厚生労働省

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中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会報告書

平成21年6月
中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会

目次
1.はじめに
2.中小企業退職金共済制度における「従業員」の現行の取扱いについて
3.アンケート調査結果について
4.同居の親族に係る取扱い変更に当たっての課題
5.今後の取扱い変更の方向性
(参考)
アンケート調査結果
中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会参集者名簿
中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会開催経緯

1.はじめに
中小企業退職金共済制度は、中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号。以下「中退法」という。)に基づき、 独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「機構」という。)及びその前身団体によって運営され、これまでも着実に 中小企業の従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与してきたところである。
これまで、中小企業退職金共済制度が適用されるものとして取り扱われる「従業員」の範囲については、 労働基準法(昭和22年法律第49号)等が適用される労働者の範囲と同様であると整理されてきたところであるが、 中小企業を含む雇用・経済情勢が特に悪化し(※1)退職後の従業員の生活保障の重要性が改めて認識される中で、 現在加入対象とされていない者の中に中退法の加入対象とされている「従業員」と同様の働き方をする者が少なくないとの指摘があること等を踏まえ、 本検討会においては、今年4月以降、中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関して、検討を行ってきた。
検討においては、雇用環境を取り巻く様々な状況変化や税制上の取扱いを十分に踏まえる必要があることから、 中小企業の従業員の働き方の実態を把握するため機構において実施された「中小企業の従業員の働き方に関するアンケート調査」の結果を踏まえ、 今後の雇用経済情勢に対応できるよう議論してきたところであり、今般、ここに報告書を取りまとめるに至った。 
(※1)平成21年4月の完全失業率は5.0%(総務省「労働力調査」)に至り、平成21年1−3月期の中小企業の業況判断DI (前期比。「好転」企業割合−「悪化」企業割合)は▲50.0で、マイナス幅が拡大し続けている (中小企業庁・中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」)。
2.中小企業退職金共済制度における「従業員」の現行の取扱いについて
中退法においては、中小企業退職金共済制度の被共済者とされ得る者は、中小企業者の従業員に限るものとされている(※2)。
(※2)中退法の具体的な規定としては、「中小企業の従業員」について退職金共済制度を確立すること、「従業員の退職」について 退職金を支給すること、中小企業者でなければ退職金共済契約を締結することができないこと等が定められているものの、 「従業員」そのものの定義については規定されていない。
中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)(抄)
(目的)
第1条 この法律は、中小企業の従業員について、中小企業者の相互扶助の精神に基き、その拠出による退職金共済制度を確立し、 もつてこれらの従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 (略)
2 (略)
3 この法律で「退職金共済契約」とは、事業主が独立行政法人勤労者退職金共済機構(第56条及び第57条を除き、以下「機構」という。) に掛金を納付することを約し、機構がその事業主の雇用する従業員の退職について、この法律の定めるところにより、 退職金を支給することを約する契約であつて、特定業種退職金共済契約以外のものをいう。
4〜7 (略)
(契約の締結)
第3条 中小企業者でなければ、退職金共済契約を締結することができない。
2〜4 (略)
ただし、中退法においては、「従業員」の定義について明文の規定はなく、これまでの実務においては、 事業主との間に雇用関係にあるものと解釈している。言い換えれば、使用従属関係(事業主の指揮の下に労務を提供し、その提供した労務の対価として 事業主から賃金、給料その他これに準ずるものの支払を受けているもの。以下同じ。)(※3)にあることを要件としているものであり、 この点で労働基準法に規定する「労働者」と共通であると考えられることから、具体的な範囲については、労働基準法等が適用される範囲と 同一であるとして取り扱ってきた。
(※3)使用従属関係は、下記の事項を勘案して、総合的に判断される。 (「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年労働基準法研究会報告))
◇ 使用者の指揮監督下で労務を提供していること。
・ 使用者による仕事の依頼・指示等に対して拒否する自由を有さないこと。
・ 業務の内容・遂行方法について、使用者の具体的な指揮命令を受けていること。
・ 勤務場所・勤務時間が指定・管理されていること。
◇ 使用者が労働者に支払う賃金が労働の対償であること。
労働基準法等の労働者の解釈においては、生計を一にする同居の親族については、他の労働者を使用し、かつ、 その勤務実態が他の労働者と同様の場合には、労働者に該当するものとされているが(※4)、同居の親族のみを使用する場合には 労働基準法が適用されないこととされており(労働基準法第116条第2項)(※5)、中小企業退職金共済制度における従業員についても 同様に取り扱っているところである。
(※4)「同居の親族のうちの労働者の範囲について」(昭和54年4月2日基発第153号)(抄)
同居の親族は、事業主と居住及び生計を一にするものであり、原則として労働基準法上の労働者には該当しないが、 同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、 次の(1)及び(2)の条件を満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立していると見られるので、 労働基準法上の労働者として取り扱うものとする。
(1) 職務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
(2) 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。 特に、@始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及びA賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期等について、 就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。
(※5)労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(適用除外)
第116条 第1条から第11条まで、次項、第117条から第119条まで及び第121条の規定を除き、この法律は、 船員法 (昭和22年法律第100号)第1条第1項に規定する船員については、適用しない。
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
具体的には、同居の親族のみを使用する事業については、使用される同居の親族に関して使用従属関係の有無やその確認方法につい て整理されていなかったこと等により、中小企業退職金共済制度への加入を認めてこなかったところである。
3.アンケート調査結果について
中小企業を含む雇用の状況や経済情勢が悪化し退職後の従業員の生活保障の重要性が改めて認識される中で、 現在中小企業退職金共済制度の加入対象となっていない一定の同居親族の中にも現行で加入対象となっている「従業員」と同様の 働き方をする者が少なくないとの指摘があることを踏まえ、同居の親族のみを使用する事業における同居の親族の働き方の実態を把握するため、 機構において「中小企業の従業員の働き方に関するアンケート調査」を実施した。
当該調査によると、同居の親族のみを使用する事業における従業員の働き方の実態は以下のとおりである。
○ 同居の親族のみを使用する事業においても、
  • ・ 同居の親族の約8割が、仕事の内容・方法について、事業主に具体的な指揮命令を受けていること。
  • ・ 同居の親族の9割弱が、事業主の指揮監督の下で行う労働に対して報酬が支払われていること。
  • ・ 同居の親族の6割以上が事業主自身と同程度か、それ以上の時間にわたり就労していること。
等が明らかになったことから、同居の親族との間で使用従属関係を認識できる場合が少なくないと考えられる。
○ なお、同居の親族のみを使用する事業主のうち、今後、中小企業退職金共済制度に加入できるとしたら加入したいという事業主は約7割存在する。
この結果から、同居の親族のみを使用する事業に使用される者であっても、使用従属関係が認められる者が存在する可能性があることがわかる。
4.同居の親族に係る取扱い変更に当たっての課題
上記アンケートの結果から、他の労働関係法令との整合性や実務上の取扱いを整理することができれば、同居の親族のみを使用する事業に 使用される者についても、中退法上の「従業員」として中小企業退職金共済制度の被共済者になり得るものとして取り扱うこととすることも考えられる。 そこで、その課題と考え方を以下のように検討し、整理した。
(1)他の労働関係法令との関係
労働基準法においては、「同居の親族のみを使用する事業」について適用除外とし、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)及び 雇用保険法(昭和49年法律第116号)においては、それぞれ「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」、 「この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする」と規定し、同居の親族のみを使用する事業について明文の規定はないものの、 適用事業とはしない取扱いである。
同居の親族のみを使用する事業がそれぞれの法の適用対象となるかどうかについては、上記の規定の趣旨及びそれぞれの法の位置付け等にかんがみ個別に判断を行うこととなる。
○ 労働基準法が、同居の親族のみを使用する事業を適用対象としていないことについては、通常の労働関係と異なった特徴を有する 親族関係にある者の労働関係について、国家による監督・規制という法の介入が不適当であるためとされている。 なお、労働基準法第116条第2項は、同法の適用がない事業の範囲を規定するものであり、 その条文からは同居の親族のみを使用する場合にも使用従属関係があり得ることは否定されていない。
○ 次に労働者災害補償保険法における労働者災害補償保険制度については、対象となる「労働者」の意義について明文の規定はないが、 傷病補償年金及び介護補償給付を除く業務災害に関する保険給付は労働基準法に規定する災害補償の事由が生じた場合にこれを行う旨定めていること、 また、労働基準法と時を同じくして同法に規定する災害補償の裏付けをする制度として発足した経緯等から、保険給付等の受益者となる「労働者」は 労働基準法に規定する「労働者」と同一と解されており、同居の親族のみを使用する事業又は家事使用人について労働基準法と同様に適用がないものと解されている。
○ また、雇用保険法における雇用保険制度は、失業救済のための保険事業の運営を円滑に行うためには、 その危険にさらされている一定範囲のものを強制的に適用範囲として危険を分散させることが必要であり、また、 その範囲内で保険経済を一元的に管理することにより、刻々変動する失業の発生に対応し得ることになるため、強制保険方式を採用しており、 個人事業の事業主と同居している親族については、原則として、その被保険者としないこととされている。
○ 一方、中退法は、従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与することを目的としているところであり、 これに基づく中小企業退職金共済制度は、国家による監督・規制を行い、又は強制適用すべき労働基準法、 労働者災害補償保険法又は雇用保険法に基づく各制度とはその目的、趣旨を異にしている。
以上を踏まえると、同居の親族のみを使用する事業であっても、その者が真に事業に従事し使用従属関係にある「従業員」に該当し、 その加入が従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与するものであれば、中小企業退職金共済制度の適用対象とすることが適当であると考えられる。
(2)同居の親族のみを雇用する(※6)事業における雇用関係・「退職」の認定、手続等について
「2」で述べたとおり、そもそも中退法における「従業員」とされるためには、事業主との間に使用従属関係が必要であるところ、 同居の親族のみを雇用する事業においては、事業主の同居親族が事業場で作業に従事しているときでもそれが労働なのか労働以外の生活なのか 不明確な場合が少なくないこと、労働基準法が適用されないため同法に基づく就業規則や賃金台帳等の作成義務がないこと等から 使用従属関係の有無や雇用関係の終了を客観的に判断することが困難である。したがって、これらを客観的に確認するための仕組みや 手続を整備する必要がある。
(※6)単に「事業に従事している」だけの状態ではなく、使用従属関係がある場合に限って「雇用する」という文言を使用する。
イ 退職前まで使用従属関係があり、退職によって使用従属関係がなくなったことの確認
まず、加入時には、以下のような方法により、使用従属関係があることを確認することが必要である。 なお、その具体的方策については、今後検討を進める必要がある。
○ 事業主の指揮監督下で労務を提供していること及び事業主が当該同居の親族に支払う賃金が労働の対償であることを、チェックシート等により確認すること。
○ 税務申告書類等により、実際に労務の対価の支払いがあることを確認すること。
なお、労務の対価の適正性については、労務内容や掛金の額等を総合的に勘案して判断することが考えられるが、その具体的基準について今後検討を進める必要がある。
ロ 雇用関係の終了の把握
「退職」とは、「雇用関係の終了」であるところ、同居の親族のみを雇用する事業においては、退職と休職との相違が明確でないこと等、 通常の従業員とは異なる特性も有することから、この「雇用関係の終了」を客観的に判断することが難しいことが少なくないと考えられる。
そこで、同居の親族のみを雇用する事業において、どのような場合に「雇用関係の終了」として認めるべきか問題となるが、この点、 高齢、傷病・障害、転職、廃業、その他これらに準ずる事由を理由として、その後当該事業において働く見込みがない場合における 雇用関係の終了が考えられる。
また、これら雇用関係の終了の確認は、以下のような方法で行うことが必要であり、その具体的方策については、今後検討を進める必要がある。
○ 同居の親族のみを雇用する事業については、加入時に、退職に該当する雇用関係の終了について、労働契約書、 労働条件通知書又はこれに準ずるものにより明示し、機構に届け出ることとすること。
○ 退職に該当する雇用関係の終了の事実を証する書面や賃金の支払いがなくなったことを証する書面を機構に届け出ることとすること。
ハ その他
上記の「イ」及び「ロ」のほか、制度加入中に、当該事業が同居の親族のみを雇用する事業か否か、また、事業主の同居の親族が 中退法における「従業員」の要件を満たし続けているか否かについて、以下のような措置により、機構が把握しておく必要がある。 なお、その具体的方策については、今後検討を進める必要がある。
○ 加入期間中使用従属関係が継続していることについて、定期的に報告を求めることにより確認すること。
○ 他の従業員の退職に伴い同居の親族のみを雇用する事業となった場合、又は、他の従業員の雇用に伴い 同居の親族のみを雇用する事業でなくなった場合、その旨の届出を要すること。
ニ 留意すべき点
上記「イ」から「ハ」までに述べた事項については、共済契約者や機構の事務負担等の観点から、実行可能な仕組みとする必要があり、 その実施体制や具体的方策等については、引き続き検討を行う必要がある。
(3)小規模企業共済制度との関係
小規模企業共済制度は、小規模企業経営者が、相互扶助の精神に基づき廃業、退職、転業等に備えて、生活の安定や事業の再建の資金を 準備するための制度である。同制度の加入資格を有する者は、「小規模企業者」とされており、個人事業形態の場合は、現在、個人事業主のみ 加入できるとされているところである。
先般、中小企業庁の「中小企業政策審議会経営安定部会」における「小規模企業共済制度の見直しについて」において、新規加入対象者として、 個人事業主の「共同経営者」を認める方向で検討を進めることが適切であるとされた。この「共同経営者」のメルクマールは、 事業の経営に参画している者であって「従業員に対して指揮監督権限を有する者」であることとされているが、今回、中小企業退職金共済制度に おいて「従業員」として取り扱うこととする者は、事業主との使用従属関係が認められる者であるため、小規模企業共済制度の加入対象が拡大した 場合でも、一般には中小企業退職金共済制度と小規模企業共済制度との間で、加入資格に概念上の重複は生じないと考えられる。
しかしながら、実体上も加入者範囲に重複が生じることなく、両制度が整合的に運用されるよう、中小企業庁との間で連携を図ることが 必要である。また、小規模企業共済制度の加入者を被共済者とする共済契約の申込みを機構が拒絶できることを制度上明確化することが適当である。
5.今後の取扱い変更の方向性
上記のとおり、「3」のアンケート調査結果により同居の親族のみを使用する事業に使用される者であっても使用従属関係が認められる者が 存在し得ることが把握され、かつ、「4」においては、そのような事業に中退法を適用する場合の課題について一定の整理を行うことができた。
したがって、これらの課題に対して適切な対応策を講じることにより、同居の親族のみを使用する事業に使用される者であっても、 使用従属関係が認められる者については、中退法上の「従業員」として、中小企業退職金共済制度の被共済者になり得るものとして 取り扱うこととすることが適当である。
今後、取扱いを改めるために必要な担保措置の詳細等について、さらなる検討が進められることを期待する。

(別添)

「中小企業の従業員の働き方に関するアンケート調査」結果概要

アンケート調査の方法
  • ○ 帝国データバンクの企業データベースを対象とし、従業員規模別に抽出率を計算し、5000事業所を抽出。
  • ○ 調査期間:平成21年4月20日(月)〜4月30日(木)
  • ○ 回収率:14.6%
  • ○ 実施主体:独立行政法人勤労者退職金共済機構(協力 厚生労働省金両者生活課)
アンケート調査結果の概要
事業に従事する
同居親族の数事業に従事する同居親族の数
納税申告の方式納税申告の方式 中小企業退職金共済制度
への加入のニーズ中小企業退職金共済制度への加入のニーズ
仕事の内容・方法についての
具体的な指揮命令仕事の内容・方法についての具体的な指揮命令
監督し幾何で行う労働に対する
報酬の支払い監督し幾何で行う労働に対する報酬の支払い
従業員の大体の労働時間従業員の大体の労働時間
アンケート調査結果
アンケートの調査結果から読み取れること
同居の親族のみを使用する事業においても
  • 同居親族の約8割(79.2%)が、仕事の内容・方法について、事業主に具体的な指揮命令を受けていること。
  • 同居親族の9割弱(85.7%)が、事業主の指揮監督の下で行う労働に対して報酬が支払われていること。
  • 同居親族の6割以上(63.5%)が事業主自信や他の従業員と同じくらいか、それ以上の労働時間就労していること。
が明らかになった。

中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会
参集者名簿

(○印は座長 敬称略、五十音順)


中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討会
開催経緯

第1回
開催日:平成21年4月7日
議 題:
  1. (1)中小企業退職金共済制度について
  2. (2)中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討について
  3. (3)今後の進め方
  4. (4)その他
第2回
開催日:平成21年5月27日
  1. (1)中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討について
  2. (2)その他
第3回
開催日:平成21年6月24日
  1. (1)中小企業退職金共済制度の加入対象者の範囲に関する検討について
  2. (2)その他

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