年金積立金管理運用独立行政法人の運営の在り方に関する検討会
(第4回)の議事要旨
1.日時:平成22年2月22日(月) 17:00〜19:00
2.場所:厚生労働省 専用21会議室
3.出席者
【メンバー】(敬称略)
浅野幸弘、植田和男(座長)、小島茂、小幡績、富田邦夫、富田俊基、村上正人、山崎元、山崎養世、米澤康博
【総務省】
原口一博総務大臣、階猛総務大臣政務官
【厚生労働省】
長妻昭厚生労働大臣、長浜博行厚生労働副大臣、山井和則厚生労働大臣政務官
4.議事要旨
(1) 長妻厚生労働大臣、原口総務大臣挨拶
○ 長妻厚生労働大臣ご挨拶
本日は、GPIFの元運用委員会委員の鹿毛さんと、みずほ年金研究所の専務理事である村上さんから、GPIFの課題や、企業年金との比較などについてお話をお伺いするということで、皆様方の活発な議論に期待。国民の皆様からお預かりした保険料がどのように運用され、どのくらいの手数料で、どのような形で運用受託機関が選ばれているのかといった透明性を高めることについて、引き続き努力をしていきたいと考えており、今後ともご指導を賜りたい。
○ 原口総務大臣ご挨拶
行政刷新会議のメンバーであり、政府税調会長代行でもあるという立場から挨拶したい。1997年の財政の中期フレームにおいて、今年の税収は、3.5%の名目成長という前提で92兆円と試算されているが、現実には、32兆円となっており、それはなぜか。
国民からお預かりした資産を、ギャンブルをしてくれ、株に使わなければダメだと言っているわけではなく、年金は長期に国民の安心を確保するものなので、その運用は成長点に運用されることが普通である。
基本ポートフォリオは、中期目標において、運用環境の変化に応じて随時見直すとされているが、リーマン・ショック以降、大きな変更や見直しの検討もされていない。GPIFは、現中期目標を達成できたと説明しているが、この間の通算の収益率は0.77%に過ぎない。もし国債だけで運用するのであれば、行政刷新の立場から、財務省に一元化したらよい。
デフレ経済が続き、賃金上昇率のマイナスもあり得る中で、賃金上昇率を1.1%上回る利回りを確保するという考え方が妥当なのか。行政評価の機関として厳しく見ていきたい。これまでの運用方針、運用の在り方を見直すことなく維持し続けるのは問題である。
前回理事長から、現行予算の維持のお話があったが、現状のままでは、80人近い職員を抱える必要性についても議論が必要。逆に、ファンド・オブ・ファンドの考え方を徹底するのであれば、このGPIFはさらに拡大し、それに相応しい方々に来ていただくことが大事。そこは選択であり、国債で運用することも一つの選択であり、その場合は、先程述べた案が合理的ではないか。
今年の4月から新しい中期目標のもとで運用が始まるが、今後、これからの年金運用の新しい姿が決定された際には、必要に応じて見直すことも考える必要がある。
国民にとって将来に安心と希望の持てる年金運用の在り方を御議論いただくことに感謝を申し上げ、総務大臣としても、また、5月に中期財政フレームを出す所管の大臣としても、キャッシュ・フロー・マネージメントにおいて、ここだけを特別視、聖域化するわけにはいかないということも、あらかじめ申しあげて、冒頭のご挨拶にかえたい。
(2) ヒアリング
○ GPIFの運用委員会の元委員の鹿毛雄二氏と検討会メンバーで(株)みずほ年金研究所専務理事の村上正人氏の2名からのヒアリングが行われた。
○ 鹿毛氏からのヒアリング
◆説明の概要
- 資産運用の現場に長く携わってきた立場から、公的年金積立金の運用に関する基本的な論点を整理してお話したい。
- 年金の運用と一般の運用は大きく異なっており、一般の運用は、自己資金の運用であるが、年金の運用は、長期安定的な給付確保のための運用であり、また、国民から強制的に徴収された保険料が原資である。国民との信頼関係、納得が必要であり、そのため、説明責任が重要。また、忠実義務、注意義務といういわゆる受託者責任も課されている。さらに、実際の運用の大部分を外部の専門の運用機関に委託しているということも議論の大前提。
- 市場で運用している以上、マイナスが出ることもあることから、政策決定と業務執行の権限・責任を明確にする必要がある。政策決定は政府の仕事であるが、長期的な運用目的を明確化し、証券市場の現実に即した、国民全体が許容できる範囲内の投資政策を策定することが重要。
- リスクを取らない限りリターンが得られない以上、相場変動による短期的な損失は不可避。また、専門家がタイミングを取って運用するのはうまくいかないことが定説。投資の基本理念は、長期的な経済成長の果実を確保していくということ。したがって、運用をどうするかより、日本の経済成長戦略の方が重要。
- 投資政策を考える上では、リスクをどこまで取るか、国全体、国民合意として短期的な損失をどこまで許容できるかが重要。そのため、大きく変動する株式の比率をどのように考えていくかが基本となる。
- その際、GPIFは、巨額な資産を持つため、資産の1%の売買でも市場に大きな影響が出ることから、運用手法等において証券市場の常識とは距離が出ることに留意が必要。
- 公的年金積立金の構造的な課題として、政治的な影響が不可避であること、また、損失が出たときの批判など、運用に対する国民の意見に左右されることがあり、ある程度専門的な、独立した政策決定の仕組みが必要。ただ、海外の例を見ても、独立ボードを作るためにも一定の国民的な合意形成が必要。
- 現状は、ローリスク・ローリターン政策が選択されており、これまでの日本の低成長下では、結果オーライであった。今後の見通しは分からないが、最大の課題は、経済成長戦略である。
- 執行部門の権限・責任としては、妥当な目標と適切な予算・人材と裁量権が与えられた上で、その運用目的を達成したかどうか。そして、その際の責任は、決められたとおりに執行しているかというプロセス責任と説明責任である。
- 現在の方針策定と執行及びその評価基準において、独法の枠組みの中では、まず経費削減が最初に来ており、年金の運用目標を達成することは後回しになっている。したがって、例えば日銀のような、特別な法人格が必要ではないか。
- 運用委員会の機能としては、方針策定と業務執行、その監視の区別ができていないのが問題。執行部の中ではなく、政策決定にかかわる機関であった方が合理的ではないか。
- 執行部の機能強化については、明確な監督機能のもとで、業務執行の権限、特に、その業務が執行できるだけの専門性確保のための予算とその執行の権限を広範に与えるべき。今後、キャッシュ・アウトが必要になるため、インハウス運用の強化も必要。また、人材の確保という観点からは、一流のファンドマネージャーではなく、ファンドマネージャーを管理・監督できる専門家が必要。
◆主な質問・意見
- 企年連ではよりリスクをとった運用をしていたが、許容できるリスク水準についてどのように考えていたのか。運用受託機関の選定は、運用委員会の仕事と考えるか。国家ファンド的なものを作るという話があるが、金融界に巨額の手数料が配分されることになる。大きな金融版の公共事業と言えるのではないか。
- GPIFは業務執行機関であるが、基本ポートフォリオを決定している。基本ポートフォリオの策定は、政策決定機関である政府が行うべきという考えか。また、経済成長の果実を確保することとパッシブ運用で運用するということは矛盾しないか。
- 日銀は政策委員会で政策を決定しているが、GPIFは資産配分の決定が主な業務。政策目標が与えられ、これを執行するときに、それ自体が資産配分機能になるため、運用委員会は、何らかの形で内部化されないと、執行できないのではないか。
- 次の運用目標について、賃金プラスαと金利プラスαの議論があるが、どう考えるか。運用の実態に合わせるという観点からは、金利プラスαか。また、運用委員会で今、説明されたような話は議論していないのか。
- 運用損失は、責任を取っても取りきれない。結果責任とは何を意味しているのか。また、公的年金制度において、給付が回らなくなったら、税金の繰り入れではなく、5年ごとに検証して、保険料の引き上げか、給付の引き下げで対応することとなる。しかしその際の運用利回りを4.1%と高くしてそれを回避しているように見える。実際の運用の立場から、どのようにお考えか。若者や、これから生まれてくる国民にしわ寄せが行くことになるという観点から考えるべき。
- 日本経済の成長が非常に低いのであれば、中国やインドなど、世界経済の中で成長しているところに投資すべきという議論は、運用委員会ではなかったのか。ベンチマーク、投資対象を見直すことが資産配分の重要な仕事という認識はなかったのか。
◆主な回答
- 企年連では、確かに昔は、株式比率が高かったが、少なくとも2005年以降は、ダウンサイドリスクを考慮して、株式比率を下げてきている。
- 結果責任については、論理的には、決められた政策をプロセスを守って行っていれば、責任を問われることはないが、だからといって開き直るのではなく、説明責任を果たさなければならない。
- 運用受託機関の選定は全体の収益に大きな影響を与えるものではないが、専門性から言えば、現場でよく見ている者が最終的に判断すべき。
- 基本ポートフォリオは、政策の一部なので、政策決定部門が目標と一体で決めてもいいのではないか。その中で、目標を達成することが業務執行機関の仕事と考える。
- 経済成長分野に投資すべきという議論はあり、エマージングマーケットへの投資についての議論も出ていたと思う。ベンチマークが制約条件だということであれば、それを変えるという議論はなされるべきだが、どのようなところに投資するかの判断は、基本的には現場の運用受託機関が判断すべき。
- 日銀はあくまでも一例であり、独法ではない、特別な組織を考えたらどうかということ。
- 運用目標については、あくまでも年金財政から運用目標が出てくる。ただし、それが市場の現実に即したものかどうかのチェックは必要。また、本日御説明したような話は、GPIFの仕事ではないことから、話はしていない。
- GPIFの規模を考慮すると、実際問題としてアクティブ運用の余地は限られる。
○ 村上氏からのヒアリング
◆説明の概要
- 私は年金の資産運用の仕事に長く携わってきており、現在は、研究所にて運用の研究などを行っているため、企業年金との間で中立的な立場から運用に関して対話をする機会が多い。今回は、企業年金とGPIFとの共通の課題などについて、データを用いながら御説明したい。
- 企業年金の運用結果について、公表されているデータを用いて目安として計算したところ、各年金基金はこれまで「アクティブな戦略」を採用して様々な努力を行ってきているものの、結果としてはパッシブ運用より良いパフォーマンスは得られていないところが多いのではないかと推測される。
- アクティブ運用については、過去のパフォーマンスが必ずしも将来のパフォーマンスを保証するものではないということが常識。そのような前提の下に、年金基金側は、専門的な見識を持って運用会社を選択することが必要であるが、様々な条件がそろわなければ、アクティブ運用は成功しない。
- 国内株式市場が過去20年にわたって価値を生み出してこなかったのは大きな問題であり、結局、公的年金も企業年金も国内の株式への投資が報われてこなかったという認識は、共有しておく必要がある。
- 株価に関する諸指標の国際比較からして、ファンダメンタルズに対するわが国の株価水準の割高感が過去20年ぐらいの間にやっと解消されてきたという前提で考えれば、今後の株価は、わが国の企業群が1株当たり利益(EPS)をどれくらい伸ばせるかにかかっており、経済成長戦略と大きく関係してくる。
- 年金制度の要求する利回りが、国債だけで賄えるのであれば国債だけで運用すればいいが、国債等で賄えない分については、[1]どこまで運用に期待するのか、[2]どのリスクをとって、どのリスクはとらないかを判断し、合意形成を行うことが必要。
- どういう分野が成長するかは、過去を振り返って初めて分かるものであり、10年前に見通すことは難しい。ただ、日本の企業に対しては、もっと資本効率の向上を求めるメッセージを発する必要があるのではないか。
- 国内株式のベンチマークとして、TOPIX自体を見直す余地はあり、また、新興国を含めたワールドワイドなベンチマークを採用することは、理にかなっている。ただし、新興国への投資は、10数年前のアジア通貨危機を見ても、先進国にはないリスクがいろいろと存在するため、予めそれらへの対処法等に留意しておくことが必要。
- 国連の責任投資原則(PRI)というものがあるが、そのようなESG(環境、社会、ガバナンス)の問題についても、投資における経済的利益の見通しと併せて考えていく必要がある。
- GPIFは公的な性格を持つため、国民の負託に応えるのに十分な体制かどうかをよく議論すべき。仮に積極運用を拡大するのであれば、体制の充実が必須であり、十分な体制がないのにそのような運用を求めれば、受託者責任、注意義務に違反することを強いることにもなりかねない。運用委員会の委員についても、どのような役割を期待するかにもよるが、外部の人だと適時に集まることも難しいので、常勤の専門家を中心にすることも考えるべきではないか。
- 一定割合を株式で運用しているので、単年度ではマイナスになることもあるが、確率的に見て、中長期的には年金制度の要求する収益率が確保できる可能性が高い資産配分戦略であることを、あらかじめ広く国民に説明し、理解を得ることが必要。
◆主な質問・意見
- 成長戦略が重要であるというお話であったが、まさにその通り。低成長の中で、運用の結果は良かったというお話もあったが、逆に、成長分野に投資をしてこなかったから、現在のような経済状況があるとも言える。説明責任は政治が負うことになるが、本日のお話は、成長戦略を考える上で、大変勇気の出るお話であった。
- 公的年金積立金として、適切な資産規模をどう考えるか。また、この積立金を国家戦略の方法として使えるお金と考えるか。
- アクティブはあまり意味がないという意見であったが、さらに、アクティブな対応をしたところと保守的な対応をしたところとの比較をすると、より分かりやすいのではないか。また、外国債券は高いリターンであったとあるが、今後の外国債券の位置付けをどう考えるか。
◆主な回答
- 年金基金の規模に適正規模というものはなく、その規模にふさわしい運用の仕方、組織を整えるということになる。どのくらいの積立金を持つかは、制度設計の問題。ただ、将来の給付のために、市場性、流動性のあるものに大半を投資しておくことは重要。
- 成長分野への投資は、皆が成長分野だと思えば、ある程度、市場価格は将来の成長を織り込んで値付けがされるため、結局は期待水準以上に成長しないとリターンは得られず、逆に期待水準以下だと市場が下落する可能性もあるので、その点もきちんと判断する必要がある。
- 120兆円という額は、所与のものとして考える必要がある。また、年金積立金は、年金保険料を積み上げたものであるため、年金制度の枠組みの中で使うことを考えるべき。また、年金積立金があるということが国民の信頼につながり、制度の維持につながる。
- アクティブ運用について全否定しているわけではなく、その勝算が低いことを前提として、年金基金として勝算を高められるようなきちんとした哲学、体制を整え、理論的、実証的な検証を通じて判断していくことを行い、国民に説明して納得が得られるようにすべきということ。
- また、外国債券については社債市場等は国ごとに構造の違いもあるが、国債市場を中心に考えると、短期的には高いパフォーマンスを示していても、長期的には為替と内外金利差によって収斂していく可能性が高いため、国内債券の期待リターンと大きく差が出るわけではないと考えられる。
○ その他の議論
- 運用目標について、現在の賃金プラス1.1%という目標から、どのように現在の基本ポートフォリオの資産配分になったのか、そのロジックを御説明いただきたい。
- 現在の基本ポートフォリオは平成16年財政再計算に基づいて策定している。平成16年財政再計算での前提は、長期金利が3.0%、長期金利プラスαでいうと、αは0.2%という数字になるが、賃金上昇率プラスαでは、賃金上昇率2.1%プラス1.1%で、名目の運用利回りは3.2%。0.2%の分散投資効果を得るため、一定割合の株式を入れることとして、基本ポートフォリオを策定している。
- 賃金上昇率プラスαという目標から、どうしてそのような基本ポートフォリオとなったのかの説明になっていないのではないか。例えば、賃金上昇率と株価の上昇が景気循環によって中長期的には高い相関関係になるから、株式を10%入れるとか、そういう説明にならなければならないのではないか。
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