ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会)> 第11回中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会議事録(2013年6月26日)




2013年6月26日 第11回中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会議事録

○日時

平成25年6月26日(水)10:54~12:17


○場所

厚生労働省専用第15・16会議室(12階)


○出席者

関原健夫部会長 印南一路部会長代理 西村万里子委員 森田朗委員
矢内邦夫委員 白川修二委員 花井十伍委員
石山惠司委員 田中伸一委員 伊藤文郎委員
鈴木邦彦委員 安達秀樹委員 嘉山孝正委員
万代恭嗣委員 堀憲郎委員 三浦洋嗣委員
土屋裕専門委員 田村誠専門委員  
池田俊也参考人 福田敬参考人 田倉智之参考人
<事務局>
木倉保険局長 宇都宮医療課長 井上医療課企画官
竹林保険医療企画調査室長 近澤薬剤管理官 田口歯科医療管理官 他

○議題

○ 評価の具体例について(医療機器の場合)

○議事

○関原部会長

 皆さんおそろいでございますので、ただいまより第11回「中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会」を始めたいと思います。

 まず委員の出席状況ですが、きょうは加茂谷専門委員、昌子専門委員が御欠席です。

 議事に入ります。

 それでは「評価の具体例について(医療機器の場合)」を議題にしたいと思います。

 最初にこれまで議論してまいりました、評価の具体的な運用方法について、事務局にまとめていただきましたので、簡単に御説明をいただいた上で、池田先生のお話に移ることにしたいと思います。

 それでは、事務局、よろしくお願いします。

○井上医療課企画官

 医療課企画官でございます。

 中医協費-1の資料は、きょうの具体的な事例の前に、これまでの具体的な評価の運用手法についての概要を4ページほどの紙で、ざっと取りまとめたものでございます。

 もともとは、平成24年6月27日の本部会の第2回目におきまして、当面の検討事項とされた具体的な評価の運用手法について、検討を行ってまいりました。その検討の概要をまとめたものでございます。

 これは既に議論したことを整理したものでございますので、この場で改めて繰り返しはしませんが、きょうの池田参考人からの具体的な事例の説明を受けた後、議論するに当たって、随時、振り返っていただくための資料という形でおつけしたものでございます。

 以上でございます。

○関原部会長

 どうもありがとうございました。

 それでは、池田先生から、資料に基づきまして、御説明をお願いいたします。

○池田参考人

 参考人の池田でございます。

 本日は、私のほうから、評価の具体例について、海外における医療機器の評価の概要について、説明をさせていただきます。

 参考人提出資料○1に従って、説明をさせていただきます。

 本日取り上げます具体例でございますが、オーストラリアのMSACという組織で行われました評価でございます。

 技術の名前ですが、本日取り上げますのは、両心室ペースメーカーという医療機器を使った技術でございます。

 この技術の対象となります患者は、既に薬物療法を受けている重症の心不全の患者でございます。先生方は御承知のように、心不全という病気は、心臓の収縮の力が低下しまして、血流の拍出が不十分となった病態でございます。

 心不全に関しましては、重症度の分類として、臨床的によく使われているものがございます。下に書いてございますが、New York Heart Association、略してNYHAの分類でございまして、NYHA(ニーハ)分類とか、NYHA(ナイハ)分類と言いますが、私はいつもNYHA(ニーハ)と言っておりますので、本日はNYHA(ニーハ)分類と読ませていただきます。

NYHA分類は、1度、2度、3度、4度とございまして、1度が最も経度、4度が最も重症でございますが、この技術に関しましては、この分類の中の重傷な3度及び4度の患者が適用になります。

 相対的な効果、あるいは費用対効果の評価を行うに当たっての比較対照といたしましては、この技術を適用せず、薬物療法のみを行う患者を比較対照としております。

 おめくりをいただきまして、両心室ペースメーカーという技術につきまして、簡単に説明をさせていただきます。

 重度の心不全におきましては、血液を送り出す右心室と左心室ですが、両方の心室の収縮のタイミングがずれて、血液を送り出すポンプ機能の効率が悪化する状況になります。そのために心臓の負荷が高まり、さらに心不全が悪化することになります。

 そこで、治療法の1つといたしまして、右側の心室、右心室、左側の心室、左心室を同時に電気刺激して、収縮させるペースメーカーを埋め込むことによりまして、心臓のポンプ機能を改善させ、心臓の負荷を軽減させることによりまして、心不全自体の症状も改善させることができるということがございます。

 この治療法ですが、両方の心室、左心室、右心室のペースメーカーによって、収縮のタイミングのずれを再同期させるということでございますので、この治療法のことを、心臓再同期療法、CRTと呼ぶことがございます。本日は、この後、この技術のことをCRTと呼ばせていただきます。

 それでは、実際に行われました評価の概要を御紹介いたします。

 「1.比較対照の選定」でございますが、4と書いてあるスライドをごらんください。

 重症心不全に対しまして、分析が行われた当時、よく行われていました治療法としては、薬物療法でございますが、薬物療法、CRT以外にも幾つかの治療法は存在します。しかしながら、少なくともオーストラリアでは、例えば心臓移植とか、補助人工心臓とか、外科的治療に関しましては、ドナー不足の問題、あるいは承認がないなどの理由で、比較対照としては不適切とされまして、今回、薬物療法のみを行う患者と、薬物療法に加えてCRTを実施した患者、両者の比較ということで分析が行われております。

 なお、類似の医療技術といたしまして、右心室あるいは単心室ペースメーカーという技術もございますが、こちらは不整脈の治療に用いられるものでございまして、機器や技術としては似ておりますが、対象となる患者が異なっておりますので、今回、比較対照としては選定されておりません。

 スライドの5でございますが、MSACが行いました評価の中では、効果に関する情報の収集が行われております。効果のデータ源、データソースを選定するということで、システマティックレビューが実施されております。

 システマティックレビューは、複数の医学文献データベースを用いまして、あらかじめ決められたキーワード、この場合には病気の名前と治療法が入っておりますが、これを検索対象といたしまして、文献を収集し、その中の抄録を見て、その中から該当されるものを、こちらのフローチャートに示しました手順で選定をしたということでございます。

 効果のデータ、すなわち有効性のエビデンス及び安全性のエビデンスが記載されたものを網羅的に収集しまして、最終的にシステマティックレビューの対象となりました文献は、101件でございました。

 スライド番号6をごらんいただきたいと思います。

 システマティックレビューで得られました当該医療技術の安全性に関するデータでございますが、複数のランダム化比較試験、研究デザインの上では、最もエビデンスレベルが高いと考えられる手法でございますが、複数のランダム化比較試験の結果を見ますと、当該治療に伴う死亡率は、低いデータで0.2%、高いデータでも0.8%という結果でございました。なお、治療後の死亡は、多くのは基礎疾患等の背景によるものと書かれております。

 一方、死亡以外の治療に伴う合併症の発症率でございますが、埋め込みを行う時点で起こり得る重篤なものとしては、重篤な冠静脈穿孔が考えられますが、これは文献により1~2%。

 また、埋め込み後に何らかの合併症が発症する発症率は7%程度ということでございますが、その合併症の多くは、埋め込みました電線、リード線が本来の場所から移動してしまったというものでございます。

 これらの結果を総合いたしまして、MSACのレポートの中では、当該技術の安全性は、他の治療法、すなわち心不全に対する他の治療法、あるいは心不全以外の一般的な治療法に照らし合わせまして、許容できるレベルにあると結論づけております。

 スライド番号の7でございますが、次に効果のデータの中で、有効性に関するデータのシステマティックレビューの結果が示されております。

 心不全の病態の悪化等による死亡率でございますが、研究デザインとしてエビデンスレベルが高いとされております、ランダム化比較試験、全世界で行われたものの4件の結果を統合したものが、グラフで示されております。

 これはメタアナリシス、メタ分析とか、メタ解析という手法でございまして、複数の臨床試験等の結果を統計的に統合する手法でございます。4つの臨床試験の結果を統合いたしましたところ、6カ月から12カ月の間に観察される死亡率でございますが、薬物療法単独群に比べまして、薬物療法に当該技術であるCRTを実施した患者群のほうが、死亡率が統計的に有意に低いという結果でございます。大変細かくて恐縮でございますが、0.79というのが死亡のリスク比でございまして、これが統計的に有意、すなわち信頼区間が1をまたがないということで、死亡率が下がることが確認されております。

 また、長期の死亡でございますが、これらの臨床試験の観察期間は、十数カ月あるいは二十数カ月のものでございますが、その中で一番観察期間が長い臨床試験が、CAREHFという試験でございます。CAREHFの臨床試験のデータを参考にいたしますと、この試験での患者の観察期間の平均は、29.4カ月、2年半程度でございますが、その間での死亡も薬物療法単独群に比べまして、CRT実施群のほうが、有意に減少することが示されております。

 ここでは、ハザード比という、ある一時点における死亡確率のようなものを計算しているわけですが、こちらも0.64、1より小さく、95%信頼区間も1をまたがないということで、統計的に有意に死亡率が減少するという結果が示されております。

 次に両治療群におけますQOLのデータでございますが、これは複数の臨床試験の結果から、心不全の重症度、先ほどのNYHA分類で見たときの重症な患者さんが軽症化するということで、改善効果が観察されております。

 また、客観的な重症度の指標でありますNYHA分類だけではなく、いわゆるQOLの値に置きかえたものに関しましても、改善が見られているということでございます。

 8枚目でございますけれども、費用対効果の評価を行うときには、非常に短い期間での費用と効果を見るということでは、その技術の真の価値は明らかにならないわけでございまして、長期的な予後予測、さらにはそれに対応した費用対効果の推計が一般的に行われるわけでございます。特に当該技術のように、当初、埋め込み時には、一定の費用がかかるけれども、長期的な生存あるいはQOLを改善させるような技術でございますと、ますます長期的な費用対効果を推計することが重要になってまいります。

 そこで、今回のオーストラリアの分析では、どのような方法をとっているかということでございますが、一般的に臨床試験は、例えば一番長いもので、2年数カ月という期間でのデータとなっておりますので、今回は埋め込みから2年後の生存率、ないしは死亡率のデータを参考に、これと同じだけの死亡率が、生涯にわたっても、そのまま当てはまるという仮定のもとに、長期的な予後の予測を行っております。

 恐縮でございますが、右側に小さい表がございます。CRTプラス薬物療養群では、2年後の死亡率が18.0%でございます。一方、薬物療法単独群では、死亡率が25.1%でございます。

 左側のグラフのちょうど下の横軸が、治療から何年経ったかという時間になってございますが、ちょうど2のところの目盛、CRT、ペースメーカー療法を行ったところは0.820という点を通っておりまして、これは先ほどの死亡率の18%、すなわち生存率が82%ということで1を通る。そして、1を通る形で、指数関数的に一定の確率で死亡が生じるだろうという前提のもとで、線を延ばしたものになります。

 一方、薬物療法群に関しましても、横軸の2、つまり2年後の死亡率が25.1%でございましたので、すなわち生存率は1から25.1%を引いた74.9%です。0.749という点を通るように線を引いて、これを延ばした。これも指数関数的な現象という形で、延ばしているということでございます。

 長期的な予後の予測、推計の部分が、費用対効果の評価、推計をするときに、どのような前提を置くかということで、重要になってくるところでございます。

 そのときにもとになりましたデータは、これも細かい字で恐縮でございますが、右下、先ほど説明させていただきました、CAREHFという臨床試験の成績を参考にしております。この試験は、欧州10カ国、83の医療施設で実施された大規模なランダム化比較試験でございます。薬物療法単独群とCRT実施群の患者をランダム割りつけで、生存率、あるいは重症度等を比較したという研究でございます。

 このような形で、2年までは実測のデータ、それ以降はそれを延ばしたということでございますが、これで計算をいたしますと、下の表にございますように、2年の時点では、両群の生存期間の期待値の差、すなわち追加的に獲得された生存年が0.07年となります。すなわち薬物療法に比べまして、CRTを行った群のほうが、平均的には0.07年余命が延長するという結果でございます。分析期間は29.4カ月、つまり臨床試験における平均的な観察期間、あるいは5年、10年、生涯と予測を延ばしていきますと、このように両者によって追加的に延長される生存年の年数も延びてくるということでございます。生涯ですと、1.52年の余命の違いが予測されるということです。

 9枚目のスライドでございます。先ほどの推計は、患者の生存年を予測したんですが、両方の治療で、治療後に心不全の重症度に違いが出てきております。

 9枚目のグラフにございますように、薬物療法群では、臨床試験の中で、90日後の心不全の重症度を見たデータでは、薬物療法群303人中、NYHAの1、非常に症状の軽い患者さんが39名、13%でございますが、一方で、CRT、薬物療法群では、当初はNYHAの3、4という、非常に悪い状態の患者さんに治療をしたわけでございますが、90日後の重症度は335人中105人がNYHAの1、31%が症状のよい状態になります。

 したがいまして、両群で生存年、生存率も異なりますし、同時にQOLの違いもあるということです。この両者を合わせて評価するために、オーストラリアのレポートでは、質調整生存年、QALYという単位で、統合的に評価をしております。

 先ほどのいわゆるNYHAの重症度分類の内訳と、上に書きました生存曲線の重ね合わせの絵が、9枚目の下に並べてあるものでございます。これを見ておわかりのように、左右を見比べていただきますと、右側のCRT治療群のほうが曲線も上にある、すなわち生存者も多い。さらにはNYHAの1、2という比較的軽傷の患者さんの割合、数もふえていることが、ごらんいただけると思います。

10枚目でございますが、こうした症状の改善並びに生存の延長を1つの統合的な指標で評価するために、QALY、質調整生存年という値で計算がなされております。

NYHAの1、2、3、4、それぞれの重症度のQOLの値の重みづけですが、これは別途の研究で既に測定されたものがございます。NYHAの1が1.00NYHAの2が0.82NYHAの3が0.72NYHAの4が0.58でございます。すなわち1年NYHAの1という、いい状態で生存したときのQALYは1QALYでございますが、仮にNYHAの4の状態で1年生存したときのQALY0.58QALYになります。このような重みづけを使いまして、先ほどの薬物療法群、CRTプラス薬物療法群、両者における質調整製造年、QALYを計算したわけでございます。

 この結果は、左下の2つのグラフでございますが、薬物療法群のほうが、治療の経過に従ってQALYが若干改善されてくるわけでございますが、CRTを実施した群のほうが、累積のQALYの延びが高いことになります。もちろんこれは期待値でございまして、個々の患者さんによって、この値は変わってくるわけでありますが、平均的な経過をたどったときには、このような値になると御理解いただければと存じます。

 この計算をもとに、薬物療法群に比べまして、CRTプラス薬物療法群で、追加的にどれだけQALYがふえているのかということを計算したのが、右側の表になります。実測値があります2年までのデータでは0.16、臨床試験が最も長い観察期間の平均の期間、24.9カ月では0.20、5年、10年、生涯と分析期間を延ばしていくに従って、追加的に獲得されたQALYの値は延びていくということでございます。

 以上が費用対効果評価を行うときの効果の指標、すなわち生存年とQOLを合わせて、質調整生存年、QALYを計算したという、計算のプロセスでございます。

 次に費用対効果の費用に関する計算法でございますけれども、この分析は、いわゆる支払者の立場で分析が行われております。支払者と申しますと、保険で支払われる分、あるいは税で支払われる分に加えまして、患者の負担分も含めたものでございます。誰が支払うかということは別にして、支払者の立場での費用を推計しております。

 費用の推計も非常に緻密に行っておりますが、今回は時間の関係もありまして、一部を抜粋して御紹介いたします。

 ペースメーカーの埋め込み、あるいは薬物療法そのものに関連した費用の推計法でございますが、オーストラリアでは、公立病院と民間病院で医療費のレベルが違っているところがございます。薬物療法に関しましては、年間でCRTを行った群、あるいは行わなかった群、そして、公立、民間、共通で年間に953オーストラリアドルという値が使用されております。

 レポートの中では、マーケットプライスと書いておりますが、ペースメーカーの機器の費用は、公立病院と民間病院とで違っているということで、こちらに書かれたような9,100ドル、1万9,000ドルという費用となってございます。

 そして、機器以外の埋め込みに要するところ、いわゆる技術料等は、公立病院が7,635ドル、民間病院では5,892ドルでございます。

 これらを合計しますと、公立病院でCRTの治療を受けた場合、1年間に1万7,688ドル、民間病院では2万5,845ドル。一方、薬物療法単独では、薬物療法自体の費用としては、それぞれ953ドルとなります。

 しかしながら、それぞれの治療におきまして、心不全が悪化して入院をしたり、あるいは埋め込みの治療が再度必要になることも起こってまいります。そうした費用の一部を示しましたのが、12ページでございます。患者さんの経過は一様ではございませんで、CRTの埋め込みが成功する場合、確率的に失敗する場合がございます。仮に成功した場合でも、心不全が増悪する患者さんもいらっしゃいます。増悪された場合、再埋め込みを行うということも起きてまいります。

 そういうことで、さまざまなパターンがありまして、ここに示しましたのは、CRTの埋め込みを行った患者さんの場合は8パターン、薬物療法を行った場合は2パターンということで、経過ごとにコストを示してございます。

 時間の関係で一番上だけ説明をいたします。CRTを実施いたしました。埋め込みは成功いたしました。この成功確率は85%でございます。ただし、埋め込みが成功しても、心不全が増悪し、入院する可能性が54%ございます。そして、増悪入院した方の中で、再埋め込みが必要になる可能性が15%ございます。これは上の3行で書いたことでございますが、この確率を全部掛け算いたしますと6.9%になります。したがって、CRTプラス薬物療法群の中の6.9%の患者さんが、臨床試験で観察されている平均的な観察期間、29.4カ月の間に、こういった経過をたどる可能性がある。そうした経過をたどったときにかかってくる費用というのが、公立病院では7,139ドル、民間病院では8,061ドルでございます。

 ただ、これは全員にかかるわけではございませんので、単価と確率を掛け算することによって、1人当たりに直すと、この状態で幾らお金がかかるかという期待値が計算されてまいります。それがそれぞれ公立病院では493、民間では556ということです。こうした患者さんがどういう確率で、どういう経過をたどるかという確率と、そうなった場合の費用を全て計算いたしまして、いわゆる期待値という形で、両群の1人当たりにかかる平均的な医療費が計算されております。

 これらを集計しますと、13枚目に示された結果になります。29.4カ月まで、つまり臨床試験の成績できちっと確認された期間で計算をいたしますと、公立病院で発生する費用が、CRT実施郡で2万1,132ドル、薬物療法では7,358ドルですので、その差額、すなわち薬物療法ではなく、CRTも追加で行った場合の増分費用が1万3,774ドルとなります。民間病院では、同様に2万2,419ドルとなります。

 下の増分費用の29.4カ月というところに、この数字がそのまま書かれておりますが、全く同じ方法で、5年後、10年後、生涯までの費用を計算した結果が、下の表で示されたものです。これは公立病院における2つの治療法の費用の差額でございます。また、民間病院で両方の治療法を行ったときの費用の差額でございます。

14枚目でございますが、以上2つの治療法を実施した場合の費用の差額である増分費用と、効果の差分であります増分の効果が算出されたということでございます。

 この評価法でございますが、これまでもこの部会の中で御提示しておりますような、ICER、増分費用効果比という割り算で、この値を評価することが一般的でございます。すなわち分子が増分の費用、費用がどのぐらい増加するか、分母が効果、効果がどのぐらい増加するかでございます。費用の増分を効果の増分で割り算いたしますので、費用の値が小さければ小さいほど、一定の効果を得るのに対してかかる費用が少ない、つまり費用対効果がよいと評価が一般的になされます。

15枚目でございますが、公立病院の費用から算出した増分費用効果比の数値でございます。分析期間をどこで区切るかによって、当然結果が変わってまいります。つまり初期にたくさんのお金がかかって、長期的な予後を考慮すればするほど、この値は改善していくので、生涯の値をごらんいただきますと、1質調整生存年、1QALYの当たりの費用を計算いたしますと、1万2,257ドル、約100万円でございます。

 一方、QOLの改善分を加味せず、ライフイヤー、すなわち生存年で計算した場合の値も参考までに提示されてございます。

16枚目ですが、民間病院の費用から算出した増分費用効果比、ICERの値でございます。公立病院と比較しますと、民間病院のほうが、一般的に高い費用で算定していただいておりますが、生涯の分析結果を見ますと、1質調整製造年、1QALY改善当たりの費用が2万1,850ドル、日本円で約180万円でございます。

 これらの結果を踏まえまして、MSACという評価機関における結論でございますが、先ほどの分析の中の生涯の分析結果を参照しております。

 これらの数値をもとに、重症心不全患者に対する両心室ペースメーカー、当該医療技術は費用対効果がよいと結論づけられております。

 なお、オーストラリアでは、ICERの値がどのくらいの値であれば、費用対効果がよい、あるいは悪いと言えるのか、その値は明示的には定められてございません。しかしながら、これまでのレポート等を参考にいたしますと、増分費用効果比が1QALY当たり4万オーストラリアドルを超えますと、推奨される可能性が低下する傾向にあると一般には言われております。ただ、これはMSAC等が公式にこの数字を示しているわけではございません。

 こうした費用対効果の計算結果だけではなく、当然システマティックレビューにより明らかになりました有効性、安全性の値など、総合的に緩和をいたしまして、重症の心不全患者に対する両心室ペースメーカー療法の使用を推奨するという結果が示されております。

 これに基づく政策決定でございますが、MSACによる推奨を受けまして、当該技術は公費償還され、また、政府が管理するリストに両心室ペースメーカーが収載されたということでございます。

18枚目でございますが、先ほども少し申し上げましたように、オーストラリアのMSAC、医療機器等を主に評価する機関でございますが、こちらのアプレイザルの中で考慮される要素としては、レポートの中から、このようなものが含まれております。

 当該技術の医療上のニーズ。

 他の技術が存在するかどうか。

 当該技術と類似技術を含めました、現状の償還の状況。

 比較対照技術との相対的な安全性・有効性。

 対象技術との相対的な費用対効果。

 医療予算へのインパクト。

 費用対効果はあくまでも推計になりますので、推計の不確実性の程度。

 こういったものが、総合的に考慮されると認識しております。

19枚目でございますが、参考までに、オーストラリアでは、MSACが医療機器の評価を主に行っておりますが、そのほかに薬の評価を行うPBACという組織がございます。そちらでも同様に薬剤の費用対効果を含むアプレイザルが行われております。

 例えばぜんそく治療薬の例でございますが、200911月の初回申請では、非給付という判断になりました。この理由ですが、臨床上の有用性及び費用対効果に関しまして、幅を持たせた推計を行っているんですが、効果が高かったというデータ等に基づいた推計と、効果が低かったというデータに基づいた推計の差が大きくて、判断が非常に難しい。また、そもそも費用対効果の計算結果、増分費用効果比(ICER)の値が、オーストラリアで一般的に考えられている水準より高い、つまり費用対効果がよくないということで、一旦非給付という判断になっております。

 その後、新たなエビデンスを加え、再計算を行い、再申請が行われました。ただし、このときも、一般に考えられる費用対効果よりも若干高い分析結果となっておりまして、アプレイザルの結果としては、この治療は、他の治療が効かない患者にとってのニーズが大きいものである。したがって、価格引き下げによって、ICERの値が、分析モデルにより4万5,000オーストラリアドル以下になれば、給付することを推奨するということが、結論として出ております。

 こうした提案に応じて、企業が価格の引き上げの案を提示し、結果的には価格を下げた形で給付が推奨ということになってございます。

 以上でございます。

○関原部会長

 どうもありがとうございました。

 ただいまの池田参考人からの御説明につきまして、御意見、御質問等がございましたら、どうぞ。

 鈴木委員、どうぞ。

○鈴木委員

 初めて具体的な例についてお話いただいたのは、よかったと思いますが、最初に医療機器がきたというのは、どうしてなのかという気もいたします。最後に薬がつけ足しみたいに入っていますけれども、海外の例を見ても、医薬品が主に行われているということですので、ぜひ医薬品の例もお示しいただければと思います。

 また、これはうまくいった例なのですが、実際に問題になるのは、うまくいかなかった例とか、最後のアプレイザルのところで、いろんなことが起きた場合の例です。これらが実際的には参考になるのではないかと思いますので、うまくいかないというか、苦労した例なども、ぜひお知らせいただければと思います。

 それから、例えばオーストラリアを見ても、公立病院と民間病院で費用が随分違うというように、国によって医療制度が違います。それによって、費用対効果に対する考え方も違うのではないかと思うのですが、従来、主にイギリス及び英連邦と言われるようなところ、オーストラリアもそのうちの一国になるわけですが、そういったところを中心に話が進められてきたわけですが、この検討がじっくり行われて来たことによって、その他の国々の実情も徐々に明らかになってきました。

 最近、出された本などを見ましても、ほかの国々の状態も、日本語で出版されるような状況になってきております。例えばドイツなどを見ますと、最初からQALYを用いないという方針を選択しているわけでございます。なぜかといいますと、QALYというのは、余命年数を尺度とするので、高齢者が不利に扱われる可能性があるということで、高齢化の進んだドイツでは、社会的なコンセンサスが得られないのではないかということが言われています。日本はドイツよりもさらに高齢化が進んだ国ですので、その本にも書いてありましたが、QALYを用いることの倫理的、方法論的な問題もあります。費用対効果を、我が国に導入する場合には、それもクリアしていく必要があるのではないかと思います。

 フランスを見ましても、QALYを使う場合もあるんでしょうが、対象の技術に合わせて、効果と費用の指標は、その都度選択をすることになっています。必ずしもQALYありきではないということです。

 今までイギリスを中心としたQALY至上主義の国の話が中心になってきたわけですが、イギリスでもQALYそのものの扱われ方が変わってきていますし、ヨーロッパにおいては、イギリスだけではなく、今やドイツやフランスが医療技術評価の三大リーダー国であります。1カ国に偏った形ではなく、ドイツでは、ドイツ版QALYとも言えるような、効率性フロンティアという新しい手法を開発して行うことになっております。

 我が国も、嘉山先生などが日本版QALYなどとおっしゃっていますが、世界一の超高齢社会の我が国、国民皆保険制度の発達した我が国において、我が国独自の考え方も必要になってくるのではないかと思います。

QALYの話ばかりではなく、例えば効率性フロンティアで見た場合には、どうなるのかとか、倫理的な問題、方法論的な問題というのは、どういう問題なのか。そういうものをクリアしていくにはどうしたらいいのか。

 今回の話は費用対効果ということで、望ましい結果と、望ましくない結果のバランス、あるいはコストの問題だけが扱われているわけですが、それ以外にエビデンスの質をどう考えるか、あるいは人々によって違う価値観をどう反映していくか、そういったことも先進国では必要ではないかと思いますので、もっと日本人に合ったやり方を考えていくことが、これからは必要になってくるのではないかと思います。

 以上です。

○関原部会長

 幾つか御意見をいただいたわけですが、今回はディバイスの話ということです。鈴木委員から、医薬品の例を示せというお話だったと思いますが、きょうの議論を踏まえて、今後の進め方を検討していきたいと思います。

 ほかにございますか。どうぞ。

○三浦委員

 池田先生、丁寧にいろいろと説明していただいて、ありがとうございます。

 医療機器の場合ということで、御説明があったんですが、幾つか教えていただきたいことがあったので、御質問させていただきます。

 先ほど鈴木先生のお話の中でもちょっとあったと思うんですけれども、今回、効果データの選定に当たって、システマティックレビューの対象が101件ございました。今回はこちらのデータを出されたということで、1件だけ出ているわけですが、それを選ばれた根拠をまず教えていただきたいというのが1つです。

 それから、スライドの7なんですけれども、死亡率のところで、ランダム化比較試験として4つの結果を統合しているということですが、例えば薬品の場合だと、統合という手法はとっていないと思います。統合するというのはどういうことなのか、根拠を教えていただきたいというのが2つ目です。

 スライドの12なんですけれども、合併症等の費用ということで、費用のデータが出ているんですが、例えば○の1つ目、約15%が初回の埋め込み手術に失敗し、再埋め込み手術が必要となる。その後、54%に入院が必要な心不全増悪が起こるとありますが、これも全部入れて、こういう数値が出てくると理解するんですが、前例がないと、こういうものは出てこないと思うんですけれども、そこについては、どういうふうに考えればいいのか。

13のスライドなんですが、29カ月、5年、10年、生涯と書いてあります。これは例えば何歳の方が埋め込み手術をやって、そして、生涯というのは、どういうふうに考えればいいのか。

 以上を教えていただきたいと思います。お願いします。

○関原部会長

 三浦委員から4つございましたので、今日の実例を選んだ理由から、順に御説明をお願いいたします。

○池田参考人

 御質問いただいた点でございますが、1点目、推計に使いました研究、CAREHFが選ばれた理由でございますが、先ほども申し上げましたように、費用対効果の推計に関しましては、長期的な視点で医療技術等の評価をすることが必要になってまいります。研究デザインとして、エビデンスレベルの最も高い研究デザインは、ランダム化比較試験でございます。複数のランダム化比較試験の中で、CAREHFの試験が最もフォローアップ期間が長かったということで、長期的な推計をするためのデータが、最も充実していたということで、この試験結果を基本に分析がなされております。

 例えばこの値を変化させたときに、結果がどう変わるかといった、いわゆる感度分析も詳細に行われておりますが、このレポートは300ページを超える膨大なレポートでございまして、その中では詳細な分析をやっているんですが、本日はその中の基本分析の結果のみを御紹介させていただきました。

 2つ目でございますが、7枚目のスライドのメタアナリシスでございます。薬剤に関しても、こうしたメタアナリシスが、いわゆる現場の診療を行っていく上でのよりどころとなるエビデンス、EBMではよく参照されるということは、先生も御存じかと思います。例えばコクランのシステマティックレビューのデータベースなどは、診療ガイドラインの作成あるいは実際の診療の場面でも、よく参照されるものでございまして、これは薬剤も含むメタアナリシスが実施されているものでございます。

 ただ、いわゆる薬の承認に関しては、メタアナリシスのような統合データではなく、実データを基本にするというのが、各国共通の状況であると認識しております。こうした医療技術評価を行う際には、承認時に行われた臨床試験以外にも、類似の臨床試験等がある場合には、網羅的に収集し、その中で結果を統計的に統合する。これを参考にすることが一般に行われております。

 したがいまして、これは薬や医療機器の承認のときに参考にするデータではなく、その後、例えば市販後とか、あるいは広く世の中で使われたときに、どのような効果を示すかということも含めて、データを収集し、その結果を統計的に統合したものでございます。

12枚目でございます。前例が余りない医療技術で、確率比をどういうふうに推計するかということですが、今回の場合は、基本的にはCAREHFという臨床試験の中で、詳細に合併症の発生率であるとか、再埋め込みが必要な率がございましたので、今回はそうした先行研究を主に参考に設定しております。

 例えば長期的に15%に再埋め込み手術が必要になるというデータは、この臨床試験の中にはございませんで、そういったものは、エキスパートオピニオン、専門家意見によって数値を設定してございます。今回の場合は、先行研究で比較的長期のデータがございましたので、それを可能な限り参考にしているところです。

 もう一つ、年齢の問題でございますけれども、年齢は今回の臨床成績を主に参考にいたしました、CAREHFの臨床試験の患者群の年齢を基本に計算をしてございまして、この臨床試験では、試験に参加した患者の年齢の中央値が67歳でございまして、そうした設定で分析をしております。もちろん年齢を変えれば、結果も変わってくる可能性がございますが、今回はそうしたデータで分析をしているということです。

 以上です。

○関原部会長

 三浦委員、よろしいですか。

○三浦委員

 ありがとうございました。

○関原部会長

 ほかにございますか。万代先生、どうぞ。

○万代委員

 非常にわかりやすい説明、ありがとうございました。

 1つ質問させていただきたいんですが、中医協費-1の3ページに表がございまして、費用対効果の手法をどういう形で応用するかという中で、3番目のオーストラリアは、償還の可否、償還価格への反映、両方とも活用するという表でございます。スウェーデンでは償還の可否、ドイツでは償還価格への反映がなされているという表ですので、これをそのまま当てはめられるかどうかわかりませんけれども、例えば今回のオーストラリアの具体例について、もしスウェーデンだったら、どのように費用対効果の部分が採用されるのか、ドイツではどうなのかということについては、どんな形になるんでございましょうか。

○関原部会長

 池田先生、お答えいただけますか。

○池田参考人

 仮に同じ分析結果であったといたしますと、今回は費用対効果が良好であるという結果でございますので、償還の可否、あるいは償還価格への反映という点では、当初、設定されていた価格で、償還という判断が基本になるのではないかと思います。

 御質問の点ですが、この技術がこれらの国で実際に評価されているかどうかということについては、今回、手持ちの資料がございませんので、そこは宿題とさせていただければと思います。

○関原部会長

 万代先生、よろしいですか。

○万代委員

 はい。

○関原部会長

 嘉山委員、どうぞ。

○嘉山委員

 非常にきれいな例を出していただきまして、ありがとうございます。非常にわかりやすかったです。

 2つあるんですけれども、1つは、実際の心臓のペースメーカーの分析の仕方で、ちょっとわからないんですが、実際のデータは、8ページの表でいえば、2年までのデータしかないんです。そうすると、機械ですから、統計できれいにやるんですけれども、実際の現場では、3年目になると、リード線が壊れたりするんです。こういうことで、計算していいのかと、前々から疑問に思っていました。

 もちろん10年というデータは、医学の世界では絶対ないです。10年間を追うといったら、大変なデータで、これは世界的に貴重なとんでもないデータになります。これは2年間のデータで推計して、対費用効果に使えるという整合性はあるんでしょうか。こういうデータを見ていて、前々から疑問に思っていて、そんなものなのか。実際は推計するしかないので、実際にデータはないですから、問題が起きないのかということなんです。それが1つ教えていただきたいことです。

 2点目は、今、万代先生が疑問にされたことですが、これは事務局かもしれませんが、中医協費-1の「2)効果指標の取り扱い」ですと、QALYが全て問題ないように書いてあって、前回は問題点があるということが議論になりまして、委員の間ではコンセンサスが得られたと思います。効果指標の取り扱いというところが運用方針なので、ここでQALYありきになってしまうと、縛られてしまうんです。ですから、今の万代先生のように、償還のときに使うのか、それとも値づけのときに使うのか。QALYだと、償還に偏りがちになるので、この辺をどういうふうに考えているのか。

 それと同じように、3ページの表の下に、償還の可否の判断材料に用いる場合はということで、QALYとは逆のことが書いてあります。これは事務局かもしれませんが、日本版QALYは何をコンセプトにつくろうとしているのかということを、教えていただければと思います。

 2点、お聞きしたいと思います。

○関原部会長

 わかりました。

 それでは、最初に池田先生にご説明いただいて、その後、企画官からお願いいたします。

○池田参考人

 御質問の点でございますが、1点目ですが、今回は実際に測定された臨床試験の成績としては、死亡率としては2年までのデータ、それ以外の合併症の発生率等に関しましては、原則として29.4カ月という、臨床試験のフォローアップの平均期間までの数字を使って、その後のことを予測しているということでございまして、先生が御懸念の点は、確かに問題でございます。この分析では、合併症あるいは機械の具体的等も、29.4カ月よりも前に、同じような確率で起きてくることにしております。

 また、いわゆるジェネレーターの交換は5年に一遍必要になる。これは比較的費用がかかるんですが、これも算出の中に含めて、分析をしてございます。

 あと、QOLの改善でございますが、この手技によって、それ以降にさらに改善が図られる可能性もあるわけですが、今回はそれを加味していないということで、むしろこのレポートの中では、コンサーバティブ、保守的な分析結果になっていると評価をしてございます。保守的に見ても、これだけの値が算出されたと、レポートの中では解釈をしてございます。

○関原部会長

 今の点について、先にどうぞ。

○嘉山委員

 そういうときは、生存率にしても、何にしても、先ほど三浦先生が御質問になったように、年齢補正が必要だと思っているんです。例えばこの機械をセットアップして、3年経ったときには、心臓も劣化しています。ですから、3年前の若いときの心臓と違う効果なんです。自然科学では当たり前の話で、5年目で初めて入れた人と、5年入れっ放しの人で、あと5年間入れる人は、絶対に違うんです。それは我々が日常で遭遇していることなので、年齢補正をすれば、表はこんなにきれいではないと思います。これは傾きが、右肩下がりになってくるのではないかと思います。ですから、そのことを入れないと、本当のサイエンスにならない。推計学の上でもサイエンスにならないのではないか。年齢は当然加味されるわけですから、それはやられているんでしょうか。

○関原部会長

 池田先生、どうぞ。

○池田参考人

 今回、説明不足で大変失礼いたしました。臨床試験の患者の年齢の中央値が67歳でございまして、67歳の方が、年々高齢となり、それによって生存曲線に変化があるという部分については、加味されてございます。今回そこの説明を飛ばしまして、大変失礼いたしました。

○関原部会長

 企画官、お願いします。

○井上医療課企画官

 医療課企画官でございます。

 今の嘉山委員の御質問ですが、中医協費-1の資料の効果指標の取り扱いは、まだこの部会ではコンセンサスが得られていないはずだという御指摘でございます。これは私どもも御指摘のとおりであると認識しております。したがいまして、中医協費-1の資料でも、効果指標については、コンセンサスが得られていないという前提に基づいた記述にしています。

 具体的に申し上げますと、中医協費-1「2)効果指標の取り扱い」のところですが、例えばポツの1つ目は、効果指標はただ1つを述べるのではなくて、LYQALY、医療者による評価尺度、あるいは臨床検査等、さまざまなものがあるという、これまでの議論を踏まえております。

 それから、1ページ目の一番最後のポツですが、その他の指標を用いた分析も、医療技術の特性に応じて考慮することが重要である、こうした指摘をいただいていると理解しております。

 また、池田参考人から提出されました資料においても、分析はQALYのみで分析をするのではなく、QALYで分析をした場合、LYで分析をした場合、それぞれ重ねて提示をしているのは、これまでの議論を踏まえてのことと理解しております。

 以上でございます。

○関原部会長

 よろしいですか。

○嘉山委員

 そういう議論の進め方であれば、全く問題ないと思います。ありがとうございました。

○関原部会長

 ほかにございますか。堀先生、どうぞ。

○堀委員

 ありがとうございました。随分すっきりした感じです。

 1つだけ確認なんですが、13ページのところで、総費用を計算しています。評価は生涯にわたっての費用から計算すると理解しているんですが、○1総費用、CRTと薬物療法の合算になっていまして、治療に関連する費用に合併症等の費用を足したものだと理解できますが、最初の治療に関連する費用というのは、11ページにあるような、初年度だけの費用で理解していいかということと、合併症等の費用というのは、12ページにある29.4カ月までですが、この生涯にわたる推計値を期待値で合算した。それを合計したものが、総費用と考えていいと思うんですが、その理解でよろしいでしょうか。

○関原部会長

 池田先生、お願いします。

○池田参考人

 先ほど申しましたように、このレポートは、300ページを超えるもので、費用の計算も大変緻密にやってございます。そこで一部を抜粋して御紹介してございます。

 スタイルとして、1番と2番を足すと3番になるということにはなっておらず、この中に、別途、例えば年齢が高齢になるに従っての他の要因での死亡であるとか、あるいはその他長期的な推計をする際のいろんな補正などを行っておりますので、基本的に1番というのは1年間の費用でございまして、当然薬物療法等については、生涯にわたっての費用が重なってまいります。

 そういうことで、1番、2番は、分析の一部分を抜粋して御紹介しているところでございますが、基本的な考え方としては、1番が治療に関連する費用、2番が合併症が起きたときに発生する費用、これを各期間ごとに期待値として合計いたしますと、総計になるというスタイルです。途中のプロセスの一部を省略してございまして、わかりにくくて恐縮でございます。

○堀委員

 わかりました。そうすると、13ページの公立病院のA、2万1,132というのは、どこから足しても、この中では出てこないのは、そういう理由と考えてよろしいですね。

○池田参考人

 恐縮でございます。1番と2番を単純に足すと3番になるということではなくて、その間にいろんな補正等がなされておりますので、全体のプロセスは、もし必要であれば、御提示をさせていただきます。

○堀委員

 わかりました。

○関原部会長

 田村専門委員、どうぞ。

○田村専門委員

 先ほど嘉山委員が言われたことに関連して、コメントを2つ申し上げさせていただきます。

 費用対効果分析というものが、さまざまな仮定に基づいてなされるというのは、ある程度理解しているつもりですが、今回の分析でも、先ほど嘉山委員が言われたように、29カ月、2.4年のデータを生涯まで外挿して推計するということ、それから、これも先ほど池田参考人がおっしゃいましたが、心不全の患者さんの重症度の内訳、QOLに当たるものだと思いますが、それは埋め込み後90日が生涯継続するという仮定に基づいています。これはいずれも結果に非常に大きな影響を与えるものだと思いますが、こういうふうに思い切った仮定を立てなければいけないのは、端的に言うと、データが不足しているわけで、それは企業なり関係者の努力が不足しているといえば、そのとおりだと思いますが、一方、QALYを求めるために必要とされるデータというのは、極めて膨大ですので、実質的に実証データでこれを計算するというのは、ほぼ不可能なのではないかと思います。

 先ほど池田参考人の話にありましたように、感度分析などによって、仮定を動かしてみて、影響評価を行うということもされますが、実際に費用対効果を行う国ごとに、結果がかなり変わってくるとか、あるいは再評価をすると、大きく結果が異なるとか、そういうことは、こういう思い切った仮定を置かなければいけないというのが、1つ背景にあるのではないかと思います。これがQALYを用いた費用対効果評価の限界の1つだろうと思います。もちろんそれがいい、悪いということではなくて、限界なのだろうと思います。

 もう一つは、以前からの繰り返しになりますが、医療機器の場合、余りデータが十分ではなくて、今回のケースは、例外的に非常にたっぷりと長期のランダム化されたデータがある事例ではないかと思います。実際、薬事承認などでも、ここまでのデータを求められることはありません。日本で新規保険収載時にこれだけのデータがあることは、ほとんどないのではないか。実際、C1C2を申請している中で、こうしたデータに基づいて、有効性が論じられていることは、残念ながら、まれなのではないかと思います。

 以上でございます。

○関原部会長

 御意見ということにいたします。

 石山委員、どうぞ。

○石山委員

 ありがとうございます。

 勉強不足で再度教えていただきたいのです。スライド14で、増分費用効果比が出ていますが、ICERは1単位の効果を獲得するために必要な費用である。これは額です。グレーゾーン、比の下に括弧をしてICERと書いてあります。この関係はどうなんですか。

○関原部会長

 池田参考人、お答えいただけますか。

○池田参考人

 御質問の点は、もう一度、確認をさせていただきたいんですが、参考人資料の14枚目にございます図でございますね。あと、事務局資料、中医協費-1の2ページ目ですね。

○石山委員

 そうではありません。スライド14がありますね。ICERとは、1単位の効果を獲得するために必要な費用であるとございます。費用ということは、額ですね。

 スライド15で、算出したICER13万ドルだと、それぞれ書いてありますね。

 スライド14の一番上に、増分費用効果比と書いてありますね。この下に括弧をしてICERと書いてあります。このICERと、先ほど申し上げた必要な費用であるICERとの関係はどうなっているのですか。

○池田参考人

 比でございますので、実際には分子が費用、分母が効果です。つまり円割ることの効果指標です。例えば円割ることのQALYとか、円割ることの生存年というのが、単位としては正確な単位になります。

 比較対照技術と今回の評価対象技術とを比べたときに、より少ないお金で、よりたくさんの効果改善があれば、この値が小さくなっているということでございまして、矢印のグラフと棒グラフとは、そのような関係でごらんいただければと思います。この数字が小さいほど、矢印の傾きが緩いという意味でございます。

○石山委員

 それはよく理解しています。ただ、ここは括弧づきでICERと書いてあります。これは上の式、比を説明しているのではないんですか。

○池田参考人

 比の値をICERとしております。ここで算出された値のことをICERと呼び、その説明は1単位の効果がICERということではなくて、ICERというのは、1単位の効果を獲得するのに必要な費用、ここまででございます。

○石山委員

 そうでしょう。それでわかりました。

○池田参考人

 括弧の位置が不適切ということでございます。失礼いたしました。これは既に部会に出たものを、そのままはりましたので、失礼いたしました。

○石山委員

 もう一点、先ほどもちょっと出たのかもしれませんが、生涯という年齢があります。例えばスライド10、2年から29.4とか、先ほどから議論になっている数字があります。例えば0.16、あるいは0.20が増分になった。最後に生涯と書いてあります。生涯というのは、それぞれの病気というか、ケースによってみんな違ってくるんですが、この数字は、実績としてあるんですか。

○池田参考人

 御質問の点でございますが、生涯というのは、例えば両方の治療群で平均的な経過が異なり、片方の群ではかなりの患者さんが長生きされるが、片方の群では残念ながらそうではない。そういうときには、基本的に長いほうに合わせまして、多くの患者さんが残念ながらお亡くなりになる期間まで、十分な長い期間をとって、生涯という分析を実際には行っております。

○石山委員

 わかりました。

○関原部会長

 ほかにございますか。鈴木委員、どうぞ。

○鈴木委員

 先ほど田村専門委員からも、QALYというのは、思い切った仮定に基づいて推定で出すので、国によって結果が異なることがあり、それがQALYの限界だというお話がありましたが、例えば我が国でも、あるワクチンをめぐって費用対効果分析をしたら、同じ国内で、正反対の結果が出たことがあると聞いております。その場合には、どういうところの選択が違ったために、真逆の結果が出たのか。そういう場合にはどういうことが考えられるのか、池田先生に教えていただければと思います。

○関原部会長

 それは、今のワクチンのことについてですか。

○鈴木委員

 ワクチンでも何でもいいんですが、同じ医療制度の国で、全く違う費用対効果の結果が出た場合、どこが違うと真逆の結果が出るのか。その場合、どういうことが考えられるのか、教えていただきたいということでございます。

○関原部会長

 企画官が手を挙げておられますので、企画官、お願いします。

○井上医療課企画官

 医療課企画官でございます。

 今のワクチンのケースに関しましては、真逆の結果が出るというのは、こういうケースがあるということをお話させてください。

 中医協費-1の1の「1)費用の範囲や取り扱い」ということを、これまで議論してまいりました。費用の種類には、医療費、介護費、その他本人の生産性損失等があります。恐らく小児用のワクチンの場合には、ここの費用のところで、介護する父母の生産性費用の損失、お父さん、お母さんが、子供が病気になって、仕事を休むことによる損失を費用の中に入れるか、入れないかということで、一般的には大きく結果が変わってくると聞いております。今の鈴木委員の御質問に対しては、例えばそうしたことが、具体例としてはあるのではないかと推測しております。

 以上でございます。

○関原部会長

 鈴木委員、どうぞ。

○鈴木委員

 それだったら非常にわかりやすいのですが、そうではなくて、例えばデータの選び方とか、そういうことによって、恣意的にそういったことが起こる可能性はないのかということを聞きたいのです。学者の先生の御意見をぜひお聞かせください。

○関原部会長

 データの選び方について、池田先生、お願いします。

○池田参考人

 御指摘の点でございますが、結果がやや異なるものが出てくる理由は、大きく分けて2つあるかと思います。

 1つは、分析の立場ですとか、費用の種類に何を入れるかとか、アウトカムは何をとるかといった、分析の手法の違いがあるかと思います。これに関しましては、諸外国では、経済評価に関する研究ガイドラインを策定しまして、これに基づいて、ある程度手法を標準化するということが行われております。

 2点目ですが、例えば今回の例でも、長期的な予後予測、推計といったところは、どうしてもデータの不足等があり、一定の前提条件を置かざるを得ないということがございます。これに関しましては、このレポートでも、詳細にどういう条件を置いたのかということが示されておりまして、これを参考にすれば、誰もが同じ手法で、同じ計算結果を出し、もし前提条件の中で問題となるところがあれば、その部分を入れかえて、再解析ができるという形で、レポートが作成されております。

 また、一般的な学術雑誌にも、最近はアペンディックスのような形で、費用対効果の推計の細かい前提条件について、数字を提示することが、多くの雑誌で求められておりますので、先生御懸念の件に関しましては、後ほど他の研究者が、そういったものを再検証できるような形で報告されているというのが、一般的になっていると認識しています。

○関原部会長

 鈴木委員、よろしいですか。

○鈴木委員

 そのようなことなのだろうと思いますが、最初にも話しましたように、実証データと仮想データがごちゃ混ぜになっていても、数字としては同様に出てきますから、その辺は慎重に扱う必要があると思います。こういった話をするにしても、どこでやるのか、誰がやるのか、どのようにやるのか、独立性、公平性、透明性の担保が大前提になります。そういったものの議論はまだ行われていないと思いますが、それがないと、データの信頼性、結果の信頼性にも影響を与えると思いますので、引き続き、慎重に行うべきだと考えております。

○関原部会長

 土屋専門委員、どうぞ。

○土屋専門委員

 評価の具体例についての御説明ありがとうございます。

 具体的な活用例という点で質問させていただきます。17ページに結論と政策決定ということで、この結果は費用対効果がよく、その結果、ペースメーカーの使用を公費で償還するという決定がなされたとありますが、田村専門委員がおっしゃっていますように、通常、承認時には、こういうデータが揃っていることはないと思いますし、これはシステマティックレビューですので、様々な試験の結果を見ているわけです。ですので、実際にオーストラリアでは、承認後、しばらく償還されないで、何年か経ってこのデータが出て償還されるようになったという意味なのか、それともオーストラリアでは承認されたのが遅くて、評価の時点で欧州など海外のデータがあったという事例なのでしょうか。質問です。

○関原部会長

 承認と償還の点ですね。お願いします。

○池田参考人

 レポートの中で、機器の費用としては、マーケットプライス、実際に病院が患者等に請求している費用を使っておりまして、この医療技術は、承認後、使用されております。それに対して、例えば技術料に関しての金額を、類似の技術とは別に設定するのかといった判断等に使われておりますので、承認後、この技術は使われてございます。

 あと、承認時にこれだけのデータというのは、全ての医療技術等でこういった条件が整うとは思いませんけれども、レポートを見ますと、システマティックレビューの検索を行った時点が2005年4月、最終的な経済評価も含めて、三百数十ページのレポートが出たのが2005年8月、4カ月程度でこの程度の分析は可能だと思います。

○関原部会長

 時間も限られているので、安達委員の御質問を最後にしたいと思います。

○安達委員

 最後に申しわけありません。

 今、御議論になっているように、このケースは、非常にたくさんのデータがそろっていて、比較的我々も理解しやすい。それでもまだ問題があるという点を感じるところではあるんですけれども、そうではありながら、田村専門委員がおっしゃるように、承認時にデータはこんなにそろっていない。それはそうですけれども、最初に鈴木委員がおっしゃったように、医薬品もやらないわけにはいかないだろう。そういうものも相手にするという前提で考えなければいけないということでいえば、医薬品も1つか2つは実例を出していただいて、このデータとどの辺がどう違うのかということも含めた議論が必要なんだろうと思います。

 最後に参考に1つだけお聞きしたいのは、19番のスライドで、アプレイザルで一度却下されたものが、承認になった薬剤の例を示されています。

 そのときの2つ目の大きなポツでは、価格引き下げによって、ICERが4万5,000オーストラリアドル以下になれば、給付を推奨すると言われた。それにメーカーが対応したので、給付の推奨になった。4万5,000ドルというラインを決めるのは、オーストラリアでは何か根拠があって決めている数字なんでしょうか。

○関原部会長

 池田先生、お願いします。

○池田参考人

 御質問ありがとうございます。

 この数字ですが、薬剤を評価するPBACのほうでは、実際の計算結果を、実際の数字ではなくて、例示で示しているんです。そういうことですので、なぜこれが4万5,000かということに関しての根拠や理由、あるいは実際に分析された数値等についての情報も、我々としては把握できていないところがございます。

 しかしながら、先ほど機器のほうでも御説明いたしましたように、オーストラリアでは、明示的な基準はないものの、これまでの評価結果を見ますと、増分費用効果比、ICERが、4万ドル・パー・QALYを超えると非推奨となる。つまり推奨となる可能性が下がるということでございます。4万あるいは4万5,000というのが、明示的ではないまでも、一定の基準として、記述されていると理解してよいかと思います。

○安達委員

 1点だけ確認させていただきますと、そうすると、それは個々の薬剤ではなくて、薬剤全般について、その辺がラインになることが多い、そういう御説明をいただいたと理解してよろしいんですか。

○池田参考人

 過去の評価結果を見る限り、その線を超えると、一律にだめということではございませんが、一定のラインとして、そういう数字が示されることが多いと理解しております。

○安達委員

 わかりました。ありがとうございます。

○関原部会長

 今、安達委員から薬剤の話も出ましたので、その辺を踏まえて、今後どういうふうに具体例を検討していくかということは、事務局と相談いたしまして、次回以降、また皆さんにお諮りするということで、きょうの議論は終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 次回以降の日程について、事務局からございますか。

○井上医療課企画官

 日程は、調整ができ次第、御連絡をいたします。

 以上でございます。

○関原部会長

 それでは、これできょうの部会は終わることにいたします。どうもありがとうございました。

 

 


(了)
<照会先>厚生労働省保険局医療課: 03-5253-1111(内線3277)

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