集中治療室(ICU)における安全管理について
(報告書)
厚生労働省 医療安全対策検討会議
集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会
目次
1 | はじめに |
||
2 | わが国の集中治療室(ICU)等の現状 | ||
2−1 | 集中治療室(ICU)等における重症患者への医療提供について | ||
2−2 | 集中治療室(ICU)等における医療事故等について |
||
3 | 指針の作成にあたっての基本的考え方 |
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4 | 二つの指針の対象範囲 | ||
4−1 | 集中治療室(ICU)における安全管理指針(別添1) | ||
4−2 | 重症患者のうち集中治療を要する患者の安全管理指針(別添2) |
||
5 | 指針に対する評価及び見直しについて |
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集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会 委員名簿 |
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別添1 集中治療室(ICU)における安全管理指針 | |||
別添2 重症患者のうち集中治療を要する患者の安全管理指針 |
1 はじめに
1. 医療事故の頻発を受けて、全国の医療機関において、医療事故を防止し、国民が安心して医療を受けることができるよう、平成15年12月に「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」が発出された。この中で、「手術室、集中治療室などのハイリスク施設・部署におけるリスクの要因の明確化を図り、安全ガイドラインの作成を進める」こととされた。
2. 集中治療室(Intensive Care Unit. 以下ICUと略す。)における医療の質と安全性の向上を図るため、平成18年1月に、医療安全対策検討会議の下に、「集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会」が設置された。集中治療を要する患者に安全に医療を提供するための管理指針を作成することを目的に、計7回の検討を行った。
2 わが国の集中治療室(ICU)等の現状
2−1 集中治療室(ICU)等における重症患者への医療提供について
1. 各医療機関によってICUの医療提供水準は異なっているが、特定集中治療室管理を行うのにふさわしい専用の構造設備及び人員配置の基準が満たされている施設については、医療機関数は、平成17年10月1日現在、670施設であり、特定集中治療室の病床数は、1施設あたり平均8.1床である。特定集中治療室の病床が6〜7床の医療機関数が最も多く、182施設(特定集中治療室を持つ医療機関全体の27.2%、平均病床数は439.4床)となっている。(平成17年医療施設静態調査より)
2. 特定集中治療室管理料の施設基準の届け出を行っていない医療機関においても、重症患者をハイケアユニット(High Care Unit. 以下HCUと略す。)のような一部門(ユニット)に集めて密度の高い医療を提供している。
3. また、上記以外の一般病床においても、重症な患者の管理が行われている。
2−2 集中治療室(ICU)等における医療事故等について
1. 財団法人日本医療機能評価機構医療事故防止センターの医療事故情報収集等事業において平成17年1月から12月の間に、「ICU」と称する部署における医療事故は35件有り、うち11件(31.4%)が死亡事故、2件(5.7%)が障害残存の可能性が高い事故である。一方、「病室」と称する部署における医療事故は、477件であり、そのうち62件(13.0%)が死亡事故、71件(14.9%)が障害残存の可能性が高い事故である。
2. ICU等の重症患者を管理する部門(ユニット)は、以下の理由により、ヒヤリ・ハット事例や医療事故が発生しやすい場所であると考えられる。
(1)重症患者であるため、行われる医療行為が複雑で密度も高い。
(2)重症患者においては、医療事故が発生した際に、生命予後に影響が及ぶ可能性が高い。
(3)重症患者は、容態が急変しやすいため、医療従事者には迅速で的確な対応能力が必要とされる。
(4)重症患者は、それ以外の患者に比べ、生命維持装置等を装着し、多種類の薬剤や輸液等を必要とすることが多い。
3 指針の作成にあたっての基本的考え方
1. ICUなどの重症患者に医療を提供する部門(ユニット)における安全管理指針の作成について検討を重ねる中で、ICU以外の部門(ユニット)において重症患者管理を行っていることが指摘された。
2. 従って、現状では各医療機関の重症患者管理機能に応じて、その運営を適切に行うことで、それぞれの施設の重症患者に対して安全で質の高い医療を提供することが必要である。
3. そのため、「集中治療室(ICU)における安全管理指針」(別添1)だけではなく、これに準ずるものとして「重症患者のうち集中治療を要する患者の安全管理指針」(別添2)も作成することとした。
4. 両指針(別添1及び2)は、各医療機関が、重症度の異なる患者に医療を提供するに当たって、医療安全を確保するために参考となる内容をまとめたものである。この内容を踏まえて個々の医療機関の実情に応じて実施することを推奨する。
5. 両指針は、ICU等における安全管理の参考として作成したものであり、医療監視や、診療報酬上の施設基準と関連づけるものではない。
6. 両指針の策定にあたっては、現在の日本の医療機関の現状を踏まえた上で、安全管理に関する既存の指針等を参考とし、可能な限り科学的根拠に基づくように努めた。
7. 両指針には、医療の実態や関係者の経験等を踏まえて、集中治療に関連する各界の専門家の合意に基づきとりまとめた部分もある。これは、集中治療に関する安全管理についての科学的根拠に基づいた報告が限られていたためである。
8. 安全を確保するためには、施設・設備・配置人員数などの構造面とともに、質・安全確保のプロセス管理やアウトカム評価を行う仕組み作りも重要である。事故防止という観点だけでなく、医療の質を向上するという観点からの取り組みが重要である。
4 二つの指針の対象範囲
4−1 集中治療室(ICU)における安全管理指針(別添1)
1. 本指針は、急性臓器不全等の重症患者を収容して、集中治療を提供するICUを対象とする。
2. 新生児を対象とするNICU(Neonatal ICU)、心疾患患者を対象とするCCU(Coronary Care Unit)など、特定の疾患を対象とした部門(ユニット)は本指針の対象とはしていない。呼吸・循環・代謝などの重要臓器の急性臓器不全の患者に集中治療を行う総合的な集中治療室(いわゆるgeneral ICU)を対象とする。
3. 本指針における「集中治療室(ICU)」とは、「集中治療を要する患者」に対して設置した部門(ユニット)をいい、診療報酬における特定集中治療室管理料の施設基準と関連するものではない。
4−2 重症患者のうち集中治療を要する患者の安全管理指針(別添2)
1. 上記(4−1)の「集中治療室(ICU)における安全管理指針」(別添1)が対象とするICUのように高機能ではなくとも、これに準ずるような比較的重症な患者の管理を行っている部門(ユニット)が存在し、ICUやHCUと称していることもある。
2. このようないわゆるHCUのような部門(ユニット)でも、急性臓器不全を発症する可能性のある患者等比較的重症な患者に医療を提供している。
3. 本指針は、いわゆるHCUのような部門(ユニット)を対象とする。
4. 本指針は、診療報酬におけるハイケアユニット入院医療管理料の施設基準と関連するものではない。
5 指針に対する評価及び見直しについて
1. 両指針を導入し、数年経過した後、指針の有効性を学会・病院団体・職能団体等が中心となって、評価するための準備を開始する必要がある。その際には、安全あるいは危険に関する数値化された評価指標を考案することも考えられる。
2. 本指針を運用する際には、情報システム等を利用して、集中治療室の安全管理及び質に関する実際の患者情報を収集・解析し、指針の改訂に反映させていくことが必要と考えられる。
集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会
委員名簿
飯田 修平 | 練馬総合病院院長 | |
石井 正三 | 日本医師会常任理事 (第3回から) | |
内野 克喜 | 東京逓信病院薬剤部薬剤部長 | |
織田 成人 | 千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学教授 | |
落合 亮一 | 東邦大学医学部麻酔科学第一講座教授 | |
加納 隆 | 埼玉医科大学保健医療学部医用生体工学科教授 | |
北澤 京子 | 日経BP社日経メディカル編集委員 (第4回まで) | |
武澤 純 | 名古屋大学大学院医学系研究科教授 | |
中島 和江 | 大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部病院教授 | |
野中 博 | 日本医師会常任理事 (第2回まで) | |
○ | 平澤 博之 | 千葉大学名誉教授 |
前川 剛志 | 山口大学医学部長 | |
道又 元裕 | 日本看護協会看護研修学校校長 | |
(○:部会長) |
別添1 |
集中治療室(ICU)における安全管理指針
厚生労働省 医療安全対策検討会議
集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会
目次
1 | 目的 | ||
2 | 基本的考え方 | ||
3 | 本指針が対象とする集中治療室(ICU)について | ||
4 | 医療従事者 | ||
(a) 医師 | |||
(b) 看護師 | |||
(c) 薬剤師 | |||
(d) 臨床工学技士 | |||
(e) 医薬品管理の責任者 | |||
(f) 医療機器の管理・保守点検の責任者 | |||
(g) 医療従事者に対する研修 | |||
5 | 運用と仕組み | ||
(a) 責任と権限 | |||
(b) 情報共有と標準化 | |||
(c) 運営 | |||
(d) 医療事故等の情報収集・分析 | |||
(e) 感染制御 | |||
(ア) 感染対策に関する指針 | |||
(イ) 予防策の実施 | |||
(ウ) サーベイランス | |||
(エ) 院内感染発生時の対策 | |||
6 | 設備環境整備 | ||
(a) 医療機器等 | |||
(ア) 保守管理 | |||
(イ) 安全使用 | |||
(b) 医薬品 | |||
(ア) 保管管理 | |||
(イ) 安全使用 | |||
(c) 病室 | |||
(d) 空調 | |||
(e) 給排水 | |||
(f) 医療ガス | |||
(g) 電気設備 | |||
(h) 照明 | |||
7 | 患者家族への情報提供 | ||
(a) 情報提供 | |||
(b) 譫妄に関する情報提供 |
1 目的
本指針は、集中治療室(Intensive Care Unit. 以下ICUと略す。)における医療事故を防止し、医療の安全を確保することを目的とする。 |
2 基本的考え方
本指針は、重症患者に集中治療を提供するにあたって、ICUの安全管理に必要な事項について記載する。 |
○ 本指針は、医療機関が重症患者に集中治療を提供するに当たって、医療の安全を確保するために、参考となる内容をまとめたものである。
○ 本指針は、日本の医療機関の現状をふまえ、「集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会」において、集中治療に関連する各界の専門家の合意に基づき策定した。
○ 本指針は、一般の病棟における安全管理に加え、対象となるICUにおいて、特に留意が必要な事項について記載する。
○ 本指針を運用する際には、実際の患者情報を収集・解析して、本指針の有効性を検証し改訂するなどの対応を行うこと。
3 本指針が対象とする集中治療室(ICU)について
急性臓器不全等の重症患者を収容して、集中治療を提供するICUを対象とする。 |
○ 重症な患者の管理は、診療報酬における特定集中治療室管理料の施設基準を満たすようなICUで多くの重症患者に高密度な医療を提供している部門(ユニット)から、一般病棟において個々に比較的重症な患者の管理を行っている部門(ユニット)まで、種々の形態で行われているのがわが国の現状である。
○ 本指針は、これらの部門(ユニット)の中でも特に、急性臓器不全を発症している患者等の重症患者を集めて、集中治療を提供するICUを対象とする。
○ 本指針における「集中治療室(ICU)」とは、「集中治療を要する患者」に対して設置した部門(ユニット)をいい、診療報酬における特定集中治療室管理料の施設基準と関連するものではない。
○ 新生児を対象とするNICU(Neonatal ICU)、心疾患患者を対象とするCCU(Coronary Care Unit)など、特定の疾患を対象とした部門(ユニット)は本指針の対象とはしていない。呼吸・循環・代謝などの重要臓器の急性臓器不全等の重症患者に集中治療を提供する総合的なICU(いわゆるgeneral ICU)を対象とする。
○ 本指針が対象とするICUの患者は、急性の臓器不全患者や臓器不全を発症する可能性が高い患者であり、生命予後に大きなリスクを抱えるが、適切な医療を提供することで、その改善が期待できる。
○ 本指針が対象とするICUに準ずるような部門(ユニット)においては、各医療機関の機能に応じ、本指針を参考にするなどして別途適切に安全管理を行うことが必要である。
4 医療従事者
医療機関においては、ICUで勤務する医療従事者の労働環境及び知識・技術などの専門性の向上により、重症患者に安全に医療を提供する業務環境を整備すること。 |
(a) 医師
○ 患者の急変時に迅速に治療が行えるように医師を適正に配置すること。個々の医療機関の実情によって異なるが、容態の急変時に適切な治療が行える体制とするためには、ICU内に専任の常勤医師を病床数と患者重症度に応じて配置すること。
○ ICUに勤務する医師については、重症患者管理に関する知識と技能を有する必要があり、医療機関は当該医師に対して、集中治療について継続的に研鑽を積む機会を与えること。
○ 集中治療を要するような重症患者は、病態が複雑であり、当該医師には、複数の診療科及び他職種と綿密に連携し、治療方針を立てるリーダーシップとコミュニケーション能力が求められる。医療機関は、当該医師に対してこれらを身につける機会を与えること。
(b) 看護師
○ 看護師の配置については、患者の重症度に応じた看護が行える体制とすること。業務を安全に遂行する上で必要とされる人員を、配置すること。具体的には、患者の重症度等に応じて患者2人に対して看護師1人以上常時配置すること。
○ ICU勤務に専念できるよう専任にすること。
○ 事故防止に配慮して、以下のような勤務体制を整えること。
・ 新人や部署異動直後の職員に対しては、医療安全に関する初期研修を提供すること。
・ 職場内教育においては、経験者と組み合わせるなどの工夫をするとともに、現場での指導・監督が可能となる人員配置等の余裕ある人事管理を行うこと。
・ 特に夜間など人員が少ない際には適切な人材を配置するように留意すること。
○ ICUに勤務する看護師には、重症患者看護の専門職としての知識・技術、例えば、重症集中ケア、救急看護に対する知識・技術を磨く機会を与えること。
○ 看護師は病態生理の理解と患者の綿密な観察を行い、異常を早期発見して早期対応に努めること。
(c) 薬剤師
○ ICUにおける医薬品の取扱いにあたっては、薬剤師を管理責任者とし、薬剤管理の権限と責任を明確化すること。
・ 本来は薬剤師がICU内に常時勤務することが望ましいが、関与の方法によっては、薬剤部の薬剤師による関与でも可能とすること。
・ 薬剤師の関与の方法としては、例えば処方内容を含めた治療計画への関与や、ICUを薬剤師が朝夕に訪れ、薬剤投与の適切性の確認や在庫管理等を行うことなどが考えられる。
(d) 臨床工学技士
○ 生命維持管理装置の操作並びにトラブル処理を行うにあたっては、臨床工学技士が関与することが望ましい。
○ 臨床工学技士がICU内に常時勤務することが望ましいが、その体制ができない場合でも緊急時に臨床工学技士が適切に対応できる体制であることが望ましい。
○ 生命維持管理装置の重要な操作及びトラブル処理を実施するためのマニュアルを整備すること。
○ 生命維持管理装置の操作(設定変更など)及びトラブル処理の実施について記録を残すこと。
(e) 医薬品管理の責任者
○ ICUにおける、医薬品管理の責任者を定めること。当該責任者は兼任でも差し支えない。
・ この責任者は、薬剤師とする。
・ 責任者は当該医療機関内における医薬品管理の責任者の監督の下、十分に連携を図りつつ、ICU内での薬剤管理を行うこと。
(f) 医療機器の管理・保守点検の責任者
○ ICUにおける、医療機器の管理・保守点検の責任者を決定し、権限と責任を明らかにすること。
・ この責任者は、医療機関全体における医療機器安全管理責任者と兼任でも構わないが、緊急時に適切に対応できる体制であること。
・ この責任者は、臨床工学技士など医療機器管理に精通した者であること。
・ この責任者は、保守点検等を実施するためのマニュアルを整備し、その運用状態を監視し、記録を残すこと。
・ この責任者の管理の下に定期的に保守点検を行い、記録を残すこと。
(g) 医療従事者に対する研修
○ 医療安全に対する意識を高めるための研修を医療従事者に行うこと。
○ 研修項目には、生命維持管理装置を始め各種医療機器の使用法や保守点検、医薬品管理、投薬、院内感染制御対策、不穏患者への対応、医療従事者間での情報伝達の方法、停電・災害などの非常事態への対応、患者及び家族への情報提供と対応、医療事故発生時の対応等が考えられる。
○ 生命維持管理装置などの医療機器に関しては、特に職員採用時や職員の異動時、及び新規機種導入時などに、容態の急変への対応や医療機器の使用方法について実際の事例や器具を用いた実習を実施すること。
5 運用と仕組み
情報を共有し、役割と業務手順を明確にした指揮命令系統の下、標準化された手順で業務を遂行すること。 |
(a) 責任と権限
ICUにおいては、診療科の異なる複数の医師や各種医療従事者が交替制のもと協力して患者の治療に当たる。そのため、診療(診断と治療)・看護の質の向上と安全確保のために、診療における責任と権限、すなわちそれぞれの専門職種の役割分担を明確にすることが必要である。その方法と内容については、施設の特性に合わせて対応すること。
この際、各医療機関の理念に基づいて、ICUにおける理念や目標を明示し、「4.医療従事者」に示した内容を考慮した上で、それぞれの職員に役割や責任を認識させ、権限を委譲し、必要な資源や場を提供し、更にその業務遂行結果を評価すること。
(b) 情報共有と標準化
ICUにおいては、診療科の異なる複数の医師や各種医療従事者が関与し、かつ24時間安全な医療を提供するため交替で患者の治療に当たる。このためには、情報の共有と標準化が必要である。具体的には以下のような対策が考えられる。
○ 治療方針や治療内容の変更・引き継ぎにあたっては、口頭だけでの伝達ではなく、文書での情報伝達を行うこと。
○ この際、電子カルテやオーダリングシステム等の情報システムを活用するなどして、標準化された様式の診療記録を用いることが有用である。
○ 各科・各職種間での治療・看護方針を決定し共有するために、定期的に(少なくとも1日に1回)カンファレンスを開催すること。
○ このカンファレンスにおいて、各科・各職種間で患者に関する情報を共有し、治療・看護方針を明確に決定すること。
(c) 運営
○ ICUに責任者(医師)を1名配置し、指揮命令系統を明確にすること。
○ ICU責任者の統括の下に、職種横断的な連携に基づいたチーム医療を行うこと。
○ ICUにおける業務手順を分析し、明確化すること。業務フロー図を作成することが望ましい。
○ 停電・災害などの非常事態時にも、入室中の患者へ適切な医療が提供できるように、非常時の情報伝達方法などの防災対策を講じること。
(d) 医療事故等の情報収集・分析
○ 医療事故の事後対策だけではなく、未然防止対策に努めること。
○ ICUの安全管理者を決めること。
・ ICU内の安全管理者は兼任でも構わない。また、医療機関内における安全管理者の管理の下で、安全業務を監督すること。
・ ICUの安全管理者は、医療の安全に関する実務担当者とする。具体的には、医療事故事例及びヒヤリ・ハット事例が起きた場合には、報告を行う。その後、事例に関する情報を収集し、要因を分析し、その改善策を提示し、医療機関内の再発防止を図ることなどに携わる者とする。
・ 安全管理者は安全管理に関する研修を受けること。
○ 医療機関内で標準化された医療事故及びヒヤリ・ハット事例報告様式を使用すること。
○ 医療事故事例及びヒヤリ・ハット事例が起きた場合には、適切に報告を行い、事例の要因分析とその改善策を考案し、その有効性の検証を行うこと。また、その内容を、医療機関内外に周知し、情報を共有した上で再発防止を図ること。
○ 医療事故及びヒヤリ・ハット事例のうち、重要事例に関しては、更に詳しい分析を行うこと。
○ 根本原因分析(RCA; Root Cause Analysis)や故障モード影響解析(FMEA; Failure Modes and Effects Analysis)等を実施することが望ましい。
○ 要因分析のための専門研修プログラムを関連学会、職能団体、病院団体などが提供することが望ましい。
(e) 感染制御
(ア) 感染対策に関する指針
○ ICUに特化した院内感染対策マニュアルを作成し、定期的に見直すこと。具体的には、患者が易感染性宿主であることが多いので、特に、感染経路別予防策や抗菌薬の選択、及び人工呼吸器関連肺炎予防策についても詳細に記載すること。
○ インフェクションコントロールドクターやインフェクションコントロールナースのような感染制御の専門家をICU内に配置すること。
(イ) 予防策の実施
○ 医療行為の前後に必ず手指消毒をするなど、標準予防策を徹底すること。
○ 感染経路別予防策が実施されているか監視すること。
○ 患者の隔離方策を講じておくこと。
(ウ) サーベイランス
○ 集団発生に注意し、同じ起炎菌による感染症の患者が複数発生した際には、医療チーム間だけでなく患者との情報共有を行い、共同して対策にあたること。
○ 厚生労働省や学会などの全国サーベイランスに参加し、自施設の感染対策能力を客観的に評価することが望ましい。
(エ) 院内感染発生時の対策
○ 院内感染が発生した場合は、標準予防策のみならず感染経路別対策を徹底し、適切な治療を行うこと。
○ アウトブレイク時又は通常では発生しない起炎菌による院内感染が発生した際は、感染経路特定のための疫学調査を実施すること。またこのような場合に備えて、感染拡大防止策を事前に策定しておくこと。
○ 法令に基づいて保健所や監督官庁に届けを出すこと。
6 設備環境整備
医療機器、医薬品その他の設備環境を恒常的に整備すること。 |
(a) 医療機器等
患者の安全を確保するために、以下の表を参考に必要な機器をICU内あるいは医療機関内に整備すること。
直ちに用いることができる状態にあることが必要な機器等 (容態の急変に直ちに対応できるように、ICUで速やかに使用できる状態にあること。) |
院内に適切に配置されることが必要な機器等 (容態の急変に適切に対応ができるように、ICUを有する医療機関内に、配置されること。) |
(1) 生体情報監視装置
(心電図モニタ、観血式血圧モニタ、非観血式血圧モニタ、パルスオキシメータ、カプノメータ、呼吸数モニタ、体温モニタなど) (2) 救急蘇生器具一式(救急カート内に常備する器材、気管挿管用具、人工呼吸用バッグ・マスク、酸素吸入器具等) (3) 小外科セット(気管切開、胸腔穿刺、腹腔穿刺など) (4) 人工呼吸器(5) 除細動器 (6) 血液ガス・電解質分析装置 (7) 簡易血糖測定器 (8) 心電計 (9) 輸液ポンプ・シリンジポンプ (10) ポータブルレントゲン撮影装置 |
(1) 急性血液浄化装置
(濾過器、透析器、血漿分離器、ベッドサイドコンソールなど) (2) 体外式ペースメーカ(3) 心拍出量測定装置 (4) 気管支鏡や上下部消化管内視鏡 (5) 超音波診断装置 (6) CT装置・MRI装置 (7) 脳波計 (8) 体温冷却加温装置 (9) 低圧持続吸引器 (10) 血液加温器 (11) 電気メス (12) 全血球数算定、C反応性タンパク・電解質などの基本的生化学検査、凝固時間及び交差適合試験を行える機器が当該医療機関内で24時間使用可能な状況であること。 (13) 経皮的心肺補助(PCPS; Percutaneous Cardiopulmonary Support)装置、大動脈内バルーンポンピング(IABP; Intra-Aortic Balloon Pumping)装置も配置することが望ましい。 |
(ア) 保守管理
○ 個々の機器に関して適切な保守を含めた包括的な管理を行い、その記録を残し、医療機関の管理者に報告すること。
(イ) 安全使用
○ 担当医師は、各種の治療用機器を使用する際には、患者に対して正しく作動していることを確認すること。
○ 輸液チューブの接続、気管チューブの接続を、定期的に確認すること。
○ 観血式動脈圧測定用カテーテル、中心静脈カテーテル、肺動脈カテーテル、血液浄化用カテーテル、PCPS( Percutaneous Cardiopulmonary Support)装置のカテーテル、IABP( Intra-Aortic Balloon Pumping)装置のバルーンカテーテルなどの取扱いについて注意を払うこと。例えば、穿刺部位の選択やカテーテルの挿入・留置では、標準化された方法で実施すること、また挿入したカテーテルの種類や挿入したカテーテルの長さなどを正確に記録しておくこと。
○ 購入にあたっては、医療事故防止適合品マークの取得も参考となる。
(b) 医薬品
(ア) 保管管理
○ ICUで保管する医薬品は在庫管理を適切に行い、特に麻薬、向精神薬、毒薬・劇薬、特定生物由来製品などの管理の際には、使用した医薬品の数量(アンプルの本数など)だけではなく、使用対象患者、投与量、投与時間を記録すること。
○ 医薬品については、定期的に見直しを行い、医薬品の規格や品目数を整理すること。
○ 医薬品に係る副作用情報など必要な情報は、薬剤部門などを通じてICUの医療従事者に周知すること。
(イ) 安全使用
1. 投薬指示
○ 医師が投薬指示を行う際、オーダーエントリーを使う場合及び手書きによる場合があるが、結果として標準化された処方せんなどの文書などが用いられるようにすること。
○ 投薬に際しては、その内容(薬剤、量、経路、時間、間隔、速度など)を確認すること。
○ 緊急時に口頭による投薬指示を行う場合は、指示をする医師と薬剤を調製する薬剤師等が投薬内容(薬剤、量、経路、時間、間隔、速度など)を確認し、事後速やかに投薬内容を記録に残すこと。
○ 静脈内投与薬剤の調製に際しては、配合禁忌や配合変化が起こらないよう、医師は処方する薬剤に特に留意すること。また、薬剤師は、配合禁忌などの最新情報を速やかに医師等に提供すること。
○ 治療域が狭く、薬物血中濃度を測定して計画的な治療管理を行う必要のある薬剤については、薬物血中濃度モニタリング(TDM; Therapeutic Drug Monitoring)による投与設計・管理を行うこと。具体的には、アミノ配糖体抗生物質やグリコペプチド系抗生物質(バンコマイシン、テイコプラニンなど)、不整脈用薬(リドカインなど)、ジキタリス製剤、免疫抑制薬などがあげられる。
2. 薬剤の調製
○ 薬剤の調製時には、調製者や他の医療従事者が複数で、指示内容の確認をすること。
○ 電解質溶液や心血管作動薬、インスリンなどを希釈して使用する場合、投与量ミスを防ぐ対策として、希釈倍率の標準化、プレフィルドシリンジ製剤の使用等が望ましい。
○ 中心静脈栄養の薬剤調製は清潔な環境で行うこと(クリーンベンチなど無菌環境の設備を利用することも考えられる)。
3. 薬剤の投与
○ 投与開始時には、対象患者と投薬内容を、情報システム等を利用し、可能な限り複数の医療従事者によって確認すること。また、投薬指示に従った投薬が実際になされているかどうかを確認すること。
○ チューブやカテーテル類を用いて投薬する場合には、薬剤投与ルートが確保されていることを投与開始時だけではなく投与中も確認し、記録として残すこと。
○ 投薬内容の確認がより確実で効率的なものになるよう、バーコードシステムの活用が望ましい。(患者名、薬剤名等の情報が盛り込まれたラベルを投薬用のシリンジに貼るなどの対応も考えられる。)
○ 投与速度を正確に管理する必要のある薬剤については、輸液ポンプやシリンジポンプなどを活用すること。また、これら機器を使用する際は、アラームを適切に作動させておくこと。
4. 薬剤による副作用の確認
○ ICU入室中の患者においては、使用される薬剤の種類が多様であるため、副作用発現の可能性があることに常に留意し、患者の状態を確認する。また、医師、薬剤師、看護師等の医療従事者は副作用等の情報を共有すること。
(c) 病室
○ 医療従事者の動線を妨げず、かつ、患者間での感染を防止するように、ベッド間に十分な距離を確保すること。
○ 直ちに必要な物品以外はベッドサイドにおかないようにするなど環境整備の工夫をすること。
○ ICUにおいては譫妄を発症しやすいため、病室の配色、音声環境、照明、採光などにも配慮して環境を整えること。
(d) 空調
○ ICUには、易感染性の重症患者が入室しており、また、逆に重症患者自身が感染源ともなることから、独立換気等の換気条件、清浄度などに配慮すること。
・ 一定の清浄度を保つようにすること。
・ 新設や増設などにあたっては、感染を避ける空調設備など、衛生環境を考慮して設計することが望ましい。
(e) 給排水
○ 給水に関しては、水道水で構わないが、給水タンクを利用している施設においては、定期的に水質検査を行い、水道水の基準を満たすこと。
○ 排水に際しては、有害物質を流出しないこと。
(f) 医療ガス
○ 1床あたり酸素のアウトレットを2箇所以上、圧縮空気のアウトレットを1箇所以上、吸引装置の据付配管を2箇所以上設置するなどが望ましい。
○ 昭和63年7月15日 健政発第410号の通知に従い、医療ガス等の管理・保守点検・記録を行うこと。
(g) 電気設備
○ 災害等による給電停止時の無停電電源装置、非常電源設備、漏電事故防止の非接地配線方式あるいはブレーカー遮断事故防止の過電流警報装置など、電源トラブル対策を講じることによって、生命維持装置が常時稼働するようにすること。
○ 医療機関の電気設備については、医療安全の確保の観点を盛り込んで設計すること。
・ 新設や増設にあたっては、「病院電気設備の安全基準」JIS T 1022 2006を参考とすること。
○ 非常電源については、定期的に点検すること。
(h) 照明
○ 医療行為を行う際には、一定の照度が保たれるようにすること。
○ 譫妄の予防のために、昼夜の別がつけられるように工夫すること。
7 患者家族への情報提供
診療内容と有害事象発生の可能性について、患者家族へ情報提供を行うこと。 |
(a) 情報提供
医療の安全を確保するためには、医療機関及び医療従事者による取組みだけでなく、患者及び家族の協力が必要である。
○ 集中治療の内容に関して、患者及び患者家族にわかりやすく一般的用語を用いて説明すること。
○ 患者及びその家族が質問しやすい環境を整えること。
(b) 譫妄に関する情報提供
○ 重症患者はしばしば譫妄を発症し、輸液ラインや体内に挿入されたチューブ類を抜こうとする行動が見られるため、医療従事者は、初期症状を注意深く観察し、早期に対策を講じるとともに、患者家族に情報提供しその危険性を理解してもらうこと。
別添2 |
重症患者のうち集中治療を要する患者の
安全管理指針
厚生労働省 医療安全対策検討会議
集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会
目次
1 | 目的 | ||
2 | 基本的考え方 | ||
3 | 本指針が対象とする部門(ユニット)について | ||
4 | 医療従事者 | ||
(a) 医師 | |||
(b) 看護師 | |||
(c) 薬剤師 | |||
(d) 臨床工学技士 | |||
(e) 医薬品管理の責任者 | |||
(f) 医療機器の管理・保守点検の責任者 | |||
(g) 医療従事者に対する研修 | |||
5 | 運用と仕組み | ||
(a) 責任と権限 | |||
(b) 情報共有と標準化 | |||
(c) 運営 | |||
(d) 医療事故等の情報収集・分析 | |||
(e) 感染制御 | |||
(ア) 感染対策に関する指針 | |||
(イ) 予防策の実施 | |||
(ウ) サーベイランス | |||
(エ) 院内感染発生時の対策 | |||
6 | 設備環境整備 | ||
(a) 医療機器等 | |||
(ア) 保守管理 | |||
(イ) 安全使用 | |||
(b) 医薬品 | |||
(ア) 保管管理 | |||
(イ) 安全使用 | |||
(c) 病室 | |||
(d) 空調 | |||
(e) 給排水 | |||
(f) 医療ガス | |||
(g) 電気設備 | |||
(h) 照明 | |||
7 | 患者家族への情報提供 | ||
(a) 情報提供 | |||
(b) 譫妄に関する情報提供 |
1 目的
本指針は、比較的重症な患者の管理を行う部門(ユニット)における医療事故を防止し、医療の安全を確保することを目的とする。 |
2 基本的考え方
本指針は、比較的重症な患者の管理を行うにあたって、必要な事項について記載する。 |
○ 本指針は、医療機関が比較的重症な患者の管理を行うに当たって、医療の安全を確保するために、参考となる内容をまとめたものである。
○ 本指針は、日本の医療機関の現状をふまえ、「集中治療室(ICU)における安全管理指針検討作業部会」において、集中治療に関連する各界の専門家の合意に基づき策定した。
○ 本指針は、一般の病棟における安全管理に加え、対象となる部門(ユニット)において、特に留意が必要な事項について記載する。
○ 本指針を運用する際には、実際の患者情報を収集・解析して、本指針の有効性を検証し改訂するなどの対応を行うこと。
3 本指針が対象とする部門(ユニット)について
比較的重症な患者を管理する部門(ユニット)を対象とする。 |
○ 重症な患者の管理は、診療報酬における特定集中治療室管理料の施設基準を満たすようなICUで多くの重症患者に高密度な医療を提供している部門(ユニット)から、一般病棟において個々に比較的重症な患者の管理を行っている部門(ユニット)まで、種々の形態で行われているのがわが国の現状である。
○ 本指針は、先だって作成した「集中治療室(ICU)における安全管理指針」に準じて作成した。
○ これらの部門(ユニット)には、いわゆるHCU(High Care Unit. 以下HCUと略す。)のような比較的重症な患者が多い部門(ユニット)なども含まれる。
○ これらの部門(ユニット)には、臓器不全を発症する可能性のある患者など比較的重症な患者が入室している。
○ 本指針は、診療報酬におけるハイケアユニット入院医療管理料の施設基準と関連するものではない。
4 医療従事者
医療機関においてはこれらの部門(ユニット)で勤務する医療従事者の労働環境及び知識・技術などの専門性の向上により、重症患者に安全に医療を提供する業務環境を整備すること。 |
(a) 医師
○ 患者の急変時に迅速に治療が行えるように医師を適正に配置すること。個々の医療機関の実情によって異なるが、容態の急変時に適切な治療が行える体制とするためには、当該部門(ユニット)に対して直ちに対応できる医師が常時医療機関内に勤務すること。
○ 当該部門(ユニット)に勤務する医師については、重症患者管理に関する知識と技能を有する必要があり、医療機関は当該医師に対して、集中治療についての継続的に研鑽を積む機会を与えること。
○ 重症な患者は、病態が複雑であり、当該医師には、複数の診療科及び他職種と綿密に連携し、治療方針を立てるリーダーシップとコミュニケーション能力が求められる。医療機関は、当該医師に対してこれらを身につける機会を与えること。
(b) 看護師
○ 看護師の配置については、患者の重症度に応じた看護が行える体制とすること。業務を安全に遂行する上で必要とされる人員を、患者の重症度等に応じて配置すること。
○ 当該部門(ユニット)勤務に専念できるようにすること。
○ 事故防止に配慮して、以下のような勤務体制を整えること。
・ 新人や部署異動直後の職員に対しては、医療安全に関する初期研修を提供すること。
・ 職場内教育においては、経験者と組み合わせるなどの工夫をするとともに、現場での指導・監督が可能となる人員配置等の余裕ある人事管理を行うこと。
・ 特に夜間など人員が少ない際には適切な人材を配置するよう留意すること。
○ 当該部門(ユニット)に勤務する看護師には、重症患者看護の専門職としての知識・技術を磨く機会を与えること。
○ 看護師は病態生理の理解と患者の綿密な観察を行い、異常を早期発見して早期対応に努めること。
(c) 薬剤師
○ 当該部門(ユニット)における医薬品の取扱いにあたっては、薬剤師を管理責任者とし、薬剤管理の権限と責任を明確化すること。
(d) 臨床工学技士
○ 生命維持管理装置の操作並びにトラブル処理を行うにあたっては、臨床工学技士が関与することが望ましい。
○ 緊急時に臨床工学技士が適切に対応できる体制であることが望ましい。
○ 生命維持管理装置の重要な操作及びトラブル処理を実施するためのマニュアルを整備すること。
○ 生命維持管理装置の操作(設定変更など)及びトラブル処理の実施について記録を残すこと。
(e) 医薬品管理の責任者
○ 当該部門(ユニット)における、医薬品管理の責任者を定めること。当該責任者は兼任でも差し支えない。
・ この責任者は、薬剤師とする。
・ 責任者は当該医療機関内における医薬品管理の責任者の監督の下、十分に連携を図りつつ、当該部門(ユニット)内での薬剤管理を行うこと。
(f) 医療機器の管理・保守点検の責任者
○ 当該部門(ユニット)における、医療機器の管理・保守点検の責任者を決定し、権限と責任を明らかにすること。
・ この責任者は、医療機関全体における医療機器安全管理責任者と兼任でも構わないが、緊急時に適切に対応できる体制であること。
・ この責任者は、臨床工学技士など医療機器管理に精通した者であること。
・ この責任者は、保守点検等を実施するためのマニュアルを整備し、その運用状態を監視し、記録を残すこと。
・ この責任者の管理の下に定期的に保守点検を行い、記録を残すこと。
(g) 医療従事者に対する研修
○ 医療安全に対する意識を高めるための研修を医療従事者に行うこと。
○ 研修項目には、生命維持管理装置を始め各種医療機器の使用法や保守点検、医薬品管理、投薬、感染制御対策、不穏患者への対応、医療従事者間での情報伝達の方法、停電・災害などの非常事態への対応、患者及び家族への情報提供と対応、医療事故発生時の対応等が考えられる。
○ 生命維持管理装置などの医療機器に関しては、特に職員採用時や職員の異動時、及び新規機種導入時などに、容態の急変への対応や医療機器の使用方法について実際の事例や器具を用いた実習を実施すること。
5 運用と仕組み
情報を共有し、役割と業務手順を明確にした指揮命令系統の下、標準化された手順で業務を遂行すること。 |
(a) 責任と権限
重症な患者の治療にあたっては、診療科の異なる複数の医師や各種医療従事者が交替制のもと協力して患者の治療に当たる。そのため、診療(診断と治療)・看護の質の向上と安全確保のために、診療における責任と権限、すなわちそれぞれの専門職種の役割分担を明確にすることが必要である。その方法と内容については、施設の特性に合わせて対応すること。
この際、各医療機関の理念に基づいて、当該部門(ユニット)における理念や目標を明示し、「4.医療従事者」に示した内容を考慮した上で、それぞれの職員に役割や責任を認識させ、権限を委譲し、必要な資源や場を提供し、更にその業務遂行結果を評価すること。
(b) 情報共有と標準化
当該部門(ユニット)においては、診療科の異なる複数の医師や各種医療従事者が関与し、かつ24時間安全な医療を提供するため交替で患者の治療に当たる。このためには、情報の共有と標準化が必要である。具体的には以下のような対策が考えられる。
○ 治療方針や治療内容の変更・引き継ぎにあたっては、口頭だけでの伝達ではなく、文書での情報伝達を行うこと。
○ この際、電子カルテやオーダリングシステム等の情報システムを活用するなどして、標準化された様式の診療記録を用いることが有用である。
○ 各科・各職種間での治療・看護方針を決定し共有するために、定期的に(少なくとも1日に1回程度)カンファレンスを開催すること。
○ このカンファレンスにおいて、各科・各職種間で患者に関する情報を共有し、治療・看護方針を明確に決定すること。
(c) 運営
○ 部門(ユニット)に責任者(医師)を1名配置し、指揮命令系統を明確にすること。
○ 部門(ユニット)責任者の統括の下に、職種横断的な連携に基づいたチーム医療を行うこと。
○ 部門(ユニット)における業務手順を分析し、明確化すること。業務フロー図を作成することが望ましい。
○ 停電・災害などの非常事態時にも、入室中の患者へ適切な医療が提供できるように、非常時の情報伝達方法などの適切な防災対策を講じること。
(d) 医療事故等の情報収集・分析
○ 医療事故の事後対策だけではなく、未然防止対策に努めること。
○ 部門(ユニット)の安全管理者を決めること。
・ この安全管理者は兼任でも構わない。また、医療機関内における安全管理者の管理の下で、安全業務を監督すること。
・ 当該部門(ユニット)の安全管理者は、医療の安全に関する実務担当者とする。具体的には、医療事故事例及びヒヤリ・ハット事例が起きた場合には、報告を行う。その後、事例に関する情報を収集し、要因を分析し、その改善策を提示し、医療機関内の再発防止を図ることなどに携わる者とする。
・ 安全管理者は安全管理に関する研修を受けること。
○ 医療機関内で標準化された医療事故及びヒヤリ・ハット事例報告様式を使用すること。
○ 医療事故事例及びヒヤリ・ハット事例が起きた場合には、適切に報告を行い、事例の要因分析とその改善策を考案し、その有効性の検証を行うこと。また、その内容を、医療機関内外に周知し、情報を共有した上で再発防止を図ること。
○ 医療事故及びヒヤリ・ハット事例のうち、重要事例に関しては、更に詳しい分析を行うこと。
○ 根本原因分析(RCA; Root Cause Analysis)や故障モード影響解析(FMEA; Failure Modes and Effects Analysis)等を実施することが望ましい。
○ 要因分析のための専門研修プログラムを、関連学会・職能団体・病院団体などが提供することが望ましい。
(e) 感染制御
(ア) 感染対策に関する指針
○ 当該部門(ユニット)に特化した院内感染対策マニュアルを作成し、定期的に見直すこと。具体的には、患者が易感染性宿主であることが多いので、特に、感染経路別予防策や抗菌薬の選択及び人工呼吸器関連肺炎予防策についても詳細に記載すること。
○ 可能であれば、インフェクションコントロールドクターやインフェクションコントロールナースのような感染制御の専門家を当該部門(ユニット)内に配置すること。
(イ) 予防策の実施
○ 医療行為の前後に必ず手指消毒をするなど、標準予防策を徹底すること。
○ 感染経路別予防策が実施されているか監視すること。
○ 患者の隔離方策を講じておくこと。
(ウ) サーベイランス
○ 集団発生に注意し、同じ起炎菌による感染症の患者が複数発生し際には、医療チーム間だけでなく患者との情報共有を行い、共同して対策にあたること。
○ 厚生労働省や学会などの全国サーベイランスに参加し、自施設の感染対策能力を客観的に評価することが望ましい。
(エ) 院内感染発生時の対策
○ 院内感染が発生した場合は、標準予防策のみならず案線形路別対策を徹底し、適切な治療を行うこと。
○ アウトブレイク時又は通常では発生しない起炎菌による院内感染が発生した際は、感染経路特定のための疫学調査を実施すること。
○ 法令に基づいて保健所や監督官庁に届けを出すこと。
6 設備環境整備
医療機器、医薬品その他の設備環境を恒常的に整備すること。 |
(a) 医療機器等
患者の安全を確保するために、以下の表を参考に必要な機器を当該医療機関内に常備すること。
院内に必ず備えておくことが必要な機器等 | 必要に応じて院内に適切に配置されることが必要な機器等 |
(1) 生体情報監視装置
(心電図モニタ、観血式血圧モニタ、非観血式血圧モニタ、パルスオキシメータ、カプノメータ、呼吸数モニタ、体温モニタなど) (2) 救急蘇生器具一式(救急カート内に常備する器材、気管挿管用具、人工呼吸用バッグ・マスク、酸素吸入器具等) (3) 小外科セット(気管切開、胸腔穿刺、腹腔穿刺など) (4) 人工呼吸器(5) 除細動器 (6) 血液ガス・電解質分析装置 (7) 簡易血糖測定器 (8) 心電計 (9) 輸液ポンプ・シリンジポンプ (10) 超音波診断装置 (11) ポータブルレントゲン撮影装置 (12) 電気メス (13) 全血球数算定、C反応性タンパク・電解質などの基本的生化学検査、凝固時間及び交差適合試験を行える機器が当該医療機関内で24時間使用可能な状況であること。 |
(1) 急性血液浄化装置
(濾過器、透析器、血漿分離器、ベッドサイドコンソールなど) (2) 体外式ペースメーカ(3) 心拍出量測定装置 (4) 気管支鏡や上下部消化管内視鏡 (5) CT装置・MRI装置 (6) 脳波計 (7) 体温冷却加温装置 (8) 低圧持続吸引器 (9) 血液加温器 |
※ なお、経皮的心肺補助(PCPS; Percutaneous Cardiopulmonary Support)装置、大動脈内バルーンポンピング(IABP; Intra-Aortic Balloon Pumping)装置も必要であれば配置することが望ましい。
(ア) 保守管理
○ 個々の機器に関して適切な保守を含めた包括的な管理を行い、その記録を残し、医療機関の管理者に報告すること。
(イ) 安全使用
○ 担当医師は、各種の治療用機器を使用する際には、患者に対して正しく作動していることを確認すること。
○ 輸液チューブの接続、気管チューブの接続を、定期的に確認すること。
○ カテーテルなどの取扱いについて注意を払い、添付文書及び取扱い説明書に基づくこと。
○ 購入にあたっては、医療事故防止適合品マークの取得も参考となる。
(b) 医薬品
(ア) 保管管理
○ 当該部門(ユニット)で保管する医薬品は在庫管理を適切に行い、特に麻薬、向精神薬、毒薬・劇薬、特定生物由来製品などの管理の際には、使用した医薬品の数量(アンプルの本数など)だけではなく、使用対象患者、投与量、投与時間を記録すること。
○ 医薬品については、定期的に見直しを行い、医薬品の規格や品目数を整理すること。
○ 医薬品に係る副作用情報など必要な情報は、薬剤部門などを通じて当該部門(ユニット)の医療従事者に周知すること。
(イ) 安全使用
1. 投薬指示
○ 医師が投薬指示を行う際、オーダーエントリーを使う場合及び手書きによる場合があるが、結果として標準化された処方せんなどの文書などが用いられるようにすること。
○ 投薬に際しては、その内容(薬剤、量、経路、時間、間隔、速度など)を確認すること。
○ 緊急時に口頭による投薬指示を行う場合は、指示をする医師と薬剤を調製する薬剤師等が投薬内容(薬剤、量、経路、時間、間隔、速度など)を確認し、事後速やかに投薬内容を記録に残すこと。
○ 静脈内投与薬剤の調製に際しては、配合禁忌や配合変化が起こらないよう、医師は処方する薬剤に特に留意すること。また、薬剤師は、配合禁忌などの最新情報を速やかに医師等に提供すること。
○ 治療域が狭く、薬物血中濃度を測定して計画的な治療管理を行う必要のある薬剤については、薬物血中濃度モニタリング(TDM; Therapeutic Drug Monitoring)による投与設計・管理を行うこと。具体的には、アミノ配糖体抗生物質やグリコペプチド系抗生物質(バンコマイシン、テイコプラニンなど)、不整脈用薬(リドカインなど)、ジキタリス製剤、免疫抑制薬などがあげられる。
2. 薬剤の調製
○ 薬剤の調製時には、調製者や他の医療従事者が複数で、投薬指示内容の確認をすること。
○ 電解質溶液や心血管作動薬、インスリンなどを希釈して使用する場合、投与量ミスを防ぐ対策として、希釈倍率の標準化、プレフィルドシリンジ製剤の使用等が望ましい。
○ 中心静脈栄養の薬剤調製は清潔な環境で行うこと(クリーンベンチなど無菌環境の設備を利用することも考えられる)。
3. 薬剤の投与
○ 投与開始時には、対象患者と投薬内容を、情報システム等を利用し、可能な限り複数の医療従事者によって確認すること。また、投薬指示に従った投薬が実際になされているかどうかを確認すること。
○ チューブやカテーテル類を用いて投薬する場合には、薬剤投与ルートが確保されていることを投与開始時だけではなく投与中も確認し、記録として残すこと。
○ 投与速度を正確に管理する必要のある薬剤については、輸液ポンプやシリンジポンプなどを活用すること。また、これら機器を使用する際は、アラームを適切に作動させておくこと。
4. 薬剤による副作用の確認
○ 当該部門(ユニット)入室中の患者においては、使用される薬剤の種類が多様であるため、副作用発現の可能性があることに常に留意し、患者の状態を確認する。また、医師、薬剤師、看護師等の医療従事者は副作用等の情報を共有すること。
(c) 病室
○ 医療従事者の動線を妨げず、かつ、患者間での感染を防止するように、ベッド間に十分な距離を確保すること。
○ 直ちに必要な物品以外はベッドサイドにおかないようにするなど環境整備の工夫をすること。
(d) 空調
○ 当該部門(ユニット)には、易感染性の重症な患者が入室しており、また、逆に重症な患者自身が感染源ともなることから、清浄度などに配慮すること。
(e) 給排水
○ 給水に関しては、水道水で構わないが、給水タンクを利用している施設においては、定期的に水質検査を行い、水道水の基準を満たすこと。
○ 排水に際しては、有害物質を流出しないこと。
(f) 医療ガス
○ 昭和63年7月15日 健政発第410号の通知に従い、医療ガス等の管理・保守点検・記録を行うこと。
(g) 電気設備
○ 災害等による給電停止時の無停電電源装置、非常電源設備、ならびにブレーカー遮断事故防止の過電流警報装置など、電源トラブル対策を講じることによって、生命維持装置が常時稼働するようにすること。
○ 医療機関の電気設備については、医療安全の確保の観点を盛り込んで設計すること。
・ 新設や増設にあたっては、「病院電気設備の安全基準」JIS T 1022 2006を参考とすること。
○ 非常電源については、定期的に点検すること。
(h) 照明
○ 医療行為を行う際には、一定の照度が保たれるようにすること。
○ 譫妄の予防のために、昼夜の別がつけられるように工夫すること。
7 患者家族への情報提供
診療内容と有害事象発生の可能性について、患者家族へ情報提供を行うこと。 |
(a) 情報提供
医療の安全を確保するためには、医療機関及び医療従事者による取組みだけでなく、患者及び家族の協力が必要である。
○ 集中治療の内容に関して、患者及び患者家族にわかりやすく一般的用語を用いて説明すること。
○ 患者及びその家族が質問しやすい環境を整えること。
(b) 譫妄に関する情報提供
○ 重症患者はしばしば譫妄を発症し、輸液ラインや体内に挿入されたチューブ類を抜こうとする行動が見られるため、医療従事者は、初期症状を注意深く観察し、早期に対策を講じるとともに、患者家族に情報提供しその危険性を理解してもらうこと。