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資料6

これまでの用語変更事例


I 「精神薄弱」 ⇒ 「知的障害」

疾病名であり障害の種類名である用語を変更したケース

(経緯)別添

 「以下、変更が行われた当時の整理より」


 1  「精神薄弱」の用語の由来
 ○  ドイツ語の Schwachsinn 又は英語の Feeble-Mindedness を直訳したもの
    (薄い) (精神)   (弱い) (精神)  
  と言われている。

 2  問題点
 ○  あたかも精神全般が弱い又は精神全般に欠陥があるかのような印象を与える。
 ○  障害者の人格自体を否定するニュアンスをもっている。
 ○  不快語、差別語であるとの批判がある。

 3  社会的な用例
 ○  医学界、マスコミ等一般社会においても使用されなくなってきている。
 (医 学 界→「精神遅滞」、マスコミ→「知的障害」)

 4  用語の定義
 ○  医師、教育者等の立場から種々の定義が行われ、統一的なものはなく、解釈は、社会通念に委ねられている。
(参考) 厚生省精神薄弱児(者)基礎調査における定義
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」

 5  障害認定における判定の基準
 ○  知的機能の水準の遅れ(概ねIQ75〜70未満)があり、かつ、通常の社会環境での日常的な要求に適応する能力が乏しいこと。

 6  法令上の用語
 ○  文脈により、疾病名として、又は、障害の種類として使用されている。

 7  医学上の用語
 ○  「精神遅滞」という用語が定着している。
 ○  WHOの疾病分類でもMental-Retardation(精神遅滞)とされている。

 8  代替用語の要件
 (1)  概念を変えないこと。
 (2)  疾病名、障害の種類のいずれとしても適切に通用すること。
 (3)  不快語、差別語でないこと、かつ、価値中立的に表現するものであること。

 9  候補及び結論
 (1)知的障害、(2)知的発達障害、(3)知能障害、(4)知能発達障害、(5)精神遅滞

 ※  より早い研究会段階では、他に、「精神発達障害」、「発達障害」、「発達障害による要自立援助」、「大脳皮質の部分損傷による知的発達遅滞」、「知能遅滞」、「精神発達遅滞」という案もあった。

 →  「知的発達障害」又は「知的障害」を代替用語とする。
 障害の状態をより正確に表現する用語としては「知的発達障害」を用いることが適当であると考えるが、法令が国民一般にとって共通の理解が容易な用語によって記述されることが適当であることを考慮すれば、「知的障害」という用語を用いることが適当である。

 10  医学上の用語との関係整理
 (1)  法令上、疾病名の文脈においても用いることになるが、そもそも法令用語は必ずしも専門的な用語と完全に一致していることが求められているわけではなく、むしろ国民一般を対象として、その理解が容易な用語を選択して使用すべきである。

 (2)  「知的発達障害」については、障害の状態を正確に表現できているため、法令上これを用いても、医学上の「精神遅滞」という用語との関係において混乱を来すことはないものと考えられる。
 「知的障害」については、痴呆を含み得るので混乱を招くとする指摘が一部にあるが、一般社会においては「知的障害」という用語も専ら精神薄弱の意味に理解しているものと思われ、医療の現場においても対象者の年代に差があることから精神薄弱と痴呆との錯誤を来すことはほとんど考えられない。

 (3)  他の先進国においても医学用語としては「精神遅滞(Mental-Retardation)」が使用されていながら、法令上又は一般社会においてはこれと異なる用語を用いているところもあり、そこでは特に用語の錯誤による支障は生じていない。


(参考) 心身障害研究「精神薄弱に替わる用語に関する研究」(平成5年12月〜平成7年3月)

 ○ 主な討論の概要より  〜 略 〜



(別添)

「知的障害」への用語変更の経緯


 「精神薄弱」という障害については、かつては、「低能」、「劣等」等の用語が使用されていた

 医学界においては1920年(大正9年)代、教育界等においては1930年(昭和5年)代から「精神薄弱」という用語が使用されるようになった

 昭和16年    国民学校令施行規則(法令用語として初めて使用)

 昭和35年  精神薄弱者福祉法制定

 昭和57年  障害に関する用語の整理に関する法律制定(不具、白痴等は改正されたが、精神薄弱は不適当用語とは整理されなかった)

 平成 2年  日本精神薄弱者福祉連盟は、用語問題検討委員会を設置

 平成 5年  日本精神薄弱者福祉連盟は、症候名として「精神遅滞」、障害区分として「知的障害」とする結果をとりまとめた

 厚生省は心身障害研究において、用語に関する研究を開始

 平成 7年  厚生省の心身障害研究において、知的発達障害又は知的障害とする旨の報告書がとりまとめられる

 障害者プランに「保護者団体その他関係者の意見を踏まえ、見直しを行うこと」が盛り込まれた

 平成 9年  関係医学団体より、法令用語として「知的障害」を用いることは差し支えない旨、確認

 平成10年  参議院国民福祉委員会において、委員長提案として、「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」を本会議に提出することを決定し、提出

 改正法案成立・公布



II 「(精神)分裂病」 ⇒ 「統合失調症」

疾病名である用語を変更したケース

(経緯)別添

 「以下、変更が行われた当時の整理より」

 1  「(精神)分裂病」の用語の由来
 1911年(明治44年)  ブロイラーによって、医学用語として「スキゾフレニア」と提案されたが、日本においては、翻訳が一定していなかった。

 1937年(昭和12年)  神経精神病学用語統一委員会によって、「(精神)分裂病」と定められた。

 (注)  「スキゾ(分裂)」は、精神そのものの分裂を言うのではなく、「太陽…暑い」などの言語連想の分裂をさしていた。
 なお、今日の精神医学では、この連想分裂の概念は本疾患の中心病理とはみなされていない。

 2  問題点
 ○  精神それ自体の分裂と解されることが多い。
 ○  患者の人格の否定につながっており、患者・家族に苦痛を与えている。
 ○  社会的にも偏見、差別、スティグマを助長してノーマライゼイションを阻害し、社会的な予後を不良なものにしている。




 歴史的にみて精神疾患は社会的なスティグマの対象となりやすく、
その事情は単に病名だけによってもたらされたものではない。
 しかし、病名それ自体がスティグマを助長しているのであれば、
それは改善すべきである。




 ○  医学的にも、病名告知が進まないという弊害がある。

 3  法令上の用語
 ○  疾病名として使用されている。

 4  代替用語の要件
 病名が患者家族に苦痛や不利益をもたらさないこと。

 (参考)病名の命名方法の分類
   (1)  原因(例:一酸化炭素中毒)
 (2)  中心症状・所見(例:白血病)
 (3)  疾患のメカニズム(例:自己免疫疾患)
 (4)  侵される機能・臓器(例:感情障害)
 (5)  人名・地名等(例:ハンセン病・ロッキー熱)
 (6)  記号(例:O157)
 (7)  病名が患者家族に苦痛や不利益をもたらさないこと

 5  候補及び結論
 (1)クレペリン・ブロイラー症候群、(2)スキゾフレニア、(3)統合失調症(スキゾフレニアをより穏やかに翻訳仕直したもの)

 → 「統合失調症」を代替用語とする。(スキゾフレニアの訳語の変更)
 (1)  原語のschizophreniaを穏やかに翻訳仕直したものであり、混乱が少ない。
 (2)  各種アンケートから、患者、家族がこの病名を比較的受け入れており、医師の側も、患者、家族への説明に際してもっとも使いやすいと感じている。
 (3)  統合失調とは、思考などのまとまりがなくなった状態を意味し、現象としてはこの疾患以外にも広く見られ、スティグマとなりにくい。
 また、失調には、近年の治療・支援の進歩による回復可能性という意味が反映されている。
 (4)  「ー病」は、疾患的な実態を予測させるので、現象による命名であることを強調して、「ー症」とした。
 (5)  国際診断基準では、精神疾患はdiseaseではなくdisorderと表記されており、これは精神現象による類型分類を表している。



(別添)

「統合失調症」への用語変更の経緯


平成 5年    財団法人全国精神障害者家族会連合会より日本精神神経学会に病名変更の要望

平成 7年  社団法人日本精神神経学会内に「精神分裂病という呼称の変更に関する委員会」を設置

平成 8年  学会員を対象としたアンケート調査実施

平成 9年  学会シンポジウムを開催及び学会員を対象としたアンケート調査実施

平成11年  世界精神医学会(ドイツ・ハンブルグ)においてシンポジウム開催

平成12年  学会シンポジウムを開催

平成13年  評議員へのアンケート、公聴会、市民アンケート(家族会との共催)を通じ、名称「統合失調症」を選定。

平成14年1月    社団法人日本精神神経学会理事会において委員会見解「統合失調症」を承認

平成14年6月  社団法人日本精神神経学会評議員会において理事会提案「統合失調症」を承認

平成14年7月  日本新聞協会新聞用語懇談会宛「統合失調症」への呼称変更のお願い文を通知

 社団法人日本精神神経学会より厚生労働大臣宛、病名変更要望書提出

 財団法人全国精神障害者家族会連合会より厚生労働大臣宛、病名変更要望書提出

平成14年8月  厚生労働省より各都道府県・指定都市宛、呼称の取扱通知発出


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