厚生労働省

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平成22年4月2日

照会先

雇用均等・児童家庭局家庭福祉課

課長    藤原 (内7881)

課長補佐 湯村 (内7882)

(電話・代表) 03(5253)1111

(電話・直通) 03(3595)2504

社会保障審議会児童部会
国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会第1回報告について

社会保障審議会児童部会国立児童自立処遇支援専門委員会において別添のとおり「国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会第1回報告」がとりまとめられましたので公表いたします。


国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会第1回報告 ポイント

経緯

○ 平成21年8月15日  国立児童自立支援施設きぬ川学院の1人の職員(職員A)が入所児童の1人(入所児童B)に対し、殴る蹴るなどの暴力行為を行う事案が発生。

○ 平成21年11月12日 職員A、学院院長等を処分し、報道発表。

同月     学院における再発防止のための改善策を含め、国立児童自立支援施設の入所児童の権利擁護の向上、適切な処遇支援を行うため、専門委員会を設置。

○ 平成21年12月22日 第1回委員会を開催。計8回開催、現地調査を3回実施。

○ 平成22年4月2日   第1回報告をとりまとめ、公表。

子どもの処遇の観点からの8月15日事案の総括

全体的な見直しの方向性

○ 処遇の理念〜ひとりひとりの子どものために〜

「集団として子どもが何事も問題を起こさず日課をこなせること」が至上命題となっているが、本来、支援の目標は、「子どもの抱える課題が改善されていくこと」。 「支援の目標がどこにあるのか」、「子どもの最善の利益は何か」という基本に立ち返って処遇の理念を再確認し、掘り下げ、定着する努力が必要。

○ 子どもの状態に応じたケア

虐待を受けた子どもや発達障害のある子どもなど、特に個別の対応が求められる子どもの入所が増えている中、子どもの状態を的確に把握し、把握した内容をケアに反映させることが必要。

○ 寮運営を「開く」こと

「寮のことは寮の責任で」という「閉鎖的な組織風土」が、子どもたちを施設全体で処遇していくというアプローチをとりにくくしている。 各寮の運営を「開く」こと、寮担当職員以外の職員が寮を支援・スーパーバイズし、情報共有することが必要。

ただちに取り組むべき事項

○ 処遇の理念の検証と研修の実施
○ ケースカンファレンスの見直し
○ 外部によるモニタリングの強化
○ 医療チーム体制の整備

個別の課題と論点

(1)子どもの処遇をめぐる問題
[1] 処遇の基本的な枠組み
  • 寮の運営の閉鎖性を解消するため、さまざまな職員が寮舎間で行き来する仕組みづくり。
  • 入所時のアセスメントの方法、子どもの適性を踏まえた入寮や転寮に関する考え方等について、検討、実施。
[2] 処遇内容・処遇技術
  • 自立支援計画の内容を充実し、策定・見直しのプロセスを強化。
  • 虐待を受けた子どもや発達障害のある子に対する支援方法等の研修を実施。
  • 管理的な方法によらず子どもとの信頼関係を築く手法等について武蔵野学院との合同会議で検討。
[3] 子どもの意見をくみ上げる仕組み等
  • きぬ川学院全体の子ども会の設置や寮横断的な部活動・サークル活動の充実等について検討。
(2)組織・職員間の関係をめぐる問題
(3)外部との関係

社会保障審議会児童部会国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会の設置について

1 設置の趣旨

国立児童自立支援施設(以下「施設」という。)における被措置児童等虐待などの人権侵害等に関する調査・分析し、適切な処遇支援に関する検討を行うとともに、入所児童の権利擁護の向上を図るため、社会保障審議会児童部会の下に「国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会」(以下「専門委員会」という。)を設置する。

2 構成等

(1) 専門委員会の委員は、別紙のとおりとする。

(2) 専門委員会には委員長を置く。

3 検討事項

(1) 専門委員会における検討事項は以下のとおりとする。

  • 施設における被措置児童等虐待等の人権侵害事案に関する調査・分析、対応策に関すること
  • 施設における入所児童の権利擁護の向上に関すること
  • その他施設入所児童の適切な処遇支援の実施に関すること

(2) 専門委員会は、特に必要があると認めるときは、施設に立ち入り、関係者に対する質問又は関係書類の閲覧等により調査を行うことができる。

4 守秘義務

委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。

5 委員会の庶務

専門委員会の庶務は、厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課において処理する。

氏名 所属
磯谷 文明 くれたけ法律事務所 弁護士
小木曽 宏 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科准教授
関根 和夫
(委員長)
こどもの心のケアハウス嵐山学園施設長
星野 崇啓 埼玉県立小児医療センター 精神科医
宮島 清 日本社会事業大学専門職大学院准教授
横堀 昌子 青山学院女子短期大学子ども学科准教授

参考

児童自立支援施設とは

○ 児童自立支援施設※は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童等を入所させ、支援する施設

※ 児童自立支援施設は、児童福祉法の改正により平成10年4月より「教護院」から「児童自立支援施設」となっている。

○ 児童福祉法

第四十四条  児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。

○ 施設数     58か所  (公立 56か所(国立2カ所含む。) 私立 2か所)

○ 入所児童数  1,808人      職員総数  1,825人

(「社会福祉施設等調査報告」平成20年度)

きぬ川学院の概況

○ 国立児童自立支援施設は2カ所あり、1カ所は男子(武蔵野学院)、1カ所は女子(きぬ川学院)となっている。

○ きぬ川学院には、平成22年4月現在28人の女子児童が入所。

○ 設置年月日 昭和36年4月26日         ○ 所在地    栃木県さくら市押上288番地

処遇体制

○ 「普通寮」が5つ、「観察寮」、「自活寮」、「交替寮」がそれぞれ1つずつある。

○ 入所児童は通常、「小舎夫婦制」の「普通寮」で夫婦である職員と子どもたちが生活を共にしながら生活を送る。

※ 「小舎夫婦制」…夫婦である職員と子どもが一緒の寮舎に住み込み、生活を共にしながら支援するという形態。
教護院のころから採られている伝統的な処遇形態。

※ 普通寮を担当する職員が休みのときには、交替寮の職員が子どもと生活を送る。

○ 虐待等により他者との関係がうまく築けず、集団指導が困難な子ども等を一時的に離して個別対応が必要な場合や退所間近な児童等が退所後の生活に備える場合等には、観察寮や自活寮などで個別処遇を行う。


国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会第1回報告

平成22年4月2日

I はじめに

○ 平成21年8月15日、きぬ川学院の1人の職員(運用中の5つの寮舎のうちの1つの寮の寮長。以下「職員A」という。)が入所児童の1人(以下「入所児童B」という。)に対し、殴る蹴るなどの暴力行為を行う事案(以下「8月15日の事案」という。)が発生した。

○ 8月18日、きぬ川学院から厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課に対し、事案についての報告があった。8月21日以降11月にかけて、同課によりきぬ川学院での現地調査等が実施され、厚生労働省は、11月12日に、職員Aについて停職3月、院長ほか2名について訓告等の処分を行い、報道発表を行った。

なお、職員Aについては、同日、入所児童Bに対する暴力行為について栃木県警さくら署へ自ら申し出た。

○ 厚生労働省は、この事案を踏まえ、平成21年11月に有識者による本委員会(国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会)を社会保障審議会児童部会の下に設置し、12月22日に第1回委員会が開催された。

○ 本委員会は、きぬ川学院における今回の被措置児童等虐待事案への対応のみならず、

を検討するために設置されたところであるが、これまでの3か月間は、きぬ川学院における処遇の在り方の見直しを中心に議論を進めてきた。本報告書は、この間の委員会の議論について、一定のとりまとめを行ったものである。

II 第1回報告のとりまとめに当たって

(委員会の基本的スタンス等)

○ 被措置児童等虐待事案の改善策を考えるに当たっては、発生した事案を検証するだけでは不十分である。事案の発生に至るまで、また現状における子どもに対する一連の処遇の内容、施設全体の運営方針、理念、組織体制、現場の職員の抱える課題など、全体にわたる検証を徹底的に実施し、根本的な原因と背景を見極めることが必要である。

○ このため、本委員会は、これまでに8回の委員会と3回の現地調査を実施し、今回の事案の状況を把握するとともに、このような事案が発生した背景にある子どもの処遇に対するきぬ川学院の考え方や組織体制の在り方等について調査・検証を行った。8月15日の事案の当時に厚生労働省が実施した調査内容の確認はもちろんのこと、8回の委員会のうち、6回は、学院の幹部職員からヒアリングを行いながら委員の意見を直接に幹部職員に伝え、学院の処遇の課題と改善策を専門的見地から討議した。さらに、現地調査では、5つの普通寮の寮長をはじめとする多数の職員からの意見の聴取を行い、現場の様々な課題を把握した。

○ 本報告は、きぬ川学院、厚生労働省、武蔵野学院などの関係者が協力してきぬ川学院の処遇を立て直していくための道標とするべくまとめたものであるが、被措置児童等虐待が起こった施設の処遇の全体を立て直すことは、一朝一夕に実現できるものではない。継続的に、地道な積み重ねによって進める必要がある。

○ 本委員会は、今後、継続的に、2つの国立児童自立支援施設の処遇の検証・検討を実施し、今回のような事案の再発防止、入所児童の権利擁護の向上、適切な処遇支援に係る事項の審議を続けることとする。

(改善策の実践)

○ 本委員会の現地調査では、子どもたちと向き合いながら日々支援を行っている施設の職員から様々な意見を聴取した。

○ 本報告書に記載した対応策がきぬ川学院における子どものケアの改善へ実際に活かされるためには、第一に現場の管理職・職員のひとりひとりが、学院の問題点や改善策について、本質から理解し、共通理解を持って取り組む姿勢が必要である。

○ 特に、学院の管理職においては、被措置児童等虐待の発生は施設の組織全体の問題であることを十分に認識することが必要である。二度と問題を起こさないようにするために、険しい道のりであっても施設全体の立て直しをやりとげ、国民の信頼を回復するという固い決意を職員に対して明確にし、職員とともに考え、議論を重ねながら進めることが必要である。立て直しの遅れは子どもの最善の利益の観点から許されないこと、改革の中で生じる職員の負担等についても、組織としてきめ細かくくみ上げる配慮が欠かせないことなど、管理職の責任は極めて大きい。

○ また、厚生労働省は、きぬ川学院が社会的養護施設の中でも特別な役割を担う施設であることを再認識し、今後の改善を現場だけの問題とせず、監督官庁としての関わりを強め、さらに、我が国の社会的養護施策を推進する立場からも、学院に対する継続的な支援とモニタリングを充実させていくことが必要である。

○ 本委員会としても、きぬ川学院に入所している子どもひとりひとりが適切に支援を受け、子どもたちが施設で安心した生活を送ることができ、職員による自立に向けた効果的な処遇と子どもの権利擁護が図られるよう、学院と厚生労働省の取組に対する継続的な助言と支援を行い、また、定期的な検証を担う第三者機関としての役割を果たしてまいりたい。

○ 最後に、もう一つの国立児童自立支援施設である武蔵野学院においても、本報告書に記載した課題や対応を自らの問題としてとらえ、子どもの最善の利益の推進に取り組んでいただきたい。

III 8月15日の事案について

○ 8月15日の事案については、昨年11月12日に厚生労働省が調査結果を公表しているが、子どもの処遇に関する専門的見地も加えて総括すれば、以下のとおりである。

○ 職員Aが行った暴力行為はあってはならないことであると同時に、この事案については、職員Aの問題のみならず、きぬ川学院全体の問題と重なる問題が現れており、以下に記載する通り、施設全体の子どもの処遇の方向性と内容の見直しが必要であると言える。

IV きぬ川学院の処遇における課題・問題点の整理と対応

1 全体的な見直しの方向性とただちに実施する事項
(1)課題と見直しの方向性

[1] 処遇の理念〜ひとりひとりの子どものために〜

○ きぬ川学院では、子どもの基本的な生活の安定を図る観点から、子どもが集団の中で一定の決まった日課に従うことを求めている。こうした方法は、他の児童自立支援施設においても広く行われているところであるが、きぬ川学院の場合、各寮の間で程度の違い等はあるものの、一定規模の「集団」の中で「決まった日課」、特に、作業等の課題を子どもたちに遂行させることに過度の重きが置かれている。さらに、今般の事案が起こった後に見直されているが、日課や作業がこなせない場合などにペナルティーを課すこともあった。また、日課の内容についても、従来からの「伝統」に基づくものが多く、昨今の子どもたちが育ってきた状況や時代の変化に応じたものとは言い難い。

職員へのヒアリングにおいても、子どもの集団を指導して日課を整然とこなすことが、寮の評価につながり、いくつかの行事の持ち方においても寮長間の競争にもなってきたという認識が、複数の職員から示された。こうした競争的な状況が寮長や副寮長のストレスとなり、ひいては子どもたちを巻き込み、日課第一主義ともいうべき状態に陥っていたものと考えられる。

○ このように、「集団として子どもが何事も問題を起こさず日課をこなせること」が至上命題とされていたように思われるが、本来、支援の目標は、「子どもの抱える課題が改善されていくこと」である。子どもたちが集団の中で安定した生活を送ることは重要であるが、集団の中で日課を着実にこなすことは、あくまでも目標に向けた手段の一つに過ぎない。きぬ川学院に入所する子どもは被虐待等の家庭環境の問題や、発達障害等様々な問題を抱えている。身近な大人との基本的信頼関係すら十分築かれていないことが多い子どもたちが職員に対する基本的信頼感を持てるようになり、安心して自らの問題を表出することが可能になってはじめて、子どもたちは自らの課題に直面することが可能となる。子どもたちがきぬ川学院に入所している間に課題を乗り越える体験をできるようにすることが、家庭復帰や自立を支援することに他ならないと考える。したがって、集団処遇を否定するものではないが、同時に、子どもたちひとりひとりの課題を十分に意識し、ひとりひとりの子どもと十分な関わりを持つ処遇が求められる。

○ 本委員会の見解を踏まえ、「きぬ川学院における支援の目標がどこにあるのか」、「子どもにとっての最善の利益は何か」、という基本に立ち返って処遇の理念を再確認し、組織として、継続的に確認し、掘り下げ、定着させる努力が必要である。

[2] 子どもの状態に応じたケア

○ 虐待を受けた子どもや発達障害のある子どもなど、特に個別の対応が求められる子どもの入所が増えている中、子どもの状態を的確に把握し、把握した内容をケアに反映させることが求められる。前述のとおり、集団処遇はケアの方法としてきぬ川学院で受け継がれているようであるが、集団処遇に過度にこだわることは適当ではなく、子どもの最善の利益の観点から、日課の内容を個別の子どもの特性や状態を踏まえて調整するなど柔軟な対応が必要である(すでに、きぬ川学院の一部の寮では行われている)。また、いったん子どもが特定の寮に帰属すると転寮することはほとんどないようであるが、この点も柔軟に考えるべきであり、ひとりひとりの子どもの特性を踏まえ集団の構成を組み替えるなどの対応が求められる。また、入所時のアセスメント、医療や心理の専門職の活用など関連して検討を要する課題は多い。

[3] 寮運営を「開く」こと

○ きぬ川学院の普通寮は小舎夫婦制1により運営されているが、各寮間の職員の交流や情報交換、管理職などの行き来などが乏しい。「寮のことは寮の責任で」という考えが強く、このような「閉鎖的な組織風土」が子どもたちを施設全体で処遇していくというアプローチをとりにくくしている。処遇が難しい子どもを寮が抱え込んでしまった場合には、職員の負担も高まり、限界を超えれば子どもへの処遇に重大な支障が生じることになる。

○ このため、各寮の運営を「開く」ことが求められる。具体的には、寮長・副寮長以外の職員が日常的に各寮に出入りするようにすること、寮長・副寮長以外の職員が各寮を支援したり、処遇についてスーパーバイズすること、施設全体が各寮の状況を適時かつ的確に把握できるよう情報を共有することなどが求められる。きぬ川学院の子どもたちに対し直接対応するのが寮であるとしても、寮の子である以前にきぬ川学院の子であることを再確認するとともに、実質的にもきぬ川学院全体で責任を持って処遇する態勢を整備すべきである。また、各寮の状況の開示が当たり前に行えることは、寮長・副寮長が安心感を持って職務を遂行できることにもつながる。

1 小舎夫婦制‥夫婦である職員と子どもが一緒の寮舎に住み込み、生活を共にしながら支援するという形態。教護院のころから採られている伝統的な処遇形態。きぬ川学院の場合、小舎夫婦制の普通寮が5寮運用されている。

(2)ただちに取り組むべき事項

○ (1)で述べた「処遇の理念」、「子どもの状態に応じたケア」、「寮運営を開くこと」の実現に向けては、後述「2.個別の課題と論点」にもあるように数多くの取組が必要と考えるが、現在も28人(22年4月現在)の子どもが生活している学院の建て直しについて、関係者は速やかに着手すべきである。特に以下の4項目については、直ちに取り組むことを求めたい。

[1] 処遇の理念の検証と研修の実施

きぬ川学院に設置している、子どもに対する学院全体の処遇体制の見直しを行うための会議(以下「処遇検討委員会」という。)において、支援の目標や子どもに対する最善の利益は何かという処遇の理念についての議論を進める。さらに、武蔵野学院ときぬ川学院が合同で会議(以下「両院検討会議」という。)を設置し、国立児童自立支援施設全体の課題として議論を行う。

こうした議論を通じて確認し、掘り下げた支援の目標、処遇の理念を職員ひとりひとりが内面化でき、子どもを支援する際の基本姿勢として身につけることができるよう、処遇検討委員会の内容の充実(メンバー構成の見直し、職員研修との関連づけ等)等を図る。

また、職員の資質向上を図るため、子どもの状態を的確に評価(アセスメント)し、評価に基づく適切な支援につなげる手法等の実践的な研修(虐待を受けた子どもや発達障害のある子どもなどの特性を踏まえた適切な支援方法、ケースカンファレンスの持ち方、ファミリーソーシャルワークの手法、子どもがパニックになる等によって暴れた場合の適切な対応方法等)を定期的に実施する。このため、武蔵野学院、厚生労働省とも連携して具体的な研修計画を速やかに策定し、研修を開始する。

[2] ケースカンファレンスの見直し

各寮における子どもひとりひとりに対する支援の取組や課題についての情報を、管理職、[4]に記載する医療チーム、他の寮の職員が共有し、きぬ川学院全体で子どもの支援に当たっていくため、ケースカンファレンスの位置づけ(自立支援計画との関係を含む。)の見直しと強化(定期開催と臨時機動的な開催、検討内容の充実等)を実施する。重要な課題に関しては、他の寮のケースであっても、寮長、副寮長、医療・心理の専門職、管理職が、それぞれの立場から、具体的な対応策の提案やアドバイスを行う。このため、管理職や他の寮の職員による支援体制、具体的な対応、きぬ川学院全体による支援方針などを確認し、ルールとして明確化する。

[3] 外部によるモニタリングの強化

本委員会を定期的に開催し、きぬ川学院の運営状況等についての報告を厚生労働省等から受けて必要な助言や検証を行うほか、処遇検討委員会への本委員会委員の参加を開始するなど、第三者によるモニタリングを強化する。

[4] 医療チーム体制の整備

武蔵野学院とも連携し、医師・看護師・心理士により構成される医療チームによる支援体制を整備し、医療チームとしての機能を発揮して、ケースカンファレンスや各寮の日々のケアへの関与を強化し、各寮との情報の共有やスーパーバイズを行う。

2 個別の課題と論点
(1)子どもの処遇をめぐる問題

[1] 処遇の基本的な枠組み

【課題】

○ 新しく入所する子どもを施設として受け入れる段階、受け入れた後の支援の段階、退所後のフォローの段階のすべてを通じて、ひとりひとりの子どもとの信頼関係を築き、ひとりひとりの子どもが抱える課題や適性を踏まえて、施設全体で対応とすることが必要である。

○ 「小舎夫婦制」にはもちろん良い面も多い。しかしながらそれぞれの普通寮の運営が閉鎖的になりやすいという良くない面もあり、それがきぬ川学院で問題化していることは、前述のとおりである。子どもをどの寮に入れるかについて施設として適切に判断することが重要であり、寮に入った後も常に施設として子どもを見守り、必要があれば寮に対して適時適切に介入・支援することが必要である。

○ そもそも1普通寮当たりの子どもの人数が多すぎても少なすぎても適切なケアは行えない。この点を検証することが、きぬ川学院の子どもの処遇を再構築する上で極めて重要である。

○ 現在、きぬ川学院では、専門職、特に医療職による各寮の支援の体制が十分なものとなっていない。前述のように、医療チームによる対応など、早急な取組が求められる。

【提言】

○ ひとりひとりの子どもが抱える課題や適性を踏まえ、必要な場合には子どもの状態等に応じた個別的な対応を行うなど、各寮舎において適切な処遇を実施していくという観点からは、1普通寮当たりの子どもの人数は6〜8人が望ましく、10名を超えない人数に見直す。

○ ケースカンファレンスの見直し(再掲)

○ 武蔵野学院とも連携し、医師・看護師・心理士により構成される医療チームによる支援体制を整備し、医療チームとしての機能を発揮して、ケースカンファレンスや各寮の日々のケアへの関与を強化し、各寮との情報の共有やスーパーバイズを行う。(再掲)

○ 寮の運営の閉鎖性を解消するため、管理職や寮長・副寮長以外の職員が定期的に訪れ、寮で子どもと食事を共にするなど普通寮間で行き来が可能となる仕組みを作る。

○ 以下の事項について、きぬ川学院の処遇検討委員会で検討し、可能な取組から速やかに実施する。

2 観察寮‥虐待等により他者との関係がうまく築けず、集団指導が困難な子ども等を一時的に離して個別対応が必要な場合に観察寮を利用することが多い。観察寮には、個別処遇室と強制措置室があり、強制措置室(施錠が可能な部屋)は児童福祉法第27条の3の規定に基づき家庭裁判所の審判により一時的に行動を制限できる措置(強制措置)の決定を受けた子どもについて、子どもの処遇上必要な場合に限り利用する。

[2] 処遇内容・処遇技術

【課題】

○ 入所児童ひとりひとりの自立支援計画3は、施設が組織ぐるみで、また、児童相談所など他の機関とも連携して子どもの支援を実施し、状況の進捗や変化に応じて支援内容を見直していくための基幹的なツールである。現在のきぬ川学院の自立支援計画の内容は、心理所見や教育的所見、子ども相互間の関係性に関する評価をもっと充実する必要がある。

○ 観察寮のうち個別処遇室を適切に利用することは、普通寮における子どもの処遇を施設全体として支援する上で必要かつ効果的であるが、きぬ川学院では「観察寮を利用することは、普通寮の処遇としては失敗である」との考えが職員の間に存在しているように思われる。子どもの行動の制限を伴う観察寮の強制措置室が安易に利用されることはあってはならないが、より個別的な処遇が必要な子ども、集団処遇という方法では処遇が難しい子どもが増えていることを踏まえ、処遇の推進、子どもの権利擁護の観点から、観察寮の個別処遇室の利用方法に関する検証・見直しが、また、普通寮における子どもに対する個別的な対応のための技量の向上が必要である。なお、観察寮を利用する場合、普通寮の処遇との連携、連続性の観点は不可欠である。

○ きぬ川学院の子どもの退所先は、54%が家庭復帰となっている(平成19年度から21年度の平均)。学院は、全国の都道府県(児童相談所)から子どもを受け入れており、家庭復帰・ファミリーソーシャルワークについては都道府県の施設と異なる取組、スキル、ノウハウが必要になるが、現状では、入所期間がほぼ一定(約1年7カ月)という運用がされており、子どもの状態や改善状況及び家庭の状況を考慮した入所期間の設定や調整が不十分であることや、児童相談所や地域との必要な連携やアウトリーチが十分行われていると言えず、ファミリーソーシャルワークに関する取組は低調である。組織としてファミリーソーシャルワークの充実を図ることが必要である。

○ 家庭の中でも生活上の「ルール」はあり、ともに生活を送る上で互いに守らなければ生活ができないような、基本的な「ルール」は必要である。特に、児童自立支援施設の処遇において、子どもたちの生活上の「ルール」を設定することそのものが必ずしも不適切というものではない。しかしながら、「ルール」をペナルティーによって厳格に守らせようとすると、ペナルティーがエスカレートし、虐待に行き着くおそれが生じる。ルールは、本来、信頼関係のなかで守らせるように仕向けることが重要である。また、「ルール」の内容も問われよう。

子どもの安全を守るための「ルール」、社会での自立した生活への準備としての「ルール」は必要であるが、子どもたちがその意味や必要性を理解することが重要なのであり、その理解にはある程度の時間とプロセスが必要であることが少なくない。一方、単に長く受け継がれたというだけで、合理性やその意味を説明できないようなルールは、廃止されるべきであろう。

○ 虐待を受けた子どもや発達障害のある子どもなどに対する処遇方法について、職員らは苦慮していることが、職員へのヒアリングからもうかがわれた。専門研修やケースカンファレンスなどによる職員のトレーニングを充実させ、こうした子どもについての理解を進め、処遇の方法論に活かしていく必要がある。

3 自立支援計画‥子どもに対する支援の基本となる計画。子どものアセスメントに基づき子どもを支援する計画を立て、これを踏まえ実際に支援を行い、さらにその後の状況を踏まえ、支援目標の更新・評価を記載する。

【提言】

○ 自立支援計画は、心理所見や教育的所見、子ども相互間の関係性に関する評価も盛り込むほか、策定に当たっては、寮長・副寮長以外にも医師・看護師・心理士等の専門職や分教室の教員など多職種が参画し、幅広い視点でチームを組んで策定する。さらに、ケースカンファレンスの場等も活用しながら定期的に見直しを行うほか、随時子どもの状態の変化に応じ、支援方針等をチームで議論し、見直す。

○ 職員に対し、子どもの理解の推進、ケースカンファレンスの持ち方や子どもがパニックになる等暴れた場合の適切な対応方法、虐待を受けた子どもや発達障害のある子どもへの対応方法等に関する研修を実施する。

○ 以下の事項について、両院検討会議で検討し、可能な取組から速やかに実施する。

[3] 子どもの意見をくみ上げる仕組み等

【課題】

○ 子どもの意見をくみ上げることは、施設の運営上の問題を把握し改善していくという側面だけでなく、子どもが意見表明の機会を得、実際に意見を表明する経験をし、ともに生活をつくり合う者が互いに対等に対話する経験を通して子ども自身の自立を支援するという意味がある。きぬ川学院は、現状では、子どもに対するアンケート等は実施されているが、子どもの意見を学院全体として蓄積し、学院全体として子どもに説明していくシステムを作っていくことが必要である。

○ ところで、現在、子どもたちの交流は同じ寮のなかだけに限定され、他寮の子どもたちと交流する機会がほとんどない状況にある。これは、他寮の子どもと交流すると他寮との比較により自寮に対し不満を持つようになること、他寮の子どもとのやりとりにまで寮長らの目が行き届かず、無断外出などの通謀のおそれがあることなどから、このような対応がとられているものと考えられる。しかしながら、きぬ川学院全体で子どもたちを処遇するという視点に立てば、このような考え方は必ずしも合理的とは言い難い。

むしろ、寮の閉鎖性が被措置児童等虐待の要因となったことを反省するならば、子どもたちが他寮の子どもたちと交流することは、必然的に寮長間や副寮長間の情報交換や連携を促すことになり、結果的に閉鎖性を打開する効果が期待できる。例えば、サークル等寮横断的な子ども同士のつながりができる仕組み、学院全体の子ども会のような仕組みなど、様々な機会を増やしていくための検討が重要である。

○ 子どもたちが意見を表明しやすいよう、寮長・副寮長との日常の良好な関係に加え、寮長・副寮長以外の職員が助言をしたり、外部の専門家の活用も図られるべきである。

【提言】

○ 以下の事項について、きぬ川学院の処遇検討委員会で検討し、可能な取組から速やかに実施する。

(2)組織・職員間の関係をめぐる問題

【課題】

○ 被措置児童等虐待の防止には、施設職員と管理職が意思疎通を図りながら、子どものケアの方針を定め、養育内容の実践、評価、改善を進めていく、風通しのよい組織運営が重要である。また、職員の援助技術の向上のための研修、スーパーバイズやマネージメントの仕組み、職員の意欲を引き出し、活性化するための取組を進めることが必要である。

○ きぬ川学院が各寮間の職員の交流や情報交換、管理職などの行き来などが乏しく、施設全体で入所児童ひとりひとりを処遇していくというアプローチがとりにくくなっていることは前にも述べたが、施設全体としてのスーパーバイズの機能や仕組み、寮間における情報共有に取り組む必要がある。

○ さらに、施設そのものも外部との交流が少ないことを踏まえ、外部との積極的な人事交流を図る必要がある。

○ 自立支援計画の策定やケースカンファレンスなどで多くの職員が関わること、医療・心理の専門職が施設としてのケアに占める位置付けを確認し、これらの専門職が普通寮のケアに日常的に関わること、また関われる仕組みと体制を作ることが、子どもの処遇の内容の向上だけでなく、職員のエンパワメント上も重要である。

○ 家庭復帰・ファミリーソーシャルワークの充実の観点からは、児童相談所との関係の窓口である調査課と子どもの保護者と連絡する機会の多い普通寮との連携が、見直されなければならない。

○ 「小舎夫婦制」の場合、寮長(男性)、副寮長(女性)の役割分担が、子どものケアの内容に大きく影響する。特に、きぬ川学院が女子の施設であることも踏まえ、組織として寮長の役割、副寮長の役割、他の職員の普通寮への関わりなどを見直す必要がある。また、入所児童とともに寮長・副寮長の家族が生活を送るという特性の中で、夫婦制の後継者を確保・育成していくためには、寮長・副寮長の実子の子育てとの両立に対する支援という観点からの検討も必要ではないか。

【提言】

○ 職員の資質向上を図るため、子どもの状態を的確に評価(アセスメント)し、評価に基づく適切なケアにつなげる手法等の実践的な研修を実施する(再掲)ほか、研修委員会を設置し、職員の育成方策を検討・実施する。

○ 武蔵野学院ときぬ川学院における人事交流の更なる実施、地方自治体の施設など国立以外の施設とも積極的に人事交流を行うことを検討する。

○ ケースカンファレンスの見直し(再掲)

○ 武蔵野学院とも連携し、医師・看護師・心理士により構成される医療チームによる支援体制を整備し、医療チームとしての機能を発揮して、ケースカンファレンスや各寮の日々のケアへの関与を強化し、各寮との情報の共有やスーパーバイズを行う。(再掲)

○ 以下の事項について、きぬ川学院の処遇検討委員会で検討し、可能な取組は速やかに実施する。

○ 以下の事項について、両院検討会議で検討し、可能な取組から速やかに実施する。

(3)外部との関係

【課題】

○ 被措置児童等虐待の防止には、外部の目を取り入れ、開かれた組織運営を進めることが重要である。きぬ川学院と武蔵野学院が相互に情報共有しながら検証する仕組み、厚生労働省によるモニタリングの充実、本委員会を含む専門家による検証など、きぬ川学院の施設運営を継続的、重層的に外部からモニタリングするシステムが必要である。

○ 都道府県の施設の場合、都道府県の本庁、児童福祉審議会、さらに児童相談所が、施設の運営をモニタリングしている。きぬ川学院の場合、子どもを措置する児童相談所が全国に散らばっているため、児童相談所によるモニタリングが行われにくい。ファミリーソーシャルワークの充実の観点に加え、こうした観点からも児童相談所との関係強化が必要である。

○ 福祉施設にとって、施設所在地の地元住民や地元行政機関との関係も重要である。入所児童のプライバシーへの配慮を施しながら、地域の小中学校や県庁、児童相談所、児童福祉関係者等に対し施設のケアの内容について説明・紹介し、理解を深めてもらう機会を豊富に持つことが、職員の力量を高める上でも重要である。

また、きぬ川学院を地域に開き、風通しのよい運営を行っていく上で、地域の関係者からきぬ川学院の運営について意見をいただく仕組みについても今後検討が必要である。

【提言】

○ 両院検討会議を設置し、子どもの処遇の理念や基本的な考え方、適切な処遇の在り方について検討を行う。(再掲)

児童相談所との関係強化についても検討を行う。

○ きぬ川学院としては、処遇検討委員会を中心に議論を行い、その際に本委員会の委員も参加するなど、第三者からの助言、モニタリングを積極的に活用しながら検討を行う。(再掲)

○ 他の児童自立支援施設の職員の訪問や地域住民の訪問を定期的に受け入れる機会を作ること等により、子どもを支援する現場にきぬ川学院の職員以外の方の目が入る仕組みを作るほか、きぬ川学院の子どもが地元の図書館などの公共施設を利用するなど、地元住民と触れあう機会を増やす取組を進める。

○ 地方自治体の施設など国立以外の施設とも積極的に人事交流を行うことを検討する。(再掲)


<参考>

社会保障審議会児童部会国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会の設置について

1 設置の趣旨

国立児童自立支援施設(以下「施設」という。)における被措置児童等虐待などの人権侵害等に関する調査・分析し、適切な処遇支援に関する検討を行うとともに、入所児童の権利擁護の向上を図るため、社会保障審議会児童部会の下に「国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会」(以下「専門委員会」という。)を設置する。

2 構成等

(1) 専門委員会の委員は、別紙のとおりとする。

(2) 専門委員会には委員長を置く。

3 検討事項

(1)専門委員会における検討事項は以下のとおりとする。

(2)専門委員会は、特に必要があると認めるときは、施設に立ち入り、関係者に対する質問又は関係書類の閲覧等により調査を行うことができる。

4 守秘義務

委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。

5 委員会の庶務

専門委員会の庶務は、厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課において処理する。


別紙

社会保障審議会児童部会
国立児童自立支援施設処遇支援専門委員会委員名簿

 
氏名 所属
磯谷 文明 くれたけ法律事務所 弁護士
小木曽 宏 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科准教授
関根 和夫 こどもの心のケアハウス嵐山学園施設長
星野 崇啓 埼玉県立小児医療センター 精神科医
宮島 清 日本社会事業大学専門職大学院准教授
横堀 昌子 青山学院女子短期大学子ども学科准教授
 
 
 
 
 
  ○委員長

(50音順 敬称略)
(平成21年12月22日現在)


開催状況

第1回 平成21年12月22日
第2回 平成22年1月12日
第3回 平成22年1月27日
第4回 平成22年2月9日
第5回 平成22年2月25日
第6回 平成22年3月10日
第7回 平成22年3月16日
第8回 平成22年3月29日

現地調査

平成22年1月19日
平成22年2月11日
平成22年3月6日

【児童自立支援施設とは】

○ 児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童等を入所させ、支援する施設。

児童福祉法

第四十四条  児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。

○ 施設数     58か所  (公立 56か所(国立2カ所含む。) 私立 2か所)

○ 入所児童数  1,808人   職員総数  1,825人

(「社会福祉施設等調査報告」平成20年度)

【児童自立支援施設とは】

○ 国立児童自立支援施設は全国に2カ所あり、きぬ川学院については女子児童が入所する施設

○ 設置年月日 昭和36年4月26日

○ 所在地    栃木県さくら市押上288番地

○ 入所児童数 28名      職員数 35名 (平成22年4月)

○ 処遇体制

※ 「小舎夫婦制」…夫婦である職員と児童が一緒の寮舎に住み込み、生活を共にしながら支援するという形態。教護院のころから採られている伝統的な処遇形態。

※ 普通寮を担当する職員が休みのときには、「交替寮」の職員が子どもと生活を送る。


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