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あさコラム vol.33
感染症エクスプレス@厚労省 2016年12月9日

哀しみ本線日本海

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 去る12月3日、4日、10年目を迎えた日中韓保健大臣会合が韓国釜山市で開
催されました。
 塩崎恭久厚生労働大臣が会合に出席し、感染症拡大防止のため検疫での協
力を強化していくことやAMR(薬剤耐性)対策の推進などを明記した共同声明
を採択しました。
 新型インフルエンザをはじめとする新興・再興感染症対策やAMR対策に、隣
接する3カ国が連携を図りながら取り組んでいくことは大変重要です。
 今後とも3カ国連携の強化を進め、3カ国の健康の増進、ひいてはアジアや
世界の健康のために協力していきます。

 また、国内に目を向けると、季節性インフルエンザの流行、各地における
野鳥での高病原性鳥インフルエンザA(H5N6)の感染確認と、今週もインフルエ
ンザに注目しています。
 一方、梅毒の急増には危機感を募らせるとともに、日本リザルツさんから
の依頼を受けてスナノミ症予防の提言をしたりと、慌ただしい師走の日々を
送っております。

 そんな中、北海道の北西部を走るJR留萌線のうち、留萌-増毛間が12月4日
に最後の運行を終え、大正10年(1921年)の開業から95年間の歴史に幕を下
ろしました。
 留萌から日本海に沿って南下し、故高倉健さん主演の昭和56年(1981年)
の映画「駅 STATION」のロケ地となった増毛駅までの16.7キロ。
 映画では、八代亜紀さんの名曲「舟唄」が流れる中、高倉健さんと倍賞千
恵子さんのシーンは、グッと心に刺さります。
 かつては、日本海のニシン漁で栄えた増毛ですが、過疎化や車社会の影響
などで乗客は激減し、赤字を抱えるJR北海道が地元との調整を行い、同区間
の廃線を決めました。
 廃線フィーバーもあり、撮り鉄はもとより、最終列車には定員の2倍の300人
以上が乗車するという過熱ぶりが、東京でも大きなニュースとなっていました。

 さて、日本海といえば、実は日本海と名がつく寄生虫症があります。
 それは「日本海裂頭条虫症」。
 東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生が、腸内に飼育しているという
寄生虫です。

 条虫はその様相から、戦国武将・真田信繁(幸村)と縁がある平らな紐の
「真田紐」に似ていることから、「サナダムシ」と総称されますが、日本海
裂頭条虫もそのひとつ。
 虫卵からコラキジウム(幼虫)に発育し、それが第1中間宿主であるケン
ミジンコに摂食されると、ケンミジンコでプロセルコイド(前擬尾虫)に発育
します。
 これを摂取したサケやサクラマス、カラフトマスなどが第2中間宿主となり、
さらに、これらの魚肉を食したヒトに感染すると、ヒトの消化器内で体長5~10m
に達する大型の条虫と成長します。
 しかし、症状は軽く、具体的には下痢、便秘や腹部膨満感などで、自覚症状
がない場合もあります。
 そのため、条虫が排便時に自然に排出されたことで、感染に気づくことも多
いとのこと。
 また、感染期間は数年から20年以上と幅広いのも特徴です。

 ところで、広節裂頭条虫と日本海裂頭条虫の違いは、ご存じですか?
 日本における近代寄生虫学の祖・東京帝国大学教授(当時)の飯島魁先生の
実験調査などにより、わが国でもサケやマスの生食で広節裂頭条虫に感染する
と考えられていました。
 しかし、昭和61年(1986年)、島根医科大学教授(当時)の山根洋右先生が、
フィンランドの広節裂頭条虫との比較共同研究の結果により、わが国の条虫は
独立の新種であると提唱。
 「日本海裂頭条虫」と命名されました。

 時代が平成に入ると、寄生虫考古学の研究が開始され、古代遺跡の便所遺構
から日本海裂頭条虫卵が続々と発見。
 少なくとも1300年前から、わが国に日本海裂頭条虫が存在していたことが明
らかにされました。

 日本海裂頭条虫の感染予防には、サケやマスは生食を避け、焼いたり煮たり
して食べる、あるいは一旦冷凍(-20℃ぐらい)してから食するのが良いそう
です。
 ちなみに、北海道には「ルイベ」という、冷凍保存したサケやマスを凍った
ままで味わう郷土料理がありますが、冷凍することで条虫やアニサキスが死滅
し、その感染予防となっています。
 北海道ならではの「知恵の料理」ですね。

 冬の夜は、やっぱり美味しい魚とお酒と演歌です。
 私も「舟唄」は大好きですが、北海道の鉄道廃線、日本海、魚の寄生虫とい
う今回のコラムの流れだと、歌は森昌子さんの「哀しみ本線日本海」。
 この歌を聴きながら、美味しい魚と燗を付けたお酒で、日頃の疲れを癒やし
たいと思います。

 

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