資料5
人クローン胚研究利用作業部会における未受精卵の入手のあり方に関する審議状況について

平成18年4月7日
文部科学省
生命倫理・安全対策室


1. 総合科学技術会議意見具申「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」で提示された未受精卵の入手の方法に関し、認められる提供方法・条件等について現在までに合意されている基本的考え方は以下のとおり。

 (1) 手術等により摘出された卵巣や卵巣切片から採取された未受精卵の人クローン胚研究への提供について

 【前提】
 摘出卵巣から採取された未受精卵の利用は、生殖補助医療研究において未成熟卵子の体外成熟技術の実績が蓄積された後、行うものとする。
 (ただし、人クローン胚研究の一部として、未成熟卵子の体外成熟技術に係る研究を行うことは認める。)

(1)  婦人科疾患、性同一性障害等のため手術等により摘出される卵巣や卵巣切片については、治療におけるインフォームド・コンセントにより手術等により卵巣(またはその一部)を摘出することが決定された後、摘出された卵巣(またはその一部)の廃棄が予定されている場合に、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認める。

(2)  疾患等のため将来の妊娠に備えて凍結保存された摘出卵巣や卵巣切片については、本人の生殖補助医療には利用しないことが決定され、廃棄することが決定された後、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認める。

 (2) 生殖補助医療目的で採取された未受精卵で同目的には利用されなかったものや非受精卵の人クローン胚研究への提供について(別紙参照)

(1)  非受精卵について
 凍結されたものの提供を受ける場合には、本人の受ける生殖補助医療が終了し、廃棄することが決定された後、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認める。
 凍結せずに提供を受ける場合には、治療におけるインフォームド・コンセントにより体外受精または顕微授精を行うことが決定された後、本人から自発的な提供の申し出※2がある場合に限り、適切なインフォームド・コンセント(第三者の面会による自発的意思の確認を含む。)を受けて利用することについて認める。
※2  自発的な提供の申し出がある場合とは、一般的に入手し得る情報に基づき、研究者や医療従事者が関与することなく自らの判断により提供を申し出る場合を意味するものとする。

(2)  形態学的な異常により利用(媒精)されなかった未受精卵について
 凍結されたものの提供を受ける場合には、本人の受ける生殖補助医療が終了し、廃棄することが決定された後、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認める。
 凍結せずに提供を受ける場合には、治療におけるインフォームド・コンセントにより顕微授精を行うことが決定された後、本人から自発的な提供の申し出がある場合に限り、適切なインフォームド・コンセント(第三者の面会による自発的意思の確認を含む。)を受けて利用することについて認める。

(3)  形態学的な異常がない未受精卵について
 顕微授精の場合に精子の数の関係で媒精させる未受精卵の数を限定せざるを得ないことにより、生殖補助医療に使用されない形態学的な異常のない未受精卵については、治療におけるインフォームド・コンセントにより顕微授精を行うことが決定された後、本人から自発的な提供の申し出がある場合に限り、適切なインフォームド・コンセント(第三者の面会による自発的意思の確認を含む。)を受けて利用することについて認める。
 その他、患者本人の自発的な意思で媒精させる未授精卵の数を限定することなどにより、形態学的な異常がないものの提供を受けることについては、医師が患者に何らかの圧力をかけるおそれ、生殖補助医療の成功率の低下のおそれ、過剰排卵のおそれ等があることなど、社会から疑惑を受ける可能性を考慮し、認めないこととする。

(4)  その他
 凍結せずに提供を受ける場合には、少なくとも1度は体外受精もしくは顕微授精の経験のある方からの提供に限る。(生殖補助医療について十分な理解を得るため。)

 (3) 卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う提供について
 疾患等のため将来の妊娠に備えて凍結保存された未受精卵については、本人の生殖補助医療には利用しないことが決定され、廃棄することが決定された後、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認める。

 (4) その他
 当事者が亡くなった場合には、以下の要件を満たす場合に限り、遺族から適切なインフォームド・コンセントを受けて、凍結保存された卵巣や未受精卵を利用することを認める。
 提供医療機関において、当事者が亡くなった場合に凍結された卵巣や未授精卵を廃棄することが決められていること。
 本人から生前に、死後の提供について自発的意思による申し出があり、そのことを書類等により確認できること。

2. 現在、上記の提供の方法について、インフォームド・コンセントのあり方(時期、説明者、同意権者、説明方法、説明内容、配慮事項等)、研究関係者からの提供の取扱い等に関し検討を行っているところであり、今後、総合科学技術会議意見具申で原則禁止とされる無償ボランティアの例外的取扱いについても検討を行うこととしている。



(参考1)

人クローン胚研究利用作業部会の概要


1. 設置目的

 総合科学技術会議意見具申「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」を踏まえ、人クローン胚の研究目的の作成・利用に係る特定胚指針※1の改正等のための専門的事項に係る調査検討を行うため設置(平成16年10月7日)。
※1  特定胚の取扱いに関する指針(平成13年文部科学省告示第173号)


2. 構成

 豊島久真男((独)理化学研究所研究顧問)を主査に、法律、再生医療関連研究、生殖補助医療、生命倫理、女性保護関係の専門家に加え、一般の立場からの有識者等12名で構成。


3. これまでの審議経過

第1回(H16.12.21)〜第7回(H17.9.27)
 以下についてヒアリングを実施するとともに、関連する事項について審議。
 ・ ヒトES細胞研究の現状と解決すべき問題点について
 ・ 動物のクローン技術の現状と応用、問題点について
 ・ 組織幹細胞研究の現状と問題点について
 ・ 骨髄間質細胞研究の現状と問題点について
 ・ 特定疾患(いわゆる難病等について)
 ・ 韓国における規制の状況及び研究の状況について
 ・ 未受精卵の入手のあり方について(提供の可能性、提供者が負うことになる負担やリスク、適切なインフォームド・コンセントのあり方等)

第8回(H17.10.18)
 「難病等」の範囲など、人クローン胚の作成・利用の目的に係る考え方について議論。

第9回(H17.11.4)〜第11回(H17.12.14)
 未受精卵の入手のあり方に関し、手術等で摘出された卵巣や卵巣切片からの採取、生殖補助医療目的で採取された未受精卵で同目的には利用されなかったものや非受精卵の利用、卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用について、認められる方法・条件等について議論。

第12回(H18.1.17)〜第14回(H18.3.6)
 未受精卵の提供におけるインフォームド・コンセントのあり方(時期、説明者、同意権者、説明方法、説明内容、配慮事項等)、未受精卵の提供に係る研究関係者の取扱い等について議論。



(参考2)

総合科学技術会議意見具申「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」における未受精卵の入手のあり方に関する記述について(抜粋)


第2. ヒト受精胚
3. ヒト受精胚の取扱いの検討
(3) 未受精卵等の入手の制限及び提供女性の保護
 ヒト受精胚を作成し、これを利用する生殖補助医療研究では、必ず未受精卵を使用するが、未受精卵の女性からの採取には提供する女性の肉体的侵襲や精神的負担が伴うとともに、未受精卵の採取が拡大し、広範に行なわれるようになれば、人間の道具化・手段化といった懸念も強まる。このため、未受精卵の入手については個々の研究において必要最小限の範囲に制限し、みだりに未受精卵を採取することを防止しなければならない。また、いわゆる無償ボランティアからの未受精卵の採取については、自発的な提供を望む気持ちは尊いものとして尊重するとしても、一方で、関係者等である女性に未受精卵の提供が過大に期待される環境が形成され、本当の意味での自由意思からの提供とならない場合も考えられるため、原則、認めるべきではない。
 未受精卵の入手には、生殖補助医療目的で採取された未受精卵の一部利用、手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取、媒精したものの受精に至らなかった非受精卵の利用とともに、技術の進捗状況にもよるが卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用等も可能な場合があり得ると考えられる。しかし、こうした未受精卵の入手には、提供する女性に精神的・肉体的負担が生ずることも考えられるため、その利用は個々の研究において必要最小限の範囲に制限されるべきであり、そのための枠組みの整備が必要である。
 さらに、通常、未受精卵を提供する女性は、患者という自分の権利を主張しにくい弱い立場にあることから、自由意志によるインフォームドコンセントの徹底、不必要な侵襲の防止等、その女性の保護を図る枠組みの整備が必要である。

第3. 人クローン胚等の特定胚
4. 人クローン胚の取扱いの検討
(3) 特に考慮すべき事項
 未受精卵等の入手の制限及び提供女性の保護
 人クローン胚の作成・利用では、必ず未受精卵を使用するが、現在の核移植技術では、ヒト受精胚の場合に比べてより多くの未受精卵が必要である。このため、人クローン胚の作成・利用のための未受精卵の採取や入手は、その影響がヒト受精胚の場合より大きいものと考えられ、人間の道具化・手段化の懸念をもたらさないよう特に留意する必要があり、より厳しく制限されるべきである。
 いわゆる無償ボランティアからの未受精卵の採取については、これを認めた場合、提供する女性の肉体的侵襲や精神的負担が伴うだけでなく、人間の道具化・手段化といった懸念も強まることから、原則、認めるべきではない。
 未受精卵の入手は、手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取が考えられる。また、生殖補助医療目的で採取された未受精卵で同目的には利用されなかったものや非受精卵の利用とともに、技術の進捗状況にもよるが、卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用等も可能な場合がある。しかし、受精胚の場合と同様に提供する女性には肉体的・精神的負担が生ずることが考えられるため、個々の研究において必要最小限に制限されるべきであり、その点を十分に考慮した枠組みの整備が必要である。
 さらに、自由意志によるインフォームドコンセントの徹底、不必要な侵襲の防止等、その女性の保護を図る枠組みについても、これらを踏まえてヒト受精胚の場合よりも厳格な枠組みを整備する必要がある。

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