今後の生活習慣病対策の推進について
(中間とりまとめ)

平成17年9月15日

厚生科学審議会
地域保健健康増進栄養部会

 はじめに

 我が国の平均寿命は、戦後、公衆衛生の改善や医学の進歩により急速に延伸し、今や我が国は世界有数の長寿国となり、健康寿命についても世界保健機関(WHO)の算出では世界一となっている。

 しかし、急速な人口高齢化の進展に伴い、疾病構造も変化し、疾病全体に占めるがん、虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病等の生活習慣病の割合は増加し、死亡原因でも生活習慣病が約6割(がん31.0%、虚血性心疾患15.5%、脳血管疾患13.3%、糖尿病1.3%、高血圧性疾患0.6%)を占め、医療費に占める生活習慣病の割合も平成14年度で9.8兆円(内訳は、高血圧性疾患2.7兆円、がん2.5兆円、脳血管疾患2.0兆円、糖尿病(合併症を含む)1.8兆円、虚血性心疾患0.8兆円)、国民医療費の約3割となっており、医療保険に係る国民の負担も増加している。また、生活習慣病の重症化等の結果として、介護保険財政にも影響を与えることになっている。

 生活習慣病の中でも、特に、心疾患、脳血管疾患等の発症の重要な危険因子である糖尿病、高血圧症、高脂血症等の有病者やその予備群が増加しており、例えば、平成14年で糖尿病と強く疑われる人は740万人、糖尿病の可能性を否定できない人を合わせると1,620万人に上り、5年間で約2割の増加となっている。

 本格的な健康づくり対策は、昭和53年からの第一次国民健康づくり対策、昭和63年からの第二次国民健康づくり対策を経て、平成12年に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が策定され、現在、その進捗状況等について中間評価の作業を進めているところである。

 この間、平成8年12月には、公衆衛生審議会の「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)」において、それまでの加齢に着目した疾患群を指す「成人病」とは異なる概念として、生活習慣に着目した「生活習慣病」という概念を導入することとし、「生活習慣病」という観点から疾病を横断的に整理し、社会全体として「生活習慣病」を予防するための環境整備等の取組の必要性が指摘されている。

 その後、平成14年には、「健康日本21」を中心とする国民の健康づくり・疾病予防を更に積極的に推進するための法的基盤として健康増進法が制定された。

 さらに、平成16年5月、与党幹事長・政調会長会議において、「健康フロンティア戦略」がとりまとめられ、政府としても、これを受け、健康寿命の2年程度の延伸を目指し、(1)「働き盛りの健康安心プラン」、(2)「女性のがん緊急対策」、(3)「介護予防10カ年戦略」、(4)「健康寿命を伸ばす科学技術の振興」を政策の柱に、平成17年度から10年間、重点的に政策を展開することとなっている。

 こうした状況の中で、昨年10月以降、本部会では、「健康日本21」の中間評価の作業を進めるとともに、これまでの生活習慣病対策(一次予防、二次予防、推進体制)の現状と課題及び今後の方向性について、計11回の審議を行ってきたところである。本年7月の部会での議論の整理を踏まえ、これまでの生活習慣病対策の問題点と課題を明らかにした上で、今後の生活習慣病対策の方向性として、
健康づくりの国民運動化(ポピュレーションアプローチ)
網羅的・体系的な保健サービスの推進(ハイリスクアプローチ)
医療保険者と都道府県の取組強化(生活習慣病対策の推進体制)
等について、このたび中間とりまとめを行うこととした。
 今後、「健康日本21」の中間評価作業の更なる進捗状況や、医療制度改革その他の関連する制度改正の動向を踏まえ、医療、介護といった社会保障全体の枠組みの中での生活習慣病対策の在り方について、さらに具体的な対応を検討していく必要がある。

(関連する制度改正の動向)

 介護保険制度改革と老人保健事業の見直し
介護保険法の基本理念である「自立支援」をより徹底する観点から、新予防給付の創設や地域支援事業の創設等による予防重視型システムへの転換等を柱とする介護保険法の一部改正法が本年6月に成立し、基本的に平成18年度からの施行となっている。
また、平成16年10月には、老人保健事業の見直しに関する検討会の中間報告がとりまとめられ、「健康な65歳」から「活動的な85歳」を新たな目標とすることなどが提案され、「国においては、関連する制度等の改正も含め、本事業の見直しを全省的な取組として進めることを期待する」こと、「特に、介護予防対策については、介護保険制度の見直しに関する進捗状況を踏まえ、本事業の見直しの方向性と整合性を図りながら、具体的な方策について検討を行うべきである」こととされている。

 三位一体の改革
三位一体の改革の議論を踏まえ、市町村国民健康保険財政の安定化における都道府県の役割・権限の強化を図るため、平成17年度から、国民健康保険に係る都道府県への財政調整権限の移譲と給付費に対する都道府県負担の導入を行うこととされた。
また、市町村が実施する老人保健事業の負担金については、一般財源化の提案が地方6団体から提出されている。

 医療制度改革
医療制度改革の検討の中で、より若年期からの生活習慣病対策の充実強化が重要課題の一つとされており、国民の生活の質(QOL)の向上を通じた医療費適正化方策として、医療機関の機能の分化・連携による平均在院日数の減少や在宅における医療サービスの充実といった対策に加え、中長期的な観点から、保健事業の積極的な取組等による生活習慣病対策の充実強化について検討が必要である。
医療提供体制については、社会保障審議会医療部会において、医療計画の見直し等を含む中間まとめが、本年8月1日にとりまとめられた。

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