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(別紙3)

被保険者・受給者の範囲の拡大に
関する制度設計上の論点


「被保険者・受給者の範囲の拡大」に関する制度設計上の論点


本資料は、介護保険制度における「被保険者・受給者の範囲」を拡大する場合の制度設計上の主な論点を整理したものである。


図


I 給付に関する論点

1.被保険者・受給者の範囲
介護保険制度の対象となる者の年齢をどう考えるか。

 (1) 次のような「介護の普遍性」という観点を重視すれば、被保険者・受給者の範囲は0歳以上とすることが考えられるが、どうか。
 介護を必要とする人であれば、年齢や要介護状態となった原因によって給付の有無や内容に差異が生じないよう、「全国民の介護を全国民で支える普遍的な仕組み」を構築する。
 こうした仕組みを構築することにより、「老化に伴う介護ニーズ」に対応する現行の介護保険制度が「全国民の普遍的な介護ニーズ」に対応する制度へと進化する。

(参考)諸外国における介護保障制度

 [ドイツ、オランダ]
 ○ 社会保険方式による介護保障
 ○ 被保険者の範囲には、年齢や障害種別による区別なし

図

 [スウェーデン、イギリス]
 ○ 地方自治体が税財源により社会サービス一環として介護サービスを提供
 ○ 社会サービス(介護サービス含む)の対象は、年齢や障害種別による区別なし

図



 (2) 0歳にまで引き下げる方法としては、次の2案が考えられる。

(案1) 範囲拡大をする際に、当初から0歳以上とする。
(考え方)
 拡大当初から、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わず、全国民の介護ニーズを支える普遍的な制度を実現する。

(案2) 将来的には、0歳以上とするが、当面は、被保険者・受給者の対象年齢を、保険料を負担する者の範囲と一致させる。
(考え方)
 負担の激変緩和を図るため、保険料を負担する者の範囲を段階的に拡大することとし、それに合わせて、同じ年齢まで被保険者・受給者の範囲も段階的に引き下げる。
 保険料を負担する者の年齢が目標とする年齢にまで達するときに、被保険者・受給者の年齢を0歳以上にまで引き下げる。

[介護保険制度の普遍化のイメージ]
図



2.給付の内容
 介護保険から給付されるサービスの内容をどう考えるのか。特に、障害者制度との適用関係はどう考えるのか。

 ○この点については、次のように考えられる。

 (1)基本的な考え方
 介護保険制度と障害者制度の適用関係について、現行制度においては、
(1) 両者に共通するサービスについては、一般制度である介護保険制度を優先し、
(2) 介護保険制度にないサービス等については、障害者制度を適用する
という仕組みになっている。
 実際に、既に65歳以上の高齢障害者については、こうした「組み合わせ」の仕組みが適用されている。
 被保険者・受給者の対象年齢を引き下げる場合にも、若年障害者に対して、こうした組み合わせの仕組みを適用することが適当である。

 上記のような適用関係であることから、就労支援や社会参加など介護以外のニーズにも対応している障害者制度の全体を介護保険制度に「統合」するということにはならない。

[65歳以上における介護保険制度と障害者制度との関係]
図



(介護保険・優先適用のイメージ)

タイプI:
 障害者のサービス利用量や種類が介護保険制度の枠内に収まっている場合

図

タイプII:
 障害者のサービス利用量や種類が介護保険制度の枠内に収まらない場合

図



 (2)具体的な給付内容
 現行の介護保険制度と障害者制度の適用関係の具体的内容をみると、
 ホームヘルプサービスのうち身体介護及び家事援助は、共通するサービスとして、介護保険制度からの給付が優先される、
 障害者制度におけるデイサービス、施設サービス等には、「介護」に該当するサービスのほかに、授産活動や創作的活動など「介護」以外のサービスも混在しており、サービス内容に照らして「介護」以外のサービスとして利用が必要と認められる場合には、障害者制度からこれらのサービスを受けられる こととされている。

 今後、障害保健福祉行政においては、障害者サービスの機能再編・分化を行う予定であり、デイサービス、施設サービス等においても「介護」サービスに該当するものと「介護」サービス以外のサービスに該当するものに分化されていくことになる。

 上記を踏まえれば、被保険者・受給者の対象年齢を引き下げた場合の具体的な給付内容は、以下のとおり考えられる。
(案1) 施行当初から、現行の介護保険サービスに加えて、機能再編・分化後の障害者サービスのうち「介護」サービスに該当する部分も、給付対象とする。ただし、この場合には、数年の準備期間を必要とする。
(案2) 初期の段階においては、障害者サービスの機能再編が緒に就いたばかりであり、制度移行を円滑に行うことが難しいと考えられるため、現行の介護保険サービスのみを給付の対象とし、その間は、障害者サービスとして提供されている若年者向け介護サービスは、基本的には、引き続き、障害者制度から給付する。(ただし、ホームヘルプサービス(身体介護及び家事援助)は、現在の整理でも共通サービスであるので、介護保険からの給付が優先。)
 一定期間を経た次の段階からは、障害者サービスのうち「介護」サービスに該当するものも、介護保険の給付対象とする。

図


II 負担に関する論点

1.保険料の負担者の範囲
保険料を負担する者の年齢をどう考えるか。

 ○ 保険料を負担する者の範囲については、以下の案が考えられる。

(案1)20歳以上とする。
(考え方)
 20歳以上が成人の年齢であり、親権者等の同意なく法律行為の主体となることから、「20歳以上」が適切。

(案2)25歳以上とする。
(考え方)
 仕事を有している者の割合が25歳以上になると高まることや大学・短大を卒業する年齢などを勘案すると、「25歳以上」が適切。

(案3)30歳以上とする。
(考え方)
 20代と比較して完全失業率が平均的な水準に近いことやフリーターの数が減少することなどを勘案すると、「30歳以上」が適切。


(資料1)「仕事を主にしている者」の割合(平成14年就業構造基本調査(総務省統計局))

図
(注) 15歳以上の世帯員について、普段の就業状態の調査を行ったものである。「仕事を主にしている者」とは、普段収入を得ることを目的として仕事をしている有業者のうち、仕事が主としている者である。(通学が主で、仕事が従である者などは除かれている。)


(資料2)「大学・短大の進学率」(平成15年 学校基本調査)

  大学(学部) 短大(本科) 合計
進学率 41.3% 7.7% 49.0%
(注1) 大学学部・短期大学本科入学者数を3年前の中学校卒業者数で除した比率。
(注2) この他、専修学校(専門課程)の進学率(高等学校の卒業者のうち、専修学校(専門課程)に進学した者の比率)は、18.9%である。


(資料3)きまって支給する現金給与額(平成15年 賃金構造基本統計調査)

年齢 ~17 18~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44
給与額(月額) 14万3千円 18万円 21万5千円 26万円 31万円 35万7千円 38万2千円
(注) 主要産業の事業所(常用労働者を10人以上雇用している事業所に限る。)に雇用される常用労働者について、6月分として支給された現金給与額(所得税、社会保険料などを控除する前の額)を調査したものである。


(資料4)フリーター数(平成15年 総務省統計局「労働力調査」を特別集計)

年齢 年齢 15〜19 20〜24 25〜29 30〜34
人数 27万人 92万人 65万人 33万人
(注) 「フリーター」数については、年齢15〜34歳層(在学者を除く。また、女性については未婚の者に限る。)の者のうち、(1)現在就業している者については勤め先における呼称が「アルバイト」又は「パート」である雇用者で、(2)現在無業の者については家事も通学もしておらず、「アルバイト・パート」の仕事を希望する者として定義し、集計したものである。


(資料5)完全失業率(平成15年 総務省統計局「労働力調査」)

年齢 総数 15~19 20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 60~64
完全
失業率
5.3 11.9 9.8 7.0 5.5 4.6 3.6 3.6 3.7 4.5 7.5 2.5
(注) 完全失業率については、労働人口に占める完全失業者の割合((完全失業者÷労働人口)×100)を示す。なお、完全失業者とは、(1)仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない)、(2)仕事があればすぐ就くことができる、(3)調査期間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)の3つの条件を満たす者である。



2.保険料負担の水準
40歳未満の者の保険料負担の水準をどう考えるか。

 ○ 40歳未満の者の保険料水準については、以下の案が考えられる。

【保険料を負担する年齢が20歳又は25歳以上の場合】

 (案1)40歳以上の者と同水準とする
 (案2)40歳以上の者の半分の水準とする。

【保険料を負担する年齢が30歳以上の場合】
 (案)40歳以上の者と同水準とする

(考え方)
 保険料の負担水準については、被保険者・受給者の範囲を現行の40歳からより若い年齢層に単純に引き下げると考えれば、40歳以上の者と40歳未満の者の保険料水準は同水準となる。
 ただし、20歳又は25歳まで年齢を引き下げる場合には、若年者の保険料負担は孫の世代から祖父母世代への「世代間扶養」の面が強くなり、家族の立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が相対的に小さくなることや、所得水準が40歳以上に比べて一般に低いこと等にかんがみ、40歳未満の負担水準を半分の水準とする考え方も現実的な選択肢の一つである。


(参考1)同水準とする案の保険料水準
図

(注) 上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円分下方に下がる。


(参考2)低い水準とする案の保険料水準
図

(注) 上記は、「C1(在宅サービスと施設サービスの双方を対象)」の場合を示している。なお、「C2(在宅サービスのみを対象)」の場合は、点線の各線が100円ないし200円(3号保険料については0円ないし100円)分下方に下がる。


III 施行方法・時期に関する論点

 仮に被保険者・受給者の範囲を拡大する場合、施行の方法・時期をどう考えるか。

 (1) 実施時期については、次のような点を考慮すべきと考えられる。

(3年ごとの事業計画期間)
 介護保険制度は、市町村が3年ごとに介護保険事業計画を作成し、保険料を設定する仕組みであるため、給付や負担の基本骨格に関わる制度改正の実施時期は、平成18年4月、平成21年4月、平成24年4月等々と3年ごとの時期に限られる。

(施行準備に必要となる期間等)
 こうした前提条件の下に、具体的な実施時期をいつにするか等に関しては、次の事項を勘案する必要がある。
(1)要介護認定システムの改訂等の施行準備
 ◇ 「0歳から」の要介護認定システムを構築するためには、3〜4年程度を要する。
(2)若年要介護者向けのサービス提供体制
(ア)障害者福祉サービスの機能再編・分化の状況
 ◇ 今後予定されている障害者サービスの改革により、数年後には、サービスの機能再編・分化が進み、このうち「介護」に該当するサービスは介護保険に移行してくることが可能となる。
(イ)年齢によって縦割りとなっているサービスの総合化の状況
 ◇ 高齢者向けサービスを若年要介護者が利用できるようにするなど、年齢の区分による縦割りを排したサービスの相互利用化に向けた取組みを早期に(現行の支援費制度下においても)進めていくことが適当と考えられる。
(3)「制度の谷間」にある者への対応
 ◇ がん末期患者など何らの公的な介護サービスを受けられない、いわゆる「制度の谷間」の問題の根本的な解決は、被保険者・受給者の範囲の拡大の実施時期まで待たなければならないが、施行までに相当の期間を置く場合には、それまでの間の暫定的な対応の可否が検討課題となる。
(4)支援費制度の財政問題
 ◇ 仮に応益負担や食費負担の導入などが行われれば、今後数年間は、支援費予算等の伸びは国全体の一般歳出の伸び程度におさまると見込まれている。(平成16年11月26日障害者部会資料)


想定される施行準備のスケジュールについて

 準備作業を効率化することにより、ある程度準備期間を短縮することも可能。

  改正法成立年 成立後1年 成立後2年 成立後3年 成立後4年
要介護認定
 若年者を対象とした介護実態調査(タイムスタディ等)の企画・検討、予算要求
 介護実態調査(タイムスタディ等)の実施
 調査の結果、必要に応じ、要介護認定ソフト(試行版)の開発
 小規模モデル事業の実施
 全国規模のモデル事業の実施
 要介護認定手法等の確定
 認定調査員・主治医研修
 準備要介護認定の開始
 施行
ケアマネジメント
ケアプラン
 若年要介護者のケアマネジメントに係る養成・研修のあり方を検討
 研修内容・カリキュラムの策定
 介護支援専門員研修の一部見直し
 研修の実施
 ケアプランの作成
 施行
市町村介護保険
事業計画
 
 基本指針の提示(国)
 必要に応じ、各市町村においてニーズ調査の予算要求
 若年要介護者のニーズ調査
 市町村事業計画の策定作業
 介護サービス量の見積もり
 施行



 (2) (1)を踏まえると、以下の2つの実施の方法が考えられる。

(案1)所要の準備期間を置いた上で、一括して実施する。
(考え方)
 所要の施行準備を行った上で、介護を必要とする理由や年齢の如何を問わない普遍的な制度の実現を図る。

(案2)法案成立後実施可能なものから、段階的に実施する。
 ┌
 |
 └
 例えば、3年ごとに、受給者の対象年齢や保険料負担者の対象年齢を引き下げて実施する。


(考え方)
 保険料を負担する層が段階的に広がるとともに、それに伴って保険料水準も徐々に上がることになり、保険料の負担面において激変緩和の効果がある。
 また、いわゆる「制度の谷間」の問題に早急に対応することができる。

 初期の段階においては、暫定的に現行の介護保険サービスのみとし、 一定期間を経た次の段階からは、障害者サービスのうち「介護」サービスに該当するものも、介護保険の給付対象とすることが考えられる。


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