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改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析について

概要版
平成22年7月
厚生労働省労働基準局

改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析について

1 趣旨・目的

足場等からの墜落による労働災害防止対策については、改正労働安全衛生規則の確実な履行と併せて、安全衛生部長通達(※)に基づく措置の普及を図っているところであるが、今般、これらの措置の効果を分析し、今後の対策に活用することを目的として、平成21年度に発生した足場からの墜落・転落による災害828件を対象として分析を行った。

(※) 足場からの墜落・転落災害を防止するため、平成21年6月1日より省令を改正し、対策を強化しているところであり、これと併せて、「より安全な措置」として、「手すり先行工法」の採用等を通達(平成21年4月24日付け安全衛生部長名通達)で示し、指導を行っている。

2 集計結果を踏まえての分析及び改正省令等に基づく措置の効果の分析

(1) 墜落防止措置と災害発生状況との関係
高さ2m以上の足場からの墜落・転落490件のうち、
ア 組立・解体中の最上層からの墜落・転落災害 合計90件
[1]安全帯の使用等省令に基づく措置あり・・・・・・・・・・ 6件 ( 6.7%)
[2]安全帯の使用等省令に基づく措置なし、不十分・・・・・ 84件 (93.3%)
( 手すり先行工法を採用していたもの・・・・・・・・・・・ 3件  )
イ 通常作業時等における墜落・転落災害(一側足場からの墜落によるもの(86件)を除く) 合計314件
[1]改正省令に基づく措置あり・・・・・・・・・・・・・・ 18件 ( 5.7%)
うち、部長通達に基づく措置あり・・・・・・・・・・・ 3件 ( 1.0%)
[2]改正省令に基づく措置なし、不十分・・・・・・・・・ 276件 (87.9%)
うち、改正前の省令に基づく措置あり・・・・・・・・ 72件 (22.9%)
[3]その他、不明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20件 ( 6.4%)
( 手すり先行工法を採用していたもの・・・・・・・・・・・ 3件  )
(2) まとめ

・ 今回の分析の結果、改正省令等に基づく墜落防止措置を適切に実施していなかったものが全体の約9割を占めており、改正省令等に基づく措置を講じていたにも関わらず被災した事案についても、床材の緊結不備等や労働者の不安全行動等によるものがほとんどを占めている。

・ なお、労働者死傷病報告の記載のみからでは詳細に判断することはできなかったが、手すり等が設置されていなかったものの中には、手すりを臨時に取り外して作業を行っていたもののほか、臨時に取り外した手すりを復旧しないままに次の作業を行ったと考えられるものも多く認められた。

(3) 今後の対応

・ 今後は今回の分析結果を踏まえ、学識経験者や労働災害防止の専門家による検証・評価の場を設け、改正省令等に基づく墜落防止措置の効果について検証・評価を行うこととしている。


平成22年7月
厚生労働省労働基準局

改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析について

I 総論

1 趣旨・目的

足場等からの墜落による労働災害防止対策については、平成21年3月に労働安全衛生規則(以下「省令」という。)の一部を改正するとともに、安全衛生部長通達(※)に基づき、改正省令の確実な履行と併せて実施することが望ましい「より安全な措置」を示し、その普及に努めているところであるが、同通達においては、「足場からの墜落災害について、負傷災害を含め毎年データを蓄積・分析し、その結果を示すとともに、改正省令の施行後3年を目途に、改正省令等の措置の効果の把握を行い、必要があると認められるときは、その結果に基づき所要の措置を講ずる」こととしているところである。

今回は平成21年度に発生した足場からの「墜落・転落」による災害について、死亡災害のみならず、休業4日以上の死傷災害をも含めて集計・分析を行うことにより、改正省令に基づく足場からの墜落防止措置等の効果を分析し、今後の対策に活用することを目的としている。

(※) 足場からの墜落・転落災害を防止するため、平成21年6月1日より省令を改正し、対策を強化しているところであり、これと併せて、「より安全な措置」として、「手すり先行工法」の採用等を通達(平成21年4月24日付け安全衛生部長名通達)で示し、指導を行っている。

2 集計・分析対象

改正省令は平成21年3月に公布し、同年6月1日から施行しているものであることから、墜落防止措置の効果を適切に分析するため、「平成21年発生度分」を対象として集計・分析を行うこととした。

具体的には、平成21年度中に発生した足場からの「墜落・転落」による休業4日以上の労働災害について、労働安全衛生法第100条及び労働安全衛生規則第97条に基づき、労働基準監督署長あて「労働者死傷病報告」が提出された828件を対象に実施したものであり、当該報告の記載をもとに、「足場の種類」、「墜落箇所の高さ」、「墜落時の作業状況」、「墜落防止措置の状況」等について集計・分析を行うとともに、改正省令等に基づく墜落防止措置の効果について分析を行った。

3 労働災害発生件数の推移

全産業における労働災害の発生件数は表1のとおり、死亡災害、死傷災害ともに減少傾向にあり、「墜落・転落」による災害についても、足場からによるものも含めて減少傾向にある。

また、「墜落・転落」のうち、足場からの「墜落・転落」が占める割合について平成17年度から21年度の合計値でみると、死傷災害で約5.9%、死亡災害で約10%となっている。

▼ 表−1 平成17年度から平成21年度までの労働災害の発生状況
年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度
全体 141,096 141,364 143,529 132,609 108,081
(1,490) (1,455) (1,317) (1,269) (1,034)
うち、
墜落、転落
24,777 24,633 24,383 22,529 18,721
(340) (357) (348) (315) (279)
うち、
足場から
1,642 1,563 1,552 1,227 828
(39) (32) (32) (34) (29)

※(  )内の数値は死亡で内数

※ 平成21年度の数値は速報値であり確定したものではない(平成22年1月〜3月発生分は今後の追加・削除が有り得る)。

II 平成21年度発生分の労働災害の集計・分析結果

1 集計概要
(1)業種別集計

業種別でみると表2のとおり、「建設業」が708人と全体の約86%を占めている。また、「建設業」の中では「鉄骨鉄筋コンクリート造建築工事業」が186人、「木造家屋建築工事業」が197人となっており、この2業種で「建設業」全体の約54%を占めている。

▼ 表−2 業種別集計
業種 死傷災害 うち、死亡
建設業 708 27
  うち、鉄骨・鉄筋コンクリート造
家屋建築工事業
186 7
うち、木造家屋建築工事業 197 2
造船業 20 1
その他の業種 100 1
全産業合計 828 29
(2)墜落箇所の高さ別集計

墜落箇所の高さについて見ると、表3のとおり、省令上、墜落防止措置が義務付けられている「2m以上」の箇所からの墜落が490人と全体の約59%を占めている。

また、「2m未満」については338人と約41%を占めているが、このうち、死亡災害は1件のみとなっている。

▼ 表−3 墜落箇所の高さ別集計
墜落箇所の高さ 死傷災害 うち、死亡
2m以上等 490 28
2m未満 338 1
合計 828 29

※ 「2m以上等」には、労働者死傷病報告からは墜落の高さが不明であるものを含む。

(3)足場の構造別、種類別集計(2m未満を除く)

省令上、墜落防止措置が義務付けられていない作業箇所の高さが「2m未満」からによる災害を除く490件について、足場の構造別、種類別に集計したところ、表4及び表5のとおりとなっている(各足場の構造等は参考資料のとおり)。

▼ 表−4 足場の種類別集計(墜落箇所の高さが2m未満のものを除く。)
足場の種類 死傷災害 うち、死亡
支柱1本で作業床を支える一側足場 102 3
わく組足場などの本足場等 367 25
不明 21 0
合計 490 28

※ 「一側足場」とは、作業場所が狭隘な場合等に設置する1本の支柱で作業床を支える構造の足場。

▼ 表−5 足場の種類別集計(墜落箇所の高さが2m未満のものを除く。)
足場の種類 死傷災害 うち、死亡
わく組足場 120 6
くさび緊結式足場 70 7
その他の単管足場 142 1
つり足場 19 10
その他(移動式足場、棚足場等) 110 4
不明 29 0
合計 490 28

※ 「その他の単管足」には、死傷病報告からは「くさび緊結式足場」か否かが判明できなかった単管足場を含む(以下同様)。

(4)墜落時の作業種類別集計(墜落箇所2m未満を除く)

墜落時に被災者が行っていた作業内容について見ると、表6のとおり、組立・解体時が120件(約24%)、通常作業時が241件(約49%)となっており、移動・昇降時が126件(約26%)となっている。

▼ 表−6 墜落時の作業種類別集計(墜落箇所の高さが2m未満のものを除く。)
作業の種類 死傷災害 うち、死亡
組立・解体時 120 14
  うち、最上層からの墜落 90 14
うち、最上層以外からの墜落 30 0
通常作業時 241 9
移動・昇降時 126 5
その他、不明 3 0
合計 490 28

※ 「組立・解体時」の中の「最上層以外」には、墜落時に目撃者等がおらず、墜落箇所が不明なものも含む。

2 墜落防止措置の状況
(1)組立・解体時における足場の最上層からの墜落・転落災害(墜落箇所2m未満を除く)

墜落箇所の高さが「2m未満」のものを除く490件のうち組立・解体時において足場の最上層からの墜落した災害90件について、足場の種類ごとに「最上層における墜落防止措置の状況」、「労働者の不安全行動等」、「作業床の緊結不備等構造上の問題」を集計したものは表7のとおり。

▼ 表−7 組立・解体時における足場の種類別・最上層の墜落防止措置等の状況(墜落箇所の高さが2m未満のものを除く。)
墜落防止措置の状況等 わく組
足場
くさび
式足場
その他
の単管
つり
足場
その他
の足場
合計
安全帯使用等省令に基づく墜落防止措置を実施していたもの 5 0 0 0 1 6
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 2 0 0 0 0 2
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 1 0 0 0 1 2
不安全行動、構造上の問題等なし 2 0 0 0 0 2
手すり等は設置していたが安全帯を使用しない等省令に基づく墜落防止措置が不十分であったもの 4 0 2 2 3 11
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 2 0 0 0 0 2
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 1 0 1 2 0 4
不安全行動、構造上の問題等なし 1 0 1 0 3 5
墜落防止措置を全く実施していなかったもの 13 13 20 15 12 73
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 1 1 1 0 0 3
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 0 1 4 9 4 18
不安全行動、構造上の問題等なし 12 11 15 6 8 52
合計 22 13 22 17 16 90
(2)通常作業時等における墜落・転落災害(一側足場及び墜落箇所2m未満を除く)

墜落箇所の高さが「2m未満」のものを除く490件のうち、組立・解体時の足場において足場の最上層からの墜落した災害90件及び一側足場からの墜落・転落災害86件を除いた314件について、足場の種類ごとに「最上層における墜落防止措置の状況」、「労働者の不安全行動等」、「作業床の緊結不備等構造上の問題」を集計したものは表7のとおり。

※ 「通常作業時等における墜落・転落」には、足場の組立・解体時における最上層以外の場所からの墜落・転落も含む。

▼ 表−8 足場の種類別・墜落箇所における墜落防止措置状況別集計(一側足場及び墜落箇所の高さが2m未満のものを除く。)
墜落防止措置の状況等 わく組
足場
くさび
式足場
その他
の単管
つり
足場
その他
の足場
合計
改正省令に基づく墜落防止措置に加え部長通達に基づき上さん等を設置していたもの 1 0 0 1 1 3
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 1 0 0 0 0 1
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 0 0 0 1 0 1
不安全行動、構造上の問題等なし 0 0 0 0 1 1
改正省令に基づく墜落防止措置のみを実施していたもの 3 3 3 0 6 15
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 2 2 3 0 2 9
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 1 1 0 0 3 5
不安全行動、構造上の問題等なし 0 0 0 0 1 1
改正前の省令に基づく墜落防止措置は実施していたもの 35 11 13 0 13 72
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 9 3 2 0 5 19
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 0 0 2 0 1 3
不安全行動、構造上の問題等なし 26 8 9 0 7 50
改正前の省令に基づく措置も守っていなかったもの 52 22 48 1 81 204
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 11 3 1 0 3 18
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 7 0 8 0 22 37
不安全行動、構造上の問題等なし 34 19 39 1 56 149
その他、不明 6 1 4 0 9 20
  うち、足場から身を乗出して作業を行う等不安全行動等があったもの 3 0 4 0 3 10
うち、作業床の緊結不備等構造上の問題があったもの 2 1 0 0 1 4
不安全行動、構造上の問題等なし 1 0 0 0 5 6
合計 97 37 68 2 110 314

III 集計結果を踏まえての分析及び改正省令等に基づく措置の効果の分析

1 墜落防止措置と災害発生状況との関係
(1)高さ2m以上の足場からの墜落・転落490件のうち、
ア 組立・解体中の最上層からの墜落・転落災害 合計90件
[1]安全帯の使用等省令に基づく措置あり・・・・・・・・・・ 6件 ( 6.7%)
[2]安全帯の使用等省令に基づく措置なし、不十分・・・・・ 84件 (93.3%)
( 手すり先行工法を採用していたもの・・・・・・・・・・・ 3件  )
イ 通常作業時等における墜落・転落災害(一側足場からの墜落によるもの(86件)を除く) 合計314件
[1]改正省令に基づく措置あり・・・・・・・・・・・・・・ 18件 ( 5.7%)
うち、部長通達に基づく措置あり・・・・・・・・・・・ 3件 ( 1.0%)
[2]改正省令に基づく措置なし、不十分・・・・・・・・・ 276件 (87.9%)
うち、改正前の省令に基づく措置あり・・・・・・・・ 72件 (22.9%)
[3]その他、不明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20件 ( 6.4%)
( 手すり先行工法を採用していたもの・・・・・・・・・・・ 3件  )
2 分析結果
(1)組立解体時における最上層からの墜落について

[1] 安全帯の使用等省令に基づく墜落防止措置を実施していなかったものや不十分であったものが90件中84件と約93%を占めており、これらの災害の中には、安全帯は着用していたものの、使用していなかったものも多く含まれている。

また、安全帯の使用等省令に基づく墜落防止措置を実施していたにも関わらず、被災したものが6件(約6.7%)あるが、その概要は以下のとおりであり、そのうち5件が適切な安全帯取付設備の設置や適切な方法での安全帯の使用を怠っていたものであった(うち、1件については、床材が何らかの原因で破損したことにより墜落し、安全帯は適切に使用していたため地面までは墜落しなかったもの)。

なお、残りの1件については、手すり先行工法に基づき、適切に先行手すりわくを取付けて作業を行っていたが、転倒により中さん(高さ40cm)の下から墜落したもの。

災害の概要 不安全行動等
足場組立作業の際、足場上で建わく2本を持って移動していたところ、コーナー部で安全帯を掛け替える際にバランスを崩し、地上に墜落したもの。 不安全行動等
足場組立作業において、巻上げ機で揚重した足場のブレス材を取込む作業中、ブレス材とともに墜落したもの。安全帯を使用していたが、ロープ部分で破断し、フックが建わくに残っていた。 なし
足場の組立作業中、建わくと建わくの間に掛渡した長さ約4mの鋼製の板の上を移動中、中央付近で板が折れて墜落したもの。親綱と安全帯を使用していたため、地上には落下せずに済んだが、足を負傷したもの。 床材緊結不備等
橋脚工事で使用していた足場解体作業中、最上層にて、高さ20cmの幅木の上部に設けた手すりを取り外す際、安全帯を取り付けていた手すりを外してしまい、バランスを崩して墜落したもの。 不安全行動等
棚足場の組立作業中、最上部の敷板を敷き直している際に敷板の上に乗ったところ天秤状態となり、親綱に安全帯を確実に掛けていなかったため安全帯が外れ、敷板とともに墜落したもの。 床材緊結不備等
手すり先行工法を用いた足場の組立作業中、何らかの原因により転倒し、手すりわくの中さん(40cm)の下から墜落したもの。なお、既に組立済みの箇所には、交差筋交いに加え、下さん及び上さんが設置されていた。 なし

[2] 手すり先行工法を採用していたにも関わらず足場の組立・解体中に最上層から墜落したものは3件あったが、その概要は以下のとおりであり、うち、2件については、先行手すりわくの適切な取付、ガイドラインに基づく適切な手順に沿った作業を怠っていたものであった。

なお、1件については、手すり先行工法に基づき、適切に先行手すりわくを取付けて作業を行っていたが、転倒により、高さ40センチの中さんの下から墜落したもの。

災害の概要 不安全行動等
足場の解体作業中、解体した部材を荷降ろし場所へ運ぶ際にバランスを崩して墜落したもの。足場は手すり先行工法を用いて解体していたが、墜落箇所は入隅部分であり、先行手すりわくが設置できず、親綱が設置してあったが安全帯は使用していなかった。 不安全行動等
手すり先行工法を用いた足場の組立作業中、何らかの原因により転倒し、手すりわくの中さん(40cm)の下から墜落したもの。なお、既に組立済みの箇所には、交差筋交いに加え、下さん及び上さんが設置されていた。【再掲】 なし
足場の解体作業中、足場から身を乗り出して下層の労働者に解体した部材を手渡ししていたところ、誤って墜落したもの。手すり先行工法を用いていたが、安全帯は使用していなかった。 不安全行動等
(2)通常作業時等における墜落・転落災害について

[1] 改正省令に基づく措置を実施していなかったものや不十分であったものが、314件中276件と約88%を占めており、このうち、改正前の省令に基づく措置は講じていたものは72件と約23%を占めている。

また、改正省令に基づく措置を実施していたものは18件(約5.7%)あり、このうち、3件については改正省令に加え、部長通達に基づく墜落防止措置も実施していた。

これらの災害の概要は以下のとおりであり、18件中16件については労働者の不安全行動や床材の緊結不備等によるものであった。

なお、不安全行動等がない2件のうち、1件については、目撃者がおらず、墜落箇所や墜落時の作業が不明であったものであり、残りの1件については、移動式足場に設けられた梯子を下りる際に誤って墜落したもの。

【うち、部長通達に基づく墜落防止措置あり 3件】
災害の概要 不安全行動等
つり足場上にて作業中、吊りチェーンが破断し、足場板が下がり、その隙間から墜落したもの。足場の側面には、幅木として、約1.3mの高さのパネルが設置されていた。 床材緊結不備等
足場の下で安全帯を着用した状態で倒れている被災者が発見されたもの。目的者がおらず、墜落原因は不明であるが、足場には、手すり、中さん、幅木が設置されていた。 不明
足場の解体作業に先立ち、交さ筋交いの上部から身を乗り出して防音シートを撤去する作業を行っていたところ、その反動で墜落したもの。足場には、交さ筋かい、下さんに加え、上さんが設置されていた。 不安全行動等
【うち、部長通達に基づく墜落防止措置なし 15件】
災害の概要 不安全行動等
足場の外側に身を乗り出し、よじ登ろうとしたところ手が滑り墜落したもの。足場には、手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
塗装工事中、足場の手すりを乗り越え、足場の外側を伝って一段下に移ろうとしたところ誤って墜落したもの。足場には、手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
移動式足場上で航空機の点検作業中、手すりわくが工具に引っ掛かって脱落し、体勢を崩して墜落したもの。足場には、手すりと中さんの機能を有する手すりわくが設置されていた。 床材緊結不備等
外部足場のメッシュシート点検後、次の作業に移るための移動中、足場から建物に移ろうとして、手すりへ足を掛けた際に足が滑り、足場と建物の間に墜落したもの。足場には、交さ筋交い、下さんが設置されていた。 不安全行動等
足場上で作業床を移動中、昇降禁止の場所から降りようとして、手すりに足を掛けたところ踏みはずして墜落したもの。足場には手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
足場組立作業中、先行手すり部材によりかかって荷揚げ作業を行っていたところ、先行手すり部材がしっかり取り付けられておらず、部材ごと墜落したもの。足場には、先行手すり部材として、手すりの下部に2本の斜材が設置されていた。 床材緊結不備等
移動式足場上で作業後に手すりを跨いで降りようとした際に誤って墜落したもの。足場には、手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
足場の組立作業時に部材を手渡しで送っていたところ、部材が手すりに当たり、手すりが外れバランスを崩し、外れた手すり材とともに墜落したもの。足場には手すり、中さんが設置されており、安全帯は外れた手すりに掛けて作業を行っていた。 床材緊結不備等
足場上を小走りで移動していたところ、コーナー部の躯体の内側を埋めるために設置してあった足場板の段差につまずいて墜落したもの(墜落箇所は本人の記憶がなく不明)。足場には手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
移動式足場上での作業後に外側に取付けられた梯子を下りる際、足を滑らせて墜落したもの。足場には手すり、中さんが設置されていた。 なし
移動式足場上で作業後に足場から下りる際、中さんに手をかけたところ、中さんが外れ、その反動で墜落したもの。足場には手すり、中さんが設置されていた。 床材緊結不備等
並行して組まれた足場の上段から下段の作業床に降りる際、上段の中さんから飛び降りた際に下段の床材が破損し、墜落したもの。足場には手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
わく組足場の交さ筋交いを足がかりにして足場の外側をよじ登ろうとした際に墜落したもの。足場には交差筋交いと下さんが設置されていた。 不安全行動等
移動式足場上で、別の移動式足場に移動する際、床材の隙間から墜落したもの。足場には、手すり、中さんが設置されていた。 不安全行動等
造船用ブロックの製作用足場の上で作業をしていたところ、中さんが外れて墜落したもの。足場には手すり及び中さんが設置されていた。 床材緊結不備等

[2] 手すり先行工法を採用して組立・解体が行われていた足場における災害は3件あったが、その概要は以下のとおりであり、いずれも、先行手すりわくを取外して安全帯も使用せずに作業を行うなど労働者の不安全行動があったものや、先行手すりの取付方法等に不備があり手すりわくが脱落するなど、改正省令に基づく措置やガイドラインに基づく適切な手順に沿った作業を怠っていたものであった。

災害の概要 不安全行動等
外部足場組立時における荷揚げ作業中、先行手すり部材を取り外した状態で手渡して荷揚げをしていた際にバランスを崩して墜落したもの。手すり等を取り外していたにも関わらず、安全帯は使用していなかった。 不安全行動等
足場組立作業中、先行手すり部材によりかかって荷揚げ作業を行っていたところ、先行手すり部材がしっかり取り付けられておらず、部材ごと墜落したもの。足場には、先行手すり部材として、手すりの下部に2本の斜材が設置されていた。【再掲】 床材緊結不備等
手すり先行工法を用いてわく組足場を組立中、地上から足場部材を受け取り、最上段にいる作業員に渡す作業を行っていた被災者がバランスを崩し、部材とともに外部へ墜落したもの。墜落箇所の足場は既に組み上がっていたが、資材の受け渡しのため、手すりわく及び作業床の一部を外して作業を行っており、安全帯も使用していなかった。 不安全行動等
(3)まとめ

・ 今回の分析の結果、改正省令等に基づく墜落防止措置を適切に実施していなかったものが全体の約9割を占めており、改正省令等に基づく措置を講じていたにも関わらず被災した事案についても、床材の緊結不備等や労働者の不安全行動等によるものがほとんどを占めている。

・ なお、労働者死傷病報告の記載のみからでは詳細に判断することはできなかったが、手すり等が設置されていなかったものの中には、手すりを臨時に取り外して作業を行っていたもののほか、臨時に取り外した手すりを復旧しないままに次の作業を行ったと考えられるものも多く認められた。

(4)今後の対応

・ 今後は今回の分析結果を踏まえ、学識経験者や労働災害防止の専門家による検証・評価の場を設け、改正省令等に基づく墜落防止措置の効果について検証・評価を行うこととしている。


(参考)

参照条文

◎労働安全衛生法(昭和四十七年六月八日法律第五十七号)

(事業者の講ずべき措置等)
第二十条 事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険

二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険

三 電気、熱その他のエネルギーによる危険

○労働安全衛生法施行令(昭和四十七年八月十九日政令第三百十八号)

(作業主任者を選任すべき作業)
第六条 法第十四条の政令で定める作業は、次のとおりとする。
(一〜十四 略)
十五 つり足場(ゴンドラのつり足場を除く。以下同じ。)、張出し足場又は高さが五メートル以上の構造の足場の組立て、解体又は変更の作業
(以下 略)

●労働安全衛生規則(昭和四十七年九月三十日労働省令第三十二号)

(作業床)
第五百六十三条 事業者は、足場(一側足場を除く。第三号において同じ。)における高さ二メートル以上の作業場所には、次に定めるところにより、作業床を設けなければならない。
(一〜二 略)
三 墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、わく組足場(妻面に係る部分を除く。以下この号において同じ。)にあつてはイ又はロ、わく組足場以外の足場にあつてはハに掲げる設備(丈夫な構造の設備であつて、たわみが生ずるおそれがなく、かつ、著しい損傷、変形又は腐食がないものに限る。)を設けること。ただし、作業の性質上これらの設備を設けることが著しく困難な場合又は作業の必要上臨時にこれらの設備を取りはずす場合において、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じたときは、この限りでない。

イ 交さ筋かい及び高さ十五センチメートル以上四十センチメートル以下のさん若しくは高さ十五センチメートル以上の幅木又はこれらと同等以上の機能を有する設備

ロ 手すりわく

ハ 高さ八十五センチメートル以上の手すり又はこれと同等以上の機能を有する設備(以下「手すり等」という。)及び中さん等

(四〜六及び第2項 略)
3 労働者は、第一項第三号ただし書の場合において、安全帯等の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。
(足場の組立て等の作業)
第五百六十四条 事業者は、令第六号第十五号の作業を行なうときは、次の措置を講じなければならない。

一  組立て、解体又は変更の時期、範囲及び順序を当該作業に従事する労働者に周知させること。

二  組立て、解体又は変更の作業を行なう区域内には、関係労働者以外の労働者の立入りを禁止すること。

三  強風、大雨、大雪等の悪天候のため、作業の実施について危険が予想されるときは、作業を中止すること。

四 足場材の緊結、取りはずし、受渡し等の作業にあつては、幅二十センチメートル以上の足場板を設け、労働者に安全帯を使用させる等労働者の墜落による危険を防止するための措置を講ずること。

五  材料、器具、工具等を上げ、又はおろすときは、つり綱、つり袋等を労働者に使用させること。

2 労働者は、前項第四号の作業において安全帯等の使用を命ぜられたときは、これを使用しなければならない。


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