厚生労働省

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資料 3

遠隔医療の推進方策に関する懇談会
中間とりまとめ(案)

平成20年7月31日

■■1 はじめに■■

□負のスパイラルに陥っている日本の医療システム

わが国の医療は負のスパイラルに陥っている。多くの地域で医師が不足している。条件不利地域における地域医療は疲弊している。医師が都市部に偏在しており、診療科別の偏在も深刻だ。患者の医療に対するニーズが多様化し、さまざまな情報が行き渡り、患者の期待水準が高くなっている。医療行為にかかわる訴訟リスクも増えている。多くの地域で、必要な医師の確保ができておらず、同僚が離職した後に残された医師は、過度な仕事量をこなすことを余儀なくされ、心理的負担も過大になっている。

利用者からすると、いつでも良質な医療サービスを受けられるという信頼感が揺らいでおり、不安感が広がっている。市民の健康と安全を守る立場にある自治体は財源をはじめとした資源の不足が深刻で、有効な手だてとなる選択肢が非常に限定されている。全体として、関係者の間にあるべき相互信頼感が薄くなり、安心できる体制がないことへの不安ゆえに夜間救急を乱用する者が後をたたないなど、結果として、限られた資源がますます足りなくなり、負担感と不安感がさらに増大するという悪循環が生まれている。この負のスパイラルを断ち切らねばならない。

すべての国民がいつでもどこにいても健康で安心な生活を送れる医療を目指すことが基本である。これから少子高齢化・人口減少社会を迎えるにあたって、限られた医療資源を有効に活用し、国民にあまねく良質な医療を提供してゆくための選択肢を増やすために検討すべき施策のひとつとして、遠隔医療の推進と効果的な活用が望まれる。

□他の社会的分野でパワーを発揮しているICTの活用

わが国でのインターネットの人口普及率は70%に迫り(平成19年末時点69.0%)、また、ブロードバンドの世帯カバー率は98.3%(平成19年末時点)となっている。世界的にみて、もっとも高品質でもっとも安価な水準にある通信ネットワークが広く一般に利用可能な状況が実現している。いわゆる情報格差の問題は、機器の使いやすさが増し、市民などによる支援体制が進むなどによって改善されつつある。パーソナルコンピュータや携帯電話など通信機器の性能が飛躍的に向上し、映像や音声をともなった遠隔会議などのコミュニケーション手段が、安価に、特に専門的な知識なしに、一定の臨場感をもって利用できるようになっている。ビジネスのみならず、教育や国際協力、環境問題や貧困問題の解決、災害支援、NPO活動など、多くの社会的活動分野でも、遠隔コミュニケーション手段を活用することで、それまでできなかった活動が可能になり、生産性が上がり、さまざまなつながりが創出されている。インターネットの活用は、特に、条件の不利な個人や小規模団体の不利を克服することに役立つという特徴をもっている。医療サービスの分野でも、このようなパワーのある手段を使わない手はない。負のスパイラル状態を少しでも改善するために、遠隔医療の適切な利用方策を検討し推進することが必要である。

□患者ニーズを踏まえた遠隔医療の推進を

情報通信の社会的利用には光と影があることがよく知られている。医療の実施に関する通信手段の利用は、特に慎重に検討されなければならない。いくら技術が進歩したとしても、患者の顔色、元気さ、立ち居振る舞いの機敏さ、臭い、声のトーン、皮膚の色・つや・張りなど、医師が判断をするのに五感による包括的な情報収集が重要である場面も多く、それには、対面の機会が望ましいことはいうまでもない。情報技術がどんなに進んでも、人間同士が直接対面することの重要性がなくなることはない。その一方で、人口三万人余の自治体で年間200件以上の出産があるのに市内に産婦人科医師がおらず、妊婦が希望しても対面診療が叶わないという状況がある。都市部においても、二時間かけて病院に行き、一時間待たされて、5分間診察を受け、また二時間かけて帰宅することが必要であることから通院が極めて困難な患者が多くいる。

通信システムの利用ありきで進めるのではなく、遠隔医療の必要性はいかなるもので、どのような状況でどのように使われるのが有効であるか、よく検討され検証されるべきである。また、メディア利用にともなう負の影響についても十分に考慮する必要がある。もとより、遠隔医療は手段であり目的ではない。また、患者ニーズがあってはじめて必要性が生じるという原則を忘れてはならない。

遠隔医療の有効性に関しては、画像転送を介した専門医による支援などについてはかなり確立されているが、患者が直接かかわるケースについては、十分に立証されていない。これまでの遠隔医療実験は成果が一時的なものに留まっていることが少なくなかった。継続的に実績が上がっているケースの多くは、医師や関係スタッフの献身や自治体の特段の努力によって、やっと成り立っているというのが現状である。

□持続可能で汎用的な社会システムとして定着させる

以上のような現状認識や前提に基づいて、必要性がある場合にはどこでも適切な遠隔医療を導入できるという社会的な選択肢を用意することが重要である。本懇談会では、遠隔医療を持続可能で汎用的な社会システムとして定着させることが必要であるとの基本的な認識の下に、その実現に向けた推進方法を検討する。

持続可能性の確保のためには、適切な収益構造を構築する方策を検討する必要がある。汎用性を確保するには、制度面、通信インフラ整備、情報システムの標準化などについて検討されるべきである。さらに、わが国の現状を踏まえた上で、医療システム全体における遠隔医療の適切な位置付けについての検討が必要である。

□国民的課題としての遠隔医療の適切な推進

わが国の医療システムをより満足のゆくものにするためのひとつの方策として遠隔医療を活用することは、国民的に重要な課題となっている。このため、「地方再生戦略」(平成19年11月、地方活性化統合本部会合決定)において、農山漁村や基礎的条件の厳しい集落で、生活者としての暮らしに必要な医療・福祉のサービスが受けられるよう、地域医療の確保を図るために、遠隔医療を推進することが示された。また、「経済成長戦略」(平成20年6月、経済財政諮問会議決定)においても、国民の潜在的ニーズが高い健康や生活に関わる産業は今後の成長分野であることから、遠隔医療技術の活用を推進することとされているところである。総務省及び厚生労働省では、地域医療の充実に資する遠隔医療技術の活用方法とその推進方策について検討するため、総務大臣及び厚生労働大臣の共同で「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」、つまり、本懇談会を設置し、主に(i) 地域医療が抱える課題と地域のニーズ、(ii) 問題解決に資する遠隔医療モデルの内容、(iii) 遠隔医療モデルの推進に向けた課題、(iv) 平成20年度実証プロジェクトの実施内容等を検討することになったところである。また、「経済財政改革の基本方針2008」(骨太の方針2008)(平成20年6月27日閣議決定)において、「遠隔医療の推進方策に関する懇談会」における検討を踏まえ、遠隔医療技術の活用を推進するとしたところである。

■■2 本懇談会の前提■■

■懇談会の目的(開催要綱より)

地域における医師不足等が指摘されている状況を踏まえ、地域医療の充実に資する遠隔医療技術の活用方法と、その推進方法について検討する。

■検討対象についての「三原則」

・ 医師不足など、深刻な条件不利地域を主に想定する

・ 慢性期、健康管理、予防医療等を主に想定する

・ 先端技術の開発ではなく、既存技術を活用した社会イノベーションを起こすことを想定する(社会イノベーションとは、社会要素の新規性のある組合せを成立させるなど、新しい発想による効果的な社会システムを作り出すこと。)

■目指す姿

遠隔医療を、持続可能で汎用的な社会システムとして定着させる。その実現に向けた推進方法を検討する。(「ニーズがあること」が前提であり、また、全国を対象にしてひとつのシステムで画一的に実施するということではない。)

なお、懇談会で何回か指摘された、「安全性」や「責任の所在」については、医療の根本であり重要な論点である。しかし、遠隔医療に特有なネット利用などにかかわる情報漏洩や責任分界点などについては、厚生労働省によるガイドラインが出ている。それ以外については、基本的には医療全般にかかわる問題であり、それについて詳しく検討することは本懇談会の主旨ではないと考える。

■■3 懇談会において議論された主な論点■■

■ 論点1 ニーズ・有効性・適用範囲

日本の医療に起こっている「負のスパイラル」については、梶井構成員が提示した以下の考え方がひとつの基本になる。医師の絶対数が不足しており、都市部に集中している。患者の受療行動の変化(大学病院への集中、専門医志向、時間外受診の増加、複数医療機関への受診など)が医師の仕事量を増やし、医療提供体制の維持を難しくし、患者自身の混乱を招いている。医師の側では、日常業務が増大して精神的負荷やストレスが大きくなり、重症・救急など激務からの回避行動が増えている。いわゆる医局体制を含めて大学の力に陰りが出てきている。これらが互いにネガティブに影響し合うことで負のスパイラルが起こっている。それから抜け出すには、地域医療の整備・充実が必要であり、現状の改善に向けて遠隔医療の導入はひとつの有効な策である。

多くの構成員から発表があった地域やグループでの実践・実験例は、それぞれ、遠隔医療についてのニーズや有効性を示すものであり、懇談会で実施したアンケート結果は、おおむね、それを裏付けるものである。医師不足の自治体では切実なニーズがある、予防ケアにも有効、慢性期についてはメディア利用が有効、など多数の意見があった。それとともに、これまでの失敗例から学ぶ必要があるという指摘もあり、今後、遠隔医療の有効性を実証し検証することが重要であるという共通認識を持った。また、通信手段の有効性として、僻地に赴任している医師を孤立させないよう、専門外の医療知識を支援する等、魅力ある僻地医療環境を整備することも重要だという意見もあった。

川島構成員は「はじめから「DtoP1にTV電話ありき」の議論には反対する。TV電話を汎用的に使おうとするなら、負の要素を列挙したアンケート調査が必要。」と指摘した。関連して、情報機器の利用が、本来あるべき対面診療を“なしで済ませるための方便”にならないようにすべきだという意見も複数あった。

内田構成員から「日本医師会の遠隔医療に対する基本的考え方」として、対面診療を原則とする、遠隔医療(IT)技術は補完的に使用する、医師不足・確保対策の一環である、地域の住民にIT技術のニーズがある、緊急時対応システムが併設されている、遠隔医療システムに汎用性と継続性があること、という見解が示された。その上で、遠隔医療の適用範囲については、離島・へき地等、対面診療が困難な場合、ないし、医師不足等、遠隔医療が不可欠な場合であるとして、慢性期疾患(在宅)への支援、病状安定患者(在宅)への支援、地域医療連携への活用、妊産婦の保健指導・相談等への活用、健診・相談・教育への活用、遠隔画像診断への活用などがあるという意見が表明された。これらは遠隔医療の現状を示すものとして、今後の検討の出発点となるものである。

全体として、まったく対面の機会がない完全にバーチャルな手段で医療を行うことが望ましいという意見はなく、実際は、通院したり往診を受けたりコメディカルやスタッフ等の助言を受けたりしながら、遠隔医療という手段を効果的に選択的に取り入れることが望ましいという共通認識に至った。また、遠隔医療の実践について配慮すべきことや今後検証すべき点もあるという認識をもちつつ、本懇談会として遠隔医療の推進を打ち出して行くべしという共通意見となった。

■論点2 持続可能性の確保


1遠隔医療の実施形態は多様なので、便宜上、D to D、D to N、D to P、P to Pなどという類型に分けて議論すると分かりやすい場合があるだろう。ここで、D to Dは医師/医療機関の間、D to Nは医師/医療機関と看護師、保健士、助産師、その他のコメディカルの間、D to Pは医師/医療機関と患者の間、P to Pは患者や市民の間での通信ネットワーク等をつかった治療や相談を指す。

遠隔医療を「持続可能な社会システム」とするためには、適切な収益構造をどう確保するか、つまり、費用負担をどうするかが中心的課題である。

□医療機関・利用者・国・自治体などの適切な費用負担の可能性

仁坂構成員から和歌山県での取組みの経験を踏まえて、「システム関連費用等により、取組みを継続する医療機関に相当の負担がかかることが避けられないのが実情であり、制度改善・充実が必要」という発言があった。その他にも、受益者負担を考慮したコスト負担のあり方を検討すべき、予防分野については自治体と医療関連機関が連携した枠組みで検討すべきなどの意見があった。

□診療報酬の適切な活用の可能性

遠隔医療を持続可能なものにするためのひとつの重要な方策として診療報酬の適切な活用を検討すべきという意見が多くあり、遠隔での画像診断・病理診断における超音波動画像などの新たな医療技術や、複数の医師・医療機関の連携に関し、診療報酬上の加算等の評価を検討する必要性について具体的な提案がなされた。一方、内田構成員からは、「新たな診療報酬点数の設定により遠隔医療を誘導するという考え方には賛成できない」という意見が表明された。

□補助金、地方交付税など財政支援措置を活用する可能性

補助金や地方交付税などの財政支援措置を通じての支援が必要であるという意見が多数あった。補助金と各自治体からの支援などを融合させる必要性も指摘された。

□コスト削減の可能性

情報技術の活用が適切に行われるならば、遠隔医療はコスト削減効果を持ちうるとの発言が複数あった。予防医療の視点からメディアを利用した実践を行っている栗原構成員は、自らの経験を踏まえて「遠隔医療で生活習慣の改善ができれば、投薬や来院回数も減るだろう。予防医療に対するメディア利用の取組みは、将来的な医療費抑制政策という視点から重要」と指摘した。同様の主旨の意見が他にもあった。

□費用対効果を高める方策

本懇談会に事務局から提出された報告にあったように、地域参加やコミュニティの活用によって相互信頼が生まれ、結果として医療コストを低く抑えられる可能性がある。石田構成員(秋草構成員の代理)が「地域における人的ネットワークの存在が遠隔医療の実施範囲・持続性を考える上で非常に重要な要素となる」と指摘するようなコミュニティ作りについての自治体による支援策が検討されるべきだ。また、メディアを利用してのコメディカルの活用や、職場復帰が困難な女性医師の有効活用も検討対象になろう。

□地域医療機関の連携

継続性のある遠隔医療が実施されている岩手県遠野市の本田構成員は、「小さな医療機関と大きな医療機関との連携、在宅と医療機関との連携は欠かせない。市の取り組みを県内で有機的に結合していくうえで県内の行政、医療機関、その他関係団体が連携したネットワーク構築は、今後ますます重要となり様々な効果が期待できる。」と指摘する。本多構成員は、「各自治体において、地域医療連携(病病連携、病診連携)と遠隔医療がシームレスに繋がる方策が推進されれば、持続可能性の面でも有効な対策となりうる」と述べた。太田構成員は、「過疎地の取り組みとして、後期研修医を地方の医療機関に派遣した場合、派遣先の3次病院とその研修医を派遣した病院をTV電話などで結び、派遣病院が派遣先医療機関を支援するシステムなどを検討すべき」と述べた。

■論点3 「汎用性」の確保

遠隔医療を「汎用性のある社会システム」とするための方策として、制度面での対応、通信インフラの整備、システム標準化などを推進することが必要である。

□遠隔医療拠点病院などの必要性

村瀬構成員は、「遠隔医療拠点病院、遠隔医療拠点診療所のような「形」が必要であり、すでに積極的に遠隔医療に取り組んでいる施設を認定し、そこに財政的支援を行うことで、持続的運用を可能とすれば遠隔医療のさらなる充実が進む。」と指摘した。それに呼応していくつかの意見が出された。久島構成員は、「遠隔医療拠点病院指定という枠組みができ、財政支援が行われれば、遠隔医療に関連する作業が「業務」として位置づけられ、関係者のモチベーションを大きく向上させる」と述べた。遠隔医療拠点病院を中心として各地域でどのような具体的モデルを構築し、それが全国標準的なモデルとなりうるかについて深い議論が必要という意見もあった。

□通信インフラの整備

遠隔医療を推進するためには、ADSLレベル以上の高速通信インフラを全国的に整備することが重要であるということは多くの一致した意見であった。そのコスト負担をどうするかについては、通信機器を「効果的な診療を行う為に必須の医療機器」として検討を進めるべき、通信インフラ整備の充当には診療報酬ではなく補助金・地方交付税などで行うべき、条件不利地域の医療機関に対しては情報通信機器への国の補助制度における補助率を拡大することを検討するなどという意見があった。

□遠隔医療システムの標準化

遠隔医療を実施するための情報システムの標準化については、医療機関の連携推進、コスト削減などの理由から、その必要性については意見が一致した。通信事業者の視点から和才構成員が、「予防・治療・ケア等それぞれの状況や,画像診断、TV電話利用等の手段に応じたシステムに対する要求条件を標準化することで、遠隔医療が導入しやすい環境を整備するとともに、現在個別対応となっているシステムのコストを下げる努力が必要。」と指摘した。標準化の対象の明確化や既存の標準化ガイドラインなどとの整合性に留意すべきという指摘もあった。

■論点4 遠隔医療は、いつでも、どこでも、「補完的」なものか

遠隔医療は、現在は、「対面診療が基本であり、遠隔医療は補完的なもの」という位置付けとなっている。対面診療が望ましいことに異論がないとしても、医師の不足や偏在等という現状に照らしたとき、遠隔医療は「補完的」ではなく、「代替的」、あるいは、「選択的」なものではないかという意見が多く出された。遠隔医療は補助的使用方法として利用されるべきだという意見もあった。

典型的なのは、國領氏(オブザーバ参加)の「遠隔医療をへき地や離島などに限る「補完的」な手段とすることに懸念を持つ。医師不足や移動困難な状況は都市部でもある。対面と遠隔の両手段は、どちらかが正でどちらかが従ではなく、状況によって選択的に適用されるもの」という意見である。他にも、日本の現状は遠隔医療が「補完的」とする考え方では収まらないほどの必要性が高まっている、対面診療が望ましいがそれには数時間かけて病院に行かねばならない等数々の問題がある、対面か遠隔かはどちらが正でどちらが従という関係でとらえるより患者や医療機関がおかれた状況によって選択されるべきもの、診療機会を保証するという意味では対面診療より遠隔の方が優れている場合もある、患者にとって遠隔医療は往診と同等の効果がある場合もある、などの意見が表明された。

■論点5 モデル事業

モデル事業を実施することの重要性について、また、実施に際して、エビデンスを蓄積し有効性の検証をすることが必要だということについては意見が一致した。吉田構成員は「この分野での社会イノベーションを起こすことにおいて、遠隔医療の効果とエビデンスを明らかにすることが必須」と指摘した。大山構成員からは、「(DtoDなど)前例が多くあるものはその課題と対策、および、予想される効果を明らかにすること、(DtoPなど)前例の少ないものは実証目的と残される課題を明らかにすることをすべき」という指摘があった。また、モデル事業は単年度では結論が出にくいことから、次年度以降の継続も視野に入れるべきという意見が複数あった。

■■4 提言■■

■提言1:遠隔医療のニーズ・有効性・適用範囲について

遠隔医療のニーズ・有効性・適用範囲について、懇談会は以下の共通認識を持っている。このような認識を出発点として、今後の検討、および、モデル事業を進める。

(i) 遠隔医療は患者のためにあるもので、患者ニーズがあってはじめて必要性が生じる

(ii) 画像診断などを遠隔で専門医が支援することを含めた、医師間、地域医療機関間の連携や支援体制の促進について、また、慢性期(再診)、健康管理、予防医療、生活習慣にかかわる治療・健診・相談・教育等への活用については、遠隔医療のニーズが明らかに存在する

(iii) 機器の導入にあたっては、ポジティブな面とともに負の影響も考慮する

(iv) 遠隔医療の有効性については、今後、実証と検証が重要である

■提言2:遠隔医療の位置付けについて

患者の状態を正確に把握し、効果的で適切な医療を提供するということから、現在は、「対面診療が基本、遠隔医療は補完的」という見解がとられている。これは、医師がいない、通院が困難、往診は限られているなど、多くの制約が存在するため、初診や急性期の疾患に対しては原則として対面診療を行うこととしているものである。しかし、患者の観点からすれば、「対面が基本、遠隔は補完的」という理念を議論するだけでは問題は解決しないし、負のスパイラルを生んでいる不安は解消しない。多くの患者のニーズに応えるためには、現実の制約下で最適な医療サービスの組合せを選択可能にすることが肝心である。困難さを増しているわが国の医療システムの中で、遠隔医療は、適切に実施されるなら、有力な選択肢を提供しうるものである。

そのような遠隔医療の位置付けをより明確にするためには、たとえば、提言1で述べた「慢性期(再診)、健康管理、予防医療、生活習慣にかかわるもの」については、基本的には遠隔医療が選択可能であることを明らかにすることが必要である。当面は、モデル事業を実施するなどして、遠隔医療のエビデンスを蓄積していくことが必要である。その上で、遠隔医療の実施に必要な情報提供と環境整備を進めていくことが重要である。

■ 提言3:診療報酬の適切な活用について

遠隔医療を持続可能なものにすることのひとつの方策として、モデル事業などでの検証を進めるとともに、遠隔医療にかかわる診療報酬を適切に活用することを検討する必要がある。懇談会で、このことについて、具体的な提案があった。安全性・有効性等について科学的根拠に基づくデータ(エビデンス)があると検証されたものについては、将来は検討の対象とする。

■提言4:補助金、地方交付税など財政支援措置の活用、その他の方策の推進について

遠隔医療を持続可能で汎用性がある社会システムとして定着させるための具体的な方策を検討する。持続可能性を確保するための収益構造について、関係各機関や受益者の費用負担の仕組み、補助金・地方交付税など財政支援措置の活用、コスト削減の可能性、費用対効果を高める方策について検討する。また、地域医療機関の連携を推進するための方策について検討する。汎用性確保のために、遠隔医療に関わる拠点病院の設置や既存制度の活用も含めた制度面での可能性、および、通信インフラや情報システムの整備と標準化などを推進する方策を検討する。 

■提言5:モデル事業について

モデル事業については、本「中間とりまとめ」の内容を踏まえて、持続可能で汎用的な社会システムとしての遠隔医療の推進に資する有効な実証モデル事業を公募により実施する。実施に際しては、必要性と有効性の実証と検証を重視する。また、単年度では結論が出にくいので、来年度以降の継続ができるように努力する。


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