所もきちんと絡んでもらうのか。ここは何らかの手当てをする方が望ましいだろうと、先ほどの正当化の根拠の関係でも望ましいのではないかと思います。
○才村委員長
ありがとうございました。あとは、よろしいですか。
○吉田委員
一言だけ。今の磯谷委員のお話のように、それでもなおかつ施設に入れておくということは、施設における具体的な措置について同意するということですが、やはり研究会の事例にありましたように、施設には入所させるけれども、個々の具体的な処遇に関して納得しかねる場面もあるのだということを考えていくと、必ずしも同意をもってすべての具体的な部分についての同意があったというところまでの制度化にはいかないのではないかと私は思います。
○磯谷委員
もう一つは、児童福祉法第47条第2項がどの程度機能するのかというところともかかわってくると思いますけれども、先ほどから指摘がありますように、財産管理の点については完全に欠落していますし、さらには身上監護の部分でも予防接種や医療保護入院などの幾つかのところで限界があるということになっているのです。それに加えて、確か研究会の理解としては、親権が止まっているわけではありませんので、そうすると親権者が「いや、これが子どもの利益だ」と主張しているのにもかかわらず、全く無視して、結果的に子どもに不利益なことをやったということになると、これは当然責任を問われてくるのだろうと思いますので、その意味では若干その説明ですっきりとできないところもあるのかもしれませんけれども、基本的な枠組みとしては支持できるのではないかと思います。
加えて、実は先ほど引取りも視野に入れる場合とそうでない場合で分けるべきだとか、どのようなケースでも親権を制限するのはどうかという話もありましたけれども、それに関連して私が想定しているのは、親権の一時制限制度というものがもし今度できて、そしてその要件が児童福祉法第28条と同等あるいはそれより少し軽いくらいであれば、恐らく児童相談所はいわゆる児童虐待のケースなどは児童福祉法第28条の申立てをするのではなく、親権の一時制限の申立てをするのではないか。親権を一時制限した上で、児童福祉法第27条第1項第3号の措置をとれば、これは親権者の意に反したことにはならないですし、普通にとれる。しかも、期間制限は仮に2年だと仮定すれば、実際の運用はかなり児童福祉法第28条と同じような形になり、しかも今のような虐待ケースについてはしっかりと財産管理権も含めて全体的に親権を制限することができるというような運用になっていくのではないかと思いますので、少しその点を補足させていただきたいと思います。
○松原委員
それは運用上そうなるということであれば、私もかなり納得できるところがあって、そうならないと施設長の優先ということになかなか結び付かないと思いますので、今のお話はわかりました。私は今の児童福祉法第47条第2項の話を否定するつもりはないので、現実的にある部分を施設長に委ねなければならないと思っていますが、先ほどの発言はどれだけその受け皿の代行する方の質の担保をするのか。先ほども資格もないし、第三者評価も受けていないような密室化されたところに、子どもをそのように大事な監護権や身上監護権や財産権を投げてよいのかというところで、慎重でありたいという発言をしました。
○水野委員
私も研究会に所属していました。その研究会の意見を代表するわけではなく、私の個人的な意見ですが、私がどのような気分でこのような結論を出したのかということについて御説明したいと思います。
先ほど、松原委員や吉田委員が言われたことは十分論理的にはわかりますし、そして法的な適正手続きの筋論としてはそれほど認識としては違わないのですが、問題は先ほど松原委員がおっしゃいましたように日本の施設の現状です。施設の職員数が非常に少ない、施設長の負担が非常に大きい、圧倒的に不備な状態でそこに入れられている子どもたちの処遇を考えたときに、子どもたちにとってどうすれば一番良いかという観点から考えなくてはいけません。理想論や筋論で子どもたちの現状を悪化させるわけにはいきません。実際には施設に預けられている子どもに、施設の方々が親権を行使して、本当に子どものためにならないことをする可能性は非常に少ないと思います。先ほど磯谷委員から御説明がありましたように、親の親権が止まっているわけではありませんから、親権者が妥当な要求をしたときにそれに反するような不合理なことをやって、その結果、責任問題を問われるようなことを施設の方ですることは考えにくいのです。むしろ、施設の方々が今、困っているのは、子どものためにやりたいことを不当なトラブルメーカーの親によって邪魔されてできないということで困っていて、そして施設の方々にもむしろ本当に親の要求に対して弱くて、強引に取り戻しにかかる虐待親に負けてしまうこともあります。先ほど話題になりましたが、「この子どものためには里親委託をした方がはるかによい」という子どもでも、その親が「嫌だ」ということになりますと、施設に委託をしなければならないという状態です。そして、筋から言ったときに親権の部分制限をして、そのように司法判断を得てから制限するべきだという御意見がありましたけれども、問題はその司法判断の負担です。前回の会議でも申し上げたように、毎年10万件の司法親権制限の判決が出ているフランスの基準では、倍の人口の日本ですと20万件の判決にあたるわけですが、それで回している国の筋論と、日本のように年間やっと三桁に上るぐらいの判決しか出ていない、裁判官の数が足りず司法判断を援助する体制もなくてそもそも判決が出せない国とでは、同じ議論はできません。日本では、司法判断がなければ動けないということになりますと、実際には何もできないことになってしまいます。多量の書類を書いて裁判所に行って判決が出ないと何もできないことを意味します。現在も本当に火の車で過労死状態で回っている現場です。「これは司法要求が出てからにしなければ」と言った途端に、それは「あきらめろ」ということを意味してしまう現場を前提にしたときに、どう考えるかということです。
親側でこれには承服し難いということであれば、同意を撤回する形で争う権利はもちろん残されているわけですから、まず、子どもの福祉のために相当強力なものを施設長に与えないと、今の日本の現状ではその方が恐らくはるかに現実的に子どもを救済することに資するものであると、研究会では判断したのだと理解しています。
それから、1点、松原委員から「子どもたちの年齢、施設によっていろいろと変わってくるだろう」という御指摘がありまして、確かにこの点については委員会ではそれほど議論していませんでした。もし一律な判断がふさわしくなく、施設に応じた議論が必要だということでしたら、この点についてはもう少し議論する必要があるのではないかと思います。
○才村委員長
ありがとうございます。判断の適切性をどう担保していくかということと、適正手続と現場の負担があって、そこをどう折合いを付けていくかという非常に難しい課題であると思います。
先ほど、吉田委員から幾つか御質問があったのですが、まず、5ページの児童福祉法第27条第1項第3号の措置というのは、児童福祉法第28条も含まれるのかどうかというところは、いかがですか。
○千正室長補佐
児童福祉法第28条第1項の規定によりますと、「保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるとき」において、その意に反して強制入所させる場合について書いてあるのですけれど、「家庭裁判所の承認を得て、第27条第1項第3号の措置を採ること」ができると書いてありますので、この5ページは児童福祉法第28条を含むと理解しています。
○才村委員長
それから、同じ5ページの?Aで、私のとらえ違いかもしれませんが、同意入所も想定しているのかどうかということと、行政訴訟の結果、ここについて何か情報をお持ちであれば、特に豊岡委員に教えていただけるとありがたいのですが。
○豊岡委員
件数をお伺いしただけでしたので、その結果についてはさらに追加調査をしないとわからないと思います。
○才村委員長
データが古くて確か平成13年度だったと思いますが、私が所属した日本子ども家庭総合研究所で、全国の児童相談所にそういう法的対応の実態調査をしていまして、そのときに行政事件訴訟とその結果についても確か聞いたと思います。わかれば次回にそれをお持ちしたいと思っています。
○磯谷委員
もう一つ、松原委員からも施設長の資格の問題やその負担の問題ということがありました。一つの答えは、今回は施設長の権限という形で整理を一応していますけれども、研究会でも発言させていただきましたが、児童相談所長あるいは都道府県知事がむしろ権限を持って、そしてその下で施設長も里親も権限を行使する。実際には、日常生活についてほとんど委託するような形になると思います。ただ、重要な点についてはきちんと児童相談所長の方で責任を持って判断するという枠組みをとれば、松原委員のおっしゃっているところもある程度は解決するのではないかと思います。どうも現場の施設長の話を聞いても、親とある措置について喧々諤々するような力も時間もない。それはむしろ児童相談所でやってもらいたいという思いは複数の施設長から伺っていますし、そういう意味でも児童相談所長がやるのが望ましいのではないか。
それにつけても、今日の児童相談所長会のアンケートは、4ページの上から二つ目の質問?V-1-3ですけれども、「施設長等にではなく、児童相談所長(都道府県)に権限を与えて、そこから施設長等に権限を委任する枠組みについて」という質問に対して、賛成が21%で反対が55%という数字になっていて、恐らく児童相談所長からすると、かなり負担が大きいということなのかもしれませんが、しかし現実に考えて施設から、「こういうところで困っているのです」と、児童相談所が相談されて、「いいえ、それは施設で勝手にやってください」ということは多分今でもやっていなくて、実際にはかなり一生懸命に助言したり、場合によっては児童福祉司が間に立って親と話をしたりとやっていると思うので、そんなに現状から何か飛躍的に負担が増えるということではないと思っているのですけれど。
○豊岡委員
児童相談所長の意見の中で多かったのは、やはり児童相談所の事務量で、今の体制のままプラスの業務量で本当にできるのかという危惧の声がありました。今のまま、例えば日常的に見ている施設長や里親のことについて、すべて負うというのは難しいのではないかという意見があったということです。これは、あくまでも児童相談所長や児童相談所の考え方ですので、もっと潤沢にというと語弊があるのですけれども、人手があったり事務の簡素化などのいろいろなことがあって、「だから、お願いします」ということであればまた違うのではという印象を持ちます。実態は皆さん虐待対応で忙殺されていますので、そこを反映しているのではないかと思います。
○松風委員
今のお話の補足になるかと思いますが、先ほど措置に関する権限と具体的な処遇に対する権限とを区別というお話がありました。考え方としては、それも含めてトータルな措置としての同意を得るという手続きの努力を児童相談所においてはしていらっしゃいます。しかしながら、対立した場合に、措置に関することでも非常に多くの対立が生まれてもいて、せっかく同意に持ち込んだにもかかわらず、細かい処遇のことについて対立をまた児童相談所に持ち込んでしまう。要するに、措置に対する対立に連動してしまうということになります。そのことについては、もちろん手続き的な量の問題もありますけれども、個々の処遇の問題をすべて措置の問題に換言するような権限として設置してよいのかどうかということと、そのような場合は児童福祉法第28条に持ち込むことになると思いますが、児童福祉法第28条の承認というのが、かなり虐待という事実の認定がされないとなかなか得られないということになりますと、要するにネグレクトや不適切な親子関係における入所の場合に、児童福祉法第28条で承認が得られるのかどうかというところが非常に曖昧になって、そのような子どもたちが親権の下に勝手に引き取られざるを得なくなってしまうという現実が起こってしまうのではないかという危惧があります。その辺りについて、児童相談所長は現実的に実感されているのではないかと私は理解しました。
○才村委員長
ありがとうございます。磯谷委員、いかがですか。
○磯谷委員
御趣旨としては、せっかく児童福祉法第27条第1項第3号の措置の同意を苦労して取って、そうすると施設現場でいろいろと細かい問題が起こっても、それについてはなるべくかかわりたくないというところと、すみません、後の方が十分理解できなかったのですが。
○松風委員
かかわりたくないのではなくて、措置をしている立場の児童相談所としては、かかわりたくないということはあり得ないのです。説明したり仲介をしたり、子どもにとってどうなのかということについて議論する、親権者と話し合う努力はしていらっしゃいますし、するべきだと思いますが、対立した場合にそのことでどうしてもそこで了解を得られなかった場合のことについての危惧ということです。
○磯谷委員
それで児童福祉法第28条が通るのかという話になるわけですね。それは私にお聞きになるよりは多分裁判所にお聞きいただいた方がよいのではないかと思います。
○長委員
児童福祉法第28条の要件の問題だと思います。「保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において」とありますので、要するにこの「著しく監護を怠り」、「その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に当たるのかどうかというところが問題になると思います。ですから、虐待というのも一例ですけれども、今おっしゃったネグレクトも当然その中に入ってきますから、あとは事実認定の問題だろうと思います。
○松風委員
司法における事実認定と児童の福祉という立場からの認証の必要性の考え方について、基盤が違うというところでも、それが出てくるのではないかということです。
○才村委員長
実際に現場で仕事をされていて、基盤の差というのはあるのですか。
○松風委員
あると思います。児童福祉法第28条の審理をしていただいている過程において起こってくるさまざまな証拠の提出や今後の進展についてのさまざまな考え方の違いは、やはりあると思います。児童福祉法第28条の承認が得られるまでの期間を非常に長く要しているというのも、そのようなことがなかなか悩ましいこととして議論されているからだと思います。
○松原委員
対立のことについてですけれども、施設側が何かやって、それについて親が不服であるという場合に、現状では苦情解決システムがありますが、これは十全に機能していないという運用上の問題があります。
もう一つ問題があるのは、今日いろいろと出ていた事例ですけれども、施設側が何かやりたいというときに、どう判断するのかというのも、施設側あるいは里親だけで判断できるのかというと、それはなかなかシステム上も厳しいのではないか。そうだとすれば、ある部分は児童相談所との協議、それも難しいのであれば司法判断に委ねていくというシステムづくりをしていかないと、現場の施設長にそこを委ねてしまうというのは、なかなか難しいのではないかと私は考えています。
○才村委員長
非常に重要な視点だと思います。ただ、時間の関係で、もう少し議論を一時保護まで含めて、御意見を頂戴したいと思います。
○松原委員
一時保護は次回にとおっしゃっていませんでしたか。
○才村委員長
次回でよろしいですか。いずれにしても、今日の議論は随分幅広く出していただいたので、事務局で整理していただいて、ここは非常に大事なところですから、もう少し次回に時間を取れればよいのではないかと思います。
○千正室長補佐
事務局としては、一時保護の部分も併せてと考えていましたが、重要な論点ですので、まだ施設入所の論点について御異論・御意見がたくさんあるということであれば、引き続きお話しいただければと思います。
○才村委員長
それでは、自由に御意見を頂戴したいと思います。磯谷委員、お願いします。
○磯谷委員
今回、事務局が「A案」「B案」「C案」という形で出されて、こちらの方はまだ検討不足でありますけれども、一応のコメントを申し上げたいと思います。
ここで仮に施設長たちがこの権限を持つと仮定して、その施設長たちの権限行使の適正化を図るという趣旨で、「B案」「C案」が出てきているのではないかと思いますが、児童福祉法第47条第2項そのものに、子どもの福祉のために必要な措置をとることができるという形で「子どもの福祉のため」という限定が付いているわけです。そうすると、あまりそれにいろいろと、特に法律レベルでさらに付するのはどうなのかと感じています。
例えば「B案」についても、親権者の意向に従ったという感じですけれども、恐らく重要なのは施設長の判断が本当に子どもの福祉にとってどうだったのかというところが問われるのではないかと思いますので、ダイレクトに「子どもの福祉のため」というところで限定するにとどめればよいのでないか。
それから、「C案」については、仕組みとして都道府県児童福祉審議会を使ったりすることはあり得ると思いますけれども、やはり何といっても迅速性を欠くという問題が出てくると思います。ですから、例えばこれは法律レベルということではなく、すみません、そこはわかりませんが、いずれにしても必須のものではなく、内容など必要に応じてその機会を設けていくというぐらいでよいのではないか。むしろ、問題は先ほども出ましたように、親が不服申立てをしたときに、それに対してきちんと判断ができる枠組みを整える方が重要なのではないかと思います。
○才村委員長
他に、いかがでしょうか。吉田委員、お願いします
○吉田委員
ただ今の磯谷委員の最後のところは、とても大事だと思います。やはり、施設入所中であっても、親が子どもに対する養育責任を負い続けることに違いはないわけですから、どちらが優先するかという話であったとしても、親の権利・義務・責任を正当に行使できる仕組みは必要だろうと思います。それが、まず一つです。
それから、施設長等の権限優先ですけれども、先ほど水野委員からお話がありましたように、まず間違いなく施設長は子どもの利益のために考え、行動している。ただし、実際にそうしたくてもできない場合も出てくる。例えば、あかつき学園事件でありましたように、施設の中で子どものいじめが起こることを防ぎきれないというような場合に、親の側から「これを何とかしてほしい」という形で、施設の中での具体的な処遇についての要望が出る場合が出てきます。この場合は、両方が「子どものために」ということで要望を出している。このケースは、多分親は施設内の第三者委員に訴える。それで駄目であれば、社会福祉協議会の不服申立ての運営適正化委員会に訴えるということがあります。しかし、現実にこれが機能しているのかというと、これは既に資料が示しているとおりであり、特に運営適正化委員会に関しては、この分野の問題が措置でありますから、他の介護や障害のような場合とは機能の仕方が違うとなってくると、そのように両方が子どものために良かれと思っているけれども、どうにもできない場面が出てくるとすれば、これは何らかの形で対立調整という土俵が必要になってくるのではないかと思います。
○庄司委員
今、吉田委員から、実親の養育責任はずっと続くという話でしたけれども、例えばずっと音信不通であった場合の対応をどうするのか。1年間迎えにこない、連絡を取らないなどです。そういうことをどうするのかということが、子どもの処遇に非常に重要な課題になると思います。
それから、少し話が出ましたけれども、乳児院と児童養護施設ということもあるのかもしれませんが、施設長と里親を同等に考えてよいのかどうかという議論が必要ではないかと思います。
○磯谷委員
少し厚生労働省にお願いしたいことがあります。予防接種の扱いですが、予防接種についてはどうも現場の施設長たちは、とても関心が高いのです。昨年の新型インフルエンザの問題もありましたが、やはり予防接種をしようにも親権者の同意が得られないということで大変苦慮されているのです。予防接種は確かに難しい問題もあります。過去のいろいろな裁判の歴史もありますし、現在の予防接種法の中で義務になっているわけではなく、確か努力義務でしたか、そのような感じだったと思います。難しい面はありますが、しかし、非常に必要性が高いものもありますよね。例えば麻しんの予防接種は厚生労働省もかなり推進しているのではないかと思います。こういった予防接種について、予防接種法を仕切っておられる厚生労働省の方で何か工夫ができないか。一定のものについて例えば施設長が何かできるようにするなど、そういった工夫ができないかと思っております。これはぜひ御検討いただきたいと思います。
○才村委員長
それは運用上ということですか。制度的には資料3の2ページに書いていただいているのですが、これはこのとおりにいくという前提で、運用上もう少し工夫をされたしということですね。ありがとうございます。では水野委員、お願いいたします。
○水野委員
一言だけ。先ほどあかつき学園事件を吉田委員が御提示されたわけですが、本当に施設の中で人手が足りなくて悲惨な状態になっていることは、皆さまも十二分に御存じだと思います。それは親と施設の対立調整によって解決する問題ではなく、圧倒的に社会的なインフラが足りないことが根本的な問題です。子どもたちを助けている人々の支援・人手が足りないのです。そして問題は、そのようなところでさえいったん入ってしまうと、いろいろな責任問題が生じてくるので、施設長等の責任をとる主体が出てくるのですが、今の日本の現状では家庭の中の虐待の中に子どもを放置しておけば、そのことは誰も何の責任も問われない状態になっているのです。もし、助けることにさまざまな難しさをかけてしまうと、その放置状態がますます優先される結果になってしまうことを考えていただければと思います。
司法判断の枠組みを組み立てていくべきだと松原委員が言われました。確かに政治論としてはそのとおりですが、これも司法の裁判官の数が圧倒的に諸外国より少ない司法インフラの不備を前提としたときに、枠組みの組み立て方でなんとかなるものではなく、それでも司法判断を要求し、司法判断にいかないと何も動かないということになりますと、またこれもすべてが子どもたちを放置するという最悪の結果に直結してしまうということを、非常に危惧しております。
○才村委員長
どうもありがとうございました。まだまだ御意見を頂戴したいのですが、少し時間が過ぎてしまいました。
次回は引き続きこの課題についてもう少し議論をしていただく必要があろうかと思います。ただし、事務局の方でも具体的に「A案」「B案」「C案」をお示しいただいておりますので、もう少しこれに絞り込む形で御意見を頂戴できればと思います。さらに、本日議論がありましたように、判断の適正手続きをどのように担保していくかということ。児童相談所や施設も非常に厳しい条件に置かれていて、そのような現実を踏まえた上で、どのようなバックアップができるのか、その辺りも少し新しい視点として盛り込んでいく必要があるのではないかという気がいたします。
次回の予定について、事務局から連絡をお願いしたいと思います。
○杉上虐待防止対策室長
本日は活発な御意見をいただきまして、誠にありがとうございました。もしよろしければ、施設入所等の措置がとられている場合にという今回の議論のテーマで何か追加がありましたら、もちろん次回でも結構ですけれども、できましたら事務局に文書でいただけたらと思います。
次回につきまして、1点目は一時保護についての見直しということを考えております。また、本日議論までいかなかった一時保護の場合の児童相談所長の権限と親権の関係も含めてということでお願いしたいと思います。また、これも次回の議論次第ですけれども、保護者指導に対する家庭裁判所の関与の在り方、接近禁止命令についても御議論いただけたらと思っております。
なお、次回は既に御通知しておりますが、6月22日火曜日の17時から一応2時間ということで、本日と同じ経済産業省別館、ここは11階ですけれど、10階の第1014号会議室としております。また、次々回につきましては、7月27日も日程として委員の皆さまに既にお伝えしているところです。この回は、1回目のフリートーキングで議論がありましたとおり、施設関係者あるいは里親関係者にも来ていただいて意見を聞く場を設けたいと思っておりますので、また才村委員長と御相談させていただきたいと思っております。
それから今申し上げたとおり、4回目まで一応日程の調整をさせていただいております。それ以降の日程についても近日中に日程調整の紙を各委員にお送りしたいと思っておりますので、ぜひ御協力をお願いしたいと思います。事務局からは以上です。
○才村委員長
どうもありがとうございました。それでは、本日はこれで閉会させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
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