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我が国の平均寿命は、国民全体の努力や高い教育・経済水準、保健・医療水準に支えられ、昭和59年から今日まで世界一の水準を示している。一方、疾病構造は、感染症などの急性疾患からがんや循環器病などの生活習慣病をはじめとした慢性疾患へと大きく変化してきている。
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その結果、慢性疾患に罹患したりそのリスクの高まった状態に陥ることは、多くの国民が経験する身近な状況となった。このため、国民から日常生活における健康管理を始め、病状のさまざまな段階に応じた総合的な対策を図ることが求められるようになった。
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平成19年国民生活基礎調査において、頻度の高い自覚症状のうち「痛み」の症状(腰痛、肩こり、関節痛、頭痛)は上位を占めており、国民の多くが慢性的な痛みを抱えているといえる。慢性疾患を有しながら暮らしていくことは、長い人生を通じて生活の質(QOL)の低下を招き、大きな問題となっている。
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1998年から2か年の全米調査によると、米国においては、程度の高い慢性痛に悩む患者が成人人ロの9%を上回っており、無効な治療や何人もの医師を巡り歩くことなどによる医療費の浪費、痛みのために就労困難などによる社会的損失は年間約9兆円に上ると推計されたことから、2000年に米国議会は「痛みの10年」宣言を採択し、痛みの評価や治療基準の作成、痛みを見直す国民週間の設定など、総合的な対策を講じているところである。
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世界的に見ても、心血管系疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの非感染性疾患(NCD)の全世界における死因別の死亡割合は、2008年現在、約60%を占めており、今後10年間でさらに77%程度まで増加するとの予測がなされていることから、世界保健機関(WHO)では世界行動計画(2008年〜2013年)を策定し、全世界的にNCDの予防と管理を行う政策を立案し実施しているところである。
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慢性疾患の中でも、糖尿病、高血圧、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病は、国民医療費の約3割を占め、また死亡数割合では約6割を占める。
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しかしながら、慢性疾患は、その種類が極めて多いことから、それぞれの疾患に伴う支援二一ズは多様であり、すべての疾患への対策を一度に講じることは容易ではないということも事実である。
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重要分野で既存の施策が存在する領域についても、日々施策の更なる充実について検討するという姿勢が必要である。
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重要分野と考えられるものの、取組が系統的になされていない領域については、当該分野に関する情報へのアクセスや疾患を有する者のQOLの向上に向けた支援などを求める二一ズにいかに応えていくかといった視点から、施策の在り方を検討していくことが必要である。
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施策のあり方を検討する際にあっては、科学的な裏付け・根拠(エビデンス)や国際的な施策動向も視野に入れることに加え、施策の評価という観点も重視していくことが必要である。
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また、エビデンスに基づく支援と実際に行われている支援との間には開きがあるという点も、今後の対策の一層の充実を検討していく上での視点として必要である。
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そして、様々な関係者や地域における連携・協力、特に既存の社会・医療資源の活用も広く視野に入れながら、国民や地域住民自身の参画を得て、慢性疾患と向き合う患者を家族、医療機関、患者会、学校、行政、メディア、NPO、企業など、多種多様な関係者、関係機関が地域において主体的に関与することにより社会全体で支える、患者の立場に立った施策を充実し推進していくという視点も必要である。
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このような様々な視点を踏まえた検討の結果、疾患の発生予防から早期発見、適切な治療、合併症の予防までの一連の支援方策を、科学的根拠に基づきながら推進する今後の先進事例となるような支援モデル体系を具体的に示すことが必要である。
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また、患者が自ら取り組むことのできる内容を記したガイドライン等により、患者や患者を支える周囲が正しい知識や動機づけを持って行動できるようになることを通じて慢性疾患の予防から治療、合併症対策に至るまでの全体の水準を高めていくことも必要である。
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多くの国民が経験する身近な疾患となった慢性疾患については、日常生活における健康管理を始め、病状の段階に応じた総合的な対策の必要性が増大してきている。
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慢性疾患については、その発症予防から合併症対策に至るまでの一連の過程において、総合的な視点に立ち慢性疾患の予防に資する知識の一層の普及啓発や提供される保健医療サービスの質を高める努力を行っていくとともに、慢性疾患と向き合う患者を家族、医療機関、患者会、学校、行政、メディア、NPO、企業など、多種多様な関係者、関係機関が地域において主体的に関与することにより社会全体で支えていくことが求められており、国としても、それぞれの関係者の役割が明確になるような体系づくりなど、基盤となる環境の整備を強力に推進していくことが重要である。
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慢性疾患の中にあって、系統的な取り組みがなされていない筋・骨格系及び結合組織の疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などについては、QOL向上に向けた支援などを求める患者ニーズにいかに応えていくかといった視点から、施策のあり方を検討していくことが重要である。
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受療頻度の高い疾患に共通する課題である「慢性疼痛」は、当該疾病を有する者のQOLに大きな影響を与えており、身体面、精神面及び社会面が複雑に関与しているため、診療科を超えた全人的なアプローチが求められる。
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また、糖尿病など既存の施策の対象となっている慢性疾患においても、その重症化や合併症によりQOLの低下や死亡をきたすことが多いことにかんがみ、これらの疾患に対する効率的・効果的な啓発・普及活動を一層推進し、健診の受診率の向上に努めるとともに、関係医療機関等の連携をより一層促進させていくことなどが今後とも必要である。
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以上のような視点や認識に基づき、今後速やかに、より重点対象とすべき疾患分野や施策対象とすべき領域ごとに、詳細な検討が引き続き行われ、多様な慢性疾患を有する患者の様々な二一ズによりきめ細かく応じることができるよう、対策の更なる充実に向けた支援の向上を期して、慢性疾患対策に社会全体で取り組む意識の醸成とその基盤づくりが積極的に推進されることを望む。
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