厚生労働省

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資料3

国連障害者権利条約による雇用問題について
・・・視覚障害者の立場から・・・

社会福祉法人日本盲人会連合副会長 時任基清

1 はじめに

障害者雇用促進法制定以来50年余、法定雇用率、雇用納付金制度もあって、一見障害者雇用は進んだように思われます。しかし、雇用率には障害別の枠が無く、身体障害、知的障害、精神障害を押し並べての雇用率であり、視覚障害者雇用は著しく立ち遅れております。

権利条約への署名、批准を機会に全ての障害者が一般健常者と肩を並べて職業的、経済的自立を果たすことができるよう取り組まなければなりません。

2 視覚障害者の就労の現状

(1)視覚障害者の医療機関就労

視覚障害者は室町時代以来、伝統的に、あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう(あはき)を生業として来ました。明治以後は、近代盲教育の職業科目としてこの教育が行なわれ、陸・海軍病院をはじめ、医療機関内で、盲学校卒業のマッサージ師がリハビリテーションを担って来ました。しかし、昭和40年代「理学療法士・作業療法士法」制定以後、医療機関内運動療法を中心とするリハビリテーションは主としてこれら、PT、OTが行なうようになり、昭和56年6月1日、診療報酬点数表改定により、マッサージ項目消滅から、マッサージ師の医療機関内採用は殆ど皆無となっています。

(2)企業内理療師採用

昭和40年代、公共職業安定所(ハローワーク)の努力の結果、盲学校等を卒業したあはき師の企業内就職が進み、現在では一定の職業分野として確立したように思われます。しかし、全国で数百人程度であり、未だ不十分であります。

(3)治療院開業と独立自営

伝統的に「街の按摩さん」として定着し 、自立・自営して来た治療院経営は非常に困難となりつつあります。その理由は凡そ二点あり、一はあはきに類似の「無資格違法類似業者」の氾濫であり、二は柔整師による慢性症の「健康保険施術」であります。あはき師の健保施術は医師の「同意書」添付が義務付けられますが、柔整師は「同意」の事実があれば「同意書」と言う書面の必要が無い為、肩こりは「頚椎捻挫」腰痛は「腰椎捻挫」として保険請求を行なうことができると言われています。

(4)介護福祉施設内「機能訓練指導員」への就職

平成12年、介護保険制度発足に当たり、施設内に「あん摩マッサージ指圧師」を含む指定医療6職種の「機能訓練指導員」が正規に雇用されていれば「機能訓練体制加算」として入所者一人当たり1日120円が支給されるので、盲学校等卒業者の有力な就職先となっていましたが、平成17年4月1日よりの制度改訂で「機能訓連個別計画加算」となり、一々の入所者又はその家族に「機能訓練」の希望有無を聴き、会議を開き訓練計画」を立て、訓練指導を行ない、その評価を行なったものを一件書類にしてはじめて「加算」が支給されます。しかし、この一連の作業は視覚障害者には著しく困難であり「まるで視覚障害者を締め出す為の改訂」と感じられる程です。これは是非「体制加算」に戻さなければなりません。

(5)あはき以外職種就労

以前は「電話交換」が有力な職種とされましたが、ダイヤルインの普及により、電話交換業務に対する求人が減少してきました。この他、昭和40年代後半からはコンピュータプログラマーの養成も始まりましたが、近年ではシステムのビジュアル可が進展したため、画面読み上げソフトや点字表示装置を使っても単独で効率的なプログラミングをすることが難しくなってきています。しかし、パソコンとインターネットの普及の結果、企業ではほとんどの事務作業にコンピューターが利用されていますので、今や雇用機会を拡大するためには、コンピューターの利用技術を習得することが不可欠となっています。その意味でも、今後ますますこの方面の職業訓練の住実が望まれます。

3 視覚障害者に対する合理的配慮

情報の8割から9割は視覚から入ってくるといわれる中で、視覚障害者はそれが障害されることにより、就労の様々な場面において差別や不利益を受けているのが実態です。通勤や職場内外における移動の安全の確保、文字処理やコミュニケーションの確保のために、いくら補助機器等があっても、視覚障害者にとっては人的支援が不可欠です。

(1)募集・採用について

企業の差別を禁止する前提として、先ず行政機関であるハローワークで「視覚障害者は仕事がない」などの思い込みに基づく対応をなくすことが必要です。また、求人検索システムを視覚障害者が使えるものとするか、それに代わる十分な人的サポートを受けられるようにする必要があります。

(2)処遇について

職務能力と採用基準、勤務条件、賃金等との関連性をどう捉えるかは一概に言えないものの、中途視覚障害者の身分・報酬の顕著な切り下げ、障害年金受給を前提にした給与の抑制といったことは差別として禁止すべきと考えます。なお、職務能力を評価する前提として、機器・ソフトなどの整備、人的支援体制の構築等が、合理的配慮として十分なされていなければならないことは言うまでもありません。

視覚障害は、障害の中でも理解されにくい面があり、「目が見えなくて何ができるのか」との思い込みから、中途視覚障害者となった場合に退職の勧奨や解雇を受けることが少なくありません。それらを差別として禁止すべきです。

入社後、キャリアアップが図れるよう、社内研修、社内試験等において、個別の配慮を行い、十分に能力を発揮できるようにすることが必要です。

(3)能力開発について

自らの能力と知識をできるだけ発揮し、更に発達させることができるようにするためには、就職前の訓練はもとより、就職当初の訓練、在職後の環境変化等に伴う訓練が必要です。例えば、企業が独自に採用しているコンピュータシステムの利用訓練は、就職前訓練が困難であるため就職後に訓練する必要が生じます。在職後しばらくして環境が変化した時も同様です。

これらの訓練には高度な専門性が必要であり、いわゆる社員教育の範疇で行えるものばかりではありません。職業教育の企業外措置への参加に便宜を図るよう促し、また、企業と本人の自助努力に任せるだけでなく、行政としての支援が必要です。

(4)中途視覚障害者の継続雇用について

在職中に視覚障害となった中途視覚障害者にとっては、視覚障害者として生活し就労し続けるためのリハビリテーション訓練(生活訓練及び職業訓練)が必要となります。企業は、本人がこれらの訓練を受けようとする場合、協力しなければなりません。ちなみに、昨年12月19日、労働政策審議会意見書でも、「視覚障害者等の中途障害者については、就労支援機関等との連携に加え、必要に応じ、医療関係者等との連携も図りながら、視覚障害者に対するロービジョンケアなども含め、継続雇用支援を行うことが適当である。」としています。

(5)職業に係る資格を取得する場合について

基本的に、すべての職業視覚の取得について障害を理由とする差別があってはならないことは、欠格条項の撤廃にみられるとおりです。また職業視覚に関する試験についても、点字・拡大文字・録音物・音声パソコン等での受験を可能とすること、試験時間の延長を行うことなどの配慮が必要です。そうした配慮を行わないことは差別に該当するとの規定が必要です。

(6)援助者・介助者の配置について

視覚障害者が事務職に就く場合はもちろん、あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう(あはき)の職業においても事務処理が必要となります。それら事務処理は、パソコンなどの機器の利用ではこなしきれない面があるのが実状であり、視覚障害者が就労し続ける場合、人的支援が不可欠です。

特別養護老人ホームなどでは、必要な状況把握及び墨字の文字処理については人的支援が必要です。

あはきなどの臨床現場においては、衛生管理、診療報酬請求などでの人的支援、並びに在宅患者の往療のため、移動介助が必要です。

病院などでは、電子カルテへのアクセシビリティを高めるとともに、人的援助も併せて提供する必要があります。

教員については、各種の支援機器を活用するとともに、教材研究の場面での人的支援の他、本人が希望すれば、授業における支援者の導入(チームティーチング)などについても積極的に取り組むことが求められます。

(7)法制度の整備について

中途視覚障害者のリハビリテーションは、片マヒ等のリハビリテーションとは違い、失った視覚機能が回復することはほとんどありません。視覚障害リハビリテーション(点字や歩行訓練、拡大読書器など視覚補助具、音声パソコンなどの訓練)については、研修として扱われることが望ましいと考えます。そこで、視覚障害リハビリテーションを研修と位置づける制度を創設するなど、労働基準法や「モデル就業規則」の見直しを行う必要があります。

仕事に使う機器・ソフトなどで、視覚障害者に使えないものが多いので、機器・ソフトの開発について、ユニバーサル・デザインを法律で義務づける必要があります(アメリカのリハビリテーション法第508条が参考となります)。

4 おわりに

この数年で、障害者全体の雇用率は改善しております。しかし、視覚障害者に限っては返って減じています。「視覚障害者は、あはきと言う適職があるから『雇用』に頼らなくても良い」と言われていたのは昔のことで、前述のように、今や開業あはき師の営業は成り立たなくなりつつあります。是非、盲・聾・肢体不自由・知的障害・精神障害、それぞれの雇用率枠を作る必要があります。


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