文部科学省におけるヒト胚に関連した生命倫理に関する
取組みについて

平成17年9月29日
文部科学省研究振興局
生命倫理・安全対策室

1.ヒトに関するクローン技術等に関する規制について

1−1.ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律について

(1)制定経緯

平成9年2月 クローン羊ドリー誕生の発表
平成9年9月 科学技術会議生命倫理委員会設置
平成10年1月 生命倫理委員会の下にクローン小委員会設置、クローン技術に関する議論開始
平成10年12月 生命倫理委員会の下にヒト胚研究小委員会設置、ES細胞の研究を始めとするヒト胚研究に関する議論開始
平成11年12月 クローン小委員会が報告書「クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」をとりまとめ、生命倫理委員会が「クローン技術による人個体の産生等について」を決定。
 
報告書等のポイント
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人クローン個体の産生については、法律により罰則を伴う禁止がなされるべき。
人クローン胚の研究については、移植医療等に有用性が認められるが、人の生命の萌芽であるヒト胚の操作につながる問題や人クローン個体産生につながるという問題があり、規制の枠組みを整備することが必要。規制の形態としては罰則を伴う法律による規制よりも柔軟な対応が望ましいが、ヒト胚研究小委員会でのさらなる検討にゆだねる。
人と動物のキメラ個体やハイブリッド個体の産生は、人クローン個体産生を超える問題を有する行為であり、全面的に禁止すべき。







平成12年3月 ヒト胚研究小委員会が報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」をとりまとめ、生命倫理委員会が「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究について」を決定。
 
報告書等のポイント
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人クローン胚、キメラ胚及びハイブリッド胚(以下、「人クローン胚等」という。)を作成・使用する研究は原則として行うべきではないが、科学的な必要性がある場合に限り、厳格な審査により個別に妥当性を判断する余地がある。
人クローン胚等の規制の枠組みは、クローン個体産生を禁止する法律に位置付ける必要がある。




平成12年4月 第147回通常国会に法案提出(廃案)
平成12年10月 第150回臨時国会に法案再提出
平成12年11月 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」成立

(2)内容

特定胚のうち、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植することを禁止(第3条)《罰則あり》。
特定胚※1の適正な取り扱いの確保のための措置を規定。
【指針】
  文部科学大臣は、特定胚の取扱いに関する指針を定めること(第4条)
【遵守義務】
  特定胚の取扱いにおいて、指針を遵守する義務(第5条)
【届出】
  特定胚の作成、譲受又は輸入に際し、文部科学大臣に届け出る義務(第6条)《罰則あり》
【実施制限】
  届出後60日以内の特定胚の取扱い又は届出事項の変更の禁止(第8条)《罰則あり》
【計画変更命令等】
  文部科学大臣は、届出に係る特定胚の取扱いが指針に適合しない場合、60日以内に限り、計画変更、廃止措置等を命令(第7条)《罰則あり》
【措置命令】
  文部科学大臣は、届出をした者の特定胚の取扱いが指針に適合しない場合、中止、改善措置等を命令(第12条)《罰則あり》
【その他】
  個人情報の保護(第13条)、報告徴収(第14条)《罰則あり》、立入検査(第15条)《罰則あり》等を規定

ヒト受精胚の在り方に関する総合科学技術会議等における検討の結果を踏まえ、この法律の施行の状況、クローン技術等を取り巻く状況の変化等を勘案し、この法律の規定に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずること(附則第2条)
※1:ヒト胚分割胚、ヒト胚核移植胚、人クローン胚、ヒト集合胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚、ヒト性集合胚、動物性融合胚、動物性集合胚

1−2.特定胚の取扱いに関する指針について

(1)制定経緯
平成13年8月 法律第4条に基づき、文部科学省が指針案を総合科学技術会議に諮問
平成13年11月 答申
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動物性集合胚を除く特定胚の作成を認めずその他の特定胚の取扱いについては総合科学技術会議のヒト胚の在り方に係る議論を踏まえて今後検討

平成13年12月 「特定胚の取扱いに関する指針」告示、運用開始

(2)内容

特定胚の作成の要件
特定胚の作成の限定(第1条)
特定胚を用いた研究以外の方法では得られない科学的知見が得られること
作成者が十分な技術的能力を有すること
ヒト細胞由来の臓器の作成に関する研究を目的とする動物性集合胚の作成以外の特定胚の作成を当面禁止(第2条)
細胞の提供者から書面により同意を得ること(第3条)
細胞の提供は無償で行われるべきこと(第4条)
特定胚の取扱いの要件
特定胚の譲受は、譲り受けようとする者が十分な技術的能力を有するとともに、無償で行われる場合に限られること(第5条)
特定胚の輸入及び輸出は当面禁止(第6条)
特定胚の取扱いは原始線条が現れるまで(14日を超える場合は14日間)に限られること(第7条)
特定胚の人又は動物の胎内への移植の禁止(第9条)
特定胚の取扱いに関して配慮すべき手続
文部科学大臣への届出前に機関内倫理審査委員会の意見を聴くこと(第10条)
特定胚の取扱いの成果の公開に努めること(第11条)


2.「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」について

(1)制定経緯

平成9年2月 クローン羊ドリー誕生の発表
平成9年9月 科学技術会議生命倫理委員会設置
平成10年11月 ヒトES細胞※2樹立の発表(米国)
平成10年12月 生命倫理委員会の下にヒト胚研究小委員会設置、ES細胞の研究を始めとするヒト胚研究に関する議論開始
平成12年3月 ヒト胚研究小委員会が報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」をとりまとめ、生命倫理委員会が「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究について」を決定。
 
報告書等のポイント
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ヒト胚は人の生命の萌芽としての意味を持ち、人の他の細胞とは異なり、倫理的に尊重されるべきであり、慎重に取り扱わなければならない。
ヒト胚の研究利用については、医療や科学技術の進展に重要な成果を産み出すための研究の実施が必要とされる場合には、余剰胚を適切な規制の枠組みの下で研究利用することが一定の範囲で許容され得る。
ヒト胚性幹細胞を扱う研究は、その樹立の過程でヒト胚という人の生命の萌芽を扱うという倫理的な問題はあるものの、ヒト胚自体は現在のところ法的な権利主体とまではいえないこと、ヒト胚性幹細胞それ自体は個体の産生につながることはなく、その樹立及び使用に際して重大は弊害は生じるとはいえないことから、罰則を伴った法律による規制が不可欠なものではない。
ヒト胚性幹細胞の研究は、まだ端緒についたばかりであり実績もほとんどない分野であることから技術的な進展に適時に対応していくことが必要であり、研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態を考慮することが望ましい(→指針として整備)。













平成12年11月 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」成立
平成13年4月 文部科学省が指針案を総合科学技術会議に諮問
平成13年8月 答申
平成14年9月 「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」告示、運用開始
※2:受精後5〜7日目のヒト受精胚から一部の細胞を取り出し、培養して作られる。人の体のあらゆる種類の細胞に分化する可能性を持つことから将来的な医療への応用が期待される一方、ヒト受精胚を滅失させなくてはならないという倫理的問題がある。

(2)概要

指針の適用範囲
すべてのヒトES細胞の樹立及び使用に適用
当分の間、基礎的研究に限定
ヒト胚及びヒトES細胞に対する配慮
手続き
樹立計画及び使用計画の科学的妥当性及び倫理的妥当性について機関内倫理審査委員会で指針に即して審査し、国が確認(二重審査)
樹立については、ヒト受精胚の提供医療機関においても倫理審査委員会の了解を得ることが要件
研究の進行状況・完了を機関内倫理審査委員会及び国に報告
研究成果は原則として公開
ヒトES細胞の樹立について
【樹立機関】
樹立の要件
使用の方針が示され、当該方針が新たにヒトES細胞を樹立することの科学的合理性及び必要性を有すること
樹立機関の基準
研究実績、研究設備、技術的能力、倫理審査委員会の設置等
樹立機関の業務
ヒトES細胞の樹立、維持・管理、使用機関への分配(無償)
樹立の用に供されるヒト胚の要件
無償提供
凍結された生殖補助医療の余剰胚(受精後14日以内)に限定
適切なインフォームド・コンセントを受けたもの
【提供医療機関】
提供医療機関の基準
ヒト受精胚の取扱いに関する実績・能力、倫理審査委員会の設置、個人情報保護のための措置等
ヒト受精胚提供時における適切なインフォームド・コンセントの取得
ヒトES細胞の使用について
使用の要件
以下のいずれかに資する基礎的研究を目的とすること
(1)ヒトの発生、分化及び再生機能の解明
(2)新しい診断法、予防法若しくは治療法の開発又は医薬品等の開発
科学的合理性及び必要性を有すること
個体産生、胚や胎児へのヒトES細胞の導入、生殖細胞の作成を禁止
ヒトES細胞の再分配の禁止
分化細胞の使用も当分の間、ES細胞の使用とみなす
使用機関の基準
研究実績、研究設備、技術的能力、倫理審査委員会の設置等

(3)指針に基づく文部科学大臣の確認の状況(平成17年8月末現在)

○樹立計画 1機関 1件
○使用計画 11機関23件

(4)指針の見直しについて

附則第2条の規定に基づき、研究の実施の状況等を踏まえた指針の見直しについて、科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会において平成15年12月より検討を実施。
主な論点
ヒトES細胞の分配のあり方(分配機関、海外への分配)
研究者、技術者等が有すべき知識・技能について
合理的な審査のための指針の見直し等


.総合科学技術会議意見具申「ヒト胚に関する基本的考え方」を踏まえた対応について

(1)経緯

 総合科学技術会議意見具申「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)において、
(1)人クローン胚の研究目的の作成・利用を限定的に容認するに当たり、必要な枠組みを整備するため、「クローン技術規制法に基づく特定胚指針を改正するとともに、必要に応じて国のガイドラインで補完すること」
(2)人クローン胚から樹立したヒトES細胞の使用については、「現行のES指針を改正することにより、対応すべきであること」
とされたことを受け、特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会の下に人クローン胚研究利用作業部会を設置し(平成16年10月7日)、人クローン胚の研究目的の作成・利用に係る指針の改正等に向けた検討を実施。

(2)審議経過

 平成16年12月以降計7回の作業部会を実施し、関連する研究等についてヒアリングを行いつつ、主要な論点に関し検討を進めている。これまでに実施した主なヒアリングは以下のとおり。
ヒトES細胞研究の現状と問題点について
動物のクローン技術の現状と応用、問題点について
組織幹細胞研究の現状と問題点について
骨髄間質細胞研究の現状と問題点について
特定疾患(いわゆる難病)について
韓国における規制の状況及び研究の状況について
未受精卵の入手のあり方について(提供の可能性、提供者の負担やリスク、適切なインフォームドコンセントのあり方等)

(3)議論の状況

 これまでの検討において、
(1)「難病等」の範囲など、人クローン胚の作成・利用の目的に係る考え方
(2)入手方法として認められるもの、「必要最小限に制限」のあり方、例外的な無償ボランティアの是非など、未受精卵の入手のあり方に係る考え方
についてまず議論を深め、基本的な考え方について意見集約を図ることで合意がなされており、現在、これらの事項に関して重点的に検討を行っている。

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