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あさコラム vol.37
感染症エクスプレス@厚労省 2017年1月13日

備えよ、常に!

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。
 相変わらず、インフルエンザやノロウイルスが流行しています。
 手洗いや咳エチケット(マスク着用)の徹底につきまして、よろしくお願
いいたします。

 さて、冬晴れの1月10日、横浜港で新型インフルエンザが発生したことを想
定した訓練が開催されました。
 この訓練は「平成28年度 感染症対策総合訓練(実働訓練)」として実施
されたもので、主催は横浜港保健衛生管理運営協議会です。
 横浜港は新型インフルエンザが発生した時に海外から入港を集中させる海
港の一つであることから、今回は新型インフルエンザを対象とした訓練とな
りました。
 協議会には、横浜検疫所をはじめ、横浜海上保安部、神奈川県警本部、横
浜市消防局、横浜市港湾局等がメンバーになっており、各メンバーから約100
人の方々が参加した本格的な実働訓練でした。
 私も横浜検疫所からお誘いを受け、訓練の評価者として見学してきました。

 横浜港大さん橋国際客船ターミナルに停泊中の大型クルーズ客船
「ぱしふぃっくびいなす」(26,594トン)を使ったこの訓練の想定は、世界
一周クルーズの寄港地のX国で新型インフルエンザに感染した男性が船内で死
亡し、4人の新型インフルエンザ感染の疑い患者さんと100人の濃厚接触者の方
がいるとのこと。
 訓練は着岸検疫から始まり、船長と船医から船内状況の聴取、医務室での
重症患者さんへの対応、客室での中等症患者さんへの対応、濃厚接触者の方
への対応と続きました。
 具体的には、検疫所職員が防護服(PPE)を着用し、検疫医官が患者さんへ
の問診、体温測定、検体採取などを行い、検疫官が「陰圧バッグ」に収容さ
れた患者さんを船外に搬出。
 防護服を着用しての処置は動きが制限されて難しそうだなぁと思って見学し
ていましたが、さすがは検疫医官のドクターたち。
 体温測定や検体採取等について、難なくこなしていました。

 さらに、消防局の救急車や民間救急車による患者搬送、県警の協力による検
体搬送、健康監視者の方々へのCIQ手続きや船内等の消毒の訓練なども実施。
 検疫医官が同乗した救急車で、第一種感染症指定医療機関の横浜市民病院へ
患者さんを搬送。
 また、患者検体は県警のパトカーで横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター
に搬送されました。

 圧巻はインドネシア語しか話せない濃厚接触者の方への対応訓練。
 本物のインドネシア人の方(※クルーズ船のクルーの方だそうです)に患者
さん役をお願いしての訓練でした。
 検疫医官が携帯電話をハンズフリーにして、電話通訳を用いて問診や検疫法
に基づく措置についての説明を実施。
 コミュニケーションを上手に取りながら、適切に対応できていたと思います。

 わが国が新型インフルエンザ対策に取り組んで久しいですが、鳥インフルエ
ンザの発生動向や医療提供体制の確認、被害想定の見直し、抗インフルエンザ
薬の備蓄の多様化、ワクチンのスピーディーな製造方法の開発、新型インフル
エンザワークショップの開催等による普及啓発の推進など、今後とも対策の充
実や見直し等に努めていかなければなりません。
 そうした中で、空港や海港におけるこうした実働訓練は、新型インフルエン
ザ対策における実務の確認のみならず、訓練の成果がエボラ出血熱などの新興・
再興感染症対策にも応用が利きます。
 また、訓練で生じた課題を解決していくことで、より精度が高い対策につな
がっていきます。

 新型インフルエンザ対策について「正確な情報を入手し、正しく怖がること
が大切」と仰ったのは、厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に
関する小委員会委員長の岡部信彦先生(川崎市健康安全研究所所長)ですが、
その奥義は「抜かりなく準備すること」。
 ボーイスカウトの標語のとおり「備えよ、常に!」が重要です。
 過剰に恐怖を煽る情報が流れても「備えあれば憂いなし」なのです。

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