厚生労働省

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障害者自立支援調査研究プロジェクトの補助金不正事案を
踏まえた再発防止策について

平成21年12月24日
厚生労働省

 障害者自立支援調査研究プロジェクトに係る不正事案の発生を受け、再発を防止するため、障害者自立支援調査研究プロジェクトの補助金交付に関する決定手続や適正な執行の確認の在り方等について検討した。

 検討に当たっては、「補助金不正事案の再発防止策の検討に関する会議」を開催し、6名の外部有識者(別紙)のご意見を伺い、以下の再発防止策を取りまとめた。平成22年度以降の事務手続について、順次以下の再発防止策を実施することとする。

 また、厚生労働省には、他にも老人保健健康増進等事業、社会福祉推進事業、厚生労働科学研究費といった調査研究補助金がある。これらの補助金についても、以下の障害者自立支援調査研究プロジェクトに係る再発防止策を原則的な考え方とし、所要の手続を経て、それぞれの制度の特性等に応じた必要な見直しを行う。

なお、外部有識者からは、本補助金の執行の中で、不正が疑われる事案が生じたことは大変遺憾であるが、障害者福祉の実践現場における先駆的な取組等の調査研究を助成し、国の政策形成につなげる本事業の意義は大きいとの意見があった。

1.決定過程の透明化と詳細な事前評価の実施

(1)すべての案件について外部有識者の参画を得た評価の実施

 障害者自立支援調査研究プロジェクトの補助金では、従来は、緊要性が高い等の例外的な場合に、テーマ設定や個別の交付先の決定について外部有識者による評価を経ず、行政のみの判断により補助金交付決定を行うことがあり、不透明な交付決定ではないかとの疑念を持たれることになった。

 今後、すべての過程で透明性を高め、緊急で重要性の高い案件であっても例外なく外部有識者による評価を加えることが、決定過程に対する国民の信頼を回復するために必要である。

 このため、テーマ設定について外部有識者の意見を聴いて決定するとともに、緊要度の高いものも含めたすべての調査研究について公募を行い、採択の決定に際して外部有識者の参画を得た評価を経ることとする。

*ただし、厚生労働科学研究費については、例えば、新型インフルエンザなど国民の健康や生命の確保のため緊急に科学的知見を必要とする場合もあることなどに留意を要する。

(2)事前評価委員から厚生労働省職員を除外

 とりわけ補助金交付決定という公金の支出先を決定する局面においては、行政による恣意的な取扱いがあるとの疑念を持たれることは、厳に避けなければならない。

 このため、従来、調査研究事業の採択について評価を行う評価委員会の評価委員は、外部有識者に厚生労働省職員を加えた構成としていたが、今後は外部有識者のみにより構成することとし、厚生労働省職員は評価委員としない。

(3)詳細な事前評価の実施

 調査研究の事業計画や内容について適切な評価を行うためには、調査研究に習熟した専門家が、事業の具体的内容に見合った調査研究計画や支出計画となっているか、詳細に評価する必要がある。こうした詳細な調査研究計画や支出計画は、2.(1)に後述する事後評価において、結果だけでなく調査研究プロセスを適切に評価するためにも重要である。

 このため、外部有識者による詳細な評価が可能となるよう、事業計画書の様式を見直し、評価に必要な事項について一定の分量内で詳細な記載を求め、調査研究計画の内容と支出計画の詳細について評価する。特に、不必要に団体等を経由するといった補助金に対する団体等の不必要な関与を排除するため、交付先団体からの外部委託の必要性や内容について事前に評価するほか、調査研究事業の実施体制(人員体制)に関する資料の提出を求め、研究担当者と経理担当者の役割分担や人員体制についても評価する。

 また、申請団体の運営状況に懸念要素があれば、補助金の適正な執行が確保できない可能性もあることから、補助金交付の応募に当たっては、団体の運営体制や財務状況等を明らかにする資料の提出を求め、その運営状況を確認する。なお、確認の方法については、小規模な団体等に不利益とならないよう留意して整理する。

2.事後的なチェック体制の充実

(1)外部有識者の参画を得た事後評価の実施

 交付先団体による不正又は不適切な事業実施を防止するためには、厳正な事後評価を行い、仮に不適切な執行を行えば将来的にはマイナスの評価を受ける仕組みを整備することが重要である。調査研究の質の向上を図る意味でも、事後的な評価を行うことは有効であり、既に厚生労働科学研究費の調査研究補助金では、事後評価体制が構築されている。

 このため、障害者自立支援調査研究プロジェクトにおいても、調査研究事業の質の向上と、不適切な補助金執行を抑止する観点から、外部有識者の参画を得て報告書の事後評価を行う体制を整備する。

 また、事後評価の結果を有効に活用するため、事後評価において成果物等の質が著しく低いと判断された団体については、以後の補助金交付の選定に当たって当該評価結果を考慮要素とすることとする。

 なお、調査研究結果については、適切に調査研究を行ったとしても、当初想定していた結果や結論が明確に得られるとは限らない。しかしながら、調査研究の実施過程が関係者の意識変革を促す等の効果を生むケース等も想定されることから、こうした場合には、報告書において調査研究の過程に関する詳細な記述も求め、評価に当たっては結論や結果だけではなく、調査研究プロセスも含めた評価を行うよう留意する。

 さらに、補助金の不正流用等の違法行為を行った研究者について、厚生労働科学研究費では、最長5年間、補助金の交付対象外とする仕組みがある。不正行為の再発を予防する観点から、障害者自立支援調査研究プロジェクトの補助金についても、不正を行った団体・研究担当者等については、翌年度以降の一定期間、本調査研究補助金の交付対象外とする措置を講ずる。

(2)現地調査の充実

 補助金の交付を受けた団体の調査研究の実態を把握するためには、形式的な書類審査のみでは、十分ではない。

 現在、障害保健福祉部として試行的に一定数の団体に対して現地調査を行い、支出明細と領収書との突合確認等を行っているところであり、こうした取組をさらに充実する。現地調査の実施時期については、事業実施後だけでなく実施中に行うことも含め、機動的に対応する。また、現地調査を行う団体等については、例えば現地調査をより効果的に行う観点からの抽出基準を設けたり、外部有識者の意見も参考にして対象団体を抽出したりするなど、事業実施の実態に応じた抽出方法を工夫する。

 また、現地調査については、効率性の観点から対象を絞って実施するが、団体側の自律的な牽制機能が発揮されることを期待して、交付先団体の監事による当該補助金に関する監査結果の報告を、実績報告に添付することを求めることとする。なお、更に外部監査を義務付けるべきとの意見もあったが、交付先団体において経済的負担が生じるおそれがあり、監事監査報告の提出による不正抑制効果等も踏まえて検討すべき将来的な課題とする。

(3)報告書等の公開

 調査研究事業の成果は、国の政策立案に役立てることが主たる目的であるが、公的な資金を投入して得られた成果であり、広く国民にも還元し、障害者保健福祉に係る活動を活性化することも、重要な役割である。また、収支報告等は、行政機関としても事後評価や現地調査の中で精査するが、多くの国民の目に触れることで、不正行為の抑止や早期発見にもつながることが期待される。

 現在、成果物の概要は厚生労働省ホームページ上で公開されているが、これだけでは十分な情報公開とは言えないため、今後は、事業終了後に提出を受けた報告書(収支報告及び成果物)について、厚生労働省ホームページ上で公開する。

3.適正な調査研究の実施を確保するための条件整備

(1)法人格のない団体の交付対象除外

 現在の障害者自立支援調査研究プロジェクトは、実施主体として、地方公共団体や公益法人のほか、厚生労働大臣が特に必要と認めた団体も認めており、社会福祉法人その他の法人のほか、法人格のない任意団体も交付対象となっている。しかし、補助金の交付先については、責任体制を明確にする観点から、組織や人員といった運営体制や財政状況についても、一定の統制が担保されている団体に限ることが望ましい。このため、法人格のない団体については、交付対象として認めないこととする。

(2)団体内部での調査研究と経理の役割分担の明確化

 団体内部での相互牽制作用を機能させる観点からは、補助金を使用して実際に研究を行う研究担当者と補助金を管理する経理担当者(団体)の役割を峻別し、それぞれの責任を明確にする。

(3)分かりやすい公募の実施、十分な公募期間・調査研究期間の確保

 意義のある調査研究を確保するためには、幅広い団体等に対して本調査研究補助制度の存在を周知して調査研究団体等のすそ野を広くするとともに、調査研究を実施する意欲のある団体等においては、十分な時間をかけて調査研究計画を検討・作成し、十分な実施期間を確保して調査研究を行うことを可能とすることが必要である。このため、現在も、厚生労働省ホームページ上で募集を周知し、予算が成立する前から事実上の募集を行うことで交付内示の早期化を図っているが(交付の内示は例年6月頃)、ホームページ上での補助金申請の募集をより分かりやすいものとするとともに、事業の全体スケジュールを検証し、更に公募期間や事業実施期間をできるだけ確保するよう努める。

4.不適切な行為を予防・早期発見する体制の整備

(1)利害関係者等からの働きかけへの適切な対処

 国家公務員と政治家等が接触した場合の記録の作成、保存その他の取扱いについては、国家公務員制度改革基本法(平成20年6月13日法律第68号)第5条第3項に基本原則が定められているが、具体的な運用については、別に定められるまでの間、「政・官の在り方」(平成21年9月16日閣僚懇談会申し合わせ)に従い、「政府の方針と著しく異なる等のため、施策の推進における公正中立性が確保されないおそれがあり、対応が極めて困難な」要請や働きかけについては、大臣等に報告し、要請等を行った国会議員等本人に対して内容を確認して正確性を十分確保した上で、記録・保存することとなっている。

 この点について、「対応が極めて困難」であるか否かを問わず、国会議員等からのすべての働きかけについて、記録・保存すべきとの意見もあったが、仮に、すべての要請等について行政機関が一方的な記録作成を行うとすれば、公正性確保の観点から問題があるなど、政と官の関係に関わる大きな問題であり、今回の障害者自立支援調査研究プロジェクトに限定した再発防止策の検討の中で結論を出すことは困難である。

 このため、交付決定の過程を透明化し、厚生労働省職員も個別採択に関与しないこととすることにより、公正な意思決定を担保することに加え、利害関係者等からの働きかけについても厳しく対処する観点から、「政・官の在り方」の運用に当たっては、より積極的に大臣等への報告と記録の作成・保存を行うとともに、その他の厚生労働省OB等の利害関係者等から働きかけがあった場合にも、同様の事例については、必要な記録を作成し、保存する(当該記録は情報公開の対象となる)。

(2)不正行為の通報窓口の明示

 2.で述べたような事後的な評価や調査を行ったとしても、巧妙に隠匿された不正行為を把握することは極めて難しい課題であるが、こうした場合は、交付先団体内からの情報を活用することも有効と考えられる。このため、当該補助金に関する不正行為を報告する窓口として、メール等による通報窓口を設けるとともに、当該窓口を、募集要項や厚生労働省ホームページ等を通じて広く周知する。


(別紙)

補助金不正事案の再発防止策の検討に関する会議 メンバー

赤沼 康弘 日本弁護士連合会高齢者・障害者の権利に関する委員会委員
井出 健二郎 和光大学経済経営学部教授・東京医科歯科大学大学院講師
梶本 章 早稲田大学大学院客員教授
長崎 武彦  新日本有限責任監査法人相談役
山川 隆一  慶應義塾大学大学院法務研究科教授
渡辺 顕一郎 日本福祉大学子ども発達学部教授

(五十音順)

照会先
厚生労働省
政策統括官付政策評価官室調査総務係
社会・援護局障害保健福祉部企画課自治体支援係
〒100-8916東京都千代田区霞が関1−2−2
電話(代表)03(5253)1111(内線)3007


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