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独立行政法人勤労者退職金共済機構の
平成15年度の業務実績の評価結果



平成16年8月24日
独立行政法人評価委員会



1.平成15年度業務実績について
(1) 独立行政法人の発足と評価の視点
 独立行政法人勤労者退職金共済機構は、特殊法人勤労者退職金共済機構が平成15年10月に新たに独立行政法人として発足したものである。
 今年度の当機構の業務実績の評価は、平成15年10月に厚生労働大臣が定めた中期目標(平成15年10月〜20年3月)の初年度(半年間)の達成度についての評価である。
 当委員会では、既存の独立行政法人に対して実施してきた従来の評価方針や平成14年度までの実績の評価の過程で生じた評価作業等に係る今後の課題に加え、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会から当委員会に対し提出された平成13年度及び平成14年度における独立行政法人の業務実績に関する評価の結果についての意見を踏まえ策定した「厚生労働省所管独立行政法人の業務実績に関する評価の基準」に基づき、評価を実施した。

(2) 平成15年度業務実績全般の評価
 独立行政法人勤労者退職金共済機構の業務実績の評価に当たっては、その設置目的に照らし、業務の効率化及び質の向上により得られた成果が「退職金制度への着実な加入」及び「将来にわたる確実な退職金給付」にどの程度寄与するものであったかという視点が中心になるものである。
 まず、加入促進の実績に関しては、重点数値目標である加入者数目標がほぼ達成されていること、昨年度に比べ加入者数に一定の増加が見られること、厳しい雇用情勢など加入促進を取り巻く環境が必ずしも良好ではなかったことなどを考慮すると、初年度としての目標はおおむね達成されたものと考えられる。
 将来にわたる確実な退職金給付については、加入促進に取り組むなどして掛金収入が改善したこと、運用・評価体制が整備され資産運用が的確に行われたこと、経費節減の取組が積極的に行われたこと等から累積欠損金の減少などの成果がでている。
 さらに、それらの成果を支える基盤として、(1)組織体制と内部管理体制の改編と外部専門家からなる組織の活用、(2)業務の改善、外部化、電子化の推進などによる運営の効率化、(3)諸手続きの見直し等による加入者負担の削減、契約審査期間の短縮、情報提供体制の整備などを進めることによる加入者へのサービス体制の充実が進められた。

 これらを踏まえると、平成15年度の業務実績については、全体としては当機構の目的としている「退職金制度への着実な加入」及び「将来にわたる確実な退職金給付」に資するものであり、適正に業務を実施したと評価できるが、以下の点に留意する必要がある。
(1) 加入促進については、中期計画の達成に向けて16年度以降もさらに積極的な取組が求められるところであるが、そのためには、15年度の対策の効果について、十分な検証を行い、それを基にしたより効果的な加入促進対策の実施が必要である。
(2) 業務の効率化、国民に対するサービスの質の向上のために行った事務処理方法の見直し、資産運用におけるマネージャー・ストラクチャー(運用機関の構成)の再構築等に関しては、15年度の業務実績について一定の評価ができるが、これらが当機構に求められる16年度以降の成果につながることが重要なポイントとなる。15年度は独立行政法人化の初年度として、今後に向けた適切な体制整備を行ったと考えるが、その体制を的確に活用し具体的な成果を得ること、あるいは、より高い成果を得るために体制やその運用について不断の見直しを行うことが、今後求められるところである。特に、適材適所の人員配置や職員の意識改革等人材面での体制整備が求められる。これらについて中長期的視点に立って評価していく必要がある。
(3) 効率化のための措置など機構全体として取り組むべき事項もあり、評価は機構全体として行うことが基本となる。しかしながら、中小企業退職金共済制度は4つの事業からなっていることを踏まえると、機構全体として目標数値を達成していても個別事業でみるとそれが達成されていない点もあり、当該事業に関する一層の改善策の検討が求められる。
 なお、中期目標に沿った具体的な評価結果の概要については、2.のとおりである。個別項目に関する評価結果については、別紙として添付した。

2.具体的な評価内容
(1) 業務運営の効率化について
(1) 効率的な業務運営体制の確立
 平成15年度は、独立行政法人としての発足に伴い、主体的な業務運営が求められるとともに、独立行政法人会計基準に則った会計処理など新たな対応が求められたが、そのような中で、独立行政法人化の利点を活用するとともに、新たに必要になった業務に対応するため、業務全般にわたり運営体制の見直しがなされた。
 組織・人員体制に関しては、適格退職年金制度の廃止を見据え、その中小企業退職金共済制度への移行促進に焦点をあてて戦略的に組織体制を整備したことは高く評価できる。
 また、内部進行管理に関しては、業務計画の作成とそれに基づく成果管理の体制を確立し、とりわけ資産運用について委員会の積極的な開催や外部の専門家の活用が累積欠損金減少に資するものとなっているなど、その効果がみられた。
 次に、事務の効率的な処理に関しては、事務処理の点検結果に基づく全般的な見直しが行われ、特に文書の電子化、業務委託先とのオンライン化に向けて整備が進められた。
 さらに、外部委託の推進については、システムの保有プログラムの調査を行い、システム開発外注化に向けた準備を行うなど計画どおり進行している。
(2) 業務運営の効率化に伴う経費節減
 業務運営全体を通じての経費節減に向けた様々な取組を実施した結果、一般管理費等の支出額は予算額を下回るものとなっており、中期計画の節減目標の達成に向けた着実な取組がなされている。

 これらを踏まえ、業務運営の効率化については、組織体制、内部進行管理、経費の節減ともに計画で求められる以上に実績を上げており、中期目標を達成するために、積極的に業務を推進していると評価する。
 ただし、組織・人員体制と内部進行管理については、上記のように組織・管理体制の整備は進んでいるが、それを成果に結びつけるための人員体制に課題がある。つまり適材適所の人員配置を行うための基準が必ずしも明確ではなく、また職員の意識改革についてもより一層進めていく必要がある。そのためには機構にとって必要とされる職員の役割・能力を明確化した上で、能力・業績に基づく人事評価制度の導入、「必要とされる職員の役割・能力」に応じた研修体制の整備、人事交流の促進などの能力開発策を検討することが必要である。
 また、外部委託の推進については、経費の節減とともに業務の質の向上に真に資するものとなるかどうか、今後とも検討していく必要がある。

(2) 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上について
(1) サービスの向上
 加入者の負担軽減については、ユーザーの視点に立った諸手続等の点検とそれを基にした手続きの簡素化、効率化、電子化等の見直しを着実に進めている。
 また、意思決定・事務処理の迅速化については、中小企業退職金共済事業における契約審査事務処理期間を1日短縮した。
 さらに、情報提供の充実等については、ホームページにおいて照会・要望受付システムを構築し、それを通してユーザーから得られた情報についてはホームページ上のQ&Aに反映させている。
 これらを踏まえ、サービスの向上については、ほぼ計画に沿った形で着実に進展しているものと評価する。
 なお、ホームページにおける情報提供については、各事業本部ごとに提供されている内容の充実度に大きな差があることから、想定される閲覧者のニーズを踏まえつつ、情報項目を統一するなどその充実に向けて一層の工夫が必要である。

(2) 加入促進対策の効果的実施
 加入促進に向けての環境としては、平成23年度末の適格退職年金制度廃止というプラスの面と景気回復の動きの中でも中小企業の雇用者数が減少するなどのマイナス面があったと考えられるが、こうした中で、理事長自らによる「トップセールス」の実施や、林野庁の「緑の雇用」との連携強化など、機構として加入促進に向けての積極的な努力、意欲的な取組が行われた。
 これらの結果、加入者数の目標は達成率97.8%とおおむね達成され、それに加えて加入者数が前年同期比で8.5%増となった点を考慮すると、加入促進が着実に実施されたものと評価する。
 しかし、積極的な取組にもかかわらず、最大の「一般の中小企業退職金共済事業」において目標数を達成できておらず、15年度の取組が今後の成果につながるよう、一層の努力が求められる。

(3) 財務内容の改善について
(1) 累積欠損金の処理
 累積欠損金を承継した「一般の中小企業退職金共済事業」及び「林業退職金共済事業」においては、経費節減を図る一方で一定の資金運用等収入と目標を上回る掛金収入を確保し、合わせて約550億円の累積欠損を解消しており、総合的にみても計画以上の成果が得られたものと評価する。
 ただし、この結果は金融市場の状況など外生的な要因も大きく影響していることに留意する必要がある。累積欠損金の解消は、制度の持続的な運営に当たって、加入促進と並び最重要課題であることから、今後も、資産運用について安全かつ効率的な運用を基本としつつ、経費節減や加入促進などと併せ、さらなる対策の実施に努める必要がある。
(2) 健全な資産運用等
 外部の専門家からなるALM研究会等の意見を踏まえた運用方針・体制などの見直し、外部の専門家からなる資産運用評価委員会による運用結果の評価等、外部の専門家を積極的に活用し、健全かつ効率的な運用を実施する体制が確立され、資産運用については、中期目標を達成するために積極的に業務が推進されていると評価する。
 こうした取組による具体的な成果は15年度にはまだ明確に現れていないと思われるので、今後は、確立された体制を的確に活用し、健全かつ効率的な資産運用の具体的な成果に向けて一層の取組が求められる。また、より高い成果を得るために体制やその運用について今後も不断の見直しを行うことも重要と考える。

(4) その他業務運営について
 積極的な情報の収集及び活用に関しては、退職金制度に関する調査を行ったほか、加入者を代表する者等からなる参与会を開催し業務運営に関する意見要望の聴取を行うなど、計画に沿った運営がなされた。
 また、建設業退職金共済事業の適正化に関しては、改善策検討のための調査を実施するとともに、新たな掛金納付方式検討のためのモニター実験から得られた問題点の整理を行っている。併せて、長期未更新者に対する退職金の確実な支給のため、対象者を把握できるシステムの開発等の取組を行った。
 さらに、中期計画の定期的な進行管理に関しては、各種会議を開催し進行状況の把握を行っているとともに、予算、収支計画及び資金計画についても、適正な執行を実施している。
 以上から、計画に沿って着実に取り組まれていると評価する。今後も、計画の進捗状況について入念な検証を行いつつ、着実な業務運営の遂行が期待される。


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