ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 医政局が実施する検討会等> 高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会> 第2回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会 議事録(2013年9月2日)




2013年9月2日 第2回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会 議事録

医政局研究開発振興課

○日時

平成25年9月2日(月)17:30~20:00


○場所

厚生労働省 共用第8会議室


○出席者

【委員】

森嶌委員長 稲垣委員 桑島委員 曽根委員 竹内委員
田島委員 花井委員 藤原委員 宮田委員 森下委員
山本委員

【事務局】

原局長 (厚生労働省医政局)
成田審議官 (厚生労働省大臣官房)
宮嵜課長 (厚生労働省大臣官房厚生科学課)
土生課長 (厚生労働省医政局総務課)
佐原医療統括管理官 (厚生労働省医政局総務課)
一瀬課長 (厚生労働省医政局研究開発振興課)
城課長 (厚生労働省医政局経済課)
赤川課長 (厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)
河野治験推進室長 (厚生労働省医政局研究開発振興課)
稲川監視指導室長 (厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)
近澤薬剤管理官 (厚生労働省保険局医療課)
中山企画官 (厚生労働省大臣官房厚生科学課)
村田課長 (文部科学省高等教育局医学教育課)
板倉課長 (文部科学省研究振興局ライフサイエンス課)
横井室長 (文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室)

○議題

1 委員からの情報提供
2 関係機関からのヒアリングについて
3 その他

○配布資料

議事次第 議事次第
座席表 座席表
参考人名簿 参考人名簿
資料1-1 委員名簿
資料1-2 検討チーム名簿
資料2-1 藤原委員提出資料
資料2-2 曽根委員提出資料
資料3-1 ノバルティス社提出資料
資料3-2 京都府立医科大学提出資料
資料3-3 東京慈恵会医科大学提出資料
参考資料1 第1回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会議事録
参考資料2-1 第1回資料2-1:京都府立医科大学作成資料
参考資料2-2 第1回資料2-2:東京慈恵会医科大学作成資料
参考資料2-3 第1回資料2-7:ノバルティスファーマ株式会社作成資料

○議事

○一瀬課長 定刻となりましたので、「第2回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」を始めさせていただきたいと思います。委員の皆様方におかれましては大変お忙しい中、本検討委員会に御出席いただきまして、ありがとうございます。本日は田代委員から御欠席の連絡をいただいております。
 まず配布資料の確認をさせていただきます。一番上に議事次第と配布資料を記載したものがございますので、それに沿いまして御確認ください。
 資料1-1の委員名簿、資料1-2の検討チームの名簿、資料2-1の藤原委員提出資料、資料2-2の曽根委員提出資料、資料3-1のノバルティスファーマ社提出資料、資料3-2の京都府立医科大学提出資料、資料3-3の東京慈恵会医科大学提出資料、曽根委員の資料が1枚追加となっております。不足や落丁などがありましたら、事務局までお知らせください。よろしいようでしたら議事に入っていただきますので、審議の円滑な実施のために撮影はここまでとさせていただきます。カメラの退室をお願いいたします。以降の議事進行については、森嶌委員長にお願いいたします。
○森嶌委員長 それでは議事に入らせていただきます。議事に入る前に、この検討委員会における検討体制について、事務局から報告していただきます。では、よろしくお願いいたします。
○河野治験推進室長 事務局でございます。お手元の資料1-2に基づいて、御説明させていただきたいと思います。先日、89日に第1回の検討委員会を開催いたしまして、その後、各先生から対象となる関係大学、ノバルティス社に対する質問事項などについて、事務局にお寄せいただいたところであります。今後9月末までにその時点におきます事実関係の整理や、今後の再発防止策などを当検討委員会で検討するに当たり、今後の進め方について、事務局より委員長に御相談したところでございます。
 その結果ですが、1つ目は、時間的制約がある中で、効率的に書面の質問やヒアリングを行うためにチーム制で対応するということとします。
2番目として、当面の調査対象としては既に調査結果を公表しておりますノバルティスファーマ社、京都府立医科大学及び東京慈恵会医科大学の3機関を対象とさせていただき、その他の大学については、それぞれの調査結果を踏まえ、必要に応じ10月以降に対応するという考え方です。
3点目は、今後の進め方について、委員長と主査3名を中心に、別紙1-2のチーム体制で9月末の中間的な取りまとめに向けた検討を行うということです。
 お手元の資料1-2ですが、京都府立医科大学チームについては、曽根先生に主査をお願いし、慈恵会医科大学については、竹内先生に主査をお願いするということです。ノバルティスファーマについては、田島先生に主査をお願いするということで、委員長及び各委員のご了解をいただいております。委員長の森嶌先生におかれましては、可能な限り各チームに参加をいただくということです。委員のメンバーについては、資料1-2のとおりです。
4点目として、個人へのヒアリングについては、質問の内容も含めて慎重に対応する必要があるということから、今後、主査を中心とした各チームで具体策を検討することとしております。研究責任者やノバルティス社の元社員の方からお話を伺いするということも予定されております。この場合は事前にヒアリングの対象者や、日時、関係資料などが非公開となる場合も想定されますが、その結果については公開の場で報告をすることを予定しております。事務局からの説明は以上でございます。
○森嶌委員長 事務局からのお話の通り、今回のヒアリングは、時間的にかなり制約があるということと、来ていただく方に個人的なプライバシーに関わるようなことも、お伺いしなければならないということがございます。まず、時間的な制約があるということから、今回は取りあえず、ノバルティスファーマ社と、関係大学からは京都府立医科大学と東京慈恵会医科大学の2つの大学を対象とし、この3つの対象に関係者に対するヒアリングを行うことにしますが、その委員を3つのチームに分けていただいて、ヒアリングを実施することにしたいと考えております。さらに、ヒアリングは、個人的なプライバシーに関する内容に関わることもありますので、場合によっては非公開とすることも考えております。詳細は、委員の方にも御相談いたしますが、事務局と主査の先生方と御相談しながら決めさせていただきますが、基本的には、このような方針でやりたいと思っております。第1回に大臣から9月末までに何らかのまとめを出すようにと言われておりますが、9月末までに最終的なまとめまでとすることは到底無理ですが、中間取りまとめ的なものは、何とかまとめたいと考えておりますので、非常に時間的にも制約があり、対象としても今申しましたような制約がありますが、委員の先生方にご無理を申しますけれども、よろしくお願いいたします。このような方針で進むということで、よろしゅうございましょうか。何か御意見、御質問等ありますか。よろしゅうございましょうか。
 それでは議事に入らさせていただきます。委員からの情報提供ということで、中間取りまとめをするに当たり、委員の間で情報を共有しておいたほうがよいと思われる点について、委員から御報告をしていただこうと思います。
 まず始めに、藤原委員から海外における臨床研究の規制に関して、御報告をいただきたいと思います。資料2-1に基づいて、藤原委員から御説明をよろしくお願いいたします。
○藤原委員 現在、臨床研究の倫理指針ならびに疫学研究の倫理指針の改訂の作業が別の委員会で行われていますが、私は、その改訂作業に当たって厚生労働科学研究費の特別研究費を頂いて、海外の被験者の保護や倫理審査委員会の実態を調査するということを昨年来やってまいりました。今回の委員会では、それにプラス、臨床試験を巡る海外の法令、規制制度がどうなっているかということを少し御紹介する時間を頂きましたので、この資料2-1に基づいて少し解説したいと思います。
 本日ここに持って来たのは、「医薬品に係る臨床試験を巡る各国の制度比較」と書いてあるように、どの国を見ても、特に私どもが調査に行ったのがアメリカ、イギリス、フランスですが、医薬品以外の例えば、医療機器、外科治療、放射線治療、また別途、細胞療法、細胞医療、再生医療などは様々な法制化がされていたり、されていなかったりするのですが、最近の動向から見ると、医薬品の中でも未承認とか、適応外でも被験者さん、患者さんなど、それに参加される方々にリスクが高いと思われるものを用いる臨床試験に関しては、非常に厳しい規制にはなってきておりますが、そうではないリスクが低いものに関しては余り各国とも厳しい規制はしない傾向にあるように思います。したがって、ここで紹介する医薬品というのは、かなり臨床研究の中でも規制の度合が高いものというように、最初に皆さんに御理解いただきたいと思います。
 それから「規制の対象」の所に書きましたが、どの国も薬事規制当局に申請する目的であるか、ないかに関わらず、臨床研究の中でも特に、医薬品を患者さんに投与して、その効果を見ながら医薬品の効果を検証するタイプの臨床研究、これは「臨床試験」と専門用語で言いますが、それに対しては法律で網掛けしていろいろな細かい規定があるということが実態だと思います。
 それに対して右側では、日本の実態を治験と臨床研究、あるいは臨床試験として分けていますが、日本は治験というものが薬事法にのっとって行われますが、かなり厳しい基準で進められるのに対して、薬事申請を意図しない臨床研究、臨床試験に関しては、臨床研究に関する倫理指針が主に対応しますが、ソフトローと言いますか、ここの2段目に書いてあります大臣告示に従うもので、別に法律的に遵守することを求められているわけではないということが、各国との大きな違いだと思います。
 それからここに「治験」と書きましたが、日本以外では治験という言葉はありません。治験というのは日本独特の言葉でして、海外はクリニカル・トライアルという言葉が一元的に使われておりますので、この辺が患者さんにとっても日本の中では治験と、それ以外の臨床試験が同じように使われていることが、混乱を招いている1つの原因かもしれません。
2列目の根拠法令を見ていただいたら分かりますが、ヨーロッパですね。英国、フランス、それ以外のEU加盟各国については、2000年からEU臨床試験指令というEU全体の法律に近いものが制定されていて、それに基づいて臨床試験を遂行することが求められています。2004年までの間に各国で、臨床試験指令に対応したそれぞれの国に応じた法令・制度が整備されて、この英国に書いてあるもの、あるいはフランスに書いてあるもの、様々な法律も別途存在しているという実態があります。
 アメリカはFDAを規定しているFD&C法のほかに、FDAに提出するいろいろな臨床試験は21CFRというCode of Federal Regulationsと言いますが、連邦規則のタイトル21という所で細かく規定されていますし、被験者保護についてはコモンルールというものが大きなものとして存在しております。アメリカで特徴的なものはこのコモンルールが、公的研究費、国が金を出している臨床試験、臨床研究のみを対象として非常に厳しくしておりますが、民間資金でやっているような研究は対象としないという点です。
3段目は、どういうものを規制当局が求めたりチェックしたりしているかというところをまとめています。ここは「計画」と書いてありますが、主に研究計画、プロトコールのことです。プロトコールの審査は日本の治験も含めて各国で、規制当局が事前にチェックをしておりますし、それから臨床試験の最中に発生した有害事象については、それが未知で重篤なものに関しては、規制当局がチェックして、集計したりしていろいろな対応を行う体制にしており、プロトコール以外にも、同意説明文書なども細かくいろいろな所でチェックされているということを理解しております。
 それから担当する規制当局、これは、皆さん、FDA以外は余り名前を聞いたことはないかもしれませんが、FDAのほかに、イギリスではMHRAという日本の厚労省に相当するような所と、フランスもANSMというのが、昔はAFSSAPSというのがあったのですが、これも薬の市販後のいろいろなスキャンダルがあって、解体されて今はANSMと変わって、そこが規制官庁として存在して、様々な医薬品を巡る臨床試験のチェック機能を果たしています。
 日本は薬事承認申請に携わる部分だけはPMDAと厚労省が所管しておりますが、臨床試験、あるいは臨床研究全般に関しては、ここは規制当局として厚生労働省と書いてありますが、厚生労働省が細かく研究者の箸の上げ下ろしなど、プロトコールやIC文書まで全部細かくチェックしているかというと、先進医療というものを除いてはほとんどそういうことはなくて、あるとすれば、科学研究費の申請時にプロトコールとは別の研究の計画など厚労省の中の委員会、あるいは厚労省の担当官がチェックしている実態があります。
 次に、今回のディオバンの事案に関連して、皆さん方がこういうものは海外ではどのようにチェックされて、そういうことが起きないようになっているのだろうかと、疑問に思われているところを幾つかピックアップして、それが法律上、あるいはガイドライン上、どう規定されているかということをみたのが、この表の下の4つか、5つの所です。
 臨床試験のデータの品質管理や品質保証ですが、きちんとやられたことがカルテに書き込まれて、それがいろいろな症例報告書に転記されて、データの解析につながっているかということがこのデータ品質管理・品質保証という項目です。
 データの保存期間ですが、今回もディオバンの事案は10年ぐらい前にやられた研究です。日本の医師法ではカルテの保存期間は5年なので、なかなか5年過ぎてデータを振り返ることは大変なのですが、それが海外ではどのように取り扱われているのかを少し調べてみました。
 このディオバンの事件、薬事法上の誇大広告に、違反につながるのではないかというような意見もありますが、では、医者向けの広告に対して各国がどのような規制しているかというのも少し記載しています。
 今回のディオバン事件の一番の問題は恐らく、利益相反の管理で、後から曽根先生がお話されますが、利益相反の管理の問題が日本では甘いのではないかというところが指摘されると思いますので、その辺りも少し紹介したいと思います。
 まず中段辺りですが、臨床試験のデータの品質管理ですが、これは各国とも米国、欧州とも、それから日本の治験ではデータの内容の品質の管理、あるいは品質の保証というのはしっかり求められております。ただ、例外は日本の臨床研究に関する倫理指針で、これは今議論されていますが、臨床試験のデータの品質をチェックする機能というのが、ガイドラインには今のところ入っておりません。中間取りまとめの中では、そういうことを検討してはどうかということも盛り込まれていて、これからパブ・コメになると思います。
 データの保存期間は、欧州ではEU臨床試験指令の中で最低5年と決められておりますし、アメリカでは薬事承認、あるいは申請資料に使われる場合は、不承認の場合であってもそれに使っている薬の輸送が終わって、いろいろな取引がなくなって2年はデータを保存しなさいということになっています。日本の薬事法、あるいは医師法でのカルテの保存期間と比べて、特段日本が短いわけではないということが見ていただけると思います。
 医療者向けの広告規制ですが、かなり日本と海外では違っておりまして、日本の場合は治験であっても事前に我々医師に対して、市販後にいろいろな宣伝、資材など、専門の学術雑誌などに製薬企業がいろいろな広告を載せますが、それに関しては余り細かい審査はされておりません。ここに事前審査はないと書いてありますが、あとからこの広告内容がちょっと誇大ではないかと言われたら、薬事法第66条でしたか、その所でチェックはできますが、それが強権として発動されたのは私は記憶にないです。欧州、米国を見ていただきますと、大体承認されてそれが世に出て来る段階で、医療者向けの広告の資料、資材というのは規制当局が事前にチェックして、変なことが書いてないかどうかをみていることがわかります。これはかなりの網掛けというか、緊張感を持って企業さんは当たられているかと思います。
 利益相反の管理ですが、これも日本以外の国では厳しいところというか、割と厳しくなっておりますが、これが厳しくなったのは1999年に遺伝子治療の臨床試験でペンシルバニア大学で非常にいろいろな不幸な出来事がありました。それ以降は非常に厳しくなってきたので、大体2000年ぐらいから各国とも厳しい利益相反の管理を求めております。ですから今回のディオバンの件に関しても、利益相反、臨床試験をやっていたのは2000年代に入ってからですから、ゲルシンガー事件が起きた後なので、ノバルティスさんも各大学さんも、常識として利益相反の管理・開示はやらなければいけないというのは十分知っていたと思いますし、ヘルシンキ宣言も2000年の改訂で資金源の開示などを求めておりますので、これは日本の方々が利益相反に関する意識が薄かったのかなと思います。
 一番右側は、残念ながら薬事法の中では余り利益相反の細かい規定はありません。昨年末の改正で、省令の中で治験審査委員会で利益相反の管理に関して、委員が資料を求めることができると改訂されましたが、未だに日本の薬事法の中ではプロトコールやIC文書の中に利益相反を開示しなさいとかは全然書いていないので、ここは各国からかなり劣る点かなと思います。
 一方で、臨床研究に関する倫理指針は非常に進歩的というか、平成15年の最初の策定時点からプロトコールと、同意説明文書の中で利益相反を開示しなさいと規定されておりますので、これは今回ディオバンの件は薬事法の治験ではないので、こちらの臨床研究に関する倫理指針の対象に当たりますが、平成15年のときからプロトコール、IC文書の中でこういうものが求められておりますので、かなり厳しくその辺は評価してもいいかなと思います。
 一番下は罰則ですが、EUの場合にはこのような臨床試験に関するいろいろな規定を守らないときには、罰金や拘禁というペナルティーが与えられる規定になっているのはかなり厳しいですが、それ以外の国では、日本の場合は薬事法で罰則があるのは企業さんだけですし、臨床研究に関する倫理指針の場合は厚生科学研究費、文部科学省の科学研究費を受けられなくなる罰則はありますが、刑事罰、民事の上での罰などは規定されていないのが実態です。以上、簡単に御紹介申し上げます。
○森嶌委員長 何か今の時点で御質問はございますか。それでは、次に移ります。曽根委員から、医学系研究におけるConflict of Interestの考え方について、資料2-2に基づいてお願いいたします。
○曽根委員 産学連携に係る臨床研究と利益相反マネージメントについて紹介させていただきます。次のページを御覧ください。御存じのとおり、医学のミッションは、有効な診断法・治療法・予防法の確立であります。今回、ディオバンの問題がありましたように、更に臨床試験によって標準化や有益性を明らかにしていくということです。それらの結果は講演や雑誌発表によって医療現場で患者さんに還元される。しかし、そのプロセスには産学官の連携が非常に重要な点です。
 産学連携による医学研究を実際に実施する所は医科系の施設・機関です。ここでは当然、適正に実施するということですし、その後、学会、学術団体の会員として中立的な立場で成果を発表する。その成果は当然、国民、患者さんに還元されます。そのプロセスで、研究者は公明性・中立性を確保しなければいけないのですが、産学連携、企業との連携でないと、こういった新しい診断・治療・予防法の確立は不可能です。産学連携の活動にはいろいろな形態があります。そこにありますように、共同研究、受託研究、技術移転、指導、ベンチャー、奨学寄附金、寄附講座、講演会、セミナー開催など、そういった産学連携の活動が活発になりますと、企業から研究者への金銭的な利益が発生してきます。研究者にとっては社会的に責任を果たす気持ちと、私的な利益との間に利害の衝突が起こります。
 次のページを御覧ください。利益相反については、いろいろな領域で使われていますが、医学・医療においては、患者さんが介在するという意味で、かなり特殊な領域です。大学の使命の1つである社会貢献として、産学連携が非常に重要で、産学連携活動には利益相反状態が不可避的に発生するという認識をしていただきたい。利益相反は、広義あるいは狭義的に定義がなされています。狭義的な意味では、研究者又は大学が産学連携活動に伴って得る利益と教育・研究という大学における責任との間の衝突、というように定義されます。「利益相反」という言葉のこの訳語は本当にいいかどうかは私も疑問に思っており、Conflict of Interest、国際的にはCOIという言葉を使ったほうがいいのではないかと思います。臨床研究において、企業がスポンサーとなる場合はたくさんのレポートがあります。企業スポンサーの臨床研究論文にはバイアスが掛かりやすいことが指摘され、「Reporting Bias」といいます。特に、Randomized Controlled Trial50論文についてレビューした報告によると、80%にバイアスがある。内容的には有効性を過大評価した報告であり、また、有害事象については過小評価された記載であることが指摘されています。そうなると、当然、間違った根拠に基づく医療に結びつき、犠牲者は患者さん、それから、医療費の無駄ということになろうと思います。今回のディオバンのケースは少し質的に違いますが、その1つに入ると思います。
 先ほど藤原先生から報告がありました、1999年に米国ペンシルバニア大学で起こった問題事例です。これはその実体概略化したものです。このB教授は、ペンシルバニア大学病院に臨床試験の申請をして承認されたのですが、自ら立ち上げたベンチャー企業との関係については開示していなかった。実際にB教授が自分で作った治療薬を自ら治験責任医師として臨床試験を行って、複数の子供さんが亡くなったということ調査が入りました。その結果、B教授は深刻なCOI状態であることが明らかになった。こういった利害関係があらかじめ明らかにされていれば、倫理委員会はB教授を治験責任者にはしていなかったと思います。
 次に、米国と日本との臨床研究に係るCOIマネージメントの経時的な比較をしたいと思います。米国は、1980年、Bayh-Dole法によって産学連携の推進が非常に進み、いろいろなベンチャー企業が作られ、経済的にも大きな効果をもたらしています。その10年後、産学連携が進んで研究者に、いろいろ深刻なCOI状態が起こってきたこともあり、NIHと全米の医科大学がCOIをマネージメントするためのガイドラインを出しています。その後、学会などでも1990年の後半から精力的にCOIマネージメントを行っています。先ほど言いましたように、1999年にゲルシンガー事件が発生してからは非常に厳しいCOIマネージメントが米国では行われています。
 日本の場合は、残念ながら、COIマネージメントの取り組みが大体1516年遅れています。科学技術基本計画又はTLOが、19961997年度に産学連携推進という形でスタートしました。しかし、産学連携が進むといろいろな問題、今回のスタディでも2000年の始めですが、日本は全くCOIという概念さえ導入されていなかったという背景があります。2006年に文部科学省の検討班で臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドラインが公表されたのが初めてでした。米国から16年遅れています。その2年後、「厚生労働科学研究におけるCOIの管理に関する指針」が出まして、2008年ぐらいから、がん関係、がん治療関係の学会でCOI指針の策定が行われてきました。2003年に臨床研究の倫理指針の改訂版に初めてCOIが追加され、これは患者さん、被験者を守る立場からの記載です。2011年に、日本医学会がCOIガイドラインを公表して学会として現在120ある各分科会に、指針を作ってほしいと要請をしました。そして、2011年に製薬協から透明性ガイドラインが出された。日本の場合、COIマネージメントはこのように米国から非常に遅れているという事実は御理解いただきたいと思います。
 次のページは、日本における利益相反に関わる問題事例です。2004年に大阪大学でベンチャー企業が立ち上げられて、そのアンジェスという会社の未公開株の公開化された時点での売却問題がありました。その後、2007年、2008年と、このように寄附金にからむ問題がマスコミに取り上げられていますが、その後はそう大きな問題は出てはおりません。
 次を御覧ください。時系列で、我が国の産学連携におけるCOI問題の事案をまとめています。文部科学省のガイドラインが出た直後の2011年に、製薬協から透明性ガイドライン、それから、医学会のCOIマネージメントのガイドラインが公表されました。今回、バルサルタンの臨床研究事案が表に出てきました。この場合には、奨学寄附金、労務提供開示の申告違反ということがあります。COIとは異質な問題である人為的なデータ操作の不正という問題を抱えてのことです。
 次に、お手元に追加とした資料です。現在、日本医学会がガイドラインの中で、会員が学会発表や論文発表において自己申告という形で開示(雑誌では公開になりますが)、すべき項目、基準例、基準額の例示をしています。このように、役員・顧問職持っている株、特許使用料、講演料、原稿執筆料、研究費、奨学寄附金、これらについて、ある開示基準額を設けて自己申告の形で回時をして求めています。裏面にあるとおり、学会やいろいろな講演会におきましても、申告する項目があれば、研究内容に関連した企業との金銭的な関係について、聴衆に対してきちんと開示することになっています。
 次に、COIマネージメントの実際について。基準額を決めて開示・公開すればそれでいいというわけではありません。学会並びに各医療機関においては、申告された内容に基づいてCOI状態の程度をよく把握して深刻化しないようにマネージメントする。マネージメントの基本としては、産学連携でお金が動かない場合には問題はほとんどありませんが、そうでない場合には常にグレーのゾーンにある訳で、できる限り顕在化させない、弊害が起こらないようにマネージメントしていくことがポイントです。それができないと、不正・ねつ造という形で、結果的に被験者や患者さんの不利益に至ることがありますし、研究の真実性、客観性、透明性がなくなります。また、問題になると、その機関に対する社会からの信頼性の喪失です。こういったことが起こらないよう、予防的にもきちんと対応していくには、COIマネージメントをきちんとやっていくことです。
 次に、実際にCOIマネージメントすべき機関はもちろん大学、医療機関ですが、医科系の大学に対して、毎年、COI指針を策定しているか、指針の策定をしてマネージメントしているかについてアンケートを取っています。2006年に文部科学省の検討班が出した指針策定のガイドラインによって、明らかに医科系大学では指針作りがなされています。学会についてはまだまだ十分に指針作りがされていません。2011年に日本医学会からガイドラインを出しまして、その後、毎年20%ずつ改善されていますが、昨年度の段階で6割ぐらいで、逆に言いますと、COIに対する理解、それから、組織としてのマネージメントの重要性が十分に理解できていないことを示しています。
 次に移ります。既に御存じのとおり、製薬協の透明性ガイドラインです。我々が研究者として考えなければいけないのは、製薬企業は販売促進で資金を回収して利益を上げなければ存続しないので、アカデミアに対する投資とその回収という形で動いています。この左側の部分はアカデミアサイドで、研究者や医師の役割は新薬の開発から医療現場まで非常に大きいということが言えます。特に、左の下のほうにあるとおり、企業主催・共催の講演会数は年に約10万回ぐらいありますし、講師・座長の数となりますと約30万人ぐらいの人が貢献しています。これは決して悪い構図ではなく、日本の医療が日本全国津々浦々で質の高い医療が行われるためには、啓発的な講演活動は重要であり、その効果は非常に大きなものだと思います。しかし、このプロセスで発表内容に企業寄りのバイアスが掛かることがあっては問題があります。
 次のページを御覧ください。Kyoto Heart Studyをピックアップして、COI指針との関連について時系列で出しています。2000年のヘルシンキ宣言ではCOI関連が含まれている。2003年、臨床研究の倫理指針が公表され、2006年に文部科学省の検討班から、COI指針のガイドライン公表がありました。2007年にLancet、これはJikei Heart Studyが発表しています。その後に、Kyoto Heart Studyが次々と報告されています。2010年に日本の内科学会がCOI指針の試行、これには日本循環器学会も含まれています。日本の場合にはCOIの指針作り、またそのマネージメントという意味では国際的な取り組みからかなり遅れていることが、今回の利益相反の申告違反につながっているのではないかと考えています。
 次は、実際のCOI disclosureの記載です。Jikei Heart StudyKyoto Heart Studyにしても、欧米のきちんとした雑誌にはCOIのディスクロージャーがきちんと決められていて、著者はここではきちんと対応しています。Novartis Pharmaの「Unrestricted grant」という形で記載されています。しかし、日本の雑誌の場合にはそれが無視されている、あるいは、Conflict of Interestという言葉があっても「No COI」という記載で、これは研究者自身の認識、理解が乏しかったということです。それから、ノバルティス社の元社員の記載については、これは元社員の利益相反の違反というよりは、こういった論文の場合は、corresponding authorあるいはprincipal investigatorが一緒に研究した著者らのCOI状態の申告について全ての責任を負うわけです。そういう意味では、principal investigatorあるいはcorresponding authorの申告違反という形で考えられると思います。所属を会社名ではなく大阪市立大にしたことについては、これは御本人に対しての詐称と言われても仕方ない違反行為であると考えています。
 最後に、現在の日本の医学研究に係るCOIマネージメントの取組状況です。施設に対しては、COI策定ガイドライン、そして、現在、新しく更にマネージメントという形でのガイドラインが全国医学部長病院長会議で進められていまして、ほぼ最終案が出来上がり、今年の末ぐらいには公表できる段階にきています。また、先ほど藤原先生が言われたように、厚生労働省の臨床研究倫理指針改訂版。それから、日本学術会議でも取組をされています。これは研究の健全性ということで既に報道もされていますが、更なる検討がなされると聞いています。
 このように、各学会、それから、実際に臨床試験を実施する機関が、COIに関してきちんとした形での指針作りやマネージメントを行っていくことにより、適正な産学連携による臨床研究の実施と科学性・中立性を確保した成果の公表ということが重要です。基本的には、産学連携の金銭的関係については、利害関係についての透明性を確保することが重要であり、個人レベル、また組織レベルで説明責任を果たしていくことが今後より一層重要だと思います。以上です。
○森嶌委員長 ただいまの説明につきまして、今の時点で何か御質問ございますか。
○花井委員 世界の情勢について教えてください。私たち患者の立場からいくと、例えば臨床研究や治験に参加するときに文書説明がありますが、そこでこの研究はこのお金でやられているということも被験者が知られることになっているというのが大体世界の状況だという理解でよろしいのですか。それとも、インフォームド・コンセントの中身については国によってバラつきがあるのか。そういうものはどうなのでしょうか。
○曽根委員 患者さんが知ることができるという意味では、外国の場合は論文を読んだりなどもできるので、外国の場合にはICMJEといって、世界的に編集委員長の集まりの会議があって、LancetLehman JournalBritish Medical Journalなどが統一的に同じCOIDisclosure Formを作って著者に書かせていること、それから、その御本人が申請した内容については実際にHPなどで公開されているから見える。そういう形で著者のCOI情報を取ることは自由にできると私は理解しています。
○花井委員 患者からすると、お世話になっている主治医の先生に、こういうものはどうだろうと言われると、なるべく協力したいと思うのですが、実際には、何となく信頼していたけれど、実は先生は研究にこれだけの金が入ったということを知る。それで参加するかしないかを判断するかは別として、そういった、臨床研究に参加する段階でもその説明を、ある程度、全体の研究がこのようなことでやられているということがディスクロージャーされているのでしょうか。
○曽根委員 COIのマネージメントの重要性を話していく中で非常に残念に思うことは、企業とのいわゆる産学連携活動について、お金が動けば汚いとか、不正をするのではないかという考え方が日本は強いように思うのです。むしろ、そういう産学連携活動の中できちんとした形でお金が動くことが公開されている条件であれば、そういう活動をしている医師や研究者が尊敬される環境を作っていくことが重要ではないかと思います。一番重要なことは、産学連携しないと新しい診断薬、治療薬、予防薬は出てこないという事実。患者さんの立場からは、どちらかと言えば、企業と関わる医師は何か悪いことをするのではという気持ちがあると思いますが。
○花井委員 決してそういうことではなくて、今は大分改善しましたが、お世話になっている先生に曖昧に説得されて乗ってしまうケースも。今は文書でやっているので、そういうことは治験ではなくなってきているのですが。それは米国でもそうですし、研究費をたくさん確保できる先生は優秀だということなので、お金が動いているから悪いということはないのですが、全くそれが分からないところが、ディスクロージャーがないことが問題だと思うのです。海外ではそれを知り得るということですよね。どうなのですか。日本では参加する時点で知り得ないところがあります。
○曽根委員 海外では、あるNPOが、あらゆる企業から公表されたデータ、医師に対してどの会社が幾ら払っているかを全てデータベース化して、ホームページの中で何州の何医師と入れると全ての金銭関係の情報が出てくる、見えるという仕組みはできています。
○花井委員 そういう仕組みがあると患者も安心して参加できると思います。ありがとうございます。
○藤原委員 曽根先生の資料で1点だけ訂正しておいたほうがいいと思います。倫理指針で、利害の衝突や利益相反などが盛り込まれたのは、私が今回見直してみますと、最初の2003年、平成15年から臨床研究の倫理指針には入っています。昔から入っているという感じがします。
 それから、各国の制度を紹介していますが、皆さんに意識しておいていただきたいのは、ディオバンのときの臨床試験、Jikei Heart StudyとかKyoto Heart Studyがやられた時期をしっかり考えなければいけないのです。ClinicalTrials.govなども調べてきたのですが、Jikei Heart Study20021月に患者登録が始まっていますし、Kyoto Heart Study20041月に始まっています。臨床研究に関する倫理指針は2003年からですから、それ以前の段階では、医師が臨床研究に参画するときに頭の中に意識しなければいけないのはヘルシンキ宣言だと思います。先ほど私のプレゼンでも少し話しましたが、2000年から利益相反などの話はきちんとヘルシンキ宣言の中に盛り込まれているのです。花井さんが質問されていたインフォームド・コンセントの中にも、B-13の中で、Source of FundingAny Possible conflict of InterestInstitutional Affiliation of the Researcherですね、研究の資金源、存在する利益相反、参画している研究者がどこのinstitutionの所属なのか、そういうことはきちんとインフォームド・コンセントの中でしなさい、プロトコールの中にも書きなさいということが、2000年のヘルシンキ宣言の中には入っています。それを振り返ってみると、Jikei Heart StudyKyoto Heart Studyも臨床研究に関する倫理指針には関係ありません。それから、欧州でEU臨床試験指令が作られたのは2001年で、発効し始めたのは2004年ぐらいですが、2000年のヘルシンキ宣言ではかなりこの辺が詳しくなっているので、試験が行われた当時は、普通の医者なら問題になっている所は意識しておかなければいけないのだろうと今回改めて思いました。
○河野治験推進室長 事務局から、1点、先ほどの花井委員からの御質問の関連で補足いたします。現行の臨床研究倫理指針の中においても、被験者からインフォームド・コンセントを受ける手続の中で、研究者等は被験者に対して資金源や起こり得る利害の衝突、研究者等の関連組織との関わりなどについて十分な説明を行わなければならないといった規定があります。日本の中ではそのような対応がもう既になされていることが言えると思います。
○宮田委員 曽根先生に1つ質問があります。Reporting Biasというのは大問題だと思うのですが、これはCOIを厳密化する、マネージメントを厳密化するだけで防げるものなのですか。海外ではどのような手段が講じられているのでしょうか。
○曽根委員 Reporting Biasというのは、臨床研究のファンディングが企業からであれば人間の場合起こるのだという理解でマネージメントをすべきだと私は理解しています。性善説よりはむしろ性悪説。だから、マネージメントが必要だということです。その場合に企業との利害関係の開示が非常に重要です。開示あるいは公開ですね。最初から企業との金銭の関係について開示、公開しておけば、その研究者は報告あるいは発表する場合に、自律的に中立的な立場で発表するのではないかということが、1つの大きなポイントです。それから、臨床試験であれば、先ほどのゲルシンガー事件、ペンシルバニア大学の場合には、あの遺伝子治療薬が効けば儲かるということをB教授は当然考えていたのです。効けば薬になる。しかし、結果的に臨床試験の途中で見付かったのでペナルティとなったのです。あの遺伝子治療そのものの臨床試験の実施は正しいという理解でいいと思うのです。しかし、COIマネージメントは、疑惑を招かないようにするためには、深刻なCOI状態にあるB教授は臨床研究チームのメンバーになっても単なる分担医師としてであり、責任医師(Principal Investigator)はベンチャー企業と関係のない人にすることがマネージメントです。
○宮田委員 公開だけでは不足ということですね。
○曽根委員 公開だけでは駄目です。
○宮田委員 分かりました。
○森下委員 曽根先生に教えていただきたいのです。利益相反委員会について、どこまでディスクロージャーすべきか。臨床研究を実施している主立った研究機関は利益相反委員会を持っていると思いますが、研究者の利益相反を明らかにすることとは別に、利益相反委員会でどのような審議を行ったかということに関して、情報公開をどのように考えたらいいのでしょうか。
○曽根委員 それは、日本医学会などのガイドラインなどを是非見ていただきたいと思います。基本的には、利益相反委員会の役割は、審査をして、臨床研究をストップするかどうかというものではなく、いかにマネージメントすれば臨床試験ができるかという観点からアドバイスするなり調整をするのが役割です。その調整がどうしてもできない場合、その臨床試験については、実際にやった後に結果が出て公表された時に、著者も認めた組識・機関として説明ができないということが予想されれば、倫理委員会に臨床試験ストップというシグナルを送ることができる。最終的に臨床試験がゴーかストップかというのは、倫理委員会が決定するべきだという理解です。あくまでも臨床試験推進という立場から深刻な利益相反状態にならないようにアドバイスを行うのが利益相反委員会であると考えていただくとよいと思います。
○森嶌委員長 最後のほうで、再発防止策がどうあるべきかという議論もしていただきますので、他の委員の方にも、再発防止の観点からも利益相反委員会についてお考えいただきたいと思います。まだ質問がおありだと思いますが、その際に質問も含めてお考えいただきたいと思います。
 それでは、議題2「関係機関からのヒアリング」に移ります。まず、この検討委員会が何のために関係機関からヒアリングをするのかということですが、前回の会議に出ましたように、本検討委員会の設置規定第1条では、「ノバルティスファーマ株式会社が販売する降圧剤バルサルタンに係る臨床研究事案について、研究結果の信頼性や研究者の利益相反行為の疑い等から社会問題化していることを踏まえ、当該事案の状況把握及び必要な対応等を検討する組織を定め、もって同様の事案の再発防止を図ることを目的とする」と、規定しています。つまり、この事案が社会問題化していることを踏まえまして、この事案について状況を把握し、それに基づいて、今後どのような対応策を取って再発防止を図るのかということが、この検討委員会のマンデートになっています。
 まず、この事案がどういう事実に基づいているのかということを、きちんと押えておかないと、十分に効果的な再発防止策の検討ができないということです。どのような事態があって問題になったか。そのような事態に対応するにはどのような防止策を考えなければならないのか、ということを明らかにすることが必要です。そこで、ヒアリングはこの事案そのものを前提とした上で、臨床研究実施に際しての構造的な問題を解決するためのケーススタディだと捉えていただきたいと考えています。
 そのような観点から、ヒアリングでは、臨床研究の発案の段階で、誰のイニシアディブで、誰がどのように関与して臨床研究のプランが始まり、プロトコールが作られていったのか。そして、臨床研究はどのように実施され管理されていたのか。データの整理はどのようにしてなされ、その管理はどのようにしてなされていたのか。論文がどのようにして作成されているのか。もちろん研究の主体は大学でしょうけれども、そこに製薬会社がどういう形で関与してくるのか。製薬会社が資金を提供する、先ほど、conflict of interestの話が出ましたが、どの段階で製薬会社が資金提供を決定するのか。研究をどのように実施していくのか。この事案について、以上挙げたようなプロセスがどのようになされたのかということを、それぞれのヒアリングにおいて、まず事実を確認していくことにしたいと考えています。それぞれのステップにおいて、誰がどこで、どのように関与していたのか。意思決定について、誰がどのようにして行ったのか。当該事案が行われた当時の状況を明らかにしたいと考えています。さらに、本日のヒアリングでは、現在の状況と当時の状況とを比較して、各機関が認識している問題点と今後の再発防止策を示してもらう予定でいます。取り上げるのは3つの機関ですが、当時どのように行われていたのかを点検して、現在どのように再発防止策をそれぞれの機関がお考えなのかを、ヒアリングでできるだけ明らかにしたいと考えています。
 本日のヒアリング及び質疑を踏まえて、今後、更に詳細な調査や個人へのヒアリング実施につなげたいと考えています。本日、後ろにおられます参考人の皆様も、そのような趣旨に沿いまして御説明いただきたいと思います。また、前回のヒアリング資料も参考資料として配布されていますので、必要に応じて説明に活用してください。
 まず最初に、資料3-1に基づき、ノバルティスファーマ株式会社の川音参考人から説明していただきます。時間は15分程度と考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
○川音参考人 ノバルティスの川音と申します。どうぞよろしくお願いいたします。この度、ノバルティスから販売しておりますディオバンを服用されている患者様とその御家族の皆様、そして医療従事者の皆様に多大なる御迷惑をおかけしましたこと、不安を与えたことにつきまして、改めてこの場でおわびさせていただきます。本日は臨床研究の流れと、その役割分担についての説明を求められましたので、私から会社を代表して説明させていただきます。なお、私は本件の社内の調査委員会のメンバーの一員でもございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、お手持ちの資料に沿って説明を始めます。パワーポイントの資料として、左下のページ番号でお話させていただきます。まず最初に、4ページから入ります。4ページにはタイトルとして、「医師主導臨床研究:一般的な流れ」ということで、全体像が分かる形で図示しました。臨床研究の場合、試験の研究の立案は大学の先生方がされるという理解です。その後、実際に研究計画という形でドキュメントにまとめ、データ入力、データの精査・解析を行って論文までいく、という全体の流れがあるかと存じます。このページにおいては、バルサルタンの医師主導臨床研究で多く用いられたPROBE法を前提に書いておりますので、各種委員会がありますが、安全性等を判定する委員会のみならず、PROBE法ではエンドポイント委員会が重要な位置付けかと思います。弊社はデータも研究に関わる記録も一切持っておりませんので、この図については我々の調査並びに大学から出ている調査記録を見させていただき、さらに、各論文の内容から、こういった形で各委員会が関与していただろうという推定になっております。
 続いて5ページに移ってください。この流れに対して臨床研究に携わる主な方々が、どのような役割分担をするかをまとめました。左側にありますとおり、臨床研究を統括する先生が全体の責任を持ち、各プロセスで意思決定を行っているという理解をしております。そこでは実際にデータを提供する先生方も、データ入力という形で関与されるでしょうし、データマネジメントを管理される大学側の施設なり、医局の先生方の役割もあるかと思います。統計解析を担う者については、プロトコールの作成においては、例えば例数設計についても関与するでしょうし、データレビューにおいては統計解析の立場で、異常値の扱いの方法論についての提言をすることもあると思います。以上をもちまして、各種関係する先生方あるいは関与するメンバーの方々が専門性をいかし、互いに連携を取って研究が進むものだと思っております。参考までに、右側に開発治験を行う場合の役割分担を入れました。
6ページに移りますと、データそのものの整理と言いますか、データをどのように固定していくかというところを、更に深掘りして役割分担を出しました。データを固定するにあたってはデータの取扱いの規定を作り、それに従ってレビューを行い、データベースを固定するという流れかと存じます。それについても医学的な観点では、研究を主管される大学の先生方がリーダーシップを取られるでしょうし、一方でデータの扱いについては、解析をする人間がコメントを挟む部分も当然あるかと思います。そういった意味では互いの専門性をいかし、ここでも連携が重要なものというように、私どもは理解しております。
 続いて、7ページに移ります。ここではバルサルタンの医師主導臨床研究に、ノバルティスの元社員がどのような形で関わったかというまとめを、改めて入れさせていただきました。詳細については、前回の委員会での私どもの報告書を参照していただければと思います。元社員は、PROBE法が行われた上4つについては、各先生方からの要請に基づき、委員会に出席するといった実態がございました。解析についても求められる形で対応したということが、本人の供述からも確認できております。ただ、一方でSMARTについては状況が異なります。これは別な元社員が実際に大学の研究員という形で先生にお世話になりながら研究のお手伝いをしたということで、ある意味、全体的には関与の度合いはあったということになるかと思います。
 続いて、当時のバルサルタン臨床研究における問題点の要約ということで、8ページにまとめました。まず1点目が利益相反です。基準・規制が明確でなかったという背景はあったかと思いますし、その理解が十分でなかったことも当然あるのですが、まずもって透明性のない形で会社が対応してきたことについて、改めてここでおわび申し上げます。
 もう1点は、データの品質確保という視点です。私どもが調査した範囲と、大学から出ている報告書を見させていただいた限りにおいては、やはりデータマネジメントのプロセスが脆弱であったと考えられます。データの解析までに移る過程がよく見えていないということで、いつ固定されたのか、解析用のデータファイルがどのぐらいの種類があるかも分からないというのが、1つの問題点としてあるかと思います。
 それから、本来であれば実際に解析計画が作られるものだと思うのですが、どうもこれはなかったのではないかと思いますし、研究者が互いに結果を見ながら、どういう形がいいのか、実際に追加としてどういうものが必要なのか、あるいはデータも補充が必要なのかという議論が、ひょっとしてこの最後のステージでもやっていたのではないかという推定はあります。その上で大事なことは、本来であれば第三者によるチェックがきちんと働く形にしておかなければいけないのですが、記録の保管も含めて、本来、先生方が最初に設計した段階で準備をしておくべきこと、決まり事や実際のシステム上の管理をどうするかといった点について、余り十分な議論がなされなかったのではないかと思われ、そのような時代背景は理解いたします。
 続いて、事例として御理解を深めていただくために、9ページと10ページにデータマネジメントの重要性、特に解析結果を得るための解析用データセットを作るまでの過程で、事前の取組がいかに重要かという整理をさせていただきました。9ページにはフロッピーディスク等が図柄で描いてありますが、そこに至るまでにはプロトコールで規定でき得ないような欠測値が出た場合や、外れ値が出た場合等の取決めを、この段階でしていたと思いますので、この辺も大学のほうで記録が残っているのであれば、十分見ていただくと、品質保証という観点では非常によろしいのではないかと思います。
10ページは事例としての更なる補足です。解析する上で欠測値があれば、その欠測値をどのような形で補填するのか。その前段階で得られているデータで補完する場合もあるでしょうし、複数のデータがある場合には、平均値を取る方法もあるでしょう。いずれにしても、これは決め事です。あらゆる決め事が研究が進む中で決まっていったものと思いますし、その決め事を加味してカルテと照合することが、よりよい信頼性の確保、データの確認になり得るのではないかと思っております。
11ページでは、文献からの情報を提供させていただきます。今回、人為的なデータの操作があったのではないかという御報告をいただきました。もし、そうであるならば、それ自体はあってはならないことですし、許し難いというのは本当にそのとおりです。ただ、その問題は横に置かせていただいたとしても、通常、臨床研究をやる上で、ある程度のヒューマンエラーが伴うという前提は御理解いただきたいという意味で、外の文献を引かせていただきました。大量のデータを扱う、多くの方が携わるということで、実際の工程の中でヒューマンエラーは避けて通れないと思いまして、93報の文献を調査したところ、平均では9.6%のエラー率という文献が発表されておりました。その中で最大値を取れば、50%ほどのエラーが内在する場合もあるという報告でした。
 このような人為的エラーをできるだけ排除するために、どのようなことが必要かと言いますと、12ページにまとめたような、いわゆるデータの保証のための各ステップごとの手法があります。これは私どもがやっている、開発治験で取り入れられているものを事例として書かせていただきました。各ステップごとに二重三重に確認する行為を行っておりますし、第三者による監査という意味合いでは、ランダムに選んだ病院を訪問させていただいて、データの整合性を確認させていただくこともあります。また、会社の中のシステムについては「システム監査」と称して、定期的にチェックを行っております。
13ページに移ります。こちらは先ほどまで述べたデータの品質と言うより、いわゆる試験そのものの信頼性の確保という点でのまとめを入れました。バイアスが入らない形での研究結果が最も望まれる形ですので、二重盲検比較試験で実施することがもちろん望まれておりますし、それが最高の方法だとは私どもも理解しております。ただ、一方で今回PROBE法が採用されましたが、時には比較試験の中で二重盲験が物理的にというか、技術的に見分けの付かないプラセボを用意するという準備段階での困難さを考慮した場合、別法が使われることがあるかとは思います。その場合においてはより一層、バイアスの排除が重要になってきますので、先ほど述べたようなデータの扱いの取決めを早め早めに決める、あるいは実際に独立した第三者を中に入れて、バイアスのコントロールをすることが、より一層重要になるかと思います。
 以上が品質に関わる部分での、私どもからの報告です。ちょっとお時間をいただいて、今後の私どもノバルティスの取組についても、少しだけ紹介させていただきます。14ページにはこれまでの臨床研究の環境変化、あるいは今、期待されていることについて、私どもの理解でまとめました。やはり産学連携を進めていく中では、透明性を持ってノバルティスができることは前向きに取り組みたいと思っております。その1つの例として、前回の委員会でも触れましたが、委受託契約型の臨床研究に取り組んでおります。これは2010年からノバルティスの独自の考えで導入しており、これまで16研究ほど契約が進んでいるという状況になりました。
16ページに、契約型の研究の場合のコンセプトについて書かせていただきました。これはSOPから取っております。ノバルティスは、医師主導臨床研究の提案には関与いたしません。飽くまでも先生方の独立した提案でなければならない。それから、金銭面については透明性を持って研究の詳細を教えていただき、それに見合う研究費用を契約により提供させていただきます。ノバルティスの社員は一切データのハンドリングや解釈、試験の遂行には関わらないということもお約束しております。さらに、これは一つ大事なことではあるのですが、研究成果については結果が良くても悪くても公表できるように、実施された先生方へのフォローアップをさせていただいて、確実に研究成果が外に出るようなフォローアップをしていきたいと考えております。
16ページと17ページには、概略ではありますが、その手順について出させていただきました。臨床研究の提案があったら、その研究の科学的意義やそれに対する費用の妥当性等、全て私どもが検討してノバルティスのGlobal本社による検討も加えた上で、賛同できる場合はその委受託契約の提案をいたします。その上で17ページにありますように、プロトコールを受領し、その中で科学的な議論、そして、もし私どもで建設的に研究成果がより良いものになるアイデアがあるようなら、先生方に提案させていただきます。ただし、プロトコールの決定は、飽くまでも先生方ですので、その内容の最終決断は先生方に委ねております。試験の遂行の中では安全性情報を適宜入れていただいて、規制にのっとり、当局への報告を私どもの責任としてやらせていただきます。最後には試験終了後、論文になるもの、あるいは報告書になるものについて見させていただいて、確実に公表されるように私どもとしてもフォローいたします。
 最後になりますが、まとめとして18ページと19ページで触れさせていただきました。1点目です。ノバルティスは今回の事案において、データやデータに関わる資料を持っておりませんが、当時の状況であったとしても、あるいは開発治験との対比の中でも、飽くまでも一人が何かを背負って一方的にやることは不可能です。互いの専門性をいかしながら、研究を主管された先生の指導の下で、しっかりとした形が動いたのではないかと、今でも思っております。一方で、ヒューマンエラーというものが確実に内在していると思いますので、今までもあるいは今後も明らかになるであろうエラーの部分については、それが研究の成果にどういう影響であったのかということについて、評価すべきと考えております。それから、私どもは今後も真相究明に向けて全力で努力してまいります。
19ページがまとめの2つ目です。ノバルティスは、2010年から推進している契約型の臨床研究を進めてまいります。これによって、透明性と独立性を担保していきたいと考えております。最後に、臨床研究の品質確保は大きな課題ではあると思いますが、私どもノバルティスに許されているのであれば、是非とも協力したいと考えております。この問題については、ノバルティス本社も重要な案件と捉えております。全世界で築いてきた経験や知識を、日本支社を通じて提供したいと申し出ておりますので、私どもが協力できる部分については、是非とも前向きに取り組ませていただきたいと思います。御清聴、ありがとうございました。
○森嶌委員長 本日は御協力いただきましてありがとうございました。それでは、これから質問に移りたいと思います。臨床研究は現在は委受託契約になっているということですが、当該の事案は医師主導臨床研究です。しかし、ノバルティス社が幾ら大きな会社でも、医師主導型で医師が何か提案してきたからというだけで、2億円というような多額のお金を出すはずがないと思うのですが、2003年当時に、大学側からどういう提案があれば、ノバルティス社のどこのレベルでどういう審査をして、最終的に誰が、お金を出すことを決めていたのかということについて、まずお伺いしたいのです。その点はどうなっていましたか。大学によって違いますか。
○川音参考人 実情は大学によって異なっておりました。各先生方から口頭レベルでお話を伺ったときもありますし、私どもが知り得ている情報から何らかの情報、海外ではこういう臨床研究の事例がありますという紹介があったこともあるでしょう。個々にどの程度の情報が互いに交換されたかについては、詳しい記録がないので分かりません。
○森嶌委員長 細かい点はともかくとして、慈恵医大と京都府大からそれぞれお話があったときに、どのレベル、例えば、お宅の本社のどのセクションの課長さんの所で話を聞かれて、それを誰がどういう審査をして誰が最終的に意思決定をしたのか、京都府大の場合はいかがでしょうか。
○川音参考人 前回の委員会で発表した、コンプライアンスを担当しております永田が同席しておりますので、永田からお答えいたします。
○永田参考人 慈恵医大に対しては2002年から2007年まで、少ない年の2007年で2,100万円、試験の患者登録が開始された年が4,000万円、合計18,770万円です。京都府立医大ですと、2003年から2012年の間で最も少ない額、2012年で580万円、一番多いときで2004年の6,000万円、合計38,170万円を寄附しております。これらの寄附ですが、大学から口頭で寄附の御依頼があって、最終的には私どもが社内決定をして、寄附の申入れをそれぞれの大学にします。京都府立医大の場合は2007年まで財団法人京都府医学振興会がございましたので、そちらに寄附をしております。お尋ねの社内の決定のプロセスですが、金額のレベルによって承認の権限が変わっております。基本的に医薬品事業本部長、いわゆるディオバンに関わるビジネスの責任者、若しくは社長が決裁をしております。今回の件がございましたので、寄附関係の書類を全て点検して、今申した承認権限者が最終的に寄附の決裁をしております。
○森嶌委員長 私も大学にいたのですが、企業はその企業の利益に関わりのないことにはそう簡単にお金をくれません。この場合、単なる寄附ではないですね。やはりノ社の薬の臨床研究をするのですから。私は医学者ではありませんが、1,000万円でも、1億円でも、「臨床試験しますからお金が必要」と言うには、どのような計画で、どういう試験をします、何例やりますということを言うはずです。ノ社で意思決定権限のある人がどこまで細かいことをチェックしているかは別として、何をどうやるかをどこかでチェックしているはずですね。どのようなチェックをどのうように社内でしておられたのでしょうか。
○永田参考人 第1回の検討委員会のときに慈恵医大から、試験が開始される当時の経緯のお話がありました。私どもは2番目に声をかけていただいて、結果的に3,000例の症例数で試験をやることになったと思います。その間、もちろん私どもはARBとしてのバルサルタンの研究成果に期待するところがありましたので、研究者の先生方とそういうお話もしました。また、3,000例という規模ですので、初年度で4,000万円ですけれども、恐らくある程度、臨床研究を支援するような額を想定していたのではないかと、今の時点では推定しております。残念ながらそこのところで、社内でどういう話合いがあってというのは、2002年のそういう社内記録が残っておりませんので、開始したときの社内決定について、今日申し上げることができません。
○森嶌委員長 それでは現在の話ですが、例えば16ページの委受託契約について伺いますと、研究の確認をすることになっています。Study concept sheetの作成を依頼して、受託者にどれぐらいの能力があるかなど、全部チェックして、場合によっては本社にまであげて、チェックすることになっています。当時、現在のようにきちっと整備されていないとしても、商売に関わるわけですから、これとほぼ近いことはなさっていたのでしょうね。つまり、「どんなことをやりますか、3,000例やるのに、どんな計画ですか」ということを、当時どこまでやったかは別として、研究結果は、社としての将来の販売に関わるか可能性のあることですから、今日と近いような形でチェックをして、最終的には、先ほどおっしゃったように、本部長が決裁するという仕組みになっていたのですよね。
○永田参考人 委受託研究の場合、研究者の先生方から費用の考え方についてお示しいただくのですが。
○森嶌委員長 いや、費用のことではありません。最終的に出すお金が高いか安いかということではなくて、最終的に会社がお金を出すか出さないかという決定をするときに、どういうスクリーニングを経て決定するのかを聞きたいのです。会社はどれだけ研究内容に関与しているのか。単なる慈善事業ではありませんから、研究に関与したり、少なくとも経過をフォローしておられるでしょうね。また後で細かいことは質問します。それは慈恵医大についても京都についてもやっておられるのですか。
○永田参考人 冒頭に申しましたように、当時の社内検討の記録が残っておりませんので、これは飽くまでも推定です。海外でいろいろな研究が先に進んでおり、そういったものを日本でも同じように行って、ある程度の期待ができるような結果が出るのではないかというものは持っていたと思います。ただ、ファイナンス的にと言いますか、これだけの投資をしたらこういうリターンがあるという、そこまで考えていたことはないのではないかと思います。
○森嶌委員長 それでは、お金を出した後のことを伺います。慈善事業ではありませんから、会社としても、トータルとして億という金が出ているわけですから、出ている金がどう使われているか、研究の効果が出ているか、チェックする仕組みは何か持っておられたのですか。
○永田参考人 お言葉ですが、これは奨学寄附金ですから使途を制限しておりませんので、私どもとしては会社のほうには、こういう分野でこういうお金の使い方をしたというのは。
○森嶌委員長 いや、お金の使い方ではなくて、実際に研究がなされているかということです。どういう使途に使われているかではなくて、「こういう研究をします」と言いながら、もし研究が実際に行われていないというようなことがあったとしたら、会社としては、奨学寄附金だからそれでいいというわけにはいかないのではないですか。計画書にある研究が行われているかどうかということについて、何らかのチェックをする仕組みが会社にはあるのですか、ないのでしょうか。
○永田参考人 当時のJikei Heart StudyKyoto Heart Studyについては、チェックする仕組みというのはありませんでした。ただ症例の登録が、慈恵医大の場合ですと2002年からですが、症例が進んでいるというのは会社としても認識しておりました。
○森嶌委員長 どうやって認識するわけですか。
○永田参考人 これは当該の元社員本人が、非常に粗い感覚ですが、これくらいの程度で進んでいるというのを会社の上司に報告した内容についての記載があり、これを私どもが確認しております。
○森嶌委員長 それは確認する方法ですが、そうだとすると、ここで言う元社員のような人がいなければ、世界第2位のノバルティス社は、ほかの大学が相手の場合、金を出しっぱなしでしたか。たまたま元社員がいたので、その人が会社に忠実を尽くしたから、会社は分かっていたというだけの話でしたか。
○永田参考人 誠にお恥ずかしい話ですが、奨学寄附金の性質上、そういう面があろうかと思います。ですから寄附した所に関連する医師主導臨床研究について、つまびらかにそれぞれを見ているわけではございません。
○森嶌委員長 では、出しっぱなしということですね。
○永田参考人 言い方はほかにもあろうかなとは思うのですが、使途については限定しないというのが奨学寄附金の。
○森嶌委員長 私は使途がどうかと言っているのではなくて、出したお金に対する研究がなされているかどうかについて、会社としては出しっぱなしかどうかを伺っているのです。研究の経過について大学から報告してもらうかどうかはともかくとして、そういう仕組みを持っておられるかどうかということを伺ったのです。
○永田参考人 残念ながら持っておりませんでした。大学からの報告についても、当時は実際に何にどういうように使ったという報告をもらう仕組みそのものがありませんでした。
○森嶌委員長 それでは最初に大学から出されたプロトコールなどが、仮にまったくおかしなものだったとしても、一旦会社がお金を出してしまったら、後は何とも手の打ちようがないということですか。
○永田参考人 当時の話として極端なケースでは、そういうことがあり得たかと思います。ただ、現在は奨学寄附金を御提供した医療機関から、研究については簡単に報告をいただくようなことを、既に私どもでは導入しております。そういうことで確認することはできるかと思います。
○森嶌委員長 今のお話の延長線上ですと、後で研究の成果として論文が出て会社はそれを利用されたようですが、結果的にはデータが操作されていました。会社が後で研究成果を利用する場合があるとしても、研究のデータがどういうように扱われたのかということについて、奨学寄附金で出した以上、会社としては全く無関心だったということですか。
○永田参考人 会社としては、「日本で初めて」と言ってもよいほどの大規模な臨床研究でしたので、関心を持っていたというのは事実です。それから、成果がどうなるかは分からないけれども、結果について期待していたというのは、前回も申し上げたとおり事実です。
○森嶌委員長 しかし、関心を持って成果を期待していたというのでしたら、2億円も出しているのですから、一般の考え方ならば、会社として何かするのが当然ではないでしょうか。
○永田参考人 御質問の趣旨はよく理解しているのですが、やはり当時は仕組みというものがありませんので、会社として。
○森嶌委員長 仕組みがなかったら、何をなさいましたか。
○永田参考人 例えば進捗が期待したとおりに進んでいるか、何かプロセスに問題がないかというのは、当然会社としては知りたいと思うのですが。
○森嶌委員長 しかし、しなかった。
○永田参考人 これは仕組みそのものができるような形に。
○森嶌委員長 仕組みはいいのです。仕組みがないとおっしゃるのなら、実際には何もなさらなかったということですか。
○永田参考人 さようでございます。
○森嶌委員長 それで本部長が務まらないのではないかと思いますが、理解に苦しみます。ほかの委員もどうぞ質問をして下さい。
○山本委員 今の御説明で、元社員の立場についてです。この元社員がどういうように関わったかというのが、7ページに一応まとめてあります。元社員の関わり方は分かるのですが、では会社はどういうように関わっていたかというのが、全然見えてこないのです。この元社員は前回の説明だと、大阪市立大学の身分でこういう研究にタッチしていたという御説明があったと思うのです。一方で会社側の社員であるという身分もお持ちだし、今言われたように、上司に対して報告しているということですよね。ですから定期的に上司に対して報告する義務なり何なりがあったのではないかと思うのですが、その辺りはいかがですか。
○川音参考人 これまでの調査で私どもが把握していることで申しますと、元社員が各種委員会に出ることについては、委員会に出る旨の経費精算をしておりますので、上司はそういう所に行っているという事実確認はしていたと思います。ただ、もともと学術的な支援を行う部署であり役回りがありますので、もし必要性があって会社としての情報提供をするような場面であるならば、それは上司として当然の行為だろうと認識していた部分も感じられます。上司は元社員がデータに触るとか、解析を行うということについては全く想定もしておりませんでした。そこの部分については、今回の調査で初めて分かってきたところです。
○桑島委員 学術とおっしゃいましたが、この前のお話ですと、この社員はマーケティングですね。
○川音参考人 所属上はマーケティングですが、担当していた役割は学術情報提供です。
○桑島委員 そうすると、出張したからには出張費も出ているし、出張報告書も出ているはずですよね。それは残っているのですか。
○川音参考人 出張の報告書については、細かいものは残っておりません。
○桑島委員 出張させて記録を残さないというのは、会社の中では一般的なのですか。これはどこの組織でも必ずあるのです。
○川音参考人 目的と相手が分かるようなところまではありますが、詳細は内容による、場面によるということだと思います。
○桑島委員 御社ではそういうものが一般的ですか。出張旅費が出た以上、我々の病院でもどこでも必ず詳細な報告を書くのです。ノバルティス社では書かないのですか。
○川音参考人 報告は書きますが、その報告の詳細度合いというのが、繰り返し同じような目的になると、だんだんそれが簡略化されてきているという実態があったと思います。
○桑島委員 どういう仕事をしたか、業務内容は必ず報告するでしょ。それがないのですか。
○川音参考人 「委員会に参加」という範囲になります。
○桑島委員 それからもう1つ。このレポートは不十分なところがあると思うのです。前回の慈恵や京都府立の報告によると、9ページの流れを拝見しますと、これは一般的なことであって、Jikei HeartKyotoの論文から推定した会社の推定ですよね。こうなればいいなということですよね。
○川音参考人 はい。
○桑島委員 しかし実際にはそうでなかったことが、慈恵医大から報告されているのです。この中には神戸CNSという組織が入っていると。神戸CNSはデータの管理とか、元社員と非常に密接な関係があって、データのやり取りをしていたということがはっきりしているのです。ですから会社としては、神戸CNSの人をどのように把握していたかということです。
○川音参考人 今回の私どもの調査は、4月から本格的な部分が動いているのですが、その中で神戸CNSの存在をしっかり確認でき、元社員へのインタビューに基づき、翻って歴史的に当該元社員は、神戸CNSの者と面識があったことが分かりました。神戸CNSから私どもの元社員にデータが渡っていたかいないかについては、私どもの調査においては、それが渡っていたという証拠がなく、当該元社員もデータを神戸CNSからもらったことはないと供述しております。
○桑島委員 神戸CNSの人物は特定できているのですか。
○川音参考人 人物は特定できました。
○桑島委員 その人のインタビューは終わっていないのですか。
○川音参考人 私どもはできませんでしたが、本社が委託した第三者機関のメンバーは、神戸CNSの方と実際にインタビューを行っております。
○桑島委員 それはどういう内容ですか。
○川音参考人 私が知り得た範囲でいきますと、データについては各大学のほうに毎月送付していたという証言になっております。
○桑島委員 それだけですか。
○川音参考人 私が知り得ているのはそれだけです。
○桑島委員 そのインタビューの聞取りは、いずれ文書で書いてくれませんか。
○川音参考人 はい。
○森嶌委員長 もう一度確認いたします。今回の事案に関しては、神戸CNSを含めて、元社員が個人的にやったことであって、ノ社としては直接関与していないということですね。
○川音参考人 会社組織として、神戸CNSとのコンタクトはありませんでした。
○森嶌委員長 寄附金についても、ノ社は、一旦それぞれの大学にお金を出すと、その後、各大学の臨床研究には一切関与していない。元社員が各大学にどういうサービスをしたか、各大学のデータ処理等についてどのような役割を担ったかは元社員個人の問題であって、会社の仕組みとして何かをし、あるいは会社として元社員に指示・命令をしたり、会社の職務として元社員が行ったわけではないというのが、今おっしゃりたいことだと承っていいですか。そうでなければ、どうぞおっしゃってください。
○川音参考人 これは私どもが調べた結果ですが、会社組織としては、元社員に対してデータへの何らかの介入をするように、上司から指示したということは一切ない形です。実際に元社員への指示系統の中で起きていたことは、学術情報の提供であり、もし先生方から相談事項があれば、それについて答えていたというようにずっと理解しておりました。
○森嶌委員長 もちろん会社側が「データを改変しろ」などと言うはずはないし、仮に言ったとしても、ここでおっしゃるはずはないと思います。いずれにしても、こういう医師主導型の研究は、最初に医師から持ちかけられて話を聞いて、一旦お金を出したら、大学研究の実施については、会社としては直接関与していないと承っていいですね。ここで起きていることは、たまたま元社員がいろいろなサービス精神から個人的に独走して関わったことであって、会社としては関わりがなかったと承っていいですね。
○川音参考人 はい。
○森嶌委員長 またこちらでいろいろと調べて、何かあれば伺えればと思います。
○花井委員 奨学寄附金というのはかなり自由で、しかもそんなに管理されていないお金だということはよく分かりました。一方でノバルティスさんとしても、この商品は世界的に非常に重要な商品で、委託研究という形では新しく2010年に始めたと言っていますが、国際的にはそういう形式が当たり前で、雑な展開というのは我が国固有の状況だと思うのです。この貴重な商品のプロモーションに関しては、当然日本でもちゃんと治験をやったほうがいいと。つまり、大規模3,000人も研究でやってしまって変なデータがそろったら、かえって大きな損失になるのですから、本来、ちゃんと臨床試験をすべきではないかという、もう1つ大きなレベルでの企業戦略の意思決定がどこかであると思うのです。基本的に日本では治験ではなくて、やはり臨床研究でやるのだという意思決定が、ノバルティスさんとしては世界としてあったという理解でよろしいのですか。
○川音参考人 まず2001年から2004年までに行われた研究については、既に御報告させていただいたとおり、お医者様方の研究意思に基づき、それに対して私どもが奨学寄附金を出したわけです。ディオバンについては高血圧症以外の効能も、海外では幾つか取られるようになり、2000年以降にそれとは全く別に、日本として適用追加をするかしないかという議論が当然ありました。ただし2000年以降、特に2005年ぐらいまでの議論だったのですが、私どもが日本で必要なデータを治験で取るための費用とか、人的な配置をずっと検討してきた中で、当時はドラッグラグを解消するための意味合いもあって、いわゆる開発組織の中で扱えるものについての限界がある中で、どこに優先順位を置くかということをずっと議論してきたわけです。最終的には新薬、特に新有効成分の開発に私どもは一気にシフトしましたので、ディオバンに関する効能追加、あるいはこの手のイベントスタディについて、開発側での投資は決定しませんでした。
○花井委員 そうすると、今回のスタディが功を奏して、行く行くは大きな開発戦略として、例えば公知申請へ結び付けたらとか、そういうパースペクティブは存在していたのですか。
○川音参考人 これは技術的な問題にもなるのですが、臨床研究の場合はGCP対応ではないので、それをもって承認申請というのは、多分難しいだろうと思っていました。それほどのニーズがあるとするならば、どのような形でも改めて臨床での治験を組むことになると思うのですが、現状ではドラッグラグ解消のための新薬へのシフトをかなりしておりますので、今後もディオバンに関する適用追加はなし得なかっただろうし、これからの議論でも、ないだろうと思います。
○宮田委員 そうすると、次はそういった臨床研究に基づくプロモーションの話です。こういう論文をプロモーションに使うというのは、社内ではどういうレベルの人が意思決定をするのですか。つまり、企業戦略としてドラッグラグ解消のために、社内資源をそちらにやったときに、臨床研究がうまくいったので、それをどうやって利用するかという時に、海外での適用拡大を補うという戦略が生まれたわけですよね。そのときにその論文をプロモーションに使うという決定は、どういう仕組みでその当時、誰が最終的に決裁したかを知りたいと思っています。
○川音参考人 臨床治験ではない今回の研究が、効能追加に取って代わるという考えは、私どもは一切なかったのです。飽くまでも臨床研究の成果は成果として、高血圧の治療の一環として最終的にどの程度のベネフィットがあるのか、既存治療との比較はどうかというもので見ていましたから、承認申請とは全く別で考えておりました。
○宮田委員 それは分かります。ただ、おっしゃっていたことは、降圧作用は同じなのに腎保護作用とか、エクストラな作用があるというのでしょ。それは今の発言とどういうように整合性を合わせるのですか。
○川音参考人 高血圧の治療の中で、ひょっとしたらこの薬に患者さんにとってよいものがあるのであれば、その研究成果は尊重させていただくという立場でした。その上で御質問のほうに戻りたいと思います。当時はマーケティング部門なりがプロモーション用に資材を作ったものについて、薬事や安全性、その他関連の部署、関係の部署というのは、いわゆる専門性を持った人たちがクロスファンクション、要するに相互にその情報を見て、適正かどうかの評価を行っておりました。その当時の評価基準としては、もちろん科学的な評価もありますし、薬事法あるいは効能・効果、承認事項からの逸脱がないか、安全性と有効性に関する説明のバランスの悪さがないかどうか、その手のことを見ていました。ただ大きな反省なのですが、私どもは飽くまでもあの論文が全世界的に有名なジャーナルに載っていましたので、科学的にはピュアレビューを経て投稿されて公開されたという前提で、問題はないという判断を下しておりました。
○宮田委員 それは分かります。今おっしゃったクロスレビューをするときに、元社員が所属していた部署もクロスレビューに関与しているのですか。
○川音参考人 関与しておりません。
○宮田委員 それは関与していない。
○川音参考人 はい。
○宮田委員 ということは、情報が入っていないということですか。
○川音参考人 それも大きな反省です。当然私どもの社員が何らかの形で業務を行っているとするのであれば、それを前提とした審査が当然必要であったろうという御指摘はごもっともだと思っていますし、今回の学びとして、早急にシステムなりプロセスは変えさせていただきました。
○宮田委員 要するに、そこはノバルティスのガバナンスの問題とか、正にCOI全体のガバナンスを欠いていたということでしょう。結果的に欠いていたとおっしゃりたいのでしょうけれども、欠いていたわけですよね。分かりました。
○森嶌委員長 どなたかありますか。
○山本委員 元社員は統計の専門家というように報道されているわけですが、この方の経歴というのは、学部ではどういう専攻をされていて、その後、統計についてどういう経歴を踏んでおられるのかを御説明いただけますか。
○永田参考人 本人は大学の工学部で化学関係のコースを卒業しております。会社に入って10数年、営業の担当者をしており、その際、先生方が統計でいろいろお困りになっている様子を感じており、本人の独学と、統計に関する短期的なコースなどに出ることによって知識レベルを上げて、それで先生方の質問に答えることによって、更にモチベーションが上がり、またそれで勉強してというサイクルを繰り返しながら、知識とか、特に臨床における統計に詳しくなったのだろうと理解しております。
○山本委員 そうすると、統計の全般的なことについては知識がおありだったかもしれないのですが、こういう臨床研究のクリティカルなデータを分析して本当に有意かどうか判定する、それを御自分でできるような能力はおありになったのでしょうか。
○永田参考人 今回の臨床試験以前にも、いろいろな研究について統計的な相談を受けておりますし、そういうことがあったので、幾つかの大学の非常勤講師の職を委嘱されていたというように理解しております。ですから、ある程度の水準はあったのだろうと思っております。
○森嶌委員長 これはここで余り深入りする問題ではないと思いますが。
○山本委員 いや、深入りではないのです。要するに、この方が実際に自分でどうのこうのしたというのではなくて、例えば会社が自前で治験をやられるときには、それなりの統計処理をきちんとされると思うのですが、そういう部署に対して支援の働きかけはなかったのでしょうか。
○永田参考人 臨床開発部門の統計をするチームと当該元社員とは、全く接点がありませんので、この社員が社内のそういう所に相談したということは一切ありません。
○竹内委員 先ほどのお話ですと、これはLancetに投稿されて、良い結果が出ていると。ただし解析した、大阪市立大学に出ている人は分かっていらっしゃったので、その方が解析していることは分かった上で、専門家の統計家から判断して、統計の専門家でない方が解析された、又は非常にクリティカルな中間解析をやった結果が、そういう論文に投稿されて、そのままノバルティス社は大丈夫だという結論をされたのですか。
○川音参考人 当時はそのような認識はなくて、現状認識においては先生がおっしゃっていたとおり、もし私どもの社員が何らかの形で中間解析のところの意思決定にいたのであれば、それは大きな問題だと思っております。ただ当時、論文が出た段階で論文を審査してプロモーション用の資材を作っていたメンバーは、元社員が関与しているという前提には全くなっておりませんでしたので、大変申し訳ないのですが、そこはチェックできておりませんでした。
○藤原委員 ノバルティスさんは非常に大きな会社で、グローバル企業なので、多分海外本社からのガバナンスというのが、非常に効いているのではないかと私は思うのです。国際共同治験などをやらせていただいても、日本の薬事法で要求されていないことでもアメリカのFDAの規定に従っていろいろな要件が、我々治験責任医師に求められることが多いので、海外との関係をお聞きしたいのです。
1990年代後半から2000年頃というのは、臨床医学の領域ではシーディングトライアルと批判されている、メルクのロフェコキシブとかファイザーのガバペンチンのような、営業部門が販売促進目的で市販薬を使う臨床試験をやって、それをAnnals of Internal Medicineのようないい学術雑誌に載せるという戦略を取っていた時期なのです。ファイザーやメルクが同じような時期にそういうことをやっていたとすると、ノバルティスさんとしても、この試験をやられていたのは同じような時期ですね。そういうことに関して海外本社が、ノバルティス日本法人さんにどういうようにコンタクトをされていたかというのが、1つ聞きたいことです。
 それから2004年ぐらいに、ディオバンを使ってLancetにスイス本社が発表した臨床試験成績があります。あちらはちゃんとオーサーのところにノバルティスの社員の名前もありますし、グラントもちゃんと書いてありますし、資料もしっかりしているのです。正に同じ時期に日本法人が同じような臨床試験をやられたわけです。同じノバルティスの中でなぜそんな差が生まれてしまったのか。ガバナンスが効いていないのか、あるいは社員の教育として教育資材が共有されていなかったのか。シーディングトライアルに対してその当時、スイス本社から働きかけがなかったのか。ガバナンスとして2000年当時、スイス本社がやっていることを日本本社ができなかったのはなぜかという分析などはされていますか。
○川音参考人 スイス本社との連携、特に開発本部では国際共同治験で動く流れも当然ありましたし、SOPの統一、海外で使っている手順書を日本に導入するというのは、2003年、2004年、2005年ぐらいのところに山を置いて、精力的に行っておりました。ただし、それは開発本部が先行して行ったもので、そこに関与していない営業マーケティングについては、日々の活動を海外本社との連携の中で、海外本社からのガバナンスの効いた中で意思決定が行われていたかというと、決してそうではありませんでした。当時は日本、あるいは各国の顧客への対応という部分が、どうしても強く色濃く出ましたので、グローバルのスタンダード、全世界標準のものを全ての国に当てはめるところまではいっておりませんでしたから、やはり遅れはあったと思います。
○桑島委員 欧州の有名雑誌に載ったということですが、ダルフという方は御存じですか。「知らない」と言うはずはないのです。何回も講演に呼んでいますし、雑誌でも座談会をやっていますから。このダルフさんには実際にどういう役割をしてもらったのか。例えばLancetEngland Journalへ、論文の仲介を頼んだとか、そういう事実はありませんか。
○川音参考人 それは大学のほうに聞いていただきたいと思います。会社としては論文にダルフさんが載っているというのは存じています。
○桑島委員 セカンド・オーサー、サード・オーサーとして載っていますよね。講演会にも何回も呼んでいますよね。
○川音参考人 私どもがですか。
○桑島委員 日本の座談会もやっています。日経ジャーナルに聞けば分かると思います。
○川音参考人 それは多分に日本の研究の一環として、その先生を呼んでいるということだと思うのですが、今お答えできるほどの情報は持ち合わせておりません。
○桑島委員 いずれにしても、その資料などがどこかから出ているはずなのです。それともう1つ、プロモーションに関してです。2007年から2009年に慈恵と京都から出たときに世界のみならず、日本でもかなり批判がありましたよね。それは御存じですか。私も含めて、かなり批判したのです。特に海外からは、全然信用ならないという意見もありました。そういうものを御存じの上で、このプロモーション活動を行ったのかどうか。そういうことは社内で審査したのかどうか。
○川音参考人 学会等で議論があったことについては、当然その学会に出ている者、実際にその手の学会活動をしている所のメンバーは把握しておりました。一方で、プロモーションの資材や論文の引用については、第三者的に安全性の部門とか、そういったものが承認効能の範囲内かどうかというように見ていましたので、視点が一致しないという意味では本当に反省をし、直ちに改善に向かいたいということしか答えられません。
○桑島委員 それから先ほどのクエスチョンに、エラーが9.6%あって、これは許容される範囲というようなことが書いてありますが、これは絶対に許容される範囲ではないですよ。1,000人中100人がこんなエラーだったら、こんなものはとても科学論文として成り立たないですよ。ですから、こんなものは出すべきではないです。
○曽根委員 1つだけ確認させてください。京都にしても慈恵にしても、初年度に4,000万円などという高額の寄附金を提供するステップには、事業本部長か社長の承認があったという話ですね。
○永田参考人 間違いございません。
○曽根委員 それが単年度であれば、当初の寄附がちょっと多いというのはあるけれども、現場からマーケットのトップ、それから事業本部長、社長という形で複数年度、毎年毎年繰り返していくというのは、当然何らかの認識がトップになければ、恐らく続いてお金は出ないと思うのです。先ほど委員長が言われたように、100万円、200万円の金であればそれはあるけれども、合計2億円という額になると。それも複数大学ですよね。そうすると当然、りん議書か何かの形で、マーケティング部門のトップから上の者に向けて何らかの情報が出ていると思うのです。そういうステップはないと考えていいのですか。
○永田参考人 恐らくディオバンの大きな戦略の中で、臨床研究で結果が出たらというディスカッションはあったのではないかと、現時点では推測できなくもないのですが、当時、その辺りのディスカッションをした社内文書が2002年、2003年、2004年と残っておりません。誠に申し訳ございませんが、そこのところの確認は社内的にはできません。ただ、医薬品事業本部長と社長には報告されて、その結果として決裁を受けております。
○曽根委員 承認を毎年得ているという理解でよろしいですね。
○永田参考人 それで結構です。
○森下委員 そもそもこの社員はプロトコールの相談にも乗っているのですが、PROBE法を用いたところで、どちらが提言して始まったことなのかを教えていただきたいのです。研究者側から最初に、PROBE法で3,000例の大規模スタディをやりたいという相談だったのか、そもそも3,000例でこういう薬品を使いたいけれども、どういう手法がいいかという相談だったのですか。
○川音参考人 まだ事実認定ができていないので、そこは分からないのですが、話合いの中でどちらがその提案をしたかについては、現状私どもではまだ分かっておりません。ただ、私どもの元社員に統計の知識があれば、当然PROBE法には精通していただろうと思います。
○森下委員 私もそう考えるのです。ですから、統計に精通している方だからこそ、もしPROBE法を助言したとしたら、エンドポイントの判定委員会とか、安全性モニタリング委員会の委員をどうして引き受けたのか。大学側からの依頼だったのかどうかは分からないのですが、そこも拒否することもできたのではないかと考えるのです。断われない状況にあったのか、進んで委員になったのかという辺りも、もし分かれば教えていただきたいと思います。
○川音参考人 断われない状況だったかどうかも含めて、そこは分からないのですが、依頼があって全部に出たわけではないけれども、自分としては、出ましたという事実のみを、本人は答えております。
○宮田委員 ノバルティスさんでは、文書の保管規定はどういうようになっていたのですか。2003年とか2004年のそういう文書はないと言っていますが、どういう文書の取扱い規定になっているのですか。
○永田参考人 文書によって変わります。大体3年から10年、あるいは安全性に関わるものですと、生物製剤の場合ずっと保存という規定があります。
○宮田委員 それは社内でバラバラな規定なのですか。
○永田参考人 いや、バラバラではなくて、目的別に規定しております。
○宮田委員 そうすると今おっしゃった2003年とか2004年でないものというのは、当然処分されてしかるべきデータだったというわけですか。
○永田参考人 そうです。2013年ですので、10年としたら2003年とか2004年で。たまたま2001年、2002年で残っているものがあるのを見ているのですが、社内の文書規定からすると、もう既に10年を過ぎているものはなくなっても仕方がないということになります。
○宮田委員 分かりました。
○森嶌委員長 それでは長時間にわたって、どうもありがとうございました。またお尋ねするかもしれませんが、よろしくお願いします。
 次に資料3-2に基づき、京都府立医科大学の伏木参考人から、前回に引き続きお願いいたします。どうもお待たせいたしました。ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします。
○伏木参考人 それではお手元の資料3-2に基づき御説明をいたします。まず、最初のページには表としてまとめておりますが、臨床研究のプロセスと担当ということで、どの方が、あるいはどの組織が担当したかということを左側に書き、右側には臨床研究の発案から始まり、プロトコール作成、研究実施、データ整理、論文作成という流れを書いています。
 上半分がKyoto Heart Studyでの担当がどうだったか、下半分は今日であれば一般的にこのように担当者がいるのではないかということで書かせていただいたものです。Kyoto Heart Studyでは臨床研究の発案に関しては、ヒアリング等の結果から判断して、教室代表者、これは循環器内科の元教授ですが、その方が発案をされた。前回のときにも申し上げましたが、ノバルティス社の大規模臨床試験をされたいという思いと一致したのだろうと聞いています。
 その臨床研究の発案に関して、左側に研究員、参加施設、データ管理機関、解析担当者、エンドポイント委員会、安全性勧告委員会、DSMB委員会と書いてありますが、この中で解析担当者と書いてあるのが先ほど来出ているノバルティス社の元社員の方です。○と△の使い分けについて少しだけ申し上げておきますと、△で書いてあるのは元社員の方に対するヒアリングが実施できていないということで、これは、私どもの大学に所属しておりました研究者のほうでのヒアリングから聞いたことに基づいて、ある程度それを支持するデータがある場合には△としております。
 戻りますが、臨床研究の発案に関しては教室代表者と、解析担当者の方の関与もあったのではないかと推測しています。
 プロトコール作成については、教室代表者並びに循環器内科の医局の事務局を担っていました医師たちが担当したと言えますが、それに加えて元社員の方の関与も一定あったのではないかという、ヒアリングの結果です。
 研究の実施については、教室代表者並びに循環器内科の医師、参加施設である31施設の医師が実際に研究を行ったということです。
 データの整理ですが、個々の患者さんのデータの入力に関しては、先ほど申し上げました31の参加施設の医師が、直接行っていたということで、そのデータがWeb経由で届けられるそのデータ管理機関が神戸CNSという所で、そこもデータ整理にかかわっていた。そして、さらに元社員の方もこの部分にかかわっておられたであろうと。
 エンドポイント委員会、安全性勧告委員会、DSMB委員会に関しては、エンドポイントの判定という意味でデータ整理にかかわられたり、中止勧告、あるいは試験終了勧告をされるという形でのかかわりをされたということです。
 論文作成に関しては、教室代表者と循環器内科の医師が主としてかかわっていたということは確認していますが、図表の作成等に関しては、元社員の方が担当されたと聞いています。
 以上のような役割の分担があり、次ページにありますが、KHSのプロセスとしては参加施設で研究の実施がされ、データの入力をされたものがデータ管理機関に届き、それが毎月、試験事務局に届けられる。試験事務局では先ほど既に申し上げましたように、臨床研究の発案プロトコールの作成、研究実施、論文作成に携わっていた。
 エンドポイント委員会、安全性勧告委員会、DSMBではそれぞれ実施計画書に書かれている内容の仕事を担当している。
 解析担当者であるこの元社員の方に関しては、既に申し上げましたが臨床研究の発案なりプロトコールの作成にかかわられていたかもしれませんが、ここは現時点では確定はできていません。
 論文作成に関しては、申し上げましたように図表の作成にはかかわられていたということです。
 次ページには、現在の臨床試験であればこのような形で進められるべきであるという流れを書いていますが、残念ながらKyoto Heart Studyではこの流れとはかなり違った形になっていたということです。
 引き続いて次の、文章で書いてある所の御説明を簡潔に行いたいと思います。Kyoto Heart Studyの臨床研究で判明してきた問題点として、大きく4つ書いています。1つは、データ管理並びに解析上の問題です。これは本臨床研究で、先ほども御説明申し上げましたように、企画段階から実施運営、統計解析に至るまで、元社員の方がかかわっておられたということが、これまでの調査で分かっていますので、そういった形で臨床研究が実施されていたということは大変遺憾なことですので、私たちとしましては、この研究を実施した主体である大学研究者並びに企業に関して責任があるのではないかと考えています。
 また、本日も最初から御議論がありますように、利益相反に関する問題に関しても、当然記載すべきであったはずの内容が記載されない状態で論文として提出されて、かつ受理されていたということで、これに関しては論文著者の責任は免れ得ないと考えています。
 また、3つ目としては研究の品質の管理という面で極めて不十分な状態にあったということです。もちろん時期的には今から遡りますと10年前からのお話ではありますが、研究一般で当然備えるべきデータの保管ということに関して、極めて大きな不備があったということなので、臨床研究の事務局を担っていた研究者の責任が問われるべきであると考えています。
 これらのいくつかのポイントに関しては、根本的にはこの臨床研究の運営に当たった研究者が、臨床研究の在り方に関する適切な、また科学的な認識を欠如して、この臨床研究の企画、運営に携わっていたことに起因する問題であると考えていますし、本学としてもその臨床研究に関する教育機会を十分には提供できていなかったということがありますので、後ほど触れさせていただきますような教育カリキュラムを検討すべきであると考えています。
 臨床研究の品質を適正に担保する仕組みに関しては、この検討委員会で御議論されていることですので、細かくは触れませんが、データ管理も含めた研究プロセスの透明性を担保する仕組みを構築することが必須ではないかと考えています。
2つ目の問題点としては、医学倫理審査上の問題です。2003年当時、私たちの大学でこういった臨床研究を含む医学研究課題に対して、全て倫理審査は実施しておりましたが、プロトコールの添付を必須としておりませんでしたし、議事録作成も義務付けていませんでした。そのような状況がありましたので、実際にどのような審議がされたかということの確認はできていません。ただ、現在の段階では、私たちの大学においても厚生労働省のほうで定められている倫理審査委員会の様々な要件、審査手順等について、きっちりとした形での体制を組んでいますので、現在は審査の質は適正に担保されていると考えていますし、また、利益相反に関しても、臨床研究の申請に当たっては、必ずその研究に関係した企業との利益相反を自己申告していただく形を採っており、それについて臨床研究利益相反委員会にて審査をした後に、倫理審査に進めるシステムを運用しています。
3つ目は資金管理上の問題です。これも先ほど来問題になっていますが、奨学寄附金を活用した研究として運営されていたようであるということですが、奨学寄附金は使途を限定しない寄附金として認められたものですので、定められた経理執行ルールに則って使用さえすれば、何ら問題はないと考えていますが、法人化前の経理の状況は必ずしも透明性という観点から十分ではなかったというのは、私どもの反省点です。
4つ目として教育の問題で、これも先ほど申し上げましたように、本学における臨床研究、あるいは研究倫理全般に対する教育の体制が決して十分ではなかったことも、今回の調査で判明したわけですので、そういった教育の機会を適切かつ十分に大学として提供していくことが不可欠と考えており、そういったものを踏まえて再発防止策ということで、3ページ目の中ほど、下のところから5つの再発防止策を考えています。以上のような状況です。
○森嶌委員長 ありがとうございました。
○曽根委員 一つ確認したいのですが、今回のケースはいろいろ検討する上でのモデルケースだと思うのです。京都府立で過去10年に、このような大規模な比較臨床試験は何件ぐらいされていたのですか。
○伏木参考人 私どもでは大規模な臨床試験を大学で主導したというものはなかったと思います。
○曽根委員 ありませんか。
○伏木参考人 はい、共同研究として、私たちの大学以外の施設が中心に実施されているものに参画するというのはあります。
○曽根委員 どのくらいございますか。
○伏木参考人 数は今、私は正確には申し上げられないのですが、倫理審査の記録等を見ますと、そういったいわゆる大型の臨床研究で他施設が主たる研究施設になられているというのはたくさんございました。
○曽根委員 多施設の臨床試験の場合、倫理審査、利益相反のマネージメントは、同じだと思うのです。横の施設間連携がいかにできているか、そういう視点では、今回事例を経験されているわけですので、スポンサーが、あるいは資金的にしっかりしているかどうか、というような点を調べていただけるようにお願いしたいと思います。
○伏木参考人 分かりました。
○森嶌委員長 それでは、先ほどノバルティス社の話をお聞きになったと思いますが、今の先生の御説明で元社員がいろいろな所に関与されたということなのですが、今までの大学の内部の調べから、関与の仕方は、大学側がイニシアティブをとってこの試験をしておられる過程で、責任者である教授をサポートするために、元社員がいわば個人的に支援をする形で関わっていたのか、それとも、大学側が今まで経験がないので、ノバルティス社から来て、会社側の業務の一環として、大学側を指導する、あるいは今言われた共同にやるという形で元社員が入って来たのか、どちらだと思われますか。
○伏木参考人 現在までの調査で私たちの大学に当時所属していた研究者のヒアリングから分かっていることは、ノバルティス社の上司の方と相談された折に、統計を担当する適任の方として、御紹介を受けたと聞いています。
○森嶌委員長 つまり、この元社員の個人的な技術を大学側としては希望されたというか、支援を受けたということで、飽くまでも大学側のプランの中で元社員が支援をされたと承ってよろしいですか。
○伏木参考人 しかもその折の御紹介の肩書きは、大阪市立大学の方ということで御紹介を受けたと聞いています。
○桑島委員 元社員を紹介したのは上司とおっしゃいましたが、上司が前もって研究者の所に聞いたわけですか。つまり上司というのはいわゆる当時のプロジェクトマネージャーなのか、本部長なのかということなのですが。
○伏木参考人 そこははっきりと分かりませんが、上司の方と元教授が御相談される中で御紹介を受けたと聞いています。
○桑島委員 ということは、上司とその教授とがもう既にこの段階で臨床試験に関する交渉があったということですね。
○伏木参考人 はい、そうです。
○稲垣委員 それは研究の企画の前の段階ですか。どの辺の段階からですか。
○伏木参考人 こういうことをやりたいということを元教授がおっしゃったということがあって、それがどの程度まで突っ込んだ内容だったかということは、実際のところ確認できていませんが、その段階でこういった臨床研究をやるのであれば、統計解析の適任者として、この方をということで紹介されたと聞いています。
○桑島委員 ということは、もう上司が最初から関与しているということですよね。
○伏木参考人 はい、聞いています。
○森嶌委員長 実を申しますと、もう1つ大学がありまして、そのあと30分の議論をすることになっておりまして、もともとの会議の予定はあと10分ということで、単純に計算をしても時間が足らないということなのですが、そこで、誠に申し訳ありませんが、時間は延長するという前提で、これはお許しいただきたいと思います。それにもかかわらず、時間がもうきておりますので、京都府立医科大学についてはまた別な形で来ていただくということにいたします。どうしてもということでなければ、よろしいでしょうか。
○曽根委員 1つだけ確認です。ノバルティス社の元社員のものがこれに出ています。委員会とかデータ整理に出席、出席となっていますが、先生が実際に元社員にはヒアリングはされていませんが、かかわった医師に対するヒアリングと、ノバルティス社の報告は前回のときもかなり齟齬がありました。今回もこういう形で違いが出ていますが、調査委員長として23分ぐらいで簡単に、どこのところがどのように違うのかということを説明していただけませんか。
○伏木参考人 以前に御報告されていたノバルティス社の言葉で「例示」というような言葉も書いてあったかと思うのですが、そういった点は少なくとも全くなかったとヒアリングでは聞いています。つまり、統計解析そのものを担当されていて、かつ図表等について研究者に提供されたと。その資料についても私どもとしては研究者から見せてもらっていますので、実際に論文に使われる資料としてグラフ、図表として提供されていたと判断しています。
○曽根委員 元社員が作成した図という理解でよろしいのですか。
○伏木参考人 はい、そのように理解しています。
○宮田委員 松原先生とその研究員、そのグループだけでプロトコールが作れたと思われますか。
○伏木参考人 はい、いわゆる企画のことですね。
○宮田委員 企画も含めて、全ての今の臨床実施計画書。
○伏木参考人 実施計画書ということですね。はい、それについてはヒアリングでも、2つ意見がありまして、全部任せておられたのではないかという意見もございましたが、最初の段階でかかわっておられた循環器内科の医師のヒアリングからは、やはりその方が担当されたということを聞いています。ですから全てが元社員の方にというわけでは決してなかったと一応判断はしています。
○宮田委員 ただ、元社員は相当関与していたということですか。
○伏木参考人 はい、推測しています。
○森嶌委員長 どうぞ簡潔に。
○藤原委員 松原先生は多分基礎研究でも問題があって、再生医療関係でAHAの論文で撤回とかいろいろされていて、それが多分この2012年の日本循環器学会から指摘される前のころから言われていたと思うのですが、そういう研究不正のシグナルの検出が、京都府立医大ではその当時できていたかどうかというのをお聞きしたいです。
○伏木参考人 研究不正のシグナルとおっしゃいましたか。
○藤原委員 はい、シグナル検出、そういうAHAでいろいろなトラブルが出てきているところで、ああ、この教室は大丈夫だろうか、というのはされなかったのですか。
○伏木参考人 大学のシステムとしては残念ながらなかったのですが、ただ論文調査委員会が既に走っておりましたので、そういうベースの上でこのことが出てきたということは事実です。
○森嶌委員長 それではまだあるかと思いますが、次に進ませていただきます。どうもありがとうございました。
○伏木参考人 失礼いたします。
○森嶌委員長 それでは資料3-3に基づき、東京慈恵会医科大学の方、どうも大変お待たせいたしました。どうぞよろしくお願いいたします。
○橋本参考人 慈恵会医大の橋本でございます。今回、また説明させていただきます。一部提出した資料に訂正がありますので、読みながら、指摘したいと思います。
 資料3-3を御覧ください。まず最初に、臨床研究の推進のフローについて、現在の状況をお話したいと思います。臨床研究は個々の研究者が発案し、所属部署や研究グループの協力者と検討を重ねて企画している。この点に関しては従来と同じだと思います。
 プロトコールの作成には、研究者が内外に協力者を募り、プロトコール作成を行っている。現在、プロトコール作成を支援・代行する専任部署は存在しないが、採用すべき統計解析方法等に関する相談があれば、学内の臨床疫学研究室及び分子疫学研究室で協力、指導する体制となっております。
 研究実施前の審査体制としては、現在、本学では研究者が安全かつ適切に研究を遂行できるようにするため、ヒトを対象とした医学研究を実施する場合は、以下の委員会に申請し、審査を受けることを要件としている。○1倫理委員会、○2利益相反管理委員会、○3臨床研究審査委員会です。「倫理委員会」では、審査された研究の科学性・公益性・妥当性及び被験者の安全性を審査いたします。「利益相反管理委員会」では、研究者から開示情報に基づき、利益相反状況を審査しております。「臨床研究審査委員会」では、倫理委員会で承認された研究が施設で実施可能か、安全に研究が実施できる体制か、患者費用負担等が適切かを審査しております。このように申請された研究を多角的に審査しております。
 一方、研究者が研究計画を立案するのと同時に、安全かつ的確に研究を遂行するため、以下の取組を実施しております。倫理委員会では「倫理委員会ガイドライン」を学内に公開しており、研究者は各書類のサンプルを自由に閲覧することができるようになっております。「倫理委員会手順書」をインターネット上に公開し、申請の仕方や手順、審査過程に至るまでを明確にしています。「倫理委員会講習会」を年に3回実施し、研究者に受講を義務付け、医学研究の啓蒙活動を行っている。倫理委員による「事前審査制度」により、申請された研究に対してアドバイスを行う。利益相反委員会では、「利益相反マネージメントポリシー」、「規程及び細則」を学内外に公表し、研究者は自由に閲覧することができるようになっている。臨床研究審査委員会では、「臨床研究審査委員会のガイドライン」を公開している。
 このようにして、研究者に委員会での申請前段階で必要条件を提供できる仕組みを構築し、安全かつ適切に研究推進を図っている。研究者は、大学が定めたフローに従って、申請書類を作成し、次の各委員会へ手続を行い、研究を開始する。
Step1「利益相反管理委員会への申請」。
Step2「倫理委員会への申請」。倫理委員会へのガイドラインに基づき、申請書、研究計画書、同意説明書、同意書を作成し、倫理委員会事務局に提出する。委員会では、まず事前審査が行われ、事前審査の結果と指摘事項を研究者にフィードバックし、指摘のあった箇所を訂正した資料を倫理委員会に提出し、本審査で審査する。同時に、利益相反管理委員会の審査結果が倫理委員会に報告され、これを踏まえて倫理委員会で審査される。審査結果は学長に報告され、結果通知書として申請者へ交付される。
Step3「臨床研究審査委員会への申請」。研究者は実施施設ごとに設置された臨床研究審査委員会へ所定の書式をもって、所定の期日までに申請を行う。審査結果は臨床研究審査委員会の合議で決定し、病院長に報告され、結果通知書として申請者へ交付される。Step13の議を経た後、研究が開始されます。その行程を示したのがこの図です。
 研究の実施においては、倫理委員会及び臨床研究審査委員会で承認された研究であっても、研究終了時まで定期的なモニタリングを実施している。研究者は定期的に各委員会に報告義務を負い、各委員会で研究が適切に遂行されているか、実施状況を把握する運用となっている。倫理委員会には年1回、臨床研究審査委員会には月1回の報告が義務付けられております。定期的に実施状況報告書を提出させ、実施件数、トラブルの発生の有無、有害事象の有無、実施状況を把握している。研究計画に変更が生じた場合には、変更申請の提出を義務付けている。
 利益相反管理委員会では、申請基準に達するなどの変更が生じた場合、追加・変更の申告を義務付けている。研究終了時には、研究者は倫理委員会及び臨床研究審査委員会に終了報告書を提出し、各委員会で管理している。
 データ整理から論文作成の過程においては、大規模な臨床研究の場合、運営委員会をはじめ、各委員会を組織し、研究を遂行する体制を整え、研究チームの責任にて実施されている。つまり、現在においてもデータ管理、統計解析の施行、委託は個々の研究者の責任で行われており、大学として該当する部分の整備はなされていない。昨年より、臨床研究センター設置に関する検討は始まっております。
 さて、平成14年時に行われたJikei Heart Studyにおける臨床研究推進のフローについて、御説明いたします。
1.臨床研究の発案。これは前回お話しましたように、京都府立と同じような経緯で始まりました。
2.プロトコールの作成は望月教授が原案を考え、PROBE法に精通したダーロフ教授にも相談し、決定されております。統計領域に関しては、統計解析担当者に相談したとおっしゃっていますが、詳細に関しては覚えていないということでした。
3.研究実施前の審査体制。現在では、研究計画を立案する過程から倫理委員会を中心として研究者をサポートし、研究開始後は、臨床研究審査委員会を中心として、その経過を追っており、終始、利益相反管理委員会が研究者の利益相反状況を適切に管理している。一方、当時は申請された研究計画に対して倫理委員会の議を経るのみで、審査体制は厳しくなく、個々の研究者や、1大学に限らず、全国的に研究に対する意識は、現在とは大きく異なっていたと言える。また、研究計画の策定におけるガイドライン等は作成されておらず、研究を実施する上での必要な知識を求めさせるための教育研修の受講の義務化及び申請された研究計画を精査するための事前審査制度が確立されていなかった。さらに、研究実施後に研究が適切に行われているかどうかチェックする体制も整備されていなかった。
4.研究実施からデータ整理、論文作成過程においては、Jikei Heart Studyの場合の本来のフローと調査によって判明したフローを次のページに示してあります。本来、この研究を適正に実施するためには運営委員会、データマネジメントチームが、総合的な事務局として各委員会運営、データ管理等を担当する想定であった。一方、現実には統計解析担当者が運営委員会をはじめ、独立審査機関であるエンドポイント委員会等にも参加し、実質的な事務局として広く機能を果たす結果となった。データマネジメントチームは、データのWeb入力作業等、医師の補助作業にとどまっており、適正な運営のための監査機能、各担当に対するけん制作用が機能していない状況であったことがうかがえる。
 その結果、集積されたデータの取扱いにおいて、データのロックがなされていたかどうかも不明ですし、統計解析依頼とデータの受け渡し、統計解析の過程が全く不明瞭であり、統計解析結果のみが運営委員会、論文作成委員会に報告されていた。データのロック後に必要な修正に対応するための修正履歴が残るデータベースの使用が適切ではありますが、当時はそのようなデータベース構築はなされていなかった。臨床試験の安全性を保つために、臨床試験責任者を含む運営委員会の役割が、極めて重要であるにもかかわらず、その責務の遂行は不十分であった。
 次のページは前回も提示した資料と同じものですが、上段の図が本来あるべきデータの流れで、下段が今回、Jikei Heart Studyで実際に行われたデータの流れです。数において赤の点線で示されている所が、本来の流れと異なった動きをしていたと推測される所です。
 次のページです。審査体制を現在と平成14年時、Jikei Heart Studyが行われたときと対比したものを表にしてありますが、審査体制としては平成14年時は倫理委員会のみですが、現在はこの3つです。倫理委員会は事前審査を行っています。それから倫理委員会主催での年3回の講習会が行われておりますし、e-learningも推奨されております。また、規程等に関しても、現在は13余りの規程がありますが、平成10年当時は3規程にとどまっておりました。
 再発防止策です。上記のとおり、Jikei Heart Studyが発案され、論文が発表された時期と現在では、ルールや基準が改定され、研究者の意識も変化していると考えられるが、発生した事例を基に、策定を目指している防止策を以下に記載した。
1「科学研究行動規範の制定」。本学では、科学行動規範が制定されていないので、今後は科学研究行動規範を策定して、研究に従事する全ての者に周知徹底を図る。
2「臨床研究及び医学研究倫理の教育の充実」。本学医学部及び大学院においては、臨床研究及び医学研究倫理の教育を充実させ、医学研究を適切に遂行できる人材を育成していく。
3「臨床研究センターの設置」。医薬品の臨床研究の実施の基準とは異なり、「臨床研究に関する倫理指針」では、被験者保護はうたっているが、臨床研究の科学的な質とデータの信頼性の確保については述べていない。しかし、今後は指針が求めるか否かにかかわらず、本学において臨床研究が適切に実施されるように臨床研究センターの設置を検討する。臨床研究センターには以下の部門を設置して、臨床研究の実施・支援体制を改善・充実していく。この7項目は前回も示したもので、また更に必要であればCRC部門というものを考えていきたいということです。
 次のページは先ほどまで説明しました審査体制等の新旧対照表です。最初のカラムは御紹介いたしました。後半のカラムは研究実施後の体制をまとめたものです。現在では倫理委員会には年に1回の報告。臨床研究審査委員会には月1回の報告が義務付けられておりますが、平成14年時においては、双方ともなかったという状況でした。また、今回調査を継続していくに当たり、前回、御報告しました中間報告書に一部誤りがありました。それはホームページ上で訂正させていただいておりますので、この場をお借りして報告いたします。以上です。
○森嶌委員長 先ほどノバルティス社の説明を聞かれたと思いますが、今の御報告、御報告といっても平成14年当時の話ですが。先ほどの御説明と平成14年の慈恵のヒアリング調査で異なっている点で、端的に細かい事実だと思いますが、どことお考えですか。
○橋本参考人 これは前回の報告とは全く変わっておりませんが、統計担当者とのヒアリングと我々のその他の関係した医師のヒアリング等を総合的に判断すると、やはり統計担当者は京都府立と全く同じで、全ての統計には関わっていた。そして、その結果も彼から全て提供されたということは同じです。
 それから、各委員会において、ある意味では事務的なことを全てやっていただいていたというのが現状であることは間違いありません。
○森嶌委員長 その場合、ちょっと言い方が悪いかもしれませんが、大学側の人材あるいは技術が足りなかったために、本来大学側がやるべきことを出入りの者に押し付けた、やらせたとお考えにはなりませんか。
○橋本参考人 2つの側面があると思います。1つは、特に今回PROBE法に余り慣れていなかったということで、プロトコール作成時にはダーロフ先生にいろいろ聞いて、プロトコールを作ったということですが、それが始まったときに、やはり実際のことを知らないので、統計担当者にそういった意味で頼ってしまったということが1つです。
 それから、現実的に研究責任者は臨床、教育等で多忙ですから、全てをその方が取り仕切ることは非常に難しいと思います。本来であれば、慈恵の研究チームの中にコーディネーターのような人がいて、その方が運営すれば本当はよかったのだと思いますが、正にその統計担当者がコーディネーター的なこともやってくれたという形になったのだと判断します。
○森嶌委員長 私もかつて科学研究費で、しかもほかの大学なども含めて共同研究の責任者をやったことがありますが、最後に何か起きれば責任者が責任を取らなければなりません。この研究責任者も忙しいことは確かでしょうが、たまたま元社員に統計担当者をやらせて、後になって元社員がやったことだというのは、責任逃れにならないでしょうか。現在はいろいろとチームを作って改良しておられるのですが、大学側に問題があったとはお考えになりませんか。
○橋本参考人 中間報告書で、その点に関して非常に問題があったということは指摘しています。
○桑島委員 ダーロフさんという名前が載っていますが、望月先生の直接の知合いだったのか、どこかからの紹介なのか、ノバルティス社からの紹介だったのかというのはいかがですか。
○橋本参考人 ヒアリングによりますと、然る学会に行ったときに、偶然なのか、その辺がはっきりしないのですが、ノバルティス社の方と一緒にいたときに、ダーロフ先生がやって来て、ノバルティス社の方がダーロフ先生を知っていたということで、そこで話合いになったと。紹介と言っていいのかどうかは分かりませんが、その場で3者がいたことは事実のようです。
○桑島委員 ダーロフさん、ハンソンさんというPROBE法を考えた人の弟子なのですが、もともとハンソンさんの考えたPROBE法というのはエンドポイントはきちんとしたハード・エンドポイントだけに限ると言っているのです。ですから、この時点から曲がってしまったのですね。だから、このときに望月先生とダーロフが相談したときに、ソフト・エンドポイントを入れてしまったというところから、日本の間違いが生じているのですよね。誰が紹介したかということが一番問題だと思います。第1回のときに堀内先生にお聞きしましたよね。あれはあのとおり間違いないですか。堀内先生というのは基礎の医学者なのです。
○橋本参考人 そう聞いております。
○桑島委員 常識で考えて、エンドポイント委員長になるわけがないのですよ。だから、手術の判定委員会に基礎の先生が入っているようなもので、全くこんなことはあり得ないことなのです。それもダーロフといい、堀内先生といい、バリュー試験のときからノバルティス社と非常に関連の深い人ばかりなのです。もう少し詳細に聞いていただけませんか。
○森嶌委員長 またお尋ねすることがあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。それでは、時間の関係で、どうしてもということがなければお願いします。
○竹内委員 この前、奨学寄附金を使って臨床研究をされたということですが、最後の中間解析をやった時点での報告書はノバルティス社に出しているのでしょうか。
○橋本参考人 それは出していないと思います。
○竹内委員 出していないのですか。大学の中で終わった。ということは、臨床研究は、ノバルティス社に対しては一切報告していないという理解でよろしいのですか。
○橋本参考人 大学側からはしていません。
○曽根委員 Lancetに掲載された論文については、撤回手続は大学側からやっているのですか、それとも著者がやられているのですか。
○橋本参考人 実際は我々は調査報告書をLancetに送りました。それによってLancetの委員会が決定をして各候補者にアグリーするかどうかという手紙を出して、それが今、皆さんから戻っているという段階だと思います。私もメールで知る限りでは、ロイヤーの方に見てもらったり、いろいろしているので時間がかかっているとおっしゃっていました。私も原案を見ましたが、かなり大きな長い文章でしたね。
○桑島委員 これは望月先生の撤回要請を受けてやったのか、Lancet誌が独自でやったのかというところも違うのです。
○橋本参考人 それは両方からやっていると言ったほうがいいと思います。
○森嶌委員長 それでは、今までの御説明を含めて、質問も大分いたしました。今後のこともありますので、まず事務局から、今後の進め方の話をしていただいて、それについて皆さんからの御意見、再発防止策についてのコメントなど、15分ぐらい議論をして、次回に向けてと思っています。まだ皆さんにヒアリングなどについては必ずしもきちんとお話しておりませんが、事務局からお話し下さい。
○一瀬課長 ヒアリングにつきましては、最初に申し上げましたが、ノバルティス社の元社員や研究の責任者の方々にお話を伺いたいと予定しております。今後、日程調整をしまして、委員の皆様方には御案内を差し上げたいと思います。最初のほうでお話がありましたとおり、もしかしたら非公開になる場合もあり得るものと考えております。
 次回の会議は930日を予定しております。大臣から9月中に中間的な取りまとめをということですので、一旦930日に取りまとめのようなものをまとめていただきまして、必要に応じ、またその後も御議論、ヒアリング等をいただけたらと考えております。
○森嶌委員長 時間の関係で繰り返すことはできませんが、私は今日できるだけノバルティス社の御主張というか、言ってこられたことと、各大学それぞれで事情は違いますが、調査をしてこられたことの違いについて、際立つような質問をしたつもりですが、まだそれでもはっきりしないところがあります。
 基本的に言えば、ノバルティス社としては、確かにそれぞれの臨床研究について話を伺って、本社で決定をしているけれども、研究は医師の主導であって、寄附金についての会社の決定そのあとは大学で研究を実施している。いろいろなことが起きているが、それは元社員の個人的な問題であって、会社として、組織としてそれに直接関与しているわけではないということです。
 これに対して大学側の主張としては、必ずしもはっきりしないところがあるのですが、プロトコール作成のときから研究に元社員あるいは別の社員が関わっていたこともあるが、データの整理等にも元社員が関わっていたということのようです。元社員が個人的に関わっていたのかどうかということについては、必ずしも明確ではありませんが、元社員がノ社の社員として研究に関わっていたという積極的な認識は示されていません。これらの主張をこの委員会でどう評価し、どのようにするか。これからのヒアリングでさらに詰めていく必要があると思います。
 事案の状況把握については、今までのヒアリングで出てきたところと、これから3チームに分かれて行うヒアリングは関係者に来てもらって話を聞いて、さらに、今までに分かっていないことを、矛盾していることなどをできるだけ詰めて、全体像を描くことができればと考えています。
 そして、再発防止策については、今までに説明がありましたように、現在では、各大学で実施されているものがあります。そしてノルバティス社などで、再発防止策の案あるいは現に行われているのが出ておりますが、しかし、今までに出てきている再発防止策でいいのかどうか、日本は少し遅れているのではないか、というお話が先ほどありました。そこで、もう少し強化するかどうかということを含めて、中間報告で議論しなければなりません。
○桑島委員 今のままでは法的な規制がないわけで、限りなく怪しくと言っても、実際には決着が付くのは非常に難しいと思います。ですから、この委員会からある程度法的な規制、刑事告訴も含めたようなものに持っていく。例えば虚偽広告、薬事法の問題もありますし、保険診療の中で行ったという法的な規制という中身の刑事告訴を踏まえての議論をやったほうがいいのではないかと思います。
○森嶌委員長 やるのでしたら、そういう所に持って行けということを、こことしては提案されるべきですし、ここまでは分かったが、9月末までには、ここは我々の権限では分からないという中間まとめでも、いいとは申しませんが、やむを得ないと。
○稲垣委員 今、実際にどのようなことでこういう事件が起こったのかというところをはっきりさせることは重要なことではあります。それとともに現実的に既に日本の臨床試験の信頼性が国際的に揺らいでしまったというのが現実としてある以上、誰がというところを法律上の観点で、このあとをというのもありますが、最初に委員長が言われたように、構造的にどのようにして日本の臨床試験の信頼性を回復するかという話も早く始めて、それを早く世界に発信しないと、ますます「日本の臨床試験は」という、先ほど藤原先生が言われた遅れている部分の遅れが、更に遅れが広がったという話になってしまうだけではないか。それもちょっと危惧するところもあって、いろいろ解明していく中で疑問点はあるかと思いますが、改善するためにはどうしたらいいか。
 今日のところから改善策を提案いただいたわけですが、今、試験が全部受け入れられてない、どこか悪い所があって、そこだけ駄目だという話ではなくなっているとすると、どうしたら全体のレベルを上げたということを外に発信できるかというところで、そういう観点の論議も固めておいて、それを提言として出すのも必要ではないかと思います。ですから、そちらのほうでも時間が要るかなという感じです。
○曽根委員 それは私も、この検討委員会のミッションは犯人探しではないと思います。この委員会が別に法的な拘束力を持っているわけではないので、今回、なぜああいう事態が発生したのか。構造的な問題、いろいろな問題があると思います。制度的な問題とか時代の流れの中でたまたま起こったのか、あるいは必然性があったのか。それを明らかにすることが一番であるし、視点として、今、国策としていろいろな科学技術イノベーションとか、日本からいい医薬品とか機器類を出そうという大きな目標があるわけですから、産学連携推進は絶対必要だし、産学連携が推進をする中で、臨床研究をいかに適正にやっていくかという視点で整理をし直すことが大切です。ヒト、カネ、モノ。モノというのは研究成果の質の保証だと思います。ヒトについては、今回、聞いていても、余りにもお粗末というか、全く臨床研究も分からない。試験のハウツーも分からない方が携わっているという実態があります。
 それから、臨床研究をするためのお金がない。臨床研究を行う予算が大学に配分されないし、本当に必要な臨床試験ができないという状況の中で、お金をどうするのか。それから研究の質を保証するという意味で、いろいろな所で議論されていますが、医師主導の臨床試験はICACGCPに準拠してそのまま法的に適用すべきではないかとの意見もある。私はそれには反対なのです。よく議論をして、臨床研究のためのヒト、モノ、カネを、いかに日本が世界の信頼性を得るという意味で作っていくことができるのか、その仕組みを作っていくことが出来るのか、我々の大きな課題です。そういう意味での提案を、この検討委員会では最終的にはすべきだと思います。
○宮田委員 私も基本的にはそれに賛成します。まず委員長にお願いしたいのは、今日、聞いて新たな疑問が当然出てきていますので、まずそれを皆さんが事務局に投げて、整理して、ワーキンググループがそれを共有して解明するという手続をとったほうが私はいいと思います。それが第1です。
 第2は、皆さんおっしゃったように、ここで探偵ごっこをやっても、法的基盤が全くなく、我々は強制調査権がないので、話を伺うばかりというところで終わってしまいます。もちろん肉薄はしますが、限界があることを前提に、誰が犯人で、どういう悪意があったということを記述することだけがここの目的ではないと私も思っています。ですから、そういう意味では私たちの日本における臨床研究の構造的な欠陥、特に悪意とか第三者の思惑に対する脆弱性がどこにあるのか。それをどうやって埋めればいいのかという議論を是非皆さんとしてみたいと思います。
 もう1つ、嫌な懸念は、これが今回の5つの臨床研究だけかと。曽根先生に伺いたいぐらいですが、ほかにも日本の臨床研究は結構劣っているのではないかという疑惑が、今日の参考人のお話を聞いていると、これは例外事象ではなくて、一般事象なのではないかという疑いも出ていますので、もう少しスコープを広くして、何らかの調査なり、そういったことを提案することも必要かと思っています。
○稲垣委員 ただ、そこのとろは確かにおっしゃるとおりですが、臨床研究を巡る環境もどんどん変わってきている中で、昔に戻って、昔がどうだったという話は確かに重要ですが、まず今進んでいる臨床試験がどういう状態にあるか。そして、それに問題があれば、今から直さなければいけないし、更にそれを今から始める臨床試験にいかしていくという立場で考え方、つまり、今のような話をどこから始めるかというところも、どこかで線引きして解されたほうが現実的ではないでしょうか。
○宮田委員 基本的にはそういう話ですね。
○森嶌委員長 稲垣委員と宮田委員が言っておられたことは、そんなに大きな違いはありませんね。つまり、これはノバルティス社と慈恵医大、今回問題になっている所だけの話ではなくて、むしろ構造的にあった、あるいはあり得る問題なので、私が何回も言っているように、1つのケーススタディで、そこから日本で10年前はこうだった、今はこうなりつつあるという構造的な問題ですから、個々の犯人探しをするのではなくて、事案をできるだけ解明する過程で、日本で構造的にこういう問題があると。
 先ほどのお話ではありませんが、EUでこういうことをやっているのだったら、日本もこういうことをやることによって、私は産学共同というのは余り好きではありませんが、協力して、日本の医薬品業界、医学界がもっと前進するためには構造的な問題をどう克服すればいいかという視点で、そういう方向でやるべきではないかというのが私の引き受けたときからの考え方です。
 私は9月末と言いましたが、そんなものではとてもできないので、9月末に取りあえずこちらの方向でやると言っておいて、できるだけ大臣にも了承を得て、もう少しやっていくことにしたいのです。飽くまでもこのケースだけを捉えて、何とかはどうだったとか、この人はこう言った、ここでやっていたではないかという話をするのは、少なくとも私はそんなに暇ではないと言いたいので、やるとしたら、構造的な問題を解明するために何が問題かという限りで事案を究明していきたいと考えております。私の主義を押し付けるつもりはありませんが、考え方はそういうことです。
○山本委員 私はこの委員会は学術会議からも委員を推薦してくれということで、学術会議を代表する立場で来ています。全体の話に加わっていて、やはり研究者の倫理とか企業側もそうかもしれませんが、非常に落ちていると感じます。それをどのように立て直すかということを考えたときに、今回みたいなことが起こらないようにするためには、臨床研究一般は治験並みにちゃんとルールを作ってやれと言えば、それで終わりになってしまうかもしれませんが、本当に何が起こっていたのか、関係者が何をどれほど考えて行動したのかというのは、私はかなり気になるのです。
1つの事象を会社側と大学側が違った見方、違った捉え方をしているというのではなくて、実際に誰がデータを触わったのかという事実関係からして言われていることが違うのです。それはそれでいいですよということで薮の中ということにしてしまって、でも全体のルールをきちんとすれば、今回のことはオーバーカムできますよという形でいいのかなという気がものすごくしているのです。
○森嶌委員長 それでは、山本先生はどうしろとおっしゃるのですか。
○山本委員 絶対犯人探しをしろというつもりもないし、多分元社員にもお話を伺えば、それなりのいろいろな葛藤の中で生きておられるのだと思いますし、今回、ノバルティス社は非常に責め立てられていますが、製薬会社としてはこの1社だけが悪いのかというと、似たような体質はどこにでもあるということも事実だと思います。
 大学の方も自分たちは何もしていないから罪はないということだったら、そもそも研究のコレスボンディング・オーサになる資格のある人がやっていたのかという話になってしまうわけです。出した論文の内容について責任が持てないのだったら、どうしてその人はコレスポンディング・オーサーなのですかということです。そういう非常に難しい問題が幾つも幾つも重なっていると思うので、単純にルールをきつくしたから、今回はこれで事実は解明できませんでしたが、お仕舞いです、とするのは、いろいろな意味で社会に対しても研究者に対してもきちんと説明したことにならないのではないでしょうか。
○森嶌委員長 私はそのつもりはありません。こういう検討会で何をするために我々は集まっているのか、我々のできることは何なのか。確かにおっしゃるように、いろいろなことを究明できればこれに越したことはありません。しかし、先ほど宮田委員がおっしゃったように、私もそう思いますが、強制権限もないときに、どこまでできるのか。そして、我々は何ができるのか。またこれは行政機関の中に置かれているわけですから、ルールを作れば、あるいは法律を変えればと言いますが、逆に言うと、我々が提案をすることによって、もしかすると厚生労働省は法律を変えたり、政令を変えたりする可能性があるわけです。我々がここに集まって最も効果的に議論することは何なのか。
 ですから、いろいろな可能性を試しながら、実現すべきターゲットを見据えながら、戦略的に議論を進めるのがいいのではないでしょうか。学術会議が学術会議として調査をなさるのと、我々がここで集まって調査をするのはゴールは同じであるにしても、当面のターゲットとそれに到達するための方法は違っても構わないと思いますので、山本委員のおっしゃることはよく分かるのですが、それでは我々としてどのようにやればいいのかということを具体的に積極的に示していただかない限り、それだけでは足りないと言われても、少なくとも委員長としては「ああ、そうですか」と言うわけにはいきません。
○山本委員 それはそうかもしれません。ただ、最初から3回の会議で930日には何か報告を出すという、そういう会議の設定の仕方自身が私は納得がいかない、無理があると思います。
○森嶌委員長 それは大臣からそう言われていて、中間とりまとめという形で、こういう方向で我々はやっています、という報告を出すわけで、それでお仕舞いというわけではありません。少なくともその段階で、先ほどどなたかがおっしゃっいましたが、ここまでしかまだ分かっていない。だから、こういうことをもう少しやって、こういう方向に持って行きますということはあってしかるべきだと思います。
○山本委員 だから、ルールをきちんとすれば多分良い方向に行くだろうというのは、誰でも分かるし、私も最初からそれは分かっていることです。それを言うために適当に時間を使ったという話になってしまうと、それはまずいと思います。ここの調査から何かが出てきて、何が新しいものとして出てきたかということが入ってこそ、初めてこの委員会をやっている意味もあるし、調査について大臣のお墨付きがある委員会というのはここだけです。要するに、今の日本の中では多分ここが事実解明を一番期待されている委員会なのですよね。
○森嶌委員長 これも議論をするつもりはありませんが、私は法律家ですので申し上げますけれども、ルールは作ればルールが動く効果を現すというものではなくて、何のためにこのルールがあるのかということがみんなに理解されていなければルールというのは動かないものです。しかも、そのルールは一定の社会的なニーズの下にないと、書かれたものでお仕舞いになってしまいます。なぜこのルールはあるのか、何を目的としているのか、ルールを適用すれば何が起きるのか、などルールが利害対立の調整を図るものであることを明らかにしておく必要があります。先ほどコンフリクト・オブ・インタレストの話がありましたが、例えばCOIについてルールを作るとすれば、この事案でこんなことが起きていたから、こういうルールがあればそういう事態は防げたであろうということを明らかにすることが必要です。ほかにどうぞ。
○桑島委員 委員長が構造上の問題を明らかにしてとおっしゃったのですが、これだけノバルティス社と各大学の言うことが違うのです。これをどのように整合性を持っていくかというビジョンはいかがなのですか。これから議論することによってそれが解決するかどうか。社員が関与した、していないと全然違うのです。それが今後の話合いで解決するかどうかなのです。
○森嶌委員長 話合いをする。
○桑島委員 聞取り調査は。
○森嶌委員長 これはやってみなければ分からないとは申しませんが、同時にヒアリングは出てもらう関係者個人の自由やプライバシーなどの人権の問題もあります。そういうことを考えながら、刑事裁判所だったら一定の強制権限がありますが、この委員会にはありません。私は法律家ですから、他人様の人格権を無視してまで「あんた、おかしいじゃないか」と言うことはできません。世論もありますが、こういう問題も配慮しながらヒアリングを運用するつもりです。しかし、その都度できるだけ皆さんの御意見を伺います。
○花井委員 皆さんの話はそんなに対立していないと思うのです。要は今回起こった現象、どのような現象が生じたのかということについて、本当はもう少し丁寧に見ていかなければいけない。それをして、1つはこの委員会の1つのアジェンダなのかもしれませんが、言い方は悪いのですが、「落とし前論」というか、例えば患者は、もしかしたらもっと安いカルシウム拮抗薬で済むところなのに、高い薬を飲まされて、その費用は保険者も払っているし、患者も払っているのだから、それはどうしてくれるのかみたいなところが、最終的には出てくる可能性があるわけです。そういうことを決められるための何かを現象面を逐一見て、それはある程度責任論にならざるを得ないと思います。お金がそこで使われているわけです。その話を9月末までやって、かつ、そこの現象から抽出した問題点を整理して、今後の展開の報告をまとめるのが9月末というのは物理的に不可能なのです。その方向で9月末のギリギリまで粘って両方やると。
 今の話で私の中では2003年ぐらいはまだ認識がなかったと言いますが、私に言わせれば1990年代からこの問題はもうあるのだと、しつこく言ってきて、無視され続けて、薬食審でやっと内部規定ができてという経緯の、積年の恨みが私どもにはあって、何を今更という気持もあるのですが、そういう感情論は置いておいて、今後の日本の研究の信頼性とか患者の安全性という問題をやるための枠組みの制度の不足分をちゃんと9月末までにできる範囲で提案して、大臣には「ギリギリまでやってここまでですが、ちゃんとするのなら、もっと期間が要りますよ」という言葉を添えてその結果を示すというのでよいのでないでしょうか。
○森嶌委員長 9月末というのは、別にそこで打上げをするのではなくて、我々はこれをこのようにやっているのですという証拠を見せることだと考えています。こういう議論をしていて、こういう問題がある、しかし、こういう方向で議論をしてここまでは詰めてきたということを9月末にはとりまとめたいと思います。そのために、花井委員が今言われたことを全部出せればいいのですが、なかなか難しいように思います。
○宮田委員 基本的にはそうだと思いますが、先ほど私たちが探偵ごっこは程々にしてと言ったものに誤解を受けるとしたら、この調査委員会は誰も免責をする権利もないということです。ですから、そういう意味では花井さんがおっしゃったとおり、我々は時間がある限り事実とは何かで肉薄しますよ。それが全ての前提です。それがあって、山本さんがおっしゃっていたように、どうして研究者の倫理がここまでいい加減になってしまったのかみたいな実像が浮かび上がってきて、それに関してみんなで議論をして、次の手を考えよう。ですから、プライオリティとしては、まずは肉薄することを尊重し、次にその次の手を考えながら肉薄するということだと思います。
○森嶌委員長 ちょっと抽象的ですが、基本的にはおっしゃるとおりです。
○森下委員 私からも一言。私もプロセスについてはすごく重要だと思っています。たとえ両者の意見が違ったとしても、起こった事実のプロセスで誰がどう関わって、どうなったかというところは詰める必要があると思っています。併せて稲垣さんもおっしゃっていましたが、失墜した日本の臨床研究の基盤をどうやって引き上げるかのほうがもっと重要だと思っています。
 私は普段、CRCとして臨床研究を支援する立場ですが、大学病院から上がってくる問題と再発防止策は全く同感するものばかりです。ですが、今回の件では統計解析の専門家が学内にいないためにこういう構造が起こってしまったというのが問題点の1つに挙がっているのです。にもかかわらず各大学から上がってくる再発防止策は生物統計家を置きますというように、それでなくても人材不足の領域で1大学1人配置という構造上の問題があるのではないかとすごく危惧しています。
 再発防止策としてはノバルティスから提案のあった臨床研究の契約の在り方や、大学病院からは統計解析のところで1大学1人を置く必要があるのかというところも含めて、もう少し大所で考えなければいけない所、個人で考えなければいけない所も細かく分析していけたらと思っています。
○森嶌委員長 これも御意見ですが、時間がありませんので、そういうお気付きの点はメモで結構ですから事務局に出していただけないでしょうか。統計ではなくて、ほかのところも含めてそれぞれ大学から出ているもの、あるいは出ていないものも含めて、それから外国の例も含めて再発防止策でお気付きの点を出していただけますでしょうか。
○曽根委員 何度も言いますが、検討委員会で真実にできるだけ肉薄して犯人探しするというのは、私は無理だと思います。と言いますのは、今は大学であろうが、この委員会、元社員の場合も弁護士が付いていて発言にプロテクションが掛かっている。あらゆる発言の全てがどう解釈されるか、どう判断されるか計算されているわけで、本当に肉薄するのであれば、法廷でやるしかないと思います。
 ここで問われるのは、研究者のモラル、倫理観です。今回の件についても、今のままであれば誰も罰せられない。それに対するいら立ちというか、許せないという気持ちがあると思います。ここで犯人は誰かと追求しても出ないと思います。重要な点は研究者のモラルであり、企業のモラルです。アカデミアサイドのモラルをきちんと高めていく。そのために、アメリカの研究公正局、ORIようなものを日本版で作る必要があるのではないか。日本版のNIHを作るのであれば、政府がちゃんと保証して、モラルを外した悪い者は全部名前を出す。企業も企業自体の倫理性というか、公取協もあるわけで、私は公取協がうまく機能していないと思います。
○森嶌委員長 それは。
○曽根委員 私はそう思います。今回の場合、ノバルティス社は他の会社と比べても特定の大学へのの寄附金額が明らかに高額であるし、労務提供がベールに包まれ、元社員の企業の所属名を論文に書いてないというのは、企業側の大きな問題だと思います。そういう意味で社会的なペナルティをきちんと明確にしていくことが重要ではないかと思います。
○森嶌委員長 それでは夜を徹しますか。これから12時までやりますか。
○藤原委員 再発防止策をしっかり検討する上で、早めに決めなければいけない。臨床研究に関する倫理指針も平成20年の改定の審議のときは、それを法制化するかどうか結構話題になって、結局流れたのです。資金とか人が潤沢にあるのであれば法制化してきちんとコントロールすればいいのですが、EUで臨床試験指令が出たときには管理コストが3倍ぐらいに跳ね上がりました。今の日本の財政状況を考えたときに、臨床研究を維持するのに3倍のコストを各医療機関が出せるかというと現実的ではないので、どうしようかなと考えますが、ここまで日本の臨床研究の信頼性が失墜しているのであれば、今は指針の検討委員会があるのであれば、そちらでもう一度法制化を現実的にできるかどうかを考えてみたらどうですかということぐらいが、ここの結論かなと思います。
 あとは人と金が一番問題です。もう1つは奨学寄附金という制度が本当に要るのかです。ノバルティスは委受託研究でやりましょうと言っていますが、私も大学に勤務していたときには奨学寄附金のお陰でいろいろな基礎研究もやらせてもらいました。それを今大学から取ってしまうと、多分大学は潰れてしまいます。でも、そこまで踏み込んでやるのかどうかという議論は早めにしておかなければいけません。
 もう1つは、今は各大学は研究、研究と言っていますが、生物統計家が研究に関与すれば臨床研究のレベルが上がるかというと、それはノーで、医師が臨床研究に対する意義や質に対する認識をちゃんと持つためには医学部の教育が一番大事です。今日、来る前に文科省の医学教育のモデル・コア・カリキュラムを見てきましたが、臨床研究などはほとんど書いてありません。あれでは臨床研究をやる意義を医学生が感じて、質をどう担保したらいいかを考える頭は多分できない。今は卒後研究におんぶに抱っこのところがありますから、もしやるのであれば、医学教育課が、文科省さんも今日来られていることですし、医学教育のモデルカリキュラムの中で、臨床研究の意義や質などの大事さを、もう少し長いフレーズでちゃんと教育するということと記載しておけば、再発防止策の3点目は押さえられるのではないかと私は思います。
○桑島委員 藤原先生にお聞きしたいのですが、先ほど先生は欧州ではGCPの、いわゆる薬事法の適用は高リスクのものと、低リスクのものと分かれつつあると言われておりましたが、緩和される方向であるということですか。
○藤原委員 そうです。
○桑島委員 その基準というのはどういうことですか。
○藤原委員 それは去年7月にEUから、そういうプロポーズで議論されているところなのです。何でもかんでも厳しくすればいいというものではないので、市販後の今回のフェーズ4に近いものというのは、そんなに患者さんのリスクは大きくないですよね。ARBは出る前は咳が大変で、高血圧の薬でみんな困っていたのです。それがARBが出て、良くなったわけです。血圧もロサルタンに比べたらバルサルタンのほうが多分降圧効果は大きいから、みんなその恩恵にあずかっていて、あのようにたくさん売れたのだから、余り患者さんにリスクのないものをやっている臨床研究を厳しく厳しくやってもしょうがなくて、それを多分欧州も考えているし、アメリカも、今、ANPRMというコモンルールをもう少し現実的に変えましょうという議論が進んでいる中で、日本だけ先行して、本当は医療機器に関する臨床研究はもっとひどいのがたくさんあると思うのですが、そういうのも余り議論せずに、医薬品のこの領域だけではなくて、全部臨床研究は厳しくしましょうという議論は危険だと思います。
○桑島委員 例えば、がんの領域と循環器の領域でもかなり違うと思います。ほかの領域はリスクも高いし。循環器の領域の先生に聞いてみると、GCPは反対する先生方が圧倒的に多いのです。やりにくいし、費用もかかるし、種類も多いということで、リスク別に一律ではなくて、高リスクのものと低リスクのものを分けてやるという方向に持っていくというのは私は賛成です。
○藤原委員 それが現実的だと思います。そういう議論をここでやっていければいいと思います。
○稲垣委員 昔はともかくとして、今は既に業界の中でもいろいろルールを作っていますし、実際に寄附金は認めつつも、社会通念上、多額の寄附は駄目だというのはルールとしても入っている。そのような中で、ルールを単純に厳しくすればという藤原先生のお話に対しては、全く賛成で、既にそれなりにルールは、手当てはされている所もあります。それを、改めて共通認識として持った上で、それなのになぜこういうことが起こってしまったかという突っ込める原因、制度としての原因として何かというところに肉薄しつつ、そうは言っても、実際にこれでは足りないという曽根委員の御指摘の部分についても、それはどこかということを見て、それに手当てをするという形で話をしていく。濃淡を付けた対応をとっていくのが、この先は必要になって、濃淡をとっていくためにどこまで肉薄できるか。そして何が原因だったか。誰がではなく、何が原因だったかという形で見ていって、手当てすべき場所が見えてくるのかなということで、今後進められるといいかと私は思っています。
○森嶌委員長 我々委員はそれぞれ意見を言うために出てきておりますから、時間を延長しても、それぞれ自らにペナルティを課しているようなもので結構でしょうが、ここに座っておられる厚生労働省の方とか、参加をしておられる方は帰る自由はあるわけですが、冷房も切れて、焦熱地獄の中にいるようなものですから、この辺で一応議論を閉じたいと思います。
 なお、御意見があれば、書面あるいは電話でもいいと思いますが、事務局に出していただきたいと思います。
○一瀬課長 事務局からは先ほどの議論の中での補足をさせていただきますと、ほかの臨床研究は大丈夫かという宮田委員からの御発言がありましたが、その点については文部科学省と共同で自主点検の通知を出しておりまして、臨床研究を主にやっておられる大学病院等から自主点検して御報告いただくこととしております。
 長時間にわたりまして、冷房が切れた中での御討議ありがとうございました。委員長からもありましたとおり、時間の関係で御発言できなかった部分につきまして、疑問点、再発防止策等の御意見を事務局までお寄せいただければ、また取りまとめてフィードバックする形で出していきたいと考えております。
 本日の議事録につきましては、作成でき次第、委員の皆様に御確認をいただきまして、その後、公開させていただきますので、併せてよろしくお願いいたします。事務局からは以上です。
○森嶌委員長 それでは、ヒアリングについて、誰に聞くかということを含めて、できる場合とできない場合がありますが、皆さんの御意見がありましたら、是非、事務局にお寄せください。ヒアリングの示唆と議論を検討した上で、できるだけインテンシブな内容のヒアリングを実施したいと思います。今日は長時間にわたり、どうもありがとうございました。


(了)
<問い合わせ先>

医政局研究開発振興課担当:高江、本間

電話: 03-5253-1111(内線2542、2590)

ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 医政局が実施する検討会等> 高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会> 第2回高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会 議事録(2013年9月2日)

ページの先頭へ戻る