第6回 |
資料2 |
第1条(目的) この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 |
○ | 「賃金の低廉な労働者」 賃金が労働者の一般的賃金水準よりは相当低位にある労働者である。最低賃金は、このような労働者について賃金の最低額を保障することによって、その低廉な賃金を上昇せしめ、労働条件を改善するものでなければならない。したがって、一般賃金水準にある労働者を対象として高水準のものを最低賃金として決定することは、原則として本法の趣旨とするところではない。 |
○ | 「事業若しくは職業の種類又は地域に応じ」 業種別、職種別、地域別にそれぞれの実情に即した最低賃金を決定することである。この場合、業種別、職種別、地域別のそれぞれの組合せによって最低賃金が決定されることがありうる。わが国で現在決定されている最低賃金は、各都道府県別に決定される地域別最低賃金(各都道府県内の本法の適用労働者すべてを対象とする。)及び業種(産業)別に決定される産業別最低賃金(そのほとんどは業種(産業)別かつ地域別に決定される。)であり、今まで職種別に最低賃金が決定されたことはない(なお、ほとんどの産業別最低賃金は、昭和61年の中央最低賃金審議会答申に基づき一定の業務を適用除外としている。)。 |
○ | 「労働条件の改善」 労働基準法では労働条件の向上といっているが、向上とは現状より上回るということであって、現状が既に高水準の場合でも現状より更に上回れば向上である。改善とは現状が悪いことを前提としている。賃金の低廉な労働者の賃金の上昇を図るということはまさに改善であって向上よりも適切な表現である。 |
○ | 「労働力の質的向上」 最低賃金制の実施は、下記の理由によって、「労働力の質的向上」、すなわち労働能力のすぐれた労働者を確保することに役立つものと考えられる。
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○ | 「事業の公正な競争の確保」 最低賃金制の実施は、「事業の公正な競争の確保」、すなわち、賃金の不当な切下げ又は製品の買叩き等を防止することによって、事業間の過当競争を排除することができ、また、最低賃金制の実施による企業の合理化は事業間の公正競争を促進するものと考えられる。 |
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○ | 第26号条約の目的 労働組合の組織がないか、又は、十分でなく、かつ、賃金が例外的に低い産業の分野における労働者が適当な賃金水準を維持しうるようにすることを目的として採択されたものである。 |
○ | 「労働協約その他の方法により賃金を有効に規制する制度」
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○ | 「産業の部分」
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○ | 第1条第1項の趣旨 各加盟国は、雇用条件に照らして同制度の適用対象とすることが適当である賃金労働者のすべての集団について適用する最低賃金制度を設けなければならないことを規定している。 |
○ | 「雇用条件に照らし対象とすることが適当である」
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○ | 「賃金労働者の集団」 本条約では、最低賃金制度の適用対象を、若干の特定部門に限らず、雇用条件に照らして適当であれば、産業、職業の別を問わずすべての賃金労働者に及ぼすことを求めているものである。 しかしながら、このような全般的適用の原則は、一律の最低賃金額を適用するように、賃金労働者のすべてを包括して一体的に対象とすることを要求するものではなく、むしろ、賃金労働者の一定の集団を単位とし、部門ごとに最低賃金を決定し適用していくことを趣旨として、規定されているものと考えられる。したがって、本項にいう「集団」とは、最低賃金制度において、具体的に最低賃金を決定し、適用する際のなんらかの意味での賃金労働者の単位をいうものと解される。(なお、その単位としてどのような集団をとらえるかは、加盟国の自由に委ねられているものと解される。) |
3 | ILO事務局ジェラルド・スタール「世界の最低賃金制度」(「Minimum wage fixing」,1981)(労働省賃金時間部訳)による整理 |
第2章 産業別の最低賃金決定の役割と適用範囲 単純化しすぎる危険をあえておかせば、4つの基本的な役割のみが明らかになる。 最も限定的な考え方は、最低賃金を労働市場における特に弱い地位にあると考えられるごく少数の低賃金労働者にのみ保護を与えるために利用するものである。 もう1つの考え方は、「公正な」賃金とでもいうべきものの支払いを保障するために最低賃金を利用するというものである。この考え方も特定の労働者の集団に異なる最低賃金を決定することになるが、保護の対象として選ばれる集団は必ずしも低賃金層に限られるものではない。 次に、最低賃金を賃金体系の底辺として利用するという議論がある。この構想では、最低賃金決定は、すべてのあるいはほとんどの労働者に、不当に低い賃金から保護する安全網を提供することによって、貧困の減少に適度に寄与する手段として考えられている。 最後の考え方は、ここで説明する最低賃金が果たすべき役割の中で最も包括的なものであり、経済の安定と成長と所得分配の改善といった国家的な目的を達成するためのマクロ経済政策の手段として、最低賃金を用いようとするものである。 本章で取り扱う第1と第2の役割は、産業別最低賃金制と密接な関連がある。次章では、通常、広い適用範囲をもつ一般最低賃金制度と関連のある第3と第4の役割について述べることとする。 最低賃金の目的の多様性と複雑さのゆえに、開発途上国の実例は、必ずしも4つの「典型的な」役割と一致するわけではない。個々の国において、見せかけだけの同様な最低賃金制度が独自の方式で発展していることによっても分類に2つ以上の目的が追求されている場合もある。それにもかかわらず、4つの役割のみをみることによって、最低賃金決定への様々なアプローチの本質的な違いに焦点をあて、様々な国における実例を考える上での扱いやすい枠組みを設定することができる。 |
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○ | 弱い立場にある集団の保護 特徴と含意 この役割は最低賃金決定が政府の政策の非常に裁量の幅の広い手段であるべきであり、その労働者集団の特殊な性格のために労働市場において交渉上弱い立場にあるものにその適用範囲を限定するべきであるという仮定に基づいている。既に述べたように、弱者の概念はいくつかの国々では、元来かなり広い範疇の労働者、すなわち、家内労働者、若年者、女性や土着の労働者といった労働者と関連していた。しかしながら、今日では、これは個々の産業で一般的な状況に最もよく関連している。 最低賃金の保護が必要な産業を決定するに当たってどのような要素を考慮すべきかということは、通常法律の条文や運用上の慣行によって正確に規定されていない。しかし一般的には、有効な団体交渉能力の欠如と低賃金の双方によって特徴づけられるものであるべきであると考えられている。 「苦汗」の排除とよく表現されるものを目標とした、当初の1909年の連合王国の産業委員会法の下では、最低賃金は「他の雇用に比べ支配的な賃金率が例外的に低い産業」に設定することとされていた。1918年の連合王国の賃金審議会法はいくらか幅広い定義で言い表している。最低賃金の決定は労働大臣が「その産業において有効な賃金規制の適当な機構が存在せず、したがってその産業における一般的な賃金率を考慮すると・・・この法律を適用することが好都合である」という見解をもっている場合に機能することになっていた。 これに関する法制は何回か修正されたが、この公式は適用範囲の決定に関して基本的には今日も適用される。連合王国の1918年の法制で用いられたものと同様な言葉は、かつてイギリスの法的アプローチや慣行の影響を受けたいくつかの国の法律にみられるが、公式はより弾力的になっている。いくつかの場合には、法制は低賃金については触れず、最低賃金決定の必要条件として有効な機構の欠如のみを取り上げている。他の場合では当局は単に好都合と考えられる部分に最低賃金を決定することが認められている。 弱者の概念が賃金規制の有効な機構の欠如とほとんど同一視されている場合には、最低賃金のこの役割は、団体交渉をある程度模倣した賃金規制の代替的な集団的手続を設定することによって果たされている。したがって、最低賃金は三者構成ではあるが、しばしば関係する産業の労働者と使用者の代表の合意による決定に到達する主たる責任を負わせるように機能するような、分権化された委員会や審議会によって決定される。団体交渉と同様、労使がこの目的のために考慮すべき正確な基準を規定しようとする試みはなされない。さらに複数の最低率が決定されることもまれではなく、労働協約においてみられるものと同様に、職業の最低率の構造全体が設定される。最低賃金の決定に加え、休日や労働時間のような他の労働条件を規制するために産業レベルの機構が用いられうる。このようにして規制される賃金以外の雇用条件は、ほとんど団体交渉においてみられるような複雑で包括的なものである場合もある。 団体交渉に類似した最低賃金決定の手続を設定する理由の1つは、このような手続が、その産業内においても、また、一般社会においても受け入られうる結論が得られることを保障する最良の手段であるという信念である。もう1つの理由は、団体交渉の自発的な発展を奨励するために、個々の産業における労働者と使用者の代表の地位を強化し、労働条件等の共同の規制の経験をさせることである。しかし、最低賃金決定の過程が団体交渉に類似するように作られているとはいえ、これはできるだけ早急になくなるべき「次善の」選択肢であることが普通は明確に暗示されている。1918年の連合王国の賃金審議会法が通過した時、労働大臣は、最低賃金審議会は「やがて労働者も使用者も法的な規制を必要としなくなることを促進するための、産業内における便宜的な一時的組織」であると言った。この最低賃金決定の果たすべき役割の概念は、賃金の決定はできる限り労使の共同の決定によるべきであり、模範的な労使関係が十分に発達している分野においては、最低賃金決定がこれと重複すべきではないという考え方によるものであることは明らかである。より一般的には、賃金や他の労働条件の決定に対する政府の直接の関与は最小限でなければならないという仮定がある。したがって、法は普通は最低賃金の決定や廃止の申し出がなされた時には、関係産業の労使の代表に対する広範な協議を規定している。このような協議は第26号条約によっても要求されている。 容認しがたい経済的反響が起きる危険を冒すことなく、政府が規制を加えることによって低賃金労働者の相対的地位の向上を達成できるのは限られた範囲でしかないと考える者にとっては、最低賃金決定が果たすべき役割に関するこの概念はいくつかの魅力的な側面を持つ。まず、いくつかの労働者の層にのみ関心を集中することによって、最低賃金決定は真に保護を必要とすると思われるものにのみ限定されうることになり、個々の産業における支払能力と非常に調和のとれた率を定めうる。このように非常に裁量の幅の広いアプローチは、最低賃金が経済に重要な悪影響を与える危険を最小限にするとみられている。 あらかじめ定められた基準がないために、最低賃金を決定する責任を負う者は、全国的な賃金構造がどうあるべきかといった総合的な概念よりも、一般的な賃金の動向を参考にするので、賃金構造における明らかに異常な部分を修正したり、当該産業における賃金と他の賃金とのややよい調和を達成したりする以上のことはしないだろうと考えられている。 しかし、最低賃金決定の適用範囲をこのように限定することに対して、よく引用される議論がいくつかある。おそらく最も基本的なものは、このアプローチが貧困の削減に対して不必要に控えめになっているというものである。最も低い賃金しか支払われていない労働者の賃金は、他のアプローチによっても、経済的悪影響を及ぼすことなく、このアプローチによって達成されるであろうものより多く引き上げることができると論議されている。これと関連して、この役割では、政府が最も低い賃金しか支払われていない労働者の地位の改善を図るため総合的な努力を行う余地がないという議論がある。自発的な団体交渉の発達の促進に対する効果にも疑問がある。個々の産業における集団的手続によって、他の労働条件だけでなく、詳細な職業別の最低賃金率を設定することにより、未組織労働者が労働組合に加入し、自発的な機構を設定することを支持するインセンティブが減少するために、団体交渉の成長を促進するのではなく、後退させると示唆されている。 また、厳格な行政上の観点からも、このアプローチでは、真に保護を必要とするすべての労働者が、最新の最低賃金の法的な適用を受けていることを保障することは容易ではない。平均的な賃金水準が十分高い産業における低賃金労働者や、例外的に小さい産業における労働者の懐にまで適用を拡大することは明らかに期待できない。さらに、この考え方は、多くの賃金決定機構の創設とその継続的な運用を前提としているために、多くの開発途上国のように、労働協約によって保護されている労働者数が少なく、容認しがたい低賃金を支払われている労働者数が非常に多い場合には、十分な適用範囲を保ち、時宜を得た改正を行うことが困難になる。 |
○ | 「公正な」賃金の決定 特徴と意義 この役割は、個々の産業や職業の最低賃金を決定することを意味するという点で前の役割と類似している。しかし、特徴的なのは賃金規制の適用範囲についてのより広い概念を持っていることである。適用範囲は少数の低賃金で未組織の労働者に限定される必要はなく、比較的高い賃金の労働者を含むすべての労働者にまで及ぶ可能性がある。この役割の考え方の背後には、ある種の、というよりむしろほとんどの産業においては、賃金水準設定のための集団的な手続により決定する方が、賃金決定が規制されない労働市場の圧力や個々の企業の決定に委ねられるよりも、より受け入れやすい賃金水準や構造を作る可能性が高いという信念がある。同一労働同一賃金の原則の適用を促進し、労使紛争の対象を削減するために個々の産業や職業における「共通の規則」を作ることに相当な重要性がある。また、生産者は価格、デザイン、製品やサービスの品質に関しては自由競争を行うべきであるが、労働者の賃金を下げることによって競争を行うのは不公平であるという理由で、賃金を過度の競争の圧力から切り離したいという希望もある。つまり最低賃金は、集団的な意思決定手続によって給料に関する共通の規則とその規則を不公正な競争の圧力から切り離す法的保護を与えることによって賃金構造と労使関係を改善する手段であると考えられている。最も低い賃金しか支払われていない労働者の相対的地位を改善することによって貧困を削減するということではなく、ある産業または職業における特定の状況のもとでの「公正な」賃金と判断されるものを決定することが強調されている。 最低賃金決定のこの役割は、労働者の適用範囲のパターンと関連する。団体交渉が存在しないか、十分に発達していない国では、最低賃金決定は、多くの労働者に適用できる賃金決定の代替的な集団的手続であると考えられる場合がある。しかし、他の国々では「公正な」賃金の決定を保障することを目的とする最低賃金決定がはるかに裁量に委ねられて行われている。保護されるべき産業や職業は通常法律の条文では特定されていず、政府当局の幅広い裁量が認められている。それにもかかわらず労使関係に関する考慮がしばしば決定的であるということは明らかである。いくらかの労働者が労働組合に組織されているが、労働協約を締結するには弱すぎる産業や締結された協約が破られないことを保障するために法の適用が要求される産業がこのような保護のために選ばれるものの中で目立っている。これらのケースでは、最低賃金が労使紛争を減らし、安定した団体交渉関係の発展を促進させることを目的としているために、賃金構造の修正のためにあらかじめ設定された目的を達成するための手段というよりはむしろ必然的に労使関係政策の手段として理解されてしまう。時には産業の構造が労働者を組織するのが難しくなっているようなもの(例:卸・小売業)や賃金規制がないと参入の容易さと柔軟な価格決定によって形成される製品市場の競争的な状況が賃金に容認しがたい引き下げの圧力を加える恐れのあるもの(例:建設業)にも特に注意が払われる。適用範囲に影響を与えるもう1つの重要な要因は履行確保の可能性である。様々な保護規定の対象は、強制の手続が合理的、効果的に適用しうる範囲であるべきで、そうでなければ法の軽視をもたらすという議論が時々行われる。この関係で、個々の産業における賃金の相対的地位が時には考慮され、賃金が適当かどうかはその水準だけでなく当該産業の状況との関係によっても判断される。 弱者グループの保護のための最低賃金決定の場合と同様公正な賃金の概念は、個々の産業の基本的な単一の率を決めるだけではなく、一定の幅の職業別最低限を含むことが多い。しかし、同一労働同一賃金を保障し、一般的な賃金率に近い最低限を定めることにより多くの関心があるので、使用される職業別の構造は通常より詳細で精巧である。正式な仕事の評価と分類体系を用いて発展してきたケースもある。 このアプローチが基本としている平等や公正の概念が個々の産業によって特有である国もある。このような場合には、最低賃金決定の手続は、それぞれの適用される産業の特定の労働市場と経済条件を考慮し、直接影響を受ける者に大きな発言力を与えることが普通である。一連の独立した産業レベルで決定される賃金は、幅広い国の経済的、社会的目的と矛盾しないと仮定されている。 他の国々では、平等で、かつ、経済的に実行可能な全国的賃金構造の発展に大きな関心がある。これは、高度に集権化された最低賃金決定機構を必要とするとされている。それでも、その手続の中で、影響を受ける個々の産業や職業の代表者に意見を述べる機会を与えようとしていることが多い。 一般最低賃金を決定することと比較すると、「公正な」賃金の決定は、個々の産業や職業の環境や可能性により適応させることができるという理由によって弁護されることがある。このことは、開発途上国、そこでは、典型的には賃金格差が大きいために、賃金の最下層の者の状況を考慮した最低限がより発展した分野や職業の労働者には少ししか関係しない国において特に重要な考慮を払うべきものとなる。この役割は、政府が最低賃金の保護の拡大のために緩やかで注意深い取り組み方をすることを可能にする。最低限は、経済的に重要な、あるいは問題点の最も少ない産業と職業に最初に設定されうる。適用範囲は、率を定める経験を積み、履行確保の現実性が許すにつれて拡大されうる。 裁量的に最低賃金を適用することによって「公正な」賃金の保障という役割が追求される場合には、政府には、様々な賃金構造や労使関係の問題に実際的に対応する柔軟な政策手段を持つことができるという少なからぬ利点がある。 このような柔軟性は、時には、賃金構造が非常に歪められており、多くの産業で労働者の組織が存在したとしても法的援助がなくては満足な労働協約を締結することができない程弱い開発途上国において望ましいものである。しかし、このような適用範囲の制限は必然的に批判にさらされる。 ある労働者の集団がなぜ法律によってその賃金が保護されるという特権を持ち、他の者はそうではないのかということを国民に納得させることは必ずしも容易ではない。適用範囲が最低賃金制度の明確に定義された目的と調和がとれているというよりも、実用主義的な基礎の上に発展している場合や、労使関係や履行確保上の配慮のために最低賃金決定が、賃金の高い労働者に限定されている場合には特にこのような問題がある。 もう1つのよく行われる批判は、個々の産業における共通の規則に法的支持を与えることは、競争的経済的制約の欠如によって、保障される賃金を不当に大幅に上昇させる結果をもたらすかもしれないというものである。このような事態が生じる危険は、最低賃金決定が独自に締結された労働協約の承認に限定されていたり、最低賃金決定機構の公益代表委員が国家の経済的、社会的目的に十分な注意を払わない場合には特に大きい。その結果、雇用機会が減少するだけでなく、関係する労働者が既に高額給与所得者である場合には、所得配分の悪化をもたらす。「公正な」賃金の決定は、産業内のより平等な賃金関係を作り出す(同一労働同一賃金の原則の一層の達成)かもしれないが、産業間の格差を拡大することもある。 これらの潜在的な問題点は、最低賃金決定の対象がほとんどの産業にまで拡大すれば緩和されるが、他の不利な点が現れる可能性がある。最も基本的なものは、このような普遍的な適用範囲は、賃金と労働条件の決定に対する政府の広範な介入とこの分野における労働者と使用者の決定の柔軟性と自由の減少を意味するということであろう。さらに、産業レベルでの最低賃金決定機構は、組織化の遅れた産業における労働者と使用者の代表の地位を強めるかもしれないが、それぞれの組織が一定の発展段階にいったん到達すると、法的な機構の存在は、援助ではなく障害であると感じられるようになるだろう。最低賃金決定へのこのアプローチは、時にはより純粋で、より受け入れやすい形態の団体交渉の発生を妨げる恐れがある。そこで、個々の産業や国の状況によって、最低賃金決定のこの形態に対する労働組合の態度は、強力な支持であったり、どちらとも決めかねたり、さらにははっきりとした反対であったりする。 最後に、広範な産業における「公正な」賃金の決定は、精巧な意思決定機構の存在と広範な政府の行政的支援を必要とする。多くの政府が、この作業のために必要な人的資源と財源を投入しようとする立場にあるかどうかは疑問である。さらに、この作業のために投入された資源にもかかわらず、より詳細な基礎の上に産業別、職業別の賃金を規制しようとする試みは、やがては賃金構造に深刻なゆがみを発生させることになるという議論もある。 第3章 一般最低賃金制の役割と範囲 産業別最低賃金制度に伴う難しさに鑑みて、多くの国が、ほとんどすべての、あるいは広い分野の労働者に一様に適用される一般最低賃金を導入する国が増えてきた。このような趨勢が、1970年の国際労働機関が総会において第131号条約と第135号勧告、これらは事実上すべての給与所得者に適用される一般最低賃金を念頭においている、が採択された1つの理由である。既に述べたように、一般最低賃金は産業別最低賃金を補うものとして導入されたケースもあれば、唯一の最低賃金の形態となっているケースもある。 |
○ | 賃金構造の底辺の設定 特徴と意義 この場合の基本的な目標は貧困の削減である。個々の産業や職業の状況に合わせて率を決めるのではなく、あらゆる産業に従事する労働者を容認しがたいと考えられる低賃金から守るために一般的に適用できるような最低限度が定められる。このような一般的に適用される最低率は、法律上は普遍的に適用されはするが、この率の支払を受ける労働者の数は比較的少ない。これは、最低率が一般的な賃金水準に大きな影響を与える水準ではなく、安全網としての保護となるような水準に設定されているためである。 この役割は、一般最低賃金は、職業の種類や個々の産業の経済的能力によって異なるわけではないことを意味するが、種々の地域や経済活動の広い分野(例えば農業、工業など)ごとに異なる場合もある。一定の労働者(例えば見習、若年者、障害者など)への適用を除外したり、彼らにより低い率を適用することによってさらに弾力的な運用がなされていることもある。 この役割は、最も賃金の低い労働者を労働市場の異常から守るためだけに限定された場合には、最低賃金は社会的・経済的目的の達成に積極的にのみ貢献するという信念に基づくものである。フィリピンヘのILOの雇用使節団は、この点を以下のように述べた。 最低賃金の水準が実際に平均的賃金に大きな影響を及ぼすようになる限りにおいて、これは不完全な労働市場における低賃金労働者の実質賃金を補完的に保護するという主たる、そして正当な機能から逸脱している。労働力は、たとえいわゆる未熟練労働力であっても、完全に競争的な市場において交換される均質な商品ではない。したがって、実際には、未熟練労働力といった1つの職業の種類における賃金は、相当な範囲に分布しているのが観察される。法的に最低賃金の規制を課すことの論理は、この分布の下限が基準を下回っているのはこの基準が効果的であると考えられる特定の労働力と特定の分野に関する市場の失敗と経済力の乱用の結果であるという前提に基づくものである。 この役割は、労働市場における重要な不完全さの存在は、賃金構造に底辺を設定することを正当化するにもかかわらず、この底辺をどの水準に設定できるかという点については、厳しい経済的束縛があるという考えを反映している。 現在の賃金構造や平均的な賃金の水準に大きな衝撃を与えるような水準に設定された場合には、失業率の上昇、経済成長の鈍化、インフレの嵩進といったかたちでの受け入れ難い経済的反動が起こるであろう。したがって、最低賃金の決定は、貧困の削減について、意義のある、しかも必要限度内の貢献をするとみなされているのである。少数の労働者にのみ直接関連する、効果の対象が狭く、しかも賃金構造の底辺に少しだけ上昇方向への圧力となるような賃金政策の手段であると考えられている。 開発途上国については、最低賃金が効果を及ぼす範囲をこのような形で制限することは、時には、雇用の創出と地方や都市の自営業者にしばしばみられるような、最低所得層の人々の地位の改善を最優先とする開発計画と基本的に調和しているという根拠によって支えられている。 底辺という考え方と結びついた限定的な効果のある範囲は、最低賃金は一般的な賃金の動向に先行するよりむしろこれに追随して改正されることを意味する。最低賃金は、消費者物価や貨幣賃金水準の動きと密接に運動して改正されるかもしれないが、これらの動きを制御する手段として、つまり総需要の維持やインフレ的傾向にある賃金動向の抑制などの短期的なマクロ経済の安定の目的を達成するために、最低賃金の決定を用いようという試みはなされないのである。この役割は、最低賃金の平均的賃金水準の動向に対する影響は限定的であるということを前提としているので、マクロ経済的安定の目的のために最低賃金を利用するということは除外されているのである。 一般最低賃金は中小企業における未熟練労働者や未組織労働者のさまざまな集団にのみ直接的に影響し、大多数の労働者の賃金は需給関係か団体交渉のようなより弾力的な賃金規制の手段によって決定されることになる。この底辺という考え方を支持する人々は、政府の介入をこのような形で制限することは、ほとんどの賃金水準を常に動いている経済情勢に反応しやすくしておくために不可欠であると考えている。さらに、最低賃金が、「安全網としての」保護を与えるのみであれば、労働協約によるより高い賃金の決定を妨げたり、労働者が労働組合を結成して、その他の手段によって自らの地位を向上させるため努力する意欲を失わせることはありそうもないと考えられる。したがって、この過程は、団体交渉と競合したり、これを代替するものではなく、明らかに補完的な賃金決定の方法として考えられている。 最低賃金の決定の役割に関するこの概念の魅力の1つは、すべての労働者は、容認しうる最低限の水準を下回らない賃金を受け取る権利があるという一般的に受け入れられた考え方と一致することである。さらに、すべての人が自分の賃金について同程度の法的保護を与えられることによって特定の労働者の集団を適用対象労働者として選んだり、ある産業について他の産業よりも高い賃金水準を法的に決定することを正当化する問題が生じない。 加えて、厳格な管理という面からも有利である。単一の、あるいは二、三の異なる率のみが法律によって定められているので、産業別や職業別に率が定められている場合よりも、労働者は自己の権利を、また、使用者はその義務を認識しやすくなる。したがって、履行確保は著しく簡単で、より効果的である。また、一般的に適用しやすい額を設定することによって、極めて小さな産業の労働者や賃金の高い部門の中の低賃金労働者など明らかに保護を必要とする人々の全員にまでその適用範囲を広げることが容易になる。おそらく、さらに重要な点は、この一般的に適用される最低賃金がいったん設定されると、それぞれ別個に定められるいくつかの産業別の最低賃金よりも規則的に最新のものに改正されやすいということである。 しかしながら、底辺としての最低賃金は、管理しやすい半面、設定するのは難しい。底辺として適切な水準を決定することは、個々の産業における賃金を決定するよりも複雑で、不確定要素が多い。ある産業に関する賃金率に関する情報は、ある地域や国全体の賃金率に関する情報よりも詳しく、完全であることが多い。さらに、個々の産業における労働市場と生産物市場の状況に関する補完的な情報によって最低賃金の様々な水準によって、賃金と雇用の現在の状況がどのような影響を受けるかということを評価するのが容易になる。このような評価を地域的あるいは全国的な水準で行うことは難しく、また、問題が多い。その結果、一般的な最低賃金をしばしば、非常に断片的な情報に基づいて、また、生じるであろう効果についてあいまいな状況のままにこれを決定せざるを得なくなる。 さらに、底辺として単一の最低賃金のみを設定する場合には、個々の産業における近代化や進歩の程度やその産業において雇用されている労働力の種類についてあるであろう重要な差異についての考慮がなされないという欠点もある。ある産業では合理的だと思われる最低賃金は、他の産業では全く不適切であるということもある。賃金の最下層の者の賃金が容認しうる水準に比べあまりにも低いために、政府は最低賃金の決定の基礎として彼らを公式には認めたがらないという開発途上国もある。最低賃金が最高賃金となる傾向があるために、一般最低賃金をあまり低く定めた場合に、賃金を抑制する結果となる恐れがある。労働協約は経済活動人口の小さな部分にしか適用されないために、最低賃金の決定を底辺を定めることに限定すると、多くの労働者にとっては資金の集団的な規制が全く否定されてしまうということもよく問題になる。また、一般最低賃金の設定は、必然的にこのような最低賃金を強制することが困難な労働者にも最低賃金による保護を及ぼすことになってしまう。 |
○ | マクロ経済政策の手段としての最低賃金 特徴と意義 この研究において取り扱う最低賃金決定の役割のうち最後のものであり、そして最も遠大なものは、マクロ経済政策の手段としての役割、つまり、賃金の一般的な水準と構造を国家の経済的安定、成長、所得分配といった目的と調和のとれたものに変えるという役割である。底辺としての概念と同様に、この役割は幅広い適用範囲を前提としている。しかし、それに加え、決定された最低率は実際に多くの労働者が受け取る賃金を相当程度決定するという前提がある。この結果は、一般最低限を比較的高い水準に設定することによっても、また、産業別、職業別の率の全体の構造を一般最低率に結び付けることによっても達成できる。 いずれの方法によるにせよ、最低賃金が実際に支払われる賃金に及ぼす直接的、間接的効果の双方を念頭に置くことが重要である。最低賃金の上昇が実際に支払われる賃金の上昇を法的に要求している場合には直接的な効果がある。しかし、最低賃金は、最低率を超える賃金に対しても間接的な効果を持ちうる。ある場合には、この間接的な効果は定式化された制度的取り決めによってもたらされる。最低賃金率に基づいて賃金を労働協約で特定することができるが、そのような場合には後者の改正によって多かれ少なかれ自動的に調整される。間接的な効果が単に伝統的な賃金関係を維持するための圧力によってもたらされるケースもありえる。労働協約を締結する当事者や賃金を一方的に決定する使用者は、最低賃金の改正の幅を指針として用いたり、少なくともいくらかはこれを考慮するであろう。最低賃金の実際に支払われる賃金に対する間接的な効果は、必ずしも容易に識別できず、また、労働市場の状況や賃金決定の制度的な仕組みによって大きく異なる。しかし、重要な直接的効果がある場合には常に、間接的な効果も同様に有意なものであることが多い。底辺としての概念とは対照的に、最低賃金がマクロ経済政策の手段として用いられた場合には、直接的効果と間接的効果を組み合わせれば平均的賃金全体に決定的ではないとしても、大きな影響を及ぼすという前提がある。最低賃金をマクロ経済政策の手段として用いるという考え方は、底辺としての概念とは労働市場の機能について多くの点で正反対の考え方をしていることを意味する。労働市場の圧力は、国の経済的、社会的な目的からみて望ましいと考えられる賃金から若干ではなく相当に離れた賃金をもたらすと考えられている。労働市場が規制されていない場合には、平均的な賃金が相当な生活水準を保つために必要であり、また、経済的にも可能であると考えられる水準より不必要に低い水準に保たれやすいと考えられている。さらに、賃金の動向は、インフレの抑制、高い雇用率、国際収支の均衡といった短期的な安定化という目的から望ましいと考えられるものから自然に離れる傾向があると考えられている。経済が停滞したり、インフレが加速している時期には、賃金の購買力は保護されていない場合には大きく下落してしまう恐れがある。このような下落は不公平であるばかりではなく、財やサービスに対する需要の水準を下げることによって雇用を危険にさらすとみられている。 底辺としての概念の場合とは異なり、最低賃金のこの役割においては最低賃金は、容認しがたいような大きな経済的コストを伴わずに多くの労働者に支払われる賃金に影響を与えるために用いることができると仮定されている。このように、深刻な失業やその社会における他の低所得層によって必然的に吸収されるべき、高賃金に伴う費用の増加を伴わずに、賃金の最も低い労働者の賃金だけでなく、一般的な賃金の水準を実質的に上昇させることができると信じられている。また、この場合には最低賃金は資源配分や賃金の動機付けの機能に大きな逆効果を及ぼすことなく、賃金の動向や構造に対する政府の制御を及ぼすために利用することができるとも信じられている。 最低賃金決定のこの役割の魅力は多数の独立した賃金決定と国の経済的、社会的優先順位との間の調和を保つための、はっきりと目に見える直接的な手段を政府に与える点である。しかし、このような野心的な計画のために最低賃金決定当局は、幅広い非常に複雑で不確定な問題を扱うことを要求される。経済の安定と所得の分配に対する対立する圧力を調和させる手段を見出さなければならない。さらに、最低賃金決定によって起こりうる幅広い経済的反響を考慮に入れなければならないが、この反響の大きさは通常、非常に不明確である。最低賃金の他の役割と異なり、責任を負う当局が信頼することができる簡明な指針や合意された出発点は存在しない。マクロ経済政策の手段として用いられる最低賃金の決定は、必然的に非常に不確かなものになると同時に誤りがもたらす結果は深刻なものとならざるを得ない。 最低賃金の決定が一般的な率を設定することに限定されていたときには、意思決定を困難にしている要因の1つは実際に支払われる賃金へ及ぼす最終的な影響がどのようなものであるかが不確実であったことである。最低限を超える賃金に対する間接的な効果の大きさを予測することが不可能であるため、この不確実性は必然的なものとなる。しかし賃金構造や動向に対してより広い制御を及ぼそうとする試みの一環として、産業別、職業別の最低率の総合的な組み合わせが導入された場合には、この制度の管理は非常に複雑で厄介なものになる。さらに、最低賃金規制の包括的で複雑な制度を集権的に管理することは、必然的に恐らく最も重要な労働条件であるものの決定について、労働者と使用者が効果的な発言をする機会に重要な制限を課すことを意味する。 さらに一般的には、この役割については最低賃金が賃金動向や構造に大きな影響を及ぼすと仮定されているために、これに関係する決定は、必然的に国の経済政策の最も重要な要素の1つとみなされる。したがって、これらの決定は普通、政府の最高機関によって行われるか最終的に承認を得ている。これらの決定において労働者と使用者の組織の代表者に参加の機会が与えられているとしても、決定に対する彼らの実際の影響力は制限される傾向がある。 |
4 | 「新たなる最低賃金制」(労働省労働基準局賃金時間部長五十畑明著、1996)による整理 最低賃金制度が発足して以来の流れのなかでみられた意義あるいは機能を整理すれば、以下のようにまとめられよう。 |
(1) | 低賃金の改善 最低賃金制度は、一定の水準に達しない賃金の存在を許さないものであるから、低賃金の改善に寄与することが第1の意義として挙げられる。 仮に「低賃金」の状態が労働市場のなかで放置されることになれば、労働者の生活面に直接の影饗を与えることはもとより、労働意欲の減退等を通じ、生産能率の減退のほか、さらには教育・訓練による能力の向上が阻害され、低賃金・非能率の悪循環がもたらされることになりかねない。最低賃金制度は、このような事態の防止という観点において顕著な効果をもつものである。すなわち、最低賃金制度による労働条件の改善が生活水準の向上に結びつくことにより、労働者が十分にその能力を発揮するとともにみずからの知識、技能を高めることができるようになり、したがって労働力の質的向上に資することになるものと考えられる。 |
(2) | 公正競争の確保 市場経済体制の下では、経済全体の効率化、経済厚生の増大を図る観点からいえば、企業間の競争は、不当な対価、他の企業の取引の不当な妨害などといった不当な取引方法を用いない公正な競争であるべきである。 特に、低賃金による低い製品価格を武器としての競争では、望ましい経済厚生の増大にはつながり得ない。しかし、賃金は企業経営上の費用のかなり大きな部分を占めるものであるから、実際の競争においては、一部の企業が何らかの事情で相対的に低い賃金を支払う場合には、他の多数の企業においても競争上賃金を切り下げざるを得ないことになり、本来のあるべき競争のメリットの発揮が妨げられることになる。最低賃金制度は、賃金の最低限を規制することにより、企業間の競争条件に一定の限界を設け、底なしの不公正な競争を防止できるものと期待される。 |
(3) | 労使関係の安定促進 さらに、最低賃金制度の意義には、労使関係の安定が挙げられる。前述のとおり、世界で最初に創設されたニュージーランドの最低賃金制度は、大規模な港湾ストライキを契機として、労働争議の解決策の1つとして強制仲裁方式により最低賃金を決定しようとするものであった。最低賃金制度は、このように労働争議の解決に役立ち得るばかりではなく、低賃金の改善が進められることによって社会的緊張や対立を回避し、労使間の紛争の発生を未然に防ぎ健全な労使関係の実現に資するものと考えられよう。 |
(4) | マクロ経済政策の手段 不況期に企業が賃下げを行えば、その賃下げの効果は全産業的に波及し、全般的な賃金所得の減少の結果、有効需要が減退する。さらに、これが生産の減少につながるという悪循環を発生させる可能性があるが、最低賃金制度が消費需要の下支えに寄与することにより、このような悪循環を断ち切ることにもつながると考えられる。 逆に言えば、最低賃金の決定や改正によって消費需要を喚起し、ひいては経済を活性化させること、すなわち最低賃金制度をマクロ経済政策の手段として用いることも可能であると考えられる。 しかしながら、最低賃金制度がマクロ経済政策の手段として有効に機能するためには、最低賃金の適用範囲が広く、賃金全体への影響度が相当程度大きいという条件が必要である。このため、現在では、先進国において最低賃金制度をマクロ経済政策の手段として用いている例はほとんどない一方、多くの途上国の最低賃金制度はこのような意義、機能を有している。 なお、最低賃金制度をマクロ経済政策の手段として用いる場合、最低賃金の決定によって起こり得る幅広い経済的影響を考慮しなければならないが、これは非常に困難である。このため、最低賃金の決定は非常に不確かなものになり、深刻な悪影響をもたらすこともあることに留意する必要があると考えられる。 |
5 | 金子美雄中央最低賃金審議会会長(当時)による中央最低賃金審議会における審議状況等の報告(昭和61年4月16日、全国最低賃金審議会会長会議)による整理 |