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あさコラム vol.41
感染症エクスプレス@厚労省 2017年2月10日

世のため人のため

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 インフルエンザ、まだ流行を続けています。
 今季はインフルエンザA型(H3N2)が主流ですが、これからインフルエンザ
B型が増えてきそうです。
 身近にできる予防として、手洗いの徹底、マスクの着用、咳エチケットの
励行をお願いいたします。

 さて、今年も2月から宮崎、沖縄、米国アリゾナで、プロ野球の春季キャ
ンプが開催されています。
 プロ野球好きの皆さんは、選手やチームの動向や仕上がりぶりなど、キャ
ンプ情報を毎日楽しみにしているのではないでしょうか。
 応援しているチームのキャンプに日本各地から赴き、練習を見学しながら、
選手からサインをもらったり、一緒に写真を撮ったり、夜はキャンプ地の美
味しいモノを食べたりと、現地で春季キャンプを楽しむファンの数が、昔と
比べてずいぶん増えたなぁと思います。
 各球団もキャンプツアーを組んだり、スマートフォン用のキャンプアプリ
を提供するなど、熱心にキャンプも盛り上げようとしていることもプラスに
なっていると思います。
 そのおかげもあって、キャンプ地の経済効果への波及も半端ではない数字
になっているようです。

 さて、私が注目している新人選手は、福岡ソフトバンクホークスに入団し
た古谷優人投手、背番号49。
 北海道幕別町の江陵高校出身、惜しくも甲子園出場とはなりませんでした
が、北北海道大会では球速154kmをマークした快速左腕です。
 高卒ルーキーでドラフト2位という上位指名が示すように、球団からも大い
に期待されている逸材です。

 野球の実力もさることながら、この若干18歳の若者は、「世のため人のため、
そしてチームのために全力で頑張る」と、プロ野球選手としてやりたいことに
「社会貢献活動」を掲げています。
 「有名になったら障がい者の人たちを球場に招待したい」と熱く語る決意
の裏には、妹さんの存在があるからだそうです。

 古谷投手の小学3年の妹さんは、先天性サイトメガロウイルス感染症によ
る小児脳梗塞のため左半身のまひ、言語障がいが残っているとのこと。
 サイトメガロウイルスは健康であれば感染しても問題ないのですが、妊婦
さんが初めて感染した場合、胎児への感染が危ぶまれます。
 いわゆるTORCH症候群を引き起こすウイルスですが、この感染症を防ぐため
のワクチンはなく、抗体検査を妊娠を希望する前に行うなどで対応するしか
ありません。
 妊婦さんがサイトメガロウイルスに感染しても、必ず胎児に先天性感染を
起こすわけではありませんが、毎年およそ1,000人ほどの先天性感染が確認さ
れています。

 古谷投手は中学生の時まで、妹さんとどう接したら良いのか戸惑っていた
とのことですが、彼が変わったのは軟式野球部の活動が終わった中学3年生の
夏に妹さんのリハビリに付き添ってから。
 麻痺している左手で積み木を一生懸命に繰り返す妹さんの姿を見て、そう
いう人を助けたい、何か役に立つことをしていきたいと思ったそうです。
 それでもヤンチャな性格は変わらず、野球でテングになっていた古谷投手を
心身ともに更に成長させたのは、江陵高校野球部の谷本献悟監督の熱血指導。
 「監督から鍛えられたのは人間力。人の痛みがわかる選手になれた。」と
語る古谷投手が投げる試合には、いつも妹さんが応援に駆け付けてくれてい
ました。

 「ここまで来られたのは妹のおかげ。投げるときは福岡へ呼びたい。」
 ホークスの工藤公康監督のような左腕のエースとなるべく、家族の見守る
北の大地からプロ野球界へ飛び込んだ古谷投手。
 古谷投手の今後の活躍を励みに、私たちも「世のため人のため」となるよう、
感染症対策に挑んでいきたいと思います。


福岡ソフトバンクホークス2017年度新入団選手発表記者会見にて

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