今後の生活習慣病対策の基本的な方向性
 〜 国民の健康づくりに対する意識の高まりを具体的な行動変容に結びつけるために〜

I  「予防」の重要性・効果の再認識
  〜 メタボリックシンドロームの概念を導入した対策の推進〜

 ○  「健康日本21」では、一次予防を重視した取組を推進してきたが、健康に関心のある人が自主的に行う健康づくりの支援にとどまらず、健康に関心のない人や、生活習慣病の「予備群」でありながら自覚していない人に対し、「予防」の重要性や生涯にわたる個人の健康や生活の質(QOL)の向上に資する効果を認識してもらうため、社会全体として支える環境整備が必要である。

 ○  平成17年4月に、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本肥満学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会の8学会合同で疾患概念と診断基準を示した「メタボリックシンドローム」は、内臓脂肪型肥満を共通の要因とした高血糖、脂質異常、高血圧を呈する病態であり、それぞれが重複した場合は、虚血性心疾患、脳血管疾患等の発症リスクが大きく、内臓脂肪を減少することでそれらの発症リスクの低減が図られるという考え方を基本としている。

 ○  実際に肥満者の多くが、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの複数の危険因子を併せ持っていること、危険因子が重なるほど心疾患、脳血管疾患を発症する危険が増大すること、運動習慣の徹底と食生活の改善を中心とした生活習慣の改善により内臓脂肪を減少させることで高血糖、高血圧、高脂血といった危険因子のすべてが改善することといった科学的根拠を踏まえれば、今後、メタボリックシンドロームの考え方を取り入れた生活習慣病対策を推進し、国民や関係者の「予防」の重要性に対する理解の促進を図っていくことが有効と考えられる。
 なお、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの中には、メタボリックシンドロームに整理されないものも含まれることに十分留意が必要であり、メタボリックシンドロームの予防のみを進めればいいということではなく、それぞれの病態に応じた対策も当然必要となる。

 ○  こうした観点から、メタボリックシンドロームの概念や生活習慣病予防の基本的な考え方等を国民に広く普及するポピュレーションアプローチを積極的に推進していく必要がある。

 ○  また、従来、二次予防は「健診による早期発見と早期治療」と定義されることが多いが、健診は「疾病」の発見だけでなく、「リスク」の発見のツールであることも再認識し、メタボリックシンドロームとしての生活習慣病には至っていない「予備群」を健診で早期に発見し、治療が必要となる状態に至る前に、保健指導を徹底し、生活習慣の改善を促すハイリスクアプローチをこれまで以上に充実強化させていく必要がある。

 ○  さらに、生活習慣病の予防は、個人の健康度の改善や生活の質(QOL)の向上にとどまらず、国民の健康寿命の延伸や、さらに、特に若年期からの予防の徹底が医療費の適正化にもつながっていくことを、社会全体として積極的に評価していくべきである。

II  科学的根拠の不断の集積
  〜 エビデンスに基づく施策展開と事業の実績評価の推進〜

 ○  最新の科学的知見を実際の健康づくり施策や保健事業に反映させていくため、国の役割として、生活習慣病に関する研究や調査の成果を専門家の力を借りてできる限り速やかに整理して、食事摂取基準や運動所要量といった形で提示し、それに基づく具体的施策を展開できるようにしていくとともに、新しい科学的知見を不断に集積し、必要に応じ適宜見直しを行っていくことが必要である。
 生活習慣病に関する研究については、平成17年度から5か年計画で開始した糖尿病に関する大規模戦略研究や、平成17年度から実施している疾病予防に関する研究等の成果を速やかに整理し、施策に活用していくことが重要である。

 ○  生活習慣病対策の企画立案、評価等の基礎となる国民健康・栄養調査その他の統計調査については、(1)現状の把握、(2)目標値の設定、(3)事業の実績評価といった、効果的な施策を展開する上で重要である。こうした国における取組だけでなく、各都道府県においても、地域の健康課題を抽出した上で、都道府県健康増進計画に具体的目標を示し、地域全体の生活習慣病対策の進捗状況を定期的に評価していくためには、都道府県単位で実施されている健康・栄養調査等を充実させ、地域の状況を的確に把握・評価する体制を整備していくことが必要である。

III  生活習慣改善の効果的なプログラムの開発と普及
  〜 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの相乗効果〜

 ○  生活習慣病の「予備群」の発症予防を徹底するためには、健康に関心のない人や予備群でありながら自覚していない人も含め、広く対象とするポピュレーションアプローチと、生活習慣病の「予備群」が治療を必要とする状態に陥る前に早期に発見し生活習慣の改善を促すハイリスクアプローチを適切に組み合せて対策を推進していくことが必要であり、これにより相乗効果が発揮できる。

 ○  ハイリスクアプローチでは、健診は「疾病」の発見にとどまらず予備群の「リスク」を早期に発見するためのツールであることと、健診後の保健指導に確実につなげ、生活習慣の改善を実現するかが重要であることを再認識し、保健指導を中心に据えた一体的なサービスとして捉え直すことが必要である。特に、安易に投薬や治療に頼り、生活習慣が改善されず、不健全な生活習慣が維持されれば根本的な解決にはならないことを、広く国民に理解してもらうことが必要である。

 ○  また、生活習慣の改善については、「節食や楽しくない運動」といったつらいことというイメージではなく、「バランスの良い楽しい食事や日常生活の中での適度な運動」といった良い生活習慣は気持ちがいいという快適さや達成感をいかに実感してもらうかが重要である。また、生活習慣を改善したいと思った者が無理なく、身近で、継続して取り組むことができる環境整備として、例えば、インターネット等のITの活用などによる職域等での身近な支援方策、地域における住民の主体的な取組の支援手法などを含めた各種のプログラムを確立し普及を図っていくべきである。
なお、インターネット等による情報提供については、信頼性の乏しい情報が氾濫しないよう、正しい情報がわかりやすく提供される環境整備が必要である。

IV  個人の取組を社会全体で支えるための責任・役割の明確化
  〜 都道府県の役割強化と産業界も含めた関係者との連携促進〜

 ○  個人の健康の実現のための一人一人の主体的な取組を社会全体で支援していくためには、多様な関係者の連携が重要であることはこれまでも指摘されてきたが、現実には必ずしも十分に連携が図られているとは言い難い。具体的に連携を進めていくためには、まず、関係者それぞれの責任・役割分担を明確にした上で、役割分担に基づいた具体的な施策ごとの連携方策を検討していかなければ、責任を譲り合う、又はそれぞれができる部分のみ対応するといった体制に陥ってしまうおそれがある。

 ○  特に、ハイリスクアプローチについては、健診や保健指導を老人保健法、医療保険各法、労働安全衛生法などそれぞれの法律に基づき、市町村、医療保険者、事業者等がそれぞれ実施していることから、各実施主体の責任と役割分担を明確にすることが必要である。
 また、今後は、未受診者の把握、保健指導の徹底、医療費適正化効果まで含めたデータの分析・評価といった観点から、医療保険者による保健事業の取組強化を図っていくことが必要である。
 さらに、こうした多数の関係者間の役割分担と連携を進めていくためには、各関係者の協議の場を設け、総合調整を行う主体としての都道府県の役割が重要であり、都道府県の生活習慣病対策における役割強化が必要である。

 ○  また、今後需要の増大が見込まれる保健指導の質と量双方の確保のためには、個々人のニーズに対応した専門的な保健指導を担える質の高い人材の確保、身近で効果的な保健指導を受けられる「場」の整備、そして、楽しみながら継続できるプログラムの開発が不可欠である。

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