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振動障害の検査手技に係る国際標準化の動向


 国際標準化の現状
 国際標準化機構(ISO/TC108/SC4、機械衝撃と衝撃の人体への影響)において、検査手技の国際標準化作業の取り組みが行われ、知覚機能検査法については2001年に国際標準が示され、2003年には評価法も示されており、また、末梢循環機能評価法については現在、標準化作業が進められている。

 末梢循環系検査の国際標準化作業
(1)  冷水浸漬手指皮膚温検査
 ISOでの検討では、両手を冷水に浸漬し、手指皮膚温の変動を測定して末梢循環機能を評価する方法が採用されており、その変動の測定は、手指に装着したsensor若しくは赤外線による非接触式のpoint thermometry又は一定の面積の皮膚温を測定する非接触式のthermographyにより行うこととされている。
 冷水浸漬検査に用いる冷水温度については、12℃を標準とし、浸漬時間については5分とすることが提案されているが、なお議論の余地があるとされている。
 冷水浸漬中は薄い手袋を装着し、浸漬後の水分付着による蒸散熱の影響の除去、浸漬時の冷水刺激による苦痛の軽減を図ることが提案されており、また、少なくとも浸漬前2分から浸漬中(非接触式測定の場合は除く)、浸漬終了後15分まで全10指の皮膚温測定を1分以下の間隔で測定し評価することが提案されている。
 なお、評価指標については、手指皮膚温実値、浸漬前値に対する回復率、一定皮膚温値までの回復時間等が文献的に検討されているが、ISOの検討では、まだ特定されていない。
(2)  冷却負荷手指血圧検査
 冷却負荷手指血圧検査は、Segmental coolingによる指動脈血圧の変化の測定(FSBP%)により末梢循環機能を評価する方法であるが、その方法としては主に二つあり、一つは、冷水環流カフを検査指の中節に装着し冷却して血圧を測定し、かつ、空気カフを基準となる同側非冷却指(対照指)の中節に装着し血圧を測定する方法である。もう一つは、同側の4本の検査指(通常、人差指から小指)と対照指1本を検査する方法で、拇指と小指では基節、他の3指は手指中節にカフを装着する。通常、拇指は対照指であり空気カフを用いて血圧を測定し、他の4指には冷水環流カフを用いて冷却し血圧を測定する。
 手指血圧の検出には、手指末節に装着したplethysmography sensor(strain-gauge、photocell、doppler-shift等)を用い、手指に装着したカフの圧力を暫減し、血流再開時のカフ圧から求める。
 ISOでは、冷却負荷に用いる環流水の温度として30℃、15℃、10℃が挙げられ、冷却時間は5分とされているところである。また、室温については、21±1℃の条件が採用されそうな現状にある。
 検査は両手で行うことが原則とされている。しかし、片手のみしか検査できない場合は症状の強い手を選択して検査することとされている。
 また、測定は母指を非冷却の対照指、他4指を冷却指として同時に行うこと(上記後者の方法)が望ましいとしているが、検査装置の制限があれば利き手において症状が最も強い手指を冷却測定すること(上記前者の方法)が適当とされている。
 負荷は冷水温度の高い順から行ない、15℃の負荷でvasospasmが観察された場合、10℃の負荷は不要であるとされている。
 なお、FSBP%法で現在、世界的に合意されている事項としては、1994年のStockholm Workshopにおいて、レイノー現象の客観的診断方法の一つとして、FSBP%法がゼロの場合にレイノー症状の存在を確認できるとされている。

 末梢神経系検査の国際標準化作業
 ISOでは、「振動感覚閾値検査」の標準化が行われており、測定法及び評価法について国際規格が示されている。測定対象は手指尖であり、他の身体部位は対象にしていない。また、一過性の閾値変動の測定も対象にされていない。
 ISO規格の指尖における振動感覚閾値の測定では、手指尖に分布するとされるSAI (Merke1 disks)、FAI(Meissner corpuscles)、FAII(Pacini corpuscles)の3種類の機械受容器の機能を測定するために、代表的な検査周波数を4Hz、31.5Hz、125Hzとしている。その際、振動子の周囲に対照板(surround)を設置せず測定する方法(A法)、対照板(surround)を設置して測定する方法(B法)が示されている。
 測定方法については、刺激強度を上昇させ測定する方法(上昇法)と刺激強度を減じて閾値を測定する方法(下降法)があるが、各測定値間の差は10dB以内で両方法における平均値の差は6dB以内であることが求められている。
 検査室温は、20℃から30℃の範囲とされ、検査部位の皮膚温は、27℃から36℃であることが要求されている。
 評価法については、同一被験者に対して異なる日に繰り返し測定された振動感覚閾値を用いての再現性や測定結果の表示法が示されている。後者については、同一被験者の知覚鈍麻の進行や回復過程を経時的に追跡するための「相対閾値変動」(relative threshold shift)と健常者の閾値からの差を評価するための「基準閾値変動」(reference threshold shift)を、検査周波数と「閾値変動」の図(tactogram)で表す様式が示されている。
 さらに、SAI、FAI、FAIIの3種類の機械受容器それぞれについて、対応する検査周波数における「相対閾値変動」(relative threshold shift)又は「基準閾値変動」(reference threshold shift)の平均値を用いて表す「総合閾値変動」(population threshold shift)の表示方法が示されている。
 なお、参考として30歳の健常者における振動感覚閾値が、2.5、15、50、85、97.5 percentileで示されており、50 percentile値を「基準閾値変動」(reference threshold shift)の算出・評価に用いることが推奨されている。


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