人材育成事例262
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高研は鶴岡市出身の医学博士であった秋山太一郎氏が1959年に創業して、高分子材料である医療用シリコーンの製造を始めた。鶴岡工場は1977年生産拠点として新設され、1991年に現在の新社屋を新築した。また、鶴岡工場は高研の生産拠点として他に鶴岡東工場、酒田工場も統括している。 現在、鶴岡工場では上記の製品をすべて生産しており、部品も含めると生産品目は2,000種類を超えている。いわゆる多品種少量生産である。また、会社全体としては、原材料の購買、研究開発、製造、販売を一貫して行っており、多様な人材を必要としている。 また、医療機器の生産拠点でもあり、新製品の開発や確実な品質管理を求められる為、多くのプロセスが(外部委託ではなく)自社で管理されている。例えば、製造に使用するための金型の製作・メンテナンスも簡単なものであれば社内で自社の設備で行われている。 それらの長年の経営資源やノウハウの蓄積と創業当初からのたゆまぬイノベーションによって多彩で信頼性の高い製品を社会に提供し続けている。 |
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経営理念は「コンプライアンス」と「イノベーション」であり、そのための経営指針の人材育成方針は次のことを掲げている。 ・個人の想像力と革新力を結集したチームワーク
・公正な評価に基づく人材尊重の経営により、働き甲斐のあるチャレンジ精神旺盛な企業を目指す。 以上を受けて、中長期経営計画においては下記を設定している。 ・重点的資源配分
・整員計画の見直し、計画的人材採用と育成 ・恒常的製品品質、業務品質の向上とコストダウンの両立 ・コンプライアンス、危機管理の徹底 これらは各組織の目標設定及び個人の目標設定につなげている。社員個人個人の目標達成が各組織の目標達成には不可欠で、各組織の目標達成が最終的に会社の目標達成を担っている。 以上のなかで、注目すべきは人材が育っていくためには会社と個人の信頼関係を維持向上するとともに、上記の“公正な評価”を具現化するために、社員から人選した人事委員会を構成し、各部門からの評価結果を検証する。その内容にバランスを欠いたもの、疑問などがあった場合は、評価者に問い合わせて確認する仕組みを設けている。さらに、人事委員会を構成する委員は一定期間で交代にするなどして、経営指針の“公正な評価に基づく”会社と個人の信頼関係を基本に育成を図っている。 |
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(1)新入社員教育 入社式後に座学(マナー研修等)の後に全員が鶴岡工場で1週間ほど実習を行う。その後に各部門に配属されて、6か月経過後に召集してフォローアップ研修を行う。ここでは、グループディスカッションが主で例えば“社会人としてのあるべき姿と今の自分”等のテーマで意見交換を行う。その上で発表、レポート提出が行われる。 また、入社1年後にも再度召集して“1年間の振り返りや今後の抱負”等のテーマでグループディスカッションが行われる。各段階で新入社員の研修終了後の懇親会には一年先輩の社員も出席して世代間の色んなものを伝承しようとしていることも、注目される。 中堅社員は入社後10年位の一通り自分の仕事が出来て、部門や個人の目標管理プロセスにも組み込まれている社員である。 目標達成のために個人が必要とする知識や情報収集には個人の裁量が認められており、社内や外部にアクセスして自分で習得することができる。例えば、各種学会や展示会等への参加は社内手続きがあるものの個人の判断が基本にある。 中堅社員向けの会社で設定する研修もグループディスカッションである。数人が1グループを構成して、例えば、“管理職とは”のような大枠のテーマを与える。するとグループごとに幅広く色んな意見が出てくる。それをまとめて発表して他のグループとの質疑応答を行う。これには取締役も出席している。 これも個人が必要とする知識や情報の習得は、上記と同じで個人の裁量が認められている。また、会社側で設定する研修も同じでグループディスカッションである。違うのはテーマで全社的な視点や中長期的な視点で行ってもらう。これには全取締役が出席して活発な意見交換を行う。 これは、具体的な知識の習得の手段として会社が民間会社と契約して庄内地域ではテレビ研修を行うものである。現在72のメニューが用意されており、個人が上司と相談の上、個々に項目を選択して映像で学ぶものである。 以上のように、高研の特徴は個人の持つべきあるいは持った方が良い知識や情報は、ある程度自由度を持たせて個人の裁量で取り組めるようにしている。 しかし、他の社員の経験や知識の共有、高研の価値観のようなものはグループディスカッションを取り入れている。これは、自分の知見や考えをアウトプットするとともに、他者からのそれらも吸収することを求められる。その上でプレゼンするので(自分+他者)が融合した内容となる。また、レポート提出も求めており、文書としてまとめるスキルも狙っている。これは、イノベーションを具現化するには個人の想像力とチームワークが不可欠だからと経験的に知っているからである。 このようにして経営陣は経営理念にある「イノベーション」につなげている。 |
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今後の課題は、階層別教育の在り方をどうするかである。過去の経営環境から計画的に継続的に採用しなかったことがあったために、世代間や階層間の社員数が偏在しており、この価値基準や経験値をどう伝承していくかである。 日常的なスキルは維持・向上・伝承できている。しかし、なぜそのような商品が開発・開始され、どんな試作や失敗があり、どのようにして顧客や市場に受け入れられていったのかを伝承が難しい。現在の結果だけをみていると疑問にも感じないようなことを、如何に感じさせるための教育が重要だからである。 いわゆる、高研のイノベーションのDNAや哲学、価値観、経験値を切れ目のないように繋げていくための伝承や教育の在り方について真剣に取り組まなければならない段階でもある。 |