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あさコラム vol.10
感染症エクスプレス@厚労省 2016年6月24日

孤島の太陽

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 早いもので本コラムも連載10回目となりました。
 思いがけなく大きな反響をいただき、身が引き締まる思いです。
 在任中は可能な限り、さまざまな話題を随時綴ってまいります。
 これからもどうぞよろしくお願いします。

 さて、このたびの九州での記録的豪雨で被害に遭われた皆様に
おかれましては、心よりお見舞い申し上げます。
 当初はカラ梅雨ではないかと思われた今年の梅雨ですが、最近は
日本各地で雨に見舞われています。
 これだけ雨が続くと、太陽の日差しが恋しくなりますね。
 そこで、今回は「孤島の太陽」という映画を紹介いたします。

 私事ですが、2000年から10年余り「月刊公衆衛生情報」という
専門誌に、映画コラムを連載していたことがありました。
 公衆衛生や厚生労働行政に関係の深い映画を紹介していくという
内容なのですが、上司だった谷口 隆さん(現:大阪府吹田保健所長)
から題材としてご紹介頂いた映画がこの「孤島の太陽」です。

 「孤島の太陽」は、高知県・沖の島の駐在保健婦を主人公にした
1968年の日本映画です。
 主演は当時、絶大な人気を誇っていた樫山 文枝さん。
 ずいぶんと昔の映画ですが、主人公の荒木 初子さんは、実は、
保健衛生の普及および向上に貢献され、沖の島のフィラリア対策に
尽力を果たした実在の保健師さんなのです。

 フィラリアは蚊を媒介する感染症で、荒木さんが赴任した当時は、
沖の島で猛威をふるっていました。
 当然ながらフィラリアで死亡する方も多く、沖の島の保健衛生上
の重要課題の一つになっていました。

 そこで荒木さんは毎日のように、島民宅を訪問したり、婦人会に
出席するなど、蚊の駆除の重要性を説いて回っていたとのこと。
 蚊の幼虫駆除のため、墓地の花筒の水を捨てるなど、島民の反発
を受けながらも、徹底的に蚊の駆除を進めていました。

 そして、映画のシーンにもありますが、長崎大学熱帯医学研究所
の支援のもと、フィラリアの全島一斉検診として、深夜の採血活動にも
積極的に取組んでおられました。
 こうした荒木さんの取り組みと、フィラリア治療薬の普及のおかげで、
1960年代後半には、沖の島からフィラリアをなくすことができたのです。

 この功績を讃えようと、荒木さんの生誕百年に先立ち、島民や、
出身者らで作る「保健婦初子の会」によって、昨年、顕彰像が沖の島
の公園に建立されました。
 奇しくも今年は、中南米で流行したジカ熱対策などのため、皆さん
にも蚊の駆除をお願いしているところ。
 天国の荒木さんに激励して頂きながら、私たちも蚊対策に努めて
まいります。
 では、次回もどうぞよろしくお願いします。

<参考:「孤島の太陽」(日活HP)>
http://www.nikkatsu.com/movie/21088.html
<参考:荒木初子顕彰像(沖の島観光協会HP)>
http://www.oki-shin.com/topix.htm

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