今後の生活習慣病対策における具体的な対応方針

 上記の基本的な方向性を踏まえ、具体的には以下のような対策を推進していく必要がある。なお、今後、「健康日本21」中間評価の作業の進捗状況を踏まえ、必要に応じ、具体的な対応を更に検討していくことが求められる。

I  健康づくりの国民運動化(ポピュレーションアプローチ)
 ○  メタボリックシンドロームの概念や生活習慣病予防の基本的な考え方等を国民に広く普及し、生活習慣の改善、行動変容に向けた個人の努力を社会全体として支援する環境整備を進める。

 (1)  メタボリックシンドロームの概念の普及定着
 メタボリックシンドロームは、それぞれの病態が別々に進行するのではなく、「ひとつの氷山から水面上に出たいくつかの山」のような状態であり、投薬だけでは「氷山のひとつの山を削る」だけであることから、根本的には運動習慣の徹底と食生活の改善などの生活習慣の改善により「氷山全体を縮小する」ことが必要である。
 安易に薬に頼るのではなく運動習慣の徹底と食生活の改善が基本といった考え方を国民に広く普及するとともに、生活習慣改善の達成感や快適さを実感し、「バランスの良い楽しい食事や日常生活の中での適度な運動」といった良い生活習慣は気持ちがいいものということを再認識し、継続した取組を支援する環境整備が重要である。
 なお、今後、メタボリックシンドロームの概念を国民に広く普及していく上で、関係学会等とも連携し、よりわかりやすい呼称も検討していくことが必要である。

 (2)  「健康日本21」の代表目標項目の選定
 生活習慣病予防のためには日常生活において具体的に何に取り組めばいいのか、といったことを国民にわかりやすい形で示すためにも、「健康日本21」の9分野70項目の目標の中から選定した21の代表目標項目(別添2参照)を普及啓発に積極的に活用することが必要であり、各都道府県が策定する健康増進計画にも、地域の実情を踏まえつつ、これら21項目に係る具体的目標値を設定すべきである。
 なお、「健康日本21」の現行70項目の目標については、喫煙率低減などの新たな目標の設定が必要といった意見もあったことから、今後の中間評価作業の進捗を踏まえ、目標の追加等についても検討が必要であり、その結果に応じ、代表目標項目について追加等の検討も行うべきである。

 (3)  具体的な施策プログラムの提示
 〜 「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」〜

(1) 身体活動・運動施策(「エクササイズガイド(仮称)」の策定、普及、活用等)
 身体活動・運動施策における科学的な根拠として平成元年に策定された運動所要量については、策定後長期間経過しており、最新の科学的知見に基づき見直しを行うべきである。
 日常生活における歩数は男女とも減少しており、また、高齢者以外では運動習慣者の割合も増加していないといった現状を踏まえ、平成5年に策定された運動指針を見直し、単に「歩数を増やす」というだけでなく、ライフスタイルに応じ、運動不足の解消を目指した具体的な実践方法等をわかりやすく示した「エクササイズガイド(仮称)」を策定し、フィットネス業界等の産業界や運動関連団体等を通じ、地域や職場を通じた普及活用を進めることが必要である。
 また、健康運動指導士などの運動指導の専門家については、質の向上を図りつつ、多様な養成形態を認めるとともに、その定着の促進を図ることが必要である。保健師、管理栄養士等も運動指導に関する知識・技術の習得が求められる。

(2) 栄養施策(「食事バランスガイド」の普及、活用等)
 栄養施策における科学的な根拠としての食事摂取基準は5年ごとに見直しを行うこととしており、平成17年度から5年間使用する「日本人の食事摂取基準(2005年版)」が既に策定されているが、この中で、新たな指標として、生活習慣病予防の観点から増やすべき又は減らすべき栄養素について、それぞれ当面の目標とすべき摂取量を「目標量」として示したところであり、栄養指導等の現場において、その活用が望まれる。
 また、中高年男性の肥満者や20歳代女性のやせ過ぎの割合の増加、野菜摂取量の不足、若年者の朝食欠食習慣者の増加などの現状を踏まえ、食生活指針を具体的な行動に結びつけるために、「何を」「どれだけ」食べればよいかをわかりやすく示した「食事バランスガイド」を策定したところである。
 これを生活習慣病予防の観点から、食品選択の場で積極的に活用していくことが重要であり、中高年男性の肥満者、単身者、子育てを担う世代といった対象をターゲットに、ファミリーレストランなどの飲食店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等の食品関連産業における情報提供や商品開発を進めるとともに、地方公共団体、食品関連産業関係者、農林漁業関係者、管理栄養士・栄養士等の専門家、食生活改善推進員等が連携し、地域や職場を通じた普及啓発活動を進めることが必要である。
 さらに、食育基本法が制定されたところであり、食育の国民運動としての展開の中で、「食事バランスガイド」の普及・活用等を一層図っていくことが必要である。特に、子どもの肥満予防といった観点から、子どもの頃から適切な食生活習慣を身につけることが大切であり、子育て世代への対応や、学校保健とも連携した取組を進めていくべきである。

(3) たばこ対策(禁煙支援マニュアルの策定、普及、活用等)
 たばこ対策については、平成14年12月25日の厚生科学審議会意見具申「今後のたばこ対策の基本的な考え方について」において、「国民の健康増進の観点から、今後、たばこ対策に一層取り組むことにより、喫煙率を引き下げ、たばこの消費を抑制し、国民の健康に与える悪影響を低減させていくことが必要である」と指摘された。
 本年2月には、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約が発効したことを踏まえ、関係省庁の密接な連携の下にたばこ対策を促進するため、たばこ対策関係省庁連絡会議を設け、たばこ対策の充実強化を図るための体制整備を行ったところである。
 たばこ対策に関しては、部会の議論の中で、(1)喫煙率の低下についての数値目標を設定すべき、(2)未成年者の喫煙防止対策として自動販売機の規制を大幅に強化すべき、(3)受動喫煙防止対策の取組が遅れている施設について積極的に対策を推進すべき、(4)受動喫煙防止対策の推進に向け、公共の場の禁煙・分煙の状況の調査を進めるべき、(5)たばこの価格又は税を引き上げ、その財源を生活習慣病予防対策に充当することを検討してはどうか、といった意見が出された。
 また、本年5月の世界禁煙デー記念シンポジウムにおけるパネル討論においても、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会により同様の内容の決議文がとりまとめられている。
 こうした意見については、関係省庁が十分に連携し、検討、さらには取組を進めていくことが必要である。また、特に喫煙率が高い20歳代から30歳代の女性を中心に禁煙の意思を有する者の自主的な禁煙の試みを積極的に支援するため、禁煙を支援するマニュアルを策定し、その普及、活用を進めるとともに、喫煙率の低下についての新たな数値目標の設定の検討も含め、国民全体の喫煙率の低下を目指すべきである。

 (4)  産業界も巻き込んだ国民運動の戦略的展開
 「健康日本21」は、平成12年より国民運動として推進してきたが、産業界との連携が必ずしも十分とは言えない面があったことは否定できない。
 国民運動として生活習慣病対策を推進していくためには、地域住民に対するポピュレーションアプローチの中心的な役割を市町村が果たす必要があるが、行政や外郭団体による取組だけでなく、産業界が「エクササイズガイド(仮称)」や「食事バランスガイド」等を広く普及、活用していくことが重要である。既に、スーパーマーケット、コンビニエンスストアやファミリーレストラン等の食品関連産業やフィットネス業界、健康関連機器業界などにおいて、健康づくりの観点からの情報提供も広がりつつあり、こうした関連業界を始めとする幅広い産業界の自主的な取組との一層の連携が不可欠である。
 また、運動指導、栄養指導などがそれぞればらばらに行われるのではなく、個人の生活習慣の改善に向けた取組を総合的に支援する体制の整備も期待される。

II  網羅的・体系的な保健サービスの推進(ハイリスクアプローチ)

 ○  ハイリスクアプローチの徹底に向け、以下に示すメタボリックシンドロームの概念に基づく健診・保健指導プログラムの導入や若年期からの健診・保健指導の徹底など、健診・保健指導の基本的な在り方については、今後、更にその具体的な内容の検討を進め、最終的には健康増進法に基づく健診指針の形で、各健康増進事業実施者の共通的な事項として明確に位置付けるべきである。(詳細については、別添3参照)

 (1)  メタボリックシンドロームの概念に基づく健診・保健指導の導入
 ハイリスク者の「予防」を徹底していくためには、糖尿病、高血圧症、高脂血症等には至っていない境界領域期の「予備群」を重点的な対象として、生活習慣改善の必要性が高い者を健診によって効率的かつ確実に抽出するとともに、投薬や治療の前に、運動習慣の徹底や食生活の改善等の生活習慣の改善の取組を重点的に支援していくための効果的な保健指導を徹底し、健診と保健指導を連続した一体的なものとして提供していくことが必要である。
 このため、健診・保健指導について、メタボリックシンドロームの概念に基づき、生活習慣の改善支援という観点から一体のものとして捉え直した上で、保健指導を中心にその徹底を図っていくべきである。

 (2)  若年期からの健診・保健指導の徹底
 現行の老人保健事業の対象者は40歳以上の者とされているが、30歳代の3割が肥満であるといった現状を踏まえれば、メタボリックシンドロームの「予備群」に対する健診・保健指導の観点からは、40歳未満のより若年期からの健診・保健指導の徹底が必要と考えられる。
 平成16年10月にとりまとめられた老人保健事業の見直しに関する検討会の中間報告においても、「近年、若い世代においても肥満や動脈硬化等が増加している」ことや、「より若い世代から望ましい生活習慣を身につけるための施策の強化が求められるようになった」ことなどから、40歳未満の者の生活習慣病予防対策について、「今後はこれらの者に対して事業(サービス)を受ける機会を確保する新たな枠組みの整備が必要である」とされている。
 今後、後述する医療保険者による保健事業の取組強化とそれを踏まえた老人保健事業の見直しを検討する中で、40歳未満の者に対する健診・保健指導の在り方についても併せて検討すべきである。

 (3)  健診機会の段階化と保健指導の階層化
 健診受診率は、各都道府県ごとに大きなばらつきがあるとともに、特に被扶養者や自営業者等については、全国平均で5割程度の受診率にとどまっている。また、被用者本人を含めた20歳以上の国民全体でも6割程度となっており、健診未受診者の中にはハイリスク者も多く含まれていると考えられる。
 網羅的な保健サービスの推進という観点から、問診による生活習慣の把握、腹囲等の身体計測、血液検査等の基本的な健診により、リスクの度合いを効率的に把握した上で、基本的な健診でリスクがあると判断された者などに詳細な健診の受診勧奨を徹底することが、予備群の確実な抽出に有効と考えられる。このような形で基本的な健診によりリスクがあると判断された者に詳細な健診の受診勧奨を徹底すれば、これまでハイリスクでありながら健診を受けようとしなかった者の健診の受診や行動変容の動機付けにもつながっていくものと考えられる。
 また、生活習慣の改善を支援する上で中心となる保健指導については、詳細な健診の結果を踏まえ、病態の重複状況や行動変容の困難さの度合い等に応じたサービスを効果的・効率的に提供するため、保健指導の必要度に応じた対象者の階層化を図ることが重要である。具体的には、例えば、生活習慣を改善する必要性の高い者、中程度の者、低い者を階層化し、提供するサービスの内容も、
(1)  生活習慣病の特性や生活習慣の改善の基本的理解を支援する情報提供は全員に、
(2)  生活習慣改善の必要性の高い者及び中程度の者には、自主的な取組を支援するための動機付けの支援を、
(3)  生活習慣改善の必要性の高い者には、更に加えて、医師、保健師、管理栄養士や運動指導の専門家等が直接的に行動変容を支援する積極的支援を
といった形で、対象者の必要度に応じたサービス提供を徹底していくことが考えられる。
 こうした健診から保健指導までの一連のサービスについては、国がイニシアティブをとって、まずは幾つかの都道府県で事業を実施し、その成果を踏まえ、全国的な展開を進めていくことが望ましい。

 (4)  保健指導プログラムの標準化
 基本的な生活習慣のかなりの部分が幼少期に確立されることを考えれば、その後の生活習慣の改善は簡単ではない。このため、保健指導の実施に当たっては、対象者それぞれの健康に対する意識のレベルや、個々のライフスタイル等を理解した上で、それぞれの状況等に応じ、必要な時に、的確に、本人の自主的な行動変容の支援を行うことが重要である。
 こうした保健指導については、各実施主体ごとの創意工夫も重要であるが、国としても、保健指導プログラムを標準化し、その普及を図る必要がある。その際には、メタボリックシンドロームの予防は、適度な身体活動・運動と食生活の改善が基本であることから、運動指導と栄養指導がそれぞればらばらではなく一体的なものとして行われることが必要である。また、前述した「エクササイズガイド(仮称)」や「食事バランスガイド」等を保健指導においても積極的に活用していくべきである。
 また、保健指導を担当する医師、保健師、管理栄養士や運動指導の専門家等についても、運動指導や栄養指導を一体的に提供できるよう、特にこれまで必ずしも十分ではなかった運動指導や動機付け支援等について、研修の充実等による資質の向上を一層図るとともに、多職種が連携した取組の推進が必要である。

 (5)  健診項目の重点化、精度管理の徹底等
 健診については、具体的な検査項目が制度間、実施主体間で異なるとともに、ライフステージや個人の健康課題に必ずしも対応していないのではないか、精度管理が徹底されていないのではないかといった課題が指摘されている。
 こうした課題に対応するため、最新の科学的知見を具体的な健診事業に結びつける観点から、健診項目の重点化、精度管理の在り方等について、平成17年度から実施している「疾病の早期発見と対策に関する研究」の成果をできる限り速やかに整理し、それを踏まえた取組を進めていくことが必要である。

III  糖尿病・循環器病対策
 ○  糖尿病・循環器病対策については、これまで述べてきたメタボリックシンドロームの予防のための施策により生活習慣の改善を徹底することが基本であり、ポピュレーションアプローチとしての運動施策、栄養施策等の推進や、ハイリスクアプローチとしての健診・保健指導の徹底等が重要である。また、糖尿病・循環器病は、歯周病等歯科疾患との関連も深いと言われていることから、メタボリックシンドロームの予防のための施策の一環として、歯周病予防についても取り組むことが重要である。

 ○  しかし、糖尿病・循環器病対策としては、こうした発症予防の取組だけでなく、診断・治療までを含めた総合的な対応も重要である。こうした観点から、これまで健康科学総合研究事業、循環器疾患等総合研究事業でそれぞれ進められてきた生活習慣病対策に係る研究事業を統合し、生活習慣病対策に必要な科学的知見の構築、革新的な生活習慣病予防法の開発等を総合的に実施する「循環器疾患等生活習慣病対策総合研究(仮称)」を創設することとし、特に糖尿病対策については、大規模な戦略研究を平成17年度から5年間実施することとしているところであり、これらの成果を速やかに予防や診断・治療に活用していくことが重要である。

 ○  糖尿病対策については、現在、日本医師会、日本糖尿病学会及び日本糖尿病協会の三者により、糖尿病の発症予防、合併症防止等の糖尿病対策をより一層推進するため、「糖尿病対策推進会議」が設置されているほか、日本栄養士会においては、糖尿病の予防活動に重点を置いた活動を行うため、47の都道府県栄養士会に「栄養ケアステーション」を設置することとしている。また、日本歯科医師会においては、糖尿病等の生活習慣病と歯周病との関わり等についての普及啓発を行っている。
 こうした関係団体等の取組を踏まえ、官民一体となった糖尿病対策を推進していくべきである。

IV  がん対策
 ○  生活習慣病は、平成8年の公衆衛生審議会意見具申において、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されたが、発症や疾病の進行を防ぐためには生活習慣の改善を図ることが重要な糖尿病、心疾患、脳血管疾患に対し、がんは、喫煙等の不健康な生活習慣が発症の確率を高めはするものの、遺伝要因、病原体等の外部環境要因も発症に大きく関わるほか、発見された場合には直ちに手術や化学療法などの適切な治療を開始することが必要となる。したがって、がんについては、メタボリックシンドローム等の生活習慣病とは分けて対策を考えることが必要である。
 したがって、禁煙支援等の発症予防や早期発見のためのがん検診の充実等のがん予防対策は、治療や緩和ケアまで含めた、がんの病態に応じた総合的な対策全体の中で考えられるべきである。

 ○  こうした観点から、平成17年5月に厚生労働大臣を本部長として設置された「がん対策推進本部」では、がんの臨床研究の推進、がん医療水準の均てん化、がん登録の在り方などを含めた総合的ながん対策について省横断的に検討されているところである。

 ○  このうち、がん医療水準の均てん化については、厚生労働大臣の懇談会として設置された「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会」において平成17年4月に報告書がとりまとめられたところであり、この報告書を踏まえ、全国どこでもがんの標準的な専門医療が受けられるように、地域がん診療拠点病院(仮称)の機能強化と地域の医療機関との診療連携の促進やがん専門医等のがん医療専門スタッフの育成など、具体的な取組が平成18年度から進められることとなっている。

 ○  がん検診については、がんの部位による差はあるものの、総じて受診率が低い状況にあることや都道府県ごとの受診率の格差が非常に大きい状況をどう改善すればよいのか、地方分権の下で地方の自主性に委ねるしかないということでは済まないのではないかとの意見が本部会での議論の中で表明されたことについては、「がん対策推進本部」での今後の検討に反映されるべきである。

V  生活習慣病対策の推進体制
 ○  生活習慣病対策を今後より一層推進していくためには、国、都道府県、市町村、医療保険者等のそれぞれの役割を明確化し、その上で具体的な施策ごとに連携を進めていくことが重要である。
 その上で、特に都道府県が、健康づくり施策の総合的な企画立案を行うとともに、医療保険者や市町村等の関係者間の総合調整を積極的に図っていくことが、地域の実情を踏まえた総合的な生活習慣病対策の推進にとって不可欠である。

 (1)  生活習慣病対策の推進に向けた関係者の責務と役割
 生活習慣病対策の推進に当たり、各関係者のそれぞれの役割を整理すると以下の通りであり、これを基本に、それぞれの具体的な役割を改めて整理していくことが必要である。
(1) 国民
 健康増進法では、国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない、とされている。
(2)
 国は、調査研究により科学的根拠を分析・整理し、その成果を科学的根拠に基づく効果的なプログラムとして示していくとともに、ポピュレーションアプローチ、ハイリスクアプローチを含めた総合的な生活習慣病対策の基本的な方向性や具体的な戦略、枠組みを示すことが求められる。
(3) 都道府県
 都道府県は、都道府県健康増進計画の策定を通じ、健康づくり施策の総合的な企画立案を行うとともに、医療保険者、市町村等の関係者の役割分担と連携促進のための総合調整機能を果たすことが求められる。
(4) 市町村
 市町村は、住民に最も身近な行政機関として健康づくり施策を総合的に推進するとともに、特にポピュレーションアプローチの推進の中心的な役割を果たすことが求められる。
(5) 医療保険者
 医療保険者は、保健事業への取組を一層強化することが求められる。具体的には、被用者保険の被保険者本人について、労働安全衛生法の事業者と連携しつつ、保健事業を実施していくとともに、これまで取組が必ずしも十分でなかった被用者保険の被扶養者及び国民健康保険の被保険者についての取組を充実していくことが必要である。


 (2)  医療保険者による保健事業の取組強化
健診受診率は、各都道府県ごとに大きなばらつきがあるとともに、被用者保険者の被保険者本人が全国平均で7〜8割程度であるのに対し、被扶養者や自営業者については5割程度にとどまっている。
被用者保険の被保険者本人については、労働安全衛生法に基づく事業者の健診等又は医療保険者による保健事業が提供されているが、今後は、健診だけでなく、特にこれまで必ずしも十分には行われてこなかった保健指導について、より積極的な取組が必要である。
被用者保険の被扶養者及び自営業者等については、これまで主に老人保健事業の実施主体である市町村が健診等の実施の役割を担ってきたが、医療保険者にも被扶養者及び被保険者に対する健康診査等の保健事業の実施の努力義務が法律上課されている。一方、老人保健法には他法優先の規定があるため、医療保険者が被扶養者等に対し保健事業を実施する場合には、老人保健法に基づく市町村による健診等は行わないこととなるため、両者の責任・役割分担が不明確となり、未受診者の把握や受診勧奨の徹底が必ずしも十分には行われてこなかった。
今後は、未受診者の把握、保健指導の徹底、医療費適正化効果まで含めたデータの分析・評価といった観点から、医療保険者による保健事業の取組強化を図っていくことが必要である。医療保険者による保健事業の取組強化の内容やそれを踏まえた老人保健事業の見直しについては、健診の対象年齢の拡大の検討とも併せて、更に検討を進めるべきである。

 (3)  健康づくりに関する都道府県の総合調整機能の強化と都道府県健康増進計画の内容充実
都道府県は、都道府県健康増進計画の策定を通じ、総合的な健康づくり施策の企画立案を行うことが求められる。
また、医療保険者と市町村等の役割分担を明確にした上で、連携を一層促進していくためには、これらの関係者間の総合調整を図る者の役割が重要であり、特に職域(事業者等の労働安全衛生関係者や健康保険組合等の医療保険者等)との調整を考えれば、市町村がこれらの主体とそれぞれ調整することは困難であり、この役割を担うのは都道府県が最も適当である。
医療保険者間の連携については、現在、各都道府県で保険者協議会の設置が進められており、本年8月31日現在、既に35道府県において設置されている。
こうした保険者協議会における医療保険者間の連携を踏まえ、さらに地域保健(市町村)や事業者等も含めた地域・職域の連携を推進する観点から、各都道府県において地域・職域連携推進協議会の設置が進められており、国としても、17年度から2か年で全国に設置されるよう支援していくこととなっている。
今後は、都道府県が中心となって、これらの協議組織を活用し、医療保険者、市町村等の関係者が協議した上で、共通の目標の下、それぞれの実施主体の事業内容や事業量を明確化するとともに、具体的な連携事業を推進していくことが必要である。
このため、健康増進法に基づく都道府県健康増進計画の内容を充実し、
(1) 「健康日本21」の代表目標項目のほか、メタボリックシンドロームの概念に対応した目標項目について、地域の実情を踏まえ、職域を含めた具体的な数値目標の設定
(2) 医療保険者、市町村等の関係者の具体的役割分担と連携促進のための都道府県の総合調整機能の強化
(3) 各主体の取組の進捗状況や目標の達成度の評価の徹底
といった観点から、関係者が一体となった取組を進めていくことが必要である。(詳細については、別添4参照)
都道府県におけるこうした取組を支援する観点から、国は、都道府県健康増進計画改定ガイドラインを策定するほか、各地域の実情に応じた具体的な目標値設定のための現状把握や評価に資するよう、都道府県健康・栄養調査マニュアルを提示することが期待される。
今後、計画改定ガイドラインの策定等に当たっては、実績としての都道府県間の地域格差をどう評価するかについて更に検討するとともに、医療計画や介護保険事業支援計画との連携を図る観点から、計画に位置付ける目標・指標の具体的項目について検討を進めるべきである。
以上のような、都道府県の総合調整機能の強化と都道府県健康増進計画の内容充実については、直ちにすべての都道府県に実施を求めるのは困難であることから、まずは、幾つかの都道府県において、メタボリックシンドロームの概念に基づく健診・保健指導の導入と併せて見直しに着手し、それらの評価を踏まえて、全国的な展開を進めていくことが望ましい。
都道府県の総合調整の下で策定された都道府県健康増進計画に基づき、医療保険者、市町村、事業者等の各健康増進事業実施者はそれぞれの実施計画を策定し、計画的な事業展開を行っていくことが望まれるが、市町村については、こうした実施計画が市町村健康増進計画として位置付けられることになると考えられる。しかし、基礎となる統計データの把握や特有の健康課題の抽出を市町村が単独で行うことが困難な場合があることから、都道府県又は保健所は、こうした市町村に対し、専門的かつ技術的な支援をより積極的に実施することが求められる。

 (4)  保健指導のアウトソーシング
 今後、生活習慣病の予備群を中心にきめ細かく個別のニーズに対応していくためには、保健事業に係る市町村、医療保険者等の内部の実施体制のみでは十分に対応できないことが想定され、民間事業者は、医療機関等との連携により積極的なサービス展開を行うことが求められる。
 良質な保健サービスを提供できる民間事業者を育成していく際には、医師、保健師、管理栄養士や運動指導の専門家等のマンパワーや、提供されるサービスの内容等について、一定の基準を設けることが必要であり、国として、医療保険者等が保健指導を民間事業者にアウトソーシングする際に考慮すべき基準を示したガイドライン等を策定し、提示することが必要である。

 (5)  保健サービスのアウトカム評価の実施
 保健サービスの質を評価する上で、その効果を見るためには単年度の結果では判断できず、継続的なデータの蓄積とその分析が必要になる。例えば、現在、国保ヘルスアップモデル事業などにおいて、3年程度の事業実績の効果を評価する取組が進められつつあるが、現在各都道府県単位で設置が進められている保険者協議会における医療費の分析評価などの実施状況も踏まえつつ、保健サービスのアウトカム評価の在り方について更に検討を進めるべきである。

 (6)  市町村の保健師、管理栄養士等の役割
 市町村の保健師、管理栄養士等については、介護予防、児童虐待などの他の業務との関係などを踏まえつつ、今後、健康づくり施策における企画・調整・評価等の業務に重点を置いていく方向で体制強化を図ることが必要であり、ポピュレーションアプローチ、ハイリスクアプローチそれぞれにおける市町村の保健師等の役割について検討していくことが必要である。

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