年金積立金管理運用独立行政法人の運営の在り方に関する検討会
(第3回)の議事要旨
1.日時:平成22年1月22日(金) 7:30〜9:55
2.場所:厚生労働省 共用第7会議室
3.出席者
【メンバー】(敬称略)
浅野幸弘、植田和男(座長)、小島茂、小幡績、末吉竹二郎、富田邦夫、富田俊基、
村上正人、山崎元、山崎養世、米澤康博
【総務省】
原口総務大臣、階猛総務大臣政務官
【厚生労働省】
長妻厚生労働大臣、長浜博行厚生労働副大臣、山井和則厚生労働大臣政務官
4.議事要旨
(1) 長妻厚生労働大臣、原口総務大臣挨拶
○ 長妻厚生労働大臣から一言ご挨拶があった後、原口総務大臣よりご挨拶があった。
○ 原口総務大臣ご挨拶
総務省の行政評価の機能を活用して、世界最大の年金運用機関として、この法人がふさわしい能力と機能を維持しているか、その実態がどうなっているのかをチェックしたい。リーマン・ショックによる市場環境の大きな変化に対し、この法人で行われた議論、講じられた措置の総括と検証が必要。120兆円という巨大な資産を1つの組織で運用することが可能なのか、規模が大きすぎて非効率ではないか。例えば、国債による安全運用部分と、能力と経験を持った人材で構成された組織に責任と権限を与え、新興市場などに運用する部分等とするなど、議論があってもいいのではないか。巨額な資産運用にあたっての意思決定は、専門知識と責任を持つプロフェッショナルとの協議の上、決定すべきではないか、等といったことについて、皆さんからお話をいただきたい。
○ 原口総務大臣からのご挨拶の後、長妻厚生労働大臣から以下のようなご発言があった。
○ 長妻厚生労働大臣ご発言
ポートフォリオを審議する運用委員会の議事録や、運用受託機関の評価などを広く国民の皆様にお知らせする、そういう透明性の向上については、今後とも取り組む必要がある。ただし、120兆円という年金積立金は、いうまでもなく国民の皆様から預かった大切な「預かり金」であり、米国でも国債のみを保有しているということで、日本においても、安全運用が基本と考えている。いろいろな検討を慎重にしていくということで、皆様方に御議論いただきたい。
(2) ヒアリング
○ 年金積立金管理運用独立行政法人の川瀬隆弘理事長、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授の本多俊毅様、検討会メンバーの山崎養世様の3名から資料の御説明があり、それぞれについて、質疑応答が行われた。
○ 川瀬理事長からのヒアリング
◆資料説明の概要
- 平成18年の法人設立以降、初代理事長として効率的で専門性の高い組織作りを行ってきた。
- 運用状況については、昨年度のようなマイナスの年もあるが、これを含めても、平均すると賃金上昇率+1.1%の目標は十分達成。米国の年金基金が昨年度、20〜30%のマイナスを出している中で、−7.6%という運用結果は安全を重視したポートフォリオで運用した結果である。
- カルパースの例のように、運用で損失を出すと、保険料の引き上げなどにより、加入者に負担がかかることから、運用目標については、慎重に考える必要がある。
- リーマンショック後、資産構成割合において、株式の割合が下がり、債券の割合が上がったことに対応して、ポートフォリオ管理の原則どおり、新規資金を内外株式に配分。その結果、3月末以降の株価上昇による収益がうまく上げられている。
- 積立金の管理・運用機能の強化と経費節減とは両立が難しい。現状の体制を維持することが最低限必要だが、これまでと同等以上の経費節減が必要と言われている。
◆主な質問・意見
- 経済環境が変わっているのに資産配分を動かしておらず、また、投資対象も見直していないので、インド・中国等の新興国の成長の果実が得られていない。与えられた役割を果たしていないのではないか。
- リーマンショックやグローバル経済のアジアへのシフトを大きな変化ととらえて、ポートフォリオの変更をしなかったのはなぜか。また、GPIFには、実際の運用に携わった経験者がどれだけいるのか。
- 目標が「賃金上昇率+1.1」なのであれば、賃金上昇率がマイナスになることは明らかだったのだから、全額国債にすれば良かったのではないか。また、誰に運用を任せるかを見極めることが最も大変な仕事であり、その辺りをどう考えているのか。
- 結果で評価するのではなく、目標を達成するために、どう対応していたのかが問題。賃金上昇率の変動をヘッジするようなポートフォリオを組んでいたのかどうか。
- 資産配分を決定するプロフェッショナルや、投資対象を選定するマクロの戦略の専門家が必要。過去30年のデータに基づいたポートフォリオでは、どんなに大きな変化でも30分の1になり、結果として見直しが行われない。ポートフォリオを固定し、かつ、インデックス運用を行うのであれば、大きな組織は必要ない。
- 公的年金の積立金は国民から強制徴収したもの。カルパースとは業務の内容が違う。米国の公的年金は全額国債で安全運用しており、これこそ世界一の運用機関。GPIFには、国民をリスクにさらしているという認識がないのではないか。
- 資産運用の分野で実証的に検証されているのは、政策的あるいは平均的な資産構成割合が運用のリスクの9割を左右するということであり、機動的に資産構成割合を変更することで利回りが高くなるというものではない。新興国、新商品への投資には、年金基金側の管理体制の整備も必要であり、それが不十分で行えば注意義務違反にもなりかねないため、その体制の有無も合わせて評価する必要がある。
- 問題点があれば正していくことは必要。しかし、国民が、勝手にハイリスクな運用をしていると誤解をしないようにしないといけない。
- 先見の明があれば別だが、ポートフォリオを機動的に変えるのは、資産運用の標準的な考え方ではない。また、公的年金罪耐え金の運用において、どの程度リスクを取るべきかについても一度議論すべき。
◆主な回答
- ポートフォリオは、年に一回検証を行っており、その結果として見直す必要がないということで変えていない。ポートフォリオは長期的なものであり、1年間で市場価格が変動したからといって、すぐに変えるべきものではない。
- 完全に将来を見通すことができれば機動的なポートフォリオの見直しができるが、完全に見通すことはできない。
- 国内債券や外国債券の資産において、投資対象の見直しは行っている。ただし、新興国投資については、リスクを考慮する必要があり、また、手続き的なこと等、時間が必要。
- 職員については、これまでも運用に携わってきた職員もいるし、民間からの中途採用者もいる。資産配分や投資対象に関しての知識は必要だが、プロに任せれば全てがうまくいくというものではない。
- 管理運用法人は、与えられた目標をなるべく小さなリスクで達成することが使命。全額国債で運用すればリスクは小さくなるが、金利リスクというものもある。
○ 本多准教授からのヒアリング
◆資料説明の概要
- マクロ経済スライドが行われず、年金財政が厳しい状況になっているという前提の下で、基本ポートフォリオを考えなければならない。また、年金制度における積立金運用の役割についても議論すべき。
- 現行中期目標においては、年金財政上の諸前提との整合性が求められているが、現実の市場の実勢とは乖離しており、整理が必要。
- 基本ポートフォリオは頻繁に変えるべきではないが、長期的に維持するという観点が一番に置かれているので、ゼロベースでの見直しの話が出て来にくくなっている。
- 実質的な運用利回りの確保が、長期的に重要ということには全く異論はないが、賃金上昇率に完全にリンクする資産はないのが現実。
- 中期目標において、ベンチマーク収益率を確保することとされているが、それではアクティブ運用をなぜやっているのかが分かりにくい。
- 運用目標については、国内債券や参照ポートフォリオの収益率に対し、どのくらい収益を求めるのかといった観点が必要ではないか。
◆主な質問・意見
- 年金財政の悪化は、運用の責任ではなく、マクロ経済スライドが機能しなかったことなど、制度の問題と考えるが、どうか。
- 運用目標として、現実に実行可能なベンチマークを設定すべきというのは、運用実務から考えてそのとおり。基本ポートフォリオが最適なものかどうかは、常に検証する必要がある。5年間動かさないというのは、運用の現実にあっていない。
- 財政検証の前提である名目運用利回り4.1%は高すぎる。それを達成するために積立金を分割して積極運用をすると、米国の色々なファンドや、SWFのように大失敗してしまう。
- 年金制度の在り方と積立金の運用との関係を議論する場が必要ではないか。
- 公的年金の運用における受託者責任をどう考えるのか、世界の流れは責任投資としてどういうことをやるべきなのかという議論をしており、この場でも議論すべき。
◆主な回答
- 基本ポートフォリオについては、長期的な観点からスタートポイントのポートフォリオを決めるということ自体には、大きな意義がある。また、全体のリスク管理の観点からも簡単に動かしていいものではない。
- 一方で、経済局面が大きく変わる、あるいはそういうシグナルが発生した場合は、基本ポートフォリオをよく見直すことを求めるような形にしないといけない。
○ 山崎養世総務省顧問からのヒアリング
◆資料説明の概要
- 経済状況が変化している中で、基本ポートフォリオが変更されていないことが問題。また、新興国が経済成長しているのに、投資対象を変えておらず、与えられた役割が果たされていない。
- 国債持ち切りの安全運用部分と、機動的にポートフォリオを変えていく積極運用部分とに分けた運用をすべき。
- 年金積立金を、国内の産業や海外の成長している国に投資することにより、将来の経済成長、国民生活に不可欠な技術・産業の育成に貢献するとともに、そこからの収益を得ることを考えるべき。
◆主な質問・意見
- 年金給付は賃金上昇率に依存しており、そういう意味で国債にもリスクがあり、安全な資産とは言えない。
- 資産運用は資産全体を最適化することが大切であり、資産を二つに分けて運用することは、基本的には意味がない。基本ポートフォリオを頻繁に変えるには、経済情勢の変化のスピードと資産の入れ替えコストとの勘案が必要。
- 資産を二つに分けることは、意味がない。組織を分けると管理部門が二つ必要になったりするので、効率的でない。
- 一つの組織の中でアクティブ部門とパッシブ部門に分けるということは、提案の趣旨に入らないのか。
- 将来の給付の準備のための基本財産部分ということだと、90%以上が該当してしまう。金利上昇をヘッジするような目的でそのようなポートフォリオを作るということは考えられるが、コストベネフィットを考えるとそれも難しい。
- 成長産業などに必要な資金を回すことは必要であり、受託者のためになるようなところに投資していくことは今後の検討課題。
- 成長分野への投資は、将来の年金受給者の生活の糧をリスクにさらすことになり、問題。
- 年金生活者の将来の生活基盤である地球環境や社会・経済の在り方を考慮した運用の議論をすべき。
- 年金積立金の運用は、全額国債とすべき。国債運用であっても、公的投資を通じて、国内の経済成長に寄与している。
- 重要なのは、国民から運用してくださいと預かっているお金ではないこと。運用の仕方などで工夫の余地があるというのは理解するが、ハイリスク・ハイリターンになってはいけない。
◆主な回答
- 120兆円全体を1つの組織で運用をするという形態になっていること自体が国民に不安を与えているのではないか。どのような割合で分割するのか、それを合算した場合にどうなるのか、など難しい問題はあるが、完全に国債のみの安全部分とリスクを取って資産運用をする部分に明確に分けることで、むしろ国民の安全、安心感が上昇するのではないか。
(3) 次期中期目標における運用目標について
○ 前回の議論の整理を事務局から説明の後、以下のような追加意見があった。
- 財政全体としては、「賃金上昇率+α」というのはごく当たり前であるが、賃金上昇率がマイナスの時は意味が無くなってしまうので、その際は「長期金利+α」に切り替えてはどうか。
- 「賃金上昇率+α」という目標も理論的にはあり得るが、「長期金利+α」の方が目標としては適していると思われるし、また、運用目標の議論をするときには、組織全体の見直しも同時に行わなければ議論できないのではないか。
- 現行の目標が「年金財政上の諸前提における実質的な運用利回り」となっていることから、「+1.6%」が目標となるが、これを見直すということは、「+1.6%」を見直すという理解でよいか。
- 運用の目標として現実的なものを年金財政に反映させることが重要であり、そういう意味では「長期金利+α」がよく、それとともに年金財政に対する反映の仕方を考えるべき。
- 国民に対しては、できるだけ一定の制度を将来にわたって保証して、それを見込んだ運用をすることが重要であり、「賃金上昇率+α」でいいと思う。
- 「長期金利+α」とした場合、年金の長期収支目標をどう設定するのか。収支が悪化した場合は、保険料(掛け金)を上げればいいということであれば、完全な賦課方式でいいのではないか。
- 賃金上昇率2.5%プラス1.6%は、かなり高い目標。「賃金上昇率+α」とするのであれば、適切な「α」を決めることが大事だと思う。
- 「長期金利+α」という目標でないと、中期目標期間終了後の評価ができないのではないか。
- 目標を達成できたかどうかだけで評価をすることは適切ではなく、目標に対して適切な行動を取ったかどうかで評価をすべき。
(照会先)年金局総務課 企画調査係
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