ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 医政局が実施する検討会等> 臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会> 第3回 臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会 議事録(2014年6月25日)
2014年6月25日 第3回 臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会 議事録
医政局研究開発振興課
○日時
平成26年6月25日(水)14:00~17:00
○場所
航空会館 7階 大ホール
○出席者
委員
遠藤座長 | 桐野座長代理 | 楠岡委員 | 児玉委員 | 近藤委員 |
大門委員 | 武藤(香)委員 | 武藤(徹)委員 | 望月委員 | 山口委員 |
山本委員 |
事務局
原局長 (厚生労働省医政局) |
神田審議官 (厚生労働省大臣官房) |
新原審議官 (厚生労働省大臣官房) |
成田審議官 (厚生労働省大臣官房) |
土生課長 (厚生労働省医政局総務課) |
一瀬課長 (厚生労働省医政局研究開発振興課) |
赤川課長 (厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課) |
河野治験推進室長 (厚生労働省医政局研究開発振興課) |
広瀬安全使用推進室長 (厚生労働省医薬食品局安全対策課) |
中山研究企画官 (厚生労働省大臣官房厚生科学課) |
○議題
1.有識者等からのヒアリング
(1) 日本医学会からの今後の制度の在り方に関するご意見について
(日本医学会からのヒアリング)
(2)がん領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見について
(国立がん研究センターからのヒアリング)
(3)小児領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見について
(東京都立小児総合医療センターからのヒアリング)
(4)難病領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見について
(埼玉医科大学からのヒアリング)
(5)海外制度について
(研究代表者からのヒアリング)
2.論点整理に向けた議論
3.その他
○配布資料
資料1-1 | 日本医学会提出資料 |
資料1-2 | 国立がん研究センター提出資料 |
資料1-3 | 東京都立小児総合医療センター提出資料 |
資料1-4 | 埼玉医科大学提出資料 |
資料1-5 | 研究代表者提出資料 |
資料2 | 臨床研究の在り方に関する論点整理(案) |
参考資料1 | 第2回臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会議事録 |
参考資料2 | 日本医学会「医学研究の COI マネージメントに関するガイドライン」 平成26年2月改定 |
参考資料3 | 平成25年度厚生労働科学研究費補助金(医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)) |
「臨床研究に関する欧米諸国と我が国の規制・法制度の比較研究」総括研究報告書 | |
参考資料4 | 再生医療等の安全性の確保等に関する法律の概要 |
○議事
○一瀬課長 定刻となりましたので、「第3回臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」を始めさせていただきます。委員の皆様方におかれましては大変お忙しい中、本検討会に御出席いただきましてありがとうございます。
まず配布資料の確認をいたします。1枚紙で議事次第と配布資料一覧を記載した物がありますので、それに沿って御確認ください。
議事次第の次にそれぞれ1枚紙で座席表、参考人名簿、委員名簿がございます。その後、資料1-1として日本医学会の高久様からの資料、資料1-2として国立がん研究センターの大津様からの資料、資料1-3として東京都立小児総合医療センターの三浦様からの資料、資料1-4として埼玉医科大学の宮川様からの資料、資料1-5として慶應義塾大学の磯部様他からの資料となっております。
その次に資料2、「臨床研究の在り方に関する論点整理」がございます。その後、参考資料1から4まであります。不足や落丁等ありましたら事務局までお知らせください。撮影のほうはここまでとさせていただきます。
これより議事に入りますので、円滑な審議に御協力をよろしくお願いいたします。座長、お願いいたします。
○遠藤座長 本日はお忙しい中を御参集いただき、どうもありがとうございます。早速、議事に移りたいと思います。議事次第にありますように、議題1は「有識者からのヒアリング」です。副題が○1から○5までありますので○1からお願いしたいと思います。まず○1、日本医学会からの要望についてということで、資料1-1に基づき日本医学会の会長の高久参考人から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
○高久参考人 日本医学会の高久です。この会に出てくるように急に言われたものですから、なかなかほかの人が出られなくて、最も知らない私が出てまいりました。お手元にあるスライドに沿って御説明したいと思います。
最初のスライドにありますように平成20年5月、日本医学会には、東京大学の北村聖教授が委員長になられて雑誌編集者組織委員会が作られています。この委員会はかなり頻繁に開かれています。この中でしばしばCOIの問題と論文のフェイク、もう一つ重複投稿ということが議論されています。
その後、次のスライドを御覧になってお分かりのように、平成22年に当時徳島大学におられた曽根先生が委員長になられて、日本医学会が利益相反委員会を作られています。この委員会もかなり頻繁に開かれました。
また、雑誌の編集者組織委員会と利益相反委員会との合同のシンポジウムを開いたりもしました。この利益相反委員会ではCOIのマネージメントに関するガイドラインを作り、加盟の各学会にこのガイドラインに沿ってCOIに関するガイドラインを作るようにという勧告をいたしました。
御案内のように、平成25年にバルサルタンの論文不正が社会的に問題になったものですから、日本医学会長の見解として、この二つの大学の論文作成の過程で何らかの不正の操作が行われたことが明らかにされている、詳細はまだ不明である、しかし、今回の一連のバルサルタン論文不正問題は、我が国の臨床研究の国際的な信頼性を著しく低下させたことは間違いない事実である、その意味では、現在我が国の臨床研究は危機的な状況にあると言えよう、という声明を出しています。
本件に関してノバルティス社の社員の関与が利益相反と関連して問題となっているが、各分科会を統括する立場にある日本医学会は、問題となった論文の主任研究者の責任が最も重いと考える、それとともに、共同研究者として論文に名を連ねている研究者にもそれなりの責任があると考えている、とりわけ、日本医学会に属する者は、再びこのような論文の不正事件を起こさないよう、決意を新たにすべきである、ということを会長の名前で出しました。
その後更に、平成25年の11月に会長と3人の副会長の名前で、「我が国の不正な臨床研究報告に関する日本医学会の見解」として、撤回した論文に関係する臨床研究の責任者は所属する学会の役員から辞任をすること、それから当分の間、会員としての資格を停止することを勧告しました。この勧告を当時、日本医学会に所属していた118の学会に出しています。
また、COIの声が特にノバルティスのことで問題になったものですから、曽根先生が中心になりました日本医学会のCOIマネージメントに関するガイドラインの改定版を今年になって作りました。その中で特に強調したのは臨床研究、特に医師主導臨床試験に係る注意事項として、臨床研究に係る回避事項とそのマネージメントということに関してかなり詳しく改定をいたしました。その中で研究結果に影響を与える可能性がある企業の研究資金の提供、労務提供への対応を追加したことが改定版の主な点です。そこまでが今まで日本医学会が行ってきた事です。
しかし次のスライド、平成26年の5月に「臨床研究の法制化には慎重な対応を」ということで、最近、臨床研究を対象とした規制強化に向けた検討会が発足し、何時になるか分からないが、法制化を含めた規制強化の検討が始まっていると聞いている、臨床研究の実施に際しての研究者と製薬企業の関係者との間で不透明な関係がしばしば報道されている現状をみると、国が臨床研究の規制強化を検討することは理解できないわけではなく、この点に関して臨床研究者には反省すべき点が数多くあると考える、しかし、臨床研究は臨床医学の発展にとって必須なものであり、その規制強化によって、我が国の臨床研究が停滞、あるいは質の低下を招くことがないよう、法制化の可否については慎重に検討することを要望する、法制化にはしばしば罰則を伴う。そうすると、我が国の臨床研究、新薬の開発が停滞する可能性が考えられる。法制化よりは現在の臨床研究、疫学研究のガイドラインの早急な見直しが必要であるという声明を出しました。
新しいGuide Lineにもり込むべきこととして、患者中心の臨床治験やIRB機能の強化、研究責任者の責務の明確化、COIの明示、臨床研究に関する教育の徹底、データの改ざんへの防止体制の確立、資料の保管体制の強化、委託企業との関係の透明性の確立、奨学基金と臨床研究資金とを区別する必要があることなどをガイドラインに入れるべきではないかと考えています。
今後必要なことは、患者の権利の尊重、特にプライバシーを含む権利の尊重、生物統計学の専門家の養成、臨床研究に対する公的資金の増加、特に日本医療研究開発機構がもう少しお金を増やして臨床研究に対して公的資金を導入する必要があるのではないかと思っています。
最後のスライドは、実は、日本医学会が今年の4月から一般社団法人化したものですから、その中で初めて研究倫理委員会を作りまして、慶應義塾大学の河上教授が委員長になっておられます。この委員会は来週第1回目を開いて、この問題を含めていろいろ議論をする予定です。以上です。
○遠藤座長 どうもありがとうございます。ただいまの御発言につきまして御質問、御意見等あれば伺いたいと思います。大門委員、お願いいたします。
○大門委員 先生も御指摘いただいたとおり、法制化には慎重な対応が必要だと思われます。また、法制化するいかんにかかわらず、臨床研究を行うための土台の整備が重要であることは私も全く同感です。
今後必要なことの一つとして、先生も強調され、この検討会でも多くの専門の委員の方から同様に御意見が提示されたこととして、生物統計家の養成があるかと思います。私も生物統計を専門としておりますが、私が所属する、あるいは生物統計家が数多く所属する日本計量生物学会からも声明が出ておりますように、医学部や附属病院を有する大学には教育、それから研究のためのパーマネントな生物統計の講座や教員を配置するといった動きがあってもいいように感じています。いかがでしょうか。
○高久参考人 おっしゃるとおりだと思います。特にアメリカですとSchool of Public Healthがありますね。そこで生物統計学者は育っています。
大学には寄付講座があります。薬の開発などに関係した奨学基金を出す代わりに、製薬企業が大学に寄付講座の形で生物統計学の人材を養成する講座をつくる。そういう基金を出したほうが良いのではないか。そうすると、メーカーとして直接の利益にはならないとしても臨床研究にとって全体的に利益になる。そういう形の寄付講座を是非作ってもらいたいと考えています。
もちろん、文部科学省が作ってくださればそれに越したことはないのですが、なかなかそういうわけにはいかないでしょう。その点、今度のノバルティスの臨床試験でもちゃんとした統計家が研究者の中にいなかった。したがって、メーカーからの統計の専門家に頼らざるを得なかったということが一番大きな問題ではなかったかと思っています。同感です。
○大門委員 ありがとうございます。
○遠藤座長 ありがとうございます、ほかにございますでしょうか。望月委員、お願いします。
○望月委員 関連した質問です。日本医学会に118の分科会があるという御説明なのですが、その中に生物統計学あるいは医療統計学を専門とするような分科会というのはあるのでしょうか。
○高久参考人 いや、ありません。現在122になりましたが。社会系の学会がありますが生物統計学に特化した医学会はないと思います、公衆衛生学はありますが。
○望月委員 公衆衛生の中の一部としては、生物統計の専門家が出るような場所はあるのでしょうか。
○高久参考人 特に生物統計学の方が中心となった医学会はないと思います。
○望月委員 医療統計の学会がほしいような気がします。
○高久参考人 はい、そうですね。それだけ、まだ研究者が少ないのではないかと思います。
○望月委員 そうですね、ありがとうございます。
○遠藤座長 ほかにございますでしょうか。山口委員、お願いします。
○山口委員 御説明ありがとうございました。法制化ということに対しては臨床研究が少なくなるのではないかということで、慎重にという御説明をいただきました。確かに、私も減るということが良いことだと思わないのですが、御発表されたのが今年5月1日付のスライドになっていますが、その後もどこまで膿が出てくるのだろうというぐらい次々に臨床研究にまつわる不正問題が出てきている現状を見ると、ガイドラインに盛り込むだけで本当に問題が解消するのだろうかと疑問を抱くところがあります。
新しいガイドラインに盛り込むべきということで今、倫理指針の見直しもされていますけれども、盛り込んだだけではなかなか守るというところまでいかない気がします。ガイドラインに盛り込むこと以外に、どういうことが必要だと医学会としては考えていらっしゃるのかお聞かせいただければと思います。
○高久参考人 私はIRB機能の強化ということを書いています。日本の一部のIRBはいい加減と言っては失礼ですが、IRBが一度認可するとその結果をしっかりフォローしていない様です。アメリカのFDAなどは非常にうるさく、IRBが臨床研究をちゃんとやっているか、方法どおりやっているかということをチェックする。ですから、日本でも外部のIRBが必要だと思います。本来ならば、IRBがガイドラインにきちんと従って臨床研究が行われているかどうかをチェックして、行われていない場合には中止をさせるとか、そのぐらいの権限があってもいいのではないか。日本のIRB機能は余りよく動いていないのではないか。そういうことで、IRBの機能の強化ということを強調しています。
○山口委員 今のお話はIRBを強化するということなのか、IRB自体をどこかでしっかりとチェックしていくような第三者機関や外部機関が必要ということなのか、どちらと取ればよろしいでしょうか。
○高久参考人 本来ならば外部のIRBを作って、そこがチェックをすべきだと思います。全部ができるかどうかは別にして。例えば国立病院機構では多施設の場合一つのIRBで実施しているようです。そういうようにしないと一つの病院の中だけで、一部、外部の人ももちろん入れますけれども、外部の人は遠慮して余り言わないことが多い。そうするとチェック機能が働かない。ですから、外に作って、そのIRBが見張るほうがいいのではないかと思います。
○遠藤座長 ありがとうございます。では、武藤(香)委員、お願いします。
○武藤(香)委員 御説明、ありがとうございました。今の御回答に更に関連することで確認させてください。先生もよく御存じだと思うのですが、アメリカのIRBは連邦法に基づいて規則があって運用されています。ただ、今回、日本医学会様のお立場を伺いますと、法制化については日本では慎重にというお考えだと理解しましたが、他方でアメリカの例も挙げておられました。ということは、現在のガイドラインの中で倫理審査の機能を集約化したり外部化したりすることによって、機能の改善を期待してはどうかというお考えだと理解してよろしいですか。
○高久参考人 はい、そうです。そういう考えです。日本人は真面目だから、体制を整えればアメリカ人よりずっと真面目にやるのではないかと思っています。
○遠藤座長 ありがとうございます。高久参考人はもう少しで御退席されるようです。
○高久参考人 まだ10分ぐらい大丈夫です。
○遠藤座長 そうですか、それではまだあればいただければと思います。よろしいですか。それでは高久参考人、どうもありがとうございました。
○高久参考人 これで失礼いたします。
○遠藤座長 ありがとうございます。続きまして○2「がん領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見」について、国立がん研究センターの早期・探索臨床研究センターの大津参考人から御説明をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○大津参考人 国立がん研究センターの大津です。どうぞよろしくお願いいたします。私に与えられた課題は、がん領域での研究者主導臨床試験の現状と提案ということで資料をまとめさせていただきました。
既にこの会でも何度も議論されているとは思うのですが、我が国の研究者主導臨床試験、これは介入試験に限った話でさせていただきます。主な問題点としては、いわゆる企業治験・医師主導治験以外の法的な根拠がない。つまり、被験者の保護が法的に確立されていない。2点目が、研究の質の保証がなされていない。後ほどお話しますが、先進国でICH-GCP準拠していないのはもう日本だけになってしまっている。3点目は、COIの適切な管理がなされていない。4点目は、先ほど議論になったように、倫理審査委員会の施設間差、個々の質の保証がなされていない。5点目は、アカデミア側としては、臨床試験を実際に計画・立案できる能力がある研究者が少ない。最後に、生物統計その他サポートの人材が不足している。これが主な問題点だろうと思います。
皆様御承知のとおり、基礎と臨床研究の、いわゆるトップジャーナル3誌だけに限った論文数で言えば、基礎研究はずっと上位をキープしているのに対して、臨床研究は低下の一途をたどっている。これが全てではありませんが、やはり実臨床を変えるような大きなインパクトが出てくるのはこれらの雑誌がかなりの部分を占めていますので、日本からはなかなか実臨床を変えるような高いインパクトのある臨床研究が行われていないのは明らかだろうと思います。
次のページです。私が専門としている抗がん剤のところは、ほかの一般の薬とは少し違う特徴的なものがあります。第一は副作用が多く、マネージメントに専門性を要する。これは特に抗がん剤ですので、まかり間違えば死亡例も出る危険がある。第一相試験から健常人ではなく、がん患者さんが対象となる。この領域は非常に企業治験が活発ですし、承認後のいろいろな集学的治療をやっていかなければなりませんので、この分野は研究者主導の臨床研究が非常に活発に日本の中でも行われ、国内でも研究者主導の臨床試験グループが多数存在しています。
次に述べますが、ICH-GCP準拠はもうやらざるを得ないだろうという意識が、結構きちんとやっているグループの先生方では出てきていて、一部の施設や研究者グループでは、その準拠の取組を開始している状況です。
なぜICH-GCP準拠が必要かと言えば、既に先進国において、申請を目的とした治験以外の一般の臨床試験においても、法律あるいはガイドラインでICH-GCP準拠と規定していないのはもう日本だけです。既に韓国やシンガポールなどのアジア諸国でもこれは規制されています。こうなってくると、日本だけが特殊事情という言い訳は、国際社会では通用しません。最近の大規模臨床試験は、がんの領域では多くが国際共同試験が必須の状況で、そうなってくると、もう国際基準に合わせないと治験あるいは臨床試験が進まないという状況です。今は改定版で大分ICH-GCPに近づいていると思いますが、少し臨床研究倫理指針とは整合性が取れない部分がある。現場としてはダブルスタンダードによる煩雑さを作る可能性がある。
一流英文誌の審査ですが、先ほどのトップジャーナル3誌以外の下のレベルの一流誌であっても、英文プロトコールを出さないと審査されませんので、実質上そこでNon-GCPということはなかなかアクセプトされることは難しいというのが現実です。それから、我々がやっている、企業との契約による医師主導治験等では、ICH-GCP準拠というものを示さないと、大手の企業の場合には薬剤提供がされません。
そもそも科学的に質の保証をされない臨床試験を実施すること自体がヘルシンキ宣言に違反するのではないかと。少なくとも被験者保護の法制化はもうどの国もやっていることですので、それは必須ではないかということで、次のページに法規制とガイドラインの提案をさせていただきました。被験者保護に関しては、これは全ての臨床試験をカバーする法制化が必要だろうと思っています。がんの領域は、特に未承認薬や適応拡大の部分は、まだ安全性が確立されていませんので、きちんとした質で保証しないと患者さんの重篤な副作用や、場合によっては死亡例が出ることがあります。ここはもう法制化が必要だろうということです。
それから、既承認の適応内は、これは今、改定中の倫理指針で今度はモニタリング監査というのが入っていますので、現実を考えると、当面はそれでいいのではないかと思います。ただこれは、ある程度期限を3年や5年などと区切って、やはりここの部分もICH-GCP準拠としていったほうがいいのではないかと個人的には思っております。
利益相反の管理に関しては、施設のCOI委員会は多くの施設で持っていると思いますが、この強化。それから、特に公的研究費による研究のCOI管理基準の辺りは、厚労省、文科省等でしっかりとコントロールしていただければいいのではないかと思いますし、製薬協の透明性ガイドラインがまもなく施行されますので、この辺りで管理をしていけばいいのではないか。
研究不正防止に関しては、アメリカで言うところのORI、日本版研究公正局の設置と法制化というのは、昨今のこれだけの事件が続いていると、やはり必要ではないか。取りあえずのカバーする範囲は、まずは公的研究費の部分から始めるべきではないかと考えております。
次のページが、我々が行っている企業側との契約による医師主導治験の独立性に関する組織図です。我々の早期探索臨床研究センターで対象としているのは、基本的に未承認薬のところですので、市販薬のマーケットに結び付く話ではないので、市販薬とは少し異なります。いわゆる医師主導治験として契約をして、プロトコール作成やモニタリング、データセンター、統計解析、監査、総括報告書の辺りは、やれる機能を、我々のところでは早期探索の臨床試験拠点として整備事業費を頂いているアドバンテージがありますのでそれが影響していると思いますが、ほぼそこの体制はできております。
企業からは、治験薬の提供、これは企業からやってもらわないとどう仕様もありませんので、そこと、安全性情報の提供を頂く。それ以外は我々のところで独立してデータ管理をするという体制にして、治験薬や安全性情報等は我々のところから参加施設のほうに流す形で作っております。
次のページです。こういった研究者主導の臨床研究の規制を強めた場合に懸念される点としてよく挙げられることとして、臨床研究の数が激減するのではないか。それから、サポートの人材を雇用することでコストが上がるのではないか。アカデミア施設への民間資金の流入が、昨今の寄付金等の話で、それがなくなると減少するのではないか。企業のマーケットの論理が優先されるのではないか。こういったことが挙げられます。
次のページです。ヨーロッパでいわゆるEU指令において、もともとはEC指令として出されていましたが、ICH-GCPの法制化で、臨床研究は本当に壊滅的な打撃を受けたのかということですが、これはトップジャーナルの3誌のレベルで言うと、若干の減少がある国もありますが、基本的には順位はほとんど変わっていません。その指令が施行されたのが2004年、表の右側が2003~2007年です。臨床試験というのは、結果が出るまで最低数年以上の時間がかかりますので、2003~2007年というのは恐らくEU指令が出る前の論文数で、隣が恐らくほとんどが2004年以降のダイレクティブが施行されてからでしょうが、これはほとんど変わっていない。それに対して、日本だけがこういったICH-GCP準拠ではなかったわけですが、日本は落ちる一方だという状況です。やはりきちんと質の高い臨床試験をすることが必要なのではないかと私は思っています。
規制強化とコスト・資金面への対応ですが、このICH-GCPというのは、日本で言うと、省令GCPとほとんど同じですが、今のGCPはものすごく大変だと思われるところは、その運用面だと思うのです。例えばEU指令が出た後のいろいろな論文を読むと、イギリスの運用面というのは結構厳しくて、イギリスがかなり論文数が下がって、イタリアやスペインは運用面で少し緩めで、それで逆にそこは増えている。ですから、そういった運用面のところを、今の医師主導治験よりも柔軟な対応をすることによって、それぞれの試験の内容に応じた運用通知を策定していけばいいのではないか。いわゆるrisk-based monitoringが最近の流行りですが、そのリスクの程度に応じたモニタリングの回数で、現実にできる話をやってみて、恐らく今の我々のところでやっているJCOGや、かなり質の高いグループにおいては、それほどICH-GCPの大元の規定のところだけで言うと、頑張れば十分できるのではないかというぐらいのレベルだと思います。
民間資金ですが、日本は公的な資金が限られていますので、恐らく臨床研究の半分以上ぐらいが民間資金でと、統計で出ています。今はグローバルの時代ですので、規制が甘いところにはもう大手の企業は資金も薬剤も提供しない状況になってきていますので、日本でICH-GCP導入がされないということになれば、その資金は必然的に全部韓国や、中国も今は整えつつありますし、シンガポールなどといったアジアの国に恐らく流れるだけだと思います。日本のそういった民間資金は減っていくのではないかと思われます。もちろん公的な支援も十分必要ですし、我々のところも何とかやっているという状況ですので、こういった施設への財政的な優遇、特に拠点病院との連携で参加している施設に対して十分な公的な支援が頂ければ非常にありがたいと思います。
先ほども高久先生もおっしゃっていたように、きちんとやればできるはずですし、海外の人たちから見れば、なぜ日本ができないのだろうという話で見られていますので、やはり被験者保護、研究の質の保証、適切な利益相反管理というのは、法制化は必要な部分は必要としてやっていくべきではないか。実際いつまでにやる、という期限をきちんと設定してやれば、それはヨーロッパであれ韓国であれ、みんなそういう道を通って、大混乱しながらも作ってきた話ですので、日本でも、国と企業とアカデミアと、それぞれが連携を取りながら、柔軟な対応をしながらやっていけば、日本でも十分できるのではないかと私は思っております。以上です。
○遠藤座長 ありがとうございました。それでは、御質問、御意見を承りたいと思います。
○大門委員 研究の質の保証という点なのですが、特に未承認薬・適応外薬を用いる臨床試験、また、今回のディオバンの問題にあるような将来の現場の治療行動を変えるような臨床試験に関しては、やはり患者さん、それから将来の患者さんのことを考えると、当然、質が保証されるべきものであって、ICH-GCP準拠であるのが本来の姿、目指すべきところだと私も痛感しております。
一方で、規制を強めたときに懸念されることを意識すると、先生がおっしゃったとおり、ICH-GCPの柔軟な運用です。そこで御質問なのですが、そういった柔軟な運用を実現しようとすると、例えば米国にあるようなIND試験のような届出を行って、それからリスクを分類して、そこを審査するというような枠組みが必要かと思うのですが、その点はいかがでしょうか。
○大津参考人 基本的には、私自身も少なくとも未承認薬適応拡大に関しては、すぐにでも、いわゆるアメリカで言うところのIND、ヨーロッパで言うところのCTAですか、そのような当局への届出はやはり必要だろうと思います。それはヨーロッパであれ韓国であれ、みんなやっているはずです。ただ、市販後のラベルを変えないような試験に関しては、それはどこまで必要か、アメリカで言うところのIND Exemptionがありますので、そこまで必要とするかどうかはいろいろ議論があるところだと思います。恐らくそれは当局の近藤先生がいらっしゃいますが、PMDAのキャパシティにも依存する部分はあるのではないかとは思っております。
○山口委員 どうもありがとうございました。2つ質問があります。まず、抗がん剤などのように国際的な最前線で臨床試験をやっていらっしゃる方は、やはりICH-GCP準拠をして法整備もしっかりやらないといけないとおっしゃる一方で、同じアカデミアの中でも、そこまでやるとちょっと厳しいのだという御意見があって、患者の立場としては、どうしてそういう違いが出るのだろうかと疑問を感じます。実際に最前線でやっていらっしゃる立場として、ほかの国では当たり前になっているICH-GCP準拠が日本でできないことは何が障壁になっているとお感じになっているのかということがまず1つです。
それから、こういう厳しくすればするほどいつも帰結するのがお金の問題です。モニタリングや監査はお金がかかるのでできないのだという話に行き着くような気がするのです。先ほど御説明もありましたが、お金の在り方としてもう少し詳しく、どうあればいいとお考えなのかを教えていただければと思います。
○大津参考人 それは非常に難しい問題です。最初の質問から言えば、日本での医師主導治験というのは企業治験と同じ運用でほぼやっていますので、それが非常にすごいレベルの大変な作業というイメージが付いてしまっているのだと思います。ICH-GCP、具体的にはICHのE6で言うと、例えばモニタリングにしてもセントラルのモニタリングと言って、データセンター側のところでのモニタリングでもいいですし、それから、必要に応じて、リスクに応じて、その施設に行ってどの程度、一般の申請用の企業治験であれば全例、それこそカルテのSDVと言ってカルテとの整合性をいちいち全部チェックしたりもします。
ある意味、市販後の試験のレベルで言うと、もちろんその施設の教育は非常に大事ですが、海外でも全例でそこまでモニタリングはやっていないと思います。実際にその研究者主導試験のレベルで例えば日韓などでやったときに、市販後の試験のレベルで言うと、決して日本が全然できていないわけではない。ところが日本はNon-GCPで韓国はICH-GCP準拠と言われるわけです。がんの領域に限った話かもしれませんが、ある程度、基本のファンダメンタルなところは結構日本もできてきていると思います。
ただ、日本の場合は省令GCPがあって、その下にいろいろな局長、課長通知などの運用規定がありますので、それが主に申請用の試験という話で設定されているので、そこが非常に煩雑化されているのだろうと思います。
ですから、市販薬の場合は、もうある程度安全性は分かっていますので、そこはそれなりにモニタリングの頻度などを、ラフと言うと言葉が悪いですが、現実に応じた柔軟な規定を作っていく話でしょうし、今度の倫理指針改定でモニタリング、監査が必須になりますので、そこの部分は文科省、厚労省合同チームでそのモニタリングや監査を現実的な運用にするような検討を開始しているところです。今までの規定や通知などの話が企業治験に合わせたような形になっているのを、ようやく昨年か一昨年ぐらいに医師主導治験も少し緩くはなりましたが、市販後の試験に向けた現実の運用のガイドラインを作る話を、これから検討が始まるところです。ですから、現実に海外でやっているICH-GCP準拠は決して私たちが出来そうもないハイレベルな話ではなくて、今きちんとやっているがんの臨床試験グループで言うと十分到達可能なレベルではないかと思っております。
コストに関しては、今度の日本版新独法がどの程度の予算になるのか分かりませんが、そういう中で、科研費の部分が少し拡大されれば我々としては有り難い話です。イタリアなどの事例では、企業からのファンドですか、企業の売上げの何パーセントのような話でそういうファンドを作っている国もあるようです。結局、薬価に反映されてしまう部分がありますので、その辺りは国民的な議論は必要だろうとは思いますが、そういうことをやっている国はあります。現実に全ての研究者主導臨床試験を公的な研究費でまかなうというのはまず無理だと思います。やはり企業のこういった契約型や、ファンド的なもの、日本はいわゆる第三者ファンドというのがありませんので、そういうドネーションの文化がないので、第三者ファンドのようなものも同時に作ることも検討すべきではないかとは考えております。
ただ、ある程度集約化していかないと、今は新しい開発のスピードがものすごい勢いでグローバルで進んでいるので、日本の臨床試験に関しても、やはり集約化ということをやっていかないと、日本中でそれぞれが方向性を別に試験をやっていてもなかなか世界にインパクトを与えることはできないのではないかと思います。ですから数が減ったとしても、集約化して一つ一つが質の高いものをより多く出していったほうが、日本としてもいいのではないかと思います。日本の強みは工業製品にしても質が高いところです。自動車にしても排ガス規制が世界で一番厳しかったから今のハイブリッド車などにつながったのではないかというところもありますので、過剰なものは別ですが、決して規制を強くすることが競争力を落とすことにはならないのではないか。先ほどのEUの事例もそうですし、というふうに私は考えております。
○山口委員 ありがとうございます。最初の質問のことに関しては、ある程度モニタリングも柔軟にリスクに応じて段階を付けることによって、費用もそれほど多額にかからなくなるという解釈でよろしいのでしょうか。
○大津参考人 そうです。我々がやっている医師主導治験のレベルで言うと、コストは多分、企業治験から見ると3分の1ぐらいですし、市販後などの大規模な試験になると、症例数が増えるので、その分、施設当たりのコストは下げる。それはシステムを作ればできるのではないか。やはり、今は国際社会ですので、海外などで見ると、そういうところでやっている施設は自助努力というか、かなりの努力をしてやっています。そこがきちんとシステムとしてできてくれば、コストも下げられるのではないかと考えております。
○楠岡委員 どうしても今の話は、まずは介入試験に絞った話で、しかも、薬の話になってしまっていますが、ICH-GCPは薬の開発のために作ったルールです。がんの領域であると、手術手技とか放射線と薬の組合せのような、単純に薬だけではない。むしろそういう研究のほうが、ある意味大事なところがあると思うのです。先生の御経験からいって、ICH-GCPのようなものというか、そういうものを薬以外のものへ適応していくことの困難さというのはどうなのでしょうか。
○大津参考人 それは先生のおっしゃるとおりです。本日お話したのはほとんど薬のこと、いわゆるドラッグトライアルです。EUのほうもNon-Drugのほうはそこまで厳しい規制はしていないはずです。医療機器のほうは新品というよりも改良品のようなものが多いですから、国によって違うシステムになっています。ですから、必ずしもこの薬の話を全て、医療機器や手術に関して押し付けるものではありません。
ただ、JCOGなどでやっている外科のグループは非常にレベルが高いですから、恐らく外科の手術手技に関する臨床試験は日本はトップレベルの質は持っているのではないかと思っております。
○桐野座長代理 10ページに書いてある、民間資金の取込みの問題で、これは結構難しいところだと思うのです。質の保証がない試験では民間資金は海外に行くということは、企業は適切な研究組織を求めて、国境を越えていくという考えですから、民間資金はマーケットメカニズムに従って、良い研究にたくさん投資する方向に動くということであれば、これはマーケットメカニズムに任せておけば、適切な研究組織がだんだん選択されることになりますよね。
しかし、実際には日本では、適切な研究を選択する作用をするはずの製薬企業自身が研究の問題に関与しているので、必ずしもこのメカニズムが働くとは思えない。それから、集約化というのは、先生の御指摘のとおりだと思うのですが、ただ、それをどうやるかというのは、何か認証をするようなことをお考えなのですか。何らかの形で、集約化をするためには、Aは良くてBは悪いというふうにしていかないといけないと思うのですが、それはどのようにお考えなのですか。
○大津参考人 正直なところ、この辺りの臨床試験の、主にイメージしているのは開発的な部分ですが、これは非常に国際競争という状況にあります。その臨床試験グループも、もう国際的な競争社会の中に入ってきているという状況です。今の企業自体が、これは多分、大手のいわゆるグローバル企業と、国内だけの企業というところでの違いはあると思いますが、例えば大手の国内でもトップレベルのグローバル企業においては、こちらから新しい試験のプロポーズを出すときは、全部プロトコール審査がかかります。大体、ディシジョンというのは、いわゆるメディカル・アフェアーズという企業の部署で審査を受けて、それなりの科学性と質の保証というのがあれば、企業はそこに薬や資金を提供されますが、結局、国際競争なので強いところに行きやすい。ここもやはり、ある意味、審査なのです。
今までは、今回のディオバンなどの話で言うと、それは企業の中のマーケットの部分でやっていた話だと思うのですが、今それはほとんど臨床試験の管理はマーケットではなく、どの企業もメディカル・アフェアーズのほうに移っていると思いますので、そういうサイエンスとしての臨床試験というものがきちんと見れる部署の人が、この辺りの資金提供や臨床試験の採択というものを決定しているのではないか。恐らく大手の企業は大半、そういうシフトをしたと思います。そうなってくると、もうそれぞれの臨床試験グループの、日本だろうが韓国だろうが中国だろうがアメリカだろうが、そういう申請を出して、そこの審査を通って、科学的にアクセプトされたものが企業として承認される。もちろん、その企業の意向もそこには反映される部分はあるとは思いますのでそこが問題点です。
○遠藤座長 ありがとうございます。予定されていた時間を少々過ぎていますので、これでよろしいでしょうか。大津参考人におかれては、大変貴重な御意見をどうもありがとうございました。
続いて、○3「小児領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見について」ということで、資料1-3に基づいて、都立小児総合医療センター臨床試験科部長の三浦参考人から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
○三浦参考人 本日はお招きいただきましてありがとうございました。小児というややマイナーなジャンルに光を当てていただいて感謝しております。スライドの3分の2ぐらいが当臨床研究支援センターの取組で、最後の3分の1が小児の臨床研究全般への提言です。少し前半のスライドは飛ばし気味に説明させていただきます。
1枚目は、臨床研究支援センターのスタッフです。専任の医師や臨床研究コーディネーター(CRC)、データマネージャー(DM)のほかに生物統計家、システムエンジニアなども備えております。
具体的な研究支援の取組ですが、昨年度、8回の臨床研究講座を行い、本日の最大のテーマである研究倫理に関しても悉皆の全員講習を行って、教育と啓発に努めております。言わばこれは座学です。
研究支援具体例の2です。「リサーチ・カンファレンス」というものを、各診療科に対し開いています。なかなか忙しいドクターですので時間外でしかこういうことはできないわけです。集まりのときに出向いていって、「皆さん、今どういうことを疑問に思っていますか」みたいなことから臨床研究を立ち上げるという、言わばOn the Job Trainingに努めております。
研究支援の3は統計相談です。生物統計家というと、持ってきたデータを学会直前に有意差を出すというような考えを持っている人も少なくはないのですが、これは大きな誤解でして、研究の始めから研究デザインの相談に乗っていただく。そして、必要症例数を設計していただくというようなことから行っております。実際の統計に関しては、院内LANによって統計ソフトで有名なSPSSが全員使えます。これはIBMのパンフレットにも紹介をされています。
研究支援の4はネットワークの構築です。小児は症例数が少ないので、成人に比べて更に多施設化は必要になってきます。単に研究だけで結び付くのは難しいので、人材の交流、あるいは研修医への講義というような形で、顔の見える関係を構築しています。次のステップの取組としては、症例登録用紙等の登録や割付けなどもオンラインで行うことも計画しています。現在は東京都立病院と都立の公社病院を中心にネットワークを組んでいますが、多摩地区全体の総合病院の小児科も視野に入れて、今、ネットワークを広げているところです。
研究支援の5としては、多施設共同研究です。そのネットワークを基に、当院がセントラル(中央施設)として、ほかの施設をローカル(参加施設)とした多施設共同研究がなされています。具体的な多施設共同研究支援の例です。当院がセントラル(中央施設)となっているものとしては、現在13件ありまして、腎臓疾患、循環器疾患、新生児疾患などいろいろで、成人の病気のほうにも協力をしております。下に書いたように、CRC、DM等のスタッフがかなり協力してくれるから、こういった研究ができるわけです。特に強調したいのは、小児で一般的な病気であるRSウイルスによる細気管支炎に対し、ランダム化比較試験を行い、6年かけて終了したことです。他院がセントラルになって当院がローカルになっているものは10件支援しており、CRCの方の業務を頂いて推進している次第です。
研究支援の6はデータセンターです。これが研究者と独立しているというところを強調したいと思います。独立した部屋で作業をして、1研究につき1台のパソコンを割り当て、アクセス権限はデータマネージャーしか持っていないわけです。私も自分自身の研究に関するデータの原本を操作することができず、許可を得てコピーをいただいています。紙ベースでの研究報告書は期限が来るまできちんと保管しておりますし、各施設の連結表管理等支援もしております。
研究支援の7としては、このような臨床研究が円滑に運営できるように、倫理委員会、利益相反委員会、臨床研究委員会、治験審査委員会等の運営を手伝っていることです。
現在の組織はこのようになっておりまして、当院だけではなくて、外の施設の小児の臨床研究も活性化しています。おそらく全国の小児病院の中で随一の組織だと私は思いますが、基になったのは厚生労働省の方々が進めていただいた治験活性化5か年計画にあり、その拠点病院のときの費用で、この基盤ができているということを改めてご報告し、御礼申し上げたいと思います。
小児の臨床研究の問題点です。よく言われていることですが、小児は数が少ない。しかも新生児、乳児、幼児、学童とそれぞれ年齢が違う。病気の種類は結構多いので、各疾患の症例数が限られます。しかも小児の同意取得は難しく、検査も難しく、人権擁護も考えなければいけない。つまり手間がかかりますが、企業側にとってみると利益が少ない。ですから、治験や臨床研究はなかなか進まないということがあります。ただ、強調しておきたいのは、こういう利潤が少ない中でも、小児の医療関係者は、何とか子供たちのために頑張っていることです。不心得者は少ないのではないかと私は思っております。
提言です。アメとムチというのか、規制はするけれども支援が欲しいというところです。ただし、小児だから別に規制を緩くする必要はないのではないかと思っております。
小児の臨床研究の規制ということですが、まず、症例報告書はきちんと保管するべきです。アセントは小児独特の問題ですが、全ての臨床研究に治験と同じような文書によるアセントというのは難しいので、口頭でもいいのではないかと考えております。一番重要なのは赤で書いたデータの独立性と透明性です。この点はスタッフとさんざん議論してまいりましたが、一番いいのはCRCやDMが関与することでしょうということになりました。要するに、医者や研究者だけがデータを扱っているから不正を働くのです。ここにCRCの方などに関与していただくと、臨床研究が推進しますし、医者や研究者も楽なのです。そこに患者側に立ったCRCが入って、臨床の現場における看護師のような役割をしてくださることによって、人権も守られますし、非常に不正が働きにくくなります。第三者の目があることで、データ操作や捏造に対する心理的なブレーキがかかるだろうと私は思っています。監査、有害事象等の報告はお任せいたしますが、必ずしも必須ではなくてもいいのではないかとは考えます。また、利益相反は十分に徹底するべきです。
支援のほうです。小児は難しい面がありますので、研究費等、大規模でない臨床研究にも少し助成していただきたいと思います。現在、臨床研究中核病院ができていますが、一部の施設に巨額の研究費が下りてきて、ネットワーク化がなかなか進んでいないように私には見受けられます。ですから、治験活性化5か年計画のときのように、拠点病院を作るなどという形でネットワークを推進していただきたいと思います。
DPC機能評価係数等も小児病院には不利と伺っています。それから、CRCの育成も少し滞っているように感じますが、是非、臨床研究に特化したような、あるいは小児に特化したようなCRCを育成していただきたいと存じます。
また、未承認薬が多いのですが、できれば承認の方向に誘導していただいて、その代わりに市販後調査をしっかりしてほしいと考えます。ただ、現在の市販後調査の全例調査というのは非常に質が低いと私は思います。全ての症例を忙しいドクターが面倒な書類を書くというのはナンセンスで、できれば治験などをしっかりやっているような、CRCが支援してくれる施設でしっかりとした、言わば第四相の臨床試験をやっていただくことを提言します。
以上、当院の取組、特にデータセンターが独立性と透明性を担保しているということと、小児の臨床研究を応援していただきたいということを御報告いたしました。どうも御清聴ありがとうございました。
○遠藤座長 どうもありがとうございました。それでは、御質問、御意見を頂きたいと思います。
○武藤(香)委員 御説明ありがとうございました。非常に充実した支援の取組をされているということで大変勉強になりました。今、臨床研究全体、特にリスクの高い臨床試験に関して、法整備をすべきかどうかが議論になっているわけですが、小児の臨床研究をされている先生の立場から御覧になって、ここは是非法律の中で扱うべきだという御意見や、あるいは、冒頭の高久参考人からの御発言にもありましたように、当面はガイドラインの改正で対応すればいいのではないかというご意見がありましたら、ぜひ率直におっしゃっていただけたら有り難いと思います。
○三浦参考人 法律で縛ると言うと、日本人気質として、やはり萎縮してしまうような気がするのです。ですから、倫理委員会やガイドラインをしっかりと整備するほうがよいと存じます。CRCは、臨床研究コーディネーターの略ですが、ほとんどの病院では治験しかやっていません。そのCRCの方が臨床研究の現場に入ってきてもらうことが、一番透明性を保つのにいいのではないかと思います。
それから、監査も外部から入ってくると、ちょっと大変かなと感じます。内部監査というと、やはり倫理委員会を強化することになります。あるいは相互の監査というのか、A病院とB病院でお互いにやり取りして臨床研究の実態を監査する。そういったようなことでうまく規制すればいいのではないでしょうか。法制化まではどうかなと思います。
○望月委員 臨床研究支援センターというのは非常によく出来ていると思いますが、これは小児の臨床研究だけに限られるのか、それとも、このシステム自体をほかの領域にそのまま移すようなことは可能なのでしょうか。
○三浦参考人 東京都が経営母体ですので、ほかの都立病院の、例えば成人の臨床研究なども支援しております。
○望月委員 そうですか。
○三浦参考人 今は小児がメインですが、だんだんと成人のほうも支援しようとは考えております。
○望月委員 そのときに考えられる大きな問題点は何かありますか。そのまま、その気になってやれば他の領域でもできるということでしょうか。
○三浦参考人 人とお金が必要ですが、その気になれば、ノウハウはほとんど変わりません。小児のほうがより大変なのです。例えば、同意説明を得るにしても、採血1つ行うにしても気を遣うわけです。従って、小児の臨床研究を成人に拡大するのはそれほど大変ではありません。逆は大変かもしれませんが。
○望月委員 ありがとうございます。
○楠岡委員 先生のところで、この臨床研究支援センターのスタッフの人件費等は、どういうところから出されているのですか。
○三浦参考人 初めは治験活性化5か年計画の研究費です。今はその研究費がなくなったので、結果的に東京都で雇っていただいているという形でしょう。臨時職員のような者はパート代のような形ですから、治験の費用でまかなっています。ですから、治験で頂いた費用を臨床研究に回している面もあります。
○楠岡委員 支援している研究者が、何らかの研究費を取っている場合は、そこから一定額を納めてもらうような制度は取っておられるのですか。
○三浦参考人 私どもは是非やりたいのですが、都立病院の会計の問題があります。例えば、人件費は支援業務を給料としているわけだから、さらに研究費から提供してもらう必要はないというような話があるのです。しかし、例えば厚労科研費など持っていらっしゃる方からは、外部企業にお願いするよりは低額の費用を提供してもらおうと、動き始めているところです。研究支援センターが組織として独立することが可能であれば、会計の問題も少なくなると予想されます。
○遠藤座長 ほかにありますか。よろしいでしょうか。三浦参考人におかれては、本当に貴重な御意見をありがとうございます。
続いて、○4「難病領域の臨床研究の状況及び今後の制度の在り方に関するご意見について」を議題としたいと思います。資料1-4に基づいて、埼玉医科大学総合診療内科教授の宮川参考人から御説明をお願いします。
○宮川参考人 埼玉医科大学の宮川です。私がここに呼ばれた理由は、難病という特殊な領域で医師主導臨床治験を進めているからです。昨今、メディアをにぎわしている高血圧に関する臨床試験の領域と異なり、難病は患者が少ないのが特徴です。例えば、国内で100人しかいない難病もあります。そのようなところに規制を強化した場合、どのようなことが起こるのか考えてみましたので、幾つか提言をしたいと思います。
資料を御覧ください。第1回、第2回の会議で既に出ておりますが、EUでは10年前に規制を強化したことにより、イギリスの場合は医師主導臨床試験のコストが80%高くなりました。その結果、EUの臨床試験の数は25%減少、国によっては半分以下に落ちています。EUは過去10年の失敗をもとに、患者に危険が少ない低リスクの試験については規制緩和しようということを決めています。企業と研究者を優先するのではなく、患者に対するリスクを中心に考えているのが特徴です。
次の資料を御覧ください。McMahonの論文がよく引用されますが、スコットランドの先生たちが、EUにおける失敗を論文にしています。3つの提言があり、第一点はEUにおける過度な規制が、医師主導臨床試験と患者に損失を与えたということです。アメリカと比べて、不可逆的なダメージをEUに与えたと論文に書いてあります。第二点は、そもそもICH-GCPは企業の商業的試験、言い換えれば薬を市場に出すためにデザインしたものなので、学術的試験、すなわち医師主導臨床試験には向かないということです。第三点として彼らが強く強調しているのが、世界は是非ともEUにおける規制強化の失敗を学ぶべきであるという内容です。
医師主導臨床試験は、企業治験とは違います。これは大切なところで、商売を目的にした企業治験と、患者の健康を改善するための本来の医師主導臨床試験は全く別物です。医師主導臨床試験について、世界は規制緩和に向かっています。自動車保険を例に、リスク別の対応について説明します。例えば、年間3,000キロしか軽自動車を運転しない40代の主婦の場合は、交通事故を起こす危険性が一般的に低いので保険料は2万円です。一方、20代で赤いスポーツカーに乗り年間3万キロも運転する若者は、交通事故を起こす確率が高いので、保険料は20万円と高額になります。この考えは、臨床試験において欧米でも採用されており、リスクの低いものについては先ほど来話が出ているようにモニタリングを緩くするとか、商業的試験と医師主導試験の対応を分けようというのが大きな流れになっております。
次のページに安倍総理の写真が出ていますが、今年は日本がOECDに加盟して40年になります。御存じのように、今年のOECDの閣僚理事会は総理が議長を務めておられますが、OECDが昨年、臨床試験について提言書を発表しております。この臨床試験の提言書の作成において、厚労省から5名が専門委員として参加しておられるので、日本としても当然このOECDの提言書を今後遵守するものと思います。
次のページに、OECDの「Global Science Forum 2013」が作製した各国の臨床試験に関する規制をまとめた表を用意しました。細かく説明すると時間が掛かるので、大事な所を説明します。まず、患者にとって危険なものは何かというと、未承認薬です。初めて患者に投与するものは、効果があるのか毒なのか分からない。ですから、規制するのは当たり前というのはどの国も一緒です。反対に一番リスクが低いものは、規制当局が既に承認した薬剤です。日本で言えば厚生労働省、アメリカではFDAが承認したものであれば、患者への危険性が少ないと見なします。例えば、糖尿病に対する食事療法、運動療法と承認された薬剤の効果を比較する臨床試験はリスクが明らかに低いので、法的規制でがんじがらめにしなくても良いというコンセプトです。EUは2001年に規制当局がリスクの低いものから高いものまで全てを同じように厳しく管理して失敗したので、最終的にはリスクの高いものだけ規制しようと見直しをしました。
10ページです。ICH-GCPを臨床試験に当てはめた場合、何が起こるか考えてみましょう。物事には必ず表と裏があります。良い面は、間違いなく臨床試験の品質は向上します。これは世界共通であり、良いことだと思います。また、我が国の問題として、ドラッグ・ラグが3~4年ありますので、ICH-GCP準拠の臨床試験結果を薬事承認の申請資料として厚生労働省が今後採用してくださるのであれば、プラスに働くと思います。デメリットとしては、高額な研究費が必要なので、EUと同じように臨床試験数が3~4割は減ると予想します。
12ページです。現在、私は血液の難病に対して医師主導治験を2件やっております。両方とも厚生労働省の科学研究費の助成を受けております。現在進行形のものを御紹介します。
13ページです。聞き慣れない難病ですが、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)という病気があります。国が難治性疾患克服研究事業の対象疾患に指定したものですが、患者数は約400名です。放っておくと、2週間以内に90%の患者が残念ながら必ず死亡します。海外では、10年前からリツキシマブという特効薬が承認されていますが、あいにく日本では適応外なので、限られた施設を除いて使えません。自由診療であれば使えます。
14ページです。前回までの会議で、モニタリングを入れるとお金が掛かるということですが、具体的に幾ら掛かるか資料を出した方がおりません。現在進めている医師主導治験の費用内訳を公表します。今回、6名の被験者を対象に国内13施設で、1年間かけて治験を進めています。総額は約1億円です。たった6名の患者に対して、治験を行うと1億円かかります。幸運なことに、国から厚生労働科学研究費の支援を受けたから実施できているのであり、この研究資金がなければ治験は行えません。
16ページです。1億円の内訳ですが、モニタリングに約2,600万円、データマネジメントに1,300万円、治験事務局に約1,000万円です。被験者6人の治験ですから、非常に高く感じると思いますが、実際には企業治験と比べて格安です。
17ページです。先ほどの参考人から、企業治験と医師主導試験は3倍ぐらいコストが違い、医師主導試験は安いという話がありましたが、もっと安いかもしれません。例えば、CROの相見積りをしましたが、アメリカの大手CROにお願いすると3億円とか2億円かかります。国内の企業に治験の手順を見直すようお願いすると、5,600万円で済みました。従いまして、試験の規模と目的に合わせて、CROを慎重に選ぶ必要があります。ただ、この5,600万円も非常に大きな額です。医師主導臨床試験を行う場合、恐らく単価は500万円以下、治験にかかる5,000万円の10分の1ぐらいにコストダウンしないと、現場は対応できないと思います。
19ページです。難病において、メタボやがんと違ってどのように臨床試験が行われているかを説明します。幸い難病には、厚生労働省の疾病対策課と研究開発振興課の御支援もあります。難病の患者を救いたいという研究者が、一生懸命研究に取り組んでおり、基本的に研究の信頼性は良好です。規制強化をすれば、更に質が上がるのは確かだと思います。ただ、問題はメタボの疾患と違ってマーケットが非常に小さいので、規制を強化すれば当然企業は参加しなくなります。その結果、現在より臨床試験数は減り、患者が必要とする新しい薬と手術が開発されないリスクが出てきます。
20ページです。国は臨床研究の中核・拠点病院について非常に良い事業を進めておりますが、今後何が起こるか考えてみます。難病領域においては、例えば中核・拠点病院は人・金・物が豊富なので、より良い研究ができます。例えば、ランセット誌、ニューイングランドジャーナル誌に掲載されるような研究成果が出てくると期待しますが、少し田舎に行くと、そういった研究支援体制がないので、臨床研究はできなくなると思います。
21ページに典型的な例を挙げました。5歳ぐらいの男の子が病気で寝ています。母親が、「ごめんね。家から東京まで5時間も掛かるし、君には弟もいるから、とても大きな病院まで通えないわ」と言っています。東京まで行けば、臨床試験に参加して最先端の良い医療を受けられるけれども、田舎では受けられないといったことが起こり得ると思います。これを防ぐには、規制は重要ですが、難病の領域においては「未承認・適応外薬の人道的使用」、これは厚生労働省がCompassionate useということで進めておりますが、患者を救済するための何らかの仕組みが必要と考えております。
22ページです。臨床試験に必要なこととして大項目を3つ挙げました。今までの会議でも審議されておりますが、○1被験者保護には安全性、○2透明性には科学データの信頼性保証と利益相反の開示が必要です。○3成果の公表として成功例と失敗例のデータベース化が望ましいです。それに加えて、配布資料に下線を引いておりますが、被験者の保護として、「必要な治療を受けられる権利」があります。難病の領域においては、臨床試験が治療そのものになっていることが非常に多いのが特徴です。したがって、臨床試験ができなくなると、田舎の病院では最先端の治療が行えなくなるので、その権利が奪われる危険性があります。
最後に提言です。欧米を参考に、患者を中心に据えたリスク別の規制が望ましいと考えております。医師主導試験を規制する何らかの仕組み、例えばICH-GCPは導入してよいと思いますが、それを支援するための研究費の充実、アカデミック臨床研究機関(ARO)の支援が必要です。AROは民間のCROよりもコストが非常に安く済むので、それを是非発展させていただきたいと思います。法整備ですが、いくら規制を強化しても、人間の悲しい性(さが)で、いろいろなことをする不心得者が一部出てきてしまいます。臨床研究の教育を医学部であれば医師国家試験、その後の認定医・専門医試験、製薬企業の場合にはMRの多くが薬剤師なので薬剤師、看護師、技師、CRCといった者に、継続的に教育をするのが大切と考えております。以上です。
○遠藤座長 ありがとうございました。ただいまのお話に対する御質問、御意見はありますか。
○武藤(徹)委員 コメントです。私が全2回を通じて申し上げていたことを、全部きれいにまとめていただいてありがとうございました。
○望月委員 ICH-GCPは向かないというか、EUの失敗ということで出されました。先ほどの大津先生のお話では、ICH-GCPに則って良い臨床研究をしなければいけないということで頭の中を整理したのですが、その辺りがまだごちゃごちゃになってしまいました。難病だからということではないのですね。
○宮川参考人 ICH-GCPは対応可能と考えています。日本独自の複雑な省令GCPの運用面に課題があります。例えば100例の患者がいたら、100例のカルテを一字一句くまなく見るような作業をやっていますが、海外と同様に治験の効率化をすることによって、ICH-GCPの対応は可能と考えています。
○望月委員 分かりました。そういうことで、先ほどの大津先生のお話と何ら相反することはないということですね。
○宮川参考人 そうですね、同じだと思います。
○楠岡委員 先生のおっしゃる、特に被験者の保護の中の必要な治療を受けられる権利についてですが、先生も途中でおっしゃっていたように、Compassionate useが日本には制度としてないがために、どうしても臨床試験という形にしてすることが多い。治験の場合は、保険診療上も評価療養に入っているわけですから、混合診療には当たらない形になりますが、現場からすると、ときどき臨床試験を病院の中でやるときに、薬代をどうするのかとか、追加する検査をどうするのかという話になって、結果的にそれは研究費で賄うからということでOKになることは多いのですが、これも厳密に言うと混合診療になってしまう可能性も十分あります。それを、今は臨床研究ということでグレーゾーンに入れているところがあって、保険診療の話と研究の話が、本来は別次元のものがクロスしていて、最終的にCompassionate useみたいなものも臨床試験の中でやってしまうということが現実にあると思うのです。先生の御意見としては、規制強化というか、Regulationを強くすると、逆に今までそういう形で救われていた患者が救われなくなってしまうのではないかという御意見ですね。
○宮川参考人 EUの失われた過去10年を見る限りは、同じことが日本にも起こり得ると思います。日本はEUの失敗を見ているので、そこは学んで、上手に対応することによってリスクを回避したいと思います。
○山口委員 先ほど、被験者保護のところで必要な治療を特に難病の方が受けられなくなるというお話がありました。臨床試験・治験のセンター化をすることによって、地域でできなくなるというお話でしたが、センター化をしたとしても、共同研究をすることによって、地方でも今までどおりすることができるという可能性はどうなのでしょうか。
○宮川参考人 現在は埼玉医科大学に勤務していますが、前職は慶應大学にいました。国立がん研究センターや慶應大学のように、国から臨床研究と治験の中核拠点に指定された病院は非常にお金があるので対応できると思います。本来は周りの研究施設を支援すれば良い絵にはなるのですが、実情はどの大学もセンターも人不足であり、なかなか外部まで支援できていないのが現状だと思います。これから何らかの仕組みでもう少し人を、具体的には治験コーディネーターや支援するスタッフを増やさないと、まだまだ周辺の連携する病院、大学はサポートできません。恐らく、本音は皆さん自分の施設だけで手一杯だと思います。
○武藤(香)委員 私も難病の研究班におりましたので、先生のお話は非常に染みました。先ほど楠岡委員がおっしゃっていたことに関連しますが、まれな難病の方に、未承認薬など、様々な理由で、「これしかない」というものを投与する体制を臨床研究として行うことは、割とよく見掛けられることだと思います。いろいろな方々がいろいろな工夫をされ、考えながらやっておられるわけです。そこが先ほどグレーゾーンとおっしゃっていたものに近いと思います。先生の今日の御提案には、グレーゾーンのままにしておくのではなくて、たとえば臨床試験にアクセスする権利を保障するとか、複雑な現状を認めた上で何か前向きに、グレーゾーンのままにしないということが御提案の中には含まれていると理解してよろしいでしょうか。
○宮川参考人 含むと考えます。現状では、目の前の患者を救うために各医療機関で工夫して対応していますが、それを何らかの形で、例えば厚労省なりPMDA、あるいは新しくできる機構に報告する形でいかがでしょうか。それによって国が医療現場の経験と情報を蓄えて、次の患者に生かせるような仕組みにしていただけると有り難いと思います。
○遠藤座長 よろしいですか。それでは、宮川参考人におかれましては、御説明ありがとうございました。
続きまして、○5「海外制度について」に移ります。資料1-5に基づき、臨床研究に係る海外制度の研究者代表として、慶應大学の磯部参考人、研究分担者である昭和大学の田代先生、東京大学医科学研究所の井上先生から御説明をお願いします。
○磯部参考人 私は、慶應大学の磯部と申します。平成24年度の研究成果については、第2回の検討会のときに、国立がん研究センターの藤原先生から御報告がありました。今日も後ろに控えてくださっています。また、平成25年度のイギリスとフランスの法制度の研究の報告書を、参考資料3としてお配りしております。EU法制、イギリス法制等について中心的にまとめてくださった井上先生、昨年度から通じて全体を見てくださっている昭和大学の田代先生にも来ていただき、短い時間ではありますが、要点をかいつまんでお話します。この後お話することは、資料の最後28~30ページにかけて、まとめとして書いてある所に要点をまとめてありますが、資料1-5を御覧いただきながらお聞きいただければと思います。
2ページです。今回、イギリスとフランスの法制度の研究ということで、主な調査項目としては、そこに挙げてある1~6が対象でした。
3ページです。イギリス、フランスの主に規制当局を中心に出かけていきました。それに先立って文献調査等を行った結果を、4ページ以降に書いております。
4ページです。もともとイギリスとフランスの法制度においては、両国とも販売承認の目的の有無を問わず、臨床試験を包括的に規制の対象にしております。その背景にあるのは、全ての医薬品の臨床試験に対して同一の規制を課すEUの臨床試験指令の存在があります。そこで言う臨床試験は医薬品を用いた臨床試験ということになるので、医療機器や手術・手技に関する試験は、差し当たりここでの検討対象外となっております。別の枠組みになります。
5ページです。EU指令の主な特徴は幾つかありますが、EUにおける臨床試験については、基本的な研究の対外的な責任を持つ窓口として、「スポンサー」の存在があります。試験の計画から申請、実施、各種報告といったものに責任を持つものです。もともとスポンサーに誰がなり得るのか、その内容は必ずしも一義的ではなく、また、論者によって多様ですが、スポンサーが中心であるという制度においては一貫しているかと思います。
6ページです。現在、既に話題になっていますが、EUでは見直しがあり、Regulationへの移行が見られております。失敗に学ぶということで、リスクの低い臨床研究・試験に関しては規制緩和の動きもあり、今後の法制度検討の際のヒントになると思われます。その中に含まれている内容は、例えば資料保存の期間を長期化する、公開のデータベースへの登録、データベースを設置するといったことがなされております。詳細は7~9ページを御覧ください。
10ページです。2つ目の枠組み、データの信頼性確保、モニタリング・監査については、データの信頼性確保において最も重要な手段と位置付けられていると思います。特徴としては、法令上に明確に詳細な規定があるかというと、そういうものはないようです。イギリス、フランス両国とも、日本のGCPのような詳細な規定はないということです。その背景にある考え方は、臨床試験はものによって性質や内容が違うので、画一的な規定になじまない。したがって、誰がどのようなモニタリングを行うのがよいのかも、一義的に決めることができないということです。例えば、イギリスにおいて法令上定められているのに、下の1.~3.の3点に限られています。
12ページです。実際に施設SOPに見るモニタリング事例を見てきましたが、先ほどの大津先生のリスク別モニタリングが重要だというアイディアにも通じると思いますが、リスクに応じて3つのパターンでモニタリングを実施しているというのが興味深かったところです。詳細は15~16ページに書いておりますが、日常モニタリングはほとんど研究者自身によるセルフチェックに近いものをもモニタリングとして認めているということで、そうした簡易なモニタリング手法を許容しており、運用が回っているのではないかと思います。
14ページです。3つ目の論点、被験者保護については、昨年度の研究報告により詳細なものがありますが、施設ごとではなく、地域にある程度リソースを集中して倫理審査委員会を置き、研究者からの独立性を確保した運用が図られております。また、15ページにありますように、イギリスの例ですが、倫理審査委員会の審査の質・レベルを標準化する、高いレベルにすることについて、国レベルでの取組が見られていることが挙げられます。
18ページです。4つ目のポイントとして、利益相反の仕組みについてですが、この点についてはアメリカ的な仕組みとはやや異なるコンセプトで制度が作られているという結論で、必ずしも倫理審査委員会と独立の利益相反委員会という管理は求められておりません。さらには、研究者の利益相反だけではなく、倫理審査委員会の委員や、最終的に研究の許可を出す規制当局の職員の利益相反マネジメントが重視されているところが特徴的かと思います。
イギリスにおいては、実際に倫理審査委員会の審査にかかるためにどんなものを添付しなければならないか、その書類のリストの中には、あらゆる経済的な取決めに関するもの、あるいはデータの公表なども含めて申請することになっており、プロトコールに書く、説明文書に記載するというよりは、むしろ倫理審査委員会に情報提供を集約するというコンセプトと思われます。
21ページです。他方、フランスではスキャンダル事件があり、COIの管理・整備が図られていくことになります。ただ、フランスのヒアリングで聞いたのは、COIをどこまで厳密にやっていくか、それをやることで、きちんとクオリティのある製品について適切にアセスメントする能力のある人が、治療ガイドライン作成の場面などにかえって関与できなくなるというデメリットもあるわけで、そこのさじ加減が課題であるという問題意識が聞かれました。
22ページです。5「研究不正」ですが、研究不正について何か統一的な法律の仕組みを置く例は少数であろうと思います。例えば、データの不正操作を禁じるといった具合に、特定の行為について罰則を科すということは見られます。また、データの保存なども義務付けられており、一部の義務化が図られているということです。つまるところ、臨床試験をルールに反して行ったときには、イギリス、フランスいずれも最終的には医療者の資格、免許の停止、戒告といった処分にリンクするという運用が見られることが興味深いところです。
25ページに、イギリスのことが書いてあります。これまでデータねつ造・改ざん等に対して、数十名の医師に対し直ちに懲戒処分が実施されているということです。フランスについては書いておりませんが、こちらも懲戒裁判で不利益処分がなされたケースは確認できます。
26ページです。6「広告規制」です。これについては、医療者向けの広告、一般市民向けの広告を分けて規制するという仕組みが一般的かと思います。イギリス、フランスいずれについてもそのような仕組みがあります。フランスでは、メディアトール事件があった後、医療者向けの広告の事前の許可を規制当局に申請して許可を受けなければ使えないことになっております。しかし、この点については、規制当局の積極的な関与がある一方で、出版の自由や表現の自由等に緊張関係があるのではないかということで、非常にホットなテーマであると感じました。
少し大雑把ではありますが、以上のようなことで、28ページ以下に要点がまとめられております。私からの説明は以上です。
○遠藤座長 ありがとうございました。ただいまの御説明に対して御発言はありますか。
○武藤(徹)委員 向こうへ実際に行かれて、インタビューをして調べて来られたのですね。非常に貴重な資料だと思いますし、ちょうど明治政府がやった仕事と同じような、我々が一番知りたかった実情です。問題は、この内容をどのように利用するか。ここでディスカッションすることではないかもしれませんが、これをどのように利用するかが一番のポイントです。これは厚労省に聞いたほうがいいかもしれませんが、是非、良いところは取り入れて、更に良いものを作って、イギリスもフランスも余り規制を厳しくしたり、利益相反などは余り厳しくしていません。その辺は常識でやっているのでしょうけれども、その辺りの扱い方を是非うまく取り入れていただきたい。
日本は、何か事が起こると、真面目だから微に入り細をうがち、規制を作って、それでよくなったと思うのですが、必ずしもそうではないと私は思います。規制を作ることに目的が行ってしまって、肝心なことを忘れてしまう傾向があるので、この委員会の仕事だと思いますが、そういう意味では非常に良い資料をもらったということで、有り難いと思います。
○遠藤座長 今後の議論で、是非そういう視点からも御議論いただきたいと思います。1つお尋ねしますが、参考人のお二人は、御発言はよろしいですか。
○磯部参考人 質疑があれば発言いたします。
○遠藤座長 了解いたしました。ほかに御発言はありますか。
○大門委員 Risk-based Monitoringにおいてリスク評価ツールというものがあるというお話がありましたが、そのリスク評価ツールの評価項目がもしお分かりでしたらお教えいただきたいと思います。
○田代先生 報告書の本文に、かなり詳細な記述をしています。また、Imperial College LondonのSOPは全て公開されていますので、現物に飛べるようにしています。評価項目は8つあるのですが、大まかに分けると、1つは被験者に対するリスクが大きいということ、例えば本人から同意が取れない方を対象にしていたり、救急であったりするパターンです。もう1つは、使う薬剤に関するもので、First-in-Humanなのか市販薬なのかという点です。それから、データの信頼性に対するリスクとして、そもそも紙ベースでやっているのか、しっかりしたデータベースを使っているのか、単施設なのか多施設なのか、幾つかの評価項目があり、それに具体的に点数を振っていって、その合計点で3分割するツールになっています。
このリスク評価ツール自体は、私が伺ったところによると、各施設がそれぞれ独自のものを持っているようでして、今それをEUの中で持ち寄って、もう少し標準化できないかということを試みているようです。基本的には、各施設でこれに基づいて評価したものを、倫理委員会なり規制当局なりが、合理的な判断であったかどうかを確認するという仕組みでやられているということでした。
○山本委員 大変参考になる御報告をありがとうございました。幾つかお伺いしたいと思います。1つは、当時のEC指令が出た後、イギリスが失敗をしたということが、今日も出ましたし、前回もよく例として出てきましたが、伺っていると、GCPについてもイギリスは法律上は余り細かく書かれていません。モニタリングもリスクベースで、それなりに柔軟に考えているのですが、そうすると、何がまずかったのかを伺いたいと思います。1つ考えられるのは、手続がかなり遅延をしたということが考えられますが、そういうことなのか、あるいはどこに問題があったのかをお伺いしたいと思います。
2つ目は、フランスではどのように評価をされているのか。非常に大まかな質問になりますが、ECの指令が出た後、フランスにおいてはEC指令ないしはそれに基づいてできた国内法、あるいはその運用が全体にどのように評価されているかをお伺いしたいと思います。
3つ目は、EUの場合には、規制当局と倫理審査委員会が両方とも承認をするという手続が踏まれるわけですが、それぞれの関与のウェイトというか、どれぐらい規制当局が実際に関与しているのか、その点をお伺いしたいと思います。
○井上先生 最初のEUの指令の評価、フランスについては後ほどこちらにお願いすることになりますが、これについては国によって、また、先ほどのイギリスの例などもありましたように、非常に甚大な影響を受けたという評価もあれば、国によってはむしろ増えているという所もあって、相互の因果関係については評価が分かれております。
これについて、欧州委員会は2009年に、指令の見直しの一環として、この指令によってどのような評価・影響があったのかについての準備調査を行っています。それによると、指令によって因果関係をもって研究活動が低迷したことまでは確認できないけれども、この指令が本来目指していた被験者の保護、加えて研究自体の活性化については、それらの想定を超えるような臨床試験のコストや労力が高まっている可能性は否定できないだろうということがあって、その辺りがこの指令自体の改正作業の大きな出発点になっています。
そのほかにも、risk-basedでないため規制が画一的になりすぎているという点や同意の規定などについても、事前に同意を得るやり方しか想定していなかったので、緊急状況における救急医療に関するもの等について混乱が生じたということです。また、この指令は、基本的に各国のやり方を最大限尊重する、各国の法制度の中で対応していくという位置づけのものですので、各国によって用語の解釈や運用に非常に大きな差が生じてしまっていて、そのことについて改めてハーモナイゼーションというか、もう少し統一化をはかるような仕組みが必要であるということが非常に大きな契機になって、今回の規則につながっております。
○田代先生 イギリスについて、少し補足致します。正におっしゃるとおりで、EU指令を文字どおり読めば、それほど厳しいことが書いてあるわけではありません。にもかかわらず、どうしてイギリスであのような混乱が起きたかというと、Imperial College Londonの研究者もおっしゃっていましたが、一つには研究者や施設の過剰反応があったと思われます。つまり、例えば今日本の自主的な臨床研究にモニタリングや監査を導入すると言えば、ほとんどの方が治験でやっているような厳しい手続が入ってくることを想定されるわけです。「モニタリング」や「監査」という言葉が定義されないままに独り歩きをしてしまい、これまでやっていた非常に厳しいものに合わせる形で、例えば日本でいう省令のようなものが求めていないにもかかわらず、萎縮が生じてしまうわけです。それによって、イギリスでは研究者側がかなり過剰反応してしまったということが1つにはあると伺っています。
○磯部参考人 フランスについての評価はどうかということですが、今回は現場で臨床試験をやっている先生と会うことがなかったので、こういう声が強いといったことを今ここで申し上げることはできません。しかし、1988年に被験者保護法を作っていて、1994年にもいろいろ手直しをしたところ、少しうまくない仕組みであるという、もともとそういう状態があったところ、EU指令を受けてファイン・チューニング(Fine tuning)するということで、井上先生がおっしゃったように、これを機会に国内法を今ある制度を前提にどのように変えてハーモナイゼーションしていくかという視点で、積極的に改正に取り組んだという印象で、私は議事録等を見てきております。現場にどのような影響があったかは留保させてください。
○田代先生 3つ目の質問、規制当局と倫理委員会の双方の関与はどのぐらいかということですが、明らかに日本と違うのは、日本では治験の場合は両方関与しますが、まずPMDAが全て見た後に倫理委員会に来る仕組みになっています。フランスもイギリスも同時申請で、それぞれ役割分担をしながら、被験者保護に関する部分と主にプロダクトの安全性に関する部分をそれぞれで見ており、コミュニケーションを密に図りながら進めていくスタイルを取っているので、私が理解している限りではそれぞれ役割が違い、それぞれが尊重されているということだと思います。特に倫理審査委員会に関しては、日本のように施設が見るものではなくて、地域にある公的な倫理審査委員会が見るので、それなりの重みを持って受け取られると理解しています。
○児玉委員 大変充実した内容の御説明をいただきまして、誠にありがとうございます。個別の小さい論点を1つと、少し漠然とした質問を1つさせていただきます。
1つ目は、昨今、現場の研究者から何度も同じ質問をされていることなのですが、少額給付金から委任契約、あるいは委託契約に移行する中で、臨床研究等の、人を対象とする研究の結果の発表の自由が奪われるのではないかということを、現場の研究者の方々は大変懸念をしておられます。私はいつも、ヘルシンキ宣言36項に「否定的結果および結論に達しない結果も肯定的結果と同様に、公刊または他の方法で公表しなければならない」と明示されている以上、ヘルシンキ宣言に正面から抵触するような契約の在り方は少なくとも不適切だという答え方をしているのですが、必ずしも実体はヘルシンキ宣言の規定に沿っていないのではないかという危惧があります。それについてどのように考えたらいいか、国際比較の中でお答えいただきたいというのが1点です。
これに関連して、少し漠とした質問ではありますが、様々なルール、ガイドライン、指令等が錯綜する中で、ヘルシンキ宣言と今回言及していただいているEU指令、また、例えばICH-GCP、適応関係にねじれやずれがいろいろとあるのではないか、どのように整理したらいいのだろうかということについて御示唆をいただければと思います。
○田代先生 1点目の、発表の自由については、非常に重要な論点だと考えています。前回もこの検討会でもお話があったと思いますが、今回の調査の中で日本でも必要ではないかと思ったのもこの点です。例えばイギリスで倫理委員会に利益相反に関する情報として挙げさせる項目の中には、データへのアクセス権や発表の自由がきちんと担保されているかを、そもそも研究計画段階でしっかり把握するための項目が入っています。これは、研究の結果が社会に還元されることを、始まる段階できちんとチェックしておく仕組みの一つなのだと思います。
もう1点は、現在改正中の臨床指針と疫学指針でも、臨床試験登録のデータベースの中に結果を書くという項目が新しく加えられますし、EUの中でも、今度の新しい規則では結果をEUのデータベースに、しかも一般の方に分かるような表現で書くことと明記されています。これについては、運用上いろいろな問題は出てくるにしても、患者や健康な方に協力していただいて実施した臨床研究の結果を社会にお返しするのは大原則であって、それについてはいろいろな仕組みがあるのでしょうけれども、日本でも是非前向きに進める方向で進めばいいと思っています。この点、世界的な流れは同じではないかと考えます。
もう1つの、ヘルシンキ宣言と各国規制とICH-GCPの関係は非常に難しいのですが、今回、報告書の中でも書いていますが、「GCPを遵守する」というときに念頭に置いているのは「Principles of GCP」であって、Principles of GCPはヘルシンキ宣言の原則とも変わらないであろうと。確かに、細かな規定に下りていくと齟齬が出てくる部分があるのですが、大枠として適正な臨床研究をやる上での大原則としては、つまりPrincipleというレベルで言えば、ヘルシンキ宣言もGCPも各国の規制も同じような方向を向いているのではないかと。もちろん細かい部分は、それぞれの各国の文化や医療制度によって多様なので、そこは各国で判断してもいいのではないかということで動いているのだろうと考えています。
○児玉委員 大変的確なお答えを頂きましてありがとうございます。一言コメントですが、様々な形のレギュレーションが議論される中で、手取り足取り、がんじがらめのRule-basedのレギュレーションから、原理原則は何かを明らかにしていくPrinciple-basedのレギュレーションに、次第に様々なレギュレーションが移行したり、Principle-basedとRule-basedのバランスを考えたりする状況が、昨今、様々な分野で見受けられます。そういうバランスを考えるありようをSmart regulationと呼ぶようになっているように思います。そういう意味では、田代先生がおっしゃったようなことも、レギュレーションを単純な制裁や規制のツールにするのではない、もう少し広い意味での支援やサポートを重視したPrinciple-basedのレギュレーションのありようがあるとお聞きしてよろしいでしょうか。
○田代先生 正にそのとおりだと思います。もう1点付け加えるならば、中身というよりは手続をきちんと決めるということではないかと思います。例えば、この場合では当局が関与するとか倫理委員会が関与することが決まっているだけで、その中で具体的にどういう議論が行われるのかは、そこでの専門家たちの議論に委ねている。ただ、その議論を経ることを法律は求めるという形で、手続を定めるのも1つの在り方としては重要かと感じております。
○遠藤座長 本日、前回参考人として御出席いただいた国立がん研究センターの藤原先生も控えていらっしゃいますので、今、様々な御意見、御質問が各委員から出ましたが、何か補足のコメントがあればお願いしたいと思います。よろしいですか。
それでは、御質問をお願いします。
○山口委員 先ほども少し出てきましたが、倫理委員会について、14ページに、フランスもイギリスも施設ではなく、地域に倫理委員会を置いていると書いてあります。これが少し気になったのですが、以前から地域に置かれていたのか、地域に置かれるようになった経緯と、構成メンバーに何か規定があるのかということと、地域によっては施設にばらつきがあると思いますが、地域の倫理委員会の配分をどのようにされているか、その辺りを教えていただければと思います。
○田代先生 イギリスについてお答えします。恐らくフランスは最初から40と決めており、磯部先生が後で補足されると思いますが、地方自治体に付いているようなものなので、全く性格が違うと思いますが、イギリスやオランダなどは、ここに書いていますように、EU指令が「1加盟国1つの意見」ということを決めらたことに影響されているわけです。つまり、その国の中で1つの倫理委員会を通れば、それはその国のどの施設で実施しても構わないという仕組みを作りなさいと。日本のように何十も倫理委員会を通す必要はなくて、どこかできちんと審査ができれば、それで実施して構わないという仕組みを作る。
そのためには、当然、倫理委員会の質を標準化しなければいけないわけです。どこに出しても同じような結論が得られなければそれが運用できなくなってくるので、何をしたかというと、イギリスもオランダも、ほぼ10年かけて倫理委員会の集約化を意図的に進めてきたまし。例えば、300や400あったものを50や30に減らしていく。その過程で、どこに出しても質の高い審査ができるようにしていこう、ということをしたわけです。具体的には、報告書にも書いていますが、イギリスは非常に手厚い質の確保のための仕組みを持っており、過去に審査されたプロトコールを20の倫理委員会に全て同時に送り、その結果を返してもらい、本当に重大なばらつきが生じていないかどうかを定期的にチェックする、ということまでやっています。そこまでやっていれば、倫理委員会への信頼としても、どこに出しても似たような審査結果で、しっかり見てくれるということが担保できるだろうと。それを前提に、地域の倫理委員会は動いているということになるかと思います。
もう1つ、地域にある理由としては、指令で定められたということだけではなく、それはフランス人に聞いてもイギリス人に聞いても皆さん真顔でおっしゃるのですが、ヘルシンキ宣言には倫理委員会は研究の当事者から独立していることが極めて重要だと書いてある。だから、施設ではなく、施設の外にあったほうがいいというのは当たり前だということを非常に強調されます。ですから、当然、原理原則から言っても倫理委員会としては、地域にあって、なるべく研究施設の利害関係者から独立しているという在り方が望ましいと考えているのだと理解しています。
○磯部参考人 研究者からの独立性という観点から、地域において倫理審査委員会がフランスにも置かれているということはそのとおりです。フランスには40あります。ちなみに、フランスには県が90幾つあります。市町村レベルになると3万何千あるので、40という数字はどこから来るのかと思われるかもしれませんが、県の上に州というものがあります。限定的に権限を行使する自治体ですが、これが22あります。2つか3つぐらいの県が一緒になった大きさだと御理解いただければ、イメージとしてはよいかと思います。法律によって人を保護する委員会、「人保護委員会」と呼んでいますが、そのような行政機関としてRegion、州ごとに置くのが原則です。人が多い所ではもう少し増やします。委員は14名で、医師、生物統計家、看護師、薬剤師等の医療・医学の専門家が7名、それ以外は倫理、法、心理学、ソーシャルワーカー、患者代表等の非専門家が7名という構成になっております。細かい運営方法、委員への研修の在り方といったことについては、各人保護委員会ごとの裁量に委ねられており、したがって、委員会ごとに年間に審査する件数も開きがあることが、昨年の報告書でも書かれております。
○楠岡委員 今のことに関連して。今のお話ですと、1つのEthical commiteeは一活動単位であって、1つの機関でそこで実際に動く委員会が数ユニットある形ではないと。研究の申請の数が増えてくると、キャパシティを超えてしまって、審査の質が落ちてしまわないかが心配なのでお聞きしますが、機関としては1つですが、実際は幾つかのユニットがあって、分担してやっているのか、それとも1機関イコール1ユニットで、数が増えてきてもそれでこなしているのか、その辺りはどのようになっているのでしょうか。
○田代先生 細かいところで、1つのユニットの下に幾つかあるのかどうかまでは聞いていませんが、基本的には、キャパを超えれば比較的近い所の委員会に紹介するとか、そちらに申請することは、イギリスは割当てをやっているので可能なのではないかと思います。フランスも今、中央割当制を導入していますが、各国で申請は1つの窓口になっているわけです。申請したときに、フランスの場合は特にどこに申請するかを選べないような仕組みを導入しているので、中央で割り当てているので、ひょっとしたら、それは日本で言うと東京の人が北海道で受けるような煩雑なことになるかもしれませんが、基本的にはならせるような仕組みにはなっているのではないかと思います。
○遠藤座長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
それでは、磯部参考人、田代先生、井上先生におかれましてはどうもありがとうございました。議題1「ヒアリングについて」は終了し、議題2「論点整理に向けた議論」に移ります。事務局から資料2「臨床研究の在り方に関する論点整理(案)」の説明をお願いします。
○中村補佐 それでは、事務局から御説明をいたします。資料2を御覧ください。これまでの検討会における委員の先生方の御議論ですとか、参考人の先生方からの御説明を踏まえて、事務局のほうで、「臨床研究の在り方に関する論点整理(案)」を作成しました。
1番を御覧ください。「制度の見直しに関する基本的考え方」ということで、現在、臨床研究に関した倫理指針という形で法的な強制力を持たないものがあるわけですが、これと、強制力を持つ法的規制について、先ほど御説明も頂きましたが、諸外国の状況等も踏まえて、最適なバランスの在り方についてどう考えるかという視点があるかと思っています。加えて、学問の自由、研究を行うことに関する自由ということとの関係とか、制度の見直しについて、それが臨床研究全体にどのような影響を与えるかについても併せて考慮するべきではないかと、こういう点が基本的な考え方としてあるのではないかということです。
具体的な見直しに関する事項については2番以下で御説明します。まずは、研究機関等に対して遵守を求めるべき事項と、その対象範囲についてということです。1番の「基本的な考え方」を踏まえて、臨床研究の信頼性を確保するために、まず○1として、被験者の保護、○2として研究の質、これは「データの信頼性」と言い換えていますが、これを確保するために、まず、以下に掲げている例示する留意点を考慮しながら、制度の実効性を担保すべき事項や、その対象とするべき臨床研究の範囲について議論を進めることとしてはどうかと記載しました。
留意点の例として以下に記載しています。○1として、被験者の保護について。まずは、被験者保護に関する事項について、遵守を求めるべき臨床研究の範囲の考え方としてどのようなものがあるかという点です。例えばということで、括弧内ですが、介入・侵襲性があるかどうか、通常の診療の範囲を超えるものであるかどうか、また、未承認医薬品などの使用の有無ですとか、適応外使用の有無についてどう考えるかという点。加えて、例えば被験者数など、臨床研究の規模について1つのメルクマールとしてはどうかということを例示しました。
次の点として、被験者保護のうち、安全性の確保の観点からどのような事項について遵守を求めることが考えられるかという点です。これも例示として、例えば、研究を開始する前に研究計画の届出を受けることや、また、有害事象の報告をしていただくこと、又は、不適切な臨床研究があった場合に、それに対する改善命令をするとか、そういった様々な事項が考えられるのではないかということです。
3点目です。被験者保護の観点から、安全性の確保以外の事項について重要であると考えられるもの、例えば個人情報の保護ですとか、インフォームド・コンセントがきちんと行われているかどうか、又は、製薬会社との利益相反などに関して、被験者の方に情報提供をきちんと行うこと、このような点について、対象とする臨床研究の範囲をどういうものとする必要があるかという点です。
4点目です。先程来、いろいろな御議論も頂いていますが、倫理審査委員会について、その役割と位置付けについてどう考えるかということです。加えて、倫理審査委員会の審査について、どのような研究を対象に、どのような事項について求めることが適当かという点。それから、臨床研究を行う研究機関における研修や教育について、どのような対象範囲について実施を求めるべきかという点が考えられるかと思います。
次のページの○2です。研究の質、データの信頼性の確保に関する論点です。まずは、データの信頼性を確保するという観点から、モニタリングや監査、又は記録の保存などを求める臨床研究の範囲をどのように考えるべきかという点です。これも、様々な切り口があるかと思います。例えば、先ほど言いましたとおり、介入・侵襲があるかどうか、通常の診療の範囲を超えるかどうか、未承認医薬品等を使っているかどうか、又は適応外使用をやっているかどうか、規模などが考えられるか、ということで例示をしました。また、このような検討に当たっては、臨床研究の成果が最終的に患者に対してどのような影響を与えるかといった観点、研究機関において、そのための体制を整備するために様々な負担があるということは御指摘頂いていますが、その点をどのように考慮するべきかという点があります。例えば、対象とする研究の範囲をどのように考えるかという点と、又は実施をするための猶予期間というものを設定する、というような様々なことが考えられるのではないかという点です。
3として、今度は、製薬企業等における透明性確保に関する対応ということで挙げました。まずは、製薬企業の関与を適正化するためにどのような方策が考えられるかという点です。その際には、臨床研究全体に対して萎縮をさせないようにということも考えられるかと思われますし、また、制度の実効性を担保するためにどのような方策が考えられるかということかと思いますが、これについては、現在、製薬企業の団体のほうで自主的にガイドラインを定めていまして、研究機関に対する資金提供の内容について情報公開を行っていますが、そういう事項も含めて、どのように考えるかという視点が考えられるかと思います。事務局からは以上です。
○遠藤座長 ありがとうございます。前回と今回でヒアリングを行ったわけですが、そこでの御議論を踏まえてこのような論点整理案が出ていますので、皆様方のお考えをフリーディスカッションという形で結構ですので、是非頂きたいと思います。個別の内容についての御発言でも結構ですし、あるいは、全体の論点整理の枠組みについての御意見でも結構です。よろしくお願いします。
○児玉委員 大変詳細かつ的確な論点整理を頂きまして、ありがとうございます。細かい各論に入る前に、やはり前提として、今、議論をしている臨床研究の在り方というのは、国際的な標準も視野に入れてということが前提になっているだろうと思いますので、2つ資料提供をお願いしたいと思っています。1つ目は、議論の土台として、人を対象とする臨床研究ですので、ヘルシンキ宣言の関連条文を議論の共通の土台にしていくべきではないかと思います。
2点目は、それが全てであってはならないし、そのようなことは考えていないにせよ、今、各論を考えていく上で、ICH-GCPの関連の規定を踏まえながら、それをどこまで適用するかしないか、どこまで強めるか、緩めるか、どのような手続を整備していくかなど、そういうことを前提とした論点整理の軸もあってはよいのではないかと思いました。以上です。
○遠藤座長 事務局には、それに関連する資料提供の御要望というふうに解してよろしいですか。
○児玉委員 はい。
○遠藤座長 では、事務局としてはよろしくお願いします。
○楠岡委員 先ほども、児玉委員からヘルシンキ宣言とGCPの関係という話がありましたし、今の御意見も正にその例だと思うのです。私自身の理解としては、医学的研究に関する被験者保護の基本的な考え方は、やはりヘルシンキ宣言が一番練られていると言いますか、いろいろな観点から今まで何十年もかけて、しかも、その時期、その時期の問題点、それから医療の状況、医学の状況を踏まえて改正を加えてきていますので、ヘルシンキ宣言が一番の根本的な所にあるのではないかと思います。ただ、ヘルシンキ宣言は、非常に精神的なことと言うか、守るべきことの概念的なことが書かれていて、それを具体的にどう実現するかということに関しては余り書かれていないわけです。もともとICH-GCPが出来たときには、ICH-GCPの冒頭に、「これはヘルシンキ宣言のSOPである」と書いてあって、要は、ヘルシンキ宣言を実現化するための具体的なもので、特に薬に関しての手順を書いたものがICH-GCPという考え方で作られた。ただ、今のICH-GCPがもう作られて15年以上たっていて、その当時のヘルシンキ宣言は反映しているが、その後にヘルシンキ宣言に追加されたいくつかの項目が、今のICH-GCPには的確には反映されていないという部分はあるかと思います。それはどちらかと言うと、記録の保存とか、結果の公表とかというところであって、それは、今、正に問題になっているところかと思います。
ですから、ここで今、「被験者の保護」と「研究の質」という2つの論点が出ていますが、被験者の保護というのは、もう既にヘルシンキ宣言がベースにあって、具体化する中に、ヘルシンキ宣言では、科学性の担保、倫理性の担保、信頼性の担保を求めているわけで、それをSOP化するような形、手順化するような形でGCP的なものを作っていくことになるのではないかと思います。
もう1つは、GCPと言うと、日本の場合は省令GCPがすぐ頭に浮かんでくるのですが、省令GCPは、ICH-GCPレベルの非常に漠として書かれている所と、それから、本来はもっと細則レベルでいい非常に細かい手続まで書かれているという、2種類のものが混在しているので、それが逆に言うと、省令GCPにとても悪いイメージと言うといけないですが、面倒臭いイメージを与えている。それから、省令GCPの変遷の中で、かなり紆余曲折したところがあって、それがとても混乱を与えているところもあります。そういうところを全部削ぎ落とすと、結果的にはICH-GCPのような形になってきて、もし法制化するとしたら、今までの御議論の中でも余り細かいことをそこで決めるのではなくて、ある程度そこで決めておいて、詳細なところは、先ほどの田代先生からもおっしゃられた、関係者の中である程度ディスカッションをして決めていくとか、あるいは、もう少し強制力を持たすのであれば、日本の場合ですと通知とか、そういうような形になってくるので、そういう立て方も1つあり得るのではないかと考えます。
○武藤(徹)委員 各論に入る前に、少し総論的なことを申し上げたいのです。この委員会が立ち上がったのも、そもそもディオバン事件が発端であって、そういう不正事件がなくなるようにということで、全体を見直そうということがスタートだったと思うのです。
しかし、今、これで3回目になりますが、非常に細かい所までいろいろ規制を掛けようと、どちらかと言うと規制を厳しくしようということになってきています。そうしたからといって、私はこの不正というのは決してなくならないと思います。起こっている事件、あるいは事態は非常に単純であって、会社からそういう意図をもって販売促進をしようという意図があって、そして受ける側があるので、それがうまく合ってしまってこういうことが起こっている。ディオバンだけではなくて、たくさん出てきましたね。我が母校の東大まで出てきて、ブルータス、お前もか、という気持ちになりますが、京大も出てきています。それから、別の情報では、更にほかでもあるようなことが書かれています。結局、今回のような製薬会社と当事者との問題は全く単純な理由で起こっていることであって、それは規制とは関係がないと私は思うのです。
ただ、この際、治験から市販後臨床試験まで、それ全般に渡ってきちんと規制を見直そうと、それは結構なことだと思いますし、レベルが全然違うので、全部一様に治験と同じようにするというのは、臨床研究活動を妨げますので、それは必ずしも賢いやり方ではない。それについては、今日、非常にいい報告があって、宮川先生のEUの失敗例ですね。それから、イギリス、フランスの例、アメリカの例もありますが、そういう前例がありますから、やはりそれを賢く取り入れて日本に合ったことにするということ、それが必要だと思います。
そして、改革はなるべく簡単にしていただきたい。現場の人は、細かくなればなるほど嫌気がさして臨床試験が減ります。それは一番マイナス効果ですから、改革したことによって実際の活動が減ってしまうことは、正に何をやったか分からなくなります。そこを考えた上でやっていただきたいと思います。
不正事件を減らすためにはどうするかということは、やはり私が最初から言ったように罰則しかないわけで、イギリスは医師免許の剥奪までいっています。私はそこまでは考えていなかったのですが、やはりそこをしっかり押さえておくことが非常に重要ではないかと思います。そこをはっきり分けて考えていただきたいということです。
○近藤委員 私も少し総論的な所から話させていただきます。私は医者の立場で、このPMDAに来て、薬事とは一体何かというところで一番明確に感じたことは、有効性と品質と安全性を確保することが大事だと。しかも確認ということです。本当にそのとおりなのかという確認が大事である。一般的に、臨床研究と言いますと、皆さん御存じのとおり有効性で勝負してくるわけですが、最後のところは、多くの人に使っていただくわけですから、その3つのことが重要なわけです。ただ、それだけそろえていても駄目で、本当にそのようにデータがきちんと整っているかどうか確認をするわけです、信頼性確認がものすごく重要になってくる。これが一番大きな違いであるということをとても感じました。
つまり、なぜそのようなことをするかというと、そのお薬が社会に出て大勢の人に使われたときに、本当に大丈夫かどうか。要するに、国民や社会に対する保証をする役目をするわけです。したがって、臨床研究と薬事の治験との大きな違いはそこにあるわけであって、では、一体、これから臨床研究をどういうふうに、今までどおりやっていっていいのかどうかとなったときに、最終的に、先ほど言ったように、信頼性確認がないところでそのまま使って国民や社会に対してそのまま適用することは、やはり、少なくても先進国的に見ればこれは筋の通らない話。しかも、今回のように、その最後の所でかなり改ざんされたということもあれば、今後は、そういうパブリックヘルスの概念から言ってこういう形での研究は成り立たないだろうと思うのです。
しかしながら、我が国は、今、イノベーション、イノベーションと言っている。多くの研究はどんどん活性化していかなければならない。一方において、クオリティを高めていかなければならない、クオリティを高めたいという動きと、活性化してどんどんみんなに研究していただきたいという研究は、一見両端にあるように見えますが、そこら辺両方を満足させるものは何かと言うと、やはりパブリックヘルスに関係する所は、先ほども皆さん方がおっしゃっているように、ICH-GCPで信頼性確認をしっかりやらないといけないと。ところが、individual healthですね、一人の医師が数人の患者さんに対してある治療をして効果を確かめる、これは、お互いの納得した形でのコンプライアンスで済むわけですから、そこまでICH-GCP適用というのは少し変だと思うわけです。しかし、数人の医師が多くの患者さんに対し、薬や医療機器の治療効果を調べるということになると、その結果はパブリックヘルスの範疇になる。そういうことになるとどこに線を引くかということを前提に置きながら、やはり厳しくやるところは厳しくやらないといけないし、薬事と同じぐらいやらないといけないだろうと思います。活性化でいろいろなアイデアを現場の中から拾い上げるためには、臨床研究は、やはりそのままsupportiveにやってあげたほうがいいのかなと思うところです。
ただ、臨床研究に対する倫理委員会の在り方というのは考え直さなければいけない。私も5年間関わっていましたから。臨床研究のデザインそのものまでは評価できないのです、今の体制で。いろいろなタイプの研究があって、同時に病院の中に出てくるわけです。それをどこら辺まで、もう少しこういうふうな研究をしたほうがいい、こういうケースはやってはいけないとか、そこまで言えないです、それだけ知識がないですから。ですから、先ほどイギリスやフランスや多くの所で提示されたように、倫理委員会というのはやはり中央的なところがあって、ある程度指針を出せるような仕組みがないといけないと思います。患者さんに対する言葉が丁寧ではないとか、そのような指摘も大事なのですが、そういうところだけで終わってしまう倫理委員会では駄目だろうと。研究デザインまできちんとある程度見てあげるような倫理委員会にしていかないと、やはりこれはいつまでたっても余り立派な臨床研究は出てこないのではないか。そこら辺を少し思いながら、先ほど皆様方のいいお話を聞いてまとめたところです。どうもありがとうございます。
○桐野座長代理 申し訳ありません、中座しなければいけないので、考えを少し述べさせていただきます。今、疫学研究と臨床研究の倫理指針の検討が同時に進行していると思いますが、そちらのほうでも、現在の臨床研究のいろいろな危機的な問題に対して、例えば、モニタリング、監査、資料の保存の問題だとか、利益相反というような文言が検討されているように思います。したがって、一般の臨床研究についても、いろいろなことが要求されるのが時代の趨勢であるし、ここで検討されている臨床研究というのは、さらに、例えば、薬の適用拡大だとか、侵襲性の強い臨床試験の問題などを含んでいますので、単に疫学研究と臨床研究の倫理指針の改定だけで済む問題ではないように思います。その辺は、ここに書いてあるように、今、近藤先生が言われたように、データの国際的な信頼性を高めるような方向で御検討いただければ有り難いと思います。
○山口委員 ヒアリングなどを振り返って、少し感じていることをお伝えしたいと思います。今日の論点整理の中にも、企業の透明性ということが出てきますが、企業の透明性ということはもちろんですが、やはり、研究機関である大学がしっかりしていれば防ぐことができた部分が大きいのではないかということを非常に感じています。例えば、労務提供1つを取っても、どこまでをしてもらうのかを研究機関側がしっかりと線引きできていれば防げた部分もあると思います。あるいは、生物統計家の話も出てきていますが、自施設で統計ができる体制を今後は整えていかないといけないのではないかとも感じます。さらに、私たち電話相談を受けている立場からすると、臨床研究、治験もそうですが、いまだに被験者保護で言うと、インフォームド・コンセントが不十分な医療機関があって、まだこのような現状なのかと耳を疑うような話がが数多く聞こえてきます。ですので、やはり、被験者保護のインフォームド・コンセントのところに、もう少し現場がしっかりとインフォームド・コンセントを取っていけるような在り方はどうすればいいのかを考える必要があるのかなということも感じました。
今日、ヒアリングをお聞きして、国際的に認められるような研究体制を整えていかなければいけなくなってきているのではないかと。ただ、ICH-GCPを考えたときでも、ガチガチになってしまうと研究ができないと考える方が多いのであれば、先ほども出ていたように、リスク別に柔軟性をもった対応をすることを前面に打ち出しながら、国際基準にしっかり見合うような在り方を作らないといけないのではないかということがまず1つです。
それから、先程来出ています倫理委員のことです。先ほど、高久参考人が、外部の方はほとんど意見を言わないからとおっしゃったことが非常に象徴的かなと思いました。私も、ある倫理委員会に出ていますが、どちらかと言うと外部の人のほうが意見を言う倫理委員会ですが、それでもやはり、法律家として来られている非専門家の方々が、どうしても専門的なことが分からないということで意見を言うことが少なくなっているような気もします。先ほど、患者に分かりやすい文言だけではなく、きちんと審査できるような倫理委員の在り方が必要だと言われたのですが、地域で倫理委員会というようなお話もお聞きして、外部を入れるということはとても必要なことなわけですから、外部の人が入ったとしても一定の質を保てるような倫理委員会にするにはどうすればいいのか。例えば、私は患者の立場ですが、患者の立場ということを逸脱しないような視点をしっかり持った上で、倫理委員としてしっかり役割を果たせていけるようにするには、今後、一般の人が委員を務められるような養成ということもそろそろ考えていかないといけないのではないかと。
そうしないと、医療のことを全く分からないのに、まして、臨床研究という難しいことについてとても意見を言えないけれど、座っていれば人数に入るからということになってしまっている現状を、私はそろそろ変えていかないといけないのではないかと思っています。例えば、一般の人が委員に入ることについて、単に構成要件ではなくて、開催の要件にするというような指針の見直しが今されていると聞いていますが、一般の立場と言っても、元医療者で定年後という方も結構入っておられるのです。その理由を聞くと、そういう方に入ってもらわないと、とてもではないけれど一般の人の構成メンバーが確保できないという声も聞こえてきます。だとすれば、先ほども言ったような、養成するということ、ある程度理解して意見を言えるぐらいのところまで出来るような人の養成ということも、真剣に考えていかないといけなくなってきているのではないかと思いましたので、一言申し上げたいと思いました。
○武藤(香)委員 今、山口委員が言われたことも重ねて、2点ほどお伝えしたいのです。今言われた御発言に近いことを少し別な言葉で申し上げたいのです。今回、発端の事件が事件だったということもありまして、被験者の方々がより置き去りにされているという印象があります。それで、今回、「被験者保護」という言葉で論点をくくっていますが、受動的な保護の対象という方々ではなくて、この方々が主体として、きちんと決められたプロトコールに沿って協力して、理念を共有していただかないと臨床研究が成り立ちませんので、やはり、主役としての患者、主役としての被験者の方ということを、きちんと皆さんで共有できるようなことがどこかでうたえないかということを思っています。
その観点から、では具体的に何かと言いますと、もちろん、保護されるとか、保証されるとか、説明を受けて参加することは当然のことなのですが、それ以外に、例えば、研究デザインを考えるときにきちんと患者の意見が入る。あるいは、それに対する、今御指摘があったような、審査の場できちんと審査をするというトレーニングを受けた上でそこにいる。あるいは、研究が終了した後に、自分がプラセボだったのか何だったのかきちんと教えてもらう権利を持つとか、いろいろな形で、もう少し主体的に関与していただくことを考えてもよいのではないかと思います。今の件は、ヘルシンキ宣言の中には入っていませんが、アメリカやイギリスの国のいろいろな指針の中には既に盛り込まれている、パートナーシップという考え方で入っていることですので、それは、日本でもこれを機会に共有すべきではないかと思います。これが1点目です。
2点目は、今日先生方のお話をお聞きしながら、やはり、リスクに応じた体制というのを考えていかなければならないのではないかということと、リスクだけではなく、もう1つ、宮川参考人の話にもありましたが、希少であるとか、難病であるとか、どうしても治療的意味合いをもってしまう研究的なものというか、そこに対する配慮もやはり必要ではないかと思っています。ちょっと具体的にどうしたらいいかというのはこれから勉強させていただきたいと思います。以上です。
○近藤委員 少し付け加えさせていただきます。山口委員からの、企業との関わり合いということはあるだろうと思うのです。今、世を挙げて、産官学が力を合わせてやろうという時代です。こういうときに、産と学が寄り添ってはいけないとかいうことだとなかなかうまくいかないだろうと思います。やはり、力を合わせなければならないだろうと思います。かつて、大学紛争の頃はこの点では大変厳しい話だったわけですが、今はそのようなことでは社会全体が活性化していかない。日本が立ち遅れていくだろう。そこで、産官学が組んだときに、どういう組み方をするかです。そこで拠って立つべき所はやはりtransparencyそのものなのです。そうすれば全然問題はない。官もそうだと思います。ですから、我々は今、薬事戦略相談というのを始めたわけです。これは、ある意味では利益相反なのです。これはtransparencyというのが、バックグラウンドにあり、製品化の手助けをしているところです。
○山口委員 決して産学が組んでいけないということを私は申し上げているつもりではなくて、やはり、前回か前々回に申し上げたと思うのですが、慣習になってしまっていて、本当はそこまでやってはいけないというところが曖昧になっていたことで、今回の問題が生じたのだと思います、多分、今出てきている問題というのはほとんど10年ぐらい前に行われていた臨床研究だと思うのですが、やはりそこが、今になって露呈してきたことを考えると、どこがよくなかったのか、産学が組んでいくためにはどういう関係性が必要なのかということを明確にしないといけないのではないかという思いで申し上げましたので、組んではいけないとは思っておりません。
○望月委員 近藤先生が言われた透明さというのは非常にいいと思うのです。やはり、先ほども意見が出ましたが、規制はそれをくぐる方向に行く恐れがありますので、規制を強めるよりも、研究グループがどういう態勢でできているのか、どういうメンバーがいるのか、それを常に公開してしまうこと。研究途中で何が起こっているか、結果はどうかということも全て公開することによって、これまで出た問題を防げるかと思うのです。
今日、おおいに参考になりましたのは、三浦先生の所で、研究支援センターというのが非常にうまくいっているというお話を聞きました。やはり、これをもっともっと国なり他の協力で拡大していくようなことを望みます。ここのグループだけではそれは無理なのですが、国の力、PMDAの力で方向性を出していくことが必要だと思います。それから、人材にしても、例えばPMDAの中に人材バンクを作る。企業なり大学なりを辞めておられるような方で生物統計や医療統計に詳しい人、または、研究倫理に明るい人がいらっしゃると思うのです。そういう人材をPMDAで集めて、人材バンクというような形で必要な人材を研究グループに入れていく、または大学に派遣して教育のスタッフとする。少し先が長いのですが、とりあえずそういう考えで、次世代の人材が育つまでのつなぎをしていただけるとよいと思います。そのような工夫で、規制するよりも、より良い臨床研究ができるような気がするのです。以上です。
○遠藤座長 ありがとうございます。ほかに何かございますか。
○楠岡委員 もう1つ。今回の問題を複雑化させているのは、広い意味での被験者保護の問題と研究不正の問題が絡まってしまっているところがあるからかと思います。それで、外国での例ということで、前回のときの曽根先生の発表では、研究公正局、Office of Research Integrityを置くべきであるという御意見だったのに対して、私が質問をしたわけです。アメリカの場合は被験者保護の立場から、要するに、臨床研究のプロセスが正しく行われているかどうかをチェックするために、Office for Human Research Protection、被験者保護局という部局があって、そこはどちらかと言うと、プロトコールどおりにきちんとやっているか、被験者がきちんと守られているかどうかを見ていく局です。それに対して、今話題になっているOffice of Research Integrity、研究公正局というのは、改ざんとか捏造とかそういうことがないかどうかを見るという全くレベルの違う問題です。
要するに、プロセスどおりにやっているかどうかと、プロセス以前の問題というところが明確に分けられて考えられていて、それぞれ別々の法律があり機関があるような形になっています。今回の問題も、確かにプロセスの問題もありますが、不正の問題も重なっているので、そこは少し切り分けていかないと。それをごっちゃにしてしまって何か解決方法を考えようとすると、非常に複雑化してと言うか、かえって間違った方向に行ってしまうのではないかというのを少し感じるところです。その辺に関して、今後制度として作る場合、どういうような形で切り分けていくかも考えておかなければいけないのではないかと思います。
○山本委員 今の研究不正との関係で言いますと、研究不正の問題というのは、これは分野を問わず正にいろいろな研究の分野で起こり得る話で、ですから、そういうことまで含めて、恐らく対策を打っていかなくてはいけないということだと思います。したがって、この場で製薬関係のことに関して、研究不正に対してどのように対処するかということを提言することは非常に重要だと思いますが、それ以上のところまでなかなか踏み込むのは難しいのではないかと思います。ここで今日頂いた資料2で、「研究の質の確保について」とありますが、これも飽くまで、結局その薬を使うことになる患者を守るためにというのが基本だと思うので、恐らく研究一般というよりは、そのような限定された意味でのその研究であり、その研究の質の確保というように理解をすべきではないかと思います。
○遠藤座長 ありがとうございます。フリーディスカッションですので、何でも結構ですが、ほかにございますか。本日は、本日及び前回の参考人の先生方からの様々な示唆的なお話を伺いまして、我々としては本当に参考になったということです。論点整理案が出されていますが、これについて総論的な視点、本質的な所です。さらには各論についても具体的な内容の御提案もあったりして、まだ今の段階では、いろいろなアプローチ、いろいろな視点からの御議論があるというのはむしろ歓迎すべきだろうと思っていますので、今後ますますこの辺りを深めていきながら進めていければと思います。事務局におかれては、ただいまの議論等々も少し整理をしていただいて、今後の議論につながるようなものを作っていただければと思っています。
それでは、大体議論も一通り出尽くしたかと思いますので、この議論はこれにて終了させていただきたいと思います。議題3「その他」がありますが、これについて何か事務局からありますか。
○中村補佐 いえ、事務局からは特にございません。
○遠藤座長 全体的なことで、委員の先生方で何か一言という方がいらっしゃればお受けしたいと思いますが。よろしいですか。
それでは、本日は長時間にわたりまして、どうもありがとうございました。また、参考人の先生方には本当にありがとうございました。改めてお礼を申し上げたいと思います。
それでは、今後の予定について事務局から何かございますか。
○一瀬課長 次回は7月23日、水曜日、14~17時に開催を予定しております。第4回の検討会においても、引き続きの有識者からのヒアリングを行うとともに、先ほど座長からも御指示がありましたとおり、本日までの議論を踏まえた個別の論点整理についても併せてお示ししたいと考えております。場所等詳細については、事務局からまた改めて御連絡させていただきます。なお、本日の議事録については、作成次第、委員の皆様に御確認をお願いいたします。その後公開いたしますので、併せてよろしくお願いいたします。事務局からは以上です。
○遠藤座長 ありがとうございます。それでは、これにて本日は終了したいと思います。どうも皆様ありがとうございました。
<問い合わせ先>
医政局研究開発振興課 担当:高江、南川
電話:03-5253-1111(内線2542、2687)
ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 医政局が実施する検討会等> 臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会> 第3回 臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会 議事録(2014年6月25日)