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IDESコラム vol. 17
感染症エクスプレス@厚労省 2018年4月13日
「シンプル・イズ・ザ・ベストの英国より」
IDES養成プログラム 2期生:中村 佐知子
IDESプログラム2期の中村です。英国のロンドンに本部のあるイングランド公衆衛生庁に勤務しています。日本では、早くも桜が散り始めているようですが、英国でもまだ肌寒い中、ちらほらと咲きかけの桜を見かけるようになりました。
英国といえば、皆さまも記憶に新しいEU離脱で話題になりましたし、シェイクスピアやビートルズが生まれた国です。日本と同じ島国で、北緯50度から60度という高緯度ですので、さぞ寒いかと思いきや、温暖な気候の国なのです。英国の方々の人柄もまた、温厚で、電車の遅延や運行停止は日常茶飯事で、私の建物設備も故障が多く不便なことも多いのですが、驚くほど、英国の人々は「寛容」なのです。レディーファーストの慣習も、赴任当初は慣れませんでしたが、今では、紳士的な国民性に敬意の念を抱いています。私の言う「寛容さ」とは「無頓着」というニュアンスでは無く、「相手を受け入れる」とか「思いやり」というニュアンスです。
イングランド公衆衛生庁で、私は、感染症だけで無く、自然災害などのマルチハザードへの緊急時対応の枠組みのもと、技術要員として業務に当たっています。この、マルチハザードへの緊急時対応の仕組みは、驚くほど「シンプル」です。マルチハザードに対する緊急対応を「オールハザードアプローチ」という一本化されたスキームで、様々な危機に応用しやすくするというとても汎用性の高い手法をとっています。
私は、グローバル災害リスク軽減部門、マスギャザリング部門, 緊急対応部門に所属し、そのオールハザードアプローチの英国の取組みを見ることができました。これらの部門は、国際貢献と国内外の健康危機管理の強化を主な目的として設立され、国内外の災害 ネットワークの構築・共同研究、集団イベント時の危機管理の指揮、また、緊急時の国際派遣対応といった業務を行っています。この部署は指揮系統がシンプル化されており、数理モデルを使用した予測研究が中心となり、計画・実行、そして評価・修正を全ての過程をスピーディに行う体制が整っています。医療のみにとどまらないオールハザードに対する緊急時体制を一本化したシンプルな体制が、緊急時の迅速な対応につながるわけです。感染症対策を含む危機管理において、情報の「混乱」「錯綜」が大敵です。その観点で、シンプルにするということは、人事異動などで変わりうる担当者の負荷や判断のブレを防ぐことになり、結果的に、国民のためになると思います。
一方で、実際の緊急時には予想外のことは起こるものです。予想外のことが起きたら、臨機応変な対応が求められるので、想定を越えた状況への対応方法についても織り込んでいます。その一つの対応として、平時からのコミュニケーションや、様々な会議やエクササイズ・トレーニングです。危機管理をするのは、人ですので、顔の見える関係を築くことは、相手への配慮にもつながり、緊急時のより円滑かつ冷静な対応にもつながる訳です。忙しいときだからこそ、ちょっとした配慮が心に染みることがありますよね。
仕組みはシンプルなのですが、驚いたことに、業務を行う人の数は多省庁・機関・メディアにまたがり、様々な職種が存在します。立場が違えば、見方も変わります。様々な意見がでる中で、混乱させずに、組織として意思決定をするためには、その多様性を受け入れる「寛容さ」が求められると思います。だからこそ、多種多様な人々がいる中でシンプルを突き詰めることができることができるのだと思います。
私は、英国で働くことで、シンプルさを追求することの本質は、「自分が楽をする」ためというより、むしろ、他人との混乱を防ぐための「思いやり」であると思いました。その「思いやり」がレディーファーストや危機管理に限らず、様々なシーンに通じることだと感じました。日本が学べることの一つにその単純化するという概念とオールハザードアプローチという、全ての緊急・災害対策を一本化する仕組みかも知れません。
そのような英国から、私は日本に来月には帰国します。私は一旦行政機関の業務から離れ、臨床の現場から健康危機管理対策を行うことになります。シンプル・イズ・ザ・ベストの精神の元、ここ英国で得た経験・知識・ネットワークを日本に還元し、皆さまの健康に貢献できるよう、場所を変えても、感染症危機管理に携わって参ります。
●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます
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本コラムは、「感染症エクスプレス@厚労省」に掲載しております健康局結核感染症課長によるコラムです。
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