資料番号−7 |
物質名 | 提案年 | 提案理由 | |
許容濃度、TLV-TWA | |||
グリシドール | |||
ACGIH / TLV-TWA 2ppm(6.1mg/m3) |
1995 文書改定 1996 |
<動物試験:急性> Hineらは、グリシドールがマウス及びラットの肺に刺激を与え、蒸気にばく露した後では肺炎と気腫が通常見られることを明らかにした。マウスでは4時間LC50が450ppm、ラットでは8時間LC50 が580ppmと報告された。 <動物試験:亜慢性> 大気中で400ppmのグリシドールに毎日7時間ずつ50日間反復ばく露したラットでは眼に極めて軽度の刺激が認められ、軽度の流涙と眼瞼のかさぶた形成があり、最初の数回のばく露後には軽度の呼吸困難も見られた。 <動物試験:慢性/発がん性> グリシドールをラットに37.5又は75mg/kg、マウスに25又は50mg/kg を5日/週で2年間胃管強制経口投与したところ、組織の新生物形成変化の数が用量依存的に増えた。 オスラットで最も顕著に見られた病変は中皮腫で、精巣鞘膜に生じて腹腔内に転移することも多かった。メスラットでは乳腺の新生物が最もよく見られた。オス・メスラットでは乳腺、脳、甲状腺、噴門洞の新生物形成が用量相関的に増加し、オスでは精巣鞘膜/腹腔、皮膚、腸、zymbal腺の新生物形成が、メスでは口腔粘膜、陰核腺、造血系の新生物形成が用量相関的に増加した。 また、オス、メスいずれのマウスでもハーダー腺の新生物が増加した。さらに、オスマウスでは噴門洞、肝臓、肺の新生物性病変が、メスマウスでは子宮及び皮下組織の新生物が増加した。 <ヒト研究> 作業場におけるグリシドールばく露に関連する情報は1件しか見つからず、これは米国内唯一のグリシドール製造業者があらゆる顧客サイトで実施した産業衛生成績を関連づけたものであった。これらの研究から、年間70名程度がばく露され、その濃度は2ppmを超えないことがわかった。労働者の健康に対する有害な影響は報告されていない。 <TLV勧告値> グリシドールは眼、上気道、皮膚の刺激物質であり、高濃度では動物に麻酔作用を示す。グリシドール400ppmに反復ばく露すると、ラットでは軽微な作用を示し、急性ばく露では、マウスで4時間LC50が450ppm、ラットで8時間LC50が580ppmであった。グリシドールには発がん性があること、また遺伝毒性の可能性があることを鑑みて、TLV-TWAとしては2ppmという値が提唱されている。この濃度では、日頃ばく露されている労働者の定期身体検査で有害作用の記録はない。追加の毒性データ及び産業衛生上の経験が、STEL がどのような値であるかを毒性学的に定量するためのより良い基礎データを提供できるようになるまで、STEL は勧告されない。グリシドールを生涯にわたって経口投与したげっ歯類で発がん性が明らかに認められたことから、A3(動物発がん性物質)に指定することが妥当である。 |
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クロトンアルデヒド | |||
ACGIH / TLV -CEILING 0.3ppm(0.86mg/m3) skin, A3 |
1997 文書改定 1998 |
<動物試験:急性> クロトンアルデヒドをモルモットに局所塗布したときのLD50は体重あたり26mg/kgであった。 クロトンアルデヒドは、マウス気道に対して比較的強力なα,β-不飽和アルデヒドであった(アクロレイン及びホルムアルデヒドよりやや刺激が弱いに過ぎない。)。マウスの系統により呼吸パターンに差が認められたものの、10分間呼吸抑制(RD50)値は似ていた(Swiss-Webster=3.5ppm;B6C3F1マウス=4.9ppm)。SteinhagenとBarrowは、クロトンアルデヒドの2ppmというTLVは他のアルデヒドのものと一致せず、マウスのRD50に見られる関係に基づくと一桁高すぎると指摘した。 <動物試験:発がん性> ラット群にクロトンアルデヒド(0.6mmol又は6.0mmol)を飲料水に混ぜて113週投与した。低濃度では、クロトンアルデヒドにより肝臓に新生物病変、肝細胞がん、新生物性小結節を生じ、肝細胞病巣の変化が認められた。高濃度では、クロトンアルデヒドにより肝臓に中程度から重度の損傷を生じたり、肝細胞病巣の変化を生じた。腫瘍及び病巣の発生率は、同時に調べた対照群に比べて有意に高かった。 <ヒト研究> SimとPattleは、被験者をクロトンアルデヒド4.1ppmに15分間ばく露させたときに、30秒間で鼻及び上気道に強い刺激が生じ、涙が出たと報告した。他方Rinehartによると、15ppmを同じ期間だけばく露したとき、強い臭いが感じられたが耐えられないものではなく、短いばく露では刺激の報告はなかったとしている。短いばく露は、45ppmを数秒間ばく露しただけで極めて不愉快で、結膜への刺激が顕著であった。 クロトンアルデヒドの産業界ばく露で角膜傷害を生じた一連の8症例では、48時間で完治した。どの程度のばく露かは示されていなかった。 <TLV勧告値> 被験者を使い、コントロールしたクロトンアルデヒド吸入ばく露試験で著しい食い違いが見られたため、この化合物のヒトに対する刺激濃度の解釈が難しくなっている。これらの食い違いは、使用した2つの方法で解析上の誤りがあった可能性によるのかも知れない。本文書の前の版で要求したにもかかわらず、産業界での経験もコントロールしたヒトにおける追加知見もTLV委員会の注意を引いてはいない。マウスRD50プロトコルの結果は、Rinehartが発表したものよりもSimとPattleの結論とより一致するというのがTLV委員会の判断である。関連するアルデヒドに関するTLVとマウスにおけるRD50の関係から、作業場空気中クロトンアルデヒド濃度を0.1ppmに抑えることが他の刺激物質と一致すると思われる。TLV委員会が行っているのは、迅速に作用する刺激物に天井値を定めることである。クロトンアルデヒドは遺伝毒性のある動物発がん性物質であり、A3(動物発がん性物質)に分類されている。クロトンアルデヒドが迅速に作用する刺激物質で、4.1ppmでばく露して30秒以内に流涙及び上気道刺激をもたらすこと、また、マウスのRD50試験でホルムアルデヒドと同じくらい強力であったことを考え、ホルムアルデヒドに関する天井値から類推するやり方で、TLV天井値は0.3ppmとされている。モルモットの経皮LD50値を鑑みて、皮膚を明示するのが適切と考えられる。 |
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ヒドラジン | |||
無水ヒドラジンおよび ヒドラジン1水和物 産衛 / 許容濃度 0.1ppm (0.13mg/m3, 0.21mg/m3,) (皮) 発がん物質第2群B 感(皮)第2群 |
1998 | 無水ヒドラジンとヒドラジン1水和物は、物理化学的に共存する場合が多く、毒性情報においてもどちらに帰すべきものか分離し難い。さらに、ヒドラジン1水和物を生産あるいは取り扱う工場においても、作業者が曝露されるのはヒドラジン1水和物とヒドラジンの混合物である。さらに、曝露濃度の測定は、無水ヒドラジンを測定対象とするため、管理の指標となるのは無水ヒドラジンである。以上から、両者をまとめて許容濃度を提案するのが妥当と考える。 許容濃度の提案に当たり考慮すべき諸点は(1)IARCが2B(A possibly carcinogenic to humans)に分類している、(2)動物実験で1ppmではラット鼻腔粘膜に腫瘍を生じ、0.25ppmでは催腫瘍性は証明されず、許容濃度はこの値以下に設定されるべきである、(3)SA型の存在、の3点である。 作業現場でのヒトの疫学情報によれば、0.1ppmでは曝露に関連した健康影響はacetyltransferaseの表現形によらず、証明されなかった。 以上から0.1ppmを許容濃度として採用した場合、提案に際し考慮すべき(1)−(3)の条件を満たすものと考える。 またヒト及び動物で経皮吸収が曝露経路として認められるため、(皮)を付けることを提案する。さらに皮膚への感作性があることから、感(皮)第2群へ分類することを提案する。 |
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ACGIH / TLV-TWA 0.01ppm(0.013mg/m3) skin, A3 |
1989 文書改定 1996 |
<動物試験:急性> ヒドラジンは皮膚、消化管及び肺によりすみやか且つ十分に吸収されるが、その蒸気は皮膚を介して多量には吸収されない。 皮膚ばく露により高度の刺激、熱傷、腐食、感作及び致死状況に至り、ウサギ及びモルモットにおける皮膚LD50は93〜283mg/kgに及ぶ。 <動物試験:発がん性> 様々な試験において、ヒドラジンは腫瘍形成反応を誘発することが示されている。 1年間にわたりラット、マウス、イヌ及びハムスターを0.05ppm(ラット、マウス)、0.25ppm又は1.0ppm(ラット、マウス、ハムスター、イヌ)、若しくは5ppm(ラット、ハムスター、イヌ)の蒸気濃度に週当たり5日、1日当たり6時間ばく露させた試験では、1ppm及び5ppmでラットにおいて良性及び悪性鼻腫瘍の発現率に上昇が認められた。0.05ppmではラットにおける鼻腫瘍の発現率に有意ではないが対照群を上回るわずかな上昇が確認された。 <ヒト研究> ヒトにおいて皮膚及び眼刺激が発現しており、またアレルギー性接触皮膚炎が報告されている。報告されたこれらのばく露では全身反応は認められていない。数件の全身中毒が報告されており、その主な作用部位は中枢神経系、呼吸器系及び胃となっている。 <TLV勧告値> 0,05ppmにばく露させたラットで認められた鼻腫瘍の発現率がわずかに高かったことに基づき、またラット及びマウスにおいて0.02ppmで鼻に対する刺激を含む他の毒性徴候が認められたメチルヒドラジン等のその他ヒドラジンから類推して、TLV委員会はヒドラジンについて0.01ppmというTLV-TWAを勧告している。さらに、皮膚接触後動物において全身作用が認められていることから、皮膚を明示することが勧告されている。ヒドラジンは一連の段階を経たのちに発がん作用を示すが、これは多くの場合結果が左右され易い。ヒトと比較できる動物での活性化経路に関する情報がさらに入手されるまで、当面のところTLV委員会はヒドラジンの発がん性分類としてA3(動物発がん性物質)を勧告している。 |