厚生労働省

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資料1

労働・雇用分野における障害者権利条約への対応のあり方に関する意見書

平成20年9月24日

社会福祉法人 全日本手をつなぐ育成会

理事長

本会は知的障害のある人たちとその家族の団体として、知的障害のある人たちが、その障害の重さに拘わらず、その能力に応じて、地域社会で働きながら、豊かなくらしが実現できることを願っています。

我が国は、「障害のある人の権利に関する条約」の締結に向けて、各種法制の検証と見直しが求められていますが、労働・雇用分野においても、「労働についての権利」を背景に、現行の障害者雇用推進施策や関係法制について検証するとともに、とりわけ障害者に対する「合理的配慮」への積極的な対応が求められていると考えます。

ここに、本会としての意見を示し、関係各位のご配意をお願いいたします。

1.現行の障害者雇用推進施策について

(1)割当雇用制度(雇用率制度)と雇用納付金制度の位置づけ

我が国は、割当雇用制度(雇用率制度)と雇用納付金制度により、障害者雇用の推進を図ってきましたが、全体として雇用率が漸増しており、一定の成果を上げてきたと考えます。また、近年において雇用率が低迷している中小企業への雇用納付金制度の適用や短時間労働も雇用義務の対象とするなどの方向は、さらに障害者雇用を推進するうえで、有効な施策と考えます。これらの障害者雇用を現実的に確保していく施策は、積極的差別是正措置として考えられるものであります。

(2) 割当雇用制度(雇用率制度)の課題

○雇用義務の対象となる障害者の範囲や法定雇用率の見直し

我が国の割当雇用制度における法定雇用率は、1.8%となっており、同様の制度を有するフランスは6%(戦争犠牲者遺族含む)、ドイツは5%となっており、大きな開きがあります。なお、人口に占める障害者の割合が、我が国では約5%(ドイツは約10%)となっていますが、我が国の障害者数が諸外国に比べかなり少ないことは疑問視されています。

また、障害者権利条約の障害者の定義にも関連して、障害者基本法を始めとした各種法律の障害者の定義や範囲の見直しが求められます。これらを踏まえた雇用義務の対象となる障害者の範囲や雇用率の見直しを行う必要があると考えます。

○除外率の引き下げ・全廃

平成14年の障害者雇用促進法の改正においては、除外率は廃止することとし、経過措置として段階的に縮小することを定めました。しかし、6年を経過した今も、全廃に至る先行きが不透明となっており、法の改正趣旨をも損なうものと考えます。ついては、早期に全廃できるよう、明確な指標を設ける必要があります。

(3)特例子会社等の課題

特例子会社制度は、企業が障害者を雇用しやすい条件を提供し、雇用促進策の一環として設けられ、普及してきました。しかし、一方で危惧されることは、障害者を集め、他の労働者と異なる労働条件・労働環境を容認するという性格があり、賃金の高い保護雇用という見方もできます。特に、特例子会社の中で長く働き続けることによりその傾向が強まると考えます。

ついては、特例子会社を固定的な職場とすることなく、親企業等に異動していくなどの仕組みが大切だと考えます。また、新たに設けられた中小企業における事業協同組合についても同様の対応が必要だと考えます。

(4)賃金の減額措置制度

今般、最低賃金法の改正により、「適用除外制度」から「減額措置制度」となり、減額対象労働者に対しても同法が厳格に適用されることになったことは、望ましいと考えます。しかし、障害者の雇用確保を優先し、障害者の賃金体系が他の労働者と異なることを許可するものとなることから、厳格な許可基準によるものとし、それが固定的な状態にならないような対応が必要だと考えます。

2.福祉的就労(保護雇用)について

(1)福祉的就労の位置づけ

障害者権利条約では「障害のある人にとって、開かれ、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境」が謳われているなか、福祉的就労は、障害者が集まり、他の労働者と異なる労働条件と労働環境の中で働くことを意味しています。

現在、福祉分野において、就労継続支援事業(A型・B型)、就労移行支援事業、小規模作業所等とともに生産活動による賃金支給を含めれば、広く福祉的就労の場が設けられています。現状の就労継続支援事業(A型)を除いた他の事業所の賃金は、一般企業のそれに比べ、格段の差があります。

しかし、現状の福祉的就労に対する障害者のニーズや、賃金の多寡に拘わらず「働く」という意義を考えた場合、企業就労の積極的な推進を図る一方、福祉的就労における賃金の確保や企業就労への移行推進を図っていくことが現実的な対応と考えます。

(2)就労継続支援事業(A型)の課題

現行の就労継続支援事業(A型)は、障害者自立支援法に位置づけられ、従業員(利用者)である障害者は、労働者としての雇用契約と福祉サービス利用者としての利用契約を結び、その利用者負担(定率負担)を支払うことになっています。そこで、同従業員は、明確に労働者として位置づけ、雇用施策の中で同事業を取扱うことが望ましいと考えます。

3.職場に求められる「合理的配慮」について

(1)知的障害のある人への就労支援

知的障害のある人が地域で働くためには、地域住民の理解とともに、雇用、福祉、教育等と企業が連携した就労支援と生活全般にわたる支援体制が必要です。特に、障害者就業・生活支援センター等の支援機関が職場定着のための支援を企業や家族などと連携して行っていくことが重要です。

(2)相談支援の重要性

知的障害のある人は、自らの思いや考えを表現したり、訴えたりすることが難しい傾向があります。また、職場において、いじめ、からかい、いやがらせなどを受けることも多々あり、人間関係のつまずきから離職する例も多くみられます。

そこで、職場において気軽に相談できたり、苦情を伝えられる窓口が必要です。また、その窓口が専門支援機関につながっていることが重要です。障害者職業生活相談員の制度がありますが、知的障害のある人たちには中小零細企業に就労している場合も多く、就労する障害者が5人未満であっても、相談・苦情受付の窓口を職場に整備する必要があると考えます。なお、障害者職業生活相談員の役割・機能については、障害者の権利を基本とした見直しが肝要だと考えます。

(3)スキルアップ・キャリアアップの機会

知的障害のある人は、従事する業務が固定しがちで、本人の意欲に拘わらずスキルアップやキャリアアップの機会が少ない傾向にあります。それにより、労働意欲が減退していくことにもなります。従って、長期にわたり固定した業務に従事している場合は、本人の希望を踏まえ、スキルアップやキャリアアップの機会を提供する必要があると考えます。


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