資料4

ファン教授研究チームの倫理問題に関する韓国国家生命倫理審議委員会調査の中間報告について

平成18年4月7日
文部科学省
生命倫理・安全対策室


1. 韓国国家生命倫理審議委員会の調査について

 ○  平成17年11月29日、韓国国家生命倫理審議委員会は、生命倫理及び安全に関する法律施行令第7条に基づき、韓国ソウル大学ファン・ウソク教授の研究チームが行った人クローン胚研究に係る倫理問題について調査を行うことを決定し、以降、関係機関に資料等の提出を要請、検討を実施。平成18年2月2日に中間報告書を公表した。

 ○  主な調査範囲は以下のとおり。
 研究に提供された卵子の個数及び出処
 研究に提供された卵子受給過程の倫理的問題
 ファン教授チーム女性研究員の卵子提供の倫理的問題
 研究に対するIRBの倫理的監督の適切性

 ○  卵子提供者への対面調査は今後行われる予定。


2. 中間報告書における主な指摘事項

 中間報告書で指摘された事項のうち、特に留意すべきものとして挙げられる事項は以下のとおりと考えられる。

 (1) 研究に提供された卵子の受給過程に係る倫理的問題について

  1) 卵子提供者と研究に提供された卵子の個数

(1)  平成14年11月から平成17年12月までに、4病院において計119名の女性から計2,221個の卵子が採取され、研究に提供された。このうち卵子を2回以上提供した女性は計24名(研究目的のみでは15名)に達し、一人から最大4回卵子を採取し研究に提供された事例もあった。
(2)  提供者の約半数である64名は一定の金銭補償を受けて提供しており、研究チームに所属する女性研究員2名からの提供もあった(別紙参照)。
(3)  追加的に調査が必要な事項は以下のとおりとしている。
 ・ 漢陽大学病院の卵巣提供疑惑
 ・ 不妊治療用卵子が一部研究用として転用された事実の有無

  2) 卵子受給過程の倫理的問題

(1)  金銭支給疑惑について
【補償供与者】
 ミズメディ病院のノ・ソンイル理事長の陳述によると、同病院の患者に卵子供与の話をすることが辛かったノ理事長は卵子売買ブローカー(DNA Bank)のY社長に接触、Y社長より卵子提供者の紹介を受けた。
 Y社長は最初200〜250万ウォン(1ウォン=約0.12円)を要求したが、ノ理事長は研究のためであるから価格を下げて助けてほしいと交渉、以降1人当たり150万ウォン(交通費、生活に支障をもたらした補償として1日当たり10万ウォンずつ15日間の費用として策定)の現金をY社長に渡し、提供者にはY社長を通じて支給した。Y社長が150万ウォンのうち一部を紹介料名目で受け取っていたかどうか、などの調査はまだなされていない。
 ノ理事長は実費名目で金銭を支給したと主張しているが、補償供与者が皆、DNA Bankから紹介されていることを考えると、卵子提供者確保の過程で売買経路を経たという疑惑を排除することは難しい。このような紹介経路、金銭の授受方法等を総合的に考慮すると、支給された金額の対価性が高いと判断できる。
 数度にわたり卵子を採取して提供した女性が数人あり、一人の女性は1年未満の間に4度も卵子を採取して提供したという点、他の一人は1度採取時に副作用が発生して入院までしたにもかかわらず、以降2度採取して再び入院治療を受けた点を考慮すると、少なくとも金銭の支給を受け卵子を提供したすべての女性が金銭目的ではなく研究のための「崇高な」気持ちで純粋寄贈したものであるとは思えない。
 少なくとも金銭の支給を受けた卵子提供者の一部は、経済的・社会的弱者であったと考えられる。
【純粋寄贈者】
 ノ理事長の陳述によると、ミズメディ病院で実費名目でも費用を支払っていない卵子提供者は、ファン教授の紹介で来院した者と、延世大学校を通じて紹介された小児糖尿病患者の母親である。
 純粋寄贈者の大部分が法施行以降に集中していることから、真の純粋寄贈者であるかという疑問は相変わらず残っている。

(2)  インフォームド・コンセントに係る問題
 ミズメディ病院等、研究に卵子を提供した機関が使用した「卵子供与施術説明書」には、危険性や副作用、予後等に対する説明の内容が非常に簡略に記述されており、後遺症に対する十分な情報を提供するものではなく、卵子提供者に対する配慮が相当不十分であったと判断される。
 また、IRBの審議を経ていない同意書が使用されていた。

(3)  卵子提供による副作用発生時の措置
 ミズメディ病院では、79名の卵子提供者(91ケース)のうち15名(16ケース)が過排卵症候群(卵巣の過剰刺激を含め卵子採取以降過排卵等で発生する症状を含む。)で来院しており、この中から2名(3ケース)が入院治療を受けている。
 研究計画に副作用発生時の措置が記載されておらず、そのような計画がIRBの審議を通過していた。卵子採取機関においては、過排卵患者に対する消極的で事後的な治療のみを行い、後遺症が発生したことがある患者に対して再び卵子を採取するなど、後遺症に対する配慮が不十分であった。また、副作用の発生についてIRBに報告もなされていないことから、研究全般において卵子提供者保護のための措置が不十分であった。

 (2) 女性研究員からの卵子提供に係る倫理的問題について

(1)  ファン教授研究チームの女性研究員2名研究員(P及びK)は、それぞれ1回ずつ研究に卵子を提供した。
(2)  提供はミズメディ病院で行われ、実費補償も含めて金銭的補償はなかったとみられるが、その事実は、他の種類の代価を提供したかもしれないという蓋然性を残している。
 P研究員は現在、ピッツバーグ大学で研究員として、K研究員は国内K医科大学大学校で専任講師として在職中である。K研究員は、当該大学に新規採用され直ちに新学期が始まる一番忙しい時期に身体的負担になる卵子提供を行ったという点、K研究員が任用審査時に提出した2つの論文が相当類似した内容であり、研究実績がともに最終審査対象であった者に比べ著しく少なかったにも関わらず採用された疑問点に対して、追加解明が必要である。
(3)  ファン教授は「特別な保護」を要する研究員に「卵子寄贈同意意向書」を配布し、ファン教授の立会下で署名を受け取った(現研究員7名、前研究員1名)。この事実は、研究員の自由を制限した一種の強圧と思われる。

 (3) IRBの倫理的監督の適切性について

  1) 漢陽大学病院(卵子採取機関)のIRBについて

(1)  卵子採取等の危険性等が十分説明される同意書が添付されていない研究計画書を承認し、また、卵子供与者を拡大する計画の変更について、その場合に発生するおそれのある倫理的問題点に対する議論や検討もなく承認するなど、研究の倫理性問題を点検するための機能を果たしたとは考えられない。
(2)  ミズメディ病院の卵子提供募集方法についてはどこのIRBでも審議されておらず、卵子売買ブローカーを通じた募集方法及び金銭支給方法の倫理性・適法性が事前にIRBにより検討されなかった。
 研究計画書に全く記載されていないミズメディ病院で卵子採取がなされており、IRBに対する報告がきちんとなされていない点等を考慮すると、ファン教授の研究に使用された卵子の採取過程は事実上IRBの承認及び監督下でなされたとみることはできない。

  2) ソウル大学獣医学部のIRBについて

(1)  ファン教授等の研究チームが委員の選出過程に直接関与し、教授会等公式な手続きが省略されており、委員長であるイ・ヨンスン教授は平成17年10月まで自身が委員であるという事実すら知らなかったことなどから、IRBの構成過程が適切であったとみることは難しい。
(2)  初期のIRBはファン教授研究チームの主導で召集され、会議の議決に関する委任状も同過程でつくられていた。
(3)  IRB委員長及び幹部委員を含む大部分の委員は、IRBの役割と機能に対する認識と知識がなかった。
(4)  IRBすべての会議でファン教授など研究者がともに参加して会議を進行し、意思決定過程まで会議に参加していた。これに対し、イ委員長は、意思決定時に委員長が会議場の外へ研究者を退場させる等の適切な措置をとる義務があることを知らず、IRBの運営に対して無知であったと陳述している。また、IRBの会議録に審議された研究計画書の題名が抜けており審議対象すら把握されておらず、研究計画が秘密であるという理由により研究責任者が研究計画書をそのまま回収していくなど杜撰なIRB運営が行われており、審議した研究計画すら保管していなかった。
(5)  イ委員長をはじめIRB委員は、卵子提供者に関連した倫理問題について、漢陽大学校IRBなどで承認されているのになぜ審議するのかわからなかったと陳述するなど、生命倫理及び安全に関する法律に基づいたIRBの法的義務・倫理的義務に対して認識が足りなったものと判断される。これによってIRBの審議は形式的になされ、倫理的監視機能を遂行するべきであるIRBがむしろ研究者たちの意思のままに動いていたものと判断される。



(別紙)


類型別卵子提供状況

卵子提供類型 採取機関 提供者数(名) 提供回数(回) 提供卵子数(個)
補償供与 ミズメディ病院 64 76 1,349
ハンナ産婦人科医院
漢陽大病院
第一病院
小計 64 76 1,349
純粋寄贈 ミズメディ病院 13 13 169
ハンナ産婦人科医院 11 12 230
漢陽大病院 8 9 121
第一病院
小計 30 34 520
研究員供与 ミズメディ病院 2 2 31
ハンナ産婦人科医院
漢陽大病院
第一病院
小計 2 2 31
不妊治療用
一部供与
ミズメディ病院
ハンナ産婦人科医院 22 25 313
漢陽大病院
第一病院 1 1 8
小計 23 26 321
ミズメディ病院 79 91 1,549
ハンナ産婦人科医院 33 37 543
漢陽大病院 8 9 121
第一病院 1 1 8

補償供与 金額の多寡、金銭支給の目的如何を問わず、一定金額補償を受け卵子を採取し提供した者
純粋寄贈 一切金銭の支給を受けず、卵子を採取・提供した者
研究員供与 ファン教授研究チームに属した研究員で、卵子を採取・提供した者
不妊治療用一部供与 体外受精目的で卵子を採取してその一部を研究用として提供した者

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